(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】円偏光発光性希土類錯体
(51)【国際特許分類】
C07F 19/00 20060101AFI20230427BHJP
C07F 5/00 20060101ALI20230427BHJP
C07F 9/53 20060101ALI20230427BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
C07F19/00 CSP
C07F5/00 D
C07F9/53
C09K11/06
(21)【出願番号】P 2019012904
(22)【出願日】2019-01-29
【審査請求日】2022-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】北川 裕一
(72)【発明者】
【氏名】和田 智志
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 靖哉
(72)【発明者】
【氏名】伏見 公志
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/111293(WO,A1)
【文献】特開2003-327590(JP,A)
【文献】国際公開第2014/129416(WO,A1)
【文献】日本化学会講演予稿集,2007年,Vol.87th No.1,Page.609
【文献】Chemical Physics,1990年,Vol.147(1),p.165-172
【文献】European Journal of Inorganic Chemistry,2013年,Vol.2013(34),p.5911-5918
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 19/00
C07F 5/00
C07F 9/53
C09K 11/06
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)、又はその鏡像異性体で表される、円偏光発光性希土類錯体。
【化1】
(一般式(1)中、Ln
3+は、3価の希土類イオンを表す。
Zは各々独立に、ホスフィンオキシド(P=O)、又はリン(P)を表す。
Yは各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、エステル基
(-COOR
b
、ここで、R
b
は炭化水素基を表す)、アシルオキシ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、又はメルカプト基のいずれかを表すが、Yが結合しているフェニル基1個につき、
Zに対してオルト位の少なくとも1つのYがアルコキシ基、エステル基
(-COOR
b
、ここで、R
b
は炭化水素基を表す)、
又はアシルオキシ
基であり、Yに含まれて良い炭化水素中の水素原子は各々独立にハロゲン原子に置換されていても良い。
Xは、直接結合、或いは、-O-、-S-、-NR-(ここで、Rは水素原子又は炭素数1~22の炭化水素基)、又は炭素数
1の炭化水素基を表す。
Qは各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、エステル基
(-COOR
b
、ここで、R
b
は炭化水素基を表す)、アシルオキシ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、又はメルカプト基のいずれかを表すか、或いは、互いに結合して6員環の芳香族炭化水素環を形成していても良く、Qに含まれて良い炭化水素中の水素原子は各々独立にハロゲン原子に置換されていても良い。
R
1は、炭素数1~22の炭化水素基、アルコキシ基、エステル基
(-COOR
b
、ここで、R
b
は炭化水素基を表す)、アシルオキシ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、又はメルカプト基のいずれかを表し、R
1に含まれて良い炭化水素中の水素原子は各々独立ハロゲン原子に置換されていても良い。
R
2及びR
3は各々独立に、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~22の炭化水素基、アルコキシ基、エステル基
(-COOR
b
、ここで、R
b
は炭化水素基を表す)、アシルオキシ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、又はメルカプト基のいずれかを表し、R
2及びR
3に含まれて良い炭化水素中の水素原子は各々独立にハロゲン原子に置換されていても良い。
n1は0~6の数を表し、n2は0~3の数を表すが、n1+2×n2は1以上6以下である。mは3の数を表す。
n1、n2又はmが2以上の場合に、括弧内の構造は、同一でも異なっていても良い。)
【請求項2】
下記一般式(2)、又はその鏡像異性体で表される、請求項
1に記載の円偏光発光性希土類錯体。
【化2】
(一般式(2)中、Ln
3+、Z、X、Q、R
1、R
2、R
3、n1、n2、及びmは各々、前記と同義であり、R
4は各々独立に、炭素数1~22の炭化水素基を表し、基中の水素原子は各々独立にハロゲン原子に置換されていても良い。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、円偏光発光性を示す希土類錯体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、円偏光発光性を示す光学機能材料を有機EL素子と組み合わせることにより、光学機能材料を3次元表示ディスプレイや電子ペーパーに応用することが期待されている。また、円偏光発光性を示す光学機能材料は、通常の可視光の中に右円偏光及び左円偏光をセキュリティー情報として付与することができることから、セキュリティーマーカーや不可視性インキの原料としても注目を集めている。
【0003】
このような光学機能材料の一つに希土類錯体がある。例えば、BINAPO(1,1’-Binaphthalene-2,2’-diylbis(diphenylphosphine oxide))をはじめとするビナフチル構造配位子と、facam(3-trifluoroacetyl-D-camphorate)誘導体の両方が希土類イオンに配位した希土類錯体、TPPO(Triphenylphosphine oxide)をはじめとするホスフィンオキシド誘導体とfacam誘導体の両方が希土類イオンに配位した希土類錯体が報告されている(特許文献1~3)。これらの希土類錯体は、ビナフチル構造配位子、facam誘導体、ホスフィンオキシド誘導体の光学活性構造に由来する不斉配位子場により、右円偏光及び左円偏光を選択的に発光する、即ち円偏光発光性を有することが分かっている。
【0004】
分子の円偏光発光性の度合い(円偏光度)は、g値(異方性因子)で示すことができる。g値は次のように定義される値である。
CDスペクトルからのg値=Δε/ε=2(εL-εR)/(εL+εR)
(式中、εLは左円偏光における吸収係数、εRは右円偏光における吸収係数を表す。)
CPLスペクトルからのg値=ΔI/I=2(IL-IR)/(IL+IR)
(式中、ILは左回りの円偏光発光強度、IRは右回りの円偏光発光強度を表す。)
なお、g値をCDスペクトルから求める場合及びCPLスペクトルから求める場合のいずれにおいても、理論上、g値の最大絶対値は2である。
【0005】
従来の有機化合物のCPLスペクトルにおけるg値は0.001程度である。これに対して、ビナフチル構造配位子とfacam誘導体の両方が配位した希土類錯体のg値は0.01程度であり、ホスフィンオキシド誘導体とfacam誘導体の両方が配位した希土類錯体のg値は0.44であることが報告されている。従って、希土類錯体のg値は従来の有機化合物のg値に比較すると格段に高く、円偏光発光性に優れているといえる。
【0006】
特許文献4には、2,6-ビス(2-オキサゾリン-2-イル)ピリジンとアセチルアセトン誘導体から成る配位子が希土類イオンに配位して成る円偏光発光性希土類錯体が記載されている。特許文献4の円偏光発光性希土類錯体は、g値の絶対値の最大値が0.5と記載されている。
【0007】
また、特許文献5には、g値の絶対値が1.8以上と高い円偏光発光性希土類錯体が記載されている。特許文献5の円偏光発光性希土類錯体は、アセトンなどのケトン系溶媒分子が希土類金属に直接配位することで、円偏光度の高い立体構造をとり、絶対値が1.8以上のg値を示している。
【0008】
非特許文献1では、4対のヘプタフルオロブチリルカンフォレート(hfbc)配位子を有するユーロピウム錯体M+[Eu((+、-)-hfbc)4]-(M = Na、K、Rb、Cs)を使用して、アルカリ金属の大きさが、溶液中のM+[Eu((+、-)-hfbc)4]-(構成単位)とEu((+、-)-hfbc)3(抑制剤)との間の平衡定数を決定するのに決定的な役割を果たし、ユーロピウム錯体のらせん凝集体における長さの変化およびねじれの拡大をもたらすことを示している。非特許文献1の最大のg値を示すCs+[Eu((+)-hfbc)4]-は、g値の絶対値が1.4程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2003-327590号
【文献】特開2005-097240号
【文献】国際公開第2008/111293号
【文献】特許第5713360号
【文献】特許第5849255号
【非特許文献】
【0010】
【文献】Chem.Commun.,2016,52,9885-9888.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来開示されている円偏光発光性希土類錯体は、下記理由により、上述のような期待されている応用分野への適用が、実際には困難であった。
特許文献3の円偏光発光性希土類錯体はg値の絶対値が0.44と記載され、特許文献4の円偏光発光性希土類錯体はg値の絶対値が0.5と記載され、高い値であるが、これらのg値はいずれも重溶媒中で観測されたものであり、塗膜状態ではg値が低くなってしまう。また、特許文献3及び4の円偏光発光性希土類錯体は結晶性が高く、膜中に低い濃度でしか均一に分散できないため、膜にした場合の発光強度や円偏光度が不十分である。
特許文献5の円偏光発光性希土類錯体はg値の絶対値が1.8以上とあり、高い値であるが、このg値はケトン系溶液中で観測されたものであり、塗膜状態ではg値が低くなってしまう。ケトン系溶媒分子が希土類金属に直接配位した円偏光度の高い特定の錯体構造は、溶媒が乾燥された塗膜中での安定性が不足しているからと推察される。溶媒中のケトン系溶媒分子比率によって錯体構造が変化することから、溶媒のない状態や、樹脂などの塗膜を構成する他の成分が共存する状態では、より安定な8配位錯体構造に戻り得ることが考えられる。
また、非特許文献1には、非特許文献1の希土類錯体の凝集体は円偏光フィルタを用いた円偏光ルミネセンスの裸眼視覚化をもたらした旨が記載されている。しかし、実使用上は、膜にした場合に高い発光強度や高い円偏光度を有する必要がある。また、非特許文献1に記載されている材料では、発光効率が低く、発光強度が不十分である。更に、前記凝集体を保持した状態での微粒子化が困難なため、粗大な粒子が多くなり、膜にした場合の透明性が低くなってしまう。
以上のことから、円偏光発光性希土類錯体自体が膜となり、膜にした場合に高い発光強度や優れた円偏光度を有すること、更に当該膜が透明性に優れることが求められている。
【0012】
本開示の実施形態は、発光強度が高く、円偏光発光性に優れ、且つ、透明性に優れる膜を形成可能な円偏光発光性希土類錯体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示の1実施形態は、下記一般式(1)、又はその鏡像異性体で表される、円偏光発光性希土類錯体を提供する。
【0014】
【化1】
(一般式(1)中、Ln
3+は、3価の希土類イオンを表す。
Zは各々独立に、ホスフィンオキシド(P=O)、又はリン(P)を表す。
Yは各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、エステル基、アシルオキシ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、又はメルカプト基のいずれかを表すが、Yが結合しているフェニル基1個につき、少なくとも1つのYがアルコキシ基、エステル基、アシルオキシ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、又はメルカプト基であり、Yに含まれて良い炭化水素中の水素原子は各々独立にハロゲン原子に置換されていても良い。
Xは、直接結合、或いは、-O-、-S-、-NR-(ここで、Rは水素原子又は炭素数1~22の炭化水素基)、又は炭素数1~22の炭化水素基を表す。
Qは各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、エステル基、アシルオキシ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、又はメルカプト基のいずれかを表すか、或いは、互いに結合して6員環の芳香族炭化水素環を形成していても良く、Qに含まれて良い炭化水素中の水素原子は各々独立にハロゲン原子に置換されていても良い。
R
1は、炭素数1~22の炭化水素基、アルコキシ基、エステル基、アシルオキシ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、又はメルカプト基のいずれかを表し、R
1に含まれて良い炭化水素中の水素原子は各々独立にハロゲン原子に置換されていても良い。
R
2及びR
3は各々独立に、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~22の炭化水素基、アルコキシ基、エステル基、アシルオキシ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、又はメルカプト基のいずれかを表し、R
2及びR
3に含まれて良い炭化水素中の水素原子は各々独立にハロゲン原子に置換されていても良い。
n1は0~6の数を表し、n2は0~3の数を表すが、n1+2×n2は1以上6以下である。mは3の数を表す。
n1、n2又はmが2以上の場合に、括弧内の構造は、同一でも異なっていても良い。)
【0015】
本開示の1実施形態の円偏光発光性希土類錯体においては、前記一般式(1)中、Yが結合しているフェニル基1個につき、Zに対してオルト位又はメタ位の少なくとも1つのYが、アルコキシ基、エステル基、アシルオキシ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、又はメルカプト基である、円偏光発光性希土類錯体であってもよい。
【0016】
本開示の1実施形態の前記一般式(1)又はその鏡像異性体で表される円偏光発光性希土類錯体は、下記一般式(2)又はその鏡像異性体で表される円偏光発光性希土類錯体であってもよい。
【0017】
【化2】
(一般式(2)中、Ln
3+、Z、X、Q、R
1、R
2、R
3、n1、n2、及びmは各々、前記と同義であり、R
4は各々独立に、炭素数1~22の炭化水素基を表し、基中の水素原子は各々独立にハロゲン原子に置換されていても良い。)
【発明の効果】
【0018】
本開示の実施形態によれば、発光強度が高く、円偏光発光性に優れ、且つ、透明性に優れる膜を形成可能な円偏光発光性希土類錯体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、円偏光発光(CPL)検出装置の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、実施例1及び実施例2の円偏光発光性希土類錯体の発光スペクトルを示す。
【
図3】
図3は、実施例3及び実施例4の円偏光発光性希土類錯体の発光スペクトルを示す。
【
図4】
図4は、実施例5及び実施例6の円偏光発光性希土類錯体の発光スペクトルを示す。
【
図5】
図5は、実施例7の円偏光発光性希土類錯体の発光スペクトルを示す。
【
図6】
図6は、実施例8及び比較例1の円偏光発光性希土類錯体の発光スペクトルを示す。
【
図7】
図7は、実施例3、4、5及び6の円偏光発光性希土類錯体の円偏光発光(CPL)スペクトルを示す。
【
図8】
図8は、円偏光発光性希土類錯体を部分的に塗布したサンプル調製法を示した図である。
【
図9】
図9は、実施例1及び実施例2の円偏光発光性希土類錯体の膜の発光及び偏光を目視観測した結果を示し、
図9(A)はバンドパスフィルタのみを介して得られた発光の写真であり、
図9(B)はバンドパスフィルタと左円偏光透過フィルタとを介して得られた発光の写真であり、
図9(C)はバンドパスフィルタと右円偏光透過フィルタとを介して得られた発光の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の実施の形態や実施例などを、図面等を参照しながら説明する。但し、本開示は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に例示する実施の形態や実施例等の記載内容に限定して解釈されるものではない。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本開示の解釈を限定するものではない。
また、本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0021】
本開示は、下記一般式(1)、又はその鏡像異性体で表される、円偏光発光性希土類錯体を提供する。
【0022】
【化3】
(一般式(1)中、Ln
3+は、3価の希土類イオンを表す。
Zは各々独立に、ホスフィンオキシド(P=O)、又はリン(P)を表す。
Yは各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、エステル基、アシルオキシ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、又はメルカプト基のいずれかを表すが、Yが結合しているフェニル基1個につき、少なくとも1つのYがアルコキシ基、エステル基、アシルオキシ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、又はメルカプト基であり、Yに含まれて良い炭化水素中の水素原子は各々独立にハロゲン原子に置換されていても良い。
Xは、直接結合、或いは、-O-、-S-、-NR-(ここで、Rは水素原子又は炭素数1~22の炭化水素基)、又は炭素数1~22の炭化水素基を表す。
Qは各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、エステル基、アシルオキシ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、又はメルカプト基のいずれかを表すか、或いは、互いに結合して6員環の芳香族炭化水素環を形成していても良く、Qに含まれて良い炭化水素中の水素原子は各々独立にハロゲン原子に置換されていても良い。
R
1は、炭素数1~22の炭化水素基、アルコキシ基、エステル基、アシルオキシ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、又はメルカプト基のいずれかを表し、R
1に含まれて良い炭化水素中の水素原子は各々独立にハロゲン原子に置換されていても良い。
R
2及びR
3は各々独立に、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~22の炭化水素基、アルコキシ基、エステル基、アシルオキシ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、又はメルカプト基のいずれかを表し、R
2及びR
3に含まれて良い炭化水素中の水素原子は各々独立にハロゲン原子に置換されていても良い。
n1は0~6の数を表し、n2は0~3の数を表すが、n1+2×n2は1以上6以下である。mは3の数を表す。
n1、n2又はmが2以上の場合に、括弧内の構造は、同一でも異なっていても良い。)
【0023】
本開示の円偏光発光性希土類錯体は、発光強度が高く、円偏光発光性に優れ、且つ、透明性に優れる膜を形成することができる。
本開示の円偏光発光性希土類錯体は、不斉炭素原子を有するキラル配位子(i)を3つ有する他に、配位子(ii-1)及び配位子(ii-2)の少なくとも1種を1つ以上有する。配位子(ii-1)及び配位子(ii-2)は、希土類イオンに配位するホスフィンオキシド(P=O)又はリン(P)に結合しているフェニル基1個につき、少なくとも1つのYがアルコキシ基、エステル基、アシルオキシ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、又はメルカプト基であり、嵩高い置換基を有している。当該嵩高い置換基を有することにより、一般式(1)又はその鏡像異性体で表される円偏光発光性希土類錯体は、安定な錯体構造が複数生じ、非晶質となり、光学的に等方な系が生成したため、錯体単独で膜を形成しても透明性が高くなると推定される。また、当該嵩高い置換基の導入による適切な立体障害により、配位子(ii-1)及び配位子(ii-2)の少なくとも1種の希土類イオンに対する配位距離が遠くなり、一方で、3つのキラル配位子(i)の希土類イオンに対する配位距離が近くなることにより、前記特定の円偏光発光性希土類錯体は、キラル効果が増強し、円偏光発光性に優れると推定される。更に、当該置換基は、希土類中心金属への弱い配位性をもつことにより錯体分子同士で相互作用し、その集合体の非晶性を高めるという作用によって、前記特定の円偏光発光性希土類錯体は、膜にした場合の透明性に優れると推定される。また、配位子(i)はβジケトン構造を有し、吸光係数が高いため、励起光のエネルギーを配位した希土類イオンへ効率よく供給することができる。配位子(ii-1)及び配位子(ii-2)の全体の嵩高い置換基の導入による適切な立体障害により、3つのキラル配位子(i)の希土類イオンに対する配位距離が近くなることで、前記励起光エネルギーを希土類イオンへ効率的に供給でき、全体の発光強度を向上することができるため、前記特定の円偏光発光性希土類錯体は、g値の最大値の発光波長の発光強度が大きくなると推定される。
【0024】
前記一般式(1)において、Ln3+は、3価の希土類イオンを表し、具体的には、Eu3+、Tb3+、Sm3+、Er3+、Pr3+、Ho3+、Tm3+及びDy3+からなる群から選ばれる。
前記3価の希土類イオンは、所望の発光色が得られるように適宜選択されるが、中でも、発光効率に優れ、発光強度が高い点から、Eu3+又はTb3+が好ましく、Eu3+がより好ましい。
【0025】
前記一般式(1)中、Zは各々独立に、ホスフィンオキシド(P=O)、又はリン(P)を表し、いずれであってもよい。中でも、低振動型構造となり発光強度を向上させることができる点から、ホスフィンオキシドであることが好ましい。
【0026】
前記一般式(1)中、Yは各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、エステル基、アシルオキシ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、又はメルカプト基のいずれかを表すが、Yが結合しているフェニル基1個につき、少なくとも1つのYがアルコキシ基、エステル基、アシルオキシ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、又はメルカプト基である。
前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
Yに含まれて良い炭化水素、具体的には、前記アルコキシ基(-ORa)、エステル基(-COORb)、アシルオキシ基(-OCORc)、アミノ基(-NRdRe)、スルホニル基(-SO2Rf)、シリル基(-SiRgRhRi)(ここで、Ra、Rb、Rc、Rfは各々独立に炭化水素基を表し、Rd、Re、Rg、Rh、Riは各々独立に水素原子又は炭化水素基を表す)に含まれて良い炭化水素は各々独立に、炭素数1~22の炭化水素基であってよい。
炭素数1~22の炭化水素基において、炭化水素は、直鎖若しくは分岐鎖又は環状であってよく、飽和若しくは不飽和であってよい。前記炭化水素基は、炭素数1~12の炭化水素基であってよく、炭素数1~10の炭化水素基であってよく、炭素数1~6の炭化水素基であってよく、炭素数1~4の炭化水素基であってよい。
また、Yに含まれて良い炭化水素中の水素原子は各々独立にハロゲン原子に置換されていても良い。
【0027】
Yが結合しているフェニル基1個につき、少なくとも1つのYが、アルコキシ基、エステル基、アシルオキシ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、又はメルカプト基であるが、円偏光発光性を大きくする点から、Zに対してオルト位又はメタ位の少なくとも1つのYが、アルコキシ基、エステル基、アシルオキシ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、又はメルカプト基であることが好ましく、Zに対してオルト位の少なくとも1つのYが、アルコキシ基、エステル基、アシルオキシ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、又はメルカプト基であることがより好ましい。
【0028】
Xは、直接結合、或いは、-O-、-S-、-NR-(ここで、Rは水素原子又は炭素数1~22の炭化水素基)、又は炭素数1~22の炭化水素基を表す。Xが直接結合の場合、Xに2価の基は存在せず、フェニレン基同士が直接結合した構造を示す。-NR-における炭素数1~22の炭化水素基は、前記Yにおける炭素数1~22の炭化水素基と同様であって良い。
Xにおける炭素数1~22の炭化水素基は、2価の炭素数1~22の炭化水素基を表し、当該炭化水素も直鎖若しくは分岐鎖又は環状であってよく、飽和若しくは不飽和であってよい。Xにおける炭素数1~22の炭化水素基は、炭素数1~12の炭化水素基であってよく、炭素数1~10の炭化水素基であってよく、炭素数1~6の炭化水素基であってよく、炭素数1~4の炭化水素基であってよい。
【0029】
Qは各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、エステル基、アシルオキシ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、又はメルカプト基のいずれかを表すか、或いは、互いに結合して6員環の芳香族炭化水素環を形成していても良く、Qに含まれて良い炭化水素中の水素原子は各々独立にハロゲン原子に置換されていても良い。Qにおけるハロゲン原子、アルコキシ基、エステル基、アシルオキシ基、アミノ基、スルホニル基、シリル基はそれぞれ、Yにおけるものと同様であって良い。
Qは、互いに結合して6員環の芳香族炭化水素環を形成していても良く、当該6員環の芳香族炭化水素環は、結合しているフェニレン基と縮合していてよい。
【0030】
R1は、炭素数1~22の炭化水素基、アルコキシ基、エステル基、アシルオキシ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、又はメルカプト基のいずれかを表し、R1に含まれて良い炭化水素中の水素原子は各々独立にハロゲン原子に置換されていても良い。R1が、前記基のいずれかであることにより、希土類イオンに配位する酸素原子と直接結合する炭素原子が振動し難くなり、当該希土類錯体の発光強度の低下を抑制することができる。
R1における炭素数1~22の炭化水素基、アルコキシ基、エステル基、アシルオキシ基、アミノ基、スルホニル基、シリル基は、前記Yにおける炭素数1~22の炭化水素基、アルコキシ基、エステル基、アシルオキシ基、アミノ基、スルホニル基、シリル基と同様であって良い。
R1は、ハロゲン化炭化水素を含むことが好ましく、炭素数1~12のハロゲン化炭化水素を含むことが好ましく、炭素数1~8のハロゲン化炭化水素を含むことがより好ましく、炭素数1~4のハロゲン化炭化水素を含むことがよりさらに好ましい。
R1がハロゲン原子を有し、C-X(Xはハロゲン原子:F、Cl、Br又はI)結合を有する場合には、低振動の骨格になることから、当該構造を含むと、希土類金属が受け取ったエネルギーを振動失活させないように機能し、発光効率を向上し、発光強度を向上する点から好ましい。
R1は、中でも希土類イオンに配位する酸素原子と直接結合する炭素原子を振動し難くする点から、より原子量の大きな元素が炭素原子と結合している、炭素数1~12のハロゲン化炭化水素基であることが好ましく、炭素数1~8のハロゲン化炭化水素基であることがより好ましく、炭素数1~4のハロゲン化炭化水素基であることがよりさらに好ましく、具体的には、トリフルオロメチル基、ヘプタフルオロブチリル基等が挙げられる。
【0031】
R2及びR3は各々独立に、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~22の炭化水素基、アルコキシ基、エステル基、アシルオキシ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、又はメルカプト基のいずれかを表し、R2及びR3に含まれて良い炭化水素中の水素原子は各々独立にハロゲン原子に置換されていても良い。
R2及びR3における炭素数1~22の炭化水素基、アルコキシ基、エステル基、アシルオキシ基、アミノ基、スルホニル基、シリル基は、前記Yにおける炭素数1~22の炭化水素基、アルコキシ基、エステル基、アシルオキシ基、アミノ基、スルホニル基、シリル基と同様であって良い。
【0032】
n1は単座の配位子(ii-1)の配位数であり、0~6の数を表し、n2は二座の配位子(ii-2)の配位数であり、0~3の数を表す。また、mは二座の配位子(i)の配位数を示し、3である。
前記一般式(1)で示される希土類錯体の配位数は、全体で7~12であり得るため、n1+2×n2+2×mは7以上12以下であることから、n1+2×n2は1以上6以下である。
前記一般式(1)で示される希土類錯体の配位数は、全体で7~9であることが好ましく、n1+2×n2+2×mは7以上9以下が好ましいことから、n1+2×n2は1以上3以下であることが好ましい。
【0033】
前記一般式(1)で示される構造としては、例えば、下記一般式(1-1)~(1-4)で示される構造が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【化7】
(一般式(1-1)~(1-4)中、Ln
3+、Z、Y、R
1、R
2、R
3、n1、n2、及びmは各々、前記と同義であり、Q
1は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、エステル基、アシルオキシ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、又はメルカプト基のいずれかを表す。)
【0038】
また中でも、円偏光発光性に優れ、発光強度が高く、且つ、透明性に優れる膜を形成可能な点から、前記一般式(1)又はその鏡像異性体で表される円偏光発光性希土類錯体は、下記一般式(2)又はその鏡像異性体で表される円偏光発光性希土類錯体であることが好ましい。
【0039】
【化8】
(一般式(2)中、Ln
3+、Z、X、Q、R
1、R
2、R
3、n1、n2、及びmは各々、前記と同義であり、R
4は各々独立に、炭素数1~22の炭化水素基を表し、基中の水素原子はハロゲン原子に置換されていても良い。)
【0040】
一般式(2)中、R4における炭素数1~22の炭化水素基は、前記Yにおける炭素数1~22の炭化水素基と同様であって良い。
【0041】
前記希土類錯体は、例えば、希土類イオンの原料である希土類金属化合物と配位子となるべき化合物とを、必要に応じて触媒の存在下で、これらを溶解または分散できる溶媒中にて攪拌する方法によって合成することができる。溶媒としては、希土類金属化合物及び配位子となるべき化合物に対してそれぞれ好適なものを混合して用いてもよく、例えば、水/メタノールの混合溶媒を適用することができる。
【0042】
例えば具体的には、下記一般式(ii-a)で表される化合物及び下記一般式(ii-b)で表される化合物の少なくとも1種と、下記一般式(i-a)で表される希土類錯体とを反応させることにより、一般式(1)で表される円偏光発光性希土類錯体を調製することができる。
【0043】
【化9】
(式中、Ln
3+、Z、Y、X、Q、R
1、R
2、R
3、及びmは各々、前記と同義であり、Gは、配位分子を表し、kは1~3の数を表す。)
【0044】
前記Gの配位分子としては、反応を阻害しない限り特に限定されないが、例えば、水、重水、テトラヒドロフラン、ピリジン、イミダゾール、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等を挙げることができ、好ましくは水である。
【0045】
前記一般式(i-a)で表される希土類錯体としては、例えば具体的には、酢酸ユウロピウムn水和物のような希土類金属化合物と、配位子(i)に相当する(+)-3-トリフルオロアセチルカンファーのようなアセチルカンファー誘導体とを、水/メタノールの混合溶媒中にアンモニウム水溶液存在下で、反応させ、トリス{(+)-3-トリフルオロアセチルカンファー}ユウロピウム水和物のような、アセチルカンファー誘導体希土類水和物を調製することができる。
前記一般式(ii-a)で表される化合物及び前記一般式(ii-b)で表される化合物の少なくとも1種と、前記一般式(i-a)で表される希土類錯体との反応は、溶媒中で混合することにより行われても良いし、無溶媒で混合することにより行われても良い。
【0046】
前記希土類錯体は、蛍光体としての特性を有しており、発光強度が最大となる波長は特に限定はされないが、通常、300nm以上1600m以下である。
前記希土類錯体は、円偏光発光性の点から、後述する実施例と同様に円偏光発光スペクトルを用いて測定されたg値の絶対値が、0.04以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましく、1.0以上であることがより更に好ましい。
また、前記希土類錯体は、g値の最大値の発光波長の発光強度が大きくなり、円偏光発光性の検出レベルが高まる点から発光効率が高くなることが好ましく、具体的には、後述する実施例と同様に求められる発光効率が5%以上であることが好ましい。
【0047】
また、膜中に高濃度で希土類錯体を存在させることにより円偏光発光性の検出レベルを向上させる点から、結晶性が低く、単独で膜にした場合に透明性が高い希土類錯体であることが好ましい。そのために、前記希土類錯体は、単独で厚み200μmの膜にした場合に、後述する実施例と同様に求められる全光線透過率が85%以上であることが好ましく、更に90%以上であることが好ましい。
【0048】
また、前記希土類錯体は、発光スペクトルにおける最大発光波長を検出波長とし、励起光の波長を走査して発光強度を測定した励起スペクトルにおいて、350nm以上400nm以下の範囲に最大値を有することが、一般的に入手しやすい紫外線光源を励起照射に使用して円偏光発光性を検出できる点から好ましい。
【0049】
<円偏光発光性希土類錯体の用途>
本開示に係る希土類錯体に一方の円偏光を吸収させれば、他方の円偏光を得ることができる。円偏光板などの円偏光フィルタと同じ役割を果たすことから、本開示に係る希土類錯体を円偏光フィルタに適用することが可能である。この円偏光フィルタは光多重通信など、広範な用途への適用が可能である。
【0050】
本開示に係る希土類錯体では、旋光性の違いのみを有する配位子をそれぞれ別個に用いて錯体を合成することにより、同じ組成であっても左巻きの円偏光を強く吸収するものと、右巻きの円偏光を強く吸収するものの両方が得られる。また、一つの希土類錯体においても、波長に応じて左巻きの円偏光を強く吸収する場合と右巻きの円偏光を強く吸収する場合がある。そこで、一方の性質を示すものを「+1」、他方の性質を有するものを「-1」と定義すれば、この錯体、或いはこの錯体を含む光学機能材料を並べて情報を記録することができ、そこへ、円偏光を当てることにより情報を読み出すことができる。
本開示に係る希土類錯体をセキュリティー用途へ適用する場合には、励起による発光、円偏光及び温度による変色の3つの情報を保持することができるので、簡便により高度なセキュリティを実現することができる。
【0051】
本開示の希土類錯体を光学機能材料として用いる際は、本開示の希土類錯体のみを用いてもよいし、本開示の希土類錯体を透明ポリマーや透明ガラスなどの透明固体担体に含有させてもよい。また、本開示の希土類錯体を溶媒に溶解、分散などさせて塗料とすることもできる。
本開示の希土類錯体は単独で、又は2種以上を混合して用いても良く、発光色を変化させるために有機色素を混合しても良い。本開示の希土類錯体は、その中心イオンとしての希土類イオンの種類や配位子の種類によって発光色が異なる。従って、本開示の希土類錯体の中心イオンや有機色素等の種類や混合比を適宜選択することにより、様々な色の発光を示す光機能性材料を作製することができる。
【0052】
本開示に係る希土類錯体を含有させる透明ポリマーとしては、ポリメチルメタクリレート、含フッ素ポリメタクリレート、ポリアクリレート、含フッ素ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン、含フッ素ポリオレフィン、ポリビニルエーテル、含フッ素ポリビニルエーテル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、及びそれらの共重合体、セルロース、ポリアセタール、ポリエステル、ポリカーボネイト、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン、ナフィオン、石油樹脂、ロジン、ケイ素樹脂などが例示され、好ましくはポリメチルメタクリレート、含フッ素ポリメタクリレート、ポリアクリレート、含フッ素ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリビニルエーテル、及びそれらの共重合体、エポキシ樹脂等を使用することができる。更に、これらの2種以上を組み合わせたものであってもよい。
なお、本開示に係る希土類錯体を含む透明ポリマーは、公知の文献(Hasegawa,et al. Chem.Lett.1999,35.)に従い調製することができる。
【0053】
本開示に係る希土類錯体を溶解、分散させることのできる溶剤は、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、ニトリル系溶剤あるいはこれらの混合物である。好ましくは、アセトニトリルやメタノールを使用することができる。
【0054】
本開示に係る希土類錯体と共に溶解、分散させることのできる色素は、緑色系の色素としては、アルカリ土類シリコンオキシナイトライド系蛍光体、及びピリジン-フタルイミド縮合誘導体、ベンゾオキサジノン系、キナゾリノン系、クマリン系、キノフタロン系、ナルタル酸イミド系等の蛍光色素、テルビウム錯体等の有機蛍光体などが挙げられる。また、赤色系の色素としては、アルファサイアロン構造をもつ酸窒化物を含有する蛍光体、及びβ-ジケトネート、β-ジケトン、芳香族カルボン酸、又は、ブレンステッド酸等のアニオンを配位子とする希土類元素イオン錯体からなる赤色有機蛍光体などが挙げられる。さらに青色系の色素としては、アルカリ土類アルミネート系蛍光体、ナフタル酸イミド系、ベンゾオキサゾール系、スチリル系、クマリン系、ピラリゾン系、トリアゾール系化合物の蛍光色素、ツリウム錯体等の有機蛍光体などが挙げられる。
希土類錯体は一般にカチオン性であるので、本開示に係る希土類錯体と共存させる色素としては、例えばアントラセン系色素のように炭素と水素だけで構成されている色素を用いることが好ましい。
【実施例】
【0055】
(実施例1:円偏光発光性希土類錯体1の合成)
酢酸ユウロピウムn水和物(710mg、1.8mmol)および蒸留水150mL、アンモニウム水溶液(数滴)、メタノール10mLを300mLナスフラスコに加えた。(+)-3-(trifluoroacetyl)camphor (+tfc,1000mg、4mmol)をメタノール10mLに溶かし、前記酢酸ユウロピウム水溶液に撹拌しながら加え、室温で3時間撹拌した。生成した黄色の沈殿を吸引ろ過により回収した後、蒸留水で洗浄し、得られた黄色の粉末を減圧下で乾燥させた。これにより、[Eu(+tfc)3(H2O)2]を得た。
ESI-MS(m/z):[M-(2H2O)+Na]+;
M:[Eu(-tfc)3(H2O)2] 計算値917.19 実測値917.16
【0056】
【0057】
次に、得られた[Eu(+tfc)3(H2O)2](180mg、0.2mmol)、Tris(2,6-dimethoxyphenyl)phosphine oxide(tdmpo, 180mg、0.4mmol)及びメタノール10mLを100mlナスフラスコに入れ、室温で3時間撹拌した。撹拌後、減圧下で溶媒を留去し、淡黄色のフィルムを得た。得られた淡黄色のフィルムをジクロロメタン溶媒に溶解させ、不溶物をろ過により取り除き、ろ液を、石英基板(厚み3mm、アズワン製、2-9784-01)上に、乾燥後の膜厚が200μmとなるように、塗布して乾燥し、淡黄色のフィルムを得た。
【0058】
【0059】
得られたフィルムを一部粉砕することで得られた粉体を、ESI-MSによって同定した。
ESI-MS測定装置は、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、Thermo Scientic Exactiveを用いた。ESI-MS測定結果を以下に示す。
ESI-MS(m/z):[M-(+tfc)]+;
M:[Eu(+tfc)3(tdmpo)2] 計算値1563.41 実測値1563.38
M:[Eu(+tfc)3(tdmpo)] 計算値1105.26 実測値1105.27
これにより、得られた円偏光発光性希土類錯体1は[Eu(+tfc)3(tdmpo)2]、及び[Eu(+tfc)3(tdmpo)]の混合物であることが明らかにされた。
【0060】
(実施例2:円偏光発光性希土類錯体2の合成)
実施例1において、(+)-3-(trifluoroacetyl)camphor (+tfc,1000mg、4mmol)を用いた代わりに、(-)-3-(trifluoroacetyl)camphor (-tfc,1000mg、4mmol)を用いた以外は、実施例1と同様にして、円偏光発光性希土類錯体2を合成し、実施例1と同様にして同定した。
ESI-MS(m/z):[M-(-tfc)]+;
M:[Eu(-tfc)3(tdmpo)2] 計算値1563.41 実測値1563.42
M:[Eu(-tfc)3(tdmpo)] 計算値1105.26 実測値1105.27
これにより、得られた円偏光発光性希土類錯体2は[Eu(-tfc)3(tdmpo)2]、及び[Eu(-tfc)3(tdmpo)]の混合物であることが明らかにされた。
【0061】
(実施例3:円偏光発光性希土類錯体3の合成)
実施例1と同様にして[Eu(+tfc)3(H2O)2]を得た後、Eu(+tfc)3(H2O)2(3mg)と、2当量に相当するtdmpoを少量のジクロロメタン溶媒(0.1mL)に溶解させ、その溶液を石英基板(厚み3mm、アズワン製、2-9784-01)上に、乾燥後の膜厚が200μmとなるように塗布して乾燥させた。その結果、透明なフィルムが得られた。
【0062】
(実施例4:円偏光発光性希土類錯体4の合成)
実施例1と同様にして[Eu(+tfc)3(H2O)2]を得た後、Eu(+tfc)3(H2O)2(3mg)と、3当量に相当するtdmpoを少量のジクロロメタン溶媒(0.1 mL)に溶解させ、その溶液を石英基板(厚み3mm、アズワン製、2-9784-01)上に、乾燥後の膜厚が200μmとなるように塗布して乾燥させた。その結果、透明なフィルムが得られた。
【0063】
(実施例5:円偏光発光性希土類錯体5の合成)
実施例2と同様にして[Eu(-tfc)3(H2O)2]を得た後、Eu(-tfc)3(H2O)2(3mg)と、2当量に相当するtdmpoを少量のジクロロメタン溶媒(0.1mL)に溶解させ、その溶液を石英基板(厚み3mm、アズワン製、2-9784-01)上に、乾燥後の膜厚が200μmとなるように塗布して乾燥させた。その結果、透明なフィルムが得られた。
【0064】
(実施例6:円偏光発光性希土類錯体6の合成)
実施例2と同様にして[Eu(-tfc)3(H2O)2]を得た後、Eu(-tfc)3(H2O)2(3mg)と、3当量に相当するtdmpoを少量のジクロロメタン溶媒(0.1 mL)に溶解させ、その溶液を石英基板(厚み3mm、アズワン製、2-9784-01)上に、乾燥後の膜厚が200μmとなるように塗布して乾燥させた。その結果、透明なフィルムが得られた。
【0065】
(実施例7:円偏光発光性希土類錯体7の合成)
実施例1と同様にして[Eu(+tfc)3(H2O)2]を得た後、Eu(+tfc)3(H2O)2(3mg)と、2当量に相当する下記式で表されるTris(2,6-dimethoxyphenyl)phosphine(tdmp)を少量のジクロロメタン溶媒(0.1mL)に溶解させ、その溶液を石英基板(厚み3mm、アズワン製、2-9784-01)上に、乾燥後の膜厚が200μmとなるように塗布して乾燥させた。その結果、透明なフィルムが得られた。
【0066】
【0067】
(実施例8:円偏光発光性希土類錯体8の合成)
実施例1と同様にして[Eu(+tfc)3(H2O)2]を得た後、Eu(+tfc)3(H2O)2(3mg)と、2当量に相当する下記式で表されるTris(4-methoxyphenyl)phosphine oxide)(tmpo)を少量のジクロロメタン溶媒(0.1mL)に溶解させ、その溶液を石英基板(厚み3mm、アズワン製、2-9784-01)上に、乾燥後の膜厚が200μmとなるように塗布して乾燥させた。その結果、透明なフィルムが得られた。
ESI-MS(m/z):[M-(+tfc)]+;
M:[Eu(+tfc)3(tmpo)2] 計算値1383.35 実測値1383.36
これにより、得られた円偏光発光性希土類錯体8は[Eu(+tfc)3(tmpo)2]であることが推定される。
【0068】
【0069】
(比較例1:比較円偏光発光性希土類錯体1の合成)
実施例1と同様にして[Eu(+tfc)3(H2O)2]を得た後、Eu(+tfc)3(H2O)2(3mg)と、2当量に相当するトリフェニルフォスフィンオキシド(tppo)を少量のジクロロメタン溶媒(0.1mL)に溶解させ、その溶液を石英基板(厚み3mm、アズワン製、2-9784-01)上に、乾燥後の膜厚が200μmとなるように塗布して乾燥させた。その結果、淡黄色の粉末状のものが析出した状態となって、表面が均一な透明な膜は得られなかった。
得られた比較円偏光発光性希土類錯体1は、発光スペクトル形状が、元素分析で同定されている[Eu(+tfc)3(tppo)2]の発光スペクトル形状と類似したことから、Eu(+tfc)3(tppo)2]であると考えられる。
【0070】
(参考例1)
実施例1と同様にして[Eu(+tfc)3(H2O)2]を得た後、Eu(+tfc)3(H2O)2(1mg)と、2当量に相当するtdmpoを混合し、メノウ乳鉢と乳棒を用い、15分間ミリングした。得られたEu(+tfc)3+2tdmpo-ミリング物(1mg)を少量のKBr(150mg)と混合し、圧力(48kN,3min)をかけた。その結果、長径1cmの錠剤が得られた。
【0071】
(参考例2)
参考例1において[Eu(+tfc)3(H2O)2]を得た後、Eu(+tfc)3(H2O)2(1mg)と、2当量に相当するtdmpoを混合する代わりに、3当量に相当するtdmpoを混合した以外は、参考例1と同様にして、長径1cmの錠剤を得た。
【0072】
[評価]
各円偏光発光性希土類錯体の下記評価は、前記石英基板上に形成された膜(フィルム)を用いて行った。
1.発光スペクトル測定
各円偏光発光性希土類錯体の発光スペクトルを測定した。
発光スペクトルの測定条件は以下のとおりである。
測定装置: モジュール型蛍光分光光度計(FluoroLog-3、HORIBA製)
測定条件:測定波長域:550-720nm、励起波長:350nm、測定波長間隔:0.1nm
【0073】
希土類錯体の構造はその発光スペクトル形状から推察することが可能である。希土類錯体の発光スペクトルの形状は、一般的に、希土類錯体を構成する希土類金属と配位する配位子が形成する配位環境の対称性によって変化する。配位環境の対称性が低いと複数本に分裂して観測されるが、対称性が高い場合はスペクトルが分裂する本数が減り、最も対称性が高くなると1本のシャープな発光となる。この配位環境の対称性は希土類金属と各配位子の立体的な作用に起因することから、発光スペクトルの形状が類似であればその配位環境すなわち希土類錯体の構造が近しいといえる。例えば610nm付近の最も大きな発光は配位環境の異なる対称性によって少なくとも5つに分裂し得ることが知られており、分裂することなく1本である場合にはその対称性はとても高いといえる。
また、この配位環境の対称性が高いことは各配位子が円偏光発光特性を高める適切な距離を保っていることの証左と考えられる。すなわち配位環境の対称性は3分子の2座のキラルなアセチルアセトン配位子の配位構造の対称性を主に示していると考えられ、正八面体構造をとる場合に対称性が最も高くなる。ホスフィンオキシドないしホスフィン配位子が希土類金属に近づきすぎると、2座のキラルなアセチルアセトン配位子が3分子希土類金属に配位した場合に対称性の高い正八面体構造をとることが難しくなり、希土類錯体の配位環境の対称性が低下してしまう。本願のホスフィンオキシドないしホスフィン配位子では置換基の導入によって、希土類金属と適切な距離を保つことで、キラルなアセチルアセトン配位子が対称性の配位環境を有することができ、その結果発光に関わるエネルギー移動が効率的になることで、円偏光発光特性や発光効率を高めることができると考えられる。
【0074】
発光スペクトル測定の結果を
図2~6に示す。
図2は、実施例1及び実施例2の、
図3は実施例3および4の、
図4は実施例5および6の、
図5は実施例7の、
図6は実施例8および比較例1の希土類錯体の発光スペクトルを示す。
図2において、実線は、実施例1の希土類錯体の発光スペクトル、点線は、実施例2の希土類錯体の発光スペクトルである。
図3において、実線は、実施例3の希土類錯体の発光スペクトル、点線は、実施例2の希土類錯体の発光スペクトルである。
図4において、実線は、実施例5の希土類錯体の発光スペクトル、点線は、実施例6の希土類錯体の発光スペクトルである。
図6において、実線は、実施例8の希土類錯体の発光スペクトル、点線は、比較例1の希土類錯体の発光スペクトルである。実施例1~7の希土類錯体の発光スペクトルは、610nmにシャープな1本の発光が観測された点で類似しており、この点から希土類錯体の構造が近しいことが推察できる。当該発光スペクトルは、希土類金属の発光を示しており、その配位環境の対称性を反映しているからである。また、
図3における実施例3と実施例4の希土類錯体の発光スペクトル、
図4における実施例5と実施例6の希土類錯体の発光スペクトルを比較すると、610nmのメインの発光の長波長側(617nm付近)の発光強度にわずかではあるが差があり、実施例4及び6の方が617nm付近の発光強度が低くなっており、より対称性が高くなっているといえる。これは、対応するホスフィンオキシド配位子の配位数が増えたことによって、希土類金属にホスフィンオキシド配位子が近づきにくくなり、アセチルアセトン配位子がより対称性の高い配位環境を確保できているためだと考えられる。実施例8の希土類錯体の発光スペクトルは610nm付近に2本の発光が観測され、実施例1~7の希土類錯体と比較してやや対称性が低いが、比較例1の希土類錯体の発光スペクトルよりはその分裂の程度が低いため、比較例1の希土類錯体よりは配位環境の対称性が高いことを示唆している。
【0075】
2.発光減衰挙動
実施例3及び実施例4の円偏光発光性希土類錯体の発光減衰挙動を測定した。
発光減衰挙動の測定条件は以下のとおりである。
測定装置:モジュール型蛍光分光光度計(FluoroLog-3、HORIBA製)
測定条件:励起波長:356nm、検出波長:612nm
【0076】
発光減衰挙動より、得られた円偏光発光性希土類錯体の膜には多成分の錯体が含まれることが確認された。各成分をτ1、τ2、τ3成分とし、各成分の存在割合と発光寿命を表1に示す。各成分の存在割合より、主成分はτ2、τ3成分であることが確認された。実施例3と実施例4の発光寿命の違いは、希土類錯体の周りの環境の違いに由来していると推定される。
【0077】
【0078】
3.円偏光発光スペクトル測定
各円偏光発光性希土類錯体の円偏光発光(CPL)スペクトルを測定した。
円偏光発光(CPL)スペクトルの測定条件は以下のとおりである。
測定装置:円偏光ルミネセンス測定装置(CPL-200、日本分光株式会社製)
励起波長: 350nm
感度:100mdeg.
走査速度:10nm/min
測定間隔:0.2nm
【0079】
円偏光発光(CPL)スペクトルの結果の一部を
図7に示す。
図7は、実施例3、4、5及び6の希土類錯体の円偏光発光(CPL)スペクトルを示す。
図7において、Eu(III)錯体の発光に伴うCPLが観測され、その符号は鏡像異性体のカンファー配位子に依存して反転した。実施例の各希土類錯体の594nmにおけるCPLのg値を表2に示す。
【0080】
また、参考例1及び2で得られた錠剤の円偏光発光(CPL)スペクトルを測定した結果、参考例1の錠剤のg値は-1.6、参考例2の錠剤のg値は-1.6であり、参考例1及び2ではそれぞれ、実施例1及び2と同様の円偏光発光性錯体が合成されていることが示唆された。本開示に用いられる円偏光発光性希土類錯体は、参考例1及び2のように、固相反応においても調製可能であることが示された。
【0081】
4.透明性(全光線透過率)測定
円偏光発光性希土類錯体の膜の透明性を評価するために、JIS-7361-1に準拠して、全光線透過率を測定した。
全光線透過率の測定条件は以下のとおりである。実施例及び比較例の各円偏光発光性希土類錯体の膜の全光線透過率を表2に示す。
測定装置:顕微分光測定装置(OSP-SP200、オリンパス製)
測定条件:ブランク状態の入射光量を測定した後、サンプルの円偏光発光性希土類錯体の膜をセットした状態での透過光量を測定し、その2つの比によって求めた。
【0082】
5.発光効率測定
各円偏光発光性希土類錯体の発光効率(ΦL)を測定した。
発光効率(ΦL)の測定条件は以下のとおりである。実施例及び比較例の円偏光発光性希土類錯体の発光効率(ΦL)を表2に示す。
測定装置:蛍光積分球ユニット(ILF-533、直径100mmφ、日本分光(株)製)を取り付けた蛍光分光光度計(FP6300、日本分光(株)製)
測定条件:測定波長域:350-720nm、励起波長:370nm、測定波長間隔:0.2nm
算出方法:積分球を用いて、円偏光発光性希土類錯体の発光スペクトルを測定した。励起波長は370nm、測定範囲は350nm~720nmとした。リファレンスとして、励起光のスペクトルを同様の条件で測定した。これらの差スペクトルを求め、円偏光発光性希土類錯体が光吸収した強度IEXとEu(III)イオンの発光強度IEUから、以下の式を用いて発光量子収率ΦLを算出した。λは波長(nm)、νは周波数(cm-1)である。
【0083】
【0084】
【表2】
×は、比較例1の比較希土類錯体1は、粉末状のものが析出した状態となって表面が均一な膜にならず透明性を確保できなかったため、膜状態で測定できなかったことを示す。
【0085】
6.円偏光発光の目視判定
各円偏光発光性希土類錯体の膜の円偏光発光の目視判定を行った。左円偏光もしくは右円偏光どちらかを一方的に検出可能なCPL検出装置として
図1に示される装置を用いた。
図1における励起光源11として紫外線照射ランプを用い、紫外線照射12を行いながら、円偏光発光性希土類錯体の膜10の蛍光発光を、バンドパスフィルタ13と円偏光フィルタ14とにこの順で通して、観察した。バンドパスフィルタは594nm透過フィルタを用い、円偏光フィルタ14としては、直線偏光板と位相が互いに90°異なるλ/4板を別々に組み合わせたフィルタによって、左円偏光もしくは右円偏光どちらかを一方的に検出した。
図8は、円偏光発光性希土類錯体を部分的に塗布したサンプル調製法を示した図である。実施例1のような(+)-3-(trifluoroacetyl)camphorを用いて調製された円偏光発光性希土類錯体の場合には、
図8の30のように、星型に塗布した。実施例2のような(-)-3-(trifluoroacetyl)camphorを用いて調製された円偏光発光性希土類錯体の場合には、
図8の31のように、星型を白抜きにした円状に塗布した。
【0086】
実施例1の円偏光発光性希土類錯体を
図8の30のように、ガラス基板上に星型に塗布したサンプルと、実施例2の円偏光発光性希土類錯体を
図8の31のように、ガラス基板上に星型を白抜きにした円状に塗布したサンプルとを、
図8のように重ね合わせて、目視観測した結果を
図9に示す。この2つのガラス基板を重ねたサンプルについて、バンドパスフィルタのみを介して得られた発光の写真を
図9(A)に、バンドパスフィルタと左円偏光透過フィルタとを介して得られた発光の写真を
図9(B)に、バンドパスフィルタと右円偏光透過フィルタとを介して得られた発光の写真を
図9(C)に示す。観測の結果、検出された左円偏光と右円偏光は明らかに強度が異なり、明確に観測されることが確認された。
【符号の説明】
【0087】
10 円偏光発光性希土類錯体の膜
11 励起光源
12 紫外線照射
13 バンドパスフィルタ
14 円偏光フィルタ