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特許7269407タングステンシリサイドターゲット部材及びその製造方法、並びにタングステンシリサイド膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】タングステンシリサイドターゲット部材及びその製造方法、並びにタングステンシリサイド膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20230426BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20230426BHJP
   C01G 41/00 20060101ALI20230426BHJP
   C01B 33/02 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C23C14/06 E
C01G41/00 A
C01B33/02 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022064767
(22)【出願日】2022-04-08
(62)【分割の表示】P 2020509611の分割
【原出願日】2018-11-21
(65)【公開番号】P2022082780
(43)【公開日】2022-06-02
【審査請求日】2022-04-08
(31)【優先権主張番号】P 2018068855
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】太齋 貴文
(72)【発明者】
【氏名】浅野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】岡部 岳夫
【審査官】篠原 法子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-016412(JP,A)
【文献】特開平08-020863(JP,A)
【文献】特開平06-322529(JP,A)
【文献】特開平08-049068(JP,A)
【文献】特開2005-239532(JP,A)
【文献】国際公開第2017/158928(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00 -14/58
H01L 21/28
H01L 21/285
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
DWPI(Derwent Innovation)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
WSi2相とSi相との二相構造を有するタングステンシリサイドターゲット部材であって、
原子比における組成式がWSix(ただし、X>2.0である。)で表され、
スパッタ面を観察したときに、前記Si相を構成するSi粒の総面積S1に対する、該Si粒1個当たりの面積が63.6μm2以上である前記Si粒の総面積I1の比(I1/S1)が、5%以下であり、
抗折強度のワイブル係数が、2.1以上であり、
前記WSi2相を構成するWSi2粒のメジアン径D50に対する、前記Si相を構成するSi粒のメジアン径D50の比が、0.243~0.306である、タングステンシリサイドターゲット部材。
【請求項2】
スパッタ面を観察したときに、前記WSi2相を構成するWSi2粒の総面積S2に対する、該WSi2粒1個当たりの面積が63.6μm2以上である前記WSi2粒の総面積I2の比(I2/S2)が、5%以下である、請求項1に記載のタングステンシリサイドターゲット部材。
【請求項3】
スパッタ面を観察したときに、前記WSi2相を構成するWSi2粒の総面積S2に対す
る、該WSi2粒1個当たりの面積が63.6μm2以上である前記WSi2粒の総面積I2の比(I2/S2)が、0.1%以下である、請求項1に記載のタングステンシリサイドターゲット部材。
【請求項4】
スパッタ面を観察したときに、WSi2粒1個当たりの平均面積が6.0μm2以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のタングステンシリサイドターゲット部材。
【請求項5】
前記WSi2粒1個当たりの平均面積が3.0μm2以上である、請求項4に記載のタングステンシリサイドターゲット部材。
【請求項6】
スパッタ面を観察したときに、Si粒1個当たりの平均面積が2.5μm2未満である、請求項1~5のいずれか1項に記載のタングステンシリサイドターゲット部材。
【請求項7】
前記Si粒1個当たりの平均面積が1.2μm2以上である、請求項6に記載のタングステンシリサイドターゲット部材。
【請求項8】
平均抗折強度が250MPa以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載のタングステンシリサイドターゲット部材。
【請求項9】
酸素濃度が、700質量ppm以上である、請求項1~8のいずれか1項に記載のタングステンシリサイドターゲット部材。
【請求項10】
相対密度が99.9%以上である、請求項1~9のいずれか1項に記載のタングステンシリサイドターゲット部材。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のタングステンシリサイドターゲット部材を製造するタングステンシリサイドターゲット部材の製造方法であって、
Si/Wの原子比が2.0より大きくなるようにW粉末及びSi粉末を配合してシリサイド反応させることを含む、WSi2相とSi相とが合体して個々の粒子を形成した混合粉末を調製する調製工程と、
前記混合粉末を粉砕する粉砕工程と、
粉砕後の混合粉末をホットプレス焼結して焼結体を得る焼結工程とを含む、タングステンシリサイドターゲット部材の製造方法。
【請求項12】
前記W粉末のBET値は、1.0m2/g以下である、請求項11に記載のタングステンシリサイドターゲット部材の製造方法。
【請求項13】
前記Si粉末のBET値は、2.5m2/g以下である、請求項11又は12に記載のタングステンシリサイドターゲット部材の製造方法。
【請求項14】
前記粉砕工程では、粉砕後の粒子のBET値が1.0m2/g以下となるように前記混合粉末を粉砕する、請求項11~13のいずれか1項に記載のタングステンシリサイドターゲット部材の製造方法。
【請求項15】
請求項1~10のいずれか1項に記載のタングステンシリサイドターゲット部材を用いてスパッタリングする成膜工程を含む、タングステンシリサイド膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タングステンシリサイドターゲット部材及びその製造方法、並びにタングステンシリサイド膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程において、薄膜を形成する方法としてスパッタリング法が用いられている。スパッタリング法は、量産性や成膜の安定性に優れターゲットにArイオンを衝突させて、ターゲット物質である金属を飛び出させ、この飛び出した金属をターゲットと対向した基板上に堆積させて薄膜を形成する方法である。
【0003】
しかしながら、近年、LSIの集積度が上がり、配線幅が微細化されるにつれ、スパッタリングターゲットからのパーティクルの発生が問題となっている。パーティクルは、基板上の膜に直接付着したり、又は、チャンバー内の壁等に付着し、堆積後に剥離して膜に再付着したりして、配線の短絡、断線等の問題を引き起こす。そこで、スパッタ中にスパッタリングターゲットからのパーティクルを低減するために、様々なスパッタリングターゲットが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、タングステンシリサイドからなり、ターゲット材の表面粗さRaの平均値が1.0より大きく2.0μm以下であるスパッタリングターゲットが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-200024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本実施形態は、成膜時にパーティクルの発生を効率的に抑制するタングステンシリサイドターゲット部材及びその製造方法、また、前記タングステンシリサイドターゲット部材を用いるタングステンシリサイド膜の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材においては、WSi2相とSi相との二相構造を有するタングステンシリサイドターゲット部材であって、原子比における組成式がWSix(ただし、X>2.0である。)で表され、スパッタ面を観察したときに、前記Si相を構成するSi粒の総面積S1に対する、該Si粒1個当たりの面積が63.6μm2以上である前記Si粒の総面積I1の比(I1/S1)が、5%以下であり、抗折強度のワイブル係数が、2.1以上であり、前記WSi2相を構成するWSi2粒のメジアン径D50に対する、前記Si相を構成するSi粒のメジアン径D50の比が、0.243~0.306である。
【0008】
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材においては、スパッタ面を観察したときに、前記WSi2相を構成するWSi2粒の総面積S2に対する、該WSi2粒1個当たりの面積が63.6μm2以上である前記WSi2粒の総面積I2の比(I2/S2)が、5%以下である。
【0009】
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材においては、スパッタ面を観察したときに、前記WSi2相を構成するWSi2粒の総面積S2に対する、該WSi2粒1個当たりの面積が63.6μm2以上である前記WSi2粒の総面積I2の比(I2/S2)が、0.1%以下である。
【0010】
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材においては、スパッタ面を観察したときに、WSi2粒1個当たりの平均面積が6.0μm2以下である。
【0011】
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材においては、前記WSi2粒1個当たりの平均面積が3.0μm2以上である。
【0012】
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材においては、スパッタ面を観察したときに、Si粒1個当たりの平均面積が2.5μm2未満である。
【0013】
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材においては、前記Si粒1個当たりの平均面積が1.2μm2以上である。
【0014】
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材においては、平均抗折強度が250MPa以上である。
【0015】
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材においては、酸素濃度が、700質量ppm以上である。
【0016】
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材においては、相対密度が99.9%以上である。
【0017】
また、本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材の製造方法においては、上述したタングステンシリサイドターゲット部材を製造するタングステンシリサイドターゲット部材の製造方法であって、Si/Wの原子比が2.0より大きくなるようにW粉末及びSi粉末を配合してシリサイド反応させることを含む、WSi2相とSi相とが合体して個々の粒子を形成した混合粉末を調製する調製工程と、前記混合粉末を粉砕する粉砕工程と、粉砕後の混合粉末をホットプレス焼結して焼結体を得る焼結工程とを含む。
【0018】
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材の製造方法においては、前記W粉末のBET値は、1.0m2/g以下である。
【0019】
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材の製造方法においては、前記Si粉末のBET値は、2.5m2/g以下である。
【0020】
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材の製造方法においては、前記粉砕工程では、粉砕後の粒子のBET値が1.0m2/g以下となるように前記混合粉末を粉砕する。
【0021】
更に、本実施形態に係るタングステンシリサイド膜の製造方法においては、上述したタングステンシリサイドターゲット部材を用いてスパッタリングする成膜工程を含む。
【発明の効果】
【0022】
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材によれば、成膜時にパーティクルの発生を効率的に抑制するタングステンシリサイドターゲット部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材の製造方法の概略を示すフロー図である。
図2】実施例1で得られたタングステンシリサイドターゲット部材の平均抗折強度の測定箇所を示す模式図である。
図3】実施例1で得られたタングステンシリサイドターゲット部材のスパッタ面を示すSEM観察組織像である。
図4】(A)は、実施例1で得られたタングステンシリサイドターゲット部材のスパッタ面を示すSEM観察組織像であり、(B)は、図4(A)を画像解析したEBSD観察組織像(WSi2相)であり、(C)は、図4(A)を画像解析したEBSD観察組織像(Si相)である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明は各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。なお、本明細書中において、BET値は、JIS Z8830:2013(ISO9277:2010)に従い、ガス吸着法(BET法)により測定した値を示す。このBET値とは、測定対象となる粉末の単位重量(1g)当たりの表面積を合計して平方m単位で表したもので、比表面積(m2/g)ともいう。したがって、上記粉末を細かくすれば表面積が大きくなるので、BET値も高くなる。
【0025】
本発明者は、鋭意検討した結果、Si粒の面積が所定の値より高い値を示すものの割合が少なく、抗折強度のワイブル係数が所望となる数値以上であることにより、緻密化され、Si粒が粗大化することなく均一に分散されているので、成膜時にパーティクルを効率的に抑制することができるタングステンシリサイドターゲット部材が得られることを見出した。
以下、本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材について説明する。
【0026】
[1.タングステンシリサイドターゲット部材]
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材によれば、成膜時にパーティクルの発生を効率的に抑制させることができる。本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材は、WSi2相とSi相との二相構造を有し、原子比における組成式がWSix(ただし、X>2.0である。)で表される。
【0027】
(Si相)
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材は、WSi2相を構成するWSi2粒とSi相を構成するSi粒とを含んでいる。パーティクルを軽減するにあたり、WSi2粒の面積よりSi粒の面積の方が、パーティクルの発生に関与している。これは、スパッタ面におけるSi粒の方がWSi2粒よりもスパッタされやすいので、Si粒が優先的にスパッタされることでスパッタ表面に凹凸(エロージョン方向)が生じることになる。この凹凸が大きくなるにつれ、スパッタ中に異常放電が生じやすくなり、パーティクル数が増加していく。そのため、当該タングステンシリサイドターゲット部材には、Si粒の面積が小さいものが要求される。そこで、本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材では、スパッタ面を観察したときに、Si相を構成するSi粒の総面積S1に対する、Si粒1個当たりの面積が63.6μm2以上であるSi粒の総面積I1の比(I1/S1)が、5%以下であり、2.5%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましい。これにより、Si粒が優先的にスパッタされることで生じるスパッタ表面の凹凸を小さくし、スパッタ中にパーティクルの発生を効率的に抑制することができる。ここで、本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材では、タングステンシリサイドターゲット部材のスパッタ面についてSEMを用いて組織像観察を行う。Si粒の面積は、タングステンシリサイドターゲット部材のスパッタ面についてSEM像を取得後にその画像を解析ソフトで解析し算出される。
【0028】
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材では、SiとWSi2との成膜レートが異なることに起因して、スパッタ中におけるパーティクルの発生を抑制する観点から、スパッタ面を観察したときに、Si粒1個当たりの平均面積は、5.0μm2未満が好ましく、3.2μm2未満がより好ましく、2.5μm2未満が更により好ましく、2.0μm2未満が更により好ましい。ただし、製造効率上の観点から、スパッタ面を観察したときに、Si粒1個当たりの平均面積は、1.2μm2以上が好ましく、1.5μm2以上がより好ましく、1.8μm2以上が更により好ましい。ここで、タングステンシリサイドターゲット部材のスパッタ面についてSEM像を取得後にその画像を解析ソフトで解析し、Si粒1個当たりの平均面積を算出する。
【0029】
(WSi2相)
WSi2相を構成するWSi2粒は、結晶方位によって、膜を形成する指標であるスパッタ率が異なる。WSi2粒が大きいと、結晶方位の違いにより、特定の箇所のみエロージョンが進行してスパッタ面の凹凸(エロージョン方向)が大きくなり、パーティクルが発生する。このため、WSi2粒の面積についてもSi粒の面積と同様に、小さくすることが要求される。そこで、本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材では、スパッタ面を観察したときに、WSi2相を構成するWSi2粒の総面積S2に対する、WSi2粒1個当たりの面積が63.6μm2以上であるWSi2粒の総面積I2の比(I2/S2)が、5%以下であり、2.5%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、0.1%以下が更により好ましい。これにより、タングステンシリサイドターゲット部材のWSi2相が微細であるため、スパッタの進行速度の差が小さくなり、スパッタ中にパーティクルをより効率的に抑制することができる。ここで、本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材では、タングステンシリサイドターゲット部材のスパッタ面について電子線後方散乱回折法(EBSD)により、結晶方位を規定する。電子線が試料に入射されると、電子線は試料面で散乱弾性を起こし、Braggの回折条件に従い回折が起こる。このとき、菊池線が発生する。この菊池線を解析することで、測定エリアの方位分布や結晶相などの情報を結晶粒ごとに得ることができる。したがって、菊池線のパターンが異なるWSi2相とSi相とを相ごとに容易に分離するので、WSi2相を観察することができる。例えば、WSi2粒がランダムな配向を持つことを利用して、15°以上の面方位差を持つ境界を結晶粒界として識別することによってWSi2相の結晶粒径を特定し、WSi2粒1個当たりの面積を算出する。なお、WSi2粒1個当たりの面積63.6μm2における円相当径の平均は、9μmである。
【0030】
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材では、スパッタ中におけるパーティクルの発生を抑制する観点から、スパッタ面を観察したときに、WSi2粒1個当たりの平均面積は、6.0μm2以下が好ましく、4.8μm2以下がより好ましく、3.7μm2以下が更により好ましい。ただし、製造効率上の観点から、スパッタ面を観察したときに、WSi2粒1個当たりの平均面積は、3.0μm2以上が好ましく、3.2μm2以上がより好ましく、3.3μm2以上が更により好ましい。ここで、タングステンシリサイドターゲット部材のスパッタ面については、前述したのと同様に、EBSDによりWSi2粒1個当たりの平均面積を算出する。
【0031】
(平均抗折強度)
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材では、平均抗折強度は、スパッタ中の割れや欠け等を防止することができ、パーティクルの発生を抑制するため、250MPa以上が好ましく、280MPa以上がより好ましく、350MPa以上が更により好ましい。なお、平均抗折強度は、引張圧縮試験機を用い、「JIS R1601:2008 ファインセラミックスの室温曲げ強さ試験方法」に準じてスパッタリングターゲット部材の5点以上の箇所で測定した曲げ強さの平均値である。
【0032】
(ワイブル係数)
また、本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材では、抗折強度のワイブル係数は、タングステンシリサイドターゲット部材の均一性が高まり内部欠陥をなくすという観点から、2.1以上であり、2.3以上が好ましく、2.7以上がより好ましい。ここで、ワイブル係数は、相対密度に差として表れない微細で全体積に占める体積の割合が非常に軽微なポアの多寡を示す。この軽微なポアは、応力集中箇所となり、上記ポアを起点に材料が破壊されやすくなる。したがって、ワイブル係数が低いほど軽微なポアが多いことを意味し、ワイブル係数が高いほど軽微なポアが少ないことを意味する。材料内において軽微なポアの存在量が多いほど、スパッタ中におけるパーティクルの発生量が多くなる。つまり、ワイブル係数が高いほど、パーティクル数が少なくなる傾向にある。例えば、アルキメデス法の密度測定では、気圧或いは温度等といった水の密度に影響を与える因子等によって、±ミリグラムオーダーの密度の誤差が存在するため、タングステンシリサイドターゲット部材(組成式:WSix(X=2.7))の理論密度である7.903g/cm3程度である場合には、相対密度99.9%以上の焼結体内のポアの多寡を議論することは困難である。また、焼結体の相対密度99.9%以上である場合には、焼結体内のポアは、相対密度が高いことに伴ってかなり少ないため、焼結体内のポアの多寡を議論するのは困難である。したがって、本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材の特性は、抗折強度のワイブル係数で表されている。
なお、ワイブル係数の測定は、「JIS R1625:2010 ファインセラミックスの強さデータのワイブル統計解析法」に準じて行う。
【0033】
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材は、酸素濃度の極端な低減を要しないことから、低酸素濃度化の副作用であった半焼結低酸素部分の生成が有意に抑制される。タングステンシリサイドターゲット部材中の酸素濃度は、ジェットミル等の微粉砕手法により十分な微細化がなされ、微細な原料粉末を得た際の一般的に不可避な酸素濃度である700質量ppm以上となることが常であり、酸素濃度は十分に微細化が達成できたことを示す指標として利用可能である。この観点から酸素濃度は700質量ppm以上であることが好ましく、更に微粉化が達成できているとする1000質量ppm以上であることがより好ましい。また、タングステンシリサイドターゲット部材中の酸素濃度は、本来マイクロアーキングの原因となりパーティクルを生じると考えられている酸化物の過剰な生成を防止するという観点から5000質量ppm以下であることが好ましく、3000質量ppm以下であることがより好ましく、2500質量ppm以下であることが更により好ましい。なお、本明細書中において、タングステンシリサイドターゲット部材中の酸素濃度は不活性ガス融解-赤外線吸収法により測定することとする。
【0034】
微粉砕によって微細な構成粒子がタングステンシリサイドターゲット部材の焼結終了まで維持され、半焼結低酸素部分が十分に抑制されると、タングステンシリサイドターゲット部材中の酸素濃度が高くてもスパッタリング時のパーティクル発生を有意に抑制することができる。半焼結低酸素部分とは、焼結領域内部に存在したシリコンが吸着酸素を伴って一酸化珪素として揮発消失した後に残存するスポンジ状のタングステンシリサイドを指す。
【0035】
一般的にシリコンが過剰に導入され合成されたタングステンシリサイド材料において、その構成物は主に、タングステン1原子とシリコン2原子が結合・生成したタングステン二珪化物と、余剰でありタングステンと反応できずに残留するシリコンの二種類の粒子になる。これらの密度を表記するにあたって、アルキメデス法などを用いれば密度を比較的容易に求めることができる。しかしながら、パーティクル抑制問題において重要視されるのは、如何に密な材料組織が得られるかであり、通常用いられるのは理論密度に対する相対密度である。したがって、本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材では、焼結体内部に空隙をほとんど有さないため、相対密度が99.9%以上であることが好ましい。
【0036】
以下、タングステンシリサイドターゲット部材の相対密度の算出方法を説明する。
タングステンシリサイドターゲット部材の重量を測定した後、水1Lの入った容器内に、前記タングステンシリサイドターゲット部材を入れ、アルキメデス法により前記タングステンシリサイドターゲット部材の体積を求める。そして、タングステンシリサイドターゲット部材の測定密度を算出する。一方、タングステンシリサイドターゲット部材(組成式:WSix(X=2.7))の理論密度は7.903g/cm3である。得られたタングステンシリサイドターゲット部材の測定密度が7.899g/cm3であった場合、7.899÷7.903≒99.9%となる。得られた数値は、焼結体内部にほとんど空隙を有さないことを意味する。
【0037】
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材では、成膜されるタングステンシリサイド層に不純物として取り込まれないよう、酸素以外の不純物の濃度が合計で0.1質量%以下であり、好ましくは0.01質量%以下であり、より好ましくは0.001質量%以下である。原料となるタングステン及びシリコンは純度が5~9Nのものが商業的に容易に入手可能であり、このような高純度な原料を使用することによって、製造されるタングステンシリサイドターゲット部材中の酸素以外の不純物濃度の合計を0.001質量%以下にすることは容易に達成可能である。ここで、本明細書中は、酸素以外の不純物濃度はGDMS法により測定し、測定対象元素は、Fe、Al、Ni、Cu、Cr、Co、K、Na、U、Thとする。
【0038】
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材では、限定的ではないが、円盤状、矩形板状、円筒状などの形状に加工して使用することが可能である。
【0039】
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材では、バッキングプレートと接合して使用してもよい。ターゲット部材とバッキングプレートは公知の任意の方法で接合すればよいが、例えば低融点の半田、例えばインジウム半田、錫半田、錫合金半田等を用いることが可能である。バッキングプレートの材料としても公知の任意の材料を使用すればよいが、例えば銅(例えば無酸素銅)、銅合金、アルミ合金、チタン、ステンレススチール等を使用することが可能である。
【0040】
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材は、限定的ではないが、LSI等の半導体デバイスの電極、配線及びコンタクトバリアー形成用のタングステンシリサイドターゲット部材として使用可能である。本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材が、使用可能なスパッタリング装置には特に制約はない。例えば、マグネトロンスパッタリング装置、RF印加型マグネトロンDCスパッタリング装置等が使用可能である。
【0041】
[2.タングステンシリサイドターゲット部材の製造方法]
次に、本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材の製造方法について図面を使用して説明する。図1は、本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材の製造方法の概略を示すフロー図である。本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材の製造方法は、図1に示すように、原料粉末(W粉末とSi粉末)を微細化する工程(以下、「微細化工程」)S101と、WSi2粒子及びSi粒子の混合粉末を調製する工程(以下、「調製工程」という。)S102と、混合粉末を粉砕する工程(以下、「粉砕工程」という。)S103と、粉砕後の混合粉末を焼結する工程(以下、「焼結工程」という。)S104と、焼結体を機械加工する工程(以下、「機械加工工程」という。)S105とを含む。以下、各工程S101~S105についてそれぞれ説明する。
【0042】
(微細化工程)
微細化工程S101では、原料粉末であるW粉末及びSi粉末を粉砕装置に投入し粉砕し、或いはW粉末及びSi粉末を粉砕装置に個別に投入し粉砕する。W粉末及びSi粉末の大きさが、タングステンシリサイドターゲット部材中のWSi2粒子とSi粒子の大きさに反映され、組織微細化に影響を与える。このため、タングステンシリサイドターゲット部材を製造するにあたり、材料となり得るWSi2粉末とSi粉末との大きさを制御するため、予めW粉末及びSi粉末を微細化することが好ましい。
【0043】
W粉末及びSi粉末は、下記のBET値となるように粉砕装置で粉砕することが好ましい。例えば、W粉末のBET値は、1.0m2/g以下が好ましく、0.9m2/g以下がより好ましく、0.7m2/g以下が更により好ましく、0.4m2/g以下が更により好ましい。また、例えば、Si粉末のBET値は、2.5m2/g以下が好ましく、2.2m2/g以下がより好ましく、2.0m2/g以下が更により好ましく、1.9m2/g以下が更により好ましい。ただし、典型的に、W粉末及びSi粉末のBET値は、0.1m2/g以上が好ましい。この際、W粉末及びSi粉末は、例えば、純度99.9質量%以上、好ましくは純度99.99質量%以上、より好ましくは純度99.999質量%以上のものを使用することができる。なお、W粉末及びSi粉末は、これらのBET値が好適な範囲であるものが現在市販されているため、市販品を使用してもよい。
【0044】
粉砕装置としては、W粉末とSi粉末とを粉砕することができれば特に限定されないが、例えば、ボールミル、多重撹拌翼回転式媒体撹拌ミル、ジェットミル、遊星ボールミル等が挙げられる。粉砕は、窒素或いはアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で実施することで不要な酸化を抑えることが好ましい。なお、W粉末とSi粉末を粉砕した後、所望とする目開きをもつ篩で篩別するか、気相分級装置によって規格外粗大粒を除去することが可能である。
【0045】
(調製工程)
調製工程S102では、例えば、Si/Wの原子比が2.0より大きくなるようにW粉末及びSi粉末を配合して、所望とする条件(反応温度、反応時間、真空圧)でシリサイド反応させることを含む、WSi2相とSi相とが合体して個々の粒子を形成した混合粉末を調製する。
【0046】
上記反応温度は、例えば、1200~1400℃が好ましく、1250~1350℃がより好ましく、1270~1320℃が更により好ましい。また、上記反応時間は、例えば、1~6時間が好ましく、2~5時間がより好ましく、3~4時間が更により好ましい。また、上記真空圧は、例えば、1.0Pa以下が好ましく、1.0×10-2Pa以下がより好ましく、1.0×10-4Pa以下が更により好ましい。
【0047】
微細化したW粉末とSi粉末とを所定量秤量して容器内で混合した後、合成炉でシリサイド反応を起こす。このシリサイド反応では、WSi2相とSi相とが合体して個々の粒子を形成した混合粉末が得られる。このWSi2相は、W及びSiの化学量論比がW:Si=1:2である。そのため、余剰Si粒子が容器内に残存する。純W相が消失するまで反応が進行し、WSi2相とSi相のみが残った混合粉末となる。
【0048】
(粉砕工程)
粉砕工程S103では、混合粉末を粉砕装置で粉砕することにより、粉砕後の混合粉末を得る。この混合粉末の粒子の大きさは、ターゲット部材中のWSi2粒及びSi粒の大きさに反映され、組織微細化に影響を与える。そのため、粉砕後の粒子のBET値は、好ましくは1.0m2/g以下、より好ましくは0.8m2/g以下、更により好ましくは0.6m2/g以下となるように混合粉末を粉砕し、例えば、0.1~1.0m2/gとすることができる。混合粉末の粒子はSi相とWSi2相が合体して個々の粒子を形成したものを粉砕しているため、各々の原料を混合後に焼結する場合に比べ、原料粉が凝集することによる二次粒子の生成が抑制され、最終的なターゲット部材中のSi相及びWSi2相の分散形態がより良いものとなる。
【0049】
粉砕装置としては、混合粉末を粉砕することができれば特に限定されないが、例えば、ボールミル、多重撹拌翼回転式媒体撹拌ミル、ジェットミル、遊星ボールミル等が挙げられる。粉砕は、窒素或いはアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で実施することで不要な酸化を抑えることが好ましい。なお、混合粉末を粉砕した後、所望とする目開きをもつ篩で篩別するか、気相分級装置によって規格外粗大粒を除去することが可能である。
【0050】
粉砕後の粒子の酸素濃度は焼成前に500質量ppm~3000質量ppm、好ましくは700質量ppm~2700質量ppm、より好ましくは1500質量ppm~2500質量ppmに調整することが焼成後に得られるターゲット部材中の酸素濃度を目標とする範囲に制御しやすいことから望ましい。そこで、粉砕前の混合粉末の酸素濃度が高すぎるときなどには、混合粉末を粉砕する粉砕工程S103は、WSi2粉末及びSi粉末を個別に又は混合した状態で真空加熱することで脱酸素化した後に行ってもよい。
【0051】
また、タングステンシリサイドを合成して個々の粒子を形成した混合粉末を粉砕してWSi2粉末を得た後、Si粉末と混合して、WSi2粉末及びSi粉末の粉砕後の混合粉末を得ることもできる。なお、WSi2粉末及びSi粉末など異種の粉末を混合する際は、V型ミキサ、ポットミル、ボールミル、遊星ボールミル等を利用することが好ましい。
【0052】
(焼結工程)
所定の酸素濃度及びBET値をもつ粉砕後の混合粉末を得た後、当該混合粉末をホットプレス焼結して焼結体を得る。ホットプレスは焼結体の高密度化及び高強度化を図ることができる条件で実施することが好ましい。ホットプレスは、例えば以下の条件で実施することができる。
プレス温度 :1250~1400℃、好ましくは1300~1390℃
雰囲気(真空度) :1×10-1Pa~1×10-2Pa
プレス圧力 :15~50MPa、好ましくは25~50MPa
プレス時間 :最高温度到達後60~180分、好ましくは最高温度到達後120~180分
保持時間 :120~240分、好ましくは120~180分
保持時間とは所定のプレス温度に到達した後、当該プレス温度を維持する時間である。
【0053】
(機械加工工程)
ホットプレス後、プレス品を機械加工によって所望の形状に機械加工することにより、タングステンシリサイドターゲット部材が得られる。
【0054】
[3.タングステンシリサイド膜の製造方法]
本実施形態に係るタングステンシリサイド膜の製造方法は、上述した本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材を用いてスパッタ装置によりスパッタリングする成膜工程を含む。タングステンシリサイド膜は、LSIの電極及び配線として用いられている。なお、タングステンシリサイド膜の膜厚については、使用用途に応じて適宜変更してもよい。
【実施例
【0055】
本発明を実施例、比較例に基づいて具体的に説明する。以下の実施例、比較例の記載は、あくまで本発明の技術的内容の理解を容易とするための具体例であり、本発明の技術的範囲はこれらの具体例によって制限されるものではない。以下の説明において、酸素濃度は、すべて不活性ガス溶融-赤外線吸収法を採用した酸素分析計(LECO社製、TC600)によって測定した。また、BET値は、比表面積測定装置(マウンテック社製、Macsorb(登録商標) HM model-1201)を用いて、使用ガスをHe-N2ガスとし、冷媒を-196℃の液体窒素とし、前処理条件を200℃にて0.5時間加熱とし、測定相対圧力を0.05<P/P0<0.3として、吸着等温線を得た。そして、得られた吸着等温線からBET法によりBET値を算出した。なお、メジアン径D50は、累積体積が50%となる時の粒子径で示される。
【0056】
(実施例1)
まず、市販品のW原料粉末としては、BET値が0.75~0.85m2/g、純度5NのW粉末を用意した。また、市販品のSi原料粉末としては、BET値が1.8~2.0m2/gを用意した。
【0057】
次に、W粉末とSi粉末とをW:Si=1:2.7となる原子比でミルにて混合し、合成炉でタングステンシリサイド(WSix)の合成を行った。合成条件は、5×10-4Torrまで真空排気した後、1250~1390℃で1~5時間反応を行った。反応終了後、炉内を放冷し、50℃まで下がった時点で炉から取り出し、WSi2相及びSi相が合体して個々の粒子を形成した混合粉末を得た。得られた混合粉末を不活性ガス雰囲気下、ジェットミルで処理し、粉砕後の粒子のメジアン径D50が4.9μm以下となるように分級処理した。その結果、表1に示すように、粉砕後の粒子の特性を得た。なお、粉砕後の粒子のメジアン径D50については、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(HORIBA製、Partica mini LA-350)にて超純水中に超音波によって分散測定により算出した。
【0058】
得られた粉砕後の混合粉末をカーボン製ダイスに投入し、ホットプレスを行った。ホットプレスの条件は、以下の通りとした。
<ホットプレス条件>
プレス温度:1370℃
雰囲気 :1×10-1~1×10-2Paの真空
プレス圧力:29.4MPa
プレス時間:最高温度到達後60分~180分
保持時間 :140分
保持時間とは、所定のプレス温度に到達した後、当該プレス温度を維持する時間である。
【0059】
ホットプレス後、プレス品を取り出し、機械加工によってφ164mm×厚み5mmの円盤状タングステンシリサイドターゲット部材に仕上げた。当該ターゲットのスパッタ面の面積は211cm2である。なお、得られたタングステンシリサイドターゲット部材の酸素濃度を表2に示す。
【0060】
(相対密度)
まず、得られたタングステンシリサイドターゲット部材の実密度ρrをアルキメデスの原理により密度を算出した。次に、W/Siの組成からSi相とWSi2相の二相状態を仮定した場合、そのSi相とWSi2相の密度と存在比率から算出される理論密度ρtを算出した。そして、タングステンシリサイドターゲット部材の理論密度ρtに対するタングステンシリサイドターゲット部材の実密度ρrの相対密度(ρr/ρt)を算出した。
【0061】
(平均抗折強度、ワイブル係数)
平均抗折強度は、引張圧縮試験機(株式会社今田製作所、SV-201NA-50SL)を用い、φ460mm×厚み10mmの円盤状タングステンシリサイドターゲット部材について、図2に示すように、5箇所の抗折強度を測定し、その平均値を算出した。また、ワイブル係数の測定は、図2に示した5箇所の抗折強度を利用して「JIS R1625:2010 ファインセラミックスの強さデータのワイブル統計解析法」として規定された日本工業規格に従った。まず、上記抗折強度を測定した合計5箇所について、X軸とY軸とを下記式1~3に沿って、プロットを取って最小二乗法にて直線を引いた。次に、その直線の傾きからワイブル係数を算出した。
X=logσmax・・・(式1)
Y=ln(ln(1/(1-F(t))))・・・(式2)
F(t)=(t-0.3/(N+0.4))・・・(式3)
σmax:最大抗折強度
ln:自然対数
t:強度の順位を示すランク
N:サンプル数
【0062】
(Si粒の面積比と平均面積)
得られたタングステンシリサイドターゲット部材のスパッタ面について、走査電子顕微鏡(JEOL製、JSM-7000F)を用いて組織像観察を行った。その結果、図3に示すSEM観察組織像を得た。次に、このSEM観察組織像については、画像解析ソフト(株式会社ニコン、NIS-Element D)を用いて、Si粒1個ずつの面積を規定した。そして、Si粒の総面積S1を算出し、Si粒1個当たりの面積が63.6μm2以上であるSi粒の総面積I1を算出した。そして、S1に対するI1の面積比I1/S1(%)を算出した。また、上記SEM観察組織像内における、Si粒1個当たりの平均面積を算出した。
【0063】
(WSi2粒の面積比と平均面積と粒径)
得られたタングステンシリサイドターゲット部材のスパッタ面について、EBSDを用いて組織像観察を行った。その結果、図4(A)に示すSEM観察組織像を得た。次に、このSEM観察組織像については、EBSD用解析ソフトを用いて、図4(B)及び(C)に示すEBSD観察組織像を得た。この上記EBSD観察組織像(図4(B)参照)内において、WSi2粒1個ずつの面積を規定した。そして、WSi2粒の総面積S2を算出し、WSi2粒1個当たりの面積が63.6μm2以上であるWSi2粒の総面積I2を算出した。そして、S2に対するI2の面積比I2/S2(%)を算出した。また、上記EBSD観察組織像(図4(B)参照)内における、WSi2粒1個当たりの平均面積を算出した。更に、WSi2粒(図4(B)参照)及びSi粒(図4(C)参照)のメジアン径D50を当該EBSD用解析ソフトからそれぞれ算出した。
【0064】
(パーティクル数)
得られたタングステンシリサイドターゲット部材を用いて以下のスパッタリング条件でφ300mmシリコンウェハ上にタングステンシリサイド膜を成膜し、パーティクルカウント装置(KLA-Tencor社製、SP5)を使用してシリコンウェハ上の大きさ0.060μm以上のパーティクルの数を計測した。ここで、大きさ0.060μm以上のパーティクルというのは、シリコンウェハ上に仮想的に描いたパーティクルを取り囲むことのできる最小円の直径が0.060μm以上であることを指す。その結果を、表2に示す。
<スパッタリング条件>
スパッタ装置:キヤノンアネルバ社製C7100GT
入力 :300W
基板温度 :300℃
到達真空度 :1×10-6Torr
スパッタガス:Ar
ガス流量 :40sccm
膜厚 :50nm
【0065】
(実施例2)
表1に示すように、ホットプレス条件についてプレス圧力を16.2MPaにしたこと以外、実施例1と同様にタングステンシリサイドターゲット部材を得た。得られたタングステンシリサイドターゲット部材の各特性評価及びスパッタ試験を実施した。その結果を、表2に示す。
【0066】
(実施例3)
表1に示すように、原料粉末としては市販品のW粉末(BET値:0.15~0.20m2/g)及びSi粉末(BET値:1.8~2.0m2/g)を用意し、ホットプレス条件についてプレス圧力を16.2MPaにしたこと以外、実施例1と同様にタングステンシリサイドターゲット部材を得た。得られたタングステンシリサイドターゲット部材の各特性評価及びスパッタ試験を実施した。その結果を、表2に示す。
【0067】
(実施例4)
表1に示すように、原料粉末としては市販品のW粉末(BET値:0.15~0.20m2/g)及びSi粉末(BET値:1.8~2.0m2/g)を用意したこと以外、実施例1と同様にタングステンシリサイドターゲット部材を得た。得られたタングステンシリサイドターゲット部材の各特性評価及びスパッタ試験を実施した。その結果を、表2に示す。
【0068】
(比較例1)
表1に示すように、原料粉末としては市販品のW粉末(BET値:0.15~0.20m2/g)及びSi粉末(BET値:1.8~2.0m2/g)を用意し、ホットプレス条件についてプレス圧力を16.2MPaにしたこと以外、実施例1と同様にタングステンシリサイドターゲット部材を得た。得られたタングステンシリサイドターゲット部材の各特性評価及びスパッタ試験を実施した。その結果を、表2に示す。
【0069】
(比較例2)
表1に示すように、シリサイド反応で得られたWSi2粉末とSi粉末との混合粉末を更に脱酸熱処理したこと以外、比較例1と同様にタングステンシリサイドターゲット部材を得た。得られたタングステンシリサイドターゲット部材の各特性評価及びスパッタ試験を実施した。その結果を、表2に示す。
【0070】
(比較例3)
表1に示すように、ホットプレスで得られた焼結体を熱間等方圧加圧加工(HIP、昇温雰囲気:アルゴン雰囲気、圧力:150MPa、保持温度:1370℃、保持時間:2hour)で再焼結させたこと以外、比較例1と同様にタングステンシリサイドターゲット部材を得た。得られたタングステンシリサイドターゲット部材の各特性評価及びスパッタ試験を実施した。その結果を、表2に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
実施例1~4で得られたタングステンシリサイドターゲット部材は、WSixの組成、Si粒の面積、及び抗折強度のワイブル係数をそれぞれ制御することにより、スパッタ時のパーティクルが効率的に低減できることを確認した。中でも、実施例1~2で得られたタングステンシリサイドターゲット部材のスパッタ面におけるWSi2粒には、面積63.6μm2以上のものがほとんど確認されず(0.1%以下)、Si粒の平均面積も小さかった(2.5μm2未満)ので、これらのタングステンシリサイドターゲット部材は、パーティクル数を更に効率的に低減できることを確認した。
【符号の説明】
【0074】
S101 微細化工程
S102 調製工程
S103 粉砕工程
S104 焼結工程
S105 機械加工工程
【0075】
なお、本発明は以下の発明も包含するものとする。
[1]
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材においては、WSi2相とSi相との二相構造を有するタングステンシリサイドターゲット部材であって、原子比における組成式がWSix(ただし、X>2.0である。)で表され、スパッタ面を観察したときに、前記Si相を構成するSi粒の総面積S1に対する、該Si粒1個当たりの面積が63.6μm2以上である前記Si粒の総面積I1の比(I1/S1)が、5%以下であり、抗折強度のワイブル係数が、2.1以上である。
[2]
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材においては、スパッタ面を観察したときに、前記WSi2相を構成するWSi2粒の総面積S2に対する、該WSi2粒1個当たりの面積が63.6μm2以上である前記WSi2粒の総面積I2の比(I2/S2)が、5%以下である。
[3]
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材においては、スパッタ面を観察したときに、前記WSi2相を構成するWSi2粒の総面積S2に対する、該WSi2粒1個当たりの面積が63.6μm2以上である前記WSi2粒の総面積I2の比(I2/S2)が、0.1%以下である。
[4]
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材においては、スパッタ面を観察したときに、WSi2粒1個当たりの平均面積が6.0μm2以下である。
[5]
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材においては、前記WSi2粒1個当たりの平均面積が3.0μm2以上である。
[6]
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材においては、スパッタ面を観察したときに、Si粒1個当たりの平均面積が2.5μm2未満である。
[7]
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材においては、前記Si粒1個当たりの平均面積が1.2μm2以上である。
[8]
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材においては、平均抗折強度が250MPa以上である。
[9]
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材においては、酸素濃度が、700質量ppm以上である。
[10]
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材においては、相対密度が99.9%以上である。
[11]
また、本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材の製造方法においては、上述したタングステンシリサイドターゲット部材を製造するタングステンシリサイドターゲット部材の製造方法であって、Si/Wの原子比が2.0より大きくなるようにW粉末及びSi粉末を配合してシリサイド反応させることを含む、WSi2相とSi相とが合体して個々の粒子を形成した混合粉末を調製する調製工程と、前記混合粉末を粉砕する粉砕工程と、粉砕後の混合粉末をホットプレス焼結して焼結体を得る焼結工程とを含む。
[12]
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材の製造方法においては、前記W粉末のBET値は、1.0m2/g以下である。
[13]
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材の製造方法においては、前記Si粉末のBET値は、2.5m2/g以下である。
[14]
本実施形態に係るタングステンシリサイドターゲット部材の製造方法においては、前記粉砕工程では、粉砕後の粒子のBET値が1.0m2/g以下となるように前記混合粉末を粉砕する。
[15]
更に、本実施形態に係るタングステンシリサイド膜の製造方法においては、上述したタングステンシリサイドターゲット部材を用いてスパッタリングする成膜工程を含む。
図1
図2
図3
図4