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特許7263763レジオネラ属菌検出に用いるオリゴヌクレオチド及びその検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】レジオネラ属菌検出に用いるオリゴヌクレオチド及びその検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/689 20180101AFI20230418BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20230418BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20230418BHJP
【FI】
C12Q1/689 Z ZNA
C12Q1/6844 Z
C12N15/09 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018238513
(22)【出願日】2018-12-20
(65)【公開番号】P2020099214
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】東田 悟
(72)【発明者】
【氏名】俵田 隆哉
(72)【発明者】
【氏名】宇根 蔵人
【審査官】進士 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-107998(JP,A)
【文献】特開2000-217600(JP,A)
【文献】Diagnostic Microbiology and Infectious Disease 62 (2008) 125-132
【文献】"Legionella pneumophila subsp. pneumophila strain Philadelphia 1 23S ribosomal RNA gene, complete sequence", NCBI Reference Sequence: NR_076222.1,[online], National Center for Biotechnology Information, 2015年2月3日掲載, 2022年9月27日検索, インターネット, <URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/NR_076222.1 >
【文献】FEMS Microbiology Letters, 1996, Vol.140, pp.111-119
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/689
C12N 15/09
CAplus/REGISTRY(STN)
NCBI Nucleotide
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レジオネラ属菌の23S rRNAもしくは23S rDNAの特定塩基配列またはその相補配列の一部と相同的な配列を有する蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブと、前記特定塩基配列またはその相補配列の一部と相同的な配列を有する第一のプライマーと、前記特定塩基配列またはその相補配列の一部と相同的な配列を有する第二のプライマーとからなる、前記特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸を一定温度条件下で増幅するためのプライマー・プローブセットであって、
以下の(1)~(4)の何れかである、
前記プライマー・プローブセット:
(1)蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブが、配列番号5または7に記載の塩基配列またはその相補配列であり、第一のプライマーが配列番号25に記載の塩基配列またはその相補配列であり、第二のプライマーが配列番号33,39、41,43、45、47、49または51に記載の塩基配列であるプライマーセット、
(2)蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブが、配列番号5または7に記載の塩基配列またはその相補配列であり、第一のプライマーが配列番号27に記載の塩基配列またはその相補配列であり、第二のプライマーが配列番号39、41,43、49または51に記載の塩基配列またはその相補配列であるプライマーセット、
(3)蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブが、配列番号5または7に記載の塩基配列またはその相補配列であり、第一のプライマーが配列番号17に記載の塩基配列またはその相補配列であり、第二のプライマーが配列番号43に記載の塩基配列またはその相補配列であるプライマーセット、
(4)蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブが、配列番号5または7に記載の塩基配列またはその相補配列であり、第一のプライマーが配列番号19に記載の塩基配列またはその相補配列であり、第二のプライマーが配列番号39、43または45に記載の塩基配列またはその相補配列であるプライマーセット。
【請求項2】
前記蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブが相補的な2本鎖を形成すると、蛍光特性が変化するように構成されたオリゴヌクレオチドプローブであることを特徴とする請求項に記載のプライマー・プローブセット。
【請求項3】
前記オリゴヌクレオチドプローブがインターカレーター性蛍光色素で標識されてなることを特徴とする請求項に記載のプライマー・プローブセット。
【請求項4】
レジオネラ属菌の23S rRNAもしくは23S rDNAの特定塩基配列又はその相補配列を検出する方法であって、請求項1~3の何れか一項に記載のプライマー・プローブセットを使用し、レジオネラ属菌の23S rRNAもしくは23S rDNAの特定塩基配列又はその相補配列を一定温度条件で増幅する工程を含むことを特徴とするレジオネラ属菌の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中に含まれるレジオネラ属菌を迅速、高感度かつ特異的に検出するためのオリゴヌクレオチドおよび該オリゴヌクレオチドを用いたレジオネラ属菌の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レジオネラ属菌は水中や湿った土壌中などにアメーバ等の原虫類を宿主として存在するグラム陰性桿菌である。レジオネラ属菌は約50種に分類され、すべての菌種によってレジオネラ症が発症しうるとされている。近年、クーリングタワー、循環温泉水、24時間風呂などの人工環境中でレジオネラ属菌が増殖し、発生したエアロゾルの吸入によるレジオネラ症への感染が問題となっている。例年主に7月にピークがみられることが特徴である。病型は、一過性のポンティアック熱と劇症型の肺炎がある。前者は一過性で治癒するが、後者のレジオネラ肺炎は、病状の進行が早く、早期に治療する必要があるが、特有な症状はないため、症状のみでは他の肺炎との鑑別は困難である。また、本菌は主にマクロファージなどの細胞内で増殖するため、他の細菌感染症の治療に使用されているペニシリン系、セフェム系、アミノグリコジド系抗生物質は細胞内移行性が悪いため効果がなく、エリスロマイシン、リファンピシン、ニューキノロンなどの細胞移行性がある抗菌薬が必要となる。有効な抗菌薬の投与がなされない場合は、7日以内に死亡することが多い。そのため、早期にレジオネラ症と診断する必要がある。
【0003】
臨床的に用いられているレジオネラ属菌の検出法として、レジオネラ・ニューモフィラ血清型1の尿中抗原に対する抗体を用いて検出する方法や、レジオネラ属菌特有の塩基配列を増幅して検出する遺伝子検査法等があげられる。しかし、レジオネラ・ニューモフィラ血清型1の尿中抗原に対する抗体を用いて検出する方法は感度が60%程度と低く、また、検出できるのはレジオネラ・ニューモフィラ血清型1に限られ、他の菌種に対する感度は不十分である。遺伝子検査法では、LAMP法(特許文献1、非特許文献1)等の核酸増幅による検出法が利用されており、感度、特異性とも極めて高いが、検査に時間がかかり迅速性が不足しており、操作が煩雑である。また、LAMP法は、一部のレジオネラ属菌に対する感度が不十分であり、見逃す可能性がある。このため、感度が高く迅速で簡便な検査が望まれている。
【0004】
本発明で使用されたTRC法(特許文献2、特許文献3)では精製から検出まで一体となった装置が市販されており、1時間程度で結果を得ることができるため、十分な迅速性を備えている。また、感度、特異度ともに他の核酸増幅による検出法と遜色はない。
【0005】
増幅対象核酸がレジオネラ属菌16S rRNA(リボゾーム RNA)またはその遺伝子の場合、他の菌種の16S rRNA(またはその遺伝子)との間で塩基配列の相同性が高い交差反応性菌が多数存在するため、レジオネラ属菌16S rRNAまたはその遺伝子を高感度かつ特異的に検出するプライマーセットやオリゴヌクレオチドプローブを設計することは極めて困難であった。他の肺炎起因菌との識別が困難であった。特に比較的低温の一定温度(例えば、40℃から50℃)条件下でRNAの増幅が可能な増幅方法を利用する場合、増幅対象核酸が高次構造を形成しやすくなるため、当該プライマーセットやオリゴヌクレオチドプローブの設計はさらに困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-131174号公報
【文献】特開2000-14400号公報
【文献】特開2001-37500号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】日本臨床微生物学雑誌Vol. 23 No. 2 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、試料中に存在するレジオネラ属菌に由来する核酸を高感度、迅速に増幅し、かつ偽陽性が発生しにくい特異的なオリゴヌクレオチド、および該オリゴヌクレオチドを用いたレジオネラ属菌の検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は以下のとおりである。
(1)レジオネラ属菌の23S rRNAもしくは23S rDNAの特定塩基配列またはその相補配列を検出するためのオリゴヌクレオチドであって、配列番号1に記載の塩基配列もしくは該配列の相補配列の少なくとも連続する14塩基を含む特徴とするレジオネラ属菌を検出するためのオリゴヌクレオチド。
(2)前記オリゴヌクレオチドが蛍光色素で標識されたことを特徴とする(1)に記載のオリゴヌクレオチド。
(3)前記蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドが相補的な2本鎖を形成すると、蛍光特性が変化するように構成されたオリゴヌクレオチドであることを特徴とする(2)に記載のオリゴヌクレオチド。
(4)前記オリゴヌクレオチドがインターカレーター性蛍光色素で標識されてなることを特徴とする(3)に記載のオリゴヌクレオチド。
(5)レジオネラ属菌の23S rRNAもしくは23S rDNAの特定塩基配列またはその相補配列を検出する方法であって(1)~(4)の何れかに記載のオリゴヌクレオチドを使用することを特徴とするレジオネラ属菌の検出方法。
(6)一組のプライマーセットを用いて、特定塩基配列又はその相補配列を増幅する工程を含むことを特徴とする(5)に記載のレジオネラ属菌の検出方法。
(7)前記一組のプライマーセットが、配列番号11に記載の配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズする第一のプライマー、および/または配列番号31に記載の配列にストリンジェントな条件でハイブリダイズする第二のプライマー、からなることを特徴とする(6)に記載のレジオネラ属菌の検出方法。
(8)前記第一のプライマーが、配列番号11に記載の配列又は相補配列中、連続する16~31塩基からなり、かつ第二プライマーが配列番号31に記載の配列又は相補配列中、連続する16~31塩基からなることを特徴とする(7)に記載のレジオネラ属菌の検出方法。
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明中において試料とは、咽頭ぬぐい液、喀痰、気管支肺胞洗浄液、気管内吸引物、胸水、血液、髄液、培養液、環境試験水などがあげられる。
【0013】
本発明において、レジオネラ属菌の23S rRNAもしくは23S rDNAの特定塩基配列とは、レジオネラ属菌の23S rRNAもしくは23S rDNAに配列のうち、配列番号1に記載の塩基配列を含む連続した400塩基以下の塩基配列のことをいう。
すなわち本発明では、前記特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸が検出されることになる。
本発明のオリゴヌクレオチドを用いたレジオネラ属菌23S rRNAの特定塩基配列またはその相補配列を含む核酸の検出は、従来から知られた核酸検出方法を利用することができる。具体的には、
(A)電気泳動や液体クロマトグラフィーを用いた方法、
(B)検出可能な標識で標識されたオリゴヌクレオチドプローブによるハイブリダイゼーション法、
(C)当該特定塩基配列またはその相補配列を含む核酸を、一組のプライマーセットを用いて増幅した増幅産物の塩基配列の一部とハイブリダイズすることで蛍光特性が変化するように設計された蛍光色素標識オリゴヌクレオチドを用いた方法、
などがあげられる。前記(C)の蛍光色素標識オリゴヌクレオチドの一例として、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)を利用した蛍光標識オリゴヌクレオチドや、インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0014】
前記インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドの一例として、レジオネラ属菌23S rRNAの特定塩基配列または当該特定塩基配列の相補配列を含む核酸の一部とストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドの3’末端側、5’末端側、リン酸ジエステル部または塩基部分に、適当なリンカーを介してインターカレーター性蛍光色素を標識したオリゴヌクレオチドがある。前記オリゴヌクレオチドはレジオネラ属菌23S rRNAの特定塩基配列(または当該特定塩基配列の相補配列)と相補的2本鎖を形成すると、インターカレーター性蛍光色素部分が前記相補的2本鎖部分にインターカレートすることで蛍光特性が変化するプローブである。標識するインターカレーター性蛍光色素に特に限定はなく、オキサゾールイエロー、チアゾールオレンジ、エチジウムブロマイド、ヘミシアニン等の汎用されている蛍光色素、およびこれらの誘導体の中から、蛍光強度や蛍光特性を考慮して、適宜選定すればよい。なお3’末端側に蛍光色素を標識する場合を除き、オリゴヌクレオチドの3’末端側は当該末端側からの核酸伸長反応を防止する意味で、グリコール酸などの適当な修飾がされているとよい。
【0015】
前記インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドを構成するオリゴヌクレオチドとして、特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であって、配列番号1に記載の塩基配列中、少なくとも14塩基からなる連続する塩基配列又はその相補配列を含むオリゴヌクレオチドを上げることができる。より好ましくは、配列番号3に記載の塩基配列(GenBank No.AE017354.1の364493番目から364511番目までの塩基配列)またはその相補配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド、配列番号5に記載の塩基配列(GenBank No.AE017354.1の364493番目から364509番目までの塩基配列)またはその相補配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド、配列番号7に記載の塩基配列(GenBank No.AE017354.1の364501番目から364515番目までの塩基配列)またはその相補配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド、配列番号9に記載の塩基配列(GenBank No.AE017354.1の364501番目から364514番目までの塩基配列)またはその相補配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0016】
本発明における「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。一例を示せば、相同性(例、同一性または類似性)が高いポリヌクレオチド同士、例えば70%以上、好ましくは8 0% 以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%、特に好ましくは98%以上の相同性を有するポリヌクレオチド同士がハイブリダイズし、それより低い相同性を示すポリヌクレオチド同士がハイブリダイズしない条件である。具体的には、このような条件としては、6×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)中、約45℃ でのハイブリダイゼーション、続いて0 .2×SSC 、0 .1% SDS中、50~6 5℃での1または2回以上の洗浄が挙げられる。「ストリンジェントな条件」の別の例として、42℃において、50%(v/v)ホルムアミド、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%フィコール、0.1%のポリビニルピロリドン、50mMのリン酸ナトリウムバッファー(pH6.5)、150mMの塩化ナトリウム、75mMのクエン酸ナトリウムが存在する条件や、本明細書の実施例に記載の核酸増幅条件があげられる。また、前述したストリンジェントな条件下で、前記特定塩基配列と、十分に特異的かつ高効率にハイブリダイゼーション可能であれば、第一及び第二のプライマーの塩基配列は、前記特定塩基配列と比較して置換、欠失、付加、修飾があってもよい。第一及び第二のプライマーの長さは任意に設定できるが、好ましくは10塩基から50塩基までの範囲である。なお、もっとも好ましい態様では、ストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドとは、対象塩基配列に対して相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドである。
【0017】
本発明は、試料中に含まれるレジオネラ属菌23S rRNAの特定塩基配列の3’末端部と相補的な配列を有する第一のプライマーとして、配列番号11に記載の塩基配列(GenBank No.AE017354.1の364535番目から364611番目までの塩基配列)とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドを、また試料中に含まれるレジオネラ属菌23S rRNAの特定塩基配列の5’末端部と相同的な配列を有する第二のプライマーとして、配列番号31に記載の塩基配列(GenBank No.AE017354.1の364329番目から364483番目までの塩基配列)とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドを、それぞれ用いることを特徴としている。
【0018】
その中でも第一のプライマー及び第二のプライマーが16~31塩基からなることが好ましい。
【0019】
第一のプライマーの一例として、配列番号11に記載の塩基配列またはその相補配列中、連続する16~31塩基であるオリゴヌクレオチドがあげられ、さらに具体的な例として、配列番号15(GenBank No.AE017354.1の364535番目から364553番目までの塩基配列の相補配列)、配列番号17(GenBank No.AE017354.1の364538番目から364553番目までの塩基配列の相補配列)、配列番号19(GenBank No.AE017354.1の364538番目から364557番目までの塩基配列の相補配列)、配列番号21(GenBank No.AE017354.1の364554番目から364573番目までの塩基配列の相補配列)、配列番号23(GenBank No.AE017354.1の364570番目から364600番目までの塩基配列の相補配列)、配列番号25(GenBank No.AE017354.1の364577番目から346600番目までの塩基配列の相補配列)、配列番号27(GenBank No.AE017354.1の364581番目から364600番目までの塩基配列の相補配列)および配列番号29(GenBank No.AE017354.1の364591番目から364611番目までの塩基配列の相補配列)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0020】
第ニのプライマーの一例として、配列番号31に記載の塩基配列またはその相補配列中、連続する16~31塩基からなるオリゴヌクレオチドがあげられ、さらに具体的な例として、配列番号33(GenBank No.AE017354.1の364329番目から364348番目までの塩基配列)および配列番号35(GenBank No.AE017354.1の364347番目から364368番目までの塩基配列)、配列番号37(GenBank No.AE017354.1の364388番目から364406番目までの塩基配列)、配列番号39(GenBank No.AE017354.1の364420番目から364449番目までの塩基配列)および配列番号41(GenBank No.AE017354.1の364429番目から364449番目までの塩基配列)、配列番号43(GenBank No.AE017354.1の364431番目から364451番目までの塩基配列)、配列番号45(GenBank No.AE017354.1の364439番目から364459番目までの塩基配列)、配列番号47(GenBank No.AE017354.1の364455番目から364475番目までの塩基配列)、配列番号49(GenBank No.AE017354.1の364464番目から364483番目までの塩基配列)、配列番号51(GenBank No.AE017354.1の364467番目から364482番目までの塩基配列)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0021】
中でもレジオネラ属菌23S rRNAを迅速かつ特異的に検出可能であるという点で、第一のプライマーが配列番号15、16、17,18,19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであり、第二のプライマーが、配列番号33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるプライマーセットが好ましい。その中でも第一のプライマーと第二のプライマーの組み合わせが、配列番号19と38、20と37、19と42、20と41、19と44、20と43、25と34、26と33、25と38、26と37、25と38、26と39、25と42、26と41、25と44、26と43、25と46、26と45、25と48、26と47、25と50、26と49、27と40、28と39、27と44、28と43、27と50、28と49、27と52、28と51のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるプライマーセットが更に好ましい。
【0022】
本発明のプライマーセットは、RT-PCR法等、当業者が通常用いる核酸増幅法を利用した、レジオネラ属菌23S rRNAの特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸を増幅するためのプライマーセットとして有用である。なお、第一または第二のプライマーのいずれか一方の5’末端側にRNAポリメラーゼのプロモーターをさらに付加させると、前記プロモーターに対応したRNAポリメラーゼを用いて、RNAポリメラーゼのプロモーターを付加した特定塩基配列または前記特定塩基配列の相補配列を含む核酸が合成されるため、これら核酸からNASBA(Nucleic Acid Sequence Based Amplification)法、TMA(Transcription-Mediated Amplification)法、TRC(Transcription-Reverse transcription Concerted reaction)法といった一定温度でRNAを増幅する方法を用いて、RNAを増幅させることができる点で好ましい。プライマーの5’末端側に付加するプロモーターは、RNA増幅に用いるRNAポリメラーゼ(例えば、分子生物学の分野で汎用される、T7 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼやSP6 RNAポリメラーゼ)に対応したプロモーターを用いればよい。また前記プロモーターに、転写効率に影響を及ぼすことが知られている転写開始領域をさらに付加してもよい。RNA増幅に用いるRNAポリメラーゼとしてT7 RNAポリメラーゼを用いたときの、プライマーの5’末端側に付加するプロモーター(T7プロモーター)の具体例として、配列番号55に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0023】
本発明のオリゴヌクレオチドを用いてレジオネラ属菌23S rRNAを検出するには、例えば以下の(1)から(6)に示す工程により実施すればよい。
(1)配列番号11記載の塩基配列またはその相補配列とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドである第一のプライマーがレジオネラ属菌23S rRNAにハイブリダイズし、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、特定塩基配列に相補的なcDNAを合成し、前記RNAとのRNA-DNA2本鎖を生成する工程、
(2)リボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素により、前記RNA-DNA2本鎖のRNAを分解する工程(1本鎖DNAの生成)、
(3)該1本鎖DNAに、配列番号31記載の塩基配列またはその相補配列とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドである第二のプライマーがハイブリダイズし(ここで前記第一または第二のプライマーのいずれか一方はその5’末端側にRNAポリメラーゼのプロモーターが付加される)、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、特定塩基配列または特定塩基配列に相補的な配列のRNAを転写可能なプロモーターを含む2本鎖DNAを生成する工程、
(4)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素により前記2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物を生産する工程、
(5)該RNA転写産物が、前記(1)の反応におけるcDNA合成の鋳型となることで、連鎖的にRNA転写産物を生成する工程、
(6)配列番号1またはその相補配列を含むオリゴヌクレオチドであって、特定塩基配列または特定塩基配列に相補的な配列に対し、ストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドにインターカレーター性蛍光色素を標識したオリゴヌクレオチドを用いて、前記RNA転写産物量を経時的に測定する工程。
【0024】
前記(1)の工程で用いるRNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、前記(2)の工程で用いるRNase H活性を有する酵素、および前記(3)の工程で用いるDNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素は、それぞれ別個あるいは種々の組合せで添加することもできるが、前記活性を併せ持つレトロウイルス由来の逆転写酵素を使用することもできる。該逆転写酵素は特に限定されないが、分子生物学の分野で汎用される、AMV(Avian Myeloblastosis Virus)逆転写酵素、MMLV(Molony Murine Leukemia Virus)逆転写酵素、RAV(Rous Associated Virus)逆転写酵素、HIV(Human Immunodeficiency Virus)逆転写酵素などが使用できる。
【0025】
前述した態様によるレジオネラ属菌23S rRNA検出方法における反応温度は、使用する各酵素の耐熱性や活性、ならびにプライマー/プローブのTm等に依存するが、使用する酵素がAMV逆転写酵素およびT7 RNAポリメラーゼであり、プライマー/プローブの長さが17から31塩基の範囲である場合は、35から65℃の範囲で反応温度を設定すればよく、40から50℃の範囲で設定するとより好ましい。
【0026】
前述した態様によるレジオネラ属菌23S rRNA検出方法は、蛍光強度を経時的に測定することから有意な蛍光増加が認められた任意の時間で測定を終了することが可能であり、核酸増幅および測定をあわせて通例20分以内で終了することが可能である。
【0027】
前述した態様によるレジオネラ属菌23S rRNA検出方法は、前述した第一のプライマー、第二のプライマー、およびインターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドを含むレジオネラ属菌23S rRNA試薬に試料を添加し、経時的に蛍光検出可能な温調ブロックに載置することで、自動的にレジオネラ属菌23S rRNAを増幅し検出することができる。本発明のレジオネラ属菌23S rRNAを検出するためのオリゴヌクレオチドは、配列番号3~10記載の塩基配列からなるものが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明のオリゴヌクレオチドは、レジオネラ属菌23S rRNAに特異的な配列(特定塩基配列)およびその相補配列の一部にハイブリダイズすることより、レジオネラ属菌23S rRNAの特定塩基配列またはその相補配列を特異的に検出させることができる。
【0029】
本発明のオリゴヌクレオチド及び該オリゴヌクレオチドを用いたレジオネラ属菌の検出方法は、試料中に含まれるレジオネラ属菌を迅速、高感度に検出でき、かつ偽陽性の発生も極めて少なく特異性が高い。そのため、検査結果を早急に医師に提示することが可能となり、感染拡大防止や、適切な薬剤の投与による耐性菌の発生防止に寄与するものと考えられる。
【実施例
【0030】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0031】
実施例1 標準RNA調製 もしくは菌培養液の希釈物
後述の実施例で使用する、レジオネラ属菌の一種であるレジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)標準RNAを以下に示す方法で調製した。なお調製した標準RNAの定量は、260nmにおける吸光度を基に実施した。
(1)レジオネラ・ニューモフィラ標準RNA
レジオネラ・ニューモフィラ23S rRNA配列(GenBank No.AE017354.1の361720番目から364621番目までの塩基配列)に基づき人工的に23S rRNA遺伝子を作製し、インビトロ転写した後、転写産物を精製することで、レジオネラ・ニューモフィラ標準RNAを調製した。
【0032】
実施例2 インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドの調製
下記(A)に示す、インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチド(以下、INAFプローブと記載する)を特開2000-316587号公報で開示の方法に基づき作製した。
(A)配列番号3に記載の塩基配列(GenBank No.AE017354.1の364493番目から364511番目までの塩基配列)またはその相補配列、配列番号5に記載の塩基配列(GenBank No.AE017354.1の364493番目から364509番目までの塩基配列)またはその相補配列、配列番号7に記載の塩基配列(GenBank No.AE017354.1の364501番目から364515番目までの塩基配列)またはその相補配列、配列番号9に記載の塩基配列(GenBank No.AE017354.1の364501番目から364514番目までの塩基配列)またはその相補配列、からなるオリゴヌクレオチドであって、配列番号3及び5においては5’末端から13番目のグアニンと14番目のアデニンとの間に、配列番号7及び9においては、5’末端から11番目のシトシンと12番目のグアニンとの間に、リンカーを介してチアゾールオレンジを標識したもの。
【0033】
実施例3 レジオネラ・ニューモフィラ23S rRNA検出用オリゴヌクレオチドの検討
表1に示す、第一のプライマー、第二のプライマーおよびINAFプローブの組み合わせ(以下、オリゴヌクレオチドの組み合わせと記載する)を用いて、以下に示す方法で評価した。なお表1に記載のINAFプローブは実施例2で作製したプローブである。
(1)実施例1で調製した標準RNAのうち、レジオネラ・ニューモフィラ標準RNA(実施例1(1))は、RNA希釈液(10mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)、1mM EDTA、0.02% コール酸ナトリウム)を用いて1000コピー/15μLになるように希釈し、これらをRNA試料として用いた。
(2)以下の組成からなる反応液を蒸発乾燥用チューブに分注し、蒸発乾燥した。
【0034】
反応液の組成:濃度はRNA試料、開始液、添加後(30μL中)の最終濃度
60mM Tris-HCl緩衝液(pH8.35)
300mM トレハロース
各0.39mM dATP、dCTP、dGTP、dTTP
各2.1mM ATP、CTP、UTP
1.5mM GTP
3.2mM ITP
0.2μM 第一のプライマー(各配列番号の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの5’末端側にT7プロモータ(配列番号55)を付加したもの)
0.2μM 第二のプライマー
25nM INAFプローブ(実施例2で調製したもの)
0.025mg/mL 牛血清アルブミン
200 T7 RNAポリメラーゼ
6.4U AMV逆転写酵素
(3)上記の蒸発乾燥後にRNA試料を15μL添加後、46℃で5分間保温し、その後、以下の組成からなる開始液15μLを添加し撹拌した。
【0035】
酵素液の組成:反応時(30μL中)の最終濃度
9.00% ジメチルスルホキシド
20mM 塩化マグネシウム
130mM 塩化カリウム
(4)引き続き蒸発乾燥用チューブを直接測定可能な温調機能付き蛍光分光光度計を用い、46℃で反応させると同時に反応溶液の蛍光強度を経時的に20分間測定した。
【0036】
開始液を加え撹拌を終えた時点を0分として、反応液の蛍光強度比(所定時間の蛍光強度値をバックグラウンドの蛍光強度比で割った値)が1.45を超えた場合を陽性判定とし、そのときの時間を検出時間とした。結果を表1、2及び3に示すあ実験は、各々の組合せごとに2回数測定し、その平均値を使用した。「N.D.」は反応開始後20分後の蛍光強度比が1.45以下(陰性判定)であったことを意味する。
【0037】
レジオネラ・ニューモフィラ23S rRNAの検出性能(表1)については、本実施例で検討したオリゴヌクレオチドの組み合わせ(A01からA43)のうち、A11、A18、A26、A27、A36、A37、A39を除く、いずれもが1000コピー/testのレジオネラ・ニューモフィラ23S rRNAを10分以内に検出しており、レジオネラ・ニューモフィラ23S rRNAを迅速に検出可能なオリゴヌクレオチドの組み合わせといえる。
【0038】
【表1】
【0039】
本実施例で検討したオリゴヌクレオチドの組み合わせのうち、検出時間が10分以内であった組合せのうちからA28を用いて、
レジオネラ属菌の検出(表2)及び交差反応性(表3)を実施した。
レジオネラ属菌の検出については、1CFU/testのレジオネラ属菌9種を検出し、交差反応性については、10CFU/testの肺炎起因性菌21菌種を検出せず、レジオネラ属菌に対して高い特異性を有しており、本実施例で検討したオリゴヌクレオチドの組み合わせは、レジオネラ属菌の23S rRNAを特異的に検出可能なオリゴヌクレオチドの組み合わせといえる。
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【配列表】
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