(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】研磨液、及び、化学的機械的研磨方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20230417BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20230417BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20230417BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
H01L21/304 622X
H01L21/304 622Q
H01L21/304 647Z
H01L21/304 647A
B24B37/00 H
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550D
C09G1/02
(21)【出願番号】P 2021527488
(86)(22)【出願日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2020020087
(87)【国際公開番号】W WO2020255616
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2019114648
(32)【優先日】2019-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】上村 哲也
【審査官】宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-048256(JP,A)
【文献】国際公開第2016/006631(WO,A1)
【文献】特表2019-501511(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159530(WO,A1)
【文献】特開2011-091248(JP,A)
【文献】特開2017-107918(JP,A)
【文献】特開2017-157591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C09K 3/14
C09G 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト含有膜を有する被研磨体の化学的機械的研磨に用いられる研磨液であって、
コロイダルシリカと、
ClogP値が1.5~3.8である不動態膜形成剤と、
高分子化合物と、
過酸化水素と、を含み、
pHが、2.0~4.0であ
り、
前記不動態膜形成剤が、4-メチルサリチル酸、4-メチル安息香酸、4-tert-ブチル安息香酸、4-プロピル安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸、1-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸、3-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン、キナルジン酸、8-ヒドロキシキノリン、及び、2-メチル-8-ヒドロキシキノリンからなる群から選択される1以上である、研磨液。
【請求項2】
コバルト含有膜を有する被研磨体の化学的機械的研磨に用いられる研磨液であって、
コロイダルシリカと、
ClogP値が1.5~3.8である不動態膜形成剤と、
高分子化合物と、
過酸化水素と、を含み、
pHが、2.0~4.0であり、
前記不動態膜形成剤が、4-メチルサリチル酸、4-メチル安息香酸、4-tert-ブチル安息香酸、4-プロピル安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸、1-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸、3-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸、キナルジン酸、及び、2-メチル-8-ヒドロキシキノリンからなる群から選択される1以上である、研磨液。
【請求項3】
更に、カチオン化合物を含む、請求項1
又は2に記載の研磨液。
【請求項4】
前記カチオン化合物が、第四級アンモニウムカチオン及び第四級ホスホニウムカチオンからなる群から選択されるカチオンを含む化合物である、請求項
3に記載の研磨液。
【請求項5】
更に、ベンゾトリアゾール化合物を含む、請求項1~
4のいずれか1項に記載の研磨液。
【請求項6】
前記ベンゾトリアゾール化合物を2種以上含む、請求項
5に記載の研磨液。
【請求項7】
前記ベンゾトリアゾール化合物の含有量に対する、前記不動態膜形成剤の含有量の質量比が、0.01~4.0である、請求項
5又は
6に記載の研磨液。
【請求項8】
前記研磨液中に存在する状態で測定される前記コロイダルシリカのゼータ電位が+20.0mV以上である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の研磨液。
【請求項9】
前記コロイダルシリカの含有量が、前記研磨液の全質量に対して、1.0質量%以上であり、
前記コロイダルシリカの平均一次粒子径が、5nm以上である、請求項1~
8のいずれか1項に記載の研磨液。
【請求項10】
更に、ポリカルボン酸及びポリホスホン酸からなる群から選択される1以上の有機酸を含む、請求項1~
9のいずれか1項に記載の研磨液。
【請求項11】
前記有機酸が、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、及び、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸からなる群から選択される1以上である、請求項
10に記載の研磨液。
【請求項12】
前記高分子化合物が、カルボン酸基を有する、請求項1~1
1のいずれか1項に記載の研磨液。
【請求項13】
前記高分子化合物の重量平均分子量が2000~30000である、請求項1~1
2のいずれか1項に記載の研磨液。
【請求項14】
更に、有機溶剤を、前記研磨液の全質量に対して、0.05~5.0質量%含む、請求項1~1
3のいずれか1項に記載の研磨液。
【請求項15】
更に、アニオン系界面活性剤を含む、請求項1~
14のいずれか1項に記載の研磨液。
【請求項16】
更に、ノニオン系界面活性剤を含む、請求項1~
15のいずれか1項に記載の研磨液。
【請求項17】
前記ノニオン系界面活性剤のHLB値が8~15である請求項
16に記載の研磨液。
【請求項18】
前記高分子化合物の含有量に対する、前記不動態膜形成剤の含有量の質量比が、0.05以上10未満である、請求項1~
17のいずれか1項に記載の研磨液。
【請求項19】
固形分濃度が10質量%以上であり、
質量基準で3倍以上に希釈して用いられる、請求項1~
18のいずれか1項に記載の研磨液。
【請求項20】
請求項1~
18のいずれか1項に記載の研磨液を研磨定盤に取り付けられた研磨パッドに供給しながら、前記被研磨体の被研磨面を前記研磨パッドに接触させ、前記被研磨体及び前記研磨パッドを相対的に動かして前記被研磨面を研磨して、研磨済み被研磨体を得る工程を含む、化学的機械的研磨方法。
【請求項21】
コバルト含有膜からなる配線を形成するために行われる、請求項
20に記載の化学的機械的研磨方法。
【請求項22】
前記被研磨体が、前記コバルト含有膜とは異なる材料からなる第2層を有し、
前記第2層の研磨速度に対する、前記コバルト含有膜の研磨速度の速度比が、0.05超5未満である、請求項
20又は
21に記載の化学的機械的研磨方法。
【請求項23】
前記第2層が、Ta、TaN、TiN、SiN、テトラエトキシシラン、SiC、及び、SiOCからなる群から選択される1以上の材料を含む、請求項
22に記載の化学的機械的研磨方法。
【請求項24】
研磨圧力が0.5~3.0psiである、請求項
20~
23のいずれか1項に記載の化学的機械的研磨方法。
【請求項25】
前記研磨パッドに供給する前記研磨液の供給速度が、0.14~0.35ml/(min・cm
2)である、請求項
20~
24のいずれか1項に記載の化学的機械的研磨方法。
【請求項26】
前記研磨済み被研磨体を得る工程の後、前記研磨済み被研磨体をアルカリ洗浄液で洗浄する工程を有する、請求項
20~
25のいずれか1項に記載の化学的機械的研磨方法。
【請求項27】
前記研磨済み被研磨体を得る工程の後、前記研磨済み被研磨体を有機溶剤系溶液で洗浄する工程を有する、請求項
20~
26のいずれか1項に記載の化学的機械的研磨方法。
【請求項28】
被研磨体の化学的機械的研磨に用いられる研磨液であって、
砥粒と、
ClogP値が1.5~3.8である不動態膜形成剤と、
高分子化合物と、
過酸化水素と、を含み、
pHが、2.0~4.0であ
り、
前記不動態膜形成剤が、4-メチルサリチル酸、4-メチル安息香酸、4-tert-ブチル安息香酸、4-プロピル安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸、1-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸、3-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸、キナルジン酸、8-ヒドロキシキノリン、及び、2-メチル-8-ヒドロキシキノリンからなる群から選択される1以上である、研磨液。
【請求項29】
被研磨体の化学的機械的研磨に用いられる研磨液であって、
砥粒と、
ClogP値が1.5~3.8である不動態膜形成剤と、
高分子化合物と、
過酸化水素と、を含み、
pHが、2.0~4.0であり、
前記不動態膜形成剤が、4-メチルサリチル酸、4-メチル安息香酸、4-tert-ブチル安息香酸、4-プロピル安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸、1-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸、3-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸、キナルジン酸、及び、2-メチル-8-ヒドロキシキノリンからなる群から選択される1以上である、研磨液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨液、及び、化学的機械的研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路(LSI:large-scale integrated circuit)の製造において、ベアウェハの平坦化、層間絶縁膜の平坦化、金属プラグの形成及び埋め込み配線形成等に化学的機械的研磨(CMP:chemical mechanical polishing)法が用いられている。
例えば、特許文献1には「(A)砥粒と、(B)π電子を有しかつカルボキシル基を1以上有し、カルボキシル基及びヒドロキシル基からなる群より選択される少なくとも1種の基を2以上有する、炭素数4以上の有機酸と、(C)アミノ酸と、(D)アニオン性界面活性剤と、(E)酸化剤と、を含有し、pHが6.5以上9.5以下である、化学的機械的研磨用水系分散体。」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、昨今では、配線の微細化の要求に伴い、銅にかわる配線金属元素としてコバルトが注目されている。
コバルト含有膜を有する被研磨体のCMPを行うにあたっては、コバルト含有膜に対する研磨速度が一定以上であることが求められる。また、研磨後の被研磨体の被研磨面においてコロージョン(Corrosion:腐食による表面荒れ)、及び、スクラッチ(Scratch:傷状の欠陥)の発生を抑制できることが求められる。
【0005】
そこで、本発明は、コバルト含有膜を有する被研磨体のCMPに適用した場合に、研磨速度が良好で、被研磨面におけるコロージョン及びスクラッチの発生を抑制できる研磨液の提供を課題とする。
また、上記研磨液を用いた化学的機械的研磨方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0007】
〔1〕
コバルト含有膜を有する被研磨体の化学的機械的研磨に用いられる研磨液であって、
コロイダルシリカと、
ClogP値が1.5~3.8である不動態膜形成剤と、
高分子化合物と、
過酸化水素と、を含み、
pHが、2.0~4.0である、研磨液。
〔2〕
更に、カチオン化合物を含む、〔1〕に記載の研磨液。
〔3〕
上記カチオン化合物が、第四級アンモニウムカチオン及び第四級ホスホニウムカチオンからなる群から選択されるカチオンを含む化合物である、〔2〕に記載の研磨液。
〔4〕
更に、ベンゾトリアゾール化合物を含む、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の研磨液。
〔5〕
上記ベンゾトリアゾール化合物を2種以上含む、〔4〕に記載の研磨液。
〔6〕
上記ベンゾトリアゾール化合物の含有量に対する、上記不動態膜形成剤の含有量の質量比が、0.01~4.0である、〔4〕又は〔5〕に記載の研磨液。
〔7〕
上記研磨液中に存在する状態で測定される上記コロイダルシリカのゼータ電位が+20.0mV以上である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の研磨液。
〔8〕
上記コロイダルシリカの含有量が、上記研磨液の全質量に対して、1.0質量%以上であり、
上記コロイダルシリカの平均一次粒子径が、5nm以上である、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の研磨液。
〔9〕
更に、ポリカルボン酸及びポリホスホン酸からなる群から選択される1以上の有機酸を含む、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の研磨液。
〔10〕
上記有機酸が、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、及び、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸からなる群から選択される1以上である、〔9〕に記載の研磨液。
〔11〕
上記高分子化合物が、カルボン酸基を有する、〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の研磨液。
〔12〕
上記高分子化合物の重量平均分子量が2000~30000である、〔1〕~〔11〕のいずれかに記載の研磨液。
〔13〕
更に、有機溶剤を、上記研磨液の全質量に対して、0.05~5.0質量%含む、〔1〕~〔12〕のいずれかに記載の研磨液。
〔14〕
上記不動態膜形成剤が、サリチル酸、4-メチルサリチル酸、4-メチル安息香酸、4-tert-ブチル安息香酸、4-プロピル安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸、1-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸、3-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸、キナルジン酸、8-ヒドロキシキノリン、及び、2-メチル-8-ヒドロキシキノリンからなる群から選択される1以上である、〔1〕~〔13〕のいずれかに記載の研磨液。
〔15〕
上記不動態膜形成剤のClogP値が2.1~3.8である、〔1〕~〔14〕のいずれかに記載の研磨液。
〔16〕
更に、アニオン系界面活性剤を含む、〔1〕~〔15〕のいずれかに記載の研磨液。
〔17〕
更に、ノニオン系界面活性剤を含む、〔1〕~〔16〕のいずれかに記載の研磨液。
〔18〕
上記ノニオン系界面活性剤のHLB値が8~15である〔17〕に記載の研磨液。
〔19〕
上記高分子化合物の含有量に対する、上記不動態膜形成剤の含有量の質量比が、0.05以上10未満である、〔1〕~〔18〕のいずれかに記載の研磨液。
〔20〕
固形分濃度が10質量%以上であり、
質量基準で3倍以上に希釈して用いられる、〔1〕~〔19〕のいずれかに記載の研磨液。
〔21〕
〔1〕~〔19〕のいずれかに記載の研磨液を研磨定盤に取り付けられた研磨パッドに供給しながら、上記被研磨体の被研磨面を上記研磨パッドに接触させ、上記被研磨体及び上記研磨パッドを相対的に動かして上記被研磨面を研磨して、研磨済み被研磨体を得る工程を含む、化学的機械的研磨方法。
〔22〕
コバルト含有膜からなる配線を形成するために行われる、〔21〕に記載の化学的機械的研磨方法。
〔23〕
上記被研磨体が、上記コバルト含有膜とは異なる材料からなる第2層を有し、
上記第2層の研磨速度に対する、上記コバルト含有膜の研磨速度の速度比が、0.05超5未満である、〔21〕又は〔22〕に記載の化学的機械的研磨方法。
〔24〕
上記第2層が、Ta、TaN、TiN、SiN、テトラエトキシシラン、SiC、及び、SiOCからなる群から選択される1以上の材料を含む、〔23〕に記載の化学的機械的研磨方法。
〔25〕
研磨圧力が0.5~3.0psiである、〔21〕~〔24〕のいずれかに記載の化学的機械的研磨方法。
〔26〕
上記研磨パッドに供給する上記研磨液の供給速度が、0.14~0.35ml/(min・cm2)である、〔21〕~〔25〕のいずれかに記載の化学的機械的研磨方法。
〔27〕
上記研磨済み被研磨体を得る工程の後、上記研磨済み被研磨体をアルカリ洗浄液で洗浄する工程を有する、〔21〕~〔26〕のいずれかに記載の化学的機械的研磨方法。
〔28〕
上記研磨済み被研磨体を得る工程の後、上記研磨済み被研磨体を有機溶剤系溶液で洗浄する工程を有する、〔21〕~〔27〕のいずれかに記載の化学的機械的研磨方法。
〔29〕
被研磨体の化学的機械的研磨に用いられる研磨液であって、
砥粒と、
ClogP値が1.5~3.8である不動態膜形成剤と、
高分子化合物と、
過酸化水素と、を含み、
pHが、2.0~4.0である、研磨液。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コバルト含有膜を有する被研磨体のCMPに適用した場合に、研磨速度が良好で、被研磨面におけるコロージョン及びスクラッチの発生を抑制できる研磨液を提供できる。
また、上記研磨液を用いた化学的機械的研磨方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の化学的機械的研磨方法を実施される被研磨体を得るための前処理が施される被前処理体の一例を示す断面上部の模式図である。
【
図2】本発明の化学的機械的研磨方法を実施される被研磨体の一例を示す断面上部の模式図である。
【
図3】本発明の化学的機械的研磨方法を実施されて得られる研磨済み被研磨体の一例を示す断面上部の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
【0011】
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、ClogP値とは、1-オクタノールと水への分配係数Pの常用対数logPを計算によって求めた値である。ClogP値の計算に用いる方法及びソフトウェアについては公知の物を使用できるが、特に断らない限り、本発明ではCambridgesoft社のChemBioDrawUltra12.0に組み込まれたClogPプログラムを用いる。
本明細書において、pHは、pHメータによって測定でき、測定温度は25℃である。なお、pHメータには、製品名「LAQUAシリーズ」((株)堀場製作所製)を使用できる。
本明細書においてpsiとは、pound-force per square inch;重量ポンド毎平方インチを意図し、1psi=6894.76Paを意図する。
【0012】
[研磨液]
本発明の研磨液(以下、「本研磨液」ともいう。)は、被研磨体(好ましくはコバルト含有膜を有する被研磨体)の化学的機械的研磨(CMP)に用いられる研磨液であって、砥粒(好ましくはコロイダルシリカ)と、ClogP値が1.5~3.8である不動態膜形成剤と、高分子化合物と、過酸化水素と、を含み、pHが、2.0~4.0である。
このような構成の研磨液で所望の効果が得られるメカニズムは必ずしも明確ではないが、本発明者は次のように推測している。
すなわち、本研磨液は砥粒(好ましくはコロイダルシリカ)及び過酸化水素を含み、pHを所定上限値以下にすることで研磨速度を担保している。また、ClogP値が所定値以上の不動態膜形成剤及び高分子化合物を含み、pHを所定の範囲内とすることで、被研磨面におけるコロージョンの発生を抑制している。更に、ClogP値が所定値以下の不動態膜形成剤を含むことで、本研磨液中に粗大粒子が発生することを抑制し、被研磨面におけるスクラッチの発生を抑制している、と推測している。
また、本研磨液は、被研磨面におけるディッシング(Dishing:CMPで配線を形成した場合に研磨によって被研磨面に露出する配線の表面が皿状に窪む現象)の発生も抑制できる。
以下、研磨液における、研磨速度に優れること、被研磨面でのコロージョンの生じにくさに優れること(単に、コロージョン抑制性に優れるとも言う)、被研磨面でのスクラッチの生じにくさに優れること(単に、スクラッチ抑制性に優れるとも言う)、及び、被研磨面でのディッシングの生じにくさに優れること(単に、ディッシング抑制性に優れるとも言う)の少なくとも1つ以上を満たすことを、本発明の効果が優れるとも言う。
【0013】
以下において、本研磨液に含まれる成分及び含まれ得る成分について説明する。
なお、以降に説明する各成分は、本研磨液中で電離していてもよい。例えば、後述する一般式(1)で表される化合物における、カルボン酸基(-COOH)がカルボン酸アニオン(-COO-)となっている化合物(イオン)が本研磨液中に含まれている場合、本研磨液は一般式(1)で表される化合物を含むとみなす。
なお、以降の説明中における各成分の含有量は、本研磨液中で電離して存在している成分については、電離していない状態になっているものと仮定して換算して求められる含有量を意図する。
【0014】
<コロイダルシリカ(砥粒)>
本研磨液は、コロイダルシリカ(シリカコロイド粒子)を含む。コロイダルシリカは、被研磨体を研磨する砥粒として機能する。
本発明の別の態様では、本研磨液は、砥粒を含む。砥粒としては例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、セリア、チタニア、ゲルマニア、及び炭化珪素等の無機物砥粒;ポリスチレン、ポリアクリル、及びポリ塩化ビニル等の有機物砥粒が挙げられる。中でも、研磨液中での分散安定性が優れる点、及びCMPにより発生するスクラッチ(研磨傷)の発生数の少ない点で、砥粒としてはシリカ粒子が好ましい。
シリカ粒子としては特に制限されず、例えば、沈降シリカ、ヒュームドシリカ、及びコロイダルシリカ等が挙げられる。中でも、コロイダルシリカがより好ましい。
本研磨液はスラリーであるのが好ましい。
【0015】
コロイダルシリカの平均一次粒子径は、被研磨面の欠陥の発生をより抑制できる点から、60nm以下が好ましく、30nm以下がより好ましい。
コロイダルシリカの平均一次粒子径の下限値は、コロイダルシリカの凝集が抑制されて、本研磨液の経時安定性が向上する点から、1nm以上が好ましく、3nm以上がより好ましく、5nm以上が更に好ましい。
平均一次粒子径は、日本電子(株)社製の透過型電子顕微鏡TEM2010(加圧電圧200kV)を用いて撮影された画像から任意に選択した一次粒子1000個の粒子径(円相当径)を測定し、それらを算術平均して求める。なお、円相当径とは、観察時の粒子の投影面積と同じ投影面積をもつ真円を想定したときの当該円の直径である。
ただし、コロイダルシリカとして市販品を用いる場合には、コロイダルシリカの平均一次粒子径としてカタログ値を優先的に採用する。
【0016】
コロイダルシリカの平均アスペクト比は、研磨力が向上するという点から、1.5~2.0が好ましく、1.55~1.95がより好ましく、1.6~1.9が特に好ましい。
コロイダルシリカの平均アスペクト比は、上述の透過型電子顕微鏡にて観察された任意の100個の粒子毎に長径と短径を測定して、粒子毎のアスペクト比(長径/短径)を計算し、100個のアスペクト比を算術平均して求められる。なお、粒子の長径とは、粒子の長軸方向の長さを意味し、粒子の短径とは、粒子の長軸方向に直交する粒子の長さを意味する。
ただし、コロイダルシリカとして市販品を用いる場合には、コロイダルシリカの平均アスペクト比としてカタログ値を優先的に採用する。
【0017】
コロイダルシリカの会合度は、研磨速度がより向上する点で、1~3が好ましい。
本明細書において、会合度とは、会合度=平均二次粒子径/平均一次粒子径で求められる。平均二次粒子径は、凝集した状態である二次粒子の平均粒子径(円相当径)に相当し、上述した平均一次粒子径と同様の方法により求めることができる。
ただし、コロイダルシリカとして市販品を用いる場合には、コロイダルシリカの会合度としてカタログ値を優先的に採用する。
【0018】
コロイダルシリカは、表面に、表面修飾基(スルホン酸基、ホスホン酸基、及び/又は、カルボン酸基等)を有していてもよい。
なお、上記基は、研磨液中で電離していてもよい。
表面修飾基を有するコロイダルシリカを得る方法としては、特に限定されないが、例えば、特開2010-269985号公報に記載の方法が挙げられる。
【0019】
コロイダルシリカは、市販品を用いてもよく、例えば、PL1、PL3、PL7、PL10H、PL1D、PL07D、PL2D、及び、PL3D(いずれも製品名、扶桑化学工業社製)等が挙げられる。
【0020】
コロイダルシリカの含有量の下限値は、本研磨液のディッシング抑制性がより優れる点で、本研磨液の全質量(100質量%)に対して、0.1質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、3.0質量%以上が更に好ましい。上限値は、本研磨液のスクラッチ抑制性がより優れる点で、本研磨液の全質量に対して、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5.5質量%以下が更に好ましい。
本研磨液の性能のバランスが優れる点で、1.0~5.5質量%が好ましい。
コロイダルシリカは1種を単独で用いても、2種以上を使用してもよい。2種以上のコロイダルシリカを使用する場合には、合計含有量が上記範囲内であるのが好ましい。
本研磨液中の砥粒の含有量の好適な範囲は、上述したコロイダルシリカの含有量の好適な範囲と同じである。
【0021】
<不動態膜形成剤>
本研磨液は、不動態膜形成剤を含む。
上記不動態膜形成剤のClogP値が1.5~3.8であり、2.1~3.8がより好ましい。
本研磨液で使用される不動態膜形成剤は、ClogP値が所定の範囲内であり、コバルト含有膜の表面で不動態膜を形成できるのであれば特に制限はない。中でも、不動態膜形成剤は、一般式(1)で表される化合物、及び、一般式(2)で表される化合物からなる群から選択される不動態膜形成剤であるのが好ましい。
【0022】
【0023】
一般式(1)中、R1~R5は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。
上記置換基としては、例えば、アルキル基(直鎖状でも分岐鎖状でもよい。炭素数は1~6が好ましい)、ニトロ基、アミノ基、水酸基、及び、カルボン酸基が挙げられる。
R1~R5中の隣り合う2つ同士は、互いに結合して環を形成してもよい。
R1~R5中の隣り合う2つ同士が互いに結合して形成される環としては、例えば、芳香環(単環でも多環でもよい。好ましくは、ベンゼン環又はピリジン環)が挙げられる。上記環(好ましくは芳香環、より好ましくはベンゼン環又はピリジン環)は更に置換基を有してもよい。
【0024】
一般式(2)中、R6~R10は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。
上記置換基としては、例えば、アルキル基(直鎖状でも分岐鎖状でもよい。炭素数は1~6が好ましい)、ニトロ基、アミノ基、水酸基、及び、カルボン酸基が挙げられる。
R6~R10中の隣り合う2つ同士は、互いに結合して環を形成してもよい。
R6~R10中の隣り合う2つ同士が互いに結合して形成される環としては、例えば、芳香環(単環でも多環でもよい。好ましくは、ベンゼン環又はピリジン環)が挙げられる。上記環(好ましくは芳香環、より好ましくはベンゼン環又はピリジン環)は更に置換基を有してもよい。
【0025】
不動態膜形成剤は、サリチル酸、4-メチルサリチル酸、4-メチル安息香酸、4-tert-ブチル安息香酸、4-プロピル安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸、1-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸、3-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸、キナルジン酸、8-ヒドロキシキノリン、及び、2-メチル-8-ヒドロキシキノリンからなる群から選択される1以上が好ましい。
【0026】
本発明の効果がより優れる点で、不動態膜形成剤の含有量は、本研磨液の全質量に対して、0.001~5.0質量%が好ましく、0.001~1.0質量%がより好ましく、0.005~0.5質量%が更に好ましい。
不動態膜形成剤は1種を単独で用いても、2種以上を使用してもよい。2種以上の不動態膜形成剤を使用する場合には、合計含有量が上記範囲内であるのが好ましい。
【0027】
<高分子化合物>
本研磨液は、高分子化合物を含む。
高分子化合物は、アニオン性高分子化合物(例えば、カルボン酸基を有する高分子化合物)が好ましい。
【0028】
アニオン性高分子化合物としては、カルボン酸基を有するモノマーを基本構成単位とするポリマー及びその塩、並びにそれらを含む共重合体が挙げられる。具体的には、ポリアクリル酸及びその塩、並びにそれらを含む共重合体;ポリメタクリル酸及びその塩、並びにそれらを含む共重合体;ポリアミド酸及びその塩、並びに、それらを含む共重合体;ポリマレイン酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリ(p-スチレンカルボン酸)及びポリグリオキシル酸等のポリカルボン酸及びその塩、並びに、それらを含む共重合体;が挙げられる。
中でも、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸及びポリメタクリル酸を含む共重合体、並びに、これらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
アニオン性高分子化合物における、カルボン酸基を有するモノマーに基づく構成単位の含有量は、全繰り返し単位に対して、30~100モル%が好ましく、75~100モル%がより好ましく、95~100モル%が更に好ましい。
アニオン性高分子化合物は、研磨液中で電離していてもよい。
【0029】
高分子化合物の重量平均分子量は、500~100000が好ましく、1000~50000がより好ましく、2000~30000が更に好ましい。
高分子化合物の重量平均分子量が一定値以上であれば、本研磨液のコロージョン抑制性がより優れ、高分子化合物の重量平均分子量が一定値以下であれば、本研磨液のスクラッチ抑制性がより優れる。
高分子化合物の重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法によるポリスチレン換算値である。GPC法は、HLC-8020GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとしてTSKgel SuperHZM-H、TSKgel SuperHZ4000、TSKgel SuperHZ2000(東ソー(株)製、4.6mmID×15cm)を、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いる方法に基づく。
【0030】
高分子化合物の含有量の下限値は、コロージョン抑制性がより優れる点で、本研磨液の全質量に対して、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましい。
高分子化合物の含有量の上限値は、スクラッチ抑制性がより優れる点で、本研磨液の全質量に対して、10.0質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がより好ましく、3.0質量%以下が更に好ましい。
なお、高分子化合物は1種を単独で用いても、2種以上を使用してもよい。2種以上の高分子化合物を使用する場合には、合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0031】
また、本発明の効果がより優れる点から、本研磨液中、高分子化合物の含有量に対する、不動態膜形成剤の含有量の質量比(不動態膜形成剤の含有量/高分子化合物の含有量)は、0.005~20が好ましく、0.05以上10未満がより好ましい。
【0032】
<過酸化水素>
本研磨液は、過酸化水素(H2O2)を含む。
過酸化水素の含有量は、本研磨液の全質量に対して、0.005~10質量%が好ましく、0.01~1.0質量%がより好ましく、0.05~0.5質量%が更に好ましい。
【0033】
<水>
本研磨液は、水を含むのが好ましい。本研磨液が含有する水としては、特に制限されず、例えば、イオン交換水及び純水が挙げられる。
水の含有量は、本研磨液の全質量に対して、80~99質量%が好ましく、90~99質量%がより好ましい。
【0034】
<カチオン化合物>
本研磨液は、カチオン化合物を含むのも好ましい。
カチオン化合物に含まれるカチオン(オニウムイオン)の中心元素は、リン原子又は窒素原子が好ましい。
カチオン化合物は界面活性剤以外の化合物が好ましい。
【0035】
カチオン化合物に含まれるカチオンのうち、中心元素として窒素原子をもつカチオンとしては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラペンチルアンモニウム、テトラオクチルアンモニウム、エチルトリメチルアンモニウム、及びジエチルジメチルアンモニウム等のアンモニウムが挙げられる。
カチオン化合物に含まれるカチオンのうち、中心元素としてリン原子をもつカチオンとしては、テトラメチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラプロピルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウム、メチルトリフェニルホスホニウム、エチルトリフェニルホスホニウム、ブチルトリフェニルホスホニウム、ベンジルトリフェニルホスホニウム、ジメチルジフェニルホスホニウム、ヒドロキシメチルトリフェニルホスホニウム及びヒドロキシエチルトリフェニルホスホニウム等のホスホニウムが挙げられる。
【0036】
カチオン化合物に含まれるカチオンは、対称構造をもつことが好ましい。ここで、「対称構造をもつ」とは、分子構造が点対称、線対称、及び、回転対称のいずれかに該当するものを意味する。
また、カチオン化合物に含まれるカチオンは、中心元素に結合する水素原子が水素原子以外の原子団に置換してなる第四級カチオンであることが好ましい。第四級カチオンとしては、第四級アンモニウムカチオン及び第四級ホスホニウムカチオンが挙げられる。つまり、本研磨液は、カチオン化合物として、第四級アンモニウムカチオン及び第四級ホスホニウムカチオンからなる群から選択されるカチオンを含む化合物を含むのも好ましい。
カチオン化合物を構成するアニオンとしては、水酸化物イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、及び、フッ素イオンが挙げられ、被研磨面の欠陥の発生がより抑制できる点から、水酸化物イオンがより好ましい。
カチオン化合物は、研磨液中で電離していてもよい。
【0037】
特に、カチオン化合物に含まれるカチオンとしては、中心元素としてリン原子又は窒素原子と、中心元素に結合する2~10個(好ましくは3~8個、より好ましくは4~8個)の炭素原子を含む基と、を有するものが好ましい。これにより、被研磨面の欠陥の発生がより抑制できる。
ここで、中心元素に結合する2~10個の炭素原子を含む基の具体例としては、直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、アルキル基で置換されていてもよいアリール基、ベンジル基、及び、アラルキル基等が挙げられる。
中心元素としてリン原子又は窒素原子と、中心元素に結合する2~10個の炭素原子を含む基と、を有するカチオンの具体例としては、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラペンチルアンモニウム、テトラオクチルアンモニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラプロピルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、及び、テトラフェニルホスホニウム等挙げられる。
【0038】
カチオン化合物は、被研磨面の欠陥の発生がより抑制できる点から、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、テトラオクチルアンモニウムヒドロキシド、2-ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド(コリン)、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド(TBPH)、及び、テトラプロピルホスホニウムヒドロキシド(TPPH)からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
中でも、カチオン化合物は、TBAH、TMAH、コリン、TBPH、又は、TPPHを含むことが好ましい。
【0039】
カチオン化合物の含有量は、本研磨液の全質量に対して、0.01質量%超が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。
カチオン化合物の含有量の上限値としては、本研磨液の全質量に対して、5.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以下がより好ましい。
なお、カチオン化合物は1種を単独で用いても、2種以上を使用してもよい。2種以上のカチオン化合物を使用する場合には、合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0040】
本研磨液がカチオン化合物を含む場合、カチオン化合物の含有量に対する不動態膜形成剤の含有量の質量比(不動態膜形成剤の含有量/カチオン化合物の含有量)は、コロージョン抑制性がより優れる点から、0.001以上が好ましく、0.01以上がより好ましい。また、上記質量比の上限は、5.0以下が好ましく、2.0以下がより好ましい。
【0041】
本研磨液がカチオン化合物を含む場合、カチオン化合物の含有量に対する高分子化合物の含有量の質量比(高分子化合物の含有量/カチオン化合物の含有量)は、コロージョン抑制性がより優れる点から、50以下が好ましく、10未満がより好ましい。また、上記質量比の下限は、0.005以上が好ましく、0.01以上がより好ましい。
【0042】
<ベンゾトリアゾール化合物>
本研磨液は、ベンゾトリアゾール化合物(ベンゾトリアゾール構造を有する化合物)を含むのも好ましい。
ベンゾトリアゾール化合物は、ベンゾトリアゾール構造を有する化合物であれば、特に限定されない。中でも、ベンゾトリアゾール化合物は、下記式(A)で表される化合物が好ましい。
【0043】
【0044】
上記式(A)中、R1はそれぞれ独立に、置換基を表す。
R1で表される置換基は、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数6~14のアリール基、式(B)で表される基、水酸基、メルカプト基、又は、炭素数1~6のアルコキシカルボニル基が好ましい。
nは0~4の整数であって、nが2以上である場合は、n個のR1は同一であっても、異なっていてもよい。
R2は、水素原子又は置換基を表す。
R2で表される置換基は、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~14のアリール基、式(B)で表される基、水酸基、メルカプト基、又は、炭素数1~12のアルコキシカルボニル基が好ましい。
【0045】
【0046】
式(B)中、R3及びR4は、それぞれ独立に、水素原子、又は、置換基(好ましくは炭素数1~10のアルキル基)を表す。
R5は、単結合又は炭素数1~6のアルキレン基を表す。
*は結合部位を表す。
【0047】
ベンゾトリアゾール化合物としては、例えば、ベンゾトリアゾール、5-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、5-アミノベンゾトリアゾール、5,6-ジメチルベンゾアトリアゾール、1-[N,N-ビス(ヒドロキシエチル)アミノエチル]ベンゾトリアゾール、1-(1,2-ジカルボキシエチル)ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]メチルベンゾトリアゾール、2,2’-{[(メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]イミノ}ビスエタノール、及び、カルボキシベンゾトリアゾールが挙げられる。
【0048】
ベンゾトリアゾール化合物は2種以上を使用するのも好ましい。
2種以上を使用する組み合わせとしては、例えば、1-ヒドロキシベンゾトリアゾールと5-メチル-1H-ベンゾトリアゾールとの組み合わせが挙げられる。
2種以上のベンゾトリアゾール化合物を使用する場合、1番目に含有量が多いベンゾトリアゾール化合物の含有量に対する、2番目に含有量が多いベンゾトリアゾール化合物の含有量との質量比(2番目に含有量が多いベンゾトリアゾール化合物の含有量/1番目に含有量が多いベンゾトリアゾール化合物の含有量)は、0.1~1.0が好ましく、0.3~0.7がより好ましい。なお、1番目に含有量が多いベンゾトリアゾール化合物の含有量と、2番目に含有量が多いベンゾトリアゾール化合物の含有量とは実質的に同一であってもよい。
【0049】
本研磨液がベンゾトリアゾール化合物を含む場合、本発明の効果がより優れる点で、ベンゾトリアゾール化合物の含有量は、本研磨液の全質量に対して、0.001~3.0質量%が好ましく、0.01~0.5質量%がより好ましい。
2種以上のベンゾトリアゾール化合物を使用する場合には、合計含有量が上記範囲内であるのが好ましい。
【0050】
本研磨液がベンゾトリアゾール化合物を含む場合、ベンゾトリアゾール化合物の含有量に対する、不動態膜形成剤の含有量の質量比は、0.001~20が好ましく、0.01~4.0がより好ましい。
【0051】
<アニオン系界面活性剤>
本研磨液は、アニオン系界面活性剤を含む。
アニオン系界面活性剤は、上述の高分子化合物とは異なる化合物であるのが好ましい。
アニオン系界面活性剤は、上述の不導体膜形成剤とは異なる化合物であるのが好ましい。
本発明においてアニオン系界面活性剤とは、特に限定されないが、典型的には、親水基と親油基とを分子内に有し、親水基の部分が水溶液中で解離してアニオンとなるか、アニオン性を帯びる化合物を意味する。ここでアニオン系界面活性剤は、水素原子を伴う酸として存在しても、それが解離したアニオンであっても、その塩であってもよい。アニオン性を帯びていれば、非解離性のものでもよく、酸エステルなども含まれる。
【0052】
アニオン系界面活性剤は、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、硫酸エステル基、リン酸エステル基、及び、これらの塩である基からなる群から選択される1以上のアニオン性基を有するアニオン系界面活性剤が好ましい。
言い換えると、アニオン系界面活性剤は、本研磨液中において、カルボン酸アニオン(-COO-)、スルホン酸アニオン(-SO3
-)、リン酸アニオン(-OPO3H-、-OPO3
2-)、ホスホン酸アニオン(-PO3H-、-PO3
2-)、硫酸エステルアニオン(-OSO3
-)、及び、リン酸エステルアニオン(*-O-P(=O)O--O-*、*は水素原子以外の原子との結合位置を表す)からなる群から選択される1以上のアニオンを有するアニオン系界面活性剤が好ましい。
また、アニオン系界面活性剤は、上記アニオン性基を2つ以上有するのも好ましい。この場合2つ以上存在するアニオン性基は同一でも異なっていてもよい。
【0053】
アニオン系界面活性剤としては、例えば、スルホン酸化合物、アルキル硫酸エステル、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸(好ましくは炭素数8~20)、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルプロピオン酸、リン酸アルキル、及び、これらの塩が挙げられる。「塩」としては、例えば、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、トリメチルアンモニウム塩、及び、トリエタノールアミン塩が挙げられる。
【0054】
本研磨液がアニオン系界面活性剤を含む場合、本発明の効果がより優れる点で、アニオン系界面活性剤の含有量は、本研磨液の全質量に対して、0.0005~5.0質量%が好ましく、0.002~0.3質量%がより好ましい。
アニオン系界面活性剤は1種を単独で用いても、2種以上を使用してもよい。2種以上のアニオン系界面活性剤を使用する場合には、合計含有量が上記範囲内であるのが好ましい。
【0055】
<ノニオン系界面活性剤>
本研磨液は、ノニオン系界面活性剤を含むのも好ましい。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリアルキレンオキサイドアルキルフェニルエーテル系界面活性剤、ポリアルキレンオキサイドアルキルエーテル系界面活性剤、ポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドからなるブロックポリマー系界面活性剤、ポリオキシアルキレンジスチレン化フェニルエーテル系界面活性剤、ポリアルキレントリベンジルフェニルエーテル系界面活性剤、及び、アセチレンポリアルキレンオキサイド系界面活性剤等が挙げられる。
【0056】
ノニオン性界面活性剤は、下記一般式(A1)で表される化合物が好ましい。
【0057】
【0058】
一般式(A1)中、Ra1、Ra2、Ra3及びRa4は、それぞれ独立に、アルキル基を表す。
Ra1、Ra2、Ra3及びRa4のアルキル基は、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよく、置換基を有していてもよい。
Ra1、Ra2、Ra3及びRa4のアルキル基は、炭素数1~5のアルキル基が好ましい。炭素数1~5のアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、及び、ブチル基等が挙げられる。
【0059】
一般式(A1)中、La1及びLa2は、それぞれ独立に、単結合又は2価の連結基を表す。
La1及びLa2の2価の連結基は、アルキレン基、-ORa5-基及びこれらの組み合わせが好ましい。Ra5は、アルキレン基(好ましくは炭素数1~8)を表す。
【0060】
一般式(A1)で表される化合物は、例えば、下記一般式(A2)で表される化合物でもよい。
【0061】
【0062】
一般式(A2)中、Ra1、Ra2、Ra3、及び、Ra4は、それぞれ独立に、アルキル基を表す。
Ra1、Ra2、Ra3及びRa4のアルキル基は、一般式(A1)中のRa1、Ra2、Ra3及びRa4のアルキル基と同様である。
【0063】
一般式(A2)中、m及びnは、エチレンオキシドの付加数を表し、それぞれ独立に0.5~80の正数を表し、m+n≧1を満たす。m+n≧1を満たす範囲であれば、任意の値を選択することができる。m及びnは、1≦m+n≦100を満たすことが好ましく、3≦m+n≦80を満たすことがより好ましい。
【0064】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3オール、2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール、5,8-ジメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、4,7-ジメチル-5-デシン-4,7-ジオール8-ヘキサデシン-7,10-ジオール、7-テトラデシン-6,9-ジオール、2,3,6,7-テトラメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,6-ジエチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、及び、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール等が挙げられる。
【0065】
また、ノニオン系界面活性剤は、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、AirProducts&Chemicals社製のSurfinol61、82、465、485、DYNOL604、607、日信化学工業社製のオルフィンSTG、オルフィンE1010等が挙げられる。
【0066】
ノニオン系界面活性剤のHLB(Hydrophile-Lipophile Balance)値は、3~20が好ましく、8~17がより好ましく、8~15が更に好ましく、10~14が特に好ましい。
ここで、HLB値はグリフィン式(20Mw/M;Mw=親水性部位の分子量、M=ノニオン系界面活性剤の分子量)より算出した値で規定される。
【0067】
本研磨液がノニオン系界面活性剤を含む場合、本発明の効果がより優れる点で、ノニオン系界面活性剤の含有量は、本研磨液の全質量に対して、0.0001~1.0質量%が好ましく、0.001~0.05質量%がより好ましい。
ノニオン系界面活性剤は1種を単独で用いても、2種以上を使用してもよい。2種以上のノニオン系界面活性剤を使用する場合には、合計含有量が上記範囲内であるのが好ましい。
【0068】
<有機酸>
本研磨液は、有機酸を含むのも好ましい。
有機酸は、ポリカルボン酸及びポリホスホン酸からなる群から選択される1以上である。
ポリカルボン酸は、カルボン酸基(-COOH)を一分子中に2以上(好ましくは2~4)有する化合物であり、ポリホスホン酸はホスホン酸基(-P(=O)(OH)2)を一分子中に2以上(好ましくは2~4)有する化合物である。
ポリカルボン酸としては、例えば、クエン酸、マレイン酸、リンゴ酸、及び、コハク酸が挙げられる。
ポリホスホン酸としては、例えば、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、及び、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸が挙げられる。
有機酸は、上述の高分子化合物とは異なるのが好ましい。
有機酸は、上述のアニオン系界面活性剤とは異なるのが好ましい。
有機酸は、上述の不動態膜形成剤とは異なるのが好ましい。
【0069】
有機酸は2種以上を使用するのも好ましい。
2種以上を使用する組み合わせとしては、例えば、クエン酸とマロン酸との組み合わせ、リンゴ酸とエチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、及び、マロン酸とエチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸との組み合わせが挙げられる。
2種以上の有機酸を使用する場合、1番目に含有量が多い有機酸の含有量に対する、2番目に含有量が多い有機酸の含有量との質量比(2番目に含有量が多い有機酸の含有量/1番目に含有量が多い有機酸の含有量)は、0.1~1.0が好ましく、0.2~1.0がより好ましい。なお、1番目に含有量が多い有機酸の含有量と、2番目に含有量が多い有機酸の含有量とは実質的に同一であってもよい。
【0070】
有機酸の含有量は、本研磨液の全質量に対して、0.001~8.0質量%が好ましく、0.05~4.0質量%がより好ましい。
2種以上の特定化合物を使用する場合には、合計含有量が上記範囲内であるのが好ましい。
【0071】
<有機溶剤>
本研磨液は、有機溶剤を含むのも好ましい。
有機溶剤は水溶性の有機溶剤が好ましい。
有機溶剤としては、例えば、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤、グリコール系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、及び、アミド系溶剤等が挙げられる。
より具体的には、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、3-メトキシ-3-メチルブタノール、及び、エトキシエタノールが挙げられる。
中でも、3-メトキシ-3-メチルブタノールが好ましい。
【0072】
本発明の効果がより優れる点で、本研磨液が有機溶剤を含む場合、有機溶剤の含有量は、本研磨液の全質量に対して、0.001~10質量%が好ましく、0.05~5質量%がより好ましい。
有機溶剤は1種を単独で用いても、2種以上を使用してもよい。2種以上の有機溶剤を使用する場合には、合計含有量が上記範囲内であるのが好ましい。
【0073】
<pH調整剤>
本研磨液は、上述した成分以外に、pHを所定の範囲に調整するためにpH調整剤を含んでもよい。
pHを酸性側に調整するためのpH調整剤としては、例えば、硫酸が挙げられ、pHを塩基性側に調整するためのpH調整剤としては、例えば、アンモニア(アンモニア水)が挙げられる。
pH調整剤は、所定のpHにするための滴当量を使用すればよい。
pH調整剤は1種を単独で用いても、2種以上を使用してもよい。
本研磨液のpHは、2.0~4.0である。中でも、本発明の効果がより優れる点で、本研磨液のpHは、2.5~3.8が好ましい。
【0074】
<他の成分>
本研磨液は、本発明の上述した効果を損なわない範囲で、上述した成分以外の成分(他の成分)を含んでいてもよい。
他の成分としては、例えば、ベンゾトリアゾール化合物以外の含窒素複素環化合物、上述した界面活性剤以外の界面活性剤、及び、コロイダルシリカ以外の粒子が挙げられる。
【0075】
<ゼータ電位>
研磨液中に存在する状態で測定されるコロイダルシリカのゼータ電位(ζ電位)は+10.0mV以上であるのが好ましく、+20.0mV以上であるのがより好ましく、+20.0~+40.0mVであるのが更に好ましい。
【0076】
本発明において、「ゼータ電位(ζ電位)」とは、液体(本研磨液)中の粒子(コロイダルシリカ)の周囲に存在する拡散電気二重層の「すべり面」における電位を意味する。「すべり面」とは、粒子が液体中で運動する際に、粒子の流体力学的な表面とみなせる面である。
拡散電気二重層は、粒子(コロイダルシリカ)の表面側に形成された固定層と、固定層の外側に形成された拡散層と、を有する。ここで、固定層は、表面が帯電した粒子(コロイダルシリカ)の周囲に、イオンが引き付けられて固定された状態の層である。拡散層は、イオンが熱運動により自由拡散している層である。
すべり面は、固定層と拡散層との境界領域に存在している。粒子が電気泳動した場合、すべり面の電位(ゼータ電位)によって泳動距離が変わる。そのため、電気泳動によって粒子のゼータ電位を測定できる。
本研磨液中のコロイダルシリカのゼータ電位(mV)は、ゼータ電位測定装置DT-1200(製品名、Dispersion Technology社製、日本ルフト販売)を用いて測定できる。なお、測定温度は、25℃である。
【0077】
<本研磨液の製造方法>
本研磨液の製造方法としては特に制限されず、公知の製造方法を使用できる。
例えば、上述した各成分を所定の濃度になるように混合して本研磨液を製造してもよい。
【0078】
また、高濃度に調整した本研磨液(高濃度研磨液)を希釈して、目的とする配合の本研磨液を得てもよい。上記高濃度研磨液は、水等で希釈をすることで、目的とする配合の本研磨液を製造できるように配合が調整された混合物である。
高濃度研磨液を希釈する際の希釈倍率は、質量基準で3倍以上が好ましく、3~20倍がより好ましい。
高濃度研磨液の固形分濃度は、10質量%以上が好ましく、10~50質量%がより好ましい。高濃度研磨液を希釈して、好ましい固形分濃度(好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは1.5質量%以上10質量%未満)の本研磨液を得るのが好ましい。
なお、固形分とは、本研磨液において、水、過酸化水素、及び、有機溶剤以外の全成分を意図する。
【0079】
[化学的機械的研磨方法]
本発明の化学的機械的研磨方法(以下、「本CMP方法」ともいう。)は、上述した研磨液を研磨定盤に取り付けられた研磨パッドに供給しながら、被研磨体の被研磨面を上記研磨パッドに接触させ、上記被研磨体及び上記研磨パッドを相対的に動かして上記被研磨面を研磨して、研磨済み被研磨体を得る工程を含む。
【0080】
<被研磨体>
上記実施態様に係るCMP方法を適用できる被研磨体としては、特に制限されず、配線金属元素として、銅、銅合金及びコバルトからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含有する膜を有する態様が挙げられ、コバルト含有膜を有する態様が好ましい。
コバルト含有膜は、少なくともコバルト(Co)を含めばよく、その他の成分を含んでもよい。コバルト含有膜中のコバルトの状態は特に制限されず、例えば、単体でも合金でもよい。中でも、コバルト含有膜中のコバルトは単体のコバルトであるのが好ましい。コバルト含有膜中のコバルト(好ましくは単体のコバルト)の含有量は、コバルト含有膜の全質量に対して、50~100質量%が好ましく、80~100質量%がより好ましく、99~100質量%が更に好ましい。
【0081】
被研磨体の一例として、表面に、コバルト含有膜を有する基板が挙げられる。
より具体的な被研磨体の例としては、後述する
図2の被研磨体が挙げられ、
図2の被研磨体は、例えば、後述する
図1に示す被前処理体に前処理を施して得られる。
【0082】
図1に、本CMP方法が実施される被研磨体を得るための前処理が施される被前処理体の一例を示す断面上部の模式図を示す。
図1に示す被前処理体10aは、図示しない基板と、基板上に配置された溝(例えば配線用の溝)を有する層間絶縁膜16と、上記溝の形状に沿って配置されたバリア層14と、上記溝を充填するように配置されたコバルト含有膜12とを有する。上記コバルト含有膜は、上記溝を充填して、更に溢れるように上記溝の開口部よりも高い位置にまで配置されている。コバルト含有膜12における、このような溝の開口部よりも高い位置に形成されている部分をバルク層18という。
上記被前処理体10aにおいて、層間絶縁膜16とコバルト含有膜12の間に存在する上記バリア層14は省略されてもよい。
上記被前処理体10aにおいて、コバルト含有膜12とバリア層14との間、バリア層14と層間絶縁膜16との間、及び/又は、バリア層14が省略される場合における層間絶縁膜16とコバルト含有膜12との間に停止層(エッチング停止層)を有していてもよい。また、バリア層が停止層の役割を兼ねてもよい。
被前処理体10aのバルク層18を除去(前処理)して、次に説明する
図2の被研磨体が得られる。
バルク層18の除去は、例えば、本発明の研磨液とは異なる研磨液を用いたCMPにより実施できる。
【0083】
図2は、本CMP方法を実施される被研磨体の一例を示す断面上部の模式図である。
図2の被研磨体10bは、
図1の前処理体10aからバルク層が除去されて、被処理面にバリア層14とコバルト含有膜12とが露出している。
本CMP方法では、上記被処理面の表面に露出したバリア層14とコバルト含有膜12とを同時に研磨し、層間絶縁膜16が被研磨面の表面に露出するまで研磨して、コバルト含有膜からなる配線を有する、
図3の研磨済み被研磨体10cを得るのが好ましい。
つまり、本CMP方法は、コバルト含有膜からなる配線を形成するために行われるのが好ましい。
層間絶縁膜16が被研磨面の表面に露出してからも、層間絶縁膜16、層間絶縁膜16の溝の形状に沿って配置されたバリア層14、上記溝を充填するコバルト含有膜12(配線)、及び/又は、所望に応じて有する停止層に対して、意図的又は不可避的に、研磨を継続してもよい。
なお、
図2の被研磨体10bでは、バルク層が完全に除去されているが、バルク層の一部は完全には除去されていなくてもよく、除去されきっていないバルク層が部分的又は全面的に被研磨体10bの被処理面を覆っていてもよい。本CMP方法では、このような除去されきっていないバルク層の研磨及び除去も行ってよい。
上述の通り、被前処理体10aは停止層を有していてもよい。そのため、被研磨体10bも停止層を有していてもよい。例えば、停止層が、バリア層14及び/又は層間絶縁膜16を部分的又は全面的に被処理面を覆っている状態の被研磨体10bを得てもよい。
また、
図3の研磨済み被研磨体10cでは、層間絶縁膜16上のバリア層14が完全に除去されているが、研磨は、層間絶縁膜16上のバリア層14が完全に除去され切る前に終了してもよい。つまりバリア層14が層間絶縁膜16を部分的又は全面的に覆っている状態で研磨を終えて研磨済み被研磨体を得てもよい。
上述の通り、被研磨体10bは停止層を有していてもよい。そのため、研磨済み被研磨体10cも停止層を有していてもよい。例えば、停止層が、層間絶縁膜16を部分的又は全面的に覆っている状態で研磨を終えて研磨済み被研磨体10cを得てもよい。
【0084】
層間絶縁膜16としては、例えば、窒化珪素(SiN)、酸化珪素、炭化珪素(SiC)、炭窒化珪素、酸化炭化珪素(SiOC)、酸窒化珪素、及び、TEOS(テトラエトキシシラン)からなる群から選択される1以上の材料を含む層間絶縁膜が挙げられる。中でも、窒化珪素(SiN)、TEOS、炭化珪素(SiC)、酸化炭化珪素(SiOC)が好ましい。また、層間絶縁膜16は複数の膜で構成されていてもよい。複数の膜で構成される層間絶縁膜としては、例えば、酸化珪素を含む膜と酸化炭化珪素を含む膜とを組み合わせてなる絶縁膜が挙げられる。
バリア層14としては、例えば、Ta、TaN、TiN、TiW、W、及び、WNからなる群から選択される1以上の材料を含むバリア層が挙げられる。中でも、Ta、TaN、又は、TiNが好ましい。
停止層としては、例えば、バリア層に使用できる材料及び/又は窒化珪素を含む停止層が挙げられる。
【0085】
基板の具体例としては、単層からなる半導体基板、及び、多層からなる半導体基板が挙げられる。
単層からなる半導体基板を構成する材料の具体例としては、シリコン、シリコンゲルマニウム、GaAsのような第III-V族化合物、又は、それらの任意の組み合わせが挙げられる。
多層からなる半導体基板の具体例としては、上述のシリコン等の半導体基板上に、金属線及び誘電材料のような相互接続構造(interconnect features)等の露出した集積回路構造が配置された基板が挙げられる。
本CMP方法の適用対象となる被研磨体の市販品としては、例えば、SEMATEC754TEG(SEMATECH社製)が挙げられる。
【0086】
<研磨速度の比>
上述の
図2に示す被研磨体に対する研磨のように、本CMP方法では、被研磨体が、コバルト含有膜(第1層)とは異なる材料からなる第2層(バリア層、停止層、及び/又は、層間絶縁膜等)を有するのが好ましい。また、コバルト含有膜(第1層)と同時に、上記第2層に対しても研磨をするのが好ましい。
つまり、本CMP方法では、第1層としてのコバルト含有膜と、第2層としてのコバルト含有膜とは異なる材料からなる層(バリア層、停止層、及び/又は、層間絶縁膜等)に対して同時に研磨をするのが好ましい。
図2に示す被研磨体のように、研磨の際、同一平面の被研磨面に、第1層と第2層との両方が同時に露出していてもよい。
この際、得られる研磨済み被研磨体の被研磨面の均一性の点から、第1層に対する研磨速度と第2層に対する研磨速度の差は極端に大きくないことが好ましい。
具体的には、第2層の研磨速度に対する、第1層の研磨速度の速度比(第1層の研磨速度/第2層の研磨速度)は、0.01超20以下が好ましく、0.05超5未満がより好ましい。
第2層は、例えば、バリア層、停止層、及び/又は、層間絶縁膜である。より具体的には、第2層は、例えば、Ta、TaN、TiN、SiN、TEOS(テトラエトキシシラン)、SiC、及び、SiOCからなる群から選択される1以上の材料を含む層が好ましい。本CMP方法は、TiN、Ta、TaN、SiN、TEOS、SiOC、及び/又は、SiCの研磨速度に対する、コバルト含有膜(好ましくはCo)の研磨速度の速度比(「コバルト含有膜(好ましくはCo)の研磨速度」/「TiN、Ta、TaN、SiN、TEOS、SiOC、及び/又は、SiCの研磨速度」)が、0.01超20以下となるのが好ましく、0.05超5未満となるのがより好ましい。
【0087】
<研磨装置>
本CMP方法を実施できる研磨装置は、公知の化学的機械的研磨装置(以下、「CMP装置」ともいう。)を使用できる。
CMP装置としては、例えば、被研磨面を有する被研磨体を保持するホルダーと、研磨パッドを貼り付けた(回転数が変更可能なモータ等を取り付けてある)研磨定盤と、を有する一般的なCMP装置が挙げられる。
【0088】
<研磨圧力>
本CMP方法における研磨圧力は、被研磨面におけるエロージョン(Erosion:CMPで配線を形成した場合に配線以外の部分が部分的に大きく削れてしまう現象)の発生を抑制でき、研磨後の被研磨面が均一になりやすい点で、0.1~5.0psiが好ましく、0.5~3.0psiがより好ましく、1.0~3.0psiが更に好ましい。なお、研磨圧力とは、被研磨面と研磨パッドとの接触面に生ずる圧力を意味する。
【0089】
<研磨定盤の回転数>
本CMP方法における研磨定盤の回転数は、50~200rpmが好ましく、60~150rpmがより好ましい。
なお、被研磨体及び研磨パッドを相対的に動かすために、ホルダーを回転及び/又は揺動させてもよいし、研磨定盤を遊星回転させてもよいし、ベルト状の研磨パッドを長尺方向の一方向に直線状に動かしてもよい。なお、ホルダーは、固定、回転又は揺動のいずれの状態であってもよい。これらの研磨方法は、被研磨体及び研磨パッドを相対的に動かすのであれば、被研磨面及び/又は研磨装置により適宜選択できる。
【0090】
<研磨液の供給方法>
本CMP方法では、被研磨面を研磨する間、研磨定盤上の研磨パッドに本研磨液をポンプ等で連続的に供給するのが好ましい。本研磨液の供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本研磨液で覆われているのが好ましい。
例えば、研磨液供給速度は、被研磨面に残渣(研磨によって生じた研磨屑の残渣、及び/又は、本研磨液に含まれる成分に基づく残渣等。残渣はパーティクル状であってもよいし、非パーティクル状であってもよい)が残りにくく、研磨後の被研磨面が均一になりやすい点で、0.05~0.75ml/(min・cm2)が好ましく、0.14~0.35ml/(min・cm2)がより好ましく、0.21~0.35ml/(min・cm2)が更に好ましい。
なお、上記研磨液供給速度における「ml/(min・cm2)」は、研磨中、被研磨面の1cm2に対して、1分ごとに供給される研磨液の量(ml)を示す。
【0091】
<洗浄工程>
本CMP方法においては、研磨済み被研磨体を得る工程の後、得られた研磨済み被研磨体を洗浄する洗浄工程を有するのも好ましい。
洗浄工程によって、被研磨面の残渣を除去できる。
洗浄工程に使用される洗浄液に制限はなく、例えば、アルカリ性の洗浄液(アルカリ洗浄液)、酸性の洗浄液(酸性洗浄液)、水、及び、有機溶剤系溶液等が挙げられ、アルカリ洗浄液が好ましい。洗浄工程は異なる洗浄液を使用して2回以上実施してもよい。
なお、上記有機溶剤系溶液は有機溶剤を含む溶液であり、有機溶剤以外の成分(例えば水)と混合されていてもよい。有機溶剤系溶液における有機溶剤としては、例えば、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤、グリコール系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、及び、アミド系溶剤等が挙げられ、より具体的にはイソプロピルアルコールが挙げられる。有機溶剤系溶液における有機溶剤の含有量は、50質量%超100質量%以下が好ましく、80~100質量%がより好ましく、99~100質量%が更に好ましい。
【0092】
また、洗浄工程の後に、更に、研磨済み被研磨体に付着する洗浄液を除去するための後洗浄工程を実施してもよい。後洗浄工程本工程の具体的な実施態様としては、例えば、有機溶剤系溶液又は水等の後洗浄液で、洗浄工程後の研磨済み被研磨体を更に洗浄する方法が挙げられる。
有機溶剤系溶液については洗浄液の説明の中で解説した通りである。
洗浄工程及び後洗浄工程を通じて、有機溶剤系溶液を用いた洗浄を少なくとも1回以上行うと、被研磨面上の、有機物に基づく残渣(特に有機物に基づく非パーティクル状の残渣)を除去しやすい。
【実施例】
【0093】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容又は処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更できる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、特に断らない限り「%」は「質量%」を意図する。
【0094】
≪実施例A≫
[研磨液の作製]
<原料>
以下の原料を使用して、下記表1に記載の研磨液を作製した。
【0095】
(コロイダルシリカ)
・PL1(製品名、扶桑化学工業社製、コロイダルシリカ、平均一次粒子径15nm、会合度2.7)
【0096】
(不動態膜形成剤)
・サリチル酸
・4-メチルサリチル酸
・アントラニル酸
・4-メチル安息香酸
・4-tert-ブチル安息香酸
・4-プロピル安息香酸
・4-ペンチル安息香酸
・6-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸
・1-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸
・3-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸
・キナルジン酸
・8-ヒドロキシキノリン
・2-メチル-8-ヒドロキシキノリン
【0097】
(高分子化合物)
・MAA(ポリアクリル酸、重量平均分子量は後掲の表の通り)
【0098】
(過酸化水素)
・過酸化水素
【0099】
(カチオン化合物)
・TPPH(テトラプロピルホスホニウムヒドロキシド)
・TBPH(テトラブチルホスホニウムヒドロキシド)
・TBAH(テトラブチルアンモニウムヒドロキシド)
・TMAH(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド)
・Choline(2-ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド)
【0100】
(ベンゾトリアゾール化合物)
・BTA(ベンゾトリアゾール)
・5-MBTA(5-メチル-1H-ベンゾトリアゾール)
・1-HBTA(1-ヒドロキシベンゾトリアゾール)
【0101】
(有機酸)
・Malonic Acid(マロン酸)
・Malic Acid(リンゴ酸)
・CA(クエン酸)
・HEDP(1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸)
・EDTPO(エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸)
【0102】
(有機溶剤)
・MMB(3-メトキシ-3-メチルブタノール)
【0103】
(アニオン系界面活性剤)
・N-LSAR(N-ラウロイルサルコシナート)
・DBSA(ドデシルベンゼンスルホン酸)
・LPA(ラウリルホスホン酸)
・LAPhEDSA(ラウリルジフェニルエーテルジスルホン酸)
【0104】
(ノニオン系界面活性剤)
・Surfinol 465(日信化学工業社製)
・Surfinol 61(日信化学工業社製)
・Surfinol 485(日信化学工業社製)
【0105】
(pH調整剤)
・H2SO4(硫酸)
・アンモニア水
【0106】
(水)
・水(超純水)
【0107】
<研磨液の調製>
各原料(又はその水溶液)を混合して、下記表1に示す実施例又は比較例の研磨液を調製した。
【0108】
製造した研磨液の成分を下記表に示す。
表中「量」欄は、各成分の、研磨液の全質量に対する含有量を示す。
「%」の記載は、それぞれ「質量%」を示す。
表中における各成分の含有量は、各成分の化合物としての含有量を示す。例えば、研磨液の調製に当たって過酸化水素は、過酸化水素水溶液の状態で添加されたが、表中の「過酸化水素」欄における含有量の記載は、研磨液に添加された過酸化水素水溶液ではなく、研磨液に含まれる過酸化水素(H2O2)そのものの含有量を示す。
コロイダルシリカの含有量は、シリカコロイド粒子そのものが、研磨液中で占める含有量を示す。
pH調整剤の含有量としての「調整」の記載は、H2SO4及びアンモニア水のいずれか一方を、最終的に得られる研磨液のpHが「pH」欄に示す値となる量を添加したことを示す。
水の添加量としての「残部」の記載は、研磨液における表中に示した成分以外の成分は水であることを示す。
「比率1」欄は、研磨液中の、高分子化合物の含有量に対する、不動態膜形成剤の含有量の質量比(不動態膜形成剤の含有量/高分子化合物の含有量)を示す。
「比率2」欄は、研磨液中の、ベンゾトリアゾール化合物の含有量に対する、不動態膜形成剤の含有量の質量比(不動態膜形成剤の含有量/ベンゾトリアゾール化合物の含有量)を示す。
「比率3」欄は、研磨液中の、カチオン系界面活性剤の含有量に対する、不動態膜形成剤の含有量の質量比(不動態膜形成剤の含有量/高分子化合物の含有量)を示す。
「比率4」欄は、研磨液中の、カチオン系界面活性剤の含有量に対する、高分子化合物の含有量の質量比(不動態膜形成剤の含有量/高分子化合物の含有量)を示す。
「HLB」欄は、ノニオン系界面活性剤のHLB値を示す。
「ζ電位」欄は、研磨液中に存在する状態で測定されるコロイダルシリカのゼータ電位を示す。
【0109】
表1-1a、表1-1b、表1-1c、表1-1dでは、それぞれ、同じ研磨液における各成分の含有量及び特徴を分割して記載している。例えば、実施例1の研磨液は、コロイダルシリカであるPL1を2.0質量%、不動態膜形成剤でありClogP値が2.06のサリチル酸を0.2質量%、高分子化合物であり重量平均分子量が25000のポリアクリル酸(PAA)を0.1質量%、過酸化水素を0.1質量%、最終的な研磨液全体としてpHが3.0となる量のpH調整剤を含み、残りの成分は水である。また、実施例1の研磨液の比率1は2.0であり、ζ電位は12.4mVである。
「表1-2a、表1-2b、表1-2c、表1-2d」及び「表1-3a、表1-3b、表1-3c、表1-3d」においても同様である。
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
[試験]
得られた研磨液を使用してそれぞれ以下の評価を行った。
【0123】
<Dishing抑制性の評価>
FREX300SII(研磨装置)を用いて、研磨圧力を2.0psiとし、研磨液供給速度を0.28ml/(min・cm2)とした条件で、ウエハを研磨した。
なお、上記ウエハでは、直径12インチ(30.48cm)のシリコン基板上に、酸化珪素からなる層間絶縁膜が形成され、上記層間絶縁膜にはライン10μm及びスペース10μmからなるラインアンドスペースパターンを有する溝が刻まれている。上記溝には、溝の形状に沿ってバリア層(材料:TiN、膜厚:10nm)が配置されるとともに、Coが充填されている。更に、溝からCoがあふれるような形で、ラインアンドスペース部の上部に150~300nm膜厚のCoからなるバルク層が形成されている。
まず、研磨液としてCSL5250C(商品名、富士フイルムプラナーソルーション社製)を使用し、非配線部のCo(バルク層)が完全に研磨されてから、更に10秒間研磨を行った。その後、層間絶縁膜上をバリア層が覆っている状態のウエハについて各実施例又は比較例の研磨液を用いて同様の条件で1分間研磨し、層間絶縁膜上のバリア層を除去した。
研磨後のウエハにおける、基準面(研磨後のウエハにおける最も高い位置)と、ライン部(各配線が形成されている部分)の中心部分との間の段差(高低差)を測定し、ウエハ全体での段差の平均値を下記区分に照らした。
上記段差がディッシングであり、この段差(段差の平均値)が小さいほどDishing抑制性に優れると評価できる。
AAA : 段差が1nm未満
AA : 段差が1以上3nm未満
A : 段差が3以上5nm未満
B : 段差が5以上8nm未満
C : 段差が8以上10nm未満
D : 段差が10nm以上
【0124】
<Scratch抑制性の評価>
FREX300SII(研磨装置)を用いて、研磨圧力を2.0psiとし、研磨液供給速度を0.28ml/(min・cm2)とした条件で、<Dishing抑制性の評価>で使用したのと同様のウエハを研磨した。まず、研磨液としてCSL5250Cを使用し、非配線部のCo(バルク)が完全に研磨されてから、更に10秒間研磨を行った。その後、層間絶縁膜上をバリア層が覆っている状態のウエハについて表3に示す研磨液を用いて同様の条件で1分間研磨し、層間絶縁膜上のバリア層を除去した。研磨後のウエハを、洗浄ユニットにて、洗浄液(pCMP液)(アルカリ洗浄液:CL9010(富士フイルムエレクトロマテリアル社製))で1分洗浄し、更に、30分IPA(イソプロパノール)洗浄を行ってから乾燥処理させた。
得られたウエハを欠陥検出装置で測定し、長径が0.06μm以上の欠陥が存在する座標を特定してから、特定された座標における欠陥の種類を分類した。ウエハ上に検出されたScratch(傷状の欠陥)の数を、下記区分に照らした。
Scratchの数が少ないほどScratch抑制性に優れると評価できる。
AA : Scratchが3個以下
A : Scratchが4~5個
B : Scratchが6~10個
C : Scratchが11~15個
D : Scratchが16個以上
【0125】
<Corrosion抑制性の評価>
使用するウエハのラインアンドスペースがライン100μm、スペース100μmの構成であること以外は上記<Scratch抑制性の評価>と同様にしてウエハを処理した。
得られたウエハにおける被研磨面の表面に露出したCo配線(100μm幅の配線)上のSurface Roughness(表面粗さRa)を、AFM(原子間力顕微鏡)にてN=3で測定し、その平均のRaを下記区分に照らした。
Raが小さいほどCorrosion(腐食)抑制性に優れると評価できる。
AAA : 測定エリア5μmのRaが1.0nm未満
AA : 測定エリア5μmのRaが1.0以上1.5nm未満
A : 測定エリア5μmのRaが1.5以上2.0nm未満
B : 測定エリア5μmのRaが2.0以上2.5nm未満
C : 測定エリア5μmのRaが2.5以上3.0nm未満
D : 測定エリア5μmのRaが3.0nm以上
【0126】
<RR(研磨速度)の評価>
FREX300SII(研磨装置)を用いて、研磨圧力を2.0psiとし、研磨液供給速度を0.28ml/(min・cm2)とした条件で、表面に、Coからなる膜を有するシリコンウエハを研磨した。
研磨時間を1分として、研磨前後の膜厚を測定、その差分にて研磨速度RR(nm/min)を算出し、Coに対する研磨速度を評価した。
A : RRが10nm/min以上
B : RRが10nm/min未満
【0127】
下記表に、各実施例又は比較例の研磨液を用いて行った試験の評価結果を示す。
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
上記表に示した結果より、本発明の研磨液を用いれば、所望の結果が得られることが確認された。
【0132】
中でも、研磨液中に存在する状態で測定されるコロイダルシリカのゼータ電位が+20.0mV以上である場合、本発明の効果がより優れることが確認された(実施例1~11とその他の実施例の結果の比較等を参照)。
【0133】
本研磨液における不導体膜形成剤のClogP値が2.10~3.80である場合、本発明の効果がより優れることが確認された(実施例1~11の結果の比較等を参照)。
【0134】
本研磨液がカチオン化合物を含む場合、本発明の効果がより優れることが確認された(実施例3、12~18の結果の比較等を参照)。
【0135】
本研磨液がベンゾトリアゾール化合物を含む場合、本発明の効果がより優れることが確認された(実施例16、21、37、45の結果の比較等を参照)。
【0136】
本研磨液が2種以上のベンゾトリアゾール化合物を含む場合、本発明の効果が更に優れることが確認された(実施例21、37、45の結果の比較等を参照)。
【0137】
本研磨液がアニオン系界面活性剤を含む場合、本発明の効果がより優れることが確認された(実施例35~42、51~61の結果の比較等を参照)。
【0138】
本研磨液が有機酸を含む場合、本発明の効果がより優れることが確認された(実施例37、64~69の結果の比較等を参照)。
【0139】
本研磨液が有機酸を含む場合、その含有量は研磨液の全質量に対して0.05~4.0質量%であれば、本発明の効果が更に優れることが確認された(実施例64~69の結果の比較等を参照)。
【0140】
本研磨液中、高分子化合物の含有量に対する、不動態膜形成剤の含有量の質量比(不動態膜形成剤の含有量/高分子化合物の含有量)が、0.05以上10未満であれば、本発明の効果がより優れることが確認された(実施例37、70~77の結果の比較等を参照)。
【0141】
本研磨液が、有機溶剤を、研磨液の全質量に対して0.05~5質量%含む場合、本発明の効果がより優れることが確認された(実施例37、78~80の結果の比較等を参照)。
【0142】
本研磨液のpHが、2.5~3.8である場合、本発明の効果がより優れることが確認された(実施例81~84の結果の比較等を参照)。
【0143】
本研磨液がノニオン系界面活性剤を含む場合、本発明の効果がより優れることが確認された(実施例37、82、85、86の結果の比較等を参照)。
【0144】
本研磨液がノニオン系界面活性剤を含む場合、そのHLB値は8~15であれば、本発明の効果が更に優れることが確認された(実施例82、85、86の結果の比較等を参照)。
【0145】
本研磨液における高分子化合物の分子量が2000~30000であれば、本発明の効果が更に優れることが確認された(実施例37、87~91の結果の比較等を参照)。
【0146】
≪実施例B≫
更に、上述の実施例51、52、53、54、55、56、57、58の研磨液を使用して、研磨圧力(被研磨面と研磨パッドとを接触させる接触圧力)を変更しながら以下の試験を行った。
【0147】
[試験]
<Erosion抑制性の評価-1>
試験に用いるウエハのラインアンドスペースがライン9μm、スペース1μmの構成であることと、研磨圧力を表3に示すようにそれぞれ変更したことと、以外は<Dishing抑制性の評価>と同様にしてウエハの研磨を行った。
研磨後のウエハにおける、基準面(研磨後のウエハにおける最も高い位置)と、スペース部(バリア層又は層間絶縁膜が露出している部分)の中心部分との間の段差(高低差)を測定し、ウエハ全体での段差の平均値を下記区分に照らした。
上記段差がエロージョンであり、この段差(段差の平均値)が小さいほどErosion抑制性に優れると評価できる。
AAA : 段差が5nm未満
AA : 段差が5以上8nm未満
A : 段差が8以上10nm未満
B : 段差が10以上12nm未満
C : 段差が12以上15nm未満
D : 段差が15nm以上
【0148】
<Uniformityの評価-1>
上述の<Erosion抑制性の評価-1>に記載の方法に従って、研磨されたウエハを得た。
研磨後のウエハにつき、研磨面の中心付近に形成されたチップ及び研磨面のエッジ付近に形成されたチップにおけるそれぞれの段差を測定し、中心付近に形成されたチップにおいて測定された段差とエッジ付近に形成されたチップにおいて測定された段差との差を比較して、下記区分に照らした。
なお、ここで言う段差とは、エロージョンの値(基準面と、スペース部の中心部分との間の高低差)と、ディッシングの値(基準面と、ライン部の中心部分との間の高低差)との合計値である。
上記段差の差が小さいほどUniformityに優れると評価できる。
AAA : 段差の差が3nm未満
AA : 段差の差が3以上5nm未満
A : 段差の差が5以上8nm未満
B : 段差の差が8以上10nm未満
C : 段差の差が10nm以上
【0149】
以下に、接触圧力を変えながら行った試験の評価結果を示す。
【0150】
【0151】
上記表に示す通り、研磨圧力は、0.5~3.0psiが好ましく、1.0~3.0psiがより好ましいことが確認された。
【0152】
≪実施例C≫
更に、上述の実施例51、52、53、54、55、56、57、58の研磨液を使用して、研磨液供給速度(研磨中に研磨パットに供給する研磨液の供給量)を変更しながら以下の試験を行った。
【0153】
[試験]
【0154】
<Residue抑制性の評価>
研磨液供給速度を表4に示すようにそれぞれ変更したこと以外は、<Scratch抑制性の評価>と同様にしてウエハを処理した。
得られたウエハを欠陥検出装置で測定し、長径が0.06μm以上の欠陥が存在する座標を特定してから、特定された座標における欠陥の種類を分類した。ウエハ上に検出されたResidue(残渣物に基づく欠陥)の数を、下記区分に照らした。
Residueの数が少ないほどResidue抑制性に優れると評価できる。
AAA : Residue数が200個未満
AA : Residue数が200個以上350個未満
A : Residue数が350個以上500個未満
B : Residue数が500個以上750個未満
C : Residue数が750個以上1000個未満
D : Residue数が1000個以上
【0155】
<Uniformityの評価-2>
研磨液供給速度を表4に示すようにそれぞれ変更したことと、研磨圧力を2.0psiに固定したこと以外は、<Uniformityの評価-1>と同様にしてUniformityの評価を行った。
【0156】
以下に、研磨液供給速度を変えながら行った試験の評価結果を示す。
【0157】
【0158】
上記表に示す通り、研磨液供給速度は、0.14~0.35ml/(min・cm2)が好ましく、0.21~0.35ml/(min・cm2)がより好ましいことが確認された。
【0159】
≪実施例D≫
更に、上述の実施例51、52、53、54、55、56、57、58の研磨液を使用して、洗浄液(pCMP液)の種類を変更しながら以下の試験を行った。
【0160】
<Organic Residue抑制性の評価>
使用する洗浄液の種類を表5に示すとおりにそれぞれ変更したこと以外は、<Scratch抑制性の評価>と同様にしてウエハを処理した。
得られたウエハを欠陥検出装置で測定し、長径が0.06μm以上の欠陥が存在する座標を特定してから、特定された座標における欠陥の種類を分類した。ウエハ上に検出されたOrganic Residue(非パーティクル状である有機物の残渣物に基づく欠陥)の数を、下記区分に照らした。
Organic Residueの数が少ないほどOrganic Residue抑制性に優れると評価できる。
AAA : Organic Residue数が20個未満
AA : Organic Residue数が20個以上35個未満
A : Organic Residue数が35個以上50個未満
B : Organic Residue数が50個以上75個未満
C : Organic Residue数が75個以上100個未満
D : Organic Residue数が100個以上
【0161】
<Particle Residue抑制性の評価>
検出する欠陥の種類をParticle Residue(パーティクル状の残渣物に基づく欠陥)に変更した以外は<Organic Residue抑制性の評価>と同様にし、下記区分に照らしてParticle Residue抑制性の評価を行った。
Particle Residueの数が少ないほどParticle Residue抑制性に優れると評価できる。
AAA : Particle Residue数が5個未満
AA : Particle Residue数が5個以上10個未満
A : Particle Residue数が10個以上20個未満
B : Particle Residue数が20個以上40個未満
C : Particle Residue数が40個以上60個未満
D : Particle Residue数が60個以上
【0162】
以下に、洗浄液の種類を変えながら行った試験の評価結果を示す。
【0163】
【0164】
DIW:水
Acidic:CLEAN100(富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズ社製:酸性洗浄液)
Alkaline:CL9010(富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズ社製:アルカリ洗浄液)
【0165】
上記表に示す通り、洗浄液は、アルカリ洗浄液が好ましいことが確認された。
【0166】
≪実施例E≫
更に、上述の実施例51、52、53、54、55、56、57、58の研磨液を使用して、被研磨体の種類を変更しながら以下の試験を行った。
【0167】
<RR(研磨速度)の評価>
FREX300SII(研磨装置)を用いて、研磨圧力を2.0psiとし、研磨液供給速度を0.28ml/(min・cm2)とした条件で、表面に、Co、TiN、Ta、TaN、SiN、TEOS、SiOC、又は、SiCからなる膜を有するシリコンウエハを研磨した。
研磨時間を1分として、研磨前後の膜厚を測定、その差分にて研磨速度RR(nm/min)を算出し、下記区分で各材料に対する研磨速度を評価した。
【0168】
(膜が、TiN、Ta、TaN、TEOS、又は、SiOCの場合)
A : RRが50nm/min以上
B : RRが50nm/min未満
【0169】
(膜が、SiN、又は、SiCの場合)
A : RRが20nm/min以上
B : RRが20nm/min未満
【0170】
(膜が、Coの場合)
A : RRが10nm/min以上
B : RRが10nm/min未満
【0171】
以下に、評価結果を示す。
なお、TiN、Ta、TaN、SiN、TEOS、SiOC、又は、SiCの研磨速度に対する、Coの研磨速度の速度比(Coの研磨速度/TiN、Ta、TaN、SiN、TEOS、SiOC、又は、SiCの研磨速度)は、いずれにおいても0.05超5未満の範囲内であった。
【0172】
【0173】
上記結果に示す通り、本発明の研磨液は、Coに対する研磨速度と、TiN、Ta、TaN、SiN、TEOS、SiOC、又は、SiCに対する研磨速度との間で極端な速度差が無く、バリア層等の除去に用いられる研磨液として好適であることが確認された。
なお、本発明の研磨液は、研磨液中の過酸化水素の含有量を調整することにより、Coに対する研磨速度を任意に調整(例えば、0~30nm/minの間で調整)できる。
【符号の説明】
【0174】
10a 被前処理体
10b 被研磨体
10c 研磨済み被研磨体
12 コバルト含有膜
14 バリア層
16 層間絶縁膜
18 バルク層