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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-19
(45)【発行日】2023-04-27
(54)【発明の名称】等化装置、受信装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/0413 20170101AFI20230420BHJP
   H04B 7/005 20060101ALI20230420BHJP
【FI】
H04B7/0413 210
H04B7/005
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019125489
(22)【出願日】2019-07-04
(65)【公開番号】P2021013075
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 慎悟
(72)【発明者】
【氏名】井地口 朋也
(72)【発明者】
【氏名】本田 円香
(72)【発明者】
【氏名】高田 政幸
【審査官】北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-5680(JP,A)
【文献】特開2007-6264(JP,A)
【文献】特開2010-226512(JP,A)
【文献】特開2019-29905(JP,A)
【文献】特開2015-80027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/0413
H04B 7/005
H04J 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SFN環境下で、水平偏波及び垂直偏波を用いた偏波MIMO伝送方式により送信された希望波及びSFN波を受信して等化する等化装置であって、
受信信号の水平偏波と垂直偏波の電力比であるHVRを測定するHVR測定部と、
前記HVRと、希望波及びSFN波の水平偏波の電力比である水平偏波電力比と、希望波及びSFN波の垂直偏波の電力比である垂直偏波電力比とから、希望波の水平偏波及び垂直偏波の電力比である希望波偏波間電力比と、SFN波の水平偏波及び垂直偏波の電力比であるSFN波偏波間電力比とを算出し、前記希望波偏波間電力比及び前記SFN波偏波間電力比の差が大きくなるように重み係数を決定する重み係数決定部と、
前記受信信号に対して、前記重み係数を用いて重み付け演算を行うことにより、等化信号を生成する等化部と、
を備えることを特徴とする等化装置。
【請求項2】
前記重み係数決定部は、重み係数を複数パターン用意し、その中から、前記希望波偏波間電力比及び前記SFN波偏波間電力比の差が最大となる重み係数を選択することを特徴とする、請求項1に記載の等化装置。
【請求項3】
前記等化信号をフーリエ変換して周波数領域のベースバンド信号を生成するフーリエ変換部と、
前記ベースバンド信号に基づいて水平偏波の伝送路応答及び垂直偏波の伝送路応答を算出する伝送路応答算出部と、を備え、
前記重み係数決定部は、前記水平偏波の伝送路応答及び前記垂直偏波の伝送路応答を用いて、前記水平偏波電力比と、前記垂直偏波電力比とを求めることを特徴とする、請求項1又は2に記載の等化装置。
【請求項4】
SFN環境下で、水平偏波及び垂直偏波を用いた偏波MIMO伝送方式により送信された希望波及びSFN波を受信して復号する受信装置であって、
受信信号の水平偏波と垂直偏波の電力比であるHVRを測定するHVR測定部と、
前記HVRと、希望波及びSFN波の水平偏波の電力比である水平偏波電力比と、希望波及びSFN波の垂直偏波の電力比である垂直偏波電力比とから、希望波の水平偏波及び垂直偏波の電力比である希望波偏波間電力比と、SFN波の水平偏波及び垂直偏波の電力比であるSFN波偏波間電力比とを算出し、前記希望波偏波間電力比及び前記SFN波偏波間電力比の差が大きくなるように重み係数を決定する重み係数決定部と、
前記受信信号に対して、前記重み係数を用いて重み付け演算を行うことにより、等化信号を生成する等化部と、
前記等化信号をフーリエ変換して周波数領域のベースバンド信号を生成するフーリエ変換部と、
前記ベースバンド信号に基づいて伝送路応答を算出する伝送路応答算出部と、
前記伝送路応答を用いて前記ベースバンド信号から送信信号の推定値を生成するMIMO検出部と、
前記送信信号の推定値、及び前記ベースバンド信号の雑音分散を用いて、送信された各ビットの尤度比を算出する尤度比算出部と、
前記尤度比を用いて、送信されたビットの推定値を復号する誤り訂正復号部と、
を備えることを特徴とする受信装置。
【請求項5】
コンピュータを、請求項1から3のいずれか一項に記載の等化装置として機能させるためのプログラム。
【請求項6】
コンピュータを、請求項4に記載の受信装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SFN環境下で、偏波MIMO伝送方式により送信された希望波及びSFN波を受信する等化装置、受信装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地上波による4K8K放送を実現するために、地上デジタルテレビジョン放送の高度化方式の検討が進められており、伝送容量の拡大が求められている(例えば、非特許文献1参照)。伝送容量拡大の有力な技術の1つとして、水平偏波及び垂直偏波を用いることにより伝送容量を2倍とする偏波MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)伝送が知られている。また、高度化方式において、周波数の有効利用の観点から、複数の送信局で同一の周波数を使用するSFN(Single Frequency Network)技術が必須となる。
【0003】
SFNを構成する放送エリアでは、希望局からの電波(希望波)のほか、SFN局からの電波(SFN波)も到来する。そこで、SFN波を低減させるために、複数アンテナを用いてアダプティブアレーアンテナを形成し、各アンテナの重み係数を制御する技術が知られている(例えば、非特許文献2及び非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】土田、「次世代地上放送に向けた研究開発動向」、映情メ学誌、2018年、Vol.72、No.6、pp.836-839
【文献】武田、電子情報通信学会「知識の森」 4群(通信工学)-2編(アンテナ・伝搬) 8章アンテナの信号処理、[online]、[2019年6月28日検索]、インターネット<URL:http://ieice-hbkb.org/files/04/04gun_02hen_08.pdf>
【文献】株式会社モバイルテクノ、「アダプティブアレーアンテナ」、[online]、[2019年6月28日検索]、インターネット<URL:https://www.fujitsu.com/jp/group/mtc/technology/course/aaa/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
希望局からの水平偏波と垂直偏波の受信電力をそれぞれp,pとし、SFN局からの水平偏波と垂直偏波の受信電力をそれぞれp’,p’とすると、希望波とSFN波の受信電力比DUR(Desire to Undesire Ratio)は、式(1)で示すように、水平偏波と垂直偏波のそれぞれの受信電力値の合計の比で表すことができる。
【0006】
【数1】
【0007】
また、水平偏波と垂直偏波の電力比HVRは、式(2)で表すことができる。また、希望波の水平偏波及び垂直偏波の電力比である希望波偏波間電力比Dは、式(3)で表され、SFN波の水平偏波と垂直偏波の電力比であるSFN波偏波間電力比D’は、式(4)で表される。式(1)に式(3)(4)を代入すると、受信電力比DURは式(5)で表すことができる。
【0008】
【数2】
【0009】
一方、SFN環境下での受信特性は、受信電力比DURの影響を受ける。受信電力比DURが低いほど、希望波とSFN波が干渉しあい、周波数領域上で大きなレベル低下を引き起こすためである。したがって、偏波MIMOにおいても、式(5)で表される受信電力比DURがなるべく高くなるように調整する必要がある。受信アンテナを回転させることで、p,p’などを最適な値となるように調整することも可能であるが、一般的に受信アンテナを設置した後に向きを変えることは困難である。
【0010】
かかる事情に鑑みてなされた本発明の目的は、受信電力比DURが低いSFN環境において、従来のアダプティブアレーアンテナのような複雑な信号処理を行うことなく、高精度な等化処理を行うことが可能な等化装置、受信装置、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明に係る等化装置は、SFN環境下で、水平偏波及び垂直偏波を用いた偏波MIMO伝送方式により送信された希望波及びSFN波を受信して等化する等化装置であって、受信信号の水平偏波と垂直偏波の電力比であるHVRを測定するHVR測定部と、前記HVRと、希望波及びSFN波の水平偏波の電力比である水平偏波電力比と、希望波及びSFN波の垂直偏波の電力比である垂直偏波電力比とから、希望波の水平偏波及び垂直偏波の電力比である希望波偏波間電力比と、SFN波の水平偏波及び垂直偏波の電力比であるSFN波偏波間電力比とを算出し、前記希望波偏波間電力比及び前記SFN波偏波間電力比の差が大きくなるように重み係数を決定する重み係数決定部と、前記受信信号に対して、前記重み係数を用いて重み付け演算を行うことにより、等化信号を生成する等化部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明に係る等化装置において、前記重み係数決定部は、重み係数を複数パターン用意し、その中から、前記希望波偏波間電力比及び前記SFN波偏波間電力比の差が最大となる重み係数を選択することを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明に係る等化装置において、前記等化信号をフーリエ変換して周波数領域のベースバンド信号を生成するフーリエ変換部と、前記ベースバンド信号に基づいて水平偏波の伝送路応答及び垂直偏波の伝送路応答を算出する伝送路応答算出部と、を備え、前記重み係数決定部は、前記水平偏波の伝送路応答及び前記垂直偏波の伝送路応答を用いて、前記水平偏波電力比と、前記垂直偏波電力比とを求めることを特徴とする。
【0014】
また、上記課題を解決するため、本発明に係る受信装置は、SFN環境下で、水平偏波及び垂直偏波を用いた偏波MIMO伝送方式により送信された希望波及びSFN波を受信して復号する受信装置であって、受信信号の水平偏波と垂直偏波の電力比であるHVRを測定するHVR測定部と、前記HVRと、希望波及びSFN波の水平偏波の電力比である水平偏波電力比と、希望波及びSFN波の垂直偏波の電力比である垂直偏波電力比とから、希望波の水平偏波及び垂直偏波の電力比である希望波偏波間電力比と、SFN波の水平偏波及び垂直偏波の電力比であるSFN波偏波間電力比とを算出し、前記希望波偏波間電力比及び前記SFN波偏波間電力比の差が大きくなるように重み係数を決定する重み係数決定部と、前記受信信号に対して、前記重み係数を用いて重み付け演算を行うことにより、等化信号を生成する等化部と、前記等化信号をフーリエ変換して周波数領域のベースバンド信号を生成するフーリエ変換部と、前記ベースバンド信号に基づいて伝送路応答を算出する伝送路応答算出部と、前記伝送路応答を用いて前記ベースバンド信号から送信信号の推定値を生成するMIMO検出部と、前記送信信号の推定値、及び前記ベースバンド信号の雑音分散を用いて、送信された各ビットの尤度比を算出する尤度比算出部と、前記尤度比を用いて、送信されたビットの推定値を復号する誤り訂正復号部と、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、上記課題を解決するため、本発明に係るプログラムは、コンピュータを、上記等化装置として機能させることを特徴とする。
【0016】
また、上記課題を解決するため、本発明に係るプログラムは、コンピュータを、上記受信装置として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、受信電力比DURが低いSFN環境において、従来のアダプティブアレーアンテナのような複雑な信号処理を行うことなく、等化処理を高精度に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施形態に係る等化装置の構成例を示すブロック図である。
図2】遅延プロファイルを模式的に示す図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る等化装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図4】本発明の第2の実施形態に係る等化装置の構成例を示すブロック図である。
図5】本発明の第3の実施形態に係る受信装置の構成例を示すブロック図である。
図6】本発明の第3の実施形態に係る受信装置の動作の一例を示すブロック図である。
図7】本発明の第3の実施形態に係る受信装置のシミュレーション結果を示す図である。
図8図7に示したシミュレーションの条件を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。以下に説明する実施形態では、MIMO伝送方式における送信アンテナ数を2,受信アンテナ数を2とするが、アンテナ数はこれに限られるものではない。
【0020】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る等化装置の構成例を示すブロック図である。図1に示す例では、等化装置1は、HVR測定部11と、重み係数決定部12と、等化部13と、を備える。等化装置1は、SFN環境下で、水平偏波及び垂直偏波を用いた偏波MIMO伝送方式により送信された希望波及びSFN波を受信し、受信信号を等化する。
【0021】
受信アンテナ10は、例えば偏波共用八木アンテナであり、送信局から送信された信号(例えば、OFDM信号)を受信する。第1の受信アンテナ10-1は信号を受信して、受信信号X=[xh1,xv1を等化装置1に出力する。第2の受信アンテナ10-2は信号を受信して、受信信号X=[xh2,xv2を等化装置1に出力する。ここで、xh1,xh2は水平偏波成分を表し、xv1,xv2は垂直偏波成分を表している。
【0022】
等化装置1は、受信アンテナ10-1,10-2を介して受信した受信信号X及びXに対して等化処理を行って等化信号Yを算出し、外部装置(例えば、等化装置1と通信を行う受信装置)に出力する。また、等化装置1は、外部装置から、等化信号Yの伝送路応答Hを取得する。
【0023】
HVR測定部11は、受信信号X又は受信信号X、あるいは受信信号X及び受信信号Xを用いて、受信信号の水平偏波と垂直偏波の電力比であるHVRを測定し、測定結果を重み係数決定部12に出力する。HVRの式は、式(2)に示したとおりである。
【0024】
等化部13は、受信信号X,Xに対して、重み係数決定部12により決定された重み係数w,wを用いて式(6)に示した重み付け演算を行うことにより、等化信号Y=[y,yを生成し、外部装置及び重み係数決定部12に出力する。ここで、yは水平偏波成分を表し、yは垂直偏波成分を表している。
【0025】
【数3】
【0026】
重み係数決定部12は、外部装置から伝送路応答Hを取得する。2×2MIMO伝送の伝送路応答Hは、式(7)で表される。h11は第1の送信アンテナから第1の受信アンテナ10-1への伝送路の伝送路応答(すなわち、水平偏波の伝送路応答)を表し、h12は第2の送信アンテナから第1の受信アンテナ10-1への伝送路の伝送路応答を表し、h21は第1の第1の送信アンテナから第2の受信アンテナ10-2への伝送路の伝送路応答を表し、h22は第2の送信アンテナから第2の受信アンテナ10-2への伝送路の伝送路応答(すなわち、垂直偏波の伝送路応答)を表す。重み係数決定部12は、水平偏波の伝送路応答h11及び垂直偏波の伝送路応答h22から遅延プロファイルを求める。
【0027】
【数4】
【0028】
図2は、遅延プロファイルを模式的に示す図である。重み係数決定部12は、図2(a)に示すように水平偏波の希望波及びSFN波のピーク同士のレベル差から、希望波及びSFN波の水平偏波の電力比である水平偏波電力比p/p’を求める。また、重み係数決定部12は、図2(b)に示すように垂直偏波の希望波及びSFN波のピーク同士のレベル差から、希望波及びSFN波の垂直偏波の電力比である垂直偏波電力比p/p’を求める。式(2)(3)(4)より、式(8)(9)が成立する。
【0029】
【数5】
【0030】
そこで、重み係数決定部12は、HVR測定部11により測定した電力比HVRと、遅延プロファイルから求めた水平偏波電力比p’/p及び垂直偏波p’/pとを式(8)に代入することにより、希望波の水平偏波及び垂直偏波の電力比である希望波偏波間電力比Dを算出する。また、重み係数決定部12は、HVR測定部11により測定した電力比HVRと、遅延プロファイルから求めた水平偏波電力比p/p’及びp/p’とを式(9)に代入することにより、SFN波の水平偏波及び垂直偏波の電力比であるSFN波偏波間電力比D’を算出する。
【0031】
そして、重み係数決定部12は、希望波偏波間電力比D及びSFN波偏波間電力比D’の差が大きくなるように重み係数w,wを決定する。例えば、重み係数決定部12は重み係数の刻みを0.1として、重み係数w,wの組み合わせを(1.0,0)、(0.9,0.1)、(0.8,0.2)、(0.7,0.3)、(0.6,0.4)、(0.5,0.5)、(0.4,0.6)、(0.3,0.7)、(0.2,0.8)、(0.1,0.9)、(0,1.0)の11パターン用意し、その中で評価関数E=|D-D’|が最大となる時の重み係数w,wの組み合わせを決定する。
【0032】
等化部13は、評価関数E=|D-D’|が最大となる時の重み係数w,wを用いて算出した等化信号Yを、正規な等化信号Yとして外部装置に出力する。
【0033】
次に、等化装置1の動作を、図3を参照して説明する。図3は、等化装置1の動作の一例を示すフローチャートである。
【0034】
ステップS101において、HVR測定部11は、水平偏波と垂直偏波の電力比HVRを測定する。
【0035】
ステップS102において、重み係数決定部12は、重み係数w,wを設定する。例えば、あらかじめ重み係数w,wの合計が1となる組み合わせを複数パターン用意し、その中から重み係数w,wを選択する。
【0036】
ステップS103において、重み係数決定部12は、ステップS102で設定した重み係数w,wを用いて等化信号Yを生成する。そして、外部装置から伝送路応答Hを取得して遅延プロファイルを作成する。
【0037】
ステップS104において、重み係数決定部12は、ステップS103で作成した遅延プロファイルから、水平偏波電力比p/p’及び垂直偏波電力比p/p’を導出する。
【0038】
ステップS105において、重み係数決定部12は、ステップS104で導出した水平偏波電力比p/p’及び垂直偏波電力比p/p’を用いて、希望波偏波間電力比D及びSFN波偏波間電力比D’を導出する。
【0039】
ステップS106において、重み係数決定部12は、重み係数w,wの組み合わせの全パターンについてステップS102からステップS105の処理を行ったか否かを判定する。ステップS106の判定がNoの場合には処理をステップS102に戻し、ステップS106の判定がYesの場合には処理をステップS107に進める。
【0040】
ステップS107おいて、重み係数決定部12は、ステップS105で導出した希望波偏波間電力比D及びSFN波偏波間電力比D’の差が最大となる重み係数w,wを決定する。
【0041】
ステップS108おいて、等化部13は、ステップS107で決定した重み係数w,wを用いて等化信号Yを算出する。このステップS101からステップS108の処理は、所定のシンボル(例えば、1シンボル)、あるいは所定のフレーム(例えば、1フレーム)ごとに行われ、OFDM信号の場合にはさらにキャリアごとにこの処理を行ってもよい。
【0042】
以上説明したように、等化装置1は、HVR、水平偏波電力比p/p’、及び垂直偏波電力比p/p’から、希望波偏波間電力比D及びSFN波偏波間電力比D’を算出し、希望波偏波間電力比D及びSFN波偏波間電力比D’の差が大きくなるように、等化信号を生成する際の重み係数w,wを決定する。そのため、等化装置1によれば、受信電力比DURが低いSFN環境において、非特許文献2に記載されているような従来のアダプティブアレーアンテナよりも等化処理が簡単となる。具体的には、従来の等化処理では、信号の位相及び振幅の双方を制御するために重み係数を複素数としていたが、本発明に係る等化装置1では振幅のみを制御しているため、重み係数を実数とすることができる。また、重み係数が複素数ではなく実数になることで、重み係数を決定する際に、重み係数の試行パターン数が少なくて済む。したがって、従来よりも簡単な演算処理で、等化精度を向上させ、受信改善を行うことが可能となる。
【0043】
また、非特許文献2に示すようにアダプティブアレーアンテナを形成してSFN波を低減させる場合、アンテナ数をMとするとM-1個の方向にヌル点を形成することができるが、アンテナ数Mを大きい値とする必要がある。しかし、UHF帯での地上テレビジョン放送に限れば、受信アンテナはマイクロ波やミリ波に比べ大きいものとなり、設置場所等の制約からアンテナ数Mを大きくすることが困難である。また、アンテナ数Mが2の場合には、SFN波のみを低減させることは困難である。その点、本発明に係る等化装置1によれば、受信アンテナの数が2個と少ない場合であっても、SFN波のみを十分に低減させることが可能となる。
【0044】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る等化装置について説明する。図4は、本発明の第2の実施形態に係る等化装置の構成例を示すブロック図である。図4に示す例では、等化装置2は、HVR測定部11と、重み係数決定部12と、等化部13と、フーリエ変換部14-1,14-2と、伝送路応答算出部15とを備える。第2の実施形態の等化装置2は第1の実施形態の等化装置1と比較して、フーリエ変換部14-1,14-2と、伝送路応答算出部15とを更に備える点が相違する。その他の構成については第1の実施形態と同様であるため、同一の参照番号を付して適宜説明を省略する。
【0045】
フーリエ変換部14は、等化部13から入力された等化信号Y=[y,yを離散フーリエ変換して、周波数領域のベースバンド信号を生成する。すなわち、フーリエ変換部14-1は、等化信号の水平偏波成分yを離散フーリエ変換してベースバンド信号yを生成し、伝送路応答算出部15に出力する。フーリエ変換部14-2は、等化信号の垂直偏波成分yを離散フーリエ変換してベースバンド信号yを生成し、伝送路応答算出部15に出力する。
【0046】
伝送路応答算出部15は、フーリエ変換部14により生成されたベースバンド信号y,yに含まれる既知のパイロット信号を抽出する。そして、伝送路応答算出部15は、抽出したパイロット信号をもとに伝送路応答Hを算出し、重み係数決定部12に出力する。すなわち、伝送路応答算出部15は、ベースバンド信号y,yに基づいて水平偏波の伝送路応答h11及び垂直偏波の伝送路応答h22を算出する。
【0047】
重み係数決定部12は、伝送路応答算出部15により算出された水平偏波の伝送路応答h11及び垂直偏波の伝送路応答h22を用いて、遅延プロファイルを作成し、希望波及びSFN波のピーク同士のレベル差から水平偏波電力比p/p’及び垂直偏波電力比p/p’を求める。そして、重み係数決定部12は、第1の実施形態の等化装置1と同様に希望波偏波間電力比D及びSFN波偏波間電力比D’を算出し、希望波偏波間電力比D及びSFN波偏波間電力比D’の差が大きくなるように重み係数w,wを決定する。
【0048】
以上説明したように、等化装置2は、等化装置1の構成に加えてフーリエ変換部14-1,14-2及び伝送路応答算出部15を備えるため、等化装置1と比較して回路規模が大きくなるが、伝送路応答Hを自身で算出することができるため、伝送路応答Hの推定精度を向上させることができる。そのため、等化装置2は、評価関数E=|D-D’|の精度をさらに向上させ、最適な重み係数w,wを決定することが可能となる。
【0049】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態に係る受信装置について説明する。図5は、第3の実施形態に係る受信装置の構成例を示すブロック図である。図5に示す受信装置3は、等化装置2と、MIMO検出部16と、雑音分散算出部17-1,17-2と、尤度比算出部18と、誤り訂正復号部19とを備える。
【0050】
受信装置3は、SFN環境下で、水平偏波及び垂直偏波を用いた偏波MIMO伝送方式により送信された希望波及びSFN波を受信し、受信信号を復号する。
【0051】
等化装置2は、第2の実施形態の等化装置2と同一の構成であるが、本実施形態ではフーリエ変換部14-1により生成されたベースバンド信号yをMIMO検出部16及び雑音分散算出部17-1に出力し、フーリエ変換部14-2により生成されたベースバンド信号yをMIMO検出部16及び雑音分散算出部17-2に出力し、伝送路応答算出部15により生成された伝送路応答HをMIMO検出部16に出力する。
【0052】
MIMO検出部16は、ZF、MMSE、MLD、QRM-MLDなどの既知の手法により、伝送路応答Hを用いてベースバンド信号y,yから送信信号の推定値x^,x^を生成し、尤度比算出部18に出力する。例えば、ZFによりMIMO検出を行う場合、受信信号ベクトルyは、伝送路応答H、送信信号ベクトルx、雑音ベクトルzを用いて、式(10)により表される。式(10)の両辺に、式(11)で表されるウェイト行列Wを乗じると、式(12)が導かれる。式(12)の右辺第2項を0と近似すると、式(13)が得られる。上付きのHはエルミート転値を表す。
【0053】
【数6】
【0054】
MMSEによりMIMO検出を行う場合は、式(11)のウェイト行列Wは式(14)で表される。ここで、Iは受信アンテナ数を2とすると2×2の単位行列である。γはSN比であり、Ntは送信アンテナ数である。
【0055】
【数7】
【0056】
雑音分散算出部17-1は、ベースバンド信号yの雑音分散σ^ を算出し、尤度比算出部18に出力する。また、雑音分散算出部17-2は、ベースバンド信号yの雑音分散σ^ を算出し、尤度比算出部18に出力する。雑音分散は、例えばMER(Modulation Error Ratio)の値から算出することができる。変調多値数が大きいキャリアのMERの値は、低CN比(Carrier to Noise Ratio)領域において信頼性が低下し、MERの値から算出した雑音分散も信頼性が低下する。そのため、例えば、地上デジタル放送の場合、BPSK変調されるAC(Auxiliary Channel)信号又はTMCC(Transmission and Multiplexing Configuration Control)信号の雑音分散を求めることが望ましい。
【0057】
尤度比算出部18は、MIMO検出部16から入力された送信信号の推定値x^,x^、及び雑音分散算出部17-1,17-2により算出された雑音分散σ^ ,σ^ を用いて、送信された各ビットの尤度比S,Sを算出し、誤り訂正復号部19に出力する。
【0058】
誤り訂正復号部19は、尤度比算出部18により算出された尤度比S,Sを用いて、誤り訂正符号(LDPC符号やターボ符号)の復号を行い、受信装置3に送信されたビットの推定値を復号する。LDPC符号の復号には、sum-product復号法などの既知の手法を用いることができる。
【0059】
次に、受信装置3の動作を、図6を参照して説明する。図6は、受信装置3の動作の一例を示すフローチャートである。
【0060】
ステップS201において、等化装置2は、希望波偏波間電力比D及びSFN波偏波間電力比D’の差が大きくなるように決定した重み係数w,wを用いて、等化信号Yを算出する。具体的な処理は、図3に示したステップS101~S108と同様であるため、説明を省略する。
【0061】
ステップS202において、MIMO検出部16は、伝送路応答Hを用いてベースバンド信号y,yから送信信号の推定値x^,x^を生成する。
【0062】
ステップS203において、雑音分散算出部17-1,17-2は、ベースバンド信号y,yの雑音分散σ^ ,σ^ を算出する。なお、ステップS202及びステップS203の処理は、いずれを先に行ってもよいし、双方の処理を並行して行ってもよい。
【0063】
ステップS204において、尤度比算出部18は、ステップS202により生成された送信信号の推定値x^,x^、及びステップS203により算出された雑音分散σ^ ,σ^ を用いて、送信された各ビットの尤度比S,Sを算出する。
【0064】
ステップS205において、誤り訂正復号部19は、ステップS204により算出された尤度比S,Sを用いて、受信装置3に送信されたビットの推定値を復号する。
【0065】
以上説明したように、受信装置3は、等化装置2により受信信号を高精度に等化した後、復号処理を行うため、高精度に復号することが可能となる。
【0066】
図7は、受信装置3のシミュレーション結果を示す図であり、横軸はDUR、縦軸は所要CN比である。図8は、このシミュレーションの条件を示す図である。このシミュレーションでは、固定受信を想定し、B階層で受信するものとした。
【0067】
図7は、希望波偏波間電力比D及びSFN波偏波間電力比D’がともに0dBの場合((D,D’)=(0,0))と、希望波偏波間電力比Dが0dBでSFN波偏波間電力比D’が8dBの場合((D,D’)=(0,8))とについて、LDPC復号後のビット誤り率が1×10-7を下回るCN比を所要CN比とし、式(1)で示すDURに対する所要CN比をプロットした。図7から、(D,D’)=(0,8)の場合は、(D,D’)=(0,0)の場合に対して、DUR<3dBで所要CNRの上昇(劣化)を抑えられていることが分かる。したがって、本発明による、希望波偏波間電力比D及びSFN波偏波間電力比D’の差が大きくなるように重み係数を決定するという手法により、所要CNRを低減できることが検証された。
【0068】
<プログラム>
上記の実施形態として機能させるためにコンピュータを用いることも可能である。そのようなコンピュータは、各装置の機能を実現する処理内容を記述したプログラムを該コンピュータの記憶部に格納しておき、該コンピュータのCPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)によってこのプログラムを読み出して実行させることで実現することができる。また、これらの処理内容の少なくとも一部をハードウェア的に実現することとしてもよい。
【0069】
また、このプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体に記録されていてもよい。このような記録媒体を用いれば、プログラムをコンピュータにインストールすることが可能である。ここで、プログラムが記録された記録媒体は、非一過性の記録媒体であってもよい。非一過性の記録媒体は、特に限定されるものではないが、例えば、CD-ROM、DVD-ROMなどの記録媒体であってもよい。また、このプログラムは、ネットワークを介したダウンロードによって提供することもできる。
【0070】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。例えば、実施形態の構成図に記載の複数の構成ブロックを1つに組み合わせたり、あるいは1つの構成ブロックを分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0071】
1,2 等化装置
3 受信装置
10-1,10-2 受信アンテナ
11 HVR測定部
12 重み係数決定部
13 等化部
14-1,14-2 フーリエ変換部
15 伝送路応答算出部
16 MIMO検出部
17-1,17-2 雑音分散算出部
18 尤度比算出部
19 誤り訂正復号部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8