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特許7267023地絡事故点探査装置および地絡事故点探査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】地絡事故点探査装置および地絡事故点探査方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/08 20200101AFI20230424BHJP
【FI】
G01R31/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019018957
(22)【出願日】2019-02-05
(65)【公開番号】P2020125995
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000222037
【氏名又は名称】東北電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】田所 兼
(72)【発明者】
【氏名】市川 路晴
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 友宏
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107085169(CN,A)
【文献】特公昭50-22701(JP,B1)
【文献】特開昭48-27238(JP,A)
【文献】特開平2-231582(JP,A)
【文献】PARK, Jae-Do; CANDELARIA, Jared; MA, Liuyan; DUNN, Kyle,“DC Ring-Bus Microgrid Fault Protection and Identification of Fault Location”,IEEE TRANSACTIONS ON POWER DELIVERY,2013年10月,Vol. 28, No. 4,pp. 2574-2584,DOI:10.1109/TPWRD.2013.2267750
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/08-31/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配電線路の対地静電容量を無視することができ、且つ地絡が発生している前記配電線路に接続された場合に共振が生じ得る大きさの静電容量を有し、静電容量の異なる複数のコンデンサから構成される電源コンデンサと、
前記電源コンデンサに充電する電力を供給する直流電源と、
前記電源コンデンサを地絡が発生している前記配電線路に接続して課電したときの前記電源コンデンサの放電電流を取得し、取得した前記放電電流の極大値の減衰αと振動の周波数f[Hz]とを求め、求めた前記極大値の減衰αと前記振動の周波数fとに基づいて、課電地点から地絡が発生している地点までの距離を標定する解析部と、
課電の際に前記電源コンデンサを切り替え、課電に用いた前記電源コンデンサの静電容量を前記解析部に出力する制御部と、
を備える地絡事故点探査装置。
【請求項2】
前記解析部は、
前記地絡事故点探査装置および地絡が発生している前記配電線路の等価回路が、前記地絡事故点探査装置が有する前記電源コンデンサの静電容量Cs[F]と、前記配電線路の抵抗R[Ω]と、前記地絡事故点探査装置および前記配電線路のインダクタンスL[H]との直列回路として表される場合に、前記配電線路の単位長さあたりの線路インダクタンスがL0であり、前記地絡事故点探査装置のインダクタンスがLsであるとすると、
求めた前記極大値の減衰α、前記振動の周波数f、および以下の2式を用いて、前記抵抗Rと前記インダクタンスLとを求め、
【数1】
【数2】
次式を用いて課電地点から地絡が発生している地点までの距離xを標定する、
【数3】
請求項1に記載の地絡事故点探査装置。
【請求項3】
前記解析部は、複数の前記電源コンデンサの前記放電電流毎に前記距離を標定し、標定した前記距離を分類して提示する、請求項1又は請求項2に記載の地絡事故点探査装置。
【請求項4】
配電線路の対地静電容量を無視することができ、且つ地絡が発生している前記配電線路に接続された場合に共振が生じ得る大きさの静電容量を有し、静電容量の異なる複数のコンデンサから構成される電源コンデンサを充電するステップと、
前記電源コンデンサを切り替え、前記電源コンデンサを地絡が発生している前記配電線路に接続して課電したときの前記電源コンデンサの放電電流を取得するステップと、
取得した前記放電電流の極大値の減衰αと振動の周波数f[Hz]とを求めるステップと、
課電に用いた前記電源コンデンサの静電容量を用い、求めた前記極大値の減衰αと前記振動の周波数fとに基づいて、課電地点から地絡が発生している地点までの距離を標定するステップと、
を含む地絡事故点探査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地絡事故点探査装置および地絡事故点探査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
配電線で地絡事故が発生した場合には、その配電線を管理する配電自動化システムによって事故区間が特定される。その後、作業者が、この特定された区間に赴いて地絡点を探査する作業が行われる。例えば、作業者が、地絡事故点探査装置を用いて配電線に電圧を印加し、地絡点へ流れる電流の向きに基づいて地絡事故点探査装置に表示される地絡点の方向を参考にしつつ地絡点を探査するといった作業が行われる。
【0003】
また、このような地絡点の探査手法として、事故区間の電路にパルス電圧を課電し、この電路から放射する電波を地上で受信して事故点の判別を行うことが提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載の技術では、パルス電流による放射電波の波形パターンが事故点の様相と検出場所によって相違することから、波形パターンを比較することで事故点の判別を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-275831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した地絡事故点探査装置を用いた探査方法は、地絡事故点探査装置に表示される地絡点の方向のみを参考にしつつ地絡点を探査しなければならないため、事故点の特定に時間を要していた。また、特許文献1に記載された技術では、波形パターンに基づいて事故点より手前であるのか遠方であるのかのみを判別している。このため、特許文献1に記載された技術では、事故点を特定するに繰り返し探索を行う必要があり、事故点の特定に時間を要していた。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、地絡事故が発生した事故点を特定することができる地絡事故点探査装置および地絡事故点探査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る地絡事故点探査装置は、配電線路の対地静電容量を無視することができ、且つ地絡が発生している前記配電線路に接続された場合に共振が生じ得る大きさの静電容量を有する電源コンデンサと、前記電源コンデンサに充電する電力を供給する直流電源と、前記電源コンデンサを地絡が発生している前記配電線路に接続して課電したときの前記電源コンデンサの放電電流を取得し、取得した前記放電電流の極大値の減衰αと振動の周波数f[Hz]とを求め、求めた前記極大値の減衰αと前記振動の周波数fとに基づいて、課電地点から地絡が発生している地点までの距離を標定する解析部と、を備える。
【0008】
また、本発明の一態様に係る地絡事故点探査装置において、前記解析部は、前記地絡事故点探査装置および地絡が発生している前記配電線路の等価回路が、前記地絡事故点探査装置が有する前記電源コンデンサの静電容量Cs[F]と、前記配電線路の抵抗R[Ω]と、前記地絡事故点探査装置および前記配電線路のインダクタンスL[H]との直列回路として表される場合に、前記配電線路の単位長さあたりの線路インダクタンスがLであり、前記地絡事故点探査装置のインダクタンスがLsであるとすると、求めた前記極大値の減衰α、前記振動の周波数f、および以下の2式を用いて、前記抵抗Rと前記インダクタンスLとを求め、
【数1】
【数2】
次式を用いて課電地点から地絡が発生している地点までの距離xを標定する、ようにしてもよい。
【数3】
【0009】
また、本発明の一態様に係る地絡事故点探査装置において、前記電源コンデンサは、静電容量の異なる複数のコンデンサから構成され、課電の際に前記電源コンデンサを切り替え、課電に用いた前記電源コンデンサの静電容量を前記解析部に出力する制御部を備えるようにしてもよい。
【0010】
また、本発明の一態様に係る地絡事故点探査装置において、前記解析部は、複数の前記電源コンデンサの前記放電電流毎に前記距離を標定し、標定した前記距離を分類して提示するようにしてもよい。
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る地絡事故点探査方法は、配電線路の対地静電容量を無視することができ、且つ地絡が発生している前記配電線路に接続された場合に共振が生じ得る大きさの静電容量を有する電源コンデンサを充電するステップと、前記電源コンデンサを地絡が発生している前記配電線路に接続して課電したときの前記電源コンデンサの放電電流を取得するステップと、取得した前記放電電流の極大値の減衰αと振動の周波数f[Hz]とを求めるステップと、求めた前記極大値の減衰αと前記振動の周波数fとに基づいて、課電地点から地絡が発生している地点までの距離を標定するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、地絡事故が発生した事故点を特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る地絡事故点探査装置と配電線路の例を示す図である。
図2】本実施形態に係る事故点の標定で用いるRLC直列回路による地絡事故点探査装置1および配電線路の等価回路例を示す図である。
図3】本実施形態に係る地絡事故点探査装置の具体的な構成例を示すブロック図である。
図4】本実施形態に係る標定の実験に用いた設備を示す図である。
図5】電源コンデンサの放電電流の経時変化を示す図である。
図6】事故点までの距離が108[m]の放電電流を示す図である。
図7】減衰αの求め方を説明するための図である。
図8】振動の周波数fを求めた結果を示す図である。
図9】事故点毎の標定結果を示す図である。
図10】本実施形態に係る事故点の標定の処理手順例のフローチャートである。
図11】本実施形態に係る課電部の変形例を示す図である。
図12】本実施形態の変形例における事故点の標定の処理手順例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0015】
<配電線路>
まず、事故点の標定を行う配電線路の例を、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る地絡事故点探査装置と配電線路の例を示す図である。図1の配電線路は、地絡が発生していない配電線路である。図1の配電線路は、π型のRLCの等価回路で表すことができ、線路抵抗R,R,R,…と、線路インダクタンスL,L,L3,…と、対地静電容量Cgとによって表すことができる。なお、線路抵抗の総和(R+R+R+…)[Ω]、および、線路インダクタンスの総和(L+L+L+…)[H]は、未知の値である。ただし、配電線路の単位長さあたりのインダクタンスL(以下、線路インダクタンスLという)は既知である。対地静電容量Cgは、配電線路と地面との間の静電容量であり、未知の値である。なお、点Aについては後述する。
【0016】
<地絡事故点探査装置>
次に、地絡事故点探査装置1の構成例を、図1を用いて説明する。図1に示す通り、地絡事故点探査装置1は、直流電源1011、スイッチSW1、電源コンデンサC11、スイッチSW2、インダクタLs、電圧取得部103、電流取得部104、解析部106、および表示部107を備える。
【0017】
直流電源1011は、電源コンデンサC11に充電する電力を供給する電源であり、その電圧値はEである。電源コンデンサC11は、配電線路に地絡が発生した場合に配電線路に接続され、配電線路とともに直列共振回路を構成するものである。電源コンデンサC11の静電容量はCs[F]である。ここで、電源コンデンサC11の静電容量Csは、Cs>>Cgの関係を満たす大きさ、すなわち対地静電容量Cg[F]を無視できる大きさである。また、電源コンデンサの静電容量Csは、地絡が発生している配電線路に接続された場合に共振が生じ得る大きさである。電源コンデンサC11が充電された場合における電圧はVc[V]である。なお、インダクタLsのインダクタンス値[H](以下、インダクタンスLs[H]という)は、予め測定された既知の値である。
【0018】
直流電源1011は、正極がスイッチSW1の一端に接続され、負極が接地されている。スイッチSW1の他端は、電源コンデンサC11の一方の電極およびスイッチSW2の一端に接続されている。電源コンデンサC11の他方の電極は、接地されている。スイッチSW2の他端は、インダクタLsの一端に接続されている。インダクタLsの他端は、地絡の標定時に配電線路に対して接続される接続部111に接続されている。
【0019】
地絡が発生している箇所を標定するため、本実施形態では、図1のように地絡事故点探査装置1の接続部111が配電線路に接続される。標定の際、地絡事故点探査装置1は、まずスイッチSW1をオン状態かつスイッチSW2をオフ状態にして、直流電源1011により電源コンデンサC11を充電する。電源コンデンサC11の充電後、地絡事故点探査装置1は、スイッチSW1をオフ状態かつスイッチSW2をオン状態にして、電源コンデンサC11から配電線路に放電電流iを流す。次に、解析部106は、電圧取得部103が取得した電源コンデンサC11の充電電圧Vcと、電流取得部104が取得した電源コンデンサC11から配電線路への放電電流iとに基づいて、地絡が発生している地点までの距離(以下、標定距離という)を標定する。解析部106は、標定した結果を表示部107に表示させる。
【0020】
<地絡事故点探査装置1および配電線路の等価回路例>
次に、配電線路に地絡が発生した場合の地絡事故点探査装置1および配電線路の等価回路例を、図2を用いて説明する。上述した通り、電源コンデンサC11の静電容量Csは、Cs>>Cgの関係を満たす大きさであり、配電線路の対地静電容量Cgを無視することができる。このため、地絡が発生した場合における地絡事故点探査装置1および配電線路の等価回路は図2のように表される。図2は、本実施形態に係る事故点の標定で用いるRLC直列回路による地絡事故点探査装置1および配電線路の等価回路例を示す図である。なお、図2に示す等価回路例は、図1の点Aで地絡が発生した場合のものである。
【0021】
図2(A)に示す通り、地絡事故点探査装置1および配電線路の等価回路は、線路抵抗R,R、線路インダクタンスL,L、抵抗Rg、電源コンデンサC11、およびインダクタLsで表される。なお、符号P1が付された図形は、地絡が発生していることを表すものである。また、抵抗Rgは、線路と地面との間の抵抗である。
【0022】
図2(A)に示した等価回路を、さらに簡素化すると、図2(B)のように表すことができる。つまり、地絡事故点探査装置1および配電線路の等価回路は、線路抵抗R,Rおよび抵抗Rgをまとめて表した抵抗Rと、インダクタLsおよび線路インダクタンスL,Lをまとめて表したインダクタンスLと、電源コンデンサC11との直列回路で表すことができる。
【0023】
<解析に用いる関係式>
次に、解析部106が事故点の標定に用いる関係式について、図2(B)を参照しつつ説明する。図2において、電源コンデンサC11からの放電電流i(t)は、次式(1)の条件において、次式(2)で表される。
【0024】
【数4】
【0025】
【数5】
【0026】
式(1)において、Cs>>Cgなる関係式は、電源コンデンサC11の静電容量Csの大きさが、配電線路の対地静電容量Cgを無視できるほど大きいことを意味する。また、(1)式において、4L/Cs>Rなる関係式は、地絡が発生している配電線路に電源コンデンサC11が接続された場合に、共振が生じ得る条件(静電容量の大きさ)を示している。なお、式(1)の4L/Cs>Rなる関係式が成立する場合には、後述する式(4)の分子が正になる。また、式(2)において、αは放電電流i(t)の極大値の減衰であり、次式(3)で表される。また、ω[rad/s]は振動の角周波数であり、次式(4)で表される。
【0027】
【数6】
【0028】
【数7】
【0029】
本実施形態では、実測した放電電流i(t)から、極大値の減衰αと振動の周波数f[Hz]を求める。そして、本実施形態では、求めた極大値の減衰αおよび振動の周波数fを式(3)および式(4)に代入して、未知数である抵抗RとインダクタンスLとを求める。さらに、本実施形態では、線路インダクタンスLは次式(5)から求める。
【0030】
【数8】
【0031】
式(5)において、μは真空の透磁率(4π×10-7[H/m])であり、Dは配電線路の地上高さ[m]、rは配電線路の半径[m]である。
このように求めたインダクタンスL、地絡事故点探査装置1のインダクタンスLs、および線路インダクタンスLを用いて、次式(6)により標定距離x[m]を標定ことができる。
【0032】
【数9】
【0033】
<地絡事故点探査装置1の構成例>
次に、地絡事故点探査装置1の具体的な構成例を説明する。図3は、本実施形態に係る地絡事故点探査装置1の具体的な構成例を示すブロック図である。図3に示す通り、地絡事故点探査装置1は、課電部101、操作部102、電圧取得部103、電流取得部104、記憶部105、解析部106、表示部107、および制御部108を備える。
【0034】
課電部101は、電池1010、直流電源1011、電源コンデンサC11、スイッチSW1、およびスイッチSW2(図1)を備える。課電部101は、制御部108の制御に応じて電源コンデンサC11への充電、配電線路への課電の開始、および課電の終了を制御する。操作部102は、例えば表示部107上に設けられているタッチパネルセンサーであり、利用者が操作した操作結果を検出し、検出した操作結果を解析部106および制御部108に出力する。操作結果には、例えば解析に用いる定数、解析の開始指示等が含まれる。
【0035】
電圧取得部103は、電圧プローブと電圧計とを含む。電圧取得部103は取得した電圧値を解析部106に出力する。電流取得部104は、電流プローブと電流計1041(図4)とを含む。電流取得部104は取得した電流の変化(放電電流)を解析部106に出力する。
【0036】
記憶部105は、上述した式(3)、式(4)、後述する式(6)、および解析に用いる定数を記憶する。
【0037】
解析部106は、電圧取得部103が出力する電圧値と、電流取得部104が出力する放電電流とを取得する。解析部106は、取得した情報と、上述した式(2)および解析に用いる定数とを用いて、地絡が発生している事故点を標定する。解析部106は、解析結果を表示部107に出力する。
【0038】
表示部107は、例えば液晶表示装置、有機EL(Electro Luminescence)表示装置等である。表示部107は、解析部106が出力する解析結果を表示する。制御部108は、操作部102が出力する操作結果に応じて、電源コンデンサC11への充電、課電の開始、および課電の終了を制御する。
【0039】
<事故点の標定例>
次に、事故点の標定例を説明する。図4は、本実施形態に係る標定の実験に用いた設備を示す図である。符号1031は電圧計であり、符号1041は電流計である。また、地絡事故点探査装置1において、印加線は、断面積が14[mm]で長さが25[m]であり、接地線は、断面積が38[mm]で長さが20[m]である。
【0040】
図4に示す通り、地絡事故点探査装置1から末端に向かって順に電柱No.1、電柱No.2、電柱No.3、電柱No.4、及び電柱No.5が配置されており、これら電柱に、配電線路が架線されている。電柱No.1と電柱No.2との間隔は20[m]である。電柱No.2と電柱No.3との間隔は20m[m]ある。電柱No.3と電柱No.4との間隔は34[m]である。電柱No.4と電柱No.5との間隔は34[m]である。各電柱に架線されている配線路の断面積は120[mm]である。また、各電柱に架線されている配電線路と地面との間隔は12[m]である。
【0041】
図4に示す通り、地絡事故を再現するためにスイッチSW101~SW104と、直径が2.6[mm]の接地線とを用いた。これにより、電柱No.2の地点において、配電線路は、スイッチSW101を介して接地線で接地されている。電柱No.3の地点において、配電線路は、スイッチSW102を介して接地線で接地されている。電柱No.4の地点において、配電線路は、スイッチSW103を介して接地線で接地されている。電柱No.5の地点において、配電線路は、スイッチSW104を介して接地線で接地されている。
【0042】
また、地絡事故点探査装置1において、電源コンデンサC11の静電容量Csは470[nF]であり、直流電源1011の電圧Eは100[V]である。また、インダクタンスLsは74[μH]である。さらに、配電線路において、単位長さあたりの線路インダクタンスLは1.65[μH/m]である。
【0043】
次に、電柱No.2~電柱No.5の各々の地点で地絡させた場合の標定例を、図4を参照しつつ図5を用いて説明する。電柱No.2の地点で地絡させる場合には、スイッチSW101をオン状態とし、スイッチSW102~SW104をオフ状態にする。この場合の地絡事故点探査装置1の接続点から事故点までの距離は20[m]である。電柱No.3の地点で地絡させる場合には、スイッチSW102をオン状態とし、スイッチSW101,SW103,SW104をオフ状態にする。この場合の地絡事故点探査装置1の接続点から事故点までの距離は40[m]である。
【0044】
電柱No.4の地点で地絡させる場合には、スイッチSW103をオン状態とし、スイッチSW101,SW102,SW104をオフ状態にする。この場合の地絡事故点探査装置1の接続点から事故点までの距離は74[m]である。電柱No.5の地点で地絡させる場合には、スイッチSW104をオン状態とし、スイッチSW101~SW103をオフ状態にする。この場合の地絡事故点探査装置1の接続点から事故点までの距離は108[m]である。
【0045】
図5は、電源コンデンサの放電電流の経時変化を示す図である。図5において横軸は時刻[μs]であり、縦軸は電源コンデンサC11の放電電流[A]である。また、図5において、時刻0[μs]のとき、スイッチSW2がオン状態に制御されている。符号g11は、事故点までの距離が20[m]であるときの放電電流である。符号g12は、事故点までの距離が40[m]であるときの放電電流である。符号g13は、事故点までの距離が74[m]であるときの放電電流である。符号g14は、事故点までの距離が108[m]であるときの放電電流である。図5に示す通り、地絡が発生している事故点までの距離に応じて、放電電流の減衰特性や共振周波数が変化する。このため、本実施形態では、地絡事故点探査装置1が、この放電電流を取得し、取得した電流波形に基づいて、以下のように事故点までの標定距離を標定する。
【0046】
図6は、事故点までの距離が108[m]の放電電流を示す図である。図6において、横軸と縦軸は図5と同じである。地絡事故点探査装置1の解析部106(図3)は、電流取得部104(図3)によって、例えば図6に例示される放電電流を取得する。解析部106は、図7に示すように、放電電流のカーブg201に対して極大値を結ぶ近似線を算出して減衰αを求める。この例では、求めた減衰αが8760であった。図7は、減衰αの求め方を説明するための図である。
【0047】
また、解析部106は、取得した放電電流の振動の周波数fを、例えば取得した放電電流に対してフーリエ変換を行って算出する。図8は、振動の周波数fを求めた結果を示す図である。図8において、横軸は周波数であり、縦軸はパワースペクトル[任意単位]である。図8に示す通り、パワースペクトルが最大になる振動の周波数fは、14.5[kHz]であった。
【0048】
続けて、解析部106は、上述した式(3)、式(4)に減衰α=8760と振動の周波数f=14.5[kHz]とを代入して解くことで、抵抗R=4.5[Ω]、インダクタンスL=253[μH]を求める。続けて、解析部106は、標定距離xを式(6)を用いて標定する。
【0049】
解析部106が式(6)を用いて標定距離を標定した結果は108.5[m]であった。上述したように、標定する距離の真値は108.0[m]であるため、誤差率は約0.46%(=(108.5-108)/108×100)であった。この標定距離は、地絡事故点探査装置1の接続点の電柱No.1から地絡が発生している電柱No.5の地点までの距離である。解析部106は、標定距離を示す画像を表示部107上に表示させる。なお、地絡事故点探査装置1の接続点の電柱から各電柱までの距離を記憶部105が記憶している場合、解析部106は、記憶部105が記憶している情報を参照して、地絡が発生している電柱を標定し、標定した結果を表示部107上に表示させるようにしてもよい。
【0050】
図9は、事故点毎の標定結果を示す図である。図9に示す通り、事故点までの距離が20[m]であるときの標定結果は、抵抗Rが7.1[Ω]、インダクタンスLと地絡事故点探査装置1のインダクタンスLsとの差分(L-Ls)が30[μH]、標定距離が18.2[m](=(L-Ls)/L)、標定誤差が-1.8[m]、標定誤差率が9.0%であった。また、事故点までの距離が40[m]であるときの標定結果は、抵抗Rが10.7[Ω]、(L-Ls)が71[μH]、標定距離が42.7[m]、標定誤差が2.7[m]、標定誤差率が6.8%であった。
【0051】
事故点までの距離が74[m]であるときの標定結果は、抵抗Rが6.9[Ω]、(L-Ls)が124[μH]、標定距離が75.1[m]、標定誤差が1.1[m]、標定誤差率が1.5%であった。また、事故点までの距離が108[m]であるときの標定結果は、抵抗Rが4.4[Ω]、(L-Ls)が179[μH]、標定距離が108.5[m]、標定誤差が0.5[m]、標定誤差率が0.5%であった。
【0052】
なお、図9において、抵抗Rの抵抗値がばらついている理由は、事故点ごとの接地抵抗のばらつきによるものであると考えられる。以上のように、事故点(地絡点)を標定した結果、標定誤差率は、約1~10%程度であった。
【0053】
<事故点の標定の処理手順例>
次に、事故点の標定の処理手順例を説明する。
図10は、本実施形態に係る事故点の標定の処理手順例のフローチャートである。
【0054】
(ステップS1)解析部106は、操作部102から標定条件を取得する。標定条件には、真空の透磁率、配電線路の地上高、配電線路の半径、電源コンデンサC11の静電容量Cs、インダクタンスLsが含まれる。解析部106は、取得した標定条件を記憶部105に記憶させる。続けて、解析部106は、電源コンデンサC11の静電容量Csと対地静電容量Cgとの関係がCs>>Cgとなるような十分に静電容量の大きい電源コンデンサC11を選択する。ここで、解析部106は、地絡が発生している配電線路に電源コンデンサC11が接続された場合に共振が生じ得る静電容量を有する電源コンデンサC11を選択する。なお、初期状態では、スイッチSW1、SW2(図1)ともにオフ状態に制御されている。
【0055】
(ステップS2)制御部108は、操作部102の操作結果に応じて、スイッチSW1をオン状態に制御して電源コンデンサC11への充電を開始する。
【0056】
(ステップS3)制御部108は、電源コンデンサC11への充電終了後、スイッチSW1をオフ状態、スイッチSW2をオン状態に制御して、配電線路への課電を開始する。なお、電源コンデンサC11への充電終了後を確認するため、制御部108は、コンデンサの充電(E=Vc)を確認する。
【0057】
(ステップS4)解析部106は、放電電流を取得する。
【0058】
(ステップS5)解析部106は、放電電流の極大値の減衰αを求める。
(ステップS6)解析部106は、放電電流に対してフーリエ変換を行って振動の周波数fを求める。
【0059】
(ステップS7)解析部106は、求めた減衰αと振動の周波数fを記憶部105が記憶する式(3)と式(4)を用いて、地絡が発生している標定距離を求める。
(ステップS8)解析部106は、求めた標定距離を表示部107に表示させる。
なお、標定後、制御部108は、スイッチSW1とスイッチSW2をオフ状態に制御する。
【0060】
以上のように、本実施形態では、課電部101の電源コンデンサC11の静電容量Csを、対地静電容量Cgを無視することができる程度に大きくした(例えばCgの単位長さあたりの静電容量が10pF、Csが470nF)。そして、本実施形態では、この電源コンデンサC11から配電線路に課電したときの放電電流を取得し、取得した放電電流から減衰αと振動の周波数fとを求めるようにした。そして、本実施形態では、求めた減衰αと振動の周波数fとを用いて標定距離を求めるようにした。
【0061】
これにより、本実施形態によれば、図2(B)に示したように地絡事故点探査装置1と地絡が発生している配電線路を、抵抗R、インダクタンスL、電源コンデンサC11から構成されるRLC回路の等価回路として簡略化して、電源コンデンサC11からの放電電流を実測し、放電電流の減衰αと振動の周波数fを求めることで事故点までの距離である標定距離を標定することができる。
【0062】
なお、上述した例では、課電部101が1つの電源コンデンサC11を備える例を説明したが、これに限らない。図11に示すように、課電部101は、静電容量の異なる複数の電源コンデンサC11a~C11cを備えていてもよい。図11は、本実施形態に係る課電部101の変形例を示す図である。この場合、課電部101は、電源コンデンサC11a~C11cとスイッチSW3とを備える。スイッチSW3は、電源コンデンサC11a~C11cに接続されたスイッチSW3a~SW3cを備える。
【0063】
電源コンデンサC11a~C11cの静電容量の大小関係は、例えばC11aの静電容量>C11bの静電容量>C11cの静電容量である。制御部108は、スイッチSW3a~SW3cのオン状態とオフ状態とを切り替え、どのスイッチがオン状態であるかを示す情報を解析部106に出力する(図3の鎖線参照)。解析部106は、電源コンデンサの静電容量毎に放電電流を取得して減衰αと振動の周波数fとを求めるようにしてもよい。そして、解析部106は、電源コンデンサの静電容量毎に標定距離を表示部107に表示させるようにしてもよい。
【0064】
例えば、地絡が発生した位置を電源コンデンサC11aで標定した場合の標定誤差より、他の静電容量の電源コンデンサで標定した標定距離の方が、標定誤差が少ない場合もありえる。このような場合、地絡点を検査する作業者は、表示部107に表示された複数の標定距離を見て、より迅速に地絡点を見つけることができる。例えば、真値が108[m]であり、電源コンデンサC11aによる標定距離が109[m]であり、電源コンデンサC11bによる標定距離が108.6mであり、電源コンデンサC11cによる標定距離が108.5[m]であった場合、標定距離同士が近い108.6[m]または108.5[m]を地絡点であると作業者が判断することができる。
【0065】
なお、解析部106は、このように複数の異なる静電容量の電源コンデンサの解析結果を周知の手法でグループ分けして表示するようにしてもよい。上述した例では、電源コンデンサC11aによる標定距離が第1グループであり、電源コンデンサC11b、C11cによる標定距離が第2グループであるように解析部106が分類するようにしてもよい。
【0066】
<変形例>
なお、上述した例では、取得した放電電流に基づいて減衰αと振動の周波数fとを求めて標定距離を標定する例を説明したが、これに限らない。取得した放電電流に基づいて振動の周波数fを求めて標定距離を標定するようにしてもよい。
ここで、式(4)に着目する。式(4)において、4L/Cs>>Rであれば、式(4)は次式(7)のように近似できる。
【0067】
【数10】
【0068】
記憶部105は、式(7)を記憶する。
解析部106は、振動の周波数fを式(7)に代入して、インダクタンスLを求める。
図12は、本実施形態の変形例における事故点の標定の処理手順例のフローチャートである。なお、図10と同様の処理については、同じ符号を用いて説明を省略する。
【0069】
(ステップS101)解析部106は、操作部102から標定条件を取得する。標定条件には、真空の透磁率、配電線路の地上高、配電線路の半径、電源コンデンサC11の静電容量Cs、地絡事故点探査装置1のインダクタンスLsが含まれる。解析部106は、取得した標定条件を記憶部105に記憶させる。続けて、解析部106は、電源コンデンサの静電容量Csと対地静電容量Cgとの関係がCs>>Cgとなるような十分に静電容量の大きい電源コンデンサを選択する。
【0070】
地絡事故点探査装置1は、ステップS101の処理後、ステップS2~S4の処理を実行する。解析部106は、ステップS4の処理後、ステップS6の処理を行い、ステップS6の処理後、ステップS102の処理に進める。
【0071】
(ステップS102)解析部106は、求めた振動の周波数fを記憶部105が記憶する式(7)、式(4)を用いて、地絡が発生している標定距離を標定する。解析部106は、処理後、ステップS8の処理を実行する。
【0072】
ここで、インダクタンスLと抵抗Rは未知数であるため、4L/Cs>>Rの条件を満たす電源コンデンサC11の静電容量を適切に設定できない場合が発生する場合もありえる。このような場合であっても、図11に示したように、静電容量の異なる複数の電源コンデンサC11を課電部101が備え、制御部108が切り替えて課電することで、4L/Cs>>Rの条件を満たす電源コンデンサC11の静電容量を適切に設定することができる。
【0073】
なお、本発明における地絡事故点探査装置1の機能の全てまたは一部を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより地絡事故点探査装置1が行う処理の全てまたは一部を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0074】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0075】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形および置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0076】
1…地絡事故点探査装置、101…課電部、102…操作部、103…電圧取得部、104…電流取得部、105…記憶部、106…解析部、107…表示部、108…制御部、1011…直流電源、C11,C11a、C11b,C11c…電源コンデンサ、SW1,SW2,SW3,SW3a,SW3b,SW3c…スイッチ、R…抵抗、L…インダクタンス、Ls…地絡事故点探査装置のインダクタ、Cs…地絡事故点探査装置が備える電源コンデンサの静電容量、Cg…対地静電容量、x…標定距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12