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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】遺伝子発現増強剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/05 20060101AFI20230426BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20230426BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230426BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230426BHJP
   A61K 36/185 20060101ALI20230426BHJP
   A61K 38/39 20060101ALI20230426BHJP
   A61K 38/05 20060101ALI20230426BHJP
   A61K 31/728 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
A61K31/05 ZNA
A61K8/34
A61Q19/00
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61K36/185
A61K38/39
A61K38/05
A61K31/728
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019066076
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020164456
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006116
【氏名又は名称】森永製菓株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下間 早織
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴之
(72)【発明者】
【氏名】森 貞夫
(72)【発明者】
【氏名】守田 稔
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-195504(JP,A)
【文献】韓国特許第10-1618726(KR,B1)
【文献】特開2010-065009(JP,A)
【文献】Nippon Suisan Gakkaishi,2009年,Vol.75, No.1,p.86-88
【文献】Osteoarthritics and Cartilage,2010年,Vol.18, Suppl.2,S215, No.478
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
in vitroでHAS1(hyaluronan synthase 1)遺伝子またはHAS3(hyaluronan synthase 3)遺伝子の発現を増強する遺伝子発現増強剤であって、
有効成分としてピセアタンノールを含有する、遺伝子発現増強剤。
【請求項2】
コラーゲン、ヒアルロン酸及びエラスチンからなるグループから選択される少なくとも一つをさらに含有する、請求項1に記載の遺伝子発現増強剤。
【請求項3】
前記コラーゲンが、コラーゲンペプチドである、請求項2に記載の遺伝子発現増強剤。
【請求項4】
前記エラスチンが、エラスチンペプチドである、請求項2に記載の遺伝子発現増強剤。
【請求項5】
前記コラーゲンが、H-Pro-Hyp-OHであり、前記ヒアルロン酸が、ヒアルロン酸オリゴ4糖であり、前記エラスチンが、H-Pro-Gly-OHである、請求項2に記載の遺伝子発現増強剤。
【請求項6】
前記ピセアタンノールが、パッションフルーツ由来である、請求項1~5のいずれか1項に記載の遺伝子発現増強剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HAS1(hyaluronan synthase 1)遺伝子またはHAS3(hyaluronan synthase 3)遺伝子の発現を増強する遺伝子発現増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ピセアタンノールは、スチルベン類の化合物であって、例えば、トケイソウ科トケイソウ属(Passiflora)の果物であるパッションフルーツの種子に含まれており、シミ、ソバカス、日焼けなどによる色素沈着の原因となるメラニンの生成を抑制する効果があることが報告されている(特許文献1)。このピセアタンノールは、サーチュイン遺伝子の転写産物の発現増強作用、サーチュインタンパク質の発現増強作用(特許文献2)、GAPDH遺伝子発現増強作用(特許文献3)、グルタチオン産生促進作用(特許文献4)、マトリックスメタロプロテアーゼ-1(MMP-1)抑制作用(特許文献5)、コラーゲン産生促進作用(特許文献6、7)があることが知られている。
ピセアタンノールが、ヒアルロン酸合成酵素(HAS2)遺伝子の発現を増強することが知られている(特許文献8)。
ヒアルロン酸合成酵素(HAS2)遺伝子の発現が、コラーゲン由来のジペプチドやトリペプチドでも誘導されることも報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-102298号公報
【文献】特開2016-041680号公報
【文献】特開2017-214322号公報
【文献】特開2013-151458号公報
【文献】特開2013-151457号公報
【文献】特開2010-030911号公報
【文献】特開2009-102299号公報
【文献】特開2016-534982号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】The Journal of Dermatology Vol. 37, pp. 330-338(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ピセアタンノールを有効成分として含有する遺伝子発現増強剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
脊椎動物のヒアルロン酸合成酵素(HAS)ファミリーにはHAS1、HAS2、HAS3の3種類があり、いずれも7つの膜会合ドメインを有する細胞膜タンパクであるが、その遺伝子発現制御は全く異なっていることが知られており(Trends in Glycoscience and Glycotechnology Vol. 10, pp. 23-38(1998))、HAS2の発現誘導とHAS1及びHAS3の発現誘導が同じように起こるかは不明であった。本願発明者らは鋭意研究の結果、ピセアタンノールがHAS1(hyaluronan synthase 1)及びHAS3(hyaluronan synthase 3)の遺伝子発現を増強することを新たに見出した。
【0007】
本願発明の主な実施態様は以下の[1]~[6]である。
[1]in vitroでHAS1遺伝子またはHAS3遺伝子の発現を増強する遺伝子発現増強剤であって、有効成分としてピセアタンノールを含有する、遺伝子発現増強剤。
[2]コラーゲン及びヒアルロン酸及びエラスチンからなるグループから選択される少なくとも一つをさらに含有する、[1]に記載の遺伝子発現増強剤。
[3]前記コラーゲンが、コラーゲンペプチドである、[2]に記載の遺伝子発現増強剤。
[4]前記エラスチンが、エラスチンペプチドである、[2]に記載の遺伝子発現増強剤。
[5]前記コラーゲンが、H-Pro-Hyp-OHであり、前記ヒアルロン酸が、ヒアルロン酸オリゴ4糖であり、前記エラスチンが、H-Pro-Gly-OHである、[2]に記載の遺伝子発現増強剤。
[6]前記ピセアタンノールが、パッションフルーツ由来である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の遺伝子発現増強剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、ピセアタンノールを有効成分として含有する遺伝子発現増強剤を提供することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施例において、ピセアタンノールによる、HAS1遺伝子発現増強を調べた結果を示す図である。
図2】本発明の一実施例において、ピセアタンノールによる、HAS3遺伝子発現増強を調べた結果を示す図である。
図3】本発明の一実施例において、ピセアタンノール及びコラーゲンペプチドによる、HAS3遺伝子発現増強を調べた結果を示す図である。
図4】本発明の一実施例において、ピセアタンノール及びヒアルロン酸オリゴ4糖、あるいはピセアタンノール、ヒアルロン酸オリゴ4糖及びコラーゲンペプチドによる、HAS1遺伝子発現増強を調べた結果を示す図である。
図5】本発明の一実施例において、ピセアタンノール、コラーゲンペプチド、ヒアルロン酸オリゴ4糖及びエラスチンペプチドによる、HAS1遺伝子発現増強を調べた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0011】
実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、M. R. Green & J. Sambrook (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (4th edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2012); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0012】
==遺伝子発現増強剤==
本発明の一実施形態は、HAS1及びHAS3遺伝子発現増強剤であって、ピセアタンノールを有効成分として含有することを特徴とする。
【0013】
<HAS1及びHAS3遺伝子発現増強剤>
「HAS1(Hyaluronan Synthase 1)遺伝子」
HAS1遺伝子は、HAS1(EC 2.4.1.212)をコードする、マウスHAS1遺伝子およびそのホモログである。マウス由来のHAS1遺伝子及び遺伝子産物は、Entrez Gene番号15116で規定されている。
マウスHAS1遺伝子ホモログとしてはマウス以外の脊椎動物のものであっても、マウス以外のほ乳類(たとえば、ヒトやラット)のものでもよく、かかるホモログについての情報は当業者には容易に入手できる(たとえば、ヒトHAS1はEntrez Gene番号3036;ラットHAS1はEntrez Gene番号282821)。
ここで、マウスHAS1遺伝子ホモログは、Entrez Gene番号15116で規定されるいずれかの核酸配列に対して、例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、または99%以上の配列同一性を有するか、またはEntrez Gene番号15116で規定されるいずれかの核酸配列において、1~数個(例:2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上)のヌクレオチドの欠失、置換、挿入、もしくは付加を有する。
また、HAS1遺伝子は、SNP(一塩基多型)を含んでもよい。
【0014】
「HAS3(Hyaluronan Synthase 3)遺伝子」
HAS3遺伝子は、HAS3(EC 2.4.1.212)をコードする、マウスHAS3遺伝子およびそのホモログである。マウス由来のHAS3遺伝子及び遺伝子産物は、Entrez Gene番号15118で規定されている。
マウスHAS3遺伝子ホモログとしてはマウス以外の脊椎動物のものであっても、マウス以外のほ乳類(たとえば、ヒトやラット)のものでもよく、かかるホモログについての情報は当業者には容易に入手できる(たとえば、ヒトHAS3はEntrez Gene番号3038;ラットHAS3はEntrez Gene番号266805)。
ここで、マウスHAS3遺伝子ホモログは、Entrez Gene番号15118で規定されるいずれかの核酸配列に対して、例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、または99%以上の配列同一性を有するか、またはEntrez Gene番号15118で規定されるいずれかの核酸配列において、1~数個(例:2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上)のヌクレオチドの欠失、置換、挿入、もしくは付加を有する。
また、HAS3遺伝子は、SNP(一塩基多型)を含んでもよい。
【0015】
「遺伝子発現」
遺伝子発現とは、遺伝子の転写産物レベルでの発現をいうものとする。また、「遺伝子発現の増強」とは、遺伝子の転写産物が増えることであって、例えば、遺伝子の転写の活性化、転写産物の安定性の向上、転写産物分解の阻害などのメカニズムは問わないものとする。従って、「HAS1遺伝子発現増強剤」または「HAS3遺伝子発現増強剤」とは、そのメカニズムに関わらず、HAS1遺伝子又はHAS3遺伝子の転写産物レベルを亢進させることができる薬剤をいう。
【0016】
「ピセアタンノール」
ピセアタンノールは下記構造式(I)で示される化合物である。
【化1】
遺伝子発現増強剤中のピセアタンノールまたはその誘導体の含有量(ピセアタンノールまたはその誘導体の質量/遺伝子発現増強剤の質量)は特に限定されないが、0.01%以上であることが好ましく、0.1%以上であることがより好ましく、1%以上、2%以上、3%以上、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、50%以上、70%以上、90%以上、95%以上、98%以上のいずれかであることがさらに好ましい。
【0017】
ピセアタンノールとして、ピセアタンノールを含む植物のエキスを用いてもよい。ここで、植物の種類は、ピセアタンノールまたはその誘導体を含む植物であれば特に限定されず、パッションフルーツ(例えば、Passiflora edulis、Passiflora alata、Passiflora amethystine、Passiflora antioquiensis、Passiflora biflora、Passiflora buonapartea、Passiflora capsularis、Passiflora cearensis、Passiflora coccinea、Passiflora cochinchinesis、Passiflora filamentosa、Passiflora herbertiana、Passiflora laurifolia、Passiflora ligularis、Passiflora lunata、Passiflora lutea、Passiflora maliformis、Passiflora mixta、Passiflora mucronata、Passiflora mollissima、Passiflora nibiba、Passiflora organensis、Passiflora pallida、Passiflora parahypensis、Passiflora pedeta、Passiflora pinnatistipula、Passiflora popenovii、Passiflora quadrangularis、Passiflora riparia、Passiflora rubra、Passiflora serrate、Passiflora tiliaefolia、Passiflora tripartite、Passiflora villosa、Passiflora warmingiiなど)、テンニンカ(例えば、Rhodomyrtus tomentosaなど)、ブラシノキ(例えば、マキバブラシノキCallistemon speciosus、Callistemon rigidusなど)が例示できる。エキスを抽出するのは、植物全体のうち、どの部分であっても良く、例えば、果実、花、種子、葉、枝、樹皮、幹、茎、または、根であっても良いが、パッションフルーツを用いる場合は種子であることが好ましく、テンニンカである場合には果実であることが好ましく、ブラシノキである場合には茎であることが好ましい。以下、パッションフルーツ種子エキスを一例として、その製造方法を説明する。
【0018】
<パッションフルーツ種子エキスの製造方法>
ピセアタンノールを含むパッションフルーツ種子エキスの具体的な製造方法として、公知の方法を用いることができ、例えば、パッションフルーツ種子を、乾燥した後に、破砕、粉砕、または、切断などによって種子分解物を得、溶媒を用いて抽出し、残渣を除去することによって抽出液を得、さらに、抽出液から溶媒を除去することによって、抽出物を得ることができる。この段階のいずれのものも、本発明のパッションフルーツ種子エキスとして使用することができる。
【0019】
抽出に用いる溶媒の種類は、当業者であれば適切に選択することができるが、例えば、水、メタノール、エタノール、アセトン、酢酸エチル、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、2-プロパノール、1,4-ジオキサン、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタン、または、これらから選択される2以上の溶媒の混合溶媒であっても良く、水、エタノール、1,3-ブチレングリコール、または、これらから選択される2以上の溶媒の混合溶媒であることが好ましく、水、エタノール、または、水およびエタノールの混合溶媒であることがより好ましい。混合溶媒を用いる場合の、各溶媒の混合比は特に限定されないが、例えば水およびエタノールの混合溶媒を用いる場合には、水とエタノールとの体積比は、1:99~99:1であっても良く、3:97~80:20であることが好ましく、5:95~50:50であることがより好ましく、10:90~40:60であることが特に好ましい。
【0020】
溶媒として、水、または、水との混合溶媒を用いる場合には、熱水、または、熱水との混合溶媒であることが好ましい。水、または、水との混合溶媒は塩を含んでいても良く、塩を含む溶媒の例として、バッファー(緩衝液)であっても良い。バッファーのpHは、特に限定されず、酸性、中性、または、アルカリ性のいずれであっても良いが、酸性であることが好ましく、pH6以下の酸性であることがより好ましく、pH1~pH5の酸性であることがさらに好ましい。バッファーに用いる塩の種類は特に限定されず、例として、クエン酸塩、リンゴ酸塩、リン酸塩、酢酸塩および炭酸塩などが挙げられる。
【0021】
抽出液から溶媒を除去する方法は、特に限定されず公知の方法を用いることができる。例えば、減圧留去、凍結乾燥、または、スプレードライ(噴霧乾燥)であっても良いが、凍結乾燥、または、スプレードライであることが好ましく、スプレードライであることがより好ましい。
抽出物の形状は、特に限定されず、例えば粉体などの固体状、アモルファス状、または、オイル状であっても良い。
【0022】
<ピセアタンノール以外の成分>
この遺伝子発現増強剤は、コラーゲン及びヒアルロン酸及びエラスチンからなるグループから選択される少なくとも一つをさらに含有してもよい。このコラーゲン及び/又はヒアルロン酸及び/又はエラスチンは、HAS1またはHAS3遺伝子発現増強剤としての有効成分であってもよい。
【0023】
「コラーゲン」
コラーゲンとは、主に脊椎動物の真皮、靱帯、腱、骨、軟骨などを構成するタンパク質であり、少なくとも28種類の異なるコラーゲンが存在することが報告されている(Journal of Cell Science Vol. 120, pp. 1955-1958(2007))。2本のα1ペプチド鎖と1本のα2ペプチド鎖がらせん状に絡み合ったI型コラーゲンが体内に最も多い。本開示におけるコラーゲンは、いずれのコラーゲン、一種類のコラーゲン由来のコラーゲンペプチド、またはコラーゲンペプチドに含まれる一種類のペプチドであってもよく、複数種のコラーゲンの混合物または複数種のコラーゲン由来のコラーゲンペプチドでもよい。また、本開示におけるコラーゲンは、薬学的に許容できる塩を含むものとする。
【0024】
「コラーゲンペプチド」
本開示におけるコラーゲンペプチドは、コラーゲンを酵素分解して低分子にしたペプチドを意味する。主としてジペプチド(Pro-Hyp;PO)を含むが、他のオリゴペプチド(例えばHyp-Gly)を含んでもよい。ジペプチドPOの含有率は特に限定されないが、10%以上が好ましく、25%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0025】
「ヒアルロン酸」
ヒアルロン酸(ヒアルロナン)はグルクロン酸とN-アセチルグルコサミン(GlcAβ1-3 GlcNAcβ1-4) の二糖単位が連結した以下の構造をしている。
【化2】
本開示におけるヒアルロン酸の二糖単位の数nは特に限定されないが、1000以下であることが好ましく、100以下であることがより好ましく、50以下であることがさらに好ましく、20以下であることがさらに好ましく、10以下であることがさらに好ましく、6以下であることがさらに好ましい。また、本開示におけるヒアルロン酸は、薬学的に許容できる塩(たとえばナトリウム塩)を含むものとする。
【0026】
「ヒアルロン酸オリゴ糖」
本開示のヒアルロン酸オリゴ糖は、上記ヒアルロン酸の構造式において、nが1以上20以下である2糖から40糖を含むオリゴ糖を意味するが、2以上10以下である4糖から20糖の分子を含むことがより好ましく、2以上5以下である4糖から10糖の分子を含むことがさらに好ましく、2である4糖のみを含むことがさらに好ましい。このヒアルロン酸オリゴ糖は、単一種類のみから構成されていてもよく、複数種類が混合していてもよい。なお、本明細書では、2糖からなるヒアルロン酸オリゴ糖をヒアルロン酸オリゴ糖2糖と呼ぶこととし、糖の数が変わっても同様に呼ぶこととする。本開示におけるヒアルロン酸オリゴ糖は、薬学的に許容できる塩(たとえばナトリウム塩)を含むものとする。
【0027】
「エラスチン」
本開示において、「エラスチン」はトロポエラスチンやエラスチンペプチドを含んでもよい。
【0028】
「エラスチンペプチド」
本開示におけるエラスチンペプチドは、エラスチンを酵素分解して低分子にしたペプチドを意味する。主としてジペプチド(Pro-Gly;PG)を含むが、PG配列を含むエラスチン由来のペンタ又はヘキサペプチドを含んでもよい(BioMol Concepts 4(1): 65-76(2013))。ジペプチド(PG)の含有率は特に限定されないが、1%以上が好ましく、8%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0029】
==HAS1遺伝子又はHAS3遺伝子発現増強方法==
本発明の一実施形態は、in vitroでHAS1遺伝子又はHAS3遺伝子発現を増強する方法であって、生体外の細胞に遺伝子発現増強剤を投与する工程を含む。
in vitroで用いられる細胞は、生体外にあればよく、培養条件下にあることが好ましいが、ライン化されていても、初代培養細胞であってもよく、あるいは培養組織中の細胞や培養器官中の細胞のように細胞が構造を構成していてもかまわない。
遺伝子発現増強剤は、上述したとおりである。その投与方法は特に限定されないが、あらかじめ培養する培地に含有させてもよく、細胞を培養しながら、その培地に投与してもよい。
【0030】
ここで述べた方法によって、ピセアタンノールは、HAS1遺伝子又はHAS3遺伝子発現を増強することができる。増強されたHAS1遺伝子又はHAS3遺伝子の発現の検出方法は特に限定されないが、ノーザンハイブリダイゼーションやRT-PCRが好ましい。タンパク質の検出方法も特に限定されないが、ウエスタン・ブロッティング、ELISA、EIA、RIA、CF、CLIAなどが例示できる。
【実施例
【0031】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0032】
<実施例1>
マウス線維芽細胞株C3H10T1/2を、6.4×10細胞/ウエルで12ウエル・プレートに播種し、10%FBS含有DMEM培地(high glucose、100U/mL penicillin、100μg/mL streptomycin)で37℃、5%COの条件下で24時間培養した。ピセアタンノール(Piceatannol;Pic)(東京化成工業株式会社)を10μMの濃度で添加した培地に交換して、さらに72時間培養した。
その後RNAを回収し、後述のプライマーを用いたRT-PCR法にて、HAS1遺伝子、HAS3遺伝子及び36B4遺伝子の発現を測定し、HAS1遺伝子発現量/36B4遺伝子発現量並びにHAS3遺伝子発現量/36B4遺伝子発現量を算出し、陰性対照(薬剤添加なし:Cont)に対して統計解析を行った。
【0033】
図1及び図2に、10μMピセアタンノール(Pic)で72時間刺激後のHAS1及びHAS3のmRNA発現レベルを各々示す。このように、ピセアタンノール(Pic)によってHAS1遺伝子及びHAS3遺伝子の発現が増強される。
【0034】
<実施例2>
マウス線維芽細胞株C3H10T1/2を、6.4×10細胞/ウエルで12ウエル・プレートに播種し、10%FBS含有DMEM培地(high glucose、100U/mL penicillin、100μg/mL streptomycin)で37℃、5%COの条件下で24時間培養した。10μMピセアタンノール(Pic)及び100μMコラーゲンペプチド(Pro-Hyp98%含有;PO)(BACHEM社、商品コード4001630)を添加した培地に交換して、さらに72時間培養した。
その後RNAを回収し、後述のプライマーを用いたRT-PCR法にて、HAS3遺伝子及び36B4遺伝子の発現を測定し、HAS3遺伝子発現量/36B4遺伝子発現量を算出し、陰性対照(薬剤添加なし:Cont)に対して統計解析を行った。
【0035】
図3に示すように、ピセアタンノール(Pic)とコラーゲンペプチド(PO)の組み合わせによってHAS3遺伝子の発現が有意に増強される。
【0036】
<実施例3>
マウス線維芽細胞株C3H10T1/2を、6.4×10細胞/ウエルで12ウエル・プレートに播種し、10%FBS含有DMEM培地(high glucose、100U/mL penicillin、100μg/mL streptomycin)で37℃、5%COの条件下で24時間培養した。10μM ピセアタンノール(Pic)及び0.1μg/mL ヒアルロン酸オリゴ糖4糖(HA4)、あるいは、10μMピセアタンノール(Pic)、100μMコラーゲンペプチド(PO)及び0.1μg/mL ヒアルロン酸オリゴ糖4糖(HA4)を添加した培地に交換して、さらに72時間培養した。
その後RNAを回収し、後述のプライマーを用いたRT-PCR法にて、HAS1遺伝子及び36B4遺伝子の発現を測定し、HAS1遺伝子発現量/36B4遺伝子発現量を算出し、陰性対照(薬剤添加なし:Cont)に対して統計解析を行った。
【0037】
図4に示すように、ピセアタンノール(Pic)、コラーゲンペプチド(PO)及びヒアルロン酸4糖(HA4)の組み合わせによってHAS1の発現が増強される。
【0038】
<実施例4>
マウス線維芽細胞株C3H10T1/2を、6.4×10細胞/ウエルで12ウエル・プレートに播種し、10%FBS含有DMEM培地(high glucose、100U/mL penicillin、100μg/mL streptomycin)で37℃、5%COの条件下で24時間培養した。10μMピセアタンノール(Pic)、100μMコラーゲンペプチド(PO)、0.1μg/mL ヒアルロン酸オリゴ糖4糖(HA4)及び1μg/mL エラスチンペプチド(Pro-Gly;PG)(Santa Cruz Biotechnology社、商品コードSC-472028)の組み合わせを添加した培地に交換して、さらに72時間培養した。
その後RNAを回収し、後述のプライマーを用いたRT-PCR法にて、HAS1遺伝子及び36B4遺伝子の発現を測定し、HAS1遺伝子発現量/36B4遺伝子発現量を算出し、陰性対照(薬剤添加なし:Cont)に対して統計解析を行った。
【0039】
図5に示すように、ピセアタンノール(Pic)とコラーゲンペプチド(PO)、ヒアルロン酸4糖(HA4)及びエラスチンペプチド(PG)の組み合わせによってHAS1の発現が増強される。
【0040】
RT-PCRに用いたプライマー:
36B4F:ACTGGTCTAGGACCCGAGAAG(配列番号1)
36B4R:CTCCCACCTTGTCTCCAGTC(配列番号2)
HAS1F:CAAGACGGAGAAGAGAGAATCC(配列番号3)
HAS1R:CTGAGGGCTTTGGCATGT(配列番号4)
HAS3F:CTTGGAAGAAGATCCCCAAGT(配列番号5)
HAS3R:CCATGAATCATACTTGTTGAGGATT(配列番号6)
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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