(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】単体シリコンの研磨速度向上剤
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20230425BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20230425BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20230425BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
C09K3/14 550Z
C09G1/02
(21)【出願番号】P 2019055141
(22)【出願日】2019-03-22
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】角橋 祐介
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-127987(JP,A)
【文献】国際公開第2016/181889(WO,A1)
【文献】特表2005-518090(JP,A)
【文献】特開2009-283951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C09K 3/14
C09G 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が修飾されてなる砥粒と、
遷移金属イオンと、液体キャリアとを含
み、
前記修飾は、前記表面に有機酸由来の酸性基、ここで当該有機酸はスルホン酸、カルボン酸、あるいは、リン酸である、が任意にリンカー構造を介して共有結合により固定されることによりなされている、単体シリコンを研磨するための研磨用組成物。
【請求項2】
前記遷移金属イオンが、単体金属のイオンである、請求項1に記載の
研磨用組成物。
【請求項3】
前記遷移金属イオンが、第1遷移系列の遷移元素イオンである、請求項1または2に記載の
研磨用組成物。
【請求項4】
前記遷移金属イオンが、銅イオン、ニッケルイオン、鉄イオンおよびマンガンイオンからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の
研磨用組成物。
【請求項5】
前記鉄イオンが、Fe
3+である、請求項4に記載の
研磨用組成物。
【請求項6】
前記単体シリコンが、単結晶シリコン、多結晶シリコンおよびアモルファスシリコンからなる群から選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の
研磨用組成物。
【請求項7】
前記単体シリコンが、半導体基板である、請求項1~6のいずれか1項に記載の
研磨用組成物。
【請求項8】
前記単体シリコンが、多結晶シリコンである、請求項6に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
前記遷移金属イオンが、0.5mM~20mM含まれる、請求項
1~8
のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項10】
前記単体シリコンが、さらに、単結晶シリコンおよびアモルファスシリコンの少なくとも一方を含む、請求項8に記載の研磨用組成物。
【請求項11】
pHが、7.0未満である、請求項
1~10のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項12】
pHが、1~6である、請求項11に記載の研磨用組成物。
【請求項13】
過酸化水素を実質的に含まない、請求項
1~12のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単体シリコンの研磨速度向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSI(Large Scale Integration)の高集積化、高性能化に伴って新たな微細加工技術が開発されている。化学機械研磨(chemical mechanical polishing;CMP)法もその一つであり、LSI製造工程、特に多層配線形成工程における層間絶縁膜の平坦化、金属プラグ形成、埋め込み配線(ダマシン配線)形成において頻繁に利用される技術である。
【0003】
当該CMPは、半導体製造における各工程に適用されてきており、その一態様として、例えばトランジスタ作製におけるゲート形成工程への適用が挙げられる。トランジスタ作製の際には、シリコン、多結晶シリコン(ポリシリコン)やシリコン窒化物(窒化ケイ素)といったSi含有材料を研磨することがあり、トランジスタの構造によっては、各Si含有材料の研磨レートを制御することが求められている。
【0004】
例えば、特許文献1~3には、砥粒、界面活性剤等を含む研磨剤でポリシリコンを研磨する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-41992号公報
【文献】国際公開第2008/105223号
【文献】特開2006-344786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ポリシリコン等の単体シリコンを研磨するに当たり、高い研磨速度で研磨することができる単体シリコンの研磨速度向上剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明者は鋭意研究を積み重ねた。その結果、遷移金属イオンと、液体キャリアとを含む、単体シリコンの研磨速度向上剤により上記課題が解決されうることを見出した。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、ポリシリコン等の単体シリコンを研磨するに当たり、高い研磨速度で研磨することができる単体シリコンの研磨速度向上剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0010】
本発明は、遷移金属イオンと、液体キャリアとを含む、単体シリコンの研磨速度向上剤である。かかる構成によって、ポリシリコン等の単体シリコンを研磨するに当たり、高い研磨速度で研磨することができる単体シリコンの研磨速度向上剤を提供することができる。
【0011】
[研磨対象物]
本発明の一実施形態によれば、研磨対象物は、単体シリコンである。単体シリコンとしては、特に制限はないが、ポリシリコン(Poly Si、多結晶シリコン)、単結晶シリコン、アモルファスシリコン、ドープドシリコン等が挙げられる。かかる実施形態によれば、研磨速度向上の効果を効率的に得ることができる。本発明の一実施形態において、単体シリコンの用途は制限されず、半導体基板、太陽電池の基板、液晶ディスプレイ(LCD)のTFT等が挙げられる。また、それらのテストウェハ、モニターウェハ、搬送チェックウェハ、ダミーウェハ等にも好適である。
【0012】
本発明の一実施形態によれば、研磨対象物は、単体シリコン以外の研磨対象物を含んでもよい。
【0013】
[単体シリコンの研磨速度促進剤]
(液体キャリア)
本発明の一実施形態によれば、液体キャリアとしては、有機溶媒、水(特に純水)が考えられるが、研磨対象物の汚染や他の成分の作用を阻害するという観点から、不純物をできる限り含有しない水が好ましい。具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水が好ましい。
【0014】
(遷移金属イオン)
本発明の一実施形態における、単体シリコンの研磨速度促進剤は、遷移金属イオンを含む。ここで上述の用途(特に半導体基板)においては、不純物が各種デバイスに悪影響を与え得ることが知られている。不純物としては、パーティクル、金属等がある。パーティクルは、配線パターンを正常に形成するのを妨げる。また、金属不純物は、例えば、ゲート酸化膜の耐圧劣化や、PN接合における微小の電流リーク、トランジスタ動作不安定性を引き起こす。ゆえに、かような用途における分野においては、金属は不純物になりうるとして、従前、その使用が忌避されてきた。本発明は、遷移金属イオンを敢えて積極的に組成物中に含有させるという斬新な手法を用いて単体シリコンの研磨速度を向上させるとの従来にない画期的なものである。
【0015】
本発明の一実施形態によれば、遷移金属イオンとは、遷移金属のイオンである。本発明の一実施形態において、遷移金属とは、周期表で第3族元素から第11族元素の間に存在する元素である。
【0016】
本発明の一実施形態によれば、前記遷移金属イオンが、第1遷移系列(スカンジウムから銅)または第2遷移系列(イットリウムから銀)であることが好ましい。本発明の一実施形態によれば、前記遷移金属イオンが、第1遷移系列の遷移元素イオンであることがより好ましい。かかる実施形態によれば、遷移金属イオンがイオンとして安定的に研磨用組成物中に存在し、研磨時に単体シリコン表面への析出を防ぐことができる効果がある。
【0017】
本発明の一実施形態によれば、前記遷移金属イオンが、単体金属のイオンである。かかる実施形態によれば、単体シリコン表面を除去しやすい形に変化させるのに有利と考えられる。よって、本発明の一実施形態によれば、前記遷移金属イオンが、過マンガン酸由来のイオン、クロム酸由来のイオン、二クロム酸由来のイオンおよび鉄酸由来のイオンからなる群から選択される少なくとも1種のイオンではないことが好ましい。本発明の一実施形態において、前記遷移金属イオンが、単体金属のイオン以外のイオンであると、単体シリコン表面の過剰な酸化による研磨性能の低下の虞もある。
【0018】
本発明の一実施形態によれば、スカンジウム(3価イオンの形態でのみ存在)、チタン(3価イオンの形態でのみ存在)、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト(以上、2価イオンと3価イオンが存在)、ニッケル(2価イオンの形態でのみ存在)、銅(1価イオンと2価イオンが存在)等の第1遷移系列の遷移金属イオン;イットリウム(3価の形態でのみ存在)、ジルコニウム(4価イオンでの形態で存在することが一般的)、ニオブ(5価イオンの形態で存在することが一般的)、モリブデン(2価イオンから5価イオンの形態で存在することが一般的)、ルテニウム(2価イオンと3価イオンの形態で存在)、ロジウム(1価イオンから4価イオンの形態で存在)、パラジウム(2価イオンと4価イオンの形態で存在)、銀(1価イオンから3価イオンの形態で存在)等の第2遷移系列の遷移金属イオン;およびタンタル(5価イオンの形態で存在することが一般的)、タングステン(2価イオンから5価イオンの形態で存在)、イリジウム(1価イオンから4価イオンの形態で存在)、白金(2価イオンと4価イオンの形態で存在)、金(1価イオンから3価イオンの形態で存在)等の第3遷移系列の遷移金属イオン;セリウム、プラセオジウム(3価イオンと4価イオンの形態で存在)、サマリウム、ユウロピウム(2価イオンと3価イオンの形態で存在)、テルビウム(3価イオンと4価イオンの形態で存在)、イッテルビウム(2価イオンと3価イオンの形態で存在)等の第3遷移系列のランタノイド系列のイオン;からなる群から選択されうる。本発明の一実施形態によれば、前記遷移金属イオンが、銅イオン、ニッケルイオン、鉄イオンおよびマンガンイオンからなる群から選択されうる。かかる実施形態によれば、単体シリコン表面を除去しやすい形に変化させるのに有利と考えられる。
【0019】
本発明の一実施形態によれば、前記遷移金属イオンとしては、好ましくは複数の価数を持つものであり、より好ましくは複数の価数を持つものの内、高いものがよい。かかる実施形態によれば、ポリシリコンの研磨速度向上の効果がより顕著となる。例えば、ニッケルイオンは、2価イオンの形態での形態でのみ存在し、鉄イオンは、2価イオン、3価イオンの複数の価数を有しうるため、複数の価数を持つとの観点で、鉄イオンの方が好ましい。また、鉄イオンで比較すれば、より高い価数を持つ観点で、Fe2+よりもFe3+の方が好ましい。セリウムイオンで比較すれば、より高い価数を持つ観点で、Ce3+よりもCe4+の方が好ましい。
【0020】
本発明の一実施形態によれば、遷移金属イオン源としては、硫酸銅・五水和物、硫酸ニッケル・六水和物、硫酸鉄(II)・七水和物、硫酸鉄(III)・n水和物、硫酸マンガン・五水和物、硫酸スカンジウム・五水和物、硫酸チタン(III)、塩化バナジウム(II)、硫酸バナジウム、硫酸クロム(II)水和物、塩化クロム(III)・六水和物、硫酸コバルト・七水和物、塩化コバルト(III)、硫酸イットリウム(III)・八水和物、硫酸ジルコニウム(IV)・四水和物、塩化ニオブ(V)、塩化モリブデン(III)、塩化ルテニウム(III)、塩化ロジウム(III)、硝酸ロジウム(IV)、塩化パラジウム(II)、四酢酸パラジウム(IV)、硝酸銀(I)、塩化タンタル(V)、塩化タングステン(V)、塩化イリジウム(III)・三水和物、塩化イリジウム(IV)、塩化金(III)、硝酸セリウム(III)・六水和物、硝酸セリウム(IV)アンモニウム、塩化プラセオジム(III)・水和物、硫酸サマリウム(III)・八水和物、硫酸ユウロピウム(III)・八水和物、硫酸テルビウム(III)、硫酸イッテルビウム(III)・八水和物等が好適である。かかる実施形態によれば、容易に水に溶解するなどのハンドリングの点で有利である。
【0021】
本発明の一実施形態によれば、液体キャリア中に、前記遷移金属イオンが、10mM以上含まれることが好ましく、20mM以上含まれることがより好ましく、50mM以上含まれることがさら好ましい。かかる下限であることによって単体シリコンの研磨速度を向上させるのに十分な金属イオン濃度を確保できる。本発明の一実施形態によれば、液体キャリア中に、前記遷移金属イオンが、1000mM以下含まれることが好ましく、500mM以下含まれることがより好ましく、100mM以下含まれることがさらに好ましい。かかる上限であることによって保管時の析出を抑制する効果がある。
【0022】
[研磨用組成物]
本発明の一実施形態によれば、砥粒と、上記の研磨速度向上剤と、を含む、研磨用組成物が提供される。かかる実施形態によれば、単体シリコンの研磨速度向上の効果を効率的に得ることができる。
【0023】
(砥粒)
研磨用組成物中に含まれる砥粒は、研磨対象物を機械的に研磨する作用を有し、研磨対象物である単体シリコンの研磨速度を向上させる。
【0024】
本発明の一実施形態において、砥粒の具体例としては、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の金属酸化物からなる粒子が挙げられる。該砥粒は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。また、該砥粒は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。これら砥粒の中でも、シリカが好ましく、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカがより好ましく、特に好ましいのはコロイダルシリカである。コロイダルシリカの製造方法としては、ケイ酸ソーダ法、ゾルゲル法が挙げられ、いずれの製造方法で製造されたコロイダルシリカであっても、本発明の砥粒として好適に用いられる。しかしながら、高純度で製造できるゾルゲル法により製造されたコロイダルシリカが好ましい。
【0025】
本発明の一実施形態において、前記砥粒は、その表面が修飾されてなる砥粒である。その表面が修飾されてない砥粒を用いると、単体シリコンの研磨速度を向上させることができない虞がある。かような砥粒は、例えば、アルミニウム、チタンまたはジルコニウム等の金属あるいはそれらの酸化物を砥粒と混合して砥粒の表面にドープすることや、有機酸やアミノ基等を固定化することにより得ることができる。そのなかでも好ましいのは、有機酸を表面に化学的に結合させたシリカである。
【0026】
本発明の一実施形態において、前記有機酸は、特に制限されないが、スルホン酸、カルボン酸、リン酸等が挙げられ、好ましくはスルホン酸である。なお、有機酸を表面に固定したシリカは、シリカの表面に上記有機酸由来の酸性基(例えば、スルホ基、カルボキシル基、リン酸基等)が(場合によってはリンカー構造を介して)共有結合により固定されていることになる。ここで、リンカー構造とは、シリカの表面と、有機酸との間に介在する任意の構造を意味する。よって、有機酸を表面に固定したシリカは、シリカの表面に有機酸由来の酸性基が直接共有結合により固定されることによって形成されてもよいし、リンカー構造を介して共有結合により固定されることによって形成されていてもよい。これらの有機酸をシリカ表面へ導入する方法は特に制限されず、メルカプト基やアルキル基等の状態でシリカ表面に導入し、その後、スルホン酸やカルボン酸に酸化するといった方法の他に、上記有機酸基に保護基が結合した状態でシリカ表面に導入し、その後、保護基を脱離させるといった方法がある。
【0027】
有機酸を表面に固定したシリカの具体的な合成方法として、有機酸の一種であるスルホン酸をシリカの表面に固定するのであれば、例えば、“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”, Chem. Commun. 246-247 (2003)に記載の方法で行うことができる。具体的には、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のチオール基を有するシランカップリング剤をシリカにカップリングさせた後に過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸が表面に固定化されたシリカを得ることができる。本発明の実施例のスルホン酸が表面に修飾されているコロイダルシリカも同様にして製造している。
【0028】
カルボン酸をシリカの表面に固定するのであれば、例えば、“Novel Silane Coupling Agents Containing a Photo labile 2-Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica Gel”, Chemistry Letters, 3, 228-229 (2000)に記載の方法で行うことができる。具体的には、光反応性2-ニトロベンジルエステルを含むシランカップリング剤をシリカにカップリングさせた後に光照射することにより、カルボン酸が表面に固定化されたシリカを得ることができる。
【0029】
本発明の一実施形態において、前記砥粒の平均一次粒子径が10nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましく、25nm以上であることがよりさらに好ましく、30nm以上であることがよりさらに好ましい。本発明の一実施形態の研磨用組成物において、前記砥粒の平均一次粒子径が60nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、40nm以下であることがさらに好ましい。砥粒が上記の平均一次粒子径を有することによって研磨速度を向上できる効果がある。本発明における平均一次粒子径は、実施例に記載の方法によって測定される値を採用してもよい。
【0030】
本発明の一実施形態において、前記砥粒の平均二次粒子径が40nm以上であることが好ましく、45nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることがさらに好ましく、55nm以上であることがよりさらに好ましく、60nm以上であることがよりさらに好ましく、65nm以上であることがよりさらに好ましい。本発明の一実施形態において、前記砥粒の平均二次粒子径が、100nm以下であることが好ましく、90nm以下であることがより好ましく、80nm以下であることがさらに好ましく、75nm以下であることがよりさらに好ましい。砥粒が上記の平均二次粒子径を有することによって研磨速度を向上できる効果がある。本発明における平均二次粒子径は、実施例に記載の方法によって測定される値を採用してもよい。
【0031】
本発明の一実施形態において、研磨用組成物中の砥粒における、レーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の90%に達するときの粒子の直径D90と、10%に達するときの粒子の直径D10との比(本明細書中、単に「D90/D10」とも称する)の下限は、1.3以上であることが好ましく、1.4以上であることがより好ましく、1.5以上であることがさらに好ましく、1.6以上であることがよりさらに好ましい。かかる下限であることによって研磨速度を向上できる効果がある。本発明の一実施形態において、D90/D10の上限は、4.0以下であることが好ましく、3.5以下であることがより好ましく、3.0以下であることがさらに好ましく、2.0以下であることがよりさらに好ましい。かかる上限であることによって研磨速度を向上できる効果がある。
【0032】
本発明の一実施形態において、前記研磨用組成物中で、前記砥粒の含有量が、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましく、0.2質量%以上であることがよりさらに好ましく、0.4質量%以上であることがよりさらに好ましく、0.6質量%以上であることがよりさらに好ましく、0.8質量%以上であることがよりさらに好ましい。かかる下限であることによって研磨速度を向上できる効果がある。本発明の一実施形態において、前記研磨用組成物中で、前記砥粒の含有量が、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましく、4質量%以下であることがよりさらに好ましく、2質量%以下であることがよりさらに好ましく、1.5質量%以下であることがよりさらに好ましい。かかる上限であることによって研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に欠陥が生じたり表面粗さが増大したりするのを抑えることができる。
【0033】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物中に、前記遷移金属イオンが、0.1mM以上含まれることが好ましく、0.5mM以上含まれることがより好ましく、1mM以上含まれることがさらに好ましく、1.5mM以上含まれることがよりさらに好ましく、2mM以上含まれることがよりさらに好ましく、2.5mM以上含まれることがよりさらに好ましく、3mM以上含まれることがよりさらに好ましく、3.5mM以上含まれることがよりさらに好ましく、4mM以上含まれることがよりさらに好ましく、4.5mM以上含まれることがよりさらに好ましい。かかる下限であることによって単体シリコンの研磨速度向上の効果を効率的に得ることができる。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物中に、前記遷移金属イオンが、100mM以下含まれることが好ましく、50mM以下含まれることがより好ましく、20mM以下含まれることがさらに好ましく、10mM以下含まれることがより好ましく、9mM以下含まれることがより好ましく、8mM以下含まれることがより好ましく、7mM以下含まれることがより好ましく、6mM以下含まれることがより好ましく、5.5mM以下含まれることがより好ましい。かかる上限であることによって研磨用組成物の電気伝導度の過度な上昇を抑え、研磨用組成物の保管安定性を保つ効果がある。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物中に、前記遷移金属イオンが、0.5~20mM含まれる。かかる実施形態によれば、研磨用組成物の保管安定性を保ちつつ単体シリコンの研磨速度向上の効果を効率的に得ることができる。
【0034】
[研磨用組成物のpH]
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、7.0未満の酸性であっても、7.0の中性であっても、7.0超の塩基性であってもよいが、好ましくは、7.0未満である。一般的に、単体シリコンは、酸性領域で研磨速度を向上させ難いことが知られている。本発明によれば、かような研磨速度を向上させ難い酸性の環境下であったとしても、研磨速度を向上させることができる画期的なものである。よって、酸性領域で研磨速度が向上され易いことが知られている窒化ケイ素と、単体シリコンとを研磨する際、酸性領域へのpH設計によって窒化ケイ素の研磨速度を向上させ、単体シリコンの研磨速度向上剤を含有させることによって(酸性領域で研磨速度を向上させ難い)単体シリコンの研磨速度を向上させることができ、窒化ケイ素の研磨速度と、単体シリコンの研磨速度との研磨選択比を1に近づけることができる。本発明の一実施形態において、窒化ケイ素の研磨速度と、単体シリコンの研磨選択比は、0.2~5が好ましく、0.5~2がより好ましく、0.8~1.2がさらに好ましい。
【0035】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、6.0未満である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、5.0未満である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、4.0未満である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、3.5以下である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、3.0以下である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、2.5以下である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、2.3以下である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、2.2以下である。本発明によれば、かような強い酸性領域の下でも、研磨速度を向上させることができる。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、1.0以上である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、1.2以上である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、1.4以上である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、1.6以上である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、1.8以上である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、2.0以上である。pHが高くなるに伴い、単体シリコンの研磨速度を向上させることができる。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、1~6である。本発明によれば、かような研磨速度を向上させ難い酸性の環境下であったとしても、単体シリコンの研磨速度を向上させることができる。
【0036】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、pH調整剤を含む。本発明の一実施形態によれば、pH調整剤は酸およびアルカリのいずれであってもよく、また、無機化合物および有機化合物のいずれであってもよい。酸の具体例としては、例えば、硫酸、硝酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸およびリン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸および乳酸等のカルボン酸、ならびにメタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびイセチオン酸等の有機硫酸、フィチン酸、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸等の有機リン系の酸等の有機酸等が挙げられる。アルカリの具体例としては、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、エチレンジアミンおよびピペラジン等のアミン、ならびにテトラメチルアンモニウムおよびテトラエチルアンモニウム等の第4級アンモニウム塩が挙げられる。これらpH調整剤は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。
【0037】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物の電気伝導度が、0.1mS/cm以上であることが好ましく、0.5mS/cm以上であることがより好ましく、1mS/cm以上であることがさらに好ましく、2mS/cm以上ことがよりさらに好ましく、3mS/cm以上ことがよりさらに好ましく、4mS/cm以上ことがよりさらに好ましい。かかる実施形態によれば、pHの変動を抑えるバッファー効果を付与することができる。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物の電気伝導度が、20mS/cm以下であることが好ましく、15mS/cm以下であることがより好ましく、10mS/cm以下であることがさらに好ましく、8mS/cm以下であることがさらに好ましく、6mS/cm以下であることがさらに好ましく、5mS/cm以下であることがさらに好ましい。かかる実施形態によれば、砥粒の凝集抑制効果がある。なお、電気伝導度の測定方法は、実施例記載の方法による。また、研磨用組成物の電気伝導度は、研磨速度向上剤の添加量の調整等によって制御することができる。
【0038】
[他の成分]
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、金属防食剤、防腐剤、防カビ剤、水溶性高分子、難溶性の有機物を溶解するための有機溶媒等の他の成分をさらに含んでもよい。
【0039】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、実質的に、酸化剤を含まない。かかる実施形態によれば、単体シリコン表面の過剰な酸化による研磨性能の低下との技術的効果がある。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、実質的に、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、オゾン水、過マンガン酸、クロム酸、重クロム酸、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソリン酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソホウ酸、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、過硫酸またはジクロロイソシアヌルである、酸化剤を含まない。かかる実施形態によれば、単体シリコン表面の過剰な酸化による研磨性能の低下との技術的効果がある。なお、本明細書中、「実質的に含まない」とは、研磨用組成物中に全く含まない概念の他、研磨用組成物中に、0.05g/L以下含む場合を含む。
【0040】
[研磨用組成物の製造方法]
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、砥粒と、研磨速度向上剤と、必要に応じて他の成分とを、攪拌混合することにより得ることができる。各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10~40℃が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も特に制限されない。
【0041】
[研磨方法]
本発明の一実施形態によれば、上記の研磨用組成物は、単体シリコンの研磨に好適に用いられる。よって、本発明の一実施形態によれば、研磨方法は、上記の研磨用組成物を用いて、または、上記の製造方法によって研磨用組成物を得、当該研磨用組成物を用いて、単体シリコンを含む研磨対象物を研磨することを有する、研磨方法である。
【0042】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0043】
前記研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨用組成物が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0044】
研磨条件にも特に制限はなく、例えば、研磨定盤の回転速度は、10~500rpmが好ましく、キャリア回転速度は、10~500rpmが好ましく、研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.1~10psiが好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0045】
[半導体基板の製造方法]
本発明の一実施形態によれば、上記の研磨方法を有する、半導体基板の製造方法も提供される。かかる実施形態によって、半導体基板の生産効率が向上する。
【実施例】
【0046】
本発明を、以下の実施例及び比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」及び「部」は、それぞれ、「質量%」及び「質量部」を意味する。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)/相対湿度40~50%RHの条件下で行われた。
【0047】
[研磨用組成物の調製]
砥粒(スルホン酸固定コロイダルシリカ;平均一次粒子径:35nm、平均二次粒子径:70nm、D90/D10:1.7)と;遷移金属イオンおよび液体キャリア(純水)とからなる研磨速度向上剤と;pH調整剤としての60%硫酸と;を表1に示される組成となるように攪拌混合することにより、各研磨用組成物を調製した(混合温度:約25℃、混合時間:約10分)。なお、各遷移金属イオンは、表1に示される遷移金属イオン源由来である。また、砥粒の平均一次粒子径は、マイクロメリテックス社製の“Flow SorbII 2300”を用いて測定されたBET法による砥粒の比表面積と、砥粒の密度とから算出した。また、砥粒の平均二次粒子径は、Microtrac社製の“UPA-UT151”を用いて測定された動的光散乱法により算出した。
【0048】
[研磨用組成物のpH]
研磨用組成物のpHは、ガラス電極式水素イオン濃度指示計(株式会社堀場製作所製 型番:F-23)を使用し、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を研磨用組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより決定した。結果を表1に示す。
【0049】
[研磨用組成物の電気伝導度]
研磨用組成物調製後の電気伝導度は、卓上型電気伝導度計(株式会社堀場製作所製 型番:DS-71)により測定した。結果を表1に示す。
【0050】
[研磨試験]
実施例1~5および比較例1~4において、研磨対象物として、表面に厚さ5000Åのポリシリコン膜を形成したシリコンウェーハ(300mm、ブランケットウェーハ)を使用した。それぞれのシリコンウェーハを60mm×60mmのチップに切断したクーポンを試験片とし、下記の条件により研磨した。
【0051】
(研磨装置及び研磨条件)
研磨装置:日本エンギス株式会社製ラッピングマシーン EJ-380IN-CH
研磨圧力:3.04psi(=20.96kPa)
パッド:ニッタハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨定盤回転数:60rpm
キャリア回転数:40rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:100ml/分
研磨時間:60秒間。
【0052】
(研磨速度の評価)
ポリシリコンの研磨速度は、厚みを光学式膜厚測定器(ラムダエースVM-2030:大日本スクリーン製造株式会社製)で求め、(研磨前の厚み)-(研磨後の厚み)を研磨時間で除することにより算出した。
【0053】
結果を表1に示す。
【0054】
【0055】
<考察>
実施例の研磨用組成物は、単体シリコンの研磨速度向上剤が含まれているので、ポリシリコンの研磨速度が顕著に向上している。これに対し、比較例の研磨用組成物は、単体シリコンの研磨速度向上剤を含んでいないので、ポリシリコンの研磨速度を向上できていない。
【0056】
実施例の中でも研磨速度の優劣はあった。これについて考察すると、まず、遷移金属イオンとして、好ましくは複数の価数を持つものであることは上述のとおりである。2価イオンの形態でのみ存在するニッケルイオンを使用した実施例2よりも、複数の価数を持つ遷移金属イオンを使用した実施例1、3~5の方がポリシリコンの研磨速度を向上させている。また、複数の価数を持つものの内、高いものがよいことも上述のとおりであり、Fe2+を使用した実施例3より、Fe3+を使用した実施例4の方がポリシリコンの研磨速度を向上させている。
【0057】
またメカニズムを考察すると、遷移金属イオンは、ポリシリコン表面をより研磨させやすい(脆い)状態にするための触媒的作用を有するものと推測される。触媒として機能するために、ポリシリコン表面のSi原子に遷移金属イオンが吸着または配位がなされることが必要と推測されるところ、この吸着・配位のし易さの差が触媒活性の差となり、最終的に研磨速度の差として現れているものと考えられる。