(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】内視鏡用マイクロ波照射器具
(51)【国際特許分類】
A61B 18/18 20060101AFI20230425BHJP
【FI】
A61B18/18 100
(21)【出願番号】P 2019068495
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2021-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504177284
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南辻 睦
(72)【発明者】
【氏名】谷 徹
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-525902(JP,A)
【文献】特開2008-054925(JP,A)
【文献】特開2011-206537(JP,A)
【文献】国際公開第2017/174513(WO,A1)
【文献】特開平05-084255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギー伝送用のケーブルと、該ケーブルの先端に接続するマイクロ波照射部と、前記ケーブルおよび前記マイクロ波照射部を収納するアウタシースと、を備えた内視鏡用マイクロ波照射器具であって、
前記ケーブルは、中心導体と、該中心導体を取り囲む筒状絶縁体と、該筒状絶縁体を取り囲む外部導体と、を有する同軸ケーブルで構成され、
前記マイクロ波照射部は、前記外部導体に接続する先端電極と、前記中心導体に接続され切開対象を物理的に切開可能な可動刃と、を有しており、
前記同軸ケーブルは、前記アウタシース内に軸線方向に移動可能に収納され、
前記可動刃は、前記同軸ケーブルが前記アウタシース内で前記軸線方向に移動するとき、前記先端電極に対し前記アウタシースの外方側に突出する刃先突出量を変更可能である
とともに、前記切開対象を前記軸線方向に刺すことができることを特徴とする内視鏡用マイクロ波照射器具。
【請求項2】
前記先端電極と前記外部導体とが接続部材を介して接続され、該接続部材は、前記軸線方向に弾性変形可能な弾性部材で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の内視鏡用マイクロ波照射器具。
【請求項3】
前記接続部材が前記外部導体に巻回された状態に装着されるコイルばねで構成されていることを特徴とする請求項2に記載の内視鏡用マイクロ波照射器具。
【請求項4】
前記接続部材がワイヤで構成されていることを特徴とする請求項2に記載の内視鏡用マイクロ波照射器具。
【請求項5】
前記可動刃が表面絶縁処理されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の内視鏡用マイクロ波照射器具。
【請求項6】
前記先端電極は、前記アウタシースの先端に設けられた該アウタシースと略同軸状の環状部材で構成され、
前記可動刃は、前記環状部材の内側に配置され、該環状部材から前記アウタシースの外方側に突出することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の内視鏡用マイクロ波照射器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡を用いて体内に挿入されて生体組織の病変部を切開する内視鏡用マイクロ波照射器具に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用の電気処置器具として、内視鏡のチャンネルに挿通されるシースの先端部に設けた電極間に高周波電流を流し、その部分に生じる電気エネルギーによって病変部を切開するナイフが用いられている。
【0003】
そのような内視鏡用のナイフとしては、シース(カテーテルチューブ)の遠位端に装着された第1電極と、シースの内部を軸方向に移動自在に配置された駆動ワイヤと、駆動ワイヤの遠位端に装着され、駆動ワイヤの軸方向移動に応じてシースの遠位端から突出および引き込み移動自在な第2電極と、を有するバイポーラ型の高周波ナイフが知られている(例えば、特許文献1等参照)。
【0004】
上記特許文献1に記載のナイフは、電気メス(ナイフ)となる第2電極を生体組織に差し込み、第1電極と第2電極との間で高周波電流を流しながら第2電極を移動させることで、生体組織を切開する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上記特許文献1に記載されるような高周波ナイフは、高周波電流を流すために、生体組織を焼灼する過程で焼灼による過度な熱侵襲が生じる可能性が懸念された。
【0007】
また、上記特許文献1に記載されるような従来の高周波ナイフは、実際に生体組織を切開する電極(特許文献1の第2電極)は丸棒状のいわゆるニードルナイフが一般的であり、そのような電極を横方向、すなわち電極が延びる方向と交差する方向に動かして切り進める操作により、生体組織の切開を行う。しかしながら、このようにしてニードルナイフで生体組織を焼灼しながら切開するには、ナイフを切り進める方向を適確に定めながら行うことが容易ではなく手技が困難になる場合があった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、生体組織に対する過度な熱侵襲が防止されて適切な止血処置を行うことができるとともに、止血した生体組織に対して行う切開の手技を容易に行うことができる内視鏡用マイクロ波照射器具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る内視鏡用マイクロ波照射器具は、エネルギー伝送用のケーブルと、該ケーブルの先端に接続するマイクロ波照射部と、前記ケーブルおよび前記マイクロ波照射部を収納するアウタシースと、を備えた内視鏡用マイクロ波照射器具であって、前記ケーブルは、中心導体と、該中心導体を取り囲む筒状絶縁体と、該筒状絶縁体を取り囲む外部導体と、を有する同軸ケーブルで構成され、前記マイクロ波照射部は、前記外部導体に接続する先端電極と、前記中心導体に接続され切開対象を物理的に切開可能な可動刃と、を有しており、前記同軸ケーブルは、前記アウタシース内に軸線方向に移動可能に収納され、前記可動刃は、前記同軸ケーブルが前記アウタシース内で前記軸線方向に移動するとき、前記先端電極に対し前記アウタシースの外方側に突出する刃先突出量を変更可能であることを特徴とする。なお、本発明でいう「物理的に切開可能」は、切開対象に切り込んだ可動刃を動かすことのみによって切開対象を直接切開することが可能であることをいい、例えば電気的に発生させた電熱による焼灼作用で行う切開などは含まない。
【0010】
この構成により、本発明に係る内視鏡用マイクロ波照射器具は、例えば先端電極から可動刃を僅かに突出させた状態で可動刃と先端電極とを生体組織に押し当ててこれら可動刃と先端電極との間にマイクロ波電流を流すことにより、生体組織にマイクロ波が照射される。これにより本発明に係るマイクロ波照射器具は、生体組織を焼灼して凝固させ、止血処置を行うことができる。マイクロ波は、中心導体にマイクロ波電流を通電することにより、中心導体に接続された可動刃から先端電極にマイクロ波が放射され、マイクロ波電流は先端電極から外部導体に流れる。生体組織は、可動刃から先端電極に放射されるマイクロ波の電気エネルギーにより焼灼される。マイクロ波電流は従来の高周波ナイフに通電する高周波電流よりもパワーが低いため、生体組織を過度に焼灼することなく止血することができる。なお、マイクロ波の周波数は一般に300MHz~300GHzとされるが、本発明で照射するマイクロ波の周波数は、例えば2450MHz程度が好適である。
【0011】
また、本発明によれば、生体組織をマイクロ波で焼灼して止血した後に、マイクロ波照射を停止した状態で、先端電極から突出させた可動刃で生体組織を切開することができる。このため、出血を伴うことなく生体組織を切開することができる。可動刃による切開はマイクロ波の焼灼によるものではなく物理的に行うことが可能なため、従来のニードルナイフの焼灼による切開と比べると、切開の手技を容易に行うことができる。
【0012】
また、本発明によれば、先端電極と外部導体とが常に接続しているため、安定的にマイクロ波を照射することができる。また、先端電極に対する可動刃の突出量を調整することにより、可動刃を生体組織に深く切り込ませることなく安全に切開の手技を行うことができる。さらに、マイクロ波照射部が同軸ケーブルの先端に接続することにより、マイクロ波照射部を構成する先端電極の位置を固定的にすることができるため、可動刃の位置にかかわらずマイクロ波照射による焼灼の位置および焼灼力に大幅な変動が生じない。その結果、生体組織に対する焼灼位置の位置決めを適確に行うことができるとともに、焼灼を良好に行うことができる。
【0013】
本発明に係る内視鏡用マイクロ波照射器具は、前記先端電極と前記外部導体とが接続部材を介して接続され、該接続部材は、前記軸線方向に弾性変形可能な弾性部材で構成されていることを特徴とする。
【0014】
この構成により、本発明に係る内視鏡用マイクロ波照射器具は、同軸ケーブルがアウタシース内で移動しても、その移動に追従して弾性変形する弾性部材によって先端電極と外部導体とが常に接続しているため、先端電極と外部導体との電気的接続を常に安定した状態に保持することができる。
【0015】
本発明に係る内視鏡用マイクロ波照射器具は、前記接続部材が前記外部導体に巻回された状態に装着されるコイルばねで構成されていることを特徴とする。
【0016】
この構成により、本発明に係る内視鏡用マイクロ波照射器具は、コイルばねが伸縮することにより、このコイルばねに動作を阻害されることなく同軸ケーブルがアウタシース内で円滑に移動することができる。
【0017】
本発明に係る内視鏡用マイクロ波照射器具は、前記接続部材がワイヤで構成されていてもよい。
【0018】
この構成により、本発明に係る内視鏡用マイクロ波照射器具は、先端電極と外部導体との接続構造を簡素なものとすることができる。
【0019】
本発明に係る内視鏡用マイクロ波照射器具は、前記可動刃が表面絶縁処理されていると好ましい。
【0020】
この構成により、本発明に係る内視鏡用マイクロ波照射器具は、可動刃と外部導体との短絡を防止することができるとともに、他の導電性部分との接触による短絡も防止できる。
【0021】
本発明に係る内視鏡用マイクロ波照射器具は、前記先端電極は、前記アウタシースの先端に設けられた該アウタシースと略同軸状の環状部材で構成され、前記可動刃は、前記環状部材の内側に配置され、該環状部材から前記アウタシースの外方側に突出することを特徴とする。
【0022】
この構成により、本発明に係る内視鏡用マイクロ波照射器具は、環状部材からなる先端電極を生体組織に押し当てて可動刃により生体組織を切開する際に、可動刃が生体組織内に深く入り込み、切開すべき生体組織の下の正常な組織を可動刃で穿孔してしまうおそれがない。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、生体組織に対する過度な熱侵襲が防止されて適切な止血処置を行うことができるとともに、止血した生体組織に対して行う切開の手技を容易に行うことができる内視鏡用マイクロ波照射器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態に係る内視鏡用マイクロ波照射器具の全体を示す平面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る内視鏡用マイクロ波照射器具の遠位端を示す斜視図であって、(a)は可動刃がアウタシースから突出した状態を示し、(b)は可動刃がアウタシース内にほぼ収納された状態を示す。
【
図3】本発明の一実施形態に係る内視鏡用マイクロ波照射器具の遠位端を示す縦断面図であって、(a)は可動刃がアウタシースから突出した状態を示し、(b)は可動刃がアウタシース内にほぼ収納された状態を示す。
【
図4】(a)は
図3(b)のIVA-IVA断面図であり、(b)は
図3(b)のIVB-IVB矢視図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る内視鏡用マイクロ波照射器具においてシースを除いた状態の遠位側を示す斜視図であって、(a)は可動刃がアウタシースから突出した状態を示し、(b)は可動刃がアウタシース内にほぼ収納された状態を示す。
【
図6】本発明の一実施形態に係る内視鏡用マイクロ波照射器具を構成する同軸ケーブルの遠位端および同軸ケーブルの遠位端に接続された可動刃を示す斜視図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る内視鏡用マイクロ波照射器具の使用方法を示す図であって、(a)はマイクロ波照射部から生体組織にマイクロ波を照射している状態を示し、(b)は可動刃で生体組織を切開している状態を示す。
【
図8】本発明の一実施形態に係る内視鏡用マイクロ波照射器具において、先端電極と外部導体とを接続する接続部材の変更例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
(実施形態)
まず、一実施形態の構成について説明する。
【0027】
図1に示すように、本実施形態に係る内視鏡用マイクロ波照射器具(以下、マイクロ波照射器具)1は、アウタシース10と、アウタシース10内に収納された後述する同軸ケーブル20(
図1では不図示)と、アウタシース10の近位端(
図1で上端)に配置された操作部30と、アウタシース10の遠位端(
図1で下端)に配置されたマイクロ波照射部40と、を備えている。
【0028】
本実施形態に係るマイクロ波照射器具1は、アウタシース10が図示せぬ内視鏡のチャンネルに挿通され、その内視鏡とともにアウタシース10が体内に挿入されて使用される。アウタシース10は、その使用状態で体内に配置される先端部が遠位端とされ、体外に配置される基端部が近位端とされる。以下の説明でいう遠位端および近位端は、このアウタシース10の遠位端および近位端に対応した端部をいう。
【0029】
図2および
図3は、それぞれマイクロ波照射器具1の遠位端側を示す斜視図および縦断面図である。また、
図4(a)、(b)は、それぞれ
図3(b)のIVA-IVA断面図、IVB-IVB矢視図である。また、
図5はマイクロ波照射器具1の遠位端側であってアウタシース10を除いた状態を示しており、
図6はアウタシース10内に収納されている同軸ケーブル20の遠位端およびマイクロ波照射部40を構成する可動刃42を示している。
【0030】
アウタシース10は、可撓性を有する材料により中空の管状体に成形されて構成されている。アウタシース10の材料としては、ポリアミド樹脂、ポリアミド系エラストマー等の樹脂が用いられる。アウタシース10の太さすなわち外径は、特に限定はされないが、例えば1.5~3.0mm程度が好ましい。
【0031】
次に、アウタシース10内に収納された同軸ケーブル20について説明する。
【0032】
図3および
図4に示すように、アウタシース10内には、電気エネルギー伝送用のケーブルとして、同軸ケーブル20がアウタシース10の軸線方向に移動可能に収納されている。本実施形態では、同軸ケーブル20はアウタシース10の内壁に摺動して移動可能となっている。同軸ケーブル20は、アウタシース10と同様に可撓性を有している。
【0033】
図3および
図4に示すように、同軸ケーブル20は、中心導体21と、中心導体21を取り囲む筒状絶縁体22と、筒状絶縁体22を取り囲む外部導体23と、外部導体23を取り囲む絶縁性のチューブ24と、を有する。これら中心導体21、筒状絶縁体22、外部導体23およびチューブ24は、互いに同軸状に配置されて同軸ケーブル20を構成している。
【0034】
中心導体21は、直径が例えば0.2~0.4mm程度の可撓性を有する金属製細線で構成されている。中心導体21には後述するようにマイクロ波電源からマイクロ波電流が通電される。中心導体21の材料としては、導電性材料であれば特に限定はされないが、導電率が高い金属が好適であり、例えば、金、銀、白金、錫、亜鉛、ニッケル、鉄、アルミニウム等の金属単体、あるいはステンレス鋼、ニクロム等の合金等が用いられる。
【0035】
筒状絶縁体22は、中心導体21の例えば3倍程度の直径を有する可撓性の円筒体で構成されている。筒状絶縁体22の材料としては誘電性および可撓性を有する材料が好適とされ、特に限定はされないが、例えば、フッ素化ポリマー類、シアネート樹脂、炭化水素系樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂が用いられる。中心導体21は、筒状絶縁体22の中心に貫通されており、中心導体21の外周面が筒状絶縁体22の内周面に接触している。
【0036】
外部導体23は、例えば厚さが0.08~0.2mm程度の金属性のメッシュを円筒状に成形されて構成されている。外部導体23は、その内周面が筒状絶縁体22の外周面に密着するように設けられている。金属性の外部導体23の材料としては導電性を有する金属であれば特に限定されず、例えば上述した外部導体23と同様の導電性金属が用いられる。
【0037】
チューブ24は、その肉厚が例えば0.05~0.1mm程度の円筒状であって外部導体23の外周面に密着して外部導体23を覆うように設けられている。チューブ24の材料としては絶縁性および可撓性を有するものであれば特に限定はされないが、例えば、熱収縮によって外部導体23に固着させることができるとともに、同軸ケーブル20の円柱状の形状を保持することができるような特性を有する熱収縮樹脂チューブが好適に用いられる。そのような熱収縮樹脂チューブとしては、例えばPTFE、PFA、FEP等のフッ素樹脂からなるものが好適に用いられる。
【0038】
同軸ケーブル20は、チューブ24の外周面がアウタシース10の内周面に摺動してアウタシース10の軸線方向に移動する。フッ素樹脂製の熱収縮樹脂チューブは、表面が低摩擦性・自己潤滑性を有することによりアウタシース10に対して低抵抗で円滑に摺動するため、チューブ24の材料として好適である。
【0039】
図3および
図6に示すように、同軸ケーブル20の遠位端側の端部は、チューブ24から外部導体23が露出し、外部導体23から筒状絶縁体22が露出し、筒状絶縁体22から中心導体21が突出する状態となっている。
【0040】
次に、マイクロ波照射部40について説明する。
【0041】
図2~
図6に示すように、マイクロ波照射部40は、同軸ケーブル20の遠位端に接続された構成を有し、外部導体23に接続する先端電極41と、中心導体21に接続され、切開対象である生体組織を物理的に切開可能な可動刃42と、を有する。
【0042】
図3および
図5に示すように、先端電極41は、円筒部41aと、円筒部41aの遠位端に形成された鍔部41bと、を有する環状部材で構成されている。先端電極41は、円筒部41aがアウタシース10の遠位端の開口からアウタシース10内に挿入され、鍔部41bがアウタシース10の遠位端の開口端面に当接した状態で、アウタシース10の遠位端に該アウタシース10と略同軸状に設けられている。先端電極41は、円筒部41aの外周面および鍔部41bの近位端側の面が、アウタシース10に熱溶着や接着等の手段で固着され、これにより先端電極41はアウタシース10と一体化されている。先端電極41の鍔部41bは、アウタシース10の径方向外方に突出しないように、その外径がアウタシース10の外径とほぼ等しい寸法を有している。また、先端電極41の鍔部41bの遠位端側の外周縁は、生体組織を傷つけないように面取り加工されている。
【0043】
先端電極41の材料としては、導電性を有する金属であれば特に限定はされず、例えば上述した外部導体23と同様の導電性金属が用いられるが、耐食性が高く、かつ強度すなわち硬さの面で十分な特性を有する観点から、SUS303、SUS304等のステンレス鋼が好適に用いられる。
【0044】
図3に示すように、先端電極41と外部導体23とは、円筒状のコイルばね50を介して接続されている。コイルばね50は、本発明の接続部材ならびに弾性部材を構成している。コイルばね50は、外部導体23に巻回された状態で軸線方向に伸縮可能に装着されている。コイルばね50は、導電性であって弾性を有する金属で構成されている。
【0045】
図3に示すように、コイルばね50は、先端電極41における円筒部41aの近位端側の端面41cと、同軸ケーブル20におけるチューブ24の遠位端側の端面24cとの間に介装されている。コイルばね50は、その遠位端側の端面が、先端電極41における円筒部41aの近位端側の端面41cに固着して接続されている。また、コイルばね50は、その近位端の巻き部50aが、外部導体23の露出する外周面23aに固着して接続されている。これにより先端電極41と外部導体23とは、コイルばね50を介して電気的に接続されている。本実施形態のコイルばね50は、外径が均一な円筒状であるが、軸線方向の一端部に向かうにしたがって縮径するテーパ円筒状のものであってもよい。
【0046】
図3および
図6に示すように、可動刃42は、中心導体21の先端に固着され、中心導体21と一体化されている。可動刃42は、その近位端に基端部42aを有し、基端部42aの遠位端側に刃部42bを有している。可動刃42は導電性材料で構成されており、基端部42aの近位端が中心導体21の遠位端に、溶接や半田付け等の手段で固着されている。刃部42bは、遠位端に向かうにしたがって厚さが減じられるようにその縦断面がテーパ状に形成されている。刃部42bは、その両面に一対の刃面42cを有し、その先端に先鋭な刃先42dを有する。各刃面42cは、左右対称形の略五角形状に形成されている。
【0047】
可動刃42の材料としては、導電性を有する金属であれば特に限定はされず、例えば上述した外部導体23と同様の導電性金属が用いられるが、上述した先端電極41と同様に、耐食性が高く、かつ強度面で十分な特性を有する観点から、SUS303、SUS304等のステンレス鋼が好適に用いられる。
【0048】
本実施形態の可動刃42においては、その表面全面が絶縁処理されていると好ましい。この場合の絶縁処理は絶縁コーティングが挙げられ、絶縁コーティングとしては、例えばフッ素樹脂コーティングや、シリカ、アルミナ、ジルコニア等を材料とするセラミックコーティング等が挙げられる。
【0049】
上述したように同軸ケーブル20はアウタシース10内に軸線方向に移動可能に収納されている。これにより同軸ケーブル20の中心導体21に固着されている可動刃42は、アウタシース10に対して同軸ケーブル20と一体的に軸線方向に移動する。本実施形態の可動刃42は、同軸ケーブル20がアウタシース10内で軸線方向に移動するとき、先端電極41に対しアウタシース10の遠位端側の外方側に突出する突出量(本発明でいう刃先突出量)が変更可能に構成されている。
【0050】
アウタシース10に対して同軸ケーブル20を遠位端側に移動させると、
図2(a)、
図3(a)および
図5(a)に示すように、コイルばね50が圧縮し、可動刃42は先端電極41からアウタシース10の遠位端側の外方に突出する。このように可動刃42を先端電極41から突出させるときには、コイルばね50の弾発力に抗してアウタシース10に対し同軸ケーブル20を遠位端側に移動させることになる。
【0051】
一方、 アウタシース10に対して同軸ケーブル20を近位端側に移動させると、
図2(b)、
図3(b)および
図5(b)に示すように、コイルばね50は伸張し、可動刃42は先端電極41の内側に収納される。このように可動刃42を先端電極41内に収納するときには、コイルばね50の弾発力のアシストを受けながらアウタシース10に対し同軸ケーブル20を近位端側に移動させることになる。
【0052】
このように本実施形態の可動刃42は、先端電極41の内側に配置され、その状態からアウタシース10に対する同軸ケーブル20の移動に伴い、先端電極41からアウタシース10の外方側に突出したり先端電極41内に没したりするように構成されている。先端電極41に対する可動刃42の突出量は、少なくとも、先端電極41から突出したときには刃部42bが生体組織に刺さって切開可能な突出量となり、先端電極41内に収納されたときには、刃先42dが完全に先端電極41の内側に没するようになっている。
【0053】
上記のようにアウタシース10に対し同軸ケーブル20が移動して可動刃42が先端電極41に対して突没するとき、同軸ケーブル20の外部導体23と先端電極41との間は近くなったり遠くなったりするが、コイルばね50がその変位に追従して伸縮するため、コイルばね50に接続されている外部導体23と先端電極41とは常に接続した状態が保持されるようになっている。
【0054】
【0055】
図1に示すように、操作部30は、アウタシース10の軸線方向に延在するベース部31と、ベース部31に該ベース部31に沿ってスライド可能に取り付けられたスライダ部32と、を有している。
【0056】
ベース部31の遠位端には、ロック機構33を介してアウタシース10の近位端が固定されており、これによりアウタシース10はベース部31と一体となっている。本実施形態では、アウタシース10の近位端は補強スリーブ11内に挿入されてこの補強スリーブ11に固定されており、補強スリーブ11がロック機構33を介してベース部31の遠位端に固定されている。
【0057】
一方、スライダ部32には、同軸ケーブル20の近位端部が固定されている。同軸ケーブル20の近位端部はアウタシース10内からスリーブ11、ロック機構33およびベース部31の遠位端部の内部を通ってスライダ部32に達し、さらにスライダ部32の内部を通ってスライダ部32から近位端側に所定長さ延びている。同軸ケーブル20は、スライダ部32の内部を通る部分においてスライダ部32に固定されている。これにより同軸ケーブル20はスライダ部32とともにベース部31に対してスライド可能となっている。スライダ部32への同軸ケーブル20の近位端部の固定手段は任意であるが、例えば
図1に示すようにロックねじ34により同軸ケーブル20の近位端部をスライダ部32に着脱可能に固定する手段等が採用される。
【0058】
スライダ部32は、左右一対の環状部32aを有している。また、ベース部31は、その近位端に1つの環状部31aを有している。操作部30においては、例えば、スライダ部32の各環状部32aの各孔32bに人差し指と中指をそれぞれ挿入し、ベース部31の環状部31aの孔31bに親指を入れて片手でベース部31およびスライダ部32を支持することができるようになっている。そしてその状態で、ベース部31に対しスライダ部32をスライドさせる動作、すなわちアウタシース10に対し同軸ケーブル20を軸線方向に移動させる動作を、片手で円滑に行うことができるようになっている。
【0059】
本実施形態に係るマイクロ波照射器具1は、ベース部31に対してスライダ部32を遠位端側にスライドさせることにより、アウタシース10に対し同軸ケーブル20が遠位端側に移動して可動刃42が先端電極41から外方に突出するようになっている。また、これと反対に、ベース部31に対してスライダ部32を近位端側にスライドさせることにより、アウタシース10に対し同軸ケーブル20が近位端側に移動して可動刃42が先端電極41内に収納されるようになっている。
【0060】
また、同軸ケーブル20のスライダ部32から所定長さ延びる近位端部の先端には、コネクタ60が取り付けられている。同軸ケーブル20には、図示せぬマイクロ波電源からコネクタ60を介してマイクロ波電流が供給されるようになっている。
【0061】
以上が本実施形態に係るマイクロ波照射器具1の構成であり、次に、このマイクロ波照射器具1によって処置対象の生体組織(例えば、胃内壁の腫瘍、ポリープ、癌等の病変部の組織)を切開する使用方法の一例を、
図7を参照して説明する。
図7において符号Sは、処置すべき体内の生体組織を示している。
【0062】
はじめに、操作部30においてベース部31に対しスライダ部32を近位端側にスライドさせて、可動刃42を先端電極41の内側に完全に収納し、刃先42dが先端電極41から突出しない状態とする。
【0063】
次いで、体内に挿入した図示せぬ内視鏡のチャンネルにアウタシース10を遠位端側から挿入し、アウタシース10の遠位端を、処置すべき体内の生体組織Sの近傍に配置する。次いで、ベース部31に対しスライダ部32を遠位端側にスライドさせることにより、
図7(a)に示すように可動刃42の先端を電極41から僅かに突出させる。
【0064】
次いで、
図7(a)に示すように、可動刃42の先端と先端電極41とを生体組織Sに押し当て、この状態で上記マイクロ波電源から同軸ケーブル20にマイクロ波電流を通電し、マイクロ波照射部40からマイクロ波を照射する。通電するマイクロ波は、例えば、周波数:2450MHz、波長:122.4mm、出力:10~50Wのマイクロ波が用いられる。
【0065】
本実施形態では、マイクロ波電流は中心導体21から可動刃42に流れ、可動刃42から先端電極41にマイクロ波が放射される。可動刃42と先端電極41とが押し当てられた生体組織Sは、可動刃42と先端電極41との間において生じるマイクロ波熱により焼灼されて凝固し、これによって生体組織Sの止血処置がなされる。なお、可動刃42のみを生体組織Sに押し当て、先端電極41を生体組織Sから僅かに離間させた状態でも、生体組織Sへのマイクロ波の照射は可能である。
【0066】
上記のようにして生体組織Sの必要な範囲をマイクロ波照射によって焼灼し凝固させ、止血処置を完了する。止血処置の完了後は、上記マイクロ波電源からのマイクロ波電流の供給を停止し、マイクロ波照射部40からのマイクロ波の照射を停止する。
【0067】
次いで、上記のようにして止血処置を施した生体組織Sを、可動刃42によって物理的に切開する。それには、ベース部31に対してスライダ部32を遠位端側にスライドさせ、
図7(b)に示すように可動刃42を先端電極41から突出させて刃部42bを生体組織Sに差し込む。このように可動刃42を先端電極41から突出させて刃部42bにより生体組織Sを切開する動作を生体組織Sの必要な範囲に行い、病変部を切除する。
【0068】
この後、ベース部31に対してスライダ部32を近位端側に移動させて同軸ケーブル20をアウタシース10内に引き込み、可動刃42を先端電極41の内側に完全に収納して切開処置を完了する。
【0069】
以下に、上述した本実施形態に係るマイクロ波照射器具1の作用について説明する。
【0070】
本実施形態に係るマイクロ波照射器具1は、先端電極41から可動刃42を突出させた状態で可動刃42と先端電極41を生体組織に押し当ててマイクロ波を照射することにより、生体組織を焼灼して凝固させ、止血処置を行うことができる。マイクロ波は従来の高周波ナイフに通電する高周波電流よりもパワーが低いため、生体組織を過度に焼灼することなく止血することができる。
【0071】
また、本実施形態によれば、生体組織をマイクロ波で焼灼して止血した後に、マイクロ波照射を停止した状態で、先端電極41から突出させた可動刃42で生体組織を切開することができる。このため、出血を伴うことなく生体組織を切開することができる。可動刃42による切開はマイクロ波の焼灼によるものではなく物理的に行うため、従来のニードルナイフの焼灼による切開と比べると、切開の手技を容易に行うことができる。
【0072】
また、本実施形態によれば、先端電極41と外部導体23とがコイルばね50を介して常に接続しているため、安定的にマイクロ波を照射することができる。また、先端電極41に対する可動刃42の突出量を調整することにより、可動刃42を生体組織に深く切り込ませることなく安全に切開の手技を行うことができる。さらに、マイクロ波照射部40を構成する先端電極41の位置をアウタシース10の先端に固定的に設けることができるため、可動刃42の位置にかかわらずマイクロ波照射による焼灼の位置および焼灼力に大幅な変動が生じない。その結果、生体組織に対する焼灼位置の位置決めを適確に行うことができるとともに、焼灼を良好に行うことができる。
【0073】
また、本実施形態では、同軸ケーブル20がアウタシース10内で移動しても、その移動に追従して伸縮するコイルばね50によって先端電極41と外部導体23とが常に接続されるため、先端電極41と外部導体23との電気的接続を常に安定した状態に保持することができる。コイルばね50は、アウタシース10に対する同軸ケーブル20の移動を阻害することなく外部導体23と先端電極41との接続を保持し、これにより同軸ケーブル20はアウタシース10内で円滑に移動することができる。
【0074】
また、本実施形態に係る可動刃42は、上述したように、表面全面が絶縁処理されていると好ましい。その理由は、可動刃42と外部導体23との短絡を防止することができるとともに、他の導電性部分との接触による短絡も防止できるからである。
【0075】
また、本実施形態では、先端電極41は環状部材で構成されており、可動刃42は、環状の先端電極41の内側に配置され、その先端電極41から外方側に突出するように構成されている。このため、先端電極41を生体組織に押し当てて可動刃42により生体組織を切開する際に、先端電極41がストッパとなって可動刃42が生体組織内に深く入り込むことが防がれる。このため、切開すべき生体組織の下の正常な組織を可動刃42で穿孔してしまうおそれがない。
【0076】
(変更例)
上記実施形態においては、先端電極41と外部導体23とを接続する接続部材は、弾性部材であるコイルばね50であったが、
図8に示すように接続部材が導電性および弾性を有するワイヤ70で構成されていてもよい。なお、
図8においては、上記実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付している。ワイヤ70の数は任意であるが、少なくとも2つのワイヤ70によって先端電極41と外部導体23とを接続する構成が、確実な接続がなされる点で好ましい。
【0077】
ワイヤ70は、その近位端が外部導体23の外周面に固着され、その遠位端が先端電極41における円筒部41aの近位端側の端面41cに固着される。その固着手段は、例えば溶接や半田付け等の電気的接続が確保される手段が採られる。
【0078】
ワイヤ70は、同軸ケーブル20がアウタシース10内に引き込まれて可動刃42が先端電極41内に没するときにも、同軸ケーブル20の移動を可能とする長さを有する。また、ワイヤ70としては、繰り返しの撓みによって折れたり破断したりしない強さと弾性を有する材料(例えば、ばね用ステンレス鋼線等)が好ましく選択される。これによりワイヤ70は、アウタシース10に対し同軸ケーブル20が移動すると弾性的に撓んで変形することにより、先端電極41と外部導体23との電気的接続を保持するようになっている。
【0079】
このように先端電極41と外部導体23とをワイヤ70で接続する構成では、先端電極41と外部導体23との接続構造を簡素なものとすることができる。
【0080】
また、上記実施形態において、可動刃42は、先端電極41からの突出量が、
図2(a)および
図3(a)に示すように刃部42bが突出して生体組織を切開可能な切開位置と、
図2(b)および
図3(b)に示すように先端電極41から僅かに突出して生体組織を焼灼する焼灼位置と、可動刃42全体が先端電極41内に完全に没する収納位置の3つの位置に位置決めされるように構成されていると、手技が行いやすくなり好ましい。
【0081】
そのためには、例えば操作部30に上記3つの位置(切開位置、焼灼位置、収納位置)に可動刃42が位置決めされるように、ベース部31に対してスライダ部32がそれら3つの位置に応じた位置に位置決めされるクリック機構を具備させるとよい。そのクリック機構としては、例えば、ベース部31に軸方向に離間する3箇所に形成された溝と、これら溝に弾性的に係合するスライダ部32に設けられたばね部材との組み合わせなどで構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、生体組織に対する過度な熱侵襲が防止されて適切な止血処置を行うことができるとともに、止血した生体組織に対して行う切開の手技を容易に行うことができる内視鏡用マイクロ波照射器具として有用である。
【符号の説明】
【0083】
1 内視鏡用マイクロ波照射器具
10 アウタシース
20 同軸ケーブル
21 中心導体
22 筒状絶縁体
23 外部導体
24 チューブ
40 マイクロ波照射部
41 先端電極(環状部材)
41a 円筒部
41b 鍔部
42 可動刃
42a 基端部
42b 刃部
42c 刃面
42d 刃先
50 コイルばね(接続部材、弾性部材)
70 ワイヤ(接続部材、弾性部材)
S 生体組織(切開対象)