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特許7264235触媒成形体並びにこれを用いた不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】触媒成形体並びにこれを用いた不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/888 20060101AFI20230418BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20230418BHJP
   B01J 33/00 20060101ALI20230418BHJP
   B01J 27/24 20060101ALI20230418BHJP
   B01J 27/199 20060101ALI20230418BHJP
   C07C 57/05 20060101ALI20230418BHJP
   C07C 51/235 20060101ALI20230418BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230418BHJP
【FI】
B01J23/888 Z
B01J35/02 A
B01J33/00 G
B01J27/24 Z
B01J27/199 Z
C07C57/05
C07C51/235
C07B61/00 300
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021509252
(86)(22)【出願日】2020-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2020011961
(87)【国際公開番号】W WO2020196150
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2019062619
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 拓朗
(72)【発明者】
【氏名】井口 敏行
(72)【発明者】
【氏名】菅野 充
(72)【発明者】
【氏名】近藤 正英
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-111581(JP,A)
【文献】特開2012-005992(JP,A)
【文献】国際公開第2012/141076(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/145985(WO,A1)
【文献】特開2017-056398(JP,A)
【文献】特開2009-263352(JP,A)
【文献】特開2013-043125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C07B 31/00-63/04
C07C 1/00-409/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化反応により不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造する際に用いられる触媒成形体であって、以下の要件(A)及び(B)を同時に満足し、下記式(I)で表される組成を有する触媒成分を含有する触媒成形体:
(A)反応器に充填する前の状態で、前記触媒成形体の成形体密度が2.15g/mL以下である
(B)下記要件(B-1)及び(B-2)を満たす:
(B-1)前記触媒成形体の表面のJIS B-0601-2001で規定される算術平均粗さ(Ra)が3.0μm以下である
(B-2)前記触媒成形体の表面のJIS B-0601-2001で規定される最大高さ(Rz)が15μm以下である
Mo a1 Bi b1 Fe c1 A d1 E1 e1 G1 f1 J1 g1 Si h1 (NH 4 ) i1 O j1 (I)
(式(I)中、Mo、Bi、Fe、Si、NH 及びOは、それぞれモリブデン、ビスマス、鉄、ケイ素、アンモニウム根及び酸素を表し、Aは、コバルト及びニッケルからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、E1は、クロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タリウム、タンタル及び亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、G1は、リン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモン及びチタンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、J1は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表す。a1、b1、c1、d1、e1、f1、g1、h1、i1及びj1は各成分のモル比率を表し、a1=12のときb1=0.01~3、c1=0.01~5、d1=0.01~12、e1=0~8、f1=0~5、g1=0.001~2、h1=0~20、i1=0~30であり、j1は前記各成分の価数を満足するのに必要な酸素のモル比率である。)。
【請求項2】
酸化反応により不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造する際に用いられる触媒成形体であって、以下の要件(A)及び(B)を同時に満足し、下記式(II)で表される組成を有する触媒成分を含有する触媒成形体:
(A)反応器に充填する前の状態で、前記触媒成形体の成形体密度が2.15g/mL以下である;
(B)下記要件(B-1)及び(B-2)を満たす:
(B-1)前記触媒成形体の表面のJIS B-0601-2001で規定される算術平均粗さ(Ra)が3.0μm以下である;
(B-2)前記触媒成形体の表面のJIS B-0601-2001で規定される最大高さ(Rz)が15μm以下である;
P a2 Mo b2 V c2 Cu d2 E2 e2 G2 f2 J2 g2 (NH 4 ) h2 O i2 (II)
(式(II)中、P、Mo、V、Cu、NH 及びOは、それぞれリン、モリブデン、バナジウム、銅、アンモニウム根及び酸素を表す。E2は、アンチモン、ビスマス、砒素、ゲルマニウム、ジルコニウム、テルル、銀、セレン、ケイ素、タングステン及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素を表す。G2は、鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、タンタル、コバルト、ニッケル、マンガン、バリウム、チタン、スズ、タリウム、鉛、ニオブ、インジウム、硫黄、パラジウム、ガリウム、セリウム及びランタンからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素を表す。J2は、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素を表す。a2、b2、c2、d2、e2、f2、g2、h2及びi2は各成分のモル比率を表し、b2=12のとき、a2=0.1~3、c2=0.01~3、d2=0.01~2、e2は0~3、f2=0~3、g2=0.01~3、h2=0~30であり、i2は前記各成分の価数を満足するのに必要な酸素のモル比率である。)。
【請求項3】
前記触媒成形体の表面の少なくとも一部に有機高分子化合物のコーティング層を有する、請求項1または2に記載の触媒成形体。
【請求項4】
前記有機高分子化合物を0.001~2質量%含有する、請求項に記載の触媒成形体。
【請求項5】
押出成形体である、請求項1~のいずれか1項に記載の触媒成形体。
【請求項6】
請求項1に記載の触媒成形体を、温度200~600℃において0.5~40時間焼成し、該焼成後の触媒成形体の存在下でプロピレン、イソブチレン、第一級ブチルアルコール、第三級ブチルアルコール又はメチル第三級ブチルエーテルを分子状酸素により気相接触酸化する、不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の製造方法。
【請求項7】
請求項2に記載の触媒成形体を、温度200~600℃において0.5~40時間焼成し、該焼成後の触媒成形体の存在下で(メタ)アクロレインを分子状酸素により気相接触酸化する、不飽和カルボン酸の製造方法。
【請求項8】
請求項又はに記載の方法により製造された不飽和カルボン酸をエステル化する不飽和カルボン酸エステルの製造方法。
【請求項9】
請求項又はに記載の方法により不飽和カルボン酸を製造する工程と、該不飽和カルボン酸をエステル化する工程を含む不飽和カルボン酸エステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒成形体、並びにこれを用いた不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和アルデヒドや不飽和カルボン酸の製造プロセスにおいて、触媒は一般に直径2~20mm程度の球状、もしくは直径2~10mm、長さ2~20mm程度の円柱状又は円筒状の成形体に成形され反応に利用される。
【0003】
触媒成形体の製造方法を改良し、不飽和アルデヒドや不飽和カルボン酸の収率を向上させる方法として、例えば特許文献1には、モリブデン及びビスマスを含む触媒成分と、平均粒径が10μm~2mmかつ平均厚さが平均粒径の0.005~0.3倍の鱗片状無機物とを混合して成形する触媒の製造方法が提案されている。
【0004】
また特許文献2には、少なくともモリブデン及びリンを触媒成分として含み、触媒成分の原料化合物を含む水性混合液を乾燥して、見掛け密度(X)が1.00~1.80kg/Lである乾燥物を製造する工程と、前記乾燥物又は前記乾燥物を含む混合物を成形して、成形品密度(Y)が1.60~2.40kg/Lであり、かつ前記見掛け密度(X)と前記成形品密度(Y)との比(X/Y)が0.50~0.80である触媒成形体を製造する工程と、を含むメタクリル酸製造用触媒の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-000803号公報
【文献】国際公開第2012/141076号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、不飽和アルデヒドや不飽和カルボン酸の収率向上の点では、上記方法により改良された触媒成形体を用いた場合であっても、未だ十分であるとは言えない。そのため、さらなる収率向上が望まれている。
本発明は不飽和アルデヒドや不飽和カルボン酸を高収率で製造できる触媒成形体を提供することを目的とする。また本発明は、この触媒成形体を用いた不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸、及び不飽和カルボン酸エステルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、特定の成形体密度及び表面特性を有する触媒成形体を用いることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の[1]から[]である。
[1]酸化反応により不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造する際に用いられる触媒成形体であって、以下の要件(A)及び(B)を同時に満足し、下記式(I)で表される組成を有する触媒成分を含有する触媒成形体:
(A)反応器に充填する前の状態で、前記触媒成形体の成形体密度が2.15g/mL以下である
(B)下記要件(B-1)及び(B-2)を満たす:
(B-1)前記触媒成形体の表面のJIS B-0601-2001で規定される算術平均粗さ(Ra)が3.0μm以下である
(B-2)前記触媒成形体の表面のJIS B-0601-2001で規定される最大高さ(Rz)が15μm以下である
Mo a1 Bi b1 Fe c1 A d1 E1 e1 G1 f1 J1 g1 Si h1 (NH 4 ) i1 O j1 (I)
(式(I)中、Mo、Bi、Fe、Si、NH 及びOは、それぞれモリブデン、ビスマス、鉄、ケイ素、アンモニウム根及び酸素を表し、Aは、コバルト及びニッケルからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、E1は、クロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タリウム、タンタル及び亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、G1は、リン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモン及びチタンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、J1は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表す。a1、b1、c1、d1、e1、f1、g1、h1、i1及びj1は各成分のモル比率を表し、a1=12のときb1=0.01~3、c1=0.01~5、d1=0.01~12、e1=0~8、f1=0~5、g1=0.001~2、h1=0~20、i1=0~30であり、j1は前記各成分の価数を満足するのに必要な酸素のモル比率である。)。
【0008】
[2]酸化反応により不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造する際に用いられる触媒成形体であって、以下の要件(A)及び(B)を同時に満足し、下記式(II)で表される組成を有する触媒成分を含有する触媒成形体:
(A)反応器に充填する前の状態で、前記触媒成形体の成形体密度が2.15g/mL以下である;
(B)下記要件(B-1)及び(B-2)を満たす:
(B-1)前記触媒成形体の表面のJIS B-0601-2001で規定される算術平均粗さ(Ra)が3.0μm以下である;
(B-2)前記触媒成形体の表面のJIS B-0601-2001で規定される最大高さ(Rz)が15μm以下である;
P a2 Mo b2 V c2 Cu d2 E2 e2 G2 f2 J2 g2 (NH 4 ) h2 O i2 (II)
(式(II)中、P、Mo、V、Cu、NH 及びOは、それぞれリン、モリブデン、バナジウム、銅、アンモニウム根及び酸素を表す。E2は、アンチモン、ビスマス、砒素、ゲルマニウム、ジルコニウム、テルル、銀、セレン、ケイ素、タングステン及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素を表す。G2は、鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、タンタル、コバルト、ニッケル、マンガン、バリウム、チタン、スズ、タリウム、鉛、ニオブ、インジウム、硫黄、パラジウム、ガリウム、セリウム及びランタンからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素を表す。J2は、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素を表す。a2、b2、c2、d2、e2、f2、g2、h2及びi2は各成分のモル比率を表し、b2=12のとき、a2=0.1~3、c2=0.01~3、d2=0.0
1~2、e2は0~3、f2=0~3、g2=0.01~3、h2=0~30であり、i2は前記各成分の価数を満足するのに必要な酸素のモル比率である。)。
【0009】
[3]前記触媒成形体の表面の少なくとも一部に有機高分子化合物のコーティング層を有する、[1]または[2]に記載の触媒成形体。
[4]前記有機高分子化合物を0.001~2質量%含有する、[3]に記載の触媒成形体。
[5]押出成形体である、[1]~[4]のいずれかに記載の触媒成形体。
【0010】
[6][1]に記載の触媒成形体を、温度200~600℃において0.5~40時間焼成し、該焼成後の触媒成形体の存在下でプロピレン、イソブチレン、第一級ブチルアルコール、第三級ブチルアルコール又はメチル第三級ブチルエーテルを分子状酸素により気相接触酸化する、不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の製造方法。
[7][2]に記載の触媒成形体を、温度200~600℃において0.5~40時間焼成し、該焼成後の触媒成形体の存在下で(メタ)アクロレインを分子状酸素により気相接触酸化する、不飽和カルボン酸の製造方法。
【0011】
][]又は[]に記載の方法により製造された不飽和カルボン酸をエステル化する不飽和カルボン酸エステルの製造方法。
][]又は[]に記載の方法により不飽和カルボン酸を製造する工程と、該不飽和カルボン酸をエステル化する工程を含む不飽和カルボン酸エステルの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を高収率で製造できる触媒成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[触媒成形体]
本発明の触媒成形体の一様態は、酸化反応により不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造する際に用いられる触媒成形体であって、反応器に充填する前の状態で、前記触媒成形体の成形体密度が2.25g/mL以下であり、前記触媒成形体の表面のJIS B-0601-2001で規定される算術平均粗さ(Ra)が3.0μm以下である。
また、本発明の触媒成形体の別の一様態は、酸化反応により不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造する際に用いられる触媒成形体であって、反応器に充填する前の状態で、前記触媒成形体の成形体密度が2.25g/mL以下であり、前記触媒成形体の表面のJIS B-0601-2001で規定される最大高さ(Rz)が15μm以下である。
加えて、本発明の触媒成形体のさらに別の一様態は、酸化反応により不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造する際に用いられる触媒成形体であって、反応器に充填する前の状態で、前記触媒成形体の成形体密度が2.25g/mL以下であり、前記触媒成形体の表面のJIS B-0601-2001で規定される算術平均粗さ(Ra)が3.0μm以下であり、JIS B-0601-2001で規定される最大高さ(Rz)が15μm以下である。
このような触媒成形体を反応器に充填すると、単位体積当たりに充填できる触媒成形体の個数が増加するため、反応器における単位体積当たりの触媒活性成分の量が増加する。この結果、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸製造における反応活性が向上し、得られる目的生成物の収率が向上する。また単位体積当たりの触媒活性成分の量の増加により、連続反応時間が増加するという効果も得られる。
【0014】
(要件A:触媒成形体の成形体密度)
本発明の触媒成形体の成形体密度は、反応器に充填する前の状態で2.25g/mL以下である。これにより、触媒成形体内部に細孔が多く形成され、目的生成物の選択率が向上する。前記成形体密度は、2.20g/mL以下であることがより好ましく、2.15g/mL以下であることが更に好ましい。また成形体密度は通常、1.0g/mL以上である。
ここで成形体密度とは、触媒成形体1個あたりの質量(g)を体積(mL)で除し、これを100個の触媒成形体に対して行い、その算術平均から算出した値である。
【0015】
(要件(B):触媒成形体の表面の算術平均粗さ(Ra)及び最大高さ(Rz))
上述の通り、触媒成形体の成形体密度が2.25g/mL以下であることにより、目的生成物の選択率が向上するが、触媒成形体内部により多く細孔が形成された分、触媒成形体1個当たりの触媒活性成分の量は減少し、反応活性が低くなる。つまり、同じ形状及び寸法の触媒成形体を同じ個数用いた場合、成形体密度が2.25g/mL以下である触媒成形体を充填し反応を実施した場合と、成形体密度が2.25g/mLを超える触媒成形体を充填し反応を実施した場合とでは、前者は目的生成物の選択率は向上するものの、反応活性が低いため原料の反応率は低下する。更に、触媒活性成分の総量が少なくなるので、従来の触媒成形体よりも連続反応時間が短いという課題もある。
【0016】
上記課題に対して、本発明者らは触媒成形体の表面特性に着目し、触媒成形体の成形体密度が2.25g/mL以下であることに加えて、反応器に充填する前の状態で触媒成形体の表面の算術平均粗さ(Ra)が3.0μm以下である場合(要件(B-1))、又は表面の最大高さ(Rz)が15μm以下である場合(要件(B-2))は、単位体積当たりに充填できる触媒成形体の個数を増加させることができ、それにより反応器に充填できる触媒活性成分の総量が少ないという課題が解決できることを見出した。より詳細には、触媒成形体の成形体密度が2.25g/mLより大きい場合、反応器に触媒成形体を充填する際、自重により密に充填されるのに対し、触媒成形体の成形体密度が2.25g/mL以下の場合は、触媒成形体が軽く、自重により密に充填できないことを発見した。しかし、上記のごとく特定の表面特性を有している場合、前記触媒成形体を密に充填することができ、反応器への充填個数が増加することを見出した。これにより、選択率の向上と収率向上の両方の効果を奏し、さらには反応持続時間についての課題も解決可能となる。
単位体積当たりに充填できる触媒成形体の個数の観点から、触媒成形体の表面の算術平均粗さ(Ra)が3.0μm以下であり、かつ表面の最大高さ(Rz)が15μm以下であることが好ましい。また触媒成形体の表面の算術平均粗さ(Ra)の上限は2.8μm以下が好ましく、2.6μm以下がより好ましい。ただし表面の算術平均粗さ(Ra)は通常、0.5μm以上である。また表面の最大高さ(Rz)の上限は14μm以下であることが好ましく、13μm以下であることがより好ましい。ただし面の最大高さ(Rz)は通常、3μm以上である。
【0017】
ここで算術平均粗さ(Ra)は、基準長さにおける絶対値の平均を表したものある。また最大高さ(Rz)は、基準長さにおける輪郭曲線の中で、もっとも高い山の高さともっとも深い谷の深さの和を求め、表したものである。どちらもJISB-0601-2001の規格で測定することができる。
【0018】
本発明に係る触媒成形体の表面の算術平均粗さ(Ra)、最大高さ(Rz)の測定位置については、成形体が複数の面を有する形状の場合は、他の成形体と接触し得る面の内、最も表面積の大きな面で測定する。例えば円柱状の触媒成形体であれば、円形の部分と側面の部分の表面積を比較し、表面積の大きい面で測定を行う。また円筒状の触媒成形体であれば、他の成形体と接触し得る面として、リング形の部分と円筒側面の部分の表面積を比較し、表面積の大きい面で測定を行う。これを10個の触媒成形体に対して行い、その算術平均から算出する。
【0019】
(触媒成形体表面)
また本発明の触媒成形体は、必要に応じて表面を処理し、算術平均粗さ(Ra)及び最大高さ(Rz)を調整したものであってもよい。触媒成形体表面の機械的強度の観点から、表面の少なくとも一部に有機高分子化合物のコーティング層を有することが好ましい。また、コーティング層を形成することにより、触媒成形体の算術平均粗さ(Ra)や表面の最大高さ(Rz)を所望の値に調整することもできる。
【0020】
有機高分子化合物としては、具体的には糖類及び合成樹脂が挙げられる。糖類としては、例えばトレオース、アラビノース、キシロース、ガラクトース、リボース、グルコース、ソルボース、フルクトース、マンノース等の単糖類、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース、イソマルトース、イソトレハロース、ネオトレハロース、ネオラクトース、ツラノース、パラチノース等の二糖類、及びデンプン、グリコーゲン、プルラン、水溶性セルロース、水不溶性セルロース等の多糖類が挙げられる。また合成樹脂としては、例えばポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。有機高分子化合物の分子量は、2万~40万が好ましく、下限は3万以上、上限は30万以下がより好ましい。
【0021】
触媒成形体の機械的強度の観点から、触媒成形体の表面の少なくとも一部に糖類のコーティング層を有することがより好ましく、多糖類のコーティング層を有することが更に好ましく、プルラン及び水溶性セルロースから選択される少なくとも1つのコーティング層を有することが特に好ましい。
水溶性セルロースとしては、具体的には、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース及びその塩類等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
また、触媒成形体が有機高分子化合物を0.001~2質量%含有していることが好ましい。有機高分子化合物の含有量が0.001質量%以上であることで、触媒成形体の機械的強度が増加する。また有機高分子化合物の含有量が2質量%以下であることで、触媒成形体中に含まれる触媒活性成分が十分な量となる。有機高分子化合物の含有量の上限は1.5質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましい。
【0022】
(触媒成形体の種類及び形状)
触媒成形体の種類は特に限定されず、例えば、押出成形体、打錠成形体、担持成形体、転動造粒体等が挙げられる。中でも成形体密度が容易に調整できる点で、押出成形体であることが好ましい。ここで押出成形体とは、型枠に入れた触媒に圧力を加えて押し出すことで、一定の形状に成形したものを示す。触媒成形体の形状は特に限定されず、例えば、球状、円柱状、円筒状(リング状)、星型状等の形状が挙げられ、中でも機械的強度の高い球状、円柱状、円筒状が好ましい。
【0023】
(不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸製造用触媒成形体における触媒成分)
本発明に係る不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する際に用いられる触媒成形体は、下記式(I)で表される組成を有する触媒成分を含有することが、不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸収率の観点から好ましい。なお、各元素のモル比率は、触媒成分をアンモニア水に溶解した成分をICP発光分析法で分析することによって求めた値とする。またアンモニウム根のモル比率は、触媒成分をケルダール法で分析することによって求めた値とする。
【0024】
Moa1Bib1Fec1Ad1E1e1G1f1J1g1Sih1(NH4)i1Oj1 (I)
式(I)中、Mo、Bi、Fe、Si、NH及びOは、それぞれモリブデン、ビスマス、鉄、ケイ素、アンモニウム根及び酸素を表し、Aは、コバルト及びニッケルからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、E1は、クロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タリウム、タンタル及び亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、G1は、リン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモン及びチタンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、J1は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表す。a1、b1、c1、d1、e1、f1、g1、h1、i1及びj1は各成分のモル比率を表し、a1=12のときb1=0.01~3、c1=0.01~5、d1=0.01~12、e1=0~8、f1=0~5、g1=0.001~2、h1=0~20、i1=0~30であり、j1は前記各成分の価数を満足するのに必要な酸素のモル比率である。
なお、本発明において「アンモニウム根」とは、アンモニウムイオン(NH )になり得るアンモニア(NH)、及びアンモニウム塩などのアンモニウム含有化合物に含まれるアンモニウムの総称である。
【0025】
(不飽和カルボン酸製造用触媒成形体における触媒成分)
本発明に係る不飽和カルボン酸を製造する際に用いられる触媒成形体は、下記式(II)で表される組成を有する触媒成分を含有することが、不飽和カルボン酸収率の観点から好ましい。
【0026】
Pa2Mob2Vc2Cud2E2e2G2f2J2g2(NH4)h2Oi2 (II)
前記式(II)中、P、Mo、V、Cu、NH及びOは、それぞれリン、モリブデン、バナジウム、銅、アンモニウム根及び酸素を表す。E2は、アンチモン、ビスマス、砒素、ゲルマニウム、ジルコニウム、テルル、銀、セレン、ケイ素、タングステン及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素を表す。G2は、鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、タンタル、コバルト、ニッケル、マンガン、バリウム、チタン、スズ、タリウム、鉛、ニオブ、インジウム、硫黄、パラジウム、ガリウム、セリウム及びランタンからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素を表す。J2は、カリウム、ルビジウム及びセシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素を表す。a2、b2、c2、d2、e2、f2、g2、h2及びi2は各成分のモル比率を表し、b2=12のとき、a2=0.1~3、c2=0.01~3、d2=0.01~2、e2は0~3、好ましくは0.01~3、f2=0~3、g2=0.01~3、h2=0~30であり、i2は前記各成分の価数を満足するのに必要な酸素のモル比率である。
【0027】
[触媒成形体の製造方法]
本発明の触媒成形体は、反応器に充填する前の状態で、成形体密度が2.25g/mL以下であり、表面の算術平均粗さ(Ra)が3.0μm以下である、又は成形体密度が2.25g/mL以下であり、表面の最大高さ(Rz)が15μm以下であれば、公知の触媒成形体の製造方法に準じて製造することができるが、下記の工程(i)~(iii)を含む方法により製造されることが好ましい。
(i)触媒成分の原料化合物を溶媒と混合し、触媒原料液を調製する工程。
(ii)前記触媒原料液を乾燥し、触媒乾燥体を得る工程。
(iii)前記触媒乾燥体を成形し、必要に応じて触媒成形体を表面処理し、触媒成形体を得る工程。
【0028】
(工程(i))
工程(i)では、触媒成分の原料化合物を溶媒と混合し、触媒原料液を調製する。例えば、不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸製造用触媒の製造においては、不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸製造用触媒の触媒成分の原料化合物を、適宜選択した溶媒と混合し、少なくともモリブデン及びビスマスを含む触媒原料液とを調製する。また、不飽和カルボン酸製造用触媒の製造においては、不飽和カルボン酸製造用触媒の触媒成分の原料化合物を、適宜選択した溶媒と混合し、少なくともモリブデン及びリンを含む触媒原料液を調製する。
【0029】
触媒原料液の調製に用いられる原料化合物は特に限定されず、触媒の各構成元素の酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、水酸化物、酢酸塩等の有機酸塩、アンモニウム塩、ハロゲン化物、オキソ酸、オキソ酸塩、アルカリ金属塩等を単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。モリブデンの原料化合物としては、例えば、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン類、パラモリブデン酸アンモニウムやジモリブデン酸アンモニウム等のモリブデン酸アンモニウム類、モリブデン酸、塩化モリブデン等が挙げられる。ビスマスの原料化合物としては、硝酸ビスマス、酸化ビスマス、酢酸ビスマス、水酸化ビスマス等が挙げられる。リンの原料化合物としては、例えば、リン酸、五酸化リン、リン酸アンモニウム等のリン酸塩等が挙げられる。バナジウムの原料化合物としては、例えば、バナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム、五酸化バナジウム、塩化バナジウム、蓚酸バナジル等が挙げられる。原料化合物は、触媒成分を構成する各元素に対して1種のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
前記溶媒としては、例えば、水、エチルアルコール、アセトン等が挙げられるが、工業的な観点から水を用いることが好ましい。
【0031】
不飽和カルボン酸製造用触媒の製造において、前記触媒原料液は、少なくともモリブデン及びリンを含有するケギン型ヘテロポリ酸を含むことが、不飽和カルボン酸選択率の観点から好ましい。例えば、原料化合物の添加量等を適宜選択し、硝酸、シュウ酸等を適宜添加する等の方法により、前記触媒原料液のpHを4以下、好ましくは3以下に調整することにより、ケギン型ヘテロポリ酸を安定に形成することができる。なお、得られるヘテロポリ酸の構造は、NICOLET6700FT-IR(製品名、Thermo electron社製)を用いた赤外吸収分析より判断することができる。該ヘテロポリ酸塩がケギン型構造を有する場合、得られる赤外吸収スペクトルは、1060、960、870、780cm-1付近に特徴的なピークを有する。
【0032】
(工程(ii))
工程(ii)では、前記工程(i)で得られた触媒原料液を乾燥し、触媒乾燥体を得る。触媒原料液を乾燥する方法は特に限定されず、例えば、スプレー乾燥機を用いて乾燥する方法、スラリードライヤーを用いて乾燥する方法、ドラムドライヤーを用いて乾燥する方法、蒸発乾固する方法等が適用できる。これらの中では、乾燥と同時に粒子が得られること、得られる粒子の形状が整った球形であることから、スプレー乾燥機を用いて乾燥する方法が好ましい。乾燥条件は乾燥方法により異なるが、スプレー乾燥機を用いる場合、乾燥機入口温度は100~500℃が好ましく、下限は200℃以上がより好ましく、220℃以上が更に好ましい。また上限は400℃以下がより好ましく、370℃以下が更に好ましい。乾燥機出口温度の下限は100℃以上が好ましく、105℃以上がより好ましい。また上限は200℃以下が好ましい。乾燥は、得られる触媒乾燥体の水分含有率が0.1~4.5質量%となるように行うことが好ましい。なおこれらの条件は、所望する触媒の形状や大きさにより適宣選択することができる。
【0033】
スプレー乾燥機を用いる場合、得られる触媒乾燥体の平均粒子径が1~250μmであることが好ましい。平均粒子径が1μm以上であることにより、後述する工程(iii)において、目的生成物の生成に好ましい径の細孔が形成され、高い収率で目的生成物が得られる。また、平均粒子径250μm以下であることにより、単位体積当たりの触媒乾燥体粒子間の接触点の数が維持でき、後述する工程(iii)において得られる触媒成形体の機械的強度が向上する。触媒乾燥体の平均粒子径の下限は5μm以上、上限は150μm以下がより好ましい。なお、平均粒子径は体積平均粒子径を意味し、レーザー式粒度分布測定装置により測定した値とする。
【0034】
また、噴霧された液滴と熱風との接触方式は、並流、向流、並向流(混合流)のいずれでもよく、いずれの場合でも好適に乾燥することができる。
【0035】
(工程(iii))
工程(iii)では、前記工程(ii)で得られた触媒乾燥体を成形し、触媒成形体を得る。触媒成形体は、必要に応じて表面処理を行ってもよい。
<触媒乾燥体の成形>
触媒乾燥体は、溶媒と混合してから成形することが、触媒成形体の成形体密度を調整できる観点から好ましい。溶媒の使用量は、触媒乾燥体の種類や粒子の形状、溶媒の種類により適宜選択されるが、触媒乾燥体に対する溶媒の使用量を少なくすることで、得られる触媒成形体の成形体密度は増加し、触媒乾燥体に対する溶媒の使用量を多くすることで、得られる触媒成形体の成形体密度は減少する。溶媒の使用量は、触媒乾燥体100質量部に対して10~70質量部の範囲で調整することが好ましい。触媒乾燥体100質量部に対する溶媒の使用量が10質量部以上であることにより、成形性が向上し、得られる触媒成形体においてメタクリル酸の製造に有効な細孔が増加する傾向がある。また溶媒の使用量が70質量部以下であることにより、成形時の付着性が低減して取り扱い性が向上する。触媒乾燥体100質量部に対する溶媒の使用量の下限は15部以上、上限は60質量部以下の範囲で調整することがより好ましい。
溶媒の種類としては、特に限定されないが、水や有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、メチルアルコール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、イソプロパノールなどの低級アルコールやアセトン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルケトン、酢酸エチルなどが挙げられる。これらの溶媒は1種類を用いてもよいし、2種類以上の溶媒を組み合わせて用いてもよい。溶媒は、少なくとも有機溶媒を含むことが好ましい。
また成形の際には、成形助剤として一般的に用いられているポリビニルアルコール、αグルカン誘導体、βグルカン誘導体、ステアリン酸、硝酸アンモニウム、グラファイト、水、アルコール等を必要に応じて使用することができる。
触媒乾燥体の成形方法は特に限定されない。例えば、公知の押出成形、打錠成形、担持成形、転動造粒等の方法が挙げられる。中でも触媒成形体の成形体密度を容易に調整できる観点から、押出成形が好ましい。押出成形機としては、例えばオーガー式押出成形機、プランジャー式押出成形機等を使用することができ、好ましくはプランジャー式押出成形機を使用することができる。
押出成形において、押出圧力を高くすることで得られる触媒成形体の成形体密度は増加し、押出圧力を低くすることで得られる触媒成形体の成形体密度は減少する。押出圧力は、0.1~30MPa(G)の範囲で調整することが好ましい。ただし、(G)はゲージ圧であることを意味する。押出圧力が0.1MPa(G)以上であることにより、触媒成形体が安定して製造できる。また押出圧力が30MPa以下であることにより、得られる触媒成形体においてメタクリル酸の製造に有効な細孔が増加する傾向がある。押出圧力の下限は0.5MPa(G)以上がより好ましく、1MPa(G)以上であることが更に好ましく、2MPa(G)以上であることが特に好ましい。また押出圧力の上限は20MPa(G)以下であることがより好ましく、15MPa(G)以下であることが更に好ましく、10MPa(G)以下であることが特に好ましい。
【0036】
<触媒成形体の表面処理>
本発明の触媒成形体は、必要に応じて表面を処理し、算術平均粗さ(Ra)及び最大高さ(Rz)を調整してもよい。触媒成形体の表面処理方法としては、例えば表面を有機高分子化合物でコーティングする方法や、表面に溶媒を噴霧して乾燥する方法が挙げられる。機械的強度の付与や触媒成形体の表面の算術平均粗さ(Ra)、最大高さ(Rz)の調整の観点から、触媒成形体の表面を有機高分子化合物でコーティングする方法を用いることが好ましく、有機高分子化合物でコーティングした後、更に表面に溶媒を噴霧して乾燥する方法を用いることがより好ましい。
【0037】
触媒成形体の表面を有機高分子化合物でコーティングする方法としては、例えば、上述の有機高分子化合物を溶媒に溶解したコーティング液を霧状に噴霧して、触媒成形体本体に付着させ、同時に溶媒を気化、蒸発させる方法が挙げられる。この方法によれば、容易にかつ均一にコーティングすることができる。
コーティング液に用いる溶媒、及びコーティングした後に更に噴霧する溶媒としては、水、アルコール、アルカリ性溶液等が挙げられ、水が好ましい。コーティング液中の有機高分子化合物の濃度は、10質量%以下とすることが好ましい。これにより触媒成形体同士の粘着が低減され、操作上有利である。ただしコーティング液中の有機高分子化合物の濃度は、通常0.1質量%以上である。またコーティング液の噴霧後に更に噴霧する溶媒の量は、触媒成形体に対して0.1~3質量%が好ましく、下限は0.2質量%以上、上限は2質量%以下がより好ましい。
【0038】
コーティング装置としては、簡易的にはコーティングパン等のパンと呼ばれる容器に回転機構を付加したものが好ましい。このような装置を用いることにより、触媒成形体を転動させながら、コーティング液を霧状に噴霧して触媒成形体に付着させ、同時に熱風を吹きかけて溶媒を除去することができる。コーティング装置として、医薬業界、食品業界で用いられている錠剤の糖衣加工機、コーティング機等を用いてもよい。
【0039】
[不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造方法]
不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造において、前記工程(iii)で得られた触媒成形体を焼成して用いることが、目的生成物の収率の観点から好ましい。なお、焼成は前記工程(ii)で得られた触媒乾燥体に対して行ってもよい。焼成温度は通常200~600℃であり、下限は300℃以上、上限は500℃以下が好ましい。焼成条件は特に限定されないが、焼成は通常、酸素、空気又は窒素流通下で行われる。焼成時間は目的とする触媒によって適宜設定されるが、0.5~40時間が好ましく、下限は1時間以上、上限は40時間以下がより好ましい。
【0040】
(不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の製造方法)
本発明に係る不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の製造方法は、本発明に係る不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する際に用いられる触媒成形体の存在下で、プロピレン、イソブチレン、第一級ブチルアルコール、第三級ブチルアルコール又はメチル第三級ブチルエーテルを分子状酸素により気相接触酸化する。これらの方法によれば、高い収率で不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造することができる。
【0041】
製造される不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸は、プロピレン、イソブチレン、第一級ブチルアルコール、第三級ブチルアルコール又はメチル第三級ブチルエーテルにそれぞれ対応したものである。たとえばプロピレンに対応する不飽和アルデヒドはアクロレインであり、プロピレンに対応する不飽和カルボン酸はアクリル酸である。イソブチレン、第一級ブチルアルコール、第三級ブチルアルコール及びメチル第三級ブチルエーテルに対応する不飽和アルデヒドはメタクロレインであり、イソブチレン、第一級ブチルアルコール、第三級ブチルアルコール及びメチル第三級ブチルエーテルに対応する不飽和カルボン酸はメタクリル酸である。
【0042】
目的生成物の収率の観点から、不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸は、それぞれメタクロレイン及びメタクリル酸であることが好ましい。
【0043】
以下、代表例として本発明に係る方法により製造された触媒成形体の存在下、イソブチレンを分子状酸素により気相接触酸化してメタクロレイン及びメタクリル酸を製造する方法について説明する。
【0044】
前記方法では、イソブチレン及び分子状酸素を含む原料ガスと、本発明に係る触媒成形体とを接触させることでメタクロレイン及びメタクリル酸を製造する。この反応では固定床型反応器を使用することができる。反応器内に触媒成形体を充填し、該反応器へ原料ガスを供給することにより反応を行うことができる。触媒成形体層は1層でもよく、活性の異なる複数の触媒成形体をそれぞれ複数の層に分けて充填してもよい。また、活性を制御するために触媒成形体を不活性担体により希釈し充填してもよい。
【0045】
原料ガス中のイソブチレンの濃度は特に限定されないが、1~20容量%が好ましく、下限は3容量%以上、上限は10容量%以下がより好ましい。
【0046】
原料ガス中の分子状酸素の濃度は、イソブチレン1モルに対して0.1~5モルが好ましく、下限は0.5モル以上、上限は3モル以下がより好ましい。なお、分子状酸素源としては、経済性の観点から空気が好ましい。必要であれば、空気に純酸素を加えて分子状酸素を富化した気体を用いてもよい。
【0047】
原料ガスは、イソブチレン及び分子状酸素を、窒素、炭酸ガス等の不活性ガスで希釈したものであってもよい。さらに、原料ガスに水蒸気を加えてもよい。
【0048】
原料ガスと触媒成形体との接触時間は、0.5~10秒が好ましく、下限は1秒以上、上限は6秒以下がより好ましい。反応圧力は、0.1~1MPa(G)が好ましい。ただし、(G)はゲージ圧であることを意味する。反応温度は200~420℃が好ましく、下限は250℃以上、上限は400℃以下がより好ましい。
【0049】
(不飽和カルボン酸の製造方法)
本発明に係る不飽和カルボン酸の製造方法は、本発明に係る不飽和カルボン酸を製造する際に用いられる触媒成形体の存在下で、(メタ)アクロレインを分子状酸素により気相接触酸化する。これらの方法によれば、高い収率で不飽和カルボン酸を製造することができる。
【0050】
製造される不飽和カルボン酸は、(メタ)アクロレインのアルデヒド基がカルボキシル基に変化した不飽和カルボン酸であり、具体的には(メタ)アクリル酸が得られる。
【0051】
なお、「(メタ)アクロレイン」はアクロレイン及びメタクロレインを示し、「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸及びメタクリル酸を示す。目的生成物の収率の観点から、(メタ)アクロレイン及び(メタ)アクリル酸は、それぞれメタクロレイン及びメタクリル酸であることが好ましい。
【0052】
以下、代表例として、本発明に係る方法により製造された触媒成形体の存在下、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する方法について説明する。
【0053】
前記方法では、メタクロレイン及び分子状酸素を含む原料ガスと、本発明に係る触媒成形体とを接触させることでメタクリル酸を製造する。この反応では固定床型反応器を使用することができる。反応器内に触媒成形体を充填し、該反応器へ原料ガスを供給することにより反応を行うことができる。触媒成形体層は1層でもよく、活性の異なる複数の触媒成形体をそれぞれ複数の層に分けて充填してもよい。また、活性を制御するために触媒成形体を不活性担体により希釈し充填してもよい。
【0054】
原料ガス中のメタクロレインの濃度は特に限定されないが、1~20容量%が好ましく、下限は3容量%以上、上限は10容量%以下がより好ましい。原料であるメタクロレインは、低級飽和アルデヒド等の本反応に実質的な影響を与えない不純物を少量含んでいてもよい。
【0055】
原料ガス中の分子状酸素の濃度は、メタクロレイン1モルに対して0.4~4モルが好ましく、下限は0.5モル以上、上限は3モル以下がより好ましい。なお、分子状酸素源としては、経済性の観点から空気が好ましい。必要であれば、空気に純酸素を加えて分子状酸素を富化した気体を用いてもよい。
【0056】
原料ガスは、メタクロレイン及び分子状酸素を、窒素、炭酸ガス等の不活性ガスで希釈したものであってもよい。さらに、原料ガスに水蒸気を加えてもよい。水蒸気の存在下で反応を行うことにより、メタクリル酸をより高い収率で得ることができる。原料ガス中の水蒸気の濃度は、0.1~50容量%が好ましく、下限は1容量%以上、上限は40容量%がより好ましい。
【0057】
原料ガスとメタクリル酸製造用触媒との接触時間は、1.5~15秒が好ましく、下限は2秒以上、上限は10秒以下がより好ましい。反応圧力は、0.1~1MPa(G)が好ましい。ただし、(G)はゲージ圧であることを意味する。反応温度は200~450℃が好ましく、下限は250℃以上、上限は400℃以下がより好ましい。
【0058】
[不飽和カルボン酸エステルの製造方法]
本発明に係る不飽和カルボン酸エステルの製造方法は、本発明に係る方法により製造された不飽和カルボン酸をエステル化する。すなわち、本発明に係る不飽和カルボン酸エステルの製造方法は、本発明に係る方法により不飽和カルボン酸を製造する工程と、該不飽和カルボン酸をエステル化する工程とを含む。これらの方法によれば、プロピレン、イソブチレン、第一級ブチルアルコール、第三級ブチルアルコール又はメチル第三級ブチルエーテルの気相接触酸化、もしくは(メタ)アクロレインの気相接触酸化により得られる不飽和カルボン酸を用いて、不飽和カルボン酸エステルを得ることができる。
【0059】
不飽和カルボン酸と反応させるアルコールとしては特に限定されず、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール等が挙げられる。得られる不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル等が挙げられる。反応は、スルホン酸型カチオン交換樹脂等の酸性触媒の存在下で行うことができる。反応温度は50~200℃が好ましい。
【実施例
【0060】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、「部」は「質量部」を示す。
(触媒成分の組成比)
各元素のモル比率は、触媒成分をアンモニア水に溶解した成分をICP発光分析法で分析することによって求めた。またアンモニウムイオンのモル比率は、触媒成分をケルダール法で分析することによって求めた。
(有機高分子化合物の含有率)
コーティングされた触媒成形体における有機高分子化合物の含有率は、コーティングされた触媒成形体の質量M2及びコーティング液に用いた有機高分子化合物の質量M3から、下記式により算出した。
有機高分子化合物の含有率[質量%]=(M3/M2)×100
なおM2は、コーティングに用いた触媒成形体の仕込み量、及びコーティング液に用いた有機高分子化合物の仕込み量の合計とした。ここで、コーティングに用いた触媒成形体の仕込み量は、自然乾燥や熱風乾燥といった公知の乾燥方法によって液体を除去し、触媒成形体の含液率が1質量%以下となった状態におけるものとした。またM3は、コーティング液に用いた有機高分子化合物の仕込み量とした。
(触媒成形体の成形体密度)
触媒成形体の成形体密度は、触媒成形体1個あたりの質量M1(g)及び触媒成形体1個あたりの体積V1(mL)から、下記式により算出した。
触媒成形体の成形体密度(g/mL)=M1/V1
なお、触媒成形体の成形体密度は、同一条件で製造された触媒成形体100個に対して算出された平均値である。
【0061】
(算術平均粗さ(Ra)及び最大高さ(Rz))
触媒成形体の表面粗さは、(株)東京精密製「SURFCOM1900SD」(商品名)を使用して測定した。測定位置は、成形体が円柱状の場合は側面、円筒状の場合は円筒側面とし、測定距離4.0mm、カットオフ0.8mm、4λの条件で、軸方向に測定した。これを10個の触媒成形体に対して行い、その算術平均から算出した。
(触媒成形体の落下粉化率)
触媒成形体の機械的強度の指標として、触媒成形体の落下粉化率を用いた。落下粉化率が小さいほど機械的強度が高く、落下粉化率が大きいほど機械的強度が低いことを示す。触媒成形体の落下粉化率は以下の方法により測定した。長手方向が鉛直になるように設置され、下側開口部がステンレス製の板で閉止された内径27.5mm、長さ6mのステンレス製円筒の上側開口部から、触媒成形体100gを落下させて円筒内に充填した。下側開口部を開いて回収した触媒成形体のうち、目開き1mmのふるいを通過しないものの質量をM4gとして、落下粉化率を下記式にて算出した。なお、実施例における落下粉化率は、同一条件で触媒成形体を10回製造し、各触媒成形体に対して測定された落下粉化率の平均値である。
落下粉化率(%)={(100-M4)/100}×100
(反応器へ充填された触媒成形体の個数)
反応器へ充填された触媒成形体の個数は、触媒成形体1個あたりの質量M1(g)、反応器へ充填された触媒成形体の質量M5(g)及び反応器の充填体積V2(mL)から、下記式により算出した。
反応器へ充填された触媒成形体の個数[個/mL]=M5/M1/V2
【0062】
(原料ガス及び生成物の分析)
原料ガス及び生成物の分析は、ガスクロマトグラフィー(装置:島津製作所製GC-2014、カラム:J&W社製DB-FFAP、30m×0.32mm、膜厚1.0μm)を用いて行った。実施例1及び比較例1において、生成したメタクロレイン及びメタクリル酸の合計収率は次式により算出した。
【0063】
メタクロレイン及びメタクリル酸の合計収率(%)=(N2+N3)/N1×100
ここで、N1は供給したイソブチレンのモル数、N2は生成したメタクロレインのモル数、N3は生成したメタクリル酸のモル数である。
【0064】
なお、実施例1及び比較例1では原料がイソブチレンの場合のみ示しているが、第三級ブチルアルコールを原料として用いた場合においても、反応器の入口部分で速やかにイソブチレンに脱水され、イソブチレンを原料として用いた場合と同様の結果が得られる。
【0065】
また、実施例2~5及び比較例2において、生成したメタクリル酸の収率は次式により算出した。
メタクリル酸の収率(%)=(N5/N4)×100
ここで、N4は供給したメタクロレインのモル数、N5は生成したメタクリル酸のモル数である。
【0066】
[実施例1]
純水1000部にパラモリブデン酸アンモニウム500部、パラタングステン酸アンモニウム12.4部、硝酸カリウム2.3部、三酸化アンチモン27.5部及び三酸化ビスマス66.0部を加え加熱攪拌した(A液)。別に純水1000部に硝酸第二鉄114.4部、硝酸コバルト274.7部及び硝酸亜鉛35.1部を順次加え溶解した(B液)。A液にB液を加えて得られた触媒原料液を、並流式スプレー乾燥機を用いて、乾燥機入口温度250℃、スラリー噴霧用回転円盤15,000rpmの条件で乾燥して、平均粒子径42μmの触媒乾燥体を得た。なお、該触媒乾燥体の酸素を除く触媒の組成は、Mo120.2Bi1.2Fe1.2Sb0.8Co4.0Zn0.50.1(NH12.3であった。
【0067】
前記触媒乾燥体100部に対して、ヒドロキシプロピルメチルセルロース4部と、純水45部とを、双腕型のシグマブレードを備えたバッチ式の混練機で粘土状になるまで混練し、混合物を得た。
【0068】
得られた混合物を、プランジャー式押出機を用いて押出成形し、外径6mm、内径2mm、長さ5.5mmの円筒状に成形し、次いで、熱風乾燥機で、90℃で14時間乾燥し触媒成形体を得た。
【0069】
次いで得られた触媒成形体をコーティングパンに充填し、コーティングパンの回転によって触媒成形体を転動させ、95℃の熱風をあてながら、触媒成形体100部に対してメチルセルロース0.5部を4質量%水溶液に調製したコーティング液を、続いて触媒成形体100部に対して純水1部を噴霧した。コーティングされた触媒成形体の成形体密度、表面の算術平均粗さ(Ra)及び最大高さ(Rz)、並びに落下粉化率の測定結果を表1に示す。
【0070】
続いて前記コーティングされた触媒成形体を、反応器内における充填体積が2500mLとなるように充填し、空気流通下に450℃で5時間焼成した。次いで、イソブチレン5容量%、酸素12容量%、水蒸気10容量%及び窒素73容量%の原料ガスを用い、反応温度320℃、接触時間2.9秒で通じてイソブチレンの気相接触酸化反応を行った。生成物を捕集し、ガスクロマトグラフィーで分析することでメタクロレイン及びメタクリル酸の合計収率を求めた。反応器へ充填された前記コーティングされた触媒成形体の個数及び反応結果を表1に示す。
【0071】
[比較例1]
実施例1と同様にして触媒成形体を製造した。なお、該触媒成形体に対して、コーティングパンにてコーティング液及び純水を噴霧する工程は実施しなかった。該触媒成形体の成形体密度、表面の算術平均粗さ(Ra)及び最大高さ(Rz)、並びに落下粉化率の測定結果を表1に示す。
【0072】
続いて前記触媒成形体を、実施例1と同様に反応器に充填し、焼成及びイソブチレンの気相接触酸化反応を行った。反応器へ充填された前記触媒成形体の個数及び反応結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
[実施例2]
純水4000部に三酸化モリブデン1000部、メタバナジン酸アンモニウム34部、85質量%リン酸水溶液80部及び硝酸銅7部を溶解し、これを攪拌しながら95℃に昇温し、液温を95℃に保ちつつ3時間攪拌した。90℃まで冷却後、回転翼攪拌機を用いて攪拌しながら、重炭酸セシウム124部を純水200部に溶解した溶液を添加して15分間攪拌した。次いで、炭酸アンモニウム92部を純水200部に溶解した溶液を添加し、更に20分間攪拌し、モリブデン及びリンを含有するケギン型ヘテロポリ酸を含む触媒原料液を得た。該触媒原料液を、並流式スプレー乾燥機を用いて、乾燥機入口温度300℃、スラリー噴霧用回転円盤18,000rpmの条件で乾燥して、平均粒子径25μmの触媒乾燥体を得た。なお、該触媒乾燥体の酸素を除く触媒の組成は、P1.2Mo120.5Cu0.05Cs1.1(NH3.8である。
【0075】
前記触媒乾燥体100部に対して、ヒドロキシプロピルセルメチルロース4部と、エチルアルコール18部とを、双腕型のシグマブレードを備えたバッチ式の混練機で粘土状になるまで混練し、混合物を得た。
【0076】
得られた混合物を、プランジャー式押出機を用いて押出成形し、外径5.5mm、長さ5.5mmの円柱状に成形し、次いで、熱風乾燥機で、90℃で8時間乾燥し触媒成形体を得た。
【0077】
次いで得られた触媒成形体をコーティングパンに充填し、コーティングパンの回転によって触媒成形体を転動させ、95℃の熱風をあてながら、触媒成形体100部に対してメチルセルロース0.5部を4質量%水溶液に調製したコーティング液を、続いて触媒成形体100部に対して純水2部を噴霧した。コーティングされた触媒成形体の成形体密度、表面の算術平均粗さ(Ra)及び最大高さ(Rz)、並びに落下粉化率の測定結果を表2に示す。
【0078】
続いて前記コーティングされた触媒成形体を、反応器内における充填体積が2500mLとなるように充填し、空気流通下に380℃で11時間焼成した。次いでメタクロレイン6容量%、酸素12容量%、水蒸気10容量%及び窒素72容量%の原料ガスを用い、反応温度290℃、接触時間2.9秒で通じてメタクロレインの気相接触酸化反応を行った。生成物を捕集し、ガスクロマトグラフィーで分析することでメタクリル酸の収率を求めた。反応器へ充填された前記コーティングされた触媒成形体の個数及び反応結果を表2に示す。
【0079】
[実施例3]
実施例2において、コーティング液に用いるメチルセルロースの量を、触媒成形体100部に対して0.3部に変更した以外は、実施例2と同様にしてコーティングされた触媒成形体を製造した。該コーティングされた触媒成形体の成形体密度、表面の算術平均粗さ(Ra)及び最大高さ(Rz)、並びに落下粉化率の測定結果を表2に示す。
【0080】
続いて前記コーティングされた触媒成形体を、実施例2と同様に反応器に充填し、焼成及びメタクロレインの気相接触酸化反応を行った。反応器へ充填された前記コーティングされた触媒成形体の個数及び反応結果を表2に示す。
【0081】
[実施例4]
実施例2において、コーティング液に用いるメチルセルロースの量を、触媒成形体100部に対して0.2部に変更した以外は、実施例2と同様にしてコーティングされた触媒成形体を製造した。該コーティングされた触媒成形体の成形体密度、表面の算術平均粗さ(Ra)及び最大高さ(Rz)、並びに落下粉化率の測定結果を表2に示す。
【0082】
続いて前記コーティングされた触媒成形体を、実施例2と同様に反応器に充填し、焼成及びメタクロレインの気相接触酸化反応を行った。反応器へ充填された前記コーティングされた触媒成形体の個数及び反応結果を表2に示す。
【0083】
[実施例5]
実施例2と同様にして得られた触媒成形体をコーティングパンに充填し、コーティングパンの回転によって触媒成形体を転動させ、95℃の熱風をあてながら、触媒成形体100部に対してプルラン0.3部を4質量%水溶液に調製したコーティング液を、続いて触媒成形体100部に対して純水1部を噴霧した。コーティングされた触媒成形体の成形体密度、表面の算術平均粗さ(Ra)及び最大高さ(Rz)、並びに落下粉化率の測定結果を表2に示す。
【0084】
続いて前記コーティングされた触媒成形体を、実施例2と同様に反応器に充填し、焼成及びメタクロレインの気相接触酸化反応を行った。反応器へ充填された前記コーティングされた触媒成形体の個数及び反応結果を表2に示す。
【0085】
[比較例2]
実施例2と同様にして触媒成形体を製造した。なお、該触媒成形体に対して、コーティングパンにてコーティング液及び純水を噴霧する工程は実施しなかった。該触媒成形体の成形体密度、表面の算術平均粗さ(Ra)及び最大高さ(Rz)、並びに落下粉化率の測定結果を表2に示す。
続いて前記触媒成形体を、実施例2と同様に反応器に充填し、焼成及びメタクロレインの気相接触酸化反応を行った。反応器へ充填された前記触媒成形体の個数及び反応結果を表2に示す。
【0086】
[比較例3]
実施例2と同様に触媒乾燥体を製造した。
前記触媒乾燥体100部に対してグラファイト3部を混合し、打錠成型機により、外径5.5mm、長さ5.5mmの円柱状に成形し、触媒成形体を得た。
次いで得られた触媒成形体をコーティングパンに充填し、コーティングパンの回転によって触媒成形体を転動させ、95℃の熱風をあてながら、触媒成形体100部に対してメチルセルロース0.5部を4質量%水溶液に調製したコーティング液を、続いて触媒成形体100部に対して純水2部を噴霧した。コーティングされた触媒成形体の成形体密度、表面の算術平均粗さ(Ra)及び最大高さ(Rz)、並びに落下粉化率の測定結果を表2に示す。
続いて前記コーティングされた触媒成形体を、実施例2と同様に反応器に充填し、焼成及びメタクロレインの気相接触酸化反応を行った。反応器へ充填された前記コーティングされた触媒成形体の個数及び反応結果を表2に示す。
【0087】
[比較例4]
比較例3と同様にして触媒成形体を製造した。なお、該触媒成形体に対して、コーティングパンにてコーティング液及び純水を噴霧する工程は実施しなかった。該触媒成形体の成形体密度、表面の算術平均粗さ(Ra)及び最大高さ(Rz)、並びに落下粉化率の測定結果を表2に示す。
続いて前記触媒成形体を、実施例2と同様に反応器に充填し、焼成及びメタクロレインの気相接触酸化反応を行った。反応器へ充填された前記触媒成形体の個数及び反応結果を表2に示す。
【0088】
【表2】
【0089】
表1に示されるように、Mo120.2Bi1.2Fe1.2Sb0.8Co4.0Zn0.50.1(NH12.3の組成比を有する触媒成分を含有する場合について、触媒成形体の成形体密度、並びに表面の算術平均粗さ(Ra)及び最大高さ(Rz)が規定範囲内の値である実施例1は、触媒成形体の表面の算術平均粗さ(Ra)及び最大高さ(Rz)が規定範囲を超えている比較例1と比較して、触媒成形体の反応器への充填個数が増加しており、高いメタクロレイン及びメタクリル酸の合計収率を示した。また、触媒成形体の反応器への充填個数の増加は、連続反応時間の観点からも有利であると言える。
【0090】
同様に、表2に示されるように、P1.2Mo120.5Cu0.05Cs1.1(NH3.81の組成比を有する触媒成分を含有する場合について、触媒成形体の成形体密度、並びに表面の算術平均粗さ(Ra)及び最大高さ(Rz)が規定範囲内の値である実施例2~5は、触媒成形体の表面の算術平均粗さ(Ra)及び最大高さ(Rz)が規定範囲を超えている比較例2と比較して、触媒成形体の反応器への充填個数が増加しており、高いメタクリル酸収率を示した。また、触媒成形体の反応器への充填個数の増加は、連続反応時間の観点からも有利であると言える。
また、比較例3及び4は、触媒成形体の表面の算術平均粗さ(Ra)及び最大高さ(Rz)は規定範囲内の値となっていたが、成形体密度が規定範囲を超えていた。この場合、触媒成形体の反応器への充填個数は実施例2~5と同程度であったが、メタクリル酸収率は実施例2~5と比較して低い結果となった。これは触媒成形体の内部における、メタクリル酸の製造に有利な細孔が減少したためと考えられる。
【0091】
なお、本実施例で得られたメタクリル酸をエステル化することで、メタクリル酸エステルを得ることができる。