(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】水質測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 33/18 20060101AFI20230426BHJP
【FI】
G01N33/18 106
(21)【出願番号】P 2019053258
(22)【出願日】2019-03-20
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】長尾 信明
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-167853(JP,A)
【文献】特開平09-292390(JP,A)
【文献】特開2007-101420(JP,A)
【文献】特開2006-322793(JP,A)
【文献】特開2015-17901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/18,
G01N 27/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象水と接するセンサ本体を有する、pH計又は電気伝導率計よりなる水質センサを備えた水質測定装置において、
該センサ本体を囲んでおり、該センサ本体との間にスペースを形成するカバーと、
該スペースをカバー外に連通するように該カバーに設けられた開口と、
該スペースに流体を供給する流体供給部と、
該水質センサの前記流体供給部に接続された清水供給配管、圧縮空気供給配管及び大気連通配管と、
該清水供給配管に設けられた水道水、蒸留水、脱イオン水、純水又は超純水よりなる清水を供給するための清水供給弁と、
該圧縮空気供給配管に設けられた圧縮空気供給弁と、
該大気連通配管に設けられた大気連通弁と、
該清水供給弁、圧縮空気供給弁及び大気連通弁の開閉を制御する制御手段と
を備えてなる水質測定装置
であって、
前記制御手段は、定期的に測定を行うものであって、測定時には、前記清水供給弁を閉弁させると共に圧縮空気供給弁を開弁し、その後設定時間が経過したときに圧縮空気供給弁を閉弁させると共に大気連通弁を開弁させ、この大気連通弁の開弁後、センサ出力の変化速度が所定値よりも小さくなったときに前記清水供給弁を開弁させ、このセンサ出力の変化速度が所定値よりも小さくなったときのセンサ検出値を次回の計測時までセンサ検出値として出力する手段を備えたことを特徴とする水質測定装置。
【請求項2】
前記センサ本体はロッド状であり、その先端側に検出部が設けられており、
前記カバーは筒状であり、
前記センサ本体の先端側に位置するカバー先端側に前記開口が設けられ、カバー基端側に前記流体供給部が設けられていることを特徴とする請求項
1に記載の水質測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、pH計、伝導率計などの水質センサを用いた水質測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
排水処理における排水性状を安定して連続計測するためには、設置したセンサ類の計測部に排水中の汚染物質が与える影響を軽減することが大きな課題の一つである。特に、光を使うものであれば、発光部・受光部の表面を光学的に清澄に保つことが重要である。pH計のように電気化学反応を用いるものであれば、反応部であるガラス管表面へのSS(suspended solid)成分の付着を減らすことが重要となる。
【0003】
特許文献1には、pH計が設置された槽内を浄水で洗浄した後、pH計を酸やアルカリなどの薬液で洗浄する方法が記載されている。しかし、この方法では、薬液をリザーブしておく必要があり、メンテナンス性に難がある。また、pH計にSS等が多量に付着した場合には、薬液洗浄だけでは十分に除去できない場合もある。
【0004】
電気化学的な計測装置であるpH計や伝導率計においては、幾つかの計測器メーカーから、洗浄水を計測部に直接吹き付ける機構を備えたものが販売されている。しかし、実際の排水処理現場においては、前記機構では十分な効果が得られない場合がある。特にpH計の場合は、計測値に従って酸性や塩基性の薬品を投入するため、計測値が異常となれば、薬品を過剰に投与することとなるため、高い信頼性が求められる。そのため、前記のような十分な洗浄効果が得られない現場においては、メンテナンス負荷が高まり、運用者に過剰な労力を招くこととなったり、信頼性が得られずに、直接担当者が定期的に現場でセンサを用いて計測を行うというような事態が発生している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、機構が簡単で高い測定精度を得ることができる水質測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の水質測定装置は、測定対象水と接するセンサ本体を有する水質センサを備えた水質測定装置において、該センサ本体を囲んでおり、該センサ本体との間にスペースを形成するカバーと、該スペースをカバー外に連通するように該カバーに設けられた開口と、該スペースに流体を供給する流体供給部と、該水質センサの前記流体供給部に接続された清水供給配管、圧縮空気供給配管及び大気連通配管と、該清水供給配管に設けられた清水供給弁と、該圧縮空気供給配管に設けられた圧縮空気供給弁と、該大気連通配管に設けられた大気連通弁と、該清水供給弁、圧縮空気供給弁及び大気連通弁の開閉を制御する制御手段とを備えてなる。
【0008】
本発明の水質測定装置の一態様では、前記制御手段は、定期的に前記清水供給弁を閉弁させると共に圧縮空気供給弁を開弁し、その後設定時間が経過したときに圧縮空気供給弁を閉弁させると共に大気連通弁を開弁させ、この大気連通弁の開弁から所定時間が経過したとき、又はセンサ出力の変化速度が所定値よりも小さくなったときに前記清水供給弁を開弁させるように構成されている。
【0009】
本発明の水質測定装置の一態様では、前記所定時間が経過したとき、又はセンサ出力の変化速度が所定値よりも小さくなったときのセンサ検出値を次回の計測時までセンサ検出値として出力する手段を備える。
【0010】
本発明の一態様では、前記センサ本体はロッド状であり、その先端側に検出部が設けられており、前記カバーは筒状であり、前記センサ本体の先端側に位置するカバー先端側に前記開口が設けられ、カバー基端側に前記流体供給部が設けられている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、非測定時にはセンサ本体の周囲環境を清水としておくことができる。このため、センサ本体にスライム等が付着することが防止され、精度の高い水質測定値を得ることができる。
【0012】
すなわち、本発明の水質測定装置では、非測定時にはセンサ本体とカバーとの間のスペースに清水を常時供給することにより、スペース内に汚泥が溜ったりセンサ本体にスライム等が付着することが防止される。
【0013】
本発明の水質測定装置では、水質測定時には、該スペースへの清水の供給を停止すると共に、該スペースに圧縮空気を供給する。これにより、該スペース内から清水が排出される。その後、圧縮空気の供給を停止し、該スペース内を大気に連通させる。そうすると、流路又は容器内の測定対象水がカバーの開口を通ってスペース内に流入する。そこで、このスペース内の水の水質を測定することにより、流路又は容器内の測定対象水の水質が測定される。測定終了後は、スペース内に再度清水を供給する。これにより、スペース内が清水となり、スペース内での汚泥堆積やスライム等の付着が防止される。
【0014】
本発明では、測定時におけるセンサの水質測定値の変化率が小さくなったときの計測値、又はスペースへの清水供給停止から所定時間経過したときの計測値を、次回計測まで計測値として出力してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態に係る水質測定装置の断面図である。
【
図2】実施の形態に係る水質測定装置の作動を説明するタイミングチャートである。
【
図3】他の実施の形態に係る水質測定装置の断面図である。
【
図4】さらに他の実施の形態に係る水質測定装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、
図1,2を参照して実施の形態について説明する。
【0017】
pH計又は電気伝導率計よりなるセンサ1は、
図1の通り、検水と接するロッド状のセンサ本体(この実施の形態ではプローブ)1aと、該センサ本体1aを囲む筒形状のカバー1bとを有している。カバー1bとセンサ本体1aとの間にはスペースSが存在する。カバー1bの基端側は、センサ本体1aよりも大径のセンサベース1cに水密的に固着されている。
【0018】
カバー1bの先端面と対峙するようにして開口2が設けられている。開口2の開口径は、カバー1bの内径よりも小さい。カバー1bの基端側には、スペースS内に流体を供給するための流体供給部としてノズル3が設けられている。ノズル3の後端は、カバー1b外に突出しており、該後端に配管10を介して清水供給配管4、圧縮空気供給配管6及び大気連通配管8が接続されている。各配管4,6,8,10は、合成樹脂等の硬質パイプであってもよく、軟質チューブであってもよい。
【0019】
清水供給配管4、圧縮空気供給配管6及び大気連通配管8の途中に電磁弁5,7,9が設けられている。各電磁弁5,7,9は、演算制御器11によって制御される。
【0020】
センサ1の計測信号は、演算制御器11に入力される。演算制御器11は、計測信号の経時的な変化率を演算する演算部と、計測出力データを保持する出力保持回路と、電磁弁5,7,9の開閉を制御する電磁弁制御部(図示略)等を備えている。演算制御器11は、マイクロプロセッサを備えており、プログラムに従って後述の一連の動作を行う。
【0021】
このセンサ1は、通常のpH計、伝導率計と同様に、センサ本体1aが槽内や配管内等の測定対象水と接するように設置されて使用される。
【0022】
なお、清水としては、水道水、蒸留水、脱イオン水、純水、超純水などが用いられるが、これに限定されない。
【0023】
圧縮空気源としては、コンプレッサ、ブロワ、空気ボンベ等が好適である。大気連通配管8の末端は大気に開放している。なお、電磁弁9よりも大気側に吸引ポンプやアスピレータ等の吸引手段が設けられてもよい。
【0024】
このセンサ1を備えた水質測定装置において、演算制御器11は、定期的に電磁弁5を閉とすると共に電磁弁7を開として圧縮空気を供給し、その後、電磁弁7を閉、電磁弁9を開としてスペースS内に測定対象水を流入させて計測工程を行う。その後の所定の時期に電磁弁9を閉、電磁弁5を開として洗浄工程を行う。
【0025】
電磁弁5が開となっているときには、ノズル3からスペースSに清水が連続的に供給される。ノズル3からスペースSに供給された清水は、開口2から流出する。これにより、スペースS内に残存していた測定対象水が排出されると共に、センサ本体1aが清水で洗浄される。また、開口2から清水が連続的に流出することにより、開口2から測定対象水がスペースSに流入することが防止される。
【0026】
電磁弁5を閉としてノズル3からの清水供給を停止すると共に、電磁弁7を開としてスペースSに圧縮空気を供給すると、スペースS内の清水が開口2から流出し、スペースS内が空気で充満される。その後、電磁弁7を閉とし、電磁弁9を開としてスペースS内を大気に連通させると、開口2から測定対象水がスペースS内に流入し、センサ本体1aにより計測が行われる。このようにスペースS内の清水を圧縮空気で押し出した後、スペースS内を大気に連通させることにより、スペースS内に測定対象水が速やかに流入し、スペースS内が測定対象水で速やかに満たされる。
【0027】
センサ本体1aが測定対象水と接した場合、計測信号値は、電磁弁5の閉弁当初は比較的急速に変動例えば上昇するが、この上昇は次第に緩慢となってくる。演算制御器11は、計測信号値の上昇速度が所定値よりも小さくなった時点、又は電磁弁9の開から所定時間が経過した時点(後述のt3又はt’3)の計測信号値を計測出力値として出力する。
【0028】
【0029】
予め設定した第N回目計測の開始時刻t1になると、電磁弁5を閉として清水供給を停止すると共に、電磁弁7を開としてスペースSに圧縮空気を供給する。これにより、スペースS内の清水が開口2から流出し、スペースS内が空気で充満される。その後の時刻t2に電磁弁7を閉として圧縮空気供給を停止すると共に、電磁弁9を開としてスペースS内を大気に連通させる。そうすると、開口2から測定対象水がスペースS内に速やかに流入し、スペースS内が測定対象水で満たされセンサ本体1aで計測が行われる。この計測信号値は徐々に安定してくる。この計測信号値の変化速度(℃/sec)が所定値以下になるか、又はt2から所定時間が経過した時刻t3になると、更新信号が出力され、それまで出力保持回路に保持されていた計測出力値D0を時刻t2における計測信号又はそれに基づく計測出力値D1に更新する。
【0030】
なお、電磁弁9はスペースS内が測定対象水で満たされた後、閉とされる。電磁弁9の閉のタイミングはt3以前が好ましいが、後述のt4以前でもよい。
【0031】
演算制御器11の出力保持回路は、次回(第N+1回目)の計測までは、計測出力値をD1に保持する。更新信号の立ち下り時(時刻t4)に電磁弁5を開とし、スペースSへの清水供給を再開する。これに伴い、計測信号は急速に清水対応値にまで低下する。電磁弁5を開とするタイミングは、時刻t4に限定されるものではなく、t3~t4間のいずれでもよい。
【0032】
次の第N+1回目の計測開始時刻t’1になると、同様にして電磁弁5が閉とされると共に電磁弁7が開とされ、次いで時刻t’2に電磁弁7が閉、電磁弁9が開とされる。これにより、スペースS内に測定対象水が速やかに流入し、計測が行われ、出力保持回路に保持されていた計測出力値D1が時刻t’3の計測信号又はそれに基づく計測出力値D2に更新される。この次の第N+2回目の計測まで、センサ1の計測出力値はD2に保持される。スペースS内が測定対象水で満たされた後、電磁弁9が閉とされる。時刻t’4に電磁弁5が再び開とされ、スペースSへの清水供給が再開し、計測信号が急速に清水対応値にまで低下する。
【0033】
第N+2回目以降の計測も同様に行われる。
【0034】
通常の市販のpH計又は伝導率計をセンサ本体とした水質測定装置を用いて、pH又は電気伝導率測定を行う場合、センサ本体1aとカバー1bとの間隔は検水中のSSによる閉塞が発生しない大きさとして1~10mm、特に3~5mmであり、開口2の口径(直径)は5~20mm、特に6~10mm程度が好ましい。この水質測定装置によると、1時間に1~20回、特に5~10回程度の頻度で、1回の計測時における測定対象水との接触時間(t4-t2)を10~120sec、特に15~20sec程度として十分に精度の高い測定を行うことができる。
【0035】
この場合、センサ本体1aが測定対象水と接触する時間は、最長でも1時間に合計で10~120sec程度であり、センサ本体1aに水中の懸濁物質が付着することが殆どない。また、仮にセンサ本体に若干の汚れが付着しても、洗浄工程においてノズル3から導入される清水によってセンサ本体1aが洗浄されたときに汚れが除去される。
【0036】
このとき、通常は、センサ本体1aの先端部にpH電極等の検出部が位置する。この実施の形態では、カバー1bの先端部に口径の小さい開口2が設けられているので、センサ本体1aの先端近傍での清水流速が大きいものとなり、乱流状態となった清水によりセンサ検出部が十分に洗浄される。
【0037】
なお、センサ検出部の汚れがさらに強い場合には、
図3あるいは
図4に示すように圧縮空気供給配管6を大気連通配管8の配管10とは別の配管10a側として、この配管10aをノズル3aを介してセンサ検出部の先端に設けることにより、センサ検出部を直接洗浄するようにすることが有効である。
【0038】
本発明では、洗浄工程の好ましくは末期の水質センサ計測値Q1を、予め測定しておいた清水の水質値Q0と対比してオフセット値Q1-Q0を算出し、計測工程での計測値Qを[Q-(Q1-Q0)]と補正してもよい。
【0039】
また、本発明では、Q1-Q0で算出されるオフセット値を監視し、このオフセット値が所定値以上になったときには、警告又は校正要求信号を発生させるようにしてもよい。
【0040】
本発明の水質測定装置は、各種排水処理設備や純水製造装置等に好適に用いることができるが、これら以外の用途にも用いることができる。
【0041】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。本発明は、pHや電気伝導率以外の水質測定にも適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 センサ
1a センサ本体
1b カバー
2 開口
3 ノズル
4 清水供給配管
5,7,9 電磁弁
6 圧縮空気供給配管
8 大気連通配管
11 演算制御器