IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 持田製薬株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧

<>
  • 特許-癒着防止用組成物 図1
  • 特許-癒着防止用組成物 図2
  • 特許-癒着防止用組成物 図3
  • 特許-癒着防止用組成物 図4
  • 特許-癒着防止用組成物 図5
  • 特許-癒着防止用組成物 図6
  • 特許-癒着防止用組成物 図7
  • 特許-癒着防止用組成物 図8
  • 特許-癒着防止用組成物 図9
  • 特許-癒着防止用組成物 図10
  • 特許-癒着防止用組成物 図11
  • 特許-癒着防止用組成物 図12
  • 特許-癒着防止用組成物 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】癒着防止用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/04 20060101AFI20230424BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20230424BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20230424BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20230424BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230424BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230424BHJP
   A61K 38/18 20060101ALI20230424BHJP
   A61K 38/22 20060101ALI20230424BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20230424BHJP
   A61K 31/573 20060101ALN20230424BHJP
   A61P 29/00 20060101ALN20230424BHJP
【FI】
A61L31/04 120
A61L31/14 400
A61L31/12
A61L31/16
A61L31/14 500
A61K47/36
A61K45/00
A61K38/18
A61K38/22
A61K38/16
A61K31/573
A61P29/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019552417
(86)(22)【出願日】2018-11-12
(86)【国際出願番号】 JP2018041770
(87)【国際公開番号】W WO2019093505
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2017218433
(32)【優先日】2017-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000181147
【氏名又は名称】持田製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100149010
【弁理士】
【氏名又は名称】星川 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大知
(72)【発明者】
【氏名】太田 誠一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 潔
(72)【発明者】
【氏名】伊佐次 三津子
(72)【発明者】
【氏名】清水 賢
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0039959(US,A1)
【文献】特開平11-253547(JP,A)
【文献】国際公開第2016/114355(WO,A1)
【文献】特表2007-538125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が硬化剤で架橋された、アルギン酸の1価金属塩のスポンジ状の第1の層および第2の層を含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が25,000~500,000であり、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が3,000~100,000であり、前記重量平均分子量が脱架橋処理後にGPC-MALS法により測定したものであり、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量よりも高く、アルギン酸の1価金属塩の第1の層と第2の層での使用量の合計が、0.1mg/cm ~10mg/cm の範囲であり、第1の層および第2の層から選択される少なくとも1つの層が、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を含み、滅菌された、生体に適用可能なスポンジ状積層体を含む、癒着防止材。
【請求項2】
アルギン酸の1価金属塩が低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩であり、第1の層と第2の層のアルギン酸の1価金属塩のエンドトキシン含有量が、500EU/g以下である、請求項1に記載の癒着防止材。
【請求項3】
第1の層および第2の層の両方が、硬化剤を含む請求項1または2に記載の癒着防止材。
【請求項4】
アルギン酸の1価金属塩の第1の層と第2の層での使用量の合計が、0.1mg/cm~3mg/cmの範囲である、請求項1~のいずれか1項に記載の癒着防止材。
【請求項5】
第1の層と第2の層のアルギン酸の1価金属塩が、アルギン酸ナトリウムまたはアルギン酸カリウムである、請求項1~のいずれか1項に記載の癒着防止材。
【請求項6】
第1の層と第2の層の硬化剤が、2価以上の金属イオン化合物である、請求項3または4に記載の癒着防止材。
【請求項7】
第1の層を創傷部側の表面に向けて適用するための、請求項1~のいずれか1項に記載の癒着防止材。
【請求項8】
少なくとも一部が硬化剤で架橋されたアルギン酸の1価金属塩をそれぞれ含む第1の層および第2の層を含む生体に適用可能なスポンジ状積層体を含み、第1の層の溶解速度が、第2の層よりも遅く、
pH7.5のリン酸緩衝液に対するアルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量を100%としたときの、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量の割合が、測定開始から1時間の時点で50%未満、2時間の時点で70%未満であるか、または、
pH7.5のリン酸緩衝液に対するアルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第1の層は、アルギン酸の1価金属塩の25±10重量%が1時間以内に溶出し、80±10重量%が4時間以内に溶出するものであり、第2の層は、アルギン酸の1価金属塩の70±10重量%が1時間以内に溶出し、90±10重量%が4時間以内に溶出するものであり、
第1の層および第2の層から選択される少なくとも1つの層が、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を含む、癒着防止材。
【請求項9】
スポンジ状積層体がプレスしたものである、請求項1~のいずれか1項に記載の癒着防止材。
【請求項10】
以下の工程を含む、生体に適用可能なスポンジ状積層体を含む癒着防止材の製造方法。
(1)重量平均分子量25,000~500,000のアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化させる工程、
(2)硬化したアルギン酸の1価金属塩を凍結する工程、
(3)(2)で得られたアルギン酸の1価金属塩の上で、重量平均分子量3,000~100,000のアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化して積層体を得る工程、
(4)得られた積層体を凍結乾燥してスポンジ状積層体を得る工程、
ここで、前記分子量がGPC-MALS法により測定したものであり、
前記スポンジ状積層体は、重量平均分子量25,000~500,000のアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第1の層と、重量平均分子量3,000~100,000のアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第2の層とを含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が第2の層よりも高く、アルギン酸の1価金属塩の第1の層と第2の層での使用量の合計が、0.1mg/cm ~10mg/cm の範囲であり、第1の層および第2の層から選択される少なくとも1つの層が、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を含み、
前記少なくとも1つの医薬成分を、工程(1)および/または工程(3)の硬化前のアルギン酸の1価金属塩に対して含有させる、または工程(4)の凍結乾燥後のスポンジ状積層体の第1の層および/または第2の層に対して含有させる。
【請求項11】
少なくとも一部が硬化剤で架橋された、アルギン酸の1価金属塩のスポンジ状の第1の層および第2の層を含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が25,000~500,000であり、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が3,000~100,000であり、前記重量平均分子量が脱架橋処理後にGPC-MALS法により測定したものであり、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量よりも高く、アルギン酸の1価金属塩の第1の層と第2の層での使用量の合計が、0.1mg/cm ~10mg/cm の範囲であり、第1の層および第2の層から選択される少なくとも1つの層が、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を含み、滅菌された、生体に適用可能なスポンジ状積層体を含む、癒着防止効果を有する医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癒着防止材、その製造方法、スポンジ状積層体および医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
癒着とは、互いに分離しているべき組織の表面が線維性の組織で連結または融合された状態のことをいう。癒着は、外傷や炎症に伴い組織の表面にフィブリンを含む滲出液が生じ、この滲出液が器質化して組織表面が連結または融合されることにより生じる。外科手術において組織の表面にできる外傷や、外傷により引き起こされる炎症、および外科手術において組織表面が乾燥することによる炎症は、癒着が生じる原因となっている。
【0003】
癒着は、時に、不妊、腸の通過障害、慢性骨盤痛の原因となり得る。また、外科手術後に生じた癒着を剥離するために、再度の外科手術が必要となることもある。例えば、肝臓がんの再発例に対しては複数回の手術が有効であるが、再手術適用の可否判断、治療のリスク、手術時の出血量、手術時間等は、いずれも前回の手術-後の癒着防止に大きく左右される。これらのことから、癒着を防止する必要があり、癒着防止のためにこれまでに様々な手段が講じられている。
【0004】
癒着防止のためのそのような手段のいくつかは、外傷または炎症部位とその隣接組織の間に配置して組織の連結または融合を防止する物理的バリアを設けることである。そのような物理的バリアとしては、シート状のものなどが知られている。
【0005】
具体的には、シート状のものとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルム(Preclude(商品名)(WL Gore and Associates,Inc.))、ヒアルロン酸(HA)とカルボキシメチルセルロース(CMC)を含有するシート(Seprafilm(商品名)(Genzyme GmbH))、再生酸化セルロースシート(INTERCEED(商品名)(Johnson&Johnson))などがある。このうちPTFEフィルムは、生分解性でないため、体内に残存するという問題がある。HAとCMCを含有するシートおよび再生酸化セルロースシートは、生分解性であるものの、肝切除後に生じる癒着のような重篤な癒着を完全に防止できず、癒着防止の効果の点で改善の余地があった。
【0006】
ここで、コラーゲンなどのタンパク質や、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、アルギン酸などの多糖から選択される生体適合性の材料をシート状、粒子状にして、医療用吸収物質、医療用貼付材、癒着防止材、生体組織補強材料などとして用いることが知られている(特許文献1~8)。また、そのような生体適合性の材料に薬物を含有させることも知られている(特許文献7および8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭48-79870号公報
【文献】特開2003-126235号公報
【文献】国際公開第2005/26214号
【文献】特開2011-25013号公報
【文献】特開2013-165884号公報
【文献】特表2016-502874号公報
【文献】特表2013-544549号公報
【文献】特表2009-529926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況の下、癒着防止効果が高い、創傷部の癒着とde novo癒着の両方を抑えることができる、適用した生体に悪影響を及ぼさない、創傷部の治癒を妨げない、腸管吻合などにも使用できる、内視鏡手術においてトロッカーを介した適用が容易である、貼付位置を調整して貼り直すことが可能である、等の少なくとも一つの性能を有する癒着防止材が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、臨床における種々の手術を想定した動物による癒着モデルにおいて、フィルム(シート)状癒着防止材の長所とスプレー(液・ゲル)状癒着防止材の長所とを兼備する癒着防止材について鋭意検討を重ねた結果、第1の層と第2の層の溶解速度が異なる、生体に適用可能なスポンジ状の癒着防止材、具体的には、重量平均分子量の比較的高いアルギン酸の1価金属塩(例えば、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩)を含むスポンジ状の第1の層と、重量平均分子量の比較的低いアルギン酸の1価金属塩(例えば、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩)を含むスポンジ状の第2の層とを含む生体に適用可能なスポンジ状積層体を含む癒着防止材が、術局所の癒着防止のみならず、適用領域の広い範囲において癒着防止効果を有することなどを見出した。さらに本発明者らは、スポンジ状積層体の第1の層および第2の層から選択される少なくとも1つの層が、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を含む癒着防止材が、さらに良好な癒着防止効果を有することを見出した。これらの知見に基づき、本発明者らは本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は以下のとおりである。
[1-1] 少なくとも一部が硬化剤で架橋されたアルギン酸の1価金属塩のスポンジ状の第1の層および第2の層を含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が10,000~2,000,000であり、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が1,000~1,000,000であり、前記重量平均分子量が脱架橋処理後にGPC-MALS法により測定したものであり、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量よりも高く、第1の層および第2の層から選択される少なくとも1つの層が、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を含み、滅菌された、生体に適用可能なスポンジ状積層体を含む、癒着防止材。
[1-1a] アルギン酸の1価金属塩が低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩である、上記[1-1]に記載の癒着防止材。
[1-1b] 少なくとも一部が硬化剤で架橋された低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩のスポンジ状の第1の層および第2の層を含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が10,000~2,000,000であり、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が1,000~1,000,000であり、前記重量平均分子量が脱架橋処理後にGPC-MALS法により測定したものであり、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量よりも高く、第1の層および第2の層から選択される少なくとも1つの層が、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を含み、滅菌された、生体に適用可能なスポンジ状積層体を含む、癒着防止材。

[1-2] 第1の層および第2の層のいずれか一方が、硬化剤を含む上記[1-1]~[1-1b]のいずれか1項に記載の癒着防止材。
[1-3] 第1の層および第2の層の両方が、硬化剤を含む上記[1-1]~[1-1b]のいずれか1項に記載の癒着防止材。
[1-4] アルギン酸の1価金属塩(例えば、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩)の第1の層と第2の層での使用量の合計が、0.1mg/cm~3mg/cmの範囲である、上記[1-1]~[1-3]のいずれか1項に記載の癒着防止材。
[1-5] 第1の層と第2の層のアルギン酸の1価金属塩のエンドトキシン含有量が、500EU/g以下である、上記[1-1]~[1-4]のいずれか1項に記載の癒着防止材。
[1-6] 第1の層と第2の層のアルギン酸の1価金属塩が、アルギン酸ナトリウムまたはアルギン酸カリウムである、上記[1-1]~[1-5]のいずれか1項に記載の癒着防止材。
[1-7] 第1の層と第2の層の硬化剤が、2価以上の金属イオン化合物である、上記[1-2]~[1-6]のいずれか1項に記載の癒着防止材。
[1-7a] 第1の層と第2の層の硬化剤が、CaCl、CaSO、ZnCl、SrCl、FeClおよびBaClからなる群より選択される少なくとも1つの金属イオン化合物である、上記[1-2]~[1-6]のいずれか1項に記載の癒着防止材。
[1-8] 第1の層を創傷部側の表面に向けて適用するための、上記[1-1]~[1-7a]のいずれか1項に記載の癒着防止材。
[1-9] スポンジ状積層体が、吸収線量として10kGy~150kGyの電子線および/またはγ線照射により滅菌されたものである、上記[1-1]~[1-8]のいずれか1項に記載の癒着防止材。
[1-10] 少なくとも一部が硬化剤で架橋されたアルギン酸の1価金属塩をそれぞれ含む第1の層および第2の層を含む生体に適用可能なスポンジ状積層体を含み、第1の層の溶解速度が、第2の層よりも遅く、
第1の層および第2の層から選択される少なくとも1つの層が、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を含む、癒着防止材。
[1-10a] アルギン酸の1価金属塩が低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩である、上記[1-10]に記載の癒着防止材。
[1-10b] 少なくとも一部が硬化剤で架橋された低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩をそれぞれ含む第1の層および第2の層を含む生体に適用可能なスポンジ状積層体を含み、第1の層の溶解速度が、第2の層よりも遅く、
第1の層および第2の層から選択される少なくとも1つの層が、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を含む、癒着防止材。
[1-11] pH7.5のリン酸緩衝液に対するアルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量を100%としたときの、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量の割合が、測定開始から1時間の時点で50%未満、2時間の時点で70%未満である、上記[1-10]~[1-10b]のいずれか1項に記載の癒着防止材。
[1-12] pH7.5のリン酸緩衝液に対するアルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第1の層は、アルギン酸の1価金属塩の25±10重量%が1時間以内に溶出し、80±10重量%が4時間以内に溶出するものであり、第2の層は、アルギン酸の1価金属塩の70±10重量%が1時間以内に溶出し、90±10重量%が4時間以内に溶出するものである、上記[1-10]~[1-10b]のいずれか1項に記載の癒着防止材。
[1-13] pH7.5、37℃のリン酸緩衝液に対する医薬成分の溶出を指標とする溶解試験において、第1の層に含有させた医薬成分の40±20重量%が1時間以内に溶出し、80±20重量%が4時間以内に溶出するものである、上記[1-10]~[1-10b]のいずれか1項に記載の癒着防止材。
[1-14] pH7.5、37℃のリン酸緩衝液に対する医薬成分の溶出を指標とする溶解試験において、第2の層に含有させた医薬成分の80±20重量%が1時間以内に溶出し、90±10重量%が4時間以内に溶出するものである、上記[1-10]~[1-10b]のいずれか1項に記載の癒着防止材。
[1-15] pH7.5、37℃のリン酸緩衝液に対する医薬成分の溶出を指標とする溶解試験において、第1の層に含有させた医薬成分の40±20重量%が1時間以内に溶出し、80±20重量%が4時間以内に溶出するものであり、第2の層に含有させた医薬成分の80±20重量%が1時間以内に溶出し、90±10重量%が4時間以内に溶出するものである、上記[1-10]~[1-10b]のいずれか1項の癒着防止材。
[1-16] スポンジ状積層体がプレスしたものである、上記[1-1]~[1-15]のいずれか1項に記載の癒着防止材。
【0011】
[2-1] 少なくとも一部が硬化剤で架橋されたアルギン酸の1価金属塩のスポンジ状の第1の層および第2の層を含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が10,000~2,000,000であり、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が1,000~1,000,000であり、前記重量平均分子量が脱架橋処理後にGPC-MALS法により測定したものであり、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量よりも高く、第1の層および第2の層から選択される少なくとも1つの層が、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を含み、滅菌された、生体に適用可能なスポンジ状積層体を、癒着防止を必要とする対象に、第1の層を創傷部側の表面に向けて適用することを含む、癒着防止方法。
[2-1a] アルギン酸の1価金属塩が低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩である、上記[2-1]に記載の癒着防止方法。
[2-1b] 少なくとも一部が硬化剤で架橋された低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩のスポンジ状の第1の層および第2の層を含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が10,000~2,000,000であり、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が1,000~1,000,000であり、前記重量平均分子量が脱架橋処理後にGPC-MALS法により測定したものであり、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量よりも高く、第1の層および第2の層から選択される少なくとも1つの層が、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を含み、滅菌された、生体に適用可能なスポンジ状積層体を、癒着防止を必要とする対象に、第1の層を創傷部側の表面に向けて適用することを含む、癒着防止方法。
[2-2] 第1の層および第2の層のいずれか一方が、硬化剤を含む上記[2-1]~[2-1b]のいずれか1項に記載の癒着防止方法。
[2-3] 第1の層および第2の層の両方が、硬化剤を含む上記[2-1]~[2-1b]のいずれか1項に記載の癒着防止方法。
[2-4] アルギン酸の1価金属塩(例えば、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩)の第1の層と第2の層での使用量の合計が、0.1mg/cm~3mg/cmの範囲である、上記[2-1]~[2-3]のいずれか1項に記載の癒着防止方法。
[2-5] 第1の層と第2の層のアルギン酸の1価金属塩のエンドトキシン含有量が、500EU/g以下である、上記[2-1]~[2-4]のいずれか1項に記載の癒着防止方法。
[2-6] 第1の層と第2の層のアルギン酸の1価金属塩が、アルギン酸ナトリウムまたはアルギン酸カリウムである、上記[2-1]~[2-5]のいずれか1項に記載の癒着防止方法。
[2-7] 第1の層と第2の層の硬化剤が、2価以上の金属イオン化合物である、上記[2-2]~[2-6]のいずれか1項に記載の癒着防止方法。

[2-7a] 第1の層と第2の層の硬化剤が、CaCl、CaSO、ZnCl、SrCl、FeClおよびBaClからなる群より選択される少なくとも1つの金属イオン化合物である、上記[2-2]~[2-6]のいずれか1項に記載の癒着防止方法。
[2-8] スポンジ状積層体が、吸収線量として10kGy~150kGyの電子線および/またはγ照射により滅菌されたものである、上記[2-1]~[2-7a]のいずれか1項に記載の癒着防止方法。
[2-9] 少なくとも一部が硬化剤で架橋されたアルギン酸の1価金属塩をそれぞれ含む第1の層および第2の層を含み、第1の層の溶解速度が第2の層よりも遅く、
第1の層および第2の層から選択される少なくとも1つの層が、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を含み、生体に適用可能なスポンジ状積層体を、癒着防止を必要とする対象に適用することを含む、癒着防止方法。
[2-9a] アルギン酸の1価金属塩が低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩である、上記[2-1]に記載の癒着防止方法。
[2-9b] 少なくとも一部が硬化剤で架橋された低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩をそれぞれ含む第1の層および第2の層を含み、第1の層の溶解速度が第2の層よりも遅く、
第1の層および第2の層から選択される少なくとも1つの層が、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を含み、生体に適用可能なスポンジ状積層体を、癒着防止を必要とする対象に適用することを含む、癒着防止方法。
[2-10] pH7.5のリン酸緩衝液に対するアルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量を100%としたときの、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量の割合が、測定開始から1時間の時点で50%未満、2時間の時点で70%未満である、上記[2-9]~[2-9b]のいずれか1項に記載の癒着防止方法。
[2-11] pH7.5のリン酸緩衝液に対するアルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第1の層は、アルギン酸の1価金属塩の25±10重量%が1時間以内に溶出し、80±10重量%が4時間以内に溶出するものであり、第2の層は、アルギン酸の1価金属塩の70±10重量%が1時間以内に溶出し、90±10重量%が4時間以内に溶出するものである、上記[2-9]~[2-9b]のいずれか1項に記載の癒着防止方法。
[2-12] pH7.5、37℃のリン酸緩衝液に対する医薬成分の溶出を指標とする溶解試験において、第1の層に含有させた医薬成分の40±20重量%が1時間以内に溶出し、80±20重量%が4時間以内に溶出するものである、上記[2-9]~[2-9b]のいずれか1項に記載の癒着防止方法。
[2-13] pH7.5、37℃のリン酸緩衝液に対する医薬成分の溶出を指標とする溶解試験において、第2の層に含有させた医薬成分の80±20重量%が1時間以内に溶出し、90±10重量%が4時間以内に溶出するものである、上記[2-9]~[2-9b]のいずれか1項に記載の癒着防止方法。
[2-14] pH7.5、37℃のリン酸緩衝液に対する医薬成分の溶出を指標とする溶解試験において、第1の層に含有させた医薬成分の40±20重量%が1時間以内に溶出し、80±20重量%が4時間以内に溶出するものであり、第2の層に含有させた医薬成分の80±20重量%が1時間以内に溶出し、90±10重量%が4時間以内に溶出するものである、上記[2-9]~[2-9b]のいずれか1項に記載の癒着防止方法。
[2-15] スポンジ状積層体がプレスしたものである、上記[2-1]~[2-14]のいずれか1項に記載の癒着防止方法。
【0012】
[3-1] 以下の工程を含む、生体に適用可能なスポンジ状積層体を含む癒着防止材の製造方法。
(1)重量平均分子量10,000~2,000,000のアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化させる工程、
(2)硬化したアルギン酸の1価金属塩を凍結する工程、
(3)(2)で得られたアルギン酸の1価金属塩の上で、重量平均分子量1,000~1,000,000のアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化して積層体を得る工程、
(4)得られた積層体を凍結乾燥してスポンジ状積層体を得る工程、
ここで、前記分子量がGPC-MALS法により測定したものであり、
前記スポンジ状積層体は、重量平均分子量10,000~2,000,000のアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第1の層と、重量平均分子量1,000~1,000,000のアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第2の層とを含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が第2の層よりも高く、第1の層および第2の層から選択される少なくとも1つの層が、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を含み、
前記少なくとも1つの医薬成分を、工程(1)および/または工程(3)の硬化前のアルギン酸の1価金属塩に対して含有させるか、または工程(4)の凍結乾燥後のスポンジ状積層体の第1の層および/または第2の層に対して含有させる。
[3-1a] アルギン酸の1価金属塩が低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩である、上記[3-1]に記載の癒着防止材の製造方法。
[3-1b] 以下の工程を含む、生体に適用可能なスポンジ状積層体を含む癒着防止材の製造方法。
(1)重量平均分子量10,000~2,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化させる工程、
(2)硬化したアルギン酸の1価金属塩を凍結する工程、
(3)(2)で得られたアルギン酸の1価金属塩の上で、重量平均分子量1,000~1,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化して積層体を得る工程、
(4)得られた積層体を凍結乾燥してスポンジ状積層体を得る工程、
ここで、前記分子量がGPC-MALS法により測定したものであり、
前記スポンジ状積層体は、重量平均分子量10,000~2,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第1の層と、重量平均分子量1,000~1,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第2の層とを含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が第2の層よりも高く、第1の層および第2の層から選択される少なくとも1つの層が、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を含み、
前記少なくとも1つの医薬成分を、工程(1)および/または工程(3)の硬化前のアルギン酸の1価金属塩に対して含有させるか、または工程(4)の凍結乾燥後のスポンジ状積層体の第1の層および/または第2の層に対して含有させる。
[3-2] スポンジ状積層体が、吸収線量として10kGy~150kGyの電子線および/またはγ照射により滅菌されたものである、上記[3-1]~[3-1b]のいずれか1項に記載の癒着防止材の製造方法。
[3-3] (4)で得られた積層体をプレスする工程をさらに含む、上記[3-1]~[3-2]のいずれか1項に記載の癒着防止材の製造方法。
【0013】
[4-1] 以下の工程(1)~(4)により得られる生体に適用可能なスポンジ状積層体。
(1)重量平均分子量10,000~2,000,000のアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化させる工程、
(2)硬化したアルギン酸の1価金属塩を凍結する工程、
(3)(2)で得られたアルギン酸の1価金属塩の上で、重量平均分子量1,000~1,000,000のアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化して積層体を得る工程、
(4)得られた積層体を凍結乾燥してスポンジ状積層体を得る工程、
ここで、前記分子量がGPC-MALS法により測定したものであり、
前記スポンジ状積層体は、重量平均分子量10,000~2,000,000のアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第1の層と、重量平均分子量1,000~1,000,000のアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第2の層とを含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が第2の層よりも高く、第1の層および第2の層から選択される少なくとも1つの層が、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を含み、
前記少なくとも1つの医薬成分を、工程(1)および/または工程(3)の硬化前のアルギン酸の1価金属塩に対して含有させるか、または工程(4)の凍結乾燥後のスポンジ状積層体の第1の層および/または第2の層に対して含有させる。
[4-1a] アルギン酸の1価金属塩が低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩である、上記[4-1]に記載のスポンジ状積層体。
[4-1b] 以下の工程(1)~(4)により得られる生体に適用可能なスポンジ状積層体。
(1)重量平均分子量10,000~2,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化させる工程、
(2)硬化したアルギン酸の1価金属塩を凍結する工程、
(3)(2)で得られたアルギン酸の1価金属塩の上で、重量平均分子量1,000~1,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を硬化剤により硬化して積層体を得る工程、
(4)得られた積層体を凍結乾燥してスポンジ状積層体を得る工程、
ここで、前記分子量がGPC-MALS法により測定したものであり、
前記スポンジ状積層体は、重量平均分子量10,000~2,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第1の層と、重量平均分子量1,000~1,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含むスポンジ状の第2の層とを含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が第2の層よりも高く、第1の層および第2の層から選択される少なくとも1つの層が、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を含み、
前記少なくとも1つの医薬成分を、工程(1)および/または工程(3)の硬化前のアルギン酸の1価金属塩に対して含有させるか、または工程(4)の凍結乾燥後のスポンジ状積層体の第1の層および/または第2の層に対して含有させる。
[4-2] 癒着防止材として用いる、上記[4-1]~[4-1b]のいずれか1項に記載のスポンジ状積層体。
[4-3] スポンジ状積層体が、吸収線量として10kGy~150kGyの電子線および/またはγ照射により滅菌されたものである、上記[4-1]~[4-2]のいずれか1項に記載のスポンジ状積層体。
[4-4] (4)で得られた積層体をプレスする工程をさらに含む、上記[4-1]~[4-3]のいずれか1項に記載のスポンジ状積層体。
【0014】
[5-1] 重量平均分子量10,000~2,000,000のアルギン酸の1価金属塩を含む第1の原料と、重量平均分子量1,000~1,000,000のアルギン酸の1価金属塩を含む第2の原料とを含み、第1の原料の重量平均分子量が第2の原料よりも高く、第1の層および第2の層から選択される少なくとも1つの層が、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を含む、癒着防止材を製造するための原料の組合せ。
[5-1a] アルギン酸の1価金属塩が低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩である、上記[5-1]に記載の原料の組合せ。
[5-1b] 重量平均分子量10,000~2,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含む第1の原料と、重量平均分子量1,000~1,000,000の低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含む第2の原料とを含み、第1の原料の重量平均分子量が第2の原料よりも高く、第1の層および第2の層から選択される少なくとも1つの層が、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を含む、癒着防止材を製造するための原料の組合せ。
[5-2] スポンジ状積層体の製造に用いるためのものである、上記[5-1]~[5-1b]のいずれか1項に記載の原料の組合せ。
【0015】
[6-1] 少なくとも一部が硬化剤で架橋された、アルギン酸の1価金属塩のスポンジ状の第1の層および第2の層を含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が10,000~2,000,000であり、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が1,000~1,000,000であり、前記重量平均分子量が脱架橋処理後にGPC-MALS法により測定したものであり、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量よりも高く、第1の層および第2の層から選択される少なくとも1つの層が、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を含み、滅菌された、生体に適用可能なスポンジ状積層体を含む、癒着防止効果を有する医薬組成物。
[6-1a] アルギン酸の1価金属塩が低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩である、上記[6-1]に記載の医薬組成物。
[6-1b] 少なくとも一部が硬化剤で架橋された、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩のスポンジ状の第1の層および第2の層を含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が10,000~2,000,000であり、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が1,000~1,000,000であり、前記重量平均分子量が脱架橋処理後にGPC-MALS法により測定したものであり、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量よりも高く、第1の層および第2の層から選択される少なくとも1つの層が、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を含み、滅菌された、生体に適用可能なスポンジ状積層体を含む、癒着防止効果を有する医薬組成物。
[6-2] 第1の層および第2の層のいずれか一方が、硬化剤を含む、上記[6-1]~[6-1b]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[6-3] 第1の層および第2の層の両方が、硬化剤を含む、上記[6-1]~[6-1b]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[6-4] アルギン酸の1価金属塩(例えば、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩)の第1の層と第2の層での使用量の合計が、0.1mg/cm~3mg/cmの範囲である、上記[6-1]~[6-3]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[6-5] 第1の層と第2の層のアルギン酸の1価金属塩のエンドトキシン含有量が、500EU/g以下である、上記[6-1]~[6-4]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[6-6] 第1の層と第2の層のアルギン酸の1価金属塩が、アルギン酸ナトリウムまたはアルギン酸カリウムである、上記[6-1]~[6-5]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[6-7] 第1の層と第2の層の硬化剤が、2価以上の金属イオン化合物である、上記[6-1]~[6-6]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[6-7a] 第1の層と第2の層の硬化剤が、CaCl、CaSO、ZnCl、SrCl、FeClおよびBaClからなる群より選択される少なくとも1つの金属イオン化合物である、上記[6-1]~[6-6]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[6-8] 第1の層を創傷部側の表面に向けて適用するための、上記[6-1]~[6-7a]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[6-9] スポンジ状積層体がプレスしたものである、上記[6-1]~[6-8]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、癒着防止効果が高い、創傷部の癒着とde novo癒着の両方を抑えることができる、適用した生体に悪影響を及ぼさない、創傷部の治癒を妨げない、腸管吻合などにも使用できる、内視鏡手術においてトロッカーを介した適用が容易である、貼付位置を調整して貼り直すことが可能である、等の少なくとも一つの性能を有する癒着防止材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】癒着防止材の一例を示す図である。
図2】癒着防止材の各層の溶解速度の評価を示す図である。
図3】一部肝臓切除モデルでの癒着形成の評価を示す図である。(A)離断面で癒着形成した個体の数、(B)離断面グレード、(C)離断面Extent(mm)。** p<0.01、* p<0.05。
図4】一部肝臓切除モデルでの癒着形成の評価を示す図である。(A)非離断面で癒着形成した個体の数、(B)非離断面グレード、(C)非離断面Extent(mm)。** p<0.01、* p<0.05。
図5】一部肝臓切除モデルでの体重変化および脾臓重量の評価を示す図である。(A)体重変化、(B)脾臓重量。
図6】ペアン肝臓切除モデルでの癒着形成の評価を示す図である。(A)離断面で癒着形成した個体の数、(B)離断面グレード、(C)離断面Extent(mm)。** p<0.01、* p<0.05。
図7】ペアン肝臓切除モデルでの癒着形成の評価を示す図である。(A)非離断面で癒着形成した個体の数、(B)非離断面グレード、(C)非離断面Extent(mm)。** p<0.01、* p<0.05。
図8】ペアン肝臓切除モデルでの体重変化および脾臓重量の評価を示す図である。(A)体重変化、(B)脾臓重量。
図9】プレス前後のスポンジの膨潤試験結果を示す図である。
図10】霧吹き後の各試験片先端の高さ(A)および試験台からの角度(B)の経時変化を示す図である。
図11】ラット70%肝切除モデルでの離断面における癒着形成の評価を示す図である。(A)離断面で癒着形成した個体の数、(B)離断面Extent(mm)。** p<0.01、* p<0.05。
図12】ラット70%肝切除モデルでの非離断面における癒着形成の評価を示す図である。(A)非離断面で癒着形成した個体の数、(B)非離断面Extent(mm)。** p<0.01、* p<0.05。
図13】癒着防止材からの医薬成分の溶出挙動を示す図である。(A)デキサメタゾン(Dex)、(B)デキサメタゾンリン酸エステルナトリウム(DSP)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下の実施の形態は本発明を説明するための例示であり、本発明はその要旨を逸脱しない限りさまざまな形態で実施することができる。
【0019】
1.癒着防止
「癒着」とは、互いに分離しているべき組織の表面が線維性の組織で連結または融合された状態のことをいう。癒着の原因は、外科手術において組織の表面にできる外傷や、外傷により引き起こされる炎症、外科手術において組織表面が乾燥することによる炎症などである。これらの外傷や炎症に伴い組織の表面にフィブリンを含む滲出液が生じ、この滲出液が器質化して組織表面が連結または融合されることにより癒着が形成される。
【0020】
「癒着防止」とは、癒着の形成を減少させることをいう。癒着防止は、必ずしも癒着の形成を完全に防止することまでも必要とせず、癒着防止材を適用しなかった場合の状態と比較して、癒着の形成が防止されていればよい。すなわち「癒着防止」は癒着の軽減と言い換えてもよく、例えば、癒着の頻度、範囲および程度から選ばれる少なくとも1つが軽減されていればよい。「癒着防止」は、例えば、実施例に記載した癒着のグレード評価を行った場合に、癒着防止材を適用しなかった場合の平均癒着のグレードと比較して、平均癒着のグレードがより低くなっていればよい。あるいは、「癒着防止」は、例えば、実施例に記載した癒着のExtent評価を行った場合に、癒着防止材を適用しなかった場合の平均癒着のExtentと比較して、平均癒着のExtentがより低くなっていればよい。「癒着防止」は、好ましくは、外科手術に起因して生じる癒着、より好ましくは、外科手術に起因して生じる腹膜癒着の防止である。すなわち、「癒着防止」は、好ましくは、術後の癒着防止である。
また、実施例に示したとおり、対象となる癒着としては、手術時の対象臓器の切除した部位の癒着およびde novo癒着(手術部位以外の周辺および腹腔および体内での広範な部位との癒着)がある。
【0021】
2.癒着防止材
本発明は、少なくとも一部が硬化剤で架橋されたアルギン酸の1価金属塩(例えば、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩)のスポンジ状の第1の層および第2の層を含み、重量平均分子量が比較的高いアルギン酸の1価金属塩(例えば、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩)を含むスポンジ状の第1の層と、重量平均分子量が比較的低いアルギン酸の1価金属塩(例えば、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩)を含むスポンジ状の第2の層を含む生体に適用可能なスポンジ状積層体を含み、第1の層および第2の層から選択される少なくとも1つの層が、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を含む、癒着防止材(以下、「癒着防止材A」という場合がある)を提供する。第1の層と第2の層で用いるアルギン酸の1価金属塩(例えば、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩)の重量平均分子量は、それぞれ、例えば、10,000~2,000,000と、1,000~1,000,000である。このような重量平均分子量は脱架橋処理、例えばキレート剤溶液に溶解した後にGPC-MALS法により測定したものである。
なお、本明細書において、数値範囲に「~」の記号を用いる場合、「下限値以上、上限値以下」を意味するものであり、記号の両端の数値は当該範囲に含まれる。
【0022】
癒着防止材Aは、スポンジ状積層体の第1の層と第2の層に、異なる分子量のアルギン酸の1価金属塩(例えば、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩)が含まれる。具体的には、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が第2の層よりも高い。アルギン酸の1価金属塩を含む層は、アルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が大きければ溶解速度が遅くなり、一方、重量平均分子量が小さければ溶解速度が速くなる。このため、第1の層を創傷部側、第2の層を腹腔側に向けて癒着防止材Aを適用することで、第1の層は、創傷部に残留するとともに、第2の層は比較的速く溶解して腹腔内全般の癒着を抑えることが期待できる。
【0023】
また、本発明は、少なくとも一部が硬化剤で架橋されたアルギン酸の1価金属塩(例えば、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩)をそれぞれ含む第1の層および第2の層を含む生体に適用可能なスポンジ状積層体を含み、第1の層と第2の層の溶解速度が異なり、第1の層および第2の層から選択される少なくとも1つの層が、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を含む、癒着防止材(「癒着防止材B」)を提供する。具体的には、第1の層の溶解速度が、第2の層よりも遅い。第1の層の溶解速度が第2の層の溶解速度よりも遅くなるようにするには、例えば、癒着防止材Aのように第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量を第2の層よりも高いものとすること、架橋剤の種類を変更する、または架橋剤の濃度を変更する、等により第1の層のアルギン酸の1価金属塩の架橋度を第2の層よりも高いものとすること、などが挙げられる。
【0024】
好ましくは、癒着防止材Bは、アルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第2の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量を100%としたときの、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量の割合が、測定開始から1時間の時点で50%未満、2時間の時点で70%未満であるものである。
別の好ましい例として、癒着防止材Bは、アルギン酸の1価金属塩の溶出を指標とする溶解試験において、第1の層は、アルギン酸の1価金属塩の25±10重量%が1時間以内に溶出し、80±10重量%が4時間以内に溶出するものであり、第2の層は、アルギン酸の1価金属塩の70±10重量%が1時間以内に溶出し、90±10重量%が4時間以内に溶出するものである。溶解試験は、具体的には、後述の実施例に記載の通りである。
【0025】
別の好ましい態様では、癒着防止材Bは、pH7.5、37℃のリン酸緩衝液に対する医薬成分の溶出を指標とする溶解試験において、第1の層に含有させた医薬成分の10~70重量%が1時間以内に溶出し、20~100重量%が4時間以内に溶出するものであり、より好ましくは、同試験において、第1の層に含有させた医薬成分の40±20重量%が1時間以内に溶出し、80±20重量%が4時間以内に溶出するものである。
別の好ましい態様では、癒着防止材Bは、pH7.5、37℃のリン酸緩衝液に対する医薬成分の溶出を指標とする溶解試験において、第2の層に含有させた医薬成分の40~100重量%が1時間以内に溶出し、60~100重量%が4時間以内に溶出するものであり、より好ましくは、同試験において、第2の層に含有させた医薬成分の80±20重量%が1時間以内に溶出し、90±10重量%が4時間以内に溶出するものである。
別の好ましい態様では、癒着防止材Bは、pH7.5、37℃のリン酸緩衝液に対する医薬成分の溶出を指標とする溶解試験において、第1の層に含有させた医薬成分の10~70重量%が1時間以内に溶出し、20~100重量%が4時間以内に溶出するものであり、第2の層に含有させた医薬成分の40~100重量%が1時間以内に溶出し、60~100重量%が4時間以内に溶出するものであり、より好ましくは、同試験において、第1の層に含有させた医薬成分の40±20重量%が1時間以内に溶出し、80±20重量%が4時間以内に溶出するものであり、第2の層に含有させた医薬成分の80±20重量%が1時間以内に溶出し、90±10重量%が4時間以内に溶出するものである。
【0026】
ここで、本明細書中、「癒着防止材A」と「癒着防止材B」を合わせて、「癒着防止材」という場合がある。また、「第1の層」は、スポンジ状積層体を対象に適用したときに下層となる層、すなわち、対象の適用すべき組織の表面と接触する側の層である。「第2の層」は、スポンジ状積層体を対象に適用したときに上層となる層、すなわち、対象の適用すべき組織の表面と接触しない側の層である。「生体に適用可能」とは、医療材料として適用すべき組織の表面に配置することが可能であることを意味する。
癒着防止材に用いられる生体に適用可能なスポンジ状の積層体は、上記の第1の層、第2の層以外に、任意の成分を含む第3の層を有していてもよく、また、多層構造を有していてもよい。また、各層が明瞭な境界面を持たず、分子量が連続的に漸増または漸減するような構造を有するスポンジ状積層体も含まれる。
【0027】
癒着防止材の一例を、図1に示す。癒着防止材1は、第1の層2と第2の層3とを含むスポンジ状積層体4を含む。第1の層2と第2の層3は、それぞれスポンジ状である。「スポンジ状」とは、多孔性を有した状態を意味する。そして、第1の層2および第2の層3から選択される少なくとも1つの層が、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を含む。
【0028】
生体に適用可能なスポンジ状積層体の形状は特に限定されず、適用する表面の範囲、形状、凹凸などを考慮し適宜選択することができる。スポンジ状積層体の形状は、例えば、図1に示すような平板状であってもよいし、あるいは円板状、円筒状、直方体状などの形状をとることができる。好ましくは平板状または円板状である。平板状や円板状のとき、適用する表面の範囲、形状、凹凸などに合わせて癒着防止材をさらに切断して表面に適用することができるため、平板や円板のサイズは特に限定されない。例えば、平板状の形状を、縦×横×高さ(厚さ)で表すと、縦と横の長さは特に限定されず、高さ(厚さ)は、好ましくは0.2mm~30mmであり、より好ましくは0.3mm~15mm、さらに好ましくは0.5mm~10mmである。さらに好ましくは、そのような高さ(厚さ)であることに加えて、縦と横の長さは、それぞれ、1mm~300mmx1mm~300mmであり、特に好ましくは、3mm~200mmx3mm~200mmであり、さらに好ましくは、5mm~150mmx5mm~150mmである。なお、厚さは均一でなくても良く、一方が厚くて他方が薄い、傾斜構造であってもよい。
【0029】
好ましい態様の癒着防止材のスポンジ状積層体は、Seprafilm(商品名)と比較して、柔軟性が高く、割れにくい。
【0030】
いくつかの態様では、スポンジ状積層体はプレスしたものである。「プレス」は後述の通りである。スポンジ状積層体がプレスしたものである場合、その高さ(厚さ)は、好ましくは、0.02mm~3mmであり、より好ましくは0.03mm~1.5mm、さらに好ましくは0.05mm~1mmである。さらに好ましくは、そのような高さ(厚さ)であることに加えて、縦と横の長さは、それぞれ、1mm~300mmx1mm~300mmであり、特に好ましくは、3mm~200mmx3mm~200mmであり、さらに好ましくは、5mm~150mmx5mm~150mmである。なお、いくつかの態様ではプレス後の厚さは均一である。
【0031】
いくつかの態様では、少なくとも1つの医薬成分は、第1の層に含まれるが、第2の層には含まれない。別のいくつかの態様では、少なくとも1つの医薬成分は、第2の層に含まれるが、第1の層には含まれない。さらに別のいくつかの態様では、少なくとも1つの医薬成分は、第1の層と第2の層の両方の層にそれぞれ独立に含まれる。
少なくとも1つの医薬成分は、例えば、3つ以上、2つまたは1つの医薬成分である。
【0032】
医薬成分のうち、薬物は、抗生物質としての作用を有する薬物、炎症緩和作用を有する薬物、癒着防止作用を有する薬物、創傷治癒促進作用を有する薬物、止血作用を有する薬物などである。そのような薬物は、以下に限定されないが、例えば、
ペニシリン、アンピシリン、アモキシシリン等のペニシリン系抗生物質、セファゾリン、セフォチアム、セフタジジム、セフピロム等のセフェム系抗生物質、メロペネム等のカルバペネム系抗生物質、タゾバクタム等のモノバクタム系抗生物質、ファロペネム等のペネム系抗生物質、ストレプトマイシン、トブラマイシン、アミカシン、ゲンタマイシン、ネオマイシン等のアミノグリコシド系抗生物質、リンコマイシン等のリンコマイシン系抗生物質、ホスホマイシン等のホスホマイシン系抗生物質、テトラサイクリン、ミノサイクリン等のテトラサイクリン系抗生物質、クロラムフェニコール等のクロラムフェニコール系抗生物質、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、ジョサマイシン等のマクロライド系抗生物質、テリスロマイシン等のケトライド系抗生物質、ポリミキシン等のポリペプチド系抗生物質、バンコマイシン等のグリコペプチド系抗生物質、キヌプリスチン・ダルホプリスチン等のストレプトグラミン系抗生物質、ナリジクス酸、エノキサシン、レボフロキサシン、ガチフロキサシン等のキノロン系抗生物質、リネゾリド等のオキサゾリジノン系抗生物質、およびアンホテリシンB等の抗菌、抗真菌作用を有する抗生物質、
非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs、例えば、アスピリン、ロキソプロフェン、ジクロフェナクナトリウム、インドメタシン、ピロキシカム、メフェナム酸、スルピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、メロキシカム、マレイン酸クロルフェニラミン等)、ステロイド系抗炎症薬(例えば、デキサメタゾン、デキサメタゾンリン酸エステルナトリウム、ヒドロコルチゾン、コハク酸ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、コハク酸メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニドおよびベタメタゾン等)等の抗炎症薬、
癒着防止作用を有する薬物(上記、抗炎症薬に同じ)、および創傷治癒促進作用を有する薬物、トラネキサム酸、カルバゾクロム等の止血作用を有する薬物などである。好ましくは、薬物は、非ステロイド系抗炎症薬またはステロイド系抗炎症薬であり、より好ましくは、ステロイド系抗炎症薬(例えば、デキサメタゾン、デキサメタゾンリン酸エステルナトリウム、トリアムシノロンアセトニド等)である。これらの薬物は、市販のものを入手してもよいし、あるいは公知の方法で製造してもよい。
【0033】
医薬成分のうち成長因子は、創傷治癒促進のために用いられる。そのような成長因子としては、例えば、骨形成蛋白質(BMP)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)、インスリン様成長因子(IGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、CDMP(cartilage-derived-morphogenetic protein),コロニー刺激因子(CSF),エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)、インターロイキン(IL)、多血小板血漿(PRP(Platelet Rich Plasma))、SOX、IF、上皮成長因子(EGF)、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)およびNT3等が挙げられ、好ましくは、FGF、VEGF、NGF、IGF、PDGFおよびHGFが挙げられ、より好ましくは、FGFおよびVEGFである。これらの成長因子は、組み換え法により製造してもよく、あるいは蛋白組成物から精製してもよく、あるいは、市販のものを入手してもよい。
【0034】
医薬成分のうちホルモンは、炎症緩和、癒着防止、創傷治癒促進等のために用いられる。そのようなホルモンは、例えば、スタノゾロール等の蛋白同化ホルモン、成長ホルモンおよびレプチン等であり、好ましくは、成長ホルモンおよびレプチンである。これらのホルモンは、市販のものを入手してもよいし、あるいは公知の方法で製造してもよい。
【0035】
医薬成分のうちタンパク質には、生理活性を有するペプチド類も含まれ、炎症緩和、癒着防止、創傷治癒促進、止血、疼痛緩和等のために用いられる。そのようなタンパク質は、例えば、トロンビン、プラスミン、ウリナスタチン、抗TNF抗体、抗NGF抗体、TSG-6およびヘモコアグラーゼ等であり、好ましくは、トロンビンおよびウリナスタチンである。これらのタンパク質は、市販のものを入手してもよいし、あるいは公知の方法で製造してもよい。
【0036】
医薬成分のうち、薬物、成長因子、ホルモンおよびタンパク質の組合わせとしては、例えば、以下の組合わせが挙げられる。非ステロイド系抗炎症薬と成長因子の組合わせ、非ステロイド系抗炎症薬とタンパク質の組合わせ、ステロイド系抗炎症薬と成長因子の組合わせ、ステロイド系抗炎症薬とタンパク質の組合わせ、が挙げられ、具体的には、例えば、ジクロフェナクナトリウムとFGFの組合わせ、ジクロフェナクナトリウムとトロンビンの組合わせ、ジクロフェナクナトリウムとウリナスタチンの組合わせ、デキサメタゾンリン酸エステルナトリウムとFGFの組合わせ、デキサメタゾンリン酸エステルナトリウムとトロンビンの組合わせ、デキサメタゾンリン酸エステルナトリウムとウリナスタチンの組合わせ、等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
第1の層に含有させる好ましい医薬成分は、次のものである。創傷治癒促進作用、止血作用を有する医薬成分および抗生物質、具体的には、任意の止血薬、任意のホルモン、トロンビン、プラスミン、ウリナスタチン等が挙げられ、より具体的にはトラネキサム酸、FGF、成長ホルモン、トロンビンおよびウリナスタチン等が挙げられる。
また、第1の層に含有させる別の好ましい医薬成分として、脂溶性の医薬成分が挙げられる。
また、第1の層に含有させる別の好ましい医薬成分として、持続的に放出させるために含有させる医薬成分が挙げられる。
【0038】
第2の層に含有させる好ましい医薬成分は、次のものである。炎症緩和作用、癒着防止作用を有する医薬成分および抗生物質、具体的には、非ステロイド系抗炎症薬、ステロイド系抗炎症薬、抗TNF抗体、抗NGF抗体、TSG-6等が挙げられ、より具体的には、ジクロフェナクナトリウム、デキサメタゾンリン酸エステルナトリウム等が挙げられる。
また、第2の層に含有させる別の好ましい医薬成分として、水溶性の医薬成分が挙げられる。
また、第2の層に含有させる別の好ましい医薬品成分として、術後速やかに放出させるために含有させる医薬成分が挙げられる。
【0039】
医薬成分が第1の層と第2の層の両方の層に含まれる態様では、第1の層の医薬成分と第2の層の医薬成分は、それぞれ独立して選択される。すなわち、第1の層と第2の層に同じ医薬成分が含まれていてもよいし、あるいは、第1の層と第2の層に異なる医薬成分が含まれていてもよい。
【0040】
第1の層と第2の層に同じ医薬成分が含まれる場合、第1の層に含まれる少なくとも1つ(例えば、3つ以上、2つまたは1つ)の医薬成分と、また、第2の層に含まれる少なくとも1つ(例えば、3つ以上、2つまたは1つ)の医薬成分が完全に一致する。いくつかの態様では、第1の層に1つの医薬成分が含まれ、また、第2の層にも同じ1つの医薬成分が含まれる。
【0041】
第1の層と第2の層に同じ医薬成分を含有させる場合の好ましい医薬成分は、例えば抗生物質である。
【0042】
第1の層と第2の層に異なる医薬成分が含まれる場合、第1の層に含まれる少なくとも1つ(例えば、3つ以上、2つまたは1つ)の医薬成分と、第2の層に少なくとも1つ(例えば、3つ以上、2つまたは1つ)の医薬成分は完全には一致しない。すなわち、第1の層と第2の層に異なる医薬成分が含まれることには、第1の層の少なくとも1つの医薬成分と第2の層の少なくとも1つの医薬成分に重複が全くないこと、および第1の層の少なくとも1つ医薬成分と第2の層の少なくとも1つの医薬成分に重複はあるがその重複は一部にすぎないことが含まれる。いくつかの態様では、第1の層に1つの医薬成分が含まれ、また、第2の層に別の1つの医薬成分が含まれる。
第1の層と第2の層に異なる医薬成分を含有させる場合の好ましい医薬成分の組合わせは、次の組合わせである。
(1)第1の層:創傷治癒促進作用、止血作用を有する任意の医薬成分の1つ以上と、第2の層:炎症緩和作用、癒着防止作用を有する任意の医薬成分の1つ以上との組合わせ。
(2)第1の層:創傷治癒促進作用、止血作用を有する任意の医薬成分の1つ以上と、第2の層:非ステロイド性抗炎症薬、ステロイド性抗炎症薬から選択される1つ以上との組合わせ。
(3)第1の層:FGF、トロンビン、ウリナスタチンから選択される1つ以上と、第2の層:ジクロフェナクナトリウム、デキサメタゾンリン酸エステルナトリウムから選択される1つ以上との組合わせ。
【0043】
いくつかの態様の癒着防止材は、上述したような医薬成分を含有させることにより、医薬組成物として用いることができる。好ましい態様の癒着防止材は、医薬成分を含有させて適用することにより、当該医薬成分の効果を増強すること、当該医薬成分の臨床用量よりも少ない量で効果が得られること、当該医薬成分の有害事象を軽減すること、当該医薬成分を持続的に放出すること、当該医薬成分を局所に滞留させること、当該医薬成分の放出速度を調節すること、等の効果の少なくとも一つが得られる場合がある。
【0044】
いくつかの態様の癒着防止材に含有させる医薬成分の含有量は、当該医薬成分の効果が発揮され、有害事象を示さない量であれば特に限定されず、また、含有させる医薬成分の薬効強度により異なるが、例えば、医薬成分を含有しない癒着防止材(スポンジ状積層体)総重量の0.0001重量%~200重量%、好ましくは0.001重量%~100重量%を挙げることができる。
【0045】
スポンジ状積層体は多孔性で吸水力もあるため、例えば、無孔性のSeprafilm(商品名)に比べて、用時調製により医薬成分を含有させることが容易である。例えば、医薬成分を含む溶液をスポンジに含浸させ、投与することで、腹腔、胸腔、心腔等において、癒着防止と医薬成分の局所徐放が同時に達成できる。さらに溶解速度が異なる層に医薬成分を含有させることにより、速い徐放速度と遅い徐放速度での医薬成分の徐放も可能となる。
いくつかの態様のスポンジ状積層体は医薬成分を含有させることにより、医薬成分を含有しないものと比較して、優れた癒着防止効果を示す。
【0046】
また、本発明は、少なくとも一部が硬化剤で架橋されたアルギン酸の1価金属塩(例えば、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩)のスポンジ状の第1の層および第2の層を含み、重量平均分子量が比較的高いアルギン酸の1価金属塩(例えば、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩)を含むスポンジ状の第1の層と、重量平均分子量が比較的低いアルギン酸の1価金属塩(例えば、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩)を含むスポンジ状の第2の層を含む生体に適用可能なスポンジ状積層体を含み、第1の層および第2の層から選択される少なくとも1つの層が、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を含む、医薬組成物を提供する。第1の層と第2の層で用いるアルギン酸の1価金属塩(例えば、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩)の重量平均分子量は、それぞれ、例えば、10,000~2,000,000と、1,000~1,000,000である。このような重量平均分子量は脱架橋処理、例えばキレート剤溶液に溶解した後にGPC-MALS法により測定したものである。
スポンジ状積層体、医薬成分などに関する説明は、前記と同様である。
【0047】
3.アルギン酸の1価金属塩
「アルギン酸の1価金属塩」は、アルギン酸の6位のカルボン酸の水素原子を、NaやKなどの1価金属イオンとイオン交換することでつくられる水溶性の塩である。アルギン酸の1価金属塩としては、具体的には、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウムなどを挙げることができるが、特には、市販品により入手可能なアルギン酸ナトリウムが好ましい。アルギン酸の1価金属塩の溶液は、硬化剤と混合したときにゲルを形成する。
【0048】
ここで用いる「アルギン酸」は、生分解性の高分子多糖類であって、D-マンヌロン酸(M)とL-グルロン酸(G)という2種類のウロン酸が直鎖状に重合したポリマーである。より具体的には、D-マンヌロン酸のホモポリマー画分(MM画分)、L-グルロン酸のホモポリマー画分(GG画分)、およびD-マンヌロン酸とL-グルロン酸がランダムに配列した画分(MG画分)が任意に結合したブロック共重合体である。アルギン酸のD-マンヌロン酸とL-グルロン酸の構成比(M/G比)は、主に海藻等の由来となる生物の種類によって異なり、また、その生物の生育場所や季節による影響を受け、M/G比が約0.4の高G型からM/G比が約5の高M型まで高範囲にわたる。
【0049】
アルギン酸の1価金属塩は高分子多糖類であり、分子量を正確に定めることは困難であり、天然物由来の高分子物質の分子量測定では、測定方法により値に違いが生じうることが知られている。
【0050】
GPC-MALS法によれば、絶対重量平均分子量を測定することができる。原料として用いるアルギン酸の1価金属塩の、GPC-MALS法により測定した重量平均分子量は、スポンジ状積層体の第1の層では、例えば、10,000~2,000,000であり、好ましくは、15,000~1,500,000であり、より好ましくは、20,000~1,000,000であり、特に好ましくは、25,000~500,000である。そのような第1の層であることに加えて、GPC-MALS法により測定した重量平均分子量は、第2の層では、例えば、1,000~1,000,000であり、好ましくは、1,000~500,000であり、より好ましくは、2,000~250,000であり、特に好ましくは、3,000~100,000である。
【0051】
いくつかの態様、例えば、電子線および/またはγ線滅菌による照射後においては、GPC-MALS法により測定した重量平均分子量は、スポンジ状積層体の第1の層では、例えば、10,000~300,000であり、好ましくは、10,000~200,000であり、より好ましくは、10,000~100,000であり、特に好ましくは、10,000~80,000である。そのような第1の層であることに加えて、GPC-MALS法により測定した重量平均分子量は、第2の層では、例えば、1,000~100,000であり、好ましくは、1,000~80,000であり、より好ましくは、2,000~60,000であり、特に好ましくは、3,000~60,000である。
少なくとも一部が硬化剤で架橋されたアルギン酸の1価金属塩については、任意の脱架橋処理後にGPC-MALS法により測定することにより、架橋されていないアルギン酸の1価金属塩としての重量平均分子量を測定することができる。脱架橋処理としては、例えば、任意のキレート剤、例えばEDTA(エチレンジアミン四酢酸)、フィチン酸などのキレート剤溶液に溶解することが挙げられる。用いるキレート剤としてはEDTAが好ましい。
【0052】
スポンジ状積層体の第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が第2の層よりも高い。スポンジ状積層体の原料、あるいはスポンジ状積層体に含まれる第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量は、第2の層よりも、例えば1,000~1,000,000高く、好ましくは2,000~500,000高く、より好ましくは、3,000~300,000高い。
【0053】
通常、高分子多糖類の分子量を上記のような手法で算出する場合、10~20重量%の測定誤差を生じうる。例えば、10,000であれば8,000~12,000、100,000であれば80,000~120,000、200,000であれば160,000~240,000、400,000であれば320,000~480,000、500,000であれば400,000~600,000程度の範囲で値の変動が生じうる。
アルギン酸類の分子量の測定は、常法に従い測定することができる。分子量測定にGPC-MALSを用いる場合の代表的な条件は、本明細書の実施例1に記載のとおりである。検出器として、例えば、RI検出器と光散乱検出器(MALS)を用いることができる。
【0054】
アルギン酸類は、褐藻類から抽出された当初は一般的に分子量が大きいが、熱による乾燥、精製などの過程で、徐々に分子量が小さくなる。製造工程の温度等の条件管理、原料とする褐藻類の選択、製造工程における分子量の分画などの手法により分子量の異なるアルギン酸類を製造することができる。さらに、異なる分子量を持つ別ロットのアルギン酸類と混合することにより、目的とする分子量を有するアルギン酸類とすることも可能である。
【0055】
ここで用いられるアルギン酸の1価金属塩は、例えば、低エンドトキシン処理されたものである。いくつかの態様では、アルギン酸の1価金属塩は、低エンドトキシン処理がされたか否かが確認されたものでなくてもよく、あるいは低エンドトキシン処理がされていないものでもよい。
低エンドトキシン処理は、公知の方法またはそれに準じる方法によって行うことができる。例えば、ヒアルロン酸ナトリウムを精製する、菅らの方法(例えば、特開平9-324001号公報など参照)、β1,3-グルカンを精製する、吉田らの方法(例えば、特開平8-269102号公報など参照)、アルギネート、ゲランガム等の生体高分子塩を精製する、ウィリアムらの方法(例えば、特表2002-530440号公報など参照)、ポリサッカライドを精製する、ジェームスらの方法(例えば、国際公開第93/13136号パンフレットなど参照)、ルイスらの方法(例えば、米国特許第5589591号明細書など参照)、アルギネートを精製する、ハーマンフランクらの方法(例えば、Appl Microbiol Biotechnol(1994)40:638-643など参照)等またはこれらに準じる方法によって実施することができる。低エンドトキシン処理は、それらに限らず、洗浄、フィルター(エンドトキシン除去フィルターや帯電したフィルターなど)によるろ過、限外ろ過、カラム(エンドトキシン吸着アフィニティーカラム、ゲルろ過カラム、イオン交換樹脂によるカラムなど)を用いた精製、疎水性物質、樹脂または活性炭などへの吸着、有機溶媒処理(有機溶媒による抽出、有機溶剤添加による析出・沈降など)、界面活性剤処理(例えば、特開2005-036036号公報など参照)など公知の方法によって、あるいはこれらを適宜組合せて実施することができる。これらの処理の工程に、遠心分離など公知の方法を適宜組み合わせてもよい。アルギン酸の種類に合わせて適宜選択するのが望ましい。
【0056】
エンドトキシンレベルは、公知の方法で確認することができ、例えば、リムルス試薬(LAL)による方法、エンドスペシー(登録商標)ES-24Sセット(生化学工業株式会社)を用いる方法などによって測定することができる。
【0057】
ここで用いられるアルギン酸の1価金属塩のエンドトキシンの処理方法は特に限定されないが、その結果として、生体内吸収性多糖類のエンドトキシン含有量が、リムルス試薬(LAL)によるエンドトキシン測定を行った場合に、500エンドトキシン単位(EU)/g以下であることが好ましく、さらに好ましくは、100EU/g以下、とりわけ好ましくは、50EU/g以下、特に好ましくは、30EU/g以下である。低エンドトキシン処理されたアルギン酸ナトリウムは、例えば、Sea Matrix(登録商標)(持田製薬株式会社)、PRONOVATM UP LVG(FMCBioPolymer)など市販品により入手可能である。
【0058】
スポンジ状積層体におけるアルギン酸の1価金属塩の使用量は、癒着防止効果を考慮して、適宜選択することができる。アルギン酸の1価金属塩の使用量は、スポンジ状積層体の第1の層と第2の層の合計で、例えば、0.1mg/cm~10.0mg/cmが挙げられ、好ましくは、0.1mg/cm~3.0mg/cmであり、より好ましくは、0.5mg/cm~2.5mg/cmであり、さらに好ましくは、1.8mg/cm~2.2mg/cmであり、特に好ましくは、2.0mg/cmである。アルギン酸の1価金属塩の使用量が、スポンジ状積層体の第1の層と第2の層の合計で、1.0mg/cm~3.0mg/cmであることで、より高い癒着防止効果が期待できる。使用量が10.0mg/cm以下であれば、生体内の蓄積や特定臓器の肥大などの有害事象のおそれが少なく、使用量が0.1mg/cm以上であれば十分な癒着防止効果が期待できる。
【0059】
第1の層と第2の層のアルギン酸の1価金属塩の使用量の比(重量比)は、好ましくは、1:20~20:1であり、より好ましくは、1:5~5:1であり、さらに好ましくは、1:3~3:1であり、特に好ましくは、1:2~2:1である。
【0060】
4.硬化剤(架橋剤)
癒着防止材は、第1の層および第2の層のいずれか一方が硬化剤を含有してもよく(すなわち、第1の層および第2の層のいずれか一方が硬化剤を含有しなくてもよく)、あるいは、第1の層および第2の層の両方が硬化剤を含有してもよい。
あるいは、癒着防止材は、第1の層および第2の層のいずれもが硬化剤を含有していなくてもよい。
【0061】
ここで、いくつかの態様では、第1の層および第2の層は、少なくとも一部が硬化剤で架橋されたものである。
【0062】
硬化剤は、アルギン酸の1価金属塩の溶液を架橋することにより、硬化するものである。硬化剤は、例えば、Ca2+、Mg2+、Ba2+、Sr2+、Zn2+、Fe3+などの2価以上の金属イオン化合物、分子内に2~4個のアミノ基を有する架橋性試薬などが挙げられる。より具体的には、2価以上の金属イオン化合物として、CaCl、MgCl、CaSO、ZnCl、FeCl、BaCl、SrCl等(好ましくは、CaCl、CaSO、ZnCl、SrCl、FeCl、BaCl等)を、分子内に2~4個のアミノ基を有する架橋性試薬として、窒素原子上にリジル(lysyl)基(-COCH(NH)-(CH-NH)を有することもあるジアミノアルカン、すなわちジアミノアルカンおよびそのアミノ基がリジル基で置換されてリジルアミノ基を形成している誘導体が包含され、具体的にはジアミノエタン、ジアミノプロパン、N-(リジル)-ジアミノエタン等を挙げることができる。
【0063】
第1層および第2層における硬化剤の使用量は、アルギン酸の一価金属塩の使用量や分子量などに応じて適宜調節するのが望ましい。硬化剤を使用する場合、第1の層における硬化剤の使用量は、例えば、0.1μmol/cm~100μmol/cmであり、好ましくは、0.5μmol/cm~2.0μmol/cmである。硬化剤を使用する場合、第2の層における硬化剤の使用量は、例えば、0.1μmol/cm~10μmol/cmであり、好ましくは、0.6μmol/cm~2.4μmol/cmである。
【0064】
5.癒着防止材の作製方法
生体適用可能なスポンジ状積層体を含む癒着防止材や生体適用可能なスポンジ状積層体は、例えば、以下の工程を経て作製することができる。
【0065】
(1)重量平均分子量10,000~2,000,000のアルギン酸の1価金属塩(例えば、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩)を硬化剤により硬化させる工程、
(2)硬化したアルギン酸の1価金属塩を凍結する工程、
(3)(2)で得られたアルギン酸の1価金属塩の上で、重量平均分子量1,000~1,000,000のアルギン酸の1価金属塩(例えば、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩)を硬化剤により硬化して積層体を得る工程、
(4)得られた積層体を凍結乾燥してスポンジ状積層体を得る工程。
【0066】
ここで、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を、工程(1)および/または工程(3)の硬化前のアルギン酸の1価金属塩に対して含有させるか、または工程(4)の凍結乾燥後のスポンジ状積層体の第1の層および/または第2の層に対して含有させる。いずれの方法を用いてよいが、医薬成分をスポンジ全体に均質に含有させる観点からは、工程(1)および/または工程(3)の硬化前のアルギン酸の1価金属塩に対して含有させる方法がより望ましい。
【0067】
上記工程(1)では、先ず、重量平均分子量10,000~2,000,000のアルギン酸の1価金属塩(例えば、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩)(以下、「第1のアルギン酸塩」という)の溶液と硬化剤の溶液を準備する。第1のアルギン酸塩の溶液と硬化剤の溶液は、公知の方法またはそれに準じる方法により調製することができる。溶媒は、生体へ適用可能な溶媒であれば特に限定されないが、好ましくは水性溶媒であり、例えば、精製水、純水(例えば、蒸留水、イオン交換水)、ミリQ水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、DMSOなどであり、より好ましくは、純水である。これらは、滅菌されていることが好ましく、低エンドトキシン処理されたものが好ましい。
【0068】
そして、第1のアルギン酸塩の溶液と硬化剤の溶液を混合することにより、第1のアルギン酸塩を硬化させることができる。
【0069】
医薬成分を工程(1)の硬化前のアルギン酸の1価金属塩に対して含有させる場合には、第1のアルギン酸塩の溶液に対して少なくとも1つの医薬成分を含有させ、その後、硬化剤の溶液をさらに混合することによって、第1のアルギン酸塩を硬化させる。これによって、硬化させた第1のアルギン酸塩は少なくとも1つの医薬成分を含有するものとなる。なお、含有させる医薬成分については、予めマイクロカプセル化、リポソーム化等の処理を施すようにしてもよい。
【0070】
上記工程(2)では、工程(1)で硬化させた第1のアルギン酸塩を、常法により凍結させる。工程(3)の前に一度凍結させることにより、第1の層と第2の層が混和する割合を低減することができる。凍結温度および時間は、例えば、-20℃で4時間である。
【0071】
上記工程(3)では、先ず、重量平均分子量1,000~1,000,000のアルギン酸の1価金属塩(例えば、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩)(以下、「第2のアルギン酸塩」という)の溶液と硬化剤の溶液を準備する。第2のアルギン酸塩の溶液と硬化剤の溶液は、公知の方法またはそれに準じる方法により調製することができる。溶媒は、上記工程(1)で説明したものと同様である。
【0072】
医薬成分を工程(3)の硬化前のアルギン酸の1価金属塩に対して含有させる場合には、第2のアルギン酸塩の溶液に対して少なくとも1つの医薬成分を含有させ、その後、硬化剤の溶液をさらに混合することによって、第2のアルギン酸塩を硬化させる。これによって、硬化させた第2のアルギン酸塩は少なくとも1つの医薬成分を含有するものとなる。なお、含有させる医薬成分については、予めマイクロカプセル化、リポソーム化等の処理を施すようにしてもよい。
【0073】
そして、第2のアルギン酸塩の溶液と硬化剤の溶液を混合することにより、第2のアルギン酸塩を硬化させることができる。
【0074】
さらに硬化させた第2のアルギン酸塩を、工程(4)の前に凍結させるようにしてもよい。凍結温度および時間は、例えば、-20℃で4時間である。
【0075】
上記工程(4)では、工程(3)で得られた積層体を凍結乾燥してスポンジ状積層体を得る。凍結乾燥は、公知の方法により行うことができる。凍結乾燥の条件は適宜調節可能であり、一次乾燥工程、二次乾燥工程等を設けてもよい。
【0076】
医薬成分を工程(4)の凍結乾燥後のスポンジ状積層体の第1の層および/または第2の層に対して含有させる場合には、例えば、医薬成分を含む溶液を第1の層および/または第2の層に滴下しその溶液中の溶媒を除去すること、医薬成分を含む溶液を第1の層および/または第2の層に噴霧すること、医薬成分を含む溶液に第1の層および/または第2の層を浸漬させること、医薬成分を含む粉末を、生理食塩水などで膨潤させたスポンジ状積層体の第1の層および/または第2の層に散布することなどにより行う。これらにより、医薬成分をスポンジ状積層体の第1の層および/または第2の層に対して含有させることができる。
【0077】
これらの工程により、第1のアルギン酸塩と硬化剤を含むスポンジ状の第1の層と、第2のアルギン酸塩と硬化剤を含むスポンジ状の第2の層を含み、第1の層のアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が第2の層よりも高く、第1の層および第2の層から選択される少なくとも1つの層が、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を含む、生体適用可能なスポンジ状積層体、ならびにそのスポンジ状積層体を含む癒着防止材を得ることができる。
【0078】
なお、上記の方法では、最初に、第1のアルギン酸塩と硬化剤を含むスポンジ状の第1の層を作製し、その上に、第2のアルギン酸塩と硬化剤を含むスポンジ状の第2の層を作製しているが、最初に、第2の層を作製し、その上に、第1の層を作製するようにしてもよい。この場合、スポンジ状積層体は、例えば、以下の工程を経て作製することができる。
(1’)第2のアルギン酸塩を硬化剤により硬化させる工程、
(2’)硬化した第2のアルギン酸塩を凍結する工程、
(3’)(2’)で得られた第2のアルギン酸塩の上で、第1のアルギン酸塩を硬化剤により硬化して積層体を得る工程、
(4’)得られた積層体を凍結乾燥してスポンジ状積層体を得る工程。
【0079】
ここで、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を、工程(1’)の硬化前の第2のアルギン酸塩および/または工程(3’)の硬化前の第1のアルギン酸塩に対して含有させるか、または工程(4’)の凍結乾燥後のスポンジ状積層体の第1の層および/または第2の層に対して含有させる。
各工程の具体的な説明は、前記の方法と同様である。また、医薬成分をスポンジ状積層体に含有させる方法も、前記の方法と同様である。
【0080】
あるいは、第1のアルギン酸塩を硬化させて凍結乾燥することでスポンジ状の第1の層を作製し、別途、第2のアルギン酸塩を硬化させて凍結乾燥することでスポンジ状の第2の層を作製し、得られたスポンジ状の各層を貼り合わせることにより、スポンジ状積層体を得ることも可能である。
ここで、薬物、成長因子、ホルモン、タンパク質およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの医薬成分を、硬化前の第1のアルギン酸塩および/または硬化前の第2のアルギン酸塩に対して含有させるか、または貼りあわせ後のスポンジ状積層体の第1の層および/または第2の層に対して含有させる。
各工程の具体的な説明は、前記の方法と同様である。また、医薬成分をスポンジ状積層体に含有させる方法も、前記の方法と同様である。
【0081】
第1のアルギン酸塩および第2のアルギン酸塩を硬化させるときに、所望の大きさ、高さおよび形状の容器、型、基板、多孔膜、不織布、織布などを用いることで、所望の大きさ、高さおよび形状のスポンジ状積層体を含む、癒着防止材を得ることができる。
【0082】
癒着防止材のスポンジ状積層体は、さらに、滅菌処理がなされていることが好ましい。滅菌は、γ線滅菌、電子線滅菌、エチレンオキシドガス滅菌、エタノール滅菌等が挙げられ、これらに限定されない。より好ましくは、癒着防止材は、電子線および/またはγ線照射により滅菌処理がされる。高分子材料をγ線、電子線等で照射処理することにより、好ましくは、生体内での貯留性を制御した生体適合性の高い医用材料が得られる(例えば、特開2000-237294号参照)。
電子線および/またはγ線滅菌する場合の照射条件として、例えば、吸収線量が10kGy~150kGyが挙げられ、より好ましくは20kGy~100kGyが挙げられ、さらに好ましくは40kGy~80kGyが挙げられる。電子線および/またはγ線滅菌する場合の照射条件の別の好ましい態様として、例えば、吸収線量が20kGy~80kGy、20kGy~60kGy、40kGy~60kGy等が挙げられる。γ線滅菌よりも電子線滅菌が好ましい。
【0083】
いくつかの態様では、上記工程(4)などで得られた積層体をプレスする工程をさらに含む。プレスは、手動で、あるいはプレス機によって積層体を挟み、加圧することで行う。また、一般的に用いられる圧縮、薄層化などの工程も、ここでいうプレスに含まれるものとする。プレス圧力としては、例えば1kPa~100MPaが挙げられ、より好ましくは10kPa~80MPa、さらに好ましくは100kPa~60Mpaが挙げられる。手動でのプレスは、積層体に均一に圧がかかるように手で押圧できるもの、例えば、アクリル定規、アクリル板、ガラス板、金属板等を介して行う。また、用いるプレス機としては、例えば、ホットプレス機(アズワン株式会社製 AH-1T)が挙げられる。
【0084】
6.使用方法
癒着防止材または医薬組成物(以下、「癒着防止材」と記載する)は、癒着防止を必要とする対象に適用することにより使用される。好ましくは、癒着防止材は、通常、癒着防止効果を奏するのに必要な1週間程度、適用局所に滞留した後に吸収分解され、最終的には1~2カ月程度で代謝・排泄されてなくなるため、安全性に優れる。
【0085】
癒着防止材は、創傷部の表面、例えば外科手術に関連した組織の表面に適用するようにしてもよい。
【0086】
「外科手術に関連した組織」とは、外科手術において表面に外傷を負った組織や、外科手術において表面が乾燥することにより炎症が生じたまたは炎症が生じる恐れのある組織である。外科手術に関連した組織は、好ましくは、腹膜に包まれている臓器(例えば、胃、空腸、回腸、虫垂、結腸、肝臓、脾臓、十二指腸、および膵臓)である。好ましい態様の癒着防止材は、肝切除後に生じる癒着のような重篤な癒着を効果的に防止することができる。
【0087】
また、「適用する」とは、癒着防止材を、創傷部の表面(例えば、外科出術に関連した組織の表面)に置くことをいう。具体的には、スポンジ状積層体の第1の層の表面が創傷部側の表面(例えば、組織の表面)と接触し、第2の層の表面が創傷部側の表面(例えば、組織の表面)とは反対側(例えば、腹腔側)を向くように、癒着防止材を創傷部側の表面(例えば、外科手術に関連した組織の表面)に置くようにする。スポンジ状積層体の第1の層は比較的重量平均分子量が高いため、組織の表面に癒着を防止するのに十分な時間分解されずに残留し、創傷面の物理的バリアとして働く。一方、スポンジ状積層体の第2の層は比較的重量平均分子量が低いため、速やかに溶けて広がり、非創傷面の癒着防止の役割を果たす。
【0088】
好ましくは、癒着防止材のスポンジ状積層体は、Seprafilm(商品名)と比較して、柔軟性が高く、割れにくい。このため、好ましい態様では、癒着防止材は、適用する組織の表面に規定されず、例えば、腸管吻合の際にも腸管に巻き付けて使用できる。また、別の好ましい態様では、内視鏡を用いた外科手術の際にも、手術器具を対象において出し入れする通路から、容易に挿入できる。さらに別の好ましい態様では、癒着防止材は、貼りなおしが可能である。
また、好ましくは、癒着防止材のスポンジ積層体は、INTERCEED(商品名)と比較して、癒着防止対象が広範である。
【0089】
好ましくは、癒着防止材は、適用する表面の範囲、形状、凹凸などに応じて適当な大きさのものを準備し、癒着防止すべき外科手術に関連した組織の表面に適用する。「対象」は、ヒト、またはヒト以外の生物、例えば、トリおよび非ヒト哺乳動物(例えば、ウシ、サル、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ブタ、イヌ、ウサギ、ヒツジ、およびウマ)である。
【0090】
癒着防止材のスポンジ積層体、とりわけスポンジ積層体がプレスしたものである場合には、コンパクトにまとめることができるので、例えば、内視鏡手術においてトロッカー等を介して癒着防止材を患部に比較的容易に適用することができる。そして、患部に適用された癒着防止材は、好ましくは、患部に存在する水分あるいは患部に適用された水分を吸収して厚みが回復する。
【0091】
好ましくは、癒着防止材は、Seprafilm(商品名)やINTERCEED(商品名)と同様に、対象において安全に使用できる。
【0092】
外科手術に関連した組織の表面に適用した後、癒着防止材と外科手術に関連した組織の表面の縫合は通常は必要ないが、必要に応じて、癒着防止材と外科手術に関連した組織の表面を縫合してもよい。
【0093】
また、スポンジ状積層体を、癒着防止を必要とする対象に適用することを含む、癒着防止方法が提供される。具体的な方法は、前述の通りである。
【0094】
また、癒着防止材を製造するための、スポンジ状積層体の使用が提供される。具体的な使用は、前述の通りである。
【0095】
さらに、癒着防止のためのスポンジ状積層体が提供される。具体的な、スポンジ状積層体は、前述の通りである。
また、医薬成分を含む癒着防止材または医薬組成物を用時に調製するための、スポンジ状積層体と医薬成分とを含むキット、および、医薬成分を含む癒着防止材または医薬組成物を用時に調製するために、スポンジ状積層体と医薬成分とを組み合わせて使用する方法が提供される。具体的なスポンジ状積層体および医薬成分は、前述の通りである。
【0096】
7.併用薬
癒着防止材または医薬組成物を外科手術に関連した組織に適用する前に、あるいは同時に、あるいは後で、癒着防止材に用いることができるとして前記した抗生物質、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)、ステロイド系抗炎症薬等の併用薬を癒着防止材とは別に投与するようにしてもよい。
【0097】
なお、本明細書において引用した全ての刊行物、例えば、先行技術文献および公開公報、特許公報その他の特許文献は、その全体が本明細書において参照として組み込まれる。また、本明細書は、本願の優先権主張の基礎となる日本出願(特願2017-218433号、2017年11月13日出願)の特許請求の範囲、明細書、及び図面の開示内容を参照して組み込むものとする。
【0098】
以下の実施例により本発明を更に詳述するが、本発明はこれら実施例に限定して理解されるべきものではない。
【実施例
【0099】
実施例1:アルギン酸積層スポンジの作製
アルギン酸積層スポンジを、以下のように作製した。
【0100】
[試薬]
アルギン酸積層スポンジの調製に用いた各試薬は以下の通りである。
低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムは、持田製薬株式会社から入手した。
・AL10:(Lot NO.5K12202),エンドトキシン量4EU/g。
・AL500:(Lot NO.BL150713-500),エンドトキシン量19EU/g。
塩化カルシウムは、和光純薬工業株式会社から入手した(商品コード:036-00485)。
【0101】
[使用機器]
35mm無処理ディッシュ(IWAKI社 商品コード1000-035)
マイクロピペット(Gilson社 ピペットマン(商品名))
純水製造装置(メルクミリポア社 Elix Essential UV5(商品名))
冷凍庫(SHARP社 SJ-56S(商品名))
凍結乾燥器(TAITEC社 VD-550R(商品名))
【0102】
[調製手順]
(1)溶液の調製
AL500を1.0wt%の濃度で純水に溶解させて、AL500溶液を調製した。同様に、AL10を1.0wt%の濃度で純水に溶解させて、AL10溶液を調製した。さらに、塩化カルシウムを純水に溶解させ、10mMおよび15mMの塩化カルシウム水溶液をそれぞれ調製した。
【0103】
(2)AL500層(下層)の調製
AL500溶液1.0mLおよび10mM塩化カルシウム水溶液1.0mLをマイクロピペットを使用して35mm無処理ディッシュに加え、ピペッティングによって均一になるように混合した。これを一晩静置し、ゲル化させた。ディッシュを冷凍庫に移し、-20℃で4時間凍結させた。
【0104】
(3)AL10層(上層)の積層
ディッシュを冷凍庫から取り出し、凍結したAL500層の上に、AL10溶液1.0mLおよび15mM塩化カルシウム水溶液1.0mLをマイクロピペットで加え、ピペッティングによって均一になるように混合した。これを再びディッシュを冷凍庫に移し、-20℃で4時間凍結させた。
【0105】
(4)スポンジの作製
凍結後のディッシュを凍結乾燥器にセットし、2晩凍結乾燥を行って、目的のアルギン酸積層スポンジを得た。
【0106】
目的のアルギン酸積層スポンジは、AL500と塩化カルシウムを含むスポンジ状の下層(すなわち、第1の層)と、AL10と塩化カルシウムを含むスポンジ状の上層(すなわち、第2の層)を含む。アルギン酸積層スポンジは、直径35mm、厚み1.83±0.13cm(n=4)の略円状であった。アルギン酸ナトリウムの上層と下層での使用量の合計は、約2.0mg/cmであった。また、アルギン酸ナトリウムの上層と下層での使用量の比(重量比)は、1:1であった。さらに、塩化カルシウムの使用量は、上層で、約1.0μmol/cmであり、下層で、約1.5μmol/cmであった。
【0107】
(5)重量平均分子量の測定
製造原料として用いたアルギン酸について、以下のGPC-MALS法により重量平均分子量を測定した。
【0108】
[前処理方法]
試料に溶離液を加え溶解後、0.45μmメンブランフィルター濾過したものを測定溶液とした。
【0109】
[測定条件(屈折率増分(dn/dc)測定)]
示差屈折率計:Optilab T-rEX
測定波長:658nm
測定温度:40℃
溶媒:200mM硝酸ナトリウム水溶液
試料濃度:0.5~2.5mg/mL(5濃度)
【0110】
[測定条件(絶対分子量分布測定)]
カラム:TSKgel GMPW-XL×2+G2500PW-XL(7.8mm I.D.×300mm×3本)
溶離液:200mM硝酸ナトリウム水溶液
流量:1.0mL/min.
濃度:0.05%
検出器:RI検出器、光散乱検出器(MALS)
カラム温度:40℃
注入量:200μL
【0111】
[結果]
AL10 : 55,000
AL500: 280,000
【0112】
また、上記工程(1)、(2)および(4)の方法に準じて製造したAL10を含有する単層スポンジと、AL500を含有する単層スポンジを電子線滅菌後、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)溶液に溶解して、GPC-MALS法によりそれぞれ分子量を測定した。結果を以下に示す。
【0113】
[結果]
(電子線滅菌の照射線量が20kGyの場合)
AL10 :36,000
AL500:75,000
(電子線滅菌の照射線量が40kGyの場合)
AL10 :27,000
AL500:45,000
【0114】
後述の実施例3、実施例3-2、および4では、積層スポンジとして、得られた積層スポンジを電子線滅菌(20kGy)したものを用いた。
尚、後述の実施例6および7では、積層スポンジとして、非滅菌のものを用いた。
【0115】
実施例1-2:アルギン酸積層スポンジの作製
(1)スポンジの作製
以下の[試薬]に記載のアルギン酸を用い、AL100またはAL500を下層の原料として、AL10またはAL20を上層の原料として使用し、実施例1に記載の方法に準じて、AL10(上層)-AL100(下層)、AL20(上層)-AL100(下層)、AL20(上層)-AL500(下層)の組合せによる、各アルギン酸積層スポンジを作製した。
【0116】
[試薬]
・AL10:実施例1と同じ
・AL20:(Lot NO.BL150713-20),エンドトキシン量13EU/g。
・AL100:(Lot NO.5G17201),エンドトキシン量6EU/g。
・AL500:実施例1と同じ
【0117】
(2)重量平均分子量の測定
また、スポンジ作製に用いたアルギン酸のうち、AL20およびAL100について、実施例1に記載の方法を用いて、GPC-MALS法により重量平均分子量を測定した。
[結果]
AL20 : 82,000
AL100: 170,000
【0118】
また、実施例1に記載の方法に準じて製造したAL20を含有する単層スポンジと、AL100を含有する単層スポンジについて、実施例1に記載の方法を用いて、電子線滅菌後の分子量を測定した。結果を以下に示す。
【0119】
[結果]
(電子線滅菌の照射線量が20kGyの場合)
AL20 :46,000
AL100:63,000
(電子線滅菌の照射線量が40kGyの場合)
AL20 :33,000
AL100:40,000
【0120】
実施例2:アルギン酸積層スポンジの各層の溶解速度の測定
上層または下層が蛍光修飾された積層スポンジをそれぞれ作製し、溶解速度の測定を行った。具体的な方法を以下に示す。なお、蛍光標識試薬としてはFTSC(Fluorescein-5-Thiosemicarbazide)を使用し、アルギン酸の標識は常法により行った。
蛍光標識されたアルギン酸を用い、実施例1に記載の方法に準じて積層スポンジを作製した。
【0121】
[材料]
低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムは、実施例1に記載の通りである。リン酸緩衝液は、リン酸二水素ナトリウム(和光純薬社、197-09705(商品名))、リン酸二水素カリウム(和光純薬社、166-04255(商品名))、塩化ナトリウム(和光純薬社、191-01665(商品名))、塩化カリウム(和光純薬社、166-17945(商品名))を用いて調整した。エチレンジアミン四酢酸ナトリウム(N001)はDojindo社から購入した。
【0122】
[使用機器]
直径8mm生検トレパン(Kai medical社 BP-80F(商品名))
96穴黒色マイクロプレート(Nunc社 137101(商品名))
蛍光プレートリーダー (Perkin Elmer社 ARVO X3(商品名))
【0123】
[手順]
まず、蛍光修飾された積層スポンジを直径8mmの生検トレパン(Kai medical社 BP-60F(商品名))で打ち抜いた。これを150mMリン酸緩衝液(pH7.5)10mL中に浸漬し、一定時間毎に浸漬液を200μLずつ回収した。回収した溶液を96穴プレートに移し、蛍光プレートリーダーによって蛍光強度を測定することで、溶解したアルギン酸量を定量化した。
【0124】
[結果]
積層スポンジの各層の溶解挙動の測定結果を、図2に示す。図2に示されているように、下層では、アルギン酸の1価金属塩の25±10重量%が1時間以内に溶出し、80±10重量%が4時間以内に溶出していた。一方、上層は、アルギン酸の1価金属塩の70±10重量%が1時間以内に溶出し、90±10重量%が4時間以内に溶出していた。また、上層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量を100%としたときの、下層のアルギン酸の1価金属塩の溶出量の割合は、測定開始から1時間の時点で36%(50%未満)、2時間の時点で55%(70%未満)であった。
このように上層の溶解速度が、下層に比べて速いことが確認できた。下層を創傷部側、上層を腹腔側に向けてアルギン酸スポンジを適用することで、下層は、創傷部に残留して創傷部の癒着を防止することができるとともに、上層は比較的速く溶解して創傷部から遠く離れた場所にも多数形成されるde novo癒着、例えば、腹腔内全般の癒着等を抑えることができると考えられる。
【0125】
なお、実施例1-2で作製した各積層スポンジ(AL10(上層)-AL100(下層);AL20(上層)-AL100(下層);AL20(上層)-AL500(下層))についても同様にして溶解速度の測定を行った結果、実施例1で作製した積層スポンジ(AL10(上層)-AL500(下層))と同様の溶解挙動を示した。
【0126】
実施例3:ラット一部肝切除モデル
ラット一部肝切除モデルを用いて、癒着の形成を評価した。ラット一部肝切除モデルは、重篤な炎症を惹起し高い強度を有する癒着の形成を再現性高く観察できるモデルである(Shimizu A et al.,(2014)Surg Today.(44):314-323)。具体的には、以下のように癒着の形成を評価した。
【0127】
[材料]
低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムは、実施例1に記載の通りである。
Seprafilm(商品名)は、カルボキシメチルセルロース(CMC)とヒアルロン酸を混合したシート状材料であり、Genzyme GmbHより入手した。
Interceed(商品名)は、再生酸化セルロースシートであり、Johnson&Johnsonより入手した。
【0128】
[実験群]
Control群(n=8):left lateral lobeの辺縁を3cm計測し切離し凝固止血した(無処置対照群)。
500-10積層スポンジ群(n=8):実施例1で作製したアルギン酸スポンジを癒着防止材として適用した。
Seprafilm群(n=8):2×3cmのSeprafilmを癒着防止材として適用した。
Interceed群(n=8):2×3cmのInterceedを癒着防止材として適用した。
【0129】
[手順]
ペントバルビタール35mg/kg相当の腹腔投与によりラットに麻酔をかけ、体重を電子天秤で測定した。その後、ラットを、正中切開で開腹した。次に、腹壁をピンセットでつまんで持ち上げ、腹壁を切断した。肝切除を行う前準備として、left lateral lobeを腹腔の奥から引き出し、その下にガーゼを敷いた。次に、実際の肝切除に移った。具体的には、ものさしを肝臓にあて、離断面が3cmになる位置を探し、その両端に、バイポーラで焼灼し、印をつけた。印をつけた2点の間を直線的に切除していった。Control群では、この後すぐ閉腹して処置を終了した。癒着防止材を適用する群では、この後、ガーゼを除去したのちに癒着防止材を適用した。次に、腹壁と皮膚を二回に分けて縫合し閉腹した。腹壁を縫合する際には生分解糸を用い、皮膚を縫合する際には非吸収糸を用いた。閉腹から一週間後に、ラットに過剰量の麻酔として約2mLのペントバルビタールの過剰投与によって安楽死させ、体重を電子天秤で測定した。その後、再び開腹し、以下の通り癒着を評価した。脾臓重量は、腹腔から脾臓を摘出した後、電子天秤で測定した。
【0130】
[癒着の評価]
以下の通り、癒着の評価を行った。
【0131】
(1)離断面
上記[手順]に記載した肝離断面について、以下の(a)、(b)の評価を行った。
(a)癒着グレード
癒着の評価は、目視により行った。肝離断面について、下記スコアリング法に基づき癒着スコアをつけた。
癒着スコア:
Grade0:癒着が全く見られない。
Grade1:自重により剥離する程度の癒着(生理的な癒着)
Grade2:ピンセットによる剥離が可能な癒着(鈍的な癒着)
Grade3:ハサミ、メスを使わないと剥離できない癒着(鋭的な癒着)
【0132】
(b)癒着Extent
3cmの肝離断面のうち、癒着が形成された幅を定規(ものさし)にて計測し、長さ(単位:mm)で表した(従って、離断面の最大Extentは30mmとなる)。
【0133】
(2)非離断面
肝離断面以外、具体的には肝表面、大網、腹膜、小腸、正中創直下、等について、以下の(a)、(b)の評価を行った。
(a)癒着グレード
癒着の評価は、目視により行った。肝離断面以外の部位について、下記スコアリング法に基づき癒着スコアをつけた。部位は特定せず、認められた癒着スコアの最大値を、その試験動物の癒着スコアとして記録した。
癒着スコア:
Grade0:癒着が全く見られない。
Grade1:自重により剥離する程度の癒着(生理的な癒着)
Grade2:ピンセットによる剥離が可能な癒着(鈍的な癒着)
Grade3:ハサミ、メスを使わないと剥離できない癒着(鋭的な癒着)
【0134】
(b)癒着Extent
肝離断面以外の部位について、癒着が形成された組織部分について、定規(ものさし)にて、その接着している幅を計測し、長さ(単位:mm)で表した。上記(2)(a)と同様、部位は特定せず、認められた癒着が形成された幅の最大値を、その試験動物の癒着Extentとして記録した。
【0135】
[結果]
癒着の評価の結果を図3(離断面)および図4(非離断面)に示した。また、体重測定および脾臓重量測定の結果を図5に示した。
離断面においては、各群とも、Control群に比べて癒着が抑制される傾向が認められた(図3(A)~(C))。
非離断面において、500-10積層スポンジ群での顕著な癒着防止効果が確認された(図4(A)~(C))。陽性対照として用いたSeprafilm(商品名)およびInterceed(商品名)では癒着防止効果は認められず、Control群に比べて癒着が増悪する傾向が認められた。一方、500-10積層スポンジ群では顕著な癒着防止効果が確認された。
体重および脾臓重量については、Control群、Seprafilm群、Interceed群、および500-10積層スポンジ群間で有意差はなく、500-10積層スポンジを適用しても、生体に悪影響がないことが確認された(図5(A)および(B))。
ここで、実施例における有意差検定は、特に断りがない限りStudent’s t-testによって行い、Gradeの評価のみMann-Whitney U testで行った。
【0136】
実施例3-2:ペアン鉗子を用いたラット一部肝切除モデル
肝臓の離断の際にペアン鉗子を用いたことを除き、実施例3と同じ材料、実験群、手順および癒着の評価方法を用いて、肝離断面と非離断面の癒着グレードと癒着Extentを評価した。
【0137】
ペアン鉗子を用いた肝臓の離断は、具体的には、次のように行った。すなわち、実施例3の[手順]において「印をつけた2点の間を直線的に切除する」のを、ペアン鉗子で肝実質を破砕し、露出した血管をバイポーラで焼灼することにより行った。
【0138】
[結果]
癒着の評価の結果を図6(離断面)および図7(非離断面)に示した。また、体重測定および脾臓重量測定の結果を図8に示した。
離断面においては、各群(n=8)とも、Control群(n=8)に比べて癒着が抑制される傾向が認められ、500-10積層スポンジ群においては、Control群との間に統計的に有意な差が認められた(図6(A)~(C))。
非離断面において、500-10積層スポンジ群での顕著な癒着防止効果が確認された(図7(A)~(C))。陽性対照として用いたSeprafilm(商品名)については癒着防止効果が認められず、Interceed(商品名)についてはControl群に比べて癒着が増悪する傾向が認められた。一方、500-10積層スポンジ群では顕著な癒着防止効果が確認された。
体重および脾臓重量については、Control群、Seprafilm群、Interceed群、および500-10積層スポンジ群間で有意差はなく、500-10積層スポンジを適用しても、生体に悪影響がないことが確認された(図8(A)および(B))。
【0139】
実施例4:アルギン酸積層スポンジの各層の蛍光標識による可視化
アルギン酸積層スポンジの各層について蛍光標識による可視化の試験を以下のように行った。
【0140】
[材料]
低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムは、実施例1に記載の通りである。
【0141】
[使用機器]
ハンディー紫外線ランプ(UVP社 UVGL-58(商品名))
【0142】
[手順]
ラットの肝臓切除の手順は、実施例3に記載の通りである。作製された肝臓の離断面に、第1の層または第2の層が蛍光標識されたアルギン酸スポンジを貼付した。貼付には、材料の残存を観察しやすくするために、実施例1よりも多い4.0mg/cmのアルギン酸を使用した積層スポンジを実施例1の方法に準じて作製し、使用した。その後、実施例3に記載の手順で閉腹し、1週間後に開腹を行った。露出した腹腔内にランプで紫外線を照射し、蛍光標識されたアルギン酸の腹腔内分布を可視化した。
【0143】
その結果、AL10層は、離断面に加え、腹膜の表面にも広く分布することが確認できた。このことから、スポンジ状積層体の第2の層はアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が比較的低いため、速やかに腹腔内で溶けて広がることが示唆された。
また、AL500層は、一部腹壁などでも見られるものの、離断面からの蛍光がより際立って観察された。このことから、スポンジ状積層体の第1の層はアルギン酸の1価金属塩の重量平均分子量が比較的高いため、離断面に留まって物理的なバリアとなることが示唆された。
【0144】
実施例5:巻き付け試験
アルギン酸積層スポンジの曲面への貼付追従性を示すために、巻き付け試験を以下のように行った。
【0145】
[材料]
低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムは、実施例1に記載の通りである。寒天(010-08725)は、和光純薬から購入した。
【0146】
[手順]
寒天をお湯に溶解した後、円柱状の型に流し込んで冷やし、直径20mmのアガロースゲル円柱を作製した。これをモデル管状臓器とし、実施例1で作製したスポンジを巻き付けることで、巻き付けの追従性を検証した。
【0147】
その結果、アルギン酸積層スポンジの柔軟性から、腸管を模した円柱への巻き付けが可能であることが確認できた。このことから、スポンジ状積層体を含む癒着防止材が、腸管吻合などにも使用が可能になることが示唆された。
【0148】
実施例6:スポンジのプレスと膨潤試験
アルギン酸積層スポンジのプレス、プレス後の厚みの測定および膨潤試験を以下のように行った。
【0149】
[材料]
アルギン酸積層スポンジ(AL10(上層)-AL500(下層))は、実施例1に記載の通りである。
【0150】
[試薬]
アガロースは、和光純薬工業株式会社から入手した(商品コード:010-08725)。
【0151】
[手順]
(1)プレスおよびプレス後の厚みの測定
(1-1)手動プレス
アルギン酸積層スポンジを平面上に静置し、手のひらで、アクリル定規を介してスポンジ全体に均一に圧がかかるよう押圧した。押圧前後のスポンジの厚みを電子ノギスにて計測し、平均値を算出した(n=4)。
【0152】
(1-2)プレス機によるプレス
アルギン酸積層スポンジをプレス機(アズワン株式会社製、製品名AH-1T)にセットした。10MPaの圧力で室温にてアルギン酸積層スポンジをプレスし、5分間保持した。プレス後のスポンジの厚みを電子ノギスで測定し、平均値を算出した(n=4)。
【0153】
(2)膨潤試験
アガロースを熱湯に2重量%で溶解させ、室温まで冷却することでアガロースゲルを作製した。アガロースゲルを2cm×2cm角に切り取り、ガラスシャーレ上で純水に浸漬し、湿潤させた。
1cm×1cm角に切り取ったプレス前後のアルギン酸積層スポンジをアガロースゲル上に静置した。一定時間毎に横方向から撮影し、撮影した画像からスポンジの厚みを算出し、膨潤に及ぼすプレスの影響の有無を確認した(プレス前:n=3;プレス後:n=3。尚、膨潤試験では、プレスしたアルギン酸積層スポンジとして、プレス機によりプレスしたものを用いた。
【0154】
[結果]
プレス後の厚みの測定結果を表1に示す。
【0155】
【表1】
【0156】
スポンジの厚みの平均値は、プレス前は約1.5mm、手動プレス後は約0.33mm、プレス機によるプレス後は約0.16mmであった。なお、プレスしたスポンジは、時間経過により厚みが増すことなく、上記の厚みが維持された。
【0157】
膨潤試験における経時的なスポンジの厚みの変化を図9に示す。膨潤試験の結果から、プレスしたアルギン酸積層スポンジは、吸水して、プレスしないアルギン酸スポンジとほぼ同等の厚みとなることが確認された。
このことから、スポンジをプレスすることによりコンパクトにまとめることができるので、内視鏡手術においてトロッカー等を介して癒着防止材であるスポンジを患部に比較的容易に適用できることが示唆された。
さらに、患部に適用されたプレスしたスポンジは、患部に存在する、または患部に適用される水分を吸収して、厚みが回復することも示唆された。厚みが回復することにより、積層スポンジとしての機能を発揮し得る。
【0158】
実施例7:霧吹き試験
アルギン酸積層スポンジおよびSeprafilm(商品名)について、吸水時の脆弱性を評価するために以下の試験を行った。
【0159】
[材料]
アルギン酸積層スポンジは実施例1に、Seprafilm(商品名)は実施例3に記載の通りである。また、アルギン酸積層スポンジのプレス有りものとして、実施例6に記載のプレス機によりプレスしたものを用いた。
【0160】
[手順]
アルギン酸積層スポンジおよびSeprafilm(商品名)から1cm×2cmの試験片を作成した。試験片の片端1cm×1cmに両面テープを貼付し、試験台の端に把持した。これにより他方の端1cm×1cmが中空に出るように試験片を固定した。
各試験片に対し、霧吹きを用いて純水を5回噴霧した。試験片が湿潤に伴って下方に折れ曲がっていく過程を動画で撮影した。
得られた動画の画像解析によって、試験片先端の試験台からの高さと角度の両方を算出し、その時間変化をプロットした。
【0161】
[結果]
結果を図10に示した。
高さについては、アルギン酸積層スポンジは、霧吹き後50秒まで高さの低下は2mm以内であり、90秒後においても3mm程度であった(図10(A))。また、プレス有りのアルギン酸積層スポンジも、霧吹き後90秒後においても高さの低下は9mm程度であった。いっぽう、Seprafilm(商品名)は、霧吹き直後から著しい高さの低下が認められた(図10(A))。角度についても、高さの結果と同様の結果であった(図10(B))。
このことから、アルギン酸積層スポンジは、プレスの有無に関わらず吸水状態にあっても暫くはその形状、強度が維持されることが示唆された。このため、癒着防止材として患部に適用した際に、貼付位置を調整して貼り直すことが可能である、あるいは、内視鏡手術の際、トロッカー等を介して癒着防止材であるスポンジを患部に適用する際に、トロッカー内の水分を吸収して上手く広げることができない等の事態が避けられる、などの利点がある。なお、アルギン酸積層スポンジが、患部、あるいはそのモデル系に対して好適な圧着性を有することは、実施例3、実施例5等において確認している。
【0162】
実施例8:医薬成分含有アルギン酸スポンジの作製
医薬成分含有アルギン酸スポンジを、以下のように作製した。
[試薬]
医薬成分含有アルギン酸スポンジの調製に用いた各試薬は以下の通りである。
低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムは、持田製薬株式会社から入手した。
・AL500:(Lot NO.5F05204),エンドトキシン量19EU/g。
塩化カルシウム、デキサメタゾン(Dex)およびデキサメタゾンリン酸エステルナトリウム(DSP)は、和光純薬工業株式会社から入手した。
・塩化カルシウム:(商品コード:036-00485)。
Dex:(商品コード:040-30811)。
DSP:(商品コード:041-18861」)。
【0163】
[使用機器]
10mLシリンジ
シリンジジョイント
マイクロピペット
シャーレ
【0164】
[調製手順]
(1)溶液の調製
i)Dex溶液:Dexをエタノールに溶解し、10mg/mLのDex溶液を調製した。
ii)DSP溶液:DSPを純粋に溶解し、25mg/mLのDSP溶液を調製した。
【0165】
(2)医薬成分含有アルギン酸スポンジの調製
Dex含有アルギン酸スポンジおよびDSP含有アルギン酸スポンジを、AL500から調製したアルギン酸スポンジにDexまたはDSPを滴下することによって含有させる方法と、AL500からなるゲルにDexまたはDSPを混合した後、凍結、乾燥させることで含有させる方法の二つの方法で作製した。
【0166】
A)アルギン酸スポンジにDexまたはDSPを滴下して調製する方法
A-1)Dex含有アルギン酸スポンジ
1%のAL500溶液2ml、および10mM塩化カルシウム水溶液2mLを用いて、実施例1の[調製手順](2)、(4)の方法に準じて、AL500単層スポンジを調製した。得られたアルギン酸スポンジは、実施例1で得られた積層スポンジと同様の直径、厚みを有する略円形であった。調製したアルギン酸スポンジにDex溶液を500μL滴下し、放置することでエタノールを揮発させ、5mgのDexを含有するアルギン酸スポンジを得た。
【0167】
A-2)DSP含有アルギン酸スポンジ
A-1)と同様の方法でAL500を用いてアルギン酸スポンジを調製した。調製したアルギン酸スポンジにDSP溶液を200μL滴下し、再度-20℃で4時間凍結、乾燥させることにより水分を除去し、5mgのDSPを含有するアルギン酸スポンジを得た。
【0168】
B)アルギン酸ゲルにDexまたはDSPを混合した後、凍結乾燥して調製する方法
B-1)Dex含有アルギン酸スポンジ
1)1wt%アルギン酸溶液は、実施例1[調製手順](1)の方法で調製した。上記(1)i)で調製したDex溶液3mLを1wt%アルギン酸溶液6mLに加え、よく混合した。
2)100mM塩化カルシウム溶液600μLを純水2.4mLに加え、よく混合した。
3)2つの溶液を10mLシリンジ内でよく混合することでDex含有アルギン酸ゲルを得た。
4)3)で得られたアルギン酸ゲルをシャーレに2mLずつ分注し、-20℃で凍結した後、凍結乾燥器で4時間乾燥させ、5mgのDexを含有するアルギン酸スポンジを得た。得られたアルギン酸スポンジは、実施例1で得られた積層スポンジと同様の直径、厚みを有する略円形であった。
また、シリンジを使用せず、シャーレ上で2液をピペットを用いて混合した以外は上記と同様の方法により、別のDex含有アルギン酸スポンジを作製した。
【0169】
B-2)DSP含有アルギン酸スポンジ
1)1wt%アルギン酸溶液は、実施例1[調製手順](1)の方法で調製した。上記(1)ii)で調製したDSP溶液1.2mLを1wt%アルギン酸溶液6mLに加え、よく混合した。
2)100mM塩化カルシウム溶液600μLを純水4.2mLに加えよく混合した。
3)2つの溶液を10mLシリンジ内でよく混合することでDSP含有アルギン酸ゲルを得た。
4)3)で得られたアルギン酸ゲルをシャーレに2mLずつ分注し、-20℃で凍結した後、凍結乾燥器で4時間乾燥させ、5mgのDSPを含有するアルギン酸スポンジを得た。得られたアルギン酸スポンジは、実施例1で得られた積層スポンジと同様の直径、厚みを有する略円形であった。
また、シリンジを使用せず、シャーレ上で2液をピペットを用いて混合した以外は上記と同様の方法により、別のDSP含有アルギン酸スポンジを作製した。
【0170】
[結果]
DexまたはDSPを滴下して調製したアルギン酸スポンジは、医薬成分を含有しないアルギン酸スポンジとの外観上の差異は認められなかった。
一方、アルギン酸ゲルにDexまたはDSPを混合して調製したアルギン酸スポンジは、シャーレ上でピペットを用いて混合する場合と、シリンジ内で十分に混合した場合とで異なる結果が得られた。シャーレ上で混合したものは、シャーレ上に2液を注入した直後からゲル化を開始し、混合することが困難であったため、混合が不十分になった。その結果、架橋密度が不均一なスポンジが得られた。一方、二つのシリンジを用いてよく混合しゲル化させた場合では、均一なゲルが得られ、その結果、架橋密度が均一なスポンジが得られた。
【0171】
実施例9:ラット70%肝切除モデル
in vivoでの癒着防止効果を評価するために、ラット70%肝切除モデル(Shimizu et al.Surgery Today(2014)44、pp.314~323)を用いた。実施例3および3-2に記載したラット一部肝切除モデルを用いた結果から、アルギン酸積層スポンジの癒着防止効果が確認されている。本実施例では、実施例3および3-2のラット一部肝切除モデルよりも侵襲度が高く、より重度な癒着が惹起される70%肝切除モデルを用いて癒着防止効果を評価した。
【0172】
[材料]
低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムは、持田製薬株式会社から入手した。
・AL10:(Lot NO.5K12202),エンドトキシン量4EU/g。
・AL500:実施例8に記載の通りである。
Seprafilm(商品名)およびInterceed(商品名)は、実施例3に記載の通りである。
【0173】
[アルギン酸スポンジの調製]
単層スポンジおよび医薬成分含有アルギン酸積層スポンジを以下のように調製した。
AL500単層スポンジは実施例8に記載した方法により調製した。
1)第1の層(下層)にDexを含有し、第2の層(上層)に医薬成分を含有しない積層スポンジの調製:
実施例8、B-1)、1)~3)の方法により得られたDex含有アルギン酸ゲルを2mLシャーレに分取し、-20℃で4時間凍結させた。以下、実施例1[調製手順](3)および(4)に従って、第1の層にDexを含有する積層スポンジを得た。
2)第1の層(下層)に医薬成分を含有せず、第2の層(上層)にDexを含有する積層スポンジの調製:
実施例1[調製手順](1)、(2)に従ってAL500層(下層)を作成した後、実施例8、B-1)、1)~3)の方法に準じて、AL10の1%溶液を用いて調製したDex含有アルギン酸ゲルを、AL500層に積層し、-20℃で4時間凍結させた。以下、実施例1[調製手順](4)に従って、第2の層にDexを含有する積層スポンジを得た。
3)第1の層(下層)にDSPを含有し、第2の層(上層)に医薬成分を含有しない積層スポンジの調製:
実施例8、B-2)、1)~3)の方法により得られたDSP含有アルギン酸ゲルを2mLシャーレに分取し、-20℃で4時間凍結させた。以下、実施例1[調製手順](3)および(4)に従って、第1の層にDSPを含有する積層スポンジを得た。
4)第1の層(下層)に医薬成分を含有せず、第2の層(上層)にDSPを含有する積層スポンジの調製:
実施例1[調製手順](1)、(2)に従ってAL500層(下層)を作成した後、実施例8、B-2)、1)~3)の方法に準じて、AL10の1%溶液を用いて調製したDSP含有アルギン酸ゲルを、AL500層に積層し、-20℃で4時間凍結させた。以下、実施例1[調製手順](4)に従って、第2の層にDSPを含有する積層スポンジを得た。
【0174】
[実験群]
Control群(n=8):ラットの肝臓を切除した後、生理食塩水で腹腔内を洗浄し閉腹した(無処置対照群)。
単層スポンジ群
・AL500群(n=8):Control群と同様の処置を行った後、肝臓離断面に2cm×2cmの1wt%アルギン酸(AL500)溶液と10mM塩化カルシウム溶液から作製したスポンジを貼付し閉腹した。
Interceed群(n=8):Control群と同様の処置を行った後、肝臓離断面に2cm×2cmのInterceedを貼付し閉腹した。
Seprafilm群(n=8):Control群と同様の処置を行った後、肝臓離断面に2cm×2cmのSeprafilmを貼付し閉腹した。
積層スポンジ群
・下層:Dex群(n=8):Control群と同様の処置を行った後、肝臓離断面に2cm×2cmのDex含有積層スポンジを貼付し閉腹した。積層スポンジ下層のAL500にDexを含有させている。
・下層:DSP群(n=8):Control群と同様の処置を行った後、肝臓離断面に2cm×2cmのDSP含有積層スポンジを貼付し閉腹した。積層スポンジ下層のAL500にDSPを含有させている。
・上層:Dex群(n=8):Control群と同様の処置を行った後、肝臓離断面に2cm×2cmのDex含有積層スポンジを貼付し閉腹した。積層スポンジ上層のAL10にDexを含有させている。
・上層:DSP群(n=8):Control群と同様の処置を行った後、肝臓離断面に2cm×2cmのDex含有積層スポンジを貼付し閉腹した。積層スポンジ上層のAL10にDSPを含有させている。
【0175】
[手順]
ソムノペンチル腹腔投与によりラットに麻酔をかけた。その後、正中切開でラットの腹壁を切断した。肝切除を行う前準備として、非吸収性糸を輪になるように軽く結び、輪になった糸を通すようにラットの肝臓を持ち上げ、固定した。糸を徐々に縛りつつ肝臓の根本へ移動させ、肝臓の根本へ移動させた。肝臓の根本の血管を縛るように糸をきつく結んだ。その後、肝臓を糸の結び目付近で切除した。もう一つの肝臓も同様の手順を行い、切除した。生理食塩水10mlをシリンジから腹腔内に注いで、洗浄した。滅菌ガーゼで水分を取り除いた。Control群では、この後すぐ閉腹して処置を終了した。癒着防止材を適用する群では、この後、離断面に癒着防止材を貼付し、腹壁、皮膚を縫合し閉腹した。なお、積層スポンジについては、下層(第1の層、AL500)側が創傷面と接するようにスポンジを貼付した。閉腹から一週間後に、ラットに過剰量の麻酔として約2mLのペントバルビタールを投与してラットを安楽死させた。その後、開腹し、以下の通り癒着を評価した。
【0176】
[癒着の評価]
癒着の有無、および離断面と非離断面についての癒着Extentを、実施例3と同様の方法で評価した。
【0177】
[結果]
図11(A)および(B)に肝離断面-横隔膜(創傷面(離断面))での癒着の有無および癒着長さの評価結果を示した。また、図12(A)および(B)に肝臓-胃(非離断面)での癒着の有無および癒着長さの評価結果を示した。
【0178】
図11(A)および(B)に示したように、コントロール群では、離断面の癒着が認められた。創傷面である肝臓離断面と横隔膜との癒着は、単層スポンジ群、Interceed群およびSeprafilm群で用いた何れの癒着防止材でも防止することはできなかった。またその癒着も重度であり、臓器を持ち上げて自重によって剥離することは困難であった。また、医薬成分を含有しない積層スポンジについても同様に検討したが、有意な癒着防止効果は認められなかった。また、創傷面である肝臓離断面は、横隔膜の他にも大網や食道など、周辺の臓器と重度の癒着を起こすことが確認された。
【0179】
図12(A)および(B)に示したように、切除を行っていない肝臓と胃などの非離断面においても、コントロール群、単層スポンジ群、Interceed群およびSeprafilm群のすべての実験群において重度の癒着が認められた。医薬成分を含有しない積層スポンジについても同様に、有意な癒着防止効果は認められなかった。このように、現在臨床で使用されている癒着防止材を貼付した実験群においても同様の癒着が認められた。
【0180】
一方、図11(B)の右側のカラムに示したように、医薬成分を含有させた積層スポンジにより、離断面における癒着防止効果が認められた。上層に医薬成分を含有させた積層スポンジで癒着防止効果が高く、とりわけ、上層にDSPを含有させた積層スポンジにおいては、有意な癒着防止効果が認められた。なお、下層にDexまたはDSPを含有させた積層スポンジを用いた群の一部で、貼付部位周辺に膿瘍が認められたが、これはデキサメタゾンに起因する有害事象と想定された。上層にDexまたはDSPを含有させた積層スポンジにおいては、膿瘍は認められなかった。
【0181】
また、図12(B)の右側のカラムに示したように、医薬成分を含有させた積層スポンジにより、非離断面においても癒着防止効果が認められた。下層にDexまたはDSPを含有させた積層スポンジに比べて、上層にDexまたはDSPを含有させた積層スポンジを用いた場合に、より高い癒着防止効果が得られることが確認された。
【0182】
術後の炎症初期に、抗炎症効果を得るのに十分な量の抗炎症薬が供給されることにより術後の癒着防止効果が得られると想定されるが、上層にDexまたはDSPを含有させた積層スポンジ、とりわけ、水溶性ステロイドであるDSPを含有させた積層スポンジにおいては、医薬成分が速やかに放出されるため、高い癒着防止効果が得られたものと想定された。
【0183】
以上の結果から、ステロイド(抗炎症薬)を分子量の異なる2層からなる積層スポンジの、低分子量アルギン酸からなる上層に含有させることによりアルギン酸積層スポンジの癒着防止効果を大きく向上させることができる。また、積層スポンジを用いてステロイド(抗炎症薬)の癒着防止効果を向上させるためには、ステロイド(抗炎症薬)を速やかに侵襲部位とその周辺に供給することが好ましく、特に侵襲の大きい部位では貼付直後から迅速に供給されることが好ましいと考えられる。
【0184】
実施例10:リン酸緩衝液(PBS)中でのスポンジからの医薬成分の溶出速度の測定
実施例8、B)の方法に準じて、AL10単層スポンジおよびAL500単層スポンジのそれぞれにデキサメタゾン(Dex)およびデキサメタゾンリン酸エステルナトリウム(DSP)を含有させたスポンジ(計4種)を製造し、各スポンジからの医薬成分の溶出速度の測定を行った。
【0185】
具体的な方法を以下に示す。
[材料]
低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムは実施例1に、リン酸緩衝液は実施例2に、デキサメタゾンおよびデキサメタゾンリン酸エステルナトリウムは実施例9に、それぞれ記載の通りである。
【0186】
[使用機器]
直径8mm生検トレパン(Kai medical社 BP-80F(商品名))
プラスチックボトル
UVvis(吸光度測定時に使用)
【0187】
[手順]
Dex含有AL10スポンジ、DSP含有AL10スポンジ、Dex含有AL500スポンジ、DSP含有AL500スポンジを、実施例8、B)の方法に準じてそれぞれ作成した。各スポンジを直径8mmの生検トレパン(Kai medical社 BP-60F(商品名))で打ち抜いた。これを150mMリン酸緩衝液(pH7.5、37℃)15mL中に浸漬し、浸漬前、浸漬後30分、1時間、2時間、4時間および6時間の時点で浸漬液を500μLずつ採取した。採取した溶液のλ=242nmの吸光度を測定し、医薬成分の溶出速度を評価した。
【0188】
[結果]
各スポンジからの医薬成分の溶出挙動を、図13(A)および(B)に示した。図13(A)に示した通り、脂溶性ステロイドであるDexは、AL10(第2の層、上層に相当)に含有させた場合(上層:Dex)には比較的速やかに溶出することが確認された。いっぽう、AL500(第1の層、下層に相当)に含有させた場合(下層:Dex)には放出速度が緩徐であった。図13(B)に示した通り、水溶性ステロイドであるDSPは、AL10(第2の層、上層に相当)に含有させた場合(上層:DSP))、AL500(第1の層、下層に相当)に含有させた場合(下層:DSP))のいずれについても、速やかに溶出することが確認された。
【0189】
このことから、積層スポンジの第2の層に相当するスポンジに含有させた医薬成分は、脂溶性/水溶性によらず速やかに溶出することが確認された。従って、術後早期(例えば術後の炎症初期)に薬理効果を期待する医薬成分については、第2の層に含有させることが好ましいことが想定される。いっぽう、術後の所定の期間、局所における持続的な薬理効果を期待する医薬成分については、in vitroでの溶出挙動を確認した上で、第1の層に含有させることが好ましいことが想定された。
【符号の説明】
【0190】
1 癒着防止材
2 第1の層
3 第2の層
4 スポンジ状積層体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13