(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】電気化学素子用バインダー組成物、電気化学素子用スラリー組成物、電気化学素子用機能層および電気化学素子
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20230426BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20230426BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20230426BHJP
H01G 11/38 20130101ALI20230426BHJP
H01M 10/052 20100101ALN20230426BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M50/414
H01M10/0566
H01G11/38
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2019545041
(86)(22)【出願日】2018-09-20
(86)【国際出願番号】 JP2018034911
(87)【国際公開番号】W WO2019065471
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2017188837
(32)【優先日】2017-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】足立 祐輔
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-035557(JP,A)
【文献】特開2013-110108(JP,A)
【文献】特開2015-026595(JP,A)
【文献】国際公開第2017/141791(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/056404(WO,A1)
【文献】特開2014-130751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 50/409
H01M 10/052
H01M 10/0566
H01G 11/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体Aおよび溶媒を含む電気化学素子用バインダー組成物であって、
前記重合体Aが、窒素置換型アミド基含有単量体単位およびヒドロキシル基含有単量体単位を含み、
前記重合体Aにおける窒素置換型アミド基含有単量体単位の含有量が、10質量%以上80質量%以下であり、
前記重合体Aにおけるヒドロキシル基含有単量体単位の含有量が、10質量%以上70質量%以下であ
り、
前記窒素置換型アミド基含有単量体単位が、N-p-ヒドロキシフェニル(メタ)アクリルアミド又はN-p-ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリルアミド由来の単位を含む、
電気化学素子用バインダー組成物。
【請求項2】
前記重合体Aの重量平均分子量が、50,000以上5,000,000以下である、請求項1に記載の電気化学素子用バインダー組成物。
【請求項3】
前記電気化学素子用バインダー組成物が重合体Bをさらに含み、
前記重合体Bが、脂肪族共役ジエン単量体単位および直鎖アルキレン構造単位の少なくともいずれかを含む、請求項1
又は2に記載の電気化学素子用バインダー組成物。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の電気化学素子用バインダー組成物を含む、電気化学素子用スラリー組成物。
【請求項5】
電極活物質をさらに含む、請求項
4に記載の電気化学素子用スラリー組成物。
【請求項6】
請求項
4または5に記載の電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成された電気化学素子用機能層。
【請求項7】
正極、負極、セパレータおよび電解液を備え、
前記正極、前記負極および前記セパレータの少なくともいずれかが、請求項
6に記載の電気化学素子用機能層を有する、電気化学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子用バインダー組成物、電気化学素子用スラリー組成物、電気化学素子用機能層および電気化学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電気化学素子として、リチウムイオン二次電池などの非水系二次電池(以下、単に「二次電池」と略記する場合がある。)や、電気二重層キャパシタおよびリチウムイオンキャパシタなどのキャパシタが幅広い用途に使用されている。
【0003】
非水系二次電池は、小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。そのため、近年では、非水系二次電池の更なる高性能化を目的として、電極などの電池部材の改良が検討されている。
【0004】
ここで、リチウムイオン二次電池などの二次電池用の電極は、通常、集電体と、集電体上に形成された機能層としての電極合材層とを備えている。そして、電極合材層は、例えば、電極活物質と、結着材としての役割を担う重合体を含むバインダー組成物などとを分散媒に分散させてなるスラリー状の組成物を集電体上に塗布し、乾燥させることにより形成される。
【0005】
そこで、近年では、二次電池の更なる性能向上を達成すべく、電極合材層の形成に用いられる電極用スラリー組成物および電極用バインダー組成物の改良が試みられている。
【0006】
ここで、一般に、サイクル特性等の電池性能を向上させることが求められている。
そこで、例えば、特許文献1では、二次電池を製造する際の電極用バインダー組成物として、不飽和カルボン酸類の重合性単量体および(メタ)アクリルアミドを含む単量体群を重合して得られる水溶性樹脂(a)と、有機粒子(b)とを含む電気化学セル用アクリル系水分散体を用いることにより、電極合材層および金属集電体の間の密着性を高めて、二次電池のサイクル特性を向上させる技術が提案されている。
また、特許文献2では、二次電池を製造する際の電極用バインダーとして、酸含有単量体由来の構造単位と水酸基含有単量体由来の構造単位を有し、且つ所定の酸価を有する重合体と水とを含む電極組成物用水系バインダーが提案されている。そして、特許文献2には、電極合材層および集電体の間に十分な剥離強度(密着性)を与え、二次電池のサイクル特性を向上させ得る具体的な電極組成物用水系バインダーとして、アクリル酸または2-カルボキシエチルアクリレートと、2-ヒドロキシエチルアクリレートとを含有する混合物を重合してなる重合体を含む水系バインダーが開示されている。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味し、「(メタ)アクリロ」とは、アクリロおよび/またはメタクリロを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-151108号公報
【文献】特開2015-195114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記従来のバインダー組成物を用いて形成した電極を用いて作製された二次電池には、サイクル特性を更に向上させるという点において改善の余地があった。
【0009】
そこで、本発明は、電気化学素子に優れたサイクル特性を発揮させ得る電気化学素子用機能層を形成可能な電気化学素子用スラリー組成物、並びに、当該スラリー組成物を調製し得る電気化学素子用バインダー組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、電気化学素子に優れたサイクル特性を発揮させ得る電気化学素子用機能層、および当該電気化学素子用機能層を有する電気化学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は検討を重ね、所定の重合体Aおよび溶媒を含むバインダー組成物を用いれば、電気化学素子のサイクル特性を向上させ得る機能層を形成可能な電気化学素子用スラリー組成物を調製し得る電気化学素子用バインダー組成物を提供することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学素子用バインダー組成物は、重合体Aおよび溶媒を含む電気化学素子用バインダー組成物であって、前記重合体Aが、窒素置換型アミド基含有単量体単位およびヒドロキシル基含有単量体単位を含み、前記重合体Aにおける窒素置換型アミド基含有単量体単位の含有量が、10質量%以上80質量%以下であり、前記重合体Aにおけるヒドロキシル基含有単量体単位の含有量が、10質量%以上70質量%以下である、ことを特徴とする。このように、所定量の窒素置換型アミド基含有単量体単位および所定量のヒドロキシル基含有単量体単位を含む重合体Aと、溶媒とを含む電気化学素子用バインダー組成物を用いれば、調製した電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成した機能層を有する電気化学素子のサイクル特性を向上させることができる。
なお、本発明において「単量体単位を含む」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の繰り返し単位が含まれている」ことを意味する。
また、本発明において、「窒素置換型アミド基含有単量体単位の含有割合」および「ヒドロキシル基含有単量体単位の含有割合」は、1H-NMRなどの核磁気共鳴(NMR)法を用いて測定することができる。
【0012】
また、本発明の電気化学素子用バインダー組成物において、前記重合体Aの重量平均分子量が、50,000以上5,000,000以下であることが好ましい。前記重合体Aの重量平均分子量が、50,000以上5,000,000以下であれば、溶媒への溶解性を向上させることができ、また、調製した電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成した機能層の水分量を低減することができ、もって、調製した電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成した機能層を有する電気化学素子のサイクル特性をより向上させることができる。
なお、本発明において、「重合体Aの重量平均分子量」は、本願実施例に記載した方法により測定することができる。
【0013】
また、本発明の電気化学素子用バインダー組成物において、前記窒素置換型アミド基含有単量体の置換基が、環状構造を有することが好ましい。前記窒素置換型アミド基含有単量体の置換基が、環状構造を有すれば、調製した電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成した機能層を有する電気化学素子のサイクル特性を向上させることができる。
【0014】
また、本発明の電気化学素子用バインダー組成物において、前記電気化学素子用バインダー組成物が重合体Bをさらに含み、前記重合体Bが、脂肪族共役ジエン単量体単位および直鎖アルキレン構造単位の少なくともいずれかを含むことが好ましい。前記重合体Bが、脂肪族共役ジエン単量体単位および直鎖アルキレン構造単位の少なくともいずれかを含めば、調製した電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成した機能層の接着強度を向上させることができる。
なお、本発明において、「脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合」および「直鎖アルキレン構造単位の含有割合」は、1H-NMRなどの核磁気共鳴(NMR)法を用いて測定することができる。
【0015】
そして、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学素子用スラリー組成物は、上述した何れかの電気化学素子用バインダー組成物を含むことを特徴とする。このように、上述の何れかの電気化学素子用バインダー組成物を含む電気化学素子用スラリー組成物は、電気化学素子に優れたサイクル特性を発揮させることができる機能層を形成可能である。
【0016】
また、本発明の電気化学素子用スラリー組成物において、電極活物質をさらに含むことが好ましい。電極活物質をさらに含めば、電気化学素子としての二次電池に優れたサイクル特性を発揮させることができる電極合材層を形成可能である。
【0017】
そして、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学素子用機能層は、上述した何れかの電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成されたことを特徴とする。このように、上述した何れかの電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成された電気化学素子用機能層は、電気化学素子に優れたサイクル特性を発揮させることができる。
【0018】
そして、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学素子は、正極、負極、セパレータおよび電解液を備え、前記正極、前記負極および前記セパレータの少なくともいずれかが、上述した電気化学素子用機能層を有することを特徴とする。このように、正極、負極およびセパレータの少なくともいずれかが、上述した電気化学素子用機能層を有することで、電気化学素子のサイクル特性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、電気化学素子に優れたサイクル特性を発揮させ得る電気化学素子用機能層を形成可能な電気化学素子用スラリー組成物、並びに、当該スラリー組成物を調製し得る電気化学素子用バインダー組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、電気化学素子に優れたサイクル特性を発揮させ得る電気化学素子用機能層、および当該電気化学素子用機能層を有する電気化学素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の電気化学素子用バインダー組成物は、(i)電極における集電体上や、(ii)当該集電体上に形成される電極合材層の更に上(すなわち電極基材の上)や、(iii)セパレータ基材の上に形成される機能層の形成に用いられるものである。そして、本発明の電気化学素子用スラリー組成物は、本発明の電気化学素子用バインダー組成物を含み、本発明の電気化学素子用機能層を調製する際の材料として用いられる。また、本発明の電気化学素子用機能層は、本発明の電気化学素子用スラリー組成物を用いて調製され、例えばセパレータや電極の一部を構成する。そして、本発明の電気化学素子は、本発明の電気化学素子用機能層を有するものである。
【0021】
(電気化学素子用バインダー組成物)
本発明の電気化学素子用バインダー組成物は、重合体A、溶媒、および、任意の重合体Bを含み、前記重合体Aが、窒素置換型アミド基含有単量体単位およびヒドロキシル基含有単量体単位を含み、前記重合体Aにおける窒素置換型アミド基含有単量体単位の含有量が、10質量%以上80質量%以下であり、前記重合体Aにおけるヒドロキシル基含有単量体単位の含有量が、10質量%以上70質量%以下である、ことを特徴とする。
そして、本発明の電気化学素子用バインダー組成物を用いることで、調製した電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成した機能層を有する電気化学素子のサイクル特性を向上させることができる。加えて本発明の電気化学素子用バインダー組成物中の重合体Aは、優れた結着性を有するものであるため、本発明の電気化学素子用バインダー組成物は、機能層用バインダー組成物として良好に使用することができる。以下では、本発明の電気化学素子用バインダー組成物について、当該電気化学素子用バインダー組成物を機能層の形成に用いる場合を例に挙げて説明する。
【0022】
<重合体A>
重合体Aは、窒素置換型アミド基含有単量体単位と、ヒドロキシル基含有単量体単位とを含み、任意に、窒素置換型アミド基含有単量体単位およびヒドロキシル基含有単量体単位以外の単量体単位を含んでいてもよい。重合体Aがこのような単量体組成を有することで、重合体Aを含む電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成した機能層を有する電気化学素子のサイクル特性を向上させることができる。
また、重合体Aは、水溶性重合体であることが好ましい。重合体Aが水溶性重合体であることにより、スラリー分散性や機能層の接着性を向上させることができる。
なお、本発明において、重合体が「水溶性」であるとは、25℃において、その重合体0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が0.5質量%未満となることをいう。
【0023】
[窒素置換型アミド基含有単量体単位]
窒素置換型アミド基含有単量体としては、例えば、窒素置換型(メタ)アクリルアミド単量体、窒素置換型(メタ)アクリルアミド単量体、窒素置換型アセトアミド単量体、などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。そしてこれらの中でも、電気化学的な安定性の観点から、窒素置換型(メタ)アクリルアミド単量体が好ましい。
なお、本明細書では、仮に、窒素置換型アミド基含有単量体がヒドロキシル基を含有する場合(例えば、N-p-ヒドロキシフェニル(メタ)アクリルアミド、N-p-ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリルアミド)であっても、窒素置換型アミド基を含有するときは、「窒素置換型アミド基含有単量体」に属するものとする。
【0024】
そして、重合体A中における窒素置換型アミド基含有単量体単位の含有量(重合体Aに含まれる全単量体単位中に占める窒素置換型アミド基含有単量体単位の割合)は、10質量%以上であることが必要であり、30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることが特に好ましく、また、80質量%以下であることが必要であり、55質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。重合体A中における窒素置換型アミド基含有単量体単位の含有量を上記下限値以上とすることで、(i)機能層が電極合材層である場合における、電極活物質に対する重合体Aの吸着性向上、並びに、(ii)機能層がセパレータ基材上に形成された多孔膜である場合における、セパレータ基材に対する重合体Aの吸着性向上によって、機能層を有する電気化学素子のサイクル特性を向上させることができる。一方、重合体A中における窒素置換型アミド基含有単量体単位の含有量を上記上限値以下とすることで、重合体Aの溶媒に対する溶解性を向上させることにより、重合体Aを含む電気化学素子用スラリー組成物のスラリー安定性を向上させることができ、もって、重合体Aを含む電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成した機能層を有する電気化学素子のサイクル特性を向上させることができる。
なお、重合体A中における窒素置換型アミド基含有単量体の含有量(重合体Aに含まれる全単量体単位中に占める窒素置換型アミド基含有単量体の割合)は、1H-NMRなどの核磁気共鳴(NMR)法を用いて測定することができる。
【0025】
[[窒素置換型(メタ)アクリルアミド単量体]]
前記窒素置換型(メタ)アクリルアミド単量体は、(メタ)アクリルアミドのアミド基中の1個又は2個の水素原子が、例えば、下記(i)~(vi)で、置換された化合物である。
(i)ヒドロキシル基および/またはカルボキシル基を有するフェニル基もしくはその環置換誘導体;
(ii)ヒドロキシル基および/またはカルボキシル基を有するシクロヘキシル基もしくはその環置換誘導体:
(iii)イソプルピル基、イソブチル基、イソヘキシル基、イソへプチル基、イソオクチル基、イソノナニル基、等の分岐アルキル基;
(iv)メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノナニル基、等の直鎖アルキル基;
(v)2-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基、2-ヒドロキシブチル基、2-ヒドロキシヘキシル基、2-ヒドロキシヘプチル基、2-ヒドロキシオクチル基、2-ヒドロキシノナニル基等のヒドロキシアルキル基;
(vi)ジメチルアミノメチル基、ジメチルアミノエチル基、ジメチルアミノプロピル基、ジメチルアミノブチル基、ジメチルアミノへキシル基、ジエチルアミノメチル基、ジエチルアミノエチル基、ジエチルアミノプロピル基、ジエチルアミノブチル基、ジメチルアミノへキシル基等のジアルキルアミノアルキル基
【0026】
前記窒素置換型(メタ)アクリルアミド単量体の具体例としては、N-o-ヒドロキシフェニル(メタ)アクリルアミド、N-m-ヒドロキシフェニル(メタ)アクリルアミド、N-p-ヒドロキシフェニル(メタ)アクリルアミド、N-(2,6-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)(メタ)アクリルアミド、N-(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)(メタ)アクリルアミド、N-(2,4-ジヒドロキシフェニル)(メタ)アクリルアミド、N-(3,5-ジヒドロキシフェニル)(メタ)アクリルアミド、N-p-カルボキシフェニル(メタ)アクリルアミド、N-(3,5-ジカルボキシフェニル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシ-4-カルボキシフェニル)(メタ)アクリルアミド、N-o-ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリルアミド、N-m-ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリルアミド、N-p-ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリルアミド、N-(2,6-ジメチル-4-ヒドロキシシクロヘキシル)(メタ)アクリルアミド、N-(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシシクロヘキシル)(メタ)アクリルアミド、N-(2,4-ジヒドロキシシクロヘキシル)(メタ)アクリルアミド、N-(3,5-ジヒドロキシシクロヘキシル)(メタ)アクリルアミド、N-p-カルボキシシクロヘキシル(メタ)アクリルアミド、N-(3,5-ジカルボキシシクロヘキシル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシ-4-カルボキシシクロヘキシル)(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソブチル(メタ)アクリルアミド、N-イソヘキシル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジヘキシル(メタ)アクリルアミド、N-(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリルアミド(N-メチロール(メタ)アクリルアミド)、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N,N-(ジメチルアミノメチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-(2-ジメチルアミノエチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル](メタ)アクリルアミド、N,N-[4-(ジメチルアミノ)ブチル](メタ)アクリルアミド、などを挙げることができる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。そしてこれらの中でも、(i)機能層の水分量低減、(ii)機能層が電極合材層である場合における、電極活物質に対する重合体Aの吸着性向上、並びに、(iii)機能層が多孔膜層である場合における、セパレータ基材に対する重合体Aの吸着性向上、を図り、これらの(i)~(iii)により、機能層を有する電気化学素子のサイクル特性を向上させる観点から、N-p-ヒドロキシフェニル(メタ)アクリルアミド、N-p-ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、が好ましく、N-p-ヒドロキシフェニル(メタ)アクリルアミド、N-p-ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリルアミド、等の「置換基が環状構造を有するもの」がより好ましい。
【0027】
[ヒドロキシル基含有単量体単位]
ヒドロキシル基含有単量体単位を形成し得るヒドロキシル基含有単量体としては、例えば、ヒドロキシル基含有ビニル単量体、などが挙げられる。
【0028】
そして、重合体A中におけるヒドロキシル基含有単量体単位の含有量(重合体Aに含まれる全単量体単位中に占めるヒドロキシル基含有単量体単位の割合)は、10質量%以上であることが必要であり、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが特に好ましく、また、70質量%以下であることが必要であり、65質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが特に好ましい。重合体A中におけるヒドロキシル基含有単量体単位の含有量を上記下限値以上とすることで、調製した電気化学素子用スラリー組成物の粘性を向上させて、調製した電気化学素子用スラリー組成物のスラリー安定性を向上させることができ、もって、調製した電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成した機能層を有する電気化学素子のサイクル特性を向上させることができる。一方、重合体A中におけるヒドロキシル基含有単量体単位の含有量を上記上限値以下とすることで、調製した電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成した機能層の水分量を低減することができ、もって、調製した電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成した機能層を有する電気化学素子のサイクル特性をより向上させることができる。
なお、重合体A中におけるヒドロキシル基含有単量体単位の含有量(重合体Aに含まれる全単量体単位中に占めるヒドロキシル基含有単量体単位の割合)は、1H-NMRなどの核磁気共鳴(NMR)法を用いて測定することができる。
【0029】
[[ヒドロキシル基含有ビニル単量体]]
前記ヒドロキシル基含有ビニル単量体は、ヒドロキシル基(-OH)およびビニル基(-CH=CH2)を有し、当該ビニル基が有するエチレン性不飽和結合(C=C)が分子中に1つである単官能化合物であれば特に制限されない。
【0030】
前記ヒドロキシル基含有ビニル単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、などが挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。そしてこれらの中でも、機能層の接着性向上の観点から、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、および、2-ヒドロキシプロピルメタクリレートが好ましく、2-ヒドロキシエチルアクリレートおよび2-ヒドロキシエチルメタクリレートがより好ましい。
なお、本発明において、上記ヒドロキシル基含有ビニル単量体単位を形成し得るヒドロキシル基含有ビニル単量体として例示する化合物は、上述した窒素置換型アミド基含有単量体単位を形成し得る窒素置換型アミド基含有単量体には含まれないものとする。
【0031】
[その他の単量体単位]
窒素置換型アミド基含有単量体単位およびヒドロキシル基含有単量体単位以外のその他の単量体単位としては、特に限定されないが、例えば、酸基含有単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、芳香族ビニル単量体単位、共役ジエン単量体単位、が挙げられる。なお、その他の単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0032】
そして、重合体A中におけるその他の単量体単位の含有量(重合体Aに含まれる全単量体単位中に占めるその他の単量体単位の割合)は、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが特に好ましく、また、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが特に好ましい。重合体A中におけるその他の単量体単位の含有量を上記上限値以下とすることで、調製した電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成した機能層の水分量を低減することができ、もって、調製した電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成した機能層を有する電気化学素子のサイクル特性をより向上させることができる。
なお、重合体A中におけるその他の単量体単位の含有量(重合体Aに含まれる全単量体単位中に占めるその他の単量体単位の割合)は、1H-NMRなどの核磁気共鳴(NMR)法を用いて測定することができる。
【0033】
[[酸基含有単量体単位]]
酸基含有単量体単位を形成し得る酸基含有単量体(その他単量体)としては、酸基を含有する単量体であれば特に限定されず、カルボン酸基(カルボキシル基)を有する単量体、スルホン酸基を有する単量体、リン酸基を有する単量体、などが挙げられる。
【0034】
カルボン酸基を有する単量体としては、例えば、モノカルボン酸、ジカルボン酸、およびこれらの塩(ナトリウム塩、リチウム塩など)が挙げられる。モノカルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸が挙げられる。ジカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸が挙げられる。
スルホン酸基を有する単量体としては、例えば、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、(メタ)アクリル酸-2-スルホン酸エチル、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、およびこれらの塩(リチウム塩、ナトリウム塩など)が挙げられる。
なお、本発明において、「(メタ)アリル」とは、アリルおよび/またはメタリルを意味し、「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/メタクリルを意味する。
リン酸基を有する単量体としては、例えば、リン酸-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸エチル-(メタ)アクリロイルオキシエチル、およびこれらの塩(ナトリウム塩、リチウム塩など)が挙げられる。なお、本発明において、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよび/またはメタクリロイルを意味する。
【0035】
これらの中でも、酸基含有単量体としては、重合体Aにおける共重合性やスラリー安定性の観点から、カルボン酸基を有する単量体が好ましく、メタクリル酸、イタコン酸、アクリル酸、マレイン酸、がより好ましく、メタクリル酸が更に好ましい。
【0036】
[[(メタ)アクリル酸エステル単量体単位]]
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成し得る(メタ)アクリル酸エステル単量体(その他単量体)としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレー卜、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル;などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
[[芳香族ビニル単量体単位]]
芳香族ビニル単量体単位を形成し得る芳香族ビニル単量体(その他単量体)としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、スチレンが好ましい。
【0038】
[重合体Aの調製方法]
重合体Aは、上述した単量体を含む単量体組成物を、例えば水などの水系溶媒中で重合することにより、製造し得る。この際、単量体組成物中の各単量体の含有割合は、重合体A中の各繰り返し単位(単量体単位)の含有量(含有割合)に準じて定めることができる。
そして、重合様式は、特に制限なく、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。また、重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの反応も用いることができる。
また、重合に使用される乳化剤、分散剤、重合開始剤、重合助剤などの添加剤は、一般に用いられるものを使用しうる。これらの添加剤の使用量も、一般に使用される量としうる。重合条件は、重合方法および重合開始剤の種類などに応じて適宜調整しうる。
【0039】
[重合体Aの性状]
重合体Aの重量平均分子量は、50,000以上であることが好ましく、100,000以上であることがより好ましく、200,000以上であることが特に好ましく、600,000以上であることが最も好ましく、また、5,000,000以下であることが好ましく、4,000,000以下であることがより好ましく、3,000,000以下であることが特に好ましく、1,000,000以下であることが最も好ましい。重合体Aの重量平均分子量を上記下限値以上とすることで、重合体Aの溶媒に対する溶解性を向上させることにより、調製した電気化学素子用スラリー組成物のスラリー安定性を向上させることができ、もって、調製した電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成した機能層を有する電気化学素子のサイクル特性を向上させることができる。一方、重合体Aの重量平均分子量を上記上限値以下とすることで、調製した電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成した機能層の水分量を低減することができ、もって、調製した電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成した機能層を有する電気化学素子のサイクル特性をより向上させることができる。
なお、重合体Aの「重量平均分子量」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定する。
【0040】
<重合体B>
重合体Bは、脂肪族共役ジエン単量体単位および直鎖アルキレン構造単位の少なくともいずれかを含み、脂肪族共役ジエン単量体単位および直鎖アルキレン構造単位のいずれも含んでいてもよく、任意に、脂肪族共役ジエン単量体単位および直鎖アルキレン構造単位以外の単量体単位を含んでいてもよい。重合体Bがこのような単量体組成を有することで、調製した電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成される機能層の接着強度を向上させることができる。また、重合体Bは、溶解型でなく、非溶解型であることが好ましい。
ここで、「非溶解型」とは、25℃において、その重合体0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が95質量%以上となることをいう。
【0041】
[脂肪族共役ジエン単量体単位]
脂肪族共役ジエン単量体単位を形成し得る脂肪族共役ジエン単量体としては、特に限定されることなく、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンなどが挙げられる。中でも、脂肪族共役ジエン単量体としては、1,3-ブタジエンおよびイソプレンが好ましく、機能層の柔軟性および接着強度の観点から、1,3-ブタジエンがより好ましい。なお、脂肪族共役ジエン単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0042】
そして、重合体B中における脂肪族共役ジエン単量体単位の含有量(重合体Bに含まれる全単量体単位中に占める脂肪族共役ジエン単量体単位の割合)は、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが特に好ましく、また、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、36質量%以下であることが特に好ましい。重合体B中における脂肪族共役ジエン単量体単位の含有量を上記下限値以上とすることで、機能層に良好な柔軟性を付与することができる。一方、重合体B中における脂肪族共役ジエン単量体単位の含有量を上記上限値以下とすることで、機能層に良好な接着性を付与することができる。
なお、重合体B中における脂肪族共役ジエン単量体単位の含有量(重合体Bに含まれる全単量体単位中に占める脂肪族共役ジエン単量体単位の割合)は、1H-NMRなどの核磁気共鳴(NMR)法を用いて測定することができる。
【0043】
〔直鎖アルキレン構造単位〕
直鎖アルキレン構造単位は、一般式:-CnH2n-[但し、nは2以上の整数]で表わされるアルキレン構造のみで構成される繰り返し単位である。ここで、直鎖アルキレン構造単位は、直鎖状である。
そして、重合体Bへの直鎖アルキレン構造単位の導入方法は、特に限定はされないが、例えば以下の(1)または(2)の方法:
(1)共役ジエン単量体を含む単量体組成物から共役ジエン単量体単位を含む重合体を調製し、当該重合体に水素添加することで、共役ジエン単量体単位をアルキレン構造単位に変換する方法
(2)1-オレフィン単量体を含む単量体組成物から重合体を調製する方法が挙げられる。これらの中でも、(1)の方法が重合体の調製が容易であり好ましい。
ここで、共役ジエン単量体としては、例えば、1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンなどが挙げられる。中でも、1,3-ブタジエンが好ましい。すなわち、直鎖アルキレン構造単位は、共役ジエン単量体単位を水素化して得られる構造単位(共役ジエン水素化物単位)であることが好ましく、1,3-ブタジエン単位を水素化して得られる構造単位(1,3-ブタジエン水素化物単位)であることがより好ましい。
また、1-オレフィン単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセンなどが挙げられる。
これらの共役ジエン単量体や1-オレフィン単量体は、一種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
そして、重合体B中における直鎖アルキレン構造単位の含有量(重合体Bに含まれる全単量体単位中に占める直鎖アルキレン構造単位の割合)は、25質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、また、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが特に好ましい。重合体B中における直鎖アルキレン構造単位の含有量を上記下限値以上とすることで、機能層に良好な柔軟性を付与することができる。一方、重合体B中における直鎖アルキレン構造単位の含有量を上記上限値以下とすることで、機能層に良好な接着性を付与することができる。
なお、重合体B中における直鎖アルキレン構造単位の含有量(重合体Bに含まれる全単量体単位中に占める直鎖アルキレン構造単位の割合)は、1H-NMRなどの核磁気共鳴(NMR)法を用いて測定することができる。
【0045】
[その他の単量体単位]
脂肪族共役ジエン単量体単位および直鎖アルキレン構造単位以外の単量体単位としては、特に限定されないが、例えば、芳香族含有単量体単位、酸基含有単量体単位、上述のヒドロキシル基含有単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、が挙げられる。なお、その他の単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0046】
[[芳香族含有単量体単位]]
芳香族含有単量体単位を形成し得る芳香族含有単量体(その他単量体)としては、特に限定されることなく、スチレン、スチレンスルホン酸およびその塩、α-メチルスチレン、ブトキシスチレン、ビニルナフタレン、等の芳香族ビニル単量体、などが挙げられる。中でも、芳香族含有単量体としては、機能層の接着性および柔軟性の観点から、スチレンが好ましい。なお、芳香族含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0047】
[[酸基含有単量体単位]]
酸基含有単量体単位を形成し得る酸基含有単量体(その他単量体)としては、酸基を含有する単量体であれば特に限定されず、カルボン酸基を有する単量体、スルホン酸を有する単量体、ヒドロキシル基を有する単量体などが挙げられる。
【0048】
カルボン酸基を有する単量体としては、例えば、モノカルボン酸、ジカルボン酸、およびこれらの塩(ナトリウム塩、リチウム塩など)が挙げられる。モノカルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸が挙げられる。ジカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸が挙げられる。これらの中でも、メタクリル酸、イタコン酸、アクリル酸、マレイン酸、がより好ましく、重合安定性およびスラリー安定性の観点から、イタコン酸が更に好ましい。
【0049】
そして、重合体B中におけるその他の単量体単位の含有量(重合体Bに含まれる全単量体単位中に占めるその他の単量体単位の割合)は、25質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが特に好ましく、また、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることが特に好ましい。重合体B中におけるその他の単量体単位の含有量を上記下限値以上とすることで、重合安定性およびスラリー安定性を付与することができる。一方、重合体B中におけるその他の単量体単位の含有量を上記上限値以下とすることで、機能層の密着性および柔軟性を実現することができる。
なお、重合体B中におけるその他の単量体単位の含有量(重合体Bに含まれる全単量体単位中に占めるその他の単量体単位の割合)は、1H-NMRなどの核磁気共鳴(NMR)法を用いて測定することができる。
【0050】
<重合体Aの質量および重合体Bの質量の合計に対する重合体Aの質量の割合(重合体Aの質量/重合体Aの質量および重合体Bの質量の合計)>
重合体Aの質量および重合体Bの質量の合計に対する重合体Aの質量の割合(重合体Aの質量/重合体Aの質量および重合体Bの質量の合計)としては、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることが特に好ましく、また、90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることが特に好ましい。前記割合を上記下限値以上とすることで、スラリー安定性を付与することができる。一方、前記割合を上記上限値以下とすることで、機能層に結着性を付与することができる。
【0051】
<溶媒>
本発明の電気化学素子用バインダー組成物が含有する溶媒としては、特に限定されることなく、水等の無機溶媒、N-メチルピロリドン(NMP)等の有機溶媒、などが挙げられる。なお、溶媒は、水溶液であってもよく、水と少量の有機溶媒との混合溶液であってもよい。
【0052】
<その他の成分>
本発明の電気化学素子用バインダー組成物は、上記成分の他に、補強材、レベリング剤、粘度調整剤、電解液添加剤等の成分を含有していてもよい。これらは、電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られず、公知のもの、例えば国際公開第2012/115096号に記載のものを使用することができる。また、これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0053】
<電気化学素子用バインダー組成物の調製方法>
本発明の電気化学素子用バインダー組成物の調製方法は、特に限定されないが、例えば、水溶性重合体である重合体Aの調製を溶媒系媒体中で実施し、重合体Aが溶液として得られる場合には、重合体Aの溶液をそのまま電気化学素子用バインダー組成物としてもよいし、重合体Aの溶液に任意のその他の成分を加えて電気化学素子用バインダー組成物としてもよい。ここでその他の成分としては、後述する「電気化学素子用スラリー組成物」の項で記載するその他の成分が挙げられる。また、電気化学素子用バインダー組成物は水以外の溶媒を含んでいてもよい。
【0054】
(電気化学素子用スラリー組成物)
本発明の電気化学素子用スラリー組成物は、少なくとも、上述した重合体A、溶媒、任意の重合体Bを含む電気化学素子用バインダー組成物を含み、任意に、機能性粒子(電極活物質、非導電性粒子)、その他の成分を含有する、溶媒を分散媒とした電気化学素子用スラリー組成物である。
また本発明の電気化学素子用スラリー組成物が電極活物質を含む場合、本発明の電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成した機能層は、ピール強度に優れた電極合材層として良好に機能することができる。
また本発明の電気化学素子用スラリー組成物が非導電性粒子を含む場合、本発明の電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成した機能層は、耐熱性や強度に優れる多孔膜層として良好に機能することができる。
【0055】
<スラリー組成物の全固形分質量に対する重合体Aの質量の割合(重合体Aの質量/スラリー組成物の全固形分質量)>
スラリー組成物の全固形分質量に対する重合体Aの質量の割合(重合体Aの質量/スラリー組成物の全固形分質量)としては、0.2質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1.0質量%以上であることが特に好ましく、また、3.0質量%以下であることが好ましく、2.5質量%以下であることがより好ましく、2.0質量%以下であることが特に好ましい。前記割合を上記下限値以上とすることで、スラリーに優れた安定性および耐熱性を付与することができる。一方、前記割合を上記上限値以下とすることで、機能層に柔軟性を付与することができる。
【0056】
<スラリー組成物の全固形分質量に対する重合体Bの質量の割合(重合体Bの質量/スラリー組成物の全固形分質量)>
スラリー組成物の全固形分質量に対する重合体Bの質量の割合(重合体Bの質量/スラリー組成物の全固形分質量)としては、0.2質量%以上であることが好ましく、0.4質量%以上であることがより好ましく、1.0質量%以上であることが特に好ましく、また、7.0質量%以下であることが好ましく、6.0質量%以下であることがより好ましく、2.0質量%以下であることが特に好ましい。前記割合を上記下限値以上とすることで、機能層に優れた接着性を付与することができる。一方、前記割合を上記上限値以下とすることで、スラリーに優れた耐熱性を付与すると共に、電池の抵抗上昇を抑制することができる。
【0057】
<機能性粒子>
ここで、機能層に所期の機能を発揮させるための機能性粒子としては、例えば、機能層が電極合材層である場合には電極活物質からなる電極活物質粒子が挙げられ、機能層が多孔膜層である場合には非導電性粒子が挙げられる。
【0058】
[電極活物質]
電極活物質は、電気化学素子としてのリチウムイオン二次電池の電極(正極、負極)において電子の受け渡しをする物質である。そして、電気化学素子としてのリチウムイオン二次電池の電極活物質(正極活物質、負極活物質)としては、通常は、リチウムを吸蔵および放出し得る物質を用いる。
【0059】
[[正極活物質]]
具体的には、正極活物質としては、遷移金属を含有する化合物、例えば、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、リチウムと遷移金属との複合金属酸化物などを用いることができる。なお、遷移金属としては、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo等が挙げられる。
【0060】
ここで、遷移金属酸化物としては、例えばMnO、MnO2、V2O5、V6O13、TiO2、Cu2V2O3、非晶質V2O-P2O5、非晶質MoO3、非晶質V2O5、非晶質V6O13等が挙げられる。
遷移金属硫化物としては、TiS2、TiS3、非晶質MoS2、FeSなどが挙げられる。
リチウムと遷移金属との複合金属酸化物としては、層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、スピネル型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物などが挙げられる。
【0061】
層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO2)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO2)、Co-Ni-Mnのリチウム含有複合酸化物(Li(CoMnNi)O2)、Ni-Mn-Alのリチウム含有複合酸化物、Ni-Co-Alのリチウム含有複合酸化物、LiMaO2とLi2MbO3との固溶体などが挙げられる。なお、Co-Ni-Mnのリチウム含有複合酸化物としては、Li[Ni0.5Co0.2Mn0.3]O2、Li[Ni1/3Co1/3Mn1/3]O2などが挙げられる。また、LiMaO2とLi2MbO3との固溶体としては、例えば、xLiMaO2・(1-x)Li2MbO3などが挙げられる。ここで、xは0<x<1を満たす数を表し、Maは平均酸化状態が3+である1種類以上の遷移金属を表し、Mbは平均酸化状態が4+である1種類以上の遷移金属を表す。このような固溶体としては、Li[Ni0.17Li0.2Co0.07Mn0.56]O2などが挙げられる。
なお、本明細書において、「平均酸化状態」とは、前記「1種類以上の遷移金属」の平均の酸化状態を示し、遷移金属のモル量と原子価とから算出される。例えば、「1種類以上の遷移金属」が、50mol%のNi2+と50mol%のMn4+から構成される場合には、「1種類以上の遷移金属」の平均酸化状態は、(0.5)×(2+)+(0.5)×(4+)=3+となる。
【0062】
スピネル型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)や、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)のMnの一部を他の遷移金属で置換した化合物が挙げられる。具体例としては、LiNi0.5Mn1.5O4などのLis[Mn2-tMct]O4が挙げられる。ここで、Mcは平均酸化状態が4+である1種類以上の遷移金属を表す。Mcの具体例としては、Ni、Co、Fe、Cu、Cr等が挙げられる。また、tは0<t<1を満たす数を表し、sは0≦s≦1を満たす数を表す。なお、正極活物質としては、Li1+xMn2-xO4(0<X<2)で表されるリチウム過剰のスピネル化合物なども用いることができる。
【0063】
オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、オリビン型リン酸マンガンリチウム(LiMnPO4)などのLiyMdPO4で表されるオリビン型リン酸リチウム化合物が挙げられる。ここで、Mdは平均酸化状態が3+である1種類以上の遷移金属を表し、例えばMn、Fe、Co等が挙げられる。また、yは0≦y≦2を満たす数を表す。さらに、LiyMdPO4で表されるオリビン型リン酸リチウム化合物は、Mdが他の金属で一部置換されていてもよい。置換しうる金属としては、例えば、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、BおよびMoなどが挙げられる。
【0064】
[[負極活物質]]
また、負極活物質としては、例えば、炭素系負極活物質、金属系負極活物質、およびこれらを組み合わせた負極活物質などが挙げられる。
【0065】
ここで、炭素系負極活物質とは、リチウムを挿入(「ドープ」ともいう。)可能な、炭素を主骨格とする活物質をいい、炭素系負極活物質としては、例えば炭素質材料と黒鉛質材料とが挙げられる。
【0066】
炭素質材料は、炭素前駆体を2000℃以下で熱処理して炭素化させることによって得られる、黒鉛化度の低い(即ち、結晶性の低い)材料である。なお、炭素化させる際の熱処理温度の下限は特に限定されないが、例えば500℃以上とすることができる。
そして、炭素質材料としては、例えば、熱処理温度によって炭素の構造を容易に変える易黒鉛性炭素や、ガラス状炭素に代表される非晶質構造に近い構造を持つ難黒鉛性炭素などが挙げられる。
ここで、易黒鉛性炭素としては、例えば、石油または石炭から得られるタールピッチを原料とした炭素材料が挙げられる。具体例を挙げると、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、熱分解気相成長炭素繊維などが挙げられる。
また、難黒鉛性炭素としては、例えば、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、擬等方性炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)、ハードカーボンなどが挙げられる。
【0067】
黒鉛質材料は、易黒鉛性炭素を2000℃以上で熱処理することによって得られる、黒鉛に近い高い結晶性を有する材料である。なお、熱処理温度の上限は、特に限定されないが、例えば5000℃以下とすることができる。
そして、黒鉛質材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。
ここで、人造黒鉛としては、例えば、易黒鉛性炭素を含んだ炭素を主に2800℃以上で熱処理した人造黒鉛、MCMBを2000℃以上で熱処理した黒鉛化MCMB、メソフェーズピッチ系炭素繊維を2000℃以上で熱処理した黒鉛化メソフェーズピッチ系炭素繊維などが挙げられる。
【0068】
また、金属系負極活物質とは、金属を含む活物質であり、通常は、リチウムの挿入が可能な元素を構造に含み、リチウムが挿入された場合の単位質量当たりの理論電気容量が500mAh/g以上である活物質をいう。金属系活物質としては、例えば、リチウム金属、リチウム合金を形成し得る単体金属(例えば、Ag、Al、Ba、Bi、Cu、Ga、Ge、In、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Sr、Zn、Tiなど)およびその合金、並びに、それらの酸化物、硫化物、窒化物、ケイ化物、炭化物、燐化物などが用いられる。これらの中でも、金属系負極活物質としては、ケイ素を含む活物質(シリコン系負極活物質)が好ましい。シリコン系負極活物質を用いることにより、電気化学素子としてのリチウムイオン二次電池を高容量化することができるからである。
【0069】
シリコン系負極活物質としては、例えば、ケイ素(Si)、ケイ素を含む合金、SiO、SiOx、Si含有材料を導電性カーボンで被覆または複合化してなるSi含有材料と導電性カーボンとの複合化物などが挙げられる。なお、これらのシリコン系負極活物質は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
ケイ素を含む合金としては、例えば、ケイ素と、アルミニウムと、鉄などの遷移金属とを含み、さらにスズおよびイットリウム等の希土類元素を含む合金組成物が挙げられる。
【0071】
SiOxは、SiOおよびSiO2の少なくとも一方と、Siとを含有する化合物であり、xは、通常、0.01以上2未満である。そして、SiOxは、例えば、一酸化ケイ素(SiO)の不均化反応を利用して形成することができる。具体的には、SiOxは、SiOを、任意にポリビニルアルコールなどのポリマーの存在下で熱処理し、ケイ素と二酸化ケイ素とを生成させることにより、調製することができる。なお、熱処理は、SiOと、任意にポリマーとを粉砕混合した後、有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下、900℃以上、好ましくは1000℃以上の温度で行うことができる。
【0072】
Si含有材料と導電性カーボンとの複合化物としては、例えば、SiOと、ポリビニルアルコールなどのポリマーと、任意に炭素材料との粉砕混合物を、例えば有機物ガスおよび/または蒸気を含む雰囲気下で熱処理してなる化合物を挙げることができる。また、複合化物は、SiOの粒子に対して、有機物ガスなどを用いた化学的蒸着法によって表面をコーティングする方法、SiOの粒子と黒鉛または人造黒鉛をメカノケミカル法によって複合粒子化(造粒化)する方法などの公知の方法でも得ることができる。
【0073】
[スラリー組成物の全固形分質量に対する電極活物質の質量の割合(電極活物質の質量/スラリー組成物の全固形分質量)]
スラリー組成物の全固形分質量に対する電極活物質の質量の割合(電極活物質の質量/スラリー組成物の全固形分質量)としては、92.0質量%以上であることが好ましく、95.0質量%以上であることがより好ましく、96.0質量%以上であることが特に好ましく、また、99.6質量%以下であることが好ましく、98.5質量%以下であることがより好ましく、98.0質量%以下であることが特に好ましい。前記割合を上記下限値以上とすることで、高容量化が可能となる。
【0074】
[非導電性粒子]
ここで、非導電性粒子は、水および電気化学素子としての二次電池の非水系電解液に溶解せず、それらの中においても、その形状が維持される粒子である。そして、非導電性粒子は、電気化学的にも安定であるため、電気化学素子としての二次電池の使用環境下で機能層中に安定に存在する。
【0075】
そして、非導電性粒子としては、例えば各種の無機微粒子や有機微粒子を使用することができる。
具体的には、非導電性粒子としては、無機微粒子と、有機微粒子との双方を用いることができるが、通常は無機微粒子が用いられる。なかでも、非導電性粒子の材料としては、電気化学素子としての二次電池の使用環境下で安定に存在し、電気化学的に安定である材料が好ましい。このような観点から非導電性粒子の材料の好ましい例を挙げると、酸化アルミニウム(アルミナ)、水和アルミニウム酸化物(ベーマイト)、酸化ケイ素、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化カルシウム、酸化チタン(チタニア)、BaTiO3、ZrO、アルミナ-シリカ複合酸化物等の酸化物粒子;窒化アルミニウム、窒化ホウ素等の窒化物粒子;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶粒子;硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の難溶性イオン結晶粒子;タルク、モンモリロナイト等の粘土微粒子;などが挙げられる。また、これらの粒子は必要に応じて元素置換、表面処理、固溶体化等が施されていてもよい。
上述した非導電性粒子は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。そして非導電性粒子としては、酸化アルミニウム(アルミナ)が好ましい。また非導電性粒子の粒径は、特に限定されることなく、従来使用されている非導電性粒子と同様とすることができる。
【0076】
[スラリー組成物の全固形分質量に対する非導電性粒子の質量の割合(非導電性粒子の質量/スラリー組成物の全固形分質量)]
スラリー組成物の全固形分質量に対する非導電性粒子の質量の割合(非導電性粒子の質量/スラリー組成物の全固形分質量)としては、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましく、また、99質量%以下であることが好ましく、98質量%以下であることがより好ましく、97.5質量%以上であることが特に好ましい。前記割合を上記下限値以上とすることで、スラリーに優れた耐熱性を付与することができる。一方、前記割合を上記上限値以下とすることで、機能層に良好な接着性を付与することができる。
【0077】
<その他の成分>
電気化学素子用スラリー組成物は、上述した成分以外にも、その他の任意の成分を含んでいてもよい。前記任意の成分は、機能層を用いた電気化学素子としての二次電池における電池反応に過度に好ましくない影響を及ぼさないものであれば、特に制限は無い。また、前記任意の成分の種類は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。
前記任意の成分としては、例えば、濡れ剤、粒子状結着材、レベリング剤、電解液分解抑制剤、などが挙げられる。
【0078】
[濡れ剤]
また、濡れ剤としては、特に限定されることなく、ノニオン性界面活性剤やアニオン性界面活性剤を用いることができる。中でも、脂肪族ポリエーテル型のノニオン性界面活性剤を用いることが好ましい。
そして、濡れ剤の使用量は、機能性粒子100質量部当たり、0.05質量部以上とすることが好ましく、0.1質量部以上とすることがより好ましく、0.15質量部以上とすることが特に好ましく、また、2質量部以下とすることが好ましく、1.5質量部以下とすることがより好ましく、1質量部以下とすることが特に好ましく、0.25質量部以下であることが最も好ましい。濡れ剤の使用量を上記範囲内とすれば、機能層用組成物の塗工性を十分に向上させることができると共に、機能層用組成物を用いて形成した機能層を備える二次電池の低温出力特性を十分に向上させることができる。
【0079】
<電気化学素子用スラリー組成物の調製>
上述した電気化学素子用スラリー組成物は、上記各成分を分散媒としての水系媒体中に分散させることにより調製することができる。具体的には、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどの混合機を用いて上記各成分と水系媒体とを混合することにより、電気化学素子用スラリー組成物を調製することができる。ここで、また、高い分散シェアを加えることができる観点から、ビーズミル、ロールミル、フィルミックス等の高分散装置を用いてもよい。なお、上記各成分と水系媒体との混合は、通常、室温~80℃の範囲で、10分~数時間行うことができる。
ここで、水系媒体としては、通常は水を用いるが、任意の化合物の水溶液や、少量の有機媒体と水との混合溶液などを用いてもよい。なお、水系媒体として使用される水には、バインダー組成物が含有していた水も含まれ得る。
【0080】
(電気化学素子用機能層)
電気化学素子用機能層は、電気化学素子内において電子の授受または補強などの機能を担う層であり、機能層としては、例えば、電気化学反応を介して電子の授受を行う電極合材層や、耐熱性や強度を向上させる多孔膜層などが挙げられる。
本発明の電気化学素子用機能層は、上述した電気化学素子用スラリー組成物から形成されたものであり、例えば、上述した電気化学素子用スラリー組成物を適切な基材の表面に塗布して塗膜を形成した後、形成した塗膜を乾燥することにより、形成することができる。即ち、本発明の電気化学素子用機能層は、上述した電気化学素子用スラリー組成物の乾燥物よりなり、通常、上記重合体Aと、上記重合体Bと、上記機能性粒子と、任意に上記その他の成分とを含有する。
なお、本発明の電気化学素子用機能層に含まれる各成分(水などの分散媒を除く)の存在比は、通常、上述した電気化学素子用スラリー組成物中に含まれる各成分の存在比と同様となり、電気化学素子用機能層中の各成分の好適な存在比も、上述した電気化学素子用スラリー組成物中の各成分の好適な存在比と同様である。
そして、本発明の電気化学素子用機能層は、本発明の電気化学素子用スラリー組成物から形成されているため、電極合材層や、多孔膜層として良好に機能する。加えて、本発明の電気化学素子用機能層は、電気化学素子のサイクル特性などを高めることができる。
【0081】
<基材>
電気化学素子用機能層を形成する基材としては、特に限定されず、例えばセパレータの一部を構成する部材として機能層を使用する場合には、基材としてはセパレータ基材を用いることができ、また、電極の一部を構成する部材として機能層を使用する場合には、基材としては、集電体からなる集電体基材、または、集電体上に電極合材層を形成してなる電極基材、を用いることができる。また、基材上に形成した機能層の用法に特に制限は無く、例えばセパレータ基材等の上に機能層を形成してそのままセパレータ等の電池部材として使用してもよいし、集電体基材上に機能層としての電極合材層を形成して電極として使用してもよいし、電極基材上に機能層を形成して電極として使用してもよいし、離型基材上に形成した機能層を基材から一度剥離し、他の基材に貼り付けて電池部材として使用してもよい。
しかし、機能層から離型基材を剥がす工程を省略して電池部材の製造効率を高める観点からは、基材としてセパレータ基材、集電体基材、又は電極基材を用いることが好ましい。
【0082】
[セパレータ基材]
セパレータ基材としては、特に限定されないが、有機セパレータ基材などの既知のセパレータ基材が挙げられる。有機セパレータ基材は、有機材料からなる多孔性部材であり、有機セパレータ基材の例を挙げると、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂などを含む微多孔膜などが挙げられ、強度に優れることからポリエチレン製の微多孔膜が好ましい。なお、有機セパレータ基材の厚さは、任意の厚さとすることができ、通常0.5μm以上、好ましくは5μm以上であり、通常40μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。
【0083】
[集電体基材]
集電体基材としては、特に限定されず、既知の集電体を用いることができる。
前記集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、集電体としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などの金属材料からなる集電体を用い得る。なお、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0084】
[電極基材]
電極基材(正極基材および負極基材)としては、特に限定されないが、集電体上に電極合材層が形成された電極基材が挙げられる。
【0085】
ここで、集電体、電極合材層中の電極活物質(正極活物質、負極活物質)および電極合材層用結着材(正極合材層用結着材、負極合材層用結着材)、並びに、集電体上への電極合材層の形成方法は、既知のものを用いることができ、例えば特開2013-145763号公報に記載のものが挙げられる。また電極合材層用結着材として、本発明の電気化学素子用バインダー組成物に含まれる重合体Aを使用してもよい。
【0086】
[離型基材]
機能層を形成する離型基材としては、特に限定されず、既知の離型基材を用いることができる。
【0087】
<電気化学素子用機能層の形成方法>
上述したセパレータ基材、集電体基材、電極基材などの基材上に機能層を形成する方法としては、以下の方法が挙げられる。
1)電気化学素子用スラリー組成物をセパレータ基材、集電体基材、又は電極基材の表面に塗布し、次いで乾燥する方法;
2)電気化学素子用スラリー組成物にセパレータ基材、集電体基材、又は電極基材を浸漬後、これを乾燥する方法;
3)電気化学素子用スラリー組成物を、離型基材上に塗布、乾燥して機能層を製造し、得られた電気化学素子用機能層をセパレータ基材、集電体基材、又は電極基材の表面に転写する方法;
これらの中でも、前記1)の方法が、電気化学素子用機能層の膜厚制御をしやすいことから特に好ましい。該1)の方法は、詳細には、電気化学素子用スラリー組成物をセパレータ基材、集電体基材、又は電極基材上に塗布する工程(塗布工程)、セパレータ基材、集電体基材、又は電極基材上に塗布された電気化学素子用スラリー組成物を乾燥させて機能層を形成する工程(機能層形成工程)を含む。
【0088】
[塗布工程]
塗布工程において、電気化学素子用スラリー組成物を基材上に塗布する方法は、特に制限は無く、例えば、ドクターブレード法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。
【0089】
[機能層形成工程]
また、機能層形成工程において、基材上の電気化学素子用スラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。乾燥条件は特に限定されないが、乾燥温度は好ましくは50~100℃で、乾燥時間は好ましくは5~30分である。また、基材上に形成された電気化学素子用機能層の厚さは、適宜調整することができる。
なお、機能層が電極合材層である場合、乾燥工程の後、金型プレスまたはロールプレスなどを用い、電極合材層に加圧処理(プレス加工)を施してもよい。プレス加工により、電極合材層と集電体との密着性を向上させることができる。また、電極合材層を高密度化し、二次電池を小型化することができる。
【0090】
(電気化学素子)
本発明の電気化学素子は、特に限定されることなく、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタであり、好ましくはリチウムイオン二次電池である。そして、本発明の電気化学素子は、本発明の電気化学素子用機能層を備えることを特徴とする。このような電気化学素子は、サイクル特性などの特性に優れる。
【0091】
ここで、以下では、一例として電気化学素子がリチウムイオン二次電池である場合について説明するが、本発明は下記の一例に限定されるものではない。本発明の電気化学素子としてのリチウムイオン二次電池は、通常、電極(正極および負極)、電解液、並びにセパレータを備え、正極、負極および並びにセパレータの少なくともいずれかに本発明の電気化学素子用機能層を使用する。
【0092】
<正極、負極およびセパレータ>
本発明の電気化学素子としてのリチウムイオン二次電池に用いる正極、負極およびセパレータは、少なくとも一つが本発明の電気化学素子用機能層を有している。具体的には、電気化学素子用機能層を有する正極および負極としては、集電体(基材)上に機能層としての電極合材層を形成してなる電極、または、集電体上に電極合材層を形成してなる電極基材の上に機能層を設けてなる電極を用いることができる。また、電気化学素子用機能層を有するセパレータとしては、セパレータ基材の上に電気化学素子用機能層を設けてなるセパレータを用いることができる。なお、集電体基材、電極基材およびセパレータ基材としては、「基材」の項で挙げたものと同様のものを用いることができる。
【0093】
<正極、負極>
上述のように、本発明の電気化学素子としてのリチウムイオン二次電池に用いる正極、負極およびセパレータの少なくとも一つが、本発明の電気化学素子用機能層を有していれば、負極が既知の負極であってもよく、正極が既知の正極であってもよく、そして、二次電池の正極および負極が、それぞれ既知の電極であってもよい。
【0094】
[セパレータ]
セパレータとしては、本発明の電気化学素子としてのリチウムイオン二次電池に用いる正極および負極の少なくとも一つが、本発明の電気化学素子用機能層を有していれば、例えば特開2012-204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、本発明の電気化学素子としてのリチウムイオン二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系の樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)からなる微多孔膜が好ましい。
【0095】
<電解液>
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。支持電解質としては、例えば、リチウムイオン二次電池においてはリチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C4F9SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(CF3SO2)2NLi、(C2F5SO2)NLiなどが挙げられる。なかでも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF6、LiClO4、CF3SO3Liが好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0096】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えばリチウムイオン二次電池においては、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(エチルメチルカーボネート(EMC))、ビニレンカーボネート等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。
またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いのでカーボネート類が好ましい。通常、用いる溶媒の粘度が低いほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、溶媒の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
なお、電解液中の電解質の濃度は適宜調整することができる。また、電解液には、既知の添加剤を添加してもよい。
【0097】
<電気化学素子の製造方法>
本発明の電気化学素子としてのリチウムイオン二次電池は、例えば、正極と負極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて、巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することで製造し得る。なお、正極、負極、セパレータのうち、少なくとも一つの部材を、本発明の電気化学素子用機能層を有する部材とする。ここで、電池容器には、必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をしてもよい。電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例】
【0098】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
また、複数種類の単量体を共重合して製造される重合体において、ある単量体を重合して形成される繰り返し単位(単量体単位)の前記重合体における割合は、別に断らない限り、通常は、その重合体の重合に用いる全単量体に占める当該ある単量体の比率(仕込み比)と一致する。
実施例および比較例において、(i)重合体Aの重量平均分子量、(ii)スラリー組成物の安定性評価、(iii)接着強度、(iv)機能層の水分量、(v)二次電池のサイクル特性は、下記の方法で測定および評価した。
【0099】
<(i)重合体Aの重量平均分子量>
重合体Aの重量平均分子量を、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した。まず、溶離液約5mLに、重合体Aの固形分濃度が約0.5g/Lとなるように加えて、室温で緩やかに溶解させた。目視で重合体Aの溶解を確認後、0.45μmフィルターにて穏やかに濾過を行い、測定用試料を調製した。そして、標準物質で検量線を作成することにより、標準物質換算値としての重量平均分子量を算出した。
なお、測定条件は、以下のとおりである。
<<測定条件>>
カラム:昭和電工社製、製品名Shodex OHpak(SB-G,SB-807HQ,SB-806MHQ)
溶離液:0.1M トリス緩衝液 (0.1M 塩化カリウム添加)
流速:0.5mL/分
試料濃度:0.05g/L(固形分濃度)
注入量:200μL
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折率検出器RI(東ソー社製、製品名「RI-8020」)
標準物質:単分散プルラン(昭和電工社製)
【0100】
<(ii)スラリー組成物の安定性評価>
調製したスラリー組成物の粘度ηを、B型粘度計を用いて、温度25℃、回転速度60rpm、回転時間60秒の条件で測定し、下記のように評価した。
スラリー組成物の調製から、25℃1時間静置した後の粘度をη0とした。さらに24時間25℃で静置した後の粘度をη1とし、それらの比率をスラリー粘度変化率η2とした。
η2=η1/η0
スラリー粘度比率η2の値が1.0に近い程、スラリー減粘が抑制され、スラリー組成物の調製および取り扱いが安定であることを示す。
A:スラリー粘度変化率η2が0.9以上1.1未満
B:スラリー粘度変化率η2が0.8以上0.9未満
C:スラリー粘度変化率η2が0.7以上0.8未満
D:スラリー粘度変化率η2が0.7未満
【0101】
<(iii)接着強度>
接着強度は、ピール強度として測定した。負極、正極またはセパレータをそれぞれ、幅1cm×長さ10cmの矩形に切り、得られた試験片を、機能層面を上にして固定した。固定した試験片の機能層の表面にセロハンテープを貼り付けた後、試験片の一端からセロハンテープを50mm/分の速度で180°方向に引き剥がしたときの応力を測定した。同様の測定を5回行い、その平均値をピール強度とし、接着強度を以下の基準にて判定した。ピール強度が大きいほど、接着強度が高いことを示す。
A:ピール強度が5N/m以上
B:ピール強度が4N/m以上5N/m未満
C:ピール強度が3N/m以上4N/m未満
D:ピール強度が3N/m未満
【0102】
<(iv)機能層の水分量>
得られた電気化学素子用スラリー組成物を塗布した基材(集電体基材、セパレータ基材)を、幅10cm×長さ10cmの大きさで切り出して、試験片とした。この試験片を、温度25℃、露点温度-60℃で24時間放置した。その後、電量滴定式水分計を用い、カールフィッシャー法(JIS K0068(2001)、水分気化法、気化温度150℃)により、試験片の水分量を測定した。そして、以下の基準で評価した。
A:水分量が200ppm未満
B:水分量が200ppm以上300ppm未満
C:水分量が300ppm以上
【0103】
<(v)二次電池のサイクル特性>
ラミネートセル型のリチウムイオン二次電池を、電解液注液後、25℃の環境下で、24時間静置させた後に、0.1Cの定電流法により、セル電圧4.25Vまで充電し、セル電圧3.0Vまで放電する充放電の操作を行い、初期容量C0を測定した。さらに、60℃の環境下で、0.1Cの定電流法によって、セル電圧4.25Vまで充電し、セル電圧3.0Vまで放電する充放電を繰り返し、100サイクル後の容量C2を測定した。そして、下記式にしたがって容量維持率C3を算出した。
C3(%)=(C2/C0)×100
この値が大きいほど、サイクル特性に優れることを示す。
A:容量維持率C3が95%以上
B:容量維持率C3が90%以上95%未満
C:容量維持率C3が80%以上90%未満
D:容量維持率C3が80%未満
【0104】
(実施例1)
<重合体Aの調製>
冷却管及び撹拌機を備えたフラスコに、2,2’-アゾビス(2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン)二硫酸二水和物5質量部及びイオン交換水789質量部を仕込んだ。引き続き、窒素置換型アミド基含有単量体としてN-p-ヒドロキシフェニルアクリルアミド45部、ヒドロキシル基含有単量体として2-ヒドロキシエチルアクリレート(2-HEA)35部、その他単量体としてメタクリル酸(MAA)20部を混合して、フラスコ内に仕込み、窒素置換し、緩やかに攪拌しつつ、溶液の温度を70℃に上昇させ、この温度を5時間保持して重合することにより、重合体Aを含有する溶液を得た。上述した方法で、得られた重合体Aの重量平均分子量を測定した。結果を表1-1に示す。
【0105】
<重合体Bの調製>
攪拌機付き5MPa耐圧容器Aに、その他単量体としてのスチレン3.15部と、脂肪族共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン1.66部と、その他単量体としてのイタコン酸0.19部と、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム0.2部と、イオン交換水20部と、重合開始剤としての過硫酸カリウム0.03部とを、入れ、十分に攪拌した後、60℃に加温して重合を開始させ、6時間反応させてシード粒子を得た。
上記の反応後、75℃に加温し、その他単量体としてのスチレン59.35部と、脂肪族共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン31.34部と、その他単量体としてのイタコン酸3.81部と、連鎖移動剤としてのtert-ドデシルメルカプタン0.25部と、乳化剤としてのラウリル硫酸ナトリウム0.35部と、を入れた別の容器Bから、これらの混合物の耐圧容器Aへの添加を開始し、これと同時に、重合開始剤として過硫酸カリウム1部の耐圧容器Aへの添加を開始することで2段目の重合を開始した。
また、2段目の重合を開始から4時間後(単量体組成物全体のうち70%添加後)、耐圧容器Aに、その他単量体としての2-ヒドロキシエチルアクリレートを1部、1時間半に亘って加えた。
すなわち、単量体組成物全体としては、その他単量体としてのスチレン62.5部と、脂肪族共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン33.0部と、その他単量体としてのイタコン酸4.0部、その他単量体としての2-ヒドロキシエチルアクリレート1.0部とを用いた。
2段目の重合開始から5時間半後、これら単量体組成物を含む混合物の全量添加が完了し、その後、さらに85℃に加温して6時間反応させた。
重合転化率が97%になった時点で冷却し反応を停止した。この重合物を含む混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。さらにその後冷却し、所望の重合物を含む非溶解型の重合体Bを得た。
【0106】
<電気化学素子用スラリー組成物(負極塗工用スラリー組成物)の調製>
ディスパー付きのプラネタリーミキサーに、電極活物質としての比表面積4m2/gの人造黒鉛(体積平均粒子径:24.5μm)97.0部と、重合体Aを固形分相当で1.5部とを加え、イオン交換水で固形分濃度55%に調整し、室温下で60分混合した。次に、イオン交換水で固形分濃度50%に調整し、さらに15分混合して混合液を得た。
前記混合液に、重合体B(固形分相当)1.5部を加え、10分間混合した。これを減圧下で脱泡処理して、流動性の良い電気化学素子用スラリー組成物を得た。上述した方法で、得られた電気化学素子用スラリー組成物の安定性を評価した。また、得られた電気化学素子用スラリー組成物を用いて、機能層の水分量を評価した。結果を表1-1に示す。
【0107】
<負極の製造>
上述の電気化学素子用スラリー組成物(負極塗工用スラリー組成物)を、コンマコーターで、厚さ18μmの銅箔(集電体)の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布した。この電気化学素子用スラリー組成物が塗布された銅箔を、0.5m/分の速度で温度75℃のオーブン内を2分間、さらに温度120℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより、銅箔上のスラリー組成物を乾燥させ、負極原反を得た。この負極原反をロールプレスで圧延して、負極合材層の厚みが80μmの負極を得た。
上述した方法で、得られた負極について、接着強度(機能層(負極合材層)と集電体(銅箔)との密着強度)を測定した。
【0108】
<正極の製造>
プラネタリーミキサーに、正極活物質としてのスピネル構造を有するLiCoO2(平均粒子径:14.8μm):95部、正極合材層用バインダーとしてのPVDF(ポリフッ化ビニリデン)を固形分相当で3部、導電材としてのアセチレンブラック(平均粒子径:50nm)2部、および、溶媒としてのN-メチルピロリドン20部を加えて混合し、リチウムイオン二次電池正極塗工用スラリー組成物(本発明の電気化学素子用スラリー組成物ではない)を得た。
得られたリチウムイオン二次電池正極塗工用スラリー組成物を、コンマコーターで、厚さ20μmのアルミニウム箔(集電体)上に、乾燥後の膜厚が100μm程度になるように塗布した。このリチウムイオン二次電池正極塗工用スラリー組成物が塗布されたアルミニウム箔を、0.5m/分の速度で温度60℃のオーブン内を2分間、さらに温度120℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより、アルミニウム箔上のリチウムイオン二次電池正極塗工用スラリー組成物を乾燥させ、正極原反を得た。この正極原反をロールプレスで圧延して、正極合材層の厚みが70μmの正極を得た。
【0109】
<セパレータの用意>
単層のポリプロピレン製セパレータ(幅65mm、長さ500mm、厚さ25μm;乾式法により製造;気孔率55%)を用意した。このセパレータを、5.2cm×5.2cmの正方形に切り抜いて、矩形のセパレータを得て、この矩形のセパレータを下記のリチウムイオン二次電池に使用した。
【0110】
<二次電池の作製>
電池の外装として、アルミニウム包材外装を用意した。上記作製した正極を、4.6cm×4.6cmの正方形に切り出して、矩形の正極を得た。この矩形の正極を、集電体側の表面がアルミニウム包材外装に接するように、アルミニウム包材外装内に配置した。矩形の正極の正極合材層側の表面上に、上記用意したセパレータを配置した。さらに、上記作製した負極を5cm×5cmの正方形に切り出して矩形の負極を得て、この矩形の負極を、セパレータ上に、負極合材層側の表面がセパレータに向かい合うよう配置した。次に、電解液(溶媒:エチレンカーボネート(EC)/メチルエチルカーボネート/ビニレンカーボネート=68.5/30/1.5(体積比)、電解質:濃度1MのLiPF6)を空気が残らないように注入した。さらに、アルミニウム包材外装の開口を密封するために、150℃のヒートシールをしてアルミニウム包材外装を閉口し、リチウムイオン二次電池を製造した。得られたリチウムイオン二次電池について、サイクル特性を評価した。
【0111】
(実施例2~6および9、比較例1~3)
重合体Aの調製時に、使用する単量体の種類および割合を表1-1または表1-2のように変更した以外は、実施例1と同様にして、重合体A、重合体Bおよび電気化学素子用スラリー組成物(負極塗工用スラリー組成物)を調製し、セパレータを用意し、負極、正極および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1-1または表1-2に示す。
【0112】
(実施例7)
実施例1において、重合体Aの調製時に、各単量体と同様に、イソプロピルアルコールを2.5部添加して、分子鎖の成長反応を調整することで、重量平均分子量80000の重合体Aを得たこと以外は、実施例1と同様にして、重合体A、重合体Bおよび電気化学素子用スラリー組成物(負極塗工用スラリー組成物)を調製し、セパレータを用意し、負極、正極および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1-1に示す。
【0113】
(実施例8)
実施例1において、重合体Aの調製時に、重合体Aの調製時において、イオン交換水789部を投入する代わりに、イオン交換水589部を投入し、分子鎖の成長反応を調整して、重量平均分子量8500000の重合体Aを得たこと以外は、実施例1と同様にして、重合体A、重合体Bおよび電気化学素子用スラリー組成物(負極塗工用スラリー組成物)を調製し、セパレータを用意し、負極、正極および二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1-2に示す。
【0114】
(実施例10)
重合体Bおよび電気化学素子用スラリー組成物(正極塗工用スラリー組成物)の調製、並びに、負極、および正極の製造を下記のように行ったこと以外は、実施例1と同様にして、セパレータを用意し、重合体Aを調製し、二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1-2に示す。
【0115】
<重合体Bの調製>
撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水240部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、アクリロニトリル35部をこの順で入れ、ボトル内を窒素で置換した後、1,3-ブタジエン65部を圧入し、過硫酸アンモニウム0.25部を添加して反応温度40℃で重合反応させ、ニトリル基を有する重合単位、及び共役ジエンモノマーを形成し得る重合単位を含んでなる重合体を得た。重合転化率は85%であった。
【0116】
前記重合体に対して水を用いて全固形分濃度を12質量%に調整した400ミリリットル(全固形分48グラム)の溶液を、撹拌機付きの1リットルオートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流して重合体中の溶存酸素を除去した後、水素添加反応触媒として、酢酸パラジウム75mgを、パラジウム(Pd)に対して4倍モルの硝酸を添加した水180mLに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応(「第一段階の水素添加反応」という)させた。このとき、重合体のヨウ素価は45mg/100mgであった。
【0117】
次いで、オートクレーブを大気圧にまで戻し、更に水素添加反応触媒として、酢酸パラジウム25mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加したイオン交換水60mLに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応(第二段階の水素添加反応)させた。次いで、オートクレーブを大気圧にまで戻し、更に水素添加反応触媒として、酢酸パラジウム25mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加した水60mLに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応(「第二段階の水素添加反応」という)させた。
【0118】
その後、内容物を常温に戻し、系内を窒素雰囲気とした後、エバポレータを用いて、固形分濃度が40%となるまで濃縮してバインダー水分散液を得た。また、このバインダー水分散液100部にN-メチルピロリドン(以下、「NMP」という。)320部を加え、減圧下に水を蒸発させて、正極用バインダー組成物として、上記バインダーのNMP溶液を得た。該NMP溶液100グラムをメタノール1リットルで凝固した後、60℃で一晩真空乾燥し、乾燥体を得、NMRで分析したところ、バインダーは、重合体全量に対して、ニトリル基を有する重合単位(アクリロニトリル由来の重合単位)を35質量%、1,3-ブタジエン由来の重合単位を65質量%、含んでいた。ここで、前記1,3-ブタジエン由来の重合単位は、炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位56.4質量%と未水添ブタジエン重合単位2.7質量%と1,2-付加重合単位5.9質量%とから形成されていた。なお、バインダーのヨウ素価は13mg/100mgであった。
【0119】
<電気化学素子用スラリー組成物(正極塗工用スラリー組成物)の調製>
正極活物質としてのニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2)95.5部と、導電材としてのアセチレンブラック(電気化学工業社製、デンカブラック粉状品)2.0部およびカーボンナノチューブ(多層カーボンナノチューブ、保土谷化学工業株式会社製、製品名「CT-12」、平均繊維径:105nm)0.5部と、重合体AのNMP溶液を重合体Aの固形分換算で1.5部と、重合体BのNMP溶液を重合体Bの固形分換算で0.5部と、追加の溶媒として適量のNMPとをプラネタリーミキサーに加え、当該ミキサーで混合することにより、電気化学素子用スラリー組成物(正極塗工用スラリー組成物)を調製した。なお追加のNMPの量は、得られる正極塗工用スラリー組成物の温度25℃における粘度(B型粘度計、東機産業株式会社製、「TVB-10」)を用い、60rpmで測定した値)が約4000mPa・sとなるように調整した。そして、上述した方法で、得られた電気化学素子用スラリー組成物(正極塗工用スラリー組成物)について、安定性を評価した。また、得られた電気化学素子用スラリー組成物(正極塗工用スラリー組成物)を用いて、機能層の水分量を評価した。結果を表1-2に示す。
【0120】
<正極の作製>
集電体として、厚さ20μmのアルミ箔を準備した。上述のようにして調製した正極塗工用スラリー組成物を、アルミ箔の一方の面に、乾燥後の塗布量が20mg/cm2になるように塗布した。そして、アルミ箔上の塗膜を80℃で20分、120℃で20分間乾燥後、120℃で2時間加熱処理し、正極原反を得た。この正極原反を、ロール径φ300mmのロールプレス機を使用し、荷重14t、プレス速度1000mm/分の条件で圧延し、密度が3.2g/cm3の正極合材層を集電体上に備えるシート状正極を作製した。このシート状正極を4.6cm×4.6cmの正方形に切り出して、矩形の正極を得て、下記のリチウムイオン二次電池に使用した。
上述した方法で、得られた正極について、接着強度(機能層(正極合材層)と集電体(銅箔)との密着強度)を測定した。
【0121】
<負極の製造>
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、1,3-ブタジエン33部、イタコン酸3.5部、スチレン63.5部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4部、イオン交換水150部および重合開始剤としての過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、粒子状結着材(SBR)を含む混合物を得た。上記粒子状結着材を含む混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。その後、30℃以下まで冷却し、所望の粒子状結着材を含む水分散液を得た。
次に、負極活物質としての人造黒鉛(平均粒子径:15.6μm)100部、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(日本製紙社製「MAC350HC」)の2%水溶液を固形分相当で1部、および、イオン交換水を混合して固形分濃度68%に調製した後、25℃で60分間混合した。さらにイオン交換水で固形分濃度62%に調製した後、さらに25℃で15分間混合した。上記混合液に、上記の粒子状結着材(SBR)を固形分相当で1.5質量部およびイオン交換水を入れ、最終固形分濃度52%となるように調整し、さらに10分間混合した。これを減圧下で脱泡処理して流動性の良い二次電池負極塗工用スラリー組成物を得た。
そして、上記で得られた負極塗工用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmの銅箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、銅箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理してプレス前の負極原反を得た。このプレス前の負極原反をロールプレスで圧延して、負極合材層の厚みが80μmのプレス後の負極を得た。
【0122】
(実施例11)
電気化学素子用スラリー組成物(セパレータ塗工用スラリー組成物)の調製、並びに、負極、セパレータおよび二次電池の製造を下記のように行ったこと以外は、実施例1と同様にして、重合体Aおよび重合体Bを調製し、正極を製造した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1-2に示す。
【0123】
<負極の製造>
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、1,3-ブタジエン33部、イタコン酸3.5部、スチレン63.5部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4部、イオン交換水150部および重合開始剤としての過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、粒子状結着材(SBR)を含む混合物を得た。上記粒子状結着材を含む混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。その後、30℃以下まで冷却し、所望の粒子状結着材を含む水分散液を得た。
次に、負極活物質としての人造黒鉛(平均粒子径:15.6μm)100部、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(日本製紙社製「MAC350HC」)の2%水溶液を固形分相当で1部、および、イオン交換水を混合して固形分濃度68%に調製した後、25℃で60分間混合した。さらにイオン交換水で固形分濃度62%に調製した後、さらに25℃で15分間混合した。上記混合液に、上記の粒子状結着材(SBR)を固形分相当で1.5質量部およびイオン交換水を入れ、最終固形分濃度52%となるように調整し、さらに10分間混合した。これを減圧下で脱泡処理して流動性の良い二次電池負極塗工用スラリー組成物を得た。
そして、上記で得られた負極塗工用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmの銅箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、銅箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理してプレス前の負極原反を得た。このプレス前の負極原反をロールプレスで圧延して、負極合材層の厚みが80μmのプレス後の負極を得た。
【0124】
<電気化学素子用スラリー組成物(セパレーター塗工用スラリー組成物)の調製>
非導電性粒子としての酸化アルミニウム(アルミナ)(体積平均粒子径:0.5μm)を91.3部、分散剤としてのポリカルボン酸アンモニウム(東亜合成製、アロンA-6114)を1.0部および水を混合した。水の量は、固形分濃度が50%となるように調整した。メディアレス分散装置を用いて混合物を処理し、酸化アルミニウム(アルミナ)を分散させて、スラリーを得た。得られたスラリーに重合体Aを1.5部(固形分相当)添加し、混合した。添加した重合体Aは、混合物中で溶解した。次いで、重合体B6.0部(固形分相当)と、濡れ剤としての脂肪族ポリエーテル型のノニオン性界面活性剤0.2部とを添加し、更に水を固形分濃度が40%になるように添加して、電気化学素子用スラリー組成物(セパレーター塗工用スラリー組成物)を得た。そして、上述した方法で、得られた電気化学素子用スラリー組成物(セパレーター塗工用スラリー組成物)の安定性を評価した。また、得られた電気化学素子用スラリー組成物(セパレーター塗工用スラリー組成物)を用いて、機能層の水分量を評価した。結果を表1-2に示す。
【0125】
<セパレータの製造>
調製した電気化学素子用スラリー組成物(セパレーター塗工用スラリー組成物)をポリエチレン製容器に封入し、30日間静置した。その後、ポリエチレン製容器に撹拌翼を挿入し、回転数250rpmで撹拌し、容器底部の固着物が目視で確認されなくなってから更に30分間撹拌を続けることにより、機能層用組成物中の非導電性粒子(酸化アルミニウム(アルミナ))を再分散させた。
また、湿式法により製造された、単層のポリエチレン製セパレータ基材(幅250mm、長さ1000m、厚さ12μm)を用意した。そして、再分散させたセパレーター塗工用組成物を、セパレータ基材の両方の表面上に、乾燥後の厚さが2.5μmになるようにグラビアコーター(塗布速度:20m/分)で塗布した。次いで、セパレーター塗工用組成物を塗布したセパレータ基材を50℃の乾燥炉で乾燥し、巻き取ることにより、セパレータ基材上に機能層を形成してなるセパレータを作製した。このセパレータを、5.2cm×5.2cmの正方形に切り抜いて、下記のリチウムイオン二次電池に使用した。
上述した方法で、得られたセパレータについて、接着強度(機能層とセパレータ基材との密着強度)を測定した。
【0126】
<二次電池の作製>
電池の外装として、アルミニウム包材外装を用意した。上記作製した正極を、4.6cm×4.6cmの正方形に切り出して、矩形の正極を得た。この矩形の正極を、集電体側の表面がアルミニウム包材外装に接するように、アルミニウム包材外装内に配置した。矩形の正極の正極合材層側の表面上に、上記用意したセパレータを、機能層側の表面が矩形の正極に接するように配置した。さらに、上記作製した負極を5cm×5cmの正方形に切り出して矩形の負極を得て、この矩形の負極を、セパレータ上に、負極合材層側の表面がセパレータに向かい合うよう配置した。次に、電解液(溶媒:エチレンカーボネート(EC)/メチルエチルカーボネート/ビニレンカーボネート=68.5/30/1.5(体積比)、電解質:濃度1MのLiPF6)を空気が残らないように注入した。さらに、アルミニウム包材外装の開口を密封するために、150℃のヒートシールをしてアルミニウム包材外装を閉口し、リチウムイオン二次電池を製造した。得られたリチウムイオン二次電池について、サイクル特性を評価した。
【0127】
(実施例12)
重合体Bを用いなかったこと以外は、実施例11と同様にして、重合体Aおよび電気化学素子用スラリー組成物を調製し、セパレータを用意し、負極、正極および二次電池を製造した。そして、実施例11と同様にして各種評価を行った。結果を表1-2に示す。
【0128】
【0129】
また、表1-1および表1-2において、「2-HEA」は「2-ヒドロキシエチルアクリレート」を表し、「2-HEMA」は「2-ヒドロキシエチルメタクリレート」を表し、「2-EHA」は「2-エチルヘキシルアクリレート」を表し、「MAA」は「メタクリル酸」を表し、「ST」は「スチレン」を表し、「BD」は「ブタジエン」を表し、「IA」は「イタコン酸」を表し、「AN」は「アクリロニトリル」を表し、「LIB」は「リチウムイオン電池」を表す。
【0130】
上述の表1-1および表1-2の実施例1~12および比較例1~3より、所定量の窒素置換型アミド基含有単量体単位および所定量のヒドロキシル基含有単量体単位を含む重合体Aと、溶媒とを含む電気化学素子用バインダー組成物を用いれば、調製した電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成した機能層を有する電気化学素子のサイクル特性を向上させることができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明によれば、電気化学素子に優れたサイクル特性を発揮させ得る電気化学素子用機能層を形成可能な電気化学素子用スラリー組成物、並びに、当該スラリー組成物を調製し得る電気化学素子用バインダー組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、電気化学素子に優れたサイクル特性を発揮させ得る電気化学素子用機能層、および当該電気化学素子用機能層を有する電気化学素子を提供することができる。