(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】クロロプレンラテックス及び接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 11/02 20060101AFI20230418BHJP
C08K 5/42 20060101ALI20230418BHJP
C09J 111/02 20060101ALI20230418BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20230418BHJP
C09J 113/02 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
C08L11/02
C08K5/42
C09J111/02
C09J11/06
C09J113/02
(21)【出願番号】P 2019012051
(22)【出願日】2019-01-28
【審査請求日】2021-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】永江 勇介
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 俊裕
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/121960(WO,A1)
【文献】特開2013-203819(JP,A)
【文献】特開2009-215418(JP,A)
【文献】特開2009-215419(JP,A)
【文献】特開2015-048449(JP,A)
【文献】特開2006-219546(JP,A)
【文献】国際公開第2013/015043(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
C09J111/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分岐アルキル基を有するアニオン型乳化剤及びクロロプレン重合体を含むクロロプレンラテックスであって、分岐アルキル基を有するアニオン型乳化剤が、分岐アルキル基を有するジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムであることを特徴とするクロロプレンラテックス。
【請求項2】
分岐アルキル基が、炭素数が7~15個の分岐アルキル基であることを特徴とする請求項1に記載のクロロプレンラテックス。
【請求項3】
クロロプレン重合体100重量部に対して、分岐アルキル基を有するアニオン型乳化剤を1.5~3.5重量部含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のクロロプレンラテックス。
【請求項4】
クロロプレン重合体が、カルボキシル基を有するクロロプレン共重合体であることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかの項に記載のクロロプレンラテックス。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれかの項に記載のクロロプレンラテックスを含有すること
を特徴とする接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクト性が良好であるクロロプレンラテックス及びそれを用いた接着剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
接着剤には、初期強度、耐熱強度、耐水強度等の接着強度が要求される。工場等のラインでは高温にて加熱乾燥された状態で貼り合わされるため、貼り合せの直後に剥がれないよう高温における初期耐熱強度が要求される。一方、現場等では常温乾燥にて貼り合せを行うことが多く、塗布後に貼り合せるまでの時間もまちまちであることから作業幅が広く、良好なコンタクト性が要求される。コンタクト性が良くなると接着物性が安定して向上する。
【0003】
クロロプレンゴム等をベースとした溶剤系接着剤は、その良好な作業性や接着物性から各種用途に用いられてきた。しかし、使用される有機溶剤は地球環境や作業者の健康に悪影響を与え、時には作業場の火災等を引き起こす危険性を有している。そのため、脱溶剤の要求が高まっている。
【0004】
脱溶剤化の手法の一つとして、ラテックス系接着剤による代替が考えられている。
【0005】
クロロプレンラテックスとしては各種のものが知られている(例えば、特許文献1~5および非特許文献1参照)。
【0006】
しかし、これまでに報告されているクロロプレンラテックス接着剤の接着強度は依然として不十分であり、特に接着条件により接着強度が低下する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-287360号公報
【文献】特開平11-335491号公報
【文献】特開平9-324213号公報
【文献】特開平9-324214号公報
【文献】特開平9-31429号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】JETI Vol.44 No.12(88頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこの問題点に鑑みてなされたものであり、従来のクロロプレンラテックス系接着剤と比較して安定した接着強度を発現するクロロプレンラテックスを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者はこのような背景の下、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、疎水部のアルキル鎖に分岐構造を有した乳化剤を用いることで接着強度の安定および向上を見出した。即ち、本発明は、分岐アルキル基を有するアニオン型乳化剤及びクロロプレン重合体を含むクロロプレンラテックスである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のクロロプレンラテックスは、疎水部のアルキル基に分岐構造を有した乳化剤を用いることで、安定して良好な接着物性を示した。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明のクロロプレンラテックスは、分岐アルキル基を有するアニオン型乳化剤及びクロロプレン重合体を含有するものである。
【0014】
一般的に乳化剤は親水基とアルキル基等からなる疎水基から構成されており、分岐アルキル基を有するアニオン型乳化剤としては、疎水基である分岐アルキル基の炭素数が7~15個のアニオン型乳化剤が好ましい。
【0015】
アニオン型乳化剤としては、例えば、スルホン酸のアルカリ金属塩を有するもの、硫酸エステルのアルカリ金属塩を有するもの等が挙げられる。
【0016】
スルホン酸のアルカリ金属塩を有するアニオン型乳化剤は、一般的に乳化重合に用いるものであれば特に限定するものではなく、例えば、デカンスルホン酸のアルカリ金属塩,ラウリルスルホン酸のアルカリ金属塩,ステアリルスルホン酸のアルカリ金属塩などの炭素数が10~20のアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩、ラウリルベンゼンスルホン酸のアルカリ金属塩,ステアリルベンゼンスルホン酸のアルカリ金属塩などの炭素数が10~20のアルキルベンゼンスルホン酸のアルカリ金属塩、ラウリルジフェニルエーテルジスルホン酸のアルカリ金属塩,ステアリルジフェニルエーテルジスルホン酸のアルカリ金属塩などの炭素数が10~20のアルキルジフェニルエーテルスルホン酸のアルカリ金属塩、ブチルナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩,ラウリルナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩などの炭素数が4~20のアルキルナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩などがあげられる。アルカリ金属塩としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムなどがあげられる。これらのうち、ラテックスの安定性と接着物性のバランスから、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0017】
これらの乳化剤の含有量は特に限定するものではないが、ラテックスの安定性や、接着物性とのバランスから、ラテックス100重量部に対して1.5~3.5重量部が好ましい。
【0018】
本発明のクロロプレンラテックスは、クロロプレン重合体を含有するものである。
【0019】
クロロプレン重合体は、2-クロロ-1,3-ブタジエンであるクロロプレンの重合体、又はクロロプレンとカルボキシル基を含有する単量体とその他のクロロプレンと共重合可能な単量体の共重合体である。カルボキシル基を含有することで配合剤等との相互作用が強く働き、より強固な接着性を発現するためカルボキシル基を有するクロロプレン共重合体が好ましい。
【0020】
カルボキシル基を含有する単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸、シトラコン酸、2-メタクリロイロキシエチルコハク酸等があげられるが、なかでも接着剤とした際の接着強度が高いためメタクリル酸が好ましい。クロロプレンと共重合可能な単量体としては、例えば、2,3-ジクロロ-1,3ブタジエン、ブタジエン、イソプレン、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、グリセリンモノメタクリレート等があげられる。
【0021】
本発明のクロロプレンラテックスは、クロロプレン単量体又はクロロプレン単量体とクロロプレンと共重合可能なその他の単量体と、カルボキシル基を含有する単量体をラジカル乳化重合し、重合転化率95%以下で重合を停止することで製造することができる。重合方法としては、例えば、上記の単量体、乳化剤、重合開始剤、連鎖移動剤、その他安定剤等を乳化し、所定温度にて重合を行い、重合転化率95%以下で重合停止剤を添加し、重合を停止することがあげられる。
【0022】
重合開始剤としては、公知のフリーラジカル性物質、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過酸化物、過酸化水素、ターシャリーブチルヒドロパーオキサイド等の無機又は有機過酸化物等を用いることができる。また、これらは単独又は還元性物質、例えば、チオ硫酸塩、チオ亜硫酸塩、ハイドロサルファイト、有機アミン等との併用レドックス系で用いても良い。
【0023】
連鎖移動剤としては、例えば、アルキルメルカプタン、ハロゲン炭化水素、アルキルキサントゲンジスルフィド、硫黄等の分子量調節剤等があげられ、これらのうち、臭気及び作業性の面からn-ドデシルメルカプタンが好ましい。
【0024】
安定剤としては、例えば、ペンタンスルホン酸のアルカリ金属塩、オクタンスルホン酸のアルカリ金属塩など炭素数8以下のアルキル鎖を有する脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩、及びこれらを有する化合物、ベンゼンスルホン酸のアルカリ金属塩、トルエンスルホン酸のアルカリ金族塩、ブチルナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩、スチレンスルホン酸塩などの芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩、及びこれら芳香族スルホン酸塩を有する化合物(ナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩とホルマリンの縮合物など)、ラウリル硫酸のアルカリ金属塩などのアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸のアルカリ金属塩などのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルアルカリ金属塩、不飽和結合を有するスルホン酸のアルカリ金属塩とそれと共重合可能な単量体との各種共重合体等があげられる。ここに、不飽和結合を有するスルホン酸のアルカリ金属塩としては、例えば、ビニルスルホン酸のアルカリ金属塩、アリルスルホン酸のアルカリ金属塩、メタリルスルホン酸のアルカリ金属塩、イソプレンスルホン酸のアルカリ金属塩、スチレンスルホン酸のアルカリ金属塩等があげられ、それと共重合可能な単量体としてはアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、メチルメタクリレート等があげられる。アルカリ金属塩としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等があげられる。これらは、1種類でも良く、2種類以上含んでいても良い。なかでも重合時のラテックス安定性の面からナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒドの縮合物、又はスチレンスルホン酸塩とメタクリル酸の共重合体が好ましい。安定剤の含有量は特に限定するものではない。
【0025】
重合温度は特に限定するものではないが、一般的に10~50℃の範囲で行なう。
【0026】
重合停止剤としては、通常用いられる停止剤であれば特に限定するものでなく、例えば、フェノチアジン、2,6-t-ブチル-4-メチルフェノール、ヒドロキシルアミン等が使用できる。
【0027】
また、ラテックスの安定性を更に良好にするため、重合中、重合終了後に上記の乳化剤のうち1種類以上を添加しても良い。
【0028】
本発明のクロロプレンラテックスは、単独でも接着剤として使用可能であるが、以下に掲げる粘着付与樹脂、架橋剤、増粘剤等を含有した接着剤組成物とすることでさらに接着物性が向上する。
【0029】
粘着付与樹脂としては特に限定するものではなく、例えば、フェノール系樹脂、テルペン系樹脂、ロジン誘導体樹脂、石油系炭化水素等があげられ、例えば、重合ロジン、ロジン変性樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジンエステル、アルキルフェノール樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール、水添ロジン、水添ロジンのペンタエリスリトールエステル、石油樹脂、クマロン樹脂等が使用される。
【0030】
架橋剤としては、例えば、ポリイソシアネート化合物、エポキシ樹脂、ポリアジリジン化合物、ポリオキサゾリン化合物等、クロロプレンラテックスに均一に混合できる多官能性化合物であれば何ら制限はなく使用できる、また、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛等の金属酸化物を用いてイオン架橋による強度向上が可能である。
【0031】
クロロプレンラテックスを主成分とする接着剤の粘度は、各種増粘剤、例えば、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルアルコール、疎水化セルロース、会合型ノニオン界面活性剤等の水溶性ポリマー、及びカルボキシル基含有ポリマーから構成されるアルカリ可溶型の増粘剤、ヘクトライト等のシリケート化合物等の配合により所望の粘度に調整できる。
【0032】
クロロプレンラテックスを含有する接着剤組成物は、その他必要に応じて、例えば、老化防止剤、防腐剤、凍結防止剤、造膜助剤、可塑剤、クレー、pH調節剤等の添加剤を含有したものでも良い。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。接着剤配合物の接着強度は以下の方法で測定した。
【0034】
<接着強度>
9号帆布2枚(約150mm×60mm)それぞれの片面に下塗りとして刷毛で接着剤組成物を約250g/m2塗布し、80℃で5分乾燥後、本塗りとして、接着剤組成物を刷毛で110g/m2塗布し、所定の温度および時間にて乾燥し、ハンドローラーを用いて圧着。150mm×25mmのサイズに切り出したものを測定用の試験片とした。接着強度の測定はテンシロン型引っ張り試験機を用いて23℃の雰囲気下にて100mm/minの剥離速度で180°方向の引っ張りにて行った。本塗り条件は、好条件として80℃で5分乾燥。悪条件として、室温で30分もしくは90分乾燥させた。接着強度の測定は圧着してから20分後に実施した。
【0035】
実施例1
表1で示した割合のクロロプレン、メタクリル酸、n-ドデシルメルカプタン、分岐アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム(商品名:パイオニンA-43-H、竹本油脂(株)製)、ナフタレンスルホン酸ナトリウムとホルムアルデヒドの縮合物(商品名:デモールN、花王(株))、ハイドロサルファイトナトリウム、及び純水を攪拌機付き10Lオートクレーブ中40℃で重合を行った。重合は窒素雰囲気下で0.35重量%の過硫酸カリウム水溶液を連続的に滴下して行い、重合転化率が90%となった時点で重合停止剤として2,6-ターシャリーブチル-4-メチルフェノール0.05重量部を添加し重合を停止した。その後、減圧下で未反応単量体の除去及び濃縮によりラテックスの固形分を55%に調整し、ラテックスAを得た。
【0036】
【0037】
ラテックスAに対し、樹脂エマルジョン、金属酸化物、増粘剤を配合して接着剤組成物を作製し、接着強度を測定した。配合を表2に、結果を表3に示す。表3の結果より接着強度は安定して良好な値であった。
【0038】
【0039】
【0040】
実施例2
使用する分岐アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムを表1に示す量に変更した以外は、実施例1に従って重合を実施してラテックスBを得て、接着強度の測定を行った。結果を表3に示す。表3の結果より、接着硬度は安定して良好な値であった。
【0041】
比較例1
分岐アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの代わりに直鎖アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム(商品名:ぺレックスSS-H、花王(株))を用いた以外は実施例1に従って重合を実施してラテックスCを得て、接着強度の測定を行った。結果を表3に示す。接着強度はラッテクスAおよびBよりも低く、乾燥時間が長くなると更に大きく低下した。
【0042】
比較例2
使用する直鎖アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムを表1に示す量に変更した以外は実施例1に従って重合を実施してラテックスDを得て、接着強度の測定を行った。結果を表3に示す。接着強度はラッテクスAおよびBよりも低く、乾燥時間が長くなると更に大きく低下した。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のクロロプレンラテックスは、地球環境や作業者の健康に悪影響を与え、時には作業場の火災等を引き起こす危険性を有している溶剤を使用しない脱溶剤系接着剤として広範囲に使用されることが期待される。