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特許7269605ヘマグルチニン複合体タンパク質及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】ヘマグルチニン複合体タンパク質及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20230427BHJP
   C07K 14/33 20060101ALI20230427BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230427BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20230427BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
C07K19/00
C07K14/33 ZNA
C12P21/02 C
C12N15/31
C12N15/62
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019555374
(86)(22)【出願日】2018-11-22
(86)【国際出願番号】 JP2018043249
(87)【国際公開番号】W WO2019103111
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】P 2017226370
(32)【優先日】2017-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業 再生医療の産業化に向けた細胞製造・加工システムの開発 「再生医療の産業化に向けた細胞製造・加工システムの開発/ヒト多能性幹細胞由来の再生医療製品製造システムの開発(網膜色素上皮・肝細胞)」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100179039
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100199923
【弁理士】
【氏名又は名称】嶽小原 幸
(72)【発明者】
【氏名】藤永 由佳子
(72)【発明者】
【氏名】阿松 翔
(72)【発明者】
【氏名】紀ノ岡 正博
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/199243(WO,A1)
【文献】PLoS Pathog.,2013年,vol.9, no.10, article. e1003690(p.1-13)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
E-カドヘリンの機能阻害活性を有する小型化された、単価型又は3価型のヘマグルチニン複合体タンパク質であって、
(A)配列番号10で表されるB型ボツリヌス菌由来HA1サブコンポーネントの二量体、配列番号4で表されるB型ボツリヌス菌由来HA2サブコンポーネント、及び配列番号8で表されるB型ボツリヌス菌由来HA3サブコンポーネントの380番目のGluから626番目のAsnまでを含むフラグメントから構成される単価型複合体;
(B)配列番号8で表されるB型ボツリヌス菌由来HA3サブコンポーネントの380番目のGluから626番目のAsnまでを含むフラグメントのC末端アミノ酸と、配列番号4で表されるB型ボツリヌス菌由来HA2サブコンポーネントの2番目のSerから146番目のIleまでを含むフラグメントのN末端アミノ酸とが、GSGGDDPPGで示されるアミノ酸配列からなるリンカーによって連結された単価型複合体;
(C)配列番号8で表されるB型ボツリヌス菌由来HA3サブコンポーネントの380番目のGluから626番目のAsnまでを含むフラグメントのC末端アミノ酸と、配列番号5で表されるC型ボツリヌス菌由来HA2サブコンポーネントの2番目のSerから146番目のLeuまでを含むフラグメントのN末端アミノ酸とが、GSGGDDPPGで示されるアミノ酸配列からなるリンカーによって連結された単価型複合体;
(D)前記(C)の複合体のHA2サブコンポーネント中、配列番号5で表されるアミノ酸配列の73番目のTyrがAspに、75番目のPheがTyrにそれぞれ置換され、任意で40番目のLeuがAspにさらに置換されていてもよい、単価型複合体;
(E)配列番号8表されるB型ボツリヌス菌由来HA3サブコンポーネントの380番目のGluから626番目のAsnまでを含むフラグメントと、配列番号5で表されるC型ボツリヌス菌由来HA2サブコンポーネントとから構成される単価型複合体;
(F)配列番号4で表されるB型ボツリヌス菌由来HA2サブコンポーネント、及び配列番号8で表されるB型ボツリヌス菌由来HA3サブコンポーネントから構成される3価型複合体;並びに
(G)配列番号8で表されるB型ボツリヌス菌由来HA3サブコンポーネントの380番目のGluから626番目のAsnまでを含むフラグメントのC末端アミノ酸と、配列番号4で表されるB型ボツリヌス菌由来HA2サブコンポーネントの2番目のSerから146番目のIleまでを含むフラグメントのN末端アミノ酸とが、GSGGDDPPGで示されるアミノ酸配列からなるリンカーによって連結されたタンパク質から構成される3価型複合体
からなる群より選択される、タンパク質。
【請求項2】
前記(A)~(E)のいずれかの単価型複合体である、請求項1記載のヘマグルチニン複合体タンパク質。
【請求項3】
前記(A)~(D)のいずれかの単価型複合体である、請求項1記載のヘマグルチニン複合体タンパク質。
【請求項4】
前記(F)又は(G)の3価型複合体である、請求項1記載のヘマグルチニン複合体タンパク質。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のヘマグルチニン複合体タンパク質をコードする核酸。
【請求項6】
請求項5記載の核酸を含有する発現ベクターが導入された宿主細胞を培養し、得られた培養物からヘマグルチニン複合体タンパク質又はそのサブコンポーネントを回収し、サブコンポーネントの場合は、さらに、得られたサブコンポーネント同士を接触させ、生成するヘマグルチニン複合体タンパク質を回収することを特徴とする、該ヘマグルチニン複合体タンパク質の製造方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載のヘマグルチニン複合体タンパク質を含有してなる、E-カドヘリンの機能阻害剤。
【請求項8】
E-カドヘリンの機能が細胞間接着機能である、請求項7記載の阻害剤。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか一項に記載のヘマグルチニン複合体タンパク質を、細胞集団と接触させることを特徴とする、該細胞集団中の細胞間接着の阻害方法。
【請求項10】
細胞集団が多能性幹細胞の集団である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
請求項1~4のいずれか一項に記載のヘマグルチニン複合体タンパク質を含有してなる、細胞の増殖促進剤。
【請求項12】
請求項1~4のいずれか一項に記載のヘマグルチニン複合体タンパク質の存在下で、細胞を培養することを特徴とする、該細胞の増殖促進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カドヘリン機能阻害活性を保持しつつ小型化された新規ヘマグルチニン複合体タンパク質、並びにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
人工多能性幹細胞(以下、「iPS細胞」ともいう。)などの多能性幹細胞の維持・増幅培養の過程において、未分化状態から逸脱した細胞(以下、「脱未分化細胞」ともいう。)が偶発的に発生すると、さらに未分化細胞から脱未分化細胞への転換が誘発され、未分化細胞の増殖が抑制されて、未分化状態の維持が困難となる。そのため、脱未分化細胞を含むコロニーを除去することが必要となるが、この作業は、継代時に顕微鏡下でピペッティング操作により行われ、煩雑で、かつ熟練を要する手技を伴う。当該作業の自動化装置の開発も行われているが、完全な自動化及び普及には至っておらず、簡便な多能性幹細胞の未分化維持(脱未分化細胞の除去及び/又は発生抑制)法が求められている。
【0003】
本発明者らは、ボツリヌス菌の神経毒素複合体の成分であるヘマグルチニン(以下、「HA」ともいう。)が、細胞接着因子であるE-カドヘリンに特異的に結合し、その機能を阻害することにより、細胞間バリア機能を破壊することを見出し(非特許文献1-3)、このHAのカドヘリン機能阻害活性を用いて、多能性幹細胞のコロニー中に発生した脱未分化細胞を除去し、多能性幹細胞の未分化状態を維持する方法を、既に報告している(特許文献1及び2)。
【0004】
HAは、HA1(HA33とも呼ばれる)、HA2(HA17とも呼ばれる)及びHA3(HA70とも呼ばれる)の3つの異なるサブコンポーネントから構成され(HA1:HA2:HA3=6:3:3のストイキオメトリーで構成される)、3本のHA1(二量体)とHA2からなる腕がHA3に結合したtriskelion様の立体構造を有する(非特許文献4)。そのため、完全なHA複合体(FL-HA;図1参照)を組換え生産するためには、各サブユニットタンパク質を発現させ、精製した後に、3つを混合・インキュベートして、上記立体構造を有する12量体を形成させ、これをさらに精製する工程を必要とし、実用化のためには、時間、労力、コスト等の面で問題がある。
【0005】
HA複合体のカドヘリン機能阻害活性を維持したまま、それを小型化することができれば、製造工程を簡略化することができ、かつ取り扱い易いHA複合体を提供することができるので、多能性幹細胞の未分化維持のためのツールとして大いに期待できる。しかしながら、Jinらの研究グループは、HA1二量体、HA2及びHA3のフラグメント(378位のProから626位のAsnまでからなる)から構成された小型化HA複合体(mini-HA;図1参照)は、E-カドヘリンに結合するが、バリア破壊活性を有しないことを報告し、バリア破壊活性にはHAが多価であることが必要であると考察している(非特許文献5及び6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2014/104207号公報
【文献】国際公開第2015/199243号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Jin, Y. et al., Microbiology, 155: 35-45 (2009)
【文献】Matsumura, T. et al., Cell Microbiol., 10: 355-364 (2008)
【文献】Sugawara, Y. et al., J. Cell. Biol., 189: 691-700 (2010)
【文献】Amatsu, S. et al., J. Biol. Chem., 288: 35617-35625 (2013)
【文献】Lee, K. et al., PLoS Pathog., 9: e1003690 (2013)
【文献】Lee, K. et al., Science, 344: 1405-1410 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、カドヘリン機能阻害活性を保持しつつ小型化された新規HA複合体タンパク質を提供することであり、該タンパク質を用いて、多能性幹細胞の未分化状態を維持する安価で簡便な手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく、2通りのHA小型化戦略を試した。
第1に、Jinらが作製したのと同様のmini-HA複合体(但し、HA3のフラグメントとして380位のGluから626位のAsnまでを含む)について、培養細胞における経上皮電気抵抗(TER)を指標としてカドヘリン機能阻害活性を追試したところ、驚くべきことに、このmini-HA複合体は、FL-HAと同様にTERを低下させ、カドヘリン機能阻害活性を有することがわかった(図1図2参照)。
第2に、pull-downアッセイや結晶構造解析の結果から、E-カドヘリンとの結合に寄与するHAの領域は、HA2とHA3との結合領域であることが明らかとなっていたので(例えば、非特許文献3及び4を参照)、全長のHA2及びHA3をそれぞれ発現させ、これらを混合して、HA2:HA3=3:3のHA複合体(FL(2+3))に再構成させて、培養細胞におけるTERを調べたところ、TERの低下が認められ、3価複合体とすることで、HA1サブコンポーネントがなくともカドヘリン機能阻害活性が保持されることがわかった(図1図3参照)。さらにHA2とHA3とをリンカーを介して融合タンパク質(linked-FL(2+3))として発現させてもカドヘリン機能阻害活性は保持され、各サブコンポーネントをいったん精製した後に混合・インキュベートすることなく、簡便に機能的なHA2:HA3=3:3のHA複合体を作製できることが明らかとなった。
【0010】
さらに、本発明者らは、上記第1のHA小型化戦略においても、同様にHA1サブコンポーネントを欠失させ、さらなる小型化を図った。ところが、mini-HA複合体からHA1サブコンポーネントを欠失させたHA複合体(mini(2+3))では、カドヘリン機能阻害活性は消失した(図1図3参照)。
これまで使用したHAサブコンポーネントは、いずれもB型ボツリヌス菌由来であったが、本発明者らは、mini(2+3)複合体において、HA2サブコンポーネントを、E-カドヘリンと相互作用せず、ヒト腸管上皮細胞株の細胞間バリアを破壊しないことが知られているC型ボツリヌス菌HA由来のものに置換してみた(mini(2+3)/CB)。その結果、驚くべきことに、一時的ではあるがTERの低下が認められ、一過的なカドヘリン機能阻害活性を示した(図1図4参照)。
【0011】
次に、本発明者らは、FL(2+3)複合体の場合と同様に、mini(2+3)及びmini(2+3)/CBの各々について、HA2とHA3とをリンカーを介して融合タンパク質(それぞれlinked-mini(2+3)/BB、linked-mini(2+3)/CB)として発現させたところ、リンカーで繋ぐことによってB型のHA2サブコンポーネントを用いた場合でも、カドヘリン機能阻害活性を示した(図1図5参照)。また、C型HA2サブコンポーネントを用いた場合には、リンカーで繋ぐことによって一過的なカドヘリン機能阻害活性が持続的な活性へと変化した(図1図6図7参照)。
【0012】
さらに、本発明者らは、上記linked-mini(2+3)/CBにおいて、その分子表面に露出する1ないし数個の疎水性アミノ酸残基を、各々、より親水性のアミノ酸に置換する変異を導入した(linked-mini(2+3)/CB-YFDY、linked-mini(2+3)/CB-LD/YFDY)。その結果、これらの変異導入によりカドヘリン機能阻害活性がさらに向上し、mini-HA複合体と同様の活性を示すに至った(図1図7参照)。また、これらの変異導入小型化HA複合体は、3つの全長HAサブコンポーネントをそれぞれ製造し、それらを混合して再構成させるFL-HA発現系に比べて、約10倍以上収率が向上することも確認された。
【0013】
次に、本発明者らは、linked-mini(2+3)/CB-LD/YFDYがFL-HAと同様に、iPS細胞の細胞間接着を阻害し得るかを調べたところ、少なくとも50nM以上の濃度で細胞間接着を阻害することが確認された(図16参照)。また、linked-mini(2+3)/CB-LD/YFDYは、単腕(プロトマー)あたり同一モル濃度のFL-HAと同等、重量/体積濃度換算ではFL-HAより3倍程度強い細胞増殖促進作用を示した。
本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明は、以下の通りである。
〔1〕E-カドヘリンの機能阻害活性を有する小型化されたヘマグルチニン複合体タンパク質であって、
(a)少なくともHA1サブコンポーネントの全部もしくは一部、及び/又はHA3サブコンポーネントの一部を欠失し、
(b)HA2及びHA3サブコンポーネント中のE-カドヘリンとの結合に寄与する領域を含み、かつ
(c)HA3サブコンポーネントはA型もしくはB型ボツリヌス菌由来である、
タンパク質。
(但し、A型ボツリヌス菌由来の、全長HA1サブコンポーネントの二量体、全長HA2サブコンポーネント及びHA3サブコンポーネントの378位のProから626位のAsnまでの断片が会合してなる単価型の複合体タンパク質を除く。)
〔2〕単価型である、上記〔1〕記載のヘマグルチニン複合体タンパク質。
〔3〕HA3サブコンポーネント部分が、
(a)配列番号1もしくは2で表されるアミノ酸配列、又は
(b)該アミノ酸配列において、1ないし数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列である、上記〔2〕記載のヘマグルチニン複合体タンパク質。
〔4〕HA2サブコンポーネント部分が、
(a)配列番号3~6のいずれかで表されるアミノ酸配列、又は
(b)該アミノ酸配列において、1ないし数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列である、上記〔2〕又は〔3〕記載のヘマグルチニン複合体タンパク質。
〔5〕HA1サブコンポーネントの全部を欠失する、上記〔2〕~〔4〕のいずれかに記載のヘマグルチニン複合体タンパク質。
〔6〕HA3サブコンポーネントとHA2サブコンポーネントとが、リンカーを介して連結されている、上記〔2〕~〔5〕のいずれかに記載のヘマグルチニン複合体タンパク質。
〔7〕HA3サブコンポーネントのC末端とHA2サブコンポーネントのN末端とが、リンカーを介して連結されている、上記〔6〕記載のヘマグルチニン複合体タンパク質。
〔8〕HA2サブコンポーネントがC型あるいはD型ボツリヌス菌由来である、上記〔2〕~〔7〕のいずれか記載のヘマグルチニン複合体タンパク質。
〔9〕HA2サブコンポーネント及び/又はHA3サブコンポーネント中のアミノ酸残基であって、ヘマグルチニン複合体タンパク質の分子表面上に露出する1ないし数個の疎水性アミノ酸残基が、それぞれより親水性のアミノ酸で置換された、上記〔2〕~〔8〕のいずれかに記載のヘマグルチニン複合体タンパク質。
〔10〕3価型である、上記〔1〕記載のヘマグルチニン複合体タンパク質。
〔11〕HA1サブコンポーネントの全部を欠失する、上記〔10〕記載のヘマグルチニン複合体タンパク質。
〔12〕HA2サブコンポーネントが、
(a)配列番号3~6のいずれかで表されるアミノ酸配列、又は
(b)該アミノ酸配列において、1ないし数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列である、上記〔10〕又は〔11〕記載のヘマグルチニン複合体タンパク質。
〔13〕HA3サブコンポーネントが、
(a)配列番号7もしくは8で表されるアミノ酸配列中アミノ酸番号19乃至626の部分配列を少なくとも含む配列、又は
(b)該アミノ酸配列において、1ないし数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなる、上記〔10〕~〔12〕のいずれかに記載のヘマグルチニン複合体タンパク質。
〔14〕HA3サブコンポーネントとHA2サブコンポーネントとが、リンカーを介して連結されている、上記〔10〕~〔13〕のいずれかに記載のヘマグルチニン複合体タンパク質。
〔15〕HA3サブコンポーネントのC末端とHA2サブコンポーネントのN末端とが、リンカーを介して連結されている、上記〔14〕記載のヘマグルチニン複合体タンパク質。
〔16〕上記〔1〕~〔15〕のいずれかに記載のヘマグルチニン複合体タンパク質をコードする核酸。
〔17〕上記〔16〕記載の核酸を含有する発現ベクター。
〔18〕上記〔17〕記載の発現ベクターが導入された宿主細胞。
〔19〕上記〔18〕記載の宿主細胞を培養し、得られた培養物からヘマグルチニン複合体タンパク質又はそのサブコンポーネントを回収し、サブコンポーネントの場合は、さらに、得られたサブコンポーネント同士を接触させ、生成するヘマグルチニン複合体タンパク質を回収することを特徴とする、該ヘマグルチニン複合体タンパク質の製造方法。
〔20〕上記〔1〕~〔15〕のいずれかに記載のヘマグルチニン複合体タンパク質、又はA型ボツリヌス菌由来の、全長HA1サブコンポーネントの二量体、全長HA2サブコンポーネント及びHA3サブコンポーネントの378位のProから626位のAsnまでの断片が会合してなる単価型の複合体タンパク質を含有してなる、E-カドヘリンの機能阻害剤。
〔21〕E-カドヘリンの機能が細胞間接着機能である、上記〔20〕記載の阻害剤。
〔22〕上記〔1〕~〔15〕のいずれかに記載のヘマグルチニン複合体タンパク質、又はA型ボツリヌス菌由来の、全長HA1サブコンポーネントの二量体、全長HA2サブコンポーネント及びHA3サブコンポーネントの378位のProから626位のAsnまでの断片が会合してなる単価型の複合体タンパク質を、細胞集団と接触させることを特徴とする、該細胞集団中の細胞間接着の阻害方法。
〔23〕細胞集団が多能性幹細胞の集団である、上記〔22〕記載の方法。
〔24〕上記〔1〕~〔15〕のいずれかに記載のヘマグルチニン複合体タンパク質、又はA型ボツリヌス菌由来の、全長HA1サブコンポーネントの二量体、全長HA2サブコンポーネント及びHA3サブコンポーネントの378位のProから626位のAsnまでの断片が会合してなる単価型の複合体タンパク質を含有してなる、細胞の増殖促進剤。
〔25〕上記〔1〕~〔15〕のいずれかに記載のヘマグルチニン複合体タンパク質、又はA型ボツリヌス菌由来の、全長HA1サブコンポーネントの二量体、全長HA2サブコンポーネント及びHA3サブコンポーネントの378位のProから626位のAsnまでの断片が会合してなる単価型の複合体タンパク質の存在下で、細胞と培養することを特徴とする、該細胞の増殖促進方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、カドヘリン機能阻害活性を保持しつつ小型化された新規HA複合体タンパク質が提供される。従って、iPS細胞をはじめとする多能性幹細胞の未分化状態を維持するためのHA複合体タンパク質を、安価にかつ簡便に提供することができ、きわめて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のHA複合体タンパク質の小型化戦略を模式的にまとめたフロー図である。
図2】Caco-2培養細胞におけるTER値に及ぼすmini-HA複合体及びFL-HA複合体の効果を示す図である。
図3】Caco-2培養細胞におけるTER値に及ぼすmini(2+3)複合体並びにFL(2+3)-N及びFL(2+3)-C複合体の効果を示す図である。
図4】Caco-2培養細胞におけるTER値に及ぼすmini(2+3)/BB複合体及びmini(2+3)/CB複合体の効果を示す図である。
図5】Caco-2培養細胞におけるTER値に及ぼすmini(2+3)/BB複合体及びlinked-mini(2+3)/BB複合体の効果を示す図である。
図6】Caco-2培養細胞におけるTER値に及ぼすmini(2+3)/CB複合体及びlinked-mini(2+3)/CB-YFDY複合体の効果を示す図である。
図7】Caco-2培養細胞におけるTER値に及ぼすlinked-mini(2+3)/CB複合体、linked-mini(2+3)/CB-YFDY複合体及びlinked-mini(2+3)/CB-LD/YFDY複合体の効果を示す図である。
図8】Caco-2培養細胞におけるTER値に及ぼすlinked-mini(2+3)/CB-YFDY複合体及びlinked-mini(2+3)/CB-YFDY/ITCC複合体の効果を示す図である。
図9】MDCK培養細胞の細胞間接着に及ぼすmini-HA複合体の効果を示す図である。
図10】Coca-2細胞に対する種々のHA複合体タンパク質の細胞毒性試験の結果を示す図である。
図11】linked-mini(2+3)複合体とlinked-FL(2+3)複合体の発現・精製の比較を示す図である。
図12】B型及びC型のHA2サブコンポーネントのアラインメントを示す図である。
図13】linked-mini(2+3)複合体の立体構造を示す模式図である。
図14】linked-mini(2+3)/CB複合体への種々の変異導入を示す模式図である。
図15】linked-mini(2+3)/CB-LD/YFDY複合体のアミノ酸配列を示す図である。
図16】iPS細胞の細胞間接着に及ぼすlinked-mini(2+3)/CB-LD/YFDY複合体の効果を示す図である。図16Aは実験プロトコルを示す。図16Bは、培養開始3日目(Day3)におけるB型FL-HA複合体及びlinked-mini(2+3)/CB-LD/YFDY複合体の0.5ないし100nMの種々の濃度での細胞間接着阻害効果を示す顕微鏡写真である。
図17】MDCK細胞の増殖に及ぼす種々の濃度のB型FL-HA複合体(FL-HA)及びlinked-mini(2+3)/CB-LD/YFDY複合体(nano-HA)の効果を示す図である。横軸の数字は、上から両HA複合体のモル濃度(nM)、B型FL-HA複合体の重量/体積濃度(μg/ml)、及びlinked-mini(2+3)/CB-LD/YFDY複合体の重量/体積濃度(μg/ml)を示す。
図18】MDCK細胞の増殖に及ぼす、B型FL-HA複合体(FL-HA;30 nM (単腕(プロトマー)あたり90 nM))及びlinked-mini(2+3)/CB-LD/YFDY複合体(nano-HA;100 nM)の効果を示す図である。横軸下段の数値は、各HA複合体の重量/体積濃度(μg/ml)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、E-カドヘリンの機能阻害活性を有する小型化されたHA複合体タンパク質(以下、「本発明のHA複合体」ともいう。)を提供する。該HA複合体タンパク質は、
(a)少なくともHA1サブコンポーネントの全部もしくは一部、及び/又はHA3サブコンポーネントの一部を欠失し、
(b)HA2及びHA3サブコンポーネント中のE-カドヘリンとの結合に寄与する領域を含み、かつ
(c)HA3サブコンポーネントはA型もしくはB型ボツリヌス菌由来である
ことを特徴とする。
本発明のHA複合体は、単価型と3価型とに大別される。
【0018】
(I)単価型HA複合体
本明細書において「単価型」とは、HA1サブコンポーネント二量体、HA2サブコンポーネント及びHA3サブコンポーネントからなる複合体を基本(完全型)とし、そこからさらに1以上のサブコンポーネントの一部もしくは全部が欠失したものを含む。単価型HA複合体がtriskelion様の立体構造をとり三量体化したものが3価型HA複合体であり、完全型の単価型HA複合体が三量体化したものが、FL-HA(12量体)である。尚、HA3サブコンポーネントのN末端側領域を欠失するために、理論上triskelion様の3価型HA複合体を形成することはできないが、何らかの分子間相互作用により単価型HA複合体が2分子以上会合した状態で存在する場合も、本発明の単価型HA複合体に包含されるものとする。
【0019】
本発明の単価型HA複合体は、少なくとも、HA2及びHA3サブコンポーネント中のE-カドヘリンとの結合に寄与する領域を含む。
HA2サブコンポーネント中のE-カドヘリンとの結合に寄与する領域としては、E-カドヘリンと水素結合又は塩橋を形成する83位、86位、104位、109位、131位及び135位のアミノ酸残基を含む領域が挙げられ(例えば、非特許文献6参照)、例えば、HA2サブコンポーネントの80位~135位、好ましくは50位~140位、より好ましくは2位~146位のアミノ酸配列を含む領域であり得る。
HA3サブコンポーネント中のE-カドヘリンとの結合に寄与する領域としては、E-カドヘリンと水素結合又は塩橋を形成する501位、503位、505位、506位、534位、535位、582位、586位、607位及び609位のアミノ酸残基、さらにE-カドヘリンとの疎水性相互作用に関与する417位、473位及び508位のアミノ酸残基を含む領域が挙げられ(例えば、非特許文献6参照)、例えば、HA3サブコンポーネントの400位~610位、好ましくは390位~620位、より好ましくは380位~626位のアミノ酸配列を含む領域であり得る。
本発明の単価型HA複合体を構成するHA3サブコンポーネントは、380位よりさらにN末端側のアミノ酸配列を含んでもよいが、380位よりC末端側のアミノ酸配列を含めば、該複合体にE-カドヘリン機能阻害活性を付与することができるので、好ましい一実施態様においては、小型化の観点から、HA3サブコンポーネントは、380位よりN末端側のアミノ酸配列を含まない。また、各サブコンポーネントを別個に作製した後、それらを接触させ再構成させる実施態様においては、HA3サブコンポーネントのよりN末端側までを含むことで、3価型に再構成され、単価型の収率が低下するおそれもあるので、この点でも380位よりさらにN末端側のアミノ酸配列を含まないことが望ましい。
【0020】
本発明の単価型HA複合体を構成するHA3サブコンポーネントは、A型もしくはB型のボツリヌス菌由来のものである。A型ボツリヌス菌由来のHA3サブコンポーネントとしては、例えば、配列番号7で表されるアミノ酸配列(GenBank:AAM75949.1)を有するタンパク質が挙げられる。B型ボツリヌス菌由来のHA3サブコンポーネントとしては、例えば、配列番号8で表されるアミノ酸配列(GenBank: ACA46977.1)を有するタンパク質が挙げられる。あるいは、A型もしくはB型のボツリヌス菌由来のHA3サブコンポーネントとして、配列番号7又は8で表されるアミノ酸配列において、1ないし数個(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個)のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列も含まれる。A型HA3サブコンポーネントとB型HA3サブコンポーネントとは、約98%のアミノ酸同一性を有するので、アミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加される位置としては、例えば、A型HA3とB型のHA3とでアミノ酸残基が異なる位置が挙げられる。あるいは、変異の位置として、後述のHA複合体タンパク質の分子表面に露出した疎水性アミノ酸残基を挙げることもできる。HA3サブコンポーネント中のアミノ酸残基を他のアミノ酸で置換する場合には、類似アミノ酸で置換することが望ましい。「類似アミノ酸」とは物理化学的性質において類似したアミノ酸を意味し、例えば、芳香族アミノ酸(Phe、Trp、Tyr)、脂肪族アミノ酸(Ala、Leu、Ile、Val)、極性アミノ酸(Gln、Asn)、塩基性アミノ酸(Lys、Arg、His)、酸性アミノ酸(Glu、Asp)、水酸基を有するアミノ酸(Ser、Thr)、側鎖の小さいアミノ酸(Gly、Ala、Ser、Thr、Met)などの同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換はタンパク質の表現型に変化をもたらさない(即ち、保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は当該技術分野で周知であり、種々の文献に記載されている(例えば、Bowieら,Science, 247:1306-1310 (1990)を参照)。
従って、本発明の単価型HA複合体を構成するHA3サブコンポーネントは、例えば、配列番号7又は8で表されるアミノ酸配列中、400位~610位、好ましくは390位~620位、より好ましくは380位~626位の部分アミノ酸配列、あるいは、該部分アミノ酸配列において、1ないし数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を含むものであり得る。
【0021】
一実施態様において、本発明の単価型HA複合体は、HA2サブコンポーネント及びHA3サブコンポーネントに加えて、さらにHA1サブコンポーネントを含み得る。HA1サブコンポーネントは、A型ないしD型のいずれのボツリヌス菌由来のものであってよく、A型もしくはB型のボツリヌス菌由来のものであることが望ましく、B型のボツリヌス菌由来のものであることがより望ましい。A型ボツリヌス菌由来のHA1サブコンポーネントとしては、例えば、配列番号9で表されるアミノ酸配列(GenBank:AAM75951.1)を有するタンパク質が挙げられる。B型ボツリヌス菌由来のHA1サブコンポーネントとしては、例えば、配列番号10で表されるアミノ酸配列(GenBank: ACA46991.1)を有するタンパク質が挙げられる。C型ボツリヌス菌由来のHA1サブコンポーネントとしては、例えば、配列番号11で表されるアミノ酸配列(NCBI reference Sequence:YP_398514.1)を有するタンパク質が挙げられる。D型ボツリヌス菌由来のHA1サブコンポーネントとしては、例えば、配列番号12で表されるアミノ酸配列(GenBank:EES90382.1)を有するタンパク質が挙げられる。あるいは、A型ないしD型のボツリヌス菌由来のHA1サブコンポーネントとして、配列番号9~12のいずれかで表されるアミノ酸配列において、1ないし数個(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個)のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列も含まれる。アミノ酸の置換、欠失、挿入もしくは付加については、基本的に前記HA3サブコンポーネントの場合と同様であるが、HA1サブコンポーネントは、C型もしくはD型ボツリヌス菌由来であり得るので、変異の位置の自由度はHA3サブコンポーネントよりも高くなり得る。すなわち、A型HA1サブコンポーネントとB型HA1サブコンポーネントとは、約84%のアミノ酸同一性を有するが、B型HA1サブコンポーネントとC型もしくはD型HA1サブコンポーネントとは、それぞれ約35%、約40%のアミノ酸同一性、類似アミノ酸を含めたアミノ酸類似性でもそれぞれ56%、58%にとどまるので、アミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加される位置としての、例えば、A型又はB型のHA2とC型又はD型のHA2とでアミノ酸残基が異なる位置はより多くある。HA1サブコンポーネント中のアミノ酸残基を他のアミノ酸で置換する場合には、類似アミノ酸で置換することが望ましい。「類似アミノ酸」としては、上記と同様のものが挙げられる。また、HA1サブコンポーネント中のアミノ酸残基を欠失する場合、例えば、N末端の1ないし数個(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個)のアミノ酸を欠失していてもよい。
HA1サブコンポーネントとして、その全長を含んでもよいし、一部のみを含んでもよい。一部のみを含む場合、E-カドヘリンとの相互作用に寄与する領域を少なくとも含むことが望ましい。また、該単価型HA複合体は、HA1サブコンポーネントを二量体として含んでもよく、あるいは単量体で含んでもよい。
【0022】
好ましい一実施態様においては、本発明の単価型HA複合体は、HA1サブコンポーネントの全長を二量体で含む。A型ボツリヌス菌由来の、全長HA1サブコンポーネントの二量体、全長HA2サブコンポーネント及びHA3サブコンポーネントの378位のProから626位のAsnまでの断片が会合してなる単価型の複合体タンパク質(Jinらのmini-HA複合体)は、従来、E-カドヘリンには結合するが、バリア破壊活性はないと報告されていたが、本発明者らは、mini-HA複合体は、完全なHA12量体(FL-HA)と同様のカドヘリン機能阻害活性を有することを見出した。
【0023】
好ましい実施態様においては、本発明の単価型HA複合体は、HA3サブコンポーネント部分が、
(a)配列番号1もしくは2で表されるアミノ酸配列、又は
(b)該アミノ酸配列において、1ないし数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列である複合体タンパク質である。
配列番号1及び2のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号7及び8のアミノ酸配列中380位~626位のアミノ酸配列に相当する。アミノ酸の置換、欠失、挿入もしくは付加については前記と同様である。
【0024】
別の好ましい実施態様においては、本発明の単価型HA複合体は、HA2サブコンポーネント部分が、
(a)配列番号3~6のいずれかで表されるアミノ酸配列、又は
(b)該アミノ酸配列において、1ないし数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列である複合体タンパク質である。
配列番号3~6のアミノ酸配列は、それぞれA型~D型のボツリヌス菌由来のHA2サブコンポーネントの全長(1位~146位)のアミノ酸配列(それぞれGenBank:AAM75950.1、 GenBank: BAE48260.1、NCBI: YP_398513.1及びGenBank:EES90370.1)に相当する。アミノ酸の置換、欠失、挿入もしくは付加については、基本的に前記HA3サブコンポーネントの場合と同様であるが、HA2サブコンポーネントは、C型もしくはD型ボツリヌス菌由来であり得るので、変異の位置の自由度はHA3サブコンポーネントよりも高くなり得る。すなわち、A型HA2サブコンポーネントとB型HA2サブコンポーネントとは、約98%のアミノ酸同一性を有するが、B型HA2サブコンポーネントとC型もしくはD型HA2サブコンポーネントとは、64%のアミノ酸同一性、類似アミノ酸を含めたアミノ酸類似性でも79%にとどまるので(図12参照)、アミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加される位置としての、例えば、A型又はB型のHA2とC型又はD型のHA2とでアミノ酸残基が異なる位置はより多くある。
【0025】
本発明の単価型HA複合体において、各HAサブコンポーネントは、別個のタンパク質として発現させた後で、それらを接触させることにより再構成させてもよいし、各サブコンポーネントを、リンカーを介して融合タンパク質として発現させてもよい。後者の場合、各サブコンポーネントを精製した後、再構成させ、さらに精製する必要がないので、製造工程の簡略化を図ることができる。
【0026】
別の好ましい実施態様においては、本発明の単価型HA複合体は、HA1サブコンポーネントの全部を欠失する。HA1サブコンポーネントの全部を欠失させることで、単価型HA複合体の分子量を半分以下(約50kDa)に低減させることができる。ここで、HA2サブコンポーネントとHA3サブコンポーネントを別個のタンパク質として発現させ、再構成させる態様においては、HA2サブコンポーネントとして、C型もしくはD型ボツリヌス菌由来のものを用いる必要がある。A型又はB型のHA2サブコンポーネントを用いた場合、得られる単価型HA複合体は、E-カドヘリンの機能阻害活性を消失している場合があるためである。
従って、好ましい一実施態様においては、本発明の単価型HA複合体は、C型ボツリヌス菌由来のHA2サブコンポーネントを含む。
【0027】
別の好ましい実施態様において、本発明の単価型HA複合体は、HA3サブコンポーネントとHA2サブコンポーネントとが、リンカーを介して連結された、融合タンパク質として提供され得る。融合タンパク質として提供することで、HA2サブコンポーネントとしてA型もしくはB型ボツリヌス菌由来のものを用いても、HA複合体に、E-カドヘリンの機能阻害活性を付与することができ、HA2サブコンポーネントとしてC型もしくはD型ボツリヌス菌由来のものを用いた場合には、一過的であったカドヘリン機能阻害活性を持続的に変化させることができる。また、融合タンパク質として発現させることで、各サブコンポーネントを別個に発現させた後、再構成させる場合と同様に、夾雑物及び/又は分解物の混在を抑制することができ、高純度でHA複合体を精製することができ(図11参照)、収率は顕著に向上する。
リンカーはペプチドリンカーであれば特に制限はないが、HA2サブコンポーネントとHA3サブコンポーネントの立体構造を考慮すると(図13参照)、HA3サブコンポーネントのC末端とHA2サブコンポーネントのN末端とをリンカーで繋ぐ場合、6~12アミノ酸、好ましくは8~10アミノ酸からなる任意のアミノ酸配列からなるリンカーを使用することができる。例えば、GSGGDDPPG(配列番号13)が挙げられるが、それに限定されない。
一方、HA2サブコンポーネントのC末端とHA3サブコンポーネントのN末端とをリンカーで繋ぐ場合、HA複合体の立体構造上、両末端の距離が離れているので、より長いリンカーを用いることが望ましい。しかし、リンカーがプロテアーゼやペプチダーゼにより切断されやすくなる等の不利な点が考えられるので、HA3サブコンポーネントのC末端とHA2サブコンポーネントのN末端とをリンカーで繋ぐ方がより好ましい。
【0028】
本発明のさらに別の好ましい実施態様においては、本発明の単価型HA複合体は、その分子表面上に露出する1ないし数個の疎水性アミノ酸残基を、それぞれより親水性のアミノ酸で置換することにより、さらにバリア破壊活性を向上させることができる。そのような疎水性アミノ酸としては、例えば、該HA複合体がmini-HA(2+3)/CBである場合、HA2サブコンポーネント中のF7, F19, L23, L35, L40, I50, V61, A62, Y70, Y73, F75, Y77, L86, I90, I94, L102, I104, V105, V107, Y110, Y115, I121, L127, L129, F132, I134, 及びL146、HA3サブコンポーネント中のI383, Y393, I397, F406, Y407, L409, I417, L426, I435, G436, I437, Y457, I458, A466, L473, Y481, I491, M508, I514, Y525, V533, Y558, Y561, I565, F569, I575, I581, I583, L590, I596, L599, I603, L613, 及びY616等が挙げられる。好ましくは、HA2の40位のLeu残基をAspに置換したもの、73位のTyr残基をAspに、75位のPhe残基をTyrに置換したもの等が挙げられるが(図14及び15)、それらに限定されない。
【0029】
本発明の別の実施態様において、各サブコンポーネント中にシステイン残基を変異導入することができる。例えば、HA3サブコンポーネントの572位のThr残基及び/またはHA2サブコンポーネントの90位のIle残基を、それぞれCysに置換することができる(linked-mini(2+3)-YFDY/ITCC、図14及び15)。当該変異により、HA2サブコンポーネントとHA3サブコンポーネントとをリンカーで繋ぐことで持続的となったバリア破壊活性を、一時的なものにすることができる。
【0030】
(II)3価型HA複合体
本発明はまた、3価型のHA複合体タンパク質を提供する。該3価型HA複合体は、HA3サブコンポーネントの一部を欠失することを妨げないが、E-カドヘリンとの結合に寄与する領域と、triskelion様の立体構造をとるのに必要な領域とを含む必要がある。E-カドヘリンとの結合に寄与する領域は、前記単価型の場合と同様であり、また、3価型として再構成されるためにはHA3サブコンポーネントのN末端側のアミノ酸配列を含む必要がある。従って、好ましい実施態様においては、該3価型HA複合体は、HA3サブコンポーネントの全長を含み得る。
【0031】
本発明の3価型HA複合体を構成するHA2サブコンポーネントは、該サブコンポーネント中のE-カドヘリンとの結合に寄与する領域を含む限りその断片であってもよい。当該E-カドヘリンとの結合に寄与する領域は、前記単価型の場合と同様である。
【0032】
好ましい実施態様において、本発明の3価型HA複合体は、HA1サブコンポーネントの全部を欠失する。HA1サブコンポーネントの全部を欠失させることで、3価型HA複合体の分子量を半分近くにまで(約270kDa)低減させることができる。
【0033】
本発明のHA複合体は、単価型、3価型を問わず、精製を容易にしたり、例えば、多能性幹細胞の未分化維持のために使用する際に、目的を達成した後速やかに除去できるように、末端にタグをつけることできる。そのようなタグとしては、FLAGタグ、Hisタグ、Strepタグ等が挙げられるが、それらに限定されない。また、当該タグは各HAサブコンポーネントのN末端につけられてもよいし、C末端に付加されてもよい。但し、本発明の3価型HA複合体の場合、HA3のN末端側にタグを付加するとカドヘリン機能阻害活性が低下する場合があるので、好ましくは、HA3のC末端側にタグが付加される。
【0034】
好ましい実施態様において、本発明の3価型HA複合体は、HA2サブコンポーネントが、
(a)配列番号3~6のいずれかで表されるアミノ酸配列、又は
(b)該アミノ酸配列において、1ないし数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列である複合体タンパク質である。
前述のように、配列番号3~6のアミノ酸配列は、それぞれA型ないしD型のHA2サブコンポーネントの全長(1位~146位の)アミノ酸配列に相当する。アミノ酸の置換、欠失、挿入もしくは付加については前記と同様である。
【0035】
別の好ましい実施態様において、本発明の3価型HA複合体は、HA3サブコンポーネントが、
(a)配列番号7もしくは8で表されるアミノ酸配列中アミノ酸番号19乃至626(実施例で使用)の部分配列を少なくとも含む配列、又は
(b)該アミノ酸配列において、1ないし数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなる複合体タンパク質である。
配列番号7及び8のアミノ酸配列は、それぞれA型及びB型のHA3サブコンポーネントの全長アミノ酸配列に相当する。アミノ酸の置換、欠失、挿入もしくは付加については前記単価型HA複合体におけるHA3サブコンポーネントの場合と同様である。
【0036】
本発明の3価型HA複合体も、前記単価型HA複合体と同様に、HA3サブコンポーネントとHA2サブコンポーネントとが、リンカーを介して連結されていてもよい。リンカーとしては上記と同様のものが挙げられる。また、単価型HA複合体の場合と同様に、HA3サブコンポーネントのC末端とHA2サブコンポーネントのN末端とを、リンカーを介して連結することが好ましい。
【0037】
(III)本発明のHA複合体タンパク質の製造
本発明のHA複合体タンパク質は、各サブコンポーネント又はその融合タンパク質をコードするDNAを含む発現ベクターを宿主細胞に導入して培養し、得られた培養物から該サブコンポーネント又は融合タンパク質を回収し、サブコンポーネントの場合は、さらに、得られたサブコンポーネント同士を接触させ、生成するHA複合体タンパク質を回収することにより、製造することができる。
【0038】
各サブコンポーネントをコードするDNAは、例えば、それらのcDNA配列情報に基づいて、当該タンパク質の所望の部分をコードする領域をカバーするようにオリゴDNAプライマーを合成し、当該タンパク質を産生するボツリヌス菌体より調製したゲノムDNAもしくはmRNA画分を鋳型として用い、(RT-)PCR法によって増幅することにより、クローニングすることができる。
クローン化されたDNAは、そのまま、または所望により制限酵素で消化するか、適当なリンカーを付加した後に、他のサブコンポーネントをコードするDNAとライゲーションして、融合タンパク質をコードするDNAを調製することができる。
【0039】
各サブコンポーネント又はその融合タンパク質をコードするDNAを含む発現ベクターは、例えば、該DNAを適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。
発現ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド(例、pBR322,pBR325,pUC12,pUC13);枯草菌由来のプラスミド(例、pUB110,pTP5,pC194);酵母由来プラスミド(例、pSH19,pSH15);昆虫細胞発現プラスミド(例:pFast-Bac);動物細胞発現プラスミド(例:pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo);λファージなどのバクテリオファージ;バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクター(例:BmNPV、AcNPV);レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルスなどの動物ウイルスベクターなどが用いられる。
プロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。例えば、宿主が動物細胞である場合、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーターなどが用いられる。なかでも、CMVプロモーター、SRαプロモーターなどが好ましい。宿主が大腸菌である場合、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター、T7プロモーターなどが好ましい。宿主がバチルス属菌である場合、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーターなどが好ましい。宿主が酵母である場合、Gal1/10プロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが好ましい。
【0040】
発現ベクターとしては、上記の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ターミネーター、ポリA付加シグナル、薬剤耐性遺伝子、栄養要求性相補遺伝子等の選択マーカー、複製起点などを含有しているものを用いることができる。
【0041】
本発明のHA複合体タンパク質の各サブコンポーネント又はその融合タンパク質をコードするRNAは、例えば、上記した各サブコンポーネント又はその融合タンパク質をコードするDNAをコードするベクターを鋳型として、自体公知のインビトロ転写系にてmRNAに転写することにより調製することができる。
【0042】
各サブコンポーネント又はその融合タンパク質をコードするDNAを含む発現ベクターを宿主細胞に導入し、当該宿主細胞を培養することによって、該サブコンポーネント又は融合タンパク質を宿主細胞において発現させることができる。
宿主としては、例えば、大腸菌、バチルス属菌、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞などが用いられる。大腸菌としては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)K12・DH1〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,60,160 (1968)〕,エシェリヒア・コリJM103〔Nucleic Acids Research,9,309 (1981)〕,エシェリヒア・コリJA221〔Journal of Molecular Biology,120,517 (1978)〕,エシェリヒア・コリHB101〔Journal of Molecular Biology,41,459 (1969)〕,エシェリヒア・コリC600〔Genetics,39,440 (1954)〕などが用いられる。バチルス属菌としては、例えば、バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis)MI114〔Gene,24,255 (1983)〕,バチルス・サブチルス207-21〔Journal of Biochemistry,95,87 (1984)〕などが用いられる。酵母としては、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AH22,AH22R-,NA87-11A,DKD-5D,20B-12、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)NCYC1913,NCYC2036,ピキア・パストリス(Pichia pastoris=Komagataella phaffii)KM71などが用いられる。
【0043】
発現ベクターの導入は、宿主の種類に応じ、公知の方法(例えば、リゾチーム法、コンピテント法、PEG法、CaCl2共沈殿法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、リポフェクション法、アグロバクテリウム法など)に従って実施することができる。大腸菌は、例えば、Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110 (1972)やGene,17,107 (1982)などに記載の方法に従って形質転換することができる。バチルス属菌は、例えば、Molecular & General Genetics,168,111 (1979)などに記載の方法に従ってベクター導入することができる。酵母は、例えば、Methods in Enzymology,194,182-187 (1991)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA,75,1929 (1978)などに記載の方法に従ってベクター導入することができる。
【0044】
ベクターを導入した細胞の培養は、宿主の種類に応じ、公知の方法に従って実施することができる。例えば、大腸菌またはバチルス属菌を培養する場合、培養に使用される培地としては液体培地が好ましい。また、培地は、形質転換体の生育に必要な炭素源、窒素源、無機物などを含有することが好ましい。ここで、炭素源としては、例えば、グルコース、デキストリン、可溶性澱粉、ショ糖などが;窒素源としては、例えば、アンモニウム塩類、硝酸塩類、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などの無機または有機物質が;無機物としては、例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウムなどがそれぞれ挙げられる。また、培地には、酵母エキス、ビタミン類、生長促進因子などを添加してもよい。培地のpHは、好ましくは約5~約8である。
大腸菌を培養する場合の培地としては、例えば、グルコース、カザミノ酸を含むM9培地〔Journal of Experiments in Molecular Genetics, 431-433, Cold Spring Harbor Laboratory, New York 1972〕が好ましい。必要により、プロモーターを効率よく働かせるために、例えば、3β-インドリルアクリル酸のような薬剤を培地に添加してもよい。大腸菌の培養は、通常約15~約43℃で行なわれる。必要により、通気や撹拌を行ってもよい。
【0045】
バチルス属菌の培養は、通常約30~約40℃で行なわれる。必要により、通気や撹拌を行ってもよい。
【0046】
酵母を培養する場合の培地としては、例えば、バークホールダー(Burkholder)最小培地〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,77,4505 (1980)〕や0.5%カザミノ酸を含有するSD培地〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,81,5330 (1984)〕などが挙げられる。培地のpHは、好ましくは約5~約8である。培養は、通常約20℃~約35℃で行なわれる。必要に応じて、通気や撹拌を行ってもよい。
【0047】
以上のようにして、各サブコンポーネント又はその融合タンパク質を宿主細胞において発現させることができる。これらのタンパク質は、それらに対する抗体を用いて、あるいは該タンパク質にタグが付加されている場合には、該タグに特異的な物質を用いて、例えば、それらを担体上に固相化して、得られた宿主細胞の培養物を該担体に接触させることにより、容易に回収・精製することができる。また、自体公知の他の任意のタンパク質の分離精製法を適宜組み合わせて、これらのタンパク質を精製してもよい。
各サブコンポーネントを別個のタンパク質として発現させた場合には、上記の手法により各サブコンポーネントを精製した後、常法に従って、それらを混合し、適切な条件下でインキュベートすることにより、本発明のHA複合体タンパク質に再構成することができる。
【0048】
(IV)本発明のHA複合体タンパク質の用途
本発明のHA複合体タンパク質は、E-カドヘリンの機能、好ましくは細胞間バリア機能の阻害活性(即ち、バリア破壊活性)を保持しつつ、分子サイズが小型化されているため、製造が簡易で、取扱いに優れており、従来の公知のHA複合体タンパク質の用途に対して、従来品よりも有利に使用することができる。
従って、本発明はまた、本発明のHA複合体タンパク質を含有してなる、E-カドヘリンの機能阻害剤(以下、「本発明の阻害剤」ともいう。)を提供する。特に、本発明の阻害剤は、E-カドヘリンの細胞間接着機能の阻害に有用であり、例えば、接着した細胞集団の解離剤として使用され得る。
特に好ましい態様においては、本発明の阻害剤は、多能性細胞の維持増幅培養の過程で偶発的に発生する脱未分化細胞を効率よく除去し、及び/又はその発生を抑制することで、多能性幹細胞の未分化状態の維持に使用され得る。また、培地に添加されたHA複合体タンパク質は、エンドサイトーシス等により細胞内に吸収され、分解除去され得るが、本発明のHA複合体タンパク質は分子サイズが小型化されているので、従来品よりも効率よく細胞により吸収・除去されるものと考えられる。また、本発明のHA複合体タンパク質の存在下でiPS細胞を浮遊培養することにより、iPS細胞集塊を効率よく分割することができ、iPS細胞を効率よく大量増幅させることができる。これらの方法の詳細は、上記特許文献1及び2に記載されている。
【0049】
本発明の阻害剤を、接着した細胞集団の解離剤として使用する場合、該細胞集団の培地に該阻害剤を添加することにより実施することができる。培地に添加される本発明の阻害剤の量は、目的の細胞集団における細胞間接着を阻害し、接着した細胞同士を解離させ得る限り特に制限はないが、例えば、iPS細胞の維持培養系に、HA複合体タンパク質としてlinked-mini(2+3)/CB-LD/YFDYを添加する場合、例えば25nM以上、好ましくは50nM以上、より好ましくは100nM以上の濃度で、培地に添加することができる。添加濃度の上限も、細胞の生存に悪影響を及ぼさない限り特に制限はないが、例えば1μM以下、好ましくは500nM以下が挙げられる。本発明の阻害剤を培地に添加する期間についても、目的の細胞集団における細胞間接着を阻害し、接着した細胞同士を解離させることができ、かつ細胞の生存に悪影響を及ぼさない限り特に制限はないが、例えば6~72時間、好ましくは12~48時間、より好ましくは24±6時間を挙げることができる。細胞集団の培養は、目的の細胞に適した自体公知の培養条件にて行うことができる。
【0050】
本発明のHA複合体タンパク質は、低毒性であり、細胞の生存に悪影響を及ぼさないだけでなく、むしろ細胞の増殖を促進する作用を有する。従って、本発明はまた、本発明のHA複合体タンパク質を含有してなる、細胞の増殖促進剤(以下、「本発明の増殖促進剤」ともいう。)を提供する。
【0051】
本発明の増殖促進剤は、該薬剤を目的の細胞の培地に添加することにより使用することができる。培地に添加される本発明の増殖促進剤の量は、目的の細胞の増殖を有意に増大させ得る限り特に制限はないが、例えば、MDCK細胞の培養系に、HA複合体タンパク質としてlinked-mini(2+3)/CB-LD/YFDYを添加する場合、例えば25nM以上、好ましくは50nM以上、より好ましくは100nM以上の濃度で、培地に添加することができる。添加濃度の上限も、細胞の生存に悪影響を及ぼさない限り特に制限はないが、例えば1μM以下、好ましくは500nM以下が挙げられる。本発明の増殖促進剤を培地に添加する期間についても、目的の細胞の増殖を有意に増大させ、かつ細胞の生存に悪影響を及ぼさない限り特に制限はないが、例えば6~168時間、好ましくは12~120時間、より好ましくは24~96時間を挙げることができる。細胞の培養は、目的の細胞に適した自体公知の培養条件にて行うことができる。
【0052】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0053】
[材料及び方法]
(1) プラスミドの作製
(I) pET52b+の改変(pET52b-C)
下記プライマーをpET52b+[Novagen]のNcoI-SalIサイトへ挿入した。
C-strep-f(配列番号14):
taccatggctagcgcaagctacggatccggtagtgcatggagccacccgcagttcgaaaagtaagtcgacgc
C-strep-r(配列番号15):
gcgtcgacttacttttcgaactgcgggtggctccatgcactaccggatccgtagcttgcgctagccatggta
【0054】
(II) FL-HA/B(B型のFL-HA)
・His-BHA1-Flag (7-294 a.a)
・His-BHA2 (2-146 a.a.)
・Strep-BHA3 (19-626 a.a.)
Clostridiumbotulinum B-okra株のゲノムDNAをテンプレートとして下記プライマーを用いてPCR法により増幅した。
HA1/B-f(配列番号16):
ctagctagcatccaaaattcattaaatgac
HA1/B-r(配列番号17):
cgggatccttacttgtcgtcatcgtctttgtagtctgggttactcatagtccatatc
HA2/B-f(配列番号18):
ctagctagctcagctgaaagaacttttctac
HA2/B-r(配列番号19):
ccgctcgagttatattttttcaagtttgaacatttg
HA3/B-f(配列番号20):
gaaaaagggtaccaatatagtgatactattg
HA3/B-r(配列番号21):
cgtgtcgacttaattagtaatatctatatgc
HA1はpET28b+(Novagen)のNheI-BamHIサイト、HA2はpET28b+(Novagen)のNheI-XhoIサイト、HA3はpET52b+(Novagen)のKpnI-SalIサイトへ挿入した。
【0055】
(III) N-FL-HA(2+3)/B(HA3のN末端にstrepタグを付加したB型のFL(2+3))
・His-BHA2 (2-146 a.a.)
・Strep-BHA3 (19-626 a.a.)
Clostridiumbotulinum B-okra株のゲノムDNAをテンプレートとして下記プライマーを用いてPCR法により増幅した。
HA2/B-f(配列番号18):
ctagctagctcagctgaaagaacttttctac
HA2/B-r(配列番号19):
ccgctcgagttatattttttcaagtttgaacatttg
HA3/B-f(配列番号20):
gaaaaagggtaccaatatagtgatactattg
HA3/B-r(配列番号21):
cgtgtcgacttaattagtaatatctatatgc
HA2はpET28b+(Novagen)のNheI-XhoIサイト、HA3はpET52b+(Novagen)のKpnI-SalIサイトへ挿入した。
【0056】
(IV) C-FL-HA(2+3)/B(HA3のC末端にstrepタグを付加したB型のFL(2+3))
・His-BHA2 (2-146 a.a.)
・BHA3-Strep (19-626 a.a.)
Clostridiumbotulinum B-okra株のゲノムDNAをテンプレートとして下記プライマーを用いてPCR法により増幅した。
HA2/B-f(配列番号18):
ctagctagctcagctgaaagaacttttctac
HA2/B-r(配列番号19):
ccgctcgagttatattttttcaagtttgaacatttg
HA3/B-f(配列番号22):
gcgctagcaatatagtgatactattgatttagctgatgg
HA3/B-r(配列番号23):
ccggatccattagtaatatctatatgcaattttatattatag
HA2はpET28b+(Novagen)のNheI-XhoIサイト、HA3はpET52b-CのNheI-BamHIサイトへ挿入した。
【0057】
(V) linked-FL-HA(2+3)/B(B型のlinked-FL(2+3))
・BHA3-linker-BHA2-Strep (19-626 a.a + 1-9 a.a. + 2-146 a.a.)
pET28b-BHA2とpET52b-BHA3をテンプレートとして下記プライマーを用いてPCR法により増幅した。
HA2/B-f(配列番号24):
ggggtgatgaccctccaggatcagctgaaagaacttttctacctaatg
HA2/B-r(配列番号25):
actaccggatcctattttttcaagtttgaacatttg
HA3/B-f(配列番号26):
taagaaggagatataccatggctagc
HA3/B-r(配列番号27):
gggtcatcacccccacttccattagtaatatctatatgcaattttatattata
HA2とHA3をpET52b-CのNcoI-BamHIサイトへGeneArt(登録商標) Seamless Cloning and Assembly Kit(Invitrogen)を用いて挿入した。
【0058】
(VI) mini-HA/B(B型のmini-HA)
・His-BHA1-FLAG (7-294 a.a)
・His-BHA2 (2-146 a.a.)
・BHA3mini-Strep (380-626 a.a.)
Clostridiumbotulinum B-okra株のゲノムDNAをテンプレートとして下記プライマーを用いてPCR法により増幅した。
HA1/B-f(配列番号16):
ctagctagcatccaaaattcattaaatgac
HA1/B-r(配列番号17):
cgggatccttacttgtcgtcatcgtctttgtagtctgggttactcatagtccatatc
HA2/B-f(配列番号18):
ctagctagctcagctgaaagaacttttctac
HA2/B-r(配列番号19):
ccgctcgagttatattttttcaagtttgaacatttg
HA3mini/B-f(配列番号28):
gcgctagcgaaaatatacaagaaataaatactgctatttcag
HA3mini/B-r(配列番号23):
ccggatccattagtaatatctatatgcaattttatattatag
HA1はpET28b+(Novagen)のNheI-BamHIサイト、HA2はpET28b+(Novagen)のNheI-XhoIサイト、HA3miniはpET52b-CのNheI-BamHIサイトへ挿入した。
【0059】
(VII) mini-HA(2+3)/B(B型のmini(2+3))
・His-BHA2 (2-146 a.a.)
・BHA3mini-Strep (380-626 a.a.)
Clostridiumbotulinum B-okra株のゲノムDNAをテンプレートとして下記プライマーを用いてPCR法により増幅した。
HA2/B-f(配列番号18):
ctagctagctcagctgaaagaacttttctac
HA2/B-r(配列番号19):
ccgctcgagttatattttttcaagtttgaacatttg
HA3mini/B-f(配列番号28):
gcgctagcgaaaatatacaagaaataaatactgctatttcag
HA3mini/B-r(配列番号23):
ccggatccattagtaatatctatatgcaattttatattatag
HA2はpET28b+(Novagen)のNheI-XhoIサイト、HA3miniはpET52b-CのNheI-BamHIサイトへ挿入した。
【0060】
(VIII) mini-HA(2+3)/CB(mini(2+3)/CB)
・His-CHA2 (2-146 a.a.)
・BHA3mini-Strep (380-626 a.a.)
Clostridiumbotulinum C-st 株、B-okra株のゲノムDNAをテンプレートとして下記プライマーを用いてPCR法により増幅した。
HA2/C-f(配列番号29):
ctagctagctcaagtgaaagaacctttttac
HA2/C-r(配列番号30):
acgcgtcgacttaaagtttttctaattttaaaatttg
HA3mini/B-f(配列番号28):
gcgctagcgaaaatatacaagaaataaatactgctatttcag
HA3mini/B-r(配列番号23):
ccggatccattagtaatatctatatgcaattttatattatag
HA2はpET28b+(Novagen)のNheI-SalIサイト、HA3miniはpET52b-CのNheI-BamHIサイトへ挿入した。
【0061】
(IX) linked-mini-HA(2+3)/B(linked-mini(2+3)/BB)
・BHA3mini-linker-BHA2-Strep (380-626 a.a + 1-9 a.a. + 2-146 a.a.)
pET28b-BHA2とpET52b-BHA3をテンプレートとして下記プライマーを用いてPCR法により増幅した。
HA2/B-f(配列番号24):
ggggtgatgaccctccaggatcagctgaaagaacttttctacctaatg
HA2/B-r(配列番号25):
actaccggatcctattttttcaagttgaacatttg
HA3mini/B-f(配列番号26):
taagaaggagatataccatggctagc
HA3mini/B-r(配列番号27):
gggtcatcacccccacttccattagtaatatctatatgcaattttatattata
HA2とHA3miniをpET52b-CのNcoI-BamHIサイトへGeneArt(登録商標)Seamless Cloning and Assembly Kit(Invitrogen)を用いて挿入した。
【0062】
(X) linked-mini-HA(2+3)/CB(linked-mini(2+3)/CB)
・BHA3mini-linker-CHA2-Strep (380-626 a.a + 1-9 a.a. + 2-146 a.a.)
pET28b-CHA2とpET52b-BHA3をテンプレートとして下記プライマーを用いてPCR法により増幅した。
HA2/C-f(配列番号31):
ggggtgatgaccctccaggatcaagtgaaagaacctttttacctaatg
HA2/C-r(配列番号32):
actaccggatccaagtttttctaattttaaaatttgattag
HA3mini/B-f(配列番号26):
taagaaggagatataccatggctagc
HA3mini/B-r(配列番号27):
gggtcatcacccccacttcc attagtaatatctatatgcaattttatattata
HA2とHA3miniをpET52b-CのNcoI-BamHIサイトへGeneArt(登録商標)Seamless Cloning and Assembly Kit(Invitrogen)を用いて挿入した。
【0063】
(XI) linked-mini-HA(2+3)/CB-YFDY(linked-mini(2+3)/CB-YFDY)
・HA2-Y73D-F75Y
pET52b-C-linked-mini-HA(2+3)/CBをテンプレートとして下記のプライマーを用いたsite-directed mutagenesis法により変異を導入した。
Y73D/F75Y-f(配列番号33):
atgatgatggttatatctatttaagttcatcatctaataatag
Y73D/F75Y-r(配列番号34):
agatataaccatcatcattataagctaaatatttattagg
【0064】
(XII) linked-mini-HA(2+3)/CB-IC(linked-mini(2+3)/CB-IC)
・HA2-Y73D-F75Y-I90C
pET52b-C-linked-mini-HA(2+3)/CB-YFDYをテンプレートとして下記のプライマーを用いたsite-directed mutagenesis法により変異を導入した。
I90C-f(配列番号35):
aatccttgtaaaattgctataaattcttatattatatg
I90C-r(配列番号36):
aattttacaaggattccataaactattattag
【0065】
(XIII) linked-mini-HA(2+3)/CB-ITCC(linked-mini(2+3)/CB-ITCC)
・HA2-Y73D-F75Y-I90C, HA3-T572C
pET52b-C-linked-mini-HA(2+3)/CB-YFDY-ICをテンプレートとして下記のプライマーを用いたsite-directed mutagenesis法により変異を導入した。
T572C-f(配列番号37):
agagtctgtgaaactattgacggctataattt
T572C-r(配列番号38):
agtttcacagactctaaataaagtacctattc
【0066】
(XIV) linked-mini-HA(2+3)/CB-YFDY-LD(linked-mini(2+3)/CB-LD/YFDY)
・HA2-L40D-Y73D-F75Y
pET52b-C-linked-mini-HA(2+3)/CB-YFDYをテンプレートとして下記のプライマーを用いたsite-directed mutagenesis法により変異を導入した。
L40D-f(配列番号39):
tcttctgatgataatcaaaaatggaagttag
L40D-r(配列番号40):
attatcatcagaagatgtatttgaaaatgataatg
【0067】
(2)タンパク質発現
上記で作製したプラスミドはRosetta2 (DE3) [Novagen] にトランスフォームした。タンパク質発現誘導はOvernight Express Autoinduction System 1 [Novagen]を用いて行った。それぞれのプラスミドにおいて下記のように発現誘導を行った後、大腸菌は遠心により回収し使用まで-80℃で保存した。
pET28b-BHA1・・・18℃, 48時間
pET28b-BHA2・・・18℃, 48時間
pET28b-CHA2・・・18℃, 48時間
pET52b-BHA3・・・30℃, 36時間
pET52b-C-BHA3・・・30℃, 36時間
pET52b-C-BHA3mini・・・30℃, 36時間
pET52b-C-linked-mini-HA(2+3)/B・・・30℃, 20時間
pET52b-C-linked-mini-HA(2+3)/CB・・・30℃, 20時間
各変異体は野生型と同条件でおこなった。
【0068】
(3)タンパク質精製
それぞれのタンパク質において下記を用いて精製した。
pET28b-BHA1・・・His-Trap HP [GE Healthcare]
pET28b-BHA2・・・His-Trap HP [GE Healthcare]
pET28b-CHA2・・・His-Trap HP [GE Healthcare]
pET52b-BHA3・・・Strep-Trap HP [GE Healthcare]
pET52b-C-BHA3・・・Strep-Trap HP [GE Healthcare]
pET52b-C-BHA3mini・・・Strep-Trap HP [GE Healthcare]
pET52b-C-linked-mini-HA(2+3)/B・・・Strep-Trap HP [GE Healthcare]
pET52b-C-linked-mini-HA(2+3)/CB・・・Strep-Trap HP [GE Healthcare]
複合体(II, III, IV, VI, VII, VIII)においては(HA1:)HA2:HA3=(4:)4:1のモル比で混合し、37℃で3時間インキュベートした後、Strep-Trap HP [GE Healthcare]を用いて精製した。
【0069】
(4)タンパク質アミノ酸配列(下線はタグ(及びベクター由来配列)又はリンカー配列を示す)
>His-BHA1-Flag(配列番号41):
MGSSHHHHHHSSGLVPRGSHMASIQNSLNDKIVTISCKANTDLFFYQVPGNGNVSLFQQTRNYLERWRIIYDSNKAAYKIKSMNIYNTNLVLTWNAPTHNISAQQDSNADNQYWLLLKDIGNNSFIIASYKNPNLVLYADTVARNLKLSTLNNSSYIKFIIEDYVISDFKNFTCRISPILAGGKVVQQVSMTNLAVNLYIWNNDLNQKWTIIYNEEKAAYQFFNKILSNGVLTWIFSDGNTVRVSSSAQNNDAQYWLINPVSDNYDRYTITNLRDKTKVLDLYGGQTADGTTIQVFNSNGGDNQIWTMSNPDYKDDDDK

>His-BHA2(配列番号42):
MGSSHHHHHHSSGLVPRGSHMASSAERTFLPNGNYNIKSIFSGSLYLSPVSGSLTFSNESSANNQKWNVEYMAENRCFKISNVAEPNKYLSYDNFGFISLDSLSNRCYWFPIKIAVNTYIMLSLNKVNELDYAWDIYDTNENILSQPLLLLPNFDIYNSNQMFKLEKI

>Strep-BHA3(配列番号43):
MASWSHPQFEKGALEVLFQGPGYQYSDTIDLADGNYVVSRGDGWILSRQNQILGGSVISNGSTGIVGDLRVNDNAIPYYYPTPSFNEEYIKNNIQTVFANFTEANQIPIGFEFSKTAPSNKNLYMYLQYTYIRYEIIKVLQHEIIERAVLYVPSLGYVKSIEFNPGEKINKDFYFLTNDKCILNEQFLYKKILETTKNIPTNNIFNSKVSSTQRVLPYSNGLYVINKGDGYIRTNDKDLIGTLLIEAGSSGSIIQPRLRNTTRPLFTTSNDAKFSQQYTEERLKDAFNVQLFNTSTSLFKFVEEAPSNKNICIKAYNTYEKYELIDYQNGSIVNKAEYYLPSLGYCEVTNAPSPESEVVKTQVAEDGFIQNGPEEEIVVGVIDPSENIQEINTAISDNYTYNIPGIVNNNPFYILFTVNTTGIYKINAQNNLPSLKIYEAIGSGNRNFQSGNLCDDDIKAINYITGFDSPNAKSYLVVLLNKDKNYYIRVPQTSSNIENQIKFKREEGDLRNLMNSSVNIIDNLNSTGAHYYTRQSPDVHDYISYEFTIPGNFNNKDTSNIRLYTSYNQGIGTLFRVTETIDGYNLINIQQNLNLLNSTKSIRLLNGAIYILKVEVTELNNYNIKLHIDITN

>BHA3-Strep(配列番号44):
MASYSDTIDLADGNYVVSRGDGWILSRQNQILGGSVISNGSTGIVGDLRVNDNAIPYYYPTPSFNEEYIKNNIQTVFANFTEANQIPIGFEFSKTAPSNKNLYMYLQYTYIRYEIIKVLQHEIIERAVLYVPSLGYVKSIEFNPGEKINKDFYFLTNDKCILNEQFLYKKILETTKNIPTNNIFNSKVSSTQRVLPYSNGLYVINKGDGYIRTNDKDLIGTLLIEAGSSGSIIQPRLRNTTRPLFTTSNDAKFSQQYTEERLKDAFNVQLFNTSTSLFKFVEEAPSNKNICIKAYNTYEKYELIDYQNGSIVNKAEYYLPSLGYCEVTNAPSPESEVVKTQVAEDGFIQNGPEEEIVVGVIDPSENIQEINTAISDNYTYNIPGIVNNNPFYILFTVNTTGIYKINAQNNLPSLKIYEAIGSGNRNFQSGNLCDDDIKAINYITGFDSPNAKSYLVVLLNKDKNYYIRVPQTSSNIENQIKFKREEGDLRNLMNSSVNIIDNLNSTGAHYYTRQSPDVHDYISYEFTIPGNFNNKDTSNIRLYTSYNQGIGTLFRVTETIDGYNLINIQQNLNLLNSTKSIRLLNGAIYILKVEVTELNNYNIKLHIDITNGSGSAWSHPQFEK

>linked-FL(2+3)/BB(配列番号45):
MASYSDTIDLADGNYVVSRGDGWILSRQNQILGGSVISNGSTGIVGDLRVNDNAIPYYYPTPSFNEEYIKNNIQTVFANFTEANQIPIGFEFSKTAPSNKNLYMYLQYTYIRYEIIKVLQHEIIERAVLYVPSLGYVKSIEFNPGEKINKDFYFLTNDKCILNEQFLYKKILETTKNIPTNNIFNSKVSSTQRVLPYSNGLYVINKGDGYIRTNDKDLIGTLLIEAGSSGSIIQPRLRNTTRPLFTTSNDAKFSQQYTEERLKDAFNVQLFNTSTSLFKFVEEAPSNKNICIKAYNTYEKYELIDYQNGSIVNKAEYYLPSLGYCEVTNAPSPESEVVKTQVAEDGFIQNGPEEEIVVGVIDPSENIQEINTAISDNYTYNIPGIVNNNPFYILFTVNTTGIYKINAQNNLPSLKIYEAIGSGNRNFQSGNLCDDDIKAINYITGFDSPNAKSYLVVLLNKDKNYYIRVPQTSSNIENQIKFKREEGDLRNLMNSSVNIIDNLNSTGAHYYTRQSPDVHDYISYEFTIPGNFNNKDTSNIRLYTSYNQGIGTLFRVTETIDGYNLINIQQNLNLLNSTKSIRLLNGAIYILKVEVTELNNYNIKLHIDITNGSGGDDPPGSAERTFLPNGNYNIKSIFSGSLYLSPVSGSLTFSNESSANNQKWNVEYMAENRCFKISNVAEPNKYLSYDNFGFISLDSLSNRCYWFPIKIAVNTYIMLSLNKVNELDYAWDIYDTNENILSQPLLLLPNFDIYNSNQMFKLEKIGSGSAWSHPQFEK

>BHA3mini-Strep(配列番号46):
MASENIQEINTAISDNYTYNIPGIVNNNPFYILFTVNTTGIYKINAQNNLPSLKIYEAIGSGNRNFQSGNLCDDDIKAINYITGFDSPNAKSYLVVLLNKDKNYYIRVPQTSSNIENQIKFKREEGDLRNLMNSSVNIIDNLNSTGAHYYTRQSPDVHDYISYEFTIPGNFNNKDTSNIRLYTSYNQGIGTLFRVTETIDGYNLINIQQNLNLLNSTKSIRLLNGAIYILKVEVTELNNYNIKLHIDITNGSGSAWSHPQFEK

>linked-mini(2+3)/BB(配列番号47):
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>linked-mini(2+3)/CB(配列番号48):
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>linked-mini(2+3)/CB-YFDY(配列番号49):
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>linked-mini(2+3)/CB-LD/YFDY(配列番号50):
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>linked-mini(2+3)/CB-YFDY/IC(配列番号51):
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>linked-mini(2+3)/CB-YFDY/ITCC(配列番号52):
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【0070】
(5)TER試験
1. Caco-2細胞をコラーゲンコートした0.4 μm-pore size・6.5 mm diameterのtranswell chamber [Costar] に播種し、Caco-2細胞培養用培地(20% FBS [Equitech-Bio], MEM [Gibco], 1 mM L-glutamine [Gibco], 17.86 mM NaHCO3 [Wako], 15 mM Hepes [Dojindo], pH7.4, 70 U/ml penicillin G-70 ug/ml Streptomycin [Gibco])を用いて、CO2インキュベータ内(37℃, 5% CO2)で培養した。
2. TER値が600 Ω・cm2以上になるまで3日ずつ培地交換をおこなった。
3. 試験前日に各transwellをPBSで洗浄し、培地中で一晩培養をCO2インキュベータ内でおこなった。
4. 各ウェルの基底側チャンバーへプロトマー計算で終濃度30-300 nMとなるように各種HAを2または3ウェルずつ添加し、CO2インキュベータ内で培養した。
5. HA添加後24時間まで各ウェルのTER値をMillicell-ERS2 [Millipore]を用いて経時的に計測した。
6. 測定値は下記の式により計算をおこない、2または3ウェルの平均値を求め、標準偏差を誤差とした。
[TERcalc(X hr)] = ([TERX hr] / [TER0 hr]) x 100
【0071】
(6)細胞毒性試験
1. 96穴プレートにCaco-2細胞を1x10^4 cell/wellを100 μl/wellのCaco-2細胞培養用培地中に播種し、CO2インキュベータ内(37℃, 5% CO2)で24時間培養した。
2. 細胞を播種していない培地のみのウェルをブランクとした。
3. 96穴プレートに1% Triton X-100または各種タンパク質をプロトマー計算で終濃度300 nMとなるように3ウェルずつ添加し、CO2インキュベータ内で48時間培養した。
4. 各ウェルにSF reagent [nacalai tesque]を10 μlずつ添加し、1.5時間培養した。
5. 各ウェルに1% SDSを10 μlずつ添加し、450 nmと620nm波長の吸光度を測定した。
6. 測定値を下記の式により計算した。
A450calc(sample)= ([A450sample] - [A620sample]) - ([A450blank] - [A620blank])
7. 測定値は各条件において、3ウェルの平均を求め、標準偏差を誤差とした。
【0072】
(7)細胞間接着の阻害試験
1. 100mmディッシュ上で4日間前培養したヒトiPS細胞D2株(入手先:京都大学iPS細胞研究所(CiRA))を、各ウェルにStemFit(登録商標)AK02N培地200μlを添加した48穴プレート(costar 3548)中に、無フィーダー条件下、2.5×103細胞/cm2の密度で播種した(Day0)。
2. 該48穴プレートをCO2インキュベータ内、5% CO2雰囲気下、37℃で3日間培養した。1日毎に培地交換を行い、培養開始1日(Day1)から2日(Day2)にかけて24時間、種々の濃度(0.1~450nM)のlinked-mini(2+3)/CB-LD/YFDY又はB型FL-HA(HFHS)をウェルに添加した(各濃度2ウェル)。培養開始1、2及び3日目に顕微鏡写真(4X)撮影を行った。
【0073】
(8)細胞増殖試験
(a)SFアッセイ
1. 96穴プレートにMDCK細胞1 x 104 cells/wellを100 μl/wellのMDCK細胞培養用培地中に播種し、CO2インキュベータ内(37℃, 5% CO2)で24時間培養した。
2. 96穴プレートに終濃度1 - 300 nMでFL-HAもしくはlinked-mini (2+3)/CB-LD/YFDYを3ウェルずつ添加し、CO2インキュベータ内で24時間培養した。
3. 各ウェルにSF regent [nacalai tesque]を10 μlずつ添加し、CO2インキュベータ内で1.5時間培養した。
4. 各ウェルに1% SDSを10 μlずつ添加し、450 nmと620 nm波長の吸光度を測定した。
5. 測定値を次の式により計算した。
A450calc(sample) = ([A450sample] - [A620sample]) - ([A450blank] - [A620blank])
6. 測定値は各条件において、3ウェルの平均を求め、標準偏差を誤差とした。
【0074】
(b)細胞数計測
1. 35 mm dishにMDCK細胞1 x 104 cells/dishを1.5 ml/dishのMDCK細胞培養用培地中に播種し、CO2インキュベータ内(37℃, 5% CO2)で48時間培養した。
2. 各dishをPBSで洗浄後、FL-HA終濃度30 nM(プロトマー 90 nM)もしくはlinked-mini (2+3)/CB-LD/YFDY終濃度100 nMを3 dishずつ添加し、CO2インキュベータ内で48時間培養した。
3. 各dishをPBSで洗浄後、0.25% trypsin-EDTA [GIBCO] をdishへ添加し、CO2インキュベータ内で30分インキュベートした。その後FBS含有培地を各dishに添加し細胞を回収した。
4. 細胞計数盤ワンセルカウンター[OneCell]を用いて細胞数を計測した。
5. 細胞数は各群3 dishの平均を求め、標準偏差を誤差とした。
【0075】
[結果]
(1)完全なHA12量体(FL-HA)とHA3の一部を欠く単価型HA複合体(mini-HA)について、種々の濃度でCaco-2細胞におけるTER値に及ぼす効果を調べた。その結果、mini-HAは、FL-HAと同様にカドヘリン機能阻害活性を有することが示された(図2)。
【0076】
(2)HA1サブコンポーネントを欠く3価型のC末端もしくはN末端にタグを付加した複合体(FL(2+3)-C、FL(2+3)-N)について、種々の濃度でCaco-2細胞におけるTER値に及ぼす効果を調べた。その結果、HA3サブコンポーネントのN末端にタグを付加した場合、カドヘリン機能阻害活性はFL-HAの約1/3に低下した。一方、HA3サブコンポーネントのC末端にタグを付加した場合、カドヘリン機能阻害活性はFL-HAに近いレベルで保持された(図3)。
【0077】
(3)HA1サブコンポーネントを欠くmini(2+3)について、種々の濃度でCaco-2細胞におけるTER値に及ぼす効果を調べた。その結果、mini(2+3)はカドヘリン機能阻害活性を有しないか、非常に弱かった(図3)。
【0078】
(4)mini(2+3)において、HA2サブコンポーネントをC型に置換したmini(2+3)/CBについて、種々の濃度(プロトマー分子としての濃度)でCaco-2細胞におけるTER値に及ぼす効果を調べた(B型HA2とC型HA2とのアミノ酸配列のアラインメントを図12に示す)。その結果、C型HA2サブコンポーネントを用いることで、一時的ではあるが、カドヘリン機能阻害活性を示すことが明らかとなった(図4)。
【0079】
(5)HA2サブコンポーネントとHA3サブコンポーネントとをリンカーを介して連結すると(図13)、HA2サブコンポーネントがB型であっても、mini(2+3)/BBはカドヘリン機能阻害活性を示した(図5)。
また、mini(2+3)/CBにおいてHA2サブコンポーネントとHA3サブコンポーネントとをリンカーを介して連結すると、カドヘリン機能阻害活性は一時的なものから持続的なものへと変化した(図6図7)。
【0080】
(6)linked-mini(2+3)/CBにおいて、図14及び15に示す種々の変異を導入し、カドヘリン機能阻害活性の変化を調べた。その結果、HA2サブコンポーネント中の疎水性アミノ酸残基をより親水性のアミノ酸に置換する変異を導入した場合[linked-mini(2+3)/CB-YFDY、linked-mini(2+3)/CB-LD/YFDY]、カドヘリン機能阻害活性はさらに向上し、mini-HAと同等の活性を示した(図7)。一方、HA2サブコンポーネントとHA3サブコンポーネントのそれぞれに、システイン残基を導入した場合[linked-mini(2+3)/CB-YFDY/ITCC]、リンカーの使用で持続的になったカドヘリン機能阻害活性が一時的なものに変化した(図8)。
【0081】
(7)HA2サブコンポーネントとHA3サブコンポーネントとをリンカーで繋ぎ、HA2のC末端にStrepタグを付加したコンストラクトを大腸菌に導入して発現させ、培養液をStrepTrapにかけて、linked-mini(2+3)/BBを精製した。その結果、linked-FL(2+3)/BBでは夾雑物もしくは分解物の混在が多く認められるが、linked-mini(2+3)/BBは高純度で精製することができた(図11)。
また、B型HA1、HA2及びHA3サブコンポーネントを別個に発現させ、タグを用いて精製した後、これらを混合、インキュベートして再構成させたところ、再構成による収率を50-80%として計算した結果、合計3L培養に換算して、3xプロトマーを1分子として0.13-0.2μmol、プロトマーとして0.4-0.6umolが得られたのに対し、リンカーでHA2とHA3とを繋いだ場合、3L培養に換算すると、linked-mini(2+3)/BBで5.1μmol、linked-mini(2+3)/CBで3.3μmol、さらに変異を導入したlinked-mini(2+3)/CB-YFDYでは8.4μmolのHA複合体を回収することができ、単価分子あたり約10倍高い収率が得られた。
【0082】
(8)MDCK培養細胞の培地に100nMの濃度でmini-HAを添加し、インキュベートしたところ、mini-HA非存在下では数十細胞が接着した細胞集塊が観察されたが、mini-HAの存在下では、細胞がバラバラになっているのが観察された(図9)。
【0083】
(9)Caco-2細胞の培地にプロトマーとして300nMの濃度で種々のHA複合体タンパク質を添加し、細胞毒性を調べたところ、C型のFL-HAで細胞の生存度が低下した以外は、いずれのHA複合体も細胞毒性は認められず、むしろ細胞の生存を支持する傾向が認められた(図10)。
【0084】
(10)ヒトiPS細胞D2株を3日間培養し、培養開始1日(Day1)から2日(Day2)までの24時間、培地にlinked-mini(2+3)/CB-LD/YFDY又はB型FL-HAを添加し、培養中の細胞形態変化を比較観察した。その結果、図16Bに示すとおり、linked-mini(2+3)/CB-LD/YFDYの添加により、FL-HAと同様に、iPS細胞集塊の細胞間接着が阻害されることが明らかとなった。linked-mini(2+3)/CB-LD/YFDYは、50nM以上の濃度で細胞間接着阻害効果を示した(図16Bには0.5~100nMでの結果のみを示しているが、それ以上の濃度(~450nM)でも、細胞毒性なく細胞間接着阻害効果を示した)。
【0085】
(11)SFアッセイにより、種々の濃度(1 - 300 nM)でのFL-HAとlinked-mini(2+3)/CB-LD/YFDYのMDCK細胞増殖促進作用を解析した結果、linked-mini(2+3)/CB-LD/YFDYは30 nM以上で顕著な細胞増殖促進作用を示し、同一モル濃度のFL-HAと比較して1/3前後(単腕:プロトマーあたりでは同等)の効果を示した(図17)。また、linked-mini(2+3)/CB-LD/YFDYの分子量はFL-HAの約1/10のため、重量/体積濃度換算では、linked-mini(2+3)/CB-LD/YFDYはFL-HAと比較して3倍程度強い活性を示した(図17)。
【0086】
(12)MDCK細胞におけるHAの増殖促進作用を細胞数計測により解析した結果、linked-mini(2+3)/CB-LD/YFDYは、単腕(プロトマー)あたり同等のモル濃度で、FL-HAと遜色のない増殖促進効果を示した(図18)。また、重量/体積濃度換算では、FL-HAと比較して3倍程度強い活性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のHA複合体タンパク質は、カドヘリン機能阻害活性を保持しつつ小型化されているので、製造工程の簡略化が図れ、取扱いも容易なため、従来品よりも有利である。また、低毒性であり、かつ細胞増殖促進作用を有する。従って、例えば、iPS細胞をはじめとする多能性幹細胞の未分化状態を維持・細胞の増殖を促進するための培地添加物として、きわめて有用である。
【0088】
本出願は、日本で出願された特願2017-226370(出願日:2017年11月24日)を基礎としており、ここで言及することにより、その内容は全て本明細書に包含されるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
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図18
【配列表】
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