(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】凝固卵様ゲル化物の素、凝固卵様ゲル化物の製造方法、及びかきたま汁様食品
(51)【国際特許分類】
A23L 29/256 20160101AFI20230418BHJP
A23L 5/42 20160101ALI20230418BHJP
A23L 29/281 20160101ALI20230418BHJP
A23L 29/10 20160101ALI20230418BHJP
A23L 35/00 20160101ALI20230418BHJP
A23L 23/00 20160101ALI20230418BHJP
A23L 15/00 20160101ALI20230418BHJP
【FI】
A23L29/256
A23L5/42
A23L29/281
A23L29/10
A23L35/00
A23L23/00
A23L15/00 Z
(21)【出願番号】P 2022065738
(22)【出願日】2022-04-12
【審査請求日】2022-05-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501149411
【氏名又は名称】キユーピータマゴ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 正記
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-101114(JP,A)
【文献】国際公開第2017/014967(WO,A1)
【文献】特開2019-216665(JP,A)
【文献】特開2013-118863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 29/00-29/30
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギン酸塩、食用油脂及び糖質を含有し、かつ、カルシウムイオンを含むカルシウム溶液に添加することで液卵黄を含む溶き卵の加熱凝固物様の凝固卵様ゲル化物を製するための凝固卵様ゲル化物の素であって、
前記食用油脂の含有量が10質量%以上23質量%以下であり、
前記糖質の含有量が3質量%以上13質量%以下であ
り、
さらに着色料を含有する
凝固卵様ゲル化物の素。
【請求項2】
さらにタンパク質を含有する
請求項1に記載の凝固卵様ゲル化物の素。
【請求項3】
前記タンパク質が、植物性タンパク質を含む
請求項2に記載の凝固卵様ゲル化物の素。
【請求項4】
さらに乳化剤を含有する
請求項1に記載の凝固卵様ゲル化物の素。
【請求項5】
前記乳化剤が、HLB値が10以上の親水性乳化剤又はリゾリン脂質の少なくとも一方を含む
請求項4に記載の凝固卵様ゲル化物の素。
【請求項6】
さらに食塩を含有し、
水分中の食塩濃度が、0.5質量%以上5質量%以下である
請求項1に記載の凝固卵様ゲル化物の素。
【請求項7】
前記着色料が、脂溶性の着色料
である
請求項1に記載の凝固卵様ゲル化物の素。
【請求項8】
アルギン酸カルシウム、食用油脂及び糖質を含有し、液卵黄を含む溶き卵の加熱凝固物様の凝固卵様ゲル化物を製造する凝固卵様ゲル化物の製造方法であって、
凝固卵様ゲル化物の素を、カルシウム溶液に添加して、袋に充填することなく凝固卵様ゲル化物を調製する工程を含み、
前記凝固卵様ゲル化物の素は、
前記食用油脂の含有量が10質量%以上23質量%以下であり、
前記糖質の含有量が3質量%以上13質量%以下であ
り、
さらに着色料を含有する
凝固卵様ゲル化物の製造方法。
【請求項9】
アルギン酸カルシウム、食用油脂及び糖質を含有する凝固卵様ゲル化物を含むかきたま汁様食品であって、
前記食用油脂の含有量が10質量%以上23質量%以下であり、
前記糖質の含有量が3質量%以上13質量%以下であ
り、
さらに着色料を含有する
かきたま汁様食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝固卵様のゲル化物を製することが可能な凝固卵様ゲル化物の素及びそれを用いた凝固卵様ゲル化物の製造方法、並びに、凝固卵様ゲル化物及びそれを含む食品に関する。
【背景技術】
【0002】
溶き卵を凝固させた凝固卵は、卵特有の柔らかくて適度に弾力のある食感と、コクがあってわずかに甘い風味が特徴的であり、かきたま汁、丼、スクランブルエッグ、オムレツ、炒め物等の様々な調理品に用いられている。一方で、液卵から凝固卵を製するためには、卵タンパク質を凝固(ゲル化)させるため、熱湯や焼成などによる加熱が必要であり、どこでも手軽に凝固卵を製することはできなかった。
【0003】
一方で、熱凝固性を有する卵タンパク質のゲル化によらずに、凝固卵の代替物を製造する技術が知られている。例えば、特許文献1には、アルカリ土類金属存在下に加熱された大豆蛋白溶液に多糖類を加えて溶液乃至分散液となし凍結することを特徴とする加熱溶き卵様食品の製造方法が記載されている。また、例えば特許文献2には、水に懸濁したカードランをゲル化した後、乳化剤や食用油脂を加えて攪拌し、食用油脂添加膨潤ゲル化カードランにアルギン酸塩及び遅効性を有するカルシウム塩を添加し、充填・成型して固めることで、凝固卵白様の食品素材を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-266758号公報
【文献】特許第4865687号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の食品は、凍結品であるため、加熱や長時間の解凍が必要であった。また、当該食品は、大豆蛋白がカルシウムイオン等のアルカリ土類金属と反応して凍結組織化されたものが主体となっており、凝固卵特有の柔らかさや弾力、風味を十分に感じられるものではなかった。また、特許文献2に記載の食品素材は、茹で卵の卵白のように固くゲル化したものであり、溶き卵を凝固させた凝固卵の食感及び風味を再現したものではなかった。
【0006】
このように、従来の技術では、溶き卵を凝固させた凝固卵の食感及び風味を手軽に楽しみたいという要求には十分に応えることができなかった。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、凝固卵の食感及び風味を手軽に再現することが可能な凝固卵様ゲル化物の素及びそれを用いた凝固卵様ゲル化物の製造方法、並びに、凝固卵様ゲル化物及びそれを含む食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく、凝固卵様ゲル化物の素について鋭意研究を重ねた。その結果、本発明者は、アルギン酸塩、食用油脂及び糖質を用い、食用油脂及び糖質の含有量を所定の範囲とすることで、柔らかさと弾力のバランスが良く、卵らしい風味を再現できるとともに、手軽に扱える凝固卵様ゲル化物の素を見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)アルギン酸塩、食用油脂及び糖質を含有する凝固卵様ゲル化物の素であって、
前記食用油脂の含有量が10質量%以上23質量%以下であり、
前記糖質の含有量が3質量%以上13質量%以下である
凝固卵様ゲル化物の素、
(2)さらにタンパク質を含有する
(1)に記載の凝固卵様ゲル化物の素、
(3)前記タンパク質が、植物性タンパク質を含む
(2)に記載の凝固卵様ゲル化物の素、
(4)さらに乳化剤を含有する
(1)から(3)のいずれか1つに記載の凝固卵様ゲル化物の素、
(5)前記乳化剤が、HLB値が10以上の親水性乳化剤又はリゾリン脂質の少なくとも一方を含む
(4)に記載の凝固卵様ゲル化物の素、
(6)さらに食塩を含有し、
水分中の食塩濃度が、0.5質量%以上5質量%以下である
(1)から(5)のいずれか1つに記載の凝固卵様ゲル化物の素、
(7)(1)から(6)のいずれか1つに記載の凝固卵様ゲル化物の素を、カルシウム溶液に添加する
凝固卵様ゲル化物の製造方法、
(8)アルギン酸カルシウム、食用油脂及び糖質を含有する凝固卵様ゲル化物であって、
前記食用油脂の含有量が10質量%以上23質量%以下であり、
前記糖質の含有量が3質量%以上13質量%以下である
凝固卵様ゲル化物、
(9)(8)に記載の凝固卵様ゲル化物を含む
食品、
(10)前記食品がかきたま汁である
(9)に記載の食品、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、凝固卵の食感及び風味を手軽に再現することが可能な凝固卵様ゲル化物の素及びそれを用いた凝固卵様ゲル化物の製造方法、並びに、凝固卵様ゲル化物及びそれを含む食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。また、本発明において、ある成分の「含有量」は、凝固卵様ゲル化物の素全体の質量を100質量%とした場合の当該成分の占める質量の割合を意味する。
【0012】
<凝固卵様ゲル化物の素>
本発明の凝固卵様ゲル化物の素は、凝固卵様ゲル化物を製することができる液状の素である。本発明のゲル化物の素は、カルシウムイオンを含むカルシウム溶液に添加されることで、手軽に凝固卵様ゲル化物を製することができ、かつ、凝固卵に特有の食感及び風味を再現することができる。
なお、凝固卵様ゲル化物の素を、以下、「ゲル化物の素」とも称する。
本発明のゲル化物の素は、0℃以上10℃以下で保存される冷蔵品でもよく、-15℃以下で保存される冷凍品でもよい。
本発明のゲル化物の素は、卵を含有しない、又は卵を少量含有することが好ましく、卵を含有しないことがより好ましい。「卵を含有しない」とは、鶏、鶉、アヒルの卵など、一般に食用に供される鳥類の卵由来の原料を含有していないことをいい、「卵を少量含有する」とは、上記鳥類の卵由来の原料を、ゲル化物の素中に5%以下、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下含有することをいう。
【0013】
<凝固卵>
本発明において、凝固卵とは、溶き卵の加熱凝固物をいう。また、ここでいう溶き卵は、割卵して得られた液卵白及び/又は液卵黄を攪拌して得られたものをいう。
このような凝固卵は、一般に、熱湯やスープに液卵を注いだり、液卵を薄く焼成することによって製される。このような凝固卵は、ふんわりとして適度に弾力のある食感と、卵特有のコク深くわずかに甘い風味を有することから、卵を主体とする卵調理品の他、様々な料理のトッピングとしても用いられている。
【0014】
<凝固卵様ゲル化物>
本発明の凝固卵様ゲル化物は、凝固卵を模したゲル化物であって、本発明のゲル化物の素を用いて製される。本発明のゲル化物の素により製される凝固卵様ゲル化物の形状は、例えば、膜状、棒状、鱗片状、偏平状、粒状(そぼろ状)等の様々な形状とすることができ、例えば膜状であるとよい。膜状の凝固卵様ゲル化物の厚さは、例えば、5mm以下であるとよく、さらに3mm以下であるとよい。なお、本発明の凝固卵様ゲル化物の厚みは、必要に応じて液切りして、広げた状態で目視にて測定するものとする。
【0015】
<アルギン酸塩>
本発明のゲル化物の素は、本物の凝固卵と同等又は近い弾力のある食感を再現する観点から、アルギン酸塩を含む。
本発明のアルギン酸塩とは、アルギン酸中のカルボキシル基の水素がイオンによって置換された塩をいう。本発明に用いられるアルギン酸塩は、1価のカチオン塩であるとよく、例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、及びアルギン酸アンモニウムから選ばれる1種以上であるとよい。このうち、本発明に用いられるアルギン酸塩は、取り扱いや入手のしやすさから、アルギン酸ナトリウムであるとよりよい。
上記アルギン酸塩は、カルシウムイオンと反応してイオン架橋される。このイオン架橋によって構築されたゲルネットワークに水分が移行して保持されることで、弾力のあるゲル化物が生成される。本発明では、このようなアルギン酸塩とカルシウムイオンとによるゲル化の反応を用いて、液卵の加熱凝固を再現することができる。
一方で、反応させるカルシウムイオンの量や反応時間によっては、アルギン酸塩によるゲルネットワークが水分を保持しすぎて、硬い食感となり得る。また後述するように、カルシウム溶液が調理品の一部をなすスープや調味液であった場合には、アルギン酸塩とカルシウムイオンとが長く反応することになるため、特に硬い食感となりやすい。
そこで、本発明では、ゲル化物の素に、所定量の食用油脂及び糖質を加えることで、アルギン酸塩によるゲルネットワークへの水分移行を緩和し、凝固卵に近い食感を実現する。さらに、アルギン酸塩は、若干生臭い風味があるため、ゲル化物に卵のような生臭さを付与することもできる。
本発明のゲル化物の素において、アルギン酸塩の含有量の下限値は、凝固卵様ゲル化物に弾力感を付与する観点から、0.3%以上であるとよく、さらに0.5%以上であるとよい。また当該含有量の上限値は、凝固卵様ゲル化物が硬い食感となることを抑制する観点から、2.0%以下であるとよく、さらに1.0%以下であるとよりよい。
【0016】
<食用油脂>
本発明のゲル化物の素は、10%以上23%以下の食用油脂を含む。
本発明のゲル化物の素がこのような含有量の食用油脂を含むことにより、アルギン酸塩によるゲルネットワークへの水分移行を食用油脂が適度に抑制し、凝固卵のような柔らかい食感を有する凝固卵様ゲル化物を得ることができる。さらに、上記含有量の食用油脂により、卵に近いコクと口残りを再現でき、凝固卵様ゲル化物に卵らしい風味を付与することができる。
さらに、上記含有量の食用油脂により、凝固卵様ゲル化物の比重が軽くなり、凝固卵様ゲル化物が調理品のスープや具材の上に浮きやすくなる。これにより、調理品の見栄えを向上させることができる。
上記作用効果をより効果的に得るため、本発明の食用油脂の含有量の下限値は、15%以上であるとよりよく、上限値は、22%以下であるとよりよい。
本発明における食用油脂としては、例えば、動植物油及びこれらの精製油、化学的又は酵素的処理を施して得られた食用油脂等が挙げられる。動植物油としては、例えば、菜種油、コーン油、綿実油、大豆油、サフラワー油、オリーブ油、紅花油、ひまわり油、えごま油、アマニ油、パーム油、乳脂、牛脂、豚脂、卵黄油等が挙げられる。化学的又は酵素的処理を施して得られた食用油脂としては、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、酵素処理卵黄油等が挙げられる。
これらの食用油脂は、1種で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
特に、食用油脂は、植物性食品へのニーズに応える観点から、植物性油脂を含んでいるとよく、例えば、菜種油、コーン油、大豆油、サフラワー油、オリーブ油、紅花油、ひまわり油、えごま油、アマニ油等を含んでいるとよい。また、食用油脂は、健康志向へのニーズに応える観点から、例えばえごま油、アマニ油等のオメガ3系脂肪酸を含む油脂を含んでいるとよい。
【0017】
<糖質>
本発明のゲル化物の素は、3%以上13%以下の糖質を含む。
本発明において、糖質とは、炭水化物から食物繊維を除いたものをいう。ゲル化物の素が上記含有量の糖質を含むことで、糖質の保水作用によって、アルギン酸塩によるゲルネットワークへの水分移行を抑制することができる。これにより、アルギン酸塩によるゲルが柔らかくなるとともに、アルギン酸塩によるゲルと糖質に保持された水分とが混在した状態となり、しっとりとした柔らかい食感の凝固卵様ゲル化物を得ることができる。また、上記含有量の糖質により、凝固卵様ゲル化物に適度な甘い風味を付与することもできる。
上記作用効果をより効果的に得るため、本発明において、糖質の含有量の下限値は、5%以上であるとよりよく、当該含有量の上限値は、10%以下であるとよりよい。
本発明における糖質としては、例えば、単糖、オリゴ糖、多糖、糖アルコール等が挙げられる。
単糖としては、ブドウ糖、果糖等が挙げられる。
オリゴ糖とは、単糖が二糖~十糖程度結合した糖類をいい、例えば、砂糖の主成分であるスクロース、ラクトース、トレハロース、マルトース等の二糖類、ラフィノース、パノース、マルトトリオース、メレジトース等の三糖類、数個のブドウ糖が環状に結合したシクロデキストリン等が挙げられる。
多糖としては、澱粉類、デキストリン等が挙げられる。
糖アルコールとしては、還元澱粉糖化物、還元水あめ、アスパルテーム,エリスリトール,キシリトール,ソルビット,パラチノース等が挙げられる。
これらの糖質は、1種で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
これらのうち、本発明の糖質は、オリゴ糖又は糖アルコールの少なくとも一方を含むことが好ましい。オリゴ糖は、水分を吸収する作用と保持する作用とのバランスが良く、上記ゲルネットワークへの水分移行のコントロールに適している。糖アルコールは、ゲル化物の素の品質を安定させることができる。特に、本発明の糖質は、オリゴ糖と糖アルコールの上記利点を併せ持つ、十糖以下の糖アルコールを含むとよりよい。
【0018】
<タンパク質>
本発明のゲル化物の素は、さらに、タンパク質を含むとよい。
本発明のゲル化物の素がタンパク質を含むことで、タンパク質により、タンパク質を多く含む卵に近い、コク深い風味を有する凝固卵様ゲル化物を得ることができる。
上記作用効果を効果的に得る観点から、本発明におけるタンパク質の含有量の下限値は、0.01%以上であるとよく、さらに0.05%以上であるとよい。当該含有量の上限値は、3%以下であるとよく、1%以下であるとよく、さらに0.3%以下であるとよい。
本発明におけるタンパク質は、特に限定されず、卵白タンパク質、乳タンパク質等の動物性タンパク質を含んでいてもよく、植物性タンパク質を含んでいてもよい。植物性食品に対するニーズに応える観点からは、本発明におけるタンパク質は、植物性タンパク質を含んでいるとよい。植物性タンパク質としては、例えば、大豆タンパク質、小麦タンパク、オーツ麦タンパク質、米タンパク質、種実類(ナッツ類)から抽出されたタンパク質等が挙げられる。
これらのタンパク質は、1種で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
<植物性ミルク>
本発明のゲル化物の素は、植物性ミルクを含んでいるとよく、タンパク質は、当該植物性ミルク由来の植物性タンパク質を含んでいるとよい。
本発明の植物性ミルクとは、植物性素材を原料とする白濁した乳化液をいう。植物性ミルクとしては、特に限定されないが、例えば、豆乳、オーツミルク、アーモンドミルク、ココナッツミルク、カシューナッツミルク、ライスミルク、ヘンプミルク、ピスタチオミルク、マカダミアミルク等が挙げられる。
植物性ミルクでは、植物性素材中のタンパク質及び脂質等が乳化されていることで、卵に近いコク深い味わいを得られるとともに、風味が舌に残るような卵と同様の感覚を得ることができる。したがって、ゲル化物の素が植物性ミルクを含むことにより、植物性食品を用いているにもかかわらず、本物の凝固卵と同等又はそれに近い濃厚な風味及び食感を得ることができる。
本発明において、植物性ミルクは、原料となる植物性素材を水に浸し、粉砕及び/又は煮た後、固形物と分離することで得ることができる。あるいは、当該植物性ミルクは、飲料又は調理用として一般に流通している市販品を用いることもできる。この場合、植物性ミルクは、主原料となる植物性素材の他、本発明の効果を損なわない範囲で、乳化剤、香料、調味料、油脂等を含んでいてもよい。
本発明の植物性ミルクは、一般に添加物が少なく、流通量が多いことから、例えば豆乳を含んでいるとよい。
本発明において、豆乳とは、大豆を原料とする乳化液をいう。すなわち、本発明の豆乳は、日本農林規格(JAS規格)によって分類される「豆乳」、「調製豆乳」及び「豆乳飲料」、並びに、これらに含まれない、大豆を原料として乳化液状に加工した大豆加工品(豆乳加工品等)を含むものとする。
【0020】
<乳化剤>
本発明のゲル化物の素は、乳化剤をさらに含むとよい。これにより、乳化剤がアルギン酸塩によるゲル化を緩和し、より柔らかい食感の凝固卵様ゲル化物を得ることができる。
さらに、ゲル化物の素が乳化剤を含むことで、油脂が乳化され白濁した明るい色合いとなり得る。これにより、白色系の着色料を用いずに、黄色系等の着色料によって卵に近い色味を付与することができ、着色料の使用量を低減することができる。
本発明の乳化剤は、親水性の乳化剤を含むとよい。具体的に、本発明の乳化剤は、リゾリン脂質又はHLB値が10以上の乳化剤の少なくとも一方を含んでいるとよい。このような親水性の乳化剤の乳化作用により、アルギン酸塩によるゲルネットワークへの水分移行を効果的に抑制することができ、しっとりした柔らかい食感の凝固卵様ゲル化物を得ることができる。さらに、親水性の乳化剤がゲル化物の素の表面張力を低下させ、薄く広がる好ましい膜状の凝固卵様ゲル化物を調製しやすくなる。
リゾリン脂質とは、グリセロ骨格を有したジアシルグリセロリン脂質であるリン脂質の1位又は2位が加水分解したモノアシルグリセロリン脂質をいう。リゾリン脂質の由来となる材料は、特に限定されず、例えば、卵黄等の動物性材料、あるいは大豆、ひまわり、米、菜種等の植物性材料、藻類、微生物等が挙げられる。
本発明に用いられるリゾリン脂質は、植物性食品に対するニーズに応える観点から、植物性材料由来のリゾリン脂質であるとよい。
また、本発明では、ゲル化物の素が、リゾリン脂質を含有する脂質混合物を含んでいてもよい。このような脂質混合物としては、例えば、リゾレシチン、酵素処理油脂等が挙げられる。
HLB値が10以上の親水性乳化剤としては、食用として市場に流通しているものであれば特に限定されず、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル等が挙げられる。
本発明における乳化剤の含有量は、上記作用効果を効果的に得る観点から、0.05%以上1%以下であるとよい。
【0021】
<食塩>
本発明のゲル化物の素は、さらに食塩を含有するとよい。これにより、凝固卵様ゲル化物に塩味を付与し、風味を向上させることができる。また、凝固卵様ゲル化物の調製時に、食塩由来のナトリウムイオンの存在により、アルギン酸塩とカルシウムイオンとの反応が緩和され、凝固卵様ゲル化物の食感をより柔らかくすることができる。
本発明のゲル化物の素において、食塩の濃度は、水分中の食塩濃度として表される。水分中の食塩濃度とは、ゲル化物の素の水分(原料として配合された水と、各原料に含まれる水分とを合わせた水分)における食塩の濃度をいう。
上記作用効果をより効果的に得るため、本発明のゲル化物の素における水分中の食塩濃度の下限値は、0.5%以上であるとよく、1%以上であるとよりよい。また、当該食塩濃度の上限値は、自然な風味とする観点から、5%以下であるとよく、3%以下であるとよりよい。
【0022】
<脂溶性の着色料>
本発明のゲル化物の素は、凝固卵に近い色調を得るために、脂溶性の着色料を含有しているとよい。脂溶性の着色料を含有することにより、ゲル化物の素を用いて凝固卵様ゲル化物を含む調理品を調理する際に、着色料が溶解して色が変化することを抑制することができる。
脂溶性の着色料とは、脂溶性であって着色可能な成分をいう。脂溶性の着色料は、オイルの状態であってもよく、あるいは、粉末状又は乳化された乳化液等の状態であってもよい。
本発明における脂溶性の着色料としては、黄色系、オレンジ色又は赤系の着色料が挙げられ、具体的には、カロチン色素、パプリカオイル、パームオレイン、トウガラシオイル、ニンジンオイル、オレンジオイル、ウコン色素等が挙げられる。これらの着色料は、1種で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
<ゲル化物の素の水分含有量>
本発明のゲル化物の水分含有量は、希釈せずに液卵と同様に用いられるため、50%以上80%以下であるとよい。
なお、ゲル化物の素の水分含有量は、原料として配合された水と、各原料に含まれる水分の合計の含有量とする。
【0024】
<その他の原料>
本発明のゲル化物の素は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の原料を含有することができる。このような原料としては、例えば、
ペクチン、グルコマンナン、難消化性デキストリン、アラビアガム、難消化性オリゴ糖、セルロース、ヘミセルロース、発酵セルロース、キチン、サイリウム、大豆繊維等の食物繊維、
醤油、胡椒、アミノ酸等の調味料類、
グリシン、酢酸ナトリウム等の静菌剤、
有機酸、有機酸塩等のpH調整剤、
保存料、
酸化防止剤、
香料等が挙げられる。
【0025】
<凝固卵様ゲル化物の素の製造方法>
本発明のゲル化物の素は、一実施形態において、原料を混合して調製される。原料の混合は、例えば、ミキサーや撹拌機を用いて行うことができる。なお、原料の混合は、ゲル化物の素のゲル化性を均質化する観点から、全体が均質になるように混合するとよい。各原料の配合量は、製造後のゲル化物の素における各材料の含有量に基づいて調整することができる。
【0026】
<凝固卵様ゲル化物の製造方法>
本発明における凝固卵様ゲル化物の製造方法は、上記ゲル化物の素を、カルシウムイオンを含むカルシウム溶液に添加することを特徴とする。
これにより、アルギン酸塩とカルシウムイオンとが反応してゲル化力の高いアルギン酸カルシウムが生成され、この反応が進むことでゲル化物の素が徐々にゲル化する。これにより、凝固卵様ゲル化物を製することができる。
カルシウム溶液は、例えば、水等の溶媒にカルシウム塩を溶解させた液体である。カルシウム溶液は、例えば、凝固卵様ゲル化物を含む調理品の一部であるスープ、調味液等であるとよい。これにより、当該調理品の調理過程においてゲル化物の素を用いることができる。あるいは、カルシウム溶液は、調理品とは別途準備されたものでもよい。
カルシウム溶液におけるカルシウム塩の濃度は、調理品の種類などによって適宜設定されるが、例えば、0.1%以上4%以下であるとよい。
本発明では、カルシウム溶液を加熱せずに、凝固卵様ゲル化物を製することができるが、上記調理品の調理過程によってはカルシウム溶液が加熱されてもよい。
カルシウム溶液中でゲル化された凝固卵様ゲル化物は、例えば、カルシウム溶液であるスープや調味液とともに喫食される。あるいは、凝固卵様ゲル化物は、カルシウム溶液から取り出され、調理品に使用されてもよい。
本発明のゲル化物の素を用いることにより、熱湯やフライパンなどの加熱によって徐々に凝固する液卵と似た凝固過程を再現することができ、凝固卵の外観及び食感に近い凝固卵様ゲル化物を製することができる。
さらに、本発明の凝固卵様ゲル化物は、製造に加熱を要しないため、加熱源の有無によらず手軽に製することができる。
【0027】
<凝固卵様ゲル化物の詳細>
本発明において、上記製造方法により製された凝固卵様ゲル化物は、アルギン酸塩とカルシウムイオンによって生成されたアルギン酸カルシウムが、ゲル化物の素に含まれる水分を取り込みながらゲル化することで製される。
このため、凝固卵様ゲル化物は、アルギン酸カルシウムを含有し、かつ、ゲル化物の素に含まれるアルギン酸塩以外の成分を含有する。
具体的に、凝固卵様ゲル化物は、アルギン酸カルシウム、食用油脂及び糖質を少なくとも含有する。また、凝固卵様ゲル化物は、タンパク質を含有しているとよく、植物性タンパク質を含有しているとよりよい。また、凝固卵様ゲル化物は、乳化剤を含有しているとよく、その乳化剤が、HLB値が10以上の親水性乳化剤又はリゾリン脂質の少なくとも一方を含んでいるとよりよい。また、凝固卵様ゲル化物は、食塩を含んでいるとよい。
さらに、凝固卵様ゲル化物では、食用油脂及び糖質の含有量が、ゲル化物の素と同等になる。すなわち、凝固卵様ゲル化物では、食用油脂の含有量が10%以上23%以下であり、糖質の含有量が3%以上13%以下である。
このような凝固卵様ゲル化物により、凝固卵特有の柔らかさや弾力、風味を十分に再現することができる。
本発明の凝固卵様ゲル化物は、このような柔らかさや弾力、風味を活かして、例えばかきたま汁に含まれる凝固卵様のゲル化物であるとよい。
【0028】
<凝固卵様ゲル化物を含む食品>
本発明において、凝固卵様ゲル化物は、溶き卵を凝固させた凝固卵を含む調理品様の食品となる。本発明における食品は、凝固卵様ゲル化物の他、凝固卵様ゲル化物の製造に用いられたカルシウム溶液を、スープ又は調味液等として含んでいるとよい。
本発明の凝固卵様ゲル化物を含む食品は、例えば、丼、汁物、麺類、調理パン、炒め物、その他の卵調理品様食品などを含む。
本発明の凝固卵様ゲル化物を含む食品のベースとなる卵調理品としては、以下の例が挙げられる。丼としては、例えば、親子丼、カツ丼、卵丼、その他の卵を用いた丼、天津飯等が挙げられる。汁物としては、かきたま汁等が挙げられる。麺類としては、かきたまそば、かきたまうどん等が挙げられる。調理パンとしては、サンドイッチ、マフィン、ハンバーガー、スクランブルエッグやオムレツを挟んだ調理パン等が挙げられる。炒め物としては、炒り卵、炒り卵を含む炒め物等が挙げられる。その他の卵調理品としては、スクランブルエッグ、オムレツ、オムライス、かに玉等が挙げられる。
上述のように、本発明の凝固卵様ゲル化物を含む食品は、例えばかきたま汁様の食品であるとよい。これにより、凝固卵様ゲル化物の柔らかさや弾力、風味を活かせることに加えて、カルシウム溶液をスープとして用いることができ、本物のかきたま汁と同様の手順で製することができる。
なお、本発明におけるかきたま汁とは、汁(スープ)の中に溶き卵を注入し、溶き卵を当該汁中で加熱して製する、凝固卵入りの汁物をいい、汁の味付けは特定のものに限定されない。例えば、当該かきたま汁のベースとなる汁は、だし汁、中華スープ、コンソメスープ等が挙げられる。
【0029】
<本発明の作用効果>
以上のように、本発明のゲル化物の素は、アルギン酸塩を含むことで、本物の凝固卵と同等、又は近い弾力と風味を有する凝固卵様ゲル化物を製することができる。
また、本発明のゲル化物の素は、10%以上23%以下の食用油脂及び3%以上13%以下の糖質を含むことで、凝固卵特有の柔らかく滑らかな食感と、コク深くわずかに甘い風味を有する凝固卵様ゲル化物を製することができる。
さらに、本発明のゲル化物の素は、カルシウム溶液に添加することによって、手軽に凝固卵様ゲル化物を製することができる。例えば、本発明のゲル化物の素は、割卵を必要としないため、調理の手間を省くことができる。また、本発明のゲル化物の素は、凝固卵様ゲル化物の製造に加熱を要しないため、加熱源の無い場所でも手軽に凝固卵様ゲル化物を製することができる。このため、本発明のゲル化物の素は、家庭や飲食店での調理における液卵の代替物として用いられることはもちろん、弁当、総菜、チルド麺などの添付品として用いることもできる。また、加熱を要しないことから、本発明のゲル化物の素は、環境へのCO2排出量を減らせるという利点もある。
加えて、本発明のゲル化物の素は、ユーザに対し、液卵を加熱するような手作り感や満足感、及び見た目の変化による調理の楽しさといった付加価値を提供することができる。また、本発明のゲル化物の素は、植物性食品を求めるユーザに対しても卵調理品と同様のおいしさ、楽しさや満足感を提供することができ、多様なユーザのニーズに応えることができる。
【0030】
以下、本発明について、実施例及び比較例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定されない。
【実施例】
【0031】
[ゲル化物の素の調製]
まず、表1に示す配合の原料を攪拌して混合し、実施例1~13及び比較例1~3のゲル化物の素のサンプルを製した。
実施例1~13は、いずれも、アルギン酸塩、10~23%の食用油脂、及び3~13%の糖質を含むサンプルとし、比較例1~3は、これらのうちの少なくとも一つを満たさないサンプルとした。
豆乳としては、無調製豆乳(大豆固形分8%以上、タンパク質含有量4.2%、脂質含有量3.7%)を用いた。
アルギン酸塩としては、アルギン酸ナトリウムを用いた。
食用油脂としては、大豆油を用いた。
表2に、表1に示す各サンプルにおける食用油脂、糖質、水分、タンパク質、及びアルギン酸塩の含有量と、水分中の食塩濃度とを示す。なお、水分中の食塩濃度は、各サンプルの水分量に占める食塩の含有量の割合として算出した。
具体的に、実施例1~5は、アルギン酸塩の配合量を変更したサンプルとした。
実施例6及び7は、乳化剤(大豆リゾリン脂質又はポリグリセリン脂肪酸エステル)をそれぞれ配合したサンプルとした。なお、ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB値は12であった。
実施例8及び9は、糖質の種類を変更したサンプルとした。
比較例1は、糖質を配合していないサンプルとした。
実施例10~12は、豆乳(植物性タンパク質)の配合量を変更したサンプルとした。
比較例2、実施例13及び比較例3は、糖質と食用油脂の配合割合を変更したサンプルとした。
【0032】
【0033】
【0034】
[凝固卵様ゲル化物の調製]
3%乳酸カルシウム水溶液中に、実施例1~13及び比較例1~3の各ゲル化物の素を少量ずつ注入した。これにより、カルシウムイオンと上記ゲル化物の素のアルギン酸ナトリウムとを反応させ、凝固卵様ゲル化物を製した。
【0035】
[凝固卵様ゲル化物の風味の評価]
実施例1~13及び比較例1~3のゲル化物の素によって製された凝固卵様ゲル化物のサンプルの一部を3人のパネラーが食し、それぞれのパネラーが以下の基準に基づいて0点~3点で風味を評価した。そして、3人のパネラーの評価点の平均点に基づいて、各サンプルの風味をA~Cで評価した。その結果を、表2に示す。
(各パネラーの評価基準)
3点:溶き卵の加熱凝固物である凝固卵と同等の風味を有しており、大変好ましい
2点:上記凝固卵に近い風味を有しており、好ましい
1点:上記凝固卵とやや異なる風味を有しているが、問題のない程度である
0点:上記凝固卵とは全く異なる風味を有しており、好ましくない
(風味の評価基準)
A:全パネラーの評価点の平均点が2点以上である
B:全パネラーの評価点の平均点が1点以上2点未満である
C:全パネラーの評価点の平均点が1点未満である
【0036】
[風味の評価結果]
表2に示すように、実施例1~13は、いずれも風味の評価がA又はBであり、凝固卵と同等又は近い風味を有していた。このうち、食用油脂の含有量が15%以上22%以下、糖質の含有量が5%以上10%以下である実施例1~8、10~12は、いずれも、卵特有のコクや甘味が感じられ、A評価であった。
一方、糖質を含有していない比較例1、食用油脂の含有量が8.3%であって糖質の含有量が14.5%である比較例2、及び食用油脂の含有量が24.0%であって糖質の含有量が3.5%である比較例3は、卵のコクや甘味が全く感じられず、C評価であった。
【0037】
[食感の評価]
実施例1~13及び比較例1~3のゲル化物の素によって製された凝固卵様ゲル化物のサンプルの一部を3人のパネラーが食し、それぞれのパネラーが以下の基準に基づいて0点~3点で食感を評価した。そして、3人のパネラーの評価点の平均点に基づいて、各サンプルの食感をA~Cで評価した。その結果を、表2に示す。
(各パネラーの評価基準)
3点:柔らかさと弾力のバランスが大変良く、上記凝固卵と同等で好ましい
2点:柔らかさと弾力のバランスが良く、上記凝固卵にかなり近く、好ましい
1点:柔らかさと弾力のバランスがやや劣っているが、上記凝固卵に近く、問題のない程度である
0点:凝固卵とは全く異なる食感であり、好ましくない
(食感の評価基準)
A:全パネラーの評価点の平均点が2点以上である
B:全パネラーの評価点の平均点が1点以上2点未満である
C:全パネラーの評価点の平均点が1点未満である
【0038】
[食感の評価結果]
表2に示すように、実施例1~13は、いずれも食感の評価がA又はBであり、凝固卵と同等又は近い食感を有していた。このうち、食用油脂の含有量が15%以上22%以下であり、かつ、糖質の含有量が5%以上10%以下である実施例1~3、6~7、10~12は、いずれも、柔らかさと弾力のバランスが良く、A評価であった。
一方、食用油脂の含有量が14.4%である実施例4、アルギン酸塩の含有量が2.2%である実施例5、糖質の含有量が4.9%である実施例8、糖質の含有量が3.5%である実施例9、糖質を含有していない比較例1は、凝固卵よりもやや硬い食感となり、B評価であった。
また、食用油脂の含有量が8.3%であって糖質の含有量が14.5%である比較例2、食用油脂の含有量が14.0%であって糖質の含有量が10.5%である実施例13は、凝固卵よりもやや柔らかい食感となり、B評価であった。
さらに、食用油脂の含有量が24.0%であって糖質の含有量が3.5%である比較例3は、油相と水相(水分)とが分離してしまって凝固卵とは全く異なる食感となり、C評価であった。
【0039】
[かきたま汁様食品の調製]
乳酸カルシウム0.5%、市販の鶏ガラスープ3%を含むスープに、実施例1~13及び比較例1~3の各ゲル化物の素を少量ずつ注入し、かきたま汁様の食品を調製した。得られたかきたま様の凝固卵様ゲル化物の風味、食感の評価は表2の結果と同等であった。
【0040】
[総括]
以上より、アルギン酸塩、10~23%の食用油脂、及び3~13%の糖質を含む本発明のゲル化物の素は、本物の凝固卵と同等又は近い風味及び食感を有する凝固卵様ゲル化物を製することができることがわかった。
【要約】
【課題】凝固卵の食感及び風味を手軽に再現することが可能な凝固卵様ゲル化物の素及びそれを用いた凝固卵様ゲル化物並びに、凝固卵様ゲル化物及びそれを含む食品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の凝固卵様ゲル化物の素は、アルギン酸塩、食用油脂及び糖質を含有し、液状である。本発明の凝固卵様ゲル化物の素では、前記食用油脂の含有量が10質量%以上23質量%以下であり、前記糖質の含有量が3質量%以上13質量%以下である。
【選択図】なし