(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】回転電機制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20230427BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20230427BHJP
【FI】
H02P27/08
H02M7/48 F
H02M7/48 G
(21)【出願番号】P 2021566826
(86)(22)【出願日】2020-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2020036899
(87)【国際公開番号】W WO2021131203
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】P 2019239167
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019239166
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020110950
(32)【優先日】2020-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】サハ スブラタ
(72)【発明者】
【氏名】岩井 宏起
(72)【発明者】
【氏名】小坂 卓
(72)【発明者】
【氏名】松盛 裕明
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 尚登
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 悦申
(72)【発明者】
【氏名】藤原 勲
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/142877(WO,A1)
【文献】特開2019-170109(JP,A)
【文献】特開2019-47587(JP,A)
【文献】特開2017-77061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに独立した複数相のオープン巻線を有する回転電機を、第1インバータ及び第2インバータを介して駆動制御する回転電機制御装置であって、
前記第1インバータは、複数相の前記オープン巻線の一端側に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換し、
前記第2インバータは、複数相の前記オープン巻線の他端側に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換し、
前記第1インバータと前記第2インバータとのそれぞれを、スイッチングパターンが異なる複数の制御方式により制御可能であると共に、互いに独立した前記制御方式で制御可能であり、
前記回転電機の制御領域として、第1速度域と、同じトルクにおける前記回転電機の回転速度が前記第1速度域よりも高い第2速度域とが設定され、
前記制御方式には、電気角の一周期においてパターンの異なる複数のパルスが出力されるパルス幅変調制御と、電気角の1/2周期である第1期間においてパターンの異なる複数のパルスが出力され、残りの1/2周期である第2期間において非有効状態が継続するように制御される混合パルス幅変調制御とが含まれ、
前記第2速度域において、前記第1インバータ及び前記第2インバータの双方のインバータを、前記混合パルス幅変調制御により制御する、回転電機制御装置。
【請求項2】
前記パルス幅変調制御は、指令値とキャリアとに基づいて複数のパルスが生成されるものであり、
前記混合パルス幅変調制御は、前記指令値の変域の1/2の波高の前記キャリアであるハーフキャリアと前記指令値とに基づいて複数のパルスを生成するものであり、
前記混合パルス幅変調制御は、
前記ハーフキャリアとして前記指令値の振幅中心よりも高電圧側又は低電圧側の一方に設定された第1ハーフキャリアと前記第1インバータ及び第2インバータに共通する前記指令値とに基づいて前記第1インバータ用のパルスを生成し、前記第1ハーフキャリアと同じ位相で前記指令値の振幅中心よりも高電圧側又は低電圧側の他方に設定された第2ハーフキャリアと前記指令値とに基づいて前記第2インバータ用のパルスを生成するダブルハーフキャリア・シングルリファレンス方式、或いは、
前記ハーフキャリアとして前記指令値の振幅中心よりも高電圧側又は低電圧側の一方に設定された第1ハーフキャリアと前記第1インバータ用の第1指令値とに基づいて前記第1インバータ用のパルスを生成し、前記第1ハーフキャリアと180度異なる位相で前記第1ハーフキャリアと同じ側に設定された第2ハーフキャリアと前記第1指令値とは位相が180度異なる前記第2インバータ用の第2指令値とに基づいて前記第2インバータ用のパルスを生成するダブルハーフキャリア・ダブルリファレンス方式、により、複数のパルスを生成する、請求項1に記載の回転電機制御装置。
【請求項3】
前記第1インバータ及び前記第2インバータは、それぞれ交流1相分のアームが上段側スイッチング素子と下段側スイッチング素子との直列回路により構成され、
前記制御方式には、複数相全ての前記アームの前記上段側スイッチング素子をオン状態とする又は複数相全ての前記アームの前記下段側スイッチング素子をオン状態とするアクティブショートサーキット制御がさらに含まれ、
前記第1速度域において、前記第1インバータ及び前記第2インバータの一方の前記インバータを前記アクティブショートサーキット制御により制御し、他方の前記インバータを前記パルス幅変調制御により制御する対象第1速度域制御を実行する、請求項1又は2に記載の回転電機制御装置。
【請求項4】
前記第1速度域において、前記第1インバータを制御する前記制御方式と前記第2インバータを制御する前記制御方式とを、予め規定された条件に従って交互に入れ替える、請求項3に記載の回転電機制御装置。
【請求項5】
前記パルス幅変調制御には、前記制御方式として、複数相の前記アームの全てについて連続的にパルス幅変調を行う連続パルス幅変調制御と、複数相の一部の前記アームについてスイッチング素子をオン状態又はオフ状態に固定する期間を含んでパルス幅変調を行う不連続パルス幅変調制御とが含まれ、
前記第1速度域内における低速度側の低速度側第1速度域では、前記第1インバータ及び前記第2インバータの一方の前記インバータを前記アクティブショートサーキット制御により制御し、他方の前記インバータを前記連続パルス幅変調制御により制御し、
前記第1速度域内における高速度側の高速度側第1速度域では、前記第1インバータ及び前記第2インバータの一方の前記インバータを前記アクティブショートサーキット制御により制御し、他方の前記インバータを前記不連続パルス幅変調制御により制御する請求項3又は4に記載の回転電機制御装置。
【請求項6】
前記第1速度域において、前記第1インバータ及び前記第2インバータの双方のインバータを、前記混合パルス幅変調制御により制御する対象第1速度域制御を実行する、請求項1又は2に記載の回転電機制御装置。
【請求項7】
前記回転電機の制御モードとして、損失低減優先モードと、ノイズ低減優先モードとを切り替え可能に備え、
前記損失低減優先モードでは、前記第1速度域において、前記対象第1速度域制御を実行し、
前記ノイズ低減優先モードでは、前記第1速度域において、前記第1インバータ及び前記第2インバータの双方の前記インバータを前記パルス幅変調制御により制御する代替第1速度域制御を、前記対象第1速度域制御に代えて実行する、請求項3から6の何れか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項8】
前記第1インバータ及び前記第2インバータは、それぞれ交流1相分のアームが上段側スイッチング素子と下段側スイッチング素子との直列回路により構成され、
前記混合パルス幅変調制御には、前記第2期間において非有効状態が継続するように制御すると共に前記第1期間において複数相の前記アームの全てについて連続的にパルス幅変調を行う混合連続パルス幅変調制御と、前記第2期間において非有効状態が継続するように制御すると共に前記第1期間において複数相の一部の前記アームについてスイッチング素子をオン状態又はオフ状態に固定する期間を含んでパルス幅変調を行う混合不連続パルス幅変調制御とが含まれ、
前記第2速度域内における低速度側の低速度側第2速度域では、前記第1インバータ及び前記第2インバータの双方の前記インバータを前記混合連続パルス幅変調制御により制御し、
前記第2速度域内における高速度側の高速度側第2速度域では、前記第1インバータ及び前記第2インバータの双方の前記インバータを前記混合不連続パルス幅変調制御により制御する、請求項1から7の何れか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項9】
前記制御方式として、複数相の一部の前記アームについてスイッチング素子をオン状態又はオフ状態に固定する期間を含んでパルス幅変調を行う不連続パルス幅変調制御が含まれ、
前記高速度側第2速度域において、前記混合不連続パルス幅変調制御に代えて、前記第1インバータ及び前記第2インバータの双方の前記インバータを前記不連続パルス幅変調制御により制御する、請求項8に記載の回転電機制御装置。
【請求項10】
前記第1速度域及び前記第2速度域において、予め規定されたトルクである規定トルク以上の高トルク領域では、前記第1インバータ及び前記第2インバータの双方のインバータを前記パルス幅変調制御により制御し、前記規定トルク未満の低トルク領域では、前記第1インバータ及び前記第2インバータの双方のインバータを前記混合パルス幅変調制御により制御する、請求項6に記載の回転電機制御装置。
【請求項11】
前記第1インバータ及び前記第2インバータは、それぞれ交流1相分のアームが上段側スイッチング素子と下段側スイッチング素子との直列回路により構成され、
前記パルス幅変調制御には、前記制御方式として、複数相の前記アームの全てについて連続的にパルス幅変調を行う連続パルス幅変調制御と、複数相の一部の前記アームについてスイッチング素子をオン状態又はオフ状態に固定する期間を含んでパルス幅変調を行う不連続パルス幅変調制御とが含まれ、
前記混合パルス幅変調制御には、前記第2期間において非有効状態が継続するように制御すると共に前記第1期間において複数相の前記アームの全てについて連続的にパルス幅変調を行う混合連続パルス幅変調制御と、前記第2期間において非有効状態が継続するように制御すると共に前記第1期間において複数相の一部の前記アームについてスイッチング素子をオン状態又はオフ状態に固定する期間を含んでパルス幅変調を行う混合不連続パルス幅変調制御とが含まれ、
前記第2速度域内における低速度側の領域を低速度側第2速度域とし、前記第2速度域内における高速度側の領域を高速度側第2速度域として、
前記第1速度域及び前記低速度側第2速度域における前記低トルク領域では、前記第1インバータ及び前記第2インバータの双方の前記インバータを前記混合連続パルス幅変調制御により制御し、
前記高速度側第2速度域における前記低トルク領域では、前記第1インバータ及び前記第2インバータの双方の前記インバータを前記混合不連続パルス幅変調制御により制御し、
前記第1速度域における前記高トルク領域では、前記第1インバータ及び前記第2インバータの双方の前記インバータを前記連続パルス幅変調制御により制御し、
前記第2速度域における前記高トルク領域では、前記第1インバータ及び前記第2インバータの双方の前記インバータを前記不連続パルス幅変調制御により制御する、請求項10に記載の回転電機制御装置。
【請求項12】
それぞれの制御領域の境界は、前記回転電機のトルクに応じた前記回転電機の回転速度と、直流バス電圧に対する複数相の交流電圧の線間電圧の実効値の割合と、の少なくとも一方に応じて設定されている、請求項1から11の何れか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項13】
前記制御方式として、電気角の一周期において1つのパルスが出力される矩形波制御をさらに備え、
同じトルクにおける前記回転電機の回転速度が前記第2速度域よりも高い第3速度域がさらに設定され、
前記第3速度域において、前記第1インバータ及び前記第2インバータの双方の前記インバータを前記矩形波制御により制御する、請求項1から12の何れか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項14】
互いに独立した複数相のオープン巻線を有する回転電機を、第1インバータ及び第2インバータを介して駆動制御する回転電機制御装置であって、
前記第1インバータは、複数相の前記オープン巻線の一端側に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換し、
前記第2インバータは、複数相の前記オープン巻線の他端側に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換し、
前記第1インバータ及び前記第2インバータは、それぞれ交流1相分のアームが上段側スイッチング素子と下段側スイッチング素子との直列回路により構成され、
前記第1インバータ及び前記第2インバータの制御方式として、電気角の一周期においてパターンの異なる複数のパルスが出力されるパルス幅変調制御と、複数相全ての前記アームの前記上段側スイッチング素子をオン状態とする又は複数相全ての前記アームの前記下段側スイッチング素子をオン状態とするアクティブショートサーキット制御とを少なくとも備えると共に、前記パルス幅変調制御には、前記制御方式として、複数相の前記アームの全てについて連続的にパルス幅変調を行う連続パルス幅変調制御と、複数相の一部の前記アームについてスイッチング素子をオン状態又はオフ状態に固定する期間を含んでパルス幅変調を行う不連続パルス幅変調制御とが含まれ、
前記第1インバータと前記第2インバータとのそれぞれを、互いに独立した前記制御方式で制御可能であり、
前記回転電機の制御領域として、第1速度域と、同じトルクにおける前記回転電機の回転速度が前記第1速度域よりも高い第2速度域と、同じトルクにおける前記回転電機の回転速度が前記第2速度域よりも高い第3速度域とが設定され、
前記第1速度域において、前記第1インバータ及び前記第2インバータの一方のインバータを前記アクティブショートサーキット制御により制御し、他方の前記インバータを前記連続パルス幅変調制御により制御し、
前記第2速度域において、前記第1インバータ及び前記第2インバータの一方の前記インバータを前記アクティブショートサーキット制御により制御し、他方の前記インバータを前記不連続パルス幅変調制御により制御し、
前記第3速度域において、前記第1インバータ及び前記第2インバータの双方の前記インバータを前記不連続パルス幅変調制御により制御する対象制御を実行する、回転電機制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オープン巻線を有する回転電機を、2つのインバータを介して駆動制御する回転電機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
V. Oleschukらによる2007年発表のIEEEの論文「Dual Inverter-Fed Traction Drive with DC Sources Power Balancing Based on Synchronized PWM」には、3相交流型の回転電機が備える3相オープン巻線の両端にそれぞれ1つずつ備えられたインバータをスイッチング制御して回転電機を駆動制御する制御装置が開示されている。一方、良く知られた形態として、例えば3相の巻線のそれぞれの一端側が接続されたY型巻線の他端側に1つのインバータをスイッチング制御して回転電機を駆動制御するものもある。オープン巻線と2つのインバータを用いたシステムでは、Y型巻線と1つのインバータを用いたシステムに比べて、直流の電圧が同じであれば、巻線の交流電圧の線間電圧を高くすることができ、回転電機をより高い出力で動作させることができる。
【0003】
V. Oleschukらの論文の前書き(Introduction)には、2つのインバータをスイッチング制御するためのパルスを生成するキャリア信号の位相をそれぞれ異ならせることによって、巻線に流れる電流のリップルの大きさを低減できることが記載されている。V. Oleschukらは、さらに、キャリア信号を用いた非同期方式ではなく、同期方式でパルスを生成することで、中/高出力のアプリケーションにも、より適した制御が可能となることに言及している。但し、非同期方式、同期方式の何れにおいても、2つのインバータは、常に同じ制御方式でスイッチング制御されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】V. Oleschuk、R. Bojoi、G. Griva、F. Profumo、“Dual Inverter-Fed Traction Drive with DC Sources Power Balancing Based on Synchronized PWM”、Conference Paper/June 2007、1-4244-0743-5/07、IEEE、p.260-265
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スイッチング制御の方式は、回転電機に要求されるトルクや、回転速度、直流側の電圧など、種々の要素(動作条件)によって、より高いシステム効率での動作が可能なように、決定されることが好ましい。V. Oleschukらの技術は優れたものであるが、オープン巻線の両端にそれぞれ備えられた2つのインバータを適切に制御する上では、まだ改善の余地がある。
【0006】
上記背景に鑑みて、オープン巻線の両端にそれぞれ備えられた2つのインバータを適切に制御する技術の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記に鑑みた、互いに独立した複数相のオープン巻線を有する回転電機を、第1インバータ及び第2インバータを介して駆動制御する回転電機制御装置は、1つの態様として、前記第1インバータが、複数相の前記オープン巻線の一端側に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換し、前記第2インバータが、複数相の前記オープン巻線の他端側に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換し、前記第1インバータと前記第2インバータとのそれぞれを、スイッチングパターンが異なる複数の制御方式により制御可能であると共に、互いに独立した前記制御方式で制御可能であり、前記回転電機の制御領域として、第1速度域と、同じトルクにおける前記回転電機の回転速度が前記第1速度域よりも高い第2速度域とが設定され、前記制御方式には、電気角の一周期においてパターンの異なる複数のパルスが出力されるパルス幅変調制御と、電気角の1/2周期である第1期間においてパターンの異なる複数のパルスが出力され、残りの1/2周期である第2期間において非有効状態が継続するように制御される混合パルス幅変調制御とが含まれ、前記第2速度域において、前記第1インバータ及び前記第2インバータの双方のインバータを、前記混合パルス幅変調制御により制御する。
【0008】
混合パルス幅変調制御は、電気角の1周期の間におおよそ半周期ずつ、パルス幅変調される期間と、無変調(固定状態)の期間とを組み合わせた制御方式である。つまり、インバータは駆動時間のおおよそ1/2の期間において、スイッチング動作を行わないため、スイッチング損失が低減され、システム損失が低減される。混合パルス幅変調制御が実行される第2速度域は、同じトルクにおいて第1速度域よりも高速度側に設定されており、相対的に中速度・高速度側の制御領域である。本構成によれば、回転電機の全動作領域の中で、相対的に中速度・高速度側の制御領域におけるシステム損失を低減することで、全動作領域における全体のシステム損失を低減することができる。このように、本構成によれば、オープン巻線の両端にそれぞれ備えられた2つのインバータを適切に制御することができる。
【0009】
また、上記に鑑みた、互いに独立した複数相のオープン巻線を有する回転電機を、第1インバータ及び第2インバータを介して駆動制御する回転電機制御装置は、別の1つの態様として、前記第1インバータが、複数相の前記オープン巻線の一端側に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換し、前記第2インバータが、複数相の前記オープン巻線の他端側に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換し、前記第1インバータ及び前記第2インバータが、それぞれ交流1相分のアームが上段側スイッチング素子と下段側スイッチング素子との直列回路により構成され、前記第1インバータ及び前記第2インバータの制御方式として、電気角の一周期においてパターンの異なる複数のパルスが出力されるパルス幅変調制御と、複数相全ての前記アームの前記上段側スイッチング素子をオン状態とする又は複数相全ての前記アームの前記下段側スイッチング素子をオン状態とするアクティブショートサーキット制御とを少なくとも備えると共に、前記パルス幅変調制御には、前記制御方式として、複数相の前記アームの全てについて連続的にパルス幅変調を行う連続パルス幅変調制御と、複数相の一部の前記アームについてスイッチング素子をオン状態又はオフ状態に固定する期間を含んでパルス幅変調を行う不連続パルス幅変調制御とが含まれ、前記第1インバータと前記第2インバータとのそれぞれを、互いに独立した前記制御方式で制御可能であり、前記回転電機の制御領域として、第1速度域と、同じトルクにおける前記回転電機の回転速度が前記第1速度域よりも高い第2速度域と、同じトルクにおける前記回転電機の回転速度が前記第2速度域よりも高い第3速度域とが設定され、前記第1速度域において、前記第1インバータ及び前記第2インバータの一方のインバータを前記アクティブショートサーキット制御により制御し、他方の前記インバータを前記連続パルス幅変調制御により制御し、前記第2速度域において、前記第1インバータ及び前記第2インバータの一方の前記インバータを前記アクティブショートサーキット制御により制御し、他方の前記インバータを前記不連続パルス幅変調制御により制御し、前記第3速度域において、前記第1インバータ及び前記第2インバータの双方の前記インバータを前記不連続パルス幅変調制御により制御する対象制御を実行する。
【0010】
本構成のように、2つのインバータを備えている場合には、それぞれのインバータの直流側の電圧よりも大きい振幅の交流電圧を生成することができる。但し、回転電機制御装置は、常に交流の振幅が大きくなるように2つのインバータを制御する必要はなく、例えば回転電機の回転速度が低速の場合には、1つのインバータによって生成可能な交流電圧を生成すれば充分な場合がある。本構成によれば、第1速度域及び第2速度域においては、2つのインバータの内の一方のインバータが、アクティブショートサーキット制御により制御される。これにより、オープン巻線同士が当該一方のインバータにおいて短絡されて、回転電機は、ステータコイルが電気的中性点を有する回転電機と同様になる。つまり、実質的に2つのインバータの内、1つのインバータのみで回転電機を駆動することになる。アクティブショートサーキット制御により制御されるインバータはスイッチング動作をしないので、システム全体の損失を抑制しつつ回転電機を駆動することができる。また、第2速度域で実行される不連続パルス幅変調制御による最大変調率は、第1速度域で実行される連続パルス幅変調制御の最大変調率よりもが大きい。第2速度域は、同じトルクにおいて第1速度域よりも回転電機の回転速度が高い制御領域であり、システム効率の観点からは第2速度域では第1速度域よりも高い変調率で変調されることが好ましい。第1速度域において連続パルス幅変調制御を行い、第2速度域において不連続パルス幅変調制御を行うことによって、第1速度域と第2速度域とを合わせた制御領域において、1つのインバータによって適切に回転電機を駆動することができる。また、回転電機の回転速度が第2速度域よりも高い第3速度域では、双方のインバータが不連続パルス幅変調制御により制御されるので、オープン巻線に、1つの直流電源から生成可能な電圧よりも高い線間電圧を発生させて回転電機を駆動することができる。このように、本構成によれば、オープン巻線の両端にそれぞれ備えられた2つのインバータを適切に制御することができる。
【0011】
回転電機制御装置のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】2つのインバータを用いた回転電機駆動システムのベクトル図
【
図4】直行ベクトル空間における回転電機の模式的電圧ベクトル図
【
図8】第2速度域(低速度側第2速度域)での電圧指令及びスイッチング制御信号の一例を示す波形図
【
図9】高速度側第2速度域での電圧指令及びスイッチング制御信号の例を示す波形図
【
図10】第2速度域(低速度側第2速度域)での電圧指令及びスイッチング制御信号の他の例を示す波形図
【
図11】高速度側第2速度域での電圧指令及びスイッチング制御信号の他の例を示す波形図
【
図12】第1速度域(低速度側第1速度域)での電圧指令及びスイッチング制御信号の一例を示す波形図
【
図13】高速度側第1速度域での電圧指令及びスイッチング制御信号の例を示す波形図
【
図14】第3速度域での電圧指令及びスイッチング制御信号の他の例を示す波形図
【
図15】高速度側第2速度域での電圧指令及びスイッチング制御信号の他の例を示す波形図
【
図16】ノイズ低減優先モードでの第1速度域における電圧指令及びスイッチング制御信号の一例を示す波形図
【
図17】第1速度域で2インバータシステムの双方のインバータに対して混合連続パルス幅変調制御が実行された場合の例を示す図
【
図18】第1速度域で2インバータシステムの双方のインバータに対して連続パルス幅変調制御が実行された場合の例を示す図
【
図19】第1速度域で1インバータシステムに対して連続パルス幅変調制御が実行された場合の例を示す図
【
図20】1インバータシステムの回転電機の制御領域の一例を示す図
【
図21】1インバータシステムと2インバータシステムとのスイッチング制御信号及び線間電圧の比較例、2インバータシステムにおける異なる制御方式間でのスイッチング制御信号及び線間電圧の比較例を示す図
【
図22】1インバータシステムと2インバータシステムとの相電流の比較例、2インバータシステムにおける異なる制御方式間での相電流の比較例を示す図
【
図23】1インバータシステムと2インバータシステムとの相電流のキャリア周波数を中心周波数としたFFT解析結果の比較例、2インバータシステムにおける異なる制御方式間での相電流のキャリア周波数を中心周波数としたFFT解析結果の比較例を示す図
【
図24】1インバータシステムと2インバータシステムとの相電流のキャリア周波数の2倍の周波数を中心周波数としたFFT解析結果の比較例、2インバータシステムにおける異なる制御方式間での相電流のキャリア周波数の2倍の周波数を中心周波数としたFFT解析結果の比較例を示す図
【
図25】1インバータシステムと2インバータシステムとの線間電圧のキャリア周波数を中心周波数としたFFT解析結果の比較例、2インバータシステムにおける異なる制御方式間での線間電圧のキャリア周波数を中心周波数としたFFT解析結果の比較例を示す図
【
図26】1インバータシステムと2インバータシステムとの線間電圧のキャリア周波数の2倍の周波数を中心周波数としたFFT解析結果の比較例、2インバータシステムにおける異なる制御方式間での線間電圧のキャリア周波数の2倍の周波数を中心周波数としたFFT解析結果の比較例を示す図
【
図27】比較例の2インバータシステムの回転電機の制御領域の一例を示す図
【
図28】1インバータシステムにおける不連続パルス幅変調制御実行時の波形例及びFFT解析結果例を示す図
【
図29】2インバータシステムにおける不連続パルス幅変調制御実行時の波形例及びFFT解析結果例を示す図
【
図30】2インバータシステムにおける混合連続パルス幅変調制御実行時の波形例及びFFT解析結果例を示す図
【
図31】1インバータシステムにおける回転電機の回転速度と可聴ノイズとの関係を示す図
【
図32】比較例の2インバータシステムにおける回転電機の回転速度と可聴ノイズとの関係を示す図
【
図33】2インバータシステムにおける回転電機の回転速度と可聴ノイズとの関係を示す図
【
図35】
図20及び
図34の第1動作点(Q1)における、1インバータシステムと、一般的なパルス幅変調制御を用いた2インバータシステムと、混合パルス幅変調制御を用いた2インバータシステムとの相電流波形、及び相電流のFFT解析結果の比較例を示す図
【
図36】第1動作点における、1インバータシステムと、一般的なパルス幅変調制御を用いた2インバータシステムと、混合パルス幅変調制御を用いた2インバータシステムとの直流バス電流波形、及び直流バス電流のFFT解析結果の比較例を示す図
【
図37】第1動作点における、1インバータシステムと、一般的なパルス幅変調制御を用いた2インバータシステムと、混合パルス幅変調制御を用いた2インバータシステムとのバッテリ電流波形、及びバッテリ電流のFFT解析結果の比較例を示す図
【
図38】第1動作点における、1インバータシステムと、一般的なパルス幅変調制御を用いた2インバータシステムと、混合パルス幅変調制御を用いた2インバータシステムとのコンデンサ電流波形、及びコンデンサ電流のFFT解析結果の比較例を示す図
【
図39】第1動作点における、1インバータシステムと、一般的なパルス幅変調制御を用いた2インバータシステムと、混合パルス幅変調制御を用いた2インバータシステムとの直流バス電圧リップル波形、及び直流バス電圧リップルのFFT解析結果の比較例を示す図
【
図40】
図20及び
図34の第2動作点(Q2)における、1インバータシステムと、一般的なパルス幅変調制御を用いた2インバータシステムと、混合パルス幅変調制御を用いた2インバータシステムとの相電流、及び相電流のFFT解析結果の比較例を示す図
【
図41】第2動作点における、1インバータシステムと、一般的なパルス幅変調制御を用いた2インバータシステムと、混合パルス幅変調制御を用いた2インバータシステムとの直流バス電流波形、及び直流バス電流のFFT解析結果の比較例を示す図
【
図42】第2動作点における、1インバータシステムと、一般的なパルス幅変調制御を用いた2インバータシステムと、混合パルス幅変調制御を用いた2インバータシステムとのバッテリ電流波形、及びバッテリ電流のFFT解析結果の比較例を示す図
【
図43】第2動作点における、1インバータシステムと、一般的なパルス幅変調制御を用いた2インバータシステムと、混合パルス幅変調制御を用いた2インバータシステムとのコンデンサ電流波形、及びコンデンサ電流のFFT解析結果の比較例を示す図
【
図44】第2動作点における、1インバータシステムと、一般的なパルス幅変調制御を用いた2インバータシステムと、混合パルス幅変調制御を用いた2インバータシステムとの直流バス電圧リップル波形、及び直流バス電圧リップルのFFT解析結果の比較例を示す図
【
図45】直流リンクコンデンサに流れる直流バス電流のリップルを考慮していない場合の、制御方式を選択する手順の一例を示すフローチャート
【
図46】直流リンクコンデンサに流れる直流バス電流のリップルを考慮した場合の、制御方式を選択する手順の一例を示すフローチャート
【
図47】直流リンクコンデンサに流れる直流バス電流のリップルを考慮した場合の、制御方式を選択する手順の他の例を示すフローチャート
【
図48】第2実施形態の回転電機の制御領域の一例を示す図
【
図49】第2実施形態の回転電機の制御領域の他の例を示す図
【
図50】第2実施形態と比較する1インバータシステムの回転電機の制御領域の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、互いに独立した複数相のオープン巻線を有する回転電機を、2つのインバータを介して駆動制御する回転電機制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、回転電機制御装置1(MG-CTRL)を含む回転電機駆動システムの模式的ブロック図である。回転電機80は、例えば、電気自動車やハイブリッド自動車などの車両において車輪の駆動力源となるものである。回転電機80は、互いに独立した複数相(本実施形態では3相)のステータコイル8(オープン巻線)を有するオープン巻線型の回転電機である。ステータコイル8の両端には、それぞれ独立して制御されて直流と複数相(ここでは3相)の交流との間で電力を変換するインバータ10が1つずつ接続されている。つまり、ステータコイル8の一端側には第1インバータ11(INV1)が接続され、ステータコイル8の他端側には第2インバータ12(INV2)が接続されている。以下、第1インバータ11と第2インバータ12とを区別する必要がない場合には単にインバータ10と称して説明する。
【0014】
インバータ10は、複数のスイッチング素子3を有して構成される。スイッチング素子3には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)が用いられる。
図1には、スイッチング素子3としてIGBTが用いられる形態を例示している。本実施形態では、第1インバータ11と第2インバータ12とは、同じ種類のスイッチング素子3を用いた同じ回路構成のインバータ10である。しかし、第1インバータ11と第2インバータ12とは、異なる種類のスイッチング素子3を用いて構成されていてもよい。
【0015】
例えば、表1~表6を参照して後述するように、2つのインバータ10を異なる制御方式で制御するような制御モードがある場合(後述する第1速度域VR1における制御の場合など)には、それぞれの制御方式の特性に応じて、第1インバータ11と第2インバータ12とが、異なる種類のスイッチング素子3を用いて構成されていることも好適である。例えば、第1インバータ11が実質的に短絡されてスイッチング制御されないケースがあるような場合には、第2インバータ12を構成する第2スイッチング素子32が、第1インバータ11を構成する第1スイッチング素子31に比べて、オフ状態とオン状態との間での遷移時のスイッチング損失が相対的に小さいスイッチング素子であると好適である。例えば、第1インバータ11の第1スイッチング素子31としてSi-IGBTが用いられ、第2インバータ12の第2スイッチング素子32としてSiC-MOSFETが用いられる形態とすることができる。第1スイッチング素子31は、Si-IGBTの他、Si-MOSFETでもよい。また、第2スイッチング素子32は、SiC-MOSFETの他、SiC-SIT(SiC - Static Induction Transistor)、GaN-MOSFET(Gallium Nitride - MOSFET)などでもよい。
【0016】
2つのインバータ10は、それぞれ交流1相分のアーム3Aが上段側スイッチング素子3Hと下段側スイッチング素子3Lとの直列回路により構成されている。各スイッチング素子3には、負極FGから正極Pへ向かう方向(下段側から上段側へ向かう方向)を順方向として、並列にフリーホイールダイオード35が備えられている。また、本実施形態では、2つのインバータ10はそれぞれ独立した直流電源6に接続されている。つまり第1インバータ11の負極FGである第1フローティンググラウンドFG1と第2インバータ12の負極FGである第2フローティンググラウンドFG2とは、互いに独立している。また、インバータ10と直流電源6との間には、それぞれ直流バス電圧を平滑化する直流リンクコンデンサ4(平滑コンデンサ)が備えられている。
【0017】
具体的には、交流1相分のアーム3Aが第1上段側スイッチング素子31Hと第1下段側スイッチング素子31Lとの直列回路により構成された第1インバータ11は、直流側に第1直流リンクコンデンサ41(第1平滑コンデンサ)が接続されると共に、直流側が第1直流電源61に接続され、交流側が複数相のステータコイル8の一端側に接続されて、直流と複数相の交流との間で電力を変換する。交流1相分のアーム3Aが第2上段側スイッチング素子32Hと第2下段側スイッチング素子32Lとの直列回路により構成された第2インバータ12は、直流側に第2直流リンクコンデンサ42(第2平滑コンデンサ)が接続されると共に、直流側が第2直流電源62に接続され、交流側が複数相のステータコイル8の他端側に接続されて、直流と複数相の交流との間で電力を変換する。
【0018】
本実施形態では、第1直流電源61及び第2直流電源62は、電圧などの定格が同等の直流電源であり、第1直流リンクコンデンサ41及び第2直流リンクコンデンサも、容量などの定格が同等のコンデンサである。直流電源6の定格電圧は、48ボルトから400ボルト程度である。直流電源6は、例えば、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池(バッテリ)や、電気二重層キャパシタなどにより構成されている。回転電機80は、電動機としても発電機としても機能することができる。回転電機80は、インバータ10を介して直流電源6からの電力を動力に変換する(力行)。或いは、回転電機80は、車輪等から伝達される回転駆動力を電力に変換し、インバータ10を介して直流電源6を充電する(回生)。
【0019】
図1に示すように、インバータ10は、回転電機制御装置1により制御される。回転電機制御装置1は、第1インバータ11と第2インバータ12とのそれぞれを、互いに独立した制御方式で制御可能である(制御方式の詳細については後述する)。回転電機制御装置1は、マイクロコンピュータ等の論理回路を中核部材として構築されている。例えば、回転電機制御装置1は、不図示の車両制御装置等の他の制御装置等から提供される回転電機80の目標トルク(トルク指令)に基づいて、ベクトル制御法を用いた電流フィードバック制御を行って、インバータ10を介して回転電機80を制御する。
【0020】
回転電機80の各相のステータコイル8を流れる実電流は電流センサ15により検出され、回転電機80のロータの各時点での磁極位置は、レゾルバなどの回転センサ13により検出される。回転電機制御装置1は、電流センサ15及び回転センサ13の検出結果を用いて、電流フィードバック制御を実行する。回転電機制御装置1は、電流フィードバック制御のために種々の機能部を有して構成されており、各機能部は、マイクロコンピュータ等のハードウエアとソフトウエア(プログラム)との協働により実現される。
【0021】
図2のブロック図は、回転電機制御装置1の一部の機能部を簡易的に示している。ベクトル制御法では、回転電機80に流れる実電流(U相電流Iu,V相電流Iv,W相電流Iw)を、回転電機80のロータに配置された永久磁石が発生する磁界(磁束)の方向であるd軸と、d軸に直交する方向(磁界の向きに対して電気角でπ/2進んだ方向)のq軸とのベクトル成分(d軸電流Id,q軸電流Iq)に座標変換してフィードバック制御を行う。回転電機制御装置1は、回転センサ13の検出結果(θ:磁極位置、電気角)に基づいて、3相2相座標変換部55で座標変換を行う。
【0022】
電流フィードバック制御部5(FB)は、dq軸直交ベクトル座標系において、回転電機80のトルク指令に基づく電流指令(d軸電流指令Id*,q軸電流指令Iq*)と、実電流(d軸電流Id,q軸電流Iq)との偏差に基づいて回転電機80をフィードバック制御して、電圧指令(d軸電圧指令Vd*,q軸電圧指令Vq*)を演算する。回転電機80は、第1インバータ11と第2インバータ12との2つのインバータ10を介して駆動される。このため、d軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*は、それぞれ分配部53(DIV)において、第1インバータ11用の第1d軸電圧指令Vd1*及び第1q軸電圧指令Vq1*、第2インバータ12用の第2d軸電圧指令Vd2*及び第2q軸電圧指令Vq2*に分配される。
【0023】
上述したように、回転電機制御装置1は、第1インバータ11と第2インバータ12とのそれぞれを、互いに独立した制御方式で制御可能であり、3相電圧指令演算部73及び変調部74(MOD)を備えた電圧制御部7を2つ備えている。即ち、回転電機制御装置1は、第1インバータ11のU相、V相、W相それぞれのスイッチング制御信号(Su1,Sv1,Sw1)を生成する第1電圧制御部71と、第2インバータ12のU相、V相、W相それぞれのスイッチング制御信号(Su2,Sv2,Sw2)を生成する第2電圧制御部72とを備えている。詳細は、
図9~
図10等を参照して後述するが、第1インバータ11の電圧指令(Vu1
**,Vv1
**、Vw1
**)と、第2インバータ12の電圧指令(Vu2
**,Vv2
**、Vw2
**)との位相は“π”異なっている。このため、第2電圧制御部72には、回転センサ13の検出結果(θ)から“π”を減算した値が入力されている。
【0024】
尚、後述するように、変調方式には、回転電機80の回転に同期した同期変調と、回転電機80の回転とは独立した非同期変調とがある。一般的に、同期変調によるスイッチング制御信号の生成ブロック(ソフトウェアの場合は生成フロー)と、非同期変調によるスイッチング制御信号の生成ブロックとは異なっている。上述した電圧制御部7は、電圧指令と、回転電機80の回転に同期しないキャリアとに基づいてスイッチング制御信号を生成するものであるが、本実施形態では、説明を簡略化するために、同期変調によるスイッチング制御信号(例えば後述する矩形波制御の場合のスイッチング制御信号)も電圧制御部7にて生成されるものとして説明する。
【0025】
尚、インバータ10のそれぞれのアーム3Aは、上述したように、上段側スイッチング素子3Hと下段側スイッチング素子3Lとの直列回路により構成されている。
図2では、区別していないが、各相のスイッチング制御信号は、上段用スイッチング制御信号と、下段用スイッチング制御信号との2種類として出力される。例えば、第1インバータ11のU相をスイッチング制御する第1U相スイッチング制御信号Su1は、末尾に“+”を付した第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+と、末尾に“-”を付した第1U相下段側スイッチング制御信号Su1-との2つの信号として出力される。尚、それぞれのアーム3Aを構成する上段側スイッチング素子3Hと下段側スイッチング素子3Lとが同時にオン状態となると当該アーム3Aが短絡状態となる。これを防ぐために、それぞれのアーム3Aに対する上段側スイッチング制御信号と、下段側スイッチング制御信号とが共に非有効状態となるデッドタイムが設けられている。このデッドタイムも、電圧制御部7において付加される。
【0026】
図1に示すように、インバータ10を構成する各スイッチング素子3の制御端子(IGBTやFETの場合はゲート端子)は、ドライブ回路2(DRV)を介して回転電機制御装置1に接続されており、それぞれ個別にスイッチング制御される。インバータ10などの回転電機80を駆動するための高圧系回路(直流電源6に接続された系統)と、マイクロコンピュータなどを中核とする回転電機制御装置1などの低圧系回路(3.3ボルトから5ボルト程度の動作電圧の系統)とは、動作電圧(回路の電源電圧)が大きく異なる。ドライブ回路2は、各スイッチング素子3に対する駆動信号(スイッチング制御信号)の駆動能力(例えば電圧振幅や出力電流など、後段の回路を動作させる能力)をそれぞれ高めて中継する。第1ドライブ回路21は第1インバータ11にスイッチング制御信号を中継し、第2ドライブ回路22は第2インバータ12にスイッチング制御信号を中継する。
【0027】
回転電機制御装置1は、第1インバータ11及び第2インバータ12を構成するスイッチング素子3のスイッチングパターンの形態(電圧波形制御の形態)として、例えば電気角の一周期においてパターンの異なる複数のパルスが出力されるパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)制御と、電気角の一周期において1つのパルスが出力される矩形波制御(1パルス制御(1-Pulse))との2つを実行することができる。即ち、回転電機制御装置1は、第1インバータ11及び第2インバータ12の制御方式として、パルス幅変調制御と、矩形波制御とを実行することができる。尚、上述したように、回転電機制御装置1は、第1インバータ11と第2インバータ12とのそれぞれを、互いに独立した制御方式で制御可能である。
【0028】
また、パルス幅変調には、正弦波パルス幅変調(SPWM : Sinusoidal PWM)や空間ベクトルパルス幅変調(SVPWM : Space Vector PWM)などの連続パルス幅変調(CPWM:Continuous PWM)や、不連続パルス幅変調(DPWM:Discontinuous PWM)などの方式がある。従って、回転電機制御装置1が実行可能なパルス幅変調制御には、制御方式として、連続パルス幅変調制御と、不連続パルス幅変調とが含まれる。
【0029】
連続パルス幅変調は、複数相のアーム3Aの全てについて連続的にパルス幅変調を行う変調方式であり、不連続パルス幅変調は、複数相の一部のアーム3Aについてスイッチング素子をオン状態又はオフ状態に固定する期間を含んでパルス幅変調を行う変調方式である。具体的には、不連続パルス幅変調では、例えば3相の交流電力の内の1相に対応するインバータのスイッチング制御信号の信号レベルを順次固定して、他の2相に対応するスイッチング制御信号の信号レベルを変動させる。連続パルス幅変調では、このように何れかの相に対応するスイッチング制御信号が固定されることなく、全ての相が変調される。これらの変調方式は、回転電機80に求められる回転速度やトルクなどの動作条件、そして、その動作条件を満足するために必要な変調率(直流バス電圧に対する3相交流の線間電圧の実効値の割合)に応じて決定される。
【0030】
パルス幅変調では、電圧指令としての交流波形の振幅と三角波(鋸波を含む)状のキャリア(CA)の波形の振幅との大小関係に基づいてパルスが生成される(
図7等参照。)。キャリアとの比較によらずにデジタル演算により直接PWM波形を生成する場合もあるが、その場合でも、指令値としての交流波形の振幅と仮想的なキャリア波形の振幅とは相関関係を有する。
【0031】
デジタル演算によるパルス幅変調において、キャリアは例えばマイクロコンピュータの演算周期や電子回路の動作周期など、回転電機制御装置1の制御周期に応じて定まる。つまり、複数相の交流電力が交流の回転電機80の駆動に利用される場合であっても、キャリアは回転電機80の回転速度や回転角度(電気角)には拘束されない周期(同期しない周期)を有している。従って、キャリアも、キャリアに基づいて生成される各パルスも、回転電機80の回転には同期していない。従って、正弦波パルス幅変調、空間ベクトルパルス幅変調などの変調方式は、非同期変調(asynchronous modulation)と称される場合がある。これに対して、回転電機80の回転に同期してパルスが生成される変調方式は、同期変調(synchronous modulation)と称される。例えば矩形波制御(矩形波変調)では、回転電機80の電気角1周期に付き1つのパルスが出力されるため、矩形波変調は同期変調である。
【0032】
ところで、直流バス電圧から交流電圧への変換率を示す指標として、直流バス電圧に対する複数相の交流電圧の線間電圧の実効値の割合を示す変調率がある。一般的に、正弦波パルス幅変調の最大変調率は約0.61(≒0.612)、空間ベクトルパルス幅変調制御の最大変調率は約0.71(≒0.707)である。約0.71を越える変調率を有する変調方式は、通常よりも変調率を高くした変調方式として、“過変調パルス幅変調”と称される。“過変調パルス幅変調”の最大変調率は、約0.78である。この0.78は、直流から交流への電力変換における物理的(数学的)な限界値である。過変調パルス幅変調において、変調率が0.78に達すると、電気角の1周期において1つのパルスが出力される矩形波変調(1パルス変調)となる。矩形波変調では、変調率は物理的な限界値である約0.78に固定されることになる。
【0033】
変調率が0.78未満の過変調パルス幅変調は、同期変調方式、非同期変調方式の何れの原理を用いても実現することができる。過変調パルス幅変調の代表的な変調方式は、不連続パルス幅変調である。不連続パルス幅変調は、同期変調方式、非同期変調方式の何れの原理を用いても実現することができる。例えば、同期変調方式を用いる場合、矩形波変調では、電気角の1周期において1つのパルスが出力されるが、不連続パルス幅変調では、電気角の1周期において複数のパルスが出力される。電気角の1周期に複数のパルスが存在すると、パルスの有効期間がその分減少するため、変調率は低下する。従って、約0.78に固定された変調率に限らず、0.78未満の任意の変調率を同期変調方式によって実現することができる。例えば、電気角の1周期において、9パルスを出力する9パルス変調(9-Pulses)、5パルスを出力する5パルス変調(5-Pulses)などの複数パルス変調(Multi-Pulses)とすることも可能である。
【0034】
また、回転電機制御装置1は、インバータ10や回転電機80に異常が検出されたような場合のフェールセーフ制御として、シャットダウン制御(SDN)やアクティブショートサーキット制御(ASC)を実行することができる。シャットダウン制御は、インバータ10を構成する全てのスイッチング素子3へのスイッチング制御信号を非アクティブ状態にしてインバータ10をオフ状態にする制御である。アクティブショートサーキット制御は、複数相全てのアーム3Aの上段側スイッチング素子3H或いは複数相全てのアーム3Aの下段側スイッチング素子3Lの何れか一方側をオン状態とし、他方側をオフ状態とする制御である。尚、複数相全てのアーム3Aの上段側スイッチング素子3Hをオン状態とし、複数相全てのアーム3Aの下段側スイッチング素子3Lをオフ状態とする場合を上段側アクティブショートサーキット制御と称する。また、複数相全てのアーム3Aの下段側スイッチング素子3Lをオン状態とし、複数相全てのアーム3Aの上段側スイッチング素子3Hをオフ状態とする場合を下段側アクティブショートサーキット制御と称する。
【0035】
本実施形態のように、ステータコイル8の両端にそれぞれインバータ10が接続されている場合、一方のインバータ10をアクティブショートサーキット制御によって短絡させると、複数相のステータコイル8が当該一方のインバータ10において短絡される。つまり、当該一方のインバータ10が中性点となって、ステータコイル8がY型結線されることになる。このため、回転電機制御装置1は、2つのインバータ10を介してオープン巻線型の回転電機80を制御する形態と、1つのインバータ10(アクティブショートサーキット制御されていない側のインバータ10)を介してY型結線の回転電機80を制御する形態とを実現することができる。このため、本実施形態では、フェールセーフ制御に限らず、通常制御で選択可能な制御形態として、アクティブショートサーキット制御も含める。つまり、回転電機制御装置1は、第1インバータ11及び第2インバータ12の制御方式として、さらに、アクティブショートサーキット制御を実行することができる。
【0036】
ところで、1つのインバータ10をベクトル制御する場合、3相のアーム3Aの状態によって、8つの空間ベクトルを定義することができる。具体的には、上段側スイッチング素子3Hのスイッチング制御信号の2種類の信号レベルの3相分の組み合わせによって8つの空間ベクトルを定義することができる(23=8)。尚、下段側スイッチング素子3Lの3相のスイッチング制御信号の信号レベルは、それぞれ上段側スイッチング素子3Hのスイッチング制御信号と相補的な信号レベルとなる。このため、上段側又は下段側の何れか一方のスイッチング制御信号の信号レベルによって空間ベクトルを定義することができる。
【0037】
各スイッチング制御信号の信号レベルがハイレベルの場合を“1”、ローレベルの場合を“0”として、U相、V相、W相のスイッチング制御信号の信号レベルを(UVW)で示すと、空間ベクトルは、(000),(001),(010),(011),(100),(101),(110),(111)の8つとなる。尚、8つの空間ベクトルの内、(000),(111)は、線間電圧がゼロとなって回転電機80に電圧が印加されないためにゼロベクトル又はヌルベクトルと称され、dq軸ベクトル座標系において同一の座標を示す。これに対して、他の6つの空間ベクトルは、アクティブベクトルと称され、dq軸ベクトル座標系においてそれぞれ異なる座標を示す。
【0038】
図1に示すように、2つのインバータ10をベクトル制御する場合には、上段側又は下段側の何れか一方のスイッチング制御信号の信号レベルによって64個の空間ベクトルを定義することができる(2
(3・2)=2
6=64)。この内、10個はヌルベクトルである。第1インバータ11のU相(U1相)、V相(V1相)、W相(W1相)の信号レベルと第2インバータ12のU相(U2相)、V相(V2相)、W相(W2相)の信号レベルとを(U1V1W1-U2V2W2)で示すと、(000-000),(001-001),(010-010),(011-011),(100-100),(101-101),(110-110),(111-111),(000-111),(111-000)の10個は、線間電圧がゼロとなるヌルベクトルである。残りの54個は、dq軸ベクトル座標系で原点(ヌルベクトルの座標)から18の異なる座標への有効な大きさを持つアクティブベクトルとなる。
【0039】
図3には、ヌルベクトルの座標と、18箇所のアクティブベクトルの座標とをプロットしている。Z0は、dq軸ベクトル座標系におけるヌルベクトルの座標を示している(10個のベクトルが同一座標)。Z1~Z6は、dq軸ベクトル座標系において実質的に1つのインバータ10によって実現されるアクティブベクトルの座標を示している。Z7~Z18は、dq軸ベクトル座標系において2つのインバータ10によって実現されるアクティブベクトルに対応する座標を示している。
【0040】
Z1は(000-011),(100-000),(100-111),(111-011)、Z2は(000-001),(110-000),(110-111),(111-001)、Z3は(000-101),(010-000),(010-111),(111-101)、Z4は(000-100),(011-000),(011-111),(111-100)、Z5は(000-110),(001-000)、(001-111),(111-110)、Z6は(000-010),(101-000),(101-111),(111-010)を含む。これら24個の空間ベクトルは、一方のインバータ10の空間ベクトルがヌルベクトルであり、他方のインバータ10の空間ベクトルがアクティブベクトルである組み合わせである。
【0041】
尚、Z1:(101-001),(110-010)、Z2:(010-011),(100-101)、Z3:(011-001),(110-100)、Z4:(001-101),(010-110)、Z5:(011-010),(101-100)、Z6:(001-011),(100-110)の12個の空間ベクトルも、それぞれZ1~Z6の座標を示す。但し、一方のインバータ10がヌルベクトルではなく、2つのインバータ10が共にアクティブベクトルである組み合わせである。
【0042】
Z7は(100-001),(110-011)、Z8は(010-001),(110-101)、Z9は(010-100),(011-101)、Z10は(001-100),(011-110)、Z11は(001-010),(101-110)、Z12は(100-010),(101-011)の12個の空間ベクトルに対応する。また、Z13は(100-011)、Z14は(110-001)、Z15は(010-101)、Z16は(011-100)、Z17は(001-110)、Z18は(101-010)の6個の空間ベクトルに対応する。
【0043】
図4は、回転電機80のdq軸ベクトル座標系での1つの動作点におけるベクトル図を例示している。図中、“V1”は第1インバータ11による電圧を示す第1電圧ベクトル、“V2”は第2インバータ12による電圧を示す第2電圧ベクトルを示す。2つのインバータ10を介してオープン巻線であるステータコイル8に現れる電圧は、第1電圧ベクトルV1と第2電圧ベクトルV2との差“V1-V2”に相当する。図中の“Va”は、ステータコイル8に現れる合成電圧ベクトルを示している。また、“Ia”は、回転電機80のステータコイル8を流れる電流を示している。
図4に示すように、第1電圧ベクトルV1と第2電圧ベクトルV2とのベクトルの向きが180度異なるように、第1インバータ11及び第2インバータ12が制御されると、合成電圧ベクトルVaは、第1電圧ベクトルV1の向きに第2電圧ベクトルV2の大きさを加算したベクトルとなる。
【0044】
本実施形態のように、互いに独立した複数相のオープン巻線を有する回転電機80を、2つのインバータ10を介して駆動制御する場合、一般的には、2つのインバータ10は、同じ制御方式でスイッチング制御される。しかし、スイッチング制御の方式は、回転電機80に要求されるトルクや、回転速度、直流側の電圧など、種々の要素(動作条件)によって、より高いシステム効率での動作が可能なように、決定されることが好ましい。このため、回転電機制御装置1は、回転電機80の動作領域(制御領域R)に応じて第1インバータ11と第2インバータ12とを異なる制御方式で制御する制御モードを有している。発明者らの実験やシミュレーションによって、回転電機80の動作条件に応じて、第1インバータ11と第2インバータ12とを異なる制御方式で制御する制御モードを有することで、システム効率を高くすることができることが確かめられている。
【0045】
〔第1実施形態〕
以下、回転電機80の動作条件に応じて、第1インバータ11と第2インバータ12とを異なる制御方式で制御する制御モードを有する回転電機制御装置1の実施形態について詳細に説明する。
【0046】
本実施形態(第1実施形態)では、回転電機80の動作条件に応じた複数の制御領域R(
図5等参照)が設定され、回転電機制御装置1は、それぞれの制御領域Rに応じた制御方式でインバータ10を制御している。
図5は、回転電機80の回転速度とトルクとの関係の一例を示している。例えば、
図5に示すように、回転電機80の制御領域Rとして、少なくとも、第1速度域VR1と、同じトルクTにおける回転電機80の回転速度が第1速度域VR1よりも高い第2速度域VR2とが設定される。
【0047】
上述したように、回転電機制御装置1は、第1インバータ11と第2インバータ12とのそれぞれを、スイッチングパターンが異なる複数の制御方式により制御可能であると共に、互いに独立した制御方式で制御可能である。制御方式には、電気角の一周期においてパターンの異なる複数のパルスが出力されるパルス幅変調制御(PWM)と、電気角の1/2周期である第1期間T1(
図8等参照)においてパターンの異なる複数のパルスを出力し、残りの1/2周期である第2期間T2(
図8等参照)において非有効状態が継続するように制御する混合パルス幅変調制御(MX-PWM)とが含まれる(
図8~
図11を参照して後述する)。回転電機制御装置1は、第2速度域VR2において、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータを、混合パルス幅変調制御により制御する。
【0048】
混合パルス幅変調制御では、第2期間T2においてもスイッチング制御信号が非有効状態となるので、インバータ10の損失が低減され、また、スイッチングによる高調波電流も減少して回転電機80の損失(鉄損)も低減される。つまり、混合パルス幅変調制御を実行することによって、システム損失を低減することができる。
【0049】
回転電機制御装置1は、第1速度域VR1では、第1インバータ11及び第2インバータ12のそれぞれを混合パルス幅変調制御とは別の制御方式で制御する。例えば、下記の表1に示すように、回転電機制御装置1は、第1速度域VR1において、第1インバータ11及び第2インバータ12の一方のインバータ10(ここでは第1インバータ11)をアクティブショートサーキット制御(ASC)により制御し、他方のインバータ10(ここでは第2インバータ12)をパルス幅変調制御(PWM)により制御する。第1速度域VR1におけるこのような制御を、対象第1速度域制御と称する。
【0050】
【0051】
尚、表1には、第1速度域VR1において、第1インバータ11をアクティブショートサーキット制御により制御する形態を例示しているが、当然ながら、第2インバータ12をアクティブショートサーキット制御により制御する形態であってもよい。さらに、第1速度域VR1において、第1インバータ11を制御する制御方式と第2インバータ12を制御する制御方式とを、予め規定された条件に従って交互に入れ替えてもよい。制御方式を入れ替えることによって、第1インバータ11及び第2インバータ12の何れか一方だけが消耗することや、第1直流電源61及び第2直流電源62の何れか一方だけの放電量が増加することを抑制することができる。ここで、規定された条件とは、例えば、一定の時間や、直流電源6の放電量であると好適である。
【0052】
ところで、制御領域Rとして、
図6に示すように、第1速度域VR1内における低速度側の低速度側第1速度域VR1-1と、同じトルクTにおける回転電機80の回転速度が低速度側第1速度域VR1-1よりも高く、第1速度域VR1内における高速度側の高速度側第1速度域VR1-2とが設定されていてもよい。下記の2に示すように、回転電機制御装置1は、低速度側第1速度域VR1-1では、第1インバータ11及び第2インバータ12の一方のインバータ10(ここでは第1インバータ11)をアクティブショートサーキット制御により制御し、他方のインバータ10(ここでは第2インバータ12)を連続パルス幅変調制御により制御する。また、回転電機制御装置1は、高速度側第1速度域VR1-2では、第1インバータ11及び第2インバータ12の一方のインバータ10(ここでは第1インバータ11)をアクティブショートサーキット制御により制御し、他方のインバータ10(ここでは第2インバータ12)を不連続パルス幅変調制御により制御する。
【0053】
【0054】
尚、第1速度域VR1が低速度側第1速度域VR1-1と高速度側第1速度域VR1-2とに分割されていない場合、即ち、表1に示すように、第1速度域VR1のみが設定されている場合のパルス幅変調制御は、連続パルス幅変調(CPWM)であると好適である。
【0055】
尚、表2には、低速度側第1速度域VR1-1及び高速度側第1速度域VR1-2において、第1インバータ11をアクティブショートサーキット制御により制御する形態を例示しているが、当然ながら、第2インバータ12をアクティブショートサーキット制御により制御する形態であってもよい。また、低速度側第1速度域VR1-1において第1インバータ11をアクティブショートサーキット制御により制御し、高速度側第1速度域VR1-2において第2インバータ12をアクティブショートサーキット制御により制御するなど、低速度側第1速度域VR1-1と高速度側第1速度域VR1-2とで、アクティブショートサーキット制御による制御対象とするインバータ10を異ならせてもよい(逆の組み合わせも含む)。さらに、上述したように、低速度側第1速度域VR1-1及び高速度側第1速度域VR1-2(即ち大1速度域VR1)において、第1インバータ11を制御する制御方式と第2インバータ12を制御する制御方式とを、予め規定された条件に従って交互に入れ替えてもよい。
【0056】
また、
図6に示すように、制御領域Rとして、第2速度域VR2内における低速度側の低速度側第2速度域VR2-1と、同じトルクTにおける回転電機80の回転速度が低速度側第2速度域VR2-1よりも高く、第2速度域VR2内における高速度側の高速度側第2速度域VR2-2とが設定されていてもよい。また、混合パルス幅変調制御(MX-PWM)には、混合連続パルス幅変調制御(MX-CPWM)と、混合不連続パルス幅変調制御(MX-DPWM)とが含まれていてもよい。詳細は後述するが、混合連続パルス幅変調制御では、第2期間T2において非有効状態が継続するように制御すると共に第1期間T1において複数相のアーム3Aの全てについて連続的にパルス幅変調を行う(
図8、
図10を参照して後述する。)。同様に詳細は後述するが、混合不連続パルス幅変調制御では、第2期間T2において非有効状態が継続するように制御すると共に第1期間T1において複数相の一部のアーム3Aについてスイッチング素子3をオン状態又はオフ状態に固定する期間を含んでパルス幅変調を行う(
図9、
図11を参照して後述する。)。
【0057】
このような場合、下記の表3に示すように、回転電機制御装置1は、低速度側第2速度域VR2-1では、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10を混合連続パルス幅変調制御(MX-CPWM)により制御し、高速度側第2速度域VR2-2では、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10を混合不連続パルス幅変調制御(MX-DPWM)により制御する。尚、第2速度域VR2が低速度側第2速度域VR2-1と高速度側第2速度域VR2-2とに分割されていない場合、即ち、表1及び表2に示すように、第2速度域VR2のみが設定されている場合の混合パルス幅変調制御(MX-PWM)は、混合連続パルス幅変調制御(MX-CPWM)であると好適である。
【0058】
【0059】
また、
図7に示すように、制御領域Rとして、同じトルクTにおける回転電機80の回転速度が第2速度域VR2よりも高い第3速度域VR3がさらに設定されていてもよい。
この場合、下記の表4に示すように、回転電機制御装置1は、第3速度域VR3において、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10を前記矩形波制御により制御すると好適である。尚、表4には、第1速度域VR1及び第2速度域VR2がそれぞれ低速度側及び高速度側の2つの領域に分割されている場合の制御方式の割り当てを例示している。第1速度域VR1及び第2速度域VR2は分割されていない場合の形態については、表1に第3速度域VR3を追加すれば良いので表の記載は省略する。
【0060】
【0061】
ここで、各制御領域Rの境界は、回転電機80のトルクに応じた回転電機80の回転速度と、直流バス電圧に対する複数相の交流電圧の線間電圧の実効値(指令値であっても出力電圧からの換算値でもよい)の割合との少なくとも一方に応じて設定されていると好適である。
【0062】
回転電機80の動作条件は、
図5~
図7に例示するように、しばしば回転速度とトルクとの関係で定義される。制御領域Rが、1つのパラメータである回転速度に基づいて、設定されていると良い。ここで、制御領域Rの境界を規定する回転速度を、トルクに関わらず一定に設定することも可能であるが、制御領域Rの境界を規定する回転速度が、トルクに応じて異なる値となるように設定されているとさらに好適である。このようにすることにより、回転電機80の動作条件に応じて高い効率で回転電機80を駆動制御することができる。
【0063】
また、例えば、回転電機80に高い出力(速い回転速度や高いトルク)が要求される場合、電圧型のインバータでは、直流バス電圧を高くすることや、直流バス電圧が交流電圧に変換される割合を高くすることで当該要求が実現される。直流バス電圧が一定の場合には、直流バス電圧が交流電圧に変換される割合を高くすることで当該要求を実現することができる。この割合は、直流バス電力に対する3相交流電力の実効値の割合(電圧型のインバータの場合には、直流バス電圧に対する3相交流電圧の線間電圧の実効値の割合と等価)として示すことができる。上述したように、インバータ10を制御する制御方式には、この割合が低いものから高いものまで種々の方式が存在する。
【0064】
制御領域Rが、回転電機80に対する要求に応じて定まる直流バス電圧に対する3相交流電圧の線間電圧の実効値の割合(変調率)に基づいて設定されていると、回転電機80の動作条件に応じて高い効率で回転電機80を駆動制御することができる。下記に示す表5は、上記の表4に対応し、それぞれの制御領域Rに対応する変調率を例示している。詳細は後述するが、表中において、“Vi_inv1”は第1インバータ11の変調率、“Mi_inv2”は第2インバータ12の変調率、“Mi_sys”はシステム全体の変調率を示している。
【0065】
【0066】
本実施形態では、第1直流電源61の端子間電圧“E1”と第2直流電源62の端子間電圧“E2”は同じである(共に電圧“E”)。第1インバータ11の交流側の実効値を“Va_inv1”、第2インバータ12の交流側の実効値を“Va_inv2”とすると、第1インバータ11の変調率“Mi_inv1”、及び第2インバータ12の変調率“Mi_inv2”は下記式(1)、(2)のようになる。また、システム全体の変調率“Mi_sys”は、下記式(3)のようになる。
【0067】
Mi_inv1=Va_inv1/E1=Va_inv1/E ・・・(1)
Mi_inv2=Va_inv2/E2=Va_inv2/E ・・・(2)
Mi_sys =(Va_inv1+Va_inv2)/(E1+E2)
=(Va_inv1+Va_inv2)/2E ・・・(3)
【0068】
電圧の瞬時値については、瞬時におけるベクトルを考慮する必要があるが、単純に変調率だけを考えると、式(1)~(3)より、システム全体の変調率“Mi_sys”は、“(Mi_inv1+Mi_inv2)/2”となる。尚、表5には、定格値としてそれぞれの制御領域Rに対応する変調率を示している。このため、実際の制御に際しては、制御領域Rで制御方式が変わる場合のハンチング等を考慮して、それぞれの制御領域Rに対応する変調率に重複する範囲が含まれていてもよい。
【0069】
尚、変調率“X”は、連続パルス幅変調(空間ベクトルパルス幅変調)による変調率の理論上の上限値(概ね0.707)に基づき、さらに、デッドタイムを考慮して設定される。表1から表5等に示すように、第1速度域VR1では、1つのインバータ10のみで変調を行う場合がある。従って、第1速度域VR1では、1つのインバータ10(ここでは第2インバータ12)の最大変調率“2X”が、連続パルス幅変調制御による変調率の理論上の上限値(空間ベクトルパルス幅変調で概ね0.707)に基づき、さらに、デッドタイムを考慮して、例えば0.5~0.6程度に設定される。従って、変調率“X”は、例えば、0.25~0.3程度の値に設定される。変調率“a”及び“b”は、実験やシミュレーション等に基づいて、適宜設定される。
【0070】
第1速度域VR1においては、2つのインバータ10の内の一方のインバータ10(例えば第1インバータ11)が、アクティブショートサーキット制御により制御される。つまり、実質的に2つのインバータ10の内、1つのインバータ10(例えば第2インバータ12)のみで回転電機80を駆動することになる。一方のインバータ10がスイッチング動作をしないので、その分のスイッチング損失を低減することができ、その結果、システム全体の損失を抑制しつつ回転電機80を駆動することができる。
【0071】
本構成のように、2つのインバータ10を備えている場合には、それぞれのインバータ10の直流側の電圧よりも大きい振幅の交流電圧を生成することができる。但し、回転電機制御装置1は、常に交流の振幅が大きくなるように2つのインバータ10を制御する必要はなく、例えば回転電機80の回転速度が低速の場合には、1つのインバータ10によって生成可能な交流電圧を生成すれば充分な場合がある。2つのインバータ10の内の一方をアクティブショートサーキット制御により制御すると、3相のステータコイル8が当該一方のインバータ10において短絡されることになる。この場合、他方のインバータ10は、中性点を有するように接続されたステータコイル8を有する回転電機80を駆動制御することになる。
【0072】
また、上述したように、連続パルス幅変調による変調率は、正弦波パルス幅変調よりも空間ベクトルパルス幅変調の方が大きく、さらに、空間ベクトルパルス幅変調よりも、不連続パルス幅変調の方が大きい。第1速度域VR1を分割した場合、高速度側第1速度域VR1-2は、低速度側第1速度域VR1-1よりも回転電機80の回転速度が高い制御領域であり、高速度側第1速度域VR1-2では低速度側第1速度域VR1-1よりも高い変調率が要求される。低速度側第1速度域VR1-1において連続パルス幅変調制御を行い、高速度側第1速度域VR1-2において不連続パルス幅変調制御を行うことによって、第1速度域VR1の全体において、負荷に応じて適切に制御方式を切り替え、システム全体の損失を抑制して回転電機80を駆動することができる。
【0073】
また、同じトルクTにおいて最も高速側の第3速度域VR3では、最も高い変調率が求められる。第3速度域VR3では、物理的に最大の変調率となる矩形波制御によって第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10が制御される。つまり、回転電機80に高い負荷が求められる場合に、回転電機80を適切に駆動することができる。
【0074】
第2速度域VR2は、第1速度域VR1と第3速度域VR3との中間に位置しており、いわゆる中間速度領域~高速度領域、或いは、中変調率領域~高変調率領域に対応する制御領域ということができる。この領域(第2速度域VR2)では、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方を、連続パルス幅変調制御や不連続パルス幅変調制御によって制御することが考えられる。本実施形態では、第2速度域VR2において、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方を混合パルス幅変調制御によって制御することによって、連続パルス幅変調制御や不連続パルス幅変調制御により制御する場合に比べてインバータ10のスイッチング損失をさらに減少させることができる。
【0075】
発明者らによる実験やシミュレーションによれば、混合パルス幅変調制御の適用は、特に、低速度側第2速度域VR2-1において有効であることが確認されている。即ち、少なくとも、低速度側第2速度域VR2-1において、混合連続パルス幅変調制御が実行されると、システム損失が低減される。下記の表6に示すように、回転電機制御装置1は、高速度側第2速度域VR2-2では、混合不連続パルス幅変調制御に代えて、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10を不連続パルス幅変調制御により制御してもよい。
【0076】
【0077】
以下、それぞれの制御領域Rにおける制御方式についてU相の電圧指令(Vu1**,Vu2**)及びU相上段側スイッチング制御信号(Su1+,Su2+)の波形例を参照して説明する。第2U相下段側スイッチング制御信号Su2-、及び、V相、W相については、図示を省略する。
【0078】
まず、第2速度域VR2で実行され、本実施形態において最も特徴的な混合パルス幅変調制御(MX-PWM)について、
図8~
図11を参照して説明する。
図8及び
図10は混合連続パルス幅変調制御(MX-CPWM)を示し、
図9及び
図11は混合不連続パルス幅変調制御(MX-DPWM)を示している。
【0079】
図8及び
図9には、第1インバータ11のキャリアCAである第1キャリアCA1と、第2インバータ12のキャリアCAである第2キャリアCA2と、第1インバータ11及び第2インバータ12に共通するU相電圧指令である共通U相電圧指令Vu
**と、第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+と、第2U相上段側スイッチング制御信号Su2+との一例を示している。第1U相下段側スイッチング制御信号Su1-、第2U相下段側スイッチング制御信号Su2-、及び、V相、W相については図示を省略する(他の制御方式も同様)。
【0080】
例えば、第1キャリアCA1は“0.5<CA1<1”の間で変化し、第2キャリアCA2は“0<CA2<0.5”の間で変化し、電圧指令(V**)は、“0≦V**≦1”の間で変化可能である。キャリアCA(第1キャリアCA1及び第2キャリアVA2)と、電圧指令(V**)との比較により、電圧指令がキャリアCA以上の場合にスイッチング制御信号が“1”となり、電圧指令がキャリアCA未満の場合にスイッチング制御信号が“0”となる。キャリアCAと電圧指令(V**)との比較論理については、以下の説明においても同様である。
【0081】
図8及び
図9に示すように、第1キャリアCA1及び第2キャリアCA2の振幅は、電圧指令(V
**)に許容される振幅の半分である。一般的なパルス幅変調では、キャリアCAの振幅は、電圧指令に許容される振幅と同等であり、混合パルス幅変調におけるキャリアCAはハーフキャリアと称することができる。このようなハーフキャリアを用いることにより、電気角の1/2周期である第1期間T1においては、このようなハーフキャリアと電圧指令(V
**)とが交差するため、スイッチング制御信号としてパターンの異なる複数のパルスが出力される。残りの1/2周期である第2期間T2においては、ハーフキャリアと電圧指令(V
**)とが交差しないため、スイッチング制御信号は非有効状態が継続するように出力される。
【0082】
尚、混合不連続パルス幅変調制御では、
図9に示すように、第2期間T2においても、部分的に有効状態となるパルスがスイッチング制御信号として出力されている。これは、ベースとなる不連続パルス幅変調の変調率が、連続パルス幅変調に比べて大きいことに起因している。第2期間T2において有効状態となるパルスが出力されているのは、電圧指令(V
**)の振幅中心近傍であり、電圧指令(V
**)の変曲点付近である。
図9に示すように、混合不連続パルス幅変調制御においても、第2期間T2において非有効状態は継続して出力されていると言える。また、第2期間T2をスイッチング制御信号が非有効状態の期間(1/2周期未満の期間)のみとし、1周期の中で第2期間T2以外の期間(1/2周期以上の期間)に設定すると、混合パルス幅変調を以下のように定義することもできる。混合パルス幅変調制御は、電気角の1/2周期以上である第1期間T1においてパターンの異なる複数のパルスが出力され、電気角の1周期の残りである第2期間T2において非有効状態が継続するように制御されるということもできる。
【0083】
図10及び
図11は、混合連続パルス幅変調制御及び混合不連続パルス幅変調制御の
図8及び
図9とは異なる形態を例示している。生成されるスイッチング制御信号は、同じである。
図10及び
図11には、第1インバータ11のキャリアCAである第1キャリアCA1と、第2インバータ12のキャリアCAである第2キャリアCA2と、第1インバータ11のU相電圧指令である第1U相電圧指令Vu1
**と、第2インバータ12のU相電圧指令である第2U相電圧指令Vu2
**と、第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+と、第2U相上段側スイッチング制御信号Su2+との一例を示している。例えば、第1キャリアCA1及び第2キャリアCA2は“0.5<CA1<1”の間で変化し、電圧指令(V
**)は、“0≦V
**≦1”の間で変化可能である。第1キャリアCA1と第2キャリアCA2とは位相が180度(π)異なっている。また、第1U相電圧指令Vu1
**と第2U相電圧指令Vu2
**とも位相が180度(π)異なっている。
【0084】
図10及び
図11に示すように、第1キャリアCA1及び第2キャリアCA2の振幅は、電圧指令(V
**)に許容される振幅の半分である。従って、
図10及び
図11に示す形態におけるキャリアCAもハーフキャリアである。このようなハーフキャリアを用いることにより、電気角の1/2周期(或いは1/2周期以上)である第1期間T1においては、このようなハーフキャリアと電圧指令(V
**)とが交差するため、スイッチング制御信号としてパターンの異なる複数のパルスが出力される。周期の残りの期間である第2期間T2においては、ハーフキャリアと電圧指令(V
**)とが交差しないため、スイッチング制御信号は非有効状態が継続するように出力される。
【0085】
図8及び
図9に例示した形態は、2つのハーフキャリアと1つの共通のリファレンスとしての電圧指令(V
**)により変調する方式であり、ダブルハーフキャリア・シングルリファレンス方式ということができる。一方、
図10及び
図11に例示した形態は、2つのハーフキャリアと2つの電圧指令(V
**)により変調する方式であり、ダブルハーフキャリア・ダブルリファレンス方式ということができる。
【0086】
図8~
図11を参照して上述したように、混合パルス幅変調制御は、指令値(電圧指令、上記の例ではU相電圧指令(Vu
**(Vu
**=Vu1
**=Vu2
**),Vu1
**,Vu2
**))の変域の1/2の波高のキャリアCAであるハーフキャリア(第1キャリアCA1、第2キャリアCA2)と指令値とに基づいて複数のパルスを生成する。
そして、本実施形態では、混合パルス幅変調制御の方式として、ダブルハーフキャリア・シングルリファレンス方式と、ダブルハーフキャリア・ダブルリファレンス方式との2つを例示している。
【0087】
ダブルハーフキャリア・シングルリファレンス方式では、
図8及び
図9を参照して説明したように、ハーフキャリアとして指令値(共通U相電圧指令Vu
**)の振幅中心よりも高電圧側又は低電圧側の一方(ここでは高電圧側)に設定された第1ハーフキャリア(第1キャリアCA1)と第1インバータ11及び第2インバータ12に共通する指令値(共通U相電圧指令Vu
**)とに基づいて第1インバータ11用のパルスを生成する。また、同方式では、第1ハーフキャリア(第1キャリアCA1)と同じ位相で指令値(共通U相電圧指令Vu
**)の振幅中心よりも高電圧側又は低電圧側の他方(ここでは低電圧側)に設定された第2ハーフキャリア(第2キャリアCA2)と指令値(共通U相電圧指令Vu
**)とに基づいて第2インバータ12用のパルスを生成する。
【0088】
ダブルハーフキャリア・ダブルリファレンス方式では、
図10及び
図11を参照して説明したように、ハーフキャリアとして指令値(第1U相電圧指令Vu1
**,第2U相電圧指令Vu2
**)の振幅中心よりも高電圧側又は低電圧側の一方(ここでは高電圧側)に設定された第1ハーフキャリア(第1キャリアCA1)と第1インバータ11用の第1指令値(第1U相電圧指令Vu1
**)とに基づいて第1インバータ11用のパルスを生成する。また、同方式では、第1ハーフキャリア(第1キャリアCA1)と180度異なる位相で第1ハーフキャリア(第1キャリアCA1)と同じ側(高電圧側)に設定された第2ハーフキャリア(第2キャリアCA2)と第1指令値(第1U相電圧指令Vu1
**)とは位相が180度異なる第2インバータ12用の第2指令値(第2U相電圧指令Vu2
**)とに基づいて第2インバータ12用のパルスを生成する。
【0089】
尚、図示は省略するが、共通のハーフキャリアと互いに位相が180度異なる指令値とに基づいてパルスを生成するシングルハーフキャリア・ダブルリファレンス方式によりパルスを生成することもできる。つまり、この方式では、共通のハーフキャリア(キャリアCA)が指令値(第1U相電圧指令Vu1**,第2U相電圧指令Vu2**)の振幅中心よりも高電圧側又は低電圧側の一方(例えば高電圧側)に設定され、当該ハーフキャリア(キャリアCA)と第1インバータ11用の第1指令値(第1U相電圧指令Vu1**)とに基づいて第1インバータ11用のパルスが生成される。また、同方式では、第1指令値(第1U相電圧指令Vu1**)とは位相が180度異なる第2インバータ12用の第2指令値(第2U相電圧指令Vu2**)とハーフキャリア(キャリアCA)とに基づいて第2インバータ12用のパルスが生成される。
【0090】
但し、発明者らによるシミュレーションや実験によって、シングルハーフキャリア・ダブルリファレンス方式に比べて、ダブルハーフキャリア・シングルリファレンス方式及びダブルハーフキャリア・ダブルリファレンス方式の方が、特にキャリアCAの周波数における高調波成分が抑制されることが確認されている。従って、混合パルス幅変調制御は、ダブルハーフキャリア・シングルリファレンス方式、又は、ダブルハーフキャリア・ダブルリファレンス方式によって実行されると好適である。
【0091】
図12の波形図は、低速度側第1速度域VR1-1における第1インバータ11のU相電圧指令である第1U相電圧指令Vu1
**と、第2インバータ12のU相電圧指令である第2U相電圧指令Vu2
**と、キャリアCAと、第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+と、第2U相上段側スイッチング制御信号Su2+との一例を示している。例えば、キャリアCAは、“0<CA<1”の間で変化し、電圧指令(V
**)は、“0≦V
**≦1”の間で変化する。キャリアCA及び電圧指令(V
**)の変域については、以下の説明においても同様である。
【0092】
低速度側第1速度域VR1-1において第2インバータ12は連続パルス幅変調制御により制御される。
図12に示すように、キャリアCAと、第2U相電圧指令Vu2
**とに基づいて、パルス状の第2U相上段側スイッチング制御信号Su2+が生成される。
【0093】
上述したように、低速度側第1速度域VR1-1において第1インバータ11はアクティブショートサーキット制御により制御されるので、第1U相電圧指令Vu1**は例えば“0”に固定されており、第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+は、常時“0”となる。図示は省略しているが、第1U相下段側スイッチング制御信号Su1-は、常時“1”となる。これにより、第1インバータ11のU相のアーム3Aの上段側スイッチング素子3H(31H)がオフ状態に制御され、下段側スイッチング素子3L(31L)がオン状態に制御される。V相、W相についても同様であり、これにより第1インバータ11は下段側アクティブショートサーキット制御により制御される。尚、第1U相電圧指令Vu1**が設定されることなく、第1U相スイッチング制御信号Su1が固定値に設定されてもよい。
【0094】
図13の波形図は、高速度側第1速度域VR1-2における第1U相電圧指令Vu1
**と、第2U相電圧指令Vu2
**と、キャリアCAと、第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+と、第2U相上段側スイッチング制御信号Su2+との一例を示している。低速度側第1速度域VR1-1と同様に、高速度側第1速度域VR1-2において第1インバータ11はアクティブショートサーキット制御により制御されるので、第1U相電圧指令Vu1
**は固定値である。高速度側第1速度域VR1-2において第2インバータ12は不連続パルス幅変調制御により制御される。第2U相電圧指令Vu2
**が、“0”又は“1”となる区間では、第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+が固定値となり、スイッチング素子3(32)がオン状態又はオフ状態に固定される。
【0095】
図14の波形図は、第3速度域VR3における第1U相電圧指令Vu1
**と、第2U相電圧指令Vu2
**と、キャリアCAと、第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+と、第2U相上段側スイッチング制御信号Su2+との一例を示している。上述したように、第3速度域VR3において第1インバータ11及び第2インバータ12は共に、矩形波制御により制御される。尚、インバータ10矩形波変調制御により制御される場合には、キャリアCAは不要であるが、他の制御方式との比較が容易なようにキャリアCAも図示している。
【0096】
図15の波形図は、表6を参照して上述したように、高速度側第2速度域VR2-2において双方のインバータ10が不連続パルス幅変調制御により制御される場合における第1U相電圧指令Vu1
**と、第2U相電圧指令Vu2
**と、キャリアCAと、第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+と、第2U相上段側スイッチング制御信号Su2+との一例を示している。
【0097】
図8~
図11、
図14、及び
図15に示すように、第1インバータ11及び第2インバータ12が共にスイッチング制御される場合、第1U相電圧指令Vu1
**と第2U相電圧指令Vu2
**とは、概ね180度異なる位相である。例えば、U相電圧の最大振幅は
“(4/3)E”となり、線間電圧の最大振幅は、“2E”となる(
図3及び
図4のベクトル図も参照)。尚、第1直流電源61と第2直流電源62とは独立しており、第1直流電源61の第1直流バス電圧E1と、第2直流電源62の第2直流バス電圧E2とは、異なる値であってもよい。例えば、正確には、U相電圧の最大振幅は、“((2/3)E1)+(2/3)E2”であるが、理解を容易にするために本明細書中では“E1=E2=E”とする。
【0098】
以上、説明したように、相対的に変調率及び回転速度が低く、相対的に低い電力領域である第1速度域VR1では、全ての電力が1つのインバータ10から供給される。この時、一方のインバータ10に対しては、アクティブショートサーキット制御を行うように電圧指令(V**)が与えられ、他方のインバータ10に対しては通常の電圧指令(V**)が与えられる。第1速度域VR1に対して変調率及び回転速度が高く、第1速度域VR1に対してに高い電力領域である第2速度域VR2及び第3速度域VR3では、2つのインバータ10から同等の電力が供給される。この時、双方のインバータ10に対して、位相が180度(π)異なる同じ電圧指令(V**)が与えられる。
【0099】
ところで、インバータ10をスイッチング制御した場合、交流電流の基本波に重畳される脈動成分が可聴周波数帯域のノイズを発生させる場合がある。2つのインバータ10がそれぞれ異なる制御方式で制御される場合には、それぞれの制御方式に応じた脈動が生じ、可聴周波数帯域のノイズが増加するおそれがある。特に回転電機80の回転速度が低速の場合、脈動成分の周波数(或いはそのサイドバンド周波数)が可聴周波数帯域に含まれる可能性が高くなる。回転電機80の制御方式、つまりインバータ10の制御方式は、高いシステム効率での動作と、可聴ノイズの低減とが両立できるように、動作条件に応じて適切に設定されることが望ましい。
【0100】
本実施形態の回転電機制御装置1は、回転電機80の制御モードとして、損失低減優先モードと、ノイズ低減優先モードとを切り替え可能に備えている。回転電機制御装置1は、損失低減優先モードでは、上述したように、第1速度域VR1において対象第1速度域制御を実行し、ノイズ低減優先モードでは対象第1速度域制御に代えて代替第1速度域制御を実行する。具体的には、回転電機制御装置1は、ノイズ低減優先モードでは、下記の表7に示すように、第1速度域VR1において、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10をパルス幅変調制御(連続パルス幅変調制御)により制御する代替第1速度域制御を、対象第1速度域制御に代えて実行する。
【0101】
【0102】
インバータ10をスイッチング制御した場合、交流電流の基本波に重畳される脈動成分が可聴周波数帯域のノイズを発生させる場合がある。特に回転電機80の回転速度が低速の場合、脈動成分の周波数(或いはそのサイドバンド周波数)が可聴周波数帯域に含まれる可能性が高くなる。例えば、2つのインバータ10がそれぞれ異なる制御方式で制御される場合には、それぞれの制御方式に応じた脈動が生じ、可聴周波数帯域のノイズが増加する可能性がある。損失低減優先モードでは、回転電機80の回転速度が相対的に低い第1速度域VR1及び第2速度域VR2において1つのインバータ10のみを駆動するため、2つのインバータ10で異なる周波数帯域のノイズを出すことはない。しかし、駆動される1つのインバータ10の出力は大きくなるので、ノイズのエネルギーは高くなる。また、第1速度域VR1及び第2速度域VR2では、車両の走行に伴う音(タイヤと路面との接地音などの走行音)も小さいため、駆動される1つのインバータ10から出力されるノイズが可聴周波数帯域のノイズの場合には、ノイズが利用者に聞こえ易くなる可能性がある。
【0103】
例えば、車両の発進時や停止に向けた減速時には、可聴周波数帯域のノイズが利用者に聞こえ易いことを考慮してノイズ低減優先モードが選択され、車両が定常走行する定常運転時には、損失低減優先モードが選択されると好適である。尚、これらのモードは、利用者による操作(設定スイッチ(タッチパネル等からの入力も含む))により、選択されてもよい。
【0104】
ノイズ低減優先モードでは、回転電機80の回転速度が相対的に低い第1速度域VR1及び第2速度域VR2において、第1インバータ11と第2インバータ12とが同じ制御方式で制御される。また、ステータコイル8に電流を流す2つのインバータ10は、電流の位相がほぼ180度異なる。2つのインバータ10が同じ制御方式で制御された場合には、脈動成分を含めて電流の位相がほぼ180度異なることになる。従って、脈動成分の少なくとも一部を互いに打ち消し合うことができ、可聴周波数帯域のノイズを低減することができる。
【0105】
図16の波形図は、ノイズ低減優先モードにおける第1速度域VR1での第1U相電圧指令Vu1
**と、第2U相電圧指令Vu2
**と、キャリアCAと、第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+と、第2U相上段側スイッチング制御信号Su2+との一例を示している。表7に示したように、ノイズ低減優先モードでは、第1速度域VR1において第1インバータ11及び第2インバータ12は共に、連続パルス幅変調制御により制御される。
【0106】
ところで、上記においては、損失低減優先モードでは、表1~表6を参照して説明したように、混合連続パルス幅変調制御(MX-CPWM)が第2速度域VR2(分割されている場合は低速度側第2速度域VR2-1)において実行される形態を例示した。しかし、下記の表8に示すように、第2速度域VR2(低速度側第2速度域VR2-1)と同様に、第1速度域VR1においても、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方に対して、混合連続パルス幅変調制御(MX-CPWM)が実行されてもよい。即ち、対象第1速度域制御として、第1インバータ11及び第2インバータ12が共に、混合連続パルス幅変調制御(MX-CPWM)により制御されてもよい。
【0107】
【0108】
つまり、損失低減優先モードにおいて、第1速度域VR1で実行される対象第1速度域制御には、表1~表6を参照して説明した方式(一方のインバータ10がアクティブショートサーキット制御(ASC)により制御される方式(ASC/PWM))と、表8を参照して説明した方式(双方のインバータ10が混合連続パルス幅変調(MX-CPWM)により制御される方式(MX-CPWM/MX-CPWM))と、の2つがある。また、表7を参照して説明したように、ノイズ低減優先モードでは、第1速度域VR1において、対象第1速度域制御に代えて、代替第1速度域制御が実行される。代替第1速度域制御は、上述したように、双方のインバータ10が連続パルス幅変調(CPWM)により制御される方式(CPWM/CPWM)である。つまり、第1速度域VR1において実行される制御方式には、「ASC/PWM」と「MX-CPWM/MX-CPWM」と「CPWM/CPWM」との3通りの制御方式がある。
【0109】
本実施形態のように、2つのインバータ10を備えている場合には、それぞれのインバータ10の直流側の電圧よりも大きい振幅の交流電圧を生成することができる。但し、回転電機制御装置1は、常に交流の振幅が大きくなるように2つのインバータ10を制御する必要はなく、例えば回転電機80の回転速度が低速の場合には、1つのインバータ10によって生成可能な交流電圧を生成すれば充分な場合がある。このため、表1~表6を参照して説明した上記の形態においては、対象第1速度域制御として、2つのインバータ10の内の一方のインバータ10が、アクティブショートサーキット制御により制御される形態を例示した。この形態では、ステータコイル8同士が一方のインバータ10において短絡されて、回転電機80は、ステータコイルが電気的中性点を有する回転電機と同様になる。つまり、実質的に2つのインバータ10の内、1つのインバータ10のみで回転電機80を駆動することになる。アクティブショートサーキット制御により制御されるインバータ10はスイッチング動作をしないので、システム全体の損失を抑制しつつ回転電機80を駆動することができる。
【0110】
表8に例示する形態では、対象第1速度域制御として、混合パルス幅変調制御が実行される。上述したように、混合パルス幅変調制御は、電気角の1周期の間におおよそ半周期ずつ、パルス幅変調される期間と、無変調(固定状態)の期間とを組み合わせた制御方式である。従って、1/2周期ずつ、実質的に2つのインバータ10の内、1つのインバータ10のみで回転電機80を駆動することになる。インバータ10は駆動時間のおおよそ1/2の期間において、スイッチング動作を行わないため、スイッチング損失が低減され、システム損失が低減される。発明者らによる実験やシミュレーションにより、対象第1速度域制御として、「ASC/PWM」と「MX-CPWM/MX-CPWM」との何れが実行された場合でも、1インバータシステムに比べて、ほぼ同様に損失の改善が図られたことが確かめられている。
【0111】
図17~
図19は、異なる制御方式におけるステータコイル8に流れる3相電流(U相電流Iu,V相電流Iv,W相電流Iw)の波形と、周波数特性(3相電流の高速フーリエ変換(FFT)による解析結果)とを示している。
図17は「MX-CPWM/MX-CPWM」での電流及び周波数特性を示し、
図18は「CPWM/CPWM」での電流及び周波数特定を示し、
図19は比較例として1インバータシステムでの電流及び周波数特性を示している。尚、「ASC/PWM」(「ASC/CPWM」)については、周波数特性が「MX-CPWM/MX-CPWM」の周波数特性とほぼ同じ傾向であるため、図示を省略している。また、ここでは、キャリアCAの周波数“f”が5[kHz]の場合を例示している。
【0112】
図17と
図19との比較より明らかなように、損失低減のために2つのインバータ10を介して回転電機80を駆動する2インバータシステムを採用した場合に、制御方式として「MX-CPWM/MX-CPWM」を用いた場合には、1インバータシステムに対して5[kHz]近傍の高調波成分(キャリアCAの周波数“f”のサイドバンド周波数“f±3fm”の高調波成分)が少し増加している(“fm”は回転電機80の回転速度、以下同様)。一方、
図18と
図19との比較より明らかなように、2インバータシステムを採用した場合でも、制御方式として「CPWM/CPWM」を用いた場合には、1インバータシステムに対して5[kHz]近傍の高調波成分(キャリアCAの周波数“f”のサイドバンド周波数“f±3fm”の高調波成分)が減少し、ほとんど観測されない。
【0113】
人の可聴周波数は、概ね20[Hz]~15[kHz]程度といわれているが、10[kHz]を超える周波数は一般的に聞こえにくく、5[kHz]近傍の周波数は騒音として感じ易い。損失低減優先モードで実行される「MX-CPWM/MX-CPWM」や「ASC/PWM」では、1インバータシステムに比べて5[kHz]近傍の高調波成分が少し増加する。一方、ノイズ低減優先モードで実行される「CPWM/CPWM」では、1インバータシステムに比べて5[kHz]近傍の高調波成分が大きく減少している。
【0114】
従って、例えば、車両の発進時や停止に向けた減速時には、可聴周波数帯域のノイズが利用者に聞こえ易いことを考慮してノイズ低減優先モードが選択されると好ましい。一方、車両が定常走行する定常運転時には、走行音などによって可聴周波数帯域のノイズが利用者に聞こえにくく、また、定常運転に占める時間は発進時等よりも遙かに長いため、定常運転時には、損失低減優先モードが選択されると好ましい。
【0115】
尚、図示は省略するが、可聴周波数帯域の高調波成分(主にキャリアCAの周波数“f”のサイドバンド周波数“f±3fm”の高調波成分)の大きさは、概ね“「CPWM/CPWM」<「ASC/PWM」(「ASC/CPWM」)≒「MX-CPWM/MX-CPWM」”のような関係となる。例えば、第1速度域VR1と第2速度域VR2との間での遷移が頻繁に発生すると予想できるようなケースでは、第1速度域VR1において「MX-CPWM/MX-CPWM」が選択されると、第1速度域VR1と第2速度域VR2との間での遷移が頻繁に発生しても同一の制御方式を継続することができるので制御性が向上する。一方、第1速度域VR1と第2速度域VR2との間での遷移が頻繁に発生しないと予想できるようなケースでは、第1速度域VR1において「ASC/PWM」(「ASC/CPWM」)が選択されると好適である。
【0116】
損失低減優先モードにおける第1速度域VR1での制御方式は、例えば、車両が走行する道路が高速道路であるか一般道路であるかに応じて選択されても良い(一般道路の場合、加減速が多いと予想されて「MX-CPWM/MX-CPWM」が選択されるなど。)。或いは、直前の車両の平均走行速度に応じて、制御方式が選択されてもよい(平均速度が低い場合、加減速が多く平均速度が低下している予想されて「MX-CPWM/MX-CPWM」が選択される)。或いは、利用者による操作(設定スイッチ(タッチパネル等からの入力も含む))により、選択されてもよい。
【0117】
図20は、比較例として、3相のステータコイル8が中性点で接続された1インバータシステムでの回転電機の制御領域の一例を示している。このインバータは、例えば、下記の表9に示すように、第1領域VR11において連続パルス幅変調制御(CPWM)により制御され、第2領域VR12において不連続パルス幅変調制御(DPWM)により制御され、第3領域VR13において矩形波制御(1-Pulse)により制御される。
【0118】
【0119】
ここで、変調率“Y”は、表5から表8に例示した変調率“X”よりも大きい値であり、連続パルス幅変調(空間ベクトルパルス幅変調)による変調率の理論上の上限値(概ね0.707)に基づき、さらにデッドタイムを考慮して、例えば0.5~0.6程度に設定されている。
【0120】
また、上述したように、本実施形態では、1インバータシステムにおいて不連続パルス幅変調(DPWM)が実行される第2領域VR12に相当する領域に第2速度域VR2が設定され、特徴的な混合パルス幅変調制御(MX-PWM)が実行される。混合パルス幅変調制御により、インバータ10の損失が低減され、また、スイッチングによる高調波電流も減少して回転電機80の損失(鉄損)も低減される。つまり、混合パルス幅変調制御を実行することによって、システム損失を低減することができる。また、第1領域VR11に相当する領域に第1速度域VR1を設定することによって、損失低減優先モードではシステム全体の損失を低減し、ノイズ低減優先モードでは損失の低減と共にノイズを低減することができる。
【0121】
図21から
図33は、1インバータシステムと2インバータシステムとの比較例、2インバータシステムにおける制御方式の比較例を示している。
図21から
図26は、相対的に低速度域(例えば、第1領域VR11、第1速度域VR1)における比較例を示している。
図28から
図33は、それよりも高速度域(例えば、第2領域VR12、第2速度域VR2)における比較例を示している。
図27は、第2速度域VR2において双方のインバータ10に対して不連続パルス幅変調制御が実行される比較例の2インバータシステムの回転電機80の制御領域Rの一例を示している。
図28から
図33では、2インバータシステムの第2速度域VR2において、双方のインバータ10に対して不連続パルス幅変調制御が実行される場合(「DPWM/DPWM」方式の制御が実行される場合)と、双方のインバータ10に対して混合連続パルス幅変調制御が実行される場合(「MX-CPWM/MX-CPWM」方式の制御が実行される場合)との比較も行っている。
【0122】
図21は、スイッチング制御信号(Su,Su1,Su2)及び線間電圧(Vuv)の比較例を示している。左側の列は、1インバータシステムの波形例を示し、それ以外の列は、2インバータシステムの波形例を示している。2インバータシステムの波形例は、左から、双方のインバータ10が連続パルス幅変調制御(CPWM)により制御される場合(CPWM/CPWM)の波形例、第1インバータ11がアクティブショートサーキット制御(ASC)により制御され、第2インバータ12が連続パルス幅変調制御(CPWM)により制御される場合(ASC/CPWM)の波形例、双方のインバータ10が混合連続パルス幅変調制御(MX-CPWM)により制御される場合(MX-CPWM/MX-CPWM)を示している。1インバータシステムは、連続パルス幅変調制御(CPWM)により制御される場合の波形例を示している。
【0123】
また、上から1段目は、第1インバータ11のU相のアーム3Aのスイッチング制御信号Su1(1インバータシステムの場合はそのインバータのU相のアームのスイッチング制御信号Su)の波形例を示し、上から2段目は、第2インバータ12のU相のアーム3Aのスイッチング制御信号Su2(1インバータシステムの場合は無し)の波形例を示している。上から3段目は、ステータコイル8のU相とV相との間の線間電圧(UV線間電圧Vuv)の波形例を示している。
【0124】
図22は、3相電流(U相電流Iu,V相電流Iv,W相電流Iw)の比較例を示している。
図23は、キャリアCAの周波数“f”(ここでは例えば5[kHz])を中心としたU相電流Iuの高速フーリエ変換(FFT)による解析結果を示しており、キャリアCAの周波数“f”のサイドバンド周波数“f±3fm”の大きさを比較している(“fm”は回転電機80の回転速度、以下同様)。
図24は、キャリアCAの周波数の2倍の周波数“2f”(ここでは例えば10[kHz]))を中心としたU相電流Iuの高速フーリエ変換(FFT)による解析結果を示しており、“2f”のサイドバンド周波数“2f±fm”の大きさを比較している。
図25は、キャリアCAの周波数“f”を中心としたUV線間電圧Vuvの高速フーリエ変換(FFT)による解析結果を示しており、キャリアCAの周波数“f”のサイドバンド周波数“f±3fm”の大きさを比較している。
図26は、キャリアCAの周波数の2倍の周波数“2f”を中心としたUV線間電圧Vuvの高速フーリエ変換(FFT)による解析結果を示しており、“2f”のサイドバンド周波数“2f±fm”の大きさを比較している。
【0125】
図24及び
図26に示すように、U相電流Iu及びUV線間電圧VuvにおけるキャリアCAの周波数の2倍の周波数“2f”のサイドバンド周波数“2f±fm”の高調波成分は、1インバータシステム及び2インバータシステムにおける「CPWM/CPWM」方式に比べて、2インバータシステムにおける「ASC/CPWM」方式及び「MX-CPWM/MX-CPWM」方式の方が小さい。このため、鉄損が抑制されると共に、「ASC/CPWM」方式では一方のインバータ10がスイッチングしないことよりスイッチング損失が低減されるので、全体のシステム損失が適切に低減される。また、「MX-CPWM/MX-CPWM」方式においても、
図8から
図11を参照して上述したように、ほぼ半周期ずつ、何れか一方のインバータ10のみがスイッチングすることになるため、スイッチング損失が低減されて全体のシステム損失が適切に低減される。従って、上述したように、システム損失の低減を優先する場合(損失低減優先モードの場合)には、第1速度域VR1において「ASC/CPWM」方式又は「MX-CPWM/MX-CPWM」方式が選択されると好適である。
【0126】
図23及び
図25に示すように、U相電流Iu及びUV線間電圧VuvにおけるキャリアCAの周波数“f”のサイドバンド周波数“f±3fm”の高調波成分は、2インバータシステムにおける「CPWM/CPWM」方式が最も小さい。2インバータシステム同士で比較して場合でも、「ASC/CPWM」方式及び「MX-CPWM/MX-CPWM」方式に比べて、「CPWM/CPWM」方式の方が、キャリアCAの周波数“f”のサイドバンド周波数“f±3fm”の高調波成分は小さい。人の可聴周波数は、概ね20[Hz]~15[kHz]程度といわれているが、10[kHz]を超える周波数は一般的に聞こえにくく、5[kHz]近傍の周波数は騒音として感じ易い。つまり、キャリアCAの周波数“f”のサイドバンド周波数“f±3fm”であり、5[kHz]周辺の高調波成分は、“2f”のサイドバンド周波数“2f±fm”である10[kHz]周辺の高調波成分に比べて可聴ノイズとなりやすい。従って、本例のようにキャリアCAの周波数“f”が5[kHz]であり、サイドバンド周波数“f±3fm”の高調波成分が可聴ノイズとなることを抑制することを優先する場合(ノイズ低減優先モードの場合)には、第1速度域VR1において「CPWM/CPWM」方式が選択されると好適である。
【0127】
また、
図24及び
図26に示すように、1インバータシステムにおける「CPWM」と2インバータシステムにおける「CPWM/CPWM」方式とでは、U相電流Iu及びUV線間電圧VuvにおけるキャリアCAの周波数の2倍の周波数“2f”のサイドバンド周波数“2f±fm”の高調波成分がほぼ同等である。従って、相対的に回転速度が低く、可聴ノイズが目立ち易い領域では、ノイズ低減優先モードが選択され、「CPWM/CPWM」方式で制御されると好適である。
【0128】
ところで、本実施形態のように混合パルス幅変調を行うことなく2インバータシステムを構築することも可能である。この場合には、1インバータシステムよりもシステム損失を低減するために、
図27に示すような制御領域Rに対して、下記の表10、表11に示すように制御方式が設定されることが考えられる。この2インバータシステムを比較例の2インバータシステムと称する。尚、制御領域Rについては、表1から表8等を参照して上述した領域と同様である。尚、表10は、表1から表6等を参照して上述したように、損失低減優先モードの制御領域と制御方式との関係を示し、表11は、表7及び表8を参照して上述したように、ノイズ低減優先モードの制御領域と制御方式との関係を示している。
【0129】
【0130】
表10に示すように、損失低減優先モードにおいて、比較例の2インバータシステムでは、回転電機制御装置1は、低速度側第1速度域VR1-1において、第1インバータ11及び第2インバータ12の一方のインバータ10をアクティブショートサーキット制御(ASC)により制御し、他方のインバータ10を連続パルス幅変調制御(CPWM)により制御する。また、回転電機制御装置1は、高速度側第1速度域VR1-2において、第1インバータ11及び第2インバータ12の一方のインバータ10をアクティブショートサーキット制御により制御し、他方のインバータ10を不連続パルス幅変調制御(DPWM)により制御する。また、回転電機制御装置1は、第2速度域VR2において、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10を不連続パルス幅変調制御により制御する。また、回転電機制御装置1は、第3速度域VR3において、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10を矩形波制御(1-Pulse)により制御する。
【0131】
また、表11に示すように、ノイズ低減優先モードにおいて、比較例の2インバータシステムでは、回転電機制御装置1は、低速度側第1速度域VR1-1において、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10を連続パルス幅変調制御(CPWM)により制御する。また、回転電機制御装置1は、高速度側第1速度域VR1-2において、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10を不連続パルス幅変調制御(DPWM)により制御する。第2速度域VR2及び第3速度域は、損失低減優先モードと同様である。
【0132】
図7、表4から表6等を参照して上述したように、混合パルス幅変調を行う本実施形態では、
図27、表10及び表11に例示する比較例の2インバータシステムにおいて「DPWM/DPWM」方式によって制御される第2速度域VR2の少なくとも一部(例えば、
図7及び
図27に示す低速度側第2速度域VR2-1)及び高速度側第1速度域VR1-2で、双方のインバータ10が混合連続パルス幅変調矩形波制御(「MX-CPWM/MX-CPWM」方式)により制御される。
【0133】
以下、
図28から
図33を参照して、双方のインバータ10に対して不連続パルス幅変調制御が実行される場合(「DPWM/DPWM」方式の制御が実行される場合)と、双方のインバータ10に対して混合連続パルス幅変調制御が実行される場合(「MX-CPWM/MX-CPWM」方式の制御が実行される場合)と、1インバータシステムにおいてインバータが不連続パルス幅変調(DPWM)により制御される場合と、を比較して説明する。
【0134】
図28は、表9及び
図20を参照して上述したように、低速度側第2速度域VR2-1に対応する領域を含む第2領域VR12で、1インバータシステムにおいて不連続パルス幅変調制御が実行される場合の波形例及びFFT解析結果例を示している。最上段は、キャリアCAとU相の電圧指令“Vu
**”とU相のスイッチング制御信号“Su”とを示し、上から2段目は、UV線間電圧Vuvを示し、上から3段目は、3相電流(U相の電流Iu、V相の電流Iv、W相の電流Iw)を示している。最下段は、U相の電流Iuの高速フーリエ変換(FFT)による解析結果を示している。
【0135】
図29は、表10、表11、
図27を参照して上述したように、低速度側第2速度域VR2-1を含む第2速度域VR2で、2インバータシステムにおいて双方のインバータ10に対して不連続パルス幅変調制御が実行される場合(「DPWM/DPWM」方式の制御が実行される場合)の波形例及びFFT解析結果例を示している。最上段は、キャリアCAと、2つのインバータ10それぞれのU相の電圧指令“Vu1
**,Vu2
**”と、2つのインバータ10のスイッチング制御信号“Su1+、Su2+”とを示している。2段目以下は、
図28と同様である。
【0136】
図30は、表3から表6、
図7等を参照して上述したように、第2速度域VR2に含まれる低速度側第2速度域VR2-1で、2インバータシステムにおいて双方のインバータ10に対して混合連続パルス幅変調制御が実行される場合(「MX-CPWM/MX-CPWM」方式の制御が実行される場合)の波形例及びFFT解析結果例を示している。波形例が示す信号は、
図29と同様である。
【0137】
図31は、表9を参照して上述した1インバータシステムにおける回転速度と可聴ノイズとの関係を示しており、
図32は、表11等を参照して上述した比較例の2インバータシステムにおける回転電機80の回転速度と可聴ノイズとの関係を示しており、
図33は、表7等を参照して上述した本実施形態の2インバータシステムにおける回転電機80の回転速度と可聴ノイズとの関係を示している。尚、
図31の1インバータシステムでは、変調率及び回転電機80の回転速度に応じて、
図20及び表9を参照して上述したように、制御領域が第1領域VR11から第2領域VR12となり、制御方式が連続パルス幅変調制御(CPWM)から不連続パルス幅変調制御(DPWM)に切り替わっている。また、
図32の比較例の2インバータシステムでは、変調率及び回転電機80の回転速度に応じて、
図5~
図7及び表11を参照して上述したように、制御領域が低速度側第1速度域VR1-1から高速度側第1速度域VR1-2となり、制御方式が「CPWM/CPWM」方式から「DPWM/DPWM」方式に切り替わっている。また、
図33の本実施形態の2インバータシステムでは、変調率及び回転電機80の回転速度に応じて、
図5~
図7及び表7を参照して上述したように、制御領域が低速度側第1速度域VR1-1から高速度側第1速度域VR1-2となり、制御方式が「CPWM/CPWM」方式から「MX-CPWM/MX-CPWM」方式に切り替わっている。
【0138】
図28と
図29との比較、及び
図28と
図30との比較より明らかなように、2インバータシステムにおいて「DPWM/DPWM」方式又は「MX-CPWM/MX-CPWM」方式の制御が実行される場合に比べて、1インバータシステムにおいて「DPWM」の制御が実行される場合の方が、3相電流に多くのリップルが重畳されている。このため、FFT解析結果に示されるように、2インバータシステムに比べて、1インバータシステムの方が、キャリアCAの周波数“f”のサイドバンド周波数“f±3fm”の高調波成分が多く発生している。このサイドバンド周波数“f±3fm”の高調波成分は、低次高調波成分(11th,13th)と重なる場合がある。
【0139】
1インバータシステムでは、
図31に示すように、回転電機80の速度に応じて発生する回転電機80のノイズ(回転速度の周波数を“fm”とした“12fm”の可聴ノイズ)と、サイドバンド周波数“f±3fm”の可聴ノイズとが、破線の丸で囲った部分で重なり、可聴ノイズが非常に大きくなる。一方、2インバータシステムでは、
図32及び
図33に示すように、キャリアCAの周波数“f”のサイドバンド周波数“f±3fm”の可聴ノイズがほとんど生じないため、回転電機80の速度に応じて発生する回転電機80の可聴ノイズ(12fm)と、このサイドバンド周波数“f±3fm”の可聴ノイズとが重なることがない。このため、1インバータシステムに比べて、2インバータシステムの方が静粛性の高いシステムを構築することができる。
【0140】
また、
図29と
図30との比較により明らかなように、「DPWM/DPWM」方式に比べて「MX-CPWM/MX-CPWM」方式の方が、インバータ10のスイッチング回数が少なくなる。従って、
図30に示す「MX-CPWM/MX-CPWM」方式の方が、
図29に示す「DPWM/DPWM」方式に比べてスイッチング損失が小さく、システム損失が低減される。上述したように、可聴ノイズに関しては、「DPWM/DPWM」方式と「MX-CPWM/MX-CPWM」方式とは同等である。従って、2インバータシステムの第2速度域VR2(低速度側第2速度域VR2-1)において、「MX-CPWM/MX-CPWM」方式を採用することによって、高い静粛性と、システム損失の低減とを実現することができる。
【0141】
ところで、表8を参照して上述したように、第1インバータ11と第2インバータ12とを共に混合パルス幅変調制御によって駆動した場合、高トルクの動作領域において、直流電源6や直流リンクコンデンサ4に流れる直流バス電流のリップル(特に、回転電機80の回転速度の周波数の3次高調波成分)が大きくなることがある。このような高調波電流リップルは、直流電源6や直流リンクコンデンサ4の寿命を低下させ、回転電機制御装置1の不具合につながる可能性もある。直流リンクコンデンサ4の容量を大きくすることで、リップルを低減させることは可能であるが、直流リンクコンデンサ4の体格の大型化やコスト上昇につながる可能性がある。以下、このようなリップルへの対応について説明する。
【0142】
図34は、回転電機80の制御領域の一例を示しており、第1速度域VR1及び第2速度域VR2において、トルクが規定トルクTref以上の領域を高トルク領域VRH、規定トルク未満の領域を低トルク領域VRLと称する。第1動作点Q1は、高トルク領域VRHに属する動作点であり、第2動作点Q2は、低トルク領域VRLに属する動作点である。以下、これら2カ所の動作点におけるシミュレーション波形、及びFFT解析結果を例示し、1インバータシステムと、一般的なパルス幅変調制御を用いた2インバータシステムと、混合パルス幅変調制御を用いた2インバータシステムと比較して説明する。尚、参考として、
図20に、1インバータシステムにおける第1動作点Q1及び第2動作点Q2を示している。また、波形例には、具体的な数値は示していないが、回転電機80の出力を同等とするため、1インバータシステムでは、直流側の電圧の定格(直流リンク電圧Vdcの定格)は、2インバータシステムの直流リンク電圧Vdcの定格の2倍としている。
【0143】
図35~
図39は、
図20及び
図34の第1動作点Q1における、1インバータシステムと、一般的なパルス幅変調制御を用いた2インバータシステムと、混合パルス幅変調制御を用いた2インバータシステムとの波形例の比較例、及びFFT解析結果の比較例を示している。また、
図40~
図44は、
図20及び
図34の第2動作点Q2における、1インバータシステムと、一般的なパルス幅変調制御を用いた2インバータシステムと、混合パルス幅変調制御を用いた2インバータシステムとの波形例の比較例、及びFFT解析結果の比較例を示している。
図35~
図44の全てにおいて、左から右へ、1インバータシステム、一般的なパルス幅変調制御を用いた2インバータシステムと、混合パルス幅変調制御を用いた2インバータシステムの順に示している。また、
図35~
図44の全てにおいて、上段側は波形例を示し、下段側はFFT解析結果を示している。
【0144】
尚、1インバータシステムではインバータ10を不連続パルス幅変調制御(DPWM)により駆動し、一般的なパルス幅変調制御を用いた2インバータシステムでは双方のインバータ10を不連続パルス幅編変調制御(DPWM/DPWM)により駆動し、混合パルス幅変調制御を用いた2インバータシステムでは双方のインバータ10を混合連続パルス幅編変調制御(MX-CPWM/MX-CPWM)により駆動した形態でシミュレーションを行っている。また、
図35~
図44において、“fm”は、回転電機80の回転速度の周波数(回転周波数)を示し、“f”はインバータ10のスイッチング周波数(キャリアCAの周波数)を示している。上述したように、ここでは、スイッチング周波数“f”を5[kHz]としてシミュレーションを行っている。
【0145】
図35及び
図40は、3相交流の相電流(Iu,Iv,Iw)の波形、及び相電流(例えば代表としてU相電流Iu)のFFT解析結を示している。
図36及び
図41は、直流バス電流Idcの波形、及び直流バス電流IdcのFFT解析結果を示している。尚、2インバータシステムについては、代表として、第1インバータ11の直流側の電流波形を示している。
図37及び
図42は、直流電源6を流れるバッテリ電流Ibの波形、及びバッテリ電流IbのFFT解析結果を示している。2インバータシステムについては、代表として、第1インバータ11の側の第1直流電源61を流れる電流の波形を示している。
図38及び
図43は、直流リンクコンデンサ4を流れるコンデンサ電流Icの波形、及びコンデンサ電流IcのFFT解析結果を示している。2インバータシステムについては、代表として、第1インバータ11の側の第1直流リンクコンデンサ41を流れる電流の波形を示している。
【0146】
図39及び
図44は、直流リンク電圧Vdcの波形、特に直流リンク電圧Vdcに現れる直流バス電圧リップル波形、及び直流バス電圧リップルのFFT解析結果を示している。直流リンク電圧Vdc(2インバータで100~200[V]、1インバータシステムで200~400[V])に比べて、直流バス電圧リップルの波高は、10[V]程度と小さいため、
図39及び
図44には、直流の定格値近傍の交流成分の波形を示している。
また、2インバータシステムについては、代表として、第1インバータ11の直流リンク電圧Vdcの波形を示している。
【0147】
図35及び
図40に示すように、1インバータシステムでは、スイッチング周波数“f”の近傍において、高いノイズ成分が発生している。しかし、2インバータシステムでは、第1インバータ11と第2インバータ12とで互いにスイッチング周波数“f”に起因するノイズを打ち消し合い、スイッチング周波数“f”近傍のノイズ成分は大きく抑制されている。
【0148】
図36及び
図41に示すように、直流バス電流Idcは、2インバータシステムにおいても、それぞれのインバータ10を流れる電流であるため、スイッチング周波数“f”に起因する電流リップルを打ち消すことができず、1インバータシステムと同様のノイズ成分が観測されている。特に、1インバータシステムと、一般的なパルス幅変調制御を用いた2インバータシステムとは、制御方式が共に不連続パルス幅変調制御(DPWM)であるから、FFT解析結果はほぼ同様である。一方、混合連続パルス幅変調制御(MX-CPWM)を用いた2インバータシステムでは、
図8等を参照して上述したように電気角の一周期の中でパルスが非対称となるため、回転周波数“fm”の3次高調波成分“3fm”のリップルが高い値で観測されている。
【0149】
図37及び
図42に示すバッテリ電流Ibについても、直流バス電流Idcと同様の傾向が観測される。その結果、第1動作点Q1でのバッテリ電流Ibにおけるリップル成分の波高は、
図37に示すように、1インバータシステムでは約30[A]、一般的な不連続パルス幅変調制御を用いた2インバータシステムでは約50[A]であるのに対して、混合不連続パルス幅変調制御を用いた2インバータシステムでは、約130[A]と非常に大きくなっている。一方、第2動作点Q2でのバッテリ電流Ibにおけるリップル成分の波高は、
図42に示すように、1インバータシステム及び一般的な不連続パルス幅変調制御を用いた2インバータシステムでは20[V]未満であり、混合不連続パルス幅変調制御を用いた2インバータシステムでも50[A]未満である。つまり、相対的にトルクの小さい第2動作点Q2でのバッテリ電流Ibにおけるリップル成分の波高は、混合不連続パルス幅変調制御を用いた2インバータシステムであっても、相対的にトルクの大きい第1動作点Q1での一般的な不連続パルス幅変調制御を用いた2インバータシステムにおける波高(約50[A])未満に抑制されている。
【0150】
コンデンサ電流Icは、「バッテリ電流Ib-直流バス電流Idc」である。従って、
図38及び
図43に示すように、バッテリ電流Ib及び直流バス電流Idcと同様の傾向が観測される。即ち、混合不連続パルス幅変調制御を用いた2インバータシステムでは、回転周波数“fm”の3次高調波成分“3fm”のリップル成分が観測されるが、第1動作点Q1に比べて第2動作点Q2では、コンデンサ電流Icのリップル成分の波高が抑制され、一般的な不連続パルス幅変調制御を用いた2インバータシステムと同等程度となっている。
【0151】
図39及び
図44に示すように、直流リンク電圧Vdcにも同様の傾向が観測される。
即ち、混合不連続パルス幅変調制御を用いた2インバータシステムでは、回転周波数“fm”の3次高調波成分“3fm”のリップル成分が観測され、第1動作点Q1では、他のシステムにおける10[V]程度の波高のリップル電圧に対して、約15[V]の波高を有するリップル電圧が観測される。しかし、第1動作点Q1に比べて第2動作点Q2では、このリップル電圧の波高が抑制され、一般的な不連続パルス幅変調制御を用いた2インバータシステムにおける3[V]程度の波高のリップル電圧に対して、約5[V]の波高のリップル電圧となり、一般的な不連続パルス幅変調制御を用いた2インバータシステムとほぼ同等程度に抑制されている。
【0152】
バッテリ電流Ibのリップルが大きくなると、直流電源6の損失が大きくなる。この損失は熱となるため、直流電源6の発熱量が大きくなり、直流電源6の寿命を縮める可能性がある。上述したような回転周波数“fm”の3次高調波成分のリップルを低減させるためには、直流リンクコンデンサ4の容量を大きくすることが考えられる。但し、これは直流リンクコンデンサ4の体格の大型化につながり、部品単価の上昇や収容スペースの拡大等によってコストを上昇させる可能性がある。
【0153】
図35~
図44を参照して上述したように、相対的に低トルクの第2動作点Q2では、相対的に高トルクの第1動作点Q1に比べて、回転周波数“fm”の3次高調波成分のリップルが抑制されている。従って、第2動作点Q2を含む制御領域(低トルク領域VRL)では、混合パルス幅変調制御により双方のインバータ10が駆動され、第1動作点Q1を含む制御領域(高トルク領域(VRH))では、一般的なパルス幅変調により双方のインバータ10が駆動されると好適である。即ち、回転電機制御装置1は、第1速度域VR1及び第2速度域VR2において、予め規定されたトルクである規定トルクTref以上の高トルク領域VRHでは、第1インバータ11及び第2インバータの双方のインバータ10をパルス幅変調制御により制御し、規定トルクTref未満の低トルク領域VRLでは、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10を混合パルス幅変調制御により制御すると好適である。例えば、回転電機制御装置1は、下記表12のようにインバータ10を駆動すると好適である。
【0154】
【0155】
ここで、表8を参照して上述した制御領域に対応させると、下記表13のようになる。
図34には、この形態に対応させた制御領域Rと制御方式とを例示している。尚、表8や表12に示した通り、Mi_sis、Mi_inv1、Mi_inv2は、同じであるから、表13では、Mi_inv1、Mi_inv2は省略している。
【0156】
【0157】
即ち、表13に例示するように、回転電機制御装置1は、第1速度域VR1及び低速度側第2速度域VR2-1における規定トルクTref未満の低トルク領域VRLでは第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10を混合連続パルス幅変調制御(MX-CPWM)により制御し、高速度側第2速度域VR2-2における規定トルクTref未満の低トルク領域VRLでは、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10を混合不連続パルス幅変調制御(MX-DPWM)により制御する。また、回転電機制御装置1は、第1速度域VR1における高トルク領域VRHでは、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10を連続パルス幅変調制御(CPWM)により制御し、第2速度域VR2における高トルク領域VRHでは、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10を不連続パルス幅変調制御(DPWM)により制御する。
【0158】
尚、実際の直流電源6は、抵抗成分(バッテリ抵抗Rb)及びインダクタンス成分(バッテリインダクタンスLb)を有している。発明者らのシミュレーションでは、既存の直流電源6におけるバッテリ抵抗Rb及びバッテリインダクタンスLbを用いて、直流バス電流Idcからバッテリ電流Ib及び直流リンク電圧Vdcを演算している。演算されたバッテリ電流Ib及び直流リンク電圧Vdcの値は、スイッチング周波数“f”に基づく電流ゲインの周波数特性と一致していることも確認できている。尚、バッテリ抵抗Rb及びバッテリインダクタンスLbが大きくなると、電流ゲインが小さくなる方向に周波数特性が変わるため、さらに電流リップルが低減される。
【0159】
以下、
図45及び
図46のフローチャートも参照して説明する。
図45のフローチャートは、直流リンクコンデンサ4に流れる直流バス電流のリップルを考慮していない場合の制御方式の選択例を示すフローチャートである。具体的には、
図45は、上述した表8及び表11に示す制御方式が選択される場合の判定手順の一例を示している。
図46は、
図34~
図44を参照して上述したように、直流リンクコンデンサ4に流れる直流バス電流を考慮した場合の制御方式の選択例を示すフローチャートである。具体的には、
図46は、上述した表13に示す制御方式が選択される場合の判定手順の一例を示している。
図45及び
図46において、“M”、“X
1”、“X
2”は変調率、“S”、“S
1~S
7”は回転電機80の回転速度、“T”は回転電機80のトルク、“Tref”は規定トルクを示している。
【0160】
図45に示すように、はじめに運転モード(Drive mode)が選択される(#1)。ここでノイズ低減優先モード(ノイズ優先モード:Noise priority mode)が選択されると、表11の条件に従って制御方式が選択され(#3:PWM pattern Selection)、ステップ#4に示す各制御方式が決定される。尚、ステップ#3における“X
1”は、表11における“a”に相当する。
図45及び表11に示すように、変調率“M”が“X
1(a)”未満であり、回転速度“S”が“S
1”未満の場合には、双方のインバータ10の制御方式として連続パルス幅変調制御(CPWM)が選択される(#31→#41)。変調率“M”が“X
1(a)”以上“0.78”未満であり、回転速度“S”が“S
1”以上“S
2”未満の場合には、双方のインバータ10の制御方式として不連続パルス幅変調制御(DPWM)が選択される(#32→#42)。変調率“M”が“0.78” であり、回転速度“S”が“S
2”以上“S
3”未満の場合には、双方のインバータ10の制御方式として矩形波制御(1-Pulse)が選択される(#33→#43)。
【0161】
ステップ#1において、損失低減優先モード(効率優先モード:Efficiency priority mode)が選択されると、表8の条件に従って制御方式が選択され(#5:PWM pattern Selection)、ステップ#6に示す各制御方式が決定される。尚、ステップ#5における“X
2”は、表8における“b”に相当する。
図45及び表8に示すように、変調率“M”が“X
2(b)”未満であり、回転速度“S”が“S
4”未満の場合には、双方のインバータ10の制御方式として混合連続パルス幅変調制御(MX-CPWM)が選択される(#51→#61)。変調率“M”が“X
2(b)”以上“0.78”未満であり、回転速度“S”が“S
4”以上“S
5”未満の場合には、双方のインバータ10の制御方式として混合不連続パルス幅変調制御(MX-DPWM)が選択される(#52→#62)。変調率“M”が“0.78” であり、回転速度“S”が“S
5”以上“S
6”未満の場合には、双方のインバータ10の制御方式として矩形波制御(1-Pulse)が選択される(#53→#63)。
【0162】
直流リンクコンデンサ4に流れる直流バス電流を考慮する場合も、同様に、
図46に示すように、はじめに運転モードが選択される(#1)。ここで、損失低減優先モード(Efficiency priority mode)が選択されると、次に、回転電機80のトルクが規定トルクTrefを越えているか否かが判定される(#2:Torque check)。回転電機80のトルクが規定トルクTref未満の場合には、表13の上段側の条件に従って制御方式が選択され(#5)、決定される(#6)。ステップ#5及びステップ#6は、
図45と同様であるため、詳細な説明は省略する。尚、ステップ#3における“X
2”は、表13における“b”に相当する。
【0163】
ステップ#1においてノイズ低減優先モード(ノイズ優先モード:Noise priority mode)が選択された場合、又は、ステップ#1において損失低減優先モード(Efficiency priority mode)が選択され、ステップ#2の“Torque check”において回転電機80のトルクが規定トルクTref以上であると判定されると、表13の下段側の条件に従って制御方式が選択され(#3)、決定される(#4)。ステップ#3及びステップ#4は、
図45と同様であるため、詳細な説明は省略する。尚、ステップ#3における“X
1”は、表13における“X”に相当する。
【0164】
図46を参照して上述した形態では、ステップ#2において“Torque check”が実行される形態を例示した。しかし、
図47に示すように、ステップ#2において、トルクと回転速度との双方が基準を満足しているか否かが判定されてもよい。具体的には、はじめに運転モードが選択され(#1)、ここで、損失低減優先モード(Efficiency priority mode)が選択されると、次に、回転電機80のトルク“T”が規定トルクTrefを越えており、且つ、規定回転速度Srefを超えているか否かが判定される(#2)。回転電機80のトルク“T”が規定トルクTref以下である場合、又は、回転電機80の回転速度“S”が規定回転速度Sref以下である場合、又は、回転電機80のトルク“T”が規定トルクTref以下であると共に回転電機80の回転速度“S”が規定回転速度Sref以下である場合には、表13の上段側の条件と同様に制御方式が選択され(#5)、決定される(#6)。ステップ#5及びステップ#6は、
図45及び
図46と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0165】
ステップ#1においてノイズ低減優先モード(ノイズ優先モード:Noise priority mode)が選択された場合、又は、ステップ#1において損失低減優先モード(Efficiency priority mode)が選択され、続くステップ#2において回転電機80のトルク“T”が規定トルクTrefを越えており、且つ、回転電機80の回転速度“S”が規定回転速度Srefを越えている、と判定された場合には、表13の下段側の条件と同様に制御方式が選択され(#3)、決定される(#4)。ステップ#3及びステップ#4は、
図45及び
図46と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0166】
即ち、
図46には、相対的に高トルク領域において、効率を優先した損失低減優先モード(Efficiency priority mode)で回転電機80が駆動され、相対的に低トルク領域において、ノイズ低減優先モード(ノイズ優先モード:Noise priority mode)で回転電機80が駆動される形態を例示している。
図47では、相対的に高トルク且つ高回転速度領域にて、効率を優先した損失低減優先モード(Efficiency priority mode)で回転電機80が駆動され、相対的に低トルク且つ低回転速度領域において、ノイズ低減優先モード(ノイズ優先モード:Noise priority mode)で回転電機80が駆動される形態を例示している。
【0167】
〔第2実施形態〕
以下、回転電機80の動作条件に応じて、第1インバータ11と第2インバータ12とを異なる制御方式で制御する制御モードを有する回転電機制御装置1の第2の実施形態について詳細に説明する。上述した第1実施形態と同様の事項については、第1実施形態の説明において参照した図面を参照して説明する。また、第1実施形態とは異なる図面を参照した第2実施形態の説明においても、第1実施形態と共通する事項については、同一の参照符号を用いて説明する。
【0168】
本実施形態(第2実施形態)では、回転電機80の動作条件に応じた複数の制御領域R(
図48等参照)が設定され、回転電機制御装置1は、それぞれの制御領域Rに応じた制御方式でインバータ10を制御している。
図48は、回転電機80の回転速度とトルクとの関係の一例を示している。例えば、
図48に示すように、回転電機80の制御領域Rとして、第1速度域VR1と、同じトルクTにおける回転電機80の回転速度が第1速度域VR1よりも高い第2速度域VR2と、同じトルクTにおける回転電機80の回転速度が第2速度域VR2よりも高い第3速度域VR3とが設定される。
【0169】
例えば、下記の表14に示すように、回転電機制御装置1は、第1速度域VR1において、第1インバータ11及び第2インバータ12の一方のインバータ10をアクティブショートサーキット制御(ASC)により制御し、他方のインバータ10を連続パルス幅変調制御(CPWM)により制御する。また、回転電機制御装置1は、第2速度域VR2において、第1インバータ11及び第2インバータ12の一方のインバータ10をアクティブショートサーキット制御により制御し、他方のインバータ10を不連続パルス幅変調制御(DPWM)により制御する。また、回転電機制御装置1は、第3速度域VR3において、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10を不連続パルス幅変調制御により制御する。以下、第1速度域VR1、第2速度域VR2、第3速度域VR3におけるこのような制御を対象制御と称する。
【0170】
【0171】
尚、表1には、第1速度域VR1及び第2速度域VR2において、第1インバータ11をアクティブショートサーキット制御により制御する形態を例示しているが、当然ながら、第2インバータ12をアクティブショートサーキット制御により制御する形態であってもよい。また、第1速度域VR1において第1インバータ11をアクティブショートサーキット制御により制御し、第2速度域VR2において第2インバータ12をアクティブショートサーキット制御により制御するなど、第1速度域VR1と第2速度域VR2とで、アクティブショートサーキット制御による制御対象とするインバータ10を異ならせてもよい(逆の組み合わせも含む)。
【0172】
さらに、第1速度域VR1及び第2速度域VR2において、第1インバータ11を制御する制御方式と第2インバータ12を制御する制御方式とを、予め規定された条件に従って交互に入れ替えてもよい。制御方式を入れ替えることによって、第1インバータ11及び第2インバータ12の何れか一方だけが消耗することや、第1直流電源61及び第2直流電源62の何れか一方だけの放電量が増加することを抑制することができる。ここで、規定された条件とは、例えば、一定の時間や、直流電源6の放電量であると好適である。
【0173】
第1速度域VR1及び第2速度域VR2においては、2つのインバータ10の内の一方のインバータ10(例えば第1インバータ11)が、アクティブショートサーキット制御により制御される。つまり、実質的に2つのインバータ10の内、1つのインバータ10(例えば第2インバータ12)のみで回転電機80を駆動することになる。一方のインバータ10がスイッチング動作をしないので、その分のスイッチング損失を低減することができ、その結果、システム全体の損失を抑制しつつ回転電機80を駆動することができる。
【0174】
本構成のように、2つのインバータ10を備えている場合には、それぞれのインバータ10の直流側の電圧よりも大きい振幅の交流電圧を生成することができる。但し、回転電機制御装置1は、常に交流の振幅が大きくなるように2つのインバータ10を制御する必要はなく、例えば回転電機80の回転速度が低速の場合には、1つのインバータ10によって生成可能な交流電圧を生成すれば充分な場合がある。2つのインバータ10の内の一方をアクティブショートサーキット制御により制御すると、3相のステータコイル8が当該一方のインバータ10において短絡されることになる。この場合、他方のインバータ10は、中性点を有するように接続されたステータコイル8を有する回転電機80を駆動制御することになる。
【0175】
また、上述したように、連続パルス幅変調による変調率は、正弦波パルス幅変調よりも空間ベクトルパルス幅変調の方が大きく、さらに、空間ベクトルパルス幅変調よりも、不連続パルス幅変調の方が大きい。第2速度域VR2は、第1速度域VR1よりも回転電機80の回転速度が高い制御領域であり、第2速度域VR2では第1速度域VR1よりも高い変調率が要求される。第1速度域VR1において連続パルス幅変調制御を行い、第2速度域VR2において不連続パルス幅変調制御を行うことによって、第1速度域VR1と第2速度域VR2とを合わせた制御領域において、1つのインバータ10によって回転電機80を駆動することができる。即ち、第1速度域VR1と第2速度域VR2とを合わせた広い制御領域において、2つのインバータ10の内の1つのインバータ10がスイッチング動作をしないので、システム全体の損失を抑制して回転電機80を駆動することができる。
【0176】
このように、それぞれの制御領域Rの境界(第1速度域VR1と第2速度域VR2と第3速度域VR3との境界)は、回転電機80のトルクに応じた回転電機80の回転速度と、直流電圧に対する複数相の交流電圧の線間電圧の実効値(指令値であっても出力電圧からの換算値でもよい)の割合との少なくとも一方に応じて設定されていると好適である。
【0177】
回転電機80の動作条件は、
図48に例示するように、しばしば回転速度とトルクとの関係で定義される。制御領域Rが、1つのパラメータである回転速度に基づいて、設定されていると良い。ここで、制御領域Rの境界を規定する回転速度を、トルクに関わらず一定に設定することも可能であるが、制御領域Rの境界を規定する回転速度が、トルクに応じて異なる値となるように設定されているとさらに好適である。このようにすることにより、回転電機80の動作条件に応じて高い効率で回転電機80を駆動制御することができる。
【0178】
また、例えば、回転電機80に高い出力(速い回転速度や高いトルク)が要求される場合、電圧型のインバータでは、直流電圧を高くすることや、直流電圧が交流電圧に変換される割合を高くすることで当該要求が実現される。直流電圧が一定の場合には、直流電圧が交流電圧に変換される割合を高くすることで当該要求を実現することができる。この割合は、直流電力に対する3相交流電力の実効値の割合(電圧型のインバータの場合には、直流電圧に対する3相交流電圧の実効値の割合と等価)として示すことができる。上述したように、インバータ10を制御する制御方式には、この割合が低いものから高いものまで種々の方式が存在する。
【0179】
下記の表15に示すように、制御領域Rが、回転電機80に対する要求に応じて定まる直流電力に対する3相交流電力の実効値の割合(変調率)に基づいて設定されていると、回転電機80の動作条件に応じて高い効率で回転電機80を駆動制御することができる。尚、表中において、“Mi_inv1”は第1インバータ11の変調率、“Mi_inv2”は第2インバータ12の変調率、“Mi_sys”はシステム全体の変調率を示している。
【0180】
【0181】
また、
図49及び下記表16に示すように、同じトルクにおける回転電機80の回転速度が第3速度域VR3よりも高い第4速度域VR4がさらに設定されてもよい。この場合、回転電機制御装置1は、第4速度域VR4において、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10を矩形波制御により制御する(
図14参照)。上述したように、矩形波制御における変調率は0.78である。
【0182】
【0183】
上記、表15及び表16には、それぞれの制御領域Rに対応する変調率を例示している。本実施形態では、第1直流電源61の端子間電圧“E1”と第2直流電源62の端子間電圧“E2”は同じである(共に電圧“E”)。第1インバータ11の交流側の実効値を“Va_inv1”、第2インバータ12の交流側の実効値を“Va_inv2”とすると、第1インバータ11の変調率“Mi_inv1”、及び第2インバータ12の変調率“Mi_inv2”は第1実施形態の説明において示した式(1)、(2)のようになる(下記に再掲する)。また、システム全体の変調率“Mi_sys”は、式(3)のようになる(下記に再掲する)。
【0184】
Mi_inv1=Va_inv1/E1=Va_inv1/E ・・・(1)
Mi_inv2=Va_inv2/E2=Va_inv2/E ・・・(2)
Mi_sys =(Va_inv1+Va_inv2)/(E1+E2)
=(Va_inv1+Va_inv2)/2E ・・・(3)
【0185】
電圧の瞬時値については、瞬時におけるベクトルを考慮する必要があるが、単純に変調率だけを考えると、式(1)~(3)より、システム全体の変調率“Mi_sys”は、“(Mi_inv1+Mi_inv2)/2”となる。尚、表15及び表16では、定格値としてそれぞれの制御領域Rに対応する変調率を示している。このため、実際の制御に際しては、制御領域Rで制御方式が変わる場合のハンチング等を考慮して、それぞれの制御領域Rに対応する変調率に重複する範囲が含まれていてもよい。
【0186】
尚、変調率“X”は、連続パルス幅変調(空間ベクトルパルス幅変調)による変調率の理論上の上限値(概ね0.707)に基づき、さらに、デッドタイムを考慮して設定される。表15、表16等に示すように、第1速度域VR1及び第2速度域VR2では、1つのインバータ10のみで変調を行う場合がある。従って、第1速度域VR1及び第2速度域VR2では、1つのインバータ10(ここでは第2インバータ12)の最大変調率“2X”が、連続パルス幅変調制御による変調率の理論上の上限値(空間ベクトルパルス幅変調で概ね0.707)に基づき、さらに、デッドタイムを考慮して、例えば0.5~0.6程度に設定される。従って、変調率“X”は、例えば、0.25~0.3程度の値に設定される。変調率“a”は、実験やシミュレーション等に基づいて、適宜設定される。
【0187】
表15及び表16に例示した形態におけるそれぞれの制御領域Rでの制御方式についての、U相の電圧指令(Vu1
**,Vu2
**)及びU相上段側スイッチング制御信号(Su1+,Su2+)の波形例については、第1実施形態において
図12~
図16を参照して説明した通りであるから、詳細な説明は省略する。
【0188】
以上、説明したように、相対的に変調率及び回転速度が低く、相対的に低い電力領域である第1速度域VR1及び第2速度域VR2では、全ての電力が1つのインバータ10から供給される。この時、一方のインバータ10に対しては、アクティブショートサーキット制御を行うように電圧指令(V**)が与えられ、他方のインバータ10に対しては通常の電圧指令(V**)が与えられる。相対的に変調率及び回転速度が高く、相対的に高い電力領域である第3速度域VR3及び第4速度域VR4では、2つのインバータ10から同等の電力が供給される。この時、双方のインバータ10に対して、位相が180度(π)異なる同じ電圧指令(V**)が与えられる。
【0189】
ところで、インバータ10をスイッチング制御した場合、交流電流の基本波に重畳される脈動成分が可聴周波数帯域のノイズを発生させる場合がある。2つのインバータ10がそれぞれ異なる制御方式で制御される場合には、それぞれの制御方式に応じた脈動が生じ、可聴周波数帯域のノイズが増加するおそれがある。特に回転電機80の回転速度が低速の場合、脈動成分の周波数(或いはそのサイドバンド周波数)が可聴周波数帯域に含まれる可能性が高くなる。回転電機80の制御方式、つまりインバータ10の制御方式は、高いシステム効率での動作と、可聴ノイズの低減とが両立できるように、動作条件に応じて適切に設定されることが望ましい。
【0190】
本実施形態の回転電機制御装置1は、回転電機80の制御モードとして、損失低減優先モードと、ノイズ低減優先モードとを切り替え可能に備えている。回転電機制御装置1は、損失低減優先モードでは、上述したように、対象制御を実行し、ノイズ低減優先モードでは対象制御に代えて代替制御を実行する。具体的には、回転電機制御装置1は、ノイズ低減優先モードでは、下記の表17に示すように、第1速度域VR1において、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10を連続パルス幅変調制御により制御し、第2速度域VR2において、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10を不連続パルス幅変調制御により制御し、第3速度域VR3において、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10を不連続パルス幅変調制御により制御する代替制御を、対象制御に代えて実行する。
【0191】
【0192】
第4速度域VR4が設定されている場合も同様であり、下記表18に示すように、回転電機制御装置1は、損失低減優先モードでは対象制御を実行し、ノイズ低減優先モードでは対象制御に代えて代替制御を実行する。具体的には、回転電機制御装置1は、ノイズ低減優先モードでは、第4速度域VR4において、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10を矩形波制御により制御する代替制御を、対象制御に代えて実行する。
【0193】
【0194】
インバータ10をスイッチング制御した場合、交流電流の基本波に重畳される脈動成分が可聴周波数帯域のノイズを発生させる場合がある。特に回転電機80の回転速度が低速の場合、脈動成分の周波数(或いはそのサイドバンド周波数)が可聴周波数帯域に含まれる可能性が高くなる。例えば、2つのインバータ10がそれぞれ異なる制御方式で制御される場合には、それぞれの制御方式に応じた脈動が生じ、可聴周波数帯域のノイズが増加する可能性がある。損失低減優先モードでは、回転電機80の回転速度が相対的に低い第1速度域VR1及び第2速度域VR2において1つのインバータ10のみを駆動するため、2つのインバータ10が異なる周波数帯域のノイズを出すことはない。しかし、駆動される1つのインバータ10の出力は大きくなるので、ノイズのエネルギーは高くなる。また、第1速度域VR1及び第2速度域VR2では、車両の走行に伴う音(タイヤと路面との接地音などの走行音)も小さいため、駆動される1つのインバータ10から出力されるノイズが可聴周波数帯域のノイズの場合には、ノイズが利用者に聞こえ易くなる可能性がある。
【0195】
例えば、車両の発進時や停止に向けた減速時には、可聴周波数帯域のノイズが利用者に聞こえ易いことを考慮してノイズ低減優先モードが選択され、車両が定常走行する定常運転時には、損失低減優先モードが選択されると好適である。尚、これらのモードは、利用者による操作(設定スイッチ(タッチパネル等からの入力も含む))により、選択されてもよい。
【0196】
ノイズ低減優先モードでは、回転電機80の回転速度が相対的に低い第1速度域VR1及び第2速度域VR2において、第1インバータ11と第2インバータ12とが同じ制御方式で制御される。また、ステータコイル8に電流を流す2つのインバータ10は、電流の位相がほぼ180度異なる。2つのインバータ10が同じ制御方式で制御された場合には、脈動成分を含めて電流の位相がほぼ180度異なることになる。従って、脈動成分の少なくとも一部を互いに打ち消し合うことができ、可聴周波数帯域のノイズを低減することができる。
【0197】
表17に示したように、ノイズ低減優先モードでは、第1速度域VR1において第1インバータ11及び第2インバータ12は共に、連続パルス幅変調制御により制御される(
図16参照)。また、第2速度域VR2では、第3速度域VR3と同様に、第1インバータ11及び第2インバータ12は共に、不連続パルス幅変調制御により制御される(
図15参照)。
【0198】
図50は、比較例として、3相のステータコイル8が中性点で接続された1インバータシステムでの回転電機の制御領域の一例を示している。このインバータは、下記の表19に示すように、例えば、比較用第1領域VR11において連続パルス幅変調制御により制御され、比較用第2領域VR13において不連続パルス幅変調制御により制御され、比較用第3領域VR14において矩形波制御により制御される。尚、
図20を参照した第1実施形態の説明から明らかなように、第2実施形態における比較用第1領域VR11は第1実施形態の第1領域VR11に、第2実施形態における比較用第2領域VR13は第1実施形態の第2領域VR12に、第2実施形態における比較用第3領域VR14は第1実施形態の第3領域VR13に、概ね対応している。
【0199】
【0200】
ここで、変調率“Y”は、表15から表18に例示した変調率“X”よりも大きい値であり、連続パルス幅変調(空間ベクトルパルス幅変調)による変調率の理論上の上限値(概ね0.707)に基づき、さらにデッドタイムを考慮して例えば0.5~0.6程度に設定されている。上述したように、本実施形態では、比較用第1領域VR11に相当する領域に第1速度域VR1、第2速度域VR2を設定することによって、損失低減優先モードではシステム全体の損失を低減し、ノイズ低減優先モードでは損失の低減と共にノイズを低減することができる。
【0201】
尚、
図49と
図50との比較、表19と表15との比較、表19と表16との比較等により明らかなように、比較用第1領域VR11に相当する領域には、第1速度域VR1、第2速度域VR2だけではなく、第3速度域VR3の一部も設定することができる。つまり、比較用第1領域VR11の高速度側に、第3速度域VR3の一部を設定することができる。これにより、より低速度側の制御領域に不連続パルス幅変調制御を実行する領域が拡張され、電流リップルの軽減及びスイッチング損失の軽減によりシステム損失を軽減できている。つまり、システム効率の高い制御領域をより低速度側に拡張することで、システム全体の効率を向上させることができる。
【0202】
以下、第1実施形態の説明において参照した
図21~
図26、
図28、
図29、
図31、
図32(1インバータシステムと2インバータシステムとの比較例、2インバータシステムにおける制御方式の比較例)を参照して説明する。
図21から
図26は、相対的に低速度域(例えば、比較用第1領域VR11、第1速度域VR1)における比較例を示している。
図28、
図29、
図31、
図32は、それよりも高速度域(例えば、比較用第2領域VR13、第3速度域VR3)における比較例を示している。尚、これらの図には、第1実施形態において採用している混合連続パルス幅変調制御(MX-CPWM)に関する波形例も示されているが、第2実施形態では、混合連続パルス幅変調制御(MX-CPWM)は行わないため、この波形は無視して説明する。
【0203】
図24及び
図26に示すように、U相電流Iu及びUV線間電圧VuvにおけるキャリアCAの周波数の2倍の周波数“2f”のサイドバンド周波数“2f±fm”の高調波成分は、1インバータシステム及び2インバータシステムにおける「CPWM/CPWM」方式に比べて、2インバータシステムにおける「ASC/CPWM」方式の方が小さい。このため、鉄損が抑制されると共に、「ASC/CPWM」方式では一方のインバータ10がスイッチングしないことよりスイッチング損失が低減されるので、全体のシステム損失が適切に低減される。従って、上述したように、システム損失の低減を優先する場合(損失低減優先モードの場合)には、第1速度域VR1において「ASC/CPWM」方式が選択されると好適である。
【0204】
一方、
図23及び
図25に示すように、U相電流Iu及びUV線間電圧VuvにおけるキャリアCAの周波数“f”のサイドバンド周波数“f±3fm”の高調波成分は、2インバータシステムにおける「CPWM/CPWM」方式が最も小さい。人の可聴周波数は、概ね20[Hz]~15[kHz]程度といわれているが、10[kHz]を超える周波数は一般的に聞こえにくく、5[kHz]近傍の周波数は騒音として感じ易い。つまり、キャリアCAの周波数“f”のサイドバンド周波数“f±3fm”であり、5[kHz]周辺の高調波成分は、“2f”のサイドバンド周波数“2f±fm”である10[kHz]周辺の高調波成分に比べて可聴ノイズとなりやすい。従って、本例のようにキャリアCAの周波数“f”が5[kHz]であり、サイドバンド周波数“f±3fm”の高調波成分が可聴ノイズとなることを抑制することを優先する場合(ノイズ低減優先モードの場合)には、第1速度域VR1において「CPWM/CPWM」方式が選択されると好適である。
【0205】
また、
図24及び
図26に示すように、1インバータシステムにおける「CPWM」と2インバータシステムにおける「CPWM/CPWM」方式とでは、U相電流Iu及びUV線間電圧VuvにおけるキャリアCAの周波数の2倍の周波数“2f”のサイドバンド周波数“2f±fm”の高調波成分がほぼ同等である。従って、相対的に回転速度が低く、可聴ノイズが目立ち易い領域では、ノイズ低減優先モードが選択され、「CPWM/CPWM」方式で制御されると好適である。
【0206】
図28は、表19及び
図50を参照して上述したように、比較用第2領域VR13で1インバータシステムにおいて不連続パルス幅変調制御が実行される場合の波形例及びFFT解析結果例を示している。各波形の説明は、
図28を参照した第1実施形態における説明の通りである。
【0207】
図29は、表14から表18、
図48、
図49等を参照して上述したように、2インバータシステムにおいて双方のインバータ10に対して不連続パルス幅変調制御が実行される場合(「DPWM/DPWM」方式の制御が実行される場合)の波形例及びFFT解析結果例を示している。各波形の説明は、
図29を参照した第1実施形態における説明の通りである。
【0208】
図31は、表19を参照して上述した1インバータシステムにおける回転電機80の回転速度と可聴ノイズとの関係を示しており、
図32は、表17及び表18を参照して上述した本実施形態(第2実施形態)の2インバータシステムにおける回転電機80の回転速度と可聴ノイズとの関係を示している。尚、
図31の1インバータシステムでは、変調率及び回転電機80の回転速度に応じて、
図50及び表19を参照して上述したように、制御領域が比較用第1領域VR11から比較用第2領域VR13となり、制御方式が連続パルス幅変調制御(CPWM)から不連続パルス幅変調制御(DPWM)に切り替わっている。また、
図32の2インバータシステムでは、変調率及び回転電機80の回転速度に応じて、
図48、
図49、表17、及び表18を参照して上述したように、制御領域が第1速度域VR1から第2速度域VR2となり、制御方式が「CPWM/CPWM」方式から「DPWM/DPWM」方式に切り替わっている。
【0209】
図28と
図29との比較より明らかなように、2インバータシステムにおいて「DPWM/DPWM」方式の制御が実行される場合に比べて、1インバータシステムにおいて「DPWM」の制御が実行される場合の方が、3相電流に多くのリップルが重畳されている。このため、FFT解析結果に示されるように、2インバータシステムに比べて、1インバータシステムの方が、キャリアCAの周波数“f”のサイドバンド周波数“f±3fm”の高調波成分が多く発生している。このサイドバンド周波数“f±3fm”の高調波成分は、低次高調波成分(11th,13th)と重なる場合がある。
【0210】
また、
図31と
図32との比較により明らかなように、1インバータシステムでは、
図31に示すように、回転電機80の速度に応じて発生する回転電機80のノイズ(回転速度の周波数を“fm”とした“12fm”の可聴ノイズ)と、サイドバンド周波数“f±3fm”の可聴ノイズとが、破線の丸で囲った部分で重なり、可聴ノイズが非常に大きくなる。一方、2インバータシステムでは、
図32に示すように、キャリアCAの周波数“f”のサイドバンド周波数“f±3fm”の可聴ノイズがほとんど生じないため、回転電機80の速度に応じて発生する回転電機80の可聴ノイズ(12fm)と、このサイドバンド周波数“f±3fm”の可聴ノイズとが重なることがない。このため、1インバータシステムに比べて、2インバータシステムの方が静粛性の高いシステムを構築することができる。
【0211】
〔実施形態の概要〕
以下、上記において説明した回転電機制御装置(1)の概要について簡単に説明する。
【0212】
1つの態様として、互いに独立した複数相のオープン巻線(8)を有する回転電機(80)を、第1インバータ(11)及び第2インバータ(12)を介して駆動制御する回転電機制御装置(1)は、前記第1インバータ(11)が、複数相の前記オープン巻線(8)の一端側に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換し、前記第2インバータ(12)が、複数相の前記オープン巻線(8)の他端側に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換し、前記第1インバータ(11)と前記第2インバータ(12)とのそれぞれを、スイッチングパターンが異なる複数の制御方式により制御可能であると共に、互いに独立した前記制御方式で制御可能であり、前記回転電機(80)の制御領域(R)として、第1速度域(VR1)と、同じトルク(T)における前記回転電機(80)の回転速度が前記第1速度域(VR1)よりも高い第2速度域(VR2)とが設定され、前記制御方式には、電気角の一周期においてパターンの異なる複数のパルスが出力されるパルス幅変調制御と、電気角の1/2周期である第1期間(T1)においてパターンの異なる複数のパルスが出力され、残りの1/2周期である第2期間(T2)において非有効状態が継続するように制御される混合パルス幅変調制御とが含まれ、前記第2速度域(VR2)において、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の双方のインバータ(10)を、前記混合パルス幅変調制御により制御する。
【0213】
混合パルス幅変調制御は、電気角の1周期の間におおよそ半周期ずつ、パルス幅変調される期間と、無変調(固定状態)の期間とを組み合わせた制御方式である。つまり、インバータ(10)は駆動時間のおおよそ1/2の期間において、スイッチング動作を行わないため、スイッチング損失が低減され、システム損失が低減される。混合パルス幅変調制御が実行される第2速度域(VR2)は、同じトルク(T)において第1速度域(VR1)よりも高速度側に設定されており、相対的に中速度・高速度側の制御領域である。本構成によれば、回転電機(80)の全動作領域の中で、相対的に中速度・高速度側の制御領域におけるシステム損失を低減することで、全動作領域における全体のシステム損失を低減することができる。このように、本構成によれば、オープン巻線の両端にそれぞれ備えられた2つのインバータを適切に制御することができる。
【0214】
また、前記パルス幅変調制御は、指令値とキャリアとに基づいて複数のパルスが生成されるものであり、前記混合パルス幅変調制御は、前記指令値の変域の1/2の波高の前記キャリアであるハーフキャリアと前記指令値とに基づいて複数のパルスを生成するものであり、前記混合パルス幅変調制御は、前記ハーフキャリアとして前記指令値の振幅中心よりも高電圧側又は低電圧側の一方に設定された第1ハーフキャリア(CA1)と前記第1インバータ(11)及び第2インバータ(12)に共通する前記指令値(Vu**)とに基づいて前記第1インバータ(11)用のパルスを生成し、前記第1ハーフキャリア(CA1)と同じ位相で前記指令値の振幅中心よりも高電圧側又は低電圧側の他方に設定された第2ハーフキャリア(CA2)と前記指令値(Vu**)とに基づいて前記第2インバータ(12)用のパルスを生成するダブルハーフキャリア・シングルリファレンス方式、或いは、前記ハーフキャリアとして前記指令値の振幅中心よりも高電圧側又は低電圧側の一方に設定された第1ハーフキャリア(CA1)と前記第1インバータ(11)用の第1指令値(Vu1**)とに基づいて前記第1インバータ(11)用のパルスを生成し、前記第1ハーフキャリア(CA1)と180度異なる位相で前記第1ハーフキャリア(CA1)と同じ側に設定された第2ハーフキャリア(CA2)と前記第1指令値(Vu1**)とは位相が180度異なる前記第2インバータ(12)用の第2指令値(Vu2**)とに基づいて前記第2インバータ(12)用のパルスを生成するダブルハーフキャリア・ダブルリファレンス方式、により、複数のパルスを生成すると好適である。
【0215】
混合パルス幅変調制御の制御方式には、上述したダブルハーフキャリア・シングルリファレンス方式及びダブルハーフキャリア・ダブルリファレンス方式の他、シングルハーフキャリア・ダブルリファレンス方式なども可能である。シングルハーフキャリア・ダブルリファレンス方式は、共通のハーフキャリアと互いに位相が180度異なる2つの指令値とに基づいてパルスを生成する方式である。発明者らによるシミュレーションや実験によれば、シングルハーフキャリア・ダブルリファレンス方式に比べて、ダブルハーフキャリア・シングルリファレンス方式及びダブルハーフキャリア・ダブルリファレンス方式の方が、特にキャリア(CA)の周波数における高調波ノイズが抑制されることが確認されている。従って、混合パルス幅変調制御は、ダブルハーフキャリア・シングルリファレンス方式、又は、ダブルハーフキャリア・ダブルリファレンス方式によって実行されると好適である。
【0216】
また、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)が、それぞれ交流1相分のアーム(3A)が上段側スイッチング素子(3H)と下段側スイッチング素子(3L)との直列回路により構成され、前記制御方式には、複数相全ての前記アーム(3A)の前記上段側スイッチング素子(3H)をオン状態とする又は複数相全ての前記アーム(3A)の前記下段側スイッチング素子(3L)をオン状態とするアクティブショートサーキット制御がさらに含まれ、回転電機制御装置(1)が、前記第1速度域(VR1)において、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の一方の前記インバータ(10)を前記アクティブショートサーキット制御により制御し、他方の前記インバータ(10)を前記パルス幅変調制御により制御する対象第1速度域制御を実行すると好適である。
【0217】
本構成のように、2つのインバータ(10)を備えている場合には、それぞれのインバータ(10)の直流側の電圧よりも大きい振幅の交流電圧を生成することができる。但し、回転電機制御装置(1)は、常に交流の振幅が大きくなるように2つのインバータ(10)を制御する必要はなく、例えば回転電機(80)の回転速度が低速の場合には、1つのインバータ(10)によって生成可能な交流電圧を生成すれば充分な場合がある。本構成によれば、同じトルクにおいて第2速度域(VR2)よりも低速度側の第1速度域(VR1)においては、2つのインバータ(10)の内の一方のインバータ(10)が、アクティブショートサーキット制御により制御される。これにより、オープン巻線(8)同士が当該一方のインバータ(10)において短絡されて、回転電機(80)は、ステータコイルが電気的中性点を有する回転電機と同様になる。つまり、実質的に2つのインバータ(10)の内、1つのインバータ(10)のみで回転電機(80)を駆動することになる。アクティブショートサーキット制御により制御されるインバータ(10)はスイッチング動作をしないので、システム全体の損失を抑制しつつ回転電機(80)を駆動することができる。
【0218】
また、回転電機制御装置(1)は、前記第1速度域(VR1)において、前記第1インバータ(11)を制御する前記制御方式と前記第2インバータ(12)を制御する前記制御方式とを、予め規定された条件に従って交互に入れ替えると好適である。
【0219】
制御方式を入れ替えることによって、第1インバータ(11)及び第2インバータ(12)の何れか一方だけが消耗することが抑制される。また、第1インバータ(11)及び第2インバータ(12)が、それぞれ独立した直流電源(6)に接続される場合には、第1インバータ(11)に接続される直流電源(61)及び第2インバータ(12)に接続される直流電源(62)の何れか一方だけの電力消費量が増加することを抑制することができる。ここで、規定された条件とは、例えば、一定の時間や、直流電源(6)の電力消費量などであると好適である。
【0220】
また、前記パルス幅変調制御には、前記制御方式として、複数相の前記アーム(3A)の全てについて連続的にパルス幅変調を行う連続パルス幅変調制御と、複数相の一部の前記アーム(3A)についてスイッチング素子(3)をオン状態又はオフ状態に固定する期間を含んでパルス幅変調を行う不連続パルス幅変調制御とが含まれ、回転電機制御装置(1)が、前記第1速度域(VR1)内における低速度側の低速度側第1速度域(VR1-1)では、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の一方の前記インバータ(10)を前記アクティブショートサーキット制御により制御し、他方の前記インバータ(10)を前記連続パルス幅変調制御により制御し、前記第1速度域(VR1)内における高速度側の高速度側第1速度域(VR2-2)では、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の一方の前記インバータ(10)を前記アクティブショートサーキット制御により制御し、他方の前記インバータ(10)を前記不連続パルス幅変調制御により制御すると好適である。
【0221】
高速度側第1速度域(VR1-2)で実行される不連続パルス幅変調制御による最大変調率は、低速度側第1速度域(VR1-1)で実行される連続パルス幅変調制御の最大変調率よりも大きい。高速度側第1速度域(VR1-2)は、同じトルク(T)において低速度側第1速度域(VR1-1)よりも回転電機(80)の回転速度が高い制御領域(R)であり、システム効率の観点からは高速度側第1速度域(VR1-2)では低速度側第1速度域(VR1-1)よりも高い変調率で変調されることが好ましい。低速度側第1速度域(VR1-1)において連続パルス幅変調制御を行い、高速度側第1速度域(VR1-2)において不連続パルス幅変調制御を行うことによって、第1速度域(VR1)の全体において、1つのインバータ(10)によって適切に回転電機(80)を駆動することができる。
【0222】
また、前記第1速度域(VR1)において、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の双方のインバータ(10)を、前記混合パルス幅変調制御により制御する対象第1速度域制御を実行すると好適である。
【0223】
2つのインバータ(10)を備えている場合であっても、例えば回転電機(80)の回転速度が低速の場合には、1つのインバータ(10)によって生成可能な交流電圧を生成すれば充分な場合がある。混合パルス幅変調制御は、電気角の1周期の間におおよそ半周期ずつ、パルス幅変調される期間と、無変調(固定状態)の期間とを組み合わせた制御方式である。つまり、1/2周期ずつ、実質的に2つのインバータ(10)の内、1つのインバータ(10)のみで回転電機(80)を駆動することになる。インバータ(10)は駆動時間のおおよそ1/2の期間において、スイッチング動作を行わないため、スイッチング損失が低減され、システム損失が低減される。
【0224】
回転電機制御装置(1)は、前記回転電機(80)の制御モードとして、損失低減優先モードと、ノイズ低減優先モードとを切り替え可能に備え、前記損失低減優先モードでは、前記第1速度域(VR1)において、前記対象第1速度域制御を実行し、前記ノイズ低減優先モードでは、前記第1速度域(VR1)において、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の双方の前記インバータ(10)を前記パルス幅変調制御により制御する代替第1速度域制御を、前記対象第1速度域制御に代えて実行すると好適である。
【0225】
インバータ(10)をスイッチング制御した場合、交流電流の基本波に重畳される脈動成分が可聴周波数帯域のノイズを発生させる場合がある。特に回転電機(80)の回転速度が低速の場合、脈動成分の周波数(或いはそのサイドバンド周波数)が可聴周波数帯域に含まれる可能性が高くなる。対象制御において、1つのインバータ(10)がアクティブショートサーキット制御により制御される場合、パルス幅変調制御により制御されるインバータ(10)の出力は、2つのインバータ(10)を用いる場合に比べて大きくなる。つまり、ノイズのエネルギーも高くなる。2つのインバータ(10)を用いる場合には、1つのインバータ(10)を用いる場合に比べて、ノイズのエネルギーを小さくすることができると共に、互いにノイズ成分が相殺されるように両インバータ(10)を制御することもできる。ノイズ低減優先モードでは、第1インバータ(11)と第2インバータ(12)とが同じ制御方式で制御されるため、ノイズ成分が相殺されるような制御を行い易い。本構成によれば、回転電機(80)の制御モードとして、損失低減優先モードと、ノイズ低減優先モードとを切り替え可能に備えることにより、高いシステム効率での動作と、ノイズの低減とが両立できるように、動作条件に応じて適切に2つのインバータ(10)を制御することができる。
【0226】
また、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)は、それぞれ交流1相分のアーム(3A)が上段側スイッチング素子(3H)と下段側スイッチング素子(3L)との直列回路により構成され、前記混合パルス幅変調制御には、前記第2期間(T2)において非有効状態が継続するように制御すると共に前記第1期間(T1)において複数相の前記アーム(3A)の全てについて連続的にパルス幅変調を行う混合連続パルス幅変調制御と、前記第2期間(T2)において非有効状態が継続するように制御すると共に前記第1期間(T1)において複数相の一部の前記アーム(3A)についてスイッチング素子をオン状態又はオフ状態に固定する期間を含んでパルス幅変調を行う混合不連続パルス幅変調制御とが含まれ、回転電機制御装置(1)は、前記第2速度域(VR2)内における低速度側の低速度側第2速度域(VR2-1)では、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の双方の前記インバータ(10)を前記混合連続パルス幅変調制御により制御し、前記第2速度域(VR2)内における高速度側の高速度側第2速度域(VR2-2)では、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の双方の前記インバータ(10)を前記混合不連続パルス幅変調制御により制御すると好適である。
【0227】
混合パルス幅変調制御は、電気角の1周期の間におおよそ半周期ずつ、パルス幅変調される期間と、無変調(固定状態)の期間とを組み合わせた制御方式である。混合連続パルス幅変調制御では、パルス幅変調の方式として連続パルス幅変調が実行され、混合不連続パルス幅変調制御では、パルス幅変調の方式として不連続パルス幅変調が実行される。不連続パルス幅変調制御による最大変調率は、連続パルス幅変調制御の最大変調率よりも大きい。高速度側第2速度域(VR2-2)は、同じトルク(T)において低速度側第2速度域(VR2-1)よりも回転電機(80)の回転速度が高い制御領域(R)であり、システム効率の観点からは高速度側第2速度域(VR2-2)では低速度側第2速度域(VR2-1)よりも高い変調率で変調されることが好ましい。低速度側第2速度域(VR2-1)において連続パルス幅変調制御を組み合わせた混合連続パルス幅変調制御を行い、高速度側第2速度域(VR2-2)において不連続パルス幅変調制御を組み合わせた混合不連続パルス幅変調制御を行うことによって、第2速度域(VR2)の全体において、適切に回転電機(80)を駆動することができる。
【0228】
また、前記制御方式として、複数相の一部の前記アーム(3A)についてスイッチング素子をオン状態又はオフ状態に固定する期間を含んでパルス幅変調を行う不連続パルス幅変調制御が含まれ、回転電機制御装置(1)は、前記高速度側第2速度域(VR2-2)において、前記混合不連続パルス幅変調制御に代えて、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の双方の前記インバータ(10)を前記不連続パルス幅変調制御により制御してもよい。
【0229】
高速度側第2速度域(VR2-2)は、回転電機(80)の制御領域(R)の中で相対的に、高速度側に設定されており、相対的に高い変調率が必要となる可能性も高い。混合パルス幅変調制御は、電気角の1周期の間におおよそ半周期ずつ、パルス幅変調される期間と、無変調(固定状態)の期間とを組み合わせた制御方式である。つまり、混合パルス幅変調制御は、無変調の期間を含むため、周期の全体でパルス幅変調を行う場合に比べて、最大変調率が低くなる。従って、より高い変調率が必要となるような場合などでは、高速度側第2速度域(VR2-2)において、混合不連続パルス幅変調に代えて、双方のインバータ(10)を不連続パルス幅変調制御により制御することで、適切に回転電機(80)を駆動することができる。
【0230】
また、回転電機制御装置(1)は、前記第1速度域(VR1)において、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の双方のインバータ(10)を、前記混合パルス幅変調制御により制御する対象第1速度域制御を実行する場合、前記第1速度域(VR1)及び前記第2速度域(VR2)において、予め規定されたトルクである規定トルク(Tref)以上の高トルク領域(VRH)では、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の双方のインバータ(10)を前記パルス幅変調制御により制御し、前記規定トルク(Tref)未満の低トルク領域(VRL)では、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の双方のインバータ(10)を前記混合パルス幅変調制御により制御すると好適である。
【0231】
対象第1速度域制御が実行される場合、第1速度域(VR1)及び第2速度域(VR2)において、第1インバータ(11)及び第2インバータ(12)の双方のインバータ(10)が、混合パルス幅変調制御によって制御される。発明者らの実験やシミュレーションによれば、第1速度域(VR1)及び第2速度域(VR2)における高トルク領域(VRH)では、回転電機(80)の回転速度の周波数の高調波成分に対応するリップル成分が、直流バス電流(Idc)に出現することが確かめられている。一般的に、インバータ(10)の直流側には、直流電源(6)や直流バス電圧(直流リンク電圧(Vdc))を平滑化する直流リンクコンデンサ(4)(平滑コンデンサ)が備えられる。直流バス電流(Idc)のリップル成分は、直流電源(6)や直流リンクコンデンサ(4)の寿命を低下させる可能性がある。直流リンクコンデンサ(4)の容量を大きくすることで、リップルを低減させることは可能であるが、直流リンクコンデンサ(4)の体格の大型化やコスト上昇につながる可能性がある。このため、直流バス電流(Idc)のリップルを低減させることが好ましい。本構成によれば、そのようなリップルが大きくなる高トルク領域(VRH)では、混合パルス幅変調制御ではなく、パルス幅変調制御が実行される。発明者らの実験やシミュレーションによれば、高トルク領域(VRH)においても、パルス幅変調制御により第1インバータ(11)及び第2インバータ(12)の双方のインバータ(10)を制御することで、直流バス電流(Idc)のリップルが低減されることが確認された。即ち、本構成によれば、第1速度域(VR1)及び第2速度域(VR2)において、双方のインバータ(10)が混合パルス幅変調制御によって制御される場合においても、適切に直流バス電流(Idc)のリップルを低減させることができる。
【0232】
また、上記のように、回転電機制御装置(1)が、高トルク領域(VRH)では、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の双方のインバータ(10)を前記パルス幅変調制御により制御し、前記規定トルク(Tref)未満の低トルク領域(VRL)では、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の双方のインバータ(10)を前記混合パルス幅変調制御により制御する場合、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)は、それぞれ交流1相分のアーム(3A)が上段側スイッチング素子(3H)と下段側スイッチング素子(3L)との直列回路により構成され、前記パルス幅変調制御には、前記制御方式として、複数相の前記アーム(3A)の全てについて連続的にパルス幅変調を行う連続パルス幅変調制御と、複数相の一部の前記アーム(3A)についてスイッチング素子(3)をオン状態又はオフ状態に固定する期間を含んでパルス幅変調を行う不連続パルス幅変調制御とが含まれ、前記混合パルス幅変調制御には、前記第2期間(T2)において非有効状態が継続するように制御すると共に前記第1期間(T1)において複数相の前記アーム(3A)の全てについて連続的にパルス幅変調を行う混合連続パルス幅変調制御と、前記第2期間(T2)において非有効状態が継続するように制御すると共に前記第1期間(T1)において複数相の一部の前記アーム(3A)についてスイッチング素子(3)をオン状態又はオフ状態に固定する期間を含んでパルス幅変調を行う混合不連続パルス幅変調制御とが含まれ、前記第2速度域(VR2)内における低速度側の領域を低速度側第2速度域(VR2-1)とし、前記第2速度域(VR2)内における高速度側の領域を高速度側第2速度域(VR2-2)として、回転電機制御装置(1)は、前記第1速度域(VR1)及び前記低速度側第2速度域(VR2-1)における前記低トルク領域(VRL)では、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の双方の前記インバータ(10)を前記混合連続パルス幅変調制御により制御し、前記高速度側第2速度域(VR2-2)における前記低トルク領域(VRL)では、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の双方の前記インバータ(10)を前記混合不連続パルス幅変調制御により制御し、前記第1速度域(VR1)における前記高トルク領域(VRH)では、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の双方の前記インバータ(10)を前記連続パルス幅変調制御により制御し、前記第2速度域(VR2)における前記高トルク領域(VRH)では、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の双方の前記インバータ(10)を前記不連続パルス幅変調制御により制御すると好適である。
【0233】
混合連続パルス幅変調制御が適切な制御領域(R)と、連続パルス幅変調制御が適切な制御領域(R)とは完全には一致せず、混合不連続パルス幅変調制御が適切な制御領域(R)と、不連続パルス幅変調制御が適切な制御領域(R)とも完全には一致しない。従って、例えば低トルク領域(VRL)で混合パルス幅制御を実行し、高トルク領域(VRH)でパルス幅変調制御を実行する場合において、単純に混合連続パルス幅変調制御と連続パルス幅変調制御との間で制御方式を切り替え、混合不連続パルス幅変調制御と不連続パルス幅変調制御との間で制御方式を切り替えればよいとは限らない。発明者らの実験やシミュレーションによれば、上記のように、第1速度域(VR1)及び低速度側第2速度域(VR2-1)における低トルク領域(VRL)では、混合連続パルス幅変調制御、高速度側第2速度域(VR2-2)における低トルク領域(VRL)では、混合不連続パルス幅変調制御、第1速度域(VR1)における高トルク領域(VRH)では、連続パルス幅変調制御、第2速度域(VR2)における高トルク領域(VRH)では、不連続パルス幅変調制御により、第1インバータ(11)及び第2インバータ(12)の双方のインバータ(10)が制御されることが好適であることがわかった。この構成によれば、第1速度域(VR1)及び第2速度域(VR2)の全域において、適切に回転電機(80)を駆動することができる。
【0234】
また、それぞれの制御領域(R)の境界は、前記回転電機(80)のトルクに応じた前記回転電機(80)の回転速度と、直流バス電圧に対する複数相の交流電圧の線間電圧の実効値の割合と、の少なくとも一方に応じて設定されていると好適である。
【0235】
回転電機(80)の動作条件は、しばしば回転速度とトルクとの関係で定義される。回転電機制御装置(1)が、1つのパラメータである回転速度に基づいて、第1インバータ(11)及び第2インバータ(12)を制御する制御方式を変更すると、回転電機(80)の動作条件に応じて高い効率で回転電機(80)を駆動制御することができる。また、例えば、回転電機(80)に高い出力(速い回転速度や高いトルク)が要求される場合、電圧型のインバータでは、直流バス電圧を高くすることや、直流バス電圧が交流電圧に変換される割合を高くすることで当該要求が実現される。直流バス電圧が一定の場合には、直流バス電圧が交流電圧に変換される割合を高くすることで当該要求を実現することができる。この割合は、直流電力に対する3相交流電力の実効値の割合(電圧型のインバータの場合には、直流バス電圧に対する3相交流電圧の線間電圧の実効値の割合と等価)として示すことができる。インバータ(10)を制御する制御方式には、この割合が低いものから高いものまで種々の方式が存在する。実効値に基づいて、制御方式を変更することによって、回転電機(80)の動作条件に応じて高い効率で回転電機(80)を駆動制御することができる。
【0236】
また、前記制御方式として、電気角の一周期において1つのパルスが出力される矩形波制御をさらに備え、同じトルク(T)における前記回転電機(80)の回転速度が前記第2速度域(VR2)よりも高い第3速度域(VR3)がさらに設定され、回転電機制御装置(1)が、前記第3速度域(VR3)において、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の双方の前記インバータ(10)を前記矩形波制御により制御すると好適である。
【0237】
矩形波制御は、回転の滑らかさはパルス幅変調制御に譲るが、物理的(数学的)に最高値の変調率によって回転電機(80)を駆動することができる。制御方式として、パルス幅変調制御に加えて矩形波制御が実行可能であれば、制御の柔軟性を高め、回転電機(80)の動作条件に応じて高い効率で回転電機(80)を駆動制御することができる。
【0238】
また、別の1つの態様として、互いに独立した複数相のオープン巻線(8)を有する回転電機(80)を、第1インバータ(11)及び第2インバータ(12)を介して駆動制御する回転電機制御装置(1)は、前記第1インバータ(11)が、複数相の前記オープン巻線(8)の一端側に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換し、前記第2インバータ(12)が、複数相の前記オープン巻線(8)の他端側に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換し、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)が、それぞれ交流1相分のアーム(3A)が上段側スイッチング素子(3H)と下段側スイッチング素子(3L)との直列回路により構成され、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の制御方式として、電気角の一周期においてパターンの異なる複数のパルスが出力されるパルス幅変調制御と、複数相全ての前記アーム(3A)の前記上段側スイッチング素子(3H)をオン状態とする又は複数相全ての前記アーム(3A)の前記下段側スイッチング素子(3L)をオン状態とするアクティブショートサーキット制御とを少なくとも備えると共に、前記パルス幅変調制御には、前記制御方式として、複数相の前記アーム(3A)の全てについて連続的にパルス幅変調を行う連続パルス幅変調制御と、複数相の一部の前記アーム(3A)についてスイッチング素子(3)をオン状態又はオフ状態に固定する期間を含んでパルス幅変調を行う不連続パルス幅変調制御とが含まれ、前記第1インバータ(11)と前記第2インバータ(12)とのそれぞれを、互いに独立した前記制御方式で制御可能であり、前記回転電機(80)の制御領域(R)として、第1速度域(VR1)と、同じトルクにおける前記回転電機(80)の回転速度が前記第1速度域(VR1)よりも高い第2速度域(VR2)と、同じトルクにおける前記回転電機(80)の回転速度が前記第2速度域(VR2)よりも高い第3速度域(VR3)とが設定され、前記第1速度域(VR1)において、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の一方のインバータ(10)を前記アクティブショートサーキット制御により制御し、他方の前記インバータ(10)を前記連続パルス幅変調制御により制御し、前記第2速度域(VR2)において、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の一方の前記インバータ(10)を前記アクティブショートサーキット制御により制御し、他方の前記インバータ(10)を前記不連続パルス幅変調制御により制御し、前記第3速度域(VR3)において、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の双方の前記インバータ(10)を前記不連続パルス幅変調制御により制御する対象制御を実行する。
【0239】
本構成のように、2つのインバータ(10)を備えている場合には、それぞれのインバータ(10)の直流側の電圧よりも大きい振幅の交流電圧を生成することができる。但し、回転電機制御装置(1)は、常に交流の振幅が大きくなるように2つのインバータ(10)を制御する必要はなく、例えば回転電機(80)の回転速度が低速の場合には、1つのインバータ(10)によって生成可能な交流電圧を生成すれば充分な場合がある。本構成によれば、第1速度域(VR1)及び第2速度域(VR2)においては、2つのインバータ(10)の内の一方のインバータ(10)が、アクティブショートサーキット制御により制御される。これにより、オープン巻線(8)同士が当該一方のインバータ(10)において短絡されて、回転電機(80)は、ステータコイルが電気的中性点を有する回転電機と同様になる。つまり、実質的に2つのインバータ(10)の内、1つのインバータ(10)のみで回転電機(80)を駆動することになる。アクティブショートサーキット制御により制御されるインバータ(10)はスイッチング動作をしないので、システム全体の損失を抑制しつつ回転電機(80)を駆動することができる。また、第2速度域(VR2)で実行される不連続パルス幅変調制御による最大変調率は、第1速度域(VR1)で実行される連続パルス幅変調制御の最大変調率よりもが大きい。第2速度域(VR2)は、同じトルク(T)において第1速度域(VR1)よりも回転電機(80)の回転速度が高い制御領域であり、システム効率の観点からは第2速度域(VR2)では第1速度域(VR1)よりも高い変調率で変調されることが好ましい。第1速度域(VR1)において連続パルス幅変調制御を行い、第2速度域(VR2)において不連続パルス幅変調制御を行うことによって、第1速度域(VR1)と第2速度域(VR2)とを合わせた制御領域において、1つのインバータ(10)によって適切に回転電機(80)を駆動することができる。また、回転電機(80)の回転速度が第2速度域(VR2)よりも高い第3速度域(VR3)では、双方のインバータ(10)が不連続パルス幅変調制御により制御されるので、オープン巻線(8)に、1つの直流電源(6)がら生成可能な電圧よりも高い線間電圧をに発生させて回転電機(80)を駆動することができる。このように、本構成によれば、オープン巻線の両端にそれぞれ備えられた2つのインバータを適切に制御することができる。
【符号の説明】
【0240】
1:回転電機制御装置、3:スイッチング素子、3A:アーム、3H:上段側スイッチング素子、3L:下段側スイッチング素子、8:ステータコイル(オープン巻線)、10:インバータ、11:第1インバータ、12:第2インバータ、80:回転電機、R:制御領域、T:トルク、T1:第1期間、T2:第2期間、VR1:第1速度域、VR1-1:低速度側第1速度域、VR1-2:高速度側第1速度域、VR2:第2速度域、VR2-1:低速度側第2速度域、VR2-2:高速度側第2速度域、VR3:第3速度域、VR4:第4速度域、VRH:高トルク領域、VRL:低トルク領域