IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ゼオン株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】抗菌基材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 101/04 20060101AFI20230418BHJP
   C09D 5/14 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
C09D101/04
C09D5/14
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019557155
(86)(22)【出願日】2018-11-16
(86)【国際出願番号】 JP2018042576
(87)【国際公開番号】W WO2019107195
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2017229573
(32)【優先日】2017-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100209679
【弁理士】
【氏名又は名称】廣 昇
(72)【発明者】
【氏名】曽根 篤
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/125497(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/089948(WO,A1)
【文献】特開2017-149103(JP,A)
【文献】特開2014-070158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 101/00-101/32
C09D 5/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウム以外の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーが基材上に付着した抗菌基材であって、
前記含金属酸化セルロースナノファイバーの数平均繊維径が30nm以下であり、
前記含金属酸化セルロースナノファイバー1g当たりの前記ナトリウム以外の金属の含有量が0.1mmol/g以上2.5mmol/g以下であり、
前記基材上に付着した含金属酸化セルロースナノファイバーの平均密度が0.0001mg/mm以上0.001mg/mm以下であり、
前記基材の接触角が5°以上90°以下である、抗菌基材。
【請求項2】
前記含金属酸化セルロースナノファイバーが含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーである、請求項1に記載の抗菌基材。
【請求項3】
前記含金属酸化セルロースナノファイバーの数平均繊維長が50nm以上2000nm以下である、請求項1または2に記載の抗菌基材。
【請求項4】
前記含金属酸化セルロースナノファイバーの平均重合度が100以上2000以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗菌基材。
【請求項5】
前記ナトリウム以外の金属が、長周期表における第2族~第14族かつ第3周期~第6周期の金属から選択される少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗菌基材。
【請求項6】
前記ナトリウム以外の金属が、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、銀、錫、バリウムおよび鉛よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか1項に記載の抗菌基材。
【請求項7】
前記ナトリウム以外の金属が、アルミニウム、カルシウム、鉄、コバルト、銅、亜鉛および銀よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~6のいずれか1項に記載の抗菌基材。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の抗菌基材を製造する抗菌基材の製造方法であって、
前記含金属酸化セルロースナノファイバーが分散媒中に分散した分散液を前記基材に塗布する塗布工程と、
前記塗布された分散液を乾燥させる乾燥工程とを含む、抗菌基材の製造方法。
【請求項9】
前記分散媒が水である、請求項8に記載の抗菌基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な抗菌性を有する、含金属酸化セルロースナノファイバーを用いた抗菌基材、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、天然セルロースをN-オキシル化合物などの酸化触媒の存在下で酸化させた後、得られた酸化セルロースに対して機械的な分散処理を施すことで、水などの分散媒中に直径数ナノメートルの高結晶性極細繊維(酸化セルロースナノファイバー)が分散されてなる分散液を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この製造方法により得られる酸化セルロースナノファイバー分散液は、分散媒中で1本1本の酸化セルロースナノファイバーが分離されており、複合材料などの種々の用途への応用展開が期待されている。
【0003】
ここで、酸化セルロースナノファイバーを複合材料などの種々の用途に応用する際には、用途に応じて酸化セルロースナノファイバーの性能を更に向上させることが肝要である。酸化セルロースナノファイバーの応用展開に際しては、酸化セルロースナノファイバーの分散性を維持しつつ、酸化セルロースナノファイバーに所望の特性(例えば、消臭性)を付与することが種々検討されてきた(例えば、特許文献2および3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-1728号公報
【文献】国際公開2016-125497号
【文献】国際公開2016-125498号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、近年の環境意識の高まりから、生活環境などで発生する菌を抗菌することについて、従来以上に厳しく要求されるようになってきている。
しかしながら、従来の技術では、酸化セルロースナノファイバーを用いて、十分な抗菌性を付与する基材を得ることができなかった。
【0006】
そこで、本発明は、生活環境などで発生する菌を効果的且つ持続的に抗菌する抗菌基材およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、上記した目的を達成するために、鋭意検討を重ねた。そして、発明者らは、良好に分散した状態の酸化セルロースファイバーにナトリウム以外の金属を含有させることにより個々の酸化セルロースファイバーに高い抗菌効果を付与することに着想した。
【0008】
そこで、発明者らは更に検討を重ね、天然セルロースをN-オキシル化合物などの酸化触媒の存在下で酸化させた後、得られた酸化セルロースに対して機械的な分散処理を施すことで、水などの分散媒中に数平均繊維径が30nm以下の高結晶性極細繊維(含金属酸化セルロースナノファイバー)が良好に分散されてなる分散液を得ることが可能であること、並びに、含金属酸化セルロースナノファイバー1g当たりのナトリウム以外の金属の含有量が所定範囲内となるように、酸化セルロースナノファイバーおける金属をナトリウム以外の金属に置換して、平均密度が所定範囲内となるように、ナトリウム以外の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーを接触角が所定範囲内である基材に付着させることにより、優れた抗菌性を発揮する抗菌基材が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の抗菌基材は、ナトリウム以外の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーが基材上に付着した抗菌基材であって、前記含金属酸化セルロースナノファイバーの数平均繊維径が30nm以下であり、前記含金属酸化セルロースナノファイバー1g当たりの前記ナトリウム以外の金属の含有量が0.1mmol/g以上2.5mmol/g以下であり、前記基材上に付着した含金属酸化セルロースナノファイバーの平均密度が0.000001mg/mm以上0.1mg/mm以下であり、前記基材の接触角が5°以上90°以下である、ことを特徴とする。このように、抗菌基材は、ナトリウム以外の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーが基材上に付着したものであって、含金属酸化セルロースナノファイバーの数平均繊維径が30nm以下であり、含金属酸化セルロースナノファイバー1g当たりのナトリウム以外の金属の含有量が0.1mmol/g以上2.5mmol/g以下であり、基材上に付着した含金属酸化セルロースナノファイバーの平均密度が0.000001mg/mm以上0.1mg/mm以下であり、基材の接触角が5°以上90°以下であれば、生活環境などで発生する菌を効果的且つ持続的に抗菌することができる。
なお、本発明において、含金属酸化セルロースナノファイバーの「数平均繊維径」は、原子間力顕微鏡を使用して含金属酸化セルロースナノファイバー5本以上について繊維径を測定し、測定した繊維径の個数平均を算出することにより求めることができる。具体的には、含金属酸化セルロースナノファイバーの「数平均繊維径」は、例えば本明細書の実施例に記載の測定方法を用いて求めることができる。
また、本発明において、基材上に付着した含金属酸化セルロースナノファイバーの「平均密度」は、具体的には、例えば本明細書の実施例に記載の測定方法を用いて求めることができる。
また、本発明において、含金属酸化セルロースナノファイバー1g当たりのナトリウム以外の金属の「含有量」は、具体的には、例えば本明細書の実施例に記載の測定方法を用いて求めることができる。
また、本発明において、基材の「接触角」は、具体的には、例えば本明細書の実施例に記載の測定方法を用いて求めることができる。
【0010】
ここで、本発明の抗菌基材は、前記含金属酸化セルロースナノファイバーが含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーであることが好ましい。前記含金属酸化セルロースナノファイバーが含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーであれば、分散性に優れており、配合量が少量であっても抗菌基材に抗菌性を十分に発揮させることができる。
【0011】
ここで、本発明の抗菌基材は、前記含金属酸化セルロースナノファイバーの数平均繊維長が50nm以上2000nm以下であることが好ましい。前記含金属酸化セルロースナノファイバーの数平均繊維長が50nm以上2000nm以下であれば、含金属酸化セルロースナノファイバーが、基材に付着して、剥がれることがなく、耐久性を向上させることができる。
なお、本発明において、含金属酸化セルロースナノファイバーの「数平均繊維長」は、原子間力顕微鏡を使用して含金属酸化セルロースナノファイバー5本以上について繊維長を測定し、測定した繊維長の個数平均を算出することにより求めることができる。具体的には、含金属酸化セルロースナノファイバーの「数平均繊維長」は、例えば本明細書の実施例に記載の測定方法を用いて求めることができる。
【0012】
ここで、本発明の抗菌基材は、前記含金属酸化セルロースナノファイバーの平均重合度が100以上2000以下であることが好ましい。前記含金属酸化セルロースナノファイバーの平均重合度が100以上2000以下であれば、含金属酸化セルロースナノファイバーが、抗菌基材に付着して、剥がれることがなく、耐久性をより向上させることができる。
なお、本発明において、含金属酸化セルロースナノファイバーの「平均重合度」は、粘度法を用いて求めることができる。具体的には、含金属酸化セルロースナノファイバーの「平均重合度」は、例えば本明細書の実施例に記載の測定方法を用いて求めることができる。
【0013】
ここで、本発明の抗菌基材は、前記ナトリウム以外の金属が、長周期表における第2族~第14族かつ第3周期~第6周期の金属から選択される少なくとも1種であることが好ましく、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、銀、錫、バリウムおよび鉛よりなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、アルミニウム、カルシウム、鉄、コバルト、銅、亜鉛および銀よりなる群から選択される少なくとも1種であることが特に好ましく、銅、亜鉛および銀よりなる群から選択される少なくとも1種であることが最も好ましい。
前記ナトリウム以外の金属が、上述した金属であれば、抗菌基材に所望の抗菌性を容易に付与することができる。
【0014】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の抗菌基材の製造方法は、上述した抗菌基材のいずれかを製造する抗菌基材の製造方法であって、前記含金属酸化セルロースナノファイバーが分散媒中に分散した分散液を前記基材に塗布する塗布工程と、前記塗布された分散液を乾燥させる乾燥工程とを含む、ことを特徴とする。このように、前記含金属酸化セルロースナノファイバーが分散媒中に分散した分散液を前記基材に塗布し、前記塗布された分散液を乾燥させれば、抗菌性に優れた抗菌基材を製造することができる。
【0015】
ここで、本発明の抗菌基材の製造方法は、前記分散媒が水であることが好ましい。前記分散媒が水であれば、分散液中で含金属酸化セルロースマナノファイバーを良好に分散させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の抗菌基材によれば、生活環境などで発生する菌を効果的且つ持続的に抗菌することができる。
また、本発明の抗菌基材の製造方法によれば、抗菌性に優れた抗菌基材を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体的に説明する。
ここで、本発明の抗菌基材は、生活環境などで発生する菌の抗菌に用いられるものであり、ナトリウム以外の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーが基材上に付着した抗菌基材であって、含金属酸化セルロースナノファイバーの数平均繊維径が30nm以下であり、含金属酸化セルロースナノファイバー1g当たりのナトリウム以外の金属の含有量が0.1mmol/g以上2.5mmol/g以下であり、基材上に付着した含金属酸化セルロースナノファイバーの平均密度が0.000001mg/mm以上0.1mg/mm以下であり、基材の接触角が5°以上90°以下であることを特徴とする。そして、本発明の抗菌基材は、本発明の抗菌基材の製造方法を用いて製造することができる。そこで、以下、本発明の抗菌基材の製造方法、および、当該製造方法を用いて製造し得る、本発明の抗菌基材について順次説明する。
なお、本発明の抗菌基材は、特に限定されることなく、例えば、黄色ぶどう球菌、大腸菌等の生活環境などで発生する菌の抗菌に使用することができる。
本出願で塩とは、金属イオンがマイナスイオンと結合していることが好ましく、さらにマイナスイオンが有機酸に由来するものが好ましく、とくに有機酸がカルボン酸構造に由来するものが好ましい。
【0018】
(抗菌基材の製造方法)
<含金属酸化セルロースナノファイバーの調製>
本発明の抗菌基材における含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの調製方法の一例は、ナトリウム以外の金属を塩の形で含有し、数平均繊維径が30nm以下であり、含金属酸化セルロースナノファイバー1g当たりのナトリウム以外の金属の含有量が0.1mmol/g以上2.5mmol/g以下である含金属酸化セルロースナノファイバーを調製する方法である。そして、この一例の調製方法では、第1の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーを原料として用い、下記の(i)または(ii)の方法を使用して酸化セルロースナノファイバーの第1の金属のイオンを第2の金属のイオンで置換することにより、第2の金属を塩の形で含有し、且つ、数平均繊維径が30nm以下であり、含金属酸化セルロースナノファイバー1g当たりの第2の金属のイオンの含有量が0.1mmol/g以上2.5mmol/g以下である含金属酸化セルロースナノファイバーを調製する。ここで、含金属酸化セルロースナノファイバーは、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーであることが好ましい。なお、本発明において、第2の金属は、第1の金属以外の金属を意味する。
(i)第1の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーを、溶媒に分散させた状態で、第2の金属の塩と接触させる方法(第一の調製方法)。
(ii)第1の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーを、溶媒に分散させた状態で、強酸と接触させ、塩の形で含まれる第1の金属のイオンを水素原子に置換し、その後、第1の金属のイオンを水素原子に置換した酸化セルロースナノファイバーを、溶媒に分散させた状態で、第2の金属の塩と接触させる方法(第二の調製方法)。
【0019】
<<第一の調製方法>>
ここで、上記した第一の調製方法では、第1の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーを、溶媒に分散させた状態で、第2の金属の塩と接触させ、酸化セルロースナノファイバーの第1の金属のイオンの少なくとも一部、好ましくは全部を、第2の金属のイオンで置換する(金属置換工程)。
次いで、任意に、上記金属置換工程で得られた、第2の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーを、洗浄し(洗浄工程)、さらに、必要に応じて分散媒中で分散させることによって(分散工程)、第2の金属を塩の形で含有し、数平均繊維径が30nm以下であり、かつ、含金属酸化セルロースナノファイバー1g当たりの第2の金属の含有量が0.1mmol/g以上2.5mmol/g以下である含金属酸化セルロースナノファイバーを得る。
【0020】
[金属置換工程]
そして、金属置換工程において使用し得る上記第1の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーとしては、セルロースを酸化して得られ、かつ、第1の金属を塩の形で含有するものであれば、例えば、国際公開第2011/074301号に開示されているもの等、任意の酸化セルロースナノファイバーを使用することができる。中でも、第1の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーとしては、第1の金属を塩の形で含有するカルボキシル化セルロースナノファイバーを用いることが好ましい。カルボキシル化セルロースナノファイバーを使用すれば、分散性に優れる含金属酸化セルロースナノファイバーを得ることができるからである。
【0021】
また、第1の金属を塩の形で含有するカルボキシル化セルロースナノファイバーとしては、特に限定されることなく、セルロースの構成単位であるβ-グルコース単位の6位の1級水酸基を選択的に酸化したカルボキシル化セルロースナノファイバーを挙げることができる。そして、β-グルコース単位の6位の1級水酸基を選択的に酸化する方法としては、例えば、以下に説明するTEMPO触媒酸化法等のN-オキシル化合物を酸化触媒として用いた酸化法が挙げられる。
【0022】
TEMPO触媒酸化法では、天然セルロースを原料として用い、水系溶媒中においてTEMPO(2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシル)またはその誘導体を酸化触媒として酸化剤を作用させることにより天然セルロースを酸化させる。そして、酸化処理後の天然セルロースを、任意に洗浄した後に水などの水系媒体に分散させることによって、数平均繊維径が、例えば30nm以下、好ましくは10nm以下であり、かつ、カルボン酸塩型の基を有するセルロースナノファイバー(カルボキシル化セルロースナノファイバー)の水分散液を得る。
【0023】
ここで、原料として使用する天然セルロースとしては、植物、動物、バクテリア産生ゲル等のセルロースの生合成系から単離した精製セルロースを用いることができる。具体的には、天然セルロースとして、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、コットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麦わらパルプやバガスパルプ等の非木材系パルプ、バクテリアセルロース、ホヤから単離されるセルロース、海草から単離されるセルロースなどを例示することができる。
なお、酸化反応の効率を高めてカルボキシル化セルロースナノファイバーの生産性を高める観点からは、単離、精製された天然セルロースには、叩解等の表面積を拡大する処理を施してもよい。また、天然セルロースは、単離、精製の後、未乾燥状態で保存したものを用いることが好ましい。未乾燥状態で保存することで、ミクロフィブリルの集束体を膨潤しやすい状態に保持することができるので、酸化反応の効率を高めるとともに、繊維径の細いカルボキシル化セルロースナノファイバーを得やすくなる。
【0024】
酸化触媒として使用するTEMPOまたはその誘導体としては、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシル(TEMPO)および4位の炭素に各種の官能基を有するTEMPO誘導体を用いることができる。TEMPO誘導体としては、4-アセトアミドTEMPO、4-カルボキシTEMPO、4-フォスフォノオキシTEMPOなどを挙げることができる。特に、TEMPOまたは4-アセトアミドTEMPOを酸化触媒として使用した場合には、優れた反応速度が得られる。
【0025】
酸化剤としては、次亜ハロゲン酸またはその塩(次亜塩素酸またはその塩、次亜臭素酸またはその塩、次亜ヨウ素酸またはその塩など)、亜ハロゲン酸またはその塩(亜塩素酸またはその塩、亜臭素酸またはその塩、亜ヨウ素酸またはその塩など)、過ハロゲン酸またはその塩(過塩素酸またはその塩、過ヨウ素酸またはその塩など)、ハロゲン(塩素、臭素、ヨウ素など)、ハロゲン酸化物(ClO、ClO、Cl、BrO、Brなど)、窒素酸化物(NO、NO、Nなど)、過酸(過酸化水素、過酢酸、過硫酸、過安息香酸など)が含まれる。これらの酸化剤は単独または2種以上の組み合わせで使用することができる。また、ラッカーゼなどの酸化酵素と組み合わせて用いてもよい。
【0026】
更に、酸化剤の種類によっては、臭化物やヨウ化物を組み合わせ、共酸化剤として用いてもよい。例えば、アンモニウム塩(臭化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム)、臭化またはヨウ化アルカリ金属、臭化またはヨウ化アルカリ土類金属を用いることができる。これらの臭化物およびヨウ化物は、単独または2種以上の組み合わせで使用することができる。
【0027】
なお、TEMPO触媒酸化法において酸化剤として金属塩を用いた場合には、通常、当該金属塩を構成する金属がカルボキシル化セルロースナノファイバー中に塩の形で含有されることとなる。すなわち、金属塩を構成する金属が第1の金属となる。
【0028】
ここで、上述した中でも、酸化反応速度を向上させる観点からは、酸化剤としては、ナトリウム塩を用いることが好ましく、次亜塩素酸ナトリウムを用いることがより好ましく、次亜塩素酸ナトリウムおよび臭化ナトリウムの共酸化剤を用いることが特に好ましい。そして、酸化剤としてナトリウム塩を使用した場合には、通常、第1の金属としてナトリウムを塩の形で含有するカルボキシル化セルロースナノファイバーが得られる。
【0029】
なお、酸化処理の条件および方法は、特に限定されることなく、TEMPO触媒酸化法において用いられる公知の条件および方法を採用することができる。また、酸化処理では、β-グルコース単位の6位の1級水酸基が、アルデヒド基を経てカルボキシル基まで酸化されるが、カルボキシル化セルロースナノファイバーを原料として用いて得られる含金属酸化セルロースナノファイバーに所望の特性を十分に付与する観点からは、カルボキシル基まで酸化される割合は、50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることが更に好ましい。
【0030】
また、酸化処理後のカルボキシル化セルロースナノファイバーを分散させる際に用いる分散装置(解繊装置)としては、種々のものを使用することができる。具体的には、例えば、家庭用ミキサー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、二軸混練り装置、石臼等の解繊装置を用いることができる。これらのほかにも、家庭用や工業生産用に汎用的に用いられる解繊装置を用いることもできる。中でも、各種ホモジナイザーや各種レファイナーのような強力で叩解能力のある解繊装置を用いると、より効率的に繊維径の細いカルボキシル化セルロースナノファイバーの水分散液が得られる。
【0031】
なお、酸化処理後のカルボキシル化セルロースナノファイバーは、水洗と固液分離とを繰り返して純度を高めてから分散させることが好ましい。また、分散処理後の水分散液中に未解繊成分が残存している場合には、遠心分離などを用いて未解繊成分を除去することが好ましい。
【0032】
そして、金属置換工程において、第1の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーと第2の金属の塩との接触による金属イオンの置換は、上述したTEMPO触媒酸化法などにより得られた酸化セルロースナノファイバーの分散液に対し、第2の金属の塩の溶液または固体を添加し、得られた混合物を撹拌することにより行うことができる。そして、金属置換工程では、上記のようにして良好に分散した酸化セルロースナノファイバーに対して第2の金属の塩を接触させて金属イオンを置換することで、一本一本の酸化セルロースナノファイバーに効果的に第2の金属を含有させ、抗菌効果に優れる含金属酸化セルロースナノファイバーが得られる。
【0033】
ここで、第2の金属の塩は、得られる含金属酸化セルロースナノファイバーに付与したい特性に応じた金属の塩とすることができる。具体的に、第2の金属の塩は、例えば第1の金属がナトリウムの場合(即ち、酸化剤としてナトリウム塩を使用した場合)には、特に限定されることなく、好ましくは長周期表における第2族~第14族かつ第3周期~第6周期の金属から選択される少なくとも1種の塩、より好ましくはマグネシウム、アルミニウム、カルシウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、銀、錫、バリウムおよび鉛よりなる群から選択される少なくとも1種の塩、更に好ましくはアルミニウム、カルシウム、鉄、コバルト、銅、亜鉛および銀よりなる群から選択される少なくとも1種の塩とすることができる。
なお、第2の金属の塩として、銅、亜鉛、または銀の塩を用いて得た含金属酸化セルロースナノファイバー(含銅酸化セルロースナノファイバー)は、抗菌性に特に優れている。
【0034】
また、酸化セルロースナノファイバーの分散液に添加する第2の金属の塩の形態は、特に限定されず、ハロゲン化物、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの任意の形態とすることができる。中でも、金属イオンの置換効率を向上させる観点からは、第2の金属の塩は弱酸塩であることが好ましく、酢酸塩であることがより好ましい。
【0035】
更に、酸化セルロースナノファイバーを良好に分散させた状態で金属置換を効率的に行い、抗菌性に優れた含金属酸化セルロースナノファイバーを得る観点からは、第1の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーの溶媒は水であることが好ましい。また、溶媒中の酸化セルロースナノファイバーの濃度は、0.005質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることが更に好ましく、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることが更に好ましい。酸化セルロースナノファイバーの濃度が低すぎる場合、反応効率および生産性が悪化するからである。また、酸化セルロースナノファイバーの濃度が高すぎる場合、溶媒の粘度が高くなって均一な撹拌が困難になるからである。
【0036】
そして、酸化セルロースナノファイバーと第2の金属の塩との混合物を撹拌する時間は、金属イオンの置換に十分な時間、例えば1時間以上10時間以下とすることができる。また、混合物を撹拌する際の温度は、例えば10℃以上50℃以下とすることができる。
【0037】
なお、上述した金属置換工程では、第1の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーと第2の金属の塩とを液中で接触させた際に、酸化セルロースナノファイバーがゲル化することがある。しかし、そのような場合においても、任意に洗浄工程を実施した後に分散工程を実施すれば、得られた酸化セルロースナノファイバーを再び良好に分散させ、数平均繊維径が30nm以下の含金属酸化セルロースナノファイバーを得ることができる。
【0038】
[洗浄工程]
金属置換工程の後に任意に実施される洗浄工程では、例えば遠心分離と、上澄み液を洗浄液で置換する操作との繰り返し、或いは、ろ過および多量の洗浄液での洗浄等の公知の洗浄方法を用いて金属置換後の酸化セルロースナノファイバーを洗浄する。
【0039】
ここで、洗浄液としては、水などの任意の洗浄液を使用することができるが、金属置換工程で得られた酸化セルロースナノファイバーの金属置換効率を更に高める観点から、最初に第2の金属の塩の水溶液を洗浄液として用いて洗浄を実施した後に、水を洗浄液として用いて洗浄を実施することが好ましい。
【0040】
[分散工程]
分散工程では、第2の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーを、家庭用ミキサー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、二軸混練り装置、石臼等の既知の分散装置(解繊装置)を用いて分散させる。そして、必要に応じて遠心分離などを用いて未解繊成分を除去して、含金属酸化セルロースナノファイバーの分散液を得る。
【0041】
そして、上述のようにして得られた分散液では、含金属酸化セルロースナノファイバーの数平均繊維径は、30nm以下であれば、特に制限はないが、高度に分散させる観点から、10nm以下であることが好ましく、4nm以下であることがより好ましく、3.5nm以下であることが特に好ましく、2nm以上であることが好ましく、3nm以上であることがより好ましい。従って、当該分散液を使用すれば、使用量が少量であっても抗菌性に優れる抗菌基材が得られる。
【0042】
なお、上述のようにして得られる含金属酸化セルロースナノファイバー1g当たりのナトリウム以外の金属の含有量は、0.1mmol/g以上2.5mmol/g以下であれば、特に制限はないが、0.3mmol/g以上であることが好ましく、0.7mmol/g以上であることがより好ましく、また、2.3mmol/g以下であることが好ましい。含金属酸化セルロースナノファイバー1g当たりのナトリウム以外の金属の含有量が、0.3mmol/g以上であれば、抗菌活性を向上させることができるからである。また、金属酸化セルロースナノファイバー1g当たりのナトリウム以外の金属の含有量が、2.3mmol/g以下であれば、金属の析出および沈降を抑制することができるからである。
【0043】
なお、上述のようにして得られる、含金属酸化セルロースナノファイバーは、数平均繊維長が、50nm以上であることが好ましく、70nm以上であることがより好ましく、100nm以上であることがさらに好ましく、400nm以上であることが特に好ましく、550nm以上であることが最も好ましく、また、2000nm以下であることが好ましく、1500nm以下であることがより好ましく、1000nm以下であることがさらに好ましく、600nm以下であることが特に好ましい。数平均繊維長が50nm以上であれば、含金属酸化セルロースナノファイバーが、基材に付着して、剥がれることがなく、耐久性を向上させることができる。また、数平均繊維長が2000nm以下であれば、含金属酸化セルロースナノファイバーが、基材に付着して、剥がれることがなく、耐久性を向上させることができる。
なお、含金属酸化セルロースナノファイバーの数平均繊維長は、例えば、原料として使用する天然セルロースの数平均繊維長や酸化処理条件、酸化処理後のカルボキシル化セルロースナノファイバーを分散(解繊)させる条件や、金属置換工程後に分散(解繊)させる条件を変更することによって調整することができる。具体的には、分散処理(解繊処理)の時間を長くすれば、数平均繊維長を短くすることができる。
【0044】
また、含金属酸化セルロースナノファイバーは、平均重合度(セルロース分子中に含まれるグルコース単位の数の平均値)が、100以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましく、500以上であることがさらに好ましく、600以上であることが特に好ましく、また、2000以下であることが好ましく、1500以下であることがより好ましく、1000以下であることがさらに好ましく、700以下であることが特に好ましい。平均重合度が100以上であれば、含金属酸化セルロースナノファイバーが、基材に付着して、剥がれることがなく、耐久性を向上させることができる。また、平均重合度が2000以下であれば、含金属酸化セルロースナノファイバーが、基材に付着して、剥がれることがなく、耐久性を向上させることができる。
なお、含金属酸化セルロースナノファイバーの平均重合度は、例えば、原料として使用する天然セルロースの平均重合度や酸化処理条件、酸化処理後のカルボキシル化セルロースナノファイバーを分散(解繊)させる条件、金属置換工程後に分散(解繊)させる条件などを変更することにより調整することができる。
【0045】
<<第二の調製方法>>
第二の調製方法では、最初に、第1の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーを、溶媒に分散させた状態で、強酸と接触させ、酸化セルロースナノファイバーの第1の金属のイオンの少なくとも一部、好ましくは全部を、水素原子に置換する(水素置換工程)。次に、任意に、水素置換工程で得られた酸化セルロースナノファイバーを、洗浄し(第一の洗浄工程)、更に分散媒中で分散させる(第一の分散工程)。その後、第1の金属のイオンを水素原子に置換した酸化セルロースナノファイバーを、溶媒に分散させた状態で、第2の金属の塩と接触させ、水素置換工程で導入された水素原子および水素原子で置換されなかった第1の金属のイオンの少なくとも一部、好ましくは全部を、第2の金属のイオンで置換する(金属置換工程)。その後、任意に、金属置換工程で得られた、第2の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーを、洗浄し(第二の洗浄工程)、更に、必要に応じて分散媒中で分散させることにより(第二の分散工程)、第2の金属を塩の形で含有し、数平均繊維径が30nm以下であり、かつ、含金属酸化セルロースナノファイバー1g当たりの第2の金属の含有量が0.1mmol/g以上2.5mmol/g以下である含金属酸化セルロースナノファイバーを得る。
なお、この第二の調製方法では、水素置換工程を経てから金属置換工程を実施しているので、上述した第一の調製方法(第1の金属を第2の金属で直接置換する方法)と比較すると、第1の金属が第2の金属で置換される割合を高めることができる。
【0046】
[水素置換工程]
ここで、水素置換工程において、第1の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーとしては、上述した第一の調製方法と同様の酸化セルロースナノファイバーを用いることができる。
【0047】
そして、水素置換工程において、第1の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーと強酸との接触による第1の金属のイオンと水素原子との置換は、TEMPO触媒酸化法などにより得られた酸化セルロースナノファイバーの分散液に対し、強酸の溶液を添加し、得られた混合物を撹拌することにより行うことができる。
【0048】
ここで、強酸としては、第1の金属のイオンを水素原子で置換する(即ち、酸化セルロースナノファイバーのカルボキシル基をカルボン酸型に置換する)ことが可能なものであれば特に限定されることなく、塩酸、硫酸、硝酸などを用いることができるが、中でも塩酸を用いることが好ましい。
【0049】
そして、酸化セルロースナノファイバーと強酸との混合物を撹拌する時間は、金属イオンと水素原子との置換に十分な時間、例えば10分間以上5時間以下時間とすることができる。また、混合物を撹拌する際の温度は、例えば10℃以上50℃以下とすることができる。
【0050】
[第一の洗浄工程]
水素置換工程の後、任意に実施される第一の洗浄工程では、例えば遠心分離と、上澄み液を洗浄液で置換する操作との繰り返し、或いは、ろ過および多量の洗浄液での洗浄等の公知の洗浄方法を用いて水素置換後の酸化セルロースナノファイバーを洗浄し、強酸を除去する。このように、第一の洗浄工程を実施すれば、強酸を除去し、後述する金属置換工程において、カルボン酸型のカルボキシル基が残存するのを抑制することができる。その結果、金属置換工程において、水素置換工程で導入された水素原子および水素原子で置換されなかった第1の金属のイオンを第2の金属イオンで十分に置換することができる。
【0051】
ここで、第一の洗浄工程で使用する洗浄液としては、水などの任意の洗浄液を使用することができるが、酸化セルロースナノファイバーのカルボキシル基をカルボン酸型に置換する効率を更に高める観点からは、最初に強酸の溶液を洗浄液として用いて洗浄を実施した後に、水を洗浄液として用いて洗浄を実施することが好ましい。
【0052】
[第一の分散工程]
第一の分散工程では、カルボキシル基がカルボン酸型に置換された酸化セルロースナノファイバーを、水などの分散媒中に分散させて、第1の金属のイオンが水素原子で置換された酸化セルロースナノファイバーの分散液を得る。なお、第一の分散工程では、カルボキシル基がカルボン酸型に置換された酸化セルロースナノファイバーは、既知の分散装置(解繊装置)等を用いて分散媒中に完全に分散する必要はない。
【0053】
[金属置換工程]
第二の調製方法の金属置換工程は、第1の金属のイオンを水素原子に置換した酸化セルロースナノファイバーと第2の金属の塩とを接触させること以外は、前述した第一の調製方法の金属置換工程と同様にして実施することができる。そして、第二の調製方法の金属置換工程の好適な態様も、第一の調製方法の金属置換工程の好適な態様と同様である。
【0054】
[第二の洗浄工程および第二の分散工程]
また、第二の調製方法における第二の洗浄工程および第二の分散工程は、前述した第一の調製方法の洗浄工程および分散工程と同様にして実施することができる。更に、第二の調製方法の第二の洗浄工程および第二の分散工程の好適な態様も、第一の調製方法の洗浄工程および分散工程の好適な態様と同様である。
【0055】
そして、上述のようにして得られた分散液では、第2の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーの数平均繊維径は、30nm以下であれば、特に制限はないが、高度に分散させる観点から、10nm以下であることが好ましく、4nm以下であることがより好ましく、3.5nm以下であることが特に好ましく、2nm以上であることが好ましく、3nm以上であることがより好ましい。従って、当該分散液を使用すれば、使用量が少量であっても抗菌性に優れる抗菌基材が得られる。
【0056】
なお、上述のようにして得られる含金属酸化セルロースナノファイバー1g当たりのナトリウム以外の金属の含有量は、0.1mmol/g以上2.5mmol/g以下であれば、特に制限はないが、0.3mmol/g以上であることが好ましく、0.7mmol/g以上であることがより好ましく、また、2.3mmol/g以下であることが好ましい。含金属酸化セルロースナノファイバー1g当たりのナトリウム以外の金属の含有量が、0.3mmol/g以上であれば、抗菌活性を向上させることができるからである。また、金属酸化セルロースナノファイバー1g当たりのナトリウム以外の金属の含有量が、2.3mmol/g以下であれば、金属の析出および沈降を抑制することができるからである。
【0057】
なお、上述のようにして得られる、第2の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーは、数平均繊維長が、50nm以上であることが好ましく、70nm以上であることがより好ましく、100nm以上であることがさらに好ましく、400nm以上であることが特に好ましく、550nm以上であることが最も好ましく、また、2000nm以下であることが好ましく、1500nm以下であることがより好ましく、1000nm以下であることがさらに好ましく、600nm以下であることが特に好ましい。
数平均繊維長が50nm以上であれば、含金属酸化セルロースナノファイバーが、基材に付着して、剥がれることがなく、耐久性を向上させることができる。また、数平均繊維長が2000nm以下であれば、含金属酸化セルロースナノファイバーが、基材に付着して、剥がれることがなく、耐久性を向上させることができる。
なお、第2の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーの数平均繊維長は、例えば、原料として使用する天然セルロースの数平均繊維長や酸化処理条件、酸化処理後のカルボキシル化セルロースナノファイバーを分散(解繊)させる条件や、金属置換工程後に第2の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーを分散(解繊)させる条件を変更することにより調整することができる。具体的には、分散処理(解繊処理)の時間を長くすれば、数平均繊維長を短くすることができる。
【0058】
また、第2の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーは、平均重合度(セルロース分子中に含まれるグルコース単位の数の平均値)が、100以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましく、500以上であることがさらに好ましく、600以上であることが特に好ましく、また、2000以下であることが好ましく、1500以下であることがより好ましく、1000以下であることがさらに好ましく、700以下であることが特に好ましい。平均重合度が100以上であれば、含金属酸化セルロースナノファイバーが、基材に付着して、剥がれることがなく、耐久性を向上させることができる。また、平均重合度が2000以下であれば、含金属酸化セルロースナノファイバーが、基材に付着して、剥がれることがなく、耐久性を向上させることができる。
なお、含金属酸化セルロースナノファイバーの平均重合度は、例えば、原料として使用する天然セルロースの平均重合度や酸化処理条件、酸化処理後のカルボキシル化セルロースナノファイバーを分散(解繊)させる条件、金属置換工程後に分散(解繊)させる条件などを変更することにより調整することができる。
【0059】
本発明の抗菌基材の製造方法は、上述した調製方法により調製された含金属酸化セルロースナノファイバーが分散媒中に分散した分散液を基材に塗布する塗布工程と、塗布された分散液を乾燥させる乾燥工程とを含む。
【0060】
<塗布工程>
塗布工程は、上述した含金属酸化セルロースナノファイバーが分散媒中に分散した分散液を基材に塗布する工程である。
【0061】
[塗布方法]
塗布方法としては、スプレー塗布、浸漬塗布、ブレード塗布、スピン塗布、ロール塗布、ビーム塗布、スパイラル塗布、などが挙げられるが、高分散性の観点から、スプレー塗布が好ましい。
【0062】
[基材]
塗布対象としての基材の接触角は、5°以上90°以下である限り、特に制限はなく、10°以上であることが好ましく、また、88°以下であることがより好ましい。基材の接触角が10°以上であれば、流れ落ちたり、浸み込んだりするのを抑制することができる。また、基材の接触角が88°以下であれば、分散液を基材に馴染ませることができる。
【0063】
基材の具体例としては、例えば、ガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、セラミックスなどが挙げられる。基材は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、透明である点、付着し易い点で、ガラスが好ましい。
【0064】
[分散液]
分散液の固形分濃度は、特に制限はないが、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、また、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。分散液の固形分濃度が0.01質量%以上であれば、作業効率を向上させることができる。また、分散液の固形分濃度が5質量%以下であれば、塗布やスプレーし易いことができる。
【0065】
分散液における分散媒としては、水;メタノール、エタノール、等の有機溶媒;などが挙げられるが、分散液中で含金属酸化セルロースマナノファイバーを良好に分散させることができる点で、水が好ましい。
【0066】
[基材上に付着した含金属酸化セルロースナノファイバーの平均密度]
また、上述した基材上に付着した含金属酸化セルロースナノファイバーの平均密度は、0.000001mg/mm以上0.1mg/mm以下である限り、特に制限はないが、0.0001mg/mm以上であることが好ましく、0.0002mg/mm以上であることがより好ましく、また、0.07mg/mm以下であることが好ましく、0.05mg/mm以下であることがより好ましく、0.0010mg/mm以下であることが特に好ましく、0.0007mg/mm以下であることが最も好ましい。含金属酸化セルロースナノファイバーの平均密度が0.0001mg/mm以上であれば、より十分な抗菌効果を発揮することができる。また、含金属酸化セルロースナノファイバーの平均密度が0.07mg/mm以下であれば、含金属酸化セルロースナノファイバーがフィルムを形成して基材から剥がれるのをより確実に抑制することができる。
【0067】
<乾燥工程>
乾燥工程は、塗布された分散液を乾燥させる工程である。この乾燥工程を経ることで、含金属酸化セルロースナノファイバーを基材上に略均等に付着させることができる。
【0068】
[乾燥温度]
乾燥温度は、10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、60℃以下であることが好ましく、50℃以下であることがより好ましい。乾燥温度が10℃以上であれば、水を蒸発させることができる。また、乾燥温度が60℃以下であれば、乾燥荒れを抑制することができる。
【0069】
[乾燥時間]
乾燥時間は、30分間以上であることが好ましく、60分間以上であることがより好ましく、300分間以下であることが好ましく、120分間以下であることがより好ましい。乾燥時間が30分間以上であれば、絶乾させることができる。また、乾燥時間が300分間以下であれば、作業効率を向上させることができる。
【0070】
(抗菌基材)
上述した製造方法を用いて製造されうる抗菌基材は、数平均繊維径が30nm以下であり、含金属酸化セルロースナノファイバー1g当たりのナトリウム以外の金属の含有量が0.1mmol/g以上2.5mmol/g以下である含金属酸化セルロースナノファイバーを含んでいる。
そして、この抗菌基材は、一本一本の酸化セルロースナノファイバーに対して効果的に金属を塩の形で含有させた含金属酸化セルロースナノファイバーを使用しているので、優れた抗菌性能を発揮する。
【0071】
なお、前述したように、抗菌基材中の含金属酸化セルロースナノファイバーの平均密度は、0.000001mg/mm以上0.1mg/mm以下である限り、特に制限はないが、0.0001mg/mm以上であることが好ましく、0.0002mg/mm以上であることがより好ましく、また、0.07mg/mm以下であることが好ましく、0.05mg/mm以下であることがより好ましく、0.010mg/mm以下であることが特に好ましく、0.0007mg/mm以下であることが最も好ましい。
【0072】
また、抗菌基材中の含金属酸化セルロースナノファイバーは、含金属酸化セルロースナノファイバーは、数平均繊維長が、50nm以上であることが好ましく、70nm以上であることがより好ましく、100nm以上であることがさらに好ましく、400nm以上であることが特に好ましく、550nm以上であることが最も好ましく、また、2000nm以下であることが好ましく、1500nm以下であることがより好ましく、1000nm以下であることがさらに好ましく、600nm以下であることが特に好ましい。
【0073】
また、抗菌基材中の含金属酸化セルロースナノファイバーは、平均重合度が、100以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましく、500以上であることがさらに好ましく、600以上であることが特に好ましく、また、2000以下であることが好ましく、1500以下であることがより好ましく、1000以下であることがさらに好ましく、700以下であることが特に好ましい。
【0074】
[基材]
塗布対象としての基材の接触角は、5°以上90°以下である限り、特に制限はなく、10°以上であることが好ましく、33°以上であることがより好ましく、また、88°以下であることが好ましく、87°以下であることがより好ましく、57°以下であることが特に好ましい。基材の接触角が10°以上であれば、流れ落ちたり、浸み込んだりするのを抑制することができる。また、基材の接触角が88°以下であれば、分散液を基材に馴染ませることができる。
【0075】
基材の具体例としては、例えば、ガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、セラミックスなどが挙げられる。基材は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、透明である点、付着し易い点で、ガラスが好ましい。
【実施例
【0076】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」は、特に断らない限り、質量基準である。
なお、本実施例において、「酸化セルロースナノファイバーのカルボキシル基量」、「含金属酸化セルロースナノファイバーの数平均繊維径」、「含金属酸化セルロースナノファイバーの数平均繊維長」、「含金属酸化セルロースナノファイバーの重合度」、「含金属酸化セルロースナノファイバーの金属量」、「基材の接触角」、「基材上に付着した含金属酸化セルロースナノファイバーの平均密度」、「抗菌基材の抗菌性能」、「抗菌基材の耐久性」、並びに、「抗菌基材の見た目」は、それぞれ以下の方法を使用して評価した。
【0077】
<酸化セルロースナノファイバーのカルボキシル基量>
乾燥重量を精秤した酸化セルロースナノファイバーのパルプ試料から酸化セルロースナノファイバーの濃度が0.5質量%~1質量%の分散液を60mL調製した。次に、0.1Mの塩酸によって分散液のpHを約2.5とした後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、pHが11になるまでの電気伝導度の変化を観測した。そして、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下式を用いて酸化セルロースナノファイバー中のカルボキシル基量を算出した。
カルボキシル基量(mmol/g)={V(mL)×0.05}/パルプ試料の質量(g)
【0078】
<含金属酸化セルロースナノファイバーの数平均繊維径>
含金属酸化セルロースナノファイバー分散液を希釈して、含金属酸化セルロースナノファイバーの濃度が0.0001%の分散液を調製した。その後、得られた分散液をマイカ上に滴下し、乾燥させて観察試料とした。そして、原子間力顕微鏡(Dimension
FastScan AFM、BRUKER社製、Tapping mode)を使用して観察試料を観察し、含金属酸化セルロースナノファイバーが確認できる画像において、含金属酸化セルロースナノファイバー5本以上の繊維径を測定し、平均値を算出した。結果を表1に示す。
【0079】
<含金属酸化セルロースナノファイバーの数平均繊維長>
含金属酸化セルロースナノファイバー分散液を希釈して、含金属酸化セルロースナノファイバーの濃度が0.0001%の分散液を調製した。その後、得られた分散液をマイカ上に滴下し、乾燥させて観察試料とした。そして、原子間力顕微鏡(Dimension FastScan AFM、BRUKER社製、Tapping mode)を使用して観察試料を観察し、含金属酸化セルロースナノファイバーが確認できる画像において、含金属酸化セルロースナノファイバー5本以上の繊維長を測定し、平均値を算出した。
【0080】
<含金属酸化セルロースナノファイバーの重合度>
調製した含金属酸化セルロースナノファイバーを水素化ホウ素ナトリウムで還元し、分子中に残存しているアルデヒド基をアルコールに還元した。その後、還元処理を施した含金属酸化セルロースナノファイバーを0.5Mの銅エチレンジアミン溶液に溶解させ、粘度法にて重合度を求めた。具体的には、「Isogai,A.,Mutoh,N.,Onabe,F.,Usuda,M.,“Viscosity measurements of cellulose/SO2-amine-dimethylsulfoxide solution”, Sen’i Gakkaishi, 45, 299-306 (1989).」に準拠して、重合度を求めた。
なお、水素化ホウ素ナトリウムを用いた還元処理は、アルデヒド基が残存していた場合に銅エチレンジアミン溶液への溶解過程でベータ脱離反応が起こって分子量が低下するのを防止するために行ったものである。
【0081】
<含金属酸化セルロースナノファイバーの金属量>
ICP-AES法により、含金属酸化セルロースナノファイバー中の金属を定性および定量した。なお、測定にはSPS5100(SIIナノテクノロジー製)を用いた。また、イオンクロマトグラフ法により、各イオンの量を定量した。なお、測定には、DX500(DIONEX製)を用いた。結果を表1に示す。
そして、各測定結果から、酸化セルロースナノファイバーのカルボキシル基と塩を形成している金属の量を求めた。
【0082】
<基材の接触角>
接触角計(協和界面科学製 Drop Master 100)を用いて、液適法θ/2法で、基材(ガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、メラミン樹脂、綿)の接触角を測定した。溶媒は水を用い、液滴後1秒の値を測定値とした。基材が綿の場合のみ、液滴後0.1秒の値を測定値とした。結果を表1に示す。
【0083】
<基材上に付着した含金属酸化セルロースナノファイバーの平均密度>
調製した含金属酸化セルロースナノファイバー水分散液を、縦50mm、横50mm、厚さ1.8mmの基材の片面に均一にスプレーした後、その基材を室温で乾燥した。その基材のスプレー前後の質量を測定し、面積2500mmで割ってその基材上の含金属酸化セルロースナノファイバーの密度を計算した。結果を表1に示す。
【0084】
<抗菌基材の抗菌性能>
調製した含金属酸化セルロースナノファイバー水分散液を、縦50mm、横50mm、厚さ1.8mmの基材の片面に均一にスプレーした後、その基材を室温で乾燥した。乾燥後の抗菌基材をJIS Z 2801に準拠して抗菌性能を評価した。結果を表1に示す。表1では、黄色ぶどう球菌および大腸菌に対する抗菌活性値が示されている。ここで、抗菌活性値が2以上であれば、抗菌性能を有しているとした。
【0085】
<抗菌基材の耐久性>
調製した含金属酸化セルロースナノファイバー水分散液を、縦50mm、横50mm、厚さ1.8mmの基材の片面に均一にスプレーした後、その基材を室温で乾燥した。乾燥後の抗菌基材を25℃、50%RH環境下で30日間放置後、表面の埃を払って、抗菌性を確認した。下記評価基準による結果を表1に示す。
[評価基準]
○:抗菌性を維持
△:基材から一部含金属酸化セルロースナノファイバーが剥がれ落ち、抗菌性が落ちた。
×:基材から含金属酸化セルロースナノファイバーが剥がれ落ち、抗菌性なし。
【0086】
<抗菌基材の見た目>
調製した含金属酸化セルロースナノファイバー水分散液を、縦50mm、横50mm、厚さ1.8mmの基材の片面に均一にスプレーした後、その基材を室温で乾燥した。乾燥後の抗菌基材を25℃、50%RH環境下で30日間放置後、スプレーした面を目視で観察した。下記評価基準による結果を表1に示す。
[評価基準]
○:元の基材から見た目の変化なし
×:疎らにシミが出ていた。
【0087】
(実施例1)
<酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
乾燥重量で1g相当分の針葉樹漂白クラフトパルプ、5mmolの次亜塩素酸ナトリウム、0.1g(1mmol)の臭化ナトリウムおよび0.016g(1mmol)のTEMPOを100mLの水に分散させ、室温で4時間穏やかに撹拌し、蒸留水で洗浄することで、TEMPO触媒酸化パルプ(酸化セルロース)を得た。なお、得られたTEMPO触媒酸化パルプのカルボキシル基量は、1.4mmol/gであった。
その後、未乾燥のTEMPO触媒酸化パルプに蒸留水を加え、固形分濃度0.1%の水分散液を調製した。そして、水分散液に、ホモジナイザー(マイクロテック・ニチオン製、ヒスコトロン)を使用して7.5×1000rpmで2分間、超音波ホモジナイザー(nissei製、Ultrasonic Generator)を使用し、容器の周りを氷で冷やしながら、V-LEVEL4、TIP26Dで4分間の解繊処理を施すことで、酸化セルロースナノファイバーとしてカルボキシル化セルロースナノファイバーを含む水分散液を得た。その後、カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液から、遠心分離機(SAKUMA製、M201-1VD、アングルローター50F-8AL)を使用した遠心分離(12000G(120×100rpm/g)、10分間、12℃)により未解繊成分を取り除き、透明な液体である濃度0.1%のカルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を得た。なお、カルボキシル化セルロースナノファイバーは、共酸化剤由来のナトリウム(第1の金属)を塩の形で含有していた。
【0088】
<水素置換した酸化セルロースナノファイバー(TOCN-H)分散液の調製>
100mLのカルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液に対し、撹拌下で1Mの塩酸1mLを加えてpHを1に調整した。そして、60分間撹拌を継続した(水素置換工程)。
その後、塩酸の添加によりゲル化したカルボキシル化セルロースナノファイバーを遠心分離(12000G)により回収し、回収したカルボキシル化セルロースナノファイバーを1Mの塩酸および多量の蒸留水で順次洗浄した(第一の洗浄工程)。
次に、100mLの蒸留水を加え、水素置換されたカルボキシル化セルロースナノファイバーが分散した濃度0.1%の水素置換カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を得た(第一の分散工程)。なお、水素置換されたカルボキシル化セルロースナノファイバーの表面のカルボキシル基は、Biomacromolecules(2011年,第12巻,第518-522ページ)に従いFT-IR(日本分光製、FT/IR-6100)で測定したところ、90%以上がカルボン酸型に置換されていた。
【0089】
<含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
上記濃度0.1%の水素置換カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液50gを撹拌し、そこへ濃度0.1%の酢酸銅(II)水溶液18gを加え、室温で3時間撹拌を継続した(金属置換工程)。その後、酢酸銅(II)水溶液の添加によりゲル化したカルボキシル化セルロースナノファイバーを遠心分離機(SAKUMA製、M201-1VD、アングルローター50F-8AL)を使用して遠心分離(12000G(120×100rpm/g)、10分間、12℃)により回収した後、濃度0.1%の酢酸銅(II)水溶液にて回収したセルロースナノファイバーを洗浄し、次に、回収したセルロースナノファイバーを多量の蒸留水で洗浄した(洗浄工程)。
その後、50mLの蒸留水を加え、超音波ホモジナイザー(nissei製、Ultrasonic Generator)を使用し、容器の周りを氷で冷やしながら、V-LEVEL4、TIP26Dで超音波処理(2分間)を行うことで、銅で置換されたカルボキシル化セルロースナノファイバーを分散させた。その後、銅で置換されたカルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液から、遠心分離機(SAKUMA製、M201-1VD、アングルローター50F-8AL)を使用した遠心分離(12000G(120×100rpm/g)、10分間、12℃)により未解繊成分を取り除き、透明な液体である濃度0.1%の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を得た(分散工程)。
【0090】
<含金属酸化セルロースナノファイバーの性能評価>
2枚の偏光板をクロスニコルの状態に配し、反対側から光を当て、その偏光板の間で含金属酸化セルロースナノファイバー水分散液を揺らすと複屈折を観測できた。これにより、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーが水中で良好に分散していることが確認された。また、AFMによる画像から、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーは数平均繊維径が3.13nmで、ミクロフィブリルレベルまで水中で分散していることが確認できた。なお、複屈折と分散性との関係については、国際公開第2009/069641号等に開示されている。
更に、SPS5100(SIIナノテクノロジー製)のICP-AES測定による測定の結果、得られた含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーには、銅(Cu)が0.7mmol/g含有されており、ナトリウムの量は1質量ppm以下であることが分かった。また、DX500(DIONEX製)を用いたイオンクロマトグラフ法によるイオン量の定量の結果、酢酸イオン量が0.5質量ppm以下、塩素イオン量が0.1質量ppm以下であることが分かった。そして、これらの結果より、上記含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーでは、カルボキシル化セルロースナノファイバーのナトリウムイオンが銅イオンで置換されており、カルボキシル基2つに対して1個の銅イオンが結合していると推察される。
なお、上記含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの数平均繊維長は550nmであった。また、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均重合度は600であった。
そして、得られた含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液をソーダガラス(接触角33°)上にスプレーし、乾燥し、前記抗菌性能を評価する方法に従い、抗菌性能を評価した。その時のソーダガラス上の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均密度は、0.0002mg/mmであった。
評価結果を実施例1として表1に示す。
【0091】
(実施例2)
<酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
実施例1と同様にして濃度0.1%のカルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を得た。
【0092】
<水素置換した酸化セルロースナノファイバー(TOCN-H)分散液の調製>
実施例1と同様にして濃度0.1%の水素置換カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を得た。
【0093】
<含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
金属置換工程において、上記濃度0.1%の水素置換カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液50gを撹拌し、そこへ濃度0.1%の酢酸亜鉛(II)水溶液19.5gを加えて、室温で3時間撹拌を継続した(金属置換工程)。その後、酢酸亜鉛(II)水溶液の添加によりゲル化したカルボキシル化セルロースナノファイバーを遠心分離機(SAKUMA製、M201-1VD、アングルローター50F-8AL)を使用して遠心分離(12000G(120×100rpm/g)、10分間、12℃)により回収した後、濃度0.1%の酢酸亜鉛(II)水溶液にて回収したセルロースナノファイバーを洗浄し、次に、回収したセルロースナノファイバーを多量の蒸留水で洗浄した(洗浄工程)。
その後、50mLの蒸留水を加え、超音波ホモジナイザー(nissei製、Ultrasonic Generator)を使用し、容器の周りを氷で冷やしながら、V-LEVEL4、TIP26Dで超音波処理(2分間)を行うことで、亜鉛で置換されたカルボキシル化セルロースナノファイバーを分散させた。その後、亜鉛で置換されたカルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液から、遠心分離機(SAKUMA製、M201-1VD、アングルローター50F-8AL)を使用した遠心分離(12000G(120×100rpm/g)、10分間、12℃)により未解繊成分を取り除き、透明な液体である濃度0.1%の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を得た(分散工程)。
【0094】
<含金属酸化セルロースナノファイバーおよび抗菌基材の性能評価>
2枚の偏光板をクロスニコルの状態に配し、反対側から光を当て、その偏光板の間で含金属酸化セルロースナノファイバー水分散液を揺らすと複屈折を観測できた。これにより、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーが水中で良好に分散していることが確認された。また、AFMによる画像から、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーは数平均繊維径が3.13nmで、ミクロフィブリルレベルまで水中で分散していることが確認できた。なお、複屈折と分散性との関係については、国際公開第2009/069641号等に開示されている。
更に、SPS5100(SIIナノテクノロジー製)のICP-AES測定による測定の結果、得られた含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーには、亜鉛(Zn)が0.7mmol/g含有されており、ナトリウムの量は1質量ppm以下であることが分かった。また、DX500(DIONEX製)を用いたイオンクロマトグラフ法によるイオン量の定量の結果、酢酸イオン量が0.5質量ppm以下、塩素イオン量が0.1質量ppm以下であることが分かった。そして、これらの結果より、上記含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーでは、カルボキシル化セルロースナノファイバーのナトリウムイオンが亜鉛イオンで置換されており、カルボキシル基2つに対して1個の亜鉛イオンが結合していると推察される。
なお、上記含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの数平均繊維長は550nmであった。また、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均重合度は600であった。
そして、得られた含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液をソーダガラス(接触角33°)上にスプレーし、乾燥し、前記抗菌性能を評価する方法に従い、抗菌性能を評価した。その時のソーダガラス上の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均密度は、0.0002mg/mmであった。
評価結果を実施例2として表1に示す。
【0095】
(実施例3)
<酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
実施例1と同様にして濃度0.1%のカルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を得た。
【0096】
<水素置換した酸化セルロースナノファイバー(TOCN-H)分散液の調製>
実施例1と同様にして濃度0.1%の水素置換カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を得た。
【0097】
<含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
金属置換工程において、上記濃度0.1%の水素置換カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液50gを撹拌し、そこへ濃度0.1%の酢酸銀(I)水溶液18gを加えて、室温で3時間撹拌を継続した(金属置換工程)。その後、酢酸銀(I)水溶液の添加によりゲル化したカルボキシル化セルロースナノファイバーを遠心分離機(SAKUMA製、M201-1VD、アングルローター50F-8AL)を使用して遠心分離(12000G(120×100rpm/g)、10分間、12℃)により回収した後、濃度0.1%の酢酸銀(I)水溶液にて回収したセルロースナノファイバーを洗浄し、次に、回収したセルロースナノファイバーを多量の蒸留水で洗浄した(洗浄工程)。
その後、50mLの蒸留水を加え、超音波ホモジナイザー(nissei製、Ultrasonic Generator)を使用し、容器の周りを氷で冷やしながら、V-LEVEL4、TIP26Dで超音波処理(2分間)を行うことで、銀で置換されたカルボキシル化セルロースナノファイバーを分散させた。その後、銀で置換されたカルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液から、遠心分離機(SAKUMA製、M201-1VD、アングルローター50F-8AL)を使用した遠心分離(12000G(120×100rpm/g)、10分間、12℃)により未解繊成分を取り除き、透明な液体である濃度0.1%の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を得た(分散工程)。
【0098】
<含金属酸化セルロースナノファイバーおよび抗菌基材の性能評価>
2枚の偏光板をクロスニコルの状態に配し、反対側から光を当て、その偏光板の間で含金属酸化セルロースナノファイバー水分散液を揺らすと複屈折を観測できた。これにより、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーが水中で良好に分散していることが確認された。また、AFMによる画像から、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーは数平均繊維径が3.13nmで、ミクロフィブリルレベルまで水中で分散していることが確認できた。なお、複屈折と分散性との関係については、国際公開第2009/069641号等に開示されている。
更に、SPS5100(SIIナノテクノロジー製)のICP-AES測定による測定の結果、得られた含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーには、銀(Ag)が1.4mmol/g含有されており、ナトリウムの量は1質量ppm以下であることが分かった。また、DX500(DIONEX製)を用いたイオンクロマトグラフ法によるイオン量の定量の結果、酢酸イオン量が0.5質量ppm以下、塩素イオン量が0.1質量ppm以下であることが分かった。そして、これらの結果より、上記含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーでは、カルボキシル化セルロースナノファイバーのナトリウムイオンが銀イオンで置換されており、カルボキシル基1つに対して1個の銀イオンが結合していると推察される。
なお、上記含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの数平均繊維長は550nmであった。また、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均重合度は600であった。
そして、得られた含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液をソーダガラス(接触角33°)上にスプレーし、乾燥し、前記抗菌性能を評価する方法に従い、抗菌性能を評価した。その時のソーダガラス上の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均密度は、0.0007mg/mmであった。
評価結果を実施例3として表1に示す。
【0099】
(実施例4)
<酸化セルロースナノファイバー(TOCN)分散液の調製>
実施例1と同様にして濃度0.1%のカルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を得た。
【0100】
<含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
金属置換工程において、上記濃度0.1%のカルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液50gを撹拌し、そこへ銅の塩の水溶液として濃度0.1%の酢酸銅(II)水溶液18gを加え、室温で3時間撹拌を継続した(金属置換工程)。その後、酢酸銅(II)水溶液の添加によりゲル化したカルボキシル化セルロースナノファイバーを遠心分離機(SAKUMA製、M201-1VD、アングルローター50F-8AL)を使用して遠心分離(12000G(120×100rpm/g)、10分間、12℃)により回収した後、濃度0.1%の酢酸銅(II)水溶液にて回収したセルロースナノファイバーを洗浄し、次に、回収したセルロースナノファイバーを多量の蒸留水で洗浄した(洗浄工程)。
その後、50mLの蒸留水を加え、超音波ホモジナイザー(nissei製、Ultrasonic Generator)を使用し、容器の周りを氷で冷やしながら、V-LEVEL4、TIP26Dで超音波処理(2分間)を行うことで、銅で置換されたカルボキシル化セルロースナノファイバーを分散させた。その後、銅で置換されたカルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液から、遠心分離機(SAKUMA製、M201-1VD、アングルローター50F-8AL)を使用した遠心分離(12000G(120×100rpm/g)、10分間、12℃)により未解繊成分を取り除き、透明な液体である濃度0.1%の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を得た(分散工程)。
【0101】
<含金属酸化セルロースナノファイバーおよび抗菌基材の性能評価>
2枚の偏光板をクロスニコルの状態に配し、反対側から光を当て、その偏光板の間で含金属酸化セルロースナノファイバー水分散液を揺らすと複屈折を観測できた。これにより、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーが水中で良好に分散していることが確認された。また、AFMによる画像から、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーは数平均繊維径が3.2nmで、ミクロフィブリルレベルまで水中で分散していることが確認できた。なお、複屈折と分散性との関係については、国際公開第2009/069641号等に開示されている。
更に、SPS5100(SIIナノテクノロジー製)のICP-AES測定による測定の結果、得られた含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーには、銅(Cu)が0.7mmol/g含有されており、ナトリウムの量は1質量ppm以下であることが分かった。また、DX500(DIONEX製)を用いたイオンクロマトグラフ法によるイオン量の定量の結果、酢酸イオン量が0.5質量ppm以下であることが分かった。そして、これらの結果より、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーでは、カルボキシル化セルロースナノファイバーのナトリウムイオンが銅イオンで置換されており、カルボキシル基2つに対して1個の銅イオンが結合していると推察される。
なお、上記含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの数平均繊維長は550nmであった。また、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均重合度は600であった。
そして、得られた含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液をソーダガラス(接触角33°)上にスプレーし、乾燥し、前記抗菌性能を評価する方法に従い、抗菌性能を評価した。その時のソーダガラス上の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均密度は、0.0002mg/mmであった。
評価結果を実施例4として表1に示す。
【0102】
(実施例5)
実施例4において、基材として、ソーダガラス(接触角33°)を用いることに代えて、アクリル樹脂(接触角57°)を用いたこと以外は、実施例4と同様に、「酸化セルロースナノファイバー(TOCN)分散液の調製」、「含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の調製」、並びに、「含金属酸化セルロースナノファイバーおよび抗菌基材の性能評価」を行った。なお、その時のアクリル樹脂上の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均密度は、0.0002mg/mmであった。評価結果を実施例5として表1に示す。
【0103】
(実施例6)
実施例4において、基材として、ソーダガラス(接触角33°)を用いることに代えて、ポリカーボネート樹脂(接触角87°)を用いたこと以外は、実施例4と同様に、「酸化セルロースナノファイバー(TOCN)分散液の調製」、「含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の調製」、並びに、「含金属酸化セルロースナノファイバーおよび抗菌基材の性能評価」を行った。なお、その時のポリカーボネート樹脂上の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均密度は、0.0002mg/mmであった。評価結果を実施例6として表1に示す。
【0104】
(実施例7)
実施例4において、ソーダガラス上の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均密度が0.0002mg/mmである抗菌基材を用いることに代えて、ソーダガラス上の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均密度が0.05mg/mmである抗菌基材を用いたこと以外は、実施例4と同様に、「酸化セルロースナノファイバー(TOCN)分散液の調製」、「含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の調製」、並びに、「含金属酸化セルロースナノファイバーおよび抗菌基材の性能評価」を行った。評価結果を実施例7として表1に示す。
【0105】
(比較例1:金属交換なし、Naイオンそのまま)
<酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
実施例1と同様にして濃度0.1%のカルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を得た。
【0106】
<含金属酸化セルロースナノファイバーの性能評価>
2枚の偏光板をクロスニコルの状態に配し、反対側から光を当て、その偏光板の間で含金属酸化セルロースナノファイバー水分散液を揺らすと複屈折を観測できた。これにより、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーが水中で良好に分散していることが確認された。また、AFMによる画像から、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーは数平均繊維径が3.2nmで、ミクロフィブリルレベルまで水中で分散していることが確認できた。なお、複屈折と分散性との関係については、国際公開第2009/069641号等に開示されている。
更に、SPS5100(SIIナノテクノロジー製)のICP-AES測定による測定の結果、得られた含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーには、ナトリウム(Na)が1.4mmol/g含有されていることが分かった。そして、これらの結果より、上記含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーでは、カルボキシル化セルロースナノファイバーのカルボキシル基1つに対して1個のナトリウムイオンが結合していると推察される。
なお、上記含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの数平均繊維長は570nmであった。また、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均重合度は610であった。
そして、得られた含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液をソーダガラス(接触角33°)上にスプレーし、乾燥し、前記抗菌性能を評価する方法に従い、抗菌性能を評価した。その時のソーダガラス上の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均密度は、0.0002mg/mmであった。
評価結果を比較例1として表1に示す。
【0107】
(比較例2)
<水分散液の調製>
乾燥重量で1g相当分の針葉樹漂白クラフトパルプ、5mmolの次亜塩素酸ナトリウム、0.1g(1mmol)の臭化ナトリウムおよび0.016g(1mmol)のTEMPOを100mLの水に分散させ、室温で4時間穏やかに撹拌し、蒸留水で洗浄することで、TEMPO触媒酸化パルプ(酸化セルロース)(TOC)を得た。なお、得られたTEMPO触媒酸化パルプのカルボキシル基量は、1.4mmol/gであった。
その後、未乾燥のTEMPO触媒酸化パルプに蒸留水を加え、固形分濃度0.1%の水分散液を調製した。
【0108】
<TEMPO触媒酸化パルプ水分散液の調製>
金属置換工程において、上記濃度0.1%の水分散液50gを撹拌し、そこへ濃度0.1%の酢酸銅(II)水溶液18gを加えて、室温で3時間撹拌を継続した。次いで、そのTEMPO触媒酸化パルプを遠心分離(12000G)により回収した後、濃度0.1%の酢酸銅(II)水溶液にて回収したTEMPO触媒酸化パルプを洗浄した(洗浄工程)。
更に、回収したTEMPO触媒酸化パルプを多量の蒸留水で洗浄した後、50mLの蒸留水を加えて、濃度0.1%のTEMPO触媒酸化パルプ水分散液を得た(分散工程)。
【0109】
<TEMPO触媒酸化パルプの性能評価>
SPS5100(SIIナノテクノロジー製)のICP-AES測定による測定の結果、得られたTEMPO触媒酸化パルプには、銅(Cu)が0.7mmol/g含有されており、ナトリウムの量は1質量ppm以下であることが分かった。また、DX500(DIONEX製)を用いたイオンクロマトグラフ法によるイオン量の定量の結果、酢酸イオン量が0.5質量ppm以下であることが分かった。そして、これらの結果より、上記TEMPO触媒酸化パルプは、TEMPO触媒酸化パルプ中のナトリウムイオンが銅イオンで置換されており、カルボキシル基2つに対して1個の銅イオンが結合していると推察される。
なお、上記TEMPO触媒酸化パルプは、ナノ分散しておらず、数平均繊維径が20μm(20000nm)であり、数平均繊維長が1mmであった。また、TEMPO触媒酸化パルプの平均重合度は再凝集していたため測定できなかった。
そして、得られたTEMPO触媒酸化パルプ水分散液をソーダガラス(接触角33°)上にスプレーし、乾燥し、前記抗菌性能を評価する方法に従い、抗菌性能を評価した。その時のソーダガラス上の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均密度は、0.0002mg/mmであった。
評価結果を比較例2として表1に示す。
【0110】
(比較例3)
<酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
実施例1と同様にして濃度0.1%のカルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を得た。
【0111】
<水素置換した酸化セルロースナノファイバー(TOCN-H)分散液の調製>
実施例1と同様にして濃度0.1%の水素置換カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を得た。
【0112】
<含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
金属置換工程において、上記濃度0.1%の水素置換カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液50gを撹拌し、そこへ濃度0.1%の酢酸銅(II)水溶液1gを加えて、室温で3時間撹拌を継続した(金属置換工程)。その後、酢酸銅(II)水溶液の添加によりゲル化したカルボキシル化セルロースナノファイバーを遠心分離機(SAKUMA製、M201-1VD、アングルローター50F-8AL)を使用して遠心分離(12000G(120×100rpm/g)、10分間、12℃)により回収した後、濃度0.1%の酢酸銅(II)水溶液にて回収したセルロースナノファイバーを洗浄し、次に、回収したセルロースナノファイバーを多量の蒸留水で洗浄した(洗浄工程)。
その後、50mLの蒸留水を加え、超音波ホモジナイザー(nissei製、Ultrasonic Generator)を使用し、容器の周りを氷で冷やしながら、V-LEVEL4、TIP26Dで超音波処理(2分間)を行うことで、銅で置換されたカルボキシル化セルロースナノファイバーを分散させた。その後、銅で置換されたカルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液から、遠心分離機(SAKUMA製、M201-1VD、アングルローター50F-8AL)を使用した遠心分離(12000G(120×100rpm/g)、10分間、12℃)により未解繊成分を取り除き、透明な液体である濃度0.1%の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を得た(分散工程)。
【0113】
<含金属酸化セルロースナノファイバーおよび抗菌基材の性能評価>
2枚の偏光板をクロスニコルの状態に配し、反対側から光を当て、その偏光板の間で含金属酸化セルロースナノファイバー水分散液を揺らすと複屈折を観測できた。これにより、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーが水中で良好に分散していることが確認された。また、AFMによる画像から、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーは数平均繊維径が3.13nmで、ミクロフィブリルレベルまで水中で分散していることが確認できた。なお、複屈折と分散性との関係については、国際公開第2009/069641号等に開示されている。
更に、SPS5100(SIIナノテクノロジー製)のICP-AES測定による測定の結果、得られた含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーには、銅(Cu)が0.05mmol/g含有されており、ナトリウムの量は1質量ppm以下であることが分かった。また、DX500(DIONEX製)を用いたイオンクロマトグラフ法によるイオン量の定量の結果、酢酸イオン量が0.5質量ppm以下、塩素イオン量が0.1質量ppm以下であることが分かった。そして、これらの結果より、上記含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーでは、カルボキシル化セルロースナノファイバーのナトリウムイオンが銅イオンで置換されており、カルボキシル基2つに対して1個の銅イオンが結合していると推察される。
なお、上記含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの数平均繊維長は550nmであった。また、含金属酸化セルロースナノファイバーの平均重合度は600であった。
そして、得られた含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液をソーダガラス(接触角33°)上にスプレーし、乾燥し、前記抗菌性能を評価する方法に従い、抗菌性能を評価した。その時のソーダガラス上の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均密度は、0.0002mg/mmであった。
評価結果を比較例3として表1に示す。
【0114】
(比較例4)
<酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
実施例1と同様にして濃度0.1%のカルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を得た。
【0115】
<水素置換した酸化セルロースナノファイバー(TOCN-H)分散液の調製>
実施例1と同様にして濃度0.1%の水素置換カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を得た。
【0116】
<含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
金属置換工程において、上記濃度0.1%の水素置換カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液50gを撹拌し、そこへ濃度0.1%の酢酸銅(II)水溶液18gを加えて、室温で3時間撹拌を継続した(金属置換工程)。その後、酢酸銅(II)水溶液の添加によりゲル化したカルボキシル化セルロースナノファイバーを遠心分離機(SAKUMA製、M201-1VD、アングルローター50F-8AL)を使用して遠心分離(12000G(120×100rpm/g)、10分間、12℃)により回収した後、濃度0.1%の酢酸銅(II)水溶液にて回収したセルロースナノファイバーを洗浄し、次に、回収したセルロースナノファイバーを多量の蒸留水で洗浄した(洗浄工程)。pHは5.5であった。
その後、50mLの蒸留水を加え、超音波ホモジナイザー(nissei製、Ultrasonic Generator)を使用し、容器の周りを氷で冷やしながら、V-LEVEL4、TIP26Dで超音波処理(2分間)を行うことで、銅で置換されたカルボキシル化セルロースナノファイバーを分散させた。その後、銅で置換されたカルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液から、遠心分離機(SAKUMA製、M201-1VD、アングルローター50F-8AL)を使用した遠心分離(12000G(120×100rpm/g)、10分間、12℃)により未解繊成分を取り除き、透明な液体である濃度0.1%の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を得た(分散工程)。
【0117】
<含金属酸化セルロースナノファイバーおよび抗菌基材の性能評価>
2枚の偏光板をクロスニコルの状態に配し、反対側から光を当て、その偏光板の間で含金属酸化セルロースナノファイバー水分散液を揺らすと複屈折を観測できた。これにより、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーが水中で良好に分散していることが確認された。また、AFMによる画像から、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーは数平均繊維径が3.13nmで、ミクロフィブリルレベルまで水中で分散していることが確認できた。なお、複屈折と分散性との関係については、国際公開第2009/069641号等に開示されている。
更に、SPS5100(SIIナノテクノロジー製)のICP-AES測定による測定の結果、得られた含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーには、銅(Cu)が0.7mmol/g含有されており、ナトリウムの量は1質量ppm以下であることが分かった。また、DX500(DIONEX製)を用いたイオンクロマトグラフ法によるイオン量の定量の結果、酢酸イオン量が0.5質量ppm以下、塩素イオン量が0.1質量ppm以下であることが分かった。そして、これらの結果より、上記含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーでは、カルボキシル化セルロースナノファイバーのナトリウムイオンが銅イオンで置換されており、カルボキシル基2つに対して1個の銅イオンが結合していると推察される。
なお、上記含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの数平均繊維長は550nmであった。また、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均重合度は600であった。
そして、得られた含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液をソーダガラス(接触角33°)上にスプレーし、乾燥し、前記抗菌性能を評価する方法に従い、抗菌性能を評価した。その時のソーダガラス上の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均密度は、0.3mg/mmであった。
評価結果を比較例4として表1に示す。
【0118】
(比較例5)
実施例4において、基材として、ソーダガラス(接触角33°)を用いることに代えて、メラミン樹脂(接触角100°)を用いたこと以外は、実施例4と同様に、「酸化セルロースナノファイバー(TOCN)分散液の調製」、「含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の調製」、並びに、「含金属酸化セルロースナノファイバーおよび抗菌基材の性能評価」を行った。なお、その時のメラミン樹脂上の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均密度は、0.0002mg/mmであった。評価結果を比較例5として表1に示す。しかし、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーがメラミン樹脂上で疎らに分布した。
【0119】
(比較例6)
実施例4において、基材として、ソーダガラス(接触角33°)を用いることに代えて、綿(接触角3°)を用いたこと以外は、実施例4と同様に、「酸化セルロースナノファイバー(TOCN)分散液の調製」、「含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の調製」、並びに、「含金属酸化セルロースナノファイバーおよび抗菌基材の性能評価」を行った。なお、その時の綿上の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均密度は、0.0000006mg/mmであった。評価結果を比較例6として表1に示す。ここで、分散液が綿内に浸み込んでしまい含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの綿表面の存在率(平均密度)は低くなった。
【0120】
(比較例7)
実施例4において、基材として、ソーダガラス(接触角33°)を用いることに代えて、濾紙(製造会社名:ADVANTEC、商品名:定性濾紙No.2、φ150mm)(接触角4°)を用いたこと以外は、実施例4と同様に、「酸化セルロースナノファイバー(TOCN)分散液の調製」、「含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の調製」、並びに、「含金属酸化セルロースナノファイバーおよび抗菌基材の性能評価」を行った。なお、その時の濾紙上の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均密度は、0.0000007mg/mmであった。評価結果を比較例7として表1に示す。ここで、分散液が濾紙内に浸み込んだり、濾紙を通過してしまい含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの濾紙表面の存在率(平均密度)は低くなった。
【0121】
【表1】
【0122】
表1から、実施例1~7の抗菌基材は、ナトリウム以外の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーが基材上に付着した抗菌基材であって、含金属酸化セルロースナノファイバーの数平均繊維径が30nm以下であり、含金属酸化セルロースナノファイバー1g当たりの前記ナトリウム以外の金属の含有量が0.1mmol/g以上2.5mmol/g以下であり、基材上に付着した含金属酸化セルロースナノファイバーの平均密度が0.000001mg/mm以上0.1mg/mm以下であり、基材の接触角が5°以上90°以下であるので、生活環境などで発生する菌(例えば、黄色ぶどう球菌、大腸菌)を効果的且つ持続的に抗菌することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明によれば、生活環境などで発生する菌を効果的且つ持続的に抗菌する抗菌基材およびその製造方法を提供することができる。