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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】血糖値上昇抑制作用を有する発酵乳
(51)【国際特許分類】
   A23C 9/123 20060101AFI20230424BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20230424BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230424BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20230424BHJP
   A23K 10/12 20160101ALI20230424BHJP
   A23K 20/163 20160101ALI20230424BHJP
   A61K 35/20 20060101ALN20230424BHJP
   A61K 35/747 20150101ALN20230424BHJP
【FI】
A23C9/123
A61P19/08
A61P3/10
C12N1/20 E
A23K10/12
A23K20/163
A61K35/20
A61K35/747
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019009905
(22)【出願日】2019-01-24
(65)【公開番号】P2020115783
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-01-20
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-10741
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-01697
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-01814
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-01815
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高杉 諭
(72)【発明者】
【氏名】塩山 美穂
(72)【発明者】
【氏名】河合 良尚
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 佳絵
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 裕之
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/164298(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/169027(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/146213(WO,A1)
【文献】特開2017-153458(JP,A)
【文献】国際公開第2018/181455(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/057319(WO,A1)
【文献】特開2016-182049(JP,A)
【文献】Mari Mori, et.al,Beneficial Effect of Viscous Fermented Milk on Blood Glucose and Insulin Responses to Carbohydrates in Mice and Healthy Volunteers: Preventive Geriatrics Approach by"Slow Calorie",Geriatrics,2012年,Chapter:10,pp.141-152
【文献】荒井威吉ほか,高齢者の骨密度と牛乳・ヨーグルト・チーズの摂取量との相関について,新潟青陵大学短期大学部研究報告,2015年04月,第45号,pp.121-126
【文献】Hiroaki Tanaka、et.al,Characteristics of Bone Strength and Metabolism in Type2 Diabetic Model Nagoya Shibata Yasuda Mice,Biol. Pharm. Bull.,2018年,Vol.41, No.10,pp.1567-1573
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
A61P
C12N 1/
A23K
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)OLL1247株(受託番号NITE BP-01814)及びストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)OLS3078株(受託番号NITE BP-01697)を使用した、30mg/kg以上の菌体外多糖(EPS)を含有する、血糖値上昇抑制用の発酵乳。
【請求項2】
血糖値上昇抑制及び骨密度低下抑制用の、請求項1に記載の発酵乳。
【請求項3】
糖尿病に罹患しているか又はその発症のリスクがある対象のための、請求項1又は2に記載の発酵乳。
【請求項4】
骨粗鬆症を合併しやすい疾患を有する対象のための、請求項2に記載の発酵乳。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の発酵乳を含む、血糖値上昇抑制用の食品。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の発酵乳を含む、血糖値上昇抑制用の飼料。
【請求項7】
血糖値上昇抑制及び骨密度低下抑制用の、請求項に記載の食品。
【請求項8】
血糖値上昇抑制及び骨密度低下抑制用の、請求項に記載の飼料。
【請求項9】
糖尿病に罹患しているか又はその発症のリスクがある対象のための、請求項又はに記載の食品。
【請求項10】
糖尿病に罹患しているか又はその発症のリスクがある対象のための、請求項又はに記載の飼料。
【請求項11】
骨粗鬆症を合併しやすい疾患を有する対象のための、請求項7に記載の食品。
【請求項12】
骨粗鬆症を合併しやすい疾患を有する対象のための、請求項8に記載の飼料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血糖値上昇抑制作用を有する発酵乳に関する。
【背景技術】
【0002】
2007年に日本で実施された国民健康栄養調査によると、糖尿病が強く疑われる人は約890万人とされ、糖尿病の可能性を否定できない人は1320万人にも上る。すなわち、日本における糖尿病患者とその予備軍は合計で2210万人となり、非常に多い。糖尿病は主に1型糖尿病と2型糖尿病に分類されるが、多くの糖尿病患者が2型糖尿病である。2型糖尿病では、生活習慣などの環境要因や遺伝的要因に起因するインスリン分泌量の低下やインスリン抵抗性の発現によってインスリン機能が十分に発揮されない状態となり、血糖値が上昇する。血糖値上昇は膵β細胞からのインスリン分泌を促進するが、それは次第に膵β細胞を疲弊させインスリン分泌能を低下させることになり、病状は悪化していく。また、長期の血糖値上昇は血管や他の細胞・組織を傷害し、動脈硬化、網膜症、神経障害、腎臓病などの様々な合併症を引き起こす。さらに糖尿病は骨粗鬆症のリスク因子であることも知られている(非特許文献1)。2型糖尿病は自覚症状が乏しく、気づかないうちに進行する病気であるため、食事などの日頃の生活習慣による予防が非常に重要である。
【0003】
糖尿病は、空腹時血糖値の高さだけでなく、食後の血糖値の急激な上昇とも関連している。学術的には、食後高血糖は、心血管疾患のリスク因子であることが知られている(非特許文献2)。現在では、空腹時血糖値の高さよりも食後高血糖の方が糖尿病やその合併症のリスク因子として重要と考えられるようになってきており、食後の急激な血糖値上昇を効果的に抑制する方法が必要とされている。アカルボースなどのαグルコシダーゼ阻害薬は糖分解を阻害して糖の吸収を遅延させることにより食後の血糖値上昇を抑制することができ、食後高血糖の治療薬として使用されている。また難消化性デキストリンが、糖吸収を抑制することにより、食後の血糖値上昇を抑制するために用いられている。しかし、食後の血糖値上昇を抑制できたとしても、それだけでは、糖尿病の根底にある耐糖能の低下の抑制や糖尿病と関連する合併症の予防には必ずしもつながらない。一方で、血糖値のコントロールには血糖値上昇抑制剤の長期摂取が必要であり、良好な血糖値上昇抑制効果を有する食品組成物が望まれている。
【0004】
特許文献1は、ラクトバチルス・ガセリの培養物又は菌体とビフィドバクテリウム・ロンガムの培養物又は菌体を有効成分とする糖尿病合併症予防・改善・治療剤を開示している。しかし、特許文献1は、菌が腸管に定着することによりインシュリン抵抗性の発生を予防し、糖尿病性腎症を改善できることを開示しており、それらの効果を得るためには生菌を腸管に定着させることが必要である。
【0005】
特許文献2は、多糖類を生成するラクトバシラス・ファーメンタムNM316株を有効成分とする糖尿病予防・治療剤を開示している。特許文献2は、腸内生存性の高いNM316株が腸内の低分子糖類を、非消化性又は難消化性の高分子物質(多糖類)に変換することにより低減し、それにより肥満や糖尿病を予防又は治療することができることを開示している。しかし、特許文献2は糖尿病の合併症の予防効果については記載していない。
【0006】
特許文献3は、ラクトバチルス・サリバリウスを有効成分とする、メタボリックシンドローム予防改善剤、血糖値上昇抑制剤、及び血糖値低減剤等を開示している。しかし特許文献3は糖尿病の合併症の予防効果については記載していない。さらに特許文献3は、乳酸菌やビフィズス菌が糖・脂質代謝に及ぼす影響は属や種によって大きく異なることを開示している。
【0007】
非特許文献3はラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)FC株を用いて製造されたカスピ海ヨーグルトの摂取が血糖値上昇を抑制することを報告している。しかし非特許文献3はFC株以外の微生物による発酵乳が血糖値上昇抑制作用を有するかどうかについては記載していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-252770号公報
【文献】特開2005-40123号公報
【文献】特開2013-147457号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Ni Y., and Fan D., Medicine (Baltimore). 2017 Dec;96(51):e8811. doi: 10.1097/MD.0000000000008811.
【文献】Tominaga et al., Diabetes Care. (1999) 22: 920-924
【文献】Mori Hideki. et al., Geriatrics (2012) p.141-152
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、血糖値上昇抑制効果と骨密度低下抑制効果を有する食品組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、所定の乳酸菌を用いて製造される発酵乳及びその発酵乳に高濃度に含まれる当該乳酸菌由来の菌体外多糖(EPS)が、血糖値上昇抑制効果をもたらし、また骨密度低下抑制にも有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1]ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)及びストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)を使用した、30mg/kg以上の菌体外多糖(EPS)を含有する、血糖値上昇抑制用の発酵乳。
[2]血糖値上昇抑制及び骨密度低下抑制用の、上記[1]に記載の発酵乳。
[3]糖尿病に罹患しているか又はその発症のリスクがある対象のための、上記[1]又は[2]に記載の発酵乳。
[4]ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカスが、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)OLL1247株(受託番号NITE BP-01814)である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の発酵乳。
[5]ストレプトコッカス・サーモフィラスが、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)OLS3078株(受託番号NITE BP-01697)である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の発酵乳。
[6]上記[1]~[5]のいずれかに記載の発酵乳を含む、血糖値上昇抑制用の食品。
[7]上記[1]~[5]のいずれかに記載の発酵乳を含む、血糖値上昇抑制用の飼料。
[8]血糖値上昇抑制及び骨密度低下抑制用の、上記[6]に記載の食品。
[9]血糖値上昇抑制及び骨密度低下抑制用の、上記[7]に記載の飼料。
[10]糖尿病に罹患しているか又はその発症のリスクがある対象のための、上記[6]又は[8]に記載の食品。
[11]糖尿病に罹患しているか又はその発症のリスクがある対象のための、上記[7]又は[9]に記載の飼料。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、血糖値上昇抑制に加えて骨密度の低下抑制にも有効であり、長期摂取できる、血糖値上昇抑制剤として利用可能な発酵乳等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は高EPS発酵乳の血糖値上昇抑制効果を示す図である。黒塗り丸は水、黒塗り三角は高EPS発酵乳、白抜き三角はIDexを表す。各時点の血糖値間の統計学的有意差(FisherのLSD法による)の存在を異なるアルファベット文字で表す。血糖値は平均値±標準誤差で示した。
図2図2は高EPS発酵乳と低EPS発酵乳の血糖値上昇抑制効果を示す図である。図2Aはショ糖負荷後の血糖値の推移を示し、図2Bはショ糖負荷後の血糖値の曲線下面積(AUC)を示す。図2Aにおいて黒塗り三角は高EPS発酵乳、白抜き丸は低EPS発酵乳を表す。血糖値は平均値±標準誤差で示した。*はスチューデントT検定による有意差p<0.05を表す。
図3図3は門脈血血糖値に対する高EPS発酵乳の上昇抑制効果を示す図である。黒塗り三角は高EPS発酵乳、白抜き丸は低EPS発酵乳を表す。血糖値は平均値±標準誤差で示した。#はスチューデントT検定による有意差p<0.1、*はスチューデントT検定による有意差p<0.05を表す。
図4図4は試験飼料の長期摂取後の一晩絶食時血糖値(空腹時血糖値;解剖時)を示す。各群の血糖値間の統計学的有意差(Tukey-Kramer法による)の存在を異なるアルファベット文字で表す。血糖値は平均値±標準誤差で示した。
図5図5は試験飼料摂取開始から7週目のマウスの水摂取量を示す図である。各群の水摂取量間の統計学的有意差(Tukey-Kramer法による)の存在を異なるアルファベット文字で表す。水摂取量は平均値±標準誤差で示した。
図6図6は試験飼料の長期摂取後の空腹時血糖値と血中ucOC濃度の相関を示す図である。対照群、脱脂粉乳群、低EPS発酵乳群及び高EPS発酵乳群の測定値のみを用いた。
図7図7は試験飼料の長期摂取後のII糖尿病モデルマウスにおける骨密度を示す図である。図7Aは試験飼料摂取開始から7週目の腰椎の骨密度、図7Bは解剖時に摘出した大腿骨の骨密度を示す。各群の全骨密度間の統計学的有意差(Tukey-Kramer法による)の存在を異なるアルファベット文字で表す。全骨密度は平均値±標準誤差で示した。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)及びストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)をスターターとして用いた乳の発酵により得られる、菌体外多糖(extracellular polysaccharide;EPS)を好ましくは高濃度で含有する発酵乳が、血糖値上昇抑制作用を有するという知見に基づく。本発明はまた、そのようなEPSを好ましくは高濃度で含有する発酵乳を長期摂取することにより、糖代謝が改善し、また骨密度低下が抑制されるという知見に基づく。本発明は、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)及びストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)を用いて調製される、菌体外多糖(EPS)を含有する血糖値上昇抑制用及び/又は骨密度低下抑制用の発酵乳を提供する。
【0016】
本発明に関して、用語「抑制」は、阻止及び低減を包含し、例えば、血糖値の上昇若しくは骨密度の低下を阻止するか又はそれらの上昇/低下(上昇/低下量)を低減することを指す。
【0017】
本発明において発酵乳(典型的には、ヨーグルト)とは、乳酸菌や酵母のような微生物を用いて乳を発酵させたものを指す。発酵に用いる乳(原料乳)は生乳、殺菌乳、濃縮乳、成分調整乳、低脂肪乳、無脂肪乳、脱脂粉乳、脱脂濃縮乳などの任意の乳又はそれらの任意の組み合わせであってよい。乳はウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ラクダ、スイギュウ等の任意の哺乳動物に由来するものであってよく、例えばウシ由来の乳(牛乳)であってもよい。乳は脂肪分を含んでいてもよいし、無脂肪であってもよい。乳は少なくとも脱脂粉乳を含んでいてもよく、脱脂粉乳であってもよいし、脱脂粉乳と生乳(例えば、牛乳)であってもよい。乳は水に希釈又は溶解して発酵に用いてもよい。本発明に係る発酵乳の製造においては、水、乳、及び上記微生物のみを原料として用いてもよい。本発明に係る発酵乳の製造では、他の乳製品を始めとする追加の原料(例えば、クリーム、乳清、乳清タンパク質、豆乳、大豆タンパク質など)をさらに用いてもよいが、用いなくてもよい。本発明に係る発酵乳は、任意の食品添加剤(例えば、甘味料、香料、安定剤など)を含んでいてもよい。あるいは、本発明に係る発酵乳は、乳又は乳製品に含まれるもの以外の、単糖、二糖、オリゴ糖(3糖~10糖)及び多糖などの糖を原料として添加することなく製造されたものであってもよい。
【0018】
本発明に係る発酵乳の製造においては、発酵のために乳酸菌ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)及びストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)をスターターとして用いる。
【0019】
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカスとしては、以下に限定するものではないが、例えば、EPSの産生に有用な菌株として、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカスOLL1247株、及びOLL1073R-1株が挙げられる。
【0020】
ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)としては、以下に限定するものではないが、例えば、EPSの産生に有用な菌株として、ストレプトコッカス・サーモフィラスOLS3078株、及びOLS3618株が挙げられる。
【0021】
本発明に係る発酵乳の製造において、以下に限定するものではないが、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカスOLL1247株とストレプトコッカス・サーモフィラスOLS3078株の組み合わせ、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカスOLL1247株とストレプトコッカス・サーモフィラスOLS3618株の組み合わせ、又はラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカスOLL1073R-1株とストレプトコッカス・サーモフィラスOLS3078株の組み合わせを用いることが特に好ましい。
【0022】
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)OLL1247株は、2014年3月6日付けで独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、受託番号NITE BP-01814の下でブタペスト条約に基づき国際寄託されている。
【0023】
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)OLL1073R-1株は、1999年2月22日(原寄託日)付けで独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE-IPOD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に、受託番号FERM BP-10741の下でブタペスト条約に基づき国際寄託されている。なお本寄託株は2006年11月29日に、国内寄託(原寄託)からブダペスト条約に基づく国際寄託に移管された。
【0024】
ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)OLS3078株は、2013年8月23日付け(原寄託日)で独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、受託番号NITE BP-01697の下でブタペスト条約に基づき国際寄託されている。
【0025】
ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)OLS3618株は、2014年3月6日付け(原寄託日)で独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、受託番号NITE BP-01815の下でブタペスト条約に基づき国際寄託されている。
【0026】
本発明に係る発酵乳は、上記の乳酸菌ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス及びストレプトコッカス・サーモフィラスを含む。一実施形態では、本発明に係る発酵乳は、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス及びストレプトコッカス・サーモフィラスを、以下に限定されないが、好ましくは1.5:1~1:1.5、より好ましくは1.4:1~1:1.4、さらに好ましくは1.1:1~1:1.3の菌数比率で含む。一実施形態では、本発明に係る発酵乳は、10~100 x 107 cfu/ml、例えば、20~70 x 107 cfu/mlの総乳酸菌数を含むが、本発明はこの範囲に限定されない。
【0027】
本発明に係る発酵乳は、血糖値上昇抑制のために使用する前又は他の成分等と配合する前に処理されていてもよい。本発明に係る発酵乳は、例えば、乾燥、粉末化、顆粒化、希釈、濃縮等されていてもよい。好ましい実施形態では、本発明に係る発酵乳を、凍結乾燥、温風乾燥、加熱乾燥等により乾燥することができる。本発明に係る発酵乳は、殺菌されてもよいし、殺菌されなくてもよい。殺菌は常法により行うことができ、例えば、放射線滅菌(γ線滅菌、電子線滅菌、紫外線滅菌等)、加熱滅菌(乾熱滅菌、蒸気滅菌、高圧蒸気滅菌、煮沸滅菌等)、化学的滅菌(エチレンオキサイドガス滅菌、プロピレンオキサイドガス滅菌等)、プラズマ滅菌などにより行うことができる。殺菌された発酵乳中の乳酸菌は死菌体となっているが、本発明に係る発酵乳に含まれる総乳酸菌数及び菌数比率は、殺菌直前の生菌の測定値に基づいて算出すればよい。本発明に係る発酵乳中の上記のラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス及びストレプトコッカス・サーモフィラスは、使用する際、生菌であっても死菌であってもよい。
【0028】
本発明に係る発酵乳は、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス及びストレプトコッカス・サーモフィラスによる乳の発酵時に産生され細胞外に放出された多糖(菌体外多糖; EPS)を含む。本発明に係る発酵乳は、当該EPSを30mg/kg以上、好ましくは30mg/kg~1g/kg、より好ましくは30mg/kg~500mg/kg、さらに好ましくは30mg/kg~100mg/kg、特に好ましくは30mg/kg~70mg/kg、例えば35mg/kg~65mg/kg含み得る。
【0029】
発酵乳中のEPS量は常法により測定することができるが、本発明では、以下に限定するものではないが、特開2018-38356、及びWO2014/084340等の方法に従って測定すればよい。具体的には、10gのサンプル(高EPS発酵乳)にトリクロロ酢酸を添加してタンパク質を沈殿させ、上清を採取することにより除タンパクを行い、次いで上清の2倍量のエタノールを加え、冷蔵下で終夜放置し、その後遠心分離により沈殿物を得て、その沈殿物に精製水を加え、ゲル濾過カラムを用いたHPLCに供することにより、本願発明におけるEPS量を測定することができる。HPLC分析装置としては、例えば、Alliance 2695 Separations Module(Waters)を用いることができる。
【0030】
本発明に係る発酵乳は、乳を含む発酵乳原料混合物にラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス及びストレプトコッカス・サーモフィラスをスターターとして加え、培養することにより製造することができる。ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス及びストレプトコッカス・サーモフィラスは、乳を含む発酵乳原料混合物(例えば、ヨーグルトベース)に、以下に限定するものではないが、例えば0.1~10重量%又は1~5重量%の量で添加すればよい。好ましい実施形態では、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス及びストレプトコッカス・サーモフィラスは、同等の菌数比率(例えば、1.1:1~1:1.1)で発酵乳原料混合物(例えば、ヨーグルトベース)に添加すればよい。発酵乳の製造方法の一例としては、スターター以外の発酵乳原料(乳を含む)を混合し、得られた混合物を90~98℃、例えば95℃に達温させ殺菌した後、スターター(ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス及びストレプトコッカス・サーモフィラス)を0.1~10重量%又は1~5重量%、例えば3重量%添加し、40~45℃で1~10時間、例えば43℃で3~5時間発酵させて、発酵終了後、氷冷下で撹拌冷却することでスムージングさせ、それによりEPS含有発酵乳を調製する方法が挙げられる。
【0031】
本発明に係る発酵乳、及びそれに高濃度に含まれる菌体外多糖(EPS)は、血糖値上昇抑制作用を有する。したがって本発明に係る発酵乳は、対象の血糖値上昇抑制用に用いることができる。
【0032】
血糖値は対象の糖代謝能の指標である。糖代謝においては、まず、経口摂取された糖質は消化管において酵素によりグルコースまで分解された後、体内に吸収される。吸収されたグルコースは血流に乗って運ばれ、インスリンの働きによって筋肉細胞や脂肪細胞等に取り込まれる。吸収されたグルコースはまた、肝臓に取り込まれ、グリコーゲンへと変換されて貯蔵される。肝臓は糖代謝恒常性を維持する上で重要な役割を担っており、空腹時にはグリコーゲンからグルコースを産生する一方で、摂食時にはグルコース産生を低減し、グルコースの取り込みを優位にすることで血糖値を安定に保っている。摂食により血糖値が上昇し始めると膵臓のβ細胞からのインスリン分泌が瞬時に増加する。インスリンは肝臓においてグルコースからのグリコーゲン合成を促進するとともに、糖新生を抑制し、また食後に上昇した血糖値をすみやかに低下させる。加齢、悪い生活習慣、疾患等により耐糖能(糖代謝調節機能)が低下すると、食後血糖値は急激に上昇しやすくまた低下しにくくなり(食後高血糖)、長期に及ぶ食後高血糖は体内の血管や他の組織にダメージを与え、膵β細胞の機能を低下させ、心血管疾患の発症リスクを高めることとなる。耐糖能の低下がさらに進むと、食後以外の時期のインスリン分泌(基礎分泌)も低下し、肝臓における糖新生の抑制や筋肉等へのグルコースの取り込みが不十分となる結果、空腹時血糖値や随時血糖値も上昇し、生体組織のダメージが増加し、糖尿病及びその合併症の発症及び悪化につながる。
【0033】
本発明において、血糖値は常法により測定することができる。血糖値を測定する血液は、例えば、静脈血、動脈血又は毛細血管血であってもよい。血糖値は、血漿血糖値であってもよいし、血清血糖値であってもよく、例えば静脈血漿血糖値であってもよい。但し、血糖値の変化を評価する場合には、同じ採血部位に由来する血液、及び同じ血液処理方法に由来する血糖値を比較する必要がある。血糖値の測定は、採取した血液試料について、以下に限定するものではないが、FAD-GDH酵素電極法、GOD酵素電極法、GOD酵素比色法、GOD-POD比色法、クーロメトリー法を採用した酵素電極法、キノプロテイングルコースデヒドロナーゼ酵素比色法、キノプロテイングルコースデヒドロゲナーゼ酵素電極法等の方法により行うことができる。このような血糖値測定法は市販の血糖値測定器を用いて実施することができる。あるいは血糖値の測定は、体表又は体内に固定するセンサーや、レーザー(例えば山川らによる中赤外レーザー法)などを用いた、採血によらない血糖値測定法により行ってもよく、そのような血糖値測定法を実施するための血糖値測定器も開発されている。
【0034】
本発明の好ましい実施形態では、血糖値上昇抑制は、食後の血糖値上昇の抑制を含む。本発明に係る発酵乳やそれに含まれるEPSは、食後の血糖値上昇を抑制(典型的には、緩和)することができる。食後の血糖値上昇の抑制効果は、糖質の経口摂取開始後(糖負荷後)の血糖値の血中濃度-時間曲線下面積(area under the blood concentration-time curve; AUC)に基づいて評価することができる。具体的には、対象の空腹時血糖値を測定した後、本発明に係る発酵乳又はEPSを糖質(典型的にはショ糖)と同時に対象に経口摂取させ、血糖値を経時的に測定し、空腹時血糖値からの各測定時点の血糖値上昇レベルの合計量を血中濃度-時間曲線下面積(平均値)として算出する。血糖値の血中濃度-時間曲線下面積は、経口摂取開始時から120分後までの測定値に基づいて算出することが好ましい。陰性対照として、本発明に係る発酵乳又はEPSの代わりに水を、糖質(典型的にはショ糖)と同時に経口摂取させること以外は同様の手順で試験を行い、血糖値の血中濃度-時間曲線下面積を算出する。この評価試験における本発明に係る発酵乳又はEPSの経口摂取量(経口投与量)は、200~300μg EPS/kg体重に相当する量であってよい。陰性対照(本発明に係る発酵乳又はEPSを経口摂取していない)の対象における血糖値の血中濃度-時間曲線下面積と比較して、本発明に係る発酵乳又はEPSを経口摂取した対象における血糖値の血中濃度-時間曲線下面積が、統計学的に有意に減少した場合、本発明に係る発酵乳又はEPSは食後血糖値上昇抑制効果を有すると判断することができる。これらの評価試験において対象への糖質(典型的にはショ糖)の負荷量は300mg~3g/kg体重であってよく、ヒトの場合は典型的には40~80gである。本発明に係る発酵乳及びEPSが有する、食後の血糖値上昇の抑制効果は、糖吸収抑制によるものと考えられる。
【0035】
本発明において、血糖値上昇抑制は、空腹時血糖値の上昇の抑制を含んでもよい。空腹時血糖値は、ヒトの場合、10時間以上の絶食後に測定した血糖値を指す。好ましい実施形態では、本発明に係る発酵乳又はEPSの摂取(好ましくは長期摂取)は、それを摂取しないこと以外は同等の食習慣を有する場合と比較して、空腹時血糖値の上昇を抑制することができる。本発明に係る発酵乳又はEPSの長期摂取は、以下に限定するものではないが、好ましくは4週間以上、より好ましくは6週間以上、さらに好ましくは8週間以上、例えば4週間~1年又はそれ以上にわたって行うことができる。
【0036】
糖尿病などで見られる高血糖状態は、脱水症状を招き、喉の渇きを生じ、水分摂取量を増加させる。好ましい実施形態では、本発明に係る発酵乳やそれに含まれるEPSの摂取(好ましくは長期摂取)は、高血糖状態にある対象において、それを摂取しないこと以外は同等の食習慣を有する場合と比較して、脱水症状を軽減し、水分摂取量を低減することができる。
【0037】
上記のような空腹時血糖値の上昇抑制効果や、脱水症状の軽減効果は、本発明に係る発酵乳及びEPSが、対象の糖代謝を改善するか又は糖代謝の悪化を抑制する(予防又は遅延させる)ことを示している。
【0038】
さらに、本発明に係る発酵乳及びそれに含まれるEPSは、骨密度の低下を抑制することができる。好ましい実施形態では、本発明に係る発酵乳又はそれに含まれるEPSの長期摂取は、それを長期摂取しないこと以外は同等の食習慣を有する場合と比較して、骨密度の低下を抑制することができる。本発明に係る発酵乳又はEPSの長期摂取の期間は上記と同様である。
【0039】
本発明に係る発酵乳及びそれに含まれるEPSは、糖尿病に罹患しているか又は糖尿病の発症のリスクがある対象が経口摂取するのに適している。あるいは本発明に係る発酵乳及びそれに含まれるEPSは、骨粗鬆症に罹患しているか又は骨粗鬆症の発症のリスクがある対象が経口摂取するのに適している。一般に、糖尿病に罹患しているか又は糖尿病の発症のリスクがある対象には、骨粗鬆症の発症リスクがある。
【0040】
糖尿病は、1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠糖尿病等の任意の糖尿病であってよいが、好ましくは2型糖尿病である。現在、ヒトの2型糖尿病の診断においては、空腹時血糖値126mg/dl以上、75g経口グルコース負荷2時間後血糖値200mg/dl以上、随時血糖値200mg/dl以上、HbAlc(ヘモグロビンA1c)値が6.5%以上のうち、少なくとも1つに該当するヒト対象は糖尿病が強く疑われる「糖尿病型」と判定されている。また、空腹時血糖値110mg/dl未満、75g経口グルコース負荷2時間後血糖値140mg/dl未満の両方に該当するヒト対象は、「正常型」と判定されている。「糖尿病型」と「正常型」のいずれにも属さないヒト対象は「境界型」と判定され、糖尿病予備群(耐糖能異常)に該当する。随時血糖値は、食事の時間に関係なく測定した血糖値を指す。75g経口グルコース負荷2時間後血糖値は、75gのグルコースを経口摂取した2時間後に測定した血糖値(食後血糖値)である。糖尿病に罹患している対象は、2型糖尿病の診断基準で「糖尿病型」と判定されたヒトであり得るが、糖尿病と診断される限りそれに限定されない。糖尿病に罹患している対象は、「糖尿病型」に相当する高血糖状態にある非ヒト哺乳動物であってもよい。一方、糖尿病を発症するリスクがある対象は、2型糖尿病の診断基準で「境界型」と判定されたヒト、又はそれに相当する比較的高血糖の状態にある非ヒト哺乳動物であり得る。あるいは糖尿病を発症するリスクがある対象は、肥満、うつ病、又は高血圧等を有する対象であってもよい。糖尿病を発症するリスクがある対象は、悪い生活習慣(過食、運動不足、喫煙、精神的ストレス、睡眠不足など)や、遺伝的素因(糖尿病の家族歴など)により、糖尿病を発症しやすいと考えられる対象であってもよい。
【0041】
骨粗鬆症に罹患している対象は、骨密度(例えば、若年成人平均値YAMが70%以下)や骨代謝マーカー等の測定値、脆弱性骨折の既往などに基づいて骨粗鬆症と診断される対象であり得るが、骨粗鬆症と診断される限りそれに限定されない。骨粗鬆症を発症するリスクがある対象は、糖尿病、高血圧、脂質異常症、慢性腎臓病、甲状腺機能亢進症、慢性閉塞性肺疾患などの、骨粗鬆症を合併しやすい疾患を有する対象であってもよい。あるいは骨粗鬆症を発症するリスクがある対象は、ステロイド薬、メトトレキサートなどの骨量低下作用を有する薬剤を使用している対象であってもよいし、閉経期又は閉経後の対象であってもよい。
【0042】
本発明において、対象は、ヒト、サル、チンパンジー等の霊長類、マウス、ラット、モルモット等のげっ歯類、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ラクダ、ロバ等の家畜、イヌ、ネコ、ウサギ等の愛玩動物等の任意の哺乳動物であってよい。
【0043】
本発明は、本発明に係る発酵乳を対象に投与することを含む、血糖値の上昇を抑制する方法も提供する。本発明の方法によれば、血糖値の上昇リスクを低減することができる。また本発明の方法においては、食後の血糖値の上昇を抑制することができる。本発明の方法においては、空腹時血糖値の上昇を抑制することもできる。本発明の方法では、糖代謝を改善又は糖代謝の低下を抑制することもできる。
【0044】
本発明は、本発明に係る発酵乳を対象に投与することを含む、骨密度の低下を抑制する方法も提供する。本発明の方法によれば、骨密度の低下リスクを低減することができる。好ましい実施形態では、本発明に係る発酵乳を対象に投与することを含む、血糖値の上昇を抑制し、骨密度の低下を抑制する方法も提供する。
【0045】
本発明はまた、本発明に係る発酵乳を対象に投与することを含む、糖尿病を治療又は予防する方法も提供する。本発明は、本発明に係る発酵乳を対象に投与することを含む、骨粗鬆症を治療又は予防する方法も提供する。本発明は、本発明に係る発酵乳を対象に投与することを含む、糖尿病及び骨粗鬆症を治療又は発症を予防する方法も提供する。本発明において糖尿病の「治療」とは、血糖値が正常又は正常により近い範囲に維持されるように血糖値をコントロールすることを指す。糖尿病の「予防」とは、糖尿病の発症を阻止すること、より具体的には、ヒト2型糖尿病の「糖尿病型」の診断基準を満たす状態又はそれに相当する高血糖状態にならないように、異常な血糖値上昇及びその悪化を阻止又は軽減することを指す。
【0046】
本発明に係る発酵乳は、血糖値上昇抑制用及び/又は骨密度低下抑制用の組成物の有効成分として用いることもできるし、糖尿病及び/若しくは骨粗鬆症を治療又は予防するための組成物の有効成分として用いてもよい。これらの組成物は製薬上許容される添加剤を含んでもよく、例えば担体、結合剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤、安定剤、緩衝剤、矯味剤、保存剤、着色剤等が挙げられる。
【0047】
本発明に係る発酵乳の対象への投与は、限定するものではないが、好ましくは経口投与、経鼻投与、経腸投与等の消化管への投与である。
【0048】
本発明に係る発酵乳の投与量(摂取量)は、特に限定されないが、日用量で、EPS 30μg/kg体重又はそれ以上、例えば、EPS 50μg~1mg/kg体重又に相当する量であってよい。
【0049】
また本発明は、本発明に係る発酵乳を含む、血糖値上昇抑制用の食品も提供する。本発明は、本発明に係る発酵乳を含む、血糖値上昇抑制用の飼料も提供する。これらの食品及び飼料は、血糖値上昇抑制及び骨密度低下抑制用のものであってよい。本発明に係る食品及び飼料は、糖尿病に罹患しているか又はその発症のリスクがある対象のためのものであってよい。これらの用途及び対象については上述したとおりである。
【0050】
本発明において「食品」は、ヒトの食物を指し、飲料であってもよいしその他の食品であってもよい。飲料としては、以下に限定するものではないが、乳酸菌飲料、乳飲料(コーヒー牛乳、フルーツ牛乳等)、茶系飲料(緑茶、紅茶及び烏龍茶等)、果物・野菜系飲料(オレンジ、りんご、ぶどう等の果汁、トマト、ニンジン等の野菜汁を含む飲料)、アルコール性飲料(ビール、発泡酒、ワイン等)、炭酸飲料、清涼飲料、水ベースの飲料等の飲料が挙げられる。飲料以外の食品としては、以下に限定するものではないが、菓子、インスタント食品、調味料等の加工食品が挙げられる。各種の食品の製造法等については、既存の参考書を参考にすることができる。
【0051】
本発明において食品は、機能性食品であってもよい。本発明において「機能性食品」は、生体に対して一定の機能性を有する食品を意味し、例えば、日本における特定保健用食品(条件付きトクホ[特定保健用食品]を含む)及び栄養機能食品を含む保健機能食品、機能性表示食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント(例えば、錠剤、被覆錠、糖衣錠、カプセル及び液剤などの各種剤形のもの)及び美容食品(例えばダイエット食品)などのいわゆる健康食品全般を包含する。本発明の機能性食品はまた、コーデックス(FAO/WHO合同食品規格委員会)の食品規格に基づく健康強調表示(Health claim)が適用される健康食品を包含する。
【0052】
本発明の機能性食品は、病者用食品、妊産婦・授乳婦用粉乳、乳児用調製粉乳、高齢者用食品、介護用食品等の特別用途食品であってもよい。
【0053】
本発明に係る機能性食品は、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、カプセル剤等の固形製剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤等の液体製剤、又はジェル剤やペースト剤等であってもよいし、通常の食品形状(例えば、飲料、ヨーグルト、菓子等)であってもよい。
【0054】
本発明において「飼料」は、非ヒト哺乳動物に与える食物を指す。本発明に係る飼料は、上述の対象のためのものであってよい。
【0055】
本発明に係る食品や飼料は、本発明に係る発酵乳に加えて任意の食品成分又は飼料成分を含んでもよい。本発明に係る食品や飼料は常法により製造することができ、任意の製造工程で、他の食品成分又は飼料成分に本発明に係る発酵乳を配合することができる。本発明に係る発酵乳は、他の食品成分又は飼料成分に配合する前に、上述のように処理されていてもよい。
【実施例
【0056】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0057】
[実施例1]高EPS発酵乳の調製
一般的な発酵乳と比較して増加したEPS含量を有する高EPS発酵乳を、以下のようにして調製した。スターターとしてラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)OLL1247株(受託番号NITE BP-01814)とストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)OLS3078株(受託番号NITE BP-01697)を用いた。表1に示す配合比でスターター以外の原料を混合して調製したヨーグルトベースを、95℃に達温させ殺菌した後、スターター(OLL1247株とOLS3078株を同菌数含む)を3重量%添加し、43℃で3~5時間発酵させた。発酵終了後、氷冷下で撹拌冷却することでヨーグルトをスムージングさせ、それにより脱脂粉乳ベースの高EPS発酵乳及び低EPS発酵乳を調製した。
【0058】
【表1】
【0059】
このようにして得られた高EPS発酵乳の特性を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
得られた高EPS発酵乳のEPS(extracellular polysaccharide;菌体外多糖)含量は、以下の手順に従って測定した。10gのサンプル(高EPS発酵乳)にトリクロロ酢酸を添加してタンパク質を沈殿させ、上清を採取することにより除タンパクを行った。次いで上清の2倍量のエタノールを加え、冷蔵下で終夜放置し、その後遠心分離により沈殿物を得た。沈殿物に精製水を加え、ゲル濾過カラムを用いたHPLCに供してEPS量を決定した。HPLC分析装置としては、Alliance 2695 Separations Module(Waters)を用いた。
【0062】
[実施例2]高EPS発酵乳の血糖値上昇抑制効果
実施例1で調製した高EPS発酵乳を用いて、以下のように糖負荷試験により血糖値推移に及ぼす影響を調べた。
【0063】
C57BL/6マウス(雄、9週齢;正常マウス)を一晩絶食させた後、体重及び血糖値を測定し、体重及び血糖値が均等になるように以下の3群に群分けを行った。
- 水群(陰性対照)(n=8)
- 高EPS発酵乳群(n=6)
- 難消化性デキストリン(IDex)群(陽性対照)(n=6)
【0064】
群分けしたマウスに、水(水群)、高EPS発酵乳(高EPS発酵乳群)、又は難消化性デキストリン(IDex; 松谷化学工業株式会社)溶液(IDex群)を5mL/kg体重の量で、5mL/kg体重のショ糖溶液(ショ糖2g/kg体重)と同時に経口投与した。高EPS発酵乳の前記投与量はEPSを276μg/kg体重含む。難消化性デキストリン溶液の前記投与量は難消化性デキストリンを600mg/kg体重含む。投与前、並びに投与の30、60、90、120、及び180分後のマウスから尾静脈血(全身血)を穿刺により採取し、血糖値(血中グルコース濃度)を測定した。血糖値の測定は、ブリーズ2センサー(バイエル薬品)を用いて行った。
【0065】
結果を図1に示す。水群、高EPS発酵乳群、及びIDex群の全てでショ糖負荷30分後に血糖値が最も高くなった。しかし、高EPS発酵乳群、及びIDex群のショ糖負荷30分後の血糖値は、水群と比較して統計学的に有意に低く、血糖値のピークが低下した(図1)。このことから、高EPS発酵乳は、血糖上昇抑制効果が知られている難消化性デキストリンと同様に、血糖上昇抑制効果を有することが示された。
【0066】
また、276μg/kg体重のEPSを投与した高EPS発酵乳群と、600mg/kg体重の難消化性デキストリンを投与したIDex群は、同レベルの血糖上昇抑制効果を示した(図1)。このことから、高EPS発酵乳及びそれに含まれる多糖EPSは、難消化性デキストリンと比較して非常に少ない用量で血糖上昇抑制効果をもたらすことが示された。
【0067】
[実施例3]EPS含量が異なる発酵乳の血糖値上昇抑制効果の評価
高EPS発酵乳との比較のため、低EPS発酵乳を、スターター以外は実施例1と同様の手順及び表1に示す配合比に従って調製した。対照発酵乳のスターターとしてはラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus; L. bulgaricus)OLL1150株とストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus; S. thermophilus)OLS3078株(受託番号NITE BP-01697)を用いた。
高EPS発酵乳として実施例1で調製したものを用いた。
低EPS発酵乳及び高EPS発酵乳の特性比較を表3に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
C57BL/6マウス(雄、10週齢)を一晩絶食させた後、体重及び血糖値を測定し、体重及び血糖値が同等になるように以下の2群に群分けを行った。
- 低EPS発酵乳群(n=15)
- 高EPS発酵乳群(n=15)
【0070】
群分けしたマウスに、低EPS発酵乳(低EPS発酵乳群)、又は高EPS発酵乳(高EPS発酵乳群)を5mL/kg体重の量で、5mL/kg体重のショ糖溶液(ショ糖2g/kg体重)と同時に経口投与した。低EPS発酵乳の前記投与量はEPSを19μg/kg体重含み、高EPS発酵乳の前記投与量はEPSを276μg/kg体重含む。投与前、並びに投与の30、60、90、及び120分後のマウスから尾静脈血(全身血)を採取し、血糖値を測定した。採血及び血糖値の測定は実施例2と同様にして行った。
【0071】
結果を図2に示す。高EPS発酵乳群は、低EPS発酵乳群と比較して、ショ糖負荷30分後及び90分後の血糖値が統計学的に有意に低かった(図2A)。また、高EPS発酵乳群の血糖値のAUC(Area Under the blood concentration-time Curve;血中濃度-時間曲線下面積)も、低EPS発酵乳群と比較して有意に低かった(図2B)。この結果から、高EPS発酵乳の血糖値上昇抑制作用がEPSによるものであることが示された。
【0072】
[実施例4]ショ糖負荷時の門脈血血糖値に対する高EPS発酵乳の上昇抑制効果
本実施例では、高EPS発酵乳をショ糖と共に投与し、門脈血の血糖値(血中グルコース濃度)を測定して対照と比較することにより、高EPS発酵乳がショ糖の吸収に及ぼす影響を検討した。門脈血血糖値は腸からのグルコース吸収量を直接反映することが知られている。
【0073】
麻酔などの処置により血糖値に影響を及ぼすことなく門脈血を得るため、門脈にカテーテルを留置したマウス(門脈カテーテル留置C57BL/6マウス、雄、11週齢)を用意した。
【0074】
門脈カテーテル留置手術の2日後、マウスを一晩にわたり絶食させ、以下の2群に群分けを行った。
- 低EPS発酵乳群
- 高EPS発酵乳群
【0075】
群分けしたマウスに、低EPS発酵乳(低EPS発酵乳群)又は高EPS発酵乳(高EPS発酵乳群)を5mL/kg体重の量で、5mL/kg体重のショ糖溶液(ショ糖2g/kg体重)と同時に経口投与した。低EPS発酵乳と高EPS発酵乳は、実施例3で用いたものと同じである。低EPS発酵乳の前記投与量はEPSを19μg/kg体重含み、高EPS発酵乳の前記投与量はEPSを276μg/kg体重含む。低EPS発酵乳又は高EPS発酵乳の投与前、並びに投与の15、30、60、及び90分後、門脈カテーテルを通じてマウスから門脈血を採取し、門脈血血糖値を測定した。門脈血血糖値の測定は実施例2の血糖値測定法と同様にして行った。
【0076】
結果を図3に示す。高EPS発酵乳投与群は、低EPS発酵乳投与群と比較して、ショ糖負荷15分後の門脈血血糖値(門脈血中グルコース濃度)が低く、ショ糖負荷30分後の門脈血血糖値も低かった(図3)。
【0077】
実施例2及び3で観察された全身血の血糖値の低下は、高EPS発酵乳ではなくインスリンなどのホルモンの影響である可能性も考えられた。しかし、本実施例において高EPS発酵乳の投与により門脈血血糖値の低下が示されたことから、高EPS発酵乳が血糖上昇抑制効果をもたらすこと、そして高EPS発酵乳の血糖上昇抑制効果がショ糖の吸収抑制によるものであることが裏付けられた。
【0078】
[実施例5]II型糖尿病モデルマウスにおける高EPS発酵乳の長期摂取の効果
(i) 脱脂粉乳ベースの高EPS発酵乳及び低EPS発酵乳の調製
脱脂粉乳ベースの高EPS発酵乳の調製のために、スターターとしてラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)OLL1247株(受託番号NITE BP-01814)とストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)OLS3078株(受託番号NITE BP-01697)を用いた。
【0079】
脱脂粉乳ベースの低EPS発酵乳の調製のために、スターターとしてラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)OLL1150株とストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)OLS3078株(受託番号NITE BP-01697)を用いた。
【0080】
表4に示す配合比でスターター以外の原料を混合して調製したヨーグルトベースを、95℃に達温させ殺菌した後、スターター(OLL1247株とOLS3078株を同菌数含む)を3重量%添加し、43℃で3~5時間発酵させた。発酵終了後、氷冷下で撹拌冷却することでヨーグルトをスムージングさせ、それにより脱脂粉乳ベースの高EPS発酵乳及び低EPS発酵乳を調製した。
【0081】
【表4】
【0082】
得られた脱脂粉乳ベースの高EPS発酵乳及び低EPS発酵乳の特性を表5に示す。
【0083】
【表5】
【0084】
脱脂粉乳ベースの低EPS発酵乳及び高EPS発酵乳はいずれも、凍結乾燥し、15kGyで電子線滅菌を行った後、凍結乾燥粉末形態で後述の表6に示す量で飼料に配合した。
【0085】
(ii) II型糖尿病モデルマウスによる長期摂取試験
II型糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウス(雄、5週齢、n=40)、及び健常+m/+mマウス(n=8)を日本クレア社から入手し、標準精製飼料AIN-93M(日本クレア社;表6)の給与下で1週間飼育することにより馴化した後、評価試験に用いた。
【0086】
馴化後のマウスを6時間絶食させ、尾静脈採血を行い、絶食時血糖値を測定した。絶食時血糖値と体重が均等になるように以下の群にマウスを群分けした。括弧内には各群のマウスの種類、及び給与する餌を記載している。
【0087】
- 健常(Normal)群(+m/+mマウス、AIN-93M食)
- 対照群(db/dbマウス、高スターチ食)
- 脱脂粉乳群(db/dbマウス、脱脂粉乳食)
- 低EPS発酵乳群(db/dbマウス、低EPS発酵乳食)
- 高EPS発酵乳群(db/dbマウス、高EPS発酵乳食)
- アカルボース群(db/db、アカルボース食;陽性対照)
各群のマウスに、表6に従って調製した試験飼料を8週間にわたり自由摂取させた。
【0088】
【表6】
【0089】
表6の成分組成に関して、アカルボース(計算値)以外の成分量は測定値である。アカルボース(商品名:グルコバイ(R))はαグルコシダーゼ阻害薬であり、糖尿病治療薬として食後高血糖抑制のために使用されている。なお、高スターチ食は高カロリー食である。
【0090】
解剖時(試験飼料の摂取開始後57日目の夜から約14時間の一晩絶食後)に、尾静脈血(全身血)を穿刺により採取し、血糖値を測定した。血糖値の測定はニプロスタットストリップXP3(Nipro)を用いて行った。
【0091】
各群の一晩絶食後血糖値(空腹時血糖値)を図4に示す。空腹時血糖値は糖代謝の基礎的能力を示す。
【0092】
また図4に示されるように、脱脂粉乳群は、対照群と比較して高い一晩絶食後血糖値を示した。また低EPS発酵乳群及び高EPS発酵乳群は、脱脂粉乳群と比較して統計学的に有意に低い一晩絶食後血糖値を示した。
【0093】
さらに、試験飼料の摂取開始から7週目に、マウスの水摂取量を測定した。水摂取量は給水前と給水2日後の水瓶の重さの差分より算出した。
【0094】
結果を図5に示す。血糖値の増加に伴い増加することが知られている水摂取量について、高EPS発酵乳群は、脱脂粉乳群と比較して有意に低い値を示した。
【0095】
以上の結果から、高EPS発酵乳群では、脱脂粉乳群と比較して糖代謝が改善していることが示された。
【0096】
さらに、解剖時に採取した血液について、血中低カルボキシル化オステオカルシン(ucOC)濃度をマウスGlu-オステオカルシン高感度EIAキット(Mouse Glu-Osteocalcin High Sensitive EIA Kit;タカラバイオ社)を用いて測定した。図6に示すとおり、血中ucOC濃度は、解剖時の一晩絶食後血糖値(空腹時血糖値)と統計学的に有意な負の相関を示し、血糖値が低いほど高い値を示す傾向にあった。近年、骨から放出されるオステオカルシン(特に、低カルボキシル化オステオカルシン)が糖代謝を改善する役割を果たしていることが報告されている(Lee et al., 2007, Cell, 130: 456-469)。したがって、高EPS発酵乳による糖代謝改善効果には、ucOCも関与している可能性が示唆された。
【0097】
糖尿病患者は骨粗鬆症を起こしやすいことが知られている。そこで糖尿病モデルマウスにおける高EPS発酵乳の骨への影響を調べるため、試験飼料の摂取開始から7週目にマウスの第2~4腰椎骨、解剖時に大腿骨のX線CT画像を撮影し、全骨密度(BMD)を測定した。
【0098】
結果を図7に示す。健常群と比較してII型糖尿病モデルマウス対照群では骨密度が顕著に低下した(図7A及びB)。アカルボースが絶食時血糖値の低下をもたらすアカルボース群においても、試験飼料の摂取開始から7週目の腰椎骨密度、及び解剖時の大腿骨密度は、対照群と比較して同等又はそれを下回る値であった(図7A及びB)。すなわち、αグルコシダーゼ阻害剤(アカルボース)は血糖値低下をもたらすことができても糖尿病に伴う骨粗鬆症の発症を予防することはできないことが示された。一方、高EPS発酵乳群は、高い腰椎骨密度及び大腿骨骨密度を示した(図7A及びB)。このため高EPS発酵乳は、糖尿病患者において血糖値上昇の抑制だけでなく、骨密度低下を抑制し骨粗鬆症の予防にも有用であることが示された。血糖値低下をもたらすαグルコシダーゼ阻害剤の投与は骨密度低下を抑制しなかったことから、高EPS発酵乳による骨粗鬆症予防効果は血糖値上昇抑制のみによって誘導されるものではないと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明に係る発酵乳は血糖値上昇抑制及び/又は骨密度低下抑制のために用いることができる。本発明に係る発酵乳は、糖尿病と骨粗鬆症の治療・予防においても非常に有用である。
図1
図2
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図5
図6
図7