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特許7268411レクチン固定化半導体センシングデバイス及び糖化合物の検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】レクチン固定化半導体センシングデバイス及び糖化合物の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/414 20060101AFI20230426BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20230426BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230426BHJP
   G01N 33/547 20060101ALI20230426BHJP
   G01N 33/566 20060101ALI20230426BHJP
   C07K 14/42 20060101ALN20230426BHJP
   C07K 17/02 20060101ALN20230426BHJP
【FI】
G01N27/414 301V
G01N27/414 301K
G01N27/416 386G
G01N33/53 S
G01N33/547
G01N33/566
C07K14/42
C07K17/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019043864
(22)【出願日】2019-03-11
(65)【公開番号】P2020148487
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】逢坂 哲彌
(72)【発明者】
【氏名】門間 聰之
(72)【発明者】
【氏名】秀島 翔
(72)【発明者】
【氏名】林 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】綱 美香
(72)【発明者】
【氏名】原田 義孝
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-004007(JP,A)
【文献】特開2013-152211(JP,A)
【文献】特開2017-058320(JP,A)
【文献】特開2015-190848(JP,A)
【文献】特開2011-148736(JP,A)
【文献】特開2009-225673(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0059513(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
G01N 33/53-33/577
C07K 14/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電界効果トランジスタの半導体上に形成された反応ゲート絶縁部としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む第1の絶縁層の上に形成された反応性官能基を有する有機単分子膜からなる第1の有機単分子膜に、アルギニン存在下でプローブ分子であるレクチン前記反応性官能基を介して直接又は架橋分子を用いて固定化された、レクチン/有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を検出部として備えるレクチン固定化半導体センシングデバイス。
【請求項2】
前記有機単分子膜が、下記式(1)で表されるアルコキシシランの単分子膜である請求項1記載のレクチン固定化半導体センシングデバイス。
【化1】
(式中、Rは、アミノ基、アミノオキシ基、カルボキシル基及びチオール基から選ばれる反応性官能基である。R1は、炭素数3~22の直鎖状アルカンジイル基である。R2~R4は、それぞれ独立に、直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~5のアルキル基又は直鎖状若しくは分岐状の炭素数2~5のアルコキシアルキル基である。)
【請求項3】
前記反応性官能基が、アミノ基である請求項1又は2記載のレクチン固定化半導体センシングデバイス。
【請求項4】
前記半導体上に、更に、参照ゲート絶縁部としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む第2の絶縁層が形成され、該第2の絶縁層の上に、前記レクチン及び糖化合物のいずれとも反応しない有機分子で構成された第2の有機単分子膜を形成してなる、有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を参照部として備える請求項1~3のいずれか1項記載のレクチン固定化半導体センシングデバイス。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項記載のレクチン固定化半導体センシングデバイス上に固定化されたレクチンと糖化合物とを相互作用させる工程と、
該相互作用によるゲート電極上の表面電位変化を検出する工程と
を含む糖化合物の検出方法。
【請求項6】
前記糖化合物が、複合糖質又は糖鎖である請求項5記載の糖化合物の検出方法。
【請求項7】
半導体上に反応ゲート絶縁部としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む第1の絶縁層が形成された電界効果トランジスタの前記第1の絶縁層の上に、反応性官能基を有する有機単分子膜からなる第1の有機単分子膜を形成し、該第1の有機単分子膜に、アルギニン存在下でプローブ分子であるレクチンが前記反応性官能基を介して直接又は架橋分子を用いて結合させる、レクチン/有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を検出部として備えるレクチン固定化半導体センシングデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レクチン固定化半導体センシングデバイス及び糖化合物の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電界効果トランジスタ(FET)は、生体分子の検出に非常に有望なツールである。FETを用いると、生体分子の吸着に伴うゲート表面の電荷密度変化を電気信号として直接検出するため、ラベルフリー検出が可能であり、低コストで迅速な生体分子の検出が可能である。それゆえ、FETを用いた生体分子の検出に関する研究が広く行われている。
【0003】
FETによるタンパク質検出はデバイ長内に存在するタンパク質由来の電荷を検出することで可能となるため、デバイ長の外の領域に存在する電荷は原理上検出が困難である。生理的条件下においては、デバイ長は1nm以下であり、検出可能範囲が狭い。抗体等のタンパク質は分子サイズが大きく、抗原との結合部位が界面から離れてしまうため、生理的条件下における検出を原理的に困難にしていた。
【0004】
このような問題を解決するため、小さなレセプター分子として、Fabフラグメントのような抗体フラグメントや人工有機化合物を固定化する方法が提案されている(特許文献1)。しかし、これらの物質は、構成ユニット当たりの認識部位が一つであり、ターゲット検出の高感度化に限度があった。また、この方法には多段階合成プロセスや高価な合成試薬が必要となり、コストや大量生産性に限度があった。
【0005】
がん等の疾患によって糖タンパク質や細胞表面の糖鎖構造が変化することも知られており、このような糖鎖が、例えばバイオマーカーとして利用されている。これまでに、糖鎖を解析するための方法や糖鎖と糖結合タンパク質等との相互作用を解析する方法が提案されている(例えば、特許文献2)。一般に、糖鎖とレクチンのような糖結合タンパク質との親和性は、抗体と抗原との親和性に比べて小さいことが知られている。そのため、高感度で糖鎖及び糖化合物を解析できる方法の開発が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-4007号公報
【文献】特開2010-107496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みなされたもので、FETを用いて簡便かつ高感度に、糖化合物を検出することを可能にする半導体センシングデバイス及び糖化合物の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意研究を行った結果、構成ユニットに認識部位を複数有する小型レクチンをFETセンサのプローブ分子として用いることで、ターゲットの捕捉能が向上し、高感度な検出が可能となることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
したがって、本発明は、下記レクチン固定化半導体センシングデバイス及び糖化合物の検出方法を提供する。
1.半導体上に反応ゲート絶縁部としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む第1の絶縁層が形成された電界効果トランジスタの前記第1の絶縁層の上に、反応性官能基を有する有機単分子膜からなる第1の有機単分子膜を形成し、該第1の有機単分子膜に、アルギニン存在下でプローブ分子であるレクチンを前記反応性官能基を介して直接又は架橋分子を用いて結合させてなる、レクチン/有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を検出部として備えるレクチン固定化半導体センシングデバイス。
2.前記有機単分子膜が、下記式(1)で表されるアルコキシシランの単分子膜である1のレクチン固定化半導体センシングデバイス。
【化1】
(式中、Rは、アミノ基、アミノオキシ基、カルボキシル基及びチオール基から選ばれる反応性官能基である。R1は、炭素数3~22の直鎖状アルカンジイル基である。R2~R4は、それぞれ独立に、直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~5のアルキル基又は直鎖状若しくは分岐状の炭素数2~5のアルコキシアルキル基である。)
3.前記反応性官能基が、アミノ基である1又は2のレクチン固定化半導体センシングデバイス。
4.前記半導体上に、更に、参照ゲート絶縁部としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む第2の絶縁層が形成され、該第2の絶縁層の上に、前記レクチン及び糖化合物のいずれとも反応しない有機分子で構成された第2の有機単分子膜を形成してなる、有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を参照部として備える1~3のいずれかのレクチン固定化半導体センシングデバイス。
5.1~4のいずれかのレクチン固定化半導体センシングデバイス上に固定化されたレクチンと糖化合物とを相互作用させる工程と、
該相互作用によるゲート電極上の表面電位変化を検出する工程と
を含む糖化合物の検出方法。
6.前記糖化合物が、複合糖質又は糖鎖である5の糖化合物の検出方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、分子内に認識部位を複数持つ小型タンパク質であるレクチンを用いることで、ターゲット捕捉能が高い界面を作製することができるため、より高感度で糖化合物を検出することが可能となる。また、レクチンは、植物からの抽出が可能であり、安価で容易にデバイスを作製することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の半導体センシングデバイスを示す断面図であり、(A)は電界効果トランジスタ、(B)は電界効果トランジスタのゲート電極の絶縁層上に有機単分子膜を形成した状態、(C)は有機単分子膜にプローブ分子が固定化された状態を示す。
図2】オンチップデバイスのユニット構成例を示し、(A)は部分平面図、(B)はその拡大断面図である。
図3】本発明の半導体センシングデバイスを用いた糖化合物検出の概念図である。
図4】参考例2-1で測定した電流-電圧曲線である。
図5】比較例2-1で測定した電流-電圧曲線である。
図6】比較例2-2で測定した電流-電圧曲線である。
図7】比較例2-3で測定した電流-電圧曲線である。
図8】実施例2-1で測定した電流-電圧曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[レクチン固定化半導体センシングデバイス]
本発明のレクチン固定化半導体センシングデバイスは、半導体上に反応ゲート絶縁部としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む第1の絶縁層が形成された電界効果トランジスタの前記第1の絶縁層の上に、反応性官能基を有する有機単分子膜からなる第1の有機単分子膜を形成し、該第1の有機単分子膜に、アルギニン存在下でプローブ分子であるレクチンを前記反応性官能基を介して直接又は架橋分子を用いて結合させてなる、レクチン/有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を検出部として備えるものである。
【0013】
前記検出部のうち、絶縁層/半導体構造部分は、半導体上に反応ゲート絶縁部としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む絶縁層が形成された電界効果トランジスタを利用することができ、その構成は、従来公知のものを利用することができる。前記絶縁層は、シリコン酸化物であることが好ましい。電界効果トランジスタは、n型でもp型でもよい。この電界効果トランジスタとしては、例えば、図1(A)に示されるようなものが例示される。なお、図1中、1はシリコン基板、2はシリコン酸化物又は無機酸化物(ガラス、アルミナ等)を含む絶縁層、4はゲート電極、5はソース電極、6はドレイン電極、7はドープ領域を示す。
【0014】
そして、図1(B)に示されるように、絶縁層2上に第1の有機単分子膜3が形成される。ここで、本発明においては、基本原理として、絶縁層表面上のプローブ分子とタンパク質の結合反応に伴う表面電位変化を電気信号として検出する構成とする。なお、前記絶縁層の厚さは、10~100nm、特に10~50nmが好ましい。
【0015】
前記第1の有機単分子膜は、反応性官能基を有する有機単分子膜からなる。前記反応性官能基を有する有機単分子膜は、下記式(1)で表されるアルコキシシランの単分子膜であることが好ましい。
【化2】
【0016】
式(1)中、R1は、炭素数3~22の直鎖状アルカンジイル基である。前記直鎖状アルカンジイル基は、炭素数が3~18であるものが好ましく、炭素数が3~8であるものがより好ましい。炭素鎖が短い方が、有機単分子膜の有する疎水性が弱くなり、ターゲットタンパク質の疎水性相互作用に起因する非特異的吸着を抑制することができるため好ましい。
【0017】
1で表される直鎖状アルカンジイル基の具体例としては、プロパン-1,3-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,5-ジイル基、ヘキサン-1,6-ジイル基、ヘプタン-1,7-ジイル基、オクタン-1,8-ジイル基、ノナン-1,9-ジイル基、デカン-1,10-ジイル基、ウンデカン-1,11-ジイル基、ドデカン-1,12-ジイル基、トリデカン-1,13-ジイル基、テトラデカン-1,14-ジイル基、ペンタデカン-1,15-ジイル基、ヘキサデカン-1,16-ジイル基、ヘプタデカン-1,17-ジイル基、オクタデカン-1,18-ジイル基、ノナデカン-1,19-ジイル基、エイコサン-1,20-ジイル基、ヘンエイコサン-1,21-ジイル基、ドコサン-1,22-ジイル基が挙げられる。これらのうち、炭素数3~18のものが好ましく、炭素数3~8のものがより好ましい。
【0018】
式(1)中、R2~R4は、それぞれ独立に、炭素数1~5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基又は炭素数2~5の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシアルキル基である。前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。これらのうち、メチル基又はエチル基が好ましい。また、前記アルコキシアルキル基としては、メトキシメチル基、エトキシメチル基、2-メトキシエチル基、2-エトキシエチル基等が挙げられる。これらのうち、炭素数2~3のアルコキシアルキル基が好ましい。R2~R4としては、特にメチル基、エチル基、2-メトキシエチル基等が好ましい。
【0019】
前記Rがアミノ基、カルボキシル基又はチオール基であるアルコキシシランとしては、市販品を使用し得る。また、前記Rがアミノオキシ基であるアルコキシシランは、下記スキームにしたがって合成できる。
【化3】
(式中、R1~R4は、前記と同じ。R5は、R1から炭素数が2減少した直鎖状アルカンジイル基である。)
【0020】
前記Rがアミノオキシ基であるアルコキシシランは、トリアルコキシヒドロシランとO-アルケニルヒドロキシルアミンとを白金系触媒で処理することによって調製することができる。例えば、窒素雰囲気下、トリアルコキシヒドロシランとO-アルケニルヒドロキシルアミンとの混合物に、ヘキサクロロ白金(IV)酸等の白金系触媒を加え、10~200℃で1~1,200時間、より好ましくは60~120℃で12~48時間反応させることにより調製できる。成膜操作には、過剰のトリアルコキシヒドロシランを例えば蒸留等の操作により除去したものを使用することが好ましい。
【0021】
第1の有機単分子膜は、前記アルコキシシランを気相化学反応又は液相反応によって絶縁層上に形成し、その最適化、例えば、有機分子の自己集積化機能によって単分子が最密パッキングされた膜が形成される。気相化学反応によって単分子膜を成膜する場合は、例えば、容器に基板及びアルコキシシランを封入し、ドライルーム中で好ましくは80~200℃で1~24時間、より好ましくは100~130℃で2~5時間反応させることで成膜できる。液相反応によって単分子膜を成膜する場合は、例えば、アルコキシシランを含む有機溶媒中に基板を浸漬し、好ましくは20~80℃で1分間~24時間、より好ましくは55~65℃で15~20分間静置することで成膜できる。
【0022】
前記有機溶媒としては、トルエン、メタノール、エタノール等が挙げられ、特にトルエン、メタノール等が好ましい。
【0023】
前記電界効果トランジスタの半導体上には、更に、参照ゲート絶縁部としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む第2の絶縁層を形成することができる。この第2の絶縁層の上には、第2の有機単分子膜として、プローブ分子であるレクチン及びターゲットである糖化合物のいずれとも反応しない有機分子で構成された単分子膜を形成し、この単分子膜/絶縁層/半導体構造を参照部とすることができる。なお、反応ゲート絶縁部と参照ゲート絶縁部とを、電位変化測定において互いに影響を与えない程度に離間させれば、反応ゲート絶縁部の第1の絶縁層と参照ゲート絶縁部の第2の絶縁層とを同一層内に設けることもできる。
【0024】
図2は、有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を検出部9及び参照部8に適用したオンチップデバイスのユニット構成例を示す。なお、図2中、1はシリコン基板、2は絶縁層、10はテンプレート部である。このデバイスのユニット構成は図示した構成に限定されず、検出部と参照部とは必ずしも1対1の関係で配置する必要はなく、必要に応じて検出部及び参照部の数及び組合せを適宜変更して配置することができる。また、検出部及び参照部は各々数~数十μmのサイズで形成可能である。
【0025】
前記第2の有機単分子膜としては、フッ素化されていてもよい炭素数8~22の直鎖状アルキル基を有するアルコキシシランの単分子膜が好ましい。なお、有機単分子膜としてアルコキシシランの単分子膜を用いる場合、前記第2の絶縁層はシリコン酸化物で形成されたものが好ましい。
【0026】
第2の有機単分子膜は、絶縁層上に均一な膜を形成させるため、自己集積化膜であることが好ましい。具体的には、下記式(2)で表されるトリアルコキシシランの単分子膜であることが好ましい。
【化4】
【0027】
式(2)中、R6は、炭素数8~22、好ましくは炭素数10~18の直鎖状アルキル基であり、水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されていてもよい。前記直鎖状アルキル基は、炭素数が10~18であるものが好ましい。前記直鎖状アルキル基として具体的には、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコシル基、n-ヘンエイコシル基、n-ドコシル基等が挙げられる。
【0028】
式(2)中、R7~R9は、それぞれ独立に、炭素数1~5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基又は炭素数2~5の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシアルキル基である。前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。これらのうち、メチル基又はエチル基が好ましい。また、前記アルコキシアルキル基としては、メトキシメチル基、エトキシメチル基、2-メトキシエチル基、2-エトキシエチル基等が挙げられる。これらのうち、炭素数2~3のアルコキシアルキル基が好ましい。
【0029】
式(2)で表されるトリアルコキシシランとして具体的には、CH3(CH2)7Si(OCH3)3、CH3(CH2)7Si(OC2H5)3、CH3(CH2)8Si(OCH3)3、CH3(CH2)8Si(OC2H5)3、CH3(CH2)9Si(OCH3)3、CH3(CH2)9Si(OC2H5)3、CH3(CH2)10Si(OCH3)3、CH3(CH2)10Si(OC2H5)3、CH3(CH2)11Si(OCH3)3、CH3(CH2)11Si(OC2H5)3、CH3(CH2)12Si(OCH3)3、CH3(CH2)12Si(OC2H5)3、CH3(CH2)13Si(OCH3)3、CH3(CH2)13Si(OC2H5)3、CH3(CH2)14Si(OCH3)3、CH3(CH2)14Si(OC2H5)3、CH3(CH2)15Si(OCH3)3、CH3(CH2)15Si(OC2H5)3、CH3(CH2)16Si(OCH3)3、CH3(CH2)16Si(OC2H5)3、CH3(CH2)17Si(OCH3)3、CH3(CH2)17Si(OC2H5)3、CH3(CH2)18Si(OCH3)3、CH3(CH2)18Si(OC2H5)3、CH3(CH2)19Si(OCH3)3、CH3(CH2)19Si(OC2H5)3、CH3(CH2)20Si(OCH3)3、CH3(CH2)20Si(OC2H5)3、CH3(CH2)21Si(OCH3)3、CH3(CH2)21Si(OC2H5)3、CF3(CF2)5(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)5(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)6(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)6(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)7(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)7(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)8(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)8(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)9(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)9(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)10(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)10(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)11(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)11(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)12(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)12(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)13(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)13(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)14(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)14(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)15(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)15(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)16(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)16(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)17(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)17(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)18(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)18(CH2)2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)19(CH2)2Si(OCH3)3、CF3(CF2)19(CH2)2Si(OC2H5)3等が挙げられる。
【0030】
なお、第1及び第2の有機単分子膜は、パターニングにより所望の位置に形成することができる。特に、オンチップでの集積化デバイスを形成するためには、有機単分子膜のパターニングが有効である。例えば、検出部の絶縁層表面には、プローブ分子固定化のために反応性官能基を有する有機分子で構成された第1の単分子膜を、一方で、参照部、更には非ゲート部(テンプレート部)においては、タンパク質の非特異的な吸着を避けるために、プローブ分子及びタンパク質のいずれとも反応しない有機分子で構成された第2の有機単分子膜を、パターニングにより位置選択的に形成する。
【0031】
参照部としては、第2の有機単分子膜として第1の有機単分子膜と同様の単分子膜に、測定対象のタンパク質と相互作用しない化合物を固定化したものを利用することも可能である。すなわち、測定対象のタンパク質と相互作用しない化合物/有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を参照部とすることもできる。この場合、参照部は、前述した検出部における有機単分子膜形成方法及び後述する化合物固定化方法と同じ方法にしたがって形成することができる。
【0032】
前記半導体センシングデバイスには、前記検出部の第1の有機単分子膜にプローブ分子であるレクチンが固定化される。例えば、図1(C)に示されるように、第1の有機単分子膜3にレクチン11が結合される。
【0033】
前記レクチンは、直接又は架橋分子を介して前記有機単分子膜に固定化される。架橋分子としては、例えば、グルタルアルデヒド等が挙げられる。この場合、前記有機単分子膜をグルタルアルデヒドで修飾する方法は、特に限定されないが、例えば0.01~25質量%のグルタルアルデヒドを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で、10~50℃で1分~24時間反応させればよい。
【0034】
次に、レクチン中のアミノ基等の反応性官能基をグルタルアルデヒドと反応させることでレクチンを固定化する。具体的には、例えば、レクチンを含む溶液(溶媒は超純水又はPBS)中で、好ましくは10~50℃で1分~24時間、より好ましくは10~35℃で1分~60分間反応させればよい。前記レクチンの濃度は、1pg/mL~1mg/mLが好ましく、1ng/mL~1μg/mLがより好ましい。
【0035】
このとき、前記レクチンを含む溶液は、アルギニンを含む。アルギニン存在下でレクチンを固定化することで、検出感度を更に向上させることができる。アルギニンの含有量は、前記溶液中0.01~5mol/Lが好ましく、0.1~1mol/Lがより好ましい。
【0036】
本発明においてレクチンとは、糖鎖に結合する能力を有するタンパク質であって、抗糖鎖抗体以外のもののことを意味する。レクチンとしては、植物レクチン、真菌レクチン、動物レクチン、糖結合活性を有するサイトカイン、GAG結合タンパク質、微生物アドヘシン、細菌毒素、ウイルスヘマグルチニン等が挙げられるが、本発明においては、コストや生産性、感度の観点から、植物レクチン、真菌レクチンが好ましい。
【0037】
前記植物レクチン及び真菌レクチンとしては、数多くのレクチンが広く知られており、例えば、ジャカリン、タチナタマメレクチン(ConA)、ニホンニワトコレクチン(SSA)、セイヨウニワトコレクチン(SNA)、インゲンマメレクチン(PHA-E、PHA-L)、イヌエンジュレクチン(MAL、MAH)、ピーナッツレクチン(PNA)、レンズマメレクチン(LCA)、トウゴマレクチン(RCA)、ダイズレクチン(SBA)、エンドウマメレクチン(PSA)、ヒイロチャワンタケレクチン(AAL)、マッシュルームレクチン(ABA)、小麦胚芽レクチン(WGA)、ハリエニシダレクチン(UEA-1)、チョウセンアサガオレクチン(DSA)等が挙げられる。
【0038】
本発明において、前記レクチン固定化半導体センシングデバイスに固定化するレクチンは、検出する対象にあわせて適宜選択すればよい。すなわち、目的とする糖化合物と結合するレクチンを選択すればよい。
【0039】
本発明の糖化合物の検出方法は、前記レクチン固定化半導体センシングデバイス上に固定化されたレクチンと糖化合物とを相互作用させる工程と、該相互作用によるゲート電極上の表面電位変化を検出する工程とを含む。
【0040】
図3に、本発明のレクチン固定化半導体センシングデバイスを用いたレクチン-糖化合物相互作用に基づく糖化合物の検出方法の概念図を示す。この検出方法では、有機単分子膜上に直接固定化されたレクチンに対し、糖化合物を相互作用させ、この相互作用により生じる絶縁層の表面電位変化を電気信号として検出する。なお、図3中、12は糖化合物である。また、他の構成は、図1と同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0041】
ここで、糖化合物にはその表面に電荷が存在するため、デバイス上に固定化されたレクチンと糖化合物とが相互作用した場合、ゲート電極上の表面電位がシフトする。この場合、電流一定下においては電位シフトを、電圧一定下においては電流のシフトをシグナルとして検出することができる。なお、n型の電界効果トランジスタを用いた場合とp型の電界効果トランジスタを用いた場合とでは、閾値電圧のシフトは互いに逆になる。
【0042】
なお、デバイス上に固定化されたレクチンと糖化合物とを相互作用させるには、該糖化合物を含む溶液を、必要に応じて希釈して、ゲート電極上に載せればよい。このとき、前記溶液としては、糖化合物の検出に用いられている一般的な溶液を用いることができるが、特に生理的条件を満たすものが好ましい。例えば、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝生理食塩水、MES緩衝生理食塩水、MOPS緩衝生理食塩水、PIPES緩衝生理食塩水、HEPES緩衝生理食塩水等が好ましく使用できる。また、前記溶液としては、細胞や細菌の培養培地等も好ましく使用できる。なお、前記溶液のpHは、5~10が好ましく、6~8がより好ましい。
【0043】
また、前記溶液に、Ca2+、Mg2+等のイオン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)等のキレート剤、Tween(登録商標)20、Triton(登録商標)X-100、Nonidet(登録商標)P-40等の界面活性剤等を加えてもよい。前記イオンを加える場合、その濃度は、0.1~10mMが好ましく、0.5~5mMがより好ましい。前記キレート剤を加える場合、その濃度は、0.1~10mMが好ましく、0.5~5mMがより好ましい。界面活性剤を加える場合、その濃度は、0.001~10体積%が好ましく、0.05~5体積%がより好ましい。
【0044】
デバイス上に固定化されたレクチンと糖化合物とを相互作用させるときの温度は、0~40℃が好ましく、10~30℃がより好ましく、室温(20~25℃)が更に好ましい。反応時間は、30秒間~2時間が好ましく、1分~1時間がより好ましく、5~30分間が更に好ましい。
【0045】
本発明において検出の対象となる糖化合物は、レクチンと相互作用する性質を有するものであり、例えば、複合糖質や糖鎖が挙げられる。複合糖質は、糖鎖と他の分子との複合体であって、糖鎖と脂質との複合体である糖脂質、糖鎖とタンパク質との複合体である糖タンパク質、及びプロテオグリカンが挙げられる。
【0046】
糖鎖は、2以上の単糖及び/又はその誘導体がグリコシド結合によって結合して得られる化合物である。なお、前記グリコシド結合は、α-グリコシド結合であってもβ-グリコシド結合であってもよい。前記単糖としては、炭素数3~9、特に炭素数5~9のものが好ましく、具体的には、キシロース(Xly)等のペントース;グルコース(Glc)、マンノース(Man)、ガラクトース(Gal)等のヘキソース;フコース(Fuc)等のデオキシヘキソース;グルコサミン(GlcN)、ガラクトサミン(GalN)等のヘキソサミン;N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)等のヘキソサミン誘導体;ノイラミン酸(Neu)、N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)等のシアル酸(Sia);グルクロン酸(GlcA)、イズロン酸(IdoA)等のウロン酸等が挙げられる。前記単糖の誘導体としては、単糖のアミノ基又はヒドロキシ基に、アセチル基、硫酸基、メチル基、リン酸基等の置換基が付加したものが挙げられる。
【0047】
前記糖鎖としては、T抗原、Tn抗原、シアリルTn抗原、ルイスA、シアリルルイスA、ルイスX、シアリルルイスX、ABO式血液型抗原等の糖鎖抗原;レクチンリガンド等の既知のN-グリカン及びO-グリカン;ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン等のグリコサミノグリカン(GAG);スフィンゴ糖脂質等の糖脂質に含まれる糖鎖部位等が挙げられる。
【0048】
検出可能な糖化合物の濃度はその種類によって異なるが、通常0.1ng/mL~50mg/mL程度であり、1ng/mL~10mg/mLが好ましく、10ng/mL~1mg/mLがより好ましい。
【0049】
本発明のデバイスは、糖化合物を高感度に検出することが可能である。また、ターゲットタンパク質との結合部位が有機単分子膜界面から近くなるため、生理的条件下における糖化合物の検出が可能となる。デバイスは、生体試料中のバイオマーカー検出等に好適に使用できる。
【実施例
【0050】
以下、実施例、参考例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。
【0051】
[1]半導体センシングデバイスの構築
[参考例1-1]レクチン固定化半導体センシングデバイスの構築1
(1)有機単分子膜の形成
凸版印刷(株)製の10μm長、1,000μm幅のn型FETからアセトンを用いて超音波処理することでフォトレジストを除去した。ゲート表面にヒドロキシ基を導入して活性部位を作製するため、プラズマリアクターPR301(ヤマト科学(株)製)を用いて、200WのO2プラズマに1分間暴露した。
アミノプロピルトリエトキシシラン(APS、Sigma-Aldrich社製)を1質量%含むトルエン中にデバイスを浸漬し、アルゴン雰囲気下、60℃で7分間静置することで、ゲート上へ単分子膜を成膜した。単分子膜を形成したFETをメタノール/トルエン混合溶媒(質量比1:1)を用いて超音波洗浄し、エタノールでリンスし、ゲート表面にAPSの単分子膜が形成されたFETを作製した。
【0052】
(2)レクチンの固定
前記単分子膜のアミノ基とジャカリンレクチンとを架橋するための架橋分子として、グルタルアルデヒドを反応させた。反応は、2.5質量%のグルタルアルデヒド水溶液0.01mL中に、前記単分子膜が形成されたデバイスの検出部を、室温で30分間浸漬することにより行った。次に、グルタルアルデヒドによって架橋を行ったゲート電極部を、ジャカリン((有)細胞外基質研究所製)を50μg/mL含むリン酸緩衝生理食塩水(137mM NaCl、2.7mM KCl、8.1mM Na2HPO4・12H2O、1.5mM KH2PO4、pH7.4、以下1×PBSという。)に1時間浸漬し、レクチンを有機単分子膜上に固定化し、デバイス1を構築した。
【0053】
[比較例1-1]Fab固定化半導体センシングデバイスの構築
参考例1-1の(1)と同様の方法で、APS単分子膜が形成されたゲート表面にAPSの単分子膜が形成されたFETを作製した。
前記単分子膜のアミノ基と抗s-IgA抗体のフラグメント(Fab)とを架橋するための架橋分子として、グルタルアルデヒドを反応させた。反応は、2.5質量%のグルタルアルデヒド水溶液0.01mL中に、前記単分子膜が形成されたデバイスの検出部を、室温で30分間浸漬することにより行った。次に、グルタルアルデヒドによって架橋を行ったゲート電極部を、Fabを50μg/mL含む1×PBSに1時間浸漬し、Fabを有機単分子膜上に固定化し、デバイス2を構築した。
【0054】
[実施例1-1]レクチン固定化半導体センシングデバイスの構築2
参考例1-1の(1)と同様の方法で、APS単分子膜が形成されたゲート表面にAPSの単分子膜が形成されたFETを作製した。
前記単分子膜のアミノ基とジャカリンレクチンとを架橋するための架橋分子として、グルタルアルデヒドを反応させた。反応は、2.5質量%のグルタルアルデヒド水溶液0.01mL中に、前記単分子膜が形成されたデバイスの検出部を、室温で30分間浸漬することにより行った。次に、グルタルアルデヒドによって架橋を行ったゲート電極部を、50μg/mLジャカリンを含む0.25mol/Lアルギニン含有1×PBSに1時間浸漬し、レクチンを有機単分子膜上に固定化し、デバイス3を構築した。
【0055】
[2]糖化合物の検出
[参考例2-1]
デバイス1を洗浄後、ホルダーに設置し、デバイスの検出部を0.01×PBS0.5mLに3分間浸漬した。浸漬後、室温で、ジャカリンレクチン固定化デバイスの電流-電圧曲線を、Ag/AgCl参照電極を用い、デジタルソースメータ(ケースレー社製、2612)で測定した。測定条件はゲート電圧-2V~0V、ドレイン電圧0.1Vとした。続けて100μg/mLのs-IgAを含む1×PBS20μLをジャカリンレクチン固定化デバイスのゲート表面上に添加し、60分間静置した後、1×PBS3mL及び0.01×PBS3mLを用いてリンスを行った。その後、ゲート表面上に0.01×PBSを0.5mL添加して3分間静置した後、s-IgA吸着デバイスの電流-電圧曲線を測定し、s-IgA添加前後でのゲート電圧シフトΔVgを評価した。結果を図4に示す。
【0056】
[比較例2-1]
s-IgAを含む1×PBSのかわりに500μg/mLのヒト血清アルブミン(HSA)を含む1×PBSを用いた以外は、参考例2-1と同様の方法で、HSA添加前後でのゲート電圧シフトΔVgを評価した。結果を図5に示す。
【0057】
[比較例2-2]
デバイス2を洗浄後、ホルダーに設置し、デバイスの検出部を0.01×PBS0.5mLに3分間浸漬した。浸漬後、室温で、Fab固定化デバイスの電流-電圧曲線を、Ag/AgCl参照電極を用い、デジタルソースメータ(ケースレー社製、2612)で測定した。測定条件はゲート電圧-3V~0.5V、ドレイン電圧0.1Vとした。続けて100μg/mLのs-IgAを含む1×PBS20μLを、ゲート表面上に添加し、60分間静置した後、1×PBS3mL及び0.01×PBS3mLを用いてリンスを行った。その後、ゲート表面上に0.01×PBSを0.5mL添加して3分間静置した後、s-IgA吸着デバイスの電流-電圧曲線を測定し、s-IgA添加前後でのゲート電圧シフトΔVgを評価した。結果を図6に示す。
【0058】
[比較例2-3]
s-IgAを含む1×PBSのかわりに500μg/mLのHSAを含む1×PBSを用いた以外は、比較例2-2と同様の方法で、HSA添加前後でのゲート電圧シフトΔVgを評価した。結果を図7に示す。
【0059】
図4~7中、実線はタンパク質添加前のデバイス特性を表し、破線はタンパク質添加後のデバイス特性を表す。ジャカリンレクチン固定化デバイス1にs-IgAを添加した場合、電流-電圧曲線が正方向にシフトした。一方で、ジャカリンレクチン固定化デバイス1にHSAを添加した場合、電流-電圧曲線の変化はほとんど確認されなかった。このことより、ジャカリンレクチン固定化デバイス1はs-IgAに特異性を有することが確認された。また、ジャカリンレクチン固定化デバイス1のs-IgA添加時の応答量は+56mVであった。一方、Fab固定化デバイス2のs-IgA添加時の応答量は+24mVであった。レクチン固定化デバイスを用いた方が、Fab固定化デバイスを用いた場合に比べて、検出感度の点で有利であることが示された。
【0060】
[実施例2-1]
デバイス3を洗浄後、ホルダーに設置し、デバイスの検出部を0.01×PBS0.5mLに3分間浸漬した。浸漬後、室温で、ジャカリンレクチン固定化デバイスの電流-電圧曲線を、Ag/AgCl参照電極を用い、デジタルソースメータ(ケースレー社製、2612)で測定した。測定条件はゲート電圧-2V~0V、ドレイン電圧0.1Vとした。続けて100μg/mLのs-IgAを含む1×PBS20μLをジャカリンレクチン固定化デバイスのゲート表面上に添加し、60分間静置した後、1×PBS3mL及び0.01×PBS3mLを用いてリンスを行った。その後、ゲート表面上に0.01×PBSを0.5mL添加して3分間静置した後、s-IgA吸着デバイスの電流-電圧曲線を測定し、s-IgA添加前後でのゲート電圧シフトΔVgを評価した。結果を図8に示す。
【0061】
図8中、実線はタンパク質添加前のデバイス特性を表し、破線はタンパク質添加後のデバイス特性を表す。デバイス3にs-IgAを添加した場合、電流-電圧曲線が正方向にシフトした。デバイス3のs-IgA添加時の応答量は+151mVであった。アルギニン存在下でレクチンを固定することで、検出感度がより向上したデバイスを構築できることが示された。
【符号の説明】
【0062】
1 シリコン基板
2 絶縁層
3 第1の有機単分子膜
4 ゲート電極
5 ソース電極
6 ドレイン電極
7 ドープ領域
8 参照部
9 検出部
10 テンプレート部
11 レクチン(プローブ分子)
12 糖化合物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8