(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】接着性樹脂組成物、フッ素系樹脂接着用フィルム、積層体、及び積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 123/08 20060101AFI20230428BHJP
C09J 153/02 20060101ALI20230428BHJP
C09J 123/20 20060101ALI20230428BHJP
C09J 109/00 20060101ALI20230428BHJP
C09J 7/10 20180101ALI20230428BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20230428BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
C09J123/08
C09J153/02
C09J123/20
C09J109/00
C09J7/10
B32B27/32 103
B32B27/30 B
B32B27/30 D
(21)【出願番号】P 2018243304
(22)【出願日】2018-12-26
【審査請求日】2021-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2018065114
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】藤森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100155066
【氏名又は名称】貞廣 知行
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 甲介
(72)【発明者】
【氏名】古川 秀一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 豊明
(72)【発明者】
【氏名】松山 岳生
(72)【発明者】
【氏名】山田 仁之
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-349745(JP,A)
【文献】特表2009-523886(JP,A)
【文献】特開2017-043693(JP,A)
【文献】特開2004-067822(JP,A)
【文献】特開2006-206805(JP,A)
【文献】国際公開第2012/046564(WO,A1)
【文献】特開平11-335644(JP,A)
【文献】特開2018-095710(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0242778(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J,B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、ブテン含有エチレン系重合体を含むポリエチレン系樹脂(A)、スチレン系エラストマー(B)及びエポキシ化ポリブタジエン(C)を含
み、
前記ポリエチレン系樹脂(A)が、エチレン-ブテン1共重合体(A1)と、前記ポリエチレン系樹脂(A1)とは異なるポリエチレン系樹脂(A2)の混合物であり、
前記スチレン系エラストマー(B)が、スチレン含有率が8質量%以上20質量%以下であるスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体であり、
前記エポキシ化ポリブタジエン(C)が、1,2-ポリブタジエンにエポキシを部分的に導入したものであり、かつ数平均分子量が500以上4,000以下であり、
前記ポリエチレン系樹脂(A)の含有量が50質量部以上80質量部以下、前記スチレン系エラストマー(B)の含有量が20質量部以上50質量部以下含有し、前記ポリエチレン系樹脂(A)と前記スチレン系エラストマー(B)の合計量100質量部に対する前記エポキシ化ポリブタジエン(C)の含有量が、0.1質量部以上0.9質量部以下である、接着性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリエチレン系樹脂(A2)(ただし、エチレン-ブテン1共重合体(A1)に該当するものを除く)の密度が、0.900g/cm
3以上0.930g/cm
3以下のポリエチレン系樹脂である、請求項
1に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項3】
前記エチレン-ブテン1共重合体(A1)の含有量が3質量部以上22質量部以下、前記ポリエチレン系樹脂(A2)の含有量が32質量部以上72質量部以下、前記スチレン系エラストマー(B)の含有量が20質量部以上50質量部以下の合計量100質量部に対する前記エポキシ化ポリブタジエン(C)の含有量が、0.1質量部以上0.9質量部以下である、請求項
1又は2に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の接着性樹脂組成物から形成された、単層構成のフッ素系樹脂接着用フィルム。
【請求項5】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の接着性樹脂組成物から形成された層を有する積層体。
【請求項6】
請求項
5に記載の積層体の製造方法であって、下記(1)~(3)のいずれか1つの積層体の製造方法。
(1)前記接着性樹脂組成物から形成される層を溶融押出し、単層構成のフッ素系樹脂接着用フィルムを得る工程と、前記フッ素系樹脂接着用フィルムの両側にフィルムを積層させて熱圧着させて積層体を得る工程を有する、積層体の製造方法。
(2)前記接着性樹脂組成物から形成される層を、基材となるフィルム上に溶融押出し、基材/接着剤層の積層体を得る工程と、さらに合わせ材を、基材/接着剤層/合わせ材となるように積層させて熱圧着させて積層体を得る工程を有する、積層体の製造方法。
(3)基材の原料となる樹脂と、前記接着性樹脂組成物を同時に溶融押出成形する工程を有する、積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着性樹脂組成物、フッ素系樹脂接着用フィルム、積層体、及び積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バリア性の高いフィルム積層体は、食品や医薬品等の包装材料に使用されている。例えば、特許文献1には、エポキシ基を含有するアクリル酸エステルまたはその誘導体と、ポリオレフィンと、芳香族ビニル単量体とを溶融混練中でラジカル重合させて得た変性ポリオレフィン、及び、密度0.940cm3以下のポリエチレンと、スチレン系熱可塑性エラストマーと、からなる接着性樹脂組成物が記載されている。
【0003】
特許文献2には、ポリオレフィン系樹脂と分子内不飽和結合を有する化合物とエポキシ化合物とを含む接着性樹脂組成物が記載されている。
特許文献3には、エチレン系重合体と25℃で液状であるエポキシ変性ジエン共重合体とからなる押出ラミネート用樹脂組成物が記載されている。
特許文献4には、オレフィン系樹脂とゴム状重合体とアクリルグラフト共重合体からなるオレフィン系樹脂とフッ素系樹脂の接着性を有する共押出成形に好適な樹脂組成物を用いた積層体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-117281号公報
【文献】特開2000-103914号公報
【文献】特開2003-63226号公報
【文献】特開2000-15754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の技術ではラジカル重合開始剤存在下で溶融混練するため、最終的に作製される接着性樹脂組成物に開始剤が残存してしまう。このため、長期保管した場合に、樹脂そのものの性質が大きく変化してしまう可能性がある。
【0006】
また、特許文献1では、重合によりエポキシ基を樹脂に部分的に導入している。この場合、樹脂の溶融温度付近でなければ樹脂の接着性が現れない。このため、より低温条件や短時間での、接着や融着を求められる用途で必要とする接着性が得られないという問題がある。
【0007】
特許文献2に記載の技術では、エポキシ化合物としてエポキシ化植物油を使用している。特許文献2に記載されている大豆油の主成分であるリノレン酸や亜麻仁油の主成分であるリノール酸といった脂肪酸は、分子量が数百程度である。このため、フィルム化したときにすぐにブリードしてしまい接着不良を起こしやすくなるという問題がある。
【0008】
特許文献3に記載の技術ではエチレン系重合体が98.5~99.9質量部を占める。このため、ポリプロピレンに接着せず、ポリプロピレン基材への押出ラミネート、ポリプロピレンとの共押出用接着樹脂としては使用できないという問題があった。
上記に加えて、特許文献1~3に記載の接着性樹脂は、すべてフッ素系樹脂との接着性が不十分であるという問題があった。
【0009】
特許文献4に記載の技術は、フッ素系樹脂、オレフィン系樹脂との接着性を有するということであるが、カルボン酸またはその無水物基、エポキシ基、水酸基、イソシアネート基からなる官能基を有する変性オレフィン重合体にラジカル重合単量体を反応させて作製している。このため、例えばポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂といった末端にアミノ基、カルボキシル基、水酸基を有するエンプラ系樹脂との反応基が存在しないため、それらとの接着性が大きく低下してしまうという問題があった。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、フッ素系樹脂の接着に好適に用いられる接着性樹脂組成物であって、フッ素系樹脂同士、又はフッ素系樹脂とフッ素系樹脂以外の材料との接着を目的とした接着性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は以下の構成を採用した。
[1]少なくともブテン含有エチレン系重合体を含むポリエチレン系樹脂(A)、スチレン系エラストマー(B)及びエポキシ化ポリブタジエン(C)を含む接着性樹脂組成物。
[2] 前記ポリエチレン系樹脂(A)が、エチレン-ブテン1共重合体(A1)と、前記ポリエチレン系樹脂(A1)とは異なるポリエチレン系樹脂(A2)の混合物である、[1]に記載の接着性樹脂組成物。
[3]前記ポリエチレン系樹脂(A2)(ただし、エチレン-ブテン1共重合体(A1)に該当するものを除く)の密度が、0.900g/cm3以上0.930g/cm3以下のポリエチレン系樹脂である、[2]に記載の接着性樹脂組成物。
[4]前記ポリエチレン系樹脂(A)の含有量が50質量部以上80質量部以下、前記スチレン系エラストマー(B)の含有量が20質量部以上50質量部以下含有し、前記ポリエチレン系樹脂(A)と前記スチレン系エラストマー(B)の合計量100質量部に対する前記エポキシ化ポリブタジエン(C)の含有量が、0.1質量部以上0.9質量部以下である、[1]に記載の接着性樹脂組成物。
[5]前記エチレン-ブテン1共重合体(A1)の含有量が3質量部以上22質量部以下、前記ポリエチレン系樹脂(A2)の含有量が32質量部以上72質量部以下、前記スチレン系エラストマー(B)の含有量が20質量部以上50質量部以下の合計量100質量部に対する前記エポキシ化ポリブタジエン(C)の含有量が、0.1質量部以上0.9質量部以下である、[2]又は[3]に記載の接着性樹脂組成物。
[6]前記エポキシ化ポリブタジエン(C)が、1,2-ポリブタジエンにエポキシを部分的に導入したものであり、かつ数平均分子量が500以上4,000以下である[1]~[5]のいずれか1つに記載の接着性樹脂組成物。
[7]前記スチレン系エラストマー(B)が、スチレン含有率が8質量%以上20質量%以下であるスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の接着性樹脂組成物。
[8][1]~[7]のいずれか1つに記載の接着性樹脂組成物から形成された、単層構成のフッ素系樹脂接着用フィルム。
[9][1]~[7]のいずれか1つに記載の接着性樹脂組成物から形成された層を有する積層体。
[10][9]に記載の積層体の製造方法であって、下記(1)~(3)のいずれか1つの積層体の製造方法。
(1)前記接着性樹脂組成物から形成される層を溶融押出し、単層構成のフッ素系樹脂接着用フィルムを得る工程と、前記フッ素系樹脂接着用フィルムの両側にフィルムを積層させて熱圧着させて積層体を得る工程を有する、積層体の製造方法。
(2)前記接着性樹脂組成物から形成される層を、基材となるフィルム上に溶融押出し、基材/接着剤層の積層体を得る工程と、さらに合わせ材を、基材/接着剤層/合わせ材となるように積層させて熱圧着させて積層体を得る工程を有する、積層体の製造方法。
(3)基材の原料となる樹脂と、前記接着性樹脂組成物を同時に溶融押出成形する工程を有する、積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、フッ素系樹脂の接着に好適に用いられる接着性樹脂組成物であって、フッ素系樹脂同士、又はフッ素系樹脂とフッ素系樹脂以外の材料との接着を目的とした接着性樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】実施例における、引張強度測定装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、好適な実施の形態に基づき、本発明を説明する。
【0015】
<接着性樹脂組成物>
本発明の接着性樹脂組成物は、フッ素系樹脂の接着に用いられる。例えば、フッ素系樹脂フィルム同士を積層する場合のフィルム同士の接着、又は、フッ素系樹脂フィルムとフッ素系樹脂以外の他の樹脂フィルムを積層する場合のフィルム同士の接着に好適に用いることができる。
【0016】
本発明の接着性樹脂組成物は、少なくともブテン含有エチレン系重合体を含むポリエチレン系樹脂(A)(以下、「成分(A)」と記載する)、スチレン系エラストマー(B)(以下、「成分(B)」と記載する)及びエポキシ化ポリブタジエン(C)(以下、「成分(C)」と記載する)を含む。
本発明の接着性樹脂組成物が、フッ素系樹脂の接着に好適に用いられ、フッ素系樹脂フィルムの良好な接着が得られる理由の詳細は明らかではないが、以下のように推察される。
接着剤組成物の「海」相を構成する成分(A)のポリエチレン系樹脂に含まれるブテン含有エチレン系重合体の作用により、接着力を発揮する成分である成分(C)のエポキシ化ポリブタジエンが、成分(B)のスチレン系エラストマーに偏って分散することなく、接着剤組成物中に均一に分散していると考えられる。これにより、成分(C)に基づく高い接着力の発現を可能にしていると推測される。
以下、各成分について具体的に説明する。
【0017】
≪成分(A)≫
成分(A)は、本発明の接着性樹脂組成物において、主材となる成分である。
成分(A)の、少なくともブテン含有エチレン系重合体を含むポリエチレン系樹脂は、ブテンモノマーを共重合成分として含有するエチレン系重合体単体であるか、または、ブテンモノマーを共重合成分として含有するエチレン系重合体と、それ以外のポリエチレン系樹脂との組成物であれば、限定されるものではない。
【0018】
成分(A)の少なくともブテン含有エチレン系重合体を含むポリエチレン系樹脂としては、成分(A)中のブテン含有率が、0.1モル%以上5モル%以下であることが好ましく、0.3モル%以上4モル%以下がより好ましい。
成分(A)中のブテン含有率が、上記下限値以下であると安定した粘着力を維持できない虞があり、また、上記上限値以上であると、良好な加工性が得られない虞がある。
成分(A)に含まれるブテン含有エチレン系重合体としては、エチレンーブテン1共重合体(以下、「成分(A1)」と記載する)が好ましい。
【0019】
当該成分(A1)としては、ブテン1の含有率が5モル%以上25モル%以下であることが好ましく、10モル%以上20モル%以下がより好ましい。
ブテン1含有率が、上記下限値以上であると、形成した接着剤層に良好な粘着力を付与できる。また、ブテン1含有率が、上記上限値以下であると、安定した成形加工性を付与できる。
【0020】
当該成分(A1)としては、例えば、三井化学株式会社のタフマー(登録商標)、住友化学株式会社のエクセレンFX(登録商標)、ダウ・ケミカル・カンパニーのエンゲージ(登録商標)などが挙げられる。
【0021】
成分(A)が、ブテンモノマーを共重合成分として含有するエチレン系重合体と、それ以外のポリエチレン系樹脂との組成物である場合に、それ以外のポリエチレン系樹脂としては、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)の中から選択されるいずれか1種または2種以上であることが好ましい。
上記それ以外のポリエチレン系樹脂としては、バイオマスポリエチレン、石油由来のポリエチレン、両者の混合物のいずれでもよい。
【0022】
上記それ以外のポリエチレン系樹脂は、メタロセン系触媒により重合されたポリエチレンであることが好ましい。なかでも、メタロセン系触媒により重合された、C6-LLDPE、C8-LLDPE等のエチレン-αオレフィン共重合体;長鎖分岐ポリエチレン等が好適な例である。
メタセロン系触媒により重合されたポリエチレン系樹脂は、分子量分布が狭い傾向にある。このため接着阻害要因となりうる低分子量成分が少なく、接着剤として用いた場合に高い接着性が得られると考えられる。
【0023】
また、成形加工性及び接着性を考慮すると、前記それ以外のポリエチレン系樹脂として、低密度ポリエチレン(LDPE)、や長鎖分岐ポリエチレンを用いることが好ましい。
前記それ以外のポリエチレン系樹脂として、種々のポリエチレン系樹脂を適用することにより、接着性樹脂組成物の特性、接着性の他、成形加工性等を調整できる。成分(A)としては、ブテンモノマーを共重合成分として含有するエチレン系重合体と、それ以外のポリエチレン系樹脂との組成物とすることが、好ましい。
【0024】
成分(A)に含まれるブテンモノマーを共重合成分として含有するエチレン系重合体の密度は、0.850g/cm3以上0.910g/cm3以下が好ましく、0.860cm3以上0.890g/cm3以下が好ましい。
また、前記それ以外のポリエチレン系樹脂の密度としては、0.900g/cm3以上0.930g/cm3以下が好ましく、0.905cm3以上0.925g/cm3以下がより好ましい。前記それ以外のポリエチレン系樹脂の密度が上記上限値以下であると、形成する接着材層の硬化を抑制でき、柔軟性を付与できることから、高い接着力を維持できる。
【0025】
接着剤組成物中の成分(A)の含有量は、成分(A)及び成分(B)の合計100質量部中、50質量部以上80質量部以下が好ましく、52質量部以上75質量部以下が好ましい。
成分(A)の含有量が上記上限値以下であると、形成する接着材層の硬化を抑制でき、高い接着力を維持できる。
【0026】
本発明の接着剤組成物において、成分(A)に含まれるブテン含有エチレン系重合体は、成分(C)との親和性に優れる成分である。
また、成分(A)がブテン含有エチレン系重合体以外のポリエチレン系樹脂を含む場合、ブテン含有エチレン系重合体は、それ以外のポリエチレン系樹脂と相溶する成分であることが好ましい。本願発明の接着性樹脂組成物は、それにより、当該接着性樹脂組成物から形成されてなる接着剤層中において、主成分である樹脂成分(A)に、成分(C)を均一に分散させることができるものである。
【0027】
成分(A)に含まれるブテン含有エチレン系重合体が、エチレン-ブテン1共重合体(A1)であり、成分(A)が、(A1)と(A1)とは異なるポリエチレン系樹脂(A2)との混合物である場合、成分(A1)の含有量は、成分(A)〔(A1)+(A2)〕及び成分(B)、の合計100質量部中、3質量部以上22質量部以下が好ましく、5質量部以上20質量部以下がより好ましい。成分(A2)の含有量は、成分(A)〔(A1)+(A2)〕及び成分(B)の合計100質量部中、32質量部以上72質量部以下が好ましく、35質量部以上70質量部以下がより好ましい。
成分(A1)の含有量が上記上限値以下であると、形成した接着剤層の弾性率が上がりすぎず、高い接着力を維持できる。
【0028】
≪成分(B)≫
本実施形態において、成分(B)は、接着剤層に粘着力を付与する成分である。
本実施形態において、スチレン系エラストマー成分としては、例えば、ポリスチレン等からなるハードセグメントと、ポリエチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン等からなるソフトセグメントとを有するブロック共重合体が挙げられる。スチレン系エラストマーに使用可能なスチレン系重合体としては、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-エチレン共重合体等の芳香族オレフィン-脂肪族オレフィンの共重合体が挙げられる。
【0029】
本実施形態において、スチレン系エラストマーはスチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SBS)に水素添加して完全に分子内の不飽和結合を開環させたスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)であることが好ましい。
また、そのスチレン含有率は8質量%以上20質量%以下であることが好ましく、10質量%以上16質量%以下がより好ましい。
スチレン含有率が上記上限値以下であると、樹脂の硬化を抑制でき、接着性の低下を抑制できる。
【0030】
本実施形態において、成分(B)としては、例えばJSR株式会社のダイナロン、旭化成ケミカルズ株式会社のタフテックHシリーズ、クレイトンポリマー株式会社のクレイトンGポリマーなどが挙げられる。
【0031】
接着剤組成物中の成分(B)の含有量は、成分(A)〔あるいは、成分(A1)+成分(A2)〕、成分(B)の合計100質量部中、20質量部以上50質量部以下が好ましく、22質量部以上49質量部以下がより好ましく、30質量部以上48質量部以下がさらに好ましく、35質量部以上48質量部以下が特に好ましい。
成分(B)の含有量が上記上限値以下であると、接着剤層を形成したときの引張強度の低下を抑制し、接着強度の低下を防止できる。
【0032】
本実施形態において、前記成分(A)〔あるいは、成分(A1)+成分(A2)〕と前記成分(B)との合計は100質量部とする。
【0033】
≪成分(C)≫
本実施形態において、成分(C)はエポキシ化ポリブタジエンであり、ブタジエンを部分的にエポキシ化した、エポキシ化ポリブタジエンが好ましい。本実施形態においては、1,2-ポリブタジエンを部分的にエポキシ化したものが特に好ましい。
本実施形態において、成分(C)中のエポキシ基はフッ素系樹脂のフッ素成分と相溶し、フッ素系樹脂と接着できる。エポキシ基を有することから、成分(C)を含むことにより金属材料との接着も可能となる。
【0034】
本実施形態に用いることができる成分(C)としては、例えば、日本曹達株式会社の液状ポリブタジエンJP-100,JP-200や株式会社アデカのアデカサイザーBF-1000などが挙げられる。
成分(C)の数平均分子量は500以上4,000以下であることが好ましく、800以上2,500以下がより好ましい。
成分(C)の数平均分子量が上記上限値以下であると、常温で固形状態となることによる粘着性の低下を抑制でき、接着性の低下を防止できる。
本発明において数平均分子量は、GPC(ゲルパーミネーションクロマトグラフィー)によって測定されるポリスチレン換算の値とする。
【0035】
また、成分(C)は液状のエポキシ化ポリブタジエンを用いることが好ましい。
本実施形態においては、前記成分(A)及び前記成分(B)の総量100質量部に対する、成分(C)の含有量は0.1質量部以上0.9質量部以下が好ましく、0.3質量部以上0.7質量部以下がより好ましい。
成分(C)の含有量が上記上限値以下であると、接着阻害の要因となる接着剤組成物中の低分子成分を低減できる。
【0036】
本実施形態の接着性樹脂組成物は、成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含有する。
本実施形態の接着性樹脂組成物は、成分(A)が「海」、成分(B)、成分(C)がそれぞれ「島」に相当する、いわゆる海島構造を形成すると考えられる。さらに、成分(A)に含まれるブテン含有エチレン系重合体に成分(C)が相溶することにより、成分(C)を接着性樹脂組成物中に均一に分散させることができる。加えて、成分(B)にも成分(C)が相溶することにより、成分(C)を接着性樹脂組成物中に均一に分散させることができる。接着力を発揮する成分(C)が接着剤層中、全体により均一に分散するため、当該接着剤層は、高い接着力を発揮できると考えられる。
さらに、成分(C)中のエポキシ基が、成分(A)及び成分(B)で保護され、水分によるエポキシ基の開環を抑制できると推察される。
【0037】
本実施形態の接着性樹脂組成物によれば、他の接着剤やアンカーコート剤等を使用せずに、フッ素系樹脂同士又はフッ素系樹脂とそれ以外の材料とを接着することができる。このため、溶剤の使用量を削減でき、環境負荷を低減できる。
【0038】
<フッ素系樹脂接着用フィルム>
本発明は、前記本発明の接着性樹脂組成物から形成された、フッ素系樹脂接着用フィルム及び積層体を提供する。
本発明のフッ素系樹脂接着用フィルムは、前記本発明の接着性樹脂組成物から形成された、単層構成のフィルムである。本実施形態において「フィルム」とは、溶融成形により成形することが可能な面方向の広がりを有する平板な成形体であって、極薄の厚みを有するものから肉厚のもの(いわゆるシート状のもの)までを含む。
【0039】
<フッ素系樹脂接着用フィルムの製造方法>
単層構成のフッ素系樹脂接着用フィルムの製造方法は特に限定されず、インフレーション成形法、Tダイ成形法による、単層押出法によって製造することができる。
【0040】
<積層体>
本発明の積層体は、基材の少なくとも片面に本発明の接着性樹脂組成物からなる層が積層されている。
本発明の積層体の断面の模式図を
図1に示す。
図1の、積層体1は、接着剤層10と、フッ素系樹脂フィルム11と、樹脂フィルム12とからなる。
【0041】
フッ素系樹脂フィルム11を形成するフッ素系樹脂材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル(EPA)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)、及びこれらの1種又は2種以上の混合物などを用いることができる。
【0042】
接着剤層10は、本発明の接着性樹脂組成物を用いて形成することができる。
【0043】
樹脂フィルム12は、上記フッ素系樹脂フィルムであってもよく、これ以外の樹脂フィルムであってもよい。フッ素系樹脂フィルム以外の樹脂フィルムの樹脂材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル等が挙げられる。
【0044】
<積層体の製造方法>
本発明の積層体は、下記(1)~(3)のいずれ1つの積層体の製造方法により製造することが好ましい。
(1)前記接着性樹脂組成物から形成される層を溶融押出し、単層構成のフッ素系樹脂接着用フィルムを得る工程と、前記フッ素系樹脂接着用フィルムの両側にフィルムを積層させて熱圧着させて積層体を得る工程を有する、積層体の製造方法。
(2)前記接着性樹脂組成物から形成される層を、基材となるフィルム上に溶融押出し、基材/接着剤層の積層体を得る工程と、さらに合わせ材を、基材/接着剤層/合わせ材となるように積層させて熱圧着させて積層体を得る工程を有する、積層体の製造方法。
(3)基材の原料となる樹脂と、前記接着性樹脂組成物を同時に溶融押出成形する工程を有する、積層体の製造方法。
【0045】
積層体の成形方法はインフレーション成形法、Tダイ成形法等の共押出法によって製造することができる。
上記(2)の製造方法において、Tダイ成形法を用いる場合であれば、基材上に樹脂を押し出す押出ラミネート法、基材と合わせ材の間に樹脂を押し出すサンドラミネート法といった方法を使用しても良い。
本発明の接着性樹脂組成物を押し出す基材は、上述のフッ素系樹脂材料又はフッ素系樹脂以外の樹脂材料のいずれであってもよいが、フッ素系樹脂以外の樹脂材料の方がより好ましい。
基材として、フッ素系樹脂以外の樹脂材料を用いる場合には、合わせ材料としてフッ素系樹脂をセッティングし積層化することで、フッ素系樹脂以外の樹脂材料と、接着剤層と、フッ素系樹脂とが積層されたフィルムを製造することができる。
【0046】
上記(3)の製造方法において、共押出方法を用いて二層以上の構成で樹脂を押し出す場合、例えば表層側に本発明の接着性樹脂組成物を配置し、その表層の合わせ材側にフッ素系樹脂をセッティングし積層化することで、最終的にフッ素系樹脂と隣接する層構成を有する三層以上の積層体を形成することができる。
例えば、酸変性エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体のように融点が200℃以下で、且つ溶融押出できるフッ素系樹脂を用いる場合、共押出法によって本発明の接着性樹脂組成物の隣接層として同時に溶融押出してもよい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0048】
表1に示す、成分(A)、成分(B)及び成分(C)のそれぞれを、表1に示す配合比で混合し、接着性樹脂組成物を調製した。
【0049】
【0050】
表1中、各略語は以下の材料を意味する。また、[ ]内の数値は配合量(質量部)である。
「成分(A2)-1」・・・エクセレンGMH GH030(メタロセン重合長鎖分岐ポリエチレン、ρ=0.912g/cm3、Tm=101℃、MFR=0.5g/10min(190℃、2.16kgf) 住友化学(株)製)
「成分(A2)-2」・・・ペトロセン 175K(低密度ポリエチレン、ρ=0.922g/cm3、Tm=109℃、MFR=0.6g/10min(190℃、2.16kgf) 東ソー(株)製)
「成分(A1)-1」・・・エチレン-ブテン1共重合体(ρ=0.864g/cm3、Tm=41℃、MFR=3.6g/10min(190℃、2.16kgf)、エチレン含有率80モル%、ブテン1含有率20モル%)
「成分(A1)-2」・・・エチレン-ブテン1共重合体(ρ=0.885g/cm3、
Tm=66℃、MFR=3.6g/10min(190℃、2.16kgf)、エチレン含有率90モル%、ブテン1含有率10モル%)
「成分(B)-1」・・・スチレン含有率12質量%、ρ=0.890g/cm3、MFR=4.5g/10min(230℃、2.16kgf)
「成分(B)-2」・・・スチレン含有率13質量%、ρ=0.900g/cm3、MFR=22g/10min(230℃、5kgf)
「成分(C)-1」・・・1,2-エポキシ化ポリブタジエン、ρ=0.99g/cm3、Mn=1,000
「成分(C)-2」・・・1,2-エポキシ化ポリブタジエン、Mn=1,300
【0051】
(製造例1)
表1に示す、実施例1~12、比較例1~6のそれぞれの接着性樹脂組成物を、加熱し溶融混合したのち、Tダイ押出機により製膜し、膜厚50μmの溶融混合フィルムを接着剤層単層のフィルム(溶融混合フィルム10)として製造した。
【0052】
≪剥離強度測定≫
剥離強度測定について、
図2を用いて説明する。
製造した溶融混合フィルム10を用い、フッ素系樹脂フィルム11、溶融混合フィルム10、被着フィルム12の順で3層に積層した下記の積層体1~4を、縦50mm、横15mmの短冊状に切りだし、試験片とした。
さらにそれぞれその上下を膜厚50μmのPTFEシートで挟み、この試験片の端から10mmをヒートシールした。ヒートシール条件は、シール温度240℃、圧力0.4MPa、加熱時間3秒とした。
【0053】
その後、上下のPTFEシートを取り除き、フッ素系樹脂フィルム11を引張側になるように、把持具22で把持し、被着フィルム12を把持具20で把持して固定し、フッ素系樹脂フィルム11を、符号21に示す引張方向に引張、剥離強度を測定した。
引張速度は300mm/分、幅15mmにて測定を実施した。
試験に用いたフッ素系フィルム、溶融混合フィルム、被着フィルムと、積層順は下記の通りである。
【0054】
[積層体]
積層体1;MAH-ETFE/接着剤層(検討樹脂)/PP
積層体2;PCTFE/接着剤層(検討樹脂)/PP
積層体3;PCTFE/接着剤層(検討樹脂)/PCTFE
積層体4;PCTFE/接着剤層(検討樹脂)/PET
【0055】
積層体1~4中の各略語は以下の材料を意味する。
MAH-ETFE・・・フッ素系樹脂フィルム。フルオンLH-8000(ρ=1.75g/cm3、Tm=180℃、MFR=4g/10min(230℃、2.16kgf)、旭硝子(株)製)を50μmフィルムに自社押出機で作製し使用。
PP・・・ポリプロピレンフィルム。サンアロマーPS522M(ρ=0.9g/cm3、MFR=4.9g/10min(230℃、2.16kgf)を50μmフィルムに自社押出機で作製し使用。
PCTFE・・・ポリクロロフルオロエチレンフィルム DF0050-C1。(51μm)(ダイキン工業(株)製)を購入し使用。
PET・・・ポリエチレンテレフタレートフィルム。ポリエステルフィルムE5001(250μm、未処理)(東洋紡(株)製)を購入し使用。
【0056】
積層体1~4の剥離強度及び剥離外観を下記表2に示す。
【0057】
【0058】
「剥離外観」に関する各記載は、下記の状態を意味する。
・界面剥離;剥離が接着剤層とフッ素系樹脂フィルムの間(界面)で起こったもの。
・接着剤層凝集破壊;剥離が接着剤層内部で起こり、接着剤の一部が被着フィルムに残ったもの。
・PP破断;接着強度が非常に強く剥離せず、試験片中央で破断したもの。
・PCTFE引張側エッジ切れ;接着強度が非常に強く剥離せず、試験片付け根で破断したもの。
・PCTFE破断;接着強度が非常に強く剥離せず、試験片中央で破断したもの。
【0059】
表2に示した結果から本発明(実施例1~12)によれば、ポリエチレン系樹脂、エチレン-ブテン1共重合体、スチレン系エラストマー、エポキシ化ポリブタジエンを混合することで、接着強度が向上することが確認できた。
PE単体の比較例1では、フッ素系樹脂だけでなく、ポリプロピレンとも接着しないため剥離強度が非常に低い結果となった。
PEにエポキシ化ポリブタジエンのみを配合した比較例2は、PE単体の比較例1よりも剥離強度が高く、またPCTFE/PET間の剥離強度も比較的高い値を示したが、総合的に実施例1~12よりも、剥離強度と剥離外観が良好ではなかった。
スチレン系エラストマーを添加しなかった比較例3において、上下被着材料が同じ積層体3は実施例1~12と同等以上の剥離強度を示したが、上下被着材料が異なる積層体1、2、4においては、実施例1~12よりも剥離強度が低かった。
また、同様にスチレン系エラストマーを添加しなかった比較例4、比較例5においては、積層体1、2においては剥離強度が高く、実施例1~12とも近い値を示したが、比較例4では積層体3、4における剥離強度が低く、比較例5では積層体4における剥離強度が低く、実施例1~12に及ばなかった。
エポキシ化ポリブタジエンを添加しなかった比較例6においては、積層体4の剥離強度は非常に高かったが、積層体1~3においては、剥離強度が実施例1~12には及ばなかった。
【符号の説明】
【0060】
1:積層体、11:フッ素系樹脂、10:接着剤層、12:樹脂フィルム、21:引張方向、20、22:把持具