(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-18
(45)【発行日】2023-04-26
(54)【発明の名称】液体ヘリウム移液時の貯槽内圧力保持方法及び装置
(51)【国際特許分類】
F17C 9/00 20060101AFI20230419BHJP
F17C 6/00 20060101ALI20230419BHJP
F17C 9/02 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
F17C9/00 A
F17C6/00
F17C9/02
(21)【出願番号】P 2020195663
(22)【出願日】2020-11-26
【審査請求日】2022-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】小山 岳秀
【審査官】▲高▼橋 杏子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-173865(JP,A)
【文献】特開平05-322098(JP,A)
【文献】特開平05-079600(JP,A)
【文献】特開昭58-203299(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0211970(US,A1)
【文献】特表2018-523805(JP,A)
【文献】特開平06-337191(JP,A)
【文献】実開平06-022698(JP,U)
【文献】特開2016-180479(JP,A)
【文献】特開2011-089620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/00-13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体ヘリウム貯槽から小分け容器に両者の内圧差を利用して移液ラインを通じて移液するに際して、前記小分け容器で発生する蒸発ガスを、蒸発ガス供給ラインを通じて前記液体ヘリウム貯槽に供給することで、前記液体ヘリウム貯槽内の圧力を保持する方法であって、
低温のヘリウムガスによって前記蒸発ガス供給ラインを構成す
る機器類
(配管、圧縮機、弁)を冷却し、冷却に供したガスを前記
液体ヘリウム貯槽に供給することなく回収する予冷工程と、
該予冷工程によって前記蒸発ガス供給ラインを冷却した後、移液ラインを通じて前記液体ヘリウム貯槽から前記小分け容器に液体ヘリウムを移液すると共に、前記小分け容器で発生する蒸発ガスを、前記蒸発ガス供給ラインを通じて前記液体ヘリウム貯槽に供給する移液工程とを備えたことを特徴とする液体ヘリウム移液時の液体ヘリウム貯槽内圧力保持方法。
【請求項2】
前記予冷工程は、前記液体ヘリウム貯槽から前記小分け容器に供給された液体ヘリウムの蒸発ガスを低温のヘリウムガスとして用いることを特徴とする請求項1に記載の液体ヘリウム移液時の液体ヘリウム貯槽内圧力保持方法。
【請求項3】
液体ヘリウム貯槽から小分け容器に両者の内圧差を利用して移液するに際して、前記液体ヘリウム貯槽内の圧力を保持する液体ヘリウム移液時の液体ヘリウム貯槽内圧力保持装置であって、
前記液体ヘリウム貯槽から前記小分け容器に液体ヘリウムを移液する移液ラインと、
前記小分け容器で発生する蒸発ガスを前記液体ヘリウム貯槽に供給する蒸発ガス供給ラインと、
前記小分け容器で発生する蒸発ガスの一部を回収する蒸発ガス回収ラインと、
前記蒸発ガス供給ラインの下流側から分岐して、該蒸発ガス供給ラインの予冷に供された
前記蒸発ガスを前記蒸発ガス回収ラインに供給する予冷ガス回収ラインを備えたことを特徴とする液体ヘリウム移液時の液体ヘリウム貯槽内圧力保持装置。
【請求項4】
前記蒸発ガス供給ラインを構成する配管の一部が、前記移液ラインを構成する配管の外周に覆い、これらの配管が二重管になっていることを特徴とする請求項3記載の液体ヘリウム移液時の液体ヘリウム貯槽内圧力保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体ヘリウムを液体ヘリウム貯槽(以下、単に「貯槽」という)から汲み出すために移液するに際して、貯槽内の圧力を保持する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体ヘリウムは物質の中で最も低温液体であり、多くの研究分野で用いられている。液体ヘリウムが気化したヘリウムガスは、供給源が限定された貴重なガスなので使用されたヘリウムガスは回収、精製された後、ヘリウム液化装置で再度液化され使用されるのが一般的である。
【0003】
液体ヘリウムの需要に応じてヘリウム液化装置でヘリウムガスを液化して供給する事は可能である。
しかし、ヘリウム液化装置が液化を開始するまでに装置の冷却にある程度の時間がかかるため、この冷却回数を減らすため、ヘリウム液化装置を一定期間運転し、液化された液体ヘリウムを一旦貯槽に貯液し、そこから小分け容器に移液して、各研究室等にて用いられる場合が多い。
【0004】
一般的には、貯槽から小分け容器への移液は、貯槽内圧力と小分け容器内圧力の差を利用して行なわれる。貯槽から小分け容器に液体ヘリウムが移液されると、貯槽では小分け容器に汲み出された液体ヘリウムに相当する体積の空間が増えるため、貯槽内部の飽和ガスが膨張し、その結果として貯槽内圧力が低下する。そのため、液体ヘリウムを貯槽から小分け容器に移液するに従って、移液に必要な圧力差が減少するので移液に長時間を要する場合がある。
【0005】
そこで、移液の速度を維持するために移液に必要な圧力差を維持する方法が、例えば特許文献1に開示されている。
特許文献1に開示された方法は、液体ヘリウム移送時に小分け容器から排出される飽和ガスを加温器で加温した後、その一部を圧縮機で加圧して貯槽内に送ることで、貯槽内の圧力を保持するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、小分け容器から排出される飽和ガスを加温器で加温して常温にした後、圧縮機で加圧している。このため、供給されたヘリウムガスの顕熱により、貯槽の液体ヘリウムが多く蒸発するという問題があった。
特に、液体ヘリウムの蒸発潜熱は小さく、昇温されて供給されるヘリウムガスの顕熱による貯槽内の液体ヘリウムの蒸発ロスは必要液化量、さらにはヘリウム液化装置の運転時間の増大につながり、液体ヘリウムの製造コストを上昇させることにもなる。
【0008】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、液体ヘリウムの製造コストを上昇させることなく、液体ヘリウムを貯槽から汲み出す際の貯槽内の圧力を保持する方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る液体ヘリウム移液時の液体ヘリウム貯槽内圧力保持方法は、液体ヘリウム貯槽から小分け容器に両者の内圧差を利用して移液ラインを通じて移液するに際して、前記小分け容器で発生する蒸発ガスを、蒸発ガス供給ラインを通じて前記液体ヘリウム貯槽に供給することで前記液体ヘリウム貯槽内の圧力を保持する方法であって、
低温のヘリウムガスによって前記蒸発ガス供給ラインを構成する配管及び圧縮機等の機器類を冷却し、冷却に供したガスを前記貯槽に供給することなく回収する予冷工程と、
該予冷工程によって前記蒸発ガス供給ラインを冷却した後、移液ラインを通じて前記液体ヘリウム貯槽から前記小分け容器に液体ヘリウムを移液すると共に、前記小分け容器で発生する蒸発ガスを、前記蒸発ガス供給ラインを通じて前記液体ヘリウム貯槽に供給する移液工程とを備えたことを特徴とするものである。
【0010】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記予冷工程は、前記液体ヘリウム貯槽から前記小分け容器に供給された液体ヘリウムの蒸発ガスを低温のヘリウムガスとして用いることを特徴とするものである。
【0011】
(3)本発明に係る液体ヘリウム移液時の液体ヘリウム貯槽内圧力保持装置は、液体ヘリウム貯槽から小分け容器に両者の内圧差を利用して移液するに際して、前記液体ヘリウム貯槽内の圧力を保持するものであって、
前記液体ヘリウム貯槽から前記小分け容器に液体ヘリウムを移液する移液ラインと、
前記小分け容器で発生する蒸発ガスを前記液体ヘリウム貯槽に供給する蒸発ガス供給ラインと、前記小分け容器で発生する蒸発ガスの一部を回収する蒸発ガス回収ラインと、
前記蒸発ガス供給ラインの下流側から分岐して、該蒸発ガス供給ラインの予冷に供された蒸発ガスを前記蒸発ガス回収ラインに供給する予冷ガス回収ラインを備えたことを特徴とするものである。
【0012】
(4)また、上記(3)に記載のものにおいて、前記蒸発ガス供給ラインは、該蒸発ガス供給ラインを通流する蒸発ガスの冷熱によって、前記移液ラインを通じて小分け容器に供給される液体ヘリウムを冷却可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0013】
(5)また、上記(4)に記載のものにおいて、前記蒸発ガス供給ラインを構成する配管の一部が、前記移液ラインを構成する配管の外周に覆い、これらの配管が二重管になっていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、小分け容器と貯槽の内圧差を確保するために小分け容器で発生した蒸発ガスを低温状態で貯槽に供給することができ、貯槽内の温度上昇を抑制して貯槽内の液体ヘリウムの蒸発ロスを防止しつつ移液速度の低下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る液体ヘリウム貯槽内圧力保持方法を実現するための装置構成を説明する図である。
【
図2】本発明の一実施の形態の他の態様に係る液体ヘリウム貯槽内圧力保持方法を実現するための装置構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施の形態に係る液体ヘリウム移液時の液体ヘリウム貯槽内圧力保持方法(以下、単に「液体ヘリウム貯槽内圧力保持方法」という)を説明するに際して、かかる方法を実現するための液体ヘリウム貯槽内圧力保持装置1の装置構成を
図1に基づいて説明する。
図1において、2はヘリウムガスを液化するヘリウム液化装置、3はヘリウム液化装置2で液化された液体ヘリウムを貯留する液体ヘリウム貯槽(貯槽)、5は必要に応じて貯槽3から液体ヘリウムを汲み出して小分けするための小分け容器、7は貯槽3内の液体ヘリウムを小分け容器5に汲み出すために液体ヘリウムを移液する移液ライン、9は小分け容器5で発生した蒸発ガスを貯槽3に供給する蒸発ガス供給ライン、11は蒸発ガス供給ライン9から分岐して設けられて小分け容器5で発生する蒸発ガスを回収する蒸発ガス回収ライン、13は蒸発ガス供給ライン9から分岐して設けられて予冷に供した蒸発ガスを回収するための予冷ガス回収ラインである。
【0017】
各ラインは配管を主構成要素としているが、配管以外の構成要素として、以下の構成を備えている。
蒸発ガス供給ライン9は、蒸発ガスを圧縮するための圧縮機としての極低温用ブロワ15、逆止弁17(図中の矢印の方向のみに流体が流れる)、第1バルブ19を備えている。
また、蒸発ガス回収ライン11は、第2バルブ21、回収されるヘリウムガスを加温する加温器23、加温されたヘリウムガスを貯留するガスバッグ25、ガスバッグ25から供給されるヘリウムガスを圧縮する回収用圧縮機27、回収用圧縮機27で圧縮された高圧のヘリウムガスを貯蔵するための貯蔵用高圧ボンベ29を備えている。
また、予冷ガス回収ライン13は、第3バルブ31を備えている。なお、予冷ガス回収ライン13は上述したように蒸発ガス供給ライン9から分岐して設けられるが、その分岐点は蒸発ガス供給ライン9の下流側の末端に近いのが好ましい。これにより、蒸発ガス供給ライン9を構成するより多くの配管及び機器類を予冷できるからである。
【0018】
次に、上記のような装置構成によって実現される本実施の形態の液体ヘリウム貯槽内圧力保持方法について説明する。
本実施の形態の液体ヘリウム貯槽内圧力保持方法は、液体ヘリウム貯槽3から小分け容器5に両者の内圧差を利用して移液するに際して、小分け容器5で発生する蒸発ガスを、蒸発ガス供給ライン9を通じて貯槽3に供給することで、液体ヘリウム貯槽3内の圧力を保持する方法であって、
低温のヘリウムガスによって蒸発ガス供給ライン9を構成する配管及び極低温用ブロワ15等の機器類を冷却し、冷却に供したガスを貯槽3に供給することなく回収する予冷工程と、
予冷工程によって蒸発ガス供給ライン9を冷却した後、移液ライン7を通じて貯槽3から小分け容器5に液体ヘリウムを移液すると共に、小分け容器5で発生する蒸発ガスを、蒸発ガス供給ライン9を通じて貯槽3に供給する移液工程とを備えている。
尚、予冷工程において、圧力の低い蒸発ガスでも極低温用ブロワ15等を十分に冷却できる様に、極低温用ブロワ15等を磁気ベアリング式とし、機器での圧力損失を低減することができる。又、予冷工程に当該ブロワを低速回転で運転することによっても低圧の蒸発ガスによる冷却を促進することができる。
【0019】
以下、各工程を詳細に説明する。
<予冷工程>
予冷工程は、低温のヘリウムガスによって蒸発ガス供給ライン9を構成する配管及び極低温用ブロワ15等の機器類を冷却し、冷却に供したガスを貯槽3に供給することなく回収する工程である。
なお、本実施の形態の予冷工程は、貯槽3から小分け容器5に供給された液体ヘリウムの蒸発ガスを予冷用の低温のヘリウムガスとして用いている。
【0020】
このような予冷工程の前提として、ヘリウム液化装置2のジュール・トムソン膨張で液化された液体ヘリウムは、同時に発生した飽和ヘリウムガスとともに配管33を通流して貯槽3に貯液されている。
貯槽3内の圧力は大気圧力よりも高めに設定されている(例えば、130kPaA)。そのため貯槽3内の飽和ガスは配管35によってヘリウム液化装置2側に戻され、熱交換器により寒冷を回収され、回収された寒冷は液化用圧縮機(図示なし)からヘリウム液化装置2に導入されるヘリウムガスの冷却に用いられる。
【0021】
本実施の形態の予冷工程では、小分け容器5で発生する蒸発ガスを予冷に用いるため、貯槽3内の液体ヘリウムを、移液ライン7を通じて大気圧状態の小分け容器5に移液する。そのため、予冷工程では、蒸発ガス供給ライン9の第1バルブ19及び蒸発ガス回収ライン11の第2バルブ21及びを「閉」とし、予冷ガス回収ライン13の第3バルブ31を「開」としておく。
移液ライン7での移液は、貯槽3内圧力(例えば130kPaA)と小分け容器5内の圧力(例えば、大気圧力)の差を利用して行われる。なお、侵入熱等によって移液される液体ヘリウムの蒸発量を低減する為に、一般的に移液ライン7を構成する配管は断熱配管である。
【0022】
小分け容器5に液体ヘリウムが移液され、小分け容器5で蒸発ガスが発生する。発生した蒸発ガスは、蒸発ガス供給ライン9を通流し、蒸発ガス供給ライン9を構成する配管や機器類(極低温用ブロワ15、第1バルブ19等)を予冷する。
予冷に供された蒸発ガスは、予冷ガス回収ライン13を流れ、蒸発ガス供給ライン9に供給され、加温器23で加温されて常温の状態でガスバッグ25に回収された後、回収用圧縮機27で圧送され貯蔵用高圧ボンベ29で一時的に貯蔵された後、ヘリウム液化装置2内で精製され、再液化される。
【0023】
予冷工程を行うことで、蒸発ガス供給ライン9を構成する配管や機器類が常温状態から低温に冷却され、予冷工程に続く移液工程において、蒸発ガス供給ライン9を通じて貯槽3に供給される蒸発ガスが、蒸発ガス供給ライン9を構成する配管や機器類によって加温されるのを防止できる。
また、本実施の形態では、小分け容器5で発生する蒸発ガスを予冷に使用するので、別途、低温のヘリウムガスを準備する必要がなく、効率的である。
【0024】
<移液工程>
移液工程は、予冷工程によって蒸発ガス供給ライン9を冷却した後、移液ライン7を通じて貯槽3から小分け容器5に液体ヘリウムを移液すると共に、小分け容器5で発生する蒸発ガスの一部又は全部を蒸発ガス供給ライン9を通じて貯槽3に供給する工程である。
移液工程では、蒸発ガス供給ライン9の第1バルブ19を「開」、蒸発ガス回収ライン11の第2バルブ21を「開」又は「半開」とし、予冷ガス回収ライン13の第3バルブ31を「閉」とし、予冷工程に引き続き、移液ライン7を通じて液体ヘリウムを小分け容器5に移液する。
なお、蒸発ガス回収ライン11へ流す蒸発ガス量は、蒸発ガス供給ライン9へ供給する蒸発ガス量に応じて第2バルブ21によって調整するようにすればよい。
【0025】
ヘリウム液化装置2を運転していない場合、貯槽3から小分け容器5に移液が進むと、貯槽3では、移液した液体ヘリウムの分の体積が減少するので、貯槽3内の圧力が徐々に低下する。この結果、小分け容器5と貯槽3の内圧差が小さくなり、移液の速度が低下する。貯槽3内の圧力低下に伴い、貯槽3内の液体ヘリウムの一部が気化する。
しかし、本実施の形態では、小分け容器5で気化したヘリウムガスの全部又はその一部が蒸発ガス供給ライン9の極低温用ブロワ15で圧縮されて貯槽3に導入され、これによって、貯槽3内の圧力が上昇し、移液に必要な圧力差を確保することができる。
【0026】
貯槽3から小分け容器5に液体ヘリウムを100L(リットル、以後、同じ)移液する必要があり、その際貯槽3の圧力を130kPaAに維持する場合を想定すると、従来の方法では、常温(約33℃)のヘリウムガスが貯槽3に導入されており、その顕熱(約44kJ)により貯槽3内の液体ヘリウムが蒸発していた。一方、本願発明では、低温のヘリウムガスが貯槽3に導入されるので、その分の蒸発ロスを防ぐことができる。
【0027】
移液工程において小分け容器5から発生したヘリウムガスのうち貯槽3に供給されないものは、蒸発ガス回収ライン11に供給されて前述の予冷に供されたガスと同様に、蒸発ガス供給ライン9に供給され、加温器23で加温され常温の状態でガスバッグ25に回収された後、回収用圧縮機27で圧送されて貯蔵用高圧ボンベ29で一時的に貯蔵された後、ヘリウム液化装置2内で精製され、再液化される。
【0028】
以上のように、本実施の形態によれば、小分け容器5と貯槽3の内圧差を確保するために小分け容器5で発生した蒸発ガスを低温状態で貯槽3に供給することができ、貯槽3内の入熱量を抑制して貯槽3内の液体ヘリウムの蒸発ロスを防止しつつ移液速度の低下を防止できる。
【0029】
また、本実施の形態によれば、蒸発ガス供給ライン9を通じて貯槽3に導入するヘリウムガスは低温であるために、特許文献1に開示のものよりも、極低温用ブロワが吸い込むヘリウムガスの流量(ボリューム)を低減することができる。つまり、特許文献1に比較して蒸発ガス供給ライン9を小型化でき、極低温用ブロワ15の稼動コストを低減できる。これは、特許文献1で用いられる常温のヘリウムガスよりも、本実施の形態で用いる極低温のヘリウムガスは高密度であるためである。
【0030】
他方、本実施の形態では小分け容器5で発生する蒸発ガスを低温状態で貯槽3に供給するため、小分け容器5で発生する蒸発ガスのうち蒸発ガス回収ライン11に供給するガス量よりも貯槽3に供給するガス量を多くすることができる。
このため、蒸発ガス回収ライン11にける蒸発ガスの回収液化のための動力(回収用圧縮機27やヘリウム液化装置2での液体ヘリウム精製のための動力)を削減することができる。
【0031】
ヘリウム液化装置2ではジュール・トムソン膨張によりヘリウムの飽和液と飽和ガスが発生する。両者は2相流として貯槽3に導入されたのち、貯槽3内の低温の飽和ガスは貯槽内圧により再び貯槽3からヘリウム液化装置2に導入される。
そのため、貯槽圧力が低下すると貯槽3からヘリウム液化装置2に導入される飽和ヘリウムガスの流量が低下し、低温のヘリウムガスによって供給される寒冷が減少するのでヘリウム液化装置2の液化能力が大きく低下する。この低下割合は小型のヘリウム液化装置2で顕著であるため、液化能力を維持するため、液化と汲み出しが別々のタイミングで実施される場合もある。
【0032】
この点、本実施の形態においては、移液を行っているときには蒸発ガス供給ライン9からヘリウムガスを貯槽3に供給しているので、貯槽3の圧力が移液期間中維持される。これにより、ヘリウム液化装置2に導入される飽和ガス量の維持が可能になり、移液の最中であっても、ヘリウム液化装置2の効率の低下を回避でき、移液のタイミングとは関係なくヘリウム液化装置2の運転が可能となる。
【0033】
なお、上記の実施の形態では、小分け容器5で発生した液体ヘリウムの蒸発ガスを予冷に用いていたが、本発明はこれに限られるものではなく、予冷工程において蒸発ガス供給ライン9を予冷する低温のヘリウムガスを例えば低温貯槽等から別途供給するようにしてもよい。
【0034】
また、蒸発ガス供給ライン9を介して貯槽3に供給するヘリウムガスは低温であることが好ましいので、
図2に示すように、蒸発ガス供給ライン9を構成する配管37の一部が移液ライン7を構成する配管の外周を覆い、これらの配管37が二重管になるように構成することで、蒸発ガス供給ライン9を流れるヘリウムガスで、移液ライン7を流れる液体ヘリウムを冷却するようにしてもよい。
【実施例】
【0035】
本発明の効果を確認するための比較試算を行ったので、以下これについて説明する。
試算の条件として、液体ヘリウムの移液速度を「0.30m3/h」とした。貯槽3から液体ヘリウムを小分け容器5(100Lとする)に移液すると、貯槽3の減圧によって発生するヘリウムガスを含め、貯槽3から「0.11m3」の液体ヘリウムが移動することになる。
【0036】
【0037】
一方、貯槽3から小分け容器5に導入された液体ヘリウムは、減圧や移液ライン7の侵入熱、さらには小分け容器5内の空間を占めていたガスが押し出されることによりにより「18Nm3」のヘリウムガスが蒸発ガス供給ライン9に流れる。従来は、この「18Nm3」のヘリウムガスは単にガスバッグ25に回収されていた。
本発明では、この「18Nm3」のヘリウムガスの一部「14Nm3」を低温の状態のまま蒸発ガス供給ライン9経由で、貯槽3に導入したので、直ちに回収されるヘリウムガスの「78%」を削減できた。又、貯槽3の圧力が維持されたことに伴い移液時間を低減できた。尚、ここで、Nm3とは大気圧力、0℃におけるその流体の体積を示す。
【0038】
ヘリウム液化装置2を運転中はジュール・トムソン膨張により発生する飽和ガスを貯槽3とヘリウム液化装置2の圧力差により配管35によって貯槽3から液化装置に戻すことで、液化に必要な寒冷の一部を得ている。
貯槽3の圧力が移液期間中維持されることによりヘリウム液化装置2に導入される飽和ガス量の維持が可能になり、移液の最中であっても、従来の様なヘリウム液化装置2の効率の低下を回避できた。つまり、移液のタイミングとは関係なくヘリウム液化装置2の運転が可能となった。
【0039】
例えば、液化装置の予冷時間を1Hとし、一日の液化時間を7Hとする。また、1週間の稼動日数を5日とする。よって、1週間の稼動時間は、5日×7H/日=35Hとなる。さらにヘリウム液化装置2の液化能力を100L/Hとする。
このような条件の下で、例えば、液体ヘリウムを1週間に3000L汲み出しする必要がある場合を想定する。
従来の方法では3000Lの液体ヘリウムを汲出すときに、加圧(貯槽内圧130kPaA)のために常温のヘリウムガスを貯槽内に入れるので、貯槽内の蒸発も含めて4140L必要であった(実際のくみ出し3000L、送液に伴う蒸発390L、常温のヘリウムガスを貯槽に入れるため貯槽内の蒸発750L)。この場合、液化装置を41.4h(=4140/100)時間稼動させる必要があり、システムとして成立しなかった(41.4H>35H)。
【0040】
また、従来と本発明のいずれの方法も用いない場合、つまり、貯槽3の圧力を維持する手段が無い装置では液体ヘリウムの移液と同時に貯槽3からのヘリウム液化装置2の運転を行うと配管35によってヘリウム液化装置2に導入される寒冷が低下するのでヘリウム液化装置2の液化能力が大幅に低下するため、液体ヘリウムの移液を行っていないタイミングで液化運転を行う必要があったが、本発明によりそれらを同時に行うことができるようになる。
換言すれば、従来の方法では移液と同時にヘリウム液化装置2を運転した場合には液化能力の低下により必要な液化量を確保できない場合がある。この点について、試算したので以下これについて説明する。
液体ヘリウムの汲み出しと液化運転を同時に行った場合、従来の方法のようにヘリウム液化装置2に導入される寒冷が低下した場合のヘリウム液化装置2の液化能力は約45L/Hまで低下する。
なお、要求された液体ヘリウムの汲み出し量が3000Lの場合、汲み出し時の蒸発ガス量を考慮すると必要な液体ヘリウムの量は3390L程度となる。平均の汲み出し速度を300L/Hとすると、汲み出しに要する時間は約11.3時間となる。
【0041】
従来の方法、すなわち汲み出しと液化運転を同時に行った場合に液化能力が低下する場合において、上記のヘリウム液化装置2を1週間フル稼働して液化できる液体ヘリウム量は、45L/Hx11.3H+(35H-11.3H)x100L/H=2879Lとなる。
すなわち、上記のヘリウム液化装置2では上記の需要を満たすことができない。
一方、本発明の方法、すなわち汲み出しと液化運転を同時に行った場合に液化能力が低下しない場合において、上記のヘリウム液化装置2を1週間フル稼働して液化できる液体ヘリウム量は35Hx100L/H=3500Lとなり、上記の需要(3390L)を満たすことができる。
【符号の説明】
【0042】
1 液体ヘリウム貯槽内圧力保持装置
2 ヘリウム液化装置
3 液体ヘリウム貯槽
5 小分け容器
7 移液ライン
9 蒸発ガス供給ライン
11 蒸発ガス回収ライン
13 予冷ガス回収ライン
15 極低温用ブロワ
17 逆止弁
19 第1バルブ
21 第2バルブ
23 加温器
25 ガスバッグ
27 回収用圧縮機
29 貯蔵用高圧ボンベ
31 第3バルブ
33、35、37 配管