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特許7266260調味オイル及びその製造方法、液体調味料、食品及びその製造方法
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  • 特許-調味オイル及びその製造方法、液体調味料、食品及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-20
(45)【発行日】2023-04-28
(54)【発明の名称】調味オイル及びその製造方法、液体調味料、食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20230421BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20230421BHJP
   A23L 27/10 20160101ALI20230421BHJP
   A23L 23/00 20160101ALI20230421BHJP
【FI】
A23D9/00 504
A23L27/00 D
A23L27/10 B
A23L23/00
【請求項の数】 32
(21)【出願番号】P 2022131387
(22)【出願日】2022-08-19
(65)【公開番号】P2023033178
(43)【公開日】2023-03-09
【審査請求日】2022-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2021137372
(32)【優先日】2021-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514057743
【氏名又は名称】株式会社Mizkan Holdings
(73)【特許権者】
【識別番号】317006214
【氏名又は名称】株式会社Mizkan
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】大石 竜
(72)【発明者】
【氏名】田中 友理
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-174725(JP,A)
【文献】国際公開第2017/130256(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105029341(CN,A)
【文献】特開平09-173007(JP,A)
【文献】飛魚(あご煮干し)を贅沢に使用したコッテリでもあっさりでもない絶妙なスープ 【中濃あご塩ラーメン】の作り方 41回目,YouTube,2021年01月10日,https://www.youtube.com/watch?v=nHW-HuyL3m4
【文献】ラーメン用 煮干し 香味油 レシピ・作り方 - ラーメン仙人,Rakutenレシピ,2020年05月31日,https://recipe.rakuten.co.jp/recipe/1000016659/
【文献】試作 煮干と昆布のスープとアゴ油のラーメン - 酒と飯,Hatena Blog,2017年09月16日,https://saketomeshi.hatenablog.com/entry/2017/09/16/%E8%A9%A6%E4%BD%9C_%E7%85%AE%E5%B9%B2%E3%81%A8%E6%98%86%E5%B8%83%E3%81%AE%E3%82%B9%E3%83%BC%E3%83%97%E3%81%A8%E3%82%A2%E3%82%B4%E6%B2%B9%E3%81%AE%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%A1%E3%83%B3
【文献】3・10・1 水産物系フレーバーの一般的技術特性,特許庁公報 周知・慣用技術集(香料)第II部 食品用香料,日本国特許庁,2000年11月04日,第684-713頁
【文献】笠原賀世子ほか,マアジ一夜干しの焼臭成分,Nippon Suisan Gakkaishi,66(1),2000年,110-117
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 9/00
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)と基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)とをともに50℃以上200℃以下で加熱して得た抽出油を主成分とする
食品に対して魚系風味を付与できる調味オイルであって、
アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールを含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含
前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み、
前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000μg/kgであることを特徴とする調味オイル。
【請求項2】
前記アルデヒド系香味成分として、更に、2-メチルプロパナールを含む請求項1に記載の調味オイル。
【請求項3】
前記フラン系香味成分として、更に、2-メチルフランを含む請求項1に記載の調味オイル。
【請求項4】
前記2-メチルブタナールと前記2-エチルフランとを両方含み、
前記2-メチルブタナールの濃度をCA1(μg/kg)とし、前記2-エチルフランの濃度をCF1(μg/kg)とした場合に、CA1<CF1である請求項1に記載の調味オイル。
【請求項5】
前記魚系風味が、あご風味である請求項1に記載の調味オイル。
【請求項6】
前記基油は、植物油である請求項に記載の調味オイル。
【請求項7】
前記魚系乾物が、煮干し及び/又は焼干しである請求項に記載の調味オイル。
【請求項8】
前記煮干し及び/又は焼干しが、皮を含む請求項に記載の調味オイル。
【請求項9】
食品(但し、ラーメンを除く)に対して魚系風味を付与できる調味オイルであって、
魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)と基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)とをともに50℃以上200℃以下で加熱して得た抽出油を主成分とし、
アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールを含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含み、
前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み、
前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000ug/kgであることを特徴とする調味オイル。
【請求項10】
前記アルデヒド系香味成分として、更に、2-メチルプロパナールを含む請求項9に記載の調味オイル。
【請求項11】
前記フラン系香味成分として、更に、2-メチルフランを含む請求項9に記載の調味オイル。
【請求項12】
前記2-メチルブタナールと前記2-エチルフランとを両方含み、
前記2-メチルブタナールの濃度をC A1 (μg/kg)とし、前記2-エチルフランの濃度をC F1 (μg/kg)とした場合に、C A1 <C F1 である請求項9に記載の調味オイル。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の調味オイルの製造方法であって、
前記魚系乾物と前記基油とをともに温度50℃以上200℃以下に加熱して抽出油を得る加熱工程を備えることを特徴とする調味オイルの製造方法。
【請求項14】
食品に対して魚系風味を付与できる調味オイルの製造方法であって、
前記調味オイルは、魚系乾物(但し、アゴ粉末のみからなる魚系乾物、及び、イワシ煮干しのみからなる魚系乾物を除く)と基油(但し、サラダ油とゴマ油とのみからなる基油を除く)とをともに加熱して得た抽出油を主成分とし、
アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナール含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含み
前記3-メチルブタナールを7.6μg/kg以上含み、
前記2-メチルブタナール、前記3-メチルブタナール及び前記2-エチルフランの合計の濃度が10~200,000μg/kgであり、
前記魚系乾物と前記基油とをともに温度50℃以上200℃以下に40分間以下加熱して前記抽出油を得る加熱工程を備えることを特徴とする調味オイルの製造方法。
【請求項15】
前記基油は、植物油である請求項13に記載の調味オイルの製造方法。
【請求項16】
前記魚系乾物が、煮干し及び/又は焼干しである請求項13に記載の調味オイルの製造方法。
【請求項17】
前記煮干し及び/又は焼干しが、皮を含む請求項16に記載の調味オイルの製造方法。
【請求項18】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の調味オイルを含むことを特徴とする液体調味料。
【請求項19】
前記液体調味料に含まれる調味オイルの含有量が0.01~15質量%である請求項18に記載の液体調味料。
【請求項20】
鍋用つゆ、麺類用つゆ、出汁用つゆ、豆腐用つゆ、ラーメン用スープ、和風スープ、洋風スープ、パスタ用調味料、ドレッシング、中食食品用調味料、又は惣菜用調味料である請求項18に記載の液体調味料。
【請求項21】
請求項9乃至12のうちのいずれか1項に記載の調味オイルを含むことを特徴とする液体調味料。
【請求項22】
鍋用つゆ、麺類用つゆ、出汁用つゆ、豆腐用つゆ、和風スープ、洋風スープ、パスタ用調味料、ドレッシング、中食食品用調味料、又は惣菜用調味料である請求項21に記載の液体調味料。
【請求項23】
添加対象物に対して請求項1乃至12のいずれか1項に記載の調味オイルを含有せしめる段階(i)を含むことを特徴とする食品の製造方法。
【請求項24】
前記段階(i)が、前記調味オイルと前記添加対象物との合計に対して、2-メチルブタナールを0.13μg/kg以上、及び/又は、前記2-エチルフランを0.26μg/kg以上にする段階である請求項23に記載の食品の製造方法。
【請求項25】
前記段階(i)が、前記調味オイルと前記添加対象物との合計に対して、3-メチルブタナールを0.13μg/kg以上とする段階を含む請求項24に記載の食品の製造方法。
【請求項26】
前記調味オイルが含有された前記添加対象物を調理する段階(ii)を更に含む請求項23に記載の食品の製造方法。
【請求項27】
前記食品が、中食食品及び/又は惣菜である請求項23に記載の食品の製造方法。
【請求項28】
請求項23に記載の食品の製造方法により製造された、調理感のある良好な焦がし風味が付与された及び/又は食品の味の強さの経時的低減が抑制された食品。
【請求項29】
添加対象物に対して請求項1乃至12のいずれか1項に記載の調味オイルを含有せしめて、前記調味オイルと前記添加対象物との合計に対して、前記2-メチルブタナールを0.13μg/kg以上、及び/又は、前記2-エチルフランを0.26μg/kg以上にすることを特徴とする調理感のある良好な焦がし風味を食品に対して魚系風味として付与する方法。
【請求項30】
添加対象物に対して請求項1乃至12のいずれか1項に記載の調味オイルを含有せしめて、前記調味オイルと前記添加対象物との合計に対して、前記2-メチルブタナールを0.13μg/kg以上、及び/又は、前記2-エチルフランを0.26μg/kg以上にすることを特徴とする食品の味の強さの経時的低減を抑制する方法。
【請求項31】
請求項1乃至12のうちのいずれか1項に記載の調味オイルを含み、
前記2-メチルブタナールを0.13μg/kg以上、及び/又は、前記2-エチルフランを0.26μg/kg以上含むことを特徴とする食品。
【請求項32】
更に、3―メチルブタナールを0.13μg/kg以上含む請求項31に記載の食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調味オイル及びその製造方法、液体調味料、食品及びその製造方法に関する。更に詳しくは、食品に対して魚系風味を付与できる調味オイル及びその製造方法、並びに、この調味オイルを含んだ液体調味料、食品の製造方法、調理感のある良好な焦がし風味を食品に対して魚系風味として付与する方法、並びに、食品の味の強さの経時的低減を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
魚系風味を付与する材料として魚系乾物が多く知られ、これらの多くは、青魚類を原料とする。即ち、カツオ、イワシ、アゴ、サバ、アジ等が利用される。なかでも、近年、注目されている出汁原料として、あごだしがある。あごだしは、漁獲されたトビウオの魚体を、(1)炭火等で焼いて出汁原料にする方法、(2)煮干しとして出汁原料にする方法、(3)煮干しを更に焼いて出汁原料にする方法、などにより利用される。
あごだしは、古くから利用されて来た出汁原料ではあるが、食品加工分野における利用は低調に推移して来た。しかしながら、近年、利用が急激に増えており、当該風味の認知は定着しつつある。そして、より日常的に手軽にこの風味を味わう機会を得ることが求められるようになった。この要求に応え得る技術として下記特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-010005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、特有の繊細なうま味や好ましい香りが増強されたあごだしを含有する液体調味料として、あごだしの抽出前の乾燥原料(水分15%に換算した場合)が、0.05質量%以上0.5質量%以下である液体調味料が開示されている。この技術により、あごだしに起因する風味を家庭で日常的に味わう機会をより多く得ることができるようになったものの、上述の通り、近年の利用増加に応じて、更なる製品向上が求められる状況となっている。
【0005】
そこで、発明者は、あごだしに代表される魚系風味の特徴について検討を行った。その結果、あごだしは、上品な煮干し風の旨みに加えて、調理感のある焦がし風味を付与できる点が特徴であると考えるに至った。とりわけ、この調理感のある焦がし風味が、魚系風味における1つの特徴と捉えられる。この特徴は、前述した(1)炭火等で焼いて出汁原料にする方法、及び、(3)煮干しを更に焼いて出汁原料にする方法、により顕著に得られた。しかしながら、これらの方法は、魚体や煮干しを均一に焼くことが難しい。即ち、魚体や煮干しは、その部位によって形状や構成分(肉、内蔵、骨及び皮等)の多さが異なっている。このような魚体や煮干しを均一に適切に焦がすことがそもそも難しい。このため、適切に焦がすことができた部位からは調理感のある好ましい焦がし風味が得られると考えられる一方、過度に焦がされた部位からは、苦味やエグ味等として表現される風味がより強く抽出され、全体の風味に影響を与えると考えられた。しかしながら、苦味やエグ味は皆無であっても、調理感のある良好な焦がし風味は成立し難く、この焦げに起因する風味バランスを工業的にコントロールすることは、魚系風味の特徴をより良く得るうえで大きな課題となった。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、調理感のある良好な焦がし風味を、食品に対して魚系風味として付与することができる新規な調味オイル及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、焼きあごを用いて形成されただしを分析することによって、「調理感のある良好な焦がし風味」の形成に関わる香味成分の特定を試みた。具体的には、焼きあごだしをGCMS(ガスクロマトグラフィー質量分析)に供し、種々の香味成分の定性及び定量を行った。更に、GCMSのスニッフィングポートを介して実際に個々の香味成分を嗅ぐことにより、各成分の雰囲気と強度の差異等を評価した。これらの検証を通して、500種以上の成分のなかから、「調理感のある良好な焦がし風味」の形成に影響度が高いと考えられる成分を数十種へ、更には15種類へ、更には5種類へと順次絞り込みを行った。結果として、これら5つの香味成分が、風味及び香味の構成において重要な役目を果たすことを知見した。
【0008】
更に、これらの香味成分は、いずれも水溶性を有するものの、基本的に親油性の成分であり、水のみで効率的に抽出できないことを見出した。一方で、これらの香味成分は親油性であることから、油に対して効率よく抽出できることを確認できた。そして、油に抽出して得られた調味オイルは、少量の添加により、既存の液体調味料に含まれる香味成分量を大幅に増加させることができた。この増加を、従来の水抽出物で達成するには、だし原料を増量する必要がある。しかしながら、だし原料を増加させると大幅なコスト増が見込まれる。また、だし原料を増量すると、味のバランスを低下させることが危惧される。そのために、実際には行うことが困難である。この点、調味オイルは、味のバランスを崩すことなく、少量の添加で風味を確実に向上させることができた。更に、あごの煮干しを油中加熱することによって、均一な加熱を行うことができること、更に、焦げそのものを形成せずとも、焦げ臭を得ることができ、尚且つ、形成された香味成分を油中へ効率的に取り込むことができること、を見出し、本発明を完成させた。また、得られた調味オイルを使用すると、上述の通り、調理感のある良好な焦がし風味が、食品に対して魚系風味として付与されることに加えて、食品の味の強さの経時的低減を抑制する作用に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は、以下に示される内容を含む。
[1]食品に対して魚系風味を付与できる調味オイルであって、
アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分から選択される少なくとも1種の香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナールを含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含む、
前記香味成分の濃度が10~200,000μg/kgであることを特徴とする調味オイル。
[2]前記アルデヒド系香味成分として、更に、2-メチルプロパナール及び3-メチルブタナールのうちの少なくとも一方を含む上記[1]に記載の調味オイル。
[3]前記フラン系香味成分として、更に、2-メチルフランを含む上記[1]又は上記[2]に記載の調味オイル。
[4]前記2-メチルブタナールと前記2-エチルフランとを両方含み、
前記2-メチルブタナールの濃度をCA1(μg/kg)とし、前記2-エチルフランの濃度をCF1(μg/kg)とした場合に、CA1<CF1である上記[1]乃至上記[3]のうちのいずれかに記載の調味オイル。
[5]前記魚系風味が、あご風味である上記[1]乃至上記[4]のうちのいずれかに記載の調味オイル。
[6]魚系乾物と基油とをともに加熱して得た抽出油を主成分とする上記[1]乃至上記[5]のうちのいずれかに記載の調味オイル。
[7]前記基油は、植物油である上記[6]に記載の調味オイル。
[8]前記魚系乾物が、煮干し及び/又は焼干しである上記[6]又は上記[7]に記載の調味オイル。
[9]前記煮干し及び/又は焼干しが、皮を含む上記[8]に記載の調味オイル。
[10]前記加熱の温度が50℃以上である上記[6]乃至上記[9]に記載の調味オイル。
[11]上記[1]乃至上記[10]のうちのいずれかに記載の調味オイルの製造方法であって、
魚系乾物と基油とをともに温度50℃以上に加熱して抽出油を得る加熱工程を備えることを特徴とする調味オイルの製造方法。
[12]前記基油は、植物油である上記[11]に記載の調味オイルの製造方法。
[13]前記魚系乾物が、煮干し及び/又は焼干しである上記[11]又は上記[12]に記載の調味オイルの製造方法。
[14]前記煮干し及び/又は焼干しが、皮は含むである上記[13]に記載の調味オイルの製造方法。
[15]上記[1]乃至上記[10]のうちのいずれかに記載の調味オイルを含むことを特徴とする液体調味料。
[16]鍋用つゆ、麺類用つゆ、出汁用つゆ、豆腐用つゆ、ラーメン用スープ、和風スープ、洋風スープ、パスタ用調味料、ドレッシング、中食食品用調味液、又は惣菜用調味液である上記[15]に記載の液体調味料。
[17]添加対象物に対して上記[1]乃至上記[10]のうちのいずれかに記載の調味オイルを含有せしめる段階(i)を含むことを特徴とする食品の製造方法。
[18]前記段階(i)が、前記調味オイルと前記添加対象物との合計に対して、2-メチルブタナールを0.13μg/kg以上、及び/又は、前記2-エチルフランを0.26μg/kg以上にする段階である上記[17]に記載の食品の製造方法。
[19]前記調味オイルが含有された添加対象物を調理する段階(ii)を更に含む上記[18]に記載の食品の製造方法。
[20]前記食品が、中食食品及び/又は惣菜である上記[17]乃至上記[19]のうちのいずれかに記載の食品の製造方法。
[21]上記[17]乃至上記[20]のうちのいずれかに記載の食品の製造方法により製造された、調理感のある良好な焦がし風味が付与され及び/又は食品の味の強さの経時的低減が抑制された食品。
[22]添加対象物に対して上記[1]乃至上記[10]のうちのいずれかに記載の調味オイルを含有せしめて、前記調味オイルと前記添加対象物との合計に対して、前記2-メチルブタナールを0.13μg/kg以上、及び/又は、前記2-エチルフランを0.26μg/kg以上にすることを特徴とする調理感のある良好な焦がし風味を食品に対して魚系風味として付与する方法。
[23]添加対象物に対して上記[1]乃至上記[10]のうちのいずれかに記載の調味オイルを含有せしめて、前記調味オイルと前記添加対象物との合計に対して、前記2-メチルブタナールを0.13μg/kg以上、及び/又は、前記2-エチルフランを0.26μg/kg以上にすることを特徴とする食品の味の強さの経時的低減を抑制する方法。
[24]上記[1]乃至上記[10]のうちのいずれかに記載の調味オイルを含み、
前記2-メチルブタナールを0.13μg/kg以上、及び/又は、前記2-エチルフランを0.26μg/kg以上含むことを特徴とする食品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の調味オイルによれば、調理感のある良好な焦がし風味を有する魚系風味を、食品に対して付与することができる。また、付与する風味の強度を添加量によってコントロールすることができる。また、本発明の調味オイルによれば、食品に対して調理感のある良好な焦がし風味を有する魚系風味を付与しつつ、食品の味の強さの経時的低減を抑制することができる。
本発明の調味オイルの製造方法によれば、上述の調味オイルを安定して、得ることができる。
本発明の液体調味料によれば、調味オイルに起因する調理感のある良好な焦がし風味を有する魚系風味を得ることができる。また、調味オイルに起因して食品の味の強さの経時的低減を抑制することができる。
本発明の食品の製造方法によれば、調理感のある良好な焦がし風味を、食品に対して魚系風味として付与することができる。また、食品の味の強さの経時的低減を抑制することができる。
本発明の食品によれば、魚系風味として調理感のある良好な焦がし風味を得ることができる。また、食品の味の強さの経時的低減を抑制することができる。
本発明の調理感のある良好な焦がし風味を食品に対して魚系風味として付与する方法によれば、食品の味の強さの経時的低減を抑制しながら、調理感のある良好な焦がし風味を魚系風味として得ることができる。
本発明の食品の味の強さの経時的低減を抑制する方法によれば、調理感のある良好な焦がし風味を魚系風味として得ながら、食品の味の強さの経時的低減を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】加熱温度と各成分の濃度との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について具体的な実施形態に基づき説明する。但し、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。これらの実施形態はあくまでも説明のために便宜的に示す例示に過ぎず、本発明は如何なる意味でもこれらに限定されるものではなく、目的、用途に応じて本発明を種々変更することができる。また、本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
また、本明細書では「XX~YY」の記載は「XX以上YY以下」を意味するものとする。
【0013】
[1]調味オイル
本発明の調味オイルは、食品に対して魚系風味を付与できる調味オイルであって、
アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分から選択される少なくとも1種の香味成分を含み、
前記アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナールを含み、
前記フラン系香味成分として、2-エチルフランを含む、
前記香味成分の濃度が10~200,000μg/kgであることを特徴とする。
【0014】
本発明の調味オイルは、食品に対して魚系風味を付与できるオイルである。食品に対して魚系風味を付与することができる限り、調味オイルは、常温(25℃)において、液体であってもよく、固体であってもよい。性状は、調味オイルを構成する油分により設定できる。この点については後述する。
【0015】
また、本発明の調味オイルが魚系風味を付与する対象となる食品は、食すことができるものであれば限定されない。また、本発明の調味オイルが味の強さの経時的低減を抑制する対象となる食品は、食すことができるものであれば限定されない。具体的には、例えば、肉類、魚介類、野菜類及び穀類(米、麦、蕎麦、豆等)並びにこれらの加工品等、更には、これらのための液体調味料等が挙げられる。このうち加工品としては、例えば、飯等の米加工品、うどん、ラーメン等の麦加工品、蕎麦等の蕎麦実加工品、即ち、各種麺類、豆腐等の豆加工品等が挙げられる他、例えば、鍋料理(寄せ鍋、水たき、湯豆腐、しゃぶしゃぶ)、肉野菜炒め、野菜炒め、おでん、茶碗蒸し、スープ、煮物等が挙げられる。
更に、魚系風味は、魚又はその加工品を想起させる風味を意味する。とりわけ、本調味オイルによれば調理感のある良好な焦がし風味を有する魚系風味を付与できる。
【0016】
上記「アルデヒド系香味成分」は、カルボニル基を「R-CHO」の構造として有する化合物又は化合物群であり、少なくとも2-メチルブタナールを含む。即ち、アルデヒド系香味成分は、2-メチルブタナールのみからなってもよいし、2-メチルブタナールとそれ以外のアルデヒド化合物との混合物であってもよい。
【0017】
また、上記Rは有機基を表し、水素原子を含まない。Rは、ヘテロ原子を含んでもよいが、本発明では、ヘテロ原子を含まない炭化水素基であることが好ましい。更に、Rが炭化水素基である場合、Rの炭素数は限定されないものの、通常、10以下であることが好ましく、更には、6以下が好ましく、5以下であることが特に好ましい。このようなアルデヒド系香味成分としては、上記の2-メチルブタナールが挙げられる。2-メチルブタナールは「-R」が「-CH(CH)C」のアルデヒド化合物である。
【0018】
アルデヒド系香味成分は、2-メチルブタナール以外のアルデヒド化合物として、更に、3-メチルブタナール、2-メチルプロパナール、ブタナール、2-ブテナール等のうちの少なくとも1種を含有できる。これらのなかでも、3-メチルブタナール及び2-メチルプロパナールのうちの少なくとも一方を含有できる。アルデヒド系香味成分が、2-メチルブタナールと共に、3-メチルブタナール及び2-メチルプロパナールのうちの少なくとも一方を含有する場合には、これらを含まない場合と比較して、より豊かな調理感のある良好な焦がし風味を付与できる。
尚、上述したアルデヒド系香味成分のうち、2-メチルブタナールは光学異性体を有するが、いずれの異性体も目的とする風味を生じさせることができるため、含まれる異性体の種類は問わない。
【0019】
本調味オイルは、香味成分としてアルデヒド系香味成分を含有することで、本調味オイルがベースとして有する魚系風味に対し、調理感のある良好な焦がし風味を付与できる。特に、アルデヒド系香味成分として2-メチルブタナールを含有する場合には、この効果に優れ、とりわけ、2-メチルブタナールと共に、後述するフラン系香味成分として2-エチルフランを含有する場合に、本調味オイルがベースとして有する魚系風味に対して、特に好ましい調理感のある焦がし風味を効果的に付与することができる。
【0020】
上記「フラン系香味成分」は、(R-C4-nOで表されるヘテロ環構造を有する化合物又は化合物群であり、少なくとも2-エチルフランを含む。即ち、本発明において、フラン系香味成分は、2-エチルフランのみからなってもよいし、2-エチルフランとそれ以外のフラン化合物との混合物であってもよい。
【0021】
上述の通り、フラン系香味成分を構成するフラン化合物は、フランが有する水素のうちの少なくとも1つが有機基Rによって置換された化合物であり、置換基を有してないフランは、本発明ではフラン系香味成分を構成する化合物に含まれない。また、上記式における「n」は、1~4のいずれかの整数(n≧2の場合におけるRは互いに同じ有機基であってもよく、異なる有機基であってもよい)であるが、通常、n=1又はn=2であり、n=1であることが好ましい。即ち、本調味オイルにおけるフラン系香味成分は、R-COであることが好ましい。
【0022】
は、ヘテロ原子を含んでもよいが、本発明では、ヘテロ原子を含まない炭化水素基であることが好ましい。更に、Rが炭化水素基である場合、Rの炭素数は限定されないものの、通常、10以下であることが好ましく、更には、4以下が好ましく、3以下であることが特に好ましい。このようなフラン系香味成分として、上記の2-エチルフランが挙げられる。2-エチルフランは「-R」が「-C」のフラン化合物である。
【0023】
フラン系香味成分は、2-エチルフラン以外のフラン化合物として、2-メチルフラン、2-エチル-5-メチルフラン、2-ペンチルフラン等を含有できる。これらのなかでも、更に、2-メチルフランを含有できる。フラン系香味成分が、2-エチルフランと共に、2-メチルフランを含有する場合には、これを含まない場合と比較して、より豊かな調理感のある良好な焦がし風味を付与できる。
本調味オイルは、香味成分としてフラン系香味成分を含有することで、本調味オイルがベースとして有する魚系風味に対し、調理感のある良好な焦がし風味を付与できる。特に、フラン系香味成分として2-エチルフランを含有する場合には、この効果に優れ、とりわけ、2-エチルフランと共に、前述したアルデヒド系香味成分として2-メチルブタナールを含有する場合に、本調味オイルがベースとして有する魚系風味に対して、特に好ましい調理感のある焦がし風味を効果的に付与することができる。
【0024】
本発明の調味オイルは、香味成分を10~200,000μg/kgの濃度で含有する。この範囲において、本調味オイルがベースとして有する魚系風味に対して、調理感のある焦がし風味を付与することができる。香味成分の濃度の下限は、例えば、10μg/kg以上、20μg/kg以上、30μg/kg以上、50μg/kg以上、80μg/kg以上とすることができる。一方、香味成分の濃度の上限は、例えば、50,000μg/kg以下、40,000μg/kg以下、30,000μg/kg以下、20,000μg/kg以下、15,000μg/kg以下、10,000μg/kg以下、7,000μg/kg以下とすることができる。これらの上下限は適宜に組合せることができるが、例えば、10~50,000μg/kgとすることができ、20~40,000μg/kgとすることができ、50~30,000μg/kgとすることができ、80~15,000μg/kgとすることができ、100~7,000μg/kgとすることができる。上記の好ましい範囲では、より再現性に優れた、調理感のある焦がし風味を付与できる。
【0025】
また、本発明の調味オイルとして、後述する抽出油を利用する場合の香味成分の濃度の下限は、特に、100μg/kg以上、1,000μg/kg以上、2,000μg/kg以上、3,000μg/kg以上、3,500μg/kg以上とすることができる。一方、抽出油を利用する場合の香味成分の濃度の上限は、特に、50,000μg/kg以下、30,000μg/kg以下、20,000μg/kg以下、10,000μg/kg以下、7,000μg/kg以下とすることができる。これらの上下限は適宜に組合せることができるが、例えば、100~50,000μg/kgとすることができ、1,000~30,000μg/kgとすることができ、2,000~20,000μg/kgとすることができ、3,000~10,000μg/kgとすることができ、3,500~7,000μg/kgとすることができる。上記の好ましい範囲では、より再現性に優れた、調理感のある焦がし風味を付与できる。
【0026】
本発明の調味オイルでは、香味成分として、上述したアルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分のうちの少なくとも一方を含めばよいが、これら両方を含むことがより好ましい。これら両方が含まれることで、より豊かな調理感のある良好な焦がし風味を付与できる。また、アルデヒド系香味成分とフラン系香味成分とは、いずれか多く含まれてもよく、また、同量が含まれてもよいが、アルデヒド系香味成分の濃度よりもフラン系香味成分の濃度の方が高いことが好ましい。アルデヒド系香味成分の濃度よりもフラン系香味成分の濃度の方が高い場合、2-メチルブタナールの濃度をCA1(μg/kg)とし、2-エチルフランの濃度をCF1(μg/kg)とした場合に、CA1<CF1である。この割合は、更に1≦CF1/CA1≦50とすることができ、更に1.5≦CF1/CA1≦25とすることができ、更に1.9≦CF1/CA1≦10とすることができ、更に2.1≦CF1/CA1≦8.0とすることができ、更に2.5≦CF1/CA1≦6.5とすることができる。
上記のように、アルデヒド系香味成分よりもフラン系香味成分が多い場合には、調理感のあるより良好な焦がし風味を実現でき、とりわけ、焼きあごだし特有の風味を実現する観点から好ましい。
【0027】
更に、例えば、アルデヒド系香味成分として、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、2-メチルプロパナールの3成分が含まれ、フラン系香味成分として、2-メチルフラン及び2-エチルフランの2成分が含まれる場合、2-エチルフランの濃度をCF1(μg/kg)とし、2-エチルフラン以外の4成分の合計濃度をC(μg/kg)とした場合、0.2≦CF1/C≦3.0とすることができ、更に0.85≦CF1/C≦2.5とすることができ、更に0.90≦CF1/C≦2.3とすることができ、更に0.95≦CF1/C≦2.0とすることができる。
上記の範囲では、調理感のあるより良好な焦がし風味を更に良好に実現でき、とりわけ、焼きあごだし特有の風味を実現する観点から好ましい。
【0028】
また、上述したアルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分両方が含まれる場合、2-メチルブタナールの濃度CA1(μg/kg)と、2-エチルフランの濃度CF1(μg/kg)の比(CA1:CF1)は、例えば、0.02:9.98~9.98:0.02とすることができ、更に0.02:9.98~7.0:3.0とすることができ、更に0.02:9.98~6.0:4.0とすることができ、更に0.02:9.98~5.0:5.0とすることができ、さらに0.5:9.5~4.8:5.2とすることができ、0.5:9.5~4.5:5.5とすることができ、0.5:9.5~4.0:6.0とすることができ、0.5:9.5~3.5:6.5とすることができ、0.5:9.5~3.0:7.0とすることができ、0.5:9.5~2.9:7.1とすることができ、0.5:9.5~2.8:7.2とすることができ、0.5:9.5~2.7:7.3とすることができ、0.5:9.5~2.5:7.5とすることができ、0.1:9.9~4.8:5.2とすることができ、1.0:9.0~4.5:5.5とすることができ、1.0:9.0~4.0:6.0とすることができる。上記範囲の上限及び/下限を任意に入れ替えてなる範囲も、本願明細書において例示される。上記の範囲では、調理感のあるより良好な焦がし風味を更に良好に実現する観点から好ましい。尚、上記の比「CA1:CF1」は、2-メチルブタナールと2-エチルフランの質量比と換言できる。
【0029】
本発明の調味オイルは、基油と、魚系風味成分と、香味成分(アルデヒド系香味成分及び/又はフラン系香味成分)と、を含む。本発明の調味オイルはどのように得られたものであってもよいが、例えば、魚系乾物と基油とをともに加熱して得た抽出油を主成分として形成できる。魚系乾物と基油とをともに加熱することにより、当該条件において、魚系乾物から抽出される成分が含まれて抽出油となる。この抽出過程では、加熱を伴うことによって、少なくとも魚系風味成分が基油へ含有され、より好適な条件では、魚系風味成分と香味成分との両方が基油へ含有されると考えられる。
尚、魚系風味成分は、抽出成分のうちの香味成分を除いた成分である。魚系風味成分は、アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分を除く、他の香味成分や、アミノ酸、核酸等から構成されると考えられる。
【0030】
抽出油は、上述の通り、少なくとも魚系風味成分を含有する。従って、抽出油は、それ単独で、食品に対して魚系風味を付与する能力を有する。その一方で、抽出油は、香味成分(アルデヒド系香味成分及び/又はフラン系香味成分)を含んでもよく、含まなくてもよい。更に、抽出油が香味成分を含む場合には、その香味成分量は10~200,000μg/kgであってもよいし、その香味成分量は10μg/kg未満であってもよい。抽出油が香味成分を含有しない場合は、香味成分量が10~200,000μg/kgとなるように、抽出油に対して香味成分を添加することができる。この添加によって調味オイルを形成できる。また、抽出油が香味成分を含有するものの、香味成分量が10μg/kg未満である場合も、香味成分量が10~200,000μg/kgとなるように、当該抽出油に対して香味成分を添加することができる。この添加によって調味オイルを形成できる。
更に、抽出油が香味成分を含有し、香味成分量が200,000μg/kg未満である場合、当該抽出油は、調味オイルとしてそのまま利用できる。また、必要な場合には、香味成分量が10~200,000μg/kgとなるように、当該抽出油に対して香味成分を添加することもできる。即ち、適宜、香味成分量を調整することができる。
【0031】
そして、本調味オイルは、基油の存在によって、魚系風味成分と香味成分とを併存させることができる。前述の通り、特に香味成分である、アルデヒド系香味成分及びフラン系香味成分は、いずれも水溶性を有するものの、基本的に親油性の成分であり、水のみで効率的に抽出できないと考えられる。これに対して、本発明の調味オイルは、基油を有することによって、香味成分を好適に取り込むことができ、その結果、良好に魚系風味成分と香味成分とを併存させることができると考えられる。更に、魚系風味成分と香味成分との併存に加えて、香味成分量が適当である場合、食品に対して魚系風味を付与する能力を有するとともに、更に、調理感のある良好な焦がし風味を食品に対して付与することができる。
【0032】
抽出油は、前述の通り、魚系乾物とともに基油を加熱して得ることができる。
魚系乾物は、魚又はその加工物から水分を除去したものである。魚系乾物の水分率は限定されないが、例えば、60%以下とすることができ、5~20%が好ましく、10~15%がより好ましい。
魚系乾物の種類は限定されず、素干し、煮干し、焼干し、塩干し、凍干し、灰干し、調味干し、燻製、節類等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、煮干し、焼干しが好ましい。尚、焼干しは、魚体を焼いた後に乾燥させたもの、魚体を乾燥させた後に焼いたもの、の両方を含む。従って、例えば、煮干しを焼いた魚系乾物(焼煮干し)なども焼干しに含むものとする。
【0033】
また、上述の魚系乾物は、丸干し及び開き干しのいずれでもよい。即ち、魚は、漁獲された魚体のままを干したものであってもよいが、加工物を乾燥させたものであってもよい。加工とは、内蔵、頭部、ひれ等の魚体の一部を除去する加工や、発酵、燻蒸、燻煙、熟成、破砕、粉砕、脱水、加熱、加圧、乾燥、切断、整形、選別、混合、加塩、凍結、解凍等が挙げられる。また、魚体のまま、または干した後、又は、上記加工物に対してエタノール、香味野菜、スパイス、ハーブ等のいずれか1種以上を含む溶液を噴霧する加工を行ってもよく、エタノール、香味野菜、スパイス、ハーブ等のいずれか1種以上を含む溶液に浸漬する加工を行ってもよい。香味野菜、スパイス、ハーブ類は特に限定されず、必要に応じて破砕や粉砕を行ったあと、魚体や加工物に直接塗布してもよい。更に、干しは、水分を除去することを意味しており、天日干し、熱風乾燥、フリーズドライ等、水分の除去方法は問わない。これらの処理、加工は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0034】
本発明で用いることができる魚系乾物では、上述の通り、魚体の一部を除去して加工することを妨げないものの、とりわけ、魚体の皮を含んだ乾物であることが好ましい。魚皮を含んだ魚系乾物を基油内で加熱して得られる抽出油は、2-メチルブタナール及び2-エチルフランを非常に豊富に含有することができ、特に後述するトビウオの魚皮を含んだ魚系乾物では顕著であり好ましい。
このような魚系乾物の皮(皮部分)は、通常、必要部位としては認知されておらず、魚系乾物の製造では、篩下等として破棄される場合がある。しかしながら、本調味オイルの形成には重要な部位と考えられるため、その利用が好ましい。この様な皮部分は、従来、廃棄されていた部位の有効活用という面からも好ましい。
【0035】
魚種は限定されないが、例えば、青魚類、タイ類(マダイ、チダイ、ヘダイ、クロダイ、キチヌ、イシダイ、イシガキダイ、アカマダイ、イトヨリダイ、イボダイ、メダイ、タカオハダイ、コショウダイ、コロダイ、テンジクダイ、フエダイ等)、サケ類(サケ、カラフトマス、ベニザケ、ギンザケ、サクラマス、サツキマス、ニジマス、ジャガートラウト、アトランティックサーモン、イワナ等)、タラ類(マダラ、スケ卜ウダラ、ギンダラ等)、ホッケ類(真ホッケ、シマホッケ、根ホッケ等)、マグロ類(マグロ、メバチマグル、キハダマグロ等)、ハゼ類(マハゼ、イサザ、ゴリ、イサザ)、シシャモ類(シシャモ)、カワハギ類(カワハギ)、その他の海水魚(スズキ、スズメダイ、キンメダイ、マトウダイ等)、オオクチバス類(オオクチバス、ブラックバス、ブルーギル、コクチバス、フロリダバス等)、その他の淡水魚類(ワカサギ、アユ、オイカワ、カワムツ、ハヤ)などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0036】
上記のなかでも、本発明では青魚類が好ましい。即ち、例えば、トビウオ(トビウオ科に属する魚)、イワシ(カタクチイワシ科に属する魚、ニシン科に属する魚、例えば、マイワシ、ウルメイワシ、カタクチイワシ等)、アジ(アジ科に属する魚、例えば、マアジ、シマアジ、ムロアジ、ブリ、カンパチ、ヒラマサ等)、サンマ(サンマ科に属する魚、例えば、ハシナガサンマ、ニシサンマ、太平洋ミニサンマ、大西洋ミニサンマ等)、サバ(サバ科サバ属に属する魚、サバ科ニジョウサバ属に属する魚、例えば、マサバ、ゴマサバ、大西洋サバ等)、カツオ(サバ科カツオ属に属する魚、サバ科ソウダガツオ属に属する魚、サバ科ハガツオ属に属する魚、例えば、カツオ、スマ、ソウダガツオ、ヒラソウダ、マルソウダ、ハガツオ、シマガツオ、マナガツオ、イケカツオ等)などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0037】
上述のなかでも、魚系乾物は、トビウオの乾物を含むことが好ましい。魚系乾物としてトビウオの乾物を含む場合には、本発明の調味オイルは、食品に対して魚系風味としてあごだし風味を付与することができる。加えて、前述した香味成分(アルデヒド系香味成分、フラン系香味成分)を含有することにより、調理感のある良好な焦がし風味が付加された焼きあご風味を食品に対して付与することができる。
【0038】
上述のトビウオは、トビウオ科に属する魚であり、ハマトビウオ属、ニノジトビウオ属、サヨリトビウオ属、ツマリトビウオ属、イダテントビウオ属が含まれる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
上記のうち、ハマトビウオ属に属するトビウオとしては、ハマトビウオ(角トビ)、ツクシトビウオ(角トビ)、ホソトビウオ(丸トビ)、トビウオ(ホントビウオ)、アヤトビウオ、アリアケトビウオ、ヒメアカトビ、アカトビ、オオメナツトビ等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
また、ニノジトビウオ属に属するトビウオとしてはホソアオトビが挙げられる。更に、サヨリトビウオ属に属するトビウオとしてはサヨリトビウオが挙げられる。更に、ツマリトビウオ属に属するトビウオとしてはバショウトビウオが挙げられる。更に、イダテントビウオ属に属するトビウオとしてはイダテントビウオが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0039】
また、上述の抽出油を構成する基油の種類は限定されず、食用の油脂であれば特に制限なく利用できる。油脂としては、植物性油脂(植物油を含む)、動物性油脂(動物油を含む)及びこれらの加工油脂が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0040】
このうち植物性油脂としては、菜種油、キャノーラ油、高オレイン酸菜種油、コーン油、大豆油、米油、ひまわり油、高オレイン酸ひまわり油、サフラワー油、オリーブ油、ピーナッツオイル、パーム油、パーム核油、ヤシ油、綿実油、亜麻仁油、椿油、ごま油、荏胡麻油、ココナッツオイル、グレープシードオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル、カカオバター、サラダ油、又はMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)等が例示される。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
また、動物性油脂としては、牛脂、乳脂、豚脂、魚油(サケ油等)等が例示される。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
更に、加工油脂としては、前述した各種油脂を水素添加した油脂(硬化油)、分別した油脂(パーム分別油(PMF))、エステル交換した油脂(エステル交換油)等が例示される。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0041】
基油と魚系乾物とを共に加熱して抽出油を得る場合、その加熱温度は限定されないが、通常、40℃以上であり、50℃以上であることが好ましく、更には、70℃以上であることが好ましい。魚系乾物を基油と共に40℃以上、50℃以上、更には、70℃以上に加熱することによって、魚系乾物から魚系風味成分を抽出して、基油へ含有させることができる。一方で、加熱温度の上限は限定されないが250℃以下であることが好ましい。加熱温度を250℃以下にすることにより、過度な苦味やエグ味の発生を抑制できる。基油と魚系乾物とを加熱する場合、基油と魚系乾物が混合される温度は限定されず、前述の温度より低温の基油に魚系乾物を投入してから加熱しても、前述の温度に調整された基油に魚系乾物を投入してから加熱してもよい。また、加熱途中に基油、または/及び魚系乾物を複数回にわけて投入してもよく、加熱温度を上げたり、下げたりして多段的に変動させてもよく、これら方法の組み合わせでもよい。なお、加熱温度は、加熱時間が1分間以上ある温度であり、加熱温度が変動する場合においても、ある温度となる時間のトータルが1分間以上あれば、その温度で加熱したとみなすことができる。
【0042】
また、加熱温度の下限は、例えば40℃以上、50℃以上、60℃以上、70℃以上、80℃以上、85℃以上、90℃以上、95℃以上、100℃以上、110℃以上、115℃以上、120℃以上、125℃以上、130℃以上、135℃以上、140℃以上、145℃以上、150℃以上、155℃以上、160℃以上、165℃以上、170℃以上、175℃以上、180℃以上、185℃以上とすることができる。一方、加熱温度の上限は、例えば、200℃以下、195℃以下、190℃以下、185℃以下、180℃以下、175℃以下、170℃以下、165℃以下、160℃以下とすることができる。これらの上下限は適宜に組合せることができるが、80~200℃がより好ましく、90~190℃が更に好ましく、100~180℃が特に好ましく、120~160℃がとりわけ好ましい。
このように、加熱温度を80℃以上と高くすることにより、基油によって魚系乾物を焼くことができる。そして、この加熱により、香味成分が生成されると考えられる。その結果、基油には、魚系風味成分に加えて、香味成分が抽出されるようになる。そして、上記の好ましい範囲では、更に、香味成分(アルデヒド系香味成分、フラン系香味成分)の生成量を増すことができる結果、基油への移行量を多くすることができる。即ち、抽出油に含まれる香味成分量を向上させることができると考えられる。更に、上述の通り、基油を介して魚系乾物を加熱することによって焼きムラを抑制でき、魚系乾物を均一に焼くことができる。このため、過度な苦味やエグ味の生成を抑制しつつ、香味成分量を多くすることができる。
【0043】
また基油と魚系乾物とを共に加熱して抽出油を得る場合、その加熱時間は限定されないが、例えば1分間以上180分間以内とすることができる。加熱時間の下限は、例えば1分間以上、又は5分間以上、又は10分間以上、また、上限は特に制限されないが例えば180分間以内、又は120分間以内、又は90分間以内、又は60分間以内、又は30分間以内、又は10分間以内にわたって行えばよい。上限又は下限は、上記範囲からさらに低い値又は高い値であることができ、これらの値は、例えば15、20、25、35、40、45、55、70、80、100、110、130、140、150。160、170であることができる。但し、一般的に加熱温度と加熱時間とは相互依存の関係にもあり、加熱温度を高くするほど加熱時間は概ね短くて済む一方で、加熱時間を長くするほど加熱温度は概ね低くて済む傾向がある。よって、加熱温度及び加熱時間の関係を考慮し、それぞれ適切な範囲となるように設定すればよい。
【0044】
尚、抽出油を形成する際には、魚系乾物以外にも、他の被抽出対象物と共に基油を加熱することができる。他の被抽出対象物としては、魚系乾物以外の他の乾物が挙げられる。
他の被抽出対象物としては、例えば、貝類(例えば、アサリ、ハマグリ、シジミ、ホタテ、カキ、アワビ、サザエ等)、甲殻類(例えば、エビ、カニ、オキアミ等)及び頭足類(例えば、イカ、タコ等)等の乾物が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。尚、これらの貝類、甲殻類及び頭足類等は、海水生、淡水生、汽水生のいずれであってもよい。
更に、他の被抽出対象物として、海藻類(海藻類の乾物)が挙げられる。海藻類としては、褐藻類(ワカメ、コンブ、モズク、ツルモ、スジメ、カジメ、クロメ、アラメ等)、紅藻類(ノリ等)及び緑藻類(ノリ等)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
更に、他の被抽出対象物として、畜肉類(海藻類の乾物)が挙げられる。畜肉類としては、牛、豚、馬、山羊及び羊などの獣肉類、鶏、アヒル、七面鳥、ホロホロチョウ、ガチョウ、ダチョウ、ウズラ及びこれらの卵などの鶏肉類、鶏卵類などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0045】
また、本発明の調味オイルは、基油、魚系風味成分及び香味成分以外に、本調味オイルの作用及び効果を満たす範囲で、必要に応じて他成分を含有できる。他成分としては、水、食塩、だし(昆布だし、野菜だし等の魚系風味以外の風味を付与することができるだし)、糖類(単糖、二糖類等)、醤油(濃口醤油、うすくち醤油、生揚げ醤油等)、味噌、酢、みりん、アルコール類、アミノ酸類、糖アルコール、人工甘味料、ミネラル、pH調整剤、粘度調整剤(増粘剤等)、乳化剤、着色料、酸化防止剤、アミノ酸や核酸等といった旨み成分、酵母エキス(ビール酵母、パン酵母、トルラ酵母等の酵母をエキス化したもの)、畜肉エキス(牛肉、豚肉、羊肉、鶏肉等をエキス化したもの)、キノコ類エキス(シイタケ等のキノコ類をエキス化したもの)、有機酸(コハク酸等)、有機酸塩(コハク酸塩等)、核酸(イノシン酸、グアニル酸等)、核酸塩(イノシン酸塩、グアニル酸塩等)、油、香辛料、果汁、穀物粉末、発酵調味料、香料、乳原料等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0046】
本発明の調味オイルは、基油、魚系風味成分及び香味成分を含んでいればよく、前述のとおり、他の被抽出対象物や他成分を含んでも、含まなくてもよいが、基本的に親油性である香味成分の溶解性を高め、食品に対して、魚系風味とともに、調理感のある良好な焦がし風味を付与しやすいよう、脂質を50~100質量%の濃度で含有するのがよい。また、脂質は調味オイルに含有されうる基油、魚系乾物をはじめ、前述の調味オイルに含有されうる成分のいずれによるものでもよい。調味オイルの脂質の濃度の下限は、例えば、50質量%以上、55質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上とすることができる。一方、脂質の濃度の上限は、例えば、100質量%以下、99.9質量%以下、99.8質量%以下、99.7質量%以下、99.6質量%以下、99.5質量%以下、99.4%質量%以下、99.3%以下99.2%以下、99.1%以下とすることができる。これらの上下限は適宜に組合せることができるが、例えば、50~100質量%とすることができ、60~99.9%以下とすることができ、70~99.8質量%とすることができ、80~99.8質量%とすることができ、85~99.7質量%とすることができ、90~99.7質量%とすることができる。上記の好ましい範囲では、より再現性に優れた、調理感のある良好な焦がし風味を付与できる。上記範囲の上限及び/下限を任意に入れ替えてなる範囲も、本願明細書において例示される。該濃度の上限又は下限は、上記範囲からさらに低い値又は高い値であることができ、これらの値は、例えば91質量%、92質量%、93質量%、94質量%、95質量%、95.5質量%、96質量%、96.5質量%、97質量%、97.5質量%、98質量%、98.5質量%、98.6質量%、98.7質量%、98.8質量%、98.9質量%、99.0質量%、99.1質量%、99.2質量%、99.3質量%、99.4質量%であることができる。
【0047】
なお、調味オイルの脂質の濃度は、「食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)別添 栄養成分等の分析法等」にもとづき測定すればよい。
【0048】
本発明の調味オイルは、どのように利用してもよいが、例えば、食品に対して調味オイルを添加することにより利用される。この場合、食品に対して、魚系風味とともに、調理感のある良好な焦がし風味を与えることができる。また、食品の味の強さの経時的な低減を抑制することができる。
ここで、食品は、直接的な喫食対象である食品を含むが、更には、直接的な喫食対象である食品に対して味付けを行うための調味料等を含むものである。本発明の調理オイルは、通常、強い風味・香味を備えるため、直接的な喫食対象である食品に対して味付けを行うよりも、調味料等に対して少量を添加して、調味料の風味・香味を向上させる目的で利用することができる。即ち、後述する液体調味料に対しては、その原料として利用することができる。
また、本発明の調味オイルは、どのような容器に収容してもよいが、樹脂製容器、樹脂製袋、ガラス製瓶、金属製缶、及び紙容器などの各種の容器に充填して提供できる。
【0049】
[2]調味オイルの製造方法
本発明の調味オイルの製造方法は、魚系乾物と基油とをともに温度50℃以上に加熱して抽出油を得る加熱工程を備えることを特徴とする。
本方法において、魚系乾物及び基油については前述の通りである。そして、調味オイルは、基油と、魚系風味成分と、香味成分(アルデヒド系香味成分及び/又はフラン系香味成分)と、を含むことについても同様であり、本方法の加熱工程によって抽出油を得ることができる。また、温度50℃以上の加熱により、魚系乾物から少なくとも魚系風味成分が基油へ移行されて抽出油を得ることができる。
【0050】
魚系乾物と基油とともに50℃以上に加熱して抽出油を得る加熱工程において、基油、または/及び魚系乾物を複数回にわけて投入してもよく、50℃以上の温度であれば、温度を多段的に変動させてもよい。
【0051】
上記加熱工程における加熱温度は50℃以上であればよいが、加熱温度の下限は、例えば40℃以上、50℃以上、60℃以上、70℃以上、80℃以上、85℃以上、90℃以上、95℃以上、100℃以上、110℃以上、115℃以上、120℃以上、125℃以上、130℃以上、135℃以上、140℃以上、145℃以上、150℃以上、155℃以上、160℃以上、165℃以上、170℃以上、175℃以上、180℃以上、185℃以上とすることができる。一方、加熱温度の上限は、例えば、200℃以下、195℃以下、190℃以下、185℃以下、180℃以下、175℃以下、170℃以下、165℃以下、160℃以下とすることができる。これらの上下限は適宜に組合せることができるが、80~200℃が好ましく、90~190℃がより好ましく、100~180℃が更に好ましく、120~160℃が特に好ましい。このように、加熱温度を80℃以上と高くすることにより、基油によって魚系乾物を焼くことができる。そして、この加熱により、香味成分が生成されると考えられる。その結果、基油には、魚系風味成分に加えて、香味成分が抽出されるようになる。そして、上記の好ましい範囲では、更に、香味成分(アルデヒド系香味成分、フラン系香味成分)の生成量を増すことができる結果、基油への移行量を多くすることができる。即ち、抽出油に含まれる香味成分量を向上させることができると考えられる。更に、上述の通り、基油を介して魚系乾物を加熱することによって焼きムラを抑制でき、魚系乾物を均一に焼くことができる。このため、過度な苦味やエグ味の生成を抑制しつつ、香味成分量を多くすることができる。
【0052】
本方法では、上述の加熱工程以外にも他の工程を備えることができる。
他の工程としては、抽出油に含まれる香味成分量が所望量よりも少ない場合に、抽出油に香味成分を添加する香味成分添加工程が挙げられる。この香味成分添加工程で用いる香味成分には、どのような出自の香味成分を用いてもよい。例えば、市販されている化合物(試薬等)を用いてもよいし、例えば、別途、香味成分量が多くなる条件で得られた抽出油から採取された香味成分であってもよい。
【0053】
また、上記基油は植物油であることが好ましく、更に、魚系乾物は煮干し及び/又は焼干しであることが好ましく、更に、これらの煮干し及び/又は焼干しが皮を含むことが好ましく、魚系乾物があごを含むことが好ましい点なども前述の通りである。
【0054】
本方法は、上述の通り、少なくとも加熱工程を備え、必要に応じて香味成分添加工程を備えることができる他、例えば、香味成分以外の成分を添加する他成分添加工程や、調味オイルを殺菌する殺菌工程等を、必要に応じて備えることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0055】
[3]液体調味料
本発明の液体調味料は、本発明の調味オイルを含むことを特徴とする。
本液体調味料は、前述した調味オイルを含むため、本液体調味料を用いて調味した食品に対して、魚系風味とともに、調理感のある良好な焦がし風味を与えることができる。この液体調味料の具体例としては、例えば、鍋用つゆ、麺類用つゆ、出汁用つゆ、豆腐用つゆ等のつゆ類、肉類用たれ、魚介類用たれ等のたれ類、魚介類用ドレッシング、サラダドレッシング等のドレッシング類、ラーメン用スープ、和風スープ、洋風スープ等のスープの素等、更には、パスタ用調味料、中食食品用調味料、惣菜用調味料などを挙げることができる。
【0056】
本発明の液体調味料に含まれる調味オイルの量は限定されないが、例えば、0.01~15質量%、0.01~10質量%、0.01~5質量%、0.01~1質量%とすることができる。上限又は下限は、上記範囲からさらに低い値又は高い値であることができ、これらの値は、例えば0.05、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.55、0.6、0.65、0.7、0.75、0.8、0.95、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10、10.5、11.0、12.0、13.0、14.0、14.5であることができる。この範囲では、液体調味料に対して、魚系風味とともに、調理感のある良好な焦がし風味を与えることができる。
尚、本液体調味料は、喫食時の濃度に整えられたものであってもよいし、喫食時の濃度よりも高い濃度、即ち、濃縮された液体調味料であってもよい。
【0057】
本発明の液体調味料により調味される調味対象食品は限定されないが、例えば、肉類、魚介類、野菜類及び穀類(米、麦、蕎麦、豆等)並びにこれらの加工品等が挙げられる。このうち加工品としては、例えば、飯等の米加工品、うどん、ラーメン等の麦加工品、蕎麦等の蕎麦実加工品、即ち、各種麺類、豆腐等の豆加工品等が挙げられる。
また、液体調味料は食品に対してどのような時期に添加してもよく、喫食時に添加してもよいし、調理前や調理時に添加してもよい。調理法は限定されず、煮る、炒める、焼く、浸す等の種々の方法を含む。より具体的には、例えば、鍋料理(寄せ鍋、水たき、湯豆腐、しゃぶしゃぶ)、肉野菜炒め、野菜炒め、おでん、うどん、蕎麦、ラーメン、茶碗蒸し、スープ、煮もの等の食品の調味に利用することができる。
【0058】
また、本液体調味料は、前述した調味オイル以外に他の成分を含むことができる。他の成分としては、抽出水が挙げられる。抽出水は、いわゆる、水出しのだしであり、魚系乾物の成分を水へ抽出したものである。一般に、アミノ酸や核酸等といった旨み成分が含まれる。その他、酵母エキス(ビール酵母、パン酵母、トルラ酵母等の酵母をエキス化したもの)、畜肉エキス(牛肉、豚肉、羊肉、鶏肉等をエキス化したもの)、キノコ類エキス(シイタケ等のキノコ類をエキス化したもの)、醤油(濃口醤油、うすくち醤油、生揚げ醤油等)、糖類(単糖、二糖類等)、有機酸(コハク酸等)、有機酸塩(コハク酸塩等)、核酸(イノシン酸、グアニル酸等)、核酸塩(イノシン酸塩、グアニル酸塩等)、油などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0059】
[4]食品の製造方法
本発明の食品の製造方法は、添加対象物に対して本発明の調味オイルを含有せしめる段階(i)を含むことを特徴とする。
本食品の製造方法により得られる食品は、魚系風味として調理感のある良好な焦がし風味を得ることができる。加えて、食品の味の強さの経時的低減を抑制することができる。
【0060】
ここで、食品の味の強さの経時的低減とは、製造直後に食した場合に得られる味の強さが製造後からの時間経過にともないぼやけてくることを意味する。この味の強さの経時的低減を生じると、一般に、風味がおちたと感知される傾向にある。従って、この味の強さの経時的低減を抑制することで、風味の低下を抑制できるといえる。そして、味の強さとは、旨味、甘味、塩味、酸味、苦味などが総合された味感である。味の強さが低減する場合、これら旨味、甘味、塩味、酸味、苦味などのうちの1つのみが低下することによって味の強さが低減したと感知される場合もあれば、複数が低下して味の強さが低減したと感知される場合もある。
尚、以下では、「食品の味の強さが経時的低減すること」を単に「味ぼけ」ともいう。
【0061】
上記「添加対象物」は、食品原料からなる。尚、添加対象物には、本発明の調味オイルは含まれない。食品原料は、食品に一般的に使用される原料で、食すことができるものであれば特に限定されず、生鮮食品(生鮮野菜、鮮魚介類、海藻類、食肉、食鳥卵等)、穀類(米、小麦等)、豆類(大豆、インゲンマメ、ヒヨコマメ、アズキ、ラッカセイ等)、いも類(サツマイモ、馬鈴薯、長芋、こんにゃく芋、里芋、キクイモ等)、種実類(アーモンド、ゴマ、ココナッツ、カシューナッツ、くるみ、ピーナッツ、チアシード等)、きのこ類(シイタケ、エノキ、マイタケ等)、乳類(生乳、牛乳、低脂肪牛乳や加工乳等)、及び他成分(本発明の調味オイル以外の他の調味オイル等)などが挙げられる。
より具体的には、生鮮野菜としては、葉菜類(結球性葉菜類(キャベツ、ハクサイ等)、非結球性葉菜類(ホウレンソウ、コマツナ等)など)、根菜類(芋類(サトイモ、ジャガイモ、サツマイモ等)、ニンジン、ダイコン、カブ、ゴボウ、レンコン、タマネギ等)、茎菜類(アスパラガス、ウド、タケノコ等)、果菜類(ナス,トマト,ピーマン,キュウリ,インゲンマメ,エンドウ等)などが挙げられる。鮮魚介類としては、各種の魚類(前述した魚類の記載をそのまま適用できる)、貝類(アサリ、ハマグリ、シジミ、ホタテ、カキ、アワビ、サザエ等)、甲殻類(エビ、カニ等)、頭足類(イカ、タコ等)などが挙げられる。海藻類としては、ヒジキ、コブ、ワカメ等が挙げられる。食肉としては、牛肉、豚肉、鶏肉等が挙げられる。食鳥卵としては、鶏卵、うずら卵等が挙げられる。
他成分としては、水、食塩、だし(昆布だし、野菜だし等の魚系風味以外の風味を付与することができるだし)、糖類(単糖、二糖類等)、醤油(濃口醤油、うすくち醤油、生揚げ醤油等)、味噌、酢、みりん、アルコール類、アミノ酸類、糖アルコール、人工甘味料、ミネラル、pH調整剤、粘度調整剤(増粘剤等)、乳化剤、着色料、酸化防止剤、アミノ酸や核酸等といった旨み成分、酵母エキス(ビール酵母、パン酵母、トルラ酵母等の酵母をエキス化したもの)、畜肉エキス(牛肉、豚肉、羊肉、鶏肉等をエキス化したもの)、キノコ類エキス(シイタケ等のキノコ類をエキス化したもの)、有機酸(コハク酸等)、有機酸塩(コハク酸塩等)、核酸(イノシン酸、グアニル酸等)、核酸塩(イノシン酸塩、グアニル酸塩等)、油、香辛料、果汁、穀物粉末、発酵調味料、香料、乳原料等が挙げられる。上述した食品原料は、1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。食品原料は、加工前の食品原料でもよいし、脱水、加熱、加圧、製粉、乾燥、発酵、燻蒸、燻煙、熟成、切断、破砕、粉砕、整形、選別、混合、加塩、凍結、解凍等の加工をした加工後の食品原料でもよい。
【0062】
本発明には、以下(A)、(B)及び(C)が含まれる。
(A)添加対象物に対して本発明の調味オイルを含有せしめる段階(i)を含む食品の製造方法。
(B)段階(i)が、調味オイルと添加対象物との合計に対して、2-メチルブタナールを0.13μg/kg以上、又は、2-エチルフランを0.26μg/kg以上にする段階である食品の製造方法。
(C)調味オイルが含有された添加対象物を調理する段階(ii)を更に含む食品の製造方法。
【0063】
上記「段階(i)」は、添加対象物に調味オイルを含有せしめる工程である。添加対象物は前述のとおり、食品原料からなるものであり、食品原料自体は加工前のものでも、加工後のものであってもよく、添加対象物にこれら食品原料を1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、調味オイルを含有せしめる段階での添加対象物は、調理前や調理時の状態であっても、調理後の状態であってもよい。また、調味オイルを含有せしめるのに、調味オイルそのものを含有せしめてもよく、調味オイルを含有する液体調味料としたうえで含有せしめてもよい。例えば、後述する実施例では、冷凍サトイモを用いたサトイモの煮物を試料(食品)として用いており、当該食品は、調味オイルと、食品原料として冷凍サトイモ、醤油、砂糖、みりん、塩、料理酒、焼きあごだし、及び水の混合物を煮て得ている。また、調味オイルと、食品原料として冷凍サトイモ、及び液体調味料(醤油、砂糖、みりん、塩、料理酒、焼きあごだし、及び水)の混合物を煮て得ている。前者において、添加対象物は冷凍サトイモ、醤油、砂糖、みりん、塩、料理酒、焼きあごだし、及び水であり、後者において、添加対象物は冷凍サトイモ、及び液体調味料(醤油、砂糖、みりん、塩、料理酒、焼きあごだし、及び水)である。また、前者、後者ともに調味オイル以外の食品原料を先に煮て得られる調理後品(添加対象物)に対して、調味オイルを含有せしめることで本発明の食品を得ることもできる。更には、調理前に調味オイルを含有させると共に、得られた調理後品に対しても調味オイルを含有させることができる。
尚、段階(i)は、1回のみ行ってもよいが、複数回行うことができる。換言すれば、段階(i)は、1回で行うこともできるが、複数回に分けて行うこともできる。複数回行う場合においては、添加対象物に調味オイルが含有される状態となりうるが、この場合も段階(i)に相当する。
【0064】
また、段階(i)では、前述の通り、添加対象物に対して調味オイルを含有せしめる段階であり、それによって添加対象物に含まれることになる香味成分の量等は限定されないが、より効果的に味ぼけを抑制するという観点からは、調味オイルと添加対象物との合計に対して2-メチルブタナールが0.13μg/kg以上、及び/又は、2-エチルフランが0.26μg/kg以上、となるように添加対象物に対して、調味オイルを含有させることが好ましい。
段階(i)では、前述の通り、添加対象物は調理前や調理時のものであっても、調理後のものであってもよく、調味オイルと添加対象物との合計に対して、調味オイル由来の2-メチルブタナールが0.13μg/kg以上、及び/又は、2-エチルフランが0.26μg/kg以上、となるように調味オイルを含有させればよい。
尚、当然ながら、段階(i)において、2-メチルブタナールを0.13μg/kg以上にすることができる調味オイルは、2-メチルブタナールを含んだ調味オイルであり、2-エチルフランを0.26μg/kg以上にすることができる調味オイルは、2-エチルフランを含んだ調味オイルである。
【0065】
尚、これら2-メチルブタナール、2-エチルフラン等の各種成分は、例えば、水に溶解させたうえで食品に含有させることも可能であるが、本発明の効果をより奏させる観点からは、油に溶解させたうえで含有させることが好ましく、前述した本発明の製造方法により製造された調味オイルとしたうえで含有させることがより好ましい。これらの成分は前述の通り水溶性が低く、十分な量を安定して水に含有させ、保持させることが困難であるが、油であれば、これら成分の溶解性を高められ、より高濃度にこれらの成分を安定して油に含有させることができると考えられる。さらに、本発明の製造方法により製造された調味オイルであれば、これら成分の溶解性をより高められ、より高濃度にこれら成分を安定して油に含有させることができることに加え、調理工程での各種処理(加熱や混合等)や保管期間において、これら成分が飛散されにくく、油中により保持しやすくすることができると考えられる。メカニズムは定かではないが、おそらく基油とこれら成分が加熱されることで、2-メチルブタナール、2-エチルフラン等の各種成分が、油や、調味オイルに含まれるその他成分等の分子と、より密接に吸着や結合する構造となっているためと考えられる。従って、本方法によれば、これらの成分を調味オイルに比較的高濃度に含有させ、保持させることができるため、僅かな量の配合であっても、本発明の効果をより奏することができるのではないかと考えられる。
【0066】
また、例えば、調味オイルは、後述する実施例に示す通り、基油に対して、所定量の2-メチルブタナール及び/又は2-エチルフランを配合(例えば、試薬による配合)することにより調製することができる。このように調製した調味オイル(以下、単に「配合油」という)の利用によれば、食品に対して、調理感のある良好な焦がし風味を魚形風味として付与することができる。加えて、この配合油の利用によれば、食品の味の強さの経時的な低減を抑制する効果を得ることができる。一方で、調味オイルは、後述する実施例に示す通り、魚系乾物と基油とをともに加熱して得た抽出油として調製することができる。このように調製した調味オイル(抽出油)の利用によれば、食品に対して、調理感のある良好な焦がし風味を魚形風味として付与することができる。加えて、この抽出油の利用によれば、食品の味の強さの経時的な低減を抑制する効果を得ることができる。そして、食品の味の強さの経時的な低減を抑制する効果に関して、比較すると、配合油に比較して抽出油はより優れた効果を奏する。具体的には、より長期間にわたって食品の味の強さの経時的な低減を抑制することができ、より長期間にわたって製造直後品の味の強さを保持することができる。
【0067】
段階(i)において2-メチルブタナールは、調味オイルと添加対象物との合計(X)に対して0.13μg/kg以上となるように、添加対象物に対して含有されればよいが、味ぼけをより効果的に抑制するという観点からは、0.15μg/kg以上が好ましく、0.20μg/kg以上がより好ましく、0.22μg/kg以上が更に好ましく、0.55μg/kg以上が奥に好ましい。一方、この濃度の上限は限定されないが、100,000μg/kg以下とすることができる。更に、香味のバランスを整えやすいという観点からは、10,000μg/kg以下が好ましく、9,000μg/kg以下がより好ましく、8,000μg/kg以下が更に好ましい。これらの上下限は適宜に組合せることができるが、例えば、0.13~100,000μg/kgとすることができ、0.15~10,000μg/kgとすることができ、0.20~9,000μg/kgとすることができ、0.22~8,000μg/kgとすることができ、0.55~8,000μg/kgとすることができる。これらの好ましい範囲では、より優れた味ぼけ抑制効果を得ることができる。上記範囲の上限及び/下限を任意に入れ替えてなる範囲も、本願明細書において例示される。該含有量の上限又は下限は、上記範囲からさらに低い値又は高い値であることができ、これらの値は、例えば0.25μg/kg、0.30μg/kg、0.35μg/kg、0.40μg/kg、0.50μg/kg、0.60μg/kg、0.80μg/kg、1.0μg/kg、1.5μg/kg、2.0μg/kg、2.5μg/kg、3.0μg/kg、3.5μg/kg、4.0μg/kg、4.5μg/kg、5.0μg/kg、6.0μg/kg、7.0μg/kg、8.0μg/kg、9.0μg/kg、10.0μg/kg、15.0μg/kg、20.0μg/kg、30.0μg/kg、40.0μg/kg、50μg/kg、100μg/kg、200μg/kg、300μg/kg、400μg/kg、500μg/kg、1000μg/kg、2000μg/kg、3000μg/kg、4000μg/kg、4500μg/kg、5000μg/kg、5500μg/kg、6000μg/kg、6500μg/kg、7000μg/kg、7500μg/kgであることができる。
【0068】
同様に、段階(i)において2-エチルフランは、調味オイルと添加対象物との合計(X)に対して0.26μg/kg以上となるように、添加対象物に対して含有されればよいが、味ぼけをより効果的に抑制するという観点からは、0.30μg/kg以上が好ましく、0.35μg/kg以上がより好ましく、0.40μg/kg以上が更に好ましい。一方、この濃度の上限は限定されないが、100,000μg/kg以下とすることができる。更に、香味のバランスを整えやすいという観点からは、10,000μg/kg以下が好ましく、9,000μg/kg以下がより好ましく、8,000μg/kg以下が更に好ましい。これらの上下限は適宜に組合せることができるが、例えば、0.26~100,000μg/kgとすることができ、10,000μg/kgとすることができ、0.30~9,000μgμg/kgとすることができ、0.35~8,000μg/kgとすることができる。これらの好ましい範囲では、より優れた味ぼけ抑制効果を得ることができる。上記範囲の上限及び/下限を任意に入れ替えてなる範囲も、本願明細書において例示される。該含有量の上限又は下限は、上記範囲からさらに低い値又は高い値であることができ、これらの値は、例えば0.45μg/kg、0.50μg/kg、0.55μg/kg、0.60μg/kg、0.65μg/kg、0.70μg/kg、0.80μg/kg、1.0μg/kg、1.5μg/kg、2.0μg/kg、2.5μg/kg、3.0μg/kg、3.5μg/kg、4.0μg/kg、4.5μg/kg、5.0μg/kg、6.0μg/kg、7.0μg/kg、8.0μg/kg、9.0μg/kg、10.0μg/kg、15.0μg/kg、20.0μg/kg、30.0μg/kg、40.0μg/kg、50μg/kg、100μg/kg、200μg/kg、300μg/kg、400μg/kg、500μg/kg、1000μg/kg、2000μg/kg、3000μg/kg、4000μg/kg、4500μg/kg、5000μg/kg、5500μg/kg、6000μg/kg、6500μg/kg、7000μg/kg、7500μg/kgであることができる。
【0069】
上述の段階(i)において2-メチルブタナール及び2-エチルフラン以外の成分については、添加対象物に含有させる量は限定されないが、味ぼけをより効果的に抑制するという観点から、段階(i)において2-メチルプロパナールは、調味オイルと添加対象物との合計(X)に対して0.13μg/kg以上となるように、添加対象物に対して含有されればよいが、味ぼけをより効果的に抑制するという観点からは、0.15μg/kg以上が好ましく、0.20μg/kg以上がより好ましく、0.25μg/kg以上が更に好ましい。一方、この濃度の上限は限定されないが、100,000μg/kg以下とすることができる。更に、香味のバランスを整えやすいという観点からは、10,000μg/kg以下が好ましく、9,000μg/kg以下がより好ましく、8,000μg/kg以下が更に好ましい。これらの上下限は適宜に組合せることができるが、例えば、0.13~100,000μg/kgとすることができ、0.15~10,000μg/kgとすることができ、0.20~9,000μg/kgとすることができ、0.25~8,000μg/kgとすることができる。これらの好ましい範囲では、より優れた味ぼけ抑制効果を得ることができる。上記範囲の上限及び/下限を任意に入れ替えてなる範囲も、本願明細書において例示される。該含有量の上限又は下限は、上記範囲からさらに低い値又は高い値であることができ、これらの値は、例えば0.30μg/kg、0.35μg/kg、0.40μg/kg、0.45μg/kg、0.50μg/kg、0.60μg/kg、0.80μg/kg、1.0μg/kg、1.5μg/kg、2.0μg/kg、2.5μg/kg、3.0μg/kg、3.5μg/kg、4.0μg/kg、4.5μg/kg、5.0μg/kg、6.0μg/kg、7.0μg/kg、8.0μg/kg、9.0μg/kg、10.0μg/kg、15.0μg/kg、20.0μg/kg、30.0μg/kg、40.0μg/kg、50μg/kg、100μg/kg、200μg/kg、300μg/kg、400μg/kg、500μg/kg、1000μg/kg、2000μg/kg、3000μg/kg、4000μg/kg、4500μg/kg、5000μg/kg、5500μg/kg、6000μg/kg、6500μg/kg、7000μg/kg、7500μg/kgであることができる。
【0070】
また、段階(i)において3-メチルブタナールは、調味オイルと添加対象物との合計(X)に対して0.13μg/kg以上となるように、添加対象物に対して含有されればよいが、0.15μg/kg以上が好ましく、0.20μg/kg以上がより好ましく、0.25μg/kg以上が更に好ましい。一方、この濃度の上限は限定されないが、100,000μg/kg以下とすることができる。更に、香味のバランスを整えやすいという観点からは、10,000μg/kg以下が好ましく、9,000μg/kg以下がより好ましく、8,000μg/kg以下が更に好ましい。これらの上下限は適宜に組合せることができるが、例えば、0.13~100,000μg/kgとすることができ、0.15~10,000μg/kgとすることができ、0.20~9,000μg/kgとすることができ、0.25~8,000μg/kgとすることができる。これらの好ましい範囲では、より優れた味ぼけ抑制効果を得ることができる。上記範囲の上限及び/下限を任意に入れ替えてなる範囲も、本願明細書において例示される。該含有量の上限又は下限は、上記範囲からさらに低い値又は高い値であることができ、これらの値は、例えば0.30μg/kg、0.35μg/kg、0.40μg/kg、0.45μg/kg、0.50μg/kg、0.60μg/kg、0.80μg/kg、1.0μg/kg、1.5μg/kg、2.0μg/kg、2.5μg/kg、3.0μg/kg、3.5μg/kg、4.0μg/kg、4.5μg/kg、5.0μg/kg、6.0μg/kg、7.0μg/kg、8.0μg/kg、9.0μg/kg、10.0μg/kg、15.0μg/kg、20.0μg/kg、30.0μg/kg、40.0μg/kg、50μg/kg、100μg/kg、200μg/kg、300μg/kg、400μg/kg、500μg/kg、1000μg/kg、2000μg/kg、3000μg/kg、4000μg/kg、4500μg/kg、5000μg/kg、5500μg/kg、6000μg/kg、6500μg/kg、7000μg/kg、7500μg/kgであることができる。
【0071】
更に、段階(i)において2-メチルフランは、調味オイルと添加対象物との合計(X)に対して0.05μg/kg以上となるように、添加対象物に対して含有されればよいが、0.08μg/kg以上が好ましく、0.10μg/kg以上がより好ましく、0.13μg/kg以上が更に好ましい。一方、この濃度の上限は限定されないが、100,000μg/kg以下とすることができる。更に、香味のバランスを整えやすいという観点からは、10,000μg/kg以下が好ましく、9,000μg/kg以下がより好ましく、8,000μg/kg以下が更に好ましい。これらの上下限は適宜に組合せることができるが、例えば、0.05~100,000μg/kgとすることができ、0.08~10,000μg/kgとすることができ、0.10~9,000μg/kgとすることができ、0.13~8,000μg/kgとすることができる。これらの好ましい範囲では、より優れた味ぼけ抑制効果を得ることができる。上記範囲の上限及び/下限を任意に入れ替えてなる範囲も、本願明細書において例示される。該含有量の上限又は下限は、上記範囲からさらに低い値又は高い値であることができ、これらの値は、例えば0.15μg/kg、0.20μg/kg、0.25μg/kg、0.30μg/kg、0.35μg/kg、0.40μg/kg、0.50μg/kg、0.60μg/kg、0.80μg/kg、1.0μg/kg、1.5μg/kg、2.0μg/kg、2.5μg/kg、3.0μg/kg、3.5μg/kg、4.0μg/kg、4.5μg/kg、5.0μg/kg、6.0μg/kg、7.0μg/kg、8.0μg/kg、9.0μg/kg、10.0μg/kg、15.0μg/kg、20.0μg/kg、30.0μg/kg、40.0μg/kg、50μg/kg、100μg/kg、200μg/kg、300μg/kg、400μg/kg、500μg/kg、1000μg/kg、2000μg/kg、3000μg/kg、4000μg/kg、4500μg/kg、5000μg/kg、5500μg/kg、6000μg/kg、6500μg/kg、7000μg/kg、7500μg/kgであることができる。
【0072】
段階(i)において、前述のとおり調味オイルと添加対象物との合計に対して、2-メチルブタナールが0.13μg/kg以上、又は、2-エチルフランが0.26μg/kg以上、となるように調味オイルを含有させればよく、調味オイルと添加対象物との合計に対する調味オイルの割合は特に限定されないが、魚系風味として調理感のある良好な焦がし風味を付与し、味ぼけをより効果的に抑制するという観点からは、添加対象物と調味オイルとの合計量(X)に対する調味オイルの割合を0.03質量%以上とすることができる。また、0.04質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましい。一方、この濃度の上限は限定されないが、50質量%以下とすることができる。更に、香味のバランスを整えやすいという観点からは、45質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、35質量%以下が更に好ましい。これらの上下限は適宜に組合せることができるが、例えば、0.03~50質量%とすることができ、0.04~45質量%とすることができ、0.05~40質量%とすることができ、0.05~35質量%とすることができる。これらの好ましい範囲では、より魚系風味として調理感のある良好な焦がし風味が付与でき、より優れた味ぼけ抑制効果を得ることができる。上記範囲の上限及び/下限を任意に入れ替えてなる範囲も、本願明細書において例示される。該含有量の上限又は下限は、上記範囲からさらに低い値又は高い値であることができ、これらの値は、例えば0.06質量%、0.065質量%、0.07質量%、0.08質量%、0.09質量%、0.10質量%、0.12質量%、0.13質量%、0.14質量%、0.16質量%、0.18質量%、0.2質量%、0.3質量%、、0.4質量%、、0.5質量%、、0.6質量%、、0.7質量%、0.8質量%、0.9質量%、1.0質量%、1.5質量%、2.0質量%、2.5質量%。3.0質量%、3.5質量%、4.0質量%、4.5質量%、5.0質量%、5.5質量%、6.0質量%、6.5質量%、7.0質量%、7.5質量%、8.0質量%、8.5質量%、9.0質量%、9.5質量%、10質量%、11質量%、12質量%、13質量%、14質量%、15質量%、16質量%、17質量%、18質量%、19質量%、20質量%、25質量%、30質量%であることができる。
【0073】
本発明の食品における脂質の濃度は特に限定されず、脂質が調味オイルや前述した食品原料のいずれによるものでもよいが、添加対象物と調味オイルとの合計量(X)に対する調味オイルの割合の点からは、例えば0.03質量%以上、0.04質量%以上、0.05質量%以上とすることができる。また、これらの値は、例えば0.06質量%、0.07質量%、0.08質量%、0.09質量%、1.0質量%、1.5質量%、2.0質量%、2.5質量%、3.0質量%、3.5質量%、4.0質量%、4.5質量%、5.0質量%、5.5質量%、6.0質量%、6.5質量%、7.0質量%、7.5質量%、8.0質量%、8.5質量%、9.0質量%、9.5質量%、10質量%、11質量%、12質量%、13質量%、14質量%、15質量%、16質量%、17質量%、18質量%、19質量%、20質量%、25質量%、30質量%であることができる。なお、食品における脂質の濃度は、「食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)別添 栄養成分等の分析法等」にもとづき測定すればよい。
【0074】
また、段階(i)において、前述のとおり2-メチルブタナールが0.13μg/kg以上、及び/又は、2-エチルフランが0.26μg/kg以上、となるように調味オイルと添加対象物の合計に対して調味オイルを含有させればよいが、本発明の効果をより奏させる観点では、これら成分が食品に含まれる油中に溶解、保持されているのが好ましく、食品中の油に含まれるこれら成分の含有量が、食品全量に対して2-メチルブタナールであれば0.13μg/kg以上、2-エチルフランであれば0.26μg/kg以上であるのがより好ましい。食品全量に対するこれら成分の含有量は、例えば食品を小型ヒスコトロン(マイクロテックニチオン社製ホモジナイザーNS-310E3)等を用いて粥状の性状となるまで処理(通常は10000rpmで15秒程度)した後、遠心分離(9000rpmで30分間)し、分離された上清の油相部の2-メチルブタナールと、2-エチルフランの含有量の測定値をもとに算出することができる。また、2-メチルブタナールと2-エチルフラン以外の成分(2-メチルプロパナール、3-メチルブタナール、2-メチルフラン)についても同様であり、食品全量に対するこれら成分含有量が前述の範囲にあればよく、前記同様の手法により食品全量に対する各種成分の含有量を測定、確認することができる。
また、食品に含有された調味オイルにおけるこれら成分の含有量は、調味オイルを含有させることで得られた食品を例えば小型ヒスコトロン(マイクロテックニチオン社製ホモジナイザーNS-310E3)等を用いて粥状の性状となるまで処理(通常は10000rpmで15秒程度)した後、遠心分離(9000rpmで30分間)し、分離された上清の油相部における2-メチルブタナールと、2-エチルフランの含有量を測定することで算出することができる。なお、この手法により算出された食品に含有された調味オイルにおける2-メチルブタナール及び/又は2-エチルフランの濃度は、いずれも10~200,000μg/kgの範囲である。
【0075】
本食品の製造方法により得られる食品の種類は限定されないが、食品の味の強さの経時的低減の抑制という作用を有効に利用できるという観点から、製造あるいは加工から喫食に至るまでに時間を要する中食食品、及び/又は、惣菜であることが好ましい。
上記のうち、中食食品は、惣菜店やコンビニエンスストア・スーパーなどでお弁当や惣菜などを購入したり、外食店のデリバリーなどを利用して、家庭外で商業的に調理・加工されたものを購入して食べる形態の食品である。
上記のうち、惣菜は、そのまま食事として食べられる状態に調理されて販売されている主におかず、副食であり、家庭・職場・屋外などの任意の場所(いわゆる中食の環境)で調理されることなく食べられるように、食材を炊く、茹でる、揚げる、炒める、煮る、焼く、蒸す等の加熱調理及び非加熱調理の洗浄・殺菌処理や合(和)える等の調理加工により、衛生的に製造し、即食可能な加工食品をいう。これらの形態の食品は、簡易のトレーや容器、びん詰、缶詰、袋(パウチ)詰、レトルトパウチ等の形態で販売されている。一般に、中食食品、及び/又は、惣菜は製造してから消費者の口に入るまで数時間以上経過しているものが多く、常温域(10~25℃)や、チルド下(10℃より低い温度帯)で数時間~100時間程度保管される。また、冷凍下(-10℃以下)では1年程度保管される。パウチ品については、常温域やチルド下で約15日~45日程度もしくは約1年~2年程度保管される。
【0076】
上記「段階(ii)」は、段階(i)を経て調味オイルが含有された添加対象物を調理する段階である。調理する段階における調理法は特に限定されないが、例えば、煮る、炒める、焼く、浸す等の種々の調理法であればよく、これら調理法を1種、または2種以上を組み合わせて調理してもよい。
【0077】
[5]食品
本発明の食品は、前述した本発明の製造方法により製造された食品であって、調理感のある良好な焦がし風味が付与され、及び/又は、食品の味の強さの経時的低減が抑制された食品である。
本食品の種類は限定されないが、食品の味の強さの経時的低減の抑制という作用を有効に利用できるという観点から、中食食品、及び/又は、惣菜であることが好ましい。尚、「中食食品」及び「惣菜」については、前述した[4]における各々の説明をそのまま適用できる。
【0078】
本発明の食品は、添加対象物に対して調味オイルを含有せしめる段階(i)を含む方法により製造された食品である。即ち、上記所定の化合物が含まれるように調味オイルを含有させた食品である。このように処理された食品は、その構造又は特性によって直接特定することが不可能又はおよそ実際的でないという事情が存在する。本発明の食品は、調理感のある良好な焦がし風味が付与されながら、食品の味の強さの経時的低減が抑制されるという機能を有する。具体的には、実施例に示す通り、調味オイルを含有させた食品では、含有させない食品と比較して顕著な味ぼけ抑制作用が得られる。この作用は、2-メチルブタナール及び/又は2-エチルフランの含有により実現されると考えられるが、どのようにしてこの作用がもたらされるのかを一概に文言により特定することは不可能である。また、この作用の機序の解明は、例えば、含有させた2-メチルブタナール及び/又は2-エチルフランの経時変化を測定することで可能になるかもしれないが、その測定には、膨大な時間とコストを要する。また、人の味覚及び嗅覚は、これらの成分のみを単独で感知しているわけではなく、他の成分も含めて総合的且つバランスも含めて感知していると考えられるため、2-メチルブタナール及び/又は2-エチルフランの濃度測定のみにより機序を解明することは困難と考えられ、その機序の解明には、膨大な時間とコストを要し、特許出願の性質上、迅速性等を必要とすることに鑑みてもおよそ実際的ではない。
【0079】
[6]付与方法及び抑制方法
本発明の付与方法は、調理感のある良好な焦がし風味を食品に対して魚系風味として付与する方法であって、添加対象物に対して調味オイルを含有せしめて、調味オイルと添加対象物との合計に対して、2-メチルブタナールを0.13μg/kg以上、及び/又は、2-エチルフランを0.26μg/kg以上にすることを特徴とする。
本抑制方法は、食品の味の強さの経時的低減を抑制する方法であって、添加対象物に対して調味オイルを含有せしめて、調味オイルと添加対象物との合計に対して、2-メチルブタナールを0.13μg/kg以上、及び/又は、2-エチルフランを0.26μg/kg以上にすることを特徴とする。
これらの本方法により得られる食品は、魚系風味として調理感のある良好な焦がし風味を得ることができる。また、食品の味の強さの経時的低減を抑制することができる。即ち、味ぼけを抑制することができる。
【0080】
上記「添加対象物」は、前述した[4]における「添加対象物」の説明をそのまま適用できる。
上記「調味オイルを含有」は、添加対象物と調味オイルとの合計量(X)に対して、2-メチルブタナールが0.13μg/kg以上、及び/又は、2-エチルフランが0.26μg/kg以上、となるように添加対象物に対して、調味オイルを含有させることができればよい。
【0081】
この含有では、前述の通り、添加対象物は食品原料からなるものであるが、食品原料自体は加工前のものでも、加工後のものであってもよく、添加対象物にこれら食品原料を1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、調味オイルを含有せしめる段階での添加対象物は、調理前や調理時の状態であっても、調理後の状態であってもよい。また、調味オイルを含有せしめるのに、調味オイルそのものを含有せしめてもよく、調味オイルを含有する液体調味料としたうえで含有せしめてもよい。例えば、後述する実施例では、冷凍サトイモを用いたサトイモの煮物を試料(食品)として用いており、当該食品は、調味オイルと、食品原料として冷凍サトイモ、醤油、砂糖、みりん、塩、料理酒、焼きあごだし、及び水の混合物を煮て得ている。また、調味オイルと、食品原料として冷凍サトイモ、及び液体調味料(醤油、砂糖、みりん、塩、料理酒、焼きあごだし、及び水)の混合物を煮て得ている。更には、調理前に調味オイルを含有させると共に、得られた調理後品に対しても調味オイルを含有させることができる。
尚、[4](食品の製造方法)において前述した通り、本付与方法及び本抑制方法において添加対象物に調味オイルを含有せしめる際は、1回で行うこともできるが、複数回に分けて行うこともできる。
【0082】
本抑制方法では、2-メチルブタナールは、調味オイルと添加対象物との合計に対して0.13μg/kg以上となるように、添加対象物に含有されればよいが、味ぼけをより効果的に抑制するという観点からは、0.15μg/kg以上が好ましく、0.20μg/kg以上がより好ましく、0.22μg/kg以上が更に好ましく、0.55μg/kg以上が奥に好ましい。一方、この濃度の上限は限定されないが、100,000μg/kg以下とすることができる。更に、香味のバランスを整えやすいという観点からは、10,000μg/kg以下が好ましく、9,000μg/kg以下がより好ましく、8,000μg/kg以下が更に好ましい。これらの上下限は適宜に組合せることができるが、例えば、0.13~100,000μg/kgとすることができ、0.15~10,000μg/kgとすることができ、0.20~9,000μg/kgとすることができ、0.22~8,000μg/kgとすることができ、0.55~8,000μg/kgとすることができる。これらの好ましい範囲では、より優れた味ぼけ抑制効果を得ることができる。上記範囲の上限及び/下限を任意に入れ替えてなる範囲も、本願明細書において例示される。該含有量の上限又は下限は、上記範囲からさらに低い値又は高い値であることができ、これらの値は、例えば0.25μg/kg、0.30μg/kg、0.35μg/kg、0.40μg/kg、0.50μg/kg、0.60μg/kg、0.80μg/kg、1.0μg/kg、1.5μg/kg、2.0μg/kg、2.5μg/kg、3.0μg/kg、3.5μg/kg、4.0μg/kg、4.5μg/kg、5.0μg/kg、6.0μg/kg、7.0μg/kg、8.0μg/kg、9.0μg/kg、10.0μg/kg、15.0μg/kg、20.0μg/kg、30.0μg/kg、40.0μg/kg、50μg/kg、100μg/kg、200μg/kg、300μg/kg、400μg/kg、500μg/kg、1000μg/kg、2000μg/kg、3000μg/kg、4000μg/kg、4500μg/kg、5000μg/kg、5500μg/kg、6000μg/kg、6500μg/kg、7000μg/kg、7500μg/kgであることができる。
【0083】
同様に、2-エチルフランは、調味オイルと添加対象物との合計(X)に対して0.26μg/kg以上となるように、添加対象物に対して含有されればよいが、味ぼけをより効果的に抑制するという観点からは、0.30μg/kg以上が好ましく、0.35μg/kg以上がより好ましく、0.40μg/kg以上が更に好ましい。一方、この濃度の上限は限定されないが、100,000μg/kg以下とすることができる。更に、香味のバランスを整えやすいという観点からは、10,000μg/kg以下が好ましく、9,000μg/kg以下がより好ましく、8,000μg/kg以下が更に好ましい。これらの上下限は適宜に組合せることができるが、例えば、0.26~100,000μg/kgとすることができ、10,000μg/kgとすることができ、0.30~9,000μgμg/kgとすることができ、0.35~8,000μg/kgとすることができる。これらの好ましい範囲では、より優れた味ぼけ抑制効果を得ることができる。上記範囲の上限及び/下限を任意に入れ替えてなる範囲も、本願明細書において例示される。該含有量の上限又は下限は、上記範囲からさらに低い値又は高い値であることができ、これらの値は、例えば0.45μg/kg、0.50μg/kg、0.55μg/kg、0.60μg/kg、0.65μg/kg、0.70μg/kg、0.80μg/kg、1.0μg/kg、1.5μg/kg、2.0μg/kg、2.5μg/kg、3.0μg/kg、3.5μg/kg、4.0μg/kg、4.5μg/kg、5.0μg/kg、6.0μg/kg、7.0μg/kg、8.0μg/kg、9.0μg/kg、10.0μg/kg、15.0μg/kg、20.0μg/kg、30.0μg/kg、40.0μg/kg、50μg/kg、100μg/kg、200μg/kg、300μg/kg、400μg/kg、500μg/kg、1000μg/kg、2000μg/kg、3000μg/kg、4000μg/kg、4500μg/kg、5000μg/kg、5500μg/kg、6000μg/kg、6500μg/kg、7000μg/kg、7500μg/kgであることができる。
【0084】
上述の2-メチルブタナール及び2-エチルフラン以外の成分については、添加対象物に含有させる量は限定されないが、味ぼけをより効果的に抑制するという観点から、2-メチルプロパナールは、調味オイルと添加対象物との合計(X)に対して0.13μg/kg以上となるように、添加対象物に対して含有されればよいが、味ぼけをより効果的に抑制するという観点からは、0.15μg/kg以上が好ましく、0.20μg/kg以上がより好ましく、0.25μg/kg以上が更に好ましい。一方、この濃度の上限は限定されないが、100,000μg/kg以下とすることができる。更に、香味のバランスを整えやすいという観点からは、10,000μg/kg以下が好ましく、9,000μg/kg以下がより好ましく、8,000μg/kg以下が更に好ましい。これらの上下限は適宜に組合せることができるが、例えば、0.13~100,000μg/kgとすることができ、0.15~10,000μg/kgとすることができ、0.20~9,000μg/kgとすることができ、0.25~8,000μg/kgとすることができる。これらの好ましい範囲では、より優れた味ぼけ抑制効果を得ることができる。上記範囲の上限及び/下限を任意に入れ替えてなる範囲も、本願明細書において例示される。該含有量の上限又は下限は、上記範囲からさらに低い値又は高い値であることができ、これらの値は、例えば0.30μg/kg、0.35μg/kg、0.40μg/kg、0.45μg/kg、0.50μg/kg、0.60μg/kg、0.80μg/kg、1.0μg/kg、1.5μg/kg、2.0μg/kg、2.5μg/kg、3.0μg/kg、3.5μg/kg、4.0μg/kg、4.5μg/kg、5.0μg/kg、6.0μg/kg、7.0μg/kg、8.0μg/kg、9.0μg/kg、10.0μg/kg、15.0μg/kg、20.0μg/kg、30.0μg/kg、40.0μg/kg、50μg/kg、100μg/kg、200μg/kg、300μg/kg、400μg/kg、500μg/kg、1000μg/kg、2000μg/kg、3000μg/kg、4000μg/kg、4500μg/kg、5000μg/kg、5500μg/kg、6000μg/kg、6500μg/kg、7000μg/kg、7500μg/kgであることができる。
【0085】
また、3-メチルブタナールは、調味オイルと添加対象物との合計(X)に対して0.13μg/kg以上となるように、添加対象物に対して含有されればよいが、0.15μg/kg以上が好ましく、0.20μg/kg以上がより好ましく、0.25μg/kg以上が更に好ましい。一方、この濃度の上限は限定されないが、100,000μg/kg以下とすることができる。更に、香味のバランスを整えやすいという観点からは、10,000μg/kg以下が好ましく、9,000μg/kg以下がより好ましく、8,000μg/kg以下が更に好ましい。これらの上下限は適宜に組合せることができるが、例えば、0.13~100,000μg/kgとすることができ、0.15~10,000μg/kgとすることができ、0.20~9,000μg/kgとすることができ、0.25~8,000μg/kgとすることができる。これらの好ましい範囲では、より優れた味ぼけ抑制効果を得ることができる。上記範囲の上限及び/下限を任意に入れ替えてなる範囲も、本願明細書において例示される。該含有量の上限又は下限は、上記範囲からさらに低い値又は高い値であることができ、これらの値は、例えば0.30μg/kg、0.35μg/kg、0.40μg/kg、0.45μg/kg、0.50μg/kg、0.60μg/kg、0.80μg/kg、1.0μg/kg、1.5μg/kg、2.0μg/kg、2.5μg/kg、3.0μg/kg、3.5μg/kg、4.0μg/kg、4.5μg/kg、5.0μg/kg、6.0μg/kg、7.0μg/kg、8.0μg/kg、9.0μg/kg、10.0μg/kg、15.0μg/kg、20.0μg/kg、30.0μg/kg、40.0μg/kg、50μg/kg、100μg/kg、200μg/kg、300μg/kg、400μg/kg、500μg/kg、1000μg/kg、2000μg/kg、3000μg/kg、4000μg/kg、4500μg/kg、5000μg/kg、5500μg/kg、6000μg/kg、6500μg/kg、7000μg/kg、7500μg/kgであることができる。
【0086】
更に、2-メチルフランは、調味オイルと添加対象物との合計(X)に対して0.05μg/kg以上となるように、添加対象物に対して含有されればよいが、0.08μg/kg以上が好ましく、0.10μg/kg以上がより好ましく、0.13μg/kg以上が更に好ましい。一方、この濃度の上限は限定されないが、100,000μg/kg以下とすることができる。更に、香味のバランスを整えやすいという観点からは、10,000μg/kg以下が好ましく、9,000μg/kg以下がより好ましく、8,000μg/kg以下が更に好ましい。これらの上下限は適宜に組合せることができるが、例えば、0.05~100,000μg/kgとすることができ、0.08~10,000μg/kgとすることができ、0.10~9,000μg/kgとすることができ、0.13~8,000μg/kgとすることができる。これらの好ましい範囲では、より優れた味ぼけ抑制効果を得ることができる。上記範囲の上限及び/下限を任意に入れ替えてなる範囲も、本願明細書において例示される。該含有量の上限又は下限は、上記範囲からさらに低い値又は高い値であることができ、これらの値は、例えば0.15μg/kg、0.20μg/kg、0.25μg/kg、0.30μg/kg、0.35μg/kg、0.40μg/kg、0.50μg/kg、0.60μg/kg、0.80μg/kg、1.0μg/kg、1.5μg/kg、2.0μg/kg、2.5μg/kg、3.0μg/kg、3.5μg/kg、4.0μg/kg、4.5μg/kg、5.0μg/kg、6.0μg/kg、7.0μg/kg、8.0μg/kg、9.0μg/kg、10.0μg/kg、15.0μg/kg、20.0μg/kg、30.0μg/kg、40.0μg/kg、50μg/kg、100μg/kg、200μg/kg、300μg/kg、400μg/kg、500μg/kg、1000μg/kg、2000μg/kg、3000μg/kg、4000μg/kg、4500μg/kg、5000μg/kg、5500μg/kg、6000μg/kg、6500μg/kg、7000μg/kg、7500μg/kgであることができる。
【0087】
本付与方法、本抑制方法を好適に適用できる食品の種類は限定されないが、食品の味の強さの経時的低減の抑制という作用を有効に利用できるという観点から、中食食品、及び/又は、惣菜であることが好ましい。尚、「中食食品」及び「惣菜」については、前述した[4]における各々の説明をそのまま適用できる。
【実施例
【0088】
以下、本発明を実施例に則して更に詳細に説明するが、これらの実施例はあくまでも説明のために便宜的に示す例に過ぎず、本発明は如何なる意味でもこれらの実施例に限定されるものではない。
【0089】
以下の実施例では、下記手法により香味成分の濃縮、GCMS測定(濃縮測定対象気体を用いたガスクロマトグラフによる香味成分ピーク面積測定、質量分析測定及び定量)を行った。
[香味成分の濃縮]
サンプル100gを1Lバイアルに測り取り、密封した後60℃で60min予備加熱した。その後、バイアル中の気相をサンプルとして200mlを揮発性成分濃縮装置(Entech社製、型式「Entech7200」)に導入して、香味成分の濃縮を行った。濃縮条件は以下の通りである。濃縮モード:CTD、M1(Empty)温度:Trap/-40℃→Desorb/10℃、M2(Tenax)温度:Trap/-50℃→Desorb/220℃、M3(CryoFoucus)温度:Trap/-175℃→Desorb/80℃
【0090】
[濃度測定]
・測定機器:Agilent 7980B GC System (Agilent Technologies社製)
・GCカラム:DB-1(Agilent Technologies社製)、長さ60m、口径0.32mm、膜厚1.0μm
・キャリア:Heガス、ガス流量1.0mL/min
・温度条件:35℃(5min)保持→220℃まで10℃/min昇温→5分間保持
【0091】
[質量分析条件]
・測定機器:Agilent 5977B MSD(Agilent Technologies社製)
・イオン化方式:EI
・測定モード:SIM
【0092】
[1]香味成分の特定
(1)あご煮干し(100g)をキャノーラオイル(400g)に浸漬し、130~190℃の各温度で10分間加熱して得た抽出油をGCMS分析に供し、種々の香味成分の定性及び定量を行った。更に、GCMSのスニッフィングポートを介して実際に個々の香味成分を嗅ぐことにより、各成分の雰囲気と強度の差異等を評価した。これらの過程を経て、焼きあごだし特有の「調理感のある良好な焦がし風味」の形成に寄与する成分の特定を試みた。
その結果、500種以上の候補物質を数十種へ絞り込み、更に絞り込みを行うことによって、2-メチルプロパナール、3-メチルブタナール、2-メチルブタナール、2-メチルフラン、2-エチルフラン、2,3-ブタンジオン、ブタナール、2-ブタノン、2-ブテナール、2-プロペン-1-アミン、3-ペンタノン、2-エチル-5-メチルフラン、2-ペンチルフラン、2,3-ペンタンジオン、メタンチオールの15種の候補物質を得た。
【0093】
(2)上記(1)で得られた成分は、水にも油にも溶解する両親媒性のものや、水溶性を有するものの、油溶性がまさるものが多いことから、あご煮干し(100g)をキャノーラオイル(400g)に浸漬し、50℃(実験例1)、70℃(実験例2)、90℃(実験例3)、110℃(実験例4)、130℃(実験例5)、150℃(実験例6)、170℃(実験例7)及び190℃(実験例8)の各温度で、各々10分間加熱して得た抽出油を調製した。ここで調整した抽出油の脂質の濃度は、99.5~99.8質量%であった。なお、脂質の濃度は「食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)別添 栄養成分等の分析法等」にもとづき測定した。
そして、これらの抽出油を各々GCMSに供し、各成分の濃度を測定した。その結果、50℃抽出油からの濃度増加が大きい成分として、2-エチルフラン、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、2-メチルプロパナール、2-メチルフランの5成分の濃度変化を表1に示した。また、加熱温度と各成分の濃度との相関をグラフにして図1に示した。
【0094】
【表1】
【0095】
これら5成分は、「調理感のある焦がし風味」を形成するうえで重要な成分と考えられる。更に、図1からは、上記5成分のなかでも、濃度が特に高い2-エチルフランは重要な成分であることが分かる。2-エチルフランは、70~90℃の加熱において大幅な増加が認められ、130℃において最大となり、170~190℃の加熱において大幅な減少が認められる。このことから、50℃以上の温度で加熱した抽出油において魚系風味を得ることができ、更に、70℃以上の温度且つ190℃未満の温度で加熱した抽出油が「調理感のある焦がし風味」を形成するうえで好ましいことが分かる。
一方、その他の4成分の濃度は、90~130℃にかけて大きく上昇することが分かる。なかでも、2-メチルプロパナール及び3-メチルブタナールが110~130℃以上において飽和するのに対して、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールは、170℃程まで濃度が更に高くなることが分かる。このことから、2-メチルブタナール及び3-メチルブタナールも「調理感のある焦がし風味」を形成するうえで5成分のなかでも重要な成分と考えられ、このうち、2-メチルブタナールはより高い濃度を有しており、重要な成分と考えられる。即ち、上述の5成分のなかでも、2-メチルブタナールと2-エチルフランとがより重要な成分と考えられる。
尚、2-エチルフランの濃度は、その他の4成分の濃度に比べて大きいため、2-エチルフランの濃度は左軸に従い、その他の4成分の濃度は右軸に従うように図1に示している。
【0096】
[2]試薬を用いた再現性
(1)低濃度再現性
そこで、50℃抽出油(実験例1)に対して、2-メチルブタナール(東京化成工業株式会社)又は2-エチルフラン(東京化成工業株式会社)を試薬で添加することによって、これらの成分が単独(「調理感のある焦がし風味」を形成する他成分の添加がなくとも)で「調理感のある焦がし風味」を代表的に有している130℃抽出(実験例5)の香味へと近づけることができるかの検討を下記方法で行った。
尚、50℃抽出油(実験例1)は、魚系風味を有するものの、調理感のある焦がし風味という観点からは、他の抽出油より乏しいものである。一方、130℃抽出油(実験例5)は、魚系風味を有しつつ、調理感のある焦がし風味が特に優れたものである。
【0097】
50℃抽出油(実験例1)に対して、試薬である2-メチルブタナールを添加することによって、2-メチルブタナールの濃度が3μg/kg(実験例9)、10μg/kg(実験例10)、100μg/kg(実験例11)となった調味オイルを調製した。
同様に、50℃抽出油(実験例1)に対して、試薬である2-エチルフランを添加することによって、2-エチルフランの濃度が7μg/kg(実験例12)、10μg/kg(実験例13)、100μg/kg(実験例14)となった調味オイルを調製した。
更に、90質量%の50℃抽出油(実験例1)と、10質量%の130℃抽出油(実験例5)と、を混合した調味オイル(実験例15)を調製した。
【0098】
そして、実験例1、実験例9~15の各調味オイルを評価用グラスに10gずつ投入して蓋をし、40℃(口内での香り立ちを想定した温度)に保温した。その後、8名の官能検査員が各々の評価用グラスから香りを嗅ぎ、実験例15が有する「調理感のある焦がし風味を有する魚系風味」を「5」とした場合の各調味オイルの香りの再現性を評価した。
尚、低濃度再現性の試験では、実験例15として、130℃抽出油を50℃抽出油で希釈した調味オイルを利用している。130℃抽出油をそのまま用いると、実験例9~14との香りの強度差が過度に大きくなるために、正確な評価を行い難くなるからである。
【0099】
再現性の評価は、各官能検査員が自らの評価と最も近いと判断した下記に示す5段階の評点のどれか1つを選択する方式で行った。評価結果の集計は、8名のスコアの算術平均値として算出し、小数点以下第2位を四捨五入した。この結果を表2に示した。
5:実験例15を再現している。
4:実験例15をある程度再現している。
3:実験例15をやや再現している。
2:実験例15をわずかに再現している。
1:実験例15を再現している要素がない。
【0100】
【表2】
【0101】
表2の結果から、2-メチルブタナール及び2-エチルフランのいずれにおいても、濃度10μg/kg以上となることで、評価の中央値3を超えることが分かる。従って、アルデヒド系香味成分として2-メチルブタナール、又は、フラン系香味成分として2-エチルフランを含み、これら香味成分の濃度が10μg/kgであることにより、調理感のある良好な焦がし風味を、食品に対して魚系風味として付与できることが分かる。
【0102】
(2)高濃度再現性
同様にして、50℃抽出油(実験例1)に対して、2-メチルブタナール又は2-エチルフランを試薬により添加することによって、これらの成分が単独(「調理感のある焦がし風味」を形成する他成分の添加がなくとも)で、「調理感のある焦がし風味」を代表的に有している130℃抽出(実験例5)の香味へと近づけることができるかの検討を下記方法で行った。
【0103】
50℃抽出油(実験例1)に対して、試薬である2-メチルブタナールを添加することによって、2-メチルブタナールの濃度が1,000μg/kg(実験例16)、10,000μg/kg(実験例17)、100,000μg/kg(実験例18)となった調味オイルを調製した。
同様に、50℃抽出油(実験例1)に対して、試薬である2-エチルフランを添加することによって、2-エチルフランの濃度が1,000μg/kg(実験例19)、10,000μg/kg(実験例20)、100,000μg/kg(実験例21)となった調味オイルを調製した。
【0104】
そして、実験例1、実験例16~21の各調味オイルを評価用グラスに10gずつ投入して蓋をし、常温下で維持した。その後、8名の官能検査員が各々の評価用グラスから香りを嗅ぎ、実験例5が有する「調理感のある焦がし風味を有する魚系風味」を「5」とした場合の各調味オイルの香りの再現性を評価した。
【0105】
再現性の評価は、各官能検査員が自らの評価と最も近いと判断した下記に示す5段階の評点のどれか1つを選択する方式で行った。評価結果の集計は、8名のスコアの算術平均値として算出し、小数点以下第2位を四捨五入した。この結果を表2に示した。
5:実験例5を再現している。
4:実験例5をある程度再現している。
3:実験例5をやや再現している。
2:実験例5をわずかに再現している。
1:実験例5を再現している要素がない。
【0106】
【表3】
【0107】
表3の結果から、2-メチルブタナール及び2-エチルフランのいずれにおいても濃度100,000μg/kgでも、評価値3を超えることが分かる。従って、アルデヒド系香味成分として2-メチルブタナール、又は、フラン系香味成分として2-エチルフランを含み、これら香味成分の濃度が100,000μg/kg以下であることにより、調理感のある良好な焦がし風味を、食品に対して魚系風味として付与できることが分かる。一方で、実験例17の評価値4.6に対して、実験例18の評価値は4.0と低下が認められる。同様に、実験例19の評価値4.4に対して、実験例20の評価値は3.6、実験例21の評価値は3.4であり、各々評価値の低下が認められる。従って、2-メチルブタナールにおいても、2-エチルフランにおいても、各々過度な含有となると、再現性を損なう可能性があることが分かる。
【0108】
[3]部位による香味成分の違い
あご煮干しを、ひれ、身、皮の3部に分解し、各々を100gずつ用意した。この各々を、キャノーラオイル(400g)に浸漬し、130℃で10分間加熱して抽出油を得た。得られた抽出油(ひれ-実験例22、身-実験例23、皮-実験例24)を、各々GCMSに供し、2-メチルプロパナール、3-メチルブタナール、2-メチルブタナール、2-メチルフラン、2-エチルフランの5成分の濃度を測定した。その結果を表4に示した。
【0109】
【表4】
【0110】
表1-3までの結果から、調味オイルの香味成分として、2-メチルブタナール及び2-エチルフランの濃度の影響が大きいことが理解されるところ、表4の結果から、2-メチルブタナール及び2-エチルフランの濃度をより効果的に向上させ得るのは、ひれ、身及び皮のなかでは、皮が最も効果的であることが分かる。
【0111】
以上から、例えば、魚系風味を有するものの、調理感のある焦がし風味においては不十分な調味オイルでは、2-メチルブタナール及び/又は2-エチルフランが香味成分として濃度10~200,000μg/kgの範囲になるように添加することで、食品に対して魚系風味を調理感のある焦がし風味を伴って付与できる調味オイルとすることができることが分かる。また、この2-メチルブタナール及び/又は2-エチルフランの添加は、試薬によって行うこともできるし、魚系乾物と基油とをともに所定温度以上の温度域において加熱して得た抽出油を用いて行うこともできることが分かる。更に、例えば、魚系乾物と基油とをともに70℃以上の温度で加熱して得た抽出油は、2-メチルブタナール及び2-エチルフランが香味成分として濃度10~200,000μg/kgの範囲で含むため、抽出油そのものを調味オイルとして利用することで、食品に対して魚系風味を調理感のある焦がし風味を伴って付与できることが分かる。
【0112】
[4]調味オイルを含有する食品及び製造
(1)調味オイルを含有する食品(サトイモの煮物)
(1-1)食品の製造(実施例1~32、参考例1~2)
上記[1](2)で得た実験例1~8の各種調味オイルを、冷凍さといも、醤油、砂糖、みりん、塩、料理酒、焼きあごだし(あご煮干し50gを水950gに浸漬し、20時間冷蔵庫にて静置後、No.2ろ紙ろ過したもの、以下同様)、水を入れた鍋に表5~7に示す配合となるよう混合し、軽くかき混ぜたあと火にかけ、中火で20分煮て、実施例1~26、29~30の試験品(食品)を得た。
また、冷凍さといも以外の原料(醤油、砂糖、みりん、塩、料理酒、焼きあごだし、水、実験例5又は実験例8の調味オイル)を攪拌、混合した後、湯浴で90℃達温後、60℃まで下げ、200mlのペットボトルに入れ、打栓し、調味オイル含有調味料を調整した後、約7日間25℃で保管したもの全量と、冷凍さといもを鍋にいれ、中火で20分にて、実施例27と28の試験品(食品)を得た。
また、上記[1](2)で得た実験例2の調味オイルに試薬である2-メチルブタナール(東京化成工業株式会社)を添加し、よく混合し、配合油とした後、冷凍さといも、醤油、砂糖、みりん、塩、料理酒、焼きあごだし、水を入れた鍋に表7に示す配合となるよう混合し、軽くかき混ぜたあと火にかけ、中火で20分煮て、実施例31の試験品(食品)を得た。上記[1](2)で得た実験例8の調味オイルに試薬である2-エチルフラン(東京化成工業株式会社)を添加し、よく混合し、配合油とした後、冷凍さといも、醤油、砂糖、みりん、塩、料理酒、焼きあごだし、水を入れた鍋に表7に示す配合となるよう混合し、軽くかき混ぜたあと火にかけ、中火で20分煮て、実施例32の試験品(食品)を得た。
更に、参考例として、調味オイルを配合せず、冷凍さといも、醤油、砂糖、みりん、塩、料理酒、焼きあごだし、水、キャノーラオイルを鍋に入れ、上記同様の方法で、参考例1及び2の試験品(食品)を得た。
尚、上記醤油としてキッコーマン社の品名「こいくちしょうゆ」を、上記みりんとしてミツカン社、品名「本みりん」を、上記料理酒として、キッコーマン社、品名「清酒風料理酒」を、上記キャノーラオイルとして、日清オイリオ社、品名「日清キャノーラ油」を用いた。
【0113】
(2)食品の評価
(2-1)魚系風味の評価
上記(1)で得た実施例1~32及び参考例1~2試験品(食品)を容器に取り分け、室温まで冷ました試験品(以下、単に「製造直後品」ともいう)に関して「調理感のある良好な焦がし風味を有する魚系風味」に関する官能評価に供した。評価の詳細は後述の通りである。
【0114】
(2-2)低減抑制の評価
上記(1)で得た実施例1~32及び参考例1~2の試験品(食品)を容器に取り分け、蓋をし、冷蔵庫(庫内温度:10℃)で24時間、48時間、及び96時間、冷蔵保管した。保管後、これらを室温に戻してから、室温まで冷ました製造直後品(保管0時間相当)を対照とし、「味の強さ」の官能評価を行った。各評価の詳細は後述の通りである。
【0115】
(2-3)評価方法
「調理感のある良好な焦がし風味を有する魚系風味」の評価は、各官能検査員が喫食し、自らの評価と最も近いと判断した下記に示す5段階の評点のどれか1つを選択する方式で行った。評価結果の集計は、10名のスコアの算術平均値として算出し、小数点以下第2位を四捨五入した。この結果を表5~7に示した。
【0116】
<評価項目と評点>
5:調理感のある良好な焦がし風味を有する魚系風味が十分感じられ、好ましい。
4:調理感のある良好な焦がし風味を有する魚系風味がよく感じられ、やや好ましい。
3:調理感のある良好な焦がし風味を有する魚系風味が感じられ、許容範囲。
2:調理感のある良好な焦がし風味を有する魚系風味がやや感じられず、やや好ましくない。
1:調理感のある良好な焦がし風味を有する魚系風味が感じられず、好ましくない。
【0117】
「味の強さの経時的低減の抑制」の評価は、各官能検査員が喫食し、自らの評価と最も近いと判断した下記に示す5段階の評点のどれか1つを選択する方式で行った。尚、この評価は、前述の通り製造直後品(保管0時間相当)を対照とした「味の強さ」の官能評価である。評価結果の集計は、10名のスコアの算術平均値として算出し、小数点以下第2位を四捨五入した。この結果を表5~7に示した。
【0118】
<評価項目と評点>
5:製造直後品に対して試験品の味の強さが経時的に全く低減しておらず、好ましい。
4:製造直後品に対して試験品の味の強さが経時的にほとんど低減しておらず、やや好ましい。
3:製造直後品に対して試験品の味の強さが経時的にあまり低減しておらず、許容範囲。
2:製造直後品に対して試験品の味の強さが経時的にやや低減しており、やや好ましくない。
1:製造直後品に対して試験品の味の強さが経時的に低減しており、好ましくない。
【0119】
【表5】
【0120】
【表6】
【0121】
【表7】
【0122】
尚、(1)で得た実施例1~32及び参考例1~2試験品(食品)を、容器に取り分け、蓋をし、冷蔵庫(庫内温度:10℃)で24時間、48時間、及び96時間、冷蔵保管した後、電子レンジで600Wで3分間加熱した後、加熱後の食品の温度が40℃となった時点で、同じく食品の温度が40℃となった製造直後品(保管0時間相当)を対照に喫食し、「味の強さ」の官能評価を行った結果も同様の結果が得られた。
【0123】
(3)調味オイルを含有する食品(その他)
(3-1)食品の製造(肉野菜炒め、実施例33~34)
フライパンに、上記[1](2)で得た実験例5(130℃)又は実験例6(150℃)の調味オイル30gをひいて、おろししょうが3g、豚肉バラ肉80gを炒め、火が通ったら順に、キャベツ300g、にんじん30g、たまねぎ50gを入れて炒め、料理酒(キッコーマン社、品名「料理の清酒」)15g、醤油(キッコーマン社、品名「こいくちしょうゆ」)12g、塩1.5g、こしょう1.5gで調味することにより、実施例33及び実施例34の食品(肉野菜炒め)を得た。
上記において、添加対象物(493g)と調味オイル(30g)との合計(X=523g)における調味オイルの含有割合は5.74%(30g/523g×100)である。
これらを、後述する官能評価の手法を用いて、表8に示す各評価項目に関して評価を行い、その結果を表8に示した。尚、調味オイルの添加タイミングを調理後にしても同じ効果であった。
【0124】
(3-2)食品の製造(ひじきの煮物、実施例35、参考例3)
キャノーラオイル5gを熱した鍋に、水戻ししたひじき87gを投入して炒め、ひじき全体に油が回った後、醤油(キッコーマン社、品名「こいくちしょうゆ」)8g、料理酒(キッコーマン社、品名「料理の清酒」)7g、砂糖14g、水68g、実験例5の調味オイル(130℃抽出油)5gを加えて、煮立らせた。その後、煮汁が少量になるまで煮詰めることにより、実施例35の食品(ひじきの煮物)を得た。
上記において、添加対象物(189g)と調味オイル(5g)との合計(X=194g)における調味オイルの含有割合は2.58%(5g/194g×100)である。
更に、調味オイルに代えてキャノーラオイルを用いた以外は同様にして、参考例3の食品(ひじきの煮物)を得た。
これらを、後述する官能評価の手法を用いて、表8に示す各評価項目に関して評価を行い、その結果を表8に示した。尚、調味オイルの添加タイミングを調理後にしても同じ効果であった。
【0125】
(3-3)食品の製造(中華スープ、実施例36~37)
鶏ガラスープ(味の素社、品名「丸鶏がらスープ」)5g、水200gを加え、火にかけて沸騰した後、実験例5の調味オイル(130℃抽出油)20g、溶き卵27gを投入して、ひと煮立ちさせることにより、実施例36の食品(中華スープ)を得た。また、同様にして、実験例6(150℃抽出油)20gを用いて、実施例37の食品(中華スープ)を得た。
上記において、添加対象物(232g)と調味オイル(20g)との合計(X=252g)における調味オイルの含有割合は7.94%(20g/252g×100)である。
これらを、後述する官能評価の手法を用いて、表8に示す各評価項目に関して評価を行い、その結果を表8に示した。尚、調味オイルの添加タイミングを調理後にしても同じ効果であった。
【0126】
(3-4)食品の製造(カツ丼、実施例38)
豚肉ロース肉70gに、塩・こしょう0.5gを振り掛けた後、小麦粉5.6g、溶き卵7g、パン粉17.5gの順に各素材を付着させることで衣を形成し、次いで、揚げることによりカツを得た。このカツを一口大に細分化した。
鍋にかつおだし(水2000gを沸騰させ、かつお節100gを投入して90℃で1分加熱後、節をろ布でろ過したもの、以下同様)35g、料理酒(キッコーマン社、品名「料理の清酒」)15g、みりん(ミツカン社、品名「本みりん」)18g、醤油(キッコーマン社、品名「こいくちしょうゆ」)17g、砂糖5g、実験例8の調味オイル(190℃抽出油)0.4gを投入して煮立たせた。次いで、たまねぎ(40g)を投入して火を通した後、火を弱めて、一口大に切ったカツを投入し、溶き卵(55g)をまわし入れてとじたうえで、ご飯(250g)のうえに鍋内の調理物を乗せることにより、実施例38の食品(カツ丼)を得た。
上記において、添加対象物(535.6g)と調味オイル(0.4g)との合計(X=536g)における調味オイルの含有割合は0.075%(0.4g/536g×100)である。
これを、後述する官能評価の手法を用いて、表8に示す各評価項目に関して評価を行い、その結果を表8に示した。
【0127】
(3-5)食品の製造(炊き込みご飯、実施例39、参考例4)
炊飯釜に、研いだ白米150g、みりん(ミツカン社、品名「本みりん」)18g、料理酒(キッコーマン社、「料理の清酒」)15g、醤油(キッコーマン社、「こいくちしょうゆ」)17g、砂糖9g、かつおだし67gを投入した。更に、各々細かく切った、鶏もも肉42g、油揚げ7g、ごぼう15g、にんじん22g、しいたけ30gを投入した。更に、実験例8の調味オイル(190℃抽出油)0.3g、水67.7gを投入し、炊飯器にセットして炊き上げた。炊き上がったら全体を混ぜ合わせることにより、実施例39の食品(炊き込みご飯)を得た。
上記において、添加対象物(459.7g)と調味オイル(0.3g)との合計(X=460g)における調味オイルの含有割合は0.065%(0.3g/460g×100)である。
更に、調味オイルに代えてキャノーラオイルを用いた以外は同様にして、参考例4の食品(炊き込みご飯)を得た。
これらを、後述する官能評価の手法を用いて、表8に示す各評価項目に関して評価を行い、その結果を表8に示した。尚、調味オイルの添加タイミングを調理後にしても同じ効果であった。
【0128】
(3-6)食品の製造(茶碗蒸し、実施例40)
溶き卵32g、かつおだし129g、塩0.5g、醤油(キッコーマン社、「こいくちしょうゆ」)1.25g、みりん(ミツカン社、品名「本みりん」)1.1gをあわせて卵液を形成した。次いで、鶏むね肉35g、小えび20g、かまぼこ10g、みつば1g、実験例8の調味オイル(190℃抽出油)0.15gを投入した器に、先に得た卵液を掻き混ぜながら注ぎ込んだ。その後、器を蒸し器にセットして15分ほど蒸すことにより、実施例40の食品(茶碗蒸し)を得た。
上記において、添加対象物(229.85g)と調味オイル(0.15g)との合計(X=230g)における調味オイルの含有割合は0.065%(0.15g/230g×100)である。
これを、後述する官能評価の手法を用いて、表8に示す各評価項目に関して評価を行い、その結果を表8に示した。
【0129】
(4)食品の評価
(4-1)魚系風味の評価
上記(3)で得た実施例33~40及び参考例3~4の食品において、室温まで冷ました食品(以下、単に「製造直後品」ともいう)に関して「調理感のある良好な焦がし風味を有する魚系風味」(表8は「魚系風味」と記載)に関する官能評価に供した。評価の詳細は後述の通りである。
【0130】
(4-2)低減抑制の評価
上記(3)で得た実施例33~40及び参考例3~4の食品を容器に入れ、蓋をし、冷蔵庫(庫内温度:10℃)で24時間、48時間、及び96時間、冷蔵保管した。保管後、これらを室温に戻してから、室温まで冷ました製造直後品(保管0時間)を対照とし、「味の強さ」の官能評価を行った。各評価の詳細は後述の通りである。
また、実施例35に関しては、上述の保管以外に、更に下記2種の保管(「常温2年相当保管」、「冷凍1か月保管」)を行った。保管後、これらを室温に戻してから、室温まで冷ました製造直後品(保管0時間)を対照とし、「味の強さ」の官能評価を行った。各評価の詳細は後述の通りである。
【0131】
「常温2年相当保管」:調理後のひじきの煮物(実施例35)を、パウチに入れてシールした後、123℃、30分レトルト殺菌した。殺菌後、40℃で120日(常温2年相当)保管した。
「冷凍1か月」:調理後のひじきの煮物(実施例35)を、パウチに入れてシールした後、冷凍庫(-20℃)で1カ月(30日間)保管した。
【0132】
(4-3)評価方法
「調理感のある良好な焦がし風味を有する魚系風味」の評価は、各官能検査員が喫食し、自らの評価と最も近いと判断した下記に示す5段階の評点のどれか1つを選択する方式で行った。評価結果の集計は、10名のスコアの算術平均値として算出し、小数点以下第2位を四捨五入した。この結果を表8に示した。
【0133】
<評価項目と評点>
5:調理感のある良好な焦がし風味を有する魚系風味が十分感じられ、好ましい。
4:調理感のある良好な焦がし風味を有する魚系風味がよく感じられ、やや好ましい。
3:調理感のある良好な焦がし風味を有する魚系風味が感じられ、許容範囲。
2:調理感のある良好な焦がし風味を有する魚系風味がやや感じられず、やや好ましくない。
1:調理感のある良好な焦がし風味を有する魚系風味が感じられず、好ましくない。
【0134】
「味の強さの経時的低減の抑制」の評価は、各官能検査員が喫食し、自らの評価と最も近いと判断した下記に示す5段階の評点のどれか1つを選択する方式で行った。尚、この評価は、前述の通り製造直後品(保管0時間)を対照とした「味の強さ」の官能評価である。評価結果の集計は、10名のスコアの算術平均値として算出し、小数点以下第2位を四捨五入した。この結果を表8に示した。
【0135】
<評価項目と評点>
5:製造直後品に対して試験品の味の強さが経時的に全く低減しておらず、好ましい。
4:製造直後品に対して試験品の味の強さが経時的にほとんど低減しておらず、やや好ましい。
3:製造直後品に対して試験品の味の強さが経時的にあまり低減しておらず、許容範囲。
2:製造直後品に対して試験品の味の強さが経時的にやや低減しており、やや好ましくない。
1:製造直後品に対して試験品の味の強さが経時的に低減しており、好ましくない。
【0136】
尚、各食品を、電子レンジで600W3分間加熱した後、加熱後の食品の温度が40℃となった時点で喫食、官能評価を行った結果も、食品の温度が室温で喫食し、官能評価を行った結果と同様の結果が得られた。
また、調味オイルを投入する工程を、調理の最終工程へ変更しても、官能評価の結果は同様の結果となった。
尚、3)で得た実施例33~40及び参考例3~4の試験品(食品)を前記の各種条件下で保管し、電子レンジで600Wで3分間加熱した後、加熱後の食品の温度が40℃となった時点で、同じく食品の温度が40℃となった製造直後品(保管0時間相当)を対照に喫食し、「味の強さ」の官能評価を行った結果も同様の結果が得られた。
【0137】
(5)魚系乾物の魚種の違い
イワシ煮干し(100g)をキャノーラオイル(400g)に浸漬し、130℃で10分間加熱して抽出油(実験例25)を得た。この抽出油を上記した手法にもとづき、GCMS分析に供し、香味成分の定性及び定量を行うことで、2-エチルフラン、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、2-メチルプロパナール、2-メチルフランの5成分の濃度を求めた。得られた抽出油の2-メチルブタナールの濃度は330.0μg/kg、2-エチルフランの濃度は1794.3μg/kg、2-メチルプロパナールの濃度は190.4μg/kg、2-メチルフランの濃度は110.1μg/kg、3-メチルブタナールの濃度は430.3μg/kgであった。なお、ここで得た抽出油の味と香りは魚系風味を有しつつ、調理感のある焦がし風味を有するものであった。あご煮干しを加熱して得た抽出油(実験例3や5)と比べると、あご煮干しを使用した抽出油が、より調理感のある焦がし風味が感じられ、すっきりした上品な風味が感じられるものであった。また、ここで得た抽出油の脂質の濃度は、99.5質量%であった。なお、脂質の濃度は「食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)別添 栄養成分等の分析法等」にもとづき測定した。
【0138】
次に、上記で得た実験例25の抽出油である調味オイルを、冷凍さといも、醤油、砂糖、みりん、塩、料理酒、焼きあごだし(あご煮干し50gを水950gに浸漬し、20時間冷蔵庫にて静置後、No.2ろ紙ろ過したもの)、水を入れた鍋に表9示す配合となるよう混合し、軽くかき混ぜたあと火にかけ、中火で20分煮て、実施例41~42の試験品(食品:サトイモの煮物)を得た。
【0139】
上記で得た実施例41~42の試験品を容器に取り分け、室温まで冷ました製造直後品に関して「調理感のある良好な焦がし風味を有する魚系風味」に関する官能評価に供した。また、実施例41~42の試験品を容器に取り分け、蓋をし、冷蔵庫(庫内温度:10℃)で24時間、48時間、及び96時間、冷蔵保管した。保管後、これらを室温に戻してから、室温まで冷ました製造直後品(保管0時間相当)を対照とし、「味の強さ」の官能評価を行った。これら評価は前述した実施例1~32の評価と同様の手法で実施し、結果を表9に示した。なお、これら評価を行った際、官能評価員のコメントに、あご煮干しを加熱して得た調味オイルを使用した食品(サトイモの煮物)のほうが、よりすっきりとした上品な風味を感じる、とするコメントがあった。
【0140】
【表8】
【0141】
【表9】
【0142】
尚、上述した各官能評価は、味や香りに関する判定能力が一定の試験により担保された官能検査員により行った。味や香りに関する一定の試験とは、下記1)及び2)の識別試験をいい、本試験で特に成績が優秀であった者を官能検査員とした。各試験液について、評価対象成分を含まない以外はその試験液と同配合のコントロールの評価との比較に基づいて下記評価基準に従って評点を付け、その平均点を算出した。
識別試験1)五味(甘味:砂糖の味、酸味:酒石酸の味、旨味:グルタミン酸ナトリウムの味、塩味:塩化ナトリウムの味、苦味:カフェインの味)について、各成分の閾値に近い濃度の水溶液を各1つずつ作製し、これに蒸留水2つを加えた計7つのサンプルから、それぞれの味のサンプルを正確に識別する味質識別試験。
識別試験2)濃度がわずかに異なる5種類の食塩水溶液、酢酸水溶液の濃度差を正確に識別する濃度差識別試験。
また、官能検査を行った官能検査員は、通常一般に流通している市販の中食食品や、惣菜を熟知しており、各評価項目についても、一般的なレベルを十分に把握している熟練の検査員である。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明の調味オイル及びその製造方法並びに液体調味料は、食品分野において広く利用される。とりわけ、食品に対して、魚系風味とともに、調理感のある良好な焦がし風味を与える利用を行うことができる。より具体的には、本発明の調味オイルは、液体調味料の製造原料として利用することができる。また、本発明の液体調味料は、鍋用つゆ、麺類用つゆ、出汁用つゆ、豆腐用つゆ、ラーメン用スープ、和風スープ、洋風スープ、パスタ用調味料又はドレッシング、中食食品用調味料、又は惣菜用調味料等として利用することができる。
図1