(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】電圧制御装置、電圧制御方法、電圧制御プログラム及び電圧制御システム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/16 20060101AFI20230427BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20230427BHJP
【FI】
H02J3/16
H02J3/38 130
(21)【出願番号】P 2019163612
(22)【出願日】2019-09-09
【審査請求日】2022-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森脇 滉
(72)【発明者】
【氏名】上村 敏
【審査官】下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-160188(JP,A)
【文献】特開2011-114910(JP,A)
【文献】特開2010-166759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00 - 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散電源から直流電力の供給を受けて交流電力へ変換し、前記交流電力を配電系統へ供給する変換器と、
前記配電系統に対する連系点の連系点電圧が上限値を超える場合、前記変換器が出力する無効電力を増加させて前記連系点電圧を低下させる無効電力調整部と、
前記無効電力調整部により前記変換器が出力する前記無効電力が増加された状態で前記変換器の出力の力率が所定値に到達してから第1期間の経過後に、前記連系点電圧が前記上限値を超える場合、前記変換器から出力される有効電力及び無効電力の出力量を低下させる出力制御部と
を備えたことを特徴とする電圧制御装置。
【請求項2】
前記出力制御部は、前記力率が前記所定値に到達してから前記第1期間よりも短い第2期間経過後に動作を開始して前記配電系統の電圧を下げる電圧調整器により調整が行われた後の前記連系点電圧が、前記第1期間の経過後に前記上限値を超える場合、前記変換器から出力される有効電力及び無効電力の出力量を低下させることを特徴とする請求項1に記載の電圧制御装置。
【請求項3】
前記出力制御部は、前記変換器からの出力が前記変換器の定格容量を超える場合、前記変換器から出力される前記有効電力の出力量を低下させることを特徴とする請求項1又は2に記載の電圧制御装置。
【請求項4】
前記出力制御部は、前記無効電力調整部による前記変換器が出力する前記無効電力の増加前に、前記変換器の出力の前記力率を所定値に調整する力率一定制御を行い、
前記無効電力調整部は、前記出力制御部により前記力率が前記所定値に調整された状態で、前記連系点電圧が上限値を超える場合、前記変換器が出力する無効電力を増加させて前記連系点電圧を低下させる
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の電圧制御装置。
【請求項5】
分散電源から供給された直流電力を変換器により交流電力へ変換して配電系統へ供給し、
配電系統に対する連系点の連系点電圧及び電流を計測し、
計測した前記連系点電圧が上限値を超える場合、前記変換器から出力される無効電力を増加させて前記連系点電圧を低下させ、
前記変換器が出力する前記無効電力が増加された状態で前記変換器の出力の力率が所定値に到達してから第1期間の経過後に、前記連系点電圧が前記上限値を超える場合、前記変換器から出力される有効電力及び無効電力の出力量を低下させる
ことを特徴とする電圧制御方法。
【請求項6】
分散電源から供給された直流電力を変換器により交流電力へ変換して配電系統へ供給し、
配電系統に対する連系点の連系点電圧及び電流を計測し、
計測した前記連系点電圧が上限値を超える場合、前記変換器から出力される無効電力を増加させて前記連系点電圧を低下させ、
前記変換器が出力する前記無効電力が増加された状態で前記変換器の出力の力率が所定値に到達してから第1期間の経過後に、前記連系点電圧が前記上限値を超える場合、前記変換器から出力される有効電力及び無効電力の出力量を低下させる
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする電圧制御プログラム。
【請求項7】
分散電源、配電系統、電圧制御装置及び前記配電系統に配置される電圧調整装置を有する電力調整システムであって、
前記電圧制御装置は、
前記分散電源から直流電力の供給を受けて交流電力へ変換し、前記交流電力を配電系統へ供給する変換器と、
前記配電系統に対する連系点の連系点電圧が上限値を超える場合、前記変換器が出力する無効電力を増加させて前記連系点電圧を低下させる無効電力調整部と、
前記無効電力調整部により前記変換器が出力する前記無効電力が増加された状態で前記変換器の出力の力率が所定値に到達してから第1期間の経過後に、前記連系点電圧が前記上限値を超える場合、前記変換器から出力される有効電力及び無効電力の出力量を低下させる出力制御部とを備え、
前記電圧調整装置は、前記力率が前記所定値に到達してから前記第1期間よりも短い第2期間の経過後に動作を開始して配電系統の電圧を下げる
ことを特徴とする電圧制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧制御装置、電圧制御方法、電圧制御プログラム及び電圧制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境への負荷が少ない再生可能エネルギーへの期待が高まり、導入が促進されている。特に太陽光発電(PhotoVoltaic:PV)の導入拡大が顕著である。また、固定価格買取制度(Feed-in Tariff:FIT)により、住宅及び非住宅の双方でPV導入の普及がさらに加速された。
【0003】
このようなPVの普及拡大に伴い、逆潮流による配電系統の電圧上昇が問題となっている。配電系統には従来から負荷時タップ切替変圧器(Load Raito Control Transformer:LRT)や、自動電圧調整器(Step Voltage Regulator:SVR)などの電圧調整機器が配置されている。これらの電圧調整機器のタップ切替制御に基づいて電力需要の変動に伴う電圧変動の補償制御が実施される。ただし、PVの逆潮流による電圧変動は天候などにより左右されるため急峻となり、LRTやSVRなどでは制御が追い付かない場合がある。
【0004】
一方、PVに接続されるパワーコンディショナ(Power Conditioning Sub System:PCS)には、電圧上昇抑制機能を有する自動電圧調整装置が搭載されている。電圧上昇抑制機能は、配電系統への連系点の電圧の電圧適正範囲上限値からの逸脱を回避するために、進相無効電力制御もしくは出力抑制を行う。これにより、電圧上昇抑制機能を搭載したPCSが連系される系統では、配電線電圧の上限逸脱は回避できる。ただし、電圧上昇抑制機能によりPVで発電した電力の系統への供給が抑制されると、発電機会損失が発生する。このため、出力抑制に伴う発電機会損失を極力回避しつつ配電線電圧を適正値に維持することが重要となる。
【0005】
そこで、出力抑制に伴う発電機会損失を極力回避しつつ配電線電圧を適正値に維持するために、SVRとの協調を考慮した電圧上昇抑制機能の動作時間を遅らせることが検討された。一般的に、動作を開始するまでの待機時間である動作時限はSVRでは最短で45秒に設定されている。そこで、PCSの動作時限をSVRの動作時限よりも長く設定することで、SVRの電圧適正化を先に実行させ、PCSの電圧上昇抑制機能による出力抑制量を低減する技術が提案された。この技術を踏まえて、現在のところPCSの動作時限は200秒に設定することが求められる。
【0006】
PVによる逆潮流に対する系統電圧調整方法として、ノードの電圧値が電圧目標値を上回る場合に、配電用変電所の電圧値及びスマートメータから得られる情報を基にPCSが出力する無効電力を制御してノードの電圧値を調整する従来技術がある。また、有効電力が閾値以下の場合はPCSの運転力率を100%に維持し、有効電力が定格出力に等しい場合は運転力率が所定値となるようにPCSに無効電力を出力させる従来技術がある。さらに、複数のPCSの出力電圧の最小値が閾値以上の場合にPCSの電圧抑制制御を開始させる従来技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-183622号公報
【文献】特開2015-132988号公報
【文献】特開2015-211480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、PCSの動作時限を200秒などに長時間化することで電圧制御性能が低下するおそれがある。SVRとの協調制御が得られない具体的なケースとして、日射変動に起因した局所的な電圧上昇時が考えられる。このようなケースでは、PCSの動作時限を長くすると、特にこれまでPCSが制御してきた急峻な日射変動に起因する電圧変動を制御することが困難となり、電圧上限逸脱が発生する可能性が高まる。
【0009】
例えば、動作時限を200秒に規定化する前のPCSでは、快晴日において電圧逸脱はほとんど生じない結果が得られていた。これに対して、PCSの動作時限を200秒に規定した後は、PC導入率の増加に伴い逸脱量は顕著に増大した。このように、急峻な電圧変動が発生する場合に、発電機会損失を極力回避しつつ配電線電圧を適正値に維持することは困難であった。
【0010】
また、上述したいずれの従来技術も、PCSの動作時限を長くした場合の急峻な電圧変動に対しする系統電圧の調整を行うことは難しく、発電機会損失を極力回避しつつ配電線電圧を適正値に維持することは困難である。
【0011】
開示の技術は、上記に鑑みてなされたものであって、発電機会損失を抑制しつつ配電線電圧を適正値に維持する電圧制御装置、電圧制御方法、電圧制御プログラム及び電圧制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願の開示する電圧制御装置、電圧制御方法、電圧制御プログラム及び電圧制御システムの一つの態様において、変換器は、分散電源から直流電力の供給を受けて交流電力へ変換し、前記交流電力を配電系統へ供給する。無効電力調整部は、前記配電系統に対する連系点の連系点電圧が上限値を超える場合、前記変換器が出力する無効電力を増加させて電圧を低下させる。出力制御部は、前記無効電力調整部により前記変換器が出力する前記無効電力が増加された状態で前記変換器の出力の力率が所定値に到達してから第1期間の経過後に、前記連系点電圧が前記上限値を超える場合、前記変換器から出力される有効電力及び無効電力の出力量を低下させる。
【発明の効果】
【0013】
1つの側面では、本発明は、発電機会損失を抑制しつつ配電線電圧を適正値に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施例に係る配電系統モデルの一例を示す図である。
【
図2】
図2は、実施例に係るPCSのブロック図である。
【
図3】
図3は、実施例に係るPCSによる電圧上昇制御機能の動作図である。
【
図4】
図4は、力率1一定制御時の有効電力及び無効電力の出力平面を表す図である。
【
図5】
図5は、力率0.95一定制御時の有効電力及び無効電力の出力平面を表す図である。
【
図6】
図6は、実施例に係るPCSによる電圧上昇抑制制御のフローチャートである。
【
図7】
図7は、力率1一定制御時の実施例に係る電圧上昇制御と動作時限経過後に無効電力出力を開始する制御との電圧逸脱量及び発電機会損失量を比較した図である。
【
図8】
図8は、力率0.95一定制御時の実施例に係る電圧上昇制御と動作時限経過後に無効電力の出力を開始する制御との電圧逸脱量及び発電機会損失量を比較した図である。
【
図9】
図9は、運転力率1一定制御の場合の出力抑制動作時限変化時の電圧逸脱量及び発電機会損失量の変化を表す図である。
【
図10】
図10は、力率0.95一定制御の場合の出力抑制動作時限変化時の電圧逸脱量及び発電機会損失量の変化を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本願の開示する電圧制御装置、電圧制御方法、電圧制御プログラム及び電圧制御システムの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施例により本願の開示する電圧制御装置、電圧制御方法、電圧制御プログラム及び電圧制御システムが限定されるものではない。
【実施例】
【0016】
図1は、実施例に係る配電系統モデルの一例を示す図である。配電系統モデル10は、配電用変電所1、SVR2、幹線3、変圧器4、需要家住宅5及びPCS100を有する。
【0017】
配電用変電所1は幹線3に繋がる。配電用変電所1は、発電所から送信された電力の電圧を下げて幹線3へ送信して各需要家住宅5へ供給する。
【0018】
SVR2は、幹線3上に配置される。SVR2は、所定の地点における線路電圧降下値を取得して、取得した値に応じてタップを切替えることで、所定の地点における電圧が既定の電圧範囲に収まるように電圧を調整する。SVR2は、系統電圧の調整のための動作時限が設定される。この動作時限は、例えば、45~120秒の間で設定される。
【0019】
以下では、SVR2の動作時限を、「SVR動作時限」という。例えば、SVR2は、所定地点において既定の電圧範囲からの電圧の逸脱を検出すると、検出後SVR動作時限が経過した後に、その所定地点における電圧が既定の電圧範囲に収まるように電圧を調整する。このSVR動作時限が、「第2期間」の一例にあたる。
【0020】
変圧器4は、幹線3から分岐して需要家住宅5へ延びる低圧配電線31上に配置される。変圧器4は、需要家住宅5で使用される電圧に電圧を調整し、電圧を調整した電気を需要家住宅5へ供給する。
【0021】
需要家住宅5は、分散電源であるPV51及び住宅負荷52を有する。PV51は、太陽光を用いて発電した電力を、PCS100を及び低圧配電線31を介して幹線3へ送出する。住宅負荷52は、例えば家電製品などであり、変圧器4を介して供給された電力を使用する。
【0022】
PCS100は、変圧器4とPV51とを結ぶ経路上に配置される。PCS100は、PV51から供給された直流電力を交流電力に変換して低電配電線31及び変圧器4を介して幹線3へ送出する。
【0023】
図2は、実施例に係るPCSのブロック図である。次に、
図2を参照して、PCS100の詳細について説明する。このPCS100における変圧器4から延びる配電線への接続点が「配電系統への連系点」の一例にあたる。
【0024】
PCS100は、
図2に示すように、インバータ101、インバータ制御部102、有効電力無効電力演算回路103、有効電力無効電力制御部104、有効電力調整部105、有効電力目標値提供部106、無効電力調整部107及び無効電力目標値提供部108を有する。
【0025】
インバータ101は、PV51から直流電力の供給を受ける。さらに、インバータ101は、決められた出力量の有効電力及び無効電力を出力させるための制御信号の入力をインバータ制御部102から受ける。そして、インバータ101は、制御信号で指定された出力量の有効電力及び無効電力を出力するように、供給された直流電力を交流電力に変換する。その後、インバータ101は、交流電力に変換した電力を出力して、変圧器4を介して幹線3へ送出する。このインバータ101が、「変換器」の一例にあたる。
【0026】
有効電力無効電力演算回路103は、インバータ101への連系点における電圧及び電流を計測する。そして、有効電力無効電力演算回路103は、計測した電圧及び電流からインバータ101の連系点における有効電力及び無効電力の出力量を算出する。以下の説明では、有効電力の出力量及び無効電力の出力量を、有効電力出力及び無効電力出力と言う。その後、有効電力無効電力演算回路103は、算出した有効電力出力の情報を有効電力無効電力制御部104及び有効電力調整部105へ出力する。また、有効電力無効電力演算回路103は、算出した無効電力出力の情報を有効電力無効電力制御部104及び無効電力調整部107へ出力する。さらに、有効電力無効電力演算回路103は、連系点電圧の情報を有効電力無効電力制御部104へ出力する。
【0027】
有効電力無効電力制御部104は、有効電力の電圧適正範囲上限値の情報を予め有する。また、有効電力無効電力制御部104は、最小力率の情報を予め有する。この最小力率が、「所定値」の一例にあたる。
【0028】
さらに、有効電力無効電力制御部104は、出力抑制の動作時限の情報を予め有する。この動作時限は、SVR動作時限よりも長く設定される。例えば、この動作時限は、200秒に設定される。この有効電力無効電力制御部104における出力抑制の動作時限を、以下では「出力抑制動作時限」という。この出力抑制動作時限が、「第1期間」の一例にあたる。
【0029】
また、有効電力無効電力制御部104は、インバータ101の定格容量の情報を予め有する。また、有効電力無効電力制御部104は、経過時間を計測するタイマを有する。また、有効電力無効電力制御部104は、電圧抑制復帰処理の閾値となる引戻し電圧の値を予め記憶する。
【0030】
有効電力無効電力制御部104は、通常運転時にインバータ101から出力される電力の運転力率が一定になるように制御する力率一定制御を行う。例えば、有効電力無効電力制御部104は、運転力率が1となるように力率一定制御を行う。以下では、運転力率を1とする力率一定制御を、「力率1一定制御」という。この場合、有効電力無効電力制御部104は、通常運転時はインバータ101から無効電力を出力させない。すなわち、有効電力無効電力制御部104は、有効電力目標値提供部106に対して通常運転時の有効電力出力の目標値の提供を指示する。さらに、有効電力無効電力制御部104は、無効電力出力の目標値を0とするように無効電力目標値提供部108に指示する。
【0031】
また、例えば、有効電力無効電力制御部104は、運転力率が0.95となるように力率一定制御を行う。以下では、運転力率を0.95とする力率一定制御を、「力率0.95一定制御」という。この場合、有効電力無効電力制御部104は、通常運転時は運転力率が0.95となるようにインバータ101から無効電力を出力させる。すなわち、有効電力無効電力制御部104は、有効電力目標値提供部106に対して通常運転時の有効電力出力の目標値の提供を指示する。さらに、有効電力無効電力制御部104は、通常運転時の有効電力出力の目標値に応じて運転力率が0.95となる無効電力出力の目標値の提供を無効電力目標値提供部108に指示する。
【0032】
有効電力無効電力制御部104は、インバータ101への連系点における連系点電圧を計測する。また、有効電力無効電力制御部104は、連系点における有効電力出力及び無効電力出力の情報の入力を有効電力無効電力演算回路103から受ける。次に、有効電力無効電力制御部104は、有効電力出力及び無効電力出力から電圧が電圧適正範囲上限値を超えたか否かを判定する。
【0033】
電圧が電圧適正範囲上限値を超えた場合、有効電力無効電力制御部104は、無効電力出力の上昇を無効電力目標値提供部108に指示する。これにより、インバータ101からの無効電力出力が上昇して連系点電圧の上昇が抑制される。有効電力無効電力制御部104は、電圧が電圧適正範囲上限値を超えた状態が継続する場合、無効電力出力の上昇を無効電力目標値提供部108に繰り返し指示する。その後、電圧が電圧適正範囲上限値以下になると、有効電力無効電力制御部104は、その時点での無効電力出力の維持を無効電力目標値提供部108に指示する。
【0034】
また、有効電力無効電力制御部104は、インバータ101の出力が定格容量を超過したか否かを判定する。インバータ101の出力が定格容量を超過した場合、有効電力無効電力制御部104は、有効電力目標値提供部106に有効電力出力の抑制を指示する。これにより、インバータ101の有効電力出力を低下させて、インバータ101の出力が定格容量に収まるように有効電力出力を補正する。
【0035】
さらに、有効電力無効電力制御部104は、インバータ101の連系点における有効電力出力及び無効電力出力を用いてインバータ101の運転力率を算出する。そして、有効電力無効電力制御部104は、インバータ101の運転力率が予め決められた最小力率に到達したか否かを判定する。本実施例では、最小力率が0.85である場合で説明する。運転力率が0.85に到達していなければ、有効電力無効電力制御部104は、連系点電圧の電圧適正範囲上限値の超過判定及びインバータ101の出力の定格容量超過の判定を行い、判定結果に応じた無効電力及び有効電力の調整を繰り返す。
【0036】
これに対して、運転力率が最小力率に到達した場合、有効電力無効電力制御部104は、そのタイミングで自己が有するタイマを起動する。そして、有効電力無効電力制御部104は、タイマを用いて運転力率が0.85に到達してから出力抑制動作時限が経過するまでの経過時間を計測する。
【0037】
出力抑制動作時限に達するまでに、有効電力無効電力制御部104は、電圧が電圧適正範囲上限値を超えるか否かの判定を繰り返す。そして、電圧が電圧適正範囲上限値を超えた状態が継続する場合、有効電力無効電力制御部104は、連系点電圧の電圧適正範囲上限値の超過判定及びインバータ101の出力の定格容量超過の判定を行い、判定結果に応じた無効電力及び有効電力の調整を繰り返す。
【0038】
ここで、電圧が電圧適正範囲上限値を超えた場合に、監視対象の所定地点における電圧の既定の電圧範囲からの逸脱がSVR2においても検出される場合が考えられる。その場合、SVR2は、電圧が既定の電圧範囲からの逸脱の検出時点からSVC動作時限が経過すると、系統電圧の調整を行う。このSVR2の処理によってもPCS100の連系点電圧が下げられる。
【0039】
出力抑制動作時限に達するまでに、連系点電圧が電圧適正範囲上限値を下回った場合、有効電力無効電力制御部104は、無効電力の出力上昇の指示を停止する。これに対して、連系点電圧が電圧適正範囲上限値を超過した状態が出力抑制動作時限に達するまで続いた場合、有効電力無効電力制御部104は、無効電力出力の抑制を無効電力目標値提供部108に指示する。さらに、有効電力無効電力制御部104は、有効電力出力の抑制を無効電力目標値提供部108に指示する。そして、有効電力無効電力制御部104は、運転力率が最小力率以上になるように有効電力及び無効電力を調整する。
【0040】
一方、連系点電圧が電圧適正範囲上限値を下回り無効電力の出力上昇を停止させた場合、有効電力無効電力制御部104は、電圧が引戻し電圧未満か否かを判定する。電圧が引戻し電圧以上であれば、有効電力無効電力制御部104は、その時点での有効電力出力及び無効電力出力を維持することを決定する。この場合、有効電力無効電力制御部104は、有効電力出力の維持を有効電力目標値提供部106に指示する。また、有効電力無効電力制御部104は、無効電力出力の維持を無効電力目標値提供部108に指示する。
【0041】
これに対して、電圧が引戻し電圧以下に収まると、有効電力無効電力制御部104は、有効電力の出力抑制が行われている状態であれば、電圧抑制復帰処理を実行する。具体的には、有効電力無効電力制御部104は、有効電力出力の増加を有効電力目標値提供部106に指示する。また、無効電力が出力されている場合、有効電力無効電力制御部104は、無効電力出力の減少を無効電力目標値提供部108に指示する。この有効電力無効電力制御部104が、「出力制御部」の一例にあたる。
【0042】
有効電力目標値提供部106は、予め決められた有効電力出力の目標値を起動後に有効電力調整部105へ出力する。その後、有効電力目標値提供部106は、有効電力出力の維持の指示を有効電力無効電力制御部104から受けた場合、その時点での有効電力出力の目標値を維持する。
【0043】
これに対して、有効電力出力の抑制の指示を有効電力無効電力制御部104から受けた場合、有効電力目標値提供部106は、その時点での有効電力出力の目標値から所定量を低下させた値を有効電力の出力の目標値として有効電力調整部105へ出力する。また、有効電力出力の上昇の指示を有効電力無効電力制御部104から受けた場合、有効電力目標値提供部106は、その時点での有効電力出力の目標値から所定量を上昇させた値を有効電力出力の目標値として有効電力調整部105へ出力する。
【0044】
有効電力調整部105は、インバータ101の連系点における有効電力出力の情報の入力を有効電力無効電力演算回路103から受ける。また、有効電力調整部105は、有効電力出力の目標値の入力を有効電力目標値提供部106から受ける。そして、有効電力調整部105は、インバータ101の連系点における実際の有効電力出力と有効電力出力の目標値との差分を算出する。そして、有効電力調整部105は、算出した差分を補正する有効電力出力を求めて、求めた有効電力出力の情報をインバータ制御部102に通知する。
【0045】
無効電力目標値提供部108は、無効電力出力の上昇の指示を有効電力無効電力制御部104から受けた場合、その時点での無効電力出力の目標値から所定量を上昇させた値を無効電力出力の目標値として無効電力調整部107へ出力する。また、無効電力目標値提供部108は、無効電力出力の抑制の指示を有効電力無効電力制御部104から受けた場合、その時点での無効電力出力の目標値から所定量を低下させた値を無効電力出力の目標値として無効電力調整部107へ出力する。また、無効電力出力の維持の指示を有効電力無効電力制御部104から受けた場合、無効電力目標値提供部108は、その時点での無効電力出力の目標値を維持する。
【0046】
無効電力調整部107は、インバータ101の連系点における無効電力出力の情報の入力を有効電力無効電力演算回路103から受ける。また、無効電力調整部107は、無効電力出力の目標値の入力を無効電力目標値提供部108から受ける。そして、無効電力調整部107は、インバータ101の連系点における実際の無効電力出力と無効電力出力の目標値との差分を算出する。そして、無効電力調整部107は、算出した差分を補正する無効電力出力を求めて、求めた無効電力出力をインバータ制御部102に通知する。
【0047】
インバータ制御部102は、インバータ101から出力させる有効電力の出力量の通知を有効電力調整部105から受ける。また、インバータ制御部102は、インバータ101から出力させる無効電力の出力量の通知を無効電力調整部107から受ける。そして、インバータ制御部102は、指定された出力量の有効電力及び無効電力を出力させるための制御信号をインバータ101へ出力する。
【0048】
次に、
図3を参照して、本実施例に係るPCS100による電圧上昇制御機能の動作時の無効電力及び電圧の変化について説明する。
図3は、実施例に係るPCSによる電圧上昇制御機能の動作図である。
図3の横軸は時間経過を表す。
【0049】
図3において、グラフ201はPCS100の連系点電圧の変化を表す。グラフ202は、無効電力の出力量の変化を表す。グラフ203は、出力抑制の抑制量の変化を表す。さらに、上限値Thは、電圧適正範囲上限値を表す。また、時間TW1は、SVR動作時限を表す。また、時間TW2は、出力抑制動作時限を表す。
【0050】
図3では、時刻T1において、PCS100の連系点電圧が上限値Thを超える。PCS100の連系点電圧が上限値Thを超えた時刻T1のタイミングで、PCS100は、グラフ202で示すように無効電力の出力を開始する。これにより、グラフ201に示すように連系点電圧の上昇が、無効電力を出力しない場合の点線204に比べて抑制される。
【0051】
その後、時刻T2で運転力率が最小力率である0.85を下回る。この場合、PCS100は、時刻T2で出力抑制動作時限である時間TW2が経過するまでの時間経過の計測を開始する。また、例えば、この時点でSVR2が既定の電圧範囲からの系統電圧の逸脱を検出する。その場合、時刻T2のタイミングで、SVR2はSVR動作時限である時間TW1が経過するまでの時間経過の計測を開始する。時間TW1は、時間TW2よりも短い。例えば、時間TW1は45秒であり、時間TW2は200秒である。
【0052】
この場合、時間TW2が経過しても運転力率が0.85に到達したままである。そこで、時間TW2が経過したタイミングである時刻T3で、PCS100は、グラフ203に示すように出力抑制を開始する。PCS100は、出力抑制を行うと無効電力出力もグラフ202に示すように低下する。そして、時刻T4でPCS100の連系点電圧が上限値Th未満となる。そこで、時刻T4以降は、PCS100は、出力抑制量の増加を停止して、その時点での出力を維持する。この後、電圧が引戻し電圧以下に収まると、PCS100は、有効電力出力の増加及び無効電力出力の低下を実施する。
【0053】
次に、
図4を参照して力率1一定制御を行う場合の本実施例に係るPCS100の電圧上昇制御機能が動作した場合の有効電力の出力及び無効電力の出力の変化について説明する。
図4は、力率1一定制御時の有効電力及び無効電力の出力平面を表す図である。
図4の横軸は有効電力出力を表し、縦軸は無効電力出力を表す。
図4における曲線301は、PCS100の定格容量を表す。この場合、PCS100は、運転力率を1とする力率一定制御を実行する。
【0054】
PCS100は、通常運転時にはベクトル311で示す有効電力の出力を行う。また、運転力率が1であるので、PCS100は、無効電力を出力しない。この場合、PCS100は、出力量321で有効電力を出力する。その後、連系点電圧が電圧適正範囲上限値を超えると、PCS100は、無効電力の出力を開始する。そして、PCS100は、連系点電圧が電圧適正範囲上限値を超えている状態が続けば、ベクトル312で示すように無効電力出力を徐々に増やす。
【0055】
また、
図4では図示しないが、出力が曲線301で表される定格容量を超えた場合、PCS100は、有効電力出力を低下させて、出力が定格容量内に収まるように有効電力出力を補正する。
【0056】
ここでは、無効電力出力を増やしたことで、有効電力出力及び無効電力出力が、運転力率が最小力率302に到達する点322に達する。運転力率が最小力率302を下回る点322に達し、且つ、連系点電圧が電圧適正範囲上限値を超えている場合、PCS100は、有効電力及び無効電力の出力を維持した状態で、出力抑制動作時限の時間待機する。
【0057】
その後、出力抑制動作時限を経過しても、運転力率が最小力率302を下回り、且つ、連系点電圧が電圧適正範囲上限値を超えている場合、PCS100は、出力抑制を開始する。これにより、PCS100は、ベクトル313に示すように運転力率が最小力率302となる状態を維持させながら、有効電力出力及び無効電力出力を共に低下させる。そして、点323において連系点電圧が電圧適正範囲上限値未満となる。そこで、PCS100は、出力抑制の抑制量の増加を停止させて点323における有効電力出力及び無効電力出力を維持する。
【0058】
次に、
図5を参照して力率0.95一定制御を行う場合の本実施例に係るPCS100の電圧上昇制御機能が動作した場合の有効電力出力及び無効電力出力の変化について説明する。
図5は、力率0.95一定制御時の有効電力及び無効電力の出力平面を表す図である。
図5における曲線331は、PCS100の定格容量を表す。この場合、PCS100は、運転力率を0.95とする力率一定制御を実行する。
【0059】
PCS100は、通常運転時にはベクトル341で示す有効電力の出力を行う。また、運転力率が0.95の力率一定制御を行うため、PCS100は、cosφが0.95となるように無効電力を出力する。この場合、PCS100は、力率333上の点351にあたる有効電力及び無効電力の出力を行う。その後、連系点電圧が電圧適正範囲上限値を超えると、PCS100は、無効電力出力の増加を開始する。そして、PCS100は、連系点電圧が電圧適正範囲上限値を超過する状態が続けば、ベクトル342で示すように無効電力出力を徐々に増加させる。
【0060】
無効電力出力を増加させたことで、有効電力出力及び無効電力出力は、運転力率が最小力率332を下回る点352に達する。運転力率が最小力率332を下回る点352に達し、且つ、連系点電圧が電圧適正範囲上限値を超えている場合、PCS100は、有効電力出力及び無効電力出力を維持した状態で、出力抑制動作時限の時間待機する。
【0061】
その後、出力抑制動作時限を経過しても、運転力率が最小力率332を下回り、且つ、連系点電圧が電圧適正範囲上限値を超過する場合、PCS100は、出力抑制を開始する。これにより、PCS100は、ベクトル343に示すように運転力率が最小力率332となる状態を維持させながら、有効電力出力及び無効電力出力を共に低下させる。そして、点353において連系点電圧が電圧適正範囲上限値未満となる。そこで、PCS100は、出力抑制の抑制量の増加を停止させて点353における有効電力出力及び無効電力出力を維持する。
【0062】
次に、
図6を参照して、実施例に係るPCS100による電圧上昇抑制制御の流れについて説明する。
図6は、実施例に係るPCSによる電圧上昇抑制制御のフローチャートである。
【0063】
有効電力無効電力演算回路103及び有効電力無効電力制御部104は、PCS100の配電系統との連系点の連系点電圧を検出する(ステップS1)。有効電力無効電力演算回路103は、検出した連系点電圧から有効電力出力及び無効電力出力を算出する。そして、有効電力無効電力演算回路103は、算出した有効電力出力を有効電力無効電力制御部104及び有効電力調整部105に通知する。また、有効電力無効電力演算回路103は、算出した無効電力出力を有効電力無効電力制御部104及び無効電力調整部107に通知する。
【0064】
有効電力無効電力制御部104は、連系点電圧が電圧適正範囲上限値を超過したか否かを判定する(ステップS2)。
【0065】
連系点電圧が電圧適正範囲上限値を超過した場合(ステップS2:肯定)、有効電力無効電力制御部104は、無効電力出力の増加を無効電力目標値提供部108に指示する。無効電力目標値提供部108は、有効電力無効電力制御部104からの指示を受けて、その時点での無効電力出力を所定量増加させた出力量を無効電力出力の目標値として無効電力調整部107に提供する。無効電力調整部107は、無効電力目標値提供部108から取得した無効電力出力の目標値と有効電力無効電力演算回路103から取得したその時点の無効電力出力とを比較して、無効電力出力が目標値となるように補正した無効電力出力の情報をインバータ制御部102に提供する。インバータ制御部102は、無効電力調整部107から取得した無効電力出力で無効電力を出力するようにインバータ101を制御する。これにより、インバータ101からの無効電力出力が増加する(ステップS3)。
【0066】
次に、有効電力無効電力制御部104は、インバータ101の出力が定格容量を超過したか否かを判定する(ステップS4)。定格容量に収まっている場合(ステップS4:否定)、有効電力無効電力制御部104は、ステップS6へ進む。
【0067】
これに対して、インバータ101の出力が定格容量を超過した場合(ステップS4:肯定)、有効電力無効電力制御部104は、インバータ101の出力が定格容量に収まるように有効電力出力を低下させる指示を有効電力目標値提供部106に行う。有効電力目標値提供部106は、有効電力無効電力制御部104からの指示を受けて、その時点での有効電力出力を所定量減少させた出力量を有効電力出力の目標値として有効電力調整部105に提供する。有効電力調整部105は、有効電力目標値提供部106から取得した有効電力出力の目標値と有効電力無効電力演算回路103から取得したその時点の有効電力出力とを比較して、有効電力出力が目標値となるように補正した有効電力出力の情報をインバータ制御部102に提供する。インバータ制御部102は、有効電力調整部105から取得した有効電力出力で有効電力を出力するようにインバータ101を制御する。これにより、インバータ101からの有効電力出力が補正される(ステップS5)。
【0068】
次に、有効電力無効電力制御部104は、有効電力無効電力演算回路103から取得した有効電力出力及び無効電力出力の情報を用いてインバータ101の運転力率を算出する。そして、有効電力無効電力制御部104は、インバータ101の運転力率が最小力率である0.85を超過したか否かを判定する(ステップS6)。運転力率が0.85以上の場合(ステップS6:否定)、電圧上昇抑制制御の処理はステップS15へ進む。
【0069】
これに対して、運転力率が0.85を下回った場合(ステップS6:肯定)、有効電力無効電力制御部104は、自己が有するタイマが起動していなければタイマによる計測を開始する。また、自己が有するタイマが起動している場合、有効電力無効電力制御部104は、タイマから経過時間を取得する。そして、有効電力無効電力制御部104は、待機時間が出力抑制制御動作時限を超過したか否かを判定する(ステップS7)。待機時間が出力抑制制御動作時限を超過していない場合(ステップS7:否定)、電圧上昇抑制制御の処理はステップS15へ進む。
【0070】
これに対して、待機時間が出力抑制制御動作時限を超過した場合(ステップS7:肯定)、有効電力無効電力制御部104は、無効電力の出力の減少を無効電力目標値提供部108に指示する。無効電力目標値提供部108は、有効電力無効電力制御部104からの指示を受けて、その時点での無効電力出力を所定量減少させた出力量を無効電力出力の目標値として無効電力調整部107に提供する。無効電力調整部107は、無効電力目標値提供部108から取得した無効電力出力の目標値と有効電力無効電力演算回路103から取得したその時点の無効電力出力とを比較して、無効電力出力が目標値となるように補正した無効電力出力の情報をインバータ制御部102に提供する。インバータ制御部102は、無効電力調整部107から取得した無効電力出力を出力するようにインバータ101を制御する。これにより、インバータ101から出力される無効電力出力が減少する(ステップS8)。
【0071】
さらに、有効電力無効電力制御部104は、有効電力出力の減少を有効電力目標値提供部106に指示する。有効電力目標値提供部106は、有効電力無効電力制御部104からの指示を受けて、その時点での有効電力出力を所定量減少させた出力量を有効電力出力の目標値として有効電力調整部105に提供する。有効電力調整部105は、有効電力目標値提供部106から取得した有効電力出力の目標値と有効電力無効電力演算回路103から取得したその時点の有効電力出力とを比較して、有効電力出力が目標値となるように補正した有効電力出力量をインバータ制御部102に提供する。インバータ制御部102は、有効電力調整部105から取得した有効電力出力を出力するようにインバータ101を制御する。これにより、インバータ101からの有効電力の出力が減少する(ステップS9)。その後、電圧上昇抑制制御の処理はステップS15へ進む。
【0072】
一方、連系点電圧が電圧適正範囲上限値以下の場合(ステップS2:否定)、有効電力無効電力制御部104は、連系点電圧が引戻し電圧未満か否かを判定する(ステップS10)。連系点電圧が引戻し電圧以上の場合(ステップS10:否定)、電圧上昇抑制制御の処理はステップS15へ進む。
【0073】
これに対して、連系点電圧が引戻し電圧未満の場合(ステップS10:肯定)、有効電力無効電力制御部104は、有効電力の出力抑制が行われていないか否かを判定する(ステップS11)。有効電力の出力抑制が行われている場合(ステップS11:否定)、有効電力無効電力制御部104は、有効電力出力の増加を有効電力目標値提供部106に指示する。有効電力目標値提供部106は、有効電力無効電力制御部104からの指示を受けて、その時点での有効電力出力を所定量増加させた出力量を有効電力出力の目標値として有効電力調整部105に提供する。有効電力調整部105は、有効電力目標値提供部106から取得した有効電力出力の目標値と有効電力無効電力演算回路103から取得したその時点の有効電力出力量とを比較して、有効電力出力が目標値となるように補正した有効電力出力の情報をインバータ制御部102に提供する。インバータ制御部102は、有効電力調整部105から取得した有効電力出力を出力するようにインバータ101を制御する。これにより、インバータ101からの有効電力出力が増加する(ステップS12)。その後、電圧上昇抑制制御の処理はステップS15へ進む。
【0074】
これに対して、有効電力の出力抑制が行われていない場合(ステップS11:肯定)、有効電力無効電力制御部104は、無効電力の出力抑制が行われていないか否かを判定する(ステップS13)。無効電力の出力抑制が行われていない場合(ステップS13:肯定)、電圧上昇抑制制御の処理はステップS15へ進む。
【0075】
これに対して、無効電力の出力抑制が行われている場合(ステップS13:否定)、有効電力無効電力制御部104は、無効電力出力の減少を無効電力目標値提供部108に指示する。無効電力目標値提供部108は、有効電力無効電力制御部104からの指示を受けて、その時点での無効電力出力を所定量減少させた出力量を無効電力出力の目標値として無効電力調整部107に提供する。無効電力調整部107は、無効電力目標値提供部108から取得した無効電力出力の目標値と有効電力無効電力演算回路103から取得したその時点の無効電力出力とを比較して、無効電力出力が目標値となるように補正した無効電力出力の情報をインバータ制御部102に提供する。インバータ制御部102は、無効電力調整部107から取得した無効電力出力を出力するようにインバータ101を制御する。これにより、インバータ101からの無効電力出力が減少する(ステップS14)。その後、電圧上昇抑制制御の処理はステップS15へ進む。
【0076】
有効電力無効電力制御部104は、操作者からの動作停止の指示の入力の有無などにより、動作を停止するか否かを判定する(ステップS15)。動作を停止しない場合(ステップS15:否定)、電圧上昇抑制制御の処理は、ステップS1へ戻る。これに対して、動作を停止する場合(ステップS15:肯定)、有効電力無効電力制御部104は、電圧上昇抑制制御の処理を終了する。
【0077】
図7は、力率1一定制御時の実施例に係る電圧上昇制御と動作時限経過後に無効電力出力を開始する制御との電圧逸脱量及び発電機会損失量を比較した図である。
図7は、
図1に示した配電系統モデル10において需要家住宅5におけるPV51の普及率が100%で且つ出力抑制動作時限を200秒と設定した場合のシミュレーション結果である。電圧逸脱量は、シミュレーション期間における全ての需要家住宅5の配電線電圧の適正範囲からの電圧逸脱量の時間積算値である。発電機会損失量は、シミュレーション期間における全ての需要家住宅5での出力抑制量の時間積算値である。
【0078】
図7のグラフ401は、動作時限経過後に無効電力出力を開始する制御における電圧逸脱量を表すグラフである。グラフ402は、動作時限経過後に無効電力出力を開始する制御における発電機会損失量を表すグラフである。また、グラフ411は、実施例に係る電圧上昇制御における電圧逸脱量を表すグラフである。グラフ412は、実施例に係る電圧上昇制御における発電機会損失量を表すグラフである。
図7の紙面に向かって左側の縦軸は電圧逸脱量を表す。また、紙面に向かって右側の縦軸は発電機会損失量を表す。
【0079】
グラフ401及び402に示すように、無効電力出力及び出力抑制までの動作時限を200秒とすると、動作時限経過後に無効電力出力を開始する制御では、動作時限が長いために出力抑制動作が遅れ、発電機会損失は減少するが、電圧逸脱量は増加する。これに対して、実施例に係る電圧上昇制御では、グラフ411に示すように、電圧逸脱量は大きく抑制される。また、グラフ412に示すように、実施例に係る電圧上昇制御では、発電機会損失もある程度少なくなる。
【0080】
また、
図8は、力率0.95一定制御時の実施例に係る電圧上昇制御と動作時限経過後に無効電力の出力を開始する制御との電圧逸脱量及び発電機会損失量を比較した図である。
図8は、
図1に示した配電系統モデル10において需要家住宅5におけるPV51の普及率が100%で且つ出力抑制動作時限を200秒と設定した場合のシミュレーション結果である。
【0081】
図8のグラフ403は、動作時限経過後に無効電力の出力を開始する制御における電圧逸脱量を表すグラフである。グラフ404は、動作時限経過後に無効電力の出力を開始する制御における発電機会損失量を表すグラフである。また、グラフ413は、実施例に係る電圧上昇制御における電圧逸脱量を表すグラフである。グラフ414は、実施例に係る電圧上昇制御における発電機会損失量を表すグラフである。
図8の紙面に向かって左側の縦軸は電圧逸脱量を表す。また、紙面に向かって右側の縦軸は発電機会損失量を表す。この場合、力率1一定制御に比べて全体的に電源逸脱量が低くなる。これは、力率0.95一定制御により通常時においても全ての需要家住宅5において無効電力が出力されることで電圧上昇が抑制されるためである。
【0082】
動作時限経過後に無効電力出力を開始する制御では、動作時限の長期化により、グラフ404で示す発電機会損失量も増加する。これは、動作時限の長期化により電圧上限逸脱幅が拡大し、出力抑制を開始するPCS100が増えたためと考えられる。一方、実施例に係る電圧上昇制御では、グラフ411及び412に示すように、グラフ403及び404で表される動作時限経過後に無効電力出力を開始する制御に対して、電圧逸脱量及び発電機会損失ともに大幅に改善される。発電機会損失量の減少は、実施例に係る電圧上昇制御では、無効電力出力動作による電圧上昇抑制を行うPCS100が増え、出力抑制が実施される機会が減ったことが要因である。
【0083】
このように、実施例に係るPCS100は、動作時限経過後に無効電力出力を開始する制御に比べて、電圧上限逸脱量及び発電機会損失量を低減できる。さらに、実施例に係るPCS100は、力率一定制御を併用することで、電圧上限逸脱量及び発電機会損失量のより低減させることができる。
【0084】
次に、
図9及び10を参照して、本実施例に係るPCS100において出力抑制動作時限の変化による電圧逸脱量及び発電機会損失量の変化について説明する。
図9は、運転力率1一定制御の場合の出力抑制動作時限変化時の電圧逸脱量及び発電機会損失量の変化を表す図である。また、
図10は、力率0.95一定制御の場合の出力抑制動作時限変化時の電圧逸脱量及び発電機会損失量の変化を表す図である。
図9及び10ともに、紙面に向かって左側の縦軸は電圧逸脱量を表し、紙面に向かって右側の縦軸は発電機会損失量を表す。また、
図9及び10ともに、横軸は動作時限を表す。
【0085】
図9のグラフ501は、電圧逸脱量の変化を表すグラフである。また、グラフ502は、発電機会損失量の変化を表すグラフである。グラフ501に示すように、力率1一定制御時では、出力抑制動作時限が長期化すると電圧逸脱量が増加し、発電機会損失量が減少する傾向がある。特に動作時限100秒付近で顕著にその傾向が確認できる。この場合、電圧逸脱量と発電機会損失量とはトレードオフの関係にある。
【0086】
図10のグラフ511は、電圧逸脱量の変化を表すグラフである。また、グラフ512は、発電機会損失量の変化を表すグラフである。力率0.95一定制御時は、出力抑制動作時限が50秒以上で発電機会損失は回避され、電圧逸脱はどの動作時限においても回避可能である。
【0087】
配電系統にあるSVR2やその他のLRTなどの電圧制御機器は、整定時間が45~120秒に設定されることが多い。このことを踏まえて、これらより長い時間の電圧逸脱は、SVR2やその他のLRTなどの電圧制御機器で制御可能である。このことから、実施例に係るPCS100の出力抑制動作時限は、SVR2などとの協調を考慮して、200秒に設定することが可能である。ただし、出力抑制動作時限は、実際の配電系統の状態やコストなども踏まえて設定されることが好ましい。
【0088】
以上に説明したように、本実施例に係る電圧制御装置は、PCSの連系点電圧が電圧適正範囲上限値を超えると、直ぐに進相無効電力の出力を開始して電圧の抑制を行う。その後、運転力率が最小力率を超えた後に動作時限が経過すると、本実施例に係る電圧制御装置は、出力抑制を開始する。これにより、出力抑制を開始する時間を遅らせつつ電圧を低下させることができる。
【0089】
連系点電圧が電圧適正範囲上限値を超えて直ぐに電圧の抑制を開始することで、電圧逸脱量を低減することができる。また、出力抑制の開始を遅らせることで、無効電力の出力に加えてSVRなどの電圧調整機器による電圧調整により連系点電圧が電圧適正範囲上限値以下になる場合に、PCSの出力の抑制を回避することができ、発電機会損失量を低減することができる。すなわち、発電機会損失を抑制しつつ配電線電圧を適正値に維持することができる。
【0090】
また、以上の説明では、電力供給元としてPVを例に説明したが、配電系統へ電力を供給する分算電源であればよく、例えば、蓄電池などであってもよい。
【符号の説明】
【0091】
1 配電用変電所
2 SVR
3 幹線
4 変圧器
5 需要家住宅
10 配電系統モデル
51 PV
52 住宅負荷
100 PCS
101 インバータ
102 インバータ制御部
103 有効電力無効電力演算回路
104 有効電力無効電力制御部
105 有効電力調整部
106 有効電力目標値提供部
107 無効電力調整部
108 無効電力目標値提供部