(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】シリコン単結晶基板中のドナー濃度の制御方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/265 20060101AFI20230418BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
H01L21/265 W
H01L21/66 L
H01L21/265 602A
(21)【出願番号】P 2020067011
(22)【出願日】2020-04-02
【審査請求日】2022-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】竹野 博
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-096338(JP,A)
【文献】特開2015-037194(JP,A)
【文献】国際公開第2019/239762(WO,A1)
【文献】特開2017-063187(JP,A)
【文献】国際公開第2013/141221(WO,A1)
【文献】特開2019-062189(JP,A)
【文献】特開2006-344977(JP,A)
【文献】国際公開第2011/052787(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/055352(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/265
H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドナー濃度を制御するシリコン単結晶基板を準備する準備工程、
前記準備したシリコン単結晶基板にプロトンを照射する第2のプロトン照射工程、
該第2のプロトン照射工程後の前記シリコン単結晶基板に熱処理を施す第2の熱処理工程と、
を行うことでドナー濃度を制御するシリコン単結晶基板中のドナー濃度の制御方法であって、
前記準備工程を行う前に予め、酸素濃度及び炭素濃度が異なる複数の試験用シリコン単結晶基板にプロトンを照射する第1のプロトン照射工程、
該第1のプロトン照射工程後の前記複数の試験用シリコン基板に熱処理を行う第1の熱処理工程、
該第1の熱処理工程後の前記複数の試験用シリコン単結晶基板中に発生したドナー増加量を測定する測定工程、
測定した前記ドナー増加量と前記複数の試験用シリコン基板の前記酸素濃度と前記炭素濃度の積との相関関係を取得する相関関係取得工程と、
を有し、
該取得した前記相関関係に基づいて、前記第2の熱処理工程後の前記ドナー濃度を制御するシリコン単結晶基板中のドナー濃度が目標値になるように、前記準備工程で準備する前記ドナー濃度を制御するシリコン単結晶基板の酸素濃度と炭素濃度を調整することを特徴とするシリコン単結晶基板中のドナー濃度の制御方法。
【請求項2】
前記準備工程で準備する前記ドナー濃度を制御するシリコン単結晶基板の酸素濃度と炭素濃度の積を1×10
32[(atoms/cm
3)]
2以下とし、前記第2の熱処理工程において、熱処理の温度を300~400℃とすることを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶基板中のドナー濃度の制御方法。
【請求項3】
前記準備工程で準備する前記ドナー濃度を制御するシリコン単結晶基板の酸素濃度と炭素濃度の積を2×10
33[(atoms/cm
3)]
2以下とし、前記第2の熱処理工程において、熱処理の温度を425~500℃とすることを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶基板中のドナー濃度の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶基板中のドナー濃度の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチング素子のIGBT(Insulated Gate Bipolor Transistor、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)やダイオードにおいては、高速化、低損失化のために、薄ウエーハの裏面側にフィールドストップ層(あるいは、バッファ層)を形成した構造が用いられている(特許文献1)。また、ソフトリカバリー特性も兼ね備えるように、ウエーハ厚み方向の中央付近にブロードバッファ層を形成した構造も提案されている(特許文献2)。
【0003】
上記バッファ層やブロードバッファ層を形成する方法として、プロトン照射と熱処理によりドナーを形成する方法がある。例えば、特許文献1では、ウエーハを薄くした後にプロトン照射を行い、熱処理(例えば、300℃~500℃)を施してバッファ層を形成する方法が開示されている。また、特許文献2では、プロトン照射する際のプロトンのドーズ量を1×1011atoms/cm2以上1×1014atoms/cm2以下とし、250℃以上500℃以下の熱処理を行うことにより、ブロードバッファ層を形成する方法が開示されている。
【0004】
プロトン照射と熱処理によりバッファ層を形成する方法では、一般的なドーパントのイオン注入と活性化熱処理によりバッファ層を形成する場合と比較して、幅広いバッファ層を深い領域にも形成できることにより、デバイス特性の向上が期待でき、また、低い温度の熱処理でドナーを形成できることにより、ウエーハを薄板化した後のプロセスにおける割れやキズなどの問題を軽減できるという利点がある。
【0005】
一方で、プロトン照射と熱処理により形成されるドナーの濃度は、シリコン単結晶基板中の軽元素不純物である酸素や炭素の濃度の影響を受けることが知られている。例えば、特許文献2では、プロトン照射と熱処理によりブロードバッファ層を形成する領域の酸素原子の濃度は1×1016atoms/cm3以上であるのが良いと記載されている。
【0006】
また、特許文献3では、ドナーの高濃度領域を形成するには、半導体基板がMCZ(Magnetic Field Applied Czochralski)基板、あるいは半導体基板における平均酸素濃度が1.0×1016/cm3以上1.0×1018/cm3以下であってよく、半導体基板における平均炭素濃度が1.0×1014/cm3以上3.0×1015/cm3以下であってよいことが記載されている。
【0007】
また、非特許文献1では、プロトン照射と熱処理により形成したフィールドストップ層の積分ドナー濃度は、酸素濃度が高いほど高くなり、炭素濃度が高いほど高くなる傾向が示されている。
【0008】
このように、プロトン照射と熱処理により形成されるドナーの濃度は、シリコン単結晶基板中の酸素濃度や炭素濃度の影響を受けるため、ドナー濃度はシリコン単結晶基板によってばらつく場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第3684962号
【文献】特許第5104314号
【文献】特許第6311840号
【非特許文献】
【0010】
【文献】H. J. Schulze et. al, Proceedings of the2016 28th International Symposium on Power Semiconductor Devices and ICs (ISPSD), p.355.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
プロトン照射と熱処理によりドナーを形成する方法は、デバイス特性の向上やプロセス負荷の軽減に有効な方法であるが、ドナーの挙動は、軽元素の影響により複雑になるため、ドナー濃度を厳密に制御することが難しい。
【0012】
公知技術では、酸素濃度が一定値以上であればプロトンのドナー化率が向上することや、酸素濃度が高いほど、あるいは炭素濃度が高いほどドナー濃度が増加することが開示されているが、必ずしもそうではない場合があり、酸素濃度あるいは炭素濃度のみではドナー濃度を制御することが難しく、ドナー濃度がばらつく場合があるという問題があった。
【0013】
本発明は、前述のような問題に鑑みてなされたものであって、プロトン照射と熱処理によりドナー濃度を制御するデバイスの製造工程において、シリコン単結晶基板に起因するドナー濃度のばらつきを小さくでき、ドナー濃度を高精度で制御できるシリコン単結晶基板中のドナー濃度の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、
ドナー濃度を制御するシリコン単結晶基板を準備する準備工程、
前記準備したシリコン単結晶基板にプロトンを照射する第2のプロトン照射工程、
該第2のプロトン照射工程後の前記シリコン単結晶基板に熱処理を施す第2の熱処理工程と、
を行うことでドナー濃度を制御するシリコン単結晶基板中のドナー濃度の制御方法であって、
前記準備工程を行う前に予め、酸素濃度及び炭素濃度が異なる複数の試験用シリコン単結晶基板にプロトンを照射する第1のプロトン照射工程、
該第1のプロトン照射工程後の前記複数の試験用シリコン基板に熱処理を行う第1の熱処理工程、
該第1の熱処理工程後の前記複数の試験用シリコン単結晶基板中に発生したドナー増加量を測定する測定工程、
測定した前記ドナー増加量と前記複数の試験用シリコン基板の前記酸素濃度と前記炭素濃度の積との相関関係を取得する相関関係取得工程と、
を有し、
該取得した前記相関関係に基づいて、前記第2の熱処理工程後の前記ドナー濃度を制御するシリコン単結晶基板中のドナー濃度が目標値になるように、前記準備工程で準備する前記ドナー濃度を制御するシリコン単結晶基板の酸素濃度と炭素濃度を調整するシリコン単結晶基板中のドナー濃度の制御方法を提供する。
【0015】
このようなシリコン単結晶基板中のドナー濃度の制御方法によれば、予め試験用のシリコン単結晶基板から得た、第1の熱処理工程後の複数の試験用シリコン単結晶基板中のドナー増加量と酸素濃度と炭素濃度の積との相関関係に基づいて、ドナー濃度を制御するシリコン単結晶基板の酸素濃度と炭素濃度を調整することによりドナー濃度を制御すれば、シリコン単結晶基板に起因するドナー濃度のばらつきを小さくすることができ、高い精度でドナー濃度を制御することができる。
【0016】
このとき、前記準備工程で準備する前記ドナー濃度を制御するシリコン単結晶基板の酸素濃度と炭素濃度の積を1×1032[(atoms/cm3)]2以下とし、前記第2の熱処理工程において、熱処理の温度を300~400℃とすることが好ましい。
【0017】
このように、酸素濃度と炭素濃度の積が1×1032[(atoms/cm3)]2以下で、第2の熱処理の温度が300~400℃であれば、酸素濃度と炭素濃度の積とドナー増加量との間に強い負の相関関係が得られるので、予め複数の試験用シリコン単結晶基板から得た、第1の熱処理工程後の複数の試験用シリコン単結晶基板中のドナー増加量と酸素濃度と炭素濃度の積との相関関係に基づいて、ドナー濃度を制御するシリコン単結晶基板の酸素濃度と炭素濃度を調整することによりドナー濃度を制御すれば、シリコン単結晶基板に起因するドナー濃度のばらつきをより小さくすることができ、より高い精度でドナー濃度を制御することができる。酸素濃度と炭素濃度の積の下限は、特に限定されないが、現状の技術では1×1028[(atoms/cm3)]2程度とすることが好ましい。
【0018】
また、このとき、前記準備工程で準備する前記ドナー濃度を制御するシリコン単結晶基板の酸素濃度と炭素濃度の積を2×1033[(atoms/cm3)]2以下とし、前記第2の熱処理工程において、熱処理の温度を425~500℃とすることが好ましい。
【0019】
このように、酸素濃度と炭素濃度の積を2×1033[(atoms/cm3)]2以下とし、第2の熱処理工程において、熱処理の温度が425~500℃であれば、酸素濃度と炭素濃度の積とドナー増加量との間に強い正の相関関係が得られるので、予め複数の試験用シリコン単結晶基板から得た、第1の熱処理工程後の複数の試験用シリコン単結晶基板中のドナー増加量と酸素濃度と炭素濃度の積との相関関係に基づいて、ドナー濃度を制御するシリコン単結晶基板の酸素濃度と炭素濃度を調整することによりドナー濃度を制御すれば、シリコン単結晶基板に起因するドナー濃度のばらつきをより小さくすることができ、より高い精度でドナー濃度を制御することができる。
また、酸素濃度が高くなると、プロトン照射と熱処理により形成されるドナーの他に、プロトンを照射していない領域においても、酸素が関連したサーマルドナーが発生して抵抗率が変化してしまうという問題を生じ得るため、酸素濃度と炭素濃度の積を2×1033[(atoms/cm3)]2以下とすることが好ましい。
なお、酸素濃度と炭素濃度の積が2×1033[(atoms/cm3)」2を超えた場合でも、酸素濃度と炭素濃度の積とドナー増加量との間に正の相関関係が得られる。
【0020】
第2の熱処理工程において、熱処理の温度を400~425℃とする場合は、熱処理の温度を300~400℃とする場合と425~500℃とする場合の中間的な相関関係が得られることになる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明のシリコン単結晶基板中のドナー濃度の制御方法によれば、シリコン単結晶基板の酸素濃度と炭素濃度を調整することにより、シリコン単結晶基板に起因するドナー濃度のばらつきを小さくすることができるので、ドナー濃度を高精度で制御することができる。また本発明は、酸素濃度と炭素濃度の積を小さくできるFZシリコン単結晶基板中のドナー濃度を制御する場合に、ドナー濃度を高精度で制御することができるので、特にフローティングゾーン(FZ)シリコン単結晶基板をパワーデバイス用に使用する際に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明のシリコン単結晶基板中のドナー濃度の制御方法の一例を示す図である。
【
図2】実験例1において熱処理温度を350℃で処理し、測定したドナー増加量の深さ方向分布を示す図である(〇印は基板A、△印は基板Bを示している)。
【
図3】実験例1において熱処理温度を450℃で処理し、測定したドナー増加量の深さ方向分布を示す図である(〇印は基板A、△印は基板Bを示している)。
【
図4】実験例1において測定した積分ドナー増加量と熱処理温度との関係を示す図である(〇印は基板A、△印は基板Bを示している)。
【
図5】実験例2において測定した積分ドナー増加量と窒素濃度との関係を示す図である。
【
図6】実験例2において測定した積分ドナー増加量と酸素濃度との関係を示す図である。
【
図7】実験例2において測定した積分ドナー増加量と炭素濃度との関係を示す図である。
【
図8】実験例2及び実施例1において測定した積分ドナー増加量と、酸素濃度と炭素濃度の積との関係を示す図である。
【
図9】実験例3において測定した積分ドナー増加量と窒素濃度との関係を示す図である。
【
図10】実験例3において測定した積分ドナー増加量と酸素濃度との関係を示す図である(〇印はFZシリコン単結晶基板、□印はMCZシリコン単結晶基板を示している)。
【
図11】実験例3において測定した積分ドナー増加量と炭素濃度との関係を示す図である(〇印はFZシリコン単結晶基板、□印はMCZシリコン単結晶基板を示している)。
【
図12】実験例3及び実施例2において測定した積分ドナー増加量と、酸素濃度と炭素濃度の積との関係を示す図である(〇印はFZシリコン単結晶基板、□印はMCZシリコン単結晶基板を示している)。
【
図13】実験例4において測定した積分ドナー増加量と酸素濃度との関係を示す図である(〇印はFZシリコン単結晶基板、□印はMCZシリコン単結晶基板を示している)。
【
図14】実験例4において測定した積分ドナー増加量と炭素濃度との関係を示す図である(〇印はFZシリコン単結晶基板、□印はMCZシリコン単結晶基板を示している)。
【
図15】実験例4において測定した積分ドナー増加量と、酸素濃度と炭素濃度の積との関係を示す図である(〇印はFZシリコン単結晶基板、□印はMCZシリコン単結晶基板を示している)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
上記のように、従来技術では、プロトン照射と熱処理によりドナー濃度を制御するが、プロトン照射や熱処理の条件を同じにしても、シリコン単結晶基板に起因してドナー濃度がばらつくという問題があった。また、プロトン照射と熱処理で形成されるドナーの濃度は、シリコン単結晶基板中の酸素濃度が高いほど高くなり、また、炭素濃度が高いほど高くなることが開示されていた。
【0025】
本発明者は鋭意検討を重ねたところ、シリコン単結晶基板にプロトン照射と熱処理を施した場合のドナー増加量と、シリコン単結晶基板中の酸素濃度及び炭素濃度との関係は、従来考えられていた正の相関関係にならない場合もあることを見出した。さらに、酸素濃度と炭素濃度の積とドナー濃度との間に強い相関関係があることを見出し、本発明を完成させた。
【0026】
以下、図面を参照して本発明のシリコン単結晶基板中のドナー濃度の制御方法を説明する。尚、
図1の括弧内のシリコン単結晶基板は、各工程において処理されるシリコン単結晶基板を示している。
【0027】
まず、複数の試験用シリコン単結晶基板を用意する。ここで用意する複数の試験用シリコン単結晶基板は、それぞれ酸素濃度及び炭素濃度が異なるものとする。また、酸素濃度及び炭素濃度以外の条件は、実際にドナー濃度を制御する対象となるシリコン単結晶基板(制御対象シリコン単結晶基板)と同じ条件にすることができる。
【0028】
また、この試験用シリコン単結晶基板を用意する方法は、本発明において特に限定されない。例えば、シリコン単結晶からシリコンウェーハを切り出し、切断ダメージを取り除くためにシリコンウェーハに化学的エッチング処理を行った後、機械的化学的研磨を行うことにより試験用シリコン単結晶基板を用意できる。
【0029】
[第1のプロトン照射工程 S1]
次に、複数の試験用シリコン単結晶基板にプロトンを照射する(第1のプロトン照射工程)。このとき、プロトン照射の前に、シリコン単結晶基板に酸化膜等を形成しても良い。プロトン照射の条件は、後に詳述する制御対象とする半導体デバイスの製造プロセスの第2のプロトン照射工程(
図1のS6)のプロトン照射条件に合わせることが望ましく、また、プロトンの飛程を調整するためにアブソーバーを用いる場合、その材質や厚みも第2のプロトン照射工程(
図1のS6)に合わせることが望ましい。
【0030】
[第1の熱処理工程 S2]
次に、第1のプロトン照射後の複数の試験用シリコン基板に熱処理を施す第1の熱処理工程を行うが、熱処理の条件は、後に詳述する制御対象とする半導体デバイスの製造プロセスの第2の熱処理工程(
図1のS7)の熱処理条件に合わせることが望ましい。
【0031】
[測定工程 S3]
次に、測定工程において、第1の熱処理工程後の複数の試験用シリコン単結晶基板中に発生したドナー濃度(ドナー増加量)を測定する。ドナー濃度の測定方法としては、特に限定されず、例えば拡がり抵抗測定法(SR法)を用いることができる。
【0032】
例えば、SR法では、試料を斜めに研磨した研磨面に2探針を接触させて、そのプローブ間の拡がり抵抗を測定し、測定した拡がり抵抗から較正曲線を用いて比抵抗を算出し、さらに、既存の比抵抗とドナー濃度との関係に基づいて、上記の算出した比抵抗からドナー濃度を求めることにより、ドナー濃度の深さ方向分布を得る。
【0033】
次に、測定された各深さxにおけるドナー濃度(ND(x))からマトリックス(ドナー濃度がほぼ一定となる深い領域)におけるドナー濃度を差し引いて、各深さxにおけるドナー増加量(ΔND(x))を求める。そして、ドナー増加量を特徴付ける値として、ドナー増加量を深さ方向で積分することにより積分ドナー増加量を求めることができる。あるいは、ドナー増加量を特徴付ける値として、深さ方向でドナー増加量が最大となる深さ位置における最大ドナー増加量を求めることができる。
【0034】
[相関関係取得工程 S4]
次に、相関関係取得工程を行う(
図1のS4)。相関関係取得工程では、測定工程(
図1のS3)において測定したドナー増加量と、複数の試験用シリコン単結晶基板の酸素濃度と炭素濃度の積とを対応させることで、酸素濃度と炭素濃度の積とドナー増加量との相関関係を取得する。
【0035】
[準備工程 S5]
次に、上記のように取得した相関関係に基づいて、熱処理工程後のシリコン単結晶基板のドナー濃度が目標値になるように、準備工程で準備するシリコン単結晶基板の酸素濃度と炭素濃度を調整する(
図1のS5)。
【0036】
このとき、後述する第2の熱処理工程における熱処理の温度が300~400℃の場合は、試験用シリコン単結晶基板の酸素濃度と炭素濃度の積を1×1032[(atoms/cm3)]2以下とすることが望ましい。酸素濃度と炭素濃度の積の下限は、特に限定されないが、現状の技術では1×1028[(atoms/cm3)]2程度とすることが好ましい。
【0037】
またこのとき、後述する第2の熱処理工程における熱処理の温度が425~500℃の場合は、試験用シリコン単結晶基板の酸素濃度と炭素濃度の積を2×1033[(atoms/cm3)]2以下とすることが望ましい。酸素濃度と炭素濃度の積の下限は、特に限定されないが、現状の技術では1×1028[(atoms/cm3)]2程度とすることが好ましい。
【0038】
準備する制御対象であるシリコン単結晶基板の酸素濃度と炭素濃度を調整する方法は、本発明において特に限定されない。例えば、シリコン単結晶育成時の原料や育成条件を調整する方法等を使用することができる。また、シリコン単結晶基板を熱処理して、シリコン単結晶基板中に酸素や炭素を内方拡散させることにより、シリコン単結晶基板の酸素濃度や炭素濃度を調整することができる。また、シリコン単結晶基板の表面から酸素や炭素をイオン注入することにより、シリコン単結晶基板の酸素濃度や炭素濃度を調整することができる。
【0039】
[第2のプロトン照射工程 S6]
次に、準備した制御対象シリコン単結晶基板に対してプロトン照射工程を行う(
図1のS6)。ここで行うプロトン照射の条件は、第1のプロトン照射工程(
図1のS1)と同様の条件とすることが好ましい。プロトン照射における加速電圧を、例えば8MV、プロトンドーズ量を、例えば2×10
14atoms/cm
2とすることができる。
【0040】
[第2の熱処理工程 S7]
次に、プロトンを照射した制御対象シリコン単結晶基板に対して熱処理工程を行う(
図1のS7)。ここで行う熱処理の条件は、第1の熱処理工程(
図1のS2)と同様の条件とすることが好ましい。熱処理条件は、例えば、処理時間を20分~3時間、窒素、酸素、あるいは水素などの雰囲気下として行うことができる。
【0041】
以上のような、本発明のドナー濃度の制御方法であれば、シリコン単結晶基板に起因するドナー濃度のばらつきを小さくできるので、ドナー濃度を高精度で制御することができる。
【0042】
本発明において、シリコン単結晶基板に起因するドナー濃度のばらつきを小さくして、ドナー濃度を高精度で制御するために、上述のようなシリコン単結晶基板のドナー濃度制御方法を用いる理由は、以下のような実験により得られた知見による。
【0043】
(実験例1)
フローティングゾーン法(FZ法)により育成されたシリコン単結晶から作製した2種類のFZシリコン単結晶基板(基板A、基板B)を用意した。いずれの基板もリンドープのN型で、ドーパント濃度は7×1013~8×1013atoms/cm3である。
【0044】
基板Aは、通常の多結晶シリコンインゴットを原料として、FZ法により育成されたシリコン単結晶から製造されたものであり、酸素濃度は2.0×1015atoms/cm3、炭素濃度は8.9×1014atoms/cm3、窒素濃度は1.2×1015atoms/cm3である。
【0045】
基板Bは、CZ法により育成されたシリコン単結晶インゴットを原料として、FZ法により育成されたシリコン単結晶から製造されたものであり、酸素濃度は1.2×1016atoms/cm3、炭素濃度は1.0×1015atoms/cm3、窒素濃度は1.5×1015atoms/cm3である。
【0046】
酸素濃度は赤外吸収法により測定し(JEIDAにより規定された換算係数を用いた)、炭素濃度及び窒素濃度は二次イオン質量分析法(SIMS)により測定した。
【0047】
次に、用意したシリコン単結晶基板にプロトンを照射した。このとき、プロトンのドーズ量は2×1014atoms/cm2とし、プロトンの加速電圧は8MVとした。また、プロトンの飛程を約15μmとするために、プロトン照射時に、厚みの合計が約410μmとなる複数枚のアルミ箔をアブソーバーとしてシリコン単結晶基板の上流側に設置した。
【0048】
次に、プロトン照射後のシリコン単結晶基板に熱処理を施した。このとき、熱処理条件は、温度は300~550℃の範囲で振り、時間は60分、雰囲気は窒素雰囲気とした。
【0049】
次に、熱処理後のシリコン単結晶基板において、拡がり抵抗測定法(SR法)によりドナー濃度の深さ方向分布を測定した。
【0050】
【0051】
次に、上記測定した各深さxにおけるドナー濃度(ND(x))からマトリックス(ドナー濃度がほぼ一定となる深い領域)におけるドナー濃度(深さ約60~70μmにおけるドナー濃度の平均値)を差し引いて、各深さxにおけるドナー増加量(ΔND(x))を求めた。
【0052】
このように求めたドナー増加量の深さ方向分布の例を
図2及び
図3に示す。
図2は熱処理温度が350℃の場合、
図3は熱処理温度が450℃の場合である。
図2及び
図3において、印の違いは基板の違いを示しており、○が基板Aの場合、△が基板Bの場合を示している。
【0053】
次に、ドナー増加量を深さ方向で積分することにより、積分ドナー増加量を求めた。求めた積分ドナー増加量と熱処理温度との関係を
図4に示す。
図4において、印の違いは基板の違いを示しており、○が基板Aの場合、△が基板Bの場合を示している。
【0054】
図4の結果から、熱処理温度が300~525℃の範囲において積分ドナー濃度が増加していることがわかる。また、375℃付近と475℃付近にピークが観測されていることから、熱処理の温度に応じて少なくとも2種類のドナーが形成されると考えられる。さらに、積分ドナー増加量は、熱処理温度が300~400℃の範囲では基板Aの方が高くなり、熱処理温度が425~500℃の範囲では基板Bの方が高くなっている。このことから、シリコン単結晶基板の違いによるドナー増加量の違いは熱処理温度によって異なることがわかる。
【0055】
(実験例2)
異なる酸素濃度と炭素濃度を有する複数のFZシリコン単結晶基板を用意した。複数のFZシリコン単結晶基板は、通常の多結晶シリコンインゴットを原料として、FZ法により育成されたシリコン単結晶から製造されたものと、CZ法により育成されたシリコン単結晶インゴットを原料として、FZ法により育成されたシリコン単結晶から製造されたものを含んでおり、ドーパント種、ドーパント濃度、酸素濃度、炭素濃度、窒素濃度、直径、結晶面方位は、以下の通りである。
【0056】
ドーパント種/濃度:リン/6.0×1013~8.7×1013atoms/cm3、
酸素濃度:2.0×1015~2.1×1016atoms/cm3、
炭素濃度:6.4×1014~4.8×1015atoms/cm3、
窒素濃度:3.6×1014~3.5×1015atoms/cm3、
直径:200mm、
結晶面方位:(100)。
【0057】
酸素濃度は赤外吸収法により測定し(JEIDAにより規定された換算係数を用いた)、炭素濃度及び窒素濃度は二次イオン質量分析法(SIMS)により測定した。
【0058】
次に、用意したシリコン単結晶基板にプロトンを照射した。このとき、プロトンのドーズ量は2×1014atoms/cm2とし、プロトンの加速電圧は8MVとした。また、プロトンの飛程を約15μmとするために、プロトン照射時に、厚みの合計が約410μmとなる複数枚のアルミ箔をアブソーバーとしてシリコン単結晶基板の上流側に設置した。
【0059】
次に、プロトン照射後のシリコン単結晶基板に熱処理を施した。このとき、熱処理条件は、温度は350℃とし、時間は60分、雰囲気は窒素雰囲気とした。
【0060】
次に、熱処理後のシリコン単結晶基板において、拡がり抵抗測定法(SR法)によりドナー濃度の深さ方向分布を測定した。
【0061】
【0062】
次に、上記測定した各深さxにおけるドナー濃度(ND(x))からマトリックス(ドナー濃度がほぼ一定となる深い領域)におけるドナー濃度(深さ約60~70μmにおけるドナー濃度の平均値)を差し引いて、各深さxにおけるドナー増加量(ΔND(x))を求めた。
【0063】
次に、ドナー増加量を深さ方向で積分することにより積分ドナー増加量を求め、シリコン単結晶基板中の窒素濃度、酸素濃度、及び炭素濃度との関係を調べた。
【0064】
積分ドナー増加量と、窒素濃度との関係を
図5に、酸素濃度との関係を
図6に、炭素濃度との関係を
図7に、酸素濃度と炭素濃度の積との関係を
図8に示す。
【0065】
図5の結果から、積分ドナー増加量は窒素濃度には依存していないことがわかる。また、
図6及び
図7の結果から、積分ドナー増加量は、酸素濃度が高い方が低くなる傾向があり、炭素濃度が高い方が低くなる傾向があるが、ばらつきが大きいことがわかる。さらに
図8に示したように、積分ドナー増加量は、酸素濃度と炭素濃度の積と強い負の相関関係にあることがわかる。すなわち、後述する
図12に示した熱処理温度が450℃の場合とは逆の相関関係になっている。
【0066】
図4の結果において、酸素濃度と炭素濃度の積(基板A<基板B)と積分ドナー増加量(基板A>基板B)が負の相関関係にある熱処理温度の範囲は、300~400℃であることがわかる。従って、
図4と
図8の結果から、熱処理温度が300~400℃の場合のドナー増加量は、酸素濃度と炭素濃度の積が少なくとも1×10
32[(atoms/cm
3)]
2以下の場合に、酸素濃度と炭素濃度の積と強い負の相関関係にあり、その相関関係に基づいて、シリコン単結晶基板中の酸素濃度と炭素濃度を調整することにより、ドナー濃度を高精度で制御できることが明らかになった。
【0067】
(実験例3)
実験例2と同様なFZシリコン単結晶基板を用意した。また、異なる酸素濃度と炭素濃度を有する複数のMCZシリコン単結晶基板も用意した。複数のMCZシリコン単結晶基板は、磁場印加チョクラルスキー法(MCZ法)により育成されたシリコン単結晶から製造されたもので、ドーパント種、ドーパント濃度、酸素濃度、炭素濃度、直径、結晶面方位は、以下の通りであり、窒素は含まれていない。
【0068】
ドーパント種/濃度:リン/7.4×1013~1.4×1014atoms/cm3、
酸素濃度:8.8×1016~5.5×1017atoms/cm3、
炭素濃度:4.4×1014~3.1×1015atoms/cm3、
直径:200mm、
結晶面方位:(100)。
【0069】
酸素濃度は赤外吸収法により測定し(JEIDAにより規定された換算係数を用いた)、炭素濃度は二次イオン質量分析法(SIMS)により測定した。
【0070】
次に、用意したシリコン単結晶基板にプロトンを照射した。このとき、プロトンのドーズ量は2×1014atoms/cm2とし、プロトンの加速電圧は8MVとした。また、プロトンの飛程を約15μmとするために、プロトン照射時に、厚みの合計が約410μmとなる複数枚のアルミ箔をアブソーバーとしてシリコン単結晶基板の上流側に設置した。
【0071】
次に、プロトン照射後のシリコン単結晶基板に熱処理を施した。このとき、熱処理条件は、温度は450℃とし、時間は60分、雰囲気は窒素雰囲気とした。
【0072】
次に、熱処理後のシリコン単結晶基板において、拡がり抵抗測定法(SR法)によりドナー濃度の深さ方向分布を測定した。
【0073】
実験例3における条件を、実験例2と同様なFZシリコン単結晶基板の条件と併せて表3に示す。
【表3】
【0074】
次に、上記測定した各深さxにおけるドナー濃度(ND(x))からマトリックス(ドナー濃度がほぼ一定となる深い領域)におけるドナー濃度(深さ約60~70μmにおけるドナー濃度の平均値)を差し引いて、各深さxにおけるドナー増加量(ΔND(x))を求めた。
【0075】
次に、ドナー増加量を深さ方向で積分することにより積分ドナー増加量を求め、シリコン単結晶基板中の窒素濃度、酸素濃度、及び炭素濃度との関係を調べた。
【0076】
積分ドナー増加量と、窒素濃度との関係を
図9に、酸素濃度との関係を
図10に、炭素濃度との関係を
図11に、酸素濃度と炭素濃度の積との関係を
図12に示す。
図10~
図12において、印の違いは基板品種の違いを示しており、○がFZシリコン単結晶基板の場合、□がMCZシリコン単結晶基板の場合である。
【0077】
図9の結果から、積分ドナー増加量は窒素濃度には依存していないことがわかる。また、
図10及び
図11の結果から、積分ドナー増加量は、酸素濃度が高い方が高くなる傾向があり、炭素濃度が高い方が高くなる傾向があるが、ばらつきが大きいことがわかる。さらに
図12に示したように、積分ドナー増加量は、酸素濃度と炭素濃度の積と正の相関関係にあることがわかる。すなわち、
図8に示した熱処理温度が350℃の場合とは逆の相関関係になっている。
【0078】
図4の結果において、酸素濃度と炭素濃度の積(基板A<基板B)と積分ドナー増加量(基板A<基板B)が正の相関関係にある熱処理温度の範囲は、425~500℃であることがわかる。従って、
図4と
図12の結果から、熱処理温度が425~500℃の場合のドナー増加量は、酸素濃度と炭素濃度の積が少なくとも2×10
33[(atoms/cm
3)]
2以下の場合に、酸素濃度と炭素濃度の積と正の相関関係にあり、その相関関係に基づいて、シリコン単結晶基板中の酸素濃度と炭素濃度を調整することにより、ドナー濃度を高精度で制御できることが明らかになった。
【0079】
(実験例4)
異なる酸素濃度と炭素濃度を有する複数のMCZシリコン単結晶基板を用意した。複数のMCZシリコン単結晶基板は、磁場印加チョクラルスキー法(MCZ法)により育成されたシリコン単結晶インゴットから製造されたもので、ドーパント種、ドーパント濃度、酸素濃度、炭素濃度、直径、結晶面方位は、以下の通りである。
【0080】
ドーパント種/濃度:リン/7.4×1013~1.4×1014atoms/cm3、
酸素濃度:8.8×1016~5.5×1017atoms/cm3、
炭素濃度:4.4×1014~3.1×1015atoms/cm3、
直径:200mm、
結晶面方位:(100)。
【0081】
酸素濃度は赤外吸収法により測定し(JEIDAにより規定された換算係数を用いた)、炭素濃度は二次イオン質量分析法(SIMS)により測定した。
【0082】
次に、用意したシリコン単結晶基板にプロトンを照射した。このとき、プロトンのドーズ量は2×1014atoms/cm2とし、プロトンの加速電圧は8MVとした。また、プロトンの飛程を約15μmとするために、プロトン照射時に、厚みの合計が約410μmとなる複数枚のアルミ箔をアブソーバーとしてシリコン単結晶基板の上流側に設置した。
【0083】
次に、プロトン照射後のシリコン単結晶基板に熱処理を施した。このとき、熱処理条件は、温度は350℃とし、時間は60分、雰囲気は窒素雰囲気とした。
【0084】
次に、熱処理後のシリコン単結晶基板において、拡がり抵抗測定法(SR法)によりドナー濃度の深さ方向分布を測定した。
【0085】
【0086】
次に、上記測定した各深さxにおけるドナー濃度(ND(x))からマトリックス(ドナー濃度がほぼ一定となる深い領域)におけるドナー濃度(深さ約60~70μmにおけるドナー濃度の平均値)を差し引いて、各深さxにおけるドナー増加量(ΔND(x))を求めた。
【0087】
次に、ドナー増加量を深さ方向で積分することにより積分ドナー増加量を求め、シリコン単結晶基板中の酸素濃度及び炭素濃度との関係を調べた。
【0088】
積分ドナー増加量と、酸素濃度との関係を
図13に、炭素濃度との関係を
図14に、酸素濃度と炭素濃度の積との関係を
図15に示す。
図13~
図15には、それぞれ
図6~
図8に示したデータも含まれている。
図13~
図15において、印の違いは基板品種の違いを示しており、○がFZシリコン単結晶基板の場合、□がMCZシリコン単結晶基板の場合である。
【0089】
図15の結果から、熱処理温度が350℃の場合、酸素濃度と炭素濃度の積が1×10
32[(atoms/cm
3)]
2を境にして、酸素濃度と炭素濃度の積と積分ドナー増加量との相関関係が異なることがわかる。また、
図13と
図15の比較から、酸素濃度と炭素濃度の積が1×10
32[(atoms/cm
3)]
2を超えると、積分ドナー増加量は、酸素濃度と炭素濃度の積との相関関係よりも、酸素濃度との相関関係の方が強くなることがわかる。
【0090】
上記のように、プロトン照射と熱処理を施した場合のドナー増加量が、シリコン単結晶基板中の酸素濃度や炭素濃度と複雑な関係にあり、さらに、その相関関係が熱処理温度によって変わる理由は明らかではないが、以下のようなことが考えられる。
【0091】
プロトン照射と熱処理によりドナーが形成されるメカニズムは、次のように考えられている。シリコン単結晶基板に対して、プロトン照射を行うと、水素が導入されると同時に、格子位置のシリコン原子が弾き出されて、格子間シリコン(以下、Iと称する)とその抜け殻である空孔(以下、Vと称する)が生成される。過剰に生成されたIやVは、単体では不安定なため、再結合したり(V+I→0)、I同士やV同士がクラスタリングしたり、シリコン単結晶基板中に含まれる酸素や炭素などの軽元素不純物と反応して複合体を形成する。そして、プロトン照射と熱処理により、IやVのクラスターや、IやVと軽元素不純物の複合体に水素が結合することによりドナーが形成されると考えられている。このことから、プロトン照射と熱処理により形成されるドナーは複数種あり、その種類や濃度はシリコン単結晶基板中の軽元素不純物の濃度や熱処理の温度によって変化すると考えられる。
【0092】
また、プロトン照射のダメージが熱処理後に残留していると、ドーパントが不活性化したり、キャリア移動度が低下することにより、実効的なドナー濃度が低くなる場合がある。プロトン照射の照射ダメージは、熱処理温度が低いと回復しにくく、また、シリコン単結晶基板の酸素濃度や炭素濃度が高いと回復しにくい。プロトン照射後の熱処理温度が低い場合は、シリコン単結晶基板の酸素濃度や炭素濃度が高いと、残留照射ダメージにより実効的なドナー濃度が低くなるが、プロトン照射と熱処理により形成される、酸素や炭素が関連したドナー濃度は高くなる。
【0093】
このことにより、
図15に示したように、酸素濃度と炭素濃度の積と積分ドナー増加量との相関関係において、酸素濃度と炭素濃度の積が1×10
32[(atoms/cm
3)]
2以下の場合は、残留照射ダメージによる実効的なドナー濃度の低下が支配的になるために負の相関関係となり、酸素濃度と炭素濃度の積が1×10
32[(atoms/cm
3)]
2を超える場合は、プロトン照射と熱処理により形成される、酸素や炭素が影響するドナー濃度が支配的になるため正の相関関係になると考えられる。プロトン照射後の熱処理温度が高い場合は、プロトン照射の照射ダメージが回復しやすくなり、残留照射ダメージによる実効的なドナー濃度の低下が抑制されて、酸素や炭素が影響するドナー濃度が支配的になるため、酸素や炭素の広い濃度範囲において正の相関関係になると考えられる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0095】
(実施例1)
図1に示すような、本発明のドナー濃度の制御方法でシリコン単結晶基板中のドナー濃度の制御を行った。このとき、ドナー濃度を制御するシリコン単結晶基板中のドナー濃度の目標値として、実験例と同様に積分ドナー増加量を測定した場合に、積分ドナー増加量が約8×10
11/cm
2になるように制御することを目標とした。
【0096】
[第1のプロトン照射工程 S1 ~ 測定工程 S3]
まず、酸素濃度及び炭素濃度が異なる複数の試験用シリコン単結晶基板に、プロトンを照射した後、熱処理を行い、複数の試験用シリコン単結晶基板における積分ドナー増加量を測定した。試験用シリコン単結晶基板はFZ法により育成されたシリコン単結晶から製造されたものとした。
【0097】
このとき、プロトンのドーズ量は2×1014atoms/cm2、加速電圧は8MVとした。また、プロトンの飛程を約15μmとするために、プロトン照射時に、厚みの合計が約410μmとなる複数枚のアルミ箔をアブソーバーとしてシリコン単結晶基板の上流側に設置した。またこのとき、熱処理の温度は350℃、時間は60分、雰囲気は窒素雰囲気とした。またこのとき、実験例と同じ手順を用いて、積分ドナー増加量を測定した。
【0098】
[相関関係取得工程 S4]
次に、相関関係取得工程において、
図8と略同様の酸素濃度と炭素濃度の積と積分ドナー増加量との相関関係を取得した。
【0099】
[準備工程 S5]
次に、上記相関関係に基づいて、第2の熱処理工程後のシリコン単結晶基板の積分ドナー増加量が目標値(約8×1011/cm2)になるように、準備工程で準備するシリコン単結晶基板(制御対象基板)の酸素濃度と炭素濃度を調整した。このとき、準備したシリコン単結晶基板は、CZ法により育成したシリコン単結晶インゴットを原料として、FZ法により育成されたシリコン単結晶から製造されたものであり、酸素濃度は1.2×1016atoms/cm3、炭素濃度は1.0×1015atoms/cm3に調整したものであった。
【0100】
[第2のプロトン照射工程 S6 ~ 第2の熱処理工程 S7]
その後、準備工程で準備したシリコン単結晶基板にプロトンを照射した(第2のプロトン照射工程)。このとき、プロトンのドーズ量は2×1014/cm2とし、プロトンの加速電圧は8MVとした。また、プロトンの飛程を約15μmとするために、プロトン照射時に、厚みの合計が約410μmとなる複数枚のアルミ箔をアブソーバーとしてシリコン単結晶基板の上流側に設置した。
【0101】
次に、プロトン照射したシリコン単結晶基板に熱処理を施した(第2の熱処理工程)。このとき、熱処理温度は350℃とし、時間は60分、雰囲気は窒素雰囲気とした。
【0102】
熱処理後の積分ドナー増加量を測定した結果、シリコン単結晶基板の積分ドナー増加量は8.4×1011/cm2であった。このように、実施例1では、シリコン単結晶基板の酸素濃度と炭素濃度を調整することにより、目標値のドナー濃度が得られることが確認できた。
【0103】
(実施例2)
図1に示すような、本発明のドナー濃度の制御方法でシリコン単結晶基板中のドナー濃度の制御を行った。このとき、ドナー濃度を制御するシリコン単結晶基板中のドナー濃度の目標値として、実験例と同様に積分ドナー増加量を測定した場合に、積分ドナー増加量が約1.2×10
12/cm
2になるように制御することを目標とした。
【0104】
[第1のプロトン照射工程 S1 ~ 測定工程 S3]
まず、酸素濃度及び炭素濃度が異なる複数の試験用シリコン単結晶基板に、プロトンを照射した後、熱処理を行い、複数の試験用シリコン単結晶基板における積分ドナー増加量を測定した。複数の試験用シリコン単結晶基板には、FZシリコン単結晶基板とMCZシリコン単結晶基板が含まれている。
【0105】
このとき、プロトンのドーズ量は2×1014atoms/cm2、加速電圧は8MVとした。また、プロトンの飛程を約15μmとするために、プロトン照射時に、厚みの合計が約410μmとなる複数枚のアルミ箔をアブソーバーとしてシリコン単結晶基板の上流側に設置した。またこのとき、熱処理の温度は450℃、時間は60分、雰囲気は窒素雰囲気とした。またこのとき、実験例と同じ手順を用いて、積分ドナー増加量を測定した。
【0106】
[相関関係取得工程 S4]
次に、相関関係取得工程において、
図12と略同様の酸素濃度と炭素濃度の積と積分ドナー増加量との相関関係を取得した。
【0107】
[準備工程 S5]
次に、上記相関関係に基づいて、第2の熱処理工程後のシリコン単結晶基板(制御対象基板)の積分ドナー増加量が目標値(約1.2×1012/cm2)になるように、準備工程で準備するシリコン単結晶基板の酸素濃度と炭素濃度を調整した。このとき、準備したシリコン単結晶基板は、MCZ法により育成されたシリコン単結晶から製造されたものであり、酸素濃度は1.9×1017atoms/cm3、炭素濃度は6.7×1014atoms/cm3に調整したものであった。
【0108】
[第2のプロトン照射工程 S6 ~ 第2の熱処理工程 S7]
その後、準備工程で準備したシリコン単結晶基板にプロトンを照射した(第2のプロトン照射工程)。このとき、プロトンのドーズ量は2×1014/cm2とし、プロトンの加速電圧は8MVとした。また、プロトンの飛程を約15μmとするために、プロトン照射時に、厚みの合計が約410μmとなる複数枚のアルミ箔をアブソーバーとしてシリコン単結晶基板の上流側に設置した。
【0109】
次に、プロトン照射したシリコン単結晶基板に熱処理を施した(第2の熱処理工程)。このとき、熱処理温度は450℃とし、時間は60分、雰囲気は窒素雰囲気とした。
【0110】
熱処理後の積分ドナー増加量を測定した結果、シリコン単結晶基板の積分ドナー増加量は1.2×1012/cm2であった。このように、実施例2では、シリコン単結晶基板の酸素濃度と炭素濃度を調整することにより、目標値のドナー濃度が得られることが確認できた。
【0111】
(比較例1)
試験用シリコン単結晶基板を使用して、準備するシリコン単結晶基板(制御対象基板)の酸素濃度と炭素濃度を上記相関関係に基づいて調整しなかったこと以外、実施例1と同様の条件でシリコン単結晶基板のドナー濃度を制御した。
このとき、準備したシリコン単結晶基板は、通常の多結晶シリコンインゴットを原料として、FZ法により育成されたシリコン単結晶から製造されたものであり、酸素濃度は2.0×1015atoms/cm3、炭素濃度は9.8×1014atoms/cm3に調整したものであった。
【0112】
上記準備したシリコン単結晶基板において、実施例1と同じ条件でプロトン照射と熱処理を行い、実施例1と同じ手順を用いて積分ドナー増加量を測定した。その結果、積分ドナー増加量は1.2×1012/cm2となった。
【0113】
このように、比較例1では、プロトン照射条件と熱処理条件を実施例1と同様の条件にしたにも関わらず、シリコン単結晶基板の積分ドナー増加量は目標値の約8×1011/cm2から大きく離れた値になってしまうことが確認された。
【0114】
(比較例2)
試験用シリコン単結晶基板を使用して、準備するシリコン単結晶基板(制御対象基板)の酸素濃度と炭素濃度を上記相関関係に基づいて調整しなかったこと以外、実施例2と同様の条件でシリコン単結晶基板のドナー濃度を制御した。
このとき、準備したシリコン単結晶基板は、MCZ法により育成されたシリコン単結晶から製造されたものであり、酸素濃度は5.2×1017atoms/cm3、炭素濃度は1.1×1015atoms/cm3に調整したものであった。
【0115】
上記準備したシリコン単結晶基板において、実施例2と同じ条件でプロトン照射と熱処理を行い、実施例2と同じ手順を用いて積分ドナー増加量を測定した。その結果、積分ドナー増加量は1.6×1012/cm2となった。
【0116】
このように、比較例2では、プロトン照射条件と熱処理条件を実施例2と同様の条件にしたにも関わらず、シリコン単結晶基板の積分ドナー増加量は目標値の約1.2×1012/cm2から大きく離れた値になってしまうことが確認された。
【0117】
実施例1及び比較例1の条件及び結果を表5に、実施例2と比較例2の条件及び結果を表6にそれぞれ示す。
【0118】
【0119】
【0120】
比較例1及び比較例2では、試験用シリコン基板における酸素濃度と炭素濃度の積と積分ドナー増加量との相関関係に基づかないため、制御対象基板において目標値とする積分ドナー増加量から大きく離れた値になってしまった。
【0121】
一方、本発明のシリコン単結晶基板中のドナー濃度の制御方法の実施例である、実施例1及び実施例2では、試験用シリコン基板における酸素濃度と炭素濃度の積と積分ドナー増加量との相関関係に基づいて、第2の熱処理工程後のシリコン単結晶基板(制御対象基板)の積分ドナー増加量が目標値になるように、準備工程で準備するシリコン単結晶基板(制御対象基板)の酸素濃度と炭素濃度を調整することで、シリコン単結晶基板に起因するドナー濃度のばらつきを小さくでき、ドナー濃度を高精度で制御できた。
【0122】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。