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特許7265979レーザー溶着用成形品、レーザー溶着用成形品のレーザー透過率のばらつき抑制剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-19
(45)【発行日】2023-04-27
(54)【発明の名称】レーザー溶着用成形品、レーザー溶着用成形品のレーザー透過率のばらつき抑制剤
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20230420BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20230420BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20230420BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L69/00
C08L63/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019226962
(22)【出願日】2019-12-17
(65)【公開番号】P2021095484
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】磯村 孝人
(72)【発明者】
【氏名】五島 一也
(72)【発明者】
【氏名】坂田 耕一
【審査官】長岡 真
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/152909(WO,A1)
【文献】特開2004-315805(JP,A)
【文献】特開2005-187798(JP,A)
【文献】特開2007-320995(JP,A)
【文献】特開2013-155278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00-67/08
C08L 69/00
C08L 63/00-63/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部と、(B)300℃、剪断速度1000sec-1における溶融粘度が0.20kPa・s以上のポリカーボネート樹脂と、1質量部以上10質量部以下の(C)エポキシ系化合物を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなり、溶着部の厚みを1.3mm以上有し、
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、当該組成物からなる肉厚1.5mmの成形品において、400nm以上700nm以下の範囲のいずれかの波長の透過率が60%以上である、レーザー溶着用成形品。
【請求項2】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部と、(B)300℃、剪断速度1000sec -1 における溶融粘度が0.20kPa・s以上のポリカーボネート樹脂と、1質量部以上10質量部以下の(C)エポキシ系化合物を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなり、溶着部の厚みを1.3mm以上有し、
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、当該組成物からなる肉厚1.5mmの成形品において、波長980nmの光線透過率のばらつきが5.0%以下である、レーザー溶着用成形品。
【請求項3】
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、当該組成物からなる肉厚1.5mmの成形品において、波長980nmの光線透過率のばらつきが5.0%以下である、請求項1に記載のレーザー溶着用成形品。
【請求項4】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、70質量部以上80質量部以下の(B)ポリカーボネート樹脂を含有する請求項1から3のいずれか一項に記載のレーザー溶着用成形品。
【請求項5】
エポキシ系化合物を含有する、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなるレーザー溶着用成形品の波長980nmの光線透過率のばらつき抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光透過率とレーザー透過率に優れ、レーザー透過率のばらつきも抑制されたレーザー溶着用の成形品、レーザー溶着用成形品のレーザー透過率のばらつき抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート(以下、「PBT」とも呼ぶ)系樹脂などのポリアルキレンテレフタレート樹脂は、耐熱性、耐薬品性、電気特性、機械的特性、及び成形加工性などの種々の特性に優れるため、多くの用途に利用されている。
【0003】
具体的な用途としては、各種自動車用電装部品(各種コントロールユニット、各種センサー、イグニッションコイルなど)、コネクター類、スイッチ部品、リレー部品、コイル部品などが挙げられる。これらの部品を作製するため、接着剤、ネジ止め、スナップフィット、熱板溶着、超音波溶着などの接合方法を利用して複数の成形部品を接合している。しかし、これらの接合方法について、幾つかの問題点が指摘されている。例えば、接着剤を用いると、接着剤が硬化するまでの工程的な時間のロスや環境への負荷が問題となる。また、ネジ止めでは、締結の手間やコストが増大し、熱板溶着や超音波溶着では、熱や振動などによる製品の損傷が懸念される。
【0004】
一方、レーザー溶着による接合方法は、溶着に伴う熱や振動による製品のダメージが無く、溶着工程も非常に簡易である。そのため、最近、レーザー溶着法は、広く利用されるようになってきており、各種樹脂部品の溶着手法として着目されている。
【0005】
また、レーザー溶着は超音波溶着や振動溶着といった溶着方法に比べ、内装部品にダメージを与えず、摩耗紛なども発生しないため精密な基板やセンサーを収める筐体などに多く適用されている。生産性が高いため、溶着不良を確認する手法なども開発が進んでおり、超音波により溶着部を確認する方法や、レーザー溶着後にCCDカメラで溶着部を撮影し、パーソナルコンピューターにて画像処理を行い基準画像パターンと比較し管理する手法(特許文献1、2参照)などが検討されているが特殊な機器が必要である。一方、目視でより簡易に確認したいとの要求から、溶着部の樹脂に透明性が求められる場合がある。
【0006】
さらに、筐体に内蔵される基板の中には動作確認用のLEDインジケータが搭載され、視覚的に動作確認が出来るタイプがある。このようなインジケータの視認の面からも、筐体に透明性が求められる場合があり、PMMAやポリスチレン等の透明な樹脂が使用されることがある。しかしPMMAやポリスチレンといった樹脂は耐熱性が低いことに加え、有機溶剤などに対する耐薬品性が低く、用途が限られている。一方、PBTは耐熱性や耐薬品性は優れるものの、結晶性樹脂のため透明性が不足していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平8-211030号公報
【文献】特開2004-167840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、可視光透過率とレーザー透過率に優れ、レーザー透過率のばらつきも抑制されたレーザー溶着用の成形品、レーザー溶着用成形品のレーザー透過率のばらつき抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部と、(B)300℃、1000sec-1における溶融粘度が0.20kPa・s以上のポリカーボネート樹脂と、1質量部以上10質量部以下の(C)エポキシ系化合物を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなり、溶着部の厚みを1.3mm以上有するレーザー溶着用成形品、エポキシ系化合物を含有するレーザー溶着用成形品のレーザー透過率のばらつき抑制剤により、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の(1)~(5)に関する。
(1)(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部と、(B)300℃、剪断速度1000sec-1における溶融粘度が0.20kPa・s以上のポリカーボネート樹脂と、1質量部以上10質量部以下の(C)エポキシ系化合物を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなり、溶着部の厚みを1.3mm以上有するレーザー溶着用成形品。
(2)(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、70質量部以上80質量部以下の(B)ポリカーボネート樹脂を含有する(1)記載のレーザー溶着用成形品
(3)前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、当該組成物からなる肉厚1.5mmの成形品において、400nm以上700nm以下の範囲のいずれかの波長の透過率が60%以上である、(1)または(2)に記載のレーザー溶着用成形品。
(4)前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、当該組成物からなる肉厚1.5mmの成形品において、波長980nmの光線透過率のばらつきが5.0%以下である、(1)から(3)のいずれか一項に記載のレーザー溶着用成形品。
(5)エポキシ系化合物を含有する、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなるレーザー溶着用成形品の波長980nmの光線透過率のばらつき抑制剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、可視光透過率とレーザー透過率に優れ、レーザー透過率ばらつきも抑制されたレーザー溶着用の成形品、レーザー溶着用成形品のレーザー透過率のばらつき抑制剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。また、本明細書において「X~Y」との表現は、「X以上Y以下」であることを意味している。
【0013】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物]
(ポリブチレンテレフタレート樹脂)
ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4-ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られるポリブチレンテレフタレート樹脂である。本実施形態において、ポリブチレンテレフタレート樹脂はホモポリブチレンテレフタレート樹脂に限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上含有する共重合体であってもよい。
【0014】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は50meq/kg以下であるが、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、30meq/kg以下が好ましく、25meq/kg以下がより好ましい。
【0015】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は本発明の目的を阻害しない範囲で特に制限されないが、0.60dL/g以上1.2dL/g以下であるのが好ましく、0.65dL/g以上0.9dL/g以下であるのがより好ましい。このような範囲の固有粘度のポリブチレンテレフタレート樹脂を用いる場合には、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が特に成形性に優れたものとなる。また、異なる固有粘度を有するポリブチレンテレフタレート樹脂をブレンドして、固有粘度を調整することもできる。例えば、固有粘度1.0dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂と固有粘度0.7dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.9dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂を調製することができる。ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、例えば、o-クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
【0016】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の調製において、コモノマー成分としてテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を用いる場合、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8-14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4-16のアルカンジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5-10のシクロアルカンジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)を用いることができる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0017】
これらのジカルボン酸成分の中では、イソフタル酸等のC8-12の芳香族ジカルボン酸、及び、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6-12のアルカンジカルボン酸がより好ましい。
【0018】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の調製において、コモノマー成分として1,4-ブタンジオール以外のグリコール成分を用いる場合、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-オクタンジオール等のC2-10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2-4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を用いることができる。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0019】
これらのグリコール成分の中では、エチレングリコール、トリメチレングリコール等のC2-6のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、又は、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等がより好ましい。
【0020】
ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に使用できるコモノマー成分としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4-カルボキシ-4’-ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε-カプロラクトン等)等のC3-12ラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物等)が挙げられる。
【0021】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量は、樹脂組成物の全質量の30~90質量%であることが好ましく、40~80質量%であることがより好ましく、50~70質量%であることがさらに好ましい。
【0022】
(ポリカーボネート樹脂)
ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)には、ジヒドロキシ化合物と、ホスゲン又はジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとの反応により得られる重合体が挙げられる。ジヒドロキシ化合物は、脂環式ジオールなどの脂環族化合物などであってもよいが、好ましくは芳香族化合物、より好ましくはビスフェノール化合物である。ジヒドロキシ化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0023】
ビスフェノール化合物としては、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-エチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-t-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル-4-メチルペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジベンジルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルプロパン、2,2,2’,2’-テトラヒドロ3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビ-[1H-インデン]-6,6’-ジオールなどのビス(ヒドロキシアリール)C1-10アルカン、好ましくはビス(ヒドロキシアリール)C1-6アルカン;1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどのビス(ヒドロキシアリール)C4-10シクロアルカン;4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテル等のジヒドロキシアリールエーテル、;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシアリールスルホン;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシアリールスルフィド;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフォキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフォキシド等のジヒドロキシアリールスルフォキシド;4,4’-ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルケトン等のジヒドロキシアリールケトンなどが挙げられる。
【0024】
好ましいポリカーボネート樹脂としては、ビスフェノールA型ポリカーボネートが挙げられる。
【0025】
ポリカーボネート樹脂は、ホモポリカーボネートであってもよいし、コポリカーボネートであってもよい。また、ポリカーボネート樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
本発明において用いられるポリカーボネート樹脂は、300℃、剪断速度1000sec-1における溶融粘度が0.20kPa・s以上であるが、0.21kPa・s以上であることが好ましく、0.22kPa・s以上であることがより好ましく、0.24kPa・s以上であることがさらに好ましく、0.25kPa・s以上であることが特に好ましい。
【0027】
本発明におけるポリカーボネート樹脂の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、70質量部以上80質量部以下であることが好ましく、72質量部以上80質量部以下であることがより好ましく、74質量部以上80質量部以下であることがさらに好ましい。
【0028】
(エポキシ系化合物)
本発明におけるエポキシ系化合物としては、例えば、ビフェニル型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物等の芳香族エポキシ化合物を挙げることができる。エポキシ化合物は、2種以上の化合物を任意に組み合わせて使用してもよい。エポキシ当量は、600~1500g/当量(g/eq)であることが好ましい。
【0029】
本発明におけるエポキシ系化合物の添加量はポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し1~10質量部、好ましくは1.5~5質量部、更に好ましくは2~4質量部程度である。添加量が少なすぎると透過率抑制効果が得られず、添加量が多すぎると射出成型時に粘度上昇により未充填や、変色を引き起こす場合がある。
【0030】
本発明のレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から成形された、1mmの厚さを有する成形品において、980nmの波長の光線透過率は、40.0%以上であることが好ましく、41.0%以上であることがより好ましく、42.0%以上であることがさらに好ましく、43.0%以上であることが特に好ましい。
【0031】
また、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から成形された、1.5mmの厚さを有する成形品において、400nm以上700nm以下の範囲のいずれかの波長の透過率が20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましく、50%以上であることが特に好ましく、60%以上であることが最も好ましい。
【0032】
また、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から成形された、1.0mmの厚さを有する成形品において、980nmの波長の光線透過率のばらつきは、10.0%以下であることが好ましく、9.5%以下であることがより好ましく、9.0%以下であることがさらに好ましく、8.0%以下であることが特に好ましく、8.0%以下であることが最も好ましい。
【0033】
さらに、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から成形された、1.5mmの厚さを有する成形品において、980nmの波長の光線透過率のばらつきは、6.0%以下であることが好ましく、5.5%以下であることがより好ましく、5.0%以下であることがさらに好ましく、4.5%以下であることが特に好ましく、4.0%以下であることが最も好ましい。
【0034】
(レーザー溶着用成形品の波長980nmの光線透過率のばらつき抑制剤)
さらに、上記のエポキシ系化合物を用いることにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなるレーザー溶着用成形品の波長980nmの光線透過率のばらつき抑制剤とすることが可能である。
【0035】
(充填剤) 本発明のレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には必要に応じて充填剤が使用される。このような充填剤は、機械的強度、耐熱性、寸法安定性、電気的性質等の性能に優れた性質を得るためには配合することが好ましく、特に剛性を高める目的で有効である。これは目的に応じて繊維状、粉粒状又は板状の充填剤が用いられる。
【0036】
繊維状充填剤としては、ガラス繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維などが挙げられる。なお、ポリアミド、フッ素樹脂、アクリル樹脂などの高融点の有機質繊維状物質も使用することができる。
【0037】
粉粒状充填剤としては、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、クレー、珪藻土、ウォラストナイトなどの珪酸塩(タルクを除く)、炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素等が挙げられる。
【0038】
また、板状無機充填剤としては、マイカ、ガラスフレーク等が挙げられる。
【0039】
充填剤の種類は特に限定されず、1種又は複数種以上の充填剤を添加することができる。特に、ガラス繊維、ガラスフレークを使用することが好ましい。
【0040】
充填剤の添加量は特に規定されるものではないが、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物100質量部に対して200質量部以下が好ましい。充填剤を過剰に添加した場合は成形性に劣り靭性の低下が見られる。
【0041】
(その他の成分)
本発明の実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、その目的に応じた所望の特性を付与するために、一般に熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂に添加される公知の物質、例えば、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、耐加水分解性改善剤(例えば、カルボジイミド等)、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、滴下防止剤、染料や顔料等の着色剤、離型剤、潤滑剤、結晶化促進剤、結晶核剤等を配合することが可能である。
【0042】
(レーザー溶着用成形品)
本発明の実施形態のレーザー溶着用成形品は、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を成形してなるものである。成形方法は特に限定されず、公知の成形方法を採用することができる。例えば、(1)各成分を混合して、一軸又は二軸の押出機により混練し押出してペレットを調製した後、成形する方法、(2)一旦、組成の異なるペレット(マスターバッチ)を調製し、そのペレットを所定量混合(希釈)して成形に供し、所定の組成の成形品を得る方法、(3)成形機に各成分の1又は2以上を直接仕込む方法などで製造できる。なお、ペレットは、例えば、脆性成分(ガラス系補強材など)を除く成分を溶融混合した後に、脆性成分を混合することにより調製してもよい。また、熱可塑性樹脂からなる他の成形品の成形方法もまた、特に限定されず、公知の成形方法を採用することができる。
【0043】
成形体は、前記樹脂組成物を溶融混練し、押出成形、射出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形、回転成形、ガスインジェクションモールディングなどの慣用の方法で成形してもよいが、通常、射出成形により成形される。なお、射出成形時の金型温度は、通常40~90℃、好ましくは50~80℃、さらに好ましくは60~80℃程度である。
【0044】
成形品の形状は特に制限されないが、成形品をレーザー溶着により相手材(熱可塑性樹脂からなる他の成形品)と接合して用いるため、平面などの接触面を有する形状(例えば、板状)が好ましい。また、本発明の成形体はレーザー光に対する透過性が高いので、溶着部の厚み、すなわちレーザー光が透過する部位の成形品の厚み(レーザー光が透過する方向の厚み)は、広い範囲から選択でき、例えば、0.1~3.0mm、好ましくは0.5~2.5mm、より好ましくは、1.0~2.0mm程度であってもよい。成形品の強度と透過性を考慮すると1.3~1.5mm程度が特に好ましい。
【0045】
レーザー光源としては、特に制限されず、例えば、色素レーザー、気体レーザー(エキシマレーザー、アルゴンレーザー、クリプトンレーザー、ヘリウム-ネオンレーザーなど)、固体レーザー(YAGレーザーなど)、半導体レーザーなどが利用できる。レーザー光としては、通常、パルスレーザーが利用される。
【0046】
前記成形品は、レーザー溶着性に優れているため、通常、レーザー溶着により相手材の樹脂成形品と溶着させるのが好ましいが、必要であれば、他の熱溶着法、例えば、振動溶着法、超音波溶着法、熱板溶着法などにより他の樹脂成形品と溶着させることもできる。
【0047】
(複合成形品)
本発明の複合成形品は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物で形成された成形品(第1の成形品)と、相手材の樹脂成形品(第2の成形品、熱可塑性樹脂からなる他の成形品)とがレーザー溶着により接合され、一体化されていることが好ましい。例えば、第1の成形品と第2の成形品とを接触(特に少なくとも接合部を面接触)させ、レーザー光を照射することにより、第1の成形品と第2の成形品との界面を部分的に溶融させて接合面を密着させ、冷却することにより二種の成形品を接合、一体化して1つの成形体とすることができる。このような複合成形品において、本発明の成形品を用いると、溶着により高い接合強度が得られ、レーザー光の照射により溶着していない非溶着部材と同等の高い溶着強度を保持できる。そのため、レーザー溶着しても接合強度を実質的に低下させることがなく、強固に接合した複合成形体を得ることができる。
【0048】
前記相手材の樹脂成形品を構成する樹脂としては、特に制限されず、種々の熱可塑性樹脂、例えば、オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などが挙げられる。これらの樹脂のうち、前記レーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を構成する樹脂と同種類又は同系統の樹脂(PBT系樹脂、PET系樹脂などのポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂など)又はその組成物で相手材を構成してもよい。例えば、第1の成形体と第2の成形体とを、それぞれ、本発明のレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物で形成してもよい。
【0049】
被着体は、レーザー光に対する吸収剤又は着色剤を含んでいてもよい。前記着色剤は、レーザー光の波長に応じて選択でき、無機顔料[カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックなど)などの黒色顔料、酸化鉄赤などの赤色顔料、モリブデートオレンジなどの橙色顔料、酸化チタンなどの白色顔料など]、有機顔料(黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、緑色顔料など)などが挙げられる。これらの吸収剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。吸収剤としては、通常、黒色顔料又は染料、特にカーボンブラックが使用できる。カーボンブラックの平均粒子径は、通常、10~1000nm、好ましくは10~100nm程度であってもよい。着色剤の割合は、被着体全体に対して0.1~10重量%、好ましくは0.3~5重量%(例えば、0.3~3重量%)程度である。
【0050】
レーザー光の照射は、通常、第1の成形体から第2の成形体の方向に向けて行われ、吸収剤又は着色剤を含む第2の成形体の界面で発熱させることにより、第1の成形体と第2の成形体とを溶着させる。なお、必要によりレンズ系を利用して、第1の成形品と第2の成形品との界面にレーザー光を集光させ接触界面を溶着してもよい。
【0051】
本発明の好ましい態様には、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品と、熱可塑性樹脂からなる他の成形品とをレーザー溶着により接合してなる複合成形品も含まれる。
【0052】
[実施例]
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
<材料>
・(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂
ポリプラスチックス(株)製 PBT樹脂、固有粘度0.69dl/g
・(B)ポリカーボネート樹脂
(B-1)300℃、剪断速度1000sec-1における溶融粘度:0.27kPa・sのPC樹脂
(B-2)300℃、剪断速度1000sec-1における溶融粘度:0.09kPa・sのPC樹脂
・(C)エポキシ系化合物
三菱化学製 エポキシ樹脂 1004K エポキシ当量900g/eq
・(D)タルク
林化成(株)製、平均粒径2.6μm
・(E)安定剤
大平化学産業製 第一リン酸カルシウム
・(F)滑剤
理研ビタミン製ジグリセリン脂肪酸エステル リケマールB74
・(G)ガラス繊維
日本電気硝子製 ECS03T―127(平均繊維径13μm、平均繊維長3mm)
【0054】
<成形条件>
ファナック(株)製射出成型機S-2000i100Bを用い、シリンダー温度260℃、金型温度40℃、60℃、80℃で80mm×80mm×1.0mmtまたは1.5mmtの試験片を作成した。
【0055】
<透過率測定(レーザー光)>
80mm×80mm×1.0mmtまたは1.5mmtの試験片を、20mm×20mm×1.0mmtまたは1.5mmtに16分割し、それぞれの中央部について、分光光度計(日本分光(株)製,V770)を用いて、波長980nmでの各種試験片の光線透過率(%)を測定した。
【0056】
<透過率測定(可視光)>
80mm×80mm×1.5mmtの試験片を、20mm×20mm×1.5mmtに16分割し、それぞれの中央部について、分光光度計(日本分光(株)製,V770)を用いて、波長400nm、500nm、600nm、700nmでの各種試験片の光線透過率(%)を測定した。
【0057】
<実施例1、比較例1~9>
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、各成分を表1に示す割合で混合した後、日本製鋼所製TEX30を用いて、シリンダー温度260℃、吐出量15kg/h、スクリュ回転数130rpmで溶融混練して押出し、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなるペレットを得た。次いで、このペレットからファナック(株)製射出成型機S-2000i100Bを用いて射出成形により80mm×80mm×1mmtまたは1.5mmtの試験片の試験片を作製し、980nmの波長の光線透過率(%)、および波長400nm、500nm、600nm、700nmでの各種試験片の光線透過率(%)の測定を行った。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示した通り、製品の厚みが厚くなった場合、エポキシ樹脂に透過率のばらつきを抑制する効果が認められていた。