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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】イオン性ポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/04 20060101AFI20230425BHJP
   B01D 11/04 20060101ALI20230425BHJP
   C07K 1/14 20060101ALI20230425BHJP
   C08B 37/00 20060101ALI20230425BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20230425BHJP
   C12P 19/04 20060101ALI20230425BHJP
   C12P 19/06 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
C08L77/04
B01D11/04 C
C07K1/14
C08B37/00
C08K5/17
C12P19/04 C
C12P19/06
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019060980
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020158677
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芦内 誠
(72)【発明者】
【氏名】白米 優一
(72)【発明者】
【氏名】大岩 聖佳
(72)【発明者】
【氏名】石原 悠
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-222496(JP,A)
【文献】特開2016-131924(JP,A)
【文献】特開平10-077342(JP,A)
【文献】特開2004-123785(JP,A)
【文献】特表2008-541728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 77/04
B01D 11/04
C07K 1/14
C08B 37/00
C08K 5/17
C12P 19/04
C12P 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水相と有機相とを有する混合液において、前記水相中に含有されるイオン性ポリマーと前記イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質とのイオンコンプレックスを形成させ、前記イオンコンプレックスを前記有機相に移行させる工程を含むことを特徴とする、イオン性ポリマーの抽出方法。
【請求項2】
前記イオン性ポリマーが、微生物により合成されたものであることを特徴とする、請求項1に記載のイオン性ポリマーの抽出方法。
【請求項3】
前記イオン性ポリマーが、前記水相中で前記微生物により合成されることを特徴とする、請求項2に記載のイオン性ポリマーの抽出方法。
【請求項4】
前記イオン性ポリマーが、1種類以上のアミノ酸から構成されたポリペプチドであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のイオン性ポリマーの抽出方法。
【請求項5】
前記アミノ酸が、グルタミン酸、リジン、アスパラギン酸、アルギニンおよびヒスチジンから選ばれる少なくとも1種類以上を含むことを特徴とする、請求項4に記載のイオン性ポリマーの抽出方法。
【請求項6】
前記ポリペプチドが、ポリグルタミン酸、ポリリジン、シアノファイシンおよびポリアルギニルヒスチジンから選ばれる少なくとも1種類以上のポリペプチドであることを特徴とする、請求項4または5に記載のイオン性ポリマーの抽出方法。
【請求項7】
前記イオン性ポリマーが、多糖体であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のイオン性ポリマーの抽出方法。
【請求項8】
前記多糖体が、キトサン、キサンタンガム、ジェランガムおよびスクシノグリカンから選ばれる少なくとも1種類以上の多糖体であることを特徴とする、請求項7に記載のイオン性ポリマーの抽出方法。
【請求項9】
前記有機相の分配係数(LogP)が0.3より大きいことを特徴とする、請求項1~8のいず
れか一項に記載のイオン性ポリマーの抽出方法。
【請求項10】
前記反対の電荷を有する物質が、天然または非天然高分子であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載のイオン性ポリマーの抽出方法。
【請求項11】
前記反対の電荷を有する物質が、アンモニウム化合物、ホスホニウム化合物、スルホニウム化合物から選ばれる少なくとも1種類以上の物質であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載のイオン性ポリマーの抽出方法。
【請求項12】
前記アンモニウム化合物が、第4級アンモニウムイオン化合物であることを特徴とする、請求項11に記載のイオン性ポリマーの抽出方法。
【請求項13】
前記反対の電荷を有する物質が、有機酸化合物であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載のイオン性ポリマーの抽出方法。
【請求項14】
前記有機酸化合物が、スルホン酸およびカルボン酸から選ばれる少なくとも1種類以上の化合物であることを特徴とする、請求項13に記載のイオン性ポリマーの抽出方法。
【請求項15】
さらに、前記有機相からイオン性ポリマーを遊離する工程、
を含むことを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載のイオン性ポリマーの抽出方法。
【請求項16】
請求項1~14のいずれか一項に記載の、水相中に含有されるイオン性ポリマーと前記イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質とのイオンコンプレックスを形成させ、前記イオンコンプレックスを有機相に移行させる工程;および
前記イオンコンプレックスからイオン性ポリマーを遊離させる工程、
を含むことを特徴とする、イオン性ポリマーの精製方法。
【請求項17】
前記イオンコンプレックスからイオン性ポリマーを遊離させる工程において、イオンコンプレックスを移行させた有機相に酸を添加してイオンコンプレックスを破壊し、イオン性ポリマーを有機相内に沈殿させてイオン性ポリマーを遊離させることを特徴とする、請求項16に記載のイオン性ポリマーの精製方法。
【請求項18】
前記イオンコンプレックスからイオン性ポリマーを遊離させる工程において、前記イオンコンプレックスを移行させた有機相を乾燥させて得られるイオンコンプレックス固形物を酸に浸漬し、イオン性ポリマーを遊離させることを特徴とする、請求項16に記載のイオン性ポリマーの精製方法。
【請求項19】
前記酸が、濃塩酸であることを特徴とする、請求項17または18に記載のイオン性ポリマーの精製方法。
【請求項20】
水相中で微生物によりイオン性ポリマーを合成させる工程;
請求項1~14のいずれか一項に記載の、水相中に含有されるイオン性ポリマーと前記イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質とのイオンコンプレックスを形成させ、前記イオンコンプレックスを有機相に移行させる工程;および
前記イオンコンプレックスからイオン性ポリマーを遊離させる工程、
を含むことを特徴とする、イオン性ポリマーの製造方法。
【請求項21】
水相と有機相とを有する混合液中で微生物によりイオン性ポリマーを合成させることを特徴とする、請求項20に記載のイオン性ポリマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性ポリマーの新規製造方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオン性ポリマー材料は優れた吸水性や粘着性から、吸水剤や増粘剤、結着剤等の分野で産業利用されている。しかし、イオン性ポリマーはその吸水性の高さのため、高濃度化すると著しい粘度上昇を引き起こし、これが工業化プロセスにおける後処理工程のハンドリングの悪化に繋がっている。微生物の中にはイオン性ポリマーを生産するものが知られており、生分解性や生体適合性の点で既存の化学合成ポリマーには見られない優れた特性を有している。微生物が生産するイオン性ポリマーは昨今のマイクロプラスチックによる海洋汚染の深刻化の背景もあり注目が高まっているが、現状は製造コストの高さから医療用途や化粧品原料等の高付加価値な用途に限定されている。微生物を用いたイオン性ポリマーの生産においてイオン性ポリマーによる培地粘度の上昇は生産量低下や抽出操作等の後処理工程の悪化を引き起こす原因となり、これが製造コスト増加の一因となっている。
【0003】
イオン性ポリマーの抽出方法として特許文献1では、イオン性ポリマーを含む水溶液を弱酸性(pH 5.0-7.5)にして粘度を低下させた後、遠心分離による菌の除去とアルコール添加によるイオン性ポリマーの沈殿を行うことでイオン性ポリマーを回収する方法が述べられているが、操作が複雑で時間を要することに加え、水に対し数倍のアルコールが必要であり、また回収率も60%と低いため、製造コスト低減方法として十分とは言えない。さら
に、上記抽出法では酸性条件下での長時間曝露を伴うため、イオン性ポリマーの分解に伴う機能低下も懸念される。
【0004】
また、特許文献2および非特許文献1、2では、該イオン性ポリマーと反対の電荷を持つ
物質とを反応させて不溶性の沈殿物を生じさせた後、当該沈殿物を溶解させて抽出する方法が述べられているが、いずれの方法もイオン性ポリマーの沈殿を伴うため、製造工程が煩雑になる問題があった。また、微生物培養液中からイオン性ポリマーを抽出する場合には上記の沈殿物中への菌体の混入を避けるため、予め高粘度の溶液から菌を除去する工程が必要となり製造工程はさらに煩雑となる。従って、イオン性ポリマーのさらなる製造コスト低減のためにはイオン性ポリマーの沈殿を伴わずに直接、抽出する手法の開発が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-218593号公報
【文献】特許第5279080号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Microbial production and chemical transformation of poly-γ-glutamate. Microb Biotechnol. 2013;6:664-674.
【文献】A New Method to Purify Poly-γ-glutamic Acid Using Gemini Quaternary Ammonium Salts and Characterization of its Ionic Complex. J. chemical eng. Jpn. 2018;51:431-437.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、水溶液中のイオン性ポリマーを効率的に抽出する方法を提供することを課題
としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、水溶液からイオン性ポリマーを可溶化状態で回収する方法として、水溶液と二相に分離可能な有機溶媒を用いて抽出する方法(以下、「二相抽出法」ということがある)を検討した。本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、二相液中でイオン性ポリマーとその逆の荷電を有する物質とのイオンコンプレックスを形成させることで、親水性のイオン性ポリマーを沈殿させることなく有機相に移行できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
本発明の要旨は、以下に関する。
[1] 水相と有機相とを有する混合液において、前記水相中に含有されるイオン性ポリマーと前記イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質とのイオンコンプレックスを形成させ、前記イオンコンプレックスを前記有機相に移行させる工程を含むことを特徴とする、イオン性ポリマーの抽出方法。
[2] 前記イオン性ポリマーが、微生物により合成されたものであることを特徴とする、[1]に記載のイオン性ポリマーの抽出方法。
[3] 前記イオン性ポリマーが、前記水相中で前記微生物により合成されることを特徴とする、[2]に記載のイオン性ポリマーの抽出方法。
[4] 前記イオン性ポリマーが、1種類以上のアミノ酸から構成されたポリペプチドであることを特徴とする、[1]~[3]のいずれかに記載のイオン性ポリマーの抽出方法。
[5] 前記アミノ酸が、グルタミン酸、リジン、アスパラギン酸、アルギニンおよびヒスチジンから選ばれる少なくとも1種類以上を含むことを特徴とする、[4]に記載のイオン性ポリマーの抽出方法。
【0010】
[6] 前記ポリペプチドが、ポリグルタミン酸、ポリリジン、シアノファイシンおよびポリアルギニルヒスチジンから選ばれる少なくとも1種類以上のポリペプチドであることを特徴とする、[4]または[5]に記載のイオン性ポリマーの抽出方法。
[7] 前記イオン性ポリマーが、多糖体であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれかに記載のイオン性ポリマーの抽出方法。
[8] 前記多糖体が、キトサン、キサンタンガム、ジェランガムおよびスクシノグリカンから選ばれる少なくとも1種類以上の多糖体であることを特徴とする、[7]に記載のイオン性ポリマーの抽出方法。
[9] 前記有機相の分配係数(LogP)が0.3より大きいことを特徴とする、[1]~[8
]のいずれかに記載のイオン性ポリマーの抽出方法。
[10] 前記反対の電荷を有する物質が、天然または非天然高分子であることを特徴とする、[1]~[9]のいずれかに記載のイオン性ポリマーの抽出方法。
【0011】
[11] 前記反対の電荷を有する物質が、アンモニウム化合物、ホスホニウム化合物、スルホニウム化合物から選ばれる少なくとも1種類以上の物質であることを特徴とする、[1]~[9]のいずれかに記載のイオン性ポリマーの抽出方法。
[12] 前記アンモニウム化合物が、第4級アンモニウムイオン化合物であることを特
徴とする、[11]に記載のイオン性ポリマーの抽出方法。
[13] 前記反対の電荷を有する物質が、有機酸化合物であることを特徴とする、[1]~[9]のいずれかに記載のイオン性ポリマーの抽出方法。
[14] 前記有機酸化合物が、スルホン酸およびカルボン酸から選ばれる少なくとも1種類以上の化合物であることを特徴とする、[13]に記載のイオン性ポリマーの抽出方法。
[15] さらに、前記有機相からイオン性ポリマーを遊離する工程、
を含むことを特徴とする、[1]~[14]のいずれかに記載のイオン性ポリマーの抽出方法。
【0012】
[16] [1]~[14]のいずれかに記載の、水相中に含有されるイオン性ポリマーと前記イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質とのイオンコンプレックスを形成させ、前記イオンコンプレックスを有機相に移行させる工程;および
前記イオンコンプレックスからイオン性ポリマーを遊離させる工程、
を含むことを特徴とする、イオン性ポリマーの精製方法。
[17] 前記イオンコンプレックスからイオン性ポリマーを遊離させる工程において、イオンコンプレックスを移行させた有機相に酸を添加してイオンコンプレックスを破壊し、イオン性ポリマーを有機相内に沈殿させてイオン性ポリマーを遊離させることを特徴とする、[16]に記載のイオン性ポリマーの精製方法。
[18] 前記イオンコンプレックスからイオン性ポリマーを遊離させる工程において、前記イオンコンプレックスを移行させた有機相を乾燥させて得られるイオンコンプレックス固形物を酸に浸漬し、イオン性ポリマーを遊離させることを特徴とする、[16]に記載のイオン性ポリマーの精製方法。
[19] 前記酸が、濃塩酸であることを特徴とする、[17]または[18]に記載のイオン性ポリマーの精製方法。
【0013】
[20] 水相中で微生物によりイオン性ポリマーを合成させる工程;
[1]~[14]のいずれかに記載の、水相中に含有されるイオン性ポリマーと前記イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質とのイオンコンプレックスを形成させ、前記イオンコンプレックスを有機相に移行させる工程;および
前記イオンコンプレックスからイオン性ポリマーを遊離させる工程、
を含むことを特徴とする、イオン性ポリマーの製造方法。
[21] 水相と有機相とを有する混合液中で微生物によりイオン性ポリマーを合成させることを特徴とする、[20]に記載のイオン性ポリマーの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、水相中のイオン性ポリマーのみを選択的に有機相側に移行し、上記有機相を回収することで簡便かつほぼ100%のイオン性ポリマーの抽出が可能となる。また、上記の二相抽出法を微生物によるイオン性ポリマー生産と組み合せることで、イオン性ポリマーの生産と抽出を同時に行うことが可能となり、イオン性ポリマーの生産で課題となる培地粘度の上昇とこれに伴う酸素供給量不足の影響を回避し、イオン性ポリマーの生産性を向上させることが可能となる。さらにイオン性ポリマーが有機相中に移行することで、微生物自身が生産するイオン性ポリマー分解酵素の影響を回避できるため、より高分子量のイオン性ポリマーが取得可能となる。また、有機相のみを抽出することで培養液からイオン性ポリマーが回収できるため、従来工程で必要であった微生物除去工程が省略可能となり、さらに微生物を含む水相を再利用することでイオン性ポリマーの連続生産を可能にできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、二相形成および目的物質の選択溶解に適う有機溶媒の選択のための試験結果を示す。
図2図2は、1-ペンタノールの戦國醤菌に対する毒性試験の結果を示す。
図3図3は、PGA-HDP界面合成を利用したPGA相移動プロセスの検証のための試験結果を示す。
図4図4は、PGA有機相移動プロセスを導入した微生物バイオポリマー発酵回収方法に関する試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
<本発明の抽出方法>
本発明の一態様は、水相と有機相とを有する混合液において、前記水相中に含有されるイオン性ポリマーと前記イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質とのイオンコンプレックスを形成させ、前記イオンコンプレックスを前記有機相に移行させる工程を含むことを特徴とする、イオン性ポリマーの抽出方法(以下、「本発明の抽出方法」と称することがある)に関する。
【0017】
(水相と有機相とを有する混合液)
ここで、「水相と有機相とを有する混合液」とは、水相を構成する水および有機相を構成する有機溶媒を含む液体であり、水相と有機相が二相に分離可能であり、撹拌装置等で水相と有機相を含む混合液を撹拌した場合、撹拌中もしくは撹拌後一定時間は水相中に有機相あるいは有機相中に水相がミセル状に拡散した状態を形成した後、そのまま静置するか遠心分離等することで再び水相と有機相に分離する特性を持つ。
本発明における水相と有機相とを有する混合液は、予め水相と有機相とを有する混合液とした状態でイオン性ポリマーを前記水相中に含有または水相中で合成させてもよく、予めイオン性ポリマーを含有する水溶液を調製した後に、有機相を追加し混合させて調製してもよい。イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質は予め水相と有機相とを有する混合液中に含有されていてもよく、水相と有機相とを有する混合液に後から添加してもよい。また、イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質は、イオン性ポリマーを含有する溶液を調製した後に、該物質を含有する有機溶媒を、上記イオン性ポリマーを含有する溶液に加えて調製してもよく、該物質を含有しない有機溶媒を、上記イオン性ポリマーを含有する溶液に添加し混合液を調製した後に添加してもよい。
本発明において、イオン性ポリマーを微生物により合成するときは、例えば水相と有機相とを有する混合液の水相中で微生物を培養する事でイオン性ポリマーを製造してもよく、微生物にイオン性ポリマーを製造させた培養液に、有機相にかかる溶液を追加し混合させて調製してもよく、培養液中で微生物がイオン性ポリマーの合成を開始した後に有機相にかかる溶液を追加し有機相を添加しイオン性ポリマーを連続的に抽出してもよい。この場合、イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質は予め上記の培養液に係る水相と有機相とを有する混合液の有機相中に含有されていてもよく、上記混合液に後から添加してもよい。また、上記の培養液に該イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質を含有する有機溶媒を加えて調製してもよく、該物質を含有しない有機溶媒を、上記培養液に添加し混合液を調製した後に該イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質を添加してもよい。
【0018】
(水相)
本発明の抽出方法において、イオン性ポリマーは水相中に含有されている。
本発明において「水相」は、イオン性ポリマーを含有することができ、さらに微生物等によりイオン性ポリマーを生産する場合には微生物の生育等を妨げない液相であれば限定されず、イオン性ポリマーの含有またはイオン性ポリマーの生産等を妨げない任意成分を含んでいてもよい。
【0019】
「水相」とは、超純水またはイオン交換水等の水を主成分とし、さらに、微生物の培養を水相中で行う場合等必要に応じて一般的に微生物の培養で使用される培地成分等を含んでいてもよい。また、イオン性ポリマーやイオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質も水相に含まれてもよい。
【0020】
培地成分には、培養する微生物に応じ適宜変更され得るが、例えば、炭素源、窒素源、無機塩類、各種アミノ酸、ビタミン類、有機微量栄養源、その他使用する微生物の生育に必要とされる物質等が含まれる。
【0021】
炭素源には、例えば、ブドウ糖、果糖、蔗糖、マルトース、粗糖類、糖蜜類、各種澱粉類またはその酸もしくは酵素糖化液等あるいはそれらの2種類以上を適宜組み合わせたもの等が用いられる。
【0022】
窒素源には、例えば、各種アミノ酸、ペプトン、大豆粉、コーンスティープリカー、酵母エキス、肉エキス、大豆または脱脂大豆若しくはそれらの粉体または抽出液、尿素等の有機窒素類、硫酸、硝酸、塩酸、炭酸等のアンモニウム塩類、アンモニアガス、アンモニア水等の無機窒素類等、あるいはそれらの2種類以上を適宜組み合わせたもの等が用いられる。
【0023】
無機塩類には、例えば、カルシウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、マンガン、鉄、銅、亜鉛等の硫酸塩類、塩酸塩類、リン酸塩類、酢酸塩類等が含まれる。
【0024】
アミノ酸・ビタミン類には、例えば、アスパラギン酸、アラニン、ロイシン、グルタミン酸、フェニルアラニン、ヒスチジン等、ビタミン類としてはビオチン、サイアミン等を用いることができる。
【0025】
水相のpHは、含有するイオン性ポリマーに影響を与えず、イオン性ポリマーの生産に用いる微生物に適したもの等であればよく、例えば一般的に物質生産に用いられるバチルス(Bacillus)属細菌や大腸菌の場合、通常pH5~9、好ましくはpH6~8、より好ましくはpH6.5~7の間で用いられる。
【0026】
水相の温度は、用いる微生物に適したもの等であればよく、例えば一般的に物質生産に用いられるバチルス属細菌や大腸菌の場合、通常25~50℃、好ましくは25~40℃、より好ましくは30~40℃の間で用いられる。
【0027】
(有機相)
本発明の抽出方法において、水相中に含有されているイオン性ポリマーは、イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質と反応し、イオンコンプレックスを形成する。形成されたイオンコンプレックスは水不溶性であり、水相から有機相に移行する。
【0028】
本発明において「有機相」は、水相と二相を形成し、イオンコンプレックスを含有することができ、微生物等によりイオン性ポリマーを生産する場合には微生物の生育等を妨げない液相であれば限定されず、水相との二相形成またはイオンコンプレックスの含有および微生物の生育等を妨げない任意成分を含んでいてもよい。
【0029】
「有機相」とは、1種類以上の有機溶媒から構成され、前記イオンコンプレックスおよ
びイオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質が含まれてもよい。
【0030】
有機相には、静置もしくは遠心分離等により水相と二相に分離可能である有機溶媒が少なくとも1種類以上含まれる必要がある。前記のような水相と二相に分離可能な有機溶媒としては、分配係数(LogP)が0.3より大きい、0.5より大きい、または0.8より大きいこと
が好ましい。また、2.0より小さい、1.8より小さい、または1.7より小さいことが好まし
い。分配係数(LogP)とは対象物質の水へのなじみにくさ(疎水性)を示す数値であり、ここではオクタノール/水分配係数(LogPow)を指す。適度な分配係数をもつ有機溶媒であ
れば、水相と二相に分離可能であり、イオンコンプレックスを移行可能である点で好ましい。
各種有機溶媒の分配係数は、公知である。また、分配係数は、公知の方法により測定することができる。
【0031】
前記有機溶媒には、限定されないが、例えば、1-ブタノール、メチルクロライド、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、1-ノナノール、1-デカノール、オクタン、へプタン、デカン、ウンデカン、1-ドデカン、n-ドデカン、ノナン、トリデカン、テトラデカン、ヘキサデカン、ペンタデカン、オクタデカン、クロロホルム、ペンタン、ヘキサン、シリコンオイル等が含まれる。
【0032】
有機溶媒の添加量は、本発明の効果を妨げない限り限定されないが、例えば、水相と有機相とを有する混合液中の0.1~80%(w/w)の範囲が好ましく、1~30%(w/w)であることがより好ましく、2~10%(w/w)の範囲であることがさらに好ましい。
【0033】
有機相の温度は、上記水相の温度と同様である。
【0034】
(イオン性ポリマー)
本発明において「イオン性ポリマー」とは、水相中で解離して、正電荷もしくは負電荷を有する親水性のポリマーであり、特に、好ましくは微生物等によって合成されるバイオポリマーを指す。イオン性ポリマーの分子量は、イオン性ポリマーが水溶性を有するものであれば、限定されないが、例えば100,000以上10,000,000以下、より好ましくは500,000以上5,000,000以下、さらに好ましくは1,000,000以上2,500,000以下である。本発明にお
いて「分子量」とはポリエチレングリコール標準物質の分子量換算にて算出した重量平均分子量(Mw)のことを指す。
【0035】
本発明の抽出方法が対象とするイオン性ポリマーは、限定されず、例えば、有機合成により得られるポリマー、植物、動物等から抽出等により得られるポリマー、酵素、微生物等により生合成されるポリマー等であってよい。
【0036】
本発明において「微生物」とは、イオン性ポリマーを生産することが知られている微生物あるいは公知の遺伝子組換え技術により新たに前記イオン性ポリマーを生産する能力を付与された微生物を指す。
【0037】
イオン性ポリマーを生産する微生物としては、限定されないが、例えば、ポリグルタミン酸を生産するバチルス属細菌や古細菌、ポリリジンを生産するストレプトマイセス(Streptomyces)属細菌、キササンタンガムを生産するキサントモナス(Xanthomonas)属細
菌、シアノフィシンを生産するシアノバクテリア等が挙げられる。
【0038】
遺伝子組換え技術を適用する微生物としては、例えば大腸菌やバチルス・サブチリス等のバチルス属細菌、ブレビバチルス属細菌、酵母等が挙げられる。
【0039】
微生物による合成または生産とは、微生物が有するあるいは遺伝子組換え技術により外部から新たに微生物に導入したイオン性ポリマーの合成機能を用いて微生物自身が水相に添加された培地成分もしくは微生物自身が作り出す代謝産物からイオン性ポリマーを生合成することを意味する。
【0040】
本発明の抽出方法は、水相中で上記微生物によりイオン性ポリマーを合成する工程を含む方法も一態様として包含する。本発明の抽出方法における微生物の培養、イオン性ポリマーを合成する条件、方法等は、通常の微生物による物質の合成方法と同様である。
【0041】
微生物によって水相中にイオン性ポリマーを生産する場合は、有機相を形成する有機溶媒を培養開始時または途中で添加し、攪拌して水相と有機相とを有する混合液中で微生物を培養(以下、この態様を「二相培養」と称することがある)してもよく、水相中で微生
物を培養し、培養後に有機相を添加(以下、この態様を「単相培養」と称することがある)してよい。
【0042】
本発明の抽出方法が対象とするイオン性ポリマーは、1種類以上のアミノ酸から構成されたポリペプチドであってよい。
【0043】
ポリペプチドとは、アミノ酸同士がペプチド結合によって連結された化合物を指す。ペプチド結合は2個以上のアミノ酸の間で一方のアミノ基ともう一方のカルボキシル基が脱
水縮合により連結することを指す。
【0044】
微生物が生産することが知られているポリペプチドの例としては、限定されないが、例えば、バチルス属細菌が生産するグルタミン酸のみを複数連結したポリグルタミン酸や、ストレプトマイセス属細菌が生産するリシンを多数連結したポリリジン等が挙げられる。
【0045】
ポリペプチドとして、限定されないが、具体的には、アミノ酸として、グルタミン酸、リジン、アスパラギン酸、アルギニンおよびヒスチジンから選ばれる少なくとも1種類以上を含むポリペプチドが好ましく例示される。このようなポリペプチドとして、ポリグルタミン酸、ポリリジン、シアノファイシンおよびポリアルギニルヒスチジンから選ばれるポリペプチドが好ましく例示される。
【0046】
本発明の抽出方法が対象とするイオン性ポリマーは、多糖体であってもよい。
多糖体として、限定されないが、具体的には、多糖体がキトサン、キサンタンガム、ジェランガム、スクシノグリカン、アルギン酸およびその塩から選ばれる多糖体が好ましく例示される。
【0047】
微生物が生産することが知られている多糖体の例としては、限定されないが、例えば、キサントモナス属細菌を生産するキササンタンガム等が挙げられる。
【0048】
(イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質)
本発明の抽出方法においては、水相中に含有されているイオン性ポリマーがイオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質と反応し、水相に不溶性のイオンコンプレックスを形成する。形成したイオンコンプレックスを有機相に移行させて有機相中のイオンコンプレックスまたはイオン性ポリマーとして抽出する。
【0049】
本発明において「イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質」は、目的とするイオン性ポリマーと反対の電荷を有し、イオン性ポリマーと結合してイオンコンプレックスを形成し、有機相へ移行を可能にさせることができる物質等であれば、限定されない。イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質は、有機相に溶解する物質が好ましい。
【0050】
「イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質」としては、限定されないが、例えば、天然または非天然型高分子およびアンモニウム化合物、ホスホニウム化合物、スルホニウム化合物、有機酸化合物等が例として挙げられる。イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質は、1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
イオン性ポリマーが負電荷を有する場合、水相でアニオンを解離して正の電荷をもつ化合物の塩もしくは水相でプロトンを解離して正の電荷をもつ化合物を、イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質を形成する物質として、水相に加えることができる。正の電荷をもつ化合物として、限定されないが、例えば、天然または非天然型高分子およびアンモニウム化合物、ホスホニウム化合物およびスルホニウム化合物等を用いることができる。
【0052】
「天然または非天然高分子」としては、限定されないが、例えば、カルボキシメチルセルロース、キトサン等が例として挙げられる。例えばイオン性ポリマーであるポリグルタミン酸とその反対の電荷を持つキトサンはイオンコンプレックスを形成することが知られている(Y.H. Lin et al. (2007);K. Sonaje et al. (2009))。
【0053】
「アンモニウム化合物」は、アンモニウムイオンを有し、窒素原子が正電荷をもつ化合物であれば限定されない。「ホスホニウム化合物」は、ホスホニウムイオンを有し、リン原子が正電荷をもつ化合物であれば限定されない。「スルホニウム化合物」は、スルホニウムイオンを有し、硫黄原子が正電荷をもつ化合物であれば限定されない。
【0054】
アンモニウム化合物、ホスホニウム化合物、スルホニウム化合物の塩としては、限定されないが、例えば、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヘキサデシルピリジニウムクロライドや、塩化ベンザルコニウム等の第4級アンモニウムイオン化合物の塩
;テトラブチルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムブロマイド等のホスホニウム化合物の塩;テトラブチルスルホニウムヨージド等のスルホニウム化合物の塩等が挙げられるが、特に第4級アンモニウムイオン化合物の塩が入手性等の観点から優れ
ている。
本発明においてイオン性ポリマーを微生物により合成するときに、「イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質」を形成する物質としてヘキサデシルピリジニウムクロライド等の第4級アンモニウムイオン化合物の塩を使用する場合には、第4級アンモニウムイオン化合物の塩は抗菌性を有するため、微生物にイオン性ポリマーを製造させた培養液に、有機相にかかる溶液を追加し混合させて調製する方法、培養液中で微生物がイオン性ポリマーの合成を開始した後に有機相にかかる溶液を追加しイオン性ポリマーを連続的に抽出する方法の方が、第4級アンモニウムイオン化合物の塩による微生物への影響を低減でき得
るため、好ましい。
イオンコンプレックスを形成させるためのイオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質の添加量は、後述のとおりであるが、「イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質」を形成する物質としてヘキサデシルピリジニウムクロライド等の第4級アンモニウムイオン
化合物の塩を使用する場合には、第4級アンモニウムイオン化合物の塩の抗菌性による微
生物への影響を抑制するために、イオン性ポリマーのポリマー構成単位に対して1.0モル
倍以下であることが好ましい。また、イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質の添加量は水相中の全てのイオン性ポリマーがイオンコンプレックスを形成しないように調整することで、第4級アンモニウムイオン化合物の塩による微生物への影響を低減できる事が
期待できる。
【0055】
カチオンであるアンモニウム化合物、ホスホニウム化合物またはスルホニウム化合物との塩を構成するカウンターアニオンとしては、限定されないが、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオンを挙げることができる。
【0056】
ここで第4級アンモニウムイオン化合物は、第4級アンモニウムイオンを有し、窒素原子が正電荷をもつ物質を広く示しており、ピリジニウムイオンを有する化合物、キノリニウムイオンを有する化合物、ピラジニウムイオンを有する化合物等を含む概念である。
【0057】
また第4級アンモニウムイオン化合物のうち、分子の電荷あたりの炭素数が10以上であ
るものがよく、15以上が好ましく、20以上が特に好ましい。電荷1価あたりの炭素数とは
、例えば、ヘキサデシルピリジニウムであれば、1価のカチオンであり、21の炭素を含む
ため、電荷1価あたりの炭素数は21である。電荷1価あたりの炭素数が10以上であればアンモニウム塩の疎水性が十分にあり、イオン性ポリマーとのイオンコンプレックスを形成した際、有機相への溶解性を十分に維持できる。
【0058】
また、1分子当たり2以上の電荷をもつ第4級アンモニウムイオン化合物を用いることも
できる。具体的には、第4級アンモニウムイオン化合物の塩として、1,1'-ジデシル-3,3'-[ブタン-1,4-ジイルビス(オキシメチレン)]ジピリジニウム=ジブロミド、塩化デカ
リニウム等が挙げられるが、これに限定されない。
【0059】
第4級アンモニウムイオン化合物の電荷1価あたりの炭素数の上限は特に限定されないが40以下が好ましく、30以下が特に好ましい。電荷1価あたりの炭素数が40以下であれば分
子量が増加しすぎず、イオン性ポリマーの量に対して添加量が増加しすぎることがない。
【0060】
本発明に用いる第4級アンモニウムイオン化合物は、限定されないが、例えば、下記式
(I)または式(II)により定義されるものが特に好ましい。
【0061】
【化1】
【0062】
式中、R1~R3は独立してC1-2アルキル基を示し、R4~R5は独立してC12-20アルキル基
を示す。
【0063】
C1-2アルキル基は、炭素数1~2の直鎖状の脂肪族炭化水素、即ちメチルまたはエチルを意味する。
C12-20アルキル基は、炭素数12~20の直鎖状または分枝鎖状の脂肪族炭化水素を意味する。例えばドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル等の直鎖状C12-20アルキル基;イソテトラデシル、イソペンタデシル、sec-ペンタデシル、sec-ヘキサデシル、sec-ヘプタデシル、sec-オクタデシル、t-テトラデシル、t-ペンタデシル、t-ヘキサデシル、t-ヘプタデシル、t-オクタデシル、ネオテトラデシル、ネオペンタデシル、ネオヘキサデシル、ネオヘプタデシル、ネオオクタデシル等の分枝鎖状C12-20アルキル基を挙げることができる。R4としては、好ましくはC15-20アルキル基であり、より好ましくはC16-20アルキル基であり、最も好ましくはC17-20アルキル基である。R5としては、好ましくはC13-20アルキル基であり、より好ましくはC14-19アルキル基、最も好ましくはC15-18アルキル基である。
【0064】
式(I)または式(II)により示される化合物として、限定されないが、例えば、オクタデシルトリメチルアンモニウム、ヘキサデシルピリジニウム等が挙げられる。
【0065】
イオン性ポリマーが正の電荷を有する場合、水相でカチオンを解離して負の電荷をもつ化合物の塩もしくは水相でプロトンを解離して負の電荷をもつ化合物をイオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質として、水相に加えることができる。負の電荷をもつ化合物としては、限定されないが、例えば、有機酸化合物等を用いることができる。
【0066】
負の電荷をもつ化合物の塩としては、限定されないが、例えば、ジ-2-エチルヘキシル
スルホこはく酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸およびその塩等のスルホン酸お
よびその塩やラウリン酸ナトリウムやラウリン酸等のカルボン酸およびその塩等の有機酸化合物の塩が挙げられるが、これに限定されない。
【0067】
アニオンである有機酸化合物との塩を構成するカウンターカチオンとしては、限定されないが、例えば、ナトリウムイオンまたはカリウムイオン等のアルカリ金属イオンを挙げることができる。
【0068】
(イオンコンプレックス)
本発明において「イオンコンプレックス」とは、イオン性ポリマーと、イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質とのイオン性複合体を意味し、イオン性ポリマーと、イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質とから荷電を中和するように形成される水不溶性の物質である。
【0069】
本発明において「イオンコンプレックス」を形成させるとは、水相中に含有されているイオン性ポリマーと、それと反対の電荷を有する物質とを接触させ、水相に不溶性のイオンコンプレックスを形成させることを意味する。
【0070】
イオンコンプレックスを形成させるためのイオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質の添加量は、目的化合物である所望のイオンコンプレックスの種類やイオンコンプレックスに改質する割合に応じて適宜調整できるが、イオン性ポリマーを十分に改質する場合は、限定されないが、イオン性ポリマーのポリマー構成単位に対して0.5モル倍以上である
ことが好ましく、0.6モル倍以上であることがさらに好ましく、0.7モル倍以上であることがより好ましい。また、限定されないが、イオン性ポリマーのポリマー構成単位に対して3.0モル倍以下であることが好ましく、2.0モル倍以下であることがさらに好ましく、1.0
モル倍以下であることがより好ましい。また、任意の割合でイオン性ポリマーを改質する場合は、割合に応じてイオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質の添加量を調整することができる。
【0071】
イオン性ポリマーおよびイオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質の使用量は、その溶液の濃度や量によっても調整できるが、比重1に近似する溶媒に対する理想添加量としては、該ポリマーが保持するイオン性残基の濃度概算値が、水相中において0.5%(w/w)
以上、10%(w/w)以下程度、該イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質の実質濃度が、有機相中において0%(w/w)超、1.0%(w/w)以上または10%(w/w)以上、40%(w/w)以下、30%(w/w)以下または20%(w/w)以下程度になるよう調整することが好ましい。
【0072】
イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質は、そのまま水相、有機相または混合液に添加してもよいが、溶液の形で添加してもよい。具体的には、例えば、水溶媒;メタノールやエタノール等のアルコール系有機溶媒;ジエチルエーテルやTHF等のエーテル系溶媒
;ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒他、またはこれらの混合溶媒等の溶液として添加してもよい。
微生物等によって水相中にイオン性ポリマーを生産する場合は、イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質を培養の開始時または途中で添加してもよく、培養後に添加または追加してよい。
【0073】
イオンコンプレックスは加温なしで合成できる。但し、イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質のなかに温水で可溶のものがあるため、イオンコンプレックスの安定供給のため、適度に加熱することが好ましい。加熱温度は、例えば40℃以上、80℃以下程度とすることができる。形成のための時間は適宜調整すればよいが、通常、30分間以上、20時間以下程度とすることができる。
【0074】
(有機相への移行)
本発明の抽出方法において、形成されたイオンコンプレックスは、水不溶性であり有機相に移行する。
イオンコンプレックスの有機相への移行を促進するために水相と有機相の攪拌等を行ってもよい。
【0075】
本発明のイオンコンプレックスを有機相から分離するには、有機相に貧溶媒としての水等を添加する等により析出させることができる。析出したイオンコンプレックスは、濾過や遠心分離等により溶媒から容易に分離することができる。
【0076】
本発明のイオンコンプレックスは、分離した後、洗浄や乾燥してもよい。例えば、分離したイオンコンプレックスは、温水等で洗浄することにより、過剰なイオン性ポリマー、イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質、その他の水溶性試薬を除去することが可能である。また、余剰の水分はアセトン浴等の工程を経て簡便に除去できる。
【0077】
<精製方法および製造方法>
本発明のさらなる一態様は、水相中に含有されるイオン性ポリマーと前記イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質とのイオンコンプレックスを形成させ、前記イオンコンプレックスを有機相に移行させる工程;および、同工程により、有機相に移行したイオンコンプレックスからイオン性ポリマーを遊離させる工程、を含むことを特徴とする、イオン性ポリマーの精製方法(以下、「本発明の精製方法」と称することがある)に関する。
【0078】
本発明のさらなる一態様は、水相中で微生物によりイオン性ポリマーを合成させる工程;水相中に含有されるイオン性ポリマーと前記イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質とのイオンコンプレックスを形成させ、前記イオンコンプレックスを有機相に移行させる工程;および、同工程により、有機相に移行したイオンコンプレックスからイオン性ポリマーを遊離させる工程、を含むことを特徴とする、イオン性ポリマーの製造方法(以下、「本発明の製造方法」と称することがある)に関する。
水相中で微生物によりイオン性ポリマーを生産させる工程においては、水相と有機相とを有する混合液中で微生物を培養し、微生物によりイオン性ポリマーを合成させてもよく、水相単相中で微生物によりイオン性ポリマーを合成させ、有機相を微生物の培養終了後に添加してもよい。
ここで、上記水相中で微生物によりイオン性ポリマーを合成させる工程;および、水相中に含有されるイオン性ポリマーと前記イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質とのイオンコンプレックスを形成させ、前記イオンコンプレックスを有機相に移行させる工程は、複数回繰り返してもよい。この場合、これらの工程後、有機相を除去し、微生物を含む水相をイオン性ポリマーの合成に再度使用できる。すなわち、イオンコンプレックスの連続的生産が可能である。
操作の簡便性の観点からは、好ましくは、水相と有機相とを有する混合液中で微生物を培養し、微生物によりイオン性ポリマーを合成させる態様である。
【0079】
有機相に移行したイオンコンプレックスからイオン性ポリマーを遊離させるには、有機相に酸を添加すること等により、イオン性ポリマーとイオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質とのイオンコンプレックスの結合構造、すなわち、イオンコンプレックス形成に必須の該結合構造のみを解除し、イオン性ポリマーを有機相内に放出、沈殿させること等で行うことができる。沈殿したイオン性ポリマーは、濾過や遠心分離等により有機相から容易に分離することができる。
【0080】
酸は、イオンコンプレックスの結合構造を解除できるものであれば、特に限定されない。濃塩酸等を使用する場合、該イオン性ポリマーのイオン性残基と約等モルの添加を基本
とするため、少用量の範囲に止めることができる。また、かかる解除反応は瞬時に完了するため、酸への長時間曝露を避ける点も有益とされる。例えば、1g相当のポリグルタミ
ン酸が含まれるイオンコンプレックス溶解液には約7.8ミリモルの塩化水素分子を添加す
る。具体的には、基準溶解液(1%)100mLには12N濃塩酸0.65mLを添加する。これより、終濃度換算で0.01N以上、好ましくは0.01N~2N、より好ましくは0.05N~0.2Nになるように
添加量を調整することが望ましい。
【0081】
本発明のイオン性ポリマーは、分離した後、洗浄や乾燥してもよい。例えば、分離したイオン性ポリマーは、温水等で洗浄することにより、過剰なイオン性ポリマー、イオン性ポリマーと反対の電荷を有する物質、その他の水溶性試薬を除去することが可能である。また、余剰の水分はアセトン浴等の工程を経て簡便に除去できる。
【0082】
また、有機相に移行したイオンコンプレックスからイオン性ポリマーを遊離させるには、有機相を乾燥させてイオンコンプレックス固形物を得て、同固形物を酸に浸漬し、イオン性ポリマーを遊離させ、沈殿させること等でも行うことができる。酸の種類、使用量等については上記と同様である。沈殿したイオン性ポリマーは、濾過や遠心分離等により酸から容易に分離することができる。
【実施例
【0083】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例の態様に限定されない。
【0084】
<実施例1> 微生物毒性が低く、かつ二相形成および目的物質の選択溶解に適う有機溶媒
(実施例1-1) 二相形成に適うアルコール系有機溶媒の選択
メタノールから1-デカノールまでの液体状の低級アルコールを有機相として選択した。水相と有機相を1:1の割合で静かに重層させ、静置、二相形成の経時変化を調査した。
結果を図1に示す。
本試験系において、分配係数が低い(≦0.3)有機溶媒については二相を形成しなかっ
た。
【0085】
(実施例1-2) 目的物質の選択溶解に適うアルコール系有機溶媒の選択
本試験では、目的物質はポリγグルタミン酸イオンコンプレックス(PGA-IC)である。より具体的には、カチオン性界面活性剤であるヘキサデシルピリジニウム(HDP)とPGAが結合してなる複合体であり、PGA-HDPと示される。また、選択されたアルコール系有機溶
媒から、さらに該目的物質(PGA-IC のなかでも特にPGA-HDP)の選択溶解に適う同溶媒について調査した。
結果を図1に示す。
本試験において、分配係数が高い(≧2.0)有機溶媒についてはPGA-ICの溶解挙動が観
察されなかった。適度な分配係数を有する1-ブタノール、1-ペンタノールについては、PGA-IC(特にPGA-HDP)の溶解挙動のいずれも良好であった。
【0086】
(実施例1-3) 目的有機溶媒(1-ペンタノール)の戦國醤菌に対する毒性
本発明の目的に適うアルコール系有機溶媒として1-ペンタノールを選択した。1-ペンタノール/水混合液において、戦國醤菌等の生育に対する有機溶媒の添加量の影響を検討した。具体的には、LB液体培地で戦國醤菌を前培養し、定常期付近で菌体を回収、生菌数濃度が1010cells/mL程度となるようにLB液体培地に添加した。次いで、適切量の1-ペンタノールを重層後培養し、24時間までの生菌数変動を調査した。特定の時間毎に培養液の一部を分取し、必要に応じて希釈した。希釈した菌体液の前後(例えば10x、10x+1希釈した菌体液)をそれぞれLB平板培地に播種し、コロニー計測を行なった。
結果を図2に示す。
戦國醤菌について、培養液である水相のみでの培養(単相培養)、培養液である水相に有機溶媒を添加した培養(二相培養)[有機相:水相(w/w)=1:20および1:2]のいずれに
おいても戦國醤菌の生育が確認された。この結果から、1-ペンタノールの戦國醤菌に対する生存への影響(毒性)は低い(事実上無視できる水準)との結論を得た。
【0087】
<実施例2> 二相混合系における目的物質の合成と有機相への効率移動
(実施例2-1) 相移動促進剤の選択と濃度最適化
PGAの相移動促進剤としてヘキサデシルピリジニウム(HDP)を用いた。また、PGAはHDPと結合することにより目的物質(PGA-HDP)が合成され、有機相へ移動するものと考えら
れる。そこで、相移動最適化のため、有機相に投入するHDPの濃度を検討した。結果、0%(w/w)超40%(w/w)以下の範囲で好ましく、30%(w/w)以下がより好ましく、20%(w/w)以下がさらに好ましいことが明らかになった。
【0088】
(実施例2-2) 二相混合系でのPGA-HDPの合成と有機相への移動
相移動促進剤としてのHDP量は使用したPGAが理論上すべてPGA-HDPに変換されるのに必
要な量と定めた。例えば総量5gのPGAに対しては約15gのHDPを使用することになる。本試
験(二相混合系)においては有機相にHDPを溶解させる。一方、絶対水溶性のPGAに関しては水相に分散させる条件とした。これら二相を混合し反応させることで、その界面ではPGA-HDPが合成されると考えられる。次いで絶対不溶性のPGA-HDPは即座に有機相へ移動するものと考えられる。この界面反応が円滑に進めば、水相中のPGAは消滅することになる。
そこで、かかる合成と相移動の最適化を図るため有機溶媒中の最適HDP濃度およびその最
適使用量について検討した。
結果を図3に示す。
表記のHDP含有1-ペンタノールとPGA水溶液(1%(w/w); 総重量0.5 g)からなる二相混合系を調製し、10分間攪拌した。二相形成確認後、必要に応じて遠心分離(13,000 rpm、10分間、室温)に供し、有機相と水相からそれぞれ一部を分取した。
【0089】
(実施例2-3) 水相中の残存PGA量の測定
分取した水相中のPGA濃度を測るため、「サフラニン法」を用いた。まず、1.73%(w/w)
クエン酸三ナトリウム二水和物溶液に対し、1.14%(w/w)クエン酸溶液の滴下を行ない、pH6.0に調整した1.73%(w/w)クエン酸ナトリウム緩衝液を溶液Aとする。次いで0.85%(w/w)生理食塩水を溶液B、0.1%(w/w)サフラニン試薬を溶液Cとし、PGA標品(溶液)と各調整溶液A、B、Cをそれぞれ1:2:5:2の割合で混合する。混合後10分間静置し、静置後遠心分離
(13,000 rpm、10分間、室温)に供した。最後に、遠心分離後の上清一部を分取、0.85%(w/w)生理食塩水で50倍に希釈、492 nmの波長で測定したところ水相中PGA標品の検量線を
得た:y=0.7375x(0 ≦ y ≦ 0.058)。x軸はPGA濃度を表し、その有効範囲は0から0.08%(w/w)、y軸は吸光度の変化値を表す。
結果を図3に示す。HDP濃度は10%(w/w)から40%(w/w)の範囲、有機相の使用量は(水相0.5 gに対して) 0.05 gから0.2 g(特に0.05 gが好適)の範囲で顕著なPGAの消滅が認め
られた。
【0090】
(実施例2-4) 有機相に移動したPGA総量の測定(PGA-HDPからのPGA復帰工程とその
定量)
有機相に移動した物質は絶対水溶性のPGAではなく、正しくはPGA-HDPと想定される。そのため、PGAへの復帰工程が必要となる。そこで、PGA-HDP標品(固形)をペンタノールに溶解し、1.69%(w/w)PGA-IC/ペンタノール溶液を調製した。PGA-HDP標品(固形)はPGA:HDP=1:2.38の組成比となるので1.69%(w/w)PGA-HDP中には計算上0.5%(w/w)PGAが存在して
いることになる。上記混液をPGA換算で0.5%(w/w)から0.1%(w/w)となるようにペンタノー
ルを用いて0.1%(w/w)ずつ段階希釈を行なった。分取した各希釈溶液に対して、0.5%(w/w)
PGAカルボキシル基モルを超えるように12N HClを添加した。添加後、10分間攪拌し、遠心分離(13,000 rpm、10 分間、室温)に供した。遠心分離後、上清を捨て、沈殿(PGA-H)に対して無水エタノールを分取希釈溶液量と同量添加し、軽く攪拌したのち再び遠心分離(13,000 rpm、3分間、室温)を行なった。無水エタノールでの洗浄操作を計2回行なった後、60℃で5分間、乾燥させた。乾燥後、0.1%(w/w) Na2CO3を分取希釈溶液量分だけ添加
し、30分間攪拌した。攪拌後、壁面に飛沫した溶液を回収し、これを復帰PGA標品(溶液
)とした。この標品を「サフラニン法」に供したところ復帰PGA標品(溶液)検量線を得
た:y=0.1967x(0 ≦ y ≦ 0.038)。この検量線を基に有機相に移動したPGA総量を算出
した。
結果を図3に示す。HDP濃度は10%(w/w)から40%(w/w)の範囲、有機相の使用量は(水相0.5 gに対して) 0.05 gから0.2 g(特に0.05 gが好適)の範囲で顕著な復帰PGAの回収が
認められた。以上の結果は水相から消滅したPGA量とほぼ一致する数値であったことから
、PGAの円滑な有機相移動プロセスを確立できたものと判断した。
【0091】
<実施例3> PGA有機相移動プロセスを導入した微生物バイオポリマー発酵法
(実施例3-1) 二相培養に適した微生物菌体の調製
PGA合成を即座に開始できる微生物菌体の作製を目的とする。まず、LB液体培地を用い
て菌体密度を飽和限界まで上昇させた。その後、最大密度に達した菌体を全て回収し、PGA合成準備培地(5% スクロース、2% L-グルタミン酸水素ナトリウム一水和物、1% 硫酸アンモニウム、0.5% 硫酸マグネシウム・七水和物、0.42% リン酸水素二ナトリウム、 0.27% リン酸二水素カリウム、0.5% 塩化ナトリウム、必要応じて0.5% 酵母エキスを追加)に投入、37℃、6時間培養することで準備期に移行させた。準備期細胞を遠心分離に供し、
回収した。当該プロセスの利点はPGA合成までのタイムラグを短縮させるばかりでなく、
カチオン性界面活性剤であるHDPの毒性を最小化させるPGAの即時合成にある。これは二相培養系の構築において重要な意味をもつ。
【0092】
(実施例3-2) PGA有機相移動プロセスを導入した微生物バイオポリマー発酵法の検

戦國醤菌を対象に実施例3-1の方法で準備期細胞を調製した。これを二相混合系のうち
の水相に投入し、培養(pH 6.8;温度37℃)を開始した。なお、有機相(1-ペンタノール
)には量論的に水相中で生産されたPGAの半量程度をPGA-IC化するHDPを溶解させた(15%(w/w)以上)。当該有機相を水相の1/10の割合で添加、1時間振とうした後、該有機相を回収、水相中のPGA残存量と有機相に移動したPGA実質量を(実施例2で示した)「サフラニン法」により算出した。このプロセスを計3回繰り返した。
結果を図4に示す。
縦軸下段は水相中のPGA生産挙動、上段は有機相移動プロセスを介して最終的に復帰PGAとして回収されたものの収量を示す。横軸は培養時間を示している。結果、水相中に生産されたPGAのうち、ほぼ計画量通りの回収が認められた。
上記結果から、培養液に有機相を添加し、有機相のみを抽出することでイオン性ポリマーが回収できるため、イオン性ポリマーを回収した後の微生物を含む水相をそのままイオン性ポリマーの生産に再利用できることが示された。すなわち、本発明の方法により、イオン性ポリマーの連続生産を可能にできる。
【0093】
PGA等のイオン性ポリマーの微生物合成および迅速回収の新たな方法論として本発明の
二相抽出技術を提案する。また、復帰PGA等の復帰イオン性ポリマーが高純度で得られる
ことから、夾雑物の多い微生物培養液に対してもイオン性ポリマーの回収と精製をワンポットで実行できる発酵新技術を提供する。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明によれば、従来技術よりも効率的で高精度なイオン性ポリマーの抽出方法が提供
できる。
図1
図2
図3
図4