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特許7264349テラヘルツ波を利用した、受光素子ならびに給電素子に適した炭素膜およびテラヘルツ波検出装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】テラヘルツ波を利用した、受光素子ならびに給電素子に適した炭素膜およびテラヘルツ波検出装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/08 20060101AFI20230418BHJP
   H01L 31/10 20060101ALI20230418BHJP
   G01J 1/02 20060101ALI20230418BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
H01L31/08 Z
H01L31/10 H
G01J1/02 C
H01L29/06 601N
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019503034
(86)(22)【出願日】2018-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2018007347
(87)【国際公開番号】W WO2018159638
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2021-01-20
(31)【優先権主張番号】P 2017036214
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.応用物理学会、第77回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集、講演番号:16a-B2-12、発行年月日:平成28年9月1日 2.第77回応用物理学会秋季学術講演会(16a-B2-12)、開催日:平成28年9月16日 3.応用物理学会、第77回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集、講演番号:16a-B2-13、発行年月日:平成28年9月1日 4.第77回応用物理学会秋季学術講演会(16a-B2-13)、開催日:平成28年9月16日 5.掲載日:平成28年11月14日、 http://www.nature.com/nphoton/index.html http://www.nature.com/nphoton/journal/v10/n12/full/nphoton.2016.209.html、 6.掲載日:平成28年11月9日、 http://www.titech.ac.jp/news/index.html、 http://www.titech.ac.jp/news/pdf/tokyotechpr20161109_kawano.pdf 7.東工大プレスリリース記者説明会、開催日:平成28年11月11日 8.掲載日:平成28年11月15日、 http://www.titech.ac.jp/news/index.html 、 http://www.titech.ac.jp/news/2016/036686.html 9.掲載日:平成28年11月17日、 http://www.titech.ac.jp/news/index.html 、 http://www.titech.ac.jp/english/news/2016/036652.html 10.日本経済新聞社、日経産業新聞の朝刊第8面、発行日:平成28年11月16日 11.日刊工業新聞社、日刊工業新聞の朝刊第25面、発行日:平成28年11月16日 12.電波新聞社、電波新聞の朝刊第3面、発行日:平成28年11月18日 13.科学新聞社、科学新聞の第4面、発行日:平成28年12月16日 14.掲載日:平成29年1月24日、 http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/mag/15/320925/012300130/
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 15.掲載日:平成28年11月22日 http://www.fbi-award.jp/sentan/jusyou/index.html
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 行雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大地
(72)【発明者】
【氏名】落合 雄輝
(72)【発明者】
【氏名】長宗 勉
(72)【発明者】
【氏名】山岸 智子
【審査官】桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-502751(JP,A)
【文献】特開2012-190822(JP,A)
【文献】特表2008-538854(JP,A)
【文献】特開2008-205272(JP,A)
【文献】特開2009-283945(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0316511(US,A1)
【文献】HE, Xiaowei et al.,Carbon-based terahertz devices,Proc. of SPIE,SPIE,2015年05月28日,Vol.9476,pp.947612-1 - 947612-9,DOI:10.1117/12.2185159
【文献】ERIKSON, Kristopher J. et al.,Figure of Merit for Carbon Nanotube Photothermoelectric Detectors,ACS nano,ACS Publications,2015年10月29日,Vol.15, No.12,pp.11618-11627,DOI:10.1021/acsnano.5b06160
【文献】SUZUKI, D. et al.,Mechanism of carbon nanotubes terahertz detectors based on photothermoelectric effect,2016 41st International Conference on Infrared, Millimeter, and Terahertz waves (IRMMW-THz),IEEE,2016年09月30日,DOI:10.1109/IRMMW-THz.2016.7758937
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/0392
H01L 31/08-31/119
H01L 31/18-31/20
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テラヘルツ波を利用した、受光素子ならびに給電素子に使用される炭素膜であって、
当該炭素膜は、複数のカーボンナノチューブを含んで構成されたカーボンナノチューブ構造体からなるカーボンナノチューブ膜であり、
前記カーボンナノチューブ構造体は、前記カーボンナノチューブ膜の厚さと幅によって規定される伝熱面積を有し、
前記カーボンナノチューブ膜の前記幅を所定値に設定した場合において、前記カーボンナノチューブ膜の厚みが、1μm以上100μm以下であり、
前記カーボンナノチューブ膜は、支持体が存在していなくとも膜としての形状を保つことができる、膜厚10nm~3μm、面積が1mm~100cmのサイズの自立膜である
ことを特徴とする炭素膜。
【請求項2】
テラヘルツ波を利用した、受光素子ならびに給電素子に使用される炭素膜であって、
当該炭素膜は、複数のカーボンナノチューブを含んで構成されたカーボンナノチューブ構造体からなるカーボンナノチューブ膜であり、
前記カーボンナノチューブ構造体は、前記カーボンナノチューブ膜の厚さと幅によって規定される伝熱面積を有し、
前記カーボンナノチューブ膜の前記幅を所定値に設定した場合において、前記カーボンナノチューブ膜の厚みが、10nm以上100μm以下であり、
前記カーボンナノチューブ膜は、支持体が存在していなくとも膜としての形状を保つことができる、膜厚10nm~3μm、面積が1mm~100cmのサイズの自立膜である
ことを特徴とする炭素膜。
【請求項3】
テラヘルツ波を利用した、受光素子ならびに給電素子に使用される炭素膜であって、
当該炭素膜は、支持膜上に形成された、複数のカーボンナノチューブを含んで構成されたカーボンナノチューブ構造体からなるカーボンナノチューブ膜であり、
前記カーボンナノチューブ構造体は、前記カーボンナノチューブ膜の厚さと幅によって規定される伝熱面積を有し、
前記カーボンナノチューブ膜の前記幅を所定値に設定した場合において、前記カーボンナノチューブ膜の厚みが、10nm以上100μm以下であり、
前記カーボンナノチューブ膜は、支持体が存在していなくとも膜としての形状を保つことができる、膜厚10nm~3μm、面積が1mm~100cmのサイズの自立膜である
ことを特徴とする炭素膜。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブは、
単層、二層、及び多層のカーボンナノチューブのうちの少なくとも何れかである
ことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の炭素膜。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブ構造体を構成する複数のカーボンナノチューブは、その50重量%以上が、単層カーボンナノチューブである
ことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の炭素膜。
【請求項6】
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の炭素膜と、
前記炭素膜上の、X方向の一方側に配置される第1電極と、
前記炭素膜上の、前記X方向の他方側に配置される第2電極と、を備えるテラヘルツ波検出装置であって、
前記第1電極および前記第2電極の電極種は、
Au、Cu、Ag、Ptを含む貴金属元素、Al、Ga、Inを含むアルミニウム族元素、Mo、Cr、Wを含むクロム族元素、Ni、Fe、Coを含む鉄族元素、Ti、Zr、Sn、Hf、Pb、Thを含むスズ族元素、Be、Mg、Znを含むマグネシウム族元素、より選択される少なくとも二種の金属または元素、さらにこれらの金属または元素の合金であり、
前記炭素膜は、前記X方向に直交するY方向に沿った寸法である幅寸法(W)が8nm以上である
ことを特徴とするテラヘルツ波検出装置。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブ膜のX方向の一方側にソース電極が設置され、X方向の他方側にドレイン電極が設置されており、前記ソース電極近くの前記カーボンナノチューブ膜にアンテナを備える
ことを特徴とする請求項6に記載のテラヘルツ波検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ波を利用した、受光素子ならびに給電素子に適した炭素膜およびテラヘルツ波検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁波において、周波数100GHzから30THz程度はテラヘルツ波と称される周波数領域である。テラヘルツ波は電波と光波の中間帯にある。
テラヘルツ波は、良質の光源や信号源、検出器がなく、利用困難な電磁波の領域とされてきた。すなわち、テラヘルツ波はエレトロニクスによる電子制御の高周波極限であり、光制御の低エネルギ極限にある。
【0003】
ところで、テラヘルツ波は、電波としての透過性や、光波としての直進性、水に対する高い吸収率をもち、固体中電子や高分子の物性解析に有力という特性を有している。
そこで、テラヘルツ波は、材料科学、生体分子分光学等の基礎学術分野から、セキュリティ、情報通信、環境、医療等の実用分野に至る幅広い応用が期待されている。
【0004】
特許文献1には、表面から一定の位置に2次元ガスが形成された半導体チップと、該半導体チップの表面に密着して設けられたカーボンナノチューブ、導電性のソース電極、ドレイン電極およびゲート電極とを備えるテラヘルツ波検出装置が記載されている。カーボンナノチューブは、半導体チップの表面に沿って延び、その両端部がソース電極とドレイン電極に接続され、ゲート電極は、カーボンナノチューブの側面から一定の間隔を隔てて位置する。
【0005】
また、テラヘルツ波の周波数を検出できる検出器として、例えば非特許文献1に記載がある。非特許文献1には、カーボンナノチューブアレイ、グラフェン、半導体ヘテロ界面2次元電子ガスという低次元電子系の機能を利用した新しいテラヘルツ波検出・分光・撮像技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-60284号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】河野行雄、“低次元電子系の機能に基づくテラヘルツ波検出・分光・撮像デバイス”、応用物理学会誌「応用物理」Vol.84,pp.643-647(2015).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、テラヘルツ波検出装置については、実験レベルで使用可能な室温動作テラヘルツ波検出が実現され始めている。しかし、パッシブイメージング等で微弱な電磁波を検出するためには、検出器の感度は十分なものとは言えず、感度の向上が強く求められている。
このように産業応用については、感度が低い、検出可能な周波数帯域が限られている、検出器における最適条件が分らないという課題がある。
【0009】
本発明は上記実状に鑑み創案されたものであり、高感度、高性能な、テラヘルツ波を利用した、受光素子ならびに給電素子に適した炭素膜およびテラヘルツ波検出装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、第1の本発明の炭素膜は、テラヘルツ波を利用した、受光素子ならびに給電素子に使用される炭素膜であって、当該炭素膜は、複数のカーボンナノチューブを含んで構成されたカーボンナノチューブ構造体からなるカーボンナノチューブ膜であり、前記カーボンナノチューブ構造体は、前記カーボンナノチューブ膜の厚さと幅によって規定される伝熱面積を有し、前記カーボンナノチューブ膜の前記幅を所定値に設定した場合において、前記カーボンナノチューブ膜の前記厚みが、1μm以上100μm以下であり、前記カーボンナノチューブ膜は、支持体が存在していなくとも膜としての形状を保つことができる、膜厚10nm~3μm、面積が1mm ~100cm のサイズの自立膜であることを特徴とする炭素膜である。
【0011】
第2の本発明の炭素膜は、テラヘルツ波を利用した、受光素子ならびに給電素子に使用される炭素膜であって、当該炭素膜は、複数のカーボンナノチューブを含んで構成されたカーボンナノチューブ構造体からなるカーボンナノチューブ膜であり、前記カーボンナノチューブ構造体は、前記カーボンナノチューブ膜の厚さと幅によって規定される伝熱面積を有し、前記カーボンナノチューブ膜の前記幅を所定値に設定した場合において、前記カーボンナノチューブ膜の前記厚みが、10nm以上100μm以下であり、前記カーボンナノチューブ膜は、支持体が存在していなくとも膜としての形状を保つことができる、膜厚10nm~3μm、面積が1mm ~100cm のサイズの自立膜であることを特徴とする炭素膜である。
【0012】
第3の本発明の炭素膜は、テラヘルツ波を利用した、受光素子ならびに給電素子に使用される炭素膜であって、当該炭素膜は、支持膜上に形成された、複数のカーボンナノチューブを含んで構成されたカーボンナノチューブ構造体からなるカーボンナノチューブ膜であり、前記カーボンナノチューブ構造体は、前記カーボンナノチューブ膜の厚さと幅によって規定される伝熱面積を有し、前記カーボンナノチューブ膜の前記幅を所定値に設定した場合において、前記カーボンナノチューブ膜の前記厚みが、10nm以上100μm以下であり、前記カーボンナノチューブ膜は、支持体が存在していなくとも膜としての形状を保つことができる、膜厚10nm~3μm、面積が1mm ~100cm のサイズの自立膜であることを特徴とする炭素膜である。
【0013】
の本発明のテラヘルツ波検出装置は、請求項1から請求項の何れか一項に記載の炭素膜と、前記炭素膜上の、X方向の一方側に配置される第1電極と、前記炭素膜上の、前記X方向の他方側に配置される第2電極と、を備えるテラヘルツ波検出装置であって、前記第1電極および前記第2電極の電極種は、金属電極の熱伝導率に基づいて選定され、前記炭素膜は、前記X方向に直交するY方向に沿った寸法である幅寸法(W)が8nm以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高感度、高性能な、テラヘルツ波を利用した、受光素子ならびに給電素子に適した炭素膜およびテラヘルツ波検出装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態1に係るテラヘルツ波検出装置の構成を示す模式図。
図2】テラヘルツ波の照射状態を示す拡大斜視図。
図3】1.4THzのテラヘルツ波を照射した場合のテラヘルツ波検出装置のI-V特性を示す図。
図4】電極の材料(Au、Al、Mo、Ni、Ti)の熱伝導率とテラヘルツ波の応答信号を示す図。
図5】第1電極近くのカーボンナノチューブ膜上に、テラヘルツ波が照射された際のカーボンナノチューブ膜内部の熱分布を示す図。
図6】29Hzのテラヘルツ波を図2に示すようにカーボンナノチューブ膜に照射した際のテラヘルツ応答を示す図。
図7A】膜厚、バンドル径の評価に用いた第1電極、カーボンナノチューブ膜、および第2電極の寸法を示す上面図。
図7B図7AのI方向矢視図。
図8】テラヘルツ波の照射時の実験状態を示す図。
図9】29THz、22mWのテラヘルツ波を照射した場合のカーボンナノチューブ膜の膜厚と光熱起電力との関係を示す図。
図10】光熱電効果を示す模式図。
図11】39THzのテラヘルツ波を照射した場合のカーボンナノチューブ膜の過渡応答を示すカーボンナノチューブ膜の膜厚と時定数との関係を示す図。
図12】カーボンナノチューブ膜の膜厚と抵抗の関係を示す図。
図13】バンドル径約10nmのカーボンナノチューブ膜の拡大写真。
図14】バンドル径約200nmのカーボンナノチューブ膜の拡大写真。
図15】バンドル径約200nmと約10nmのカーボンナノチューブ膜とゼーベック係数との関係を示す図。
図16】29THzのテラヘルツ波を照射した場合のカーボンナノチューブ膜の膜厚と雑音等価パワーの関係を示す図。
図17A】本発明の実施形態2に係るシミレーションと実験で使用したテラヘルツ波検出供試体の斜視図。
図17B】テラヘルツ波検出供試体のカーボンナノチューブ膜の温度分布の一例を示す図。
図18A】シミュレーションのカーボンナノチューブ膜の膜厚と時定数の関係を示す図。
図18B】カーボンナノチューブ膜の膜厚と時定数の関係の実験結果を示す図。
図19図18Bで用いた実験での時定数の求め方を示す図。
図20A】シミュレーションのカーボンナノチューブ膜の膜厚とカーボンナノチューブ膜の最高温度と最低温度の温度差の関係を示す図。
図20B】カーボンナノチューブ膜の膜厚とテラヘルツ波検出供試体のテラヘルツ波応答との関係を規格化した実験結果を示す図。
図21A】シミュレーションのカーボンナノチューブ膜の膜厚とカーボンナノチューブ膜の最高温度と最低温度の温度差の関係を示す図。
図21B】カーボンナノチューブ膜の幅とテラヘルツ波検出供試体のテラヘルツ波応答を規格化したものとの関係の実験結果を示す図。
図22A】評価に使用したテラヘルツ波検出供試体を示す図。
図22B】39THzのテラヘルツ波を照射された際のカーボンナノチューブ膜の膜厚に応じたテラヘルツ波による温度を示す図。
図23A】評価に使用したテラヘルツ波検出供試体を示す図。
図23B】39THzのテラヘルツ波を照射された際のカーボンナノチューブ膜の幅に応じたテラヘルツ波による温度を示す図。
図24】変形例のカーボンナノチューブ膜にボウタイアンテナを設置した状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
<<実施形態1>>
図1は、本発明の実施形態1に係るテラヘルツ波検出装置10の構成を示す模式図である。
本実施形態では、テラヘルツ波検出装置10の検出素子として使用されるカーボンナノチューブ(Carbon Nanotubes)の最適条件を明らかにする。
【0017】
テラヘルツ波検出装置10は、チップキャリア基板17上にカーボンナノチューブ膜(炭素膜)11と、カーボンナノチューブ膜11の一方の端部に接合される第1電極12および他方の端部に接合される第2電極13とを備えている。
【0018】
すなわち、テラヘルツ波検出装置10は、チップキャリア基板17上に形成されたカーボンナノチューブ膜11と、カーボンナノチューブ膜11の2次元平面上に対向して配置される第1電極12および第2電極13とを備えている。
第1電極12と第2電極13は、同じ熱伝導率を有する金属や異なる熱伝導率を有する金属等である。実施形態では、第1電極12と第2電極13は、熱伝導率が高い金(図5参照)を用いている。なお、第1電極12と第2電極13に金合金を用いてもよい。
【0019】
チップキャリア基板17は、非ノイズ性、低熱伝導率、絶縁性、耐候性、所定の強度等の支持基板としての必要な条件を満たせば、如何なる材質の基板でもよい。
【0020】
第1電極12と第2電極13間には、電流計14が接続される。図1では、後記するように、第1電極12の近くのカーボンナノチューブ膜11にテラヘルツ波40が照射され起電力が発生するので、第1電極12がソース電極であり、第2電極13がドレイン電極である。なお、IV特性を測るためにバッテリを接続してもよい。
【0021】
図2は、テラヘルツ波40の照射状態を示す拡大斜視図である。
第1電極12と第2電極13間の第1電極12近くのカーボンナノチューブ膜11上に、テラヘルツ波40が照射される。なお、第1電極12と第2電極13間の第2電極13近くのカーボンナノチューブ膜11上に、テラヘルツ波40を照射する構成としてもよい。
【0022】
<カーボンナノチューブ膜11>
カーボンナノチューブは、高い電気伝導性と高い機械的強度を兼ね備え、柔軟性をもつ。カーボンナノチューブは、DCに近い周波数から紫外光領域に至る、極めて広い周波数帯での電磁波を吸収する。特に、サブテラヘルツから紫外光までの極めて広い周波数帯域の光を吸収可能である。そこで、カーボンナノチューブがテラヘルツ波検出装置10の検出素子に適用される。
【0023】
検出素子として使用されるカーボンナノチューブ膜11は、下記の特徴をもつ。
カーボンナノチューブ膜11は、一例としてp-typeである。また、カーボンナノチューブ膜11は、n-typeであってもよく、p-typeとn-typeとを組み合わせたものでもよい。
【0024】
カーボンナノチューブ膜11は、単層カーボンナノチューブ(SWCNTs : Single-Walled Carbon Nanotubes)(カーボンナノチューブ構造体)、二層カーボンナノチューブ(DWCNTs : Dubble-Walled Carbon Nanotubes)(カーボンナノチューブ構造体)、多層カーボンナノチューブ(MWCNTs : Multi-Walled Carbon Nanotubes)(カーボンナノチューブ構造体)を、それぞれ単独で使用、および/又は、併用しても構わない。カーボンナノチューブ膜11は、単層カーボンナノチューブが50重量%以上を含むことが好ましく、80重量%以上含むことがより好ましい。さらに好ましくは、平均直径に対する標準偏差に3を乗じた値の比が(3×標準偏差/平均直径)が0.20より大きく、0.60未満を満たし、吸着等温線から得られるt-プロットが上に凸な形状を示す単層カーボンナノチューブを使用する事が好適である。
カーボンナノチューブ膜11は、カーボンナノチューブ以外の繊維状炭素ナノ構造体(カーボンナノチューブ構造体)との混合物であってもよい。
カーボンナノチューブ膜11は、75重量%以上が繊維状炭素ナノ構造体(カーボンナノチューブ構造体)で構成されていることが好ましい。
【0025】
カーボンナノチューブ膜11は、支持体が存在していなくとも膜としての形状を保つことができる自立膜であるとよい。具体的には、カーボンナノチューブ膜11は、膜厚10nm~3μm、面積が1mm~100cmのサイズにおいて支持体無しで膜としても形状を保つことがより好ましい。
【0026】
カーボンナノチューブ膜11は、一例として、PCT/JP2016/002552で開示される繊維状炭素ナノ構造体分散液を用いて製造される。繊維状炭素ナノ構造体分散液は、繊維状炭素ナノ構造体と溶媒とを含有する混合物である。溶媒は特に限定されることなく、例えば、水、メタノール、エタノール、n―プロパノール、イソプロパノール,n-ブタノール、イソブタノール、パラジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類等が挙げられる。これらは、溶媒として、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
カーボンナノチューブ膜11の製造方法は、繊維状炭素ナノ構造体(カーボンナノチューブ構造体)と溶媒とを含有する繊維状炭素ナノ構造体分散液から溶媒を除去して、炭素膜を成膜する工程を含む。カーボンナノチューブ膜11の成膜工程は下記の何れかの方法が用いられる。
(A)繊維状炭素ナノ構造体分散液を成膜基材上に塗布した後、塗布した繊維状炭素ナノ構造体分散液を乾燥させる。
(B)多孔質の成膜基材を用いて繊維状炭素ナノ構造体分散液をろ過し、得られたろ過物を乾燥させる。詳細は、PCT/JP2016/002552を参照のこと。
なお、カーボンナノチューブ膜11は上述以外の方法を用いて作製してもよい。
【0028】
<第1電極および第2電極>
第1電極12(ソース電極)および第2電極13(ドレイン電極)は、金属からなる。前記したように、電極(12、13)に用いた金属は、Auである。
その他、電極材料としては、Al、Mo、Ni、Tiがある。ただし、貴金属ではAu以外のCu、Ag、Ptなど、アルミニウム族元素ではAl以外のGa、Inなど、クロム族元素ではMo以外のCr、Wなど、鉄族元素ではNi以外のFe、Coなど、スズ族元素ではTi以外のZr、Sn、Hf、Pb、Thなど、マグネシウム族元素のBe、Mg、Znなど、さらにこれらの金属の合金が使用できると考えられる。
【0029】
第1電極12と第2電極13とは、実施形態のように、同種金属を用いてもよいし、異種金属を用いてもよい。
電極材料は、熱伝導率(熱伝導度)が高い金属が好ましい。熱伝導率は、熱の流れに垂直な単位面積を通って単位時間に流れる熱量を、単位長さ当たりの温度差(温度勾配)で割った値である。
【0030】
<テラヘルツ波検出装置10のI-V特性>
図3は、1.4THzのテラヘルツ波40を照射した場合のテラヘルツ波検出装置10のI-V特性(室温下)を示す図である。横軸にソース-ドレイン電圧[mV]をとり、縦軸にソース-ドレイン電流[μA])をとる。また、図3のI-V特性の細実線は、テラヘルツ波40の照射がない場合(Off)を示し、太実線は、テラヘルツ波40の照射がある場合(On)を示す。
【0031】
図3に示すように、1.4THzのテラヘルツ波40を照射した場合、テラヘルツ波40の照射に伴い電流ないし電圧の応答が発生しており、光熱起電力による室温でのテラヘルツ波の検出が確認できる。1.4THzのテラヘルツ波40を照射した場合、I-V特性は線形であり、I-V特性のシフトが観測された。
【0032】
<電極(12、13)の材料の熱伝導率とテラヘルツ波40の応答信号>
図4は、電極の材料(Au、Al、Mo、Ni、Ti)の熱伝導率(Thermal conductance [W/m/K])(左縦軸)とテラヘルツ波40の応答信号(Response[μA])(右縦軸)を示す図である。応答信号(Response[μA])は、テラヘルツ波40を照射した際の応答電流で示される。電極の材料の熱伝導率(左縦軸)は、図4の折れ線グラフで示し、応答信号(右縦軸)は、棒グラフで示す。なお、電極の厚さ20nmである。
【0033】
図4に示すように、熱伝導率(折れ線グラフ)は、Au>Al>Mo>Ni>Tiの順に大きい。
各電極の材料の応答信号(Response[μA])(棒グラフ)は、Au>Al>Mo>Ni>Tiの順に感度が変化する。図7A図7Bに示す電極の材料の中では、Auの応答電流が最も大きく、次いでAlとなる。そして、感度はAlから略半減してMo、Ni、Tiと続く。以上より、Au、Al、Mo、Ni、Tiにおける熱伝導率(折れ線グラフ)の大小関係と応答信号(棒グラフ)の大小関係とは同じ関係にある。
すなわち、図4から分るように、熱伝導率が高いほど高感度である。そのため、電極(11、12)の熱伝導率を高めることで、検出感度を向上させ得る。
【0034】
<テラヘルツ波40照射時のカーボンナノチューブ膜11の熱分布>
図5は、第1電極12近くのカーボンナノチューブ膜11上に、テラヘルツ波40が照射された際のカーボンナノチューブ膜11内部の熱分布を示す図である。
カーボンナノチューブ膜11の内部の熱分布をみると、第1電極12がある部分が高温に、第1電極12がない部分が低温になっている。
【0035】
この結果は、第1電極12の金属が一種の熱源のような役割を果たしていることを示唆している。カーボンナノチューブ膜11は照射された電磁波を吸収し発熱するが、第1電極12と接している部分では熱が急激に第1電極12の側に吸熱される。そのため、まず第1電極12の全域の温度が上がり、次に第1電極12が接触している部分のカーボンナノチューブ膜11の温度が上昇する。結果として、第1電極12との界面を形成するカーボンナノチューブ膜11内で大きな温度勾配が生じる。この温度勾配によってキャリアが第1電極12の側からカーボンナノチューブ膜11の第1電極12から遠い側に熱拡散し応答が発生するのである。
【0036】
図6は、29Hzのテラヘルツ波を図2に示すようにカーボンナノチューブ膜11に照射した際のテラヘルツ応答を示す図である。
キャリアが正孔であるため電源側(第1電極12側)では正、GND側(第2電極13側)では負の電流応答を示す。
【0037】
すなわち、テラヘルツ波40の検出原理は光熱起電力効果(ゼーベック効果)である。第1電極12とカーボンナノチューブ膜11の境界にテラヘルツ波を照射すると、カーボンナノチューブ膜11がテラヘルツ波を吸収して発熱し、熱勾配ができる。この熱勾配によりキャリアが拡散し、テラヘルツ波応答の起電力が生じる。
これらの実験結果等により、電極金属がテラヘルツ波の照射によって熱源として動作し、この熱勾配によって起電力が発生するというメカニズムであることが分かる。
【0038】
<供試カーボンナノチューブ膜>
図7A図7Bは、膜厚、バンドル径の評価に用いた第1電極12、カーボンナノチューブ膜11、および第2電極13の寸法を示しており、図7Aは上面図、図7B図7AのI方向矢視図である。
る。
第1電極12は、長手方向寸法3.5mm、短手方向寸法2mm、厚さ50nmである。同様に、第2電極13は、長手方向寸法3.5mm、短手方向寸法2mm、厚さ50nmである。
カーボンナノチューブ膜11は、長手方向寸法10mm、短手方向寸法2mmであり、膜厚を変え評価した。
【0039】
図8は、テラヘルツ波40の照射時の実験状態を示す図である。
カーボンナノチューブ膜11の最適条件を見出すテラヘルツ波40の検出実験に際して、カーボンナノチューブ膜11の第1電極12(ソース電極)は第1結線15にドータイト(登録商標)等の導電性高分子接着剤15aを介して接続されている。また、カーボンナノチューブ膜11の第2電極13(ドレイン電極)は第2結線16にドータイト等の導電性高分子接着剤16aを介して接続されている。
【0040】
検出実験に際しては、カーボンナノチューブ膜11は下地のチップキャリア基板17(図1参照)から離れている。これにより、カーボンナノチューブ膜11だけの特性を評価した。
【0041】
<カーボンナノチューブ膜11の膜厚に依る図7A図7Bの依存性と時定数の依存性>
カーボンナノチューブ膜11の膜厚を変化させた場合の図7A図7Bの依存性と時定数の依存性を評価した。
図9は、29THz、22mWのテラヘルツ波40を照射した場合のカーボンナノチューブ膜11の膜厚と光熱起電力との関係を示す図である。横軸にカーボンナノチューブ膜11の膜厚(μm)をとり、縦軸にカーボンナノチューブ膜11に生じた光熱起電力(mV)をとっている。
【0042】
図9より、カーボンナノチューブ膜11の膜厚が薄いほど、光熱起電力が大きい、すなわち、カーボンナノチューブ膜11の膜厚が薄いほどテラヘルツ波40の応答性がよいことが分る。例えば、膜厚150μm程度で0.1mV程度の起電力が、膜厚10μm以下で約2mVの起電力が発生可能であり、例えば、膜厚4μmで1.98mVの光熱起電力が確認された。つまり、膜厚を薄くすることで、約20倍感度が向上する。
【0043】
図10は、光熱電効果を示す模式図である。
発生する起電力ΔVとゼーベック係数Sと温度勾配(温度差)ΔTとの間には、下式(1)の関係がある。
【数1】
【0044】
また、熱の伝わり易さを示す熱伝導率kは、熱移動量をQ、伝熱面積をAとすると、下式(2)の関係がある。
k = Q ×A / ΔT (2)
【0045】
Sをゼーベック係数、σを電気伝導度、ZTを無次元性能指数とすると、下式(3)の関係がある。
【数2】
【0046】
カーボンナノチューブ膜11の膜厚が薄いと伝熱面積Aが小さいので、式(2)より熱の伝達が遅く、カーボンナノチューブ膜11の長手方向の温度勾配ΔTが大きい。そのため、式(1)より起電力ΔVが上がり、感度が上がると考えられる。また、膜厚が薄いと伝熱面積Aが小さく式(2)より熱伝達率kが低下するので、式(3)より、無次元性能指数ZTが向上する。
従って、カーボンナノチューブ膜11の膜厚が薄いほど、光熱起電力が大きいことが確認された。
【0047】
図11は、39THzのテラヘルツ波40を照射した場合のカーボンナノチューブ膜11の過渡応答を示しており、カーボンナノチューブ膜11の膜厚と時定数との関係を示す図である。横軸にカーボンナノチューブ膜11の膜厚(μm)をとり、縦軸に時定数(s)をとっている。
図11より、カーボンナノチューブ膜11の膜厚が薄いほど、時定数が低下することが確認された。例えば、膜厚150μm程度で約0.8sの時定数が、膜厚2μmで40msの時定数となる。すなわち、膜厚を150μmから2μmにすることで、約20倍時定数が低下し、高速化が可能である。これは、カーボンナノチューブ膜11の膜厚が薄いほど、熱キャパシタンス成分が減るためである。
【0048】
図12は、カーボンナノチューブ膜11の膜厚と抵抗の関係を示す図である。横軸にカーボンナノチューブ膜11の膜厚(μm)をとり、縦軸に抵抗(Ω)をとっている。
カーボンナノチューブ膜11の膜厚が厚いほど、抵抗が小さくなることが確認される。
抵抗R、カーボンナノチューブ膜11の断面積A1、カーボンナノチューブ膜11の長手方向長さlとすると、抵抗Rは下式(4)で表される。
R ∝ l / A1 (4)
図11のカーボンナノチューブ膜11の膜厚を薄くするとA1は小さくなるので、抵抗Rが大となる。また、熱容量が低減し、テラヘルツ波吸収による温度上昇が生じやすくなる。
そのため、カーボンナノチューブ膜11の膜厚が薄いほど光熱起電力が大となる。
【0049】
従って、テラヘルツ波検出装置10の高感度化、高速化のためには、カーボンナノチューブ膜11の膜厚は薄いほどよい。
しかし、カーボンナノチューブ膜11の膜厚が薄過ぎると破ける。また、膜厚が薄過ぎると照射テラヘルツ光に対する吸光度が減少するため熱の発生量が僅少になる。また、カーボンナノチューブ膜11が自立できない、すなわちカーボンナノチューブ膜11がフリースタンディングでないと支持基板に載せる必要がある。
これらのことから、カーボンナノチューブ膜11の膜厚は、1μm以上であることが好ましい。
【0050】
ところで、カーボンナノチューブ膜11を検出器として用いる場合、膜厚50μm程度は望まれる。膜厚が厚過ぎるとテラヘルツ波検出装置10の高感度化、高速化が阻害されるので、膜厚は、100μm以下が好ましい。
従って、テラヘルツ波検出装置10におけるカーボンナノチューブ膜11の膜厚は、1μm以上100μm以下が好適である。
【0051】
<カーボンナノチューブ膜11の優位性>
カーボンナノチューブを用いたカーボンナノチューブ膜11はテラヘルツ波40をほぼ100%吸収する。すなわち、テラヘルツ波40の波長よりも薄くしても、式(1)の温度勾配ΔTをとれる。これに対して、カーボンナノチューブ以外の材料のみを使用した場合では、膜厚を薄くするとテラヘルツ光が透過して温まらない。
従って、バルクの材料を検出素子として、板厚を薄くして波長よりも薄くすると検出効率が低下するという問題をカーボンナノチューブの膜を検出素子とすることで解決できる。
【0052】
<カーボンナノチューブ膜11のバンドル径とゼーベック係数>
次に、カーボンナノチューブ膜11に含まれるカーボンナノチューブのバンドル径とゼーベック係数Sとの関係を評価した。
なお、バンドル径とは、複数本のカーボンナノチューブが繊維状の形状を保って寄り集まったものの径である。
【0053】
評価に際して、カーボンナノチューブの束のバンドル径約10nm、約200nmの2種類のフィルム(膜)を用意した。
バンドル径約10nmのカーボンナノチューブ膜は界面活性剤水溶液中で、カーボンナノチューブを公知の超音波分散機にて分散処理したカーボンナノチューブ分散液を使用してカーボンナノチューブ膜11を作製した。バンドル径約200nmのカーボンナノチューブはエタノール溶媒中で、カーボンナノチューブを公知の超音波分散機にて分散処理したカーボンナノチューブ分散液を使用してカーボンナノチューブ膜11を作製した。
【0054】
図13は、バンドル径約10nmのカーボンナノチューブ膜11の拡大写真である。図14は、バンドル径約200nmのカーボンナノチューブ膜11の拡大写真である。図13図14において、繊維状に目視できるのがバンドルである。
【0055】
図15は、バンドル径、約200nmと約10nmのカーボンナノチューブ膜11とゼーベック係数との関係を示す棒グラフである。
図15において、バンドル径、約200nmのカーボンナノチューブ膜11は膜厚2μm、30μm、57μmでゼーベック係数を測定し、バンドル径、約10nmのカーボンナノチューブ膜11は膜厚32μm、51μm、97μmでゼーベック係数を測定した。
【0056】
図15より、バンドル径、約200nmのカーボンナノチューブ膜11は、ゼーベック係数Sが平均約57μV/Kであり、バンドル径、約10nmのカーボンナノチューブ膜11は、ゼーベック係数Sが平均約48μV/Kであった。すなわち、バンドル径、約10nmを約200nmに変更することで感度が約1.2倍向上する。
この結果より、バンドル径が大きい方がゼーベック係数Sが大きく熱電効果が向上し、高感度であることが分かる。
【0057】
図16は、29THzのテラヘルツ波40を照射した場合のカーボンナノチューブ膜11の膜厚と雑音等価パワー(NEP:Noise equivalent power )の関係を示す図である。横軸に膜厚(μm)をとり、縦軸にNEP(pW/√Hz)をとっている。図16において、黒丸がバンドル径約200nmであり、白丸がバンドル径約10nmである。
【0058】
図16より、カーボンナノチューブ膜11の膜厚に拘わらず、バンドル径約200nmがバンドル径約10nmよりNEPが低い。すなわち、バンドル径が大きいカーボンナノチューブ膜11は、バンドル径が小さいカーボンナノチューブ膜11より感度が良好である。
【0059】
これは、ゼーベック効果が大きい方が式(1)、式(3)より熱電効果が大きく、テラヘルツ波検出装置10のテラヘルツ波40の応答感度がよいことを示す。バンドル径がより大きいカーボンナノチューブ膜11はカーボンナノチューブの特性が残り易い。カーボンナノチューブはゼーベック係数が大きい。
【0060】
ここで、バンドル径約200nmのカーボンナノチューブ膜11は、バンドル径約10nmのカーボンナノチューブ膜11より、カーボンナノチューブの性質を保持し易い。そのため、バンドル径約200nmのカーボンナノチューブ膜11は、バンドル径約10nmのカーボンナノチューブ膜11よりゼーベック係数が大きいと考えられる。
結果として、カーボンナノチューブの状態を崩さない方が好ましいことを示す。
【0061】
以上から、バンドル径が大きい方が、NEPが小さく感度がよい。しかし、バンドル径500nmを超えるとフィルム(膜)にすることが困難になる。
一方、バンドル径が小さいとNEPが大きくなり感度が低下するので、実用上、バンドル径は100nm以上500nm以下のカーボンナノチューブ膜11が、感度が良好で、実用性が高く好適である。
【0062】
上記構成によれば、テラヘルツ波検出装置10において、膜厚を1~100μmのカーボンナノチューブ膜11にすることで、テラヘルツ波検出装置10の高感度化、高速化が行える。
さらに、カーボンナノチューブ膜11のバンドル径を100nm以上500nm以下とすることで、感度をさらに向上できる。
【0063】
テラヘルツ波検出装置10の検出素子として、カーボンナノチューブ等のカーボンナノチューブを用いることで、テラヘルツ波40を効果的にセンシングできる。
カーボンナノチューブ膜11における第1電極12の近くの箇所または第2電極13の近くの箇所にテラヘルツ波40が照射することで、電極(12、13)からカーボンナノチューブ膜11内に温度勾配(温度差)ΔTが発生し、ゼーベック効果を生起させることができる(式(1)、(3)参照)。
【0064】
第1電極12、第2電極13に、金を用いれば、熱伝導率が良いため、テラヘルツ波40の検出感度を向上できる(図4参照)。
【0065】
<<実施形態2>>
実施形態2では、テラヘルツ波検出供試体10Tの特性のシミュレーションと実験結果を比較対照し、カーボンナノチューブ膜21のサイズを検討した。
図17Aに、本発明の実施形態2に係るシミュレーションと実験で使用したテラヘルツ波検出供試体10Tを示す。
テラヘルツ波検出供試体10Tは、幅wと膜厚t1をもつカーボンナノチューブ膜21の一方側に、金(Au)の電極22が設置されている。なお、他方の電極は図示を省略している。
【0066】
図17Aに示すように、テラヘルツ波検出供試体10Tに、39THzのテラヘルツ波40を照射した。
図17Bに、テラヘルツ波検出供試体10Tのカーボンナノチューブ膜21の温度分布の一例を示す。
テラヘルツ波40が照射された金の電極22近傍のカーボンナノチューブ膜21の温度が最も高いことが分る。カーボンナノチューブ膜21の最大温度は48℃であり、最低温度は22℃であった。
【0067】
<シミュレーション>
カーボンナノチューブ膜21の熱伝導のシミュレーションは以下のように行った。
熱伝導のデバイス形状依存度をシミュレーションするため、定常状態の熱解析と過渡的熱解析とを、ANSYSソフトウェアパッケージ(商品名)を使用して行った。
シミュレーションは、300Kの安定的な温度下でカーボンナノチューブ膜21のX-Y平面の熱伝導率10W/mK、Z軸の熱伝導率0.1W/mK、電極金属(金)の熱伝導率315W/mK、空気の熱伝達率10W/mKの条件下で行われた。
なお、X-Y平面とはカーボンナノチューブ膜21の幅方向を含む平面をいい、Z軸とは、カーボンナノチューブ膜21の膜厚方向をいう。
【0068】
テラヘルツ波の出力はカーボンナノチューブ膜21に吸収され、熱に変換されると仮定して、カーボンナノチューブ膜21の表面に熱を加える。
カーボンナノチューブ膜21は基材無しで自立する形状であり、大気に晒される。外気温は22℃に設定した。
カーボンナノチューブ膜21の温度分布は、温度をT、時間をtで表し、次式(5)の熱伝導方程式を解くことで計算した。
【0069】
【数3】
【0070】
<カーボンナノチューブ膜21の膜厚t1と時定数>
図18Aに、シミュレーションのカーボンナノチューブ膜21の膜厚t1と時定数の関係を示し、図18Bに、カーボンナノチューブ膜21の膜厚t1と時定数(s)の関係の実験結果を示す。図18A図18Bの横軸にカーボンナノチューブ膜21の膜厚t1(μm)をとり、縦軸に時定数(s)をとっている。
【0071】
図19は、図18Bで用いた実験での時定数(s)の求め方を示している。図19に、テラヘルツ波検出供試体10Tの過渡応答を示す。図19は横軸に経過時間(s)をとり、縦軸にV/Vmax(検出電圧比)をとっている。
図19中、経過時間(s)が0秒から39THzのテラヘルツ波40を照射した。
図19中のプロットが実験結果であり、図19中の破線は下式(6)を使用して求めた、実験結果にフィッティングする時定数τを用いて示したものである。
V/Vmax=(1-exp(-t/τ)) (6)
【0072】
式(6)を用いて、図19から、実験結果にフィッティングする時定数τを求めた。
シミュレーションの図18A、実験結果の図18Bに示すように、シミュレーションと実験結果とが良く一致する結果が得られた。
時定数τは、カーボンナノチューブ膜21の膜厚t1が薄いほど小さい。従って、カーボンナノチューブ膜21の膜厚t1が薄いほどセンサの感度がよいことが分る。
【0073】
<カーボンナノチューブ膜21の膜厚t1とテラヘルツ波応答>>
図20Aに、シミュレーションのカーボンナノチューブ膜21の膜厚t1とカーボンナノチューブ膜21の最高温度と最低温度の温度差ΔTの関係を示す。図20Aの横軸にカーボンナノチューブ膜21の膜厚t1(μm)をとり、縦軸にカーボンナノチューブ膜21の最高温度と最低温度の温度差ΔT(K)をとっている。
図20Bに、カーボンナノチューブ膜21の膜厚t1とテラヘルツ波検出供試体10Tのテラヘルツ波応答との関係を規格化した実験結果を示す。図20Aの横軸にカーボンナノチューブ膜21の膜厚t1(μm)をとり、縦軸にテラヘルツ波検出供試体10Tのテラヘルツ波応答を規格化したものを示す。
【0074】
シミュレーションの図20A、実験結果の図20Bに示すように、カーボンナノチューブ膜21の膜厚t1とテラヘルツ波応答のシミュレーションと実験結果とが良く一致する結果が得られた。
テラヘルツ波応答は、カーボンナノチューブ膜21の膜厚t1が薄いほど良い。これは、カーボンナノチューブ膜21の膜厚t1が薄いほど熱抵抗が大きくなり、熱の局在効果が高まるためと考えられる。
【0075】
<カーボンナノチューブ膜21の幅wとテラヘルツ波応答>>
図21Aに、シミュレーションのカーボンナノチューブ膜21の膜厚t1とカーボンナノチューブ膜21の最高温度と最低温度の温度差ΔTの関係を示す。図21Aの横軸にカーボンナノチューブ膜21の幅w(mm)をとり、縦軸にカーボンナノチューブ膜21の最高温度と最低温度の温度差ΔT(K)をとっている。
図21Bに、カーボンナノチューブ膜21の幅wとテラヘルツ波検出供試体10Tのテラヘルツ波応答を規格化したものとの関係の実験結果を示す。図21Bの横軸にカーボンナノチューブ膜21の幅w(mm)をとり、縦軸にテラヘルツ波検出供試体10Tのテラヘルツ波応答を規格化したものを示す。
【0076】
シミュレーションの図21A、実験結果の図21Bに示すように、カーボンナノチューブ膜21の幅wとテラヘルツ波応答のシミュレーションと実験結果とは良く一致する結果が得られた。
テラヘルツ波応答は、カーボンナノチューブ膜21の幅wが狭いほど良い。これは、膜厚t1と同様、カーボンナノチューブ膜21の幅wが狭いほど熱抵抗が大きくなり、熱の局在効果が高まるためと考えられる。
【0077】
<カーボンナノチューブ膜21の膜厚t1とテラヘルツ波40を受けた際の温度上昇の関係>
次に、テラヘルツ波検出供試体20Tのカーボンナノチューブ膜21がテラヘルツ波40を受けた際の膜厚t1の違いによる温度上昇を評価した。カーボンナノチューブ膜31に39THzのテラヘルツ波40を照射した。
図22Aに、評価に使用したテラヘルツ波検出供試体20Tを示し、図22Bに、39THzのテラヘルツ波40を照射された際のカーボンナノチューブ膜21の膜厚t1に応じたテラヘルツ波40による温度を示す。
【0078】
図22Aに示すように、テラヘルツ波検出供試体20Tは、カーボンナノチューブ膜21の一方側に第1電極32を設置し、他方側に第2電極33を設置したものを用いた。
カーボンナノチューブ膜21は幅寸法1mmのものを用い、膜厚t1を図22Bに示すように、2μm、5μm、10μm、20μm、100μm、200μmmと変えて評価した。
【0079】
図22Bに示すように、カーボンナノチューブ膜21の膜厚t1が薄いほど、つまり、膜厚t1が200μmから2μmに薄くなるほど、カーボンナノチューブ膜21の温度上昇が大きい結果が得られた。
【0080】
<カーボンナノチューブ膜21の幅wとテラヘルツ波40を受けた際の温度上昇の関係>
次に、テラヘルツ波検出供試体20Tのカーボンナノチューブ膜21がテラヘルツ波40を受けた際の幅wの差異による温度上昇を評価した。カーボンナノチューブ膜21に39THzのテラヘルツ波40を照射した。
図23Aに、評価に使用したテラヘルツ波検出供試体20Tを示し、図23Bに、39THzのテラヘルツ波40を照射された際のカーボンナノチューブ膜21の幅wに応じたテラヘルツ波40による温度を示す。
【0081】
図22Aに示すように、テラヘルツ波検出供試体20Tは、カーボンナノチューブ膜21の一方側に第1電極32を設置し、他方側に第2電極33を設置したものを用いた。
カーボンナノチューブ膜31は膜厚2μmのものを用い、図23Bに示すように、幅w1を500μm、1mm、2mm、3mm、5mm、10mmと変えて評価した。
図23Bに示すように、カーボンナノチューブ膜21の幅wが狭いほど、つまり、幅wが10mmから500μmに薄くなるほど、カーボンナノチューブ膜21の温度上昇が大きい結果が得られた。
【0082】
図22B図23Bより、カーボンナノチューブ膜21の膜厚t1が薄く、かつ、カーボンナノチューブ膜21の幅wが狭い方がテラヘルツ波検出装置10(図1参照)の感度が良くなることが確認された。
【0083】
<カーボンナノチューブ膜21の膜厚t1の下限値>
カーボンナノチューブ膜21は、支持体がない場合と支持体(支持膜)がある場合の2つの態様が可能である。
支持体がない場合のカーボンナノチューブ膜21の膜厚t1の下限値は30nm程度である。
一方、支持体がある場合のカーボンナノチューブ膜21の膜厚t1の下限値は10nm程度と薄くできる。
カーボンナノチューブ膜21の膜厚t1の下限値は10nm以上が好ましい。膜厚t1が10nm未満であると欠陥が生じ易くなるからである。
カーボンナノチューブ膜21の膜厚t1の下限値は、より好ましくは30nm以上である。膜厚t1が30nm以上の場合、よりテラヘルツ波の吸収が良くなり、製造時の欠陥が生じにくくなるからである。
【0084】
<カーボンナノチューブ膜31の幅wの下限値と上限>
カーボンナノチューブ膜21の幅wの下限値は、テラヘルツ波40の波長の1/4程度である。つまり、カーボンナノチューブ膜21の幅wは、テラヘルツ波40の波長の1/4以上または波長の1/4近傍以上に設定できる。
【0085】
<<変形例>>
図24に、変形例のカーボンナノチューブ膜31にボウタイアンテナ31aを設置した状態を示す。
図24に示すように、カーボンナノチューブ膜31のX方向の一方側にソース電極42が設置され、X方向の他方側にドレイン電極43が設置されている。ソース電極42近くのカーボンナノチューブ膜31にボウタイアンンテナ31aを設置する。この構成により、ボウタイアンテナ31aでテラヘルツ波を受信でき、カーボンナノチューブ膜31での感度を向上できる。
【0086】
そのため、カーボンナノチューブ膜31にアンテナがある場合、X方向に直交するY方向に沿った寸法である幅wの下限値は8nmとできる。つまり、アンテナがある場合、カーボンナノチューブ膜31の幅wは8nm以上に設定できる。
一方、カーボンナノチューブ膜31のY方向に沿った寸法の幅wの上限は制限されない。しかし、カーボンナノチューブ膜31の幅wが広くなると性能が飽和する傾向にある。
【0087】
<<その他の実施形態>>
1.なお、テラヘルツ波検出装置10を、チップキャリア基板17を用いず構成してもよい。
【0088】
2.前記実施形態で説明したカーボンナノチューブ膜11(炭素膜)の光をよく吸収し熱ならびに起電力が発生する性質は、給電素子への応用も可能であり、本発明で得られた知見が給電素子にも適用可能である。給電素子として使用する際は、太陽光をカーボンナノチューブ膜11(炭素膜)に照射することで起電力を得る。あるいは熱の印加による同様の機構も可能である。カーボンナノチューブ膜は紫外光からテラヘルツ光に至るすべての周波数帯の光を高い吸収率で吸収できるため、高効率な給電素子として利用できる。人体、かばん、衣類などにカーボンナノチューブ膜を貼り付けることで、太陽光や熱によって常に電力を供給可能な素子として機能させられる。
【0089】
3.なお、前記実施形態1、前記実施形態2、前記変形例等を説明したが、これらの構成を適宜組み合わせて構成してもよい。
【0090】
4.なお、前記実施形態は、本発明の一例を示したものであり、特許請求の範囲内で様々な具体的形態、変形形態が可能である。
【符号の説明】
【0091】
10 テラヘルツ波検出装置
11、21、31 カーボンナノチューブ膜(炭素膜、カーボンナノチューブ構造体)
12 第1電極
13 第2電極
t1 膜厚(厚み)
w 幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17A
図17B
図18A
図18B
図19
図20A
図20B
図21A
図21B
図22A
図22B
図23A
図23B
図24