(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】粉末粒子の被覆方法、全固体リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法、全固体リチウムイオン電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 2/00 20060101AFI20230424BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230424BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230424BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230424BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20230424BHJP
C01G 33/00 20060101ALI20230424BHJP
B01J 2/12 20060101ALI20230424BHJP
【FI】
B01J2/00 B
H01M4/36 C
H01M10/0562
H01M10/052
H01M10/058
C01G33/00 A
B01J2/12
(21)【出願番号】P 2018197823
(22)【出願日】2018-10-19
【審査請求日】2021-09-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼川 幸毅
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-131836(JP,A)
【文献】特開2012-170927(JP,A)
【文献】特開平07-195007(JP,A)
【文献】特開2015-201252(JP,A)
【文献】特開2020-059014(JP,A)
【文献】特開2020-061338(JP,A)
【文献】国際公開第2019/065254(WO,A1)
【文献】特開昭63-214340(JP,A)
【文献】特開昭62-071529(JP,A)
【文献】特開2010-099555(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0203520(US,A1)
【文献】特開2010-080231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 2/00- 2/30
B01J 8/00- 8/46
B05B 12/00-12/36
B05B 13/00-13/06
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 10/058
C01G 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆処理対象の粉末粒子を収容する空間を内部に備える円筒状の回転体と、
前記回転体の軸方向に伸び、前記回転体の内壁面から前記回転体の内径方向に起立するように設けられ、前記回転体の周方向に間隔を空けて複数設けられた撹拌板と、
被覆材噴霧ノズル、第1の空気導入ノズル及び第2の空気導入ノズルと、
を備えた被覆装置を用いた粉末粒子の被覆方法であり、
前記被覆処理対象の粉末粒子を前記回転体の内部へ収容し、前記回転体を回転させて前記複数の撹拌板によって前記粉末粒子を次々に持ち上げ、前記回転体のさらなる回転によって前記撹拌板から粉末粒子を次々に落下させる工程と、
前記落下した粉末粒子、及び、前記回転体の回転によって前記回転体内部を舞う粉末粒子に、前記第1の空気導入ノズルから空気を吹き付けて、さらに前記回転体内部で撹拌しながら、前記被覆材噴霧ノズルから被覆材を前記粉末粒子に噴霧する工程と、
前記被覆材が噴霧された粉末粒子に前記第2の空気導入ノズルから空気を吹き付けて乾燥させる工程と、
を備え、
前記被覆材噴霧ノズルは前記回転体の内部の上部に位置し、前記回転体の内部の下方に向かって被覆材を噴霧し、
前記第1の空気導入ノズルは、前記回転体の回転に伴い、前記撹拌板に持ち上げられて落とされた前記粉末粒子の落下開始位置に空気を吹き付け、
前記第2の空気導入ノズルは、前記被覆材噴霧ノズルによって被覆材が噴霧された粉末粒子の下方から、上方に向かって空気を吹き付ける粉末粒子の被覆方法。
【請求項2】
被覆処理対象の粉末粒子を収容する空間を内部に備える円筒状の回転体と、
前記回転体の軸方向に伸び、前記回転体の内壁面から前記回転体の内径方向に起立するように設けられ、前記回転体の周方向に間隔を空けて複数設けられた撹拌板と、
被覆材噴霧ノズル、第1の空気導入ノズル及び第2の空気導入ノズルと、
を備えた被覆装置を用いた粉末粒子の被覆方法であり、
前記被覆処理対象の粉末粒子を前記回転体の内部へ収容し、前記回転体を回転させて前記複数の撹拌板によって前記粉末粒子を次々に持ち上げ、前記回転体のさらなる回転によって前記撹拌板から粉末粒子を次々に落下させる工程と、
前記落下した粉末粒子、及び、前記回転体の回転によって前記回転体内部を舞う粉末粒子に、前記第1の空気導入ノズルから空気を吹き付けて、さらに前記回転体内部で撹拌しながら、前記被覆材噴霧ノズルから被覆材を前記粉末粒子に噴霧する工程と、
前記被覆材が噴霧された粉末粒子に前記第2の空気導入ノズルから空気を吹き付けて乾燥させる工程と、
を備え、
前記被覆材噴霧ノズルは前記回転体の内部の上部に位置し、前記回転体の内部の下方に向かって被覆材を噴霧し、
前記第1の空気導入ノズルは、前記回転体の回転に伴い、前記撹拌板に持ち上げられて落とされた前記粉末粒子の落下開始位置に空気を吹き付け、
前記第2の空気導入ノズルは、前記被覆材噴霧ノズルによって被覆材が噴霧された粉末粒子の一方の側方から、他方の側方に向かって空気を吹き付ける粉末粒子の被覆方法。
【請求項3】
前記被覆処理対象の粉末粒子が正極活物質前駆体である請求項1
または2に記載の粉末粒子の被覆方法。
【請求項4】
前記被覆処理対象の粉末粒子が全固体リチウムイオン電池用正極活物質前駆体であり、前記被覆材がニオブ酸リチウム水溶液である請求項
3に記載の粉末粒子の被覆方法。
【請求項5】
請求項
4に記載の粉末粒子の被覆方法によって表面が被覆された全固体リチウムイオン電池用正極活物質前駆体を焼成して全固体リチウムイオン電池用正極活物質を製造する方法。
【請求項6】
請求項
5に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法で作製した全固体リチウムイオン電池用正極活物質を用いて正極層を形成し、固体電解質層、前記正極層及び負極層を備えた全固体リチウムイオン電池を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末粒子の被覆方法、全固体リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法、全固体リチウムイオン電池の製造方法
に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粉末粒子に被覆材を供給して粉末粒子の表面を被覆するために、回転式のドラムの内部に粉末粒子を収容し、ドラムを回転させながら粉末粒子を撹拌させておき、被覆材を撹拌されている粉末粒子に供給する方法が用いられている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-301726号公報
【文献】特開平09-066227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述のような従来の被覆装置では、ドラムの回転のみで粉末粒子を装置内部で撹拌しており、複数の粉末粒子を混合して被覆材で表面を被覆しようとすると、粉末粒子の粒子サイズや粒子比重によりドラム底部に粉末粒子が滞留してしまう。このようにドラム底部に滞留した粉末粒子が存在すると、ドラム内の粉末粒子に均一に被覆膜を形成することが困難となる。
【0005】
そこで、本発明の実施形態は、粉末粒子に均一に被覆膜を形成することができる粉末粒子の被覆方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は一実施形態において、被覆処理対象の粉末粒子を収容する空間を内部に備える円筒状の回転体と、前記回転体の軸方向に伸び、前記回転体の内壁面から前記回転体の内径方向に起立するように設けられ、前記回転体の周方向に間隔を空けて複数設けられた撹拌板と、被覆材噴霧ノズル、第1の空気導入ノズル及び第2の空気導入ノズルとを備えた被覆装置を用いた粉末粒子の被覆方法であり、前記被覆処理対象の粉末粒子を前記回転体の内部へ収容し、前記回転体を回転させて前記複数の撹拌板によって前記粉末粒子を次々に持ち上げ、前記回転体のさらなる回転によって前記撹拌板から粉末粒子を次々に落下させる工程と、前記落下した粉末粒子、及び、前記回転体の回転によって前記回転体内部を舞う粉末粒子に、前記第1の空気導入ノズルから空気を吹き付けて、さらに前記回転体内部で撹拌しながら、前記被覆材噴霧ノズルから被覆材を前記粉末粒子に噴霧する工程と、前記被覆材が噴霧された粉末粒子に前記第2の空気導入ノズルから空気を吹き付けて乾燥させる工程とを備えた粉末粒子の被覆方法である。
【0007】
本発明の粉末粒子の被覆方法は別の一実施形態において、前記第1の空気導入ノズルは、前記回転体の回転に伴い、前記撹拌板に持ち上げられて落とされた前記粉末粒子の落下開始位置に空気を吹き付ける。
【0008】
本発明の粉末粒子の被覆方法は更に別の一実施形態において、前記被覆材噴霧ノズルは前記回転体の内部の上部に位置し、前記回転体の内部の下方に向かって被覆材を噴霧し、
前記第2の空気導入ノズルは、前記被覆材噴霧ノズルによって被覆材が噴霧された粉末粒子の下方から、上方に向かって空気を吹き付ける。
【0009】
本発明の粉末粒子の被覆方法は更に別の一実施形態において、前記被覆材噴霧ノズルは前記回転体の内部の上部に位置し、前記回転体の内部の下方に向かって被覆材を噴霧し、前記第2の空気導入ノズルは、前記被覆材噴霧ノズルによって被覆材が噴霧された粉末粒子の一方の側方から、他方の側方に向かって空気を吹き付ける。
【0010】
本発明の粉末粒子の被覆方法は更に別の一実施形態において、前記被覆処理対象の粉末粒子が正極活物質前駆体である。
【0011】
本発明の粉末粒子の被覆方法は更に別の一実施形態において、前記被覆処理対象の粉末粒子が全固体リチウムイオン電池用正極活物質前駆体であり、前記被覆材がニオブ酸リチウム水溶液である。
【0012】
本発明は別の一実施形態において、本発明の粉末粒子の被覆方法によって表面が被覆された全固体リチウムイオン電池用正極活物質前駆体を焼成して全固体リチウムイオン電池用正極活物質を製造する方法である。
【0013】
本発明は更に別の一実施形態において、本発明の全固体リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法で作製した全固体リチウムイオン電池用正極活物質を用いて正極層を形成し、固体電解質層、前記正極層及び負極層を備えた全固体リチウムイオン電池を製造する方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態によれば、粉末粒子に均一に被覆膜を形成することができる粉末粒子の表面を被覆材で被覆するための粉末粒子の被覆方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例に係る被覆装置10の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(被覆装置)
本発明の実施形態に係る被覆装置は、被覆処理対象の粉末粒子を収容する空間を内部に備える円筒状の回転体を備える。回転体は回転式ドラムであってもよい。回転体は特に限定されないが、例えば、クロム、タングステン、モリブデン、バナジウムからなる合金、SUS、ハステロイ(HASTALLOY)、インコネル(INCONEL)、インコロイ(INCOLLOY)等で形成されている。回転体の大きさは特に限定されないが、例えば、軸方向の長さが2~5m、円筒状の断面の内径が1~2mに形成されていてもよい。回転体は、ローラー等によって、例えば時計回りに所定の角度だけ回転した後、今度は反時計回りに所定の角度だけ回転することを交互に続けてもよく、または、一方向に回転し続けてもよい。
【0017】
回転体の内部には複数の撹拌板が設けられている。撹拌板は、回転体の軸方向に伸び、回転体の内壁面から回転体の内径方向に起立するように設けられ、回転体の周方向に間隔を空けて、2つ、3つ、または4つ以上が設けられている。撹拌板は回転体と同じ材質であってもよい。撹拌板は特に限定されないが、例えば厚みが3~5mm、高さが10~20cmに形成されていてもよい。複数の撹拌板は、隣接するもの同士が等間隔でそれぞれ設けられているのが好ましい。
【0018】
回転体の内部には、粉末粒子に被覆材を噴霧する被覆材噴霧ノズルが設けられている。回転体の外部に設けられた被覆材供給部から伸びる管が、回転体の内部を通り、回転体の軸方向に沿って伸びて被覆材噴霧ノズルに接続されている。被覆材噴霧ノズルは、被覆材供給部から回転体の内部の管を通って供給された被覆材を、回転体内部の粉末粒子に噴霧する。被覆材噴霧ノズルは霧吹きの機能を有している。すなわち、被覆材噴霧ノズルには複数の孔が形成されており、当該複数の孔から被覆材が霧状となって放出される。被覆材噴霧ノズルの孔の大きさは、噴霧する被覆材によるが、例えば0.1~1mm径に形成されていてもよい。
【0019】
回転体の内部には、粉末粒子に空気を吹き付けて撹拌するための第1の空気導入ノズルが設けられている。回転体の外部に設けられた空気供給部から伸びる管が、回転体の内部を通り、回転体の軸方向に沿って伸びて第1の空気導入ノズルに接続されている。第1の空気導入ノズルは、空気供給部から回転体の内部の管を通って供給された空気を、回転体内部の粉末粒子に吹き付けて撹拌する。第1の空気導入ノズルは回転体内部に複数設けられていてもよい。
【0020】
回転体の内部には、被覆材噴霧ノズルによって被覆材が噴霧された粉末粒子に空気を吹き付けるための第2の空気導入ノズルが設けられている。回転体の外部に設けられた空気供給部から伸びる管が、回転体の内部を通り、回転体の軸方向に沿って伸びて第2の空気導入ノズルに接続されている。第2の空気導入ノズルは、空気供給部から回転体の内部の管を通って供給された空気を、被覆材噴霧ノズルによって被覆材が噴霧された粉末粒子に吹き付けて乾燥させる。第2の空気導入ノズルは回転体内部に複数設けられていてもよい。
【0021】
回転体の内部には、回転体の内部から空気を回転体の外部へ排出する空気収集部が設けられている。空気収集部は、多数の孔を有する中空体であり、回転体の外部に設けられた減圧ポンプから伸びる管と接続されており、当該減圧ポンプによる減圧によって空気収集部が回転体の内部から空気を回転体の外部へ排出している。
【0022】
本発明の実施形態に係る被覆装置は、このような構成により、回転体が回転することによって回転体内部の粉末粒子が複数の撹拌板で次々に持ち上げられる。撹拌板で持ち上げられた粉末粒子は、回転体のさらなる回転によって撹拌板から次々に落下する。また、落下した粉末粒子、または、回転体内部を舞う粉末粒子は、第1の空気導入ノズルから吹き付けられる空気によって、さらに回転体内部で撹拌される。このため、回転体内部で粉末粒子が一部に滞留せずに十分に撹拌され、また、回転体内部での粉末粒子と被覆材との衝突回数が増加し、被覆材噴霧ノズルから噴霧された被覆材が回転体内部の粉末粒子それぞれに均一に、また、粉末粒子全体に均一に付着することができる。また、被覆材が均一に付着した粉末粒子に対し、第2の空気導入ノズルが空気を吹き付けて乾燥させることで、効率よく被覆材が良好に粉末粒子の表面に形成される。
【0023】
第1の空気導入ノズルは、回転体の回転に伴い、撹拌板に持ち上げられて落とされた粉末粒子の落下開始位置に空気を吹き付けるように設けられていてもよい。このような構成によれば、粉末粒子が撹拌板から落下した直後に第1の空気導入ノズルからの空気が吹き付けられるため、粉末粒子が一部分に滞留することなく、回転体内部により良好に撹拌される。
【0024】
被覆材噴霧ノズルは回転体の内部の上部に位置し、回転体の内部の下方に向かって被覆材を噴霧するように設けられ、第2の空気導入ノズルは、被覆材噴霧ノズルによって被覆材が噴霧された粉末粒子の下方から、上方に向かって空気を吹き付けるように設けられていてもよい。また、被覆材噴霧ノズルは回転体の内部の上部に位置し、回転体の内部の下方に向かって被覆材を噴霧するように設けられ、第2の空気導入ノズルは、被覆材噴霧ノズルによって被覆材が噴霧された粉末粒子の一方の側方から、他方の側方に向かって空気を吹き付けるように設けられていてもよい。噴霧された被覆材が粉末粒子表面で乾燥しない場合、粉末粒子の濡れた部分が他の粉末粒子に接触して付着することがある。このように付着した粉末粒子には、被覆材を噴霧しても被覆材が届きにくい表面部分が生じ、被覆材のコーティングが不均一となるおそれがある。このような問題に対し、被覆材噴霧ノズルと第2の空気導入ノズルとが前述のような構成であれば、被覆材噴霧ノズルによって被覆材が噴霧された粉末粒子を、噴霧後すぐに乾燥することができる。従って、被覆材をより良好に粉末粒子の表面に形成することができる。
【0025】
本発明の実施形態に係る被覆処理対象の粉末粒子は、特に限定されないが、例えば、正極活物質前駆体、アルミナ、ジルコニア、セリア等の金属酸化物の粉体等であってもよい。粉末粒子が正極活物質前駆体であれば、当該正極活物質前駆体それぞれに均一に、また、正極活物質前駆体全体に均一に被覆材を被覆することができ、それを用いて作製する正極材、固体電解質間の抵抗を減少させることができる。粉末粒子の粒径についても特に限定されないが、例えば、2~30μmであってもよい。
【0026】
(粉末粒子の被覆方法)
本発明の実施形態に係る粉末粒子の被覆方法は、前述の本発明の実施形態に係る被覆装置を用いて実施することができる。まず、被覆処理対象の粉末粒子を被覆装置の回転体の内部に収容し、被覆装置の回転体を回転させる。被覆装置の回転体を回転させることで、複数の撹拌板によって回転体内部の粉末粒子を次々に持ち上げる。撹拌板で持ち上げた粉末粒子は、回転体のさらなる回転によって撹拌板から次々に落下する。落下した粉末粒子、または、回転体内部を舞う粉末粒子に、第1の空気導入ノズルから空気を吹き付けて、さらに回転体内部で撹拌する。このように回転体内部で粉末粒子を一部に滞留させずに十分に撹拌することで、被覆材噴霧ノズルから噴霧された被覆材を回転体内部の粉末粒子のそれぞれに均一に、また、粉末粒子全体に均一に付着させる。また、被覆材が均一に付着した粉末粒子に対し、第2の空気導入ノズルから空気を吹き付けて乾燥させる。これにより、被覆材をさらに良好に粉末粒子の表面に形成する。
【0027】
第1の空気導入ノズルは、回転体の回転に伴い、撹拌板に持ち上げられて落とされた粉末粒子の落下開始位置に空気を吹き付けてもよい。このような構成によれば、粉末粒子が撹拌板から落下した直後に第1の空気導入ノズルからの空気が吹き付けられるため、粉末粒子が一部分に滞留することなく、回転体内部により良好に撹拌される。
【0028】
被覆材噴霧ノズルは回転体の内部の上部に位置し、回転体の内部の下方に向かって被覆材を噴霧し、第2の空気導入ノズルは、被覆材噴霧ノズルによって被覆材が噴霧された粉末粒子の下方から、上方に向かって空気を吹き付けてもよい。また、被覆材噴霧ノズルは回転体の内部の上部に位置し、回転体の内部の下方に向かって被覆材を噴霧し、第2の空気導入ノズルは、被覆材噴霧ノズルによって被覆材が噴霧された粉末粒子の一方の側方から、他方の側方に向かって空気を吹き付けてもよい。噴霧された被覆材が粉末粒子表面で乾燥しない場合、粉末粒子の濡れた部分が他の粉末粒子に接触して付着することがある。このように付着した粉末粒子には、被覆材を噴霧しても被覆材が届きにくい表面部分が生じ、被覆材のコーティングが不均一となるおそれがある。このような問題に対し、被覆材噴霧ノズルと第2の空気導入ノズルとが前述のような構成であれば、被覆材噴霧ノズルによって被覆材が噴霧された粉末粒子を、噴霧後すぐに乾燥することができる。従って、被覆材をより良好に粉末粒子の表面に形成することができる。
【0029】
(全固体電池用正極活物質の製造方法)
本発明の実施形態に係る粉末粒子の被覆方法を用いた全固体電池用正極活物質の製造方法について説明する。まず、正極活物質の原料となる遷移金属の水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水を別々の槽に用意する。遷移金属の水溶液は、例えば硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガンを所定のモル比で含む水溶液であってもよい。次に、これらを一つの反応槽に投入して晶析法により反応させ、ろ過、水洗及び乾燥を行うことで、所定の組成式[例えば、NixCoyMnz(OH)2、x+y+z=1]で示される前駆体粉体(粉末粒子)を得る。
【0030】
次に、当該前駆体粉体を前述の被覆装置の回転体内に投入し、被覆装置の回転体を回転させながら、前述の通り、第1の空気導入ノズルから空気を吹き付けて撹拌し、被覆材噴霧ノズルから被覆材(例えば、シュウ酸ニオブ水溶液等)を噴霧し、第2の空気導入ノズルから空気を吹き付けて乾燥させる。これにより、前駆体粉体それぞれに均一に、また、前駆体粉体全体に均一に被覆材を被覆する。
【0031】
次に、被覆装置から被覆材が被覆された前駆体粉体を取り出し、所定の焼成条件で焼成した後、解砕することで、全固体電池用正極活物質を製造する。
【0032】
(全固体リチウムイオン電池の製造方法)
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法によって製造された全固体リチウムイオン電池用正極活物質を用いて正極層を形成し、固体電解質層、当該正極層及び負極層を備えた全固体リチウムイオン電池を作製することができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0034】
(実施例1)
図1に本発明の実施例に係る被覆装置10の模式図を示す。被覆装置10は、被覆処理対象の粉末粒子(正極活物質前駆体)7を収容する空間を内部に備える円筒状でSUS製の回転体1を備える。回転体1は軸方向の長さが3m、円筒状の断面の内径が1mに形成されている。回転体は、ローラー6で支持されており、ローラー6の回転に伴って、時計回りに60度だけ回転した後、今度は反時計回りに60度だけ回転することを交互に続ける。
【0035】
回転体1の内部にはSUS製の撹拌板5が、回転体1の軸方向に伸び、回転体1の内壁面から回転体1の内径方向に起立するように設けられ、回転体1の周方向に間隔を空けて7つ設けられている。撹拌板5の厚みは5mm、高さは15cmに形成されている。
【0036】
回転体1の内部には、粉末粒子7に被覆材(シュウ酸ニオブ水溶液)を噴霧する被覆材噴霧ノズル2、粉末粒子7に空気を吹き付けて撹拌するための第1の空気導入ノズル3、被覆材噴霧ノズルによって被覆材が噴霧された粉末粒子7に空気を吹き付けるための第2の空気導入ノズル4、及び、回転体1の内部から空気を回転体1の外部へ排出する空気収集部8が設けられている。
【0037】
被覆材噴霧ノズル2は回転体1の内部の上部に位置し、回転体1の内部の下方に向かって被覆材を噴霧するように設けられ、第2の空気導入ノズル4は、被覆材噴霧ノズル2によって被覆材が噴霧された粉末粒子7の下方から、上方に向かって空気を吹き付けるように設けられている。
【0038】
第1の空気導入ノズル3は、回転体1の回転に伴い、撹拌板5に持ち上げられて落とされた粉末粒子7の落下開始位置に空気を吹き付けるように設けられている。具体的には、
図1のAで示される撹拌板5の位置で粉末粒子7は撹拌板5から落下するが、第1の空気導入ノズル3は、当該Aの位置に来た撹拌板5から落下した直後の粉末粒子7に空気を吹きつけることができるような位置に設けられている。
【0039】
このような構成の被覆装置10において、まず、粉末粒子(正極活物質前駆体)7を回転体1の内部に収容し、回転体1を回転させた。回転体1を回転させることで、7枚の撹拌板5によって回転体内部の粉末粒子7を次々に持ち上げた。撹拌板5で持ち上げた粉末粒子7は、回転体1のさらなる回転によって撹拌板5から次々に落下した。落下した粉末粒子7及び回転体1の内部を舞う粉末粒子7に、第1の空気導入ノズル3から空気を吹き付けて、さらに回転体1の内部で撹拌した。このように回転体1の内部で粉末粒子7を一部に滞留させずに十分に撹拌させることで、被覆材噴霧ノズル2から噴霧した被覆材(シュウ酸ニオブ水溶液)を回転体1の内部の粉末粒子7それぞれに均一に、また、粉末粒子7全体に均一に付着させた。また、被覆材が均一に付着した粉末粒子7に対し、第2の空気導入ノズル4から空気を吹き付けて乾燥させた。これにより、被覆材をさらに良好に粉末粒子の表面に形成した。
【符号の説明】
【0040】
1 回転体
2 被覆材噴霧ノズル
3 第1の空気導入ノズル
4 第2の空気導入ノズル
5 撹拌板
6 ローラー
7 粉末粒子
8 空気収集部
10 被覆装置