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特許7262998正極活物質材料、非水電解質二次電池用正極、非水電解質二次電池及び正極活物質材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】正極活物質材料、非水電解質二次電池用正極、非水電解質二次電池及び正極活物質材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20230417BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230417BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018245128
(22)【出願日】2018-12-27
(65)【公開番号】P2019121605
(43)【公開日】2019-07-22
【審査請求日】2021-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2017254331
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】150-20 Gongse-ro,Giheung-gu,Yongin-si, Gyeonggi-do, 446-902 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 允辰
(72)【発明者】
【氏名】岡本 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】武井 悠記
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 賢一
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-183055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587
H01M10/36-10/39
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で示される組成を有する正極活物質粒子と、
前記正極活物質粒子の表面に担持されるBaTiO粒子とを、含み、
前記正極活物質粒子の平均粒径に対する前記BaTiO 粒子の平均粒径の比は、0 .0011以上0.0050以下であり、
下記の式(2)で表される関係を満足する、正極活物質材料。
LiNiCo (1)
前記式(1)中、Mは、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、バナジウム(V)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ランタン(La)、セリウム(Ce)からなる群から選択される1種以上の金属元素であり、a、x、yおよびzは、0.20≦a≦1.20、0.70≦x<1.00、0<y≦0.20、0<z≦0.10かつx+y+z=1の範囲内の値である。
0.001A≦Y≦0.01A+1 (2)
前記式(2)中、Aは、前記BaTiO粒子の平均粒径(nm)であり、Yは、モル%基準での前記正極活物質粒子に対する前記BaTiO粒子の担持量である。
【請求項2】
前記BaTiO粒子の平均粒径Aが、10nm以上100nm以下である、請求項1に記載の正極活物質材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の正極活物質材料を含む、非水電解質二次電池用正極。
【請求項4】
請求項3に記載の非水電解質二次電池用正極を含む、非水電解質二次電池。
【請求項5】
BaTiO粒子を下記の式(1)で示される組成を有する正極活物質粒子の表面に被覆させた後、700℃以下の温度で熱処理することにより、前記正極活物質粒子に前記BaTiO粒子を担持する工程を有し、前記正極活物質粒子の平均粒径に対する前記BaTiO 粒子の平均粒径の比は、0 .0011以上0.0050以下である、正極活物質材料の製造方法。
LiNiCo (1)
前記式(1)中、Mは、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、バナジウム(V)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ランタン(La)、セリウム(Ce)からなる群から選択される1種以上の金属元素であり、a、x、yおよびzは、0.20≦a≦1.20、0.70≦x<1.00、0<y≦0.20、0<z≦0.10かつx+y+z=1の範囲内の値である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質材料、非水電解質二次電池用正極、非水電解質二次電池及び正極活物質材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル(Ni)を主成分とするリチウム遷移金属複合酸化物は、比較的高い電位と高容量を示す正極活物質として非水電解質二次電池に使用されている。このようなニッケル含有リチウム遷移金属複合酸化物を活物質として用いたニッケル系正極と、グラファイトを含む対極(負極)とを採用した場合、非水電解質二次電池は、使用時においては、4.2Vで充電されるのが一般的である。
【0003】
しかしながら、昨今、非水電解質二次電池のさらなる高容量化が求められており、これに伴い、正極活物質中のニッケル比率の向上とともに、より高電圧での充電が可能な非水電解質二次電池が求められている。具体的には、グラファイトを含む対極(負極)を採用した場合、充電電圧を4.3Vとすることで、リチウムイオンの脱挿入量が向上し、ニッケル比率を80%程度とした場合であっても、200mAh/g以上の高容量化を達成できる。
【0004】
また、非水電解質二次電池の開発においては、低温での出力特性の改善や、放電容量の向上、高速充放電レートにおける容量特性の向上および、サイクル特性の向上も要求される。特許文献1には、低い温度領域での出力特性の向上を目的として、リチウム含有遷移金属複合酸化物からなる表面に強誘電体が焼結された正極活物質が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-210694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載される技術では、高ニッケル比率の正極活物質を用いた場合、高速充放電レートにおけるサイクル特性の向上が期待できなかった。
【0007】
本発明の目的は、高速充放電レートにおけるサイクル特性に優れた高ニッケル比率の正極活物質材料、ならびにこれを含む非水電解質二次電池用正極および非水電解質二次電池、正極活物質材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、下記の式(1)で示される組成を有する正極活物質粒子と、前記正極活物質粒子の表面に担持されるBaTiO粒子とを、含み、下記の式(2)で表される関係を満足する、正極活物質材料が提供される。
LiNiCo (1)
前記式(1)中、Mは、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、バナジウム(V)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ランタン(La)、セリウム(Ce)からなる群から選択される1種以上の金属元素であり、a、x、yおよびzは、0.20≦a≦1.20、0.70≦x<1.00、0<y≦0.20、0<z≦0.10かつx+y+z=1の範囲内の値である。
0.001A≦Y≦0.01A+1 (2)
前記式(2)中、Aは、前記BaTiO粒子の平均粒径(nm)であり、Yは、モル%基準での前記正極活物質粒子に対する前記BaTiO粒子の担持量である。
【0009】
本観点によれば、非水電解質二次電池の高速充放電レートにおけるサイクル特性を向上させることができる。
【0010】
ここで、BaTiO粒子の平均粒径Aが、10nm以上100nm以下であってもよい。
これにより、非水電解質二次電池の高速充放電レートにおけるサイクル特性がより一層向上する。
【0011】
本発明の他の観点によれば、上記の正極活物質材料を含む、非水電解質二次電池用正極を提供される。
本観点によれば、非水電解質二次電池の高速充放電レートにおけるサイクル特性を向上させることができる。
【0012】
本発明の他の観点によれば、上記の非水電解質二次電池用正極を含むことを特徴とする、非水電解質二次電池が提供される。
本観点によれば、非水電解質二次電池の高速充放電レートにおけるサイクル特性を向上させることができる。
【0013】
本発明の他の観点によれば、BaTiO粒子を下記の式(1)で示される組成を有する正極活物質粒子の表面に被覆させた後、700℃以下の温度で熱処理することにより、前記正極活物質粒子に前記BaTiO粒子を担持する工程を有する、正極活物質材料の製造方法が提供される。
LiNiCo (1)
前記式(1)中、Mは、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、バナジウム(V)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ランタン(La)、セリウム(Ce)からなる群から選択される1種以上の金属元素であり、a、x、yおよびzは、0.20≦a≦1.20、0.70≦x<1.00、0<y≦0.20、0<z≦0.10かつx+y+z=1の範囲内の値である。
本観点によれば、非水電解質二次電池の高速充放電レートにおけるサイクル特性がより確実に向上する。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明によれば、非水電解質二次電池の高速充放電レートにおけるサイクル特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る非水電解質二次電池の概略構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
<1.本発明者らの検討>
まず、本発明の説明に先立ち、本発明に至るまでの本発明者らの検討について説明する。本発明者らは、高ニッケル比率の正極活物質材料の高速充放電レートにおけるサイクル特性の向上を目的として、強誘電体であるチタン酸バリウム(BaTiO)を正極活物質粒子に担持させることを想起した。より具体的には、強誘電体であるBaTiO粒子を正極活物質粒子の表面に担持させることにより、正極活物質における分極が促され、リチウムイオンの脱挿入が容易となる可能性を検討した。
【0018】
しかしながら、特許文献1に記載される方法を高ニッケル比率の正極活物質粒子について単純に適用しても、正極活物質材料の高速充放電レートにおけるサイクル特性は向上しなかった。そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、正極活物質粒子の表面に担持されるBaTiO粒子の粒径と被覆量とが、高速充放電レートにおけるサイクル特性に影響していることを見出した。さらに、粒径と被覆量とは、独立して正極活物質材料の性能に影響を与えるのではなく、一定の相関を有し、正極活物質材料の性能に影響を与える可能性を見出した。
【0019】
したがって、本発明に係る正極活物質材料は、下記の式(1)で示される組成を有する正極活物質粒子と、
前記正極活物質粒子の表面に担持されるBaTiO粒子とを、含み、
下記の式(2)で表される関係を満足する、正極活物質材料。
LiNiCo (1)
式(1)中、Mは、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、バナジウム(V)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ランタン(La)、セリウム(Ce)からなる群から選択される1種以上の金属元素であり、a、x、yおよびzは、0.20≦a≦1.20、0.70≦x<1.00、0<y≦0.20、0<z≦0.10かつx+y+z=1の範囲内の値である。
0.001A≦Y≦0.01A+1 (2)
式(2)中、Aは、BaTiO粒子の平均粒径(nm)であり、Yは、モル%基準での正極活物質粒子に対するBaTiO粒子の担持量である。
【0020】
<2.非水電解質二次電池の構成>
以下では、図1を参照して、上述した本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池10の具体的な構成について説明を行う。図1は、本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池の構成を説明する説明図である。
【0021】
図1に示すように、非水電解質二次電池10は、正極20と、負極30と、セパレータ(separator)層40と、を備える。なお、非水電解質二次電池10の形態は、特に限定されない。例えば、非水電解質二次電池10は、円筒形、角形、ラミネート(laminate)形、ボタン(button)形等のいずれであってもよい。
【0022】
正極20は、正極集電体21と正極活物質層22とを備える。正極集電体21は、例えばアルミニウム(aluminium)等で構成される。
【0023】
また、正極活物質層22は、少なくとも正極活物質材料を含む。正極活物質層22は、他の添加物、例えば導電助剤および/または結着剤をさらに含んでいてもよい。また、正極活物質層22は、固体電解質を含んでいてもよい。
【0024】
本実施形態に係る正極活物質材料は、正極活物質粒子と、正極活物質粒子の表面に担持されたBaTiO粒子とを、含む。
また、本実施形態において、正極活物質粒子は、以下の式(1)で示される組成を有する。
LiNiCo (1)
式(1)中、
Mは、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、バナジウム(V)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ランタン(La)、セリウム(Ce)からなる群から選択される1種以上の金属元素であり、
a、x、yおよびzは、0.20≦a≦1.20、0.70≦x<1.00、0<y≦0.20、0<z≦0.10かつx+y+z=1の範囲内の値である。
【0025】
このような正極活物質粒子は、ニッケル含有量が比較的高く、容量密度が大きい。したがって、このような正極活物質粒子は、非水電解質二次電池10の高容量化に大きく寄与する。
【0026】
また、正極活物質粒子の平均粒径は、特に限定されないが、例えば5μm以上20μm以下、好ましくは8μm以上15μm以下である。これにより、粒子間に好適な導電パス(導電経路)を形成することができる。このため、正極活物質層の抵抗(例えば電荷移動抵抗)を低減することができ、高い電池性能を実現することができる。
【0027】
なお、正極活物質粒子の平均粒径は、レーザー回折・光散乱法(マイクロトラック社製の粒度分布測定)により平均粒径を求めることができる。本明細書において「平均粒径」とは、一般的なレーザー回折・光散乱法に基づく粒度分布測定により測定した体積基準の粒度分布において、微粒子側からの累積50%に相当する粒径(D50、メジアン径ともいう。)をいう。製品における粒子径は走査型電子顕微鏡(SEM)測定により画像で解析し、平均粒径求めてもよい。ここでレーザー散乱法による平均粒径の値と、ほぼ一致する。
【0028】
そして、正極活物質粒子の表面には、BaTiO粒子が、以下の式(2)で表される関係を満足するような条件で担持されている。
0.001A≦Y≦0.01A+1 (2)
式(2)中、Aは、BaTiO粒子の平均粒径(nm)であり、Yは、モル%基準での正極活物質粒子に対するBaTiO粒子の担持量である。
【0029】
これにより、非水電解質二次電池10の高速充放電レートにおけるサイクル特性が改善される。高速充放電レートにおけるサイクル特性が改善される理由は、定かではないが、以下のように推測される。すなわち、BaTiO粒子は、強誘電性を有し、物質内において分極が生じている。そして、このようなBaTiO粒子が正極活物質粒子の表面に担持されていることにより、正極活物質粒子内における分極が促進される。これにより、正極活物質粒子表面におけるリチウムイオンの挿入脱離プロセスが促進される。
【0030】
また、BaTiO粒子が正極活物質粒子の表面に被覆していることにより、正極活物質粒子と電解液との間の副反応が抑制され、電解液の分解が抑制される。さらに、BaTiO粒子が正極活物質粒子の表面に被覆していることにより、リチウムイオンが脱離した不安定な正極活物質が相転移して不活化することを防止することができる。
【0031】
一方で、BaTiO粒子はイオン導電性を有していない。このため、BaTiO粒子が正極活物質粒子の表面を過度に覆うと、リチウムイオンの脱離、挿入が困難になる。したがって、BaTiO粒子は正極活物質粒子の表面を適度に覆うことが好ましいと考えられる。ここで、BaTiO粒子は正極活物質粒子の表面の被覆状態は、BaTiO粒子の粒径によっても異なると考えられる。すなわち、BaTiO粒子の粒径が大きい場合、被覆するBaTiO粒子同士の間に間隙ができやすく、比較的多量にBaTiO粒子を被覆させた場合であっても、正極活物質粒子表面が一部露出する。一方で、BaTiO粒子の粒径が小さい場合、比較的少量にBaTiO粒子を被覆させた場合であっても、正極活物質粒子上にBaTiO粒子が密に被覆してしまう。
【0032】
したがって、上記式(2)に表されるように、BaTiO粒子の平均粒径(nm)に応じてBaTiO粒子の適切な付着量(担持量)が存在し、これにより非水電解質二次電池10の高速充放電レートにおけるサイクル特性が向上するものと考えられる。
【0033】
上述したように、BaTiO粒子の担持量Y(mol%)は、上述した式(2)で表される関係を満足する範囲内にある。BaTiO粒子の担持量Y(mol%)が、0.001A未満であると、BaTiO粒子を正極活物質粒子に被覆させることによる効果が十分に得られず、非水電解質二次電池10の高速充放電レートにおけるサイクル特性が向上しない。一方で、BaTiO粒子の担持量Y(mol%)が(0.01A+1)を超えると、BaTiO粒子が正極活物質粒子に過度に被覆してしまい、リチウムイオンの脱離、挿入が困難になる結果、却って高速充放電レートにおけるサイクル特性が低下してしまう。
【0034】
Yは、0.001A以上であればよいが、好ましくは0.002A以上である。また、Yは、(0.01A+1)以下であればよいが、好ましくは(0.01A+0.9)以下である。
【0035】
また、BaTiO粒子の平均粒径A(nm)は、特に限定されないが、好ましくは10nm以上100nm以下、より好ましくは10nm以上80nm以下である。これにより、BaTiO粒子が小さすぎることによる過度の被覆や、BaTiO粒子が大きすぎることによる同粒子の不本意な脱離を防止しつつ、上述した高速充放電レートにおけるサイクル特性の向上効果を得ることができる。
【0036】
また、正極活物質粒子の平均粒径に対するBaTiO粒子の平均粒径の比は、特に限定されないが、好ましくは0.0011以上0.0068以下、より好ましくは0.0012以上 0.0050以下である。これにより、正極活物質粒子におけるBaTiO粒子の担持量をより適切な範囲とすることができ、非水電解質二次電池10の高速充放電レートにおけるサイクル特性がより一層向上する。
【0037】
なお、BaTiO粒子の平均粒径Aは、BaTiO粒子をマイクロトラック社製のレーザー回折粒度分布・光散乱法(粒度分布測定)により測定し平均粒径を求めることができる。また、BaTiO粒子の平均粒径Aは、正極活物質粒子の付着前後による変化が極めて小さいため、付着前のBaTiO粒子の平均粒径をBaTiO粒子の平均粒径Aとしてもよい。また、付着後のBaTiO粒子をについて、走査型電子顕微鏡(SEM)画像で解析し、複数個、例えば20個のBaTiO粒子の球相当径をSEM画像に基づいて算出し、これらの算術平均値をBaTiO粒子の平均粒径Aとしてもよい。このような算術平均値は、レーザー回折粒度分布・光散乱法によって得られる平均粒径D50と、同様の値となる。但し、正極活物質粒子の表面に担持されたBaTiO粒子は、非常に小さいため、レーザー回折粒度分布・光散乱法ではほとんど差異がみられないため、SEMによる画像解析により、表面に担持したBaTiO粒子の平均粒径を求めることが好ましい。
【0038】
また、正極活物質材料中のBaTiO粒子の担持量Yは、リチウム含有遷移金属酸化物からなる正極活物質1molに対するBaTiOの添加量から求めることができる。さらに、走査型電子顕微鏡(SEM)画像での解析および誘導結合プラズマ質量分析(Inductively Coupled Plasma-Mass Spectrometry:ICP-MS)によるBaおよびTiの定量分析によりリチウム含有遷移金属酸化物からなる正極活物質1molに対するBaTiO担持量を特定することもできる。
【0039】
また、正極活物質材料中において、BaTiO粒子を正極活物質粒子の表面に被覆させた後、700℃以下の温度で熱処理することにより、正極活物質粒子にBaTiO粒子が担持されていることが好ましい。上記熱処理はBaTiO粒子の正極活物質粒子表面への固定のために行われる。ここで、上記のような比較的低温で熱処理を行うことにより、熱処理時においてBaTiO粒子の結晶構造が変化することが防止され、上述した高速充放電レートにおけるサイクル特性の向上効果をより確実に得ることができる。
【0040】
導電助剤としては、例えば、ケッチェンブラック(ketjen black)、アセチレンブラック(acetylene black)、ファーネスブラック(furnace black)等のカーボンブラック(carbon black)が挙げられる。これらのうち、いずれか1種以上のカーボンブラックが含まれていてもよい。これらのカーボンブラックのうち、好ましい例はアセチレンブラックである。アセチレンブラックは、他のカーボンブラックに比べて欠陥の数が少ない。カーボンブラックの欠陥部分は、非水電解質二次電池10を高電圧下で充放電した際に電解液と反応する可能性がある。当該反応が起こると、ガスが発生し、非水電解質二次電池10の膨張等が起こりうる。このような観点からは、カーボンブラックはアセチレンブラックであることが好ましい。
【0041】
結着剤は、例えば、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene difluoride)、エチレンプロピレンジエン三元共重合体(ethylene-propylene-diene terpolymer)、スチレンブタジエンゴム(styrene-butadiene rubber)、アクリロニトリルブタジエンゴム(acrylonitrile-butadiene rubber)、フッ素ゴム(fluoroelastomer)、ポリ酢酸ビニル(polyvinyl acetate)、ポリメチルメタクリレート(polymethyl methacrylate)、ポリエチレン(polyethylene)、ニトロセルロース(nitrocellulose)等である。なお、結着剤は、正極活物質材料および導電助剤を正極集電体21上に結着させることができるものであれば、特に制限されない。また、結着剤の含有量は、特に制限されず、非水電解質二次電池の正極活物質層に適用される含有量であればいずれであってもよい。
【0042】
正極活物質層22は、例えば、適当な有機溶媒(例えばN-メチル-2-ピロリドン(N-methyl-2-pyrrolidone))に正極活物質材料、導電助剤、および結着剤を分散させたスラリー(slurry)を正極集電体21上に塗工し、乾燥、圧延することで形成される。
【0043】
負極30は、負極集電体31と、負極活物質層32とを含む。負極集電体31は、例えば、銅(cupper)、ニッケル等で構成される。
【0044】
負極活物質層32は、非水電解質二次電池の負極活物質層として使用されるものであれば、どのようなものであってもよい。例えば、負極活物質層32は、負極活物質を含み、結着剤をさらに含んでいてもよい。また、負極活物質層32は、固体電解質を含んでいてもよい。負極活物質は、例えば、黒鉛活物質(人造黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛と天然黒鉛との混合物、人造黒鉛を被覆した天然黒鉛等)、ケイ素(Si)もしくはスズ(Sn)もしくはそれらの酸化物の微粒子と黒鉛活物質との混合物、ケイ素もしくはスズの微粒子、ケイ素もしくはスズを基本材料とした合金、およびLiTi12等の酸化チタン(TiO)系化合物等を使用することができる。なお、ケイ素の酸化物は、SiO(0≦x≦2)で表される。また、負極活物質としては、これらの他に、例えば金属リチウム等を使用することができる。
【0045】
また、結着剤は、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)などが用いられる。なお、負極活物質と結着剤との質量比は特に制限されず、従来の非水電解質二次電池で採用される質量比が本発明でも適用可能である。
【0046】
セパレータ層40は、セパレータと、電解液とを含む。
セパレータ層40に含まれるセパレータは、特に制限されない。セパレータ層40に含まれるセパレータは、非水電解質二次電池のセパレータとして使用されるものであれば、どのようなものでも使用可能である。例えば、セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。セパレータを構成する材料としては、例えば、ポリエチレン(polyethylene),ポリプロピレン(polypropylene)等に代表されるポリオレフィン(polyolefin)系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate),ポリブチレンテレフタレート(polybuthylene terephthalate)等に代表されるポリエステル(polyester)系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene difluoride)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン(hexafluoropropylene)共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロビニルエーテル(perfluorovinylether)共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン(trifluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン-フルオロエチレン(fluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロアセトン(hexafluoroacetone)共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン(ethylene)共重合体、フッ化ビニリデン-プロピレン(propylene)共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロプロピレン(trifluoropropylene)共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等を使用することができる。なお、セパレータの気孔率も特に制限されず、非水電解質二次電池のセパレータが有する気孔率が任意に適用可能である。
【0047】
また、セパレータは、無機フィラーを含むコーティング層を有していてもよい。具体的には、コーティング層は、Mg(OH)またはAlの少なくともどちらか一方を無機フィラーとして含んでいてもよい。かかる構成によれば、無機フィラーを含むコーティング層は、正極とセパレータとの直接の接触を防止するため、高温保存時に正極表面で発生する電解液の酸化、分解を防止し、電解液の分解生成物であるガスの発生を抑制することができる。
【0048】
ここで、無機フィラーを含むコーティング層は、セパレータの両面に形成されてもよく、セパレータの正極側の片面のみに形成されてもよい。無機フィラーを含むコーティング層は、少なくとも正極側に形成されていれば、正極と電解液との直接の接触を防止することができる。
【0049】
また、本発明は、上記例示に限定されない。例えば、無機フィラーを含むコーティング層は、セパレータ上ではなく、正極上に形成されてもよい。かかる場合、無機フィラーを含むコーティング層は、正極の両面に形成されることによって、正極とセパレータとの直接の接触を防止することができる。なお、無機フィラーを含むコーティング層は、正極上およびセパレータ上の両方に形成されていてもよいことは言うまでもない。また、セパレータ層40に代えて、固体電解質を用いてもよい。セパレータ層40に代わる固体電解質としては、例えば、硫化物系固体電解質材料で構成される。硫化物系固体電解質材料としては、例えば、LiS-P、LiS-P-LiX(Xはハロゲン元素、例えばI、Cl)、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS、Li2-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z(m、nは正の数、ZはGe、ZnまたはGaのいずれか)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(p、qは正の数、MはP、Si、Ge、B、Al、GaまたはInのいずれか)等を挙げることができる。ここで、硫化物系固体電解質材料は、出発原料(例えば、LiS、P等)を溶融急冷法やメカニカルミリング(mechanical milling)法等によって処理することで作製される。また、これらの処理の後にさらに熱処理を行っても良い。固体電解質は、非晶質であっても良く、結晶質であっても良く、両者が混ざった状態でも良い。
また、固体電解質として、上記の硫化物固体電解質材料のうち、少なくとも構成元素として硫黄(S)、リン(P)およびリチウム(Li)を含むものを用いることが好ましく、特にLiS-Pを含むものを用いることがより好ましい。
ここで、固体電解質を形成する硫化物系固体電解質材料としてLiS-Pを含むものを用いる場合、LiSとPとの混合モル比は、例えば、LiS:P=50:50~90:10の範囲で選択されてもよい。
【0050】
電解液は、従来からリチウム二次電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定されることなく使用することができる。ここで、電解液は、非水溶媒に電解質塩を含有させた組成を有する。非水溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート(propylene carbonate)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate)、ブチレンカーボネート(buthylene carbonate)、クロロエチレンカーボネート(chloroethylene carbonate)、ビニレンカーボネート(vinylene carbonate)等の環状炭酸エステル(ester)類;γ-ブチロラクトン(butyrolactone)、γ-バレロラクトン(valerolactone)等の環状エステル類;ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate)、ジエチルカーボネート(diethyl carbonate)、エチルメチルカーボネート(ethylmethyl carbonate)等の鎖状カーボネート(carbonate)類;ギ酸メチル(methyl formate)、酢酸メチル(methyl acetate)、酪酸メチル(methyl butyrate)等の鎖状エステル類;テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)又はその誘導体;1,3-ジオキサン(1,3-dioxane)、1,4-ジオキサン(1,4-dioxane)、1,2-ジメトキシエタン(1,2-dimethoxyethane)、1,4-ジブトキシエタン(1,4-dibutoxyethane)、メチルジグライム(methyldiglyme)等のエーテル(ether)類;アセトニトリル(acetonitrile)、ベンゾニトリル(benzonitrile)等のニトリル(nitrile)類;ジオキソラン(dioxolane)又はその誘導体;エチレンスルフィド(ethylene sulfide)、スルホラン(sulfolane)、スルトン(sultone)又はその誘導体等を単独で、又はそれら2種以上を混合して使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
また、電解質塩としては、例えば、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、LiSCN、LiBr、LiI、LiSO、Li10Cl10、NaClO、NaI、NaSCN、NaBr、KClO、KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiC(CSO、(CHNBF、(CHNBr、(CNClO、(CNI、(CNBr、(n-CNClO、(n-CNI、(CN-maleate、(CN-benzoate、(CN-phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム(lithium stearyl sulfate)、オクチルスルホン酸リチウム(lithium octyl sulfate)、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム(lithium dodecylbenzene sulphonate)等の有機イオン塩等を使用することができる。なお、これらのイオン性化合物は、単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。また、電解質塩の濃度は、従来のリチウム二次電池で使用される非水電解液と同様でよく、特に制限はない。本発明では、適当なリチウム化合物(電解質塩)を0.5mol/L~2.0mol/L程度の濃度で含有させた電解液を使用することができる。
【0052】
<3.正極活物質材料の製造方法>
次に、正極活物質材料の製造方法について説明する。正極活物質材料は、正極活物質粒子を合成し、さらに正極活物質粒子の表面に対してBaTiO粒子を担持させることにより得ることができる。
【0053】
正極活物質粒子の合成方法は、特に制限されないが、例えば、共沈法を用いることできる。具体的には、まず、共沈法により正極活物質前駆体粒子を合成する。得られた乾燥粉末と、リチウム源、例えば炭酸リチウム(LiCO)とを混合することで、混合粉体を生成する。得られた混合粉体について、例えば大気雰囲気下中800~1050℃で12時間焼成を行い、正極活物質粒子を合成することができる。ここで、Liと他の元素、例えば、Ni、Co、Mとのモル比は、リチウムコバルト複合酸化物の組成に応じて決定される。なお、市販の正極活物質粒子を入手して、これを用いてもよい。
【0054】
次に、正極活物質粒子の表面に対してBaTiO粒子を担持させる。具体的には、BaTiO粒子および正極活物質粒子を分散媒中において混合した分散液(スラリー)について、分散媒を除去し、熱処理を行うことにより、正極活物質粒子の表面上にBaTiO粒子を担持させることができる。
【0055】
分散液は、BaTiO粒子および正極活物質粒子を分散媒に添加し、撹拌等により分散させることにより得ることができる。分散媒としては、BaTiO粒子および正極活物質粒子が不溶であれば特に限定されず、例えばケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒、多価アルコール系溶媒、無極性溶媒等を用いることができる。
【0056】
ケトン系溶媒としては、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、アセトン等が挙げられる。また、エステル系溶媒としては、酢酸エチル、酢酸メチル等の脂肪酸エステル系溶媒が挙げられる。また、アルコール系溶媒としては、2-プロパノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ペンチルアルコール、イソペンチルアルコール等の直鎖または分岐の脂肪族アルコール、1-メトキシプロパノール等の直鎖または分岐のアルコキシアルコール等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、プロピレングリコール等のグリコール系溶媒が挙げられる。また、多価アルコール系溶媒としては、グリセロール、チオグリセロール等が挙げられる。無極性溶媒としては、シクロヘキサン、ヘキサン、n-ヘプタン等が挙げられる。
【0057】
上述した中でも、分散性及び溶媒の除去の容易性の観点から、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒が好ましく、ケトン系溶媒がより好ましい。
【0058】
また分散媒の沸点は、大気圧下(1atm)において、130℃以下であることが好ましく、90℃以上120℃以下であることがより好ましい。これにより、容易に溶媒の除去が可能となる。
【0059】
また、分散液は、分散剤を含んでいてもよい。分散剤は、BaTiO粒子および/または正極活物質粒子の分散安定性の向上に寄与する。分散剤としては、オレイン酸等のC4~C24脂肪酸、非イオン性界面活性剤等の各種分散剤を使用することができる。非イオン性界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル(例えばイオネットS、三洋化成工業)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸モノエステル(例えばイオネットT、三洋化成工業)等の脂肪酸エステル系界面活性剤や、SNスパース、SNディスパーサント(サンノプコ)等が挙げられる。
【0060】
分散液中の分散剤の含有量は、特に限定されず、BaTiO粒子および正極活物質粒子の必要とされる分散安定性に応じて設定可能である。
【0061】
次いで、得られた分散液について、分散媒を除去する。分散媒の除去は、例えば、噴霧乾燥(スプレードライ)または減圧乾燥(エバポレータ)により行うことができる。このうち、噴霧乾燥が、操作性および生産性の観点から好ましい。
【0062】
噴霧乾燥時における乾燥温度は、分散媒の沸点に応じて適宜設定でき、例えば80℃以上160℃以下とすることができる。
【0063】
最後に熱処理(焼成)を行って、正極活物質粒子の表面上にBaTiO粒子を固着(ネッキング)させる。これにより、正極活物質材料を得ることができる。
【0064】
熱処理の温度としては、特に限定されないが、700℃以下であることが好ましい。これにより、BaTiO粒子の結晶構造が不本意に変質することが防止でき、BaTiO粒子による高速充放電レートにおけるサイクル特性の向上効果をより確実に得ることができる。熱処理の温度は、好ましくは、300℃以上700℃以下、より好ましくは400℃以上700℃以下である。
【0065】
また、熱処理の時間は、特に限定されず、例えば2時間以上24時間以下、好ましくは4時間以上12時間以下である。
熱処理時における雰囲気は、酸素含有雰囲気、例えば大気雰囲気であることができる。
【0066】
<4.非水電解質二次電池の製造方法>
続いて、非水電解質二次電池10の製造方法の一例について説明する。なお、以下に説明する製造方法はあくまで一例であり、他の方法で非水電解質二次電池10を製造可能であることはもちろんである。
【0067】
正極20は、以下のように製造される。まず、正極活物質層22を構成する材料(例えば、正極活物質材料、導電助剤および結着剤)を有機溶媒(例えば、N-メチル-2-ピロリドン)に分散させることでスラリーを形成する。
【0068】
次いで、得られた混合物を固練り混合し、さらに正極活物質材料を添加して固練り混合を行う。最後に有機溶媒を添加して粘度調整を行い、スラリーを得る。
【0069】
次に、スラリーを正極集電体21上に塗工し、乾燥させることで、正極活物質層22を形成する。さらに、圧縮機により正極活物質層22を所望の厚さとなるように圧縮する。これにより、正極20が製造される。ここで、正極活物質層22の厚さは特に制限されず、非水電解質二次電池の正極活物質層が有する厚さであればよい。なお、正極活物質を集電体に塗布する工程は、ドライ環境下で行っても良い。
【0070】
負極30は、まず負極活物質、カルボキシメチルセルロース(CMC)及び導電助剤を所望の割合で混合したものを、イオン交換水を所定量加えて固練り混合する。その後、さらにイオン交換水を加えて粘度を調整し、スチレンブタジエンゴム(SBR)バインダを加え、負極スラリーを形成する。次に、スラリーを負極集電体31上に塗工し、乾燥させることで、負極活物質層32を形成する。さらに、圧縮機により負極活物質層32を所望の厚さとなるように圧縮する。これにより、負極30が製造される。ここで、負極活物質層32の厚さは特に制限されず、非水電解質二次電池の負極活物質層が有する厚さであればよい。また、負極活物質層32として金属リチウムを用いる場合、負極集電体31に金属リチウム箔を重ねれば良い。
【0071】
続いて、セパレータを正極20および負極30で挟むことで、電極構造体を製造する。次に、電極構造体を所望の形態(例えば、円筒形、角形、ラミネート形、ボタン形等)に加工し、当該形態の容器に挿入する。さらに、当該容器内に所望の組成の電解液を注入することで、セパレータ内の各気孔に電解液を含浸させる。これにより、非水電解質二次電池10が製造される。
【実施例
【0072】
以下では、本実施形態に係る実施例について具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明の一例であって、本発明が、下記の例に限定されるものではない。
【0073】
<1.セルの製造>
(実施例1)
(正極活物質材料の作製)
以下の方法により、Li1.00Ni0.85Co0.10Al0.05の組成式を有する、正極活物質粒子を合成した。まず、共沈法により組成式Ni0.85Co0.10Al0.05(OH)で示される組成の正極活物質前駆体粒子を合成した。得られた乾燥粉末と、炭酸リチウム(LiCO)とを混合することで、混合粉体を生成した。得られた粉体について、酸素雰囲気下中800℃~1050℃で24時間焼成を行い、正極活物質粒子を合成した。ここで、LiとNi+Co+M(=Me)とのモル比は、リチウムニッケルコバルト複合酸化物の組成に応じて決定されるため、Li1.00Ni0.85Co0.10Al0.05を製造する場合、LiとMeとのモル比Li:Meは1.00:1.00となる。得られたリチウムニッケルコバルト複合酸化物のLi:Me比率については、ICP-OES(例えば、HORIBA ULTIMA2)で確認し、焼成後のLi:Me比率が1.00:1.00となるように、あらかじめ炭酸リチウム量を調整し製造を行った。例えば、LiとMeとのモル比を1.03:1.00~1.07:1.00の間で調整し、焼成後のLi:Me比率が1.00:1.00となるように製造を行った。
【0074】
正極材活物質粒子の平均粒径は、レーザー回折粒度分布・光散乱法(粒度分布測定)により測定した。この結果、平均粒径は12μmであった。
【0075】
次いで、分散媒としてのアセトンに、得られた正極活物質粒子と、BaTiO粒子と、分散剤としてのSNスパース(全体の量に対して2%)とを添加し撹拌することにより、分散液(スラリー)を得た。なお、正極活物質粒子およびBaTiO粒子の添加量は、担持されるBaTiO粒子が、正極活物質粒子に対し0.010mol%となるように調整した。
【0076】
次いで、分散液について100℃の乾燥温度で噴霧乾燥を行い、粉体を得た。
【0077】
得られた粉体について、酸素雰囲気下中700℃で12時間焼成を行い、正極活物質粒子の表面上にBaTiO粒子を固着させ、実施例1に係る正極活物質材料を得た。
【0078】
得られた正極活物質材料をSEM画像で解析し、20個のBaTiO粒子の球相当径をSEM画像に基づいて算出し、これらの算術平均値をBaTiO粒子の平均粒径Aとした。実施例1に係る正極活物質材料におけるBaTiO粒子の平均粒径Aは、10nmであった。
【0079】
(コインフルセルの作製)
以下の処理によりコインハーフセルを作製した。まず、正極活物質材料、アセチレンブラック、ポリフッ化ビニリデンを96:2:2の質量比で混合した。この混合物(正極合剤)をN-メチル-2-ピロリドンに分散させてスラリーを形成した。
【0080】
スラリーを正極集電体21上に塗工し、乾燥させることで、正極活物質層22を形成した。そして、正極活物質層22の厚さが50μmとなるように圧延することで、正極20を作製した。なお、正極活物質層22の体積密度は3.7g/ccであり、面積密度は、20mg/cmであった。
【0081】
負極30は、負極集電体31である銅箔上に、グラファイトをイオン交換水に分散させた負極スラリーを塗工し、乾燥させることで作製した。そして、セパレータとして厚さ12μmの多孔質ポリプロピレンフィルム(両面に水酸化マグネシウムコーティングがなされたもの。帝人社製。)を用意し、セパレータを正極20と負極30との間に配置することで、電極構造体を製造した。次に、電極構造体をコインフルセルの大きさに加工し、コインフルセルの容器に収納した。
【0082】
ついで、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを3:7の体積比で混合した非水溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウムを1.3Mの濃度で溶解することで、電解液を製造した。ついで、電解液をコインフルセルに注入して電解液をセパレータに含浸させることで、実施例1に係るコインフルセルを作製した。
【0083】
(実施例2~実施例7)
BaTiO粒子の平均粒径および担持量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして正極活物質材料およびコインフルセルを作成した。
【0084】
(比較例1)
BaTiO粒子を正極活物質材料に担持させなかった以外は、実施例1と同様にして正極活物質材料およびコインフルセルを作成した。
【0085】
(比較例2、比較例3)
BaTiO粒子の平均粒径および担持量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして正極活物質材料およびコインフルセルを作成した。
【0086】
以上の各実施例および各比較例における製造条件を表1にまとめて示す。なお、表1においては、平均粒径を式(2)に代入することにより算出される担持量の許容範囲についても合わせて示した。
【0087】
【表1】
【0088】
<2.評価>
次に、各実施例および各比較例において得られたコインフルセルを用いて、高速充放電レートにおけるサイクル特性を評価した。
具体的には、各実施例および各比較例において得られたコインフルセルについて、表2に示す充放電レート(rate)、カットオフ(cut off)電圧(単位はV)にて充放電を100サイクル行った。充放電時の温度は室温(25℃)とした。CC-CVは定電流定電圧を意味し、CCは定電流を意味する。そして、1サイクル目の放電容量を測定し、この値を初期放電容量とし、1サイクル目の放電容量に対する100サイクル目の放電容量の容量維持率を得た。そして、比較例1において得られた容量維持率を100とした際の、各実施例および各比較例において得られた容量維持率の割合(%)を高速充放電レートにおけるサイクル特性として評価した。以上の結果を表1に合わせて示す。
【0089】
【表2】
【0090】
<3.対比>
実施例1~実施例7と比較例1とを比較すると、実施例1~実施例7に係るコインフルセルは、比較例1に係るコインフルセルよりも高速充放電レートにおけるサイクル特性に優れていた。
また、比較例2、比較例3に係るコインフルセルは、BaTiO粒子を担持させたにも関わらず、高速充放電レートにおけるサイクル特性が却って比較例1に係るコインフルセルよりも劣っていた。
【0091】
<4.セル(全固体二次電池)の製造>
(実施例8)
まず、試薬LiS、NaS、P、LiClを目的組成であるLiPSClになるように秤量後、遊星型ボールにて20時間混合を行うことでメカニカルミリング処理を行った。メカニカルミリング処理は、380rpmの回転速度、室温(25℃)、アルゴン雰囲気内で20時間行った。
上記メカニカルミリング処理により得られたLiPSCl組成の粉末試料800mgをプレス(圧力400MPa/cm)することで、直径13mm、厚さ約0.8mmのペレットを得た。得られたペレットを金箔で被覆し、さらに、その金箔で被覆したペレットをカーボンルツボに入れ、熱処理用試料を作製した。得られた熱処理用試料は、石英ガラス管を用いて真空封入を行った後、電気炉を用いて室温(25℃)から550℃まで1.0℃/分で昇温した後、550℃にて6時間熱処理を行った後、1.0℃/分で室温(25℃)まで冷却することで試料を得た。回収された試料を、メノウ乳鉢を用いて粉砕した後、X線結晶回折を行い、目的とするArgyrodite結晶が生成していることを確認し、本材料を固体電解質として用いた。
実施例1の正極活物質材料、固体電解質および導電剤であるカーボンナノファイバー(CNF)を60:30:10の質量比で混合したものを正極合剤とした。
また、負極としては、厚さ30μmの金属リチウム箔を用いた。
正極合材10mg、固体電解質150mgおよび金属リチウム箔(負極)を積層し、294MPaの圧力でプレスして、実施例8に係る試験用セルを作製した。
【0092】
(実施例9~実施例14、比較例4~比較例6)
実施例2~実施例7および比較例1~比較例3の正極活物質材料を用いたこと以外は、実施例8と同様にして、実施例9~実施例14および比較例4~比較例6に係る試験用セルを作製した。
【0093】
<5.評価>
次に、実施例8~実施例14および比較例4~比較例6において得られた試験用セルを用いて、高速充放電レートにおけるサイクル特性を評価した。
具体的には、各実施例および各比較例において得られた試験用セルについて、5℃で、0.05Cの定電流で、上限電圧4.0Vまで充電し、放電終止電圧2.5Vまで0.05C放電する充放電サイクルを50サイクル繰り返した。そして、1サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の放電容量の比を放電容量の維持率とした。結果を表3に示す。
【0094】
【表3】
【0095】
<6.対比>
実施例8~実施例14と比較例4~比較例6とを比較すると、実施例8~実施例14に係る試験用セルは、比較例4~比較例6に係る試験用セルよりも高速充放電レートにおけるサイクル特性に優れていた。
【0096】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0097】
10 非水電解質二次電池
20 正極
21 正極集電体
22 正極活物質層
30 負極
31 負極集電体
32 負極活物質層
40 セパレータ層
図1