(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】電子銃
(51)【国際特許分類】
H01J 1/20 20060101AFI20230426BHJP
H01J 1/26 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
H01J1/20
H01J1/26
(21)【出願番号】P 2019109692
(22)【出願日】2019-06-12
【審査請求日】2022-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 徹
(72)【発明者】
【氏名】井関 操
(72)【発明者】
【氏名】小畑 英幸
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04091311(US,A)
【文献】特開2002-260522(JP,A)
【文献】特開昭63-211534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 1/20
H01J 29/04
H01J 37/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子を放出するカソードと、該カソードを昇温させるヒータと、前記カソードに対して正の電位を印加して電子を一定方向に引き出すアノードと、を備える電子銃であって、
前記カソードの、前記電子の進行方向に対する直交面視における中心位置に、前記電子の進行方向に沿う貫通孔が設けられ、
該貫通孔を塞ぐ第一の部分と、前記カソードと前記ヒータとの間に位置する第二の部分とを有する耐熱部材が配設されて
おり、
前記耐熱部材の前記第一の部分が、前記第二の部分の一面から突出して前記カソードの前記貫通孔へと挿し入れられる円筒部として形成されている、
ことを特徴とする電子銃。
【請求項2】
前記カソードに対して正の制御電圧を印加するために前記カソードと前記アノードとの間にグリッドを備え、
該グリッドの、前記カソードの前記貫通孔と同軸上に、孔が設けられている、
ことを特徴とする請求項1に記載の電子銃。
【請求項3】
前記耐熱部材の前記第一の部分よりも、前記第二の部分が薄くなっている、
ことを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の電子銃。
【請求項4】
前記耐熱部材の前記第二の部分に、1つもしくは複数の切欠き部もしくは穴が形成されている、
ことを特徴とする請求項1から
3のいずれか1項に記載の電子銃。
【請求項5】
前記耐熱部材が、金属によって形成され、前記カソードと同電位となっている箇所に接続されている、
ことを特徴とする請求項1から
4のいずれか1項に記載の電子銃。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子銃に関し、特に、電子線発生装置、Linac(線形加速器)、TWT(進行波管)、クライストロンなどを動作させるために電子を供給する電子銃に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ビームを利用するアプリケーションとしての電子線発生装置、Linac、TWT、クライストロンなどにおいては、
図7に示すように、金属基体に熱電子放出物質を、吹き付け、塗り込み、または含浸させるなどしたカソード102をヒータ105により加熱することによって熱電子放出させる電子銃101が備えられる。従来の電子銃101は、電子を一定方向に向かって運動させ、また、ビームを収束させるために、アノード103やウェネルト104に、カソード102に対して正の電位を与えて使用する。
図7に示す2極の構成に加えて、
図8に示すように、グリッド106を配置して3極とし、カソードに対して正の制御電圧を加えることにより、電子の流れる量を制御する方法もある。
【0003】
図7と
図8とのいずれの場合も、電子銃101から電子が放出され、電界または磁界により一定方向に向けてビームが収束されて、例えば、電子が直接利用されたり、電子をターゲットに衝突させた時のエネルギーでX線などを発生させることに利用されたりし、また、Linacのように高周波電界などで電子を加速してエネルギーを増加させたり、TWTやクライストロンのように電子の流れを高周波電界によって進行/遅延させて変調したりするアプリケーションがある。
【0004】
上記のアプリケーションのいずれの場合にも、電子ビームの全てが次のセクション(例えば、LinacやTWTなど)に伝達されるのではなく、必ず反射が生じ、一部が電子銃101側に戻ってくる(特許文献1参照)。また、電子の衝突によって2次電子が発生し、それが電子銃101側に進行してくる場合がある。さらに、電子からエネルギーを受けたイオンが電子銃101側に進行してくることもある。いずれの場合においても、電子、2次電子、或いはイオンが持つエネルギーによってグリッド106やカソード102に衝突した際に熱となり、ダメージを与えることが多い。このため、本来の寿命を全うする前に、エミッションが低下したりアーキングが発生したりする状態に短時間で至ることが多い。特許文献2の技術は、プラズマ発生装置によって成膜するアプリケーションであり、電子帰還電極を設けることにより、電子、2次電子、イオンなどは電子帰還電極に入射して帰還される。しかしながら、LinacやTWTに使用される場合に、電子やイオンは放出される電子ビームの方向と逆方向に直線的に戻ってくるため、このような電極の構造や位置による回収は電子銃では不可能である。
【0005】
また、カソードから放出された電子のうちの一部や、電子が当たって発生する2次電子およびイオンがカソードへと帰還することによるカソードの昇温を避けるために、カソードの中心に直径が1.8~2.2mmの貫通孔を形成してホローカソードと呼ばれる構造として、バックボンバードメント(カソードから放出された電子であって、加速位相にある電子が、高周波電界からエネルギーを得てカソードに戻り、衝突する現象)によるカソードの加熱を防止する方法が知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開2016/029065Al
【文献】特開2010-53443号公報
【文献】CN20122258524U
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ヒータや、ヒータを絶縁固定するためのポッティング材に電子やイオンが当たった場合、衝突エネルギーやその後の熱によってポッティング材が劣化したりポッティング材からガスが発生したりする、という問題があった。また、電子やイオンはカソードの中心軸に沿って戻ってくるため、従来のホローカソードでは、カソードを加熱するためのヒータ線をカソードの中心軸上に配置することができず、ヒータ線の巻き方が複雑となってコスト上昇の原因になる、という問題があった。また、ヒータを絶縁固定するためのポッティング材について、中心部を開けた構造とすることができない、という問題があった。
【0008】
そこで本発明は、ヒータやポッティング材の昇温や劣化が抑制されて長寿命化を図ることが可能な電子銃を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、電子を放出するカソードと、該カソードを昇温させるヒータと、前記カソードに対して正の電位を印加して電子を一定方向に引き出すアノードと、を備える電子銃であって、前記カソードの、前記電子の進行方向に対する直交面視における中心位置に、前記電子の進行方向に沿う貫通孔が設けられ、該貫通孔を塞ぐ第一の部分と、前記カソードと前記ヒータとの間に位置する第二の部分とを有する耐熱部材が配設されており、前記耐熱部材の前記第一の部分が、前記第二の部分の一面から突出して前記カソードの前記貫通孔へと挿し入れられる円筒部として形成されている、ことを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、次のセクション(例えば、LinacやTWTなど)から戻ってくる電子、2次電子、或いはイオンがカソードに向かってきた場合にも、カソードの中心に設けられた貫通孔を通過するので、カソードの中心に於ける局部的な発熱が防止され、かつ、貫通孔を通過した電子やイオンは耐熱部材に衝突するので、前記電子やイオンのバックボンバードメントによる発熱が耐熱部材で拡散される。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電子銃において、前記カソードに対して正の制御電圧を印加するために前記カソードと前記アノードとの間にグリッドを備え、該グリッドの、前記カソードの前記貫通孔と同軸上に、孔が設けられている、ことを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の電子銃において、前記耐熱部材前記第一の部分よりも、前記第二の部分が薄くなっている、ことを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3に記載の電子銃において、前記耐熱部材の前記第二の部分に、1つもしくは複数の切欠き部もしくは穴が形成されている、ことを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4に記載の電子銃において、前記耐熱部材が、金属によって形成され、前記カソードと同電位となっている箇所に接続されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、非常に高いビーム電流密度で設計した電子銃においても、カソードの中心に於ける局部的な発熱を防止することができ、カソードの損傷を防止することが可能となり、さらに、電子銃側へと戻ってきた電子やイオンのバックボンバードメントによる発熱を耐熱部材で拡散することができ、ヒータやポッティング材の昇温や劣化を低減することが可能となる。この結果、電子銃の特性が変化することを防止して安定な熱電子放出を長く確保することができ、カソードの寿命に至る前に劣化のために使用不能となることが避けられ、長寿命化を図ることが可能となる。また、カソードの貫通孔へと挿し入れられる円筒部を耐熱部材が有しているので、ヒータからの熱やバックボンバードメントによる発熱をカソードへと効率よく伝導させてカソードの加熱効率を向上させることが可能となる。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、グリッドを備えるようにした上で該グリッドに孔を設けるようにしているので、カソードからグリッドを通り抜けて進行する電子の進行速度を制御することができ、電子銃の操作性を向上させることが可能となり、その上で、グリッドの中心に於ける局部的な発熱を防止することができ、グリッドの損傷を防止することが可能となる。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、耐熱部材の厚さが箇所によって変えられているので、電子銃側へと戻ってきた電子やイオンのバックボンバードメントによる発熱を良好に拡散させつつ、ヒータによるカソードの加熱効率を良好に確保することが可能となる。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、耐熱部材のうちのカソードの貫通孔と対向しない部分に切欠き部や穴が形成されているので、ヒータからの熱をカソードへと一層効率よく伝導させてカソードの加熱効率を一層向上させることが可能となる。
【0021】
請求項5に記載の発明によれば、耐熱部材とカソードとが同電位となるので、カソードから放出された電子を、アノードに与えられる電位とカソードに与えられる電位との差としての電圧によってアノードへと向かうように進行させる働きが阻害されることを防ぐことができ、電子銃としての機能が阻害されることを回避した上で、耐熱部材を設けることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】この発明の実施の形態1に係る電子銃の概略構成を示す断面図である。
【
図2】
図1の電子銃の耐熱部材を示す斜視図である。
【
図4】この発明の実施の形態2に係る電子銃の概略構成を示す断面図である。
【
図5】この発明の実施の形態3に係る電子銃の概略構成を示す断面図である。
【
図6】
図5の電子銃の耐熱部材を示す斜視図である。
【
図7】従来の2極電子銃の概略構成を示す断面図である。
【
図8】従来の3極電子銃の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。なお、各図はあくまでもこの発明に係る電子銃1の概略構成を説明するための図であり、各部の詳細構造や相互の寸法関係を厳密に表すものではない。
【0024】
(実施の形態1)
図1は、この実施の形態に係る電子銃1の概略構成を示す断面図である。なお、この実施の形態に係る電子銃1は、2極電子銃である。この電子銃1は、主として、カソード2に貫通孔21が形成された上で耐熱部材8が設けられている点が従来の電子銃と構成が異なり、従来と同等の構成についての説明を省略するが、概略次のような構成となっている。
【0025】
すなわち、電子銃1は、カソード2、ヒータ3、アノード4、およびウェネルト5を有し、アノード4に形成された開口部41から、主として矢印Aの向きに電子を放出するものである。前記のカソード2などは絶縁部材によって形成される筐体(図示していない)内に収納され、電子銃1は、真空装置に装着されて内部が真空に保たれた状態で動作する。
【0026】
カソード2は導電性を備えるスリーブ9によって支持され、また、アノード4およびウェネルト5はそれぞれ別の導電部材によって個別に支持されて、筐体内における相互の位置関係が固定される。
【0027】
カソード2は、ヒータ3によって加熱され、電子を放出するためのものである。カソード2は、例えば、金属基体に、熱電子放出物質を、吹き付け、塗り込み、または含浸させるなどして形成される。カソード2には、電源(図示していない)によって所定の電位が与えられる。
【0028】
ヒータ3は、カソード2を加熱するためのものである。ヒータ3は、ポッティング材10によって取り囲まれて保持されている。ポッティング材10は、絶縁性を備えかつ耐熱性を備える材質によって形成され、具体的には例えばアルミナによって形成される。
【0029】
アノード4は、カソード2から放出された電子を、開口部41を通過させるように進行させるためのものである。アノード4には、電源(図示していない)によって所定の電位が与えられる。
【0030】
ウェネルト5は、カソード2から放出された電子を、アノード4の開口部41を効率的に通過させるように集束するための電極である。ウェネルト5には、電源(図示していない)によって所定の電位が与えられる。
【0031】
電子銃1は、電子ビームを利用するアプリケーション(例えば、電子線発生装置、Linac、TWT、クライストロンなど)と組み合わせて使用される。この際、アプリケーション側で反射が生じて電子の一部が電子銃1側へと戻ってきたり、電子の衝突によって発生した2次電子が電子銃1側へと進行したり、電子からエネルギーを受けたイオンが電子銃1側へと進行したりする。このような電子、2次電子、およびイオンのことを「帰還電子等」と呼ぶ。
【0032】
そして、この実施の形態に係る電子銃1は、電子を放出するカソード2と、該カソード2を昇温させるヒータ3と、カソード2に対して正の電位を印加して電子を一定方向に引き出すアノード4と、を備える電子銃であって、カソード2の、電子の進行方向Aに対する直交面視における中心位置に、電子の進行方向Aに沿う貫通孔21が設けられ、該貫通孔21を塞ぐ第一の部分(この実施の形態では凸部82)と、カソード2とヒータ3との間に位置する第二の部分(この実施の形態では板状部81)とを有する耐熱部材8が配設されている、ようにしている。
【0033】
貫通孔21は、電子銃1側に進行してくる帰還電子等のバックボンバードメントのエネルギーによってカソード2が変形したり劣化したりすることを防止するためのものである。貫通孔21は、カソード2の、電子の放出方向(進行方向)である矢印Aの方向に対する直交面視における中心位置に、前記直交面視において円形に、電子の放出方向A(進行方向)に沿ってカソード2を貫通する孔として形成される。貫通孔21の、電子の放出方向Aに対する直交面視における円形の直径は、あくまで一例として挙げると、1~3mm程度に設定される。
【0034】
耐熱部材8は、カソード2に設けられた貫通孔21を通って進行する帰還電子等を衝突させて熱拡散させるためのものである。耐熱部材8は、カソード2に設けられた貫通孔21を隙間なくカバーして塞ぐものとして形成され、カソード2の、ヒータ3側の端面に取り付けられる。また、耐熱部材8は、一部がスリーブ9と接触するように設けられることが好ましい。耐熱部材8がスリーブ9と接触することにより、耐熱部材8の熱がスリーブ9へと伝導される。
【0035】
耐熱部材8は、高耐熱性を備える材質によって形成され、電子銃1の使用時において耐熱部材8について想定される温度でも熱変形やガス放出を起こすこと無く安定に使用可能な材質によって形成されることが好ましい。耐熱部材8は、また、仕事関数が高く、2次電子増倍係数が低い金属によって形成されることが好ましい。これにより、電子銃1側に進行してきた帰還電子等が耐熱部材8に衝突した際の2次電子、3次電子の発生を抑えることができ、電子銃1から放出される電子ビームに影響が及ぶことを防止することが可能となる。耐熱部材8は、具体的には例えば、モリブデン、タングステン、タンタル、もしくはハフニウム、または、前記物質の化合物や混合物、或いは、前記物質を含む合金などの高耐熱部材によって形成される。耐熱部材8は、セラミックやSiC(シリコンカーバイド)によって形成されるようにしてもよい。
【0036】
耐熱部材8を金属によって形成してカソード2と同電位となっている箇所へと電気的に接続させること(耐熱部材8をカソード2に対して取り付けることでもよい)により、耐熱部材8とカソード2とを同電位とすることができる。これにより、カソード2から放出された電子をアノード4に与えられる電位とカソード2に与えられる電位との差としての電圧によってアノード4の開口部41へと向かうように進行させる働きが阻害されることが無い。すなわち、電子銃1としての機能が阻害されることを回避した上で、耐熱部材8を設けることが可能となる。
【0037】
ここで、ポッティング材10が耐熱性を備える材質によって形成されているため、カソード2の加熱は、ヒータ3からの直接的な輻射ではなく、ポッティング材10やスリーブ9を通じての熱伝導によるものが殆どとなる。発明者の検討によると、耐熱部材8の厚さなどが適切に調整されることにより、ヒータ3によるカソード2の加熱効率は著しくは低下しないことが確認されている。つまり、耐熱部材8は、カソード2に進行してくる帰還電子等を衝突させて適切に熱拡散させることができ、かつ、ヒータ3によるカソード2の加熱効率を著しく低下させないように調整され形成されて配設される。
【0038】
耐熱部材8の物性にもよるが、発明者の検討によると、耐熱部材8の、ヒータ3とカソード2との間に存在する部分の厚さを例えば1mm以下とすることにより、ヒータ3によるカソード2の加熱効率を著しくは低下させないようにすることが可能であることが確認されている。
【0039】
耐熱部材8は、表裏がどちらも平面である単なる平板状に形成されても(言い換えると、電子の放出方向Aにおいて一定の厚さであるように形成されても)よいが、帰還電子等のバックボンバードメントのエネルギーによる耐熱部材8の変形や表面状態の変化などの機械的な劣化を効果的に防止しつつ、ヒータ3によるカソード2の加熱効率を著しく低下させないようにするため、カソード2の貫通孔21を通る帰還電子等が衝突する部分(貫通孔21と対向する部分)を厚くし、その他の部分(貫通孔21と対向しない部分)を薄くするようにしてもよい。
【0040】
耐熱部材8は、具体的には例えば、
図2に示すような形状に形成されてもよい。
図2に示す耐熱部材8は、カソード2の貫通孔21を通る帰還電子等が衝突する部分(貫通孔21と対向する部分)だけ厚くするようにしたものであり、板状部81と、該板状部81のうちの一面に形成される凸部82とを有する。板状部81がカソード2のヒータ3側の端面に接合されることによって耐熱部材8がカソード2に対して取り付けられ、この状態で、凸部82は、カソード2の貫通孔21へと嵌まり込む。
図2に示す例では、板状部81は、板面視において円形に形成され、円形板状部81とされている。凸部82の形態は、
図2に示すような太鼓型/コイン型に限定されるものではなく、すそ野を有する山型でもよい。
【0041】
図2に示す耐熱部材8では円形板状部81の周端83の全周がスリーブ9と接触するようにしているが、
図3に示すように、板状部81の周縁部分に1つもしくは複数の切欠き部84が形成され、板状部81の周端83のうちの一部がスリーブ9と接触するようにしてもよい。板状部81に切欠き部84が形成されることにより、耐熱部材8の熱をスリーブ9へと伝導させる作用を確保しつつ、ヒータ3からの熱(ポッティング材10やスリーブ9を通じての熱)をカソード2へと効率よく伝導させてカソード2の加熱効率を確保することが可能となる。
【0042】
また、耐熱部材8の板状部81に、1つもしくは複数の穴が形成されるようにしてもよい。板状部81に穴が形成されることにより、耐熱部材8の熱をスリーブ9へと伝導させる作用を確保しつつ、ヒータ3からの熱(ポッティング材10やスリーブ9を通じての熱)をカソード2へと効率よく伝導させてカソード2の加熱効率を確保することが可能となる。
【0043】
耐熱部材8は、カソード2の貫通孔21を通って耐熱部材8へと至る帰還電子等が衝突する部分(貫通孔21と対向する部分。
図2に示す例では凸部82)が耐熱性を備える材質によって形成されれば、全体が一体(1片の部品)として形成されるようにしてもよく、或いは、複数の部品が組み合わせられて構成されるようにしてもよい。
【0044】
次に、このような構成の電子銃1の作用などについて説明する。
【0045】
カソード2がヒータ3により加熱されることによって熱電子放出が起こり、カソード2とアノード4との間の電界によって電子の運動方向性が決められ、ウェネルト5による電界の影響で電子ビームが収束される。すなわち、カソード2から放出された電子は、アノード4に与えられる電位とカソード2に与えられる電位との差としての電圧により、アノード4の開口部41へと向かって進行する。
【0046】
カソード2から放出された電子の一部は、アノード4の開口部41を通過し、主として矢印Aの向きにさらに進行し、電子ビームが利用される次のセクション(例えば、LinacやTWTなど)へと向かう。そして、次のセクションにおいて反射したり発生したりした帰還電子等が、カソード2へと向かって進行する。
【0047】
カソード2へと進行した帰還電子等は貫通孔21を通って耐熱部材8に衝突し、この帰還電子等のバックボンバードメントで発生した熱は、耐熱部材8で拡散し、主にスリーブ9側に伝達される。熱の一部は、カソード2の昇温に寄与するものの、ヒータ3による加熱の熱量に対しては僅かである。したがって、従来のようにカソード2の中心に於ける局部的な発熱とならなければ、カソード2の表面やベースメタルの気孔に含まれる熱電子放出物質が異常に蒸発を起こすことが防止される。
【0048】
この実施の形態に係る電子銃1によれば、次のセクション(例えば、LinacやTWTなど)から進行してくる帰還電子等がカソード2に向かってきた場合にも、カソード2の中心に設けられた貫通孔21を通過するので、カソード2の中心に於ける局部的な発熱を防止することができ、かつ、貫通孔21を通過した帰還電子等は耐熱部材8に衝突するので、前記帰還電子等のバックボンバードメントによる発熱を耐熱部材8で拡散することができる。このため、非常に高いビーム電流密度で設計した電子銃においても、カソード2の損傷を防止することが可能となり、さらに、ヒータ3やポッティング材10の昇温や劣化を低減することが可能となる。この結果、電子銃1の特性が変化することを防止して安定な熱電子放出を長く確保することができ、カソード2の寿命に至る前に劣化のために使用不能となることが避けられ、長寿命化を図ることが可能となる。
【0049】
ここで、電子銃1側に進行してきた帰還電子等のバックボンバードメントによる発熱が無視できない程度となる場合には、ヒータ3の熱量を予め下げて設定することにより、耐熱部材8の昇温による影響を排除する(差し引く)ことができる。すなわち、この実施の形態に係る電子銃1によれば、耐熱部材8をカソード2の近傍に於いてヒータ3との間に配置することにより、ヒータ3の設計の自由度を向上させることが可能となる。従来のホローカソードでは、カソードの貫通孔と同軸上にヒータの電熱線やポッティング材をバックボンバードメントの影響を受けることなく配置することはできないが、この実施の形態に係る電子銃1によれば、カソード2の貫通孔21と同軸上に、つまり従来の電子銃の設計と同様に、ヒータ3およびポッティング材10を配置することが可能となる。
【0050】
また、耐熱部材8が
図2や
図3に示すように板状部81と凸部82とを有するものとして形成される場合には、カソード2の貫通孔21を通って耐熱部材8へと至る帰還電子等は耐熱部材8の厚さが厚くなっている凸部82に衝突するため、帰還電子等のバックボンバードメントによる発熱を十分に拡散させることが可能となり、かつ、カソード2とヒータ3との間に存在する耐熱部材8については板状部81として厚さを薄くしてヒータ3からの熱(ポッティング材10やスリーブ9を通じての熱)によるカソード2の加熱効率を良好に確保することが可能となる。
【0051】
(実施の形態2)
図4は、この実施の形態に係る電子銃1の概略構成を示す断面図である。この実施の形態では、実施の形態1と同等の構成に加え、ウェネルト5に対してグリッド6が接続されている。すなわち、この実施の形態に係る電子銃1は、3極電子銃である。なお、実施の形態1と同等の構成については、同一符号を付することでその説明を省略する。
【0052】
グリッド6は、カソード電流を制御するためのものであり、ウェネルト5の、カソード2の側に取り付けられる。グリッド6は、ウェネルト5に与えられる電位によって駆動する。グリッド6は、例えば、導電性を備える材質により、電子が透過可能なメッシュやパンチング状などの構造を有するものとして形成される。グリッド6にはアノード4に対して負となる電圧が印加され(これにより、電子の流れを制御するためのカソード2に対して正の制御電圧が印加される)、カソード2からの電子をより引き出す電界をかけることにより、カソード電流を制御することが可能となる。
【0053】
グリッド6により、ウェネルト5に与えられる電位を誘因として、カソード2からグリッド6を通り抜けて矢印Aの向きに進行する電子の進行速度が制御される。
【0054】
そして、この実施の形態に係る電子銃1は、カソード2に対して正の制御電圧を印加するためにカソード2とアノード4との間にグリッド6を備え、該グリッド6の、カソード2の貫通孔21と同軸上に、孔61が設けられている、ようにしている。
【0055】
孔61は、電子銃1側に進行してくる帰還電子等のバックボンバードメントのエネルギーによってグリッド6が変形したり劣化したりすることを防止するためのものである。孔61は、グリッド6の、電子の放出方向A(進行方向)に対する直交面視における中心位置に、電子の放出方向Aに沿ってグリッド6を貫通する円形孔として形成される。グリッド6の孔61とカソード2の貫通孔21とは、電子の放出方向Aにおいて同軸となる位置にそれぞれ形成される。孔61の、電子の放出方向Aに対する直交面視における円形の直径は、あくまで一例として挙げると、1~3mm程度に設定される。グリッド6の孔61とカソード2の貫通孔21とは、電子の放出方向Aに対する直交面視において同じ大きさに形成される。
【0056】
この実施の形態の場合、電子銃1へと進行した帰還電子等は、グリッド6の孔61を通過し、さらにカソード2の貫通孔21を通って耐熱部材8に衝突し、この帰還電子等のバックボンバードメントで発生した熱は、耐熱部材8で拡散し、主にスリーブ9側に伝達される。
【0057】
この実施の形態に係る電子銃1によれば、グリッド6を備えるようにした上で該グリッド6に孔61を設けるようにしているので、カソード2からグリッド6を通り抜けて進行する電子の進行速度を制御することができ、電子銃1の操作性を向上させることが可能となり、その上で、グリッド6の中心に於ける局部的な発熱を防止することができ、グリッド6の損傷を防止することが可能となる。
【0058】
(実施の形態3)
図5は、この実施の形態に係る電子銃1の概略構成を示す断面図である。この実施の形態では、耐熱部材8が実施の形態1の耐熱部材8と構成が異なる。なお、実施の形態1と同等の構成については、同一符号を付することでその説明を省略する。
【0059】
この実施の形態の耐熱部材8は、
図6に示すように、カソード2とヒータ3との間に位置する第二の部分がカソード2に対して取り付けられる板状部81として形成され、貫通孔21を塞ぐ第一の部分が板状部81の一面から突出してカソード2の貫通孔21へと挿し入れられる円筒部85として形成されている。板状部81がカソード2のヒータ3側の端面に接合されることによって耐熱部材8がカソード2に対して取り付けられ、この状態で、円筒部85は、カソード2の貫通孔21へと挿し入れられる。
図6に示す例では、板状部81は、板面視において円形に形成され、円形板状部81とされている。
【0060】
耐熱部材8の円筒部85の外周面86とカソード2の貫通孔21の内周面とは接触するようにしてもよく、或いは、円筒部85の外周面86と貫通孔21の内周面との間に隙間があるようにしてもよい。なお、
図6に示す例では、円筒部85の内側の板状部81(円筒部85の底部に相当する。貫通孔21と対向する部分)の厚さが、円筒部85の外側の板状部81(貫通孔21と対向しない部分)よりも厚くなるようにしているが、円筒部85の内側と外側とで板状部81の厚さが同じであるようにしてもよい。
【0061】
この実施の形態に係る耐熱部材8によれば、電子銃1側に進行した帰還電子等はカソード2の貫通孔21を通って耐熱部材8(特に、円筒部85の底部に相当する、円筒部85の内側の板状部81)に衝突し、帰還電子等のエネルギーは熱に変換される。また、円筒部85がカソード2の貫通孔21へと挿し入れられることにより、ヒータ3からの熱(ポッティング材10やスリーブ9を通じての熱)やバックボンバードメントによる発熱をカソード2へと効率よく伝導させてカソード2の加熱効率を向上させることができる。
【0062】
なお、
図6に示す耐熱部材8が用いられる場合も、ウェネルト5に対してグリッド6が取り付けられるようにしてもよい。
【0063】
この実施の形態に係る電子銃1によれば、カソード2の貫通孔21へと挿し入れられる円筒部85を耐熱部材8が有しているので、ヒータ3からの熱やバックボンバードメントによる発熱をカソード2へと効率よく伝導させてカソード2の加熱効率を向上させることが可能となる。
【0064】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、耐熱部材8が板状部81を介してカソード2に対して取り付けられているが、カソード2とヒータ3との間に配設される限りにおいて、耐熱部材8の取り付け方は特定の態様には限定されない。
【符号の説明】
【0065】
1 電子銃
2 カソード
21 貫通孔
3 ヒータ
4 アノード
41 開口部
5 ウェネルト
6 グリッド
61 孔
8 耐熱部材
81 板状部
82 凸部
83 周端
84 切欠き部
85 円筒部
86 外周面
9 スリーブ
10 ポッティング材
101 従来の構成の電子銃
102 カソード
103 アノード
104 ウェネルト
105 ヒータ
106 グリッド
A 電子の放出方向(進行方向)