(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】シランカップリング被膜の膜厚推定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20230417BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20230417BHJP
G01N 21/73 20060101ALI20230417BHJP
G01N 31/00 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
G01N1/28 X
G01N1/00 102B
G01N21/73
G01N31/00 Z
(21)【出願番号】P 2019217163
(22)【出願日】2019-11-29
【審査請求日】2022-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000190688
【氏名又は名称】新光電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】下平 朋幸
【審査官】奥野 尭也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-017882(JP,A)
【文献】特開平04-173983(JP,A)
【文献】特開平10-239241(JP,A)
【文献】特開2008-071810(JP,A)
【文献】国際公開第2009/110364(WO,A1)
【文献】特開2011-231404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00- 1/44
G01N 31/00-31/22
G01N 21/73
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅の表面にシランカップリング被膜が形成された測定対象物を過酸化水素水と硫酸との混合溶液に浸漬させ、銅及びシランカップリング剤を前記混合溶液に溶解させると共に、前記シランカップリング剤を構成するシリコン分子の結合を切断するステップと、
前記混合溶液中のシリコン原子の濃度を定量分析するステップと、
事前に作成したシリコン原子の濃度とシランカップリング被膜の膜厚との関係を示す検量線、及び前記定量分析するステップで分析した前記シリコン原子の濃度に基づいて、前記シランカップリング被膜の膜厚を推定するステップと、を有するシランカップリング被膜の膜厚推定方法。
【請求項2】
前記検量線を事前に作成するステップは、
銅の表面にシランカップリング被膜が形成された検量線作成用積層体の一部分を切り出して過酸化水素水と硫酸との混合溶液に浸漬させ、銅及びシランカップリング剤を前記混合溶液に溶解させると共に、前記シランカップリング剤を構成するシリコン分子の結合を切断するステップと、
前記混合溶液中のシリコン原子の濃度を定量分析するステップと、
前記検量線作成用積層体の他の部分を切り出して断面を露出させ、前記シランカップリング被膜の膜厚を測定するステップと、
前記定量分析するステップの結果と前記膜厚を測定するステップの結果を用いて前記検量線を作成するステップと、を有する請求項1に記載のシランカップリング被膜の膜厚推定方法。
【請求項3】
前記混合溶液中の過酸化水素の濃度が3%以上、かつ硫酸の濃度が3%以上である請求項1又は2に記載のシランカップリング被膜の膜厚推定方法。
【請求項4】
前記混合溶液中の硫酸の濃度が10%以下である請求項1乃至3の何れか一項に記載のシランカップリング被膜の膜厚推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シランカップリング被膜の膜厚推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、配線基板において、銅の配線パターンが樹脂絶縁層に被覆される構造がある。このような構造では、銅の酸化防止や銅と樹脂絶縁層との密着性向上等の目的で、銅の表面にシランカップリング被膜が形成される場合がある。シランカップリング被膜とは、ケイ素を主成分とするシランカップリング剤の被膜である。
【0003】
シランカップリング被膜は薄すぎても厚すぎても上記の目的が達成できないため、シランカップリング被膜の膜厚を知ることは重要である。そのため、シランカップリング被膜の膜厚を測定する様々な方法が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法では、シランカップリング被膜の膜厚を正しく測定できない場合があったり、測定に多大な時間を要したりする問題があった。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、短時間で平均膜厚を推定可能なシランカップリング被膜の膜厚推定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本シランカップリング被膜の膜厚推定方法は、銅の表面にシランカップリング被膜が形成された測定対象物を過酸化水素水と硫酸との混合溶液に浸漬させ、銅及びシランカップリング剤を前記混合溶液に溶解させると共に、前記シランカップリング剤を構成するシリコン分子の結合を切断するステップと、前記混合溶液中のシリコン原子の濃度を定量分析するステップと、事前に作成したシリコン原子の濃度とシランカップリング被膜の膜厚との関係を示す検量線、及び前記定量分析するステップで分析した前記シリコン原子の濃度に基づいて、前記シランカップリング被膜の膜厚を推定するステップと、を有する。
【発明の効果】
【0008】
開示の技術によれば、短時間で平均膜厚を推定可能なシランカップリング被膜の膜厚推定方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】シランカップリング被膜について説明する図である。
【
図2】本実施形態に係る検量線の作成方法を例示するフローチャートである。
【
図5】本実施形態に係るシランカップリング被膜の膜厚推定方法を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。なお、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0011】
図1は、シランカップリング被膜について説明する図である。
図1では、銅の配線パターン11上にシランカップリング被膜12が形成されており、シランカップリング被膜12の膜厚は数nm~数10nm程度である。配線基板では、銅の配線パターン11は樹脂絶縁層で被覆されるが、シランカップリング被膜12は、ケイ素を主成分とするシランカップリング剤の被膜であり、銅の酸化防止や銅と樹脂絶縁層との密着性向上等の目的で形成される。
【0012】
シランカップリング被膜12は薄すぎても厚すぎても上記の目的が達成できないそのため、シランカップリング被膜12の膜厚を知ることは重要であり、本実施形態では、シランカップリング被膜12の好適な膜厚推定方法を提案する。以下、シランカップリング被膜12の膜厚推定方法について詳説する。
【0013】
まず、
図2に示すように、事前準備として検量線を作成する。
図2は、本実施形態に係る検量線の作成方法を例示するフローチャートである。
【0014】
図2に示すステップS100では、検量線作成用積層体を準備する。ここでは、
図1に示す銅の配線パターン11の表面にシランカップリング被膜12が形成された積層体を検量線作成用積層体とする。又、過酸化水素水と硫酸との混合溶液(以下、過水硫酸溶液とする)を準備する。そして、検量線作成用積層体の一部分を切り出して過水硫酸溶液に浸漬させる。
【0015】
これにより、銅及びシランカップリング剤が過水硫酸溶液に溶解すると共に、シランカップリング剤を構成するSi(シリコン)分子の結合が切断される。ここで、Si分子の結合とは、
図3に示すように、Si分子同士の結合(矢印Aで示す部分)とSi分子の官能基と銅との結合(矢印Bで示す部分)を含むが、ステップS100では、Si分子同士の結合とSi分子の官能基と銅との結合の両方が切断される。その結果、過水硫酸溶液にSi原子が分散する。ステップS100に要する時間は、数十秒程度である。
【0016】
なお、発明者らの検討によれば、表1に示すように、過水硫酸溶液を用いることでSi分子同士の結合とSi分子の官能基と銅との結合の両方が切断される。これに対して、過硫酸ナトリウムを用いた場合には、Si分子同士の結合は切断されず、Si分子の官能基と銅との結合のみが切断される。又、苛性ソーダを用いた場合には、Si分子同士の結合とSi分子の官能基と銅との結合の何れも切断されない。
【0017】
【0018】
従って、本実施形態に係るシランカップリング被膜の膜厚推定方法では、過水硫酸溶液を用いることが好適である。過水硫酸溶液を用いることにより、Si分子同士の結合とSi分子の官能基と銅との結合の両方が切断され、過水硫酸溶液にSi原子が分散するため、後述のステップS101におけるSi原子の濃度の定量分析の精度を向上できる。
【0019】
なお、過水硫酸溶液中の過酸化水素の濃度は3%以上であることが好ましく、硫酸の濃度も3%以上であることが好ましい。このような濃度範囲であれば、銅及びシランカップリング剤の過水硫酸溶液への溶解と、シランカップリング剤を構成しているSi分子の結合の切断を確実に実現できる。
【0020】
過水硫酸溶液中の硫酸の濃度は10%以下であることが好ましい。このような濃度範囲であれば、過水硫酸溶液が銅表面によく濡れ、仮に銅表面に凹凸があってもSi分子の結合の切断を確実に実現できる。
【0021】
次に、ステップS101では、所定の分析装置を用いて、過水硫酸溶液中のSi原子の濃度を定量分析する。分析装置としては、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP: Inductivity Coupled Plasma)を用いることができる。
【0022】
次に、ステップS102では、検量線作成用積層体の他の部分を切り出して断面を露出させ、シランカップリング被膜12の膜厚を測定する。シランカップリング被膜12の膜厚は、例えば、集束イオンビーム走査電子顕微鏡(FIB-SEM)を用いた断面観察により測定できる。必要に応じ、膜厚測定の前に、観察対象となる断面の研磨を行ってもよい。
【0023】
次に、ステップS103では、ステップS101の結果とステップS102の結果を用いて、シリコン原子の濃度とシランカップリング被膜の膜厚との関係を示す検量線を作成する。例えば、
図4に示す検量線を作成できる。
図4に示すように、過水硫酸溶液中のSi原子の濃度とシランカップリング被膜12の膜厚には一定の関係がある。そのため、
図4に示す検量線を用いることで、シランカップリング被膜12の膜厚を推定可能となる。
【0024】
図5は、本実施形態に係るシランカップリング被膜の膜厚推定方法を例示するフローチャートである。
【0025】
まず、ステップS200は、ステップS100と同様のステップである。すなわち、銅の表面にシランカップリング被膜が形成された測定対象物を過水硫酸溶液に浸漬させ、銅及びシランカップリング剤を過水硫酸溶液に溶解させると共に、シランカップリング剤を構成するシリコン分子の結合を切断する。
【0026】
次に、ステップS201は、ステップS101と同様のステップである。すなわち、過水硫酸溶液中のシリコン原子の濃度を定量分析する。
【0027】
次に、ステップS202では、事前に作成したシリコン原子の濃度とシランカップリング被膜の膜厚との関係を示す検量線、及びステップS201で分析したシリコン原子の濃度に基づいて、シランカップリング被膜の膜厚を推定する。
【0028】
図4に例示した通り、過水硫酸溶液中のSi原子の濃度とシランカップリング被膜12の膜厚には一定の関係がある。そのため、事前に作成したシリコン原子の濃度とシランカップリング被膜の膜厚との関係を示す検量線を用いれば、過水硫酸溶液中のSi原子の濃度を測定することで、シランカップリング被膜12の膜厚を推定可能となる。
【0029】
[他の方法との比較]
ここで、本実施形態に係るシランカップリング被膜の膜厚推定方法と他の方法とを比較する。
【0030】
第1の方法は、測定対象物を切り出して断面を露出させ、集束イオンビーム走査電子顕微鏡等の高倍率の顕微鏡で測定する方法である。この方法では、断面の研磨が必要となるが、対象となるシランカップリング被膜が薄いため、電子装置による精密な断面研磨が必要となり、測定時間が長くなる。又、断面研磨の加工領域が非常に小さいため、高解像度の観察装置で多点を測定する必要があり、測定時間が長くなる。
【0031】
第2の方法は、測定対象物を切り出してシランカップリング被膜を溶かし、紫外可視分光光度計等を用いて光吸収の波長の強度を測定する方法である。この方法では、全ての物質が光吸収をするわけではないため、測定できる皮膜と測定できない皮膜が存在する。又、事前にシランカップリング被膜の成分を確認しておく必要がある。又、ピークが重なると目的の物質の強度を正しく測定できない。
【0032】
第3の方法は、測定対象物のシランカップリング被膜に光を当て、反射光の波長をフーリエ変換赤外分光光度計等を用いて分析し、シランカップリング被膜の官能基のピーク波長の強度を測定する方法である。この方法は、シランカップリング被膜の下地である銅の表面の粗度の影響を受ける。すなわち、銅の表面の粗度が大きい場合は、反射光が正しい方向に跳ね返ってこないため、正しく測定できない。
【0033】
これに対して、本実施形態に係るシランカップリング被膜の膜厚推定方法では、過水硫酸溶液中のSi原子の濃度を計測することでシランカップリング被膜の膜厚を推定できるため、短時間で広い領域のシランカップリング被膜の平均膜厚を推定可能となる。特に、第1の方法と比べると、測定時間を大幅に短縮できる。又、第2の方法や第3の方法のように、正しく測定できない場合がない。
【0034】
このように、本実施形態によれば、短時間で平均膜厚を推定可能なシランカップリング被膜の膜厚推定方法を実現できる。
【0035】
以上、好ましい本実施形態について詳説したが、上述した本実施形態に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した本実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0036】
11 配線パターン
12 シランカップリング被膜