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特許7266307軟骨細胞増殖促進剤及び軟骨細胞増殖促進方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-20
(45)【発行日】2023-04-28
(54)【発明の名称】軟骨細胞増殖促進剤及び軟骨細胞増殖促進方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20230421BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20230421BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230421BHJP
【FI】
A61K38/17 ZNA
A61P19/00
A61P43/00 107
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020500500
(86)(22)【出願日】2019-02-13
(86)【国際出願番号】 JP2019004980
(87)【国際公開番号】W WO2019159925
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2022-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2018024297
(32)【優先日】2018-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【弁理士】
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】岩倉 洋一郎
(72)【発明者】
【氏名】村山 正承
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/072544(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/157479(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/046595(WO,A1)
【文献】GARITAONANDIA, I., et al.,Adiponectin identified as a agonist for PAQR3/RKTG using a yeast-based assay system,Jouranl of Receptor and Signal transduction research,2009年,Vol.29, No.1,p.67-73, ISSN 1532-4281,特に、Abstract、Table 1、第4頁第34行~第5頁第19行
【文献】ZHANG H. et al.,PAQR4 has a tumorigenic effect in human breast cancers in association with reduced CDK4 degradation,Carcinogenesis,2017年12月08日,Vol.39, No.3,p.439-446,第96頁右欄第11~17頁
【文献】FENG Y. et al.,MicroRNA-370 inhibits the proliferation, invasion and EMT of gastric cancer cells by directly target,Journal of Pharmacological Sciences,2018年08月25日,Vol.138,p.96-105 ISSN1347-8613,第440頁左欄第13行~33行
【文献】CHALLA, T.D., et al.,Effect of adiponectin on ATDC5 proliferation, differentiation and signaling pathways,Molecular and Cellular Endocrinology,2010年,Vol. 323,p.282-291, ISSN 0303-7207,特に、Abstract、Figure 3、第284頁右欄第20行~第285頁左欄第21行
【文献】MAEDA T., et al.,Cartducin, a Paralog of Acrp30/Adiponectin, Is Induced During Chondrogenic Differentiation and Promo,Journal of Cellular Physiology,2006年,Vol. 206,p.537-544, ISSN 1097-4652,特に、Abstract、Figure 5、7、第538頁左欄第17行~29行、第540頁右欄第31行
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00-45/08
A61K 31/00-33/44
A61K 38/00-38/58
A61P 43/00
A61P 19/00
C07K 14/00-14/825
C12N 15/00-15/90
G01N 33/00-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CTRP6を有効成分として含有する軟骨細胞増殖促進剤(但し、変形性関節症の治療又は予防に用いられるものを除く)。
【請求項2】
請求項1に記載の軟骨細胞増殖促進剤をin vitroにおいて軟骨細胞に接触させることを含む軟骨細胞増殖促進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟骨細胞増殖促進剤及び軟骨細胞増殖促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
変形性関節症は、関節軟骨の摩耗等により骨組織の変性又は変形を来たす疾患であり、特に高齢者において多発する。従来、変形性関節症の治療には非ステロイド性消炎鎮痛剤等が使用されてきたが、対症療法の域を超えるものではない。
【0003】
そこで、近年、変形性関節症等の軟骨障害を治療又は予防するため、軟骨細胞自体を増殖させる試みがなされている。これまで、軟骨細胞の増殖促進作用を有する成分としては、特定の多糖類、特定のウレア誘導体、特定のペプチド等が提案されている(例えば、特許文献1~3参照)。しかし、いずれの成分も実用化には至っておらず、新たな有効成分の探索が引き続き望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-002375号公報
【文献】特開2005-336174号公報
【文献】特開2015-059087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、軟骨障害の治療又は予防などに好適に用いられる新規な軟骨細胞増殖促進剤、及びその軟骨細胞増殖促進剤を用いた軟骨細胞増殖促進方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための具体的な手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> アディポネクチン受容体1(PAQR1)、アディポネクチン受容体2(PAQR2)、アディポネクチン受容体3(PAQR3)、及びアディポネクチン受容体4(PAQR4)から選択される少なくとも1種の受容体に対するアゴニストを有効成分として含有する軟骨細胞増殖促進剤。
【0007】
<2> 前記アゴニストがアディポネクチン受容体4(PAQR4)に対するアゴニストである<1>に記載の軟骨細胞増殖促進剤。
【0008】
<3> 前記アゴニストが下記(a)~(c)のいずれかである<1>又は<2>に記載の軟骨細胞増殖促進剤。
(a)配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b)配列番号3で示されるアミノ酸配列のgC1qドメインからなるタンパク質。
(c)配列番号3で示されるアミノ酸配列のgC1qドメインに対して80%以上の配列同一性を有し、且つ、アディポネクチン受容体1(PAQR1)及びアディポネクチン受容体4(PAQR4)から選択される少なくとも1種の受容体に対するアゴニストとして作用するタンパク質。
【0009】
<4> 前記アゴニストが下記式で表される化合物である<1>に記載の軟骨細胞増殖促進剤。
【化1】
【0010】
<5> <1>~<4>のいずれか1項に記載の軟骨細胞増殖促進剤を軟骨細胞に接触させることを含む軟骨細胞増殖促進方法。
【0011】
<6> 軟骨細胞の増殖を促進するための、アディポネクチン受容体1(PAQR1)、アディポネクチン受容体2(PAQR2)、アディポネクチン受容体3(PAQR3)、及びアディポネクチン受容体4(PAQR4)から選択される少なくとも1種の受容体に対するアゴニストの使用。
【0012】
<7> 前記アゴニストがアディポネクチン受容体4(PAQR4)に対するアゴニストである<6>に記載の使用。
【0013】
<8> 軟骨細胞増殖促進剤を製造するための、アディポネクチン受容体1(PAQR1)、アディポネクチン受容体2(PAQR2)、アディポネクチン受容体3(PAQR3)、及びアディポネクチン受容体4(PAQR4)から選択される少なくとも1種の受容体に対するアゴニストの使用。
【0014】
<9> 前記アゴニストがアディポネクチン受容体4(PAQR4)に対するアゴニストである<8>に記載の使用。
【0015】
<10> アディポネクチン受容体1(PAQR1)、アディポネクチン受容体2(PAQR2)、アディポネクチン受容体3(PAQR3)、及びアディポネクチン受容体4(PAQR4)から選択される少なくとも1種の受容体の活性化を指標として候補物質をスクリーニングすることを含む軟骨細胞増殖促進剤のスクリーニング方法。
【0016】
<11> アディポネクチン受容体4(PAQR4)の活性化を指標として候補物質をスクリーニングすることを含む<10>に記載の軟骨細胞増殖促進剤のスクリーニング方法。
【0017】
なお、アディポネクチン受容体1(AdipoR1)及びアディポネクチン受容体2(AdipoR2)は、PAQR(progestin and AdipoQ receptors)ファミリーのClass Iに分類される受容体であり、それぞれPAQR1、PAQR2とも称される。また、同じくPAQRファミリーのClass Iに分類されるPAQR3は、AdipoR1及びAdipoR2と同様にアディポネクチンと結合することから、アディポネクチン受容体3(AdipoR3)とも称される。そこで本明細書では、これら3つの受容体と同じくPAQRファミリーのClass Iに分類されるPAQR4をアディポネクチン受容体4(AdipoR4)と定義する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、軟骨障害の治療又は予防などに好適に用いられる新規な軟骨細胞増殖促進剤、及びその軟骨細胞増殖促進剤を用いた軟骨細胞増殖促進方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A】C1qtnf6-/-マウス及び野生型マウスにおける変形性関節症の発症率を示すグラフである。
図1B】足首関節の組織切片の病理組織診断結果を示す図である。
図2A】C1qtnf6-/-マウス及び野生型マウスの新生児の初代軟骨細胞における軟骨形成を示すグラフである。
図2B】C1qtnf6-/-マウスの初代軟骨細胞を各種濃度の組換えヒトCTRP6の存在下で培養したときの軟骨形成を示すグラフである。
図3A】ATDC5細胞を各種濃度の組換えヒトCTRP6の存在下で培養したときの細胞数を示すグラフである。
図3B】ATDC5細胞を組換えヒトCTRP6の存在下で培養したときの、MAPK及びリン酸化MAPKのウェスタンブロット結果を示す図である。
図3C】ATDC5細胞を組換えヒトCTRP6の存在下又は非存在下、且つ、MAPK阻害剤の存在下で培養したときの細胞数を示すグラフである。
図4A】AdipoR1 siRNA、AdipoR2 siRNA、又はコントロールsiRNA-1を導入したATDC5細胞を、組換えヒトCTRP6の存在下又は非存在下で培養したときの細胞数を示すグラフである。
図4B】AdipoR3 siRNA、AdipoR4 siRNA、又はコントロールsiRNA-2を導入したATDC5細胞を、組換えヒトCTRP6の存在下又は非存在下で培養したときの細胞数を示すグラフである。
図4C】AdipoR1 siRNA、AdipoR2 siRNA、又はコントロールsiRNA-1を導入したATDC5細胞を組換えヒトCTRP6の存在下で培養したときの、ERK及びp-ERKのウェスタンブロット結果を示す図である。
図4D】AdipoR3 siRNA、AdipoR4 siRNA、又はコントロールsiRNA-2を導入したATDC5細胞を組換えヒトCTRP6の存在下で培養したときの、ERK及びp-ERKのウェスタンブロット結果を示す図である。
図5A】ATDC5細胞を組換えヒトCTRP6の存在下又は非存在下、且つ、AdipoR1ブロッカーの存在下又は非存在下で培養したときの細胞数を示すグラフである。
図5B】ATDC5細胞をアディポネクチンの存在下又は非存在下、且つ、AdipoR1ブロッカーの存在下又は非存在下で培養したときの細胞数を示すグラフである。
図5C】ATDC5細胞をAdipoRonの存在下又は非存在下、且つ、AdipoR1ブロッカーの存在下又は非存在下で培養したときの細胞数を示すグラフである。
図5D】ATDC5細胞を組換えヒトCTRP3の存在下又は非存在下、且つ、AdipoR1ブロッカーの存在下又は非存在下で培養したときの細胞数を示すグラフである。
図6A】AdipoR1 siRNA、AdipoR2 siRNA、又はコントロールsiRNA-1を導入したATDC5細胞を、組換えヒトCTRP3の存在下又は非存在下で培養したときの細胞数を示すグラフである。
図6B】AdipoR3 siRNA、AdipoR4 siRNA、又はコントロールsiRNA-2を導入したATDC5細胞を、組換えヒトCTRP3の存在下又は非存在下で培養したときの細胞数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0021】
<軟骨細胞増殖促進剤>
本実施形態に係る軟骨細胞増殖促進剤は、アディポネクチン受容体1(AdipoR1)、アディポネクチン受容体2(AdipoR2)、アディポネクチン受容体3(AdipoR3)、及びアディポネクチン受容体4(AdipoR4)から選択される少なくとも1種の受容体に対するアゴニスト(以下、「特定AdipoRアゴニスト」という。)を有効成分として含有する。
【0022】
本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、特定AdipoRアゴニストが軟骨細胞に対する増殖促進作用を有することが確認された。本実施形態によれば、軟骨細胞の増殖を促進するための特定AdipoRアゴニストの使用もまた提供される。また、本実施形態によれば、軟骨細胞増殖促進剤を製造するための特定AdipoRアゴニストの使用もまた提供される。
【0023】
特定AdipoRアゴニストとしては、AdipoR1、AdipoR2、AdipoR3、及びAdipoR4から選択される少なくとも1種の受容体を活性化し得る物質であれば特に制限されない。例えば、特定AdipoRアゴニストは、AdipoR1、AdipoR2、AdipoR3、及びAdipoR4から選択されるいずれか1種の受容体に対する選択的アゴニストであってもよく、いずれか複数種の受容体に対するアゴニストであってもよい。また、特定AdipoRアゴニストは、AdipoR1、AdipoR2、AdipoR3、及びAdipoR4から選択される少なくとも1種の受容体を活性化し得る限り、その他の受容体を活性化し得るものであってもよい。
【0024】
特定AdipoRアゴニストの一例としては、アディポネクチン、CTRP3、及びCTRP6から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0025】
アディポネクチン、CTRP3、及びCTRP6は、いずれもCTRP(C1q/TNF-related protein)ファミリーに属するタンパク質である。本発明者らによる実験の結果、アディポネクチンはAdipoR1の活性化を介して、CTRP3はAdipoR2の活性化を介して、CTRP6はAdipoR1及びAdipoR4の活性化を介して、それぞれ軟骨細胞の増殖促進作用を示すことが明らかとなっている。
【0026】
アディポネクチン、CTRP3、及びCTRP6の由来は特に制限されず、ヒト由来であってもマウス等の他の動物由来であってもよいが、ヒト由来であることが好ましい。ヒトアディポネクチン、ヒトCTRP3、及びヒトCTRP6のアミノ酸配列は、米国生物工学情報センター(NCBI)のGenBankデータベースに登録されている情報を参照することができる。例えば、GenBankデータベースには、ヒトアディポネクチンのアミノ酸配列としてアクセッション番号AK291525等が、ヒトCTRP3のアミノ酸配列としてアクセッション番号AAI12926等が、ヒトCTRP6のアミノ酸配列としてアクセッション番号CAK54433等が、それぞれ登録されている。典型的なアミノ酸配列は以下のとおりである。アミノ酸配列の下線部分は球状ドメイン(gC1qドメイン)を示す。
【0027】
(ヒトアディポネクチンのアミノ酸配列(配列番号1))
MLLLGAVLLLLALPGHDQETTTQGPGVLLPLPKGACTGWMAGIPGHPGHNGAPGRDGRDGTPGEKGEKGDPGLIGPKGDIGETGVPGAEGPRGFPGIQGRKGEPGEGAYVYRSAFSVGLETYVTIPNMPIRFTKIFYNQQNHYDGSTGKFHCNIPGLYYFAYHITVYMKDVKVSLFKKDKAMLFTYDQYQENNVDQASGSVLLHLEVGDQVWLQVYGEGERNGLYADNDNDSTFTGFLLYHDTN
【0028】
(ヒトCTRP3のアミノ酸配列(配列番号2))
MLWRQLIYWQLLALFFLPFCLCQDEYMESPQTGGLPPDCSKCCHGDYSFRGYQGPPGPPGPPGIPGNHGNNGNNGATGHEGAKGEKGDKGDLGPRGERGQHGPKGEKGYPGIPPELQIAFMASLATHFSNQNSGIIFSSVETNIGNFFDVMTGRFGAPVSGVYFFTFSMMKHEDVEEVYVYLMHNGNTVFSMYSYEMKGKSDTSSNHAVLKLAKGDEVWLRMGNGALHGDHQRFSTFAGFLLFETK
【0029】
(ヒトCTRP6のアミノ酸配列(配列番号3))
MQWLRVRESPGEATGHRVTMGTAALGPVWAALLLFLLMCEIPMVELTFDRAVASGCQRCCDSEDPLDPAHVSSASSSGRPHALPEIRPYINITILKGDKGDPGPMGLPGYMGREGPQGEPGPQGSKGDKGEMGSPGAPCQKRFFAFSVGRKTALHSGEDFQTLLFERVFVNLDGCFDMATGQFAAPLRGIYFFSLNVHSWNYKETYVHIMHNQKEAVILYAQPSERSIMQSQSVMLDLAYGDRVWVRLFKRQRENAIYSNDFDTYITFSGHLIKAEDD
【0030】
アディポネクチン、CTRP3、及びCTRP6は、市販品を使用してもよく、遺伝子組換え法又は化学合成法により製造してもよい。遺伝子組換え法によりアディポネクチン、CTRP3、又はCTRP6を製造する場合、例えば、発現ベクターを用いて大腸菌、酵母等の微生物、植物細胞、昆虫細胞、又は動物細胞にアディポネクチン、CTRP3、又はCTRP6をコードする遺伝子を導入し、タンパク質を発現させればよい。ヒトアディポネクチン、ヒトCTRP3、又はヒトCTRP6を製造する場合、立体構造の保持及び翻訳後修飾の観点から、哺乳動物細胞が好ましく用いられる。化学合成法によりアディポネクチン、CTRP3、又はCTRP6を製造する場合、液相法、固相法、Boc法、Fmoc法等を単独で又は組み合わせて製造すればよい。
【0031】
アディポネクチンは、AdipoR1、AdipoR2、AdipoR3、及びAdipoR4から選択される少なくとも1種の受容体を活性化し得る限り、野生型アディポネクチンのアミノ酸配列において1個又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなる変異型アディポネクチンであってもよい。同様に、CTRP3及びCTRP6は、AdipoR1、AdipoR2、AdipoR3、及びAdipoR4から選択される少なくとも1種の受容体を活性化し得る限り、野生型CTRP3及び野生型CTRP6のアミノ酸配列において1個又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなる変異型CTRP3及び変異型CTRP6であってもよい。
【0032】
変異型の各アミノ酸配列と野生型の各アミノ酸配列との配列同一性は、例えば、80%以上であってもよく、85%以上であってもよく、90%以上であってもよく、93%以上であってもよく、95%以上であってもよい。
ここで、「配列同一性」とは、2つのアミノ酸配列をアラインメントした場合の配列間の一致性を意味し、例えば、BLASTプログラム(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/Blast/cgi)を使用して算出することができる。
【0033】
なお、アディポネクチン等のCTRPファミリーに属するタンパク質は、その球状ドメイン(gC1qドメイン)のみでも生体内に存在し、球状ドメインが機能部位であると考えられている(Trends. Immunol.,25(10):551-61(2004))。そこで、特定AdipoRアゴニストは、アディポネクチン、CTRP3、又はCTRP6の球状ドメインを構成するペプチドであってもよい。
【0034】
また、特定AdipoRアゴニストは、アディポネクチン、CTRP3、又はCTRP6の球状ドメインのアミノ酸配列において1個又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなる変異型の球状ドメインを構成するペプチドであってもよい。このとき、変異型の各アミノ酸配列と野生型の各アミノ酸配列との配列同一性は、例えば、80%以上であってもよく、85%以上であってもよく、90%以上であってもよく、93%以上であってもよく、95%以上であってもよい。
【0035】
上記の特定AdipoRアゴニストの中で好適なものとしては、例えば、下記(a)~(c)から選択されるものが挙げられる。
(a)配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b)配列番号3で示されるアミノ酸配列のgC1qドメインからなるタンパク質。
(c)配列番号3で示されるアミノ酸配列のgC1qドメインに対して80%以上の配列同一性を有し、且つ、AdipoR1及びAdipoR4から選択される少なくとも1種の受容体に対するアゴニストとして作用するタンパク質。
【0036】
上記(c)における配列同一性は、85%以上であってもよく、90%以上であってもよく、93%以上であってもよく、95%以上であってもよい。
【0037】
また、特定AdipoRアゴニストの他の例としては、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。下記式(1)で表される化合物は、AdipoR1及びAdipoR2に対するアゴニストであることが知られている(国際公開第2015/046595号を参照)。
【0038】
【化2】
〔式中、
Aは、置換若しくは非置換のアリール基、置換若しくは非置換のヘテロアリール基、置換若しくは非置換のアリールオキシ基、C4~8第3級アルキル基、又は-NHを示し、
は、-(CHR-(ここで、Rは水素原子又はC1~7アルキル基を示し、aは0~2の整数を示す)、又は-CO-を示し、
Xは、CH又はNを示し、
は、C1~7アルキル基を示し、
mは、0~4の整数を示し、mが2以上の場合、m個のRは同一又は異なっていてもよく、
は、
i)XがCHである場合、
-O-CH-CONH-、-O-、-CONH-、又は下記式(2)で示される基:
【化3】
(ここで、RはC1~7アルキル基を示し、p及びqは独立して0~2の整数を示し、rは0~4の整数を示し、rが2の場合、2個のRは同一又は異なっていてもよく、*はこの位置でZと結合することを示す)を示し、
ii)XがNである場合、
-CONH-(CH-CO-、-NHCO-Ar-CH-、-NHCO-(CH-、又は-CO-(ここで、Arは置換又は非置換のアリーレン基を示し、bは1~3の整数を示し、*はこの位置でZと結合すること示す)を示し、
Zは、アリール基、ヘテロアリール基、及びC3~7シクロアルキル基から選択される環状基を示し、
Bは、Zで示される環状基に置換し得る基であり、-CO-R、-O-R(ここで、RはC1~7アルキル基、置換若しくは非置換のフェニル基、又は置換若しくは非置換のピリジル基を示す)、-CONR(ここで、Rは水素原子、C3~7シクロアルキル基、C1~4アルコキシC1~4アルキル基、ノルボルネニルC1~4アルキル基、又はAr-C1~4アルキル基(Arは置換若しくは非置換のアリール又は置換若しくは非置換のヘテロアリール基を示す)を示し、Rは水素原子、C1~7アルキル基、C2~4アルケニル基、又はC2~4アルキニル基を示す)、C1~7アルキル基、C3~7シクロアルキル基、ハロC1~7アルキル基、フェニル基、ハロゲン原子、-NO、又は以下で示される基:
【化4】
を示し、
nは、0~3の整数を示し、nが2以上の場合、n個のBは同一又は異なっていてもよい。〕
【0039】
上記式(1)中、「C1~7アルキル基」としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基等が挙げられ、好ましくはC1~4アルキル基である。
【0040】
「アリール基」としては、フェニル基、ナフチル基、インデニル基、アントリル基等のC6~14アリール基が挙げられ、好ましくはC6~10アリール基であり、より好ましくはフェニル基である。
【0041】
「ヘテロアリール基」としては、フリル基、チエニル基、オキサゾリル基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピラゾリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾオキサジアゾリル基等の5~14員のヘテロアリール基が挙げられ、好ましくは5又は6員のヘテロアリール基であり、より好ましくはフリル基、ピリジル基、及びベンゾフラニル基である。
【0042】
「アリールオキシ基」におけるアリールとしては、上記アリール基と同様のものが挙げられ、好ましくはフェノキシ基である。
【0043】
「アリーレン基」としては、上記アリール基の芳香環に結合した1個の水素原子を除いた基が挙げられ、好ましくはフェニレン基及びナフチレン基である。
【0044】
上記アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、及びアリーレン基に置換し得る基としては、C1~4アルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基等)、ハロC1~4アルキル基(フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロメチル基、ジクロロメチル基、ペンタクロロエチル基等)、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、C1~4アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基等)、水酸基などが挙げられる。
【0045】
「C3~7シクロアルキル基」としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0046】
「C2~4アルケニル基」としては、ビニル基、プロペニル基等が挙げられる。
【0047】
「C2~4アルキニル基」としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基等が挙げられ、好ましくは2-プロピニル基及び2-ブチニル基である。
【0048】
「C4~8第3級アルキル基」としては、t-ブチル基、t-ペンチル基、t-ヘキシル基等が挙げられ、好ましくはt-ブチル基である。
【0049】
Aで示されるアリール基としては、フェニル基が好ましい。また、Aで示されるヘテロアリール基としては、フリル基、チエニル基、ピリジル基、ベンゾフラニル基、及びベンゾオキサジアゾリル基が好ましい。また、Aで示されるアリールオキシ基としては、フェノキシ基が好ましい。
アリール基、ヘテロアリール基、及びアリールオキシ基に置換し得る基としては、C1~4アルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基等)、ハロC1~4アルキル基(フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロメチル基、ジクロロメチル基、ペンタクロロエチル基等)、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、C1~4アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基等)、水酸基などが挙げられる。置換アリール基、置換ヘテロアリール基、又は置換アリールオキシ基としては、上記置換基で1~3置換されたアリール基、ヘテロアリール基、又はアリールオキシ基が挙げられる。
Aは、より好ましくは、フェニル基又は上記置換基で1~3置換されたフェニル基である。
【0050】
で示される-(CHR-としては、Rが水素原子又はC1~3アルキル基(好ましくは、メチル基及びエチル基)であり、aは1であるのが好ましく、より好ましくは-CH-又は-CH(CH)-である。
【0051】
で示されるC1~7アルキル基としては、C1~4アルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基等)が好ましく、メチル基及びエチル基がより好ましい。
また、mは、0又は1であるのが好ましい。
【0052】
XがCHである場合、Y-O-CH-CONH-、-O-、-CONH-、又は上記式(2)で示される基であり、好ましくは-O-CH-CONH-である。
【0053】
また、上記式(2)で示される基において、p及びqがともに0であるか、いずれか一方が0で他方が1であるのが好ましく、Rで示されるC1~7アルキル基としては、C1~4アルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基等)が好ましく、rは0又は1であるのが好ましい。rが2の場合、2個のRは同一又は異なっていてもよい。
【0054】
上記式(2)で示される基としては、例えば、以下の基が挙げられる。
【0055】
【化5】
【0056】
XがNである場合、Yは、-CONH-(CH-CO-、-NHCO-Ar-CH-、-NHCO-(CH-、又は-CO-であり、好ましくは-CONH-(CH-CO-及び-NHCO-Ar-CH-であり、より好ましくは-CONH-(CH-CO-である。bは、2であるのが好ましい。
【0057】
Zで示される環状基は、アリール基、ヘテロアリール基、又はC3~7シクロアルキル基であり、好ましくはアリール基であり、より好ましくはフェニル基及びナフチル基であり、さらに好ましくはフェニル基である。C3~7シクロアルキル基としては、シクロプロピル基及びシクロブチル基が好ましい。
【0058】
Bは、Zで示される環状基に置換し得る基であり、nが2以上の場合、n個のBは同一又は異なっていてもよい。nは、0~2の整数であるのが好ましい。
【0059】
Bで示される-CO-R又は-O-Rにおいて、Rとしては、C1~4アルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基等)、フェニル基、ハロゲン原子又はニトロ基で1又は2置換されたフェニル基、及びピリジル基が好ましい。
【0060】
Bで示される-CONRにおいて、Rとしては、水素原子及びC3~7シクロアルキル基が好ましく、Rとしては、水素原子、C1~7アルキル基、及びC2~4アルケニル基が好ましく、R及びRがともに水素原子であるのがより好ましい。Rにおいて、Ar-C1~4アルキル基のArとしては、フェニル基、フリル基、ピラゾリル基、及びピリジル基が好ましく、Ar-C1~4アルキル基のC1~4アルキルとしては、C1~2アルキルが好ましい。Rにおいて、C1~4アルコキシC1~4アルキル基としては、メトキシエチル基、エトキシエチル基、及びエトキシプロピル基が好ましい。
【0061】
Bで示されるC1~7アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、及びt-ブチル基が好ましい。
Bで示されるC3~7シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、及びシクロペンチル基が好ましい。
Bで示されるハロC1~7アルキル基としては、クロロメチル基、ジクロロメチル基、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、及びトリフルオロメチル基が好ましく、トリフルオロメチル基がより好ましい。
Bで示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が好ましい。
【0062】
Bとしては、C1~7アルキル基、ハロゲン原子、-NO、フェニル基、ハロC1~7アルキル基、-CO-R、-O-R、及び-CONRがより好ましい。
【0063】
上記式(1)で表される化合物の中でも、下記(i)~(vii)の化合物が好ましい。
(i)XがCHであり、Y-O-CH-CONH-であるか、又はXがNであり、Y-CONH-(CH-CO-である化合物。
(ii)XがCHであり、Yが-O-であり、Zがp(パラ)位に基Bを有するフェニル基であり、Yが-CH-又は-CO-であり、Aが置換若しくは非置換のアリール基、置換若しくは非置換のヘテロアリール基、置換若しくは非置換のアリールオキシ基、又はC4~8第3級アルキル基である化合物。
(iii)XがCHであり、Y-CONH-であり、Zがm-又はp-クロロフェニルであり、Yが-CH-であり、Aがフェニル基である化合物。
(iv)XがNであり、Y-NHCO-Ar-CH-であり、Arがフェニル基であり、Zがフェニル基であり、Yが-CH-であり、Aがフェニル基である化合物。
(v)XがNであり、Y-NHCO-(CH-であり、Zがシクロプロピル基であり、Yが-CO-であり、Aがフェニル基である化合物。
(vi)XがNであり、Y-NHCO-(CH-であり、Zがフェニル基であり、Yが単結合であり、Aがo-メトキシフェニル基である化合物。
(vii)XがNであり、Yが-CO-であり、Zがフェニル基であり、Bがp-(及びm-)メトキシ基であり、Yが-CH-であり、Aがp-CF-フェニル基である化合物。
【0064】
上記(i)の化合物のうち、好適には、下記式(1a)、(1b)で表される化合物が挙げられる。
【0065】
【化6】
〔式中、Y、B、R、m、及びnは、上記式(1)と同義であり、Rは、C1~4アルキル基、ハロC1~4アルキル基、ハロゲン原子、C1~4アルコキシ基、又は水酸基を示し、sは、0~3の整数を示し、sが2以上の場合、s個のRは同一又は異なっていてもよい。〕
【0066】
下記式(1a)、(1b)で表される化合物の一例としては、下記式で表される化合物(「AdipoRon」とも称される。)が挙げられる。
【0067】
【化7】
【0068】
上記式(1)で表される化合物は、シス体、トランス体等の幾何異性体、d体-、l体-等の光学異性体などの全ての立体異性体を包含し、当該異性体を任意の割合で含む混合物であってもよい。
【0069】
上記式(1)で表される化合物は、酸付加塩又は塩基付加塩の形態であってもよい。酸付加塩としては、塩酸、硫酸等の鉱酸との塩;ギ酸、酢酸、クエン酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、フマル酸、マレイン酸等の有機カルボン酸との塩;メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、メシチレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等のスルホン酸との塩;などが挙げられる。塩基付加塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩;アンモニウム塩;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、N,N-ジメチルアニリン、N-メチル-D(-)-グルカミン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリン、ジエチルアミン、シクロヘキシルアミン、プロカイン、ジベンジルアミン、N-ベンジル-β-フェネチルアミン、1-エフェナミン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン等の含窒素有機塩基との塩;などが挙げられる。
【0070】
また、上記式(1)で表される化合物又はその塩は、水和物又は溶媒和物であってもよい。
【0071】
本実施形態に係る軟骨細胞増殖促進剤は、必要に応じて、特定AdipoRアゴニスト以外の成分を含有していてもよい。特定AdipoRアゴニスト以外の成分としては、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、緩衝剤、溶解補助剤、安定化剤、等張化剤、懸濁化剤、乳化剤、緩衝剤、溶剤等が挙げられる。
【0072】
本実施形態に係る軟骨細胞増殖促進剤の剤形は特に制限されず、用途に応じて選択することができる。例えば、本実施形態に係る軟骨細胞増殖促進剤を医薬用途に用いる場合、軟骨細胞増殖促進剤の剤形としては、注射用液剤、注射用凍結乾燥粉末剤等の非経口剤;錠剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤等の経口剤;などが挙げられる。
【0073】
<軟骨細胞増殖促進方法>
本実施形態に係る軟骨細胞増殖促進方法は、上述した軟骨細胞増殖促進剤を軟骨細胞に接触させることを含む。軟骨細胞は、生体内に存在する軟骨細胞であってもよく、採取された軟骨細胞であってもよい。
【0074】
生体内に存在する軟骨細胞に軟骨細胞増殖促進剤を接触させる方法としては、関節注射等の非経口投与、経口投与などが挙げられる。軟骨細胞の増殖が必要な患者に対して軟骨細胞増殖促進剤を投与することで、生体内における軟骨細胞の増殖を促進することができる。
【0075】
例えば、変形性関節症等の軟骨障害を有する患者に軟骨細胞増殖促進剤を投与することで、軟骨障害を治療することができる。また、軟骨が損傷した患者に軟骨細胞増殖促進剤を投与することで、軟骨損傷を改善し、軟骨損傷から軟骨変性への進行、さらには二次性の変形性関節症への進行を予防することができる。
なお、「治療」には、症状を消失又は軽減させることのほか、症状の進行の度合いを抑制することも含まれる。また、「予防」には、発症を防ぐことのほか、発症の時期を遅らせることも含まれる。
【0076】
採取された軟骨細胞に軟骨細胞増殖促進剤を接触させる方法としては、軟骨組織又は軟骨細胞を培養する培地に添加する方法等が挙げられる。採取した軟骨組織又は軟骨細胞を培養する培地に軟骨細胞増殖促進剤を添加することで、軟骨細胞の増殖を促進することができる。
【0077】
例えば、変形性関節症等の軟骨障害を有する患者や軟骨が損傷した患者から軟骨組織又は軟骨細胞を採取して培養し、培養後の軟骨組織又は軟骨細胞を元の患者に移植又は注入することで、軟骨障害や軟骨損傷を治療又は改善することができる。
【0078】
<軟骨細胞増殖促進剤のスクリーニング方法>
本実施形態に係る軟骨細胞増殖促進剤のスクリーニング方法は、AdipoR1、AdipoR2、AdipoR3、及びAdipoR4から選択される少なくとも1種の受容体の活性化を指標として候補物質をスクリーニングすることを含む。上述のとおり、特定AdipoRアゴニストは軟骨細胞に対する増殖促進作用を有するため、AdipoR1、AdipoR2、AdipoR3、及びAdipoR4から選択される少なくとも1種の受容体の活性化を指標とすることにより、軟骨細胞増殖促進剤をスクリーニングすることができる。本実施形態に係る軟骨細胞増殖促進剤のスクリーニング方法としては、例えば、AdipoR4の活性化を指標として候補物質をスクリーニングすることを含むものが好ましい。
【0079】
AdipoR1、AdipoR2、AdipoR3、及びAdipoR4から選択される少なくとも1種の受容体の活性化を評価する方法は特に制限されず、任意の方法を採用することができる。
【実施例
【0080】
以下に実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって制限されるものではない。なお、試験例1における統計解析はχ検定により行い(**P<0.01)、試験例2~6における統計解析はスチューデントの両側t検定により行った(P<0.05;**P<0.01;***P<0.001)。
【0081】
<試験例1>
試験例1では、CTRP6をコードする遺伝子であるC1qtnf6をノックアウトしたKOマウス(C1qtnf6-/-マウス)を作製し、遺伝子ノックアウトによる影響を確認した。C1qtnf6-/-マウスは、C57BL/6Jマウスをもとに既報(Nat. Commun.,6:8483(2015))に従って作製した。野生型(WT)のC57BL/6Jマウスは、日本クレア株式会社から購入した。
【0082】
C1qtnf6-/-マウス及び野生型マウス(いずれも12月齢)を準備し、変形性関節症の発症を肉眼により判定した(n=8)。また、足首関節の組織切片を作製してサフラニンOで染色し、病理組織診断を行った。変形性関節症の発症率を図1Aに示し、病理組織診断結果を図1Bに示す。図1A及び図1Bの結果から、C1qtnf6-/-マウスは変形性関節症を自然発症することが分かる。
【0083】
<試験例2>
試験例2では、軟骨代謝におけるCTRP6の役割を検討した。
【0084】
(1)C1qtnf6-/-マウス及び野生型マウスにおける軟骨形成
C1qtnf6-/-マウス及び野生型マウスの新生児(5~6日齢)の肋軟骨組織を、0.5mg/mL コラゲナーゼDを含有するDMEMにより酵素消化し、初代軟骨細胞を得た。次いで、2×10個の細胞を10μLの10% FCS含有DMEMに懸濁して24ウェルプレートに播種し、37℃で2時間培養した(いずれもn=3)。次いで、10% FCS含有DMEMを各ウェルあたり500μL添加し、7日間培養を継続した。次いで、10% 中性ホルマリンにより細胞を固定し、0.1N HClで洗浄した後、軟骨形成を確認するために1% Alcian blue 8GX溶液(Sigma-Aldrich)により染色した。
【0085】
そして、染色後の細胞を蛍光顕微鏡(BIOREVO BZ-9000、株式会社キーエンス)で観察し、ImageJソフトウェア(NIH)により蛍光強度を定量化した。結果を図2Aに示す。図2Aに示すとおり、C1qtnf6-/-マウスでは、野生型マウスに比べて軟骨形成が阻害された。
【0086】
(2)軟骨形成におけるCTRP6の影響
上記と同様にして、C1qtnf6-/-マウスから初代軟骨細胞を得た後、2×10個の細胞を10μLの10% FCS含有DMEMに懸濁して24ウェルプレートに播種し、37℃で2時間培養した。次いで、10% FCS及び各種濃度(0、2.5、5、10μg/mL;いずれもn=3)の組換えヒトCTRP6(Aviscera Bioscience)を含有するDMEMを各ウェルあたり500μL添加し、7日間培養を継続した。次いで、10% 中性ホルマリンにより細胞を固定し、0.1N HClで洗浄した後、軟骨形成を確認するために1% Alcian blue 8GX溶液(Sigma-Aldrich)により染色した。
【0087】
そして、染色後の細胞を蛍光顕微鏡(BIOREVO BZ-9000、株式会社キーエンス)で観察し、ImageJソフトウェア(NIH)により蛍光強度を定量化した。結果を図2Bに示す。図2Bに示すとおり、C1qtnf6-/-マウスでは、組換えヒトCTRP6の濃度依存的に軟骨形成が促進された。
【0088】
<試験例3>
試験例3では、マウス軟骨細胞株ATDC5を用いてCTRP6の機能解析を行った。
【0089】
(1)軟骨細胞の細胞増殖におけるCTRP6の影響
ATDC5細胞を5×10個/ウェルの細胞密度で12ウェルプレートに播種し、各種濃度(0、100、500ng/mL;いずれもn=3)の組換えヒトCTRP6(Aviscera Bioscience)の存在下で培養した。培地としては、5% FBS及び1% ペニシリン/ストレプトマイシンを含有するHAM’s F-12培地を用いた。
【0090】
そして、培養4日後及び7日後に、ヘモサイトメーターを用いて細胞数をカウントした。結果を図3Aに示す。図3Aに示すとおり、組換えヒトCTRP6の添加により、ATDC5細胞の細胞増殖の亢進が確認された。
【0091】
(2)MAPKのリン酸化におけるCTRP6の影響
ATDC5細胞を1×10個/ウェルの細胞密度で60mmペトリディッシュに播種し、無血清のHAM’s F-12培地を用いて4時間培養した。次いで、PBSで洗浄した後、10ng/mLの組換えヒトCTRP6(Aviscera Bioscience)を含有する無血清のHAM’s F-12培地を用いて、1分間、5分間、15分間、又は30分間培養した。次いで、PhosSTOP(Sigma)を添加したホスファターゼ阻害バッファーで洗浄した後、溶解バッファー(0.1% TritonX-100、100mM NaCl、50mM Tris-HCl(pH7.5))を用いて細胞を溶解した。
【0092】
次いで、得られた細胞溶解液を12.5% SDS-PAGEゲルに泳動し、タンパク質をPVDFメンブレンに転写した。転写後のメンブレンは、5% BSA/TBS中、室温にて1時間振盪することによりブロッキングした。ブロッキング後、一次抗体(ウサギモノクローナル抗体)の存在下、室温にて1時間振盪することにより一次抗体反応を行った。一次抗体としては、抗ERK1/2抗体(4695、1000倍希釈)、抗p-ERK1/2抗体(4370、1000倍希釈)、抗JNK抗体(9258、1000倍希釈)、抗p-JNK抗体(4668、1000倍希釈)、抗p38抗体(9212、1000倍希釈)、又は抗p-p38抗体(9211、1000倍希釈)を用い、いずれもCell Signaling社から購入した。次いで、0.1% Tween-20含有TBS(TBST)で洗浄した後、HRP標識抗ウサギIgGヤギポリクローナル抗体(Jackson ImmunoResearch、111-035-144、2000倍希釈)の存在下、室温にて1時間振盪することにより二次抗体反応を行った。そして、TBSTで3回洗浄した後、ECL Primeウェスタンブロッティング検出システム(GE Healthcare)を用いて可視化した。各バンドの強度は、ImageJソフトウェア(NIH)により定量化した。
【0093】
ウェスタンブロット結果を図3Bに示す。図3Bに示すとおり、組換えヒトCTRP6の添加により、ERK1/2のリン酸化が亢進した。
【0094】
(3)軟骨細胞の細胞増殖におけるMAPK阻害剤の影響
ATDC5細胞を2×10個/ウェルの細胞密度で48ウェルプレートに播種し、50ng/mLの組換えヒトCTRP6(Aviscera Bioscience)の存在下又は非存在下で2日間培養した。培地としては、5% FBS及び1% ペニシリン/ストレプトマイシンを含有するHAM’s F-12培地を用い、担体(DMSO)、1μM ERK1/2阻害剤(U0126、Sigma)、1μM JNK阻害剤(SP600125、Sigma)、又は1μM p38阻害剤(SB239063、Sigma)をさらに添加した(いずれもn=4)。
【0095】
そして、培養2日後に、ヘモサイトメーターを用いて細胞数をカウントした。結果を図3Cに示す。図3Cに示すとおり、組換えヒトCTRP6の添加により、ATDC5細胞の細胞増殖が亢進したが、ERK1/2阻害剤の添加により、細胞増殖が阻害された。このことから、CTRP6による軟骨細胞増殖は、ERK1/2のリン酸化を介していることが示唆される。
【0096】
<試験例4>
試験例4では、CTRP6の受容体を同定した。
【0097】
(1)軟骨細胞の細胞増殖におけるアディポネクチン受容体の関与
ATDC5細胞を1×10個/ウェルの細胞密度で24ウェルプレートに播種し、2.5% FBSを含有するHAM’s F-12培地を用いて24時間培養した。培養後、30pmolのAdipoR1 siRNA、30pmolのAdipoR2 siRNA、30pmolのコントロールsiRNA-1、6pmolのAdipoR3 siRNA、6pmolのAdipoR4 siRNA、又は6pmolのコントロールsiRNA-2を導入(トランスフェクト)し、48時間培養を継続した。siRNAの導入には、Lipofectamine RNAiMAX(Invitrogen)を用いた。
【0098】
なお、AdipoR3 siRNA、AdipoR4 siRNA、及びコントロールsiRNA-2はIDT Teck社から購入した(TriTECTa RNAi Kit)。AdipoR1 siRNA、AdipoR2 siRNA、及びコントロールsiRNA-1の塩基配列は以下のとおりである。
(AdipoR1 siRNAのセンス鎖(配列番号4))
5’-GAGACUGGCAACAUCUGGACATT-3’
(AdipoR1 siRNAのアンチセンス鎖(配列番号5))
5’-UGUCCAGAUGUUGCCAGUCUCTT-3’
(AdipoR2 siRNAのセンス鎖(配列番号6))
5’-GCUUAGAGACACCUGUUUGUUTT-3’
(AdipoR2 siRNAのアンチセンス鎖(配列番号7))
5’-AACAAACAGGUGUCUCUAAGCTT-3’
(コントロールsiRNA-1のセンス鎖(配列番号8))
5’-GUGCGCUGCUGGUGCCAACCCTT-3’
(コントロールsiRNA-1のアンチセンス鎖(配列番号9))
5’-GGGUUGGCACCAGCAGCGCACTT-3’
【0099】
siRNAの導入から48時間後、ATDC5細胞を2×10個/ウェルの細胞密度で48ウェルプレートに播種し、100ng/mLの組換えヒトCTRP6(Aviscera Bioscience)の存在下又は非存在下で1日間培養した(いずれもn=4)。その後、ヘモサイトメーターを用いて細胞数をカウントした。結果を図4A及び図4Bに示す。図4A及び図4Bに示すとおり、AdipoR1 siRNA又はAdipoR4 siRNAを導入したATDC5細胞では、組換えヒトCTRP6を添加しても、細胞増殖の亢進が確認されなかった。このことから、CTRP6は、AdipoR1及びAdipoR4を介して軟骨細胞増殖を制御していることが示唆される。
【0100】
(2)ERKのリン酸化におけるアディポネクチン受容体の関与
siRNAを導入したATDC5細胞を1×10個/ウェルの細胞密度で60mmペトリディッシュに播種し、無血清のHAM’s F-12培地を用いて4時間培養した。次いで、PBSで洗浄した後、10ng/mLの組換えヒトCTRP6(Aviscera Bioscience)を含有する無血清のHAM’s F-12培地を用いて15分間培養した。次いで、PhosSTOP(Sigma)を添加したホスファターゼ阻害バッファーで洗浄した後、溶解バッファー(0.1% TritonX-100、100mM NaCl、50mM Tris-HCl(pH7.5))を用いて細胞を溶解した。そして、試験例3(2)と同様にしてウェスタンブロット解析を行った。
【0101】
ウェスタンブロット結果を図4C及び図4Dに示す。図4C及び図4Dに示すとおり、AdipoR1 siRNA又はAdipoR4 siRNAを導入したATDC5細胞では、組換えヒトCTRP6を添加しても、ERK1/2のリン酸化が亢進しなかった。このことから、CTRP6は、AdipoR1及びAdipoR4を介して軟骨細胞増殖を制御していることが示唆される。
【0102】
<試験例5>
試験例5では、CTRP6のほかに、アディポネクチン、AdipoRon、及びCTRP3の受容体を同定した。
【0103】
ATDC5細胞を1×10個/ウェルの細胞密度で12ウェルプレートに播種し、10μg/mLのAdipoR1ブロッカー(GeneTex)の存在下又は非存在下、且つ、100ng/mLの組換えヒトCTRP6(Aviscera Bioscience)の存在下又は非存在下で、2日間培養した(いずれもn=4)。培地としては、5% FBS及び1% ペニシリン/ストレプトマイシンを含有するHAM’s F-12培地を用いた。
【0104】
また、100ng/mLの組換えヒトCTRP6の代わりに、100ng/mLのアディポネクチン(BioVendor)、100ng/mLのAdipoRon(AdipoGen)、又は50ng/mLの組換えヒトCTRP3(Aviscera Bioscience)を用いて、上記と同様に培養を行った(いずれもn=4)。なお、AdipoRonを用いた場合には、培養期間を1日間とした。
【0105】
そして、培養後にヘモサイトメーターを用いて細胞数をカウントした。結果を図5A図5Dに示す。図5A図5Dに示すとおり、組換えヒトCTRP6、アディポネクチン、又はAdipoRonの添加により、ATDC5細胞の細胞増殖が亢進したが、AdipoR1ブロッカーの添加により、細胞増殖が阻害された。組換えヒトCTRP6を添加した場合にも、ATDC5細胞の細胞増殖が亢進したが、AdipoR1ブロッカーを添加しても細胞増殖は阻害されなかった。このことから、CTRP6、アディポネクチン、及びAdipoRonは、AdipoR1を介して軟骨細胞増殖を制御していることが示唆される。
【0106】
<試験例6>
試験例6では、CTRP3の受容体を同定した。
【0107】
試験例4(1)と同様にして、ATDC5細胞に、AdipoR1 siRNA、AdipoR2 siRNA、コントロールsiRNA-1、AdipoR3 siRNA、AdipoR4 siRNA、又はコントロールsiRNA-2を導入(トランスフェクト)した。
【0108】
siRNAの導入から48時間後、ATDC5細胞を2×10個/ウェルの細胞密度で48ウェルプレートに播種し、50ng/mLの組換えヒトCTRP3(Aviscera Bioscience)の存在下又は非存在下で2日間培養した(いずれもn=4)。その後、ヘモサイトメーターを用いて細胞数をカウントした。結果を図6A及び図6Bに示す。図6A及び図6Bに示すとおり、AdipoR2 siRNAを導入したATDC5細胞では、組換えヒトCTRP3を添加しても、細胞増殖の亢進が確認されなかった。このことから、CTRP3は、AdipoR2を介して軟骨細胞増殖を制御していることが示唆される。
【0109】
2018年2月14日に出願された日本出願2018-024297の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的且つ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
【配列表】
0007266307000001.app