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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】被覆アゾレーキ顔料
(51)【国際特許分類】
   C09B 67/20 20060101AFI20230418BHJP
   C09B 63/00 20060101ALI20230418BHJP
   C09D 11/037 20140101ALN20230418BHJP
【FI】
C09B67/20 K
C09B67/20 E
C09B63/00
C09D11/037
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018233394
(22)【出願日】2018-12-13
(65)【公開番号】P2020094133
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】工藤 新
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 瑞紀
(72)【発明者】
【氏名】森光 太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮川 篤
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-160047(JP,A)
【文献】特開平11-290140(JP,A)
【文献】特開昭63-280783(JP,A)
【文献】特開平10-73963(JP,A)
【文献】特開2017-71743(JP,A)
【文献】特開2001-164140(JP,A)
【文献】特開平11-293139(JP,A)
【文献】特開2010-13643(JP,A)
【文献】特開2003-241431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 1/00- 69/10
C09D 11/00- 13/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)下記式(1):
H1/H2=2.50~3.50
(1)
(式(1)中、
H1はカルボン酸化合物とアゾレーキ顔料の混合エンタルピーであり、
H2はカルボン酸化合物と水の混合エンタルピーである。)
で表され、一次粒子径が63~152nmであるカルボン酸化合物被覆アゾレーキ顔料。
【請求項2】
前記カルボン酸化合物とアゾレーキ顔料の質量比が1:100~30:100である請求項1記載のカルボン酸化合物被覆アゾレーキ顔料。
【請求項3】
前記アゾレーキ顔料が、C.I.ピグメントレッド57:1、または、C.I.ピグメントレッド48:2から選ばれる少なくとも1つのアゾレーキ顔料である請求項1または2 記載のカルボン酸化合物被覆アゾレーキ顔料。
【請求項4】
請求項1~3いずれか一項記載のカルボン酸化合物被覆アゾレーキ顔料を用いた着色剤。
【請求項5】
アゾレーキ顔料の前駆体であるアゾ化合物の水懸濁液にカルボン酸化合物水溶液を混合するか、または、レーキ化後のアゾレーキ顔料の水懸濁液にカルボン酸化合物水溶液を混合し、カルボン酸化合物をアゾレーキ顔料に被覆処理を行う、請求項1~3いずれか一項記載のカルボン酸化合物被覆アゾレーキ顔料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆アゾレーキ顔料に関する。
【背景技術】
【0002】
顔料は、塗料や印刷インキ、リキッドインキなどの着色剤として使用される。これらの中に分散されて顔料本来の性能を発揮させる手段の一つとして、顔料粒子を出来るだけ微細にすることが必要である。一般的に、平版インキやリキッドインキ等に使用される紅色の代表的な顔料としてアゾレーキ顔料が挙げられ、この顔料に対し、インキを作製した際により透明性、着色力が高くなるような微細なものが求められている。
【0003】
一方でアゾレーキ顔料は、表面エネルギーが高く、凝集しやすく、インキに分散することが非常に難しい顔料のひとつであり、分散性を改善しつつ諸特性を向上させるための種々の検討がなされている。
【0004】
例えば、水溶性アクリル重合体を顔料表面に処理することにより、グラビアインキにおける流動性、経時安定性、印刷適性及び印刷物の光沢の優れた顔料、及び該顔料を含むグラビアインキ組成物が開示されているが、本手法では微細、高透明性、高着色力の顔料を得ることはできなかった(引用文献1、引用文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平07-292274号公報
【文献】特開2004-067893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、インキに使用した時に、高い透明性、高い着色力が得られる被覆アゾレーキ顔料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記実情に鑑みて鋭意検討した結果、カルボン酸化合物とアゾレーキ顔料の混合エンタルピーとカルボン酸化合物と水との混合エンタルピーが特定の比率において定義されるカルボン酸化合物によりアゾレーキ顔料表面が被覆されたカルボン酸化合物被覆アゾレーキ顔料が微細な顔料となり、該カルボン酸化合物被覆アゾレーキ顔料をインキの着色剤として使用した時に、高い透明性、高い着色力が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち本発明は、
(1)下記式(1):
H1/H2=2.20~3.50
(1)
(式(1)中、
H1はカルボン酸化合物とアゾレーキ顔料の混合エンタルピーであり、
H2はカルボン酸化合物と水の混合エンタルピーである。)
で表されるカルボン酸化合物被覆アゾレーキ顔料。
【0009】
(2)前記カルボン酸化合物とアゾレーキ顔料の質量比が1:100~30:100であるカルボン酸化合物被覆アゾレーキ顔料。
【0010】
(3)アゾレーキ顔料が、C.I.ピグメントレッド57:1、または、C.I.ピグメントレッド48:2から選ばれる少なくとも1つのアゾレーキ顔料であるカルボン酸化合物被覆アゾレーキ顔料。
【0011】
(4)該カルボン酸化合物被覆アゾレーキ顔料を用いた着色剤。
【0012】
(5)アゾレーキ顔料の前駆体であるアゾ化合物の水懸濁液にカルボン酸化合物水溶液を混合するか、または、レーキ化後のアゾレーキ顔料の水懸濁液にカルボン酸化合物水溶液を混合し、アゾレーキ顔料の被覆処理を行う、カルボン酸化合物被覆アゾレーキ顔料の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のカルボン酸化合物被覆アゾレーキ顔料は、着色剤として用いた時に、高い透明性、高い着色力が得られるという格別顕著な技術的効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のカルボン酸化合物被覆アゾレーキ顔料は、カルボン酸化合物で被覆されているアゾレーキ顔料であり、アゾレーキ顔料表面の一部又は全部がカルボン酸化合物によって覆われている状態を意味する。
【0015】
<アゾレーキ顔料>
アゾレーキ顔料の代表ともいえるC.I.ピグメントレッド57:1は、通称、カーミン6Bやリソールルビンと呼ばれ、また、3-ヒドロキシ-4-[(4-メチル-2-スルフォフェニル)アゾ]-,カルシウム塩(1:1)(CAS名)とも称される紅顔料であり、主な用途は、印刷インキおよびリキッドインキである。
【0016】
C.I.ピグメントレッド57:1の一般的な製造方法としては、4-アミノトルエン-3-スルホン酸のジアゾニウム塩(以下ジアゾ成分と称す)を含む懸濁液と、2-ヒドロキシ-3-ナフトエ酸のカップラー成分を含む水溶液とのカップリング反応とレーキ化反応とを水中において行うことで得られる。こうして得られた顔料の水懸濁液をろ過、水洗して含水率60~80%の湿潤状態の顔料水ペースト等を得る。顔料は、この湿潤状態(ウエット)で被着色媒体の着色に供されるか、または更に乾燥して、乾燥状態(ドライ)の顔料として被着色媒体の着色に供される。
【0017】
ただし、C.I.ピグメントレッド57:1は、そのままでは分散性が低いため、ロジン、重合性ポリマー、界面活性剤、顔料誘導体、酸塩基誘導体等を処理することで、分散性を改良し、色濃度を改良してきた経緯がある。さらに、構造由来から堅牢性がそれほど高い顔料ではない。一方で、コストパフォーマンスの優れた顔料である。
【0018】
また、アゾレーキ顔料のひとつであるC.I.ピグメントレッド48:2は、下記一般式においてレーキ化金属原子がカルシウム(Ca)のモノアゾレーキ顔料である。そしてC.I.ピグメントレッド48:2は、C.I.ピグメントレッド57:1と同様に、印刷インキおよびリキッドインキの着色剤として主に使用される。
【0019】
【化1】
【0020】
本発明に用いられる被覆処理前のアゾレーキ顔料としては、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド48:2が好適に使用されるが、これに限定されるものではなく、顔料中にアゾ基を有している、例えば、C.I.ピグメントレッド48:1、同48:3、同48:4、同49:1、同49:2、同49:3、同52:l、同52:2、同53:1、同53:2、同57、同57:2、同57:3、同58:1、同58:2、同58:3、同60:1、同63:1、同63:2、同68、同151、同247等が挙げられる。本発明に用いられる被覆処理前のアゾレーキ顔料は、上記顔料を単独で用いてもよいし、複数の顔料を併用してもよい。
【0021】
また、本発明のカルボン酸化合物被覆アゾレーキ顔料は、公知慣用のコベース(成分)やコカップラー(成分)を併用して、被覆処理前のアゾレーキ顔料以外の、別の化学構造を有するアゾレーキ顔料を本発明の組成物に少量含ませる様にしても良い。
この様な化学構造を有するアゾレーキ顔料としては、例えば、次のものが挙げられる。
(1)2-アミノ-5-メチルベンゼンスルホン酸以外の置換基を有していても良い芳香族アミノスルホン酸からなるコベースと2-ヒドロキシ3-ナフトエ酸からなるカップラーとから得られるアゾレーキ顔料。
(2)2-アミノ-5-メチルベンゼンスルホン酸からなるベースと2-ヒドロキシ3-ナフトエ酸以外の化合物からなるコカップラーとから得られるアゾレーキ顔料。
(3)2-アミノ-5-メチルベンゼンスルホン酸以外の置換基を有していても良い芳香族アミノスルホン酸からなるコベースと2-ヒドロキシ3-ナフトエ酸以外の化合物からなるコカップラーとから得られるアゾレーキ顔料からなる群から選ばれるアゾレーキ顔料。
これらは、色相や結晶粒子径を制御、分散性を改良するのに使用することが出来る。
この様な被覆処理前のアゾレーキ顔料以外の別の化学構造を有するアゾレーキ顔料の組成物中の含有量は、少量であれば特に制限されるものではないが、通常、前記被覆処理前のアゾレーキ顔料100重量部当たり、1.0~20.0重量部の範囲とするのが好ましい。
【0022】
<混合エンタルピー>
本発明のカルボン酸化合物被覆アゾレーキ顔料において、定義している混合エンタルピーについて詳細に説明する。
【0023】
まず、混合エンタルピーとは、2種の成分が各々独立にある場合と混合された状態にある場合のそれぞれのエンタルピー量の差によって定義され、2種の成分の親和性を表す熱力学的指標である。ここで成分Aと成分Bの混合を、分子Aと分子Bを決まった格子点にランダムに配置した状態と考える。混合のエンタルピー変化Hが隣接分子間の結合エネルギーeのみによって決まると仮定すると、混合エンタルピーはH=Z{eAB-(eAA+eBB)/2}と表される(Flory, P. J., “Principles of Polymer Chemistry”, Cornell University Press, 1953.)。ただし、Zは格子点に隣接する格子点の数、eAA、eBB、eABはそれぞれA-A間、B-B間、A-B間の結合エネルギーである。Hの値が小さいほど、A-B間の結合エネルギーはA-A間、B-B間の結合エネルギーより小さく、エネルギー的に安定である。したがって、混合エンタルピーの値が小さいほど、成分Aと成分Bの親和性は高いといえる。
【0024】
<混合エンタルピー比の算出方法>
混合エンタルピーは、市販のソフトウェアパッケージであるMaterials Studio v.18.1.0のBlendsモジュールを使用して計算したパラメータとして定義される。混合エンタルピー比は、カルボン酸化合物とアゾレーキ顔料の混合エンタルピーH1を、カルボン酸化合物と水の混合エンタルピーH2で除して(H1/H2)算出する。アゾレーキ顔料、水分子、および水中における状態を考慮したカルボン酸化合物の分子モデルは、既知構造に基づいて分子力学(MM)法により構造最適化を行う。モデル分子の構造最適化には、上記のMaterials StudioからForciteモジュールを使用する。構造最適化および混合エンタルピー計算の力場としては、例えばCOMPASS,COMPASSII,Dreiding等が指定できる。モデル分子の各原子の電荷量は、上記のMaterials StudioのDMol3モジュールを使用し、密度汎関数理論に基づき計算してヒルシュフェルト電荷を割り付ける(汎関数はGGA/PW91、基底関数はDNPを指定する)。
【0025】
<カルボン酸化合物>
本発明でアゾレーキ顔料に被覆するカルボン酸化合物は、アゾレーキ顔料の結晶成長を抑制する作用効果をもたらすために用いられる。
【0026】
本発明者らは、水中でのカルボン酸化合物のアゾレーキ顔料に対する吸着のしやすさについて上記理論に基づいて鋭意検討を重ねた結果、カルボン酸化合物とアゾレーキ顔料の混合エンタルピーH1と、カルボン酸化合物と水の混合エンタルピーH2が、H1/H2=2.20~3.50の関係を満たしているときに、高い透明性、高い着色力が得られるカルボン酸化合物被覆アゾレーキ顔料が得られることを見出した。
【0027】
すなわち、カルボン酸化合物がアゾレーキ顔料を被覆するためには、該化合物がアゾレーキ顔料に対して安定に吸着する必要があり、したがってH1が十分小さく、親和性が高い化合物が好ましい。このようなカルボン酸化合物としては、構造内に1つ以上のカルボキシル基を持つ化合物を挙げることができる。このような化合物をH1の値で定義するならば、カルボン酸化合物1分子あたりのカルボキシル基数をnとしたとき、H1/nが-100~-200kcal/molが好ましく、-100~-150kcal/molがさらに好ましい。中でも、nが1であるカルボキシル基を1つのみ持つカルボン酸化合物が特に好ましい。
【0028】
また、H2は値が大きいほど水との親和性が低くなるため、カルボン酸化合物が水中に存在するよりも顔料表面近傍に存在するほうが安定となり、顔料に吸着する。一方で、H2が大きすぎると水に溶解しなくなるため、顔料を有効に被覆することができない。
【0029】
以上を加味すると、混合エンタルピーの比H1/H2が2.20~3.50の範囲にすることで、アゾレーキ顔料の結晶成長を抑制する作用効果が発現すると発明者らは推測している。中でも、H1/H2は2.50~3.50であることが好ましい。顔料合成時に、H1/H2が上記の好ましい範囲にあるカルボン酸化合物を添加することで、これらのカルボン酸化合物が顔料の表面に吸着して微細なアゾレーキ顔料が得られる。上記範囲から外れるカルボン酸化合物を使用した場合は、カルボン酸化合物が顔料の表面に吸着せず、微細なアゾレーキ顔料は得ることができない。
【0030】
また、カルボン酸化合物は、アゾレーキ顔料との親和性の観点から、脂肪族化合物よりも芳香族化合物のほうが好ましく、芳香族化合物の中でも単環式芳香族化合物よりも多環式芳香族化合物のほうが分子の平面性が高く顔料平面との親和性が高くなり、より好ましい。
【0031】
本発明で用いるアゾレーキ顔料に被覆するカルボン酸化合物としては、カルボキシル基を1つ以上有する、カルボン酸化合物が挙げられ、例えば、コール酸、デオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、グリチルレチン酸等が例示されるが、これらに限定されるものではない。また、これらの塩も使用することができる。さらに、2種類以上のカルボン酸化合物を混合して使用することができるが、インキの色相を安定させ、かつ高透明、高着色力の顔料を得るためには、カルボン酸化合物を単独で用いるか、カルボン酸化合物を含む混合物を用いる場合は、該カルボン酸化合物の純度が85%以上であることが好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上が最も好ましい。これらの各種カルボン酸化合物は、いずれもアゾレーキ顔料又はその理論収量に対して質量換算でその1.0~30%相当量使用することができる。
【0032】
<その他添加剤>
本発明のカルボン酸化合物被覆アゾレーキ顔料は、カルボン酸化合物に加え、例えばアニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等の界面活性剤や、表面処理剤、高分子分散剤等の公知慣用の添加剤を併用しても良い。
【0033】
<一次粒子径>
本発明のカルボン酸化合物被覆アゾレーキ顔料の一次粒子径は、顔料を溶媒に超音波分散させた後、透過型電子顕微鏡により測定することができる。具体的には、顔料粒子の電子顕微鏡写真を撮影し、二次元画像上の、凝集体を構成する顔料一次粒子の50個につき、各々その長い方の長さを測定し、それを平均すればよい。一次粒子径が小さいほど結晶成長抑制効果が高い(被覆処理能力が高い)と判断することができる。
【0034】
<透明性、着色力>
本発明のカルボン酸化合物被覆アゾレーキ顔料を用いたインキの物性である透明性、着色力は、一般的な顔料のインキ作製方法に則って作製したインキから判断することができる。
【0035】
オフセットインキは、顔料粉末と沈降性バリウムの混合物中の着色成分が16%となるよう調整した混合物42部とインキワニス(DIC株式会社製「MG-63ワニス」)58部を3本ロールを用いて練肉し作製することができる。得られたインキ1.0部とインキワニス(DIC株式会社製「MG-63ワニス」)1.0部を、オートマチックフーバーマーラーで150ポンドの荷重をかけ、100回転で3回練肉して最終インキを調製する。最終インキを展色紙にヘラで引き、比較顔料を用いた展色紙を標準とした相対評価により、評価することができる。透明性は目視判定5段階〔1(透明性小)<<<5(透明性大)〕で判定する。
白インキは、上記で得られた最終インキ0.2部と白インキ(DIC株式会社製「NFC(ニューチャンピオン) Fグロス 79白」 2.0部をオートマチックフーバーマーラーで150ポンドの荷重をかけ、100回転で3回練肉することで淡色インキとして作製することができる。淡色インキを展色紙にヘラで引き、比較顔料を用いた展色紙を標準とした相対評価により、着色力を評価することができる。着色力は目視判定5段階〔1(着色力小)<<<5(着色力大)〕で判定する。
【0036】
<比表面積の測定方法>
トルエンを用いた比表面積は、顔料粉末0.1gを測定セルに入れ、100℃で2時間真空乾燥し前処理を行い、次にセルをガス/蒸気吸着量測定装置に取り付け、25℃で定容法にてトルエン蒸気の吸着量を測定することで行う。横軸に相対圧、縦軸に吸着量をプロットした吸着等温線を得、得た吸着等温線の相対圧0.05~0.35の範囲でBETの式x/(V・(1-x))=1/(Vm・C)+((C-1)/(Vm・C))・xを適用し、顔料粉体表面にトルエン分子が一層吸着した量である単分子層吸着量を算出する。ここで、xは相対圧、Vは相対圧xのときの吸着量、Vmは単分子層吸着量、Cは吸着熱に関する定数である。比表面積は、単分子層吸着量にトルエン分子の分子占有断面積をかけることで求められる。具体的には、式S=((s・Vm)/Vo)・NAを用いる。ここで、Sは比表面積、sはトルエン分子の分子占有断面積、Voは1モル当たりの理想気体の体積、NAはアボガドロ定数である。なお、トルエン分子の占有断面積は0.552nmとして計算を行う。比表面積において70~150m/gであることがより好ましい。
【0037】
本発明のカルボン酸化合物被覆アゾレーキ顔料は、グラビアインキだけでなく、着色剤として平版インキ、プラスチック、インクジェット、トナー、カラーフィルタ、化粧品等の用途として使用することができるが、好適に、平版インキ、グラビアインキでの使用が好ましい。
平版インキの使用において、平版インキは着色剤と、非極性溶剤と、沸点が非極性有機溶剤の沸点よりも高いアルコールと、インキ用ビヒクルとを含んでなる。
インキ用ビヒクルとしては、公知慣用のものがいずれも使用できるが、例えば変成アルキッド樹脂、変性フェノール樹脂、石油樹脂等が挙げられる。また飽和アルキッド樹脂と乾性油との混合物や、ロジンとフェノール樹脂との混合物を用いることもできる。インキの調製に当たっては、例えばn-パラフィン、イソパラフィン、アロマティック、ナフテン、α-オレフィン等の溶剤が通常併用される。必要に応じてアマニ油、桐油、大豆油等の植物油をさらに併用することが出来る。
これらは、通常、着色剤5~50重量%、インキ用ビヒクル20~50重量%、上記パラフィン等の溶剤10~60重量%、植物油0~30重量%となる様に調製される。
例えば平版インキは、3本ロールにて着色剤、インキ用ビヒクル、溶剤、植物油とを混合することで調製することができる。
尚、インキ調製の任意の工程において、例えば硬化促進剤や、レベリング剤等の公知慣用の添加剤を併用することが出来る。
本発明においては、非極性有機溶剤とアルコールとの両方が含まれている場合、非極性有機溶剤のみが含有されている場合や、アルコールのみが含有されている場合であってもよい。
【0038】
グラビアインキの使用において、グラビアインキは樹脂、溶剤、着色剤、および、助剤からなり、一般的な配合比率は次のようになっている。樹脂 15~25質量%、溶剤 40~70質量%、着色剤 5~50質量%、助剤 1~5質量%であり、樹脂を溶剤に溶かしたものをビヒクルという。
【0039】
<グラビアインキに使用される樹脂>
樹脂は溶剤に溶かされ、版から被印刷物に着色剤を運び、被膜として固着させる働きをする。被印刷物の種類や耐性によっていろいろな樹脂が選択される。グラビアインキによく使用される樹脂としては、塩酢ビ樹脂、塩化ゴム、塩素化ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、硝化綿樹脂(ニトロセルロース)等を挙げることができる。ポリアミド樹脂と硝化綿樹脂など、用途によって混合樹脂も利用される。ウレタン系樹脂はスナック用からレトルト用まで、ラミネート用汎用インキとして最も多く使用されている。本発明では、包装用グラビアインキで一般的に使用されているウレタン樹脂を一例として使用している。
【0040】
<グラビアインキに使用される溶剤>
溶剤は樹脂を溶かして印刷できるようにするためのもので、インキの乾燥性を支配する。印刷インキに使用されている主な溶剤はトルエン、MEK、酢酸エチル、IPAである。一般には毒性が少なく、速く乾燥させるために沸点の低い溶剤を使用しているが、乾燥が速すぎて印刷物がかすれたり、うまく印刷できないなどの支障がある場合に、沸点の高い溶剤を混合することによって細かい文字もきれいに印刷できるようになる。しかし、残留溶剤やブロッキングの危険性も大きくなる。それぞれの樹脂に対して、もっともよく溶かす溶剤を真溶剤、性能アップや希釈のための溶剤を助溶剤、希釈剤という。ポリウレタン系の場合の真溶剤はMEK、助溶剤は酢酸エチル、希釈剤はトルエンとIPAである。各インキの種類によって各種溶剤を配合した専用溶剤があり、乾燥速度の違ったものが用意されている。主な溶剤としては、炭化水素系であるトルエン、キシレン;エステル系である酢酸エチル、酢酸ブチル;アルコール系であるイソプロピルアルコール、ブタノール;ケトン系であるメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が使用される。
【0041】
<グラビアインキに使用される助剤 >
助剤は物理的、化学的な安定性や、印刷適性を向上させるための添加剤である。可塑剤、紫外線防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤などがある。
【0042】
本発明のカルボン酸化合物被覆アゾレーキ顔料を配合したグラビアインキには、必要に応じて、例えば硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、石膏、アルミナ白、クレー、シリカ、シリカ白、タルク、ケイ酸カルシウム、沈降性炭酸マグネシウム等の体質顔料を適宜配合しても良い。
【0043】
<グラビアインキ製造方法>
ビヒクルの製造は樹脂を溶剤に溶かすだけで簡単であるが、ミクロンオーダーの均一な粒子になっている着色剤をビヒクルに分散させる工程(練肉・分散)では技術と工夫が必要である。練肉・分散が不十分なインキは印刷適性と保存性が劣る。練肉には専用の特殊なミルが用いられる。こうしてできたベースに助剤を添加し、最後の仕上げ工程として色や粘度の調整を行う。
【実施例
【0044】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、もとより本発明はこれら実施例の範囲に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「部」及び「%」はいずれも質量基準である。
【0045】
<製造例1>
2-アミノ-5-メチルベンゼンスルホン酸38.5部を水500部に分散後、35%塩酸25.0部を加え、0℃に保ちながら40%亜硝酸ソーダ水溶液36.8部を滴下し、ジアゾニウム塩溶液を得た。次に、2-ヒドロキシ-3-ナフトエ酸40.1部を50℃の温水200部に分散後、25%苛性ソーダ水溶液74部を加えてカップラー溶液を得た。カップラー溶液を10℃まで冷却後、攪拌しながら上記ジアゾニウム塩溶液を滴下した。10℃で60分間攪拌してカップリング反応を終了させ、染料懸濁液を得た。続いて、この懸濁液に、5%塩酸を滴下し、pHを8.5に調整した後、得られた染料懸濁液に、10%のグリチルレチン酸(混合エンタルピー比2.67)のNa塩溶液225部を加え30分攪拌した。次いで、72%塩化カルシウム42部を水42部に溶解した液を加え、30分攪拌してレーキ化を終了させた。レーキ化反応終了後、25℃で30分間加熱しつつ攪拌し、カルシウムアゾレーキ顔料(C.I.ピグメントレッド57:1)の水中懸濁液を得た。この懸濁液を80℃まで加熱後、60分間攪拌した後、ろ過、水洗した残渣を110℃で一昼夜乾燥させた後、粉砕して、赤色のアゾレーキ顔料粉末Aを111.6部得た。
【0046】
<製造例2>
実施例1中の10%のグリチルレチン酸(混合エンタルピー比2.67)のNa塩溶液225部を10%のウルソデオキシコール酸(混合エンタルピー比3.40)のNa塩溶液212部に変更した以外は同様に操作を行い、赤色のアゾレーキ顔料粉末Bを88.8部得た。
【0047】
<製造例3>
実施例1中の10%のグリチルレチン酸(混合エンタルピー比2.67)のNa塩溶液225部を10%のデオキシコール酸(混合エンタルピー比2.64)のNa塩溶液223部に変更した以外は同様に操作を行い、赤色のアゾレーキ顔料粉末Cを102.6部得た。
【0048】
<製造例4>
2-アミノ-4-クロロ-5-メチルベンゼンスルホン酸 38.5部を、水500部に分散後、35%塩酸20部を加え、5℃以下に保ちなから30分攪拌する。40%亜硝酸ソーダ30部を滴下し、ジアゾニウム塩溶液を得た。次に、2-ヒドロキシ-3-ナフトエ酸33.3部を50℃の温水500部に分散後、25%苛性ソーダ水溶液59.3部を加えてカップラー溶液を得た。カップラー溶液を10℃まで冷却後、攪拌しながら上記ジアゾニウム塩溶液を滴下した。10℃で60分間攪拌してカップリング反応を終了させ、染料懸濁液を得た。続いて、この懸濁液に、5%塩酸を滴下し、pHを8.5に調整した後、得られた染料懸濁液に、10%のウルソデオキシコール酸(混合エンタルピー比3.50)のNa塩溶液186部を加え30分攪拌した。次いで、72%塩化カルシウム32.6部を水38.5部に溶解した液を加え、60分攪拌してレーキ化を終了させ、カルシウムレーキアゾ顔料(C.I.ピグメントレッド48:2)の水中懸濁液を得た。この懸濁液を80℃まで加熱後、60分間攪拌した後、ろ過、水洗した残渣を110℃で一昼夜乾燥させた後、赤色のアゾレーキ顔料粉末Dを86.1部得た。
【0049】
<製造例5>
製造例1において、グリチルレチン酸を使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、赤色のアゾレーキ顔料粉末Eを90.4部得た。
<製造例6>
製造例1中の10%のグリチルレチン酸(混合エンタルピー比2.67)のNa塩溶液225部を10%のサリチル酸(混合エンタルピー比1.66)のNa塩溶液193部に変更した以外は同様に操作を行い、赤色のアゾレーキ顔料粉末Fを82.5部得た。
【0050】
<製造例7>
製造例1中の10%のグリチルレチン酸(混合エンタルピー比2.67)のNa塩溶液225部を10%のフタルイミド酢酸(混合エンタルピー比2.19)のNa塩溶液428部に変更した以外は同様に操作を行い、赤色のアゾレーキ顔料粉末Gを71.6部得た。
【0051】
<製造例8>
製造例5で得られたE80部とグリチルレチン酸20部を乾式混合し、C.I.ピグメントレッド57:1顔料を含む赤色のアゾレーキ顔料粉末Hを100部得た。
【0052】
<インキ試験>
製造例1-8で得たアゾレーキ顔料について、製造例1-4で得たアゾレーキ顔料を用いたインキを実施例1-4とし、製造例5-8で得たアゾレーキ顔料を用いたインキを比較例1-4とした。インキの作成方法、評価方法は、下記に説明する。
<オフセットインキの調製>
顔料粉末と沈降性バリウムの混合物中の着色成分が16%となるよう調整した混合物42部とインキワニス(DIC株式会社製「MG-63ワニス」)58部を3本ロールを用いて練肉しインキを作製した。得られたインキ1.0部とインキワニス(DIC株式会社製「MG-63ワニス」)1.0部を、オートマチックフーバーマーラーで150ポンドの荷重をかけ、100回転で3回練肉して最終インキを調製した。最終インキを展色紙にヘラで引き、比較例1で得た顔料を用いた展色紙を標準とした相対評価により、透明性を評価した結果を表1にまとめて示した。なお、透明性は目視判定5段階〔1(透明性小)<<<5(透明性大)〕で判定した。
【0053】
<白インキの調製>
上記で得られた最終インキ0.2部と白インキ(DIC株式会社製「NFC(ニューチャンピオン) Fグロス 79白」 2.0部をオートマチックフーバーマーラーで150ポンドの荷重をかけ、100回転で3回練肉して淡色インキを調製した。淡色インキを展色紙にヘラで引き、比較例1で得た顔料を用いた展色紙を標準とした相対評価により、着色力を評価した結果を表1にまとめて示した。なお、着色力は目視判定5段階〔1(着色力小)<<<5(着色力大)〕で判定した。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
表1に示した結果から、アゾレーキ顔料を、混合エンタルピーの比(H1/H2)が2.20以上3.50以下となる特定のカルボン酸化合物により被覆することで、得られる顔料が比較例と比較し微細になり、透明性、着色力が高くなった。また、グリチルレチン酸をアゾレーキ顔料に単に混合して混ぜただけの比較例4では、分散不良のため、透明性および着色力とも劣る結果となった。