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特許7267537MWW型ゼオライト及びその製造方法、並びにクラッキング触媒
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】MWW型ゼオライト及びその製造方法、並びにクラッキング触媒
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/48 20060101AFI20230425BHJP
   B01J 29/70 20060101ALI20230425BHJP
   C07C 4/18 20060101ALI20230425BHJP
   C07C 11/06 20060101ALI20230425BHJP
   C07C 15/04 20060101ALI20230425BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230425BHJP
【FI】
C01B39/48
B01J29/70 Z
C07C4/18
C07C11/06
C07C15/04
C07B61/00 300
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018222646
(22)【出願日】2018-11-28
(65)【公開番号】P2019099458
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2021-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2017227678
(32)【優先日】2017-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100182925
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 明弘
(72)【発明者】
【氏名】上村 佳大
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 明
(72)【発明者】
【氏名】山崎 康夫
(72)【発明者】
【氏名】片田 直伸
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 学史
(72)【発明者】
【氏名】窪田 好浩
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 怜史
【審査官】田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106115728(CN,A)
【文献】国際公開第2007/094938(WO,A1)
【文献】特表2009-544568(JP,A)
【文献】特開2013-066884(JP,A)
【文献】国際公開第2017/090751(WO,A1)
【文献】特許第6045890(JP,B2)
【文献】WACLAW, Kolodziejski et al.,27Al and 29Si MAS NMR Study of Zeolite MCM-22,The Journal of Physical Chemistry,1995年,99,7002-7008
【文献】SAHA, Shyamal et al.,Seeding on the Synthesis of MCM-22 (MWW) Zeolite by Dry-Gel Conversion Method and its Catalytic Properties on the Skeleton Isomerization and the Cracking of Hexane,Materials Transactions,2005年,Vol. 46, No. 12,2651-2658
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 39/48
B01J 29/70
B01J 35/02
C07C 4/18
C07C 11/06
C07C 15/04
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニウム型として測定した27Al MAS NMRにおいて、6配位のアルミニウムに由来するピークの強度(A)に対する4配位のアルミニウムに由来するピーク強度(B)の比(B/A)であって、NMRチャートにおけるピーク高さ比が2以上の焼成物であるMWW型ゼオライト。
【請求項2】
アンモニア吸着熱が106kJ/mol以上であるブレンステッド酸点量が、0.5mmol/g以上である、請求項1に記載のMWW型ゼオライト。
【請求項3】
ミクロ細孔容積が0.07cm/g以上0.2530cm/g以下である請求項1又は2に記載のMWW型ゼオライト。
【請求項4】
SiO/Alモル比が17以上37以下である、請求項1~3の何れか1項に記載のMWW型ゼオライト。
【請求項5】
X線回折測定に供したときに、以下の範囲の何れか1以上にピークが観察される、請求項1~4の何れか1項に記載のMWW型ゼオライト。
2θ=6.4°~7.4°、13.5°~14.5°、24.1°~25.1°、24.7~25.7°、27.1~28.1°、28.0°~29.0°、28.6°~29.6°、29.1°~30.1°
【請求項6】
六角板状の形状を有する請求項1~5の何れか1項に記載のMWW型ゼオライト。
【請求項7】
超高分解能電界放出形走査型電子顕微鏡にて20000~200000倍の倍率で観察したときに、六角板状の形状が観察される、請求項6に記載のMWW型ゼオライト。
【請求項8】
請求項1~7の何れか1項に記載のMWW型ゼオライトを有するクメンのクラッキング触媒。
【請求項9】
有機構造規定剤を含まないMWW型ゼオライトの種結晶と、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源、有機構造規定剤としてのヘキサメチレンイミン(HMI)及び水を含む反応混合物との共存下に水熱合成を行う工程、及び前記水熱合成を行う工程で得られた生成物を焼成する工程を有するMWW型ゼオライトの製造方法であって、前記反応混合物として以下に示すモル比で表される組成のものを用いる、MWW型ゼオライトの製造方法。
SiO /Al =60以上100以下
Na O/SiO =0.15以上0.275以下
O/SiO =20以上50以下
HMI/SiO =0.01以上0.05以下
【請求項10】
SiO/Alモル比が10~40である前記種結晶を用いる請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記反応混合物中のSiOに対して1質量%以上50質量%以下の割合で前記種結晶を用いる請求項9又は10に記載の製造方法。
【請求項12】
100~180℃の加熱下に水熱合成を行う請求項9~11の何れか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既往のMCM-22と比較して粒子形状が異なるMWW型ゼオライト及びそれを製造する好適な製造方法、並びにそのMWW型ゼオライトを用いたクラッキング触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成ゼオライトは、狭義では結晶性アルミノシリケートであり、その結晶構造に起因するオングストロームサイズの均一な細孔を有している。この特徴を生かして、合成ゼオライトは、特定の大きさを有する分子のみを吸着する分子ふるい吸着剤や親和力の強い分子を吸着する吸着分離剤、又は触媒基剤として工業的に利用されている。
【0003】
ゼオライトの技術分野において、MWWとは、二次元チャンネル系で酸素10員環と酸素12員環の2つの孔システムを有する多層の物質である。この構造を有するゼオライトには、MCM-22、ITQ-1、SSZ-25等が含まれる。MWW型ゼオライトは、各種の炭化水素転化反応の触媒、例えば接触クラッキング、水素化クラッキング、脱ろう、アルキル化やアルキル交換、オレフィン及び芳香族化合物の形成等の触媒として有望なものである。
【0004】
従来、MWW型ゼオライトは、ヘキサメチレンイミン(Hexamethyleneimine,HMI)等を有機構造規定剤(以下「OSDA」と略称する。)として用いる方法によってのみ製造されてきた(特許文献1及び2並びに非特許文献1ないし4参照)。そのため、MWW型ゼオライトを得るためには、大量のOSDAの使用が必須であると考えられてきた。
【0005】
MWW型ゼオライトの合成法は例えば、上述した特許文献1及び2並びに非特許文献1ないし4に記載されている。一般的な方法としては、ナトリウムイオンやカリウムイオンの共存下に、ヘキサメチレンイミン等の有機物質をOSDAとして用いる方法が挙げられる。しかしながら、MWW型ゼオライトの合成には大量のOSDAの利用が必須であり(HMI/SiO2>0.15)、前記のOSDAは高価なものなので、OSDAを工業的に用いることには有利とはいえない。また、生成するゼオライトの結晶中にOSDAが取り込まれるため、該ゼオライトを吸着剤や触媒として使用する場合には該ゼオライトを焼成して大量のOSDAを除去する必要がある。その際に生じる排ガスは環境汚染の原因となり得、また、ゼオライト合成時に、OSDAの分解生成物を含む合成母液が排出するため、環境汚染の原因となり得、合成母液の無害化処理のためにも多くの薬剤を必要とする。このように、OSDAを用いるMWW型ゼオライトの合成方法は高価であるばかりでなく、環境負荷の大きい製造方法である。したがって可能な限りOSDAを用いない、またはOSDA使用量の少ない製造方法及びその方法によって得られるMWW型ゼオライトの実現が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2009-544567号公報
【文献】特表2009-526739号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Zeolites,1995,15,2~8
【文献】Journal of Physical Chemistry B, 1998,102,44~51
【文献】Microporous and Mesoporous Materials,1998,21,487~495
【文献】Microporous and Mesoporous Materials,2006,94,304~312
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来技術で得られたMWW型ゼオライトは、プロトン型とした場合のブレンステッド酸点が少なく、触媒活性が十分ではない。
また、既往の文献(例えば非特許文献1)でMWW型ゼオライトを合成した場合、MWW型ゼオライトの合成に多量のOSDAであるヘキサメチレンイミンが必要となる(HMI/SiO2=0.5)ため、環境負荷及びコストに係る問題があった。
【0009】
本発明の課題は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得るMWW型ゼオライトを提供することにある。
また、本発明の課題は、環境負荷を可能な限り低減でき、OSDAを可能な限り用いず、かつ安価に、かつ大量のOSDAを用いて合成された従来のMWW型ゼオライトと異なる物性を有するMWW型ゼオライトを製造し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、その骨格の内部に含有されるアルミニウムが実質的に全て4配位であるMWW型ゼオライトを提供するものである。
【0011】
また本発明は、OSDAを含まないMWW型ゼオライトの種結晶と、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源、OSDA及び水を含む反応混合物との共存下に水熱合成を行う工程を有するMWW型ゼオライトの製造方法であって、前記反応混合物が下記のモル比をみたす、MWW型ゼオライトの製造方法を提供するものである。
X/SiO2<0.15(但し、XはOSDAのモル数を示す)
【発明の効果】
【0012】
本発明のMWW型ゼオライトは、プロトン型としたときのブレンステッド酸点が多く、クメンのクラッキング反応触媒として好適である。また本発明のMWW型ゼオライトの製造方法は、OSDAをごく少量しか使用しないため、前記のMWW型ゼオライトを安価に効率よく製造できるほか、OSDAをごく少量しか使用しない反応混合物からMWW型ゼオライトが製造されるため、OSDA排出量を大幅に低減でき、環境負荷が小さい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、参考例1で合成した未焼成の種結晶用MWW型ゼオライトのX線回折図である。
図2図2は、参考例1で合成した焼成後の種結晶用MWW型ゼオライトのX線回折図である。
図3図3は、実施例1で得られた未焼成の生成物のX線回折図である。
図4図4は、実施例1で得られた焼成後の生成物のX線回折図である。
図5図5は、実施例2で得られた未焼成の生成物のX線回折図である。
図6図6は、実施例2で得られた焼成後の生成物のX線回折図である。
図7図7は、実施例3で得られた未焼成の生成物のX線回折図である。
図8図8は、実施例3で得られた焼成後の生成物のX線回折図である。
図9図9は、実施例4で得られた未焼成の生成物のX線回折図である。
図10図10は、実施例4で得られた焼成後の生成物のX線回折図である。
図11図11は、実施例5で得られた未焼成の生成物のX線回折図である。
図12図12は、実施例5で得られた焼成後の生成物のX線回折図である。
図13図13は、実施例6で得られた未焼成の生成物のX線回折図である。
図14図14は、実施例6で得られた焼成後の生成物のX線回折図である。
図15図15は、実施例7で得られた焼成後の生成物のX線回折図である。
図16図16は、実施例8で得られた焼成後の生成物のX線回折図である。
図17図17は、比較例3で得られた生成物のX線回折図である。
図18図18は、比較例13で得られた生成物のX線回折図である。
図19図19は、比較例15で得られた生成物のX線回折図である。
図20図20は、比較例17で得られた生成物のX線回折図である。
図21図21は、参考例1で得られた種結晶用MWW型ゼオライトの焼成後のSEM写真である。
図22図22は、実施例1で得られた生成物の焼成後のSEM写真である。
図23図23は、実施例1で得られた未焼成の生成物のSEM写真である。
図24図24は、実施例1で得られた焼成後の生成物のアンモニウムイオン交換後のSEM写真である。
図25図25は、実施例2で得られた生成物の焼成後のSEM写真である。
図26図26は、実施例3で得られた生成物の焼成後のSEM写真である。
図27図27は、実施例4で得られた生成物の焼成後のSEM写真である。
図28図28は、実施例5で得られた生成物の焼成後のSEM写真である。
図29図29は、参考例1で得られた種結晶の焼成後の27Al MAS NMRチャートである。
図30図30は、実施例1で得られた焼成後の生成物のアンモニウムイオン交換後の27Al MAS NMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて説明する。まず本実施形態のMWW型ゼオライトについて説明する。本実施形態のMWW型ゼオライトは、アルミノシリケート骨格を有する。
【0015】
ゼオライトは、Si、Al及びOの各元素で構成される骨格を持ち、骨格内に結合したAl(アルミニウム)原子の周辺が負に帯電し、この電荷を打ち消すためにアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン、アンモニウムイオン、プロトン(水素イオン)のようなカチオン性の物質が対カチオンとして配位することができる。たとえば対カチオンがナトリウムイオンであるゼオライトをナトリウム型、対カチオンがプロトンであるゼオライトをプロトン型、対カチオンがアンモニウムイオンであるゼオライトをアンモニウム型、等と呼ぶ。対カチオンは他のカチオンと交換することが可能なのでイオン交換機能が発現する。本実施形態のMWW型ゼオライトは、いずれの対カチオンを有していてもよい。また、本実施形態のMWW型ゼオライトは、後述する好適な製造方法のように微量なOSDAを用いて製造された場合、焼成によりこのOSDAが除去されたものであってもよく、未焼成であるものであってもよい。通常、焼成後のMWW型ゼオライトの骨格における4配位金属の負電荷と電荷補償して骨格外に存在するイオンは、プロトン、ナトリウム、アンモニウム等のカチオンであり、細孔内に存在するそれ以外のものは水又は少量の吸着ガスのみである。
【0016】
本実施形態のMWW型ゼオライトは、含有されるアルミニウムが実質的に全て4配位であることが好ましい。具体的に、本実施形態のMWW型ゼオライトは、例えばアンモニウム型として測定した27Al MAS NMRにおいて、6配位のアルミニウムに由来するピークの強度(A)に対する4配位のアルミニウムに由来するピーク強度(B)の比(B/A)が2以上であることが好ましい。
ゼオライトを触媒として用いる反応の多くは、酸としての性質を利用している。ゼオライトへのブレンステッド酸点の導入は、通常、ナトリウム型ゼオライトの細孔内の陽イオン(Na)をNH でイオン交換した後、350℃以上で焼成して、骨格中のSiとAlとが架橋した架橋水酸基(Si(OH)Al)を有するプロトン型ゼオライトとすることで行われる。
【0017】
ゼオライト固体に含まれるアルミニウムにはSi-O-Alの共有結合を持つ骨格内アルミニウムと、Si-O-Al共有結合を持たない骨格外アルミニウムが存在することがわかっている。このうち骨格内アルミニウムが多いほどイオン交換容量が大きくなりアルミニウム1モルで1モルの一価のカチオンをイオン交換することができる。また、上述したようなゼオライトへのブレンステッド酸点の導入は、NaからNH へのイオン交換を経て行われる。これらの理由から、従って、ゼオライト中のアルミニウムにおける骨格内アルミニウムの割合が多いほど、イオン交換を通じてプロトン型とした場合に、より多くのブレンステッド酸点を有することができるため、該ゼオライトを触媒としたときの活性が高いことになる。原則としてアルミニウムが4配位であるときは骨格内アルミニウムであるが、6配位のアルミニウムは骨格外アルミニウムである。
【0018】
従って、含有されるアルミニウムが実質的に全て4配位であるMWW型ゼオライトは、イオン交換機能を非常に効率よく発現でき、プロトン型としたときのブレンステッド酸点が多いため、活性が高いことが期待される。
【0019】
アルミニウムの配位状態は、27Al MAS NMRによって分析することが可能である。本実施形態のMWW型ゼオライトがナトリウム型等のアンモニウム型以外のものである合、27Al MAS NMRの測定は、アンモニウム型にイオン交換して測定される。ナトリウム型等のアンモニウム型以外のものからアンモニウム型へのイオン交換は後述する実施例の方法で行うことができる。また27Al MAS NMRの分析も、後述する実施例の方法で行うことができる。
【0020】
本明細書において、「含有されるアルミニウムが実質的に全て4配位である」は、アンモニウム型として測定した27Al MAS NMRにおいて、4配位のアルミニウムに由来するピークの強度に対する6配位のアルミニウムに由来するピーク強度の比が一定以下であることが好ましい。言い換えれば、6配位のアルミニウムに由来するピークの強度に対する4配位のアルミニウムに由来するピーク強度の比が一定以上であることが好ましい。例えば、6配位のアルミニウムに由来するピークのうちのメインピークの強度をA、4配位のアルミニウムに由来するピークのうちのメインピークの強度をBとしたときに、B/Aが2以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、20以上であることが特に好ましい。ここでいう強度比とはNMRチャートにおけるピーク高さ比である。メインピークとは、最も強度(ピーク高さ)の高いピークである。
最も好ましくは本実施形態のMWW型ゼオライトは、アンモニウム型として測定した27Al MAS NMRにおいて、アルミニウムに由来するピークとして、4配位のアルミニウムに由来するピークのみが観察され、6配位のアルミニウムに由来するピークが観察されないことが好ましい。
【0021】
27Al MAS NMRにおいて、例えば1000ppmの硝酸アルミニウムを基準とした場合、4配位のアルミニウムに由来するピークは40~80ppmに観察され、6配位のアルミニウムに由来するピークは-10~10ppmに観察される。
【0022】
本実施形態のMWW型ゼオライトは、アンモニア吸着熱が106kJ/mol以上であるブレンステッド酸点量が、0.5mmol/g以上であることが好ましい。
【0023】
アンモニア吸着熱が特定値以上であるブレンステッド酸点量は、NH-IRMS-TPD法によって測定することができる。アンモニアはブレンステッド酸点に吸着するとNH となり、ルイス酸点に吸着するとNHとなることが赤外分光計によって観察される。つぎに試料の温度を上げることによって、吸着したアンモニアを脱離させる。この結果、NH やNHがどの温度で減少するかを赤外分光計で観察すると同時に、気体中のアンモニア濃度を質量分析計で測定する。この方法によって、どのような酸点(種類)でどのような強さの酸点(強度)がいくつ(酸点量)存在するかを決定できる。例えば、試料温度及びその温度で検出されたアンモニア種やその濃度に基づき、温度に対するブレンステッド酸点量のスペクトル(TPD曲線)が得られる。また、アンモニア吸着熱に対するブレンステッド酸点量のスペクトル(TPD曲線)が得られる。アンモニア吸着熱とは、固体酸触媒上のアンモニアの吸着・脱離に係る平衡反応式から導き出されるアンモニア脱離エネルギーを指す。アンモニアを強く吸着する吸着点が強い酸点であるように、酸点の強さは、アンモニア吸着熱により表され、アンモニア吸着熱が高いことは、酸点が強いことを意味する。従ってアンモニア吸着熱が一定以上であるブレンステッド酸点量とは、一定の強さ以上の酸点の量を示すものである。
また、本実施形態のMWW型ゼオライトのブレンステッド酸点量は、0.6mmol/g以上であることが好ましく、0.7mmol/g以上であることが更に好ましく、0.76mmol/g以上であることが最も好ましい。このように高いブレンステッド酸点量を有するMWW型ゼオライトは従来得られていなかった。
MWW型ゼオライトがナトリウム型等アンモニウム型以外の構造を有する場合、アンモニア吸着熱が106kJ/mol以上であるブレンステッド酸点量は、当該MWW型ゼオライトをアンモニウム型にイオン交換した後に測定される。このイオン交換は、具体的には、実施例に記載の方法にて行うことができる。NH-IRMS-TPD法においては、アンモニアを吸着させる前に、酸素を流通させながら550℃にて1時間程度ゼオライト試料を焼成することで、アンモニウム型のゼオライトをプロトン化させ、その後にアンモニアを吸着させる。
ブレンステッド酸点量は具体的には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0024】
本実施形態のMWW型ゼオライトは、SiO2/Al23モル比が200以下であることが好ましい。ゼオライト中のアルミニウム量をこのように高くすることにより、骨格中のアルミニウムが実質的に全て4配位であることと合わせて、本実施形態のMWW型ゼオライトの活性をより高くすることができる。SiO/Alモル比は、100以下であることがより好ましく、40以下であることが特に好ましく、とりわけ、37以下であることが好ましい。また、SiO/Alモル比の下限としては特に限定はないが、MWW型ゼオライトの製造しやすさから、例えば5以上であることが好ましく、10以上であることが特に好ましく、とりわけ17以上であることが好ましい。SiO/Alモル比は、例えばICP-AESによる組成分析により測定できる。
【0025】
本実施形態のMWW型ゼオライトは、含有されるアルミニウムが実質的に全て4配位のアルミニウムであることによってイオン交換量が多いことに起因して、ナトリウム型としたときのNaO/Alモル比が、0.05以上であることが好ましい。この観点からNaO/Alモル比は、0.10以上であることがより好ましく、0.30以上であることが特に好ましい。MWW型ゼオライトは、ナトリウム型としたときのNaO/Alモル比は特に制限はないが、理論的には1以下であることが好ましい。MWW型ゼオライトをナトリウム型とする手順としては、例えば、プロトン型やアンモニウム型等のナトリウム型以外のゼオライト1gを1MのNaNO水溶液に投入し、60℃で8~16時間撹拌した後に、濾過を行い、水洗し、60℃で乾燥させる方法が挙げられる。
【0026】
本実施形態のMWW型ゼオライトは、ミクロ細孔容積が0.07cm/g以上であることが好ましい。これにより、触媒としての活性を高めることができる。また、この観点から、ミクロ細孔容積は0.16cm/g以上であることがより好ましく、0.19cm/g以上であることが特に好ましい。ミクロ細孔容積は大きければ大きいほど好ましいが、例えば、その上限値としては理論値として、0.2530cm/g以下が挙げられる。
【0027】
前記のミクロ細孔容積は、ナトリウム型のMWW型ゼオライトをアンモニウム型に置換した後の状態について測定した値を指す。ただし、ナトリウム型のMWW型ゼオライトについて測定したミクロ細孔容積としても、同様の範囲であることが好ましい。ナトリウム型ゼオライトは、例えば上記の方法で得ることができる。ナトリウム型のMWW型ゼオライトのミクロ細孔容積は、後述する実施例に記載の方法にて測定できる。またMWW型ゼオライトのアンモニウム型に置換する方法及びその後のミクロ細孔容積を測定する方法は、後述する実施例に記載の方法にて行うことができる。
【0028】
本実施形態のMWW型ゼオライトは、X線回折測定により測定したときのX線回折パターンが、従来のpillared MCM-22とは異なる構造を有していることが好ましい。このX線回折測定とは本実施形態のMWW型ゼオライトを合成したままの未焼成の状態で測定される。後述する実施例に示す通り、従来のMWW型ゼオライト合成したままの未焼成状態でpillared MCM-22の構造を有している。本実施形態のMWW型ゼオライトの前記のX線回折パターンは、2θ=6.4°~7.4°、13.5°~14.5°、24.1°~25.1°、24.7~25.7°、27.1~28.1°、28.0°~29.0°、28.6°~29.6°、29.1°~30.1°の範囲の何れかにピークを有していることが好ましく、これらのうち、何れか2以上又は3以上の範囲にピークを有していることがより好ましく、最も好ましくは、これらの各範囲においてピークを有している。
【0029】
本実施形態のMWW型ゼオライトは、合成したままの未焼成物であってもよく、合成後の焼成物であってもよい。そして、焼成の前後により、ピークが現れる2θの範囲は大きく変化しない。従って、本実施形態のMWW型ゼオライトは、上記の特定範囲にピークを有するMWW型ゼオライトの焼成品であってもよい。
【0030】
本実施形態のMWW型ゼオライトは、六角板状の形状(外観)を有していることが好ましい。このようなMWW型ゼオライトは、結晶性が高く、より一層ブレンステッド酸点が多いと考えられる。この粒子の形状(外観)はMWW型ゼオライトを超高分解能電界放出形走査型電子顕微鏡により観察することで確認出来る。観察時の倍率は20000倍以上200000倍以下とする。
【0031】
六角板状における六角形の一辺は0.001μm以上1μm以下であることが好ましく、0.01μm以上0.7μm以下であることがより好ましい。板の厚みは、0.001μm以上0.1μm以下であることが好ましく、0.02μm以上0.1μm以下であることがより好ましい。これらの寸法は、無作為に選択した100個の粒子の平均値として求める。
【0032】
六角板形状における六角形は、正六角形であってもよく、正六角形でなくてもよい。また六角形状は、例えば、六角形同士が接合した形状であってもよい。また六角板状は、平板状であることが好ましいが、若干湾曲したものも含まれる。上記の範囲の倍率で観察した時のMWW型ゼオライトは、その観察された各粒子の少なくとも一つが六角板状であればよく、当該観察した時の全てのMWW型ゼオライトの粒子が六角板状である必要はない。
【0033】
本明細書中「MWW型ゼオライトが六角板状の形状である」とは、MWW型ゼオライトがナトリウム型で合成後の焼成品である場合に六角板状の形状が上記の方法で観察されればよい。但し、本実施形態のMWW型ゼオライトの六角板状の形状は基本的に合成後の焼成の有無や対カチオン種類に依存しないものと発明者は考えている。
【0034】
本実施形態のMWW型ゼオライトは、ゼオライト中のアルミニウムが実質的に4配位のアルミニウムのみであるという特性を生かして、各種固体酸触媒に有用に用いられる。例えば、本実施形態のMWW型ゼオライトは、クメンのクラッキング触媒に用いられると、高いクメン消費量を示す。
下記(1)式に示すクメン(IUPAC名:2-フェニルプロパンまたは(1-メチルエチル)ベンゼン)の分解反応(脱アルキル化)はブレンステッド酸点で進行すると考えられており、固体触媒のブレンステッド酸触媒活性の評価のために広く行われている。後述する実施例に示すクメンのクラッキング反応において、本実施形態のMWW型ゼオライトのクメン転化率は従来技術で得られたMWW型ゼオライト(焼成品)の5倍以上である。
【0035】
-CH(CH→C+C (1)
【0036】
なお、MWW型ゼオライトは、ベンゼンのイソプロピル化によるクメンの製造や、これと類似するベンゼンのエチル化によるエチルベンゼンの製造に際して有用なクメンやエチルベンゼンを製造する触媒としても知られている。ある反応を促進する触媒はその逆反応も促進するので、クメン分解に高い活性を持つということは、逆反応であるクメン製造や類似のエチルベンゼン製造にも高い活性を持つ可能性を示す。
【0037】
上記の好ましい各特徴を有する本実施形態のMWW型ゼオライトを得るためには、下記の好適な製造方法を採用すればよい。
本製造方法は、OSDAを含まないMWW型ゼオライトの種結晶と、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源、OSDA及び水を含む反応混合物との共存下に水熱合成を行う工程を有するMWW型ゼオライトの製造方法であって、前記反応混合物が下記のモル比を満たす、MWW型ゼオライトの製造方法である。
X/SiO<0.15(但し、XはOSDAのモル数を示す)
X/SiOは0.01以上であることが好ましい。
【0038】
本製造方法の特徴の一つは、有機化合物からなるOSDAを少量添加し、反応混合物を調製することである。詳細には、ナトリウムイオンと少量のOSDAを含む水性アルミノシリケートゲルを反応混合物として用いる。水性アルミノシリケートゲルの反応混合物にナトリウムイオンと少量のOSDAを存在させることが必須条件である。ナトリウムイオン以外のアルカリ金属イオン、例えばリチウムやカリウムイオンの存在は、本発明の製造方法においては必須ではない。ただし本発明の製造方法において、ナトリウムイオン以外のアルカリ金属イオンを用いることは排除されない。OSDAとしてヘキサメチレンイミンを用いることが好ましい。
【0039】
本製造方法の別の特徴は、OSDAを含まない種結晶を使用することである。種結晶としては、従来法、すなわちOSDAを用いた方法で製造されたMWW型ゼオライトを使用することができる。従来法で得られたままの種結晶(MWW型ゼオライト)にはOSDAを含むため、加熱焼成によりOSDAを除去して得られたMWW型ゼオライトを種結晶として使用する。焼成温度は、例えば500~800℃である。従来法に従うMWW型ゼオライトの合成方法は、例えば上述した特許文献1及び2並びに非特許文献1ないし4に記載されており、当業者によく知られている。従来法に従うMWW型ゼオライトの合成方法において、使用するOSDAの種類は限定されない。一般に、OSDAとしてヘキサメチレンイミンを用いると、特に出発反応混合物のHMI/SiOが0.5以上の条件において、MWW型ゼオライトを首尾良く製造することができる。或いは、後述する本発明の好適なMWW型ゼオライトの製造方法に従い得られたMWW型ゼオライトを焼成して、種結晶として用いてもよい。
【0040】
種結晶として従来法に従い得られたMWW型ゼオライトを用いる場合及び本発明の好適なMWW型ゼオライトの製造方法に従い得られたMWW型ゼオライトを用いる場合の何れであっても、種結晶のSiO/Alモル比は10~40であることが好ましく、15~25であることがより好ましい。
【0041】
種結晶の添加量は、前記の反応混合物中のSiOに対して好ましくは1~50質量%の範囲であり、より好ましくは、5~20質量%の範囲である。添加量がこの範囲内であることを条件として、種結晶の添加量は少ない方が好ましく、反応速度や不純物の抑制効果などを考慮して添加量が決定される。
【0042】
種結晶を添加する反応混合物は、以下に示すモル比で表される組成となるように、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源及び水を混合して得られることが好ましい。反応混合物の組成がこの範囲外であると、目的とするMWW型ゼオライトが得難い。
・SiO/Al=5以上200以下
・NaO/SiO=0.05以上0.5以下
・HO/SiO=5以上200以下
・X/SiO=0.01以上0.15以下、好ましくは0.01以上0.15未満(但し、Xは有機構造規定剤のモル数を示す)
【0043】
より好ましくは、反応混合物は、以下に示すモル比で表される組成を有する。
・SiO/Al = 60以上100以下
・NaO/SiO = 0.15以上0.275以下
・HO/SiO = 20以上50以下
・HMI/SiO=0.01以上0.05以下
【0044】
前記のモル比を有する反応混合物を得るために用いられるシリカ源としては、以下のケイ素源が挙げられる。ケイ素源としては、シリカ及び水中でケイ酸イオンの生成が可能なケイ素含有化合物が挙げられる。具体的には、湿式法シリカ、乾式法シリカ、コロイダルシリカ、ケイ酸ナトリウムなどが挙げられる。これらのシリカ源のうち、シリカ(二酸化ケイ素)を用いることが、不要な副生物を伴わずに目的とするゼオライトを得ることができる点で好ましい。
【0045】
アルカリ源としては、例えば水酸化ナトリウムを用いることができる。なお、アルミナ源としてアルミン酸ナトリウムを用いた場合、そこに含まれるアルカリ金属成分であるナトリウムは同時にNaOHとみなされ、アルカリ成分でもある。したがって、前記のNaは反応混合物中のすべてのアルカリ成分の和として計算される。
【0046】
アルミナ源としては、以下のアルミニウム源が挙げられる。アルミニウム源としては、例えば水溶性アルミニウム含有化合物や粉末状アルミニウムを用いることができる。水溶性アルミニウム含有化合物としては、アルミン酸ナトリウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムなどが挙げられる。また、水酸化アルミニウムも好適なアルミニウム源の一つであり、またアルミノシリケートゲル及びアルミノシリケートゼオライトなどを用いることもできる。これらのアルミニウム源のうち、粉末状アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、アルミノシリケートゼオライトを用いることが、不要な副生物(例えば硫酸塩や硝酸塩等)を伴わずに目的とするゼオライトを得ることができる点で好ましい。
【0047】
反応混合物を調製するときの各原料の添加順序は、均一な反応混合物が得られ易い方法を採用すれば良い。例えば、室温下、アルミナ源とアルカリ源とを水に添加して溶解させ、次いでシリカ源を添加して撹拌混合することにより、均一な反応混合物を得ることができる。種結晶は、シリカ源を添加する前に加えるか、又はシリカ源と混合した後に加える。その後、種結晶が均一に分散するように撹拌混合する。反応混合物を調製するときの温度にも特に制限はない。
【0048】
反応混合物に種結晶焼成品を添加し、種結晶と少量のOSDAを含む該反応混合物を密閉容器中に入れて加熱して反応させ、自生圧力下にMWW型ゼオライトを結晶化する。種結晶は、上述した特許文献1及び2並びに非特許文献1ないし4の何れかに記載の方法で得られたものを用いることができる。
【0049】
種結晶を含む反応混合物を加熱して結晶化を行う間、該反応混合物の温度の均一化を図るために、該反応混合物を撹拌しても良い。撹拌は、撹拌羽根による混合や、容器の回転によって行うことができる。撹拌強度や回転数は、温度の均一性や不純物の副生具合に応じて調整すれば良い。常時撹拌ではなく、間歇撹拌でも良い。
【0050】
静置状態下に結晶化を行う場合及び撹拌状態下に結晶化を行う場合の何れでも、加熱は密閉下に行う。加熱温度は好ましくは80℃~200℃であり、より好ましくは100~180℃であり、特に好ましくは140~170℃である。この加熱は自生圧力下でのものである。80℃未満の温度では結晶化速度が極端に遅くなるのでMWW型ゼオライトの生成効率が悪くなる。一方、200℃超の温度では、高耐圧強度のオートクレーブが必要となるため、経済性に欠けるばかりでなく、不純物の発生速度が速くなる。加熱時間は本製造方法において臨界的ではなく、結晶性が十分に高いMWW型ゼオライトが生成するまで加熱すれば良い。一般に80時間程度以上、特に好ましくは90時間以上、とりわけ好ましくは96時間以上の加熱によって、満足すべき結晶性を有するMWW型ゼオライトが得られる。
【0051】
前記の加熱によってMWW型ゼオライトの結晶が得られる。加熱終了後は、生成した結晶粉末をろ過によって母液と分離した後、水又は温水で洗浄して乾燥する。乾燥後の生成物には少量のOSDAが残存しているため、500~800℃で焼成を行う。このようにして得られたMWW型ゼオライトは、例えば吸着剤などとして使用可能である。また、当該MWW型ゼオライトを固体酸触媒として使用する際は、例えば結晶内のNaイオンをNH イオンに交換した後、NH 型(アンモニウム型)として使用することができる。NaイオンのNH イオンへのイオン交換は、焼成によりOSDAを除去した後に行うことが好ましい。
【0052】
本製造方法に従い合成されたMWW型ゼオライトのイオン交換には、アンモニウム化合物が用いられる。アンモニウム化合物としては、例えば、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、硫酸アンモニウムを用いることが好ましい。硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム等のアンモニウム化合物によってイオン交換を行う場合、具体的な操作としては、例えば、焼成後のMWW型ゼオライト約2gに対して、アンモニウムイオンの濃度が0.1~10mol/Lである水溶液を、100~1000mL添加することが好ましい。また、アンモニウムイオン含有水溶液のpHは中性付近に調整することが好ましい。イオン交換は、アンモニウムイオンを含む水溶液を加熱した状態下に、又は非加熱の状態下に行うことができる。アンモニウムイオンを含む水溶液を加熱する場合、加熱温度は40~100℃とすることが好ましい。MWW型ゼオライトを、アンモニウムイオンを含む水溶液に分散させて分散液となし、この状態を所定時間保持してイオン交換を行う。保持時間は0.5~48時間とすることが好ましい。該分散液は静置状態としてもよく、あるいは撹拌状態としてもよい。
【0053】
前記分散液を所定時間保持したら、該分散液を濾過し、MWW型ゼオライトを分離し、水洗を行う。必要に応じ、前記のイオン交換処理と水洗との組み合わせを複数回行ってもよい。このようにしてイオン交換処理を行った後、MWW型ゼオライトを乾燥させて、NH 型のMWW型ゼオライトを得る。このNH 型のMWW型ゼオライトは、それよってアルカリ金属イオンの含有量が極めて低減されたものとなる。
【0054】
本製造方法で得られたMWW型ゼオライトは、例えば種々の工業分野における吸着分離剤や、石油化学工業における炭化水素転化反応の各種触媒として好適に用いることができる。炭化水素転化反応の例としては、接触クラッキング、水素化クラッキング、脱ろう、アルキル化、アルキル交換、オレフィン及び芳香族化合物の形成や異性化等を挙げることができる。
【実施例
【0055】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。なお、以下の実施例及び比較例で用いた分析機器は以下のとおりである。
【0056】
粉末X線回折装置:ブルカー・エイエックスエス株式会社製、D8 Advance組成分析装置:
株式会社バリアン製、ICP-AES LIBERTY SeriesII
超高分解能電界放出形走査型電子顕微鏡:株式会社日立ハイテクノロジーズ製SU9000
固体27Al MAS NMR測定装置:ブルカー・バイオスピン株式会社製、Bruker AVANCE-400
2吸脱着測定装置:マイクロトラック・ベル株式会社製、BELSORP-mini、アンモニア赤外-質量分析昇温脱離装置(NH-IRMS-TPD)分析装置:マイクロトラック・ベル株式会社製、IRMS-TPD
【0057】
〔参考例1〕
種結晶の合成
非特許文献1に記載の方法に従い種結晶を合成した。ヘキサメチレンイミンをOSDAとして用い、アルミン酸ナトリウムをアルミナ源、ヒュームドシリカ(Cab-O-Sil、M5)をシリカ源として用い、150℃、168時間、20rpmで撹拌加熱を行ってMWW型ゼオライト(以下「pillared MCM-22」ともいう)を合成した。洗浄、回収、乾燥後、得られた生成物(未焼成)のX線回折図を図1に示す。この結晶を大気雰囲気下、650℃で10時間焼成を行い、組成分析を行った結果、SiO/Alモル比=20、NaO/Alモル比=0.042であった。焼成後のX線回折図を図2に示す。焼成後のMWW型ゼオライトの結晶を(以下「3D MCM-22」ともいう)、以下に述べる実施例1~8において種結晶として使用した。
【0058】
〔実施例1〕
MWW型ゼオライトの合成
純水8.822gに、アルミン酸ナトリウム0.029gと50W/V%水酸化ナトリウム0.538gを溶解して水溶液を得た。その後ヒュームドシリカ(Cab-O-Sil、M5)0.612gを前記水溶液に少しずつ添加して撹拌混合し、表1に記載した組成のゲルを得た。このゲルは、これのみからゼオライトを合成すると、アモルファス物質及びモルデナイト型ゼオライトが生成する組成のものであった(比較例1~4参照)。
得られたゲルにHMIを0.05g、種結晶焼成品を0.122gそれぞれ添加し、そのゲルを23ccのステンレス製密閉容器に入れて、撹拌することなしに160℃で90時間、自生圧力下で静置加熱した。種結晶添加量はゲル中のシリカ成分に対して20質量%であった。密閉容器を冷却後、生成物をろ過、水洗浄して白色粉末を得た。この生成物のX線回折図を図3に示す。この生成物は不純物を含まないMWW型ゼオライトであることが確認された。本製造法で合成したMWW型ゼオライトの特徴の一つとして、未焼成生成物の段階では、2θ=6.96°、13.97°、24.56°、25.18°、27.61°、28.46°、29.08°、29.58°のそれぞれに新たなピークが観察された。
本製造法で合成した生成物は従来合成法で得られるpillared MCM-22に由来する結晶構造ではなく、MCM-49に類似した結晶構造を有していた。未焼成生成物を大気雰囲気下、650℃で10時間焼成した後のX線回折図を図4に示す。焼成後の生成物は不純物を含まないMWW型ゼオライトであり、3D MCM-22に類似した結晶構造を有していた。以下、大気雰囲気下、650℃で10時間焼成した後のMWW型ゼオライトを焼成後のMWW型ゼオライトという。この焼成後のMWW型ゼオライトについて組成分析を行った結果、SiO/Alモル比=21.6、NaO/Alモル比=0.37であった。
【0059】
〔実施例2~5〕
MWW型ゼオライトの合成
表1に示す条件を採用した以外は実施例1と同様にして生成物を得た。X線回折測定により、得られた未焼成生成物はMWW型ゼオライトであることが確認された。未焼成生成物の段階では、本製造法で合成した生成物は従来合成法で得られるpillared MCM-22に由来する結晶構造ではなく、MCM-49に類似した結晶構造を有していた。X線回折測定により、未焼成生成物を650℃で焼成した後の生成物はMWW型ゼオライトであり、3D MCM-22に類似した結晶構造を有していた。実施例2~5で得た未焼成及び焼成後の生成物のX線回折図をそれぞれ図5図12に示す。また、実施例2及び実施例4で得られた焼成後のMWW型ゼオライトについて組成分析を行った結果、SiO/Alモル比及びNaO/Alモル比は表1に示す通りであった。
【0060】
〔実施例6〕
MWW型ゼオライトの合成
純水8.768gに、アルミン酸ナトリウム0.028gと50W/V%水酸化ナトリウム0.593gを溶解して水溶液を得た。その後ヒュームドシリカ(Cab-O-Sil、M5)0.611gを少しずつ添加して撹拌混合し、表1に記載した組成のゲルを得た。このゲルは、これのみからゼオライトを合成すると、モルデナイト型ゼオライトが生成する組成のものであった(比較例5参照)。
得られたゲルにHMIを0.05g、種結晶焼成品を0.122gそれぞれ添加し、そのゲルを23ccのステンレス製密閉容器に入れて、撹拌することなしに160℃で96時間、自生圧力下で静置加熱した。種結晶添加量はゲル中のシリカ成分に対して20質量%であった。密閉容器を冷却後、生成物をろ過、水洗浄して白色粉末を得た。この生成物のX線回折図を図13に示す。この生成物はMWW型ゼオライトであることが確認された。本製造法で合成したMWW型ゼオライトの特徴の一つとして、未焼成生成物の段階では、本製造法で合成した生成物は従来合成法で得られるpillared MCM-22に由来する結晶構造ではなく、MCM-49に類似した結晶構造を有していた。未焼成生成物を大気雰囲気下、650℃で10時間焼成した後のX線回折図を図14に示す。焼成後の生成物はMWW型ゼオライトであり、3D MCM-22に類似した結晶構造を有していた。また、実施例6で得られた焼成後のMWW型ゼオライトについて組成分析を行った結果、SiO/Alモル比及びNaO/Alモル比は表1に示す通りであった。
【0061】
〔実施例7及び8〕
MWW型ゼオライトの合成
表1に示す条件を採用した以外は実施例1と同様にして生成物を得た。X線回折測定により、得られた未焼成及び焼成後の生成物はMWW型ゼオライトであることが確認された。焼成後の生成物のX線回折図を図15及び図16に示す。また、実施例7及び8で得られた焼成後のMWW型ゼオライトについて組成分析を行った結果、SiO/Alモル比及びNaO/Alモル比は表1に示す通りであった。
【0062】
〔比較例1〕
純水8.822gに、アルミン酸ナトリウム0.029gと50W/V%水酸化ナトリウム0.538gを溶解して水溶液を得た。その後ヒュームドシリカ(Cab-O-Sil、M5)0.612gを前記水溶液に少しずつ添加して撹拌混合し、表2に記載した組成のゲルを得た。このゲルを23ccのステンレス製密閉容器に入れて、撹拌することなしに160℃で5時間、自生圧力下で静置加熱した。密閉容器を冷却後、生成物をろ過、温水洗浄して白色粉末を得た。この生成物のX線回折の結果、この生成物はアモルファス物質であることが確認された。
【0063】
〔比較例2~9〕
表2に示す条件を採用した以外は比較例1と同様にして生成物を得た。X線回折測定により、得られた生成物がアモルファス物質、またはモルデナイト型ゼオライトであることが確認された。比較例3で得た生成物のX線回折図を図17に示す。
【0064】
〔比較例10〕
純水8.822gに、アルミン酸ナトリウム0.029gと50W/V%水酸化ナトリウム0.538gを溶解して水溶液を得た。そこへHMIを0.05g添加し、その後ヒュームドシリカ(Cab-O-Sil、M5)0.612gを前記水溶液に少しずつ添加して撹拌混合し、表2に記載した組成のゲルを得た。このゲルを23ccのステンレス製密閉容器に入れて、撹拌することなしに160℃で5時間、自生圧力下で静置加熱した。密閉容器を冷却後、生成物をろ過、温水洗浄して白色粉末を得た。この生成物のX線回折の結果、この生成物はアモルファス物質であることが確認された。
【0065】
〔比較例11~20〕
表2に示す条件を採用した以外は比較例8と同様にして生成物を得た。X線回折測定により、得られた生成物がアモルファス物質、結晶度の低いモルデナイト型ゼオライト、または未同定物質であることが確認された。比較例13、15、17で得た生成物のX線回折図をそれぞれ図18図19図20に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
表1と表2との対比から明らかなとおり、実施例1~8のように、特定のMWW型ゼオライトを種結晶として用い、これを特定の組成を有する反応混合物に添加して結晶化を行うことで、MWW型ゼオライトが得られることが判る。比較例1~20のように種結晶及びHMIをいずれも用いない場合、または種結晶を含まないが、HMI添加量が従来の種結晶合成に必要な量よりも少量の場合、アモルファス物質や未同定物質、MWW型以外のゼオライトが生成してしまう。
【0069】
また、前記の通り、ICP-AES組成分析において、表1に示すように、本製造方法で得られるMWW型ゼオライト(焼成品)のNaO/Alモル比は0.33以上となり、従来法で得られたMWW型ゼオライト種結晶(焼成品)のNaO/Alモル比は0.042以下となることから、製造方法によって、生成物と種結晶のNaO/Alモル比が異なる。
【0070】
実施例及び参考例で得られたMWW型ゼオライトについて、上記の測定機器により測定・評価を行った結果を以下に記載する。
【0071】
〔顕微鏡観察〕
実施例で得られたMWW型ゼオライトについて、超高分解能電界放出形走査型電子顕微鏡による観察を行った。一例として、図21図28に、従来法で得られたMWW型ゼオライト種結晶(参考例1)と本製造方法で得られるMWW型ゼオライト(実施例1~5)の電子顕微鏡観察写真を示す。図21と、図22図28とを比較すると明らかである通り、従来技術で得られた参考例1の種結晶は六角板状を有していないが、各実施例のMWW型ゼオライト(焼成品)は、明確な六角板状の結晶形態を示す。実施例1のMWW型ゼオライトの画像より、得られた1辺の長さは概ね160~320nmであった。また、厚さは概ね20~60nmであった。また、図23及び図24にそれぞれ示す通り、実施例1の未焼成品、及び、実施例1の焼成品を下記の方法にてアンモニウムイオンでイオン交換したものも、同様に明確な六角板状の結晶形態を有していた。
【0072】
〔N吸脱着法によるミクロ細孔容積測定〕
上記機器を用いたN吸脱着法測定により、各実施例及び参考例1で得られたMWW型ゼオライト(焼成済み)のミクロ細孔容積を求めた。表1に示すように、本製造方法で得られるMWW型ゼオライト(焼成品)のミクロ細孔容積が0.1505cm/g以上0.2032cm/g以下であるのに対して、従来法で得られた参考例1のMWW型ゼオライト種結晶(焼成品)は0.1673cm/gであり、実施例5以外の本発明のMWW型ゼオライトのミクロ細孔容積は、参考例1の種結晶のミクロ細孔容積よりも高い。なお、N吸脱着法測定の前処理として、測定試料はすべて400℃で最低8時間真空排気を行った。
なお、実施例1で得られた焼成後のMWW型ゼオライトについては、アンモニウム型にイオン交換した後のミクロ細孔容積を測定した結果、その値は0.1965cm/gであった。アンモニウムイオン交換は、下記の方法で行い、これを吸着前の前処理として400℃で最低8時間真空排気した後、マイクロトラック・ベル株式会社製BELSORP-miniを用いたN吸脱着法測定によりミクロ細孔容積を求めた。
【0073】
〔固体27Al MAS NMR測定〕
<MWW型ゼオライトのNHイオン交換>
塩化アンモニウム水溶液にアンモニア水を添加して、pH約7.03の塩化アンモニウム1mol/L水溶液を調製した。実施例1で得られた焼成後のMWW型ゼオライトを原料として用い、MWW型ゼオライト約1.95gを前記の塩化アンモニウム1mol/L水溶液500mLに分散させた。この分散液を室温下で30分にわたって撹拌してイオン交換を行った。その後、濾過を行い、MWW型ゼオライトを濾別した。イオン交換及び濾過の操作をもう2回繰り返した後、水洗して60℃で乾燥して、NH交換したMWW型ゼオライトを得た。得られたアンモニウム型MWW型ゼオライトのうち、実施例1のアンモニウム型MWW型ゼオライトのSiO/Alモル比率を上記ICP測定機器で測定した結果、その値は20.6であった。一方、実施例1のアンモニウム型MWW型ゼオライトのNaO/Alモル比率を上記ICP測定機器で測定した結果、その値は0.003であった。
【0074】
MWW型ゼオライトの27Al MAS NMR(マジック角回転核磁気共鳴)スペクトルは、以下の方法により測定した。
4mmジルコニアローターに試料を詰め、プローブ内に導入した。1Hの共鳴周波数600.130 MHzに対応する27Alの共鳴周波数156.388 MHzに応じたチューニングを行うとともに、試料管を外部磁場に対して54.73°(マジック角)傾け、13 kHzで高速回転させた。ラジオ波のパルスを照射し、得られたFID(自由誘導減衰)信号をフーリエ変換してNMRスペクトルを得た。1000ppmの硝酸アルミニウムを基準として40~80ppmの化学シフトを持つ共鳴ピークを4配位Alに由来するピークとし、-10~10ppmの化学シフトを持つ共鳴ピークを6配位Alに由来するピークとした。
図29に従来法で得られたMWW型ゼオライト種結晶(参考例1)の固体27Al MAS NMRスペクトルを示し、図30に、実施例1のMWW型ゼオライトの固体27Al MAS NMRスペクトルを示す。
【0075】
図30に示すように、実施例1で得られたMWW型ゼオライトを焼成し、その後NH交換したMWW型ゼオライトにおいては、4配位のアルミニウムに帰属されるピーク(化学シフト40~80ppm)のみが観測され、6配位のアルミニウムに由来するピークは観察されなかった。
一方、図29に示すように、MWW型ゼオライト種結晶の固体27Al MAS NMRスペクトルにおいては、4配位のアルミニウムに帰属されるピーク(化学シフト40~80ppm)に加えて6配位のアルミニウムに帰属されるピーク(化学シフト0ppm)が観測された。
【0076】
また、実施例2~8で得られた焼成後のMWWゼオライトについても同様に固体27Al MAS NMRスペクトルを測定した結果、4配位のアルミニウムに帰属されるピークのみが観測された一方、6配位のアルミニウムに帰属されるピークは観測されなかった。
【0077】
〔ブレンステッド酸点量〕
文献J.Phys.Chem.B,109,(40)p18749-18757(2005)に記載の方法で測定した。具体的には以下のようにした。
NH-IRMS-TPDにおいて、実施例1で得られたMWW型ゼオライト焼成品について、その後上記の方法でNH交換し、装置内で下記のようにブレンステッド酸点量を測定した。当該ゼオライト約7mgを直径10mmの円盤状に圧縮成型した後、マイクロトラック・ベル株式会社製IRMS-TPD装置の付属mesh型試料ホルダーに入れて同装置にセットした。酸素を50cm min-1(標準状態容積)の流速で流通させて823Kまで昇温し、823Kで1h保ち、823Kのまま10min真空排気し、真空を保ったまま343Kまで降温した後に、流速120cm min-1(標準状態容積)のヘリウムを流通させ、出口を真空ポンプで排気して系内を6.0kPaに保ち、2K min-1の速度で803Kまで昇温し、昇温中に赤外スペクトルを1Kに1回の頻度で測定した。
続いてヘリウムを流通させたまま343Kまで降温し、脱気後に343Kでアンモニア13kPaを導入し30min保ち、180min脱気後に流速120cm min-1(標準状態容積)のヘリウムを流通させ、出口を真空ポンプで排気して系内を6.0kPaに保ち、2K min-1の速度で803Kまで昇温し、昇温中に質量スペクトルを常時記録すると同時に赤外スペクトルを1Kに1回の頻度で測定した。
昇温の終了後に既知濃度アンモニア・ヘリウム混合気体を流通させ、このときの質量分析計の応答を元に質量スペクトルを気相アンモニア濃度に換算し、気相アンモニア濃度を温度に対してプロットした関数をM(T)とした。ただし、Tは温度を示す。
また測定の終了後に試料を取り出して秤量した。一方、赤外光の各波数におけるアンモニア吸着後の赤外吸光度からアンモニア吸着前の赤外吸光度を減じたものを波数に対してプロットしたものを赤外差スペクトルとし、赤外差スペクトルの1260-1330cm-1に現れるピーク面積の温度による微分に-1を乗じたものを温度に対してプロットした関数をL(T)、1420-1500cm-1に現れるピーク面積の温度による微分に-1を乗じたものを温度に対してプロットした関数をB(T)とした。次式のzが最小となるようなx、yを試行錯誤によって選んだ。
【0078】
【数1】
【0079】
得られたyB(T)から,文献Appl.Catal.A:Gen.,340,(1)p76-86(2008)に記載の方法で,ブレンステッド酸点の強度分布を求めた結果、本製造方法で得られたMWW型ゼオライトのアンモニア吸着熱が106kJ/mol以上であるブレンステッド酸点量は0.76mmol/gであった。これに対して従来合成法で得られた参考例1の種結晶(焼成品)について同様にブレンステッド酸点量を測定した結果、アンモニア吸着熱が106kJ/mol以上であるブレンステッド酸点の量は0.34mmol/gであった。したがって、本製造方法で得られたMWW型ゼオライトのブレンステッド酸点量は、種結晶に比べて約2倍高い。以上のことから、実施例1のMWW型ゼオライトは、参考例1よりもプロトン型としたときのブレンステッド酸点量が多く、触媒活性が高いと考えられる。
【0080】
また、実施例2~8で得られた焼成後のMWWゼオライトについても実施例1と同様にアンモニア吸着熱が106kJ/mol以上であるブレンステッド酸点量を測定した結果、0.5mmol/g以上であった。
【0081】
〔クメンのクラッキング反応〕
実施例1で得られたMWW型ゼオライトの焼成品を前記<MWW型ゼオライトのNH4イオン交換>に記載の方法でNH交換したMWW型ゼオライト、及び従来技術で得られた参考例1の種結晶(焼成品)について、クメンのクラッキング反応における触媒活性を以下の手順で評価した。
本実施例における触媒反応は固定床常圧流通反応装置を用いて行った。ゼオライト試料約10mgを、石英グラスウールを用いて内径4mmのパイレックス(登録商標)管内に固定した。ヘリウムを77Kに冷却した活性アルミナを詰めた管を通した後、前述のパイレックス管に通じた。この方法により、37μmol/sの流速でヘリウムがゼオライト試料層を通過するようにした。ヘリウムを流通させつつ、ゼオライト試料を530℃まで昇温し、530℃で1時間保った。その後、ヘリウム流にクメン7.2μmolの蒸気を導入して250℃でゼオライト試料層を通過させた。クメンの導入は次の方法で行った。ゼオライト試料を詰めたパイレックス管の上流にシリコンゴム製セプタムを備えた注入口を設け、この注入口を393K程度に加熱しておき、ここから和光純薬工業株式会社製試薬特級のクメン液体1mmをマイクロシリンジで素早く注入した。パイレックス管出口はジーエルサイエンス株式会社製シリコーンSE30を充填したカラムを通じて、島津製作所製ガスクロマトグラフGC-8Aに接続されている。この出口から流出した物質はカラム内で分離された後にそれぞれの物質特有の遅延時間を経て検出器(炎イオン化検出器)に到達し、電気的に検出される。パイレックス管下流の注入口からクメン7.2μmolを注入したときの応答を基準として、プロペン、ベンゼン、クメンなどを定量した。この実験によって表3の結果が得られた。
【0082】
【表3】
【0083】
表3に示すように、どちらのゼオライト試料を用いた場合でも、クメンが減少してベンゼンとプロピレンが生成し、他の生成物はほとんど見られなかった。また、物質収支は87.5%ないし97.6%で、少量の物質が検出不能な成分となったことがわかった。これは、重合物が生成し触媒上に残ったためと推測される。触媒活性はクメンの消失量をゼオライト試料の質量で除して計算した。ゼオライト試料量あたりのクメン転化率を比較すると、実施例1で得られたMWW型ゼオライトを焼成し、その後NH交換したMWW型ゼオライトは、参考例1である従来技術で得られた種結晶(焼成品)の約5倍の触媒活性を示した。クメンの分解(脱アルキル化)はブレンステッド酸点で進行すると考えられており、MWW型ゼオライトにおいてクメン分解活性が高いことは、MWW型ゼオライトの用途に適した活性なブレンステッド酸点を多数有することを意味する。

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