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特許7264343III族窒化物結晶の製造方法および種基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】III族窒化物結晶の製造方法および種基板
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20230418BHJP
   C30B 9/06 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
C30B29/38 D
C30B9/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019028247
(22)【出願日】2019-02-20
(65)【公開番号】P2020132475
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡山 芳央
(72)【発明者】
【氏名】小松 真介
(72)【発明者】
【氏名】多田 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】森 勇介
(72)【発明者】
【氏名】今西 正幸
(72)【発明者】
【氏名】吉村 政志
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-353152(JP,A)
【文献】特開2015-166293(JP,A)
【文献】特開2018-016499(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/38
C30B 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に、複数のIII族窒化物の結晶を、複数の種結晶として配置する種結晶準備工程と、
窒素を含む雰囲気下、ガリウム、アルミニウム、およびインジウムから選ばれる少なくとも1つのIII族元素、ならびにアルカリ金属を含む融液に前記種結晶の表面を接触させることによって、前記種結晶上にIII族窒化物結晶を成長させる結晶成長工程と、
を含み、
前記結晶成長工程は、
各前記種結晶上にIII族窒化物結晶を角錐状に成長させて、隣り合う角錐状のIII族窒化物結晶同士が一部結合した第一のIII族窒化物結晶を得る第一の結晶成長工程と、
前記第一のIII族窒化物結晶の上に、表面が平坦な第二のIII族窒化物結晶を成長させる第二の結晶成長工程と、を含み、
前記種結晶準備工程において、前記複数の種結晶を前記基板上に設けられた六角形の領域内部に存在するように、かつ前記六角形の領域外部には存在しないように配置し、
前記基板の外周と、前記種結晶準備工程で配置する、前記基板の外周に最も近い前記種結晶の中心との距離が、前記第一の結晶成長工程で成長させる角錐状の前記III族窒化物結晶の膜厚の最大値を3の平方根で除算した値より大きい、
III族窒化物結晶の製造方法。
【請求項2】
前記結晶成長工程において、前記六角形の領域の外周の各辺を、前記III族窒化物結晶の特定の結晶面と一致させる、
請求項1に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
【請求項3】
前記特定の結晶面は、(1―100)面である、
請求項2に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
【請求項4】
前記種結晶準備工程で配置する、前記六角形の領域の最も外周側に位置する前記種結晶と、前記六角形の領域の中心側に位置する前記種結晶とが、同じ形状である、
請求項1~3のいずれか一項に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
【請求項5】
前記結晶成長工程後、前記種結晶近傍で、前記III族窒化物結晶と前記基板とを分離する分離工程をさらに含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
【請求項6】
基板と、
前記基板上に設けられた六角形の領域内部に配置された、複数のIII族窒化物の結晶から構成される、複数の種結晶と、前記種結晶上に成長させた角錐状のIII族窒化物結晶と、
を有し、
前記複数の種結晶は、前記六角形の領域外部に存在しないように配置されており、
前記基板の外周と、前記基板の外周に最も近い前記種結晶の中心との距離が、前記角錐状の前記III族窒化物結晶の膜厚の最大値を3の平方根で除算した値より大きい、種基板。
【請求項7】
前記六角形の領域の外周の各辺を、前記III族窒化物結晶の特定の結晶面と一致させる、
請求項6に記載の種基板。
【請求項8】
前記III族窒化物結晶の特定の結晶面が、(1―100)面である、
請求項7に記載の種基板。
【請求項9】
前記六角形の領域の最も外周側に位置する前記種結晶と、前記六角形の領域の中心側に位置する前記種結晶とが、同じ形状である、
請求項6~8のいずれか一項に記載の種基板。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、III族窒化物結晶の製造方法および種基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、GaN等のIII族窒化物の結晶は、発光ダイオード等の材料として注目されている。このようなIII族窒化物の結晶の製造方法の一つとして、Na等のアルカリ金属融液(フラックス)中でIII族元素と窒素とを反応させ、結晶欠陥(転位)の少ない高品質な結晶を成長させるフラックス法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、大きなサイズのIII族窒化物結晶を得るために、サファイア基板上に有機金属気相成長法(MOCVD:Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)等で形成した複数のIII族窒化物層を種結晶とし、当該種結晶をアルカリ金属融液に接触させてIII族窒化物結晶を成長させる方法が開示されている(例えば、特許文献2及び3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4538596号公報
【文献】特開2014-55091号公報
【文献】特許第5904421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献3に開示されている従来の製造方法によれば、図12に示すように、円盤状の基板31の円形の種結晶配置領域32に複数の種結晶(図示せず)を配置してIII族窒化物結晶を成長させることができる。この場合、図13に示すように、基板31の大きさと略同じ、大きなサイズのIII族窒化物結晶33が得られる。しかしながら、得られたIII族窒化物結晶33の外周は、成長条件にも依存するが、最も安定な結晶面(例えばGaNでは(1-100)面)で構成される。そのため、図13に示すように、外周の一部の領域で、微小な(1-100)面が断続的に配置される構造(凹凸部)33aが生じる。そしてこのような基板では、当該凹凸部33aが、割れやクラック発生の起点となりやすかった。つまり、従来の方法では、大きなサイズのIII族窒化物結晶基板を歩留り良く製造することが困難である、という課題があった。
【0005】
そこで、本開示は、割れやクラックの生じにくいIII族窒化物結晶の製造方法、及び種基板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本開示に係るIII族窒化物結晶の製造方法は、基板の上に、複数のIII族窒化物の結晶を、複数の種結晶として配置する種結晶準備工程と、窒素を含む雰囲気下、ガリウム、アルミニウム、およびインジウムから選ばれる少なくとも1つのIII族元素、ならびにアルカリ金属を含む融液に前記種結晶の表面を接触させることによって、前記種結晶上にIII族窒化物結晶を成長させる結晶成長工程と、を含み、前記種結晶準備工程において、前記複数の種結晶を前記基板上に設けられた六角形の領域内部に配置する。
【0007】
また、本開示に係る種基板は、基板と、前記基板上に設けられた六角形の領域内部に配置された、複数のIII族窒化物の結晶から構成される複数の種結晶を有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係るIII族窒化物結晶の製造方法によれば、成長させるIII族窒化物結晶の最外周が直線状になる。そのため、III族窒化物結晶に割れやクラックの発生が生じにくく、III族窒化物結晶を歩留り良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の実施の形態1で用いるIII族窒化物結晶の製造装置の一例であって、基板を融液から引き上げている状態を示す概略断面図である。
図2図1のIII族窒化物結晶の製造装置において、基板を融液に浸漬している状態を示す概略断面図である。
図3】本開示の実施の形態1に係るIII族窒化物結晶の製造に用いる種基板の一例の概略上面図である。
図4】本開示の実施の形態1に係るIII族窒化物結晶の製造に用いる種基板の一例の概略上面図である。
図5】本開示の実施の形態1に係るIII族窒化物結晶の製造方法の結晶成長工程の概略上面図である。
図6】本開示の実施の形態1に係るIII族窒化物結晶の製造方法の種結晶準備工程の概略断面図である。
図7】本開示の実施の形態1に係るIII族窒化物結晶の製造方法の結晶成長工程(第一の結晶成長工程)の概略断面図である。
図8】本開示の実施の形態1に係るIII族窒化物結晶の製造方法の結晶成長工程(第二の結晶成長工程)の概略断面図である。
図9】本開示の実施の形態1に係るIII族窒化物結晶の製造方法の分離工程の概略断面図である。
図10】本開示の実施の形態1に係るIII族窒化物結晶の製造方法の研磨工程の概略断面図である。
図11】III族窒化物結晶の製造方法の結晶成長工程を説明するための概略断面図である。
図12】従来のIII族窒化物結晶の製造に用いる種基板の一例の概略上面図である。
図13】従来のIII族窒化物結晶の製造方法の結晶成長工程の概略上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の実施の形態に係るIII族窒化物結晶の製造方法、および当該方法に用いる種基板について、以下、III族窒化物結晶としてGaN結晶を作製する実施の形態を例に説明する。なお、図面において実質的に同一の部材については同一の符号を付している。また、通常、ミラー指数は、負の成分を持つ方向は数字の上にバーをつけて表記するが、本明細書では便宜上、負の成分を-(マイナス)で表現する。
【0011】
[実施の形態1]
本実施の形態に係るIII族窒化物結晶の製造方法は、基板の上に、複数のドット状のIII族窒化物結晶を、複数の種結晶として配置する種結晶準備工程と、窒素を含む雰囲気下、ガリウム、アルミニウム、およびインジウムから選ばれる少なくとも1つのIII族元素、ならびにアルカリ金属、を含む融液に前記種結晶の表面を接触させることによって、種結晶上にIII族窒化物結晶を成長させる結晶成長工程と、を含む。上記種結晶準備工程では、複数の種結晶を基板上に設けられた六角形の領域内部に配置する。
【0012】
図1は、本開示の実施の形態1で用いるIII族窒化物結晶の製造装置100の一例であって、種結晶を形成した基板(以下、「種基板」とも称する)11を融液12から引き上げている状態を示す概略断面図である。図2は、図1のIII族窒化物結晶の製造装置100において、種基板11を融液12に浸漬している状態を示す概略断面図である。図3から図10は、実施の形態1に係るIII族窒化物結晶の製造に用いる種基板および製造方法の各工程の概略上面図ないし断面図である。また、実施の形態1に係るIII族窒化物結晶の製造方法は、図6に示す種結晶準備工程と、図7に示す結晶成長工程と、を含む。
【0013】
(種結晶準備工程)
種結晶準備工程では、図3に示すように、基板1の上面に設けられた六角形の領域2の内部に、図4に示すように複数のドット状のIII族窒化物の結晶4を種結晶として配置する。
【0014】
本実施の形態では、結晶の製造に用いる種基板用の基板として、サファイアからなる基板1を準備する。サファイアは、GaNとの格子定数及び熱膨張係数の差が比較的小さい点で好ましい。なお、サファイアの他に、例えば、SiCやGaAs、ScAlMgOなどを基板1として用いてもよい。また、基板1の厚さは、100~3000μm程度であることが好ましく、400~1000μmであることがより好ましい。基板1の厚みが当該範囲であると、強度が十分に高く、GaN結晶の作製時に割れ等が生じ難い。また、基板1の形状は、特に制限されないが、工業的な実用性を考慮すると、直径50~200mm程度のウェハ状が好ましい。
【0015】
サファイアからなる基板1上に、GaN単結晶からなる薄膜(図示せず)を、MOCVD法を用いて形成する。薄膜の厚さとしては、0.5~100μm程度であることが好ましく、1~5μmであることがより好ましい。薄膜の厚みが0.5μm以上であると、形成した薄膜が良好な単結晶となり、得られるGaNの結晶に格子欠陥等が生じ難くなる。MOCVD法でサファイア上に形成したGaN薄膜の転位密度は、一般的に10/cm~10/cm程度である。
【0016】
なお、必要に応じて、基板1と薄膜との間に、バッファ層(図示せず)をさらに形成してもよい。バッファ層は、サファイアからなる基板1上に高品質のGaN単結晶薄膜を形成するための層であり、サファイアとGaNとの格子定数差を緩衝させるための層である。当該バッファ層は、サファイアとGaNの格子定数に近い材料が好ましく、GaNなどのIII族窒化物からなる層とすることができる。また、バッファ層は、400℃以上700℃以下の比較的低温のMOCVD法で成長させた、アモルファスもしくは多結晶状の層であることが好ましい。このようなバッファ層を用いると、バッファ層上に形成するGaN単結晶薄膜に格子欠陥等が生じ難くなる。また、バッファ層の厚みは、10nm以上50nm以下であることが好ましく、20nm以上40nm以下であることがより好ましい。バッファ層の厚みが10nm以上であると、格子定数差の緩衝効果が発揮され、得られるGaNの結晶に格子欠陥等が生じ難くなる。一方、バッファ層の厚みが過度に厚いと、サファイアからなる基板1の結晶格子の情報が失われて良好なエピタキシャル成長ができなくなる。
【0017】
次に、GaN単結晶からなる薄膜の一部を、フォトリソグラフィーとエッチングとを用いた公知の方法により除去し、複数のGaN結晶からなる複数の種結晶4を形成する。種結晶4の形状はドット状であることが好ましい。各ドットのサイズ(径)は、10~1000μm程度であることが好ましく、50~300μmであることがより好ましい。また、隣り合う2つのドットの中心を結んだ線が、六方晶であるGaNの結晶方位(a軸もしくはm軸)にほぼ一致するように各ドットを配置することが好ましい。そして、ドットの配置は、例えば、図4に示すような三角格子とすることが好ましく、上面から見たときに、各ドットの中心が、正三角形の頂点を構成するように配置することが好ましい。本明細書において、隣り合う2つのドットの中心を結んだ線が、GaNの結晶方位(a軸もしくはm軸)にほぼ一致するとは、ドットの中心を結んだ線(三角格子の軸)とGaNの結晶方位(a軸もしくはm軸)とのなす角度が10度以下であることをいい、これらの角度は好ましくは1度以下である。
【0018】
さらに、ドットのピッチ(中心どうしの間隔)は、ドットのサイズ(径)の1.5~10倍程度であることが好ましく、2~5倍であることがより好ましい。また、ドットの形状は、円形状もしくは六角形状が好ましい。ドットのサイズ・配置・ピッチ・形状を上述のようにすると、フラックス法でGaN結晶を成長させたときに、初期の角錐状の結晶成長や、角錐状の結晶(GaN結晶)同士の結合が容易になる。また種結晶から引き継いだ転位を、効率的に低減できるという効果も得られる。
【0019】
なお、上記ではドットの配置として三角格子を例に挙げたが、本実施の形態は、これに限られない。ドットの配置としては、例えば、正方格子であってもよい。ただし、III族窒化物結晶(GaN結晶)が六方晶系に属するので三角格子が特に好ましい。また、上記では、種結晶4の形状としてドット状を例に挙げたが、これに限られない。種結晶4の形状としては、例えばストライプ状や、上述のドットをネガポジ反転させた網目状であってもよい。このような形状としても、フラックス法でのGaN結晶成長の初期に、種結晶4の上に断面形状が三角形もしくは台形となるようにGaN結晶を成長させることができる。そして、隣り合うGaN結晶同士を結合させることも可能であり、種結晶から引き継いだ転位を低減できるという効果も得られる。
【0020】
ここで、本発明者らは基板1上に種結晶4を配置する領域について、実験結果を基に検討を行った。なお、当該種結晶4上に結晶を成長させる方法は、後述の結晶成長工程と同様にした。
【0021】
基板1の形状としては工業的な実用性からウェハ状すなわち円盤状が一般的である。そこで、図12に示すように、種結晶4を配置する領域32も円形とすることが考えられる。しかしながらこの場合、六方晶であるIII族窒化物結晶(GaN結晶)を種結晶4の上に成長させ、結合させると、図13に示すように、外周に凹凸構造33aを有するIII族窒化物結晶が得られた。これは、前述のように、III族窒化物結晶の外周が最も安定な結晶面(GaNの場合では(1-100)面)となり、微小な(1-100)面が断続的に生成されたためである。
【0022】
そこで、本発明者らは、III族窒化物結晶の成長後の外周に微小な凹凸が形成されないように、種結晶4を配置する領域を円形ではなく、六角形にすることを試みた。そして、当該方法によれば、III族窒化物結晶の外周が直線状となりやすいことを見出した。なお、配置領域の形状を六角形としたのは、III族窒化物結晶が六方晶系であること、三角形では円盤状の基板1の表面を有効に使えず、成長したIII族窒化物結晶のサイズが小さくなってしまうこと、が理由である。
【0023】
ここで、六角形の配置領域の外周の各辺は、後述の結晶成長工程で成長させるIII族窒化物結晶の特定の結晶面とほぼ一致させることが好ましく、外周の各辺を、III族窒化物結晶の(1-100)面とほぼ一致させることがより好ましい。ここで、六角形の外周の各辺と特定の結晶面とが「ほぼ一致する」とは、外周の各辺と結晶面とのなす角度が10度以下であることをいい、当該角度は1度以下が好ましい。六角形の外周の各辺を、III族窒化物結晶の特定の結晶面とほぼ一致させると、成長後のIII族窒化物結晶の外周が特定の結晶面を踏襲して、直線状になりやすい。つまり、割れやクラックの起点となる微小な凹凸が形成されにくい。さらに、六角形の外周各辺が、GaNの安定な結晶面である(1-100)面とほぼ一致していると、成長後のIII族窒化物結晶の外周が六角形の形状を踏襲して(1-100)面で構成された六角形になりやすく、微小な凹凸がより形成されにくい。なお、成長するGaNの結晶方位は、基板1の結晶方位に依存する。例えば、サファイアのa面((11-20)面)上にエピタキシャル成長するGaNの面方位は(1-100)である。このため、所望の結晶方位のIII族窒化物結晶が得られるよう基板1の結晶方位を適宜調整する必要がある。
【0024】
なお、例えばフォトリソグラフィーやレーザー加工を用いてドット状の種結晶を形成する際に、六角形の最外周付近では一部が欠けた形状となることがある。このような種基板を用いた場合、実験の結果、成長後のIII族窒化物結晶の外周に微小な凹凸が形成されやすいことが明らかとなった。そこで、この現象を抑制するため、六角形の領域の最も外側付近の種結晶と、六角形の領域の中心付近の種結晶とを同じ形状にすることが好ましい。
【0025】
一方、基板1の外周と基板の外周に最も近い種結晶4の中心との距離Aについて、検討を行った。その結果、図11に示すように、距離Aが小さい場合には、成長したIII族窒化物結晶3が基板1の側面から裏面側まで回り込んでしまう構造となった。このような構造になると、基板(サファイア基板)1とIII族窒化物結晶(GaN結晶)3との熱膨張係数差によって、III族窒化物結晶3に割れやクラックが発生してしまう。ここで、III族窒化物結晶、特にGaNを結晶成長させる場合、結晶(後述の第一のIII族窒化物結晶)に現れる斜めの面は、(1-101)面もしくは(11-22)面である。そして、これらの面の角度は、基板1の表面に対して約60°である。したがって、種結晶4上に成長するIII族窒化物結晶3の横方向への成長距離(図11中のBで表される距離)は、おおよそ角錐状の結晶の縦方向の膜厚(角錐状の結晶の高さ)を3の平方根で除算した値となる。そこで、図7に示すように、上述の距離Aが距離Bよりも大きくなる、すなわち、基板1の最外周と、最外周に最も近い種結晶4の中心との距離Aが、角錐状のIII族窒化物結晶の膜厚を3の平方根で除算した値よりも大きいことが好ましい。
【0026】
図3及び4に、本実施の形態で用いる、基板1の上に設けられた六角形の領域2内部に複数のドット状のGaN結晶を種結晶4として備えた種基板11の概略上面図を示す。このような種基板11を用いて、後述の結晶成長工程を実施した結果、成長後のGaN結晶は図5に示すような(1-100)面で構成された六角形状となった。そして、外周面に微小な凹凸は見られず、割れやクラックも生じにくかった。その結果、大きなサイズのGaN結晶を歩留り良く得ることができた。
【0027】
(結晶成長工程)
一方、結晶成長工程では、図2に示すように、窒素を含む雰囲気下において、ガリウム、アルミニウム、およびインジウムから選ばれる少なくとも1つのIII族元素とアルカリ金属とを含む融液12に種基板11が有する複数の種結晶の表面を接触させ、III族元素と窒素とを融液中で反応させる(本明細書において、「第一の結晶成長工程」とも称する)。その結果、図7に示すように、複数の種結晶4からそれぞれ角錐状のIII族窒化物結晶が成長し、やがて隣り合うIII族窒化物結晶の底部どうしが結合した第一のIII族窒化物結晶3が得られる。上述の種基板を用いることで、図5に示すように、III族窒化物結晶(第一のIII族窒化物結晶)3の最外周が、特定の結晶面で構成される平滑な面となる。そのため、割れやクラックの無い大きなサイズのIII族窒化物結晶を製造することができる。
【0028】
結晶成長工程ではさらに、図8に示すように、複数の角錐状が結合したIII族窒化物結晶(第一のIII族窒化物結晶)3の上に、表面が平坦な第二のIII族窒化物結晶3aを成長させる工程(本明細書では「第二の結晶成長工程」とも称する)を行ってもよい。
【0029】
・第一の結晶成長工程
第一の結晶成長工程は、図1に示すIII族窒化物結晶の製造装置100中で行う。図1に示すように、III族窒化物結晶の製造装置100は、ステンレスや断熱材等で形成された反応室103を有し、当該反応室103内には、坩堝102が設置されている。当該坩堝102は、ボロンナイトライド(BN)や、アルミナ(Al)等から形成される。また、反応室103の周囲には、ヒータ110が配置されており、ヒータ110は、反応室103の内部、特に坩堝102内部の温度を調整できるように設計されている。また、III族窒化物結晶製造装置100内には、上述の種結晶を備えた基板11を昇降可能に保持するための基板保持機構114が設置されている。また、反応室103には、窒素ガスを供給するための窒素供給ライン113が接続されており、当該窒素供給ライン113は、原料ガスボンベ(図示せず)等と接続されている。
【0030】
第一の結晶成長工程では、まず、III族窒化物結晶製造装置100の反応室103内の坩堝102に、フラックスとなるNaとIII族元素であるGaを入れる。NaとGaの投入量は、例えばモル量比で85:15~50:50程度である。このとき、必要に応じて、微量添加物を添加してもよい。なお、これらの作業を空気中で行うと、Naが酸化する可能性がある。そこで、当該作業は、Arや窒素ガス等の不活性ガスを充填した状態で行うことが好ましい。次に、反応室103内を密閉し、坩堝の温度を800℃以上1000℃以下、より好ましくは850℃以上950℃以下に調整し、さらに反応室103内に窒素ガスを送り込む。このとき、反応室103内のガス圧を1×10Pa以上1×10Pa以下、より好ましくは3×10Pa以上5×10Pa以下とする。反応室103内のガス圧を高めることで、高温で溶融したNa中に窒素が溶解しやすくなり、前記の温度及び圧力とすることによりGaN結晶が高速に成長できる。その後、Na、Ga、および微量添加物が均一に混合するまで、保持もしくは攪拌混合等を行う。保持もしくは攪拌混合は、1~50時間行うことが好ましく、10~25時間行うことがより好ましい。このような時間の保持もしくは攪拌混合を行うと、Na、Ga、および微量添加物を均一に混合できる。またこのとき、基板11が所定温度より低い、もしくは均一に混合していないNaやGaの融液12と接触すると、種結晶4がエッチングされたり、品質の悪いGaN結晶が析出したりする場合がある。そのため、基板保持機構114により、基板11を反応室103の上部に保持しておくことが好ましい。
【0031】
その後、図2に示すように、基板11を融液12に浸漬させる。また、浸漬中に融液12の攪拌等を行ってもよい。融液12の攪拌は、揺動、回転などによって坩堝102を物理的に運動させてもよく、攪拌棒や攪拌羽根などを用いて融液12を攪拌してもよい。また、融液12に熱勾配を生じさせ、熱対流によって、融液12を攪拌してもよい。攪拌することにより、融液12中のGaおよびNの濃度を均一な状態に保ち、安定して結晶を成長させることができる。そして、融液12中のGaと溶解している窒素がGaN種結晶4の表面で反応して、GaN単結晶がGaN種結晶4上にエピタキシャル成長する。この状態で、一定時間にわたって融液12に浸漬して結晶成長させることで、図7に示す角錐状を有する第一のGaN結晶3を得ることができる。なお、第一のGaN結晶3を角錐状に成長させることにより、MOCVD法で形成した転位密度10/cm~10/cm程度の種結晶4から引き継ぐ転位を、角錐の頂点に集束させることができる。さらに、転位の集束と次の第二の結晶成長工程とを良好に行うためには、図7に示すように、複数の種結晶4から成長した角錐同士がその少なくとも一部で互いに結合する程度に第一の結晶成長工程を行うことが好ましい。角錐同士が結合していない場合は、その部分で、次の第二のGaN結晶成長時に転位の多いGaN結晶が成長してしまうためである。
【0032】
フラックス法により成長するGaN結晶の断面形状は窒素圧力に依存し、低い圧力では角錐状に、高い圧力では角錐台形状になることが分かっている。窒素圧力は融液中に溶け込む窒素濃度に影響する。そのため、GaN結晶の形状の変化は、融液中のGaNの過飽和度に依存していると考えることができる。過飽和度は窒素圧力だけでなく、温度にも依存し、低温では高過飽和度、高温では低過飽和度となる。そこで、第一の結晶成長工程の窒素圧力及び温度は、成長するGaN結晶が角錐状になるように、前述の範囲の中で適宜設定することが好ましい。
【0033】
・第二の結晶成長工程
次に、図8に示すように、角錐状を有する第一のIII族窒化物結晶(GaN結晶)3上に、表面が平坦な第二のIII族窒化物結晶(GaN結晶)3aを必要に応じて所望の厚みで成長させる。前記の通り、GaN結晶の断面形状は窒素圧力及び温度によって変化する。そのため、第二の結晶成長工程の窒素圧力及び温度は、成長するGaN結晶の表面が平坦になるように、前述の範囲の中で適宜設定する。ここで、第二のGaN結晶3aを厚くすると、最終的なIII族窒化物結晶3および3aの反りやクラックが抑制される。例えば、サファイアからなる基板1よりも最終的なIII族窒化物結晶(GaN結晶)3および3aの厚さが薄い場合は、GaN結晶にクラックが入り易い。そのため、第二のGaN結晶3aの膜厚を大きくすることで、最終的なIII族窒化物結晶(GaN結晶)3、3aにおけるクラックの発生を抑制できる。また、第二の結晶成長工程は、平坦な結晶面が表出しやすい成長モードであり、平坦なIII族窒化物結晶(GaN結晶)を厚く成長させる工程である。さらに、第一の結晶成長工程で転位を角錐状のIII族窒化物結晶(GaN結晶3)の頂点に集束させているため、第二の結晶成長工程で育成されるIII族窒化物結晶(GaN結晶)3aの転位密度は、10/cm以下である。
【0034】
なお、第二の結晶成長工程の終了後、最終的なIII族窒化物結晶(GaN結晶)3および3aを取り出すために温度と圧力を常温・常圧に戻す必要がある。この時に融液12の過飽和度が大きく変動し、種基板11を浸漬したままだと、III族窒化物結晶(GaN結晶)3および3aがエッチングされたり、低品質のGaN結晶が析出したりすることがある。このため、第二のGaN結晶成長工程の終了後には、種基板11を融液12から引き上げた状態で温度と圧力を常温・常圧に戻すことが好ましい。
【0035】
(分離工程)
上述の結晶成長工程の後に、図9に示すように、前記種結晶4の近傍においてIII族窒化物結晶(第一のIII族窒化物結晶)3と基板1とを、分離する分離工程をさらに含んでもよい。これによって、最終的なIII族窒化物結晶3および3aに、割れやクラックがより生じにくくなる。
【0036】
例えば、850~950℃の結晶成長温度から常温までの間で、III族窒化物結晶(GaN結晶)3および3aとサファイアからなる基板1とは、熱膨張係数が異なる。つまり、常温まで冷却する過程で、III族窒化物結晶(GaN結晶)3および3aとサファイアからなる基板1との熱膨張係数の差を利用して、断面積が最も小さく、破断し易い種結晶4の近傍で分離することができる。これにより、反りやクラックが抑制された大きなサイズのIII族窒化物結晶(GaN結晶)3および3aが得られる。
【0037】
(その他の工程)
なお、得られた大きなサイズのIII族窒化物結晶(GaN結晶)3および3aから、図10に示すように、GaN種結晶4、第一のIII族窒化物結晶(第一のGaN結晶)3を除去し、さらに表面(図の上側)を研磨することにより、大口径のGaN結晶基板21を製造してもよい。GaN種結晶4および第一のIII族窒化物結晶(第一のGaN結晶)3を除去することによって、高転位領域を含むことを抑制することができる。また、GaN結晶基板21は、平坦面が表出しやすい条件での結晶成長(第二の結晶成長工程)により得られた結晶である。そのため、(10-11)面などの傾斜面が表出する成長モードを含まず、結晶中に取り込まれる不純物濃度を低くすることができる。
【0038】
[その他の実施の形態]
上記の結晶成長工程において、NaやGaと共に微量添加物を添加すると、得られるGaNの電気伝導性やバンドギャップを調整することが可能となる。微量添加物の例には、ボロン(B)、タリウム(Tl)、カルシウム(Ca)、カルシウム(Ca)の群から選択される少なくとも一つの元素を含む化合物、珪素(Si)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、炭素(C)、酸素(O)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、アルミナ(Al)、窒化インジウム(InN)、窒化珪素(Si)、酸化珪素(SiO)、酸化インジウム(In)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化マグネシウム(MgO)、およびゲルマニウム(Ge)等が含まれる。これらの微量添加物は、1種類のみ添加してもよく、2種以上を添加してもよい。
【0039】
また、上記では、フラックスとしてNaを用いる形態を説明したが、本開示はこれに限定されず、Na以外のアルカリ金属を用いてもよい。具体的には、Na、Li、K、Rb、CsおよびFrからなる群から選択される少なくとも1つを含み、例えば、NaとLiとの混合フラックスなどであってもよい。
【0040】
さらに上記では、III族窒化物としてGaNの結晶を作製する形態について説明したが、本開示はこれに限定されない。本開示のIII族窒化物は、III族元素(Al、Ga、またはIn)および窒素を含む2元、3元、または4元の化合物とすることができる。例えば、一般式Al1-x-yGaInN(式中、xおよびyは0≦x≦1,0≦y≦1,0≦1-x-y≦1を満たす)で表される化合物とすることができる。また、III族窒化物は、p型またはn型の不純物を含んでいてもよい。なお、種結晶4についても、材料としてGaNを記載したが、上記に示したIII族窒化物とすることができる。
【0041】
なお、本開示においては、前述した様々な実施の形態及び/又は実施例のうちの任意の実施の形態及び/又は実施例を適宜組み合わせることを含むものであり、それぞれの実施の形態及び/又は実施例が有する効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本開示に係るIII族窒化物結晶の製造方法および製造に用いる種基板を利用することで、割れやクラックの無い大きなサイズのIII族窒化物結晶を高い製造歩留りで得ることができる。これにより、例えば、高輝度のLED素子や低損失のパワーデバイス素子等を歩留り良く低コストに製造することが可能となる。
【符号の説明】
【0043】
1、31 基板
2、32 種結晶配置領域
3 第一のIII族窒化物結晶(第一のGaN)
3a 第二のIII族窒化物結晶(第二のGaN)
4 種結晶
11 種基板
12 融液
21 III族窒化物結晶基板
33 III族窒化物結晶
33a 凹凸構造
100 III族窒化物結晶製造装置
102 坩堝
103 反応室
110 ヒータ
113 窒素供給ライン
114 基板保持機構
図1
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