(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】新規酵素及びそれを用いたペントシジンの測定方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/53 20060101AFI20230428BHJP
C12N 9/02 20060101ALI20230428BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20230428BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230428BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230428BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230428BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230428BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230428BHJP
C12P 21/00 20060101ALI20230428BHJP
C12Q 1/26 20060101ALI20230428BHJP
C12P 3/00 20060101ALI20230428BHJP
C12P 1/00 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
C12N15/53 ZNA
C12N9/02
C12N15/31
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/00 C
C12Q1/26
C12P3/00 Z
C12P1/00 A
(21)【出願番号】P 2020503592
(86)(22)【出願日】2019-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2019007662
(87)【国際公開番号】W WO2019168062
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2021-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2018033751
(32)【優先日】2018-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】丸島 和也
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 由佳
(72)【発明者】
【氏名】塚田 有紀
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】荒木 康子
(72)【発明者】
【氏名】一柳 敦
【審査官】中村 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-289781(JP,A)
【文献】特開平05-192193(JP,A)
【文献】特開平11-127895(JP,A)
【文献】RAIBEKAS, Andrei A. and MASSEY, Vincent,Primary Structure of the Snake Venom L-Amino Acid Oxidase Shows High Homology with the Mouse B Cell Interleukin 4-Induced Fig1 Protein,BIOCHEMICAL AND BIOPHYSICAL RESEARCH COMMUNICATIONS,1998年,Vol.248, pp.476-478
【文献】AMANO, Marie, et al.,Recombinant expression, molecular characterization and crystal structure of antitumor enzyme, L-lysine α-oxidase from Trichoderma viride,The Journal of Biochemistry,2015年,Vol.157, No.6, pp.549-559
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12N 15/00- 15/90
C12N 9/00- 9/99
C12P 1/00- 41/00
C12Q 1/26
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペントシジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質と検体とを接触させる工程;及び
当該接触により生じた変化を検出する工程、を含
み、
ペントシジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質が、
(a)配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列から成るタンパク質;
(b)配列番号1、3、5又は6に記載の塩基配列から成る遺伝子によってコードされるタンパク質;
(c)配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列から成るタンパク質;
(d)配列番号1、3、5又は6に記載の塩基酸配列と90%以上の同一性を有する塩基配列から成る遺伝子によってコードされるタンパク質;
(e)配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列のアミノ酸数100個を一単位として、該一単位あたり1~10個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列から成るタンパク質;あるいは
(f)サロクラディウム属の菌体培養液をろ過することによって得られ、SDS-PAGEによる分子量が75,000~85,000であるタンパク質から選択される、ペントシジンの測定方法。
【請求項2】
前記サロクラディウム属が、サロクラディウム・エスピーである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ペントシジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質は、宿主生物である糸状菌において発現されたタンパク質である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
酸素、過酸化水素又はアンモニアの量の変化が検出される、請求項1
~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ペントシジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質とペントシジンとを接触させる工程を含
み、
ペントシジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質が、
(a)配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列から成るタンパク質;
(b)配列番号1、3、5又は6に記載の塩基配列から成る遺伝子によってコードされるタンパク質;
(c)配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列から成るタンパク質;
(d)配列番号1、3、5又は6に記載の塩基酸配列と90%以上の同一性を有する塩基配列から成る遺伝子によってコードされるタンパク質;
(e)配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列のアミノ酸数100個を一単位として、該一単位あたり1~10個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列から成るタンパク質;あるいは
(f)サロクラディウム属の菌体培養液をろ過することによって得られ、SDS-PAGEによる分子量が75,000~85,000であるタンパク質から選択される、ペントシジンの反応生成物の製造方法。
【請求項6】
前記サロクラディウム属が、サロクラディウム・エスピーである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ペントシジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質は、宿主生物である糸状菌において発現されたタンパク質である、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
反応生成物が過酸化水素又はアンモニアである、請求項
5~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記活性が、ペントシジンの脱アミノ化生成物、過酸化水素及びアンモニアを生成する活性、又は酸素を消費する活性である、請求項1~
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
以下の(a)~(e)から成る群から選ばれるいずれかのタンパク質である、ペントシジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質:
(a)配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列から成るタンパク質;
(b)配列番号1、3、5又は6に記載の塩基配列から成る遺伝子によってコードされるタンパク質;
(c)配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列から成るタンパク質;
(d)配列番号1、3、5又は6に記載の塩基酸配列と90%以上の同一性を有する塩基配列から成る遺伝子によってコードされるタンパク質;あるいは
(e)配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列のアミノ酸数100個を一単位として、該一単位あたり1~10個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列から成るタンパク質。
【請求項11】
請求項
10に記載のタンパク質をコードする、遺伝子。
【請求項12】
ペントシジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードする、以下の(a)~(e)から成る群から選ばれるいずれかの遺伝子:
(a)配列番号1、3、5又は6に記載の塩基配列から成る遺伝子;
(b)配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子;
(c)配列番号1、3、5又は6に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列から成る遺伝子;
(d)配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列から成るタンパク質をコードする遺伝子;あるいは
(e)配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列のアミノ酸数100個を一単位として、該一単位あたり1~10個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列から成るタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項13】
請求項
10に記載のタンパク質を含む、キット。
【請求項14】
請求項
11又は
12に記載の遺伝子を含む、組換えベクター。
【請求項15】
請求項
14に記載のベクターを含む、形質転換体。
【請求項16】
請求項
15に記載の形質転換体を用いて、請求項
10に記載のタンパク質を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規酵素としてのペントシジンオキシダーゼ及びペントシジンオキシダーゼを用いたペントシジンの測定方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
ペントシジン((2S)-2-amino-6-[2-[[(4S)-4-amino-4-carboxybutyl]amino]imidazo[4,5-b]pyridin-4-yl]hexanoic acid)は、ペントースと等モルのリジンとアルギニンが架橋した構造を有し、加齢や糖尿病の発症に相関してヒトの皮膚に蓄積すること、特に糖尿病の発症や末期の腎症において増加することが知られている。
【0003】
ペントシジンは、酸加水分解後にその蛍光性(Ex:335nm、Em:385nm)を指標としてHPLCで定量ができること、また、ペントシジンに対するモノクローナル抗体を用いた免疫化学的な方法(例えば、ELISA法)を用いて定量できることが知られている。
【0004】
ペントシジンは加齢や糖尿病以外にも統合失調症との関連が知られており、例えば、生体試料を対象として、ペントシジンの量を測定する工程を有する統合失調症の検査方法が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
免疫化学的な方法や機器分析的手法によるペントシジンの定量は煩雑で費用がかかる場合がある。本発明は、新規酵素と、新規酵素を用いた、免疫化学的な方法や機器分析的手法と比べ安価で簡易的なペントシジンの定量法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、糸状菌から新規酵素を同定し、その活性を検討した。その結果、新規酵素がペントシジンの定量に有用であることを見出し、本発明が完成するに至った。
【0008】
本発明の概要は、以下の通りである。
[1]ペントシジンを酸化的に分解する活性を有するタンパク質。
[2]以下の理化学的性質:
(1)作用:ペントシジンを酸化的に分解する活性;及び
(2)SDS-PAGEによる分子量:75,000~85,000
を有するタンパク質。
[3]前記タンパク質が以下の(a)~(f)から成る群から選ばれるいずれかのタンパク質である、[1]又は[2]に記載のタンパク質:
(a)配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列から成るタンパク質;
(b)配列番号1、3、5又は6に記載の塩基配列から成る遺伝子によってコードされるタンパク質;
(c)配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列と75%以上の同一性を有するアミノ酸配列から成るタンパク質;
(d)配列番号1、3、5又は6に記載の塩基配列と75%以上の同一性を有する塩基配列から成る遺伝子によってコードされるタンパク質;
(e)配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列の1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列から成るタンパク質;あるいは
(f)配列番号1、3、5又は6に記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によってコードされるタンパク質。
[4]前記活性が、ペントシジンの脱アミノ化生成物、過酸化水素及びアンモニアを生成する活性、又は酸素を消費する活性である、[1]~[3]のいずれかに記載のタンパク質。
[5]糸状菌に由来する、[1]~[4]のいずれか1項に記載のタンパク質。
[6]至適pHがpH約6.5~8.0である、[1]~[5]のいずれかに記載のタンパク質。
[7]至適温度が約37~50℃である、[1]~[6]のいずれかに記載のタンパク質。
[8]30℃で10分間保存した後に前記活性が90%以上保持される、[1]~[7]のいずれかに記載のタンパク質。
[9]pH4.0~9.0の範囲で前記活性が60%以上保持される、[1]~[8]のいずれかに記載のタンパク質。
[10]ペントシジンに対するKm値が1mM以下である、[1]~[9]のいずれかに記載のタンパク質。
[11][1]~[10]のいずれかに記載のタンパク質をコードする、遺伝子。
[12]前記遺伝子が以下の(a)~(f)から成る群から選ばれるいずれかの遺伝子である、[11]に記載の遺伝子:
(a)配列番号1、3、5又は6に記載の塩基配列から成る遺伝子;
(b)配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子;
(c)配列番号1、3、5又は6に記載の塩基配列と75%以上の同一性を有する塩基配列から成る遺伝子;
(d)配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列と75%以上の同一性を有するアミノ酸配列から成るタンパク質をコードする遺伝子;
(e)配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列の1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列から成るタンパク質をコードする遺伝子;あるいは
(f)配列番号1、3、5又は6に記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列から成る遺伝子。
[13][1]~[10]のいずれかに記載のタンパク質、あるいは、[11]又は[12]に記載の遺伝子を含む、キット。
[14][11]又は[12]に記載の遺伝子を含む、組換えベクター。
[15][14]に記載のベクターを含む、形質転換体。
[16][15]に記載の形質転換体を用いて、[1]~[10]のいずれかに記載のタンパク質を製造する方法。
[17][1]~[10]のいずれかに記載のタンパク質と検体とを接触させる工程;及び
当該接触により生じた変化を検出する工程、を含む、ペントシジンの測定方法。
[18]酸素、過酸化水素又はアンモニアの量の変化が検出される、[17]に記載の方法。
[19][1]~[10]のいずれかに記載のタンパク質とペントシジンとを接触させる工程を含む、ペントシジンの反応生成物の製造方法。
[20]反応生成物が過酸化水素又はアンモニアである、[19]に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
理論に拘束されることを意図するものではないが、本発明者らが同定した新規酵素ペントシジンオキシダーゼは、
図5に示すように、ペントシジンを酸化的に分解し、それにより、過酸化水素やアンモニアを生成すると考えられる。過酸化水素の検出や定量はペルオキシダーゼ反応等を通じて比色法、蛍光法、化学発光法、電極法などにより簡便に行うことができることから、本発明によれば、ペントシジンを酵素法による簡便・迅速な検出及び定量が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、サロクラディウム・エスピー(
Sarocladium sp.)から、陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて分画した酵素粗精製液(Elution 1)の基質濃度依存性試験の結果を示す。ペントシジン終濃度(横軸)に対するΔOD(縦軸)がプロットされている。反応開始から20分後のデータを使用した。
【
図2】
図2は、酵素粗精製液(Elution 1)の熱失活試験の結果を示す。当該結果は加熱処理による酵素活性の失活を解析したものであり、反応開始から20分後のデータに相当する。
【
図3】
図3は、ペントシジンとペントシジンオキシダーゼとを反応して生成した過酸化水素の濃度を測定した結果を示す。過酸化水素の濃度は658nmの吸光度で測定した。
【
図4】
図4は、ペントシジンの終濃度とペントシジンの酸化に起因するA
658上昇量(ΔA)との関係を示す。
【
図5】
図5は、ペントシジンオキシダーゼがペントシジンを分解する反応の推定機構を示す。図では、ペントシジンを構成するリジンとアルギニンの各アミノ基が酸化的脱アミノ化され、過酸化水素とアンモニアが生成される様子が記載されている。
【
図7】
図7は、PenOX2の至適pHの範囲を示す。
【
図8】
図8は、PenOX2の至適温度の範囲を示す。
【
図9】
図9は、PenOX2の熱安定性の範囲を示す。
【
図11】
図11は、PenOX2のペントシジンに対するKm値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一態様であるタンパク質及びそれをコードする遺伝子、形質転換体及び製造方法等の詳細について説明するが、本発明の技術的範囲は本項目の事項によってのみに限定されるものではなく、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0012】
本発明は、ペントシジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質及びそれをコードする遺伝子等を提供する。ペントシジンオキシダーゼは新規酵素であり、その酵素活性は完全には解明されていないが、本明細書で使用する場合、「ペントシジンオキシダーゼ活性」とは、ペントシジンを酸化的に分解する活性、より具体的には、ペントシジンを酸化して、その脱アミノ化生成物や、過酸化水素、アンモニアを生成する活性、又は酸素を消費する活性を意味する。このような酵素活性を有する限り、特定の配列に限定されず、あらゆるタンパク質及びそれをコードする遺伝子が本発明の範囲に含まれるものとして意図される。しかしながら、ペントシジンオキシダーゼの塩基配列とアミノ酸配列について、サロクラディウム属(Sarocladium属)糸状菌に由来する酵素を例に以下に説明する。
【0013】
(ペントシジンオキシダーゼのアミノ酸配列)
本発明の遺伝子は、ペントシジンオキシダーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む。ペントシジンオキシダーゼは、上記した酵素活性を有するものであれば、アミノ酸配列については特に限定されない。例えば、上記したペントシジンオキシダーゼ活性を有する酵素の一態様として配列番号2、配列番号4に示すアミノ酸配列がある。以降、配列番号2及び配列番号4で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質をそれぞれペントシジンオキシダーゼ1(又はPenOX1)及びペントシジンオキシダーゼ2(又はPenOX2)という場合がある。ペントシジンオキシダーゼ1をコードする遺伝子(g4462)は6つのエキソン及び5つのイントロンで構成されると予想され、一方、ペントシジンオキシダーゼ2をコードする遺伝子(g10122)は2つのエキソン及び1つのイントロンで構成されることが予想される。両酵素ともペントシジン及びアルギニンに対して高い基質特異性を有する点で共通しているが、その他のL-アミノ酸に対する反応性は異なる。
【0014】
配列番号2、4に示すアミノ酸配列を有するペントシジンオキシダーゼは、サロクラディウム属(
Sarocladium属)糸状菌に由来する。また、これらの酵素をコードする遺伝子の塩基配列は、それぞれ配列番号1、配列番号3に示す塩基配列である。
図6に当該酵素のアミノ酸配列及び塩基配列を示す。
【0015】
ペントシジンオキシダーゼのアミノ酸配列は、それぞれ上記したペントシジンオキシダーゼの酵素活性を有するものであれば、配列番号2や4のような野生型酵素が有するアミノ酸配列において1から複数個、例えば、アミノ酸配列におけるアミノ酸数100個を一単位とすれば、該一単位あたり、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24又は25個、好ましくは数個のアミノ酸の欠失、置換、付加などを有するアミノ酸配列からなるものであってもよい。ここで、アミノ酸配列の「1から数個のアミノ酸の欠失、置換、付加」における「1から数個」の範囲は特に限定されないが、上記一単位あたり、好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個程度、より好ましくは1、2、3、4又は5個程度を意味する。また、「アミノ酸の欠失」とは配列中のアミノ酸残基の欠落又は消失を意味し、「アミノ酸の置換」は配列中のアミノ酸残基が別のアミノ酸残基に置き換えられていることを意味し、「アミノ酸の付加」とは配列中に新たなアミノ酸残基が挿入するように付け加えられていることを意味する。
【0016】
「アミノ酸の欠失、置換、付加」の具体的な態様としては、ペントシジンオキシダーゼを維持する限度でアミノ酸が別の化学的に類似したアミノ酸で置き換えられた態様がある。例えば、ある疎水性アミノ酸を別の疎水性アミノ酸に置換する場合、ある極性アミノ酸を同じ電荷を有する別の極性アミノ酸に置換する場合などを挙げることができる。このような化学的に類似したアミノ酸は、アミノ酸毎に当該技術分野において知られている。
【0017】
具体例を挙げると、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンなどが挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システインなどが挙げられる。陽電荷をもつ塩基性アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジンなどが挙げられる。また、負電荷をもつ酸性アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。
【0018】
また、ペントシジンオキシダーゼのアミノ酸配列において、配列番号2や4のような野生型酵素が有するアミノ酸配列と一定以上の配列同一性を有するアミノ酸配列が挙げられ、例えば、ペントシジンオキシダーゼ酵素が有するアミノ酸配列と75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列が挙げられる。
【0019】
(ペントシジンオキシダーゼをコードする遺伝子)
ペントシジンオキシダーゼをコードする遺伝子(以下、「ペントシジンオキシダーゼ遺伝子」とよぶ場合がある。)は、上記したペントシジンオキシダーゼ活性を有する酵素が有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むものでれば特に限定されない。一部の態様において、ペントシジンオキシダーゼ遺伝子が形質転換体内で発現することによりペントシジンオキシダーゼが生産される。
【0020】
本明細書における「遺伝子の発現」とは、転写や翻訳などを介して、遺伝子によってコードされる酵素が本来の触媒活性を有する態様で生産されることを意味する。また、「遺伝子の発現」には、遺伝子の高発現、すなわち、遺伝子が挿入されたことにより、宿主生物が本来発現する量を超えて、該遺伝子によってコードされる酵素が生産されることを包含する。
【0021】
ペントシジンオキシダーゼ遺伝子は、宿主生物に導入された際に、該遺伝子の転写後にスプライシングを経由してペントシジンオキシダーゼを生成し得る遺伝子であっても、該遺伝子の転写後にスプライシングを経由せずにペントシジンオキシダーゼを生成し得る遺伝子であっても、どちらでもよい。
【0022】
ペントシジンオキシダーゼ遺伝子は、サロクラディウム属糸状菌のような由来生物が本来保有する遺伝子(すなわち、野生型遺伝子)と完全に同一でなくともよく、上記したペントシジンオキシダーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子である限り、野生型遺伝子の塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有するDNAであってもよい。
【0023】
本明細書における「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列」とは、配列番号1又は3のような野生型遺伝子の塩基配列の一部に相当するDNAをプローブとして使用し、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、サザンブロットハイブリダイゼーション法などを用いることにより得られるDNAの塩基配列を意味する。
【0024】
本明細書における「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリッドのシグナルが非特異的なハイブリッドのシグナルと明確に識別される条件であり、使用するハイブリダイゼーションの系と、プローブの種類、配列及び長さによって異なる。そのような条件は、ハイブリダイゼーションの温度を変えること、洗浄の温度及び塩濃度を変えることにより決定可能である。
【0025】
例えば、非特異的なハイブリッドのシグナルまで強く検出されてしまう場合には、ハイブリダイゼーション及び洗浄の温度を上げるとともに、必要により洗浄の塩濃度を下げることにより特異性を上げることができる。また、特異的なハイブリッドのシグナルも検出されない場合には、ハイブリダイゼーション及び洗浄の温度を下げるとともに、必要により洗浄の塩濃度を上げることにより、ハイブリッドを安定化させることができる。
【0026】
一部の態様において、ストリンジェントな条件の具体例としては以下のものを含む。例えば、プローブとしてDNAプローブを用い、ハイブリダイゼーションは、5×SSC、1.0%(w/v)核酸ハイブリダイゼーション用ブロッキング試薬(ベーリンガ・マンハイム社製)、0.1%(w/v)N-ラウロイルサルコシン、0.02%(w/v)SDSを用い、一晩(8~16時間程度)で行う。洗浄は、0.1~0.5×SSC、0.1%(w/v)SDS、好ましくは0.1×SSC、0.1%(w/v)SDSを用い、15分間、2回行う。ハイブリダイゼーション及び洗浄を行う温度は65℃以上、好ましくは68℃以上である。
【0027】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有するDNAとしては、例えば、コロニー若しくはプラーク由来の野生型遺伝子の塩基配列を有するDNA又は該DNAの断片を固定化したフィルターを用いて、上記したストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションすることによって得られるDNAや0.5~2.0MのNaCl存在下にて、40~75℃でハイブリダイゼーションを実施した後、好ましくは0.7~1.0MのNaCl存在下にて、65℃でハイブリダイゼーションを実施した後、0.1~1×SSC溶液(1×SSC溶液は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウム)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAなどを挙げることができる。プローブの調製やハイブリダイゼーションの方法は、Moleular Cloning:A laboratory Manual,2nd-Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY.,1989、Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1-38,John Wiley&Sons,1987-1997(以下、これらの文献を「参考技術文献」ともよぶ。)などに記載されている方法に準じて実施することができる。
【0028】
なお、当業者であれば、このようなバッファーの塩濃度や温度などの条件に加えて、その他のプローブ濃度、プローブ長さ、反応時間などの諸条件を加味して、野生型遺伝子の塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有するDNAを得るための条件を適宜設定することができる。
【0029】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含むDNAとしては、プローブとして使用する野生型遺伝子の塩基配列を有するDNAの塩基配列と一定以上の配列同一性を有するDNAが挙げられ、例えば、野生型遺伝子の塩基配列と75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の配列同一性を有するDNAが挙げられる。
【0030】
野生型遺伝子の塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列としては、例えば、塩基配列における塩基数500個を一単位とすれば、野生型遺伝子の塩基配列において、該一単位あたり、1から複数個、例えば、1から125個、1から100個、1から75個、1から50個、1から30個、1から20個、好ましくは1から数個、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個の塩基の欠失、置換、付加などを有する塩基配列を含む。
【0031】
ここで、「塩基の欠失」とは配列中の塩基に欠落又は消失があることを意味し、「塩基の置換」は配列中の塩基が別の塩基に置き換えられていることを意味し、「塩基の付加」とは新たな塩基が挿入するように付け加えられていることを意味する。
【0032】
野生型遺伝子の塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によってコードされる酵素は、野生型遺伝子の塩基配列によってコードされる酵素が有するアミノ酸配列において1から複数個、好ましくは数個のアミノ酸の欠失、置換、付加などを有するアミノ酸配列を有する酵素である蓋然性があるが、野生型遺伝子の塩基配列によってコードされる酵素と同じ酵素活性を有するものである。
【0033】
また、酵素をコードする遺伝子は、1つのアミノ酸に対応するコドンが数種類あることを利用して、野生型遺伝子がコードする酵素が有するアミノ酸配列と同一又は近似するアミノ酸配列をコードする塩基配列であって、野生型遺伝子と異なる塩基配列を含むものであってもよい。このような野生型遺伝子の塩基配列に対してコドン改変が施された塩基配列としては、例えば、g4462のコドンを改変した配列番号5(penox1)に記載の塩基配列、g10122のコドンを改変した配列番号6(penox2)などが挙げられる(
図6C)。コドン改変が施された塩基配列としては、例えば、宿主生物において発現し易いようにコドン改変が施された塩基配列であることが好ましい。
【0034】
(配列同一性を算出するための手段)
塩基配列やアミノ酸配列の配列同一性を求める方法は特に限定されないが、例えば、通常知られている方法を利用して、野生型遺伝子や野生型遺伝子によってコードされる酵素のアミノ酸配列と対象となる塩基配列やアミノ酸配列とをアラインメントし、両者の配列の一致率を算出するためのプログラムを用いることにより求められる。
【0035】
2つのアミノ酸配列や塩基配列における一致率を算出するためのプログラムとしては、例えば、Karlin及びAltschulのアルゴリズム(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264-2268、1990;Proc.Natl.Acad.Sci. USA90:5873-5877、1993)が知られており、このアルゴリズムを用いたBLASTプログラムがAltschulなどによって開発されている(J.Mol.Biol.215:403-410、1990)。さらに、BLASTより感度よく配列同一性を決定するプログラムであるGapped BLASTも知られている(Nucleic Acids Res. 25:3389-3402、1997)。したがって、当業者は例えば上記のプログラムを利用して、与えられた配列に対し、高い配列同一性を示す配列をデータベース中から検索することができる。これらは、例えば、米国National Center for Biotechnology Informationのインターネット上のウェブサイト(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)において利用可能である。
【0036】
上記の各方法は、データベース中から配列同一性を示す配列を検索するために通常的に用いられ得るが、個別の配列の配列同一性を決定する手段としては、Genetyxネットワーク版 version 12.0.1(ゼネティックス社製)のホモロジー解析を用いることもできる。この方法は、Lipman-Pearson法(Science 227:1435-1441、1985)に基づくものである。塩基配列の配列同一性を解析する際は、可能であればタンパク質をコードしている領域(CDS又はORF)を用いる。
【0037】
(酵素をコードする遺伝子の由来)
酵素をコードする遺伝子は、ペントシジンオキシダーゼ生産能がある生物種に由来する。酵素をコードする遺伝子の由来生物としては、例えば、糸状菌などの微生物などが挙げられる。ペントシジンオキシダーゼ生産能を有する微生物の具体例としては、サロクラディウム属(Sarocladium属)などが挙げられる。
【0038】
上記のとおり、酵素をコードする遺伝子の由来生物は特に限定されないが、形質転換体において発現される酵素は、宿主生物の生育条件によって不活化せず、活性を示すことが好ましい。そこで、酵素をコードする遺伝子の由来生物は、酵素をコードする遺伝子を挿入することによって形質転換すべき宿主生物と生育条件が近似する微生物であることが好ましい。
【0039】
ペントシジンオキシダーゼ活性を有する酵素の理化学的特性質のうち、特徴的なものを以下に例示する。
・SDS-PAGEによる分子量:75,000~85,000
・至適pH:pH約6.5~8.0
なお、至適pHは酵素が最も好適に作用するpHであって、ペントシジンオキシダーゼは上記範囲以外のpHでも作用し得る。
・至適温度:約37~50℃
なお、至適温度は至適温度は酵素が最も好適に作用する温度であって、ペントシジンオキシダーゼは上記温度範囲以外の温度でも作用し得る。
・温度安定性:30℃で10分間保存した場合、ペントシジンオキシダーゼ活性が90%以上保持される。40℃で10分間保存した場合、ペントシジンオキシダーゼ活性が50%以上保持される。
・pH安定性:pH4.0~9.0の範囲でペントシジンオキシダーゼ活性が60%以上保持される。
・Km値:ペントシジンに対するKm値が1mM以下である。
Km値とはミカエリス定数であって、その具体的な算出方法は特に限定されず、公知の方法を自由に選択して算出することができる。例えば、後述する実施例9に記載の方法のように、ラインウェーバー・バークプロットによる方法で描かれるミカエリス?メンテンの式に従ってKm値を算出することができる。
【0040】
(遺伝子工学的手法による酵素をコードする遺伝子のクローニング)
酵素をコードする遺伝子は、適当な公知の各種ベクター中に挿入することができる。さらに、このベクターを適当な公知の宿主生物に導入して、酵素をコードする遺伝子を含む組換えベクター(組換え体DNA)が導入された形質転換体を作製できる。酵素をコードする遺伝子の取得方法や、酵素をコードする遺伝子の塩基配列、酵素のアミノ酸配列情報の取得方法、各種ベクターの製造方法や形質転換体の作製方法などは、当業者にとって適宜選択することができる。また、本明細書で使用する場合、形質転換や形質転換体にはそれぞれ形質導入や形質導入体が包含される。酵素をコードする遺伝子のクローニングの一例を非限定的に後述する。
【0041】
酵素をコードする遺伝子をクローニングするには、通常一般的に用いられている遺伝子のクローニング方法を適宜用いることができる。例えば、酵素の生産能を有する微生物や種々の細胞から、常法、例えば、参考技術文献(上掲)に記載の方法により、染色体DNAやmRNAを抽出することができる。抽出したmRNAを鋳型としてcDNAを合成することができる。このようにして得られた染色体DNAやcDNAを用いて、染色体DNAやcDNAのライブラリーを作製することができる。
【0042】
一部の態様において、酵素をコードする遺伝子は、該遺伝子を有する由来生物の染色体DNAやcDNAを鋳型としたクローニングにより得ることができる。酵素をコードする遺伝子の由来生物は特に限定されないが、上記したサロクラディウム・エスピー(Sarocladium sp.)などを挙げることができる。例えば、サロクラディウム・エスピー(Sarocladium sp.)を培養し、得られた菌体から水分を取り除き、液体窒素中で冷却しながら乳鉢などを用いて物理的に磨砕することにより細かい粉末状の菌体片とし、該菌体片から通常の方法により染色体DNA画分を抽出する。染色体DNA抽出操作には、DNeasy Plant Mini Kit(キアゲン社製)などの市販の染色体DNA抽出キットが利用できる。
【0043】
次いで、前記染色体DNAを鋳型として、5’末端配列及び3’末端配列に相補的なプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(以下、「PCR」と表記する。)を行うことにより、DNAを増幅する。プライマーとしては、該遺伝子を含むDNA断片の増幅が可能であれば特に限定されない。別の方法として、5’RACE法や3’RACE法などの適当なPCRにより、目的の遺伝子断片を含むDNAを増幅させ、これらを連結させて全長の目的遺伝子を含むDNAを得ることができる。
【0044】
また、酵素をコードする遺伝子を取得する方法は特に限定されず、遺伝子工学的手法によらなくとも、例えば、化学合成法を用いて酵素をコードする遺伝子を構築することが可能である。
【0045】
PCRにより増幅された増幅産物や化学合成した遺伝子における塩基配列の確認は、例えば、次のように行うことができる。まず、配列を確認したいDNAを通常の方法に準じて適当なベクターに挿入して組換え体DNAを作製する。ベクターへのクローニングには、TA Cloning Kit(インビトロジェン社製)などの市販のキット;pUC19(タカラバイオ社製)、pUC18(タカラバイオ社製)、pBR322(タカラバイオ社製)、pBluescript SK+(ストラタジーン社製)、pYES2/CT(インビトロジェン社製)などの市販のプラスミドベクターDNA;λEMBL3(ストラタジーン社製)などの市販のバクテリオファージベクターDNAが使用できる。一部の態様において、該組換え体DNAを用いて、宿主生物、例えば、大腸菌(Escherichia coli)、好ましくは大腸菌 JM109株(タカラバイオ社製)や大腸菌 DH5α株(タカラバイオ社製)を形質転換する。得られた形質転換体に含まれる組換え体DNAを、QIAGEN Plasmid Mini Kit(キアゲン社製)などを用いて精製してもよい。
【0046】
組換え体DNAに挿入された各遺伝子の塩基配列の決定は、ジデオキシ法(Methods in Enzymology、101、20-78、1983)などにより行うことができる。塩基配列の決定の際に使用する配列解析装置は特に限定されないが、例えば、Li-COR MODEL 4200Lシークエンサー(アロカ社製)、370DNAシークエンスシステム(パーキンエルマー社製)、CEQ2000XL DNAアナリシスシステム(ベックマン社製)などが挙げられる。そして、決定された塩基配列を元に、翻訳されるタンパク質、すなわち、酵素のアミノ酸配列を知り得る。
【0047】
(酵素をコードする遺伝子を含む組換えベクターの構築)
酵素をコードする遺伝子を含む組換えベクター(組換え体DNA)は、酵素をコードする遺伝子のいずれかを含むPCR増幅産物と各種ベクターとを、酵素をコードする遺伝子の発現が可能な形で結合することにより構築することができる。例えば、適当な制限酵素で酵素をコードする遺伝子のいずれかを含むDNA断片を切り出し、該DNA断片を適当な制限酵素で切断したプラスミドと連結することにより構築することができる。または、プラスミドと相同的な配列を両末端に付加した該遺伝子を含むDNA断片と、インバースPCRにより増幅したプラスミド由来のDNA断片とを、In-Fusion HD Cloning Kit(クロンテック社製)などの市販の組換えベクター作製キットを用いて連結させることにより得ることができる。
【0048】
(形質転換体の作製方法)
形質転換体の作製方法は特に限定されず、例えば、常法に従って、酵素をコードする遺伝子が発現する態様で宿主生物に挿入する方法などが挙げられる。一部の態様において、酵素をコードする遺伝子のいずれかを発現誘導プロモーター及びターミネーターの間に挿入したDNAコンストラクトを作製し、次いで酵素をコードする遺伝子を含むDNAコンストラクトで宿主生物を形質転換することにより、酵素をコードする遺伝子を過剰発現する形質転換体が得られる。本明細書では、宿主生物を形質転換するために作製された、発現誘導プロモーター-酵素をコードする遺伝子-ターミネーターからなるDNA断片及び該DNA断片を含む組換えベクターをDNAコンストラクトと総称してよぶ。
【0049】
酵素をコードする遺伝子が発現する態様で宿主生物に挿入する方法は、特に限定されないが、例えば、相同組換えや非相同組み換えを利用することにより宿主生物の染色体上に直接的に挿入する手法;プラスミドベクター上に連結することにより宿主生物内に導入する手法などが挙げられる。
【0050】
相同組換えを利用する方法では、染色体上の組換え部位の上流領域及び下流領域と相同な配列の間に、DNAコンストラクトを連結し、宿主生物のゲノム中に挿入することができる。非相同組み換えを利用する方法では、該相同配列をDNAコンストラクトと連結していない場合でも、宿主生物のゲノム中に挿入することができる。高発現プロモーターは特に限定されないが、例えば、翻訳伸長因子であるTEF1遺伝子(tef1)のプロモーター領域、α-アミラーゼ遺伝子(amy)のプロモーター領域、アルカリプロテアーゼ遺伝子(alp)プロモーター領域、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(gpd)プロモーター領域などが挙げられる。
【0051】
ベクターを利用する方法では、DNAコンストラクトを、常法により、宿主生物の形質転換に用いられるプラスミドベクターに組み込み、対応する宿主生物を常法により形質転換することができる。
【0052】
そのような、好適なベクター-宿主系としては、宿主生物中で酵素を生産させ得る系であれば特に限定されず、例えば、pUC19及び糸状菌の系、pSTA14(Mol.Gen.Genet.218、99-104、1989)及び糸状菌の系などが挙げられる。
【0053】
DNAコンストラクトは宿主生物の染色体に導入して用いることが好ましいが、この他の方法として、自律複製型のベクター(Ozeki et al.Biosci.Biotechnol.Biochem.59,1133 (1995))にDNAコンストラクトを組み込むことにより、染色体に導入しない形で用いることもできる。
【0054】
DNAコンストラクトには、形質転換された細胞を選択することを可能にするためのマーカー遺伝子が含まれていてもよい。マーカー遺伝子は特に限定されず、例えば、pyrG、niaD、adeAのような、宿主生物の栄養要求性を相補する遺伝子;ピリチアミン、ハイグロマイシンB、オリゴマイシンなどの薬剤に対する薬剤耐性遺伝子などが挙げられる。また、DNAコンストラクトは、宿主生物中で酵素をコードする遺伝子を過剰発現することを可能にするプロモーター、ターミネーターその他の制御配列(例えば、エンハンサー、ポリアデニル化配列など)を含むことが好ましい。プロモーターは特に限定されないが、適当な発現誘導プロモーターや構成的プロモーターが挙げられ、例えば、tef1プロモーター、alpプロモーター、amyプロモーター、gpdプロモーターなどが挙げられる。ターミネーターもまた特に限定されないが、例えば、alpターミネーター、amyターミネーター、tef1ターミネーターなどが挙げられる。
【0055】
DNAコンストラクトにおいて、酵素をコードする遺伝子の発現制御配列は、挿入する酵素をコードする遺伝子を含むDNA断片が、発現制御機能を有している配列を含む場合は必ずしも必要ではない。また、共形質転換法により形質転換を行う場合には、DNAコンストラクトはマーカー遺伝子を有しなくてもよい場合がある。
【0056】
DNAコンストラクトには精製のためのタグをつけることができる。例えば、酵素をコードする遺伝子の上流又は下流に適宜リンカー配列を接続し、ヒスチジンをコードする塩基配列を6コドン以上接続することにより、ニッケルカラムを用いた精製を可能にすることができる。
【0057】
DNAコンストラクトにはマーカーリサイクリングに必要な相同配列が含まれていてもよい。例えば、pyrGマーカーは、pyrGマーカーの下流に挿入部位(5’相同組み換え領域)の上流の配列と相同な配列を付加すること、又はpyrGマーカーの上流に挿入部位(3’相同組み換え領域)の下流の配列と相同な配列を付加することで、5-フルオロオロチン酸(5FOA)を含んだ培地上でpyrGマーカーを脱落させることが可能となる。マーカーリサイクリングに適した該相同配列の長さは0.5kb以上が好ましい。
【0058】
DNAコンストラクトの一態様は、例えば、pUC19のマルチクローニングサイトにあるIn-Fusion Cloning Siteに、tef1遺伝子プロモーター、酵素をコードする遺伝子、alp遺伝子ターミネーター及びpyrGマーカー遺伝子を連結させたDNAコンストラクトである。
【0059】
相同組み換えにより遺伝子を挿入する場合のDNAコンストラクトの一態様は、5’相同組み換え配列、tef1遺伝子プロモーター、酵素をコードする遺伝子、alp遺伝子ターミネーター及びpyrGマーカー遺伝子、3’相同組み換え配列を連結させたDNAコンストラクトである。
【0060】
相同組み換えにより遺伝子を挿入し、かつ、マーカーをリサイクルする場合のDNAコンストラクトの一態様は、5’相同組み換え配列、tef1遺伝子プロモーター、酵素をコードする遺伝子、alp遺伝子ターミネーター、マーカーリサイクリング用相同配列、pyrGマーカー遺伝子、3’相同組み換え配列を連結させたDNAコンストラクトである。
【0061】
宿主生物が糸状菌である場合、糸状菌への形質転換方法としては、当業者に知られる方法を適宜選択することができ、例えば、宿主生物のプロトプラストを調製した後に、ポリエチレングリコール及び塩化カルシウムを用いるプロトプラストPEG法(例えば、Mol.Gen.Genet.218、99-104、1989(上掲)、特開2007-222055号公報などを参照)を用いることができる。形質転換体を再生させるための培地は、用いる宿主生物と形質転換マーカー遺伝子とに応じて適切なものを用いる。例えば、宿主生物としてアスペルギルス・オリゼ(A.oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(A.sojae)を用い、形質転換マーカー遺伝子としてpyrG遺伝子を用いた場合は、形質転換体の再生は、例えば、0.5%寒天及び1.2Mソルビトールを含むCzapek-Dox最少培地(ディフコ社製)で行うことができる。
【0062】
また、例えば、形質転換体を得るために、相同組換えを利用して、宿主生物が本来染色体上に有する酵素をコードする遺伝子のプロモーターをtef1などの高発現プロモーターへ置換してもよい。この際も、高発現プロモーターに加えて、pyrGなどの形質転換マーカー遺伝子を挿入することが好ましい。例えば、この目的のために、特開2011-239681号公報に記載の実施例を参照して、酵素をコードする遺伝子の上流領域-形質転換マーカー遺伝子-高発現プロモーター-酵素をコードする遺伝子の全部又は部分からなる形質転換用カセットなどが利用できる。この場合、酵素をコードする遺伝子の上流領域及び酵素をコードする遺伝子の全部又は部分が相同組換えのために利用される。
【0063】
酵素をコードする遺伝子の全部又は部分は、開始コドンから途中の領域を含むものが使用できる。相同組換えに適した領域の長さは0.5kb以上あることが好ましい。
【0064】
形質転換体が作製されたことの確認は、酵素の酵素活性が認められる条件下で形質転換体を培養し、次いで培養後に得られた培養物における目的産物が検出されることにより行うことができる。
【0065】
また、形質転換体が作製されたことの確認は、形質転換体から染色体DNAを抽出し、これを鋳型としてPCRを行い、形質転換が起きた場合に増幅が可能なPCR産物が生じることを確認することにより行ってもよい。この場合、例えば、用いたプロモーターの塩基配列に対するフォワードプライマーと、形質転換マーカー遺伝子の塩基配列に対するリバースプライマーとの組み合わせでPCRを行い、想定の長さの産物が生じることを確認する。
【0066】
相同組み換えにより形質転換を行う場合には、用いた上流側の相同領域より上流に位置するフォワードプライマーと、用いた下流側の相同領域より下流に位置するリバースプライマーとの組み合わせでPCRを行い、相同組み換えが起きた場合に想定される長さの産物が生じることを確認することが好ましい。
【0067】
(宿主生物)
宿主生物としては、酵素をコードする遺伝子を含むDNAコンストラクトによる形質転換により、酵素を生産することができる生物であれば特に限定されない。例えば、微生物や植物などが挙げられ、微生物としては、アスペルギルス(Aspergillus)属微生物、エシェリキア(Escherichia)属微生物、サッカロマイセス(Saccharomyces)属微生物、ピキア(Pichia)属微生物、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属微生物、ジゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属微生物、トリコデルマ(Trichoderuma)属微生物、ペニシリウム(Penicillium)属微生物、クモノスカビ(Rhizopus)属微生物、アカパンカビ(Neurospora)属微生物、ムコール(Mucor)属微生物、アクレモニウム(Acremonium)属微生物、フザリウム(Fusarium)属微生物、ネオサルトリア(Neosartorya)属微生物、ビッソクラミス(Byssochlamys)属微生物、タラロミセス(Talaromyces)属微生物、アジェロミセス(Ajellomyces)属微生物、パラコッシディオイデス(Paracoccidioides)属微生物、アンシノカルプス(Uncinocarpus)属微
生物、コッシディオイデス(Coccidioides)属微生物、アルフロデルマ(Arthroderma)属微生物、トリコフィトン(Trichophyton)属微生物、エクソフィラ(Exophiala)属微生物、カプロニア(Capronia)属微生物、クラドフィアロフォラ(Cladophialophora)属微生物、マクロホミナ(Macrophomina)属微生物、レプトスファエリア(Leptosphaeria)属微生物、ビポラリス(Bipolaris)属微生物、ドチストローマ(Dothistroma)属微生物、ピレノフォラ(Pyrenophora)属微生物、ネオフシコッカム(Neofusicoccum)属微生物、セトスファエリア(Setosphaeria)属微生物、バウドイニア(Baudoinia)属微生物、ガエウマノミセス(Gaeumannomyces)属微生物、マルッソニナ(Marssonina)属微生物、スファエルリナ(Sphaerulina)属微生物、スクレロチニア(Sclerotinia)属微生物、マグナポルセ(Magnaporthe)属微生物、ヴェルチシリウム(Verticillium)属微生物、シュードセルコスポラ(Pseudocercospora)属微生物、コレトトリカム(Colletotrichum)属微生物、オフィオストーマ(Ophiostoma)属微生物、メタルヒジウム(Metarhizium)属微生物、スポロスリックス(Sporothrix)属微生物、ソルダリア(Sordaria)属微生物、アラビドプシス(Arabidopsis)属植物などが挙げられ、微生物及び植物が好ましい。ただし、どのような場合であっても、宿主生物からヒトは除かれる。
【0068】
糸状菌の中では、安全性や培養の容易性を加味すれば、アスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・ソーヤ、アスペルギルス・ニガー(A.niger)、アスペルギルス・タマリ(A.tamarii)、アスペルギルス・アワモリ(A.awamori)、アスペルギルス・ウサミ(A.usami)、アスペルギルス・カワチ(A.kawachii)、アスペルギルス・サイトイ(A.saitoi)などのアスペルギルス属微生物などが好ましい。
【0069】
本発明に係るタンパク質の発現は、上記のような宿主生物を用いた実施に限定されない。例えば、in vitroにおける無細胞タンパク質発現系は、特に商業規模での生成のように大量生産を目的としない場合などに好適に用いることができる。無細胞タンパク質発現系は、細胞培養を必要とせず、また、タンパク質の精製も簡便に行うことができるという利点もある。無細胞タンパク質発現系においては、主に、所望とするタンパク質に対応する遺伝子と、セルライセートのような転写と翻訳の分子機構を含む反応液とが使用される。
【0070】
(酵素をコードする遺伝子の具体例)
サロクラディウム属由来の酵素をコードする遺伝子としては、例えば、配列番号1及び3に記載の塩基配列をそれぞれ有する遺伝子g4462及びg10122が挙げられる。なお、ペントシジンオキシダーゼ1タンパク質(PenOX1)及びペントシジンオキシダーゼ2タンパク質(PenOX2)のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号2、4として示す。
【0071】
サロクラディウム属及びサロクラディウム属以外の生物から酵素をコードする遺伝子を得る方法は特に限定されないが、例えば、遺伝子g4462及びg10122の塩基配列(配列番号1及び3)に基づいて、対象生物のゲノムDNAをBLAST相同性検索して、遺伝子g4462及びg10122の塩基配列と配列同一性の高い塩基配列を有する遺伝子を特定することにより得ることができる。また、対象生物の総タンパク質を基に、ペントシジンオキシダーゼ1及びペントシジンオキシダーゼ2タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2及び4)と配列同一性の高いアミノ酸配列を有するタンパク質を特定し、該タンパク質をコードする遺伝子を特定することにより得ることができる。
【0072】
サロクラディウム属から得られた酵素をコードする遺伝子、又は酵素と配列同一性を有する酵素をコードする遺伝子を、宿主生物としてアスペルギルス属微生物等の任意の宿主細胞に導入して形質転換することができる。
【0073】
(形質転換体)
形質転換体の一態様は、微生物や植物などを宿主生物として、遺伝子のいずれか一つ、又はこれらの組み合わせが挿入されており、かつ、該挿入された遺伝子を発現するように形質転換した形質転換体である。
【0074】
形質転換体の別の一態様は、微生物や植物などを宿主生物として、遺伝子g4462またはg10122のすべて又は一部を含む、遺伝子(ORF以外のプロモーター配列等も含む。)、及び、該遺伝子の転写を制御する転写因子を高発現又は低発現するように設計されたDNAコンストラクトが挿入されており、かつ、該挿入された遺伝子を発現するように形質転換した形質転換体である。
【0075】
宿主生物が、サロクラディウム属などのペントシジンオキシダーゼの産生能が認められる生物である場合は、挿入された遺伝子は恒常的に強制発現若しくは内在性の発現よりも高発現にすること、又は細胞増殖後の培養後期で条件発現させることが望ましい。このような形質転換体は、発現量の変化した転写因子の作用によって、宿主生物又は形質転換体に適した条件で培養又は生育することにより、宿主生物では生産しない、又は生産したとしてもペントシジンオキシダーゼを検出可能以上に生産することができる。
【0076】
(製造方法)
本発明の別の一態様の製造方法は、形質転換体の生育に適した培地を用いて、形質転換体の生育に適した培養条件下で形質転換体を培養することによって、ペントシジンオキシダーゼを製造する方法などが挙げられる。培養方法は特に限定されず、例えば、宿主生物が糸状菌である場合は、通気又は非通気条件下で行う固体培養法や液体培養法などが挙げられる。
【0077】
本発明の別の一態様の製造方法は、形質転換体より抽出するペントシジンオキシダーゼの製造方法である。以下では、主として宿主生物や野生型生物が糸状菌である場合の製造方法について記載するが、本発明の各態様の製造方法は下記記載に限定されない。
【0078】
培地は、宿主生物や野生型生物(以下では、これらを総称して「宿主生物等」ともよぶ。)を培養する通常の培地、すなわち炭素源、窒素源、無機物、その他の栄養素を適切な割合で含有するものであれば、合成培地及び天然培地のいずれでも使用できる。宿主生物等がアスペルギルス属微生物である場合は、後述する実施例に記載があるようなYMG培地やPPY培地などを利用することができるが、特に限定されない。
【0079】
形質転換体の培養条件は、当業者により通常知られる宿主生物等の培養条件を採用すればよく、例えば、宿主生物等が糸状菌である場合、培地の初発pHは5~10に調整し、培養温度は20~40℃、培養時間は数時間~数日間、好ましくは1~7日間、より好ましくは2~4日間など、適宜設定することができる。培養手段は特に限定されず、通気撹拌深部培養、振盪培養、静地培養などを採用することができるが、溶存酸素が十分になるような条件で培養することが好ましい。例えば、アスペルギルス属微生物を培養する場合の培地及び培養条件の一例として、後述する実施例に記載があるYMG培地やPPY培地を用いた、30℃、160rpmでの3~5日間の振盪培養が挙げられる。
【0080】
培養終了後に培養物からペントシジンオキシダーゼを抽出する方法は特に限定されない。抽出には、培養物から濾過、遠心分離などの操作により回収した菌体をそのまま用いてもよく、回収した後に乾燥した菌体やさらに粉砕した菌体を用いてもよい。菌体の乾燥方法は特に限定されず、例えば、凍結乾燥、天日乾燥、熱風乾燥、真空乾燥、通気乾燥、減圧乾燥などが挙げられる。
【0081】
また、上記処理に代えて、例えば、超音波破砕機、フレンチプレス、ダイノミル、乳鉢などの破壊手段を用いて菌体を破壊する方法;ヤタラーゼなどの細胞壁溶解酵素を用いて菌体細胞壁を溶解する方法;SDS、トリトンX-100などの界面活性剤を用いて菌体を溶解する方法などの菌体破砕処理に供してもよい。これらの方法は単独又は組み合わせて使用することができる。
【0082】
得られた抽出液は、遠心分離、フィルターろ過、限外ろ過、ゲルろ過、溶解度差による分離、溶媒抽出、クロマトグラフィー(吸着クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーなど)、結晶化、活性炭処理、膜処理などの精製処理に供することにより目的産物を精製することができる。
【0083】
本発明の各態様の製造方法では、本発明の課題を解決し得る限り、上記した工程の前段若しくは後段又は工程中に、種々の任意の工程や操作を加入することができる。
【0084】
(測定方法)
本発明に係るペントシジンの測定方法は:
ペントシジンオキシダーゼを検体と接触させる工程;及び
当該接触により生じた変化を検出する工程、を含む。
【0085】
本明細書で使用する場合、「検体」とは、被験者、例えば、ペントシジンに関連する疾患に罹患しているか、罹患していると疑われる対象に由来する血液、体液又は排泄物等の試料を意味する。検体はペントシジンを必ずしも含んでいなくてもよく、ペントシジンを含まない場合であっても、本発明に係る測定方法はペントシジン含有の有無の分析(定性分析)に使用することができる。本明細書で使用する場合、「接触により生じた変化」とは、検体中に含まれるペントシジンなどの出発物質や、ペントシジンオキシダーゼとの反応生成物又は反応消費物などの有無、又はそれらの量の経時的な変化を意味する。
【0086】
より具体的な態様において、ペントシジンの測定方法は:
(A)水と酸素の存在下、検体にペントシジンオキシダーゼを作用させる工程;及び
(B)上記ペントシジンオキシダーゼの作用による反応生成物又は反応消費物の少なくとも一種の量を計測する工程
を含み得る。
【0087】
上記工程(B)において測定する反応生成物としては、過酸化水素、アンモニア及びペントシジンの脱アミノ化生成物を挙げることができる。また、反応生成物である過酸化水素の量は、例えば、ペルオキシダーゼ反応により計測することができる。また、反応生成物であるアンモニアの量は、例えば、インドフェノール法やネスラー試薬を用いる方法、もしくは、グルタミン酸デヒドロゲナーゼやNADシンターゼ等のアンモニアを基質とする酵素を用いてNADH量を測定する方法等により計測することができる。本明細書で使用する場合、「脱アミノ化生成物」とは、例えば、ペントシジンを構成するリジンとアルギニンのアミノ基の一方又は両方が外れて酸素に置き換わり、少なくとも一方の末端がケト酸となっている生成物を意味する。このような脱アミノ化生成物の例を
図5に示す。上記工程(B)において測定する反応消費物としては、酸素を挙げることができる。酵素反応により減少する酸素量は、例えば、酸素電極により測定することもできるし、または、Winkler手法に基づいて、酸素によりマンガンイオンの酸化させることで、比色定量することもできる。
【0088】
別の態様において、本発明は、ペントシジンオキシダーゼを含むキットを提供する。本発明に係るキットは、ペントシジンとペントシジンオキシダーゼの反応生成物又は反応消費物を検出するために使用され得る。本発明に係るキットはさらに、反応用緩衝液、並びに反応生成物検出用試薬、例えば過酸化水素検出用試薬、アンモニア検出試薬及びペントシジンの脱アミノ化生成物検出用試薬、または反応消費物検出用試薬、例えば酸素検出用試薬の少なくとも一つを含むものであってもよい。本発明のキットは体外診断薬としても使用可能であり、例えば、ペントシジン又は、ペントシジンとペントシジンオキシダーゼとの反応生成物に関連している疾患、例えば糖尿病や腎症の診断に好適に使用され得る。
【0089】
過酸化水素検出用試薬としては、過酸化水素を高感度で検出できる10-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-3、7-ビス(ジメチルアミノ)-フェノシアジン(DA-67)やN-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-4、4’ -ビス(ジメチルアミノ)-ジフェニルアミン(DA-64)に加え、公知のトリンダー試薬などの呈色試薬が挙げられる。アンモニア検出用試薬としては、フェノール・ニトロプルシッドナトリウムと、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤との組み合わせ(インドフェノール法)、ネスラー試薬等が挙げられる。酸素検出用試薬としては、例えば、マンガンイオン、水酸化ナトリウムおよび硫酸の組み合わせが挙げられる
【0090】
呈色反応を利用した反応生成物の検出は免疫化学的な方法や機器分析的手法と比較して極めて簡便で安価に行うことができる。しかしながら、反応生成物又は反応消費物の検出は、検出試薬以外の他公知の定量・定性方法を排除するものではなく、適宜採用してもよい。例えば、過酸化水素やアンモニアの検出試薬に代えて、専用の検出電極を備えた酵素センサなどの装置を使用して検出を行うこともできる。
【0091】
上記反応生成物又は反応消費物の検出方法は、ペントシジン又は各反応生成物又は反応消費物と直接的又は間接的に関連している疾患の検出方法、延いては診断方法にも使用可能である。
【0092】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例】
【0093】
(実施例1)サロクラディウム・エスピー(Sarocladium sp.)の培養及び酵素液調製方法
・使用培地
MEA培地:Malt extract agar(Oxoid社製)を50g/Lとなるよう蒸留水に溶解した。
YMG培地:Yeast extract 0.4%、Malt extract 1%、グルコース 0.4%、pH5.5
【0094】
・菌株の培養
-80℃で保存されたサロクラディウム・エスピー(Sarocladium sp.) F10012株をMEA培地に塗布し、24℃で7~10日間、十分量の菌糸が得られるまで静置培養した。得られた菌糸を1Lフラスコ中のYMG培地250mLに摂取し、30℃で3日間振とう培養した。
【0095】
・粗酵素液の調製
菌体を培養したYMG培地を、Miracloth(メルクミリポア社製)を用いてろ過することで菌体を取り除き、培養上清を取得した。培養上清を限外ろ過膜(Vivaspin 20-3k、GEヘルスケア社製)を用いて濃縮し、50mM リン酸カリウムバッファー(pH7.5)で希釈する工程を複数回繰り返すことで低分子を除去するとともに、YMG培地をリン酸カリウムバッファーに置換した。
【0096】
・目的酵素の粗精製
バッファー置換した粗酵素液を、イオン交換クロマトグラフィー用カラム(HiTrap Q Sepharose Fast Flow 1mL、GEヘルスケア社製)を用いて分画した。具体的な手順は、以下のとおりである。
【0097】
まず、50mM リン酸カリウムバッファー(pH7.5)で平衡化したカラムに粗酵素液をロードし、酵素をカラムに吸着させた後に、5mLのリン酸カリウムバッファーでカラムを洗浄し、未吸着のタンパク質を溶出させた。
【0098】
その後、リン酸カリウムバッファーに0.25M、0.5M、0.75M、1.0Mの塩化ナトリウムを溶解したバッファーを5mLずつ順次カラムに通すことで、カラムに吸着したタンパク質を溶出させた。
【0099】
粗酵素液をロードした際にカラムから溶出した液を「Flow through」、バッファーによる洗浄時に溶出した液を「Start buffer」、塩化ナトリウムを含むバッファーで溶出した液をそれぞれ「Elution1」、「Elution2」、「Elution3」、「Elution4」とし、それぞれ異なる容器に回収した。
【0100】
(実施例2)ペントシジンオキシダーゼ活性の測定方法
・酵素粗精製液の活性測定
イオン交換クロマトグラフィー用のカラムより溶出した液をサンプルとし、活性を測定した。サンプル50μLを、100mM リン酸カリウムバッファー(pH8.0)に溶解した4mM ペントシジン(ペプチド研究所社製)25μL及びオキシダーゼ発色試薬(4U/mL ペルオキシダーゼ(TOYOBO社製)、1.8mM 4-アミノアンチピリン(Fluka社製)、2mM TOOS(Dojindo社製))25μLと混合し、室温で反応させた。
【0101】
反応には、96穴のマイクロウェルプレート(Nunc社製)を用いた。ブランクは、基質溶液のかわりに100mM リン酸カリウムバッファー(pH8.0)を加えたものとした。反応液及びブランク溶液の555nmにおける吸光度を測定し、吸光度の差(ΔOD)をもとに酵素活性の強さを評価した。
【0102】
・基質濃度依存性試験
酵素粗精製液のペントシジンオキシダーゼ活性を、様々な濃度の基質を用いて測定することで、基質の濃度に対する活性の推移を評価した。用いた基質溶液の濃度は、0.13mM、0.25mM、0.5mM、1.0mM、2.0mM及び4.0mMである。
【0103】
・熱失活試験
酵素粗精製液を80℃で1時間熱処理をすることにより、タンパク質を変性させた。この加熱処理サンプルのペントシジンオキシダーゼ活性を上述の活性測定方法にのっとって測定し、未加熱のサンプルの活性と比較した。
【0104】
(実施例3)サロクラディウム・エスピー(Sarocladium sp.)酵素液のペントシジンオキシダーゼ活性解析
サロクラディウム・エスピー(
Sarocladium sp.)の培養上清をイオン交換クロマトグラフィー用カラムで分画したサンプルについて、ペントシジンとの反応性を解析した。その結果、0.25M 塩化ナトリウムを含むリン酸カリウムバッファーで溶出したElution1に強い活性が認められ、ペントシジンオキシダーゼが含まれていることが示唆された。このElution1に対し、基質濃度依存性試験(
図1)及び熱失活試験(
図2)を行ったところ、酵素活性は基質濃度依存的に上昇し、さらに加熱処理により完全に失活することが明らかとなった。このことから、Elution1にみられるペントシジンオキシダーゼ活性は、酵素由来のものであることが示された。
【0105】
(実施例4)サロクラディウム・エスピー(Sarocladium sp.)由来のペントシジンオキシダーゼの配列決定
上記結果と、サロクラディウム・エスピー(Sarocladium sp.)の全ゲノム配列情報に基づき、ペントシジンオキシダーゼであると推測される、2種類の遺伝子(配列番号1及び3)とそのアミノ酸配列(配列番号2及び4)が特定された。
【0106】
(実施例5)麹菌アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)における、サロクラディウム・エスピー(Sarocladium sp.)由来ペントシジンオキシダーゼの異種組換発現
上記で特定された2種のペントシジンオキシダーゼについて、酵素活性を解析するために麹菌アスペルギルス・ソーヤを宿主として異種組換発現を行った。
【0107】
・発現ベクターの作製
配列番号2と配列番号4のアミノ酸配列を基に麹菌発現用にコドン改変した配列番号5と6の塩基配列を人工遺伝子合成によりそれぞれ取得した。
【0108】
配列番号5及び配列番号6のペントシジンオキシダーゼ遺伝子(penox1、penox2)を発現させるための発現カセットとしては、翻訳伸長因子遺伝子tef1のプロモーター配列であるPtef(tef1遺伝子の上流748bp、配列番号7)をプロモーターとして、アルカリプロテアーゼ遺伝子alpのターミネーター配列であるTalp(alp遺伝子の下流800bp、配列番号8)をターミネーターとして用いた。
【0109】
また、選択マーカーとしてはウラシル/ウリジン要求性を相補し、遺伝子の多コピー導入を可能とする形質転換マーカー遺伝子pyrG3(上流56bp、コード領域896bp及び下流535bpを含む1,487bp、配列番号9)を用いた(特開2018-068292号公報参照)。これらのPtef、Talp、pyrG3は、麹菌アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae NRRC4239株)のゲノムDNAを鋳型としたPCR反応により取得した。
【0110】
次に、それぞれのDNAを連結するためにIn-Fusion HD Cloning Kit(クロンテック社製)を使用した。例えば、Ptefとpenox1遺伝子及びTalpとを連結させる場合には、Ptefは配列番号10のリバースプライマーを用いて、Talpは配列番号11のフォワードプライマーを用いてPCR反応によりDNA断片を増幅させている。このとき、配列番号10のPtef増幅用のリバースプライマーには、5’末端にpenox1遺伝子(配列番号5)の5’末端と相補的な配列が15bp付加されており、配列番号11のTalp増幅用のフォワードプライマーには、5’末端にpenox1遺伝子(配列番号5)の3’末端と相同な配列が15bp付加されているため、In fusion反応により、Ptef、penox1遺伝子及びTalpとの連結が可能となる。このようにして、Ptef、penox1遺伝子又はpenox2遺伝子、Talp及びpyrG3が順に連結されたPtef-penox1-Talp-pyrG3、Ptef-penox2-Talp-pyrG3がpUC19プラスミドのマルチクローニングサイトに挿入されている発現ベクターp19-pG3-penox1及びp19-pG3-penox2を作製した。
【0111】
・麹菌発現株の作製及び培養
上記で取得した形質転換用プラスミドp19-pG3-penox1及びp19-pG3-penox2を用いて、アスペルギルス・ソーヤのpyrG遺伝子破壊株(pyrG遺伝子の上流48bp、コード領域896bp、下流240bp欠損株)に対しプロトプラストPEG法により形質転換を行い、penox1及びpenox2の発現カセットが多コピーで挿入されたアスペルギルス・ソーヤ形質転換株As-penox1株を9株、As-penox2株を6株取得した。
【0112】
取得したアスペルギルス・ソーヤ形質転換株As-penox1株及びAs-penox2株を50mL三角フラスコに入れた15mLのPPY液体培地(2%(w/v)パインデックス、1%(w/v)ポリペプトン、0.5%(w/v)酵母エキス、0.5%(w/v)リン酸2水素1カリウム、0.05%(w/v)硫酸マグネシウム・7水和物)に植菌し、30℃で4~5日間振とう培養を行った。
【0113】
・菌糸抽出液の調製
各As-penox1株及びAs-penox2株の培養液をMiracloth(メルクミリポア社製)を用いてろ過し、培養上清を取り除いて菌体を取得した。15mLの10mMリン酸カリウムバッファー(pH7.5)に再懸濁した後、Micro Smash MS-100R(トミー精工社製)を用いて菌体を破砕した。菌体破砕液を15,000rpmで15分間遠心分離して、上清を粗酵素液として回収した。
【0114】
・菌糸抽出液のL-アルギニン酸化活性の測定
各粗酵素液200μLを、150mM リン酸カリウムバッファー(pH 7.0)に溶解した7.1U/mL ペルオキシダーゼ、 0.70mM 4-アミノアンチピリン、0.79mM TOOS溶液380μLと混合して37℃で5分間インキュベートした後、60mM L-アルギニン溶液20μLを添加して撹拌し、37℃で5分間反応させた。反応中のA555の経時変化を分光光度計(U-3900、日立ハイテクサイエンス社製)で測定した。対照実験は、20μLの60 mM L-アルギニン溶液の代わりに20μLのイオン交換水を添加して実施した。37℃で1分間あたりに1μmolの過酸化水素を生成する酵素量を1unit(U)と定義し、下記の式に従って算出した。
【0115】
活性 (U/mL)={(ΔAs-ΔA0)×0.6×df}÷(39.2×0.5×0.2)
ΔAs:反応液の1分間あたりのA555変化量
ΔA0:対照実験の1分間あたりのA555変化量
39.2:反応により生成されるキノンイミン色素のミリモル吸光係数 (mM-1・cm-1)
0.5:1molの過酸化水素による生成されるキノンイミン色素のmol数
0.6:反応液全体の容量(mL)
df:希釈係数
0.2:酵素液の容量(mL)
【0116】
As-penox1株、As-penox2株の粗酵素液のL-アルギニン酸化活性は、最大で、それぞれ0.009U/mL(As-penox1-15株)、5.1U/mL(As-penox2-16株)であった。
【0117】
(実施例6)菌糸抽出型組換えpenox2の精製
As-penox2-16株の粗酵素液を、10mM リン酸カリウムバッファー(pH7.5)にバッファー置換した後、陰イオン交換クロマトグラフィーカラム(HiScreen CaptoQ、GEヘルスケア社製)を用いて分画した。まず、10mMリン酸カリウムバッファー(pH7.5)で平衡化したカラムに粗酵素液をロードし、酵素をカラムに吸着させた後に、10mMリン酸カリウムバッファー(pH7.5)でカラムを洗浄し、未吸着のタンパク質を溶出させた。その後、10mMリン酸カリウムバッファー(pH 7.5)に含まれる塩化ナトリウム濃度を0mMから40mMまで直線的に上昇させ、カラムに吸着したタンパク質を溶出させた。L-アルギニン酸化活性を示す画分をSDS-PAGEで分析し、夾雑タンパク質を含まない画分を精製PenOX2として回収した。回収した精製PenOX2溶液は、Amicon Ultra-15 Ultracel-30k (Millipore社製)を用いて、L-アルギニン酸化活性が24U/mLになるまで濃縮し、ペントシジン定量試験に用いた。
【0118】
(実施例7)ペントシジン定量試験
以下の試薬を調製し、Bio Majesty JCA-BM1650(日本電子社製)を利用してペントシジンを測定した。
(試料:ペントシジン溶液)
0.2μM、0.4μM、0.6μM、1.0μM、2.0μM又は4.0μMペントシジン溶液
【0119】
(第1試薬:Leuco色素、ペルオキシダーゼ溶液)
120mM リン酸カリウムバッファー(pH7.0)
0.2mM DA-67(10-(Carboxymethylaminocarbonyl)-3,7-bis(dimethylamino)phenothiazine, sodium salt)(和光純薬工業社製)
3.0U/mL ペルオキシダーゼ
【0120】
(第2試薬:PenOX2溶液)
120mM リン酸カリウムバッファー(pH7.0)
24U/mL PenOX2
【0121】
試料25μLを50μLの第1試薬に添加して37℃で5分間インキュベートした後、25μLの第2試薬を添加して、PenOX2によるペントシジン酸化反応と、前記反応によって生成される過酸化水素の検出反応を37℃で5分間進行させた。
【0122】
過酸化水素の検出反応では、ペルオキシダーゼが消費されると同時にDA-67が酸化されてメチレンブルーとなって呈色し、吸光度(A
658)が上昇する。一例として、試料(4.0μM ペントシジン溶液)と第1試薬を混合してからの経過時間と吸光度(A
658)の関係を
図3に示した。PenOX2を含む第2試薬の添加直後からA
658の上昇が確認できた。
【0123】
続いて、ペントシジンの酸化に起因するA658上昇量(ΔA)を下記の式に従って算出した。
ΔA=(第2試薬添加5分後の吸光度)-(第2試薬添加直前の吸光度×0.75)
(第2試薬の添加により反応液中の組成物の濃度は0.75倍(75/100倍)となるため、
第2試薬添加直前の吸光度を0.75倍した値を第2試薬添加直後の吸光度とみなした。)
【0124】
ペントシジン終濃度とΔAとの間には相関関係が成立した(
図4)。したがって、PenOX2はペントシジン酸化活性を示し、ペントシジンの定量に利用できることが示された。結果は示さないが、PenOX1も同様にペントシジン酸化活性を示した。
【0125】
(実施例8)菌糸分泌型組換えpenox2の精製
As-penox2株の菌糸培養液をMiracloth(メルクミリポア社製)を用いてろ過し、菌糸培養上清を回収した。得られた菌糸培養上清75mLを、ポアサイズ0.2μmのシリンジフィルターでフィルターろ過したのち限外ろ過膜(Amicon Ultra 15-30kD、メルク社製)で濃縮した。濃縮液に、硫酸アンモニウムを70%飽和となるように徐々に添加し、2時間、4℃で放置後、遠心(15,000rpm、4℃、5分)し、余分なタンパク質を沈殿させ、上清を回収した。回収した上清を、限外ろ過膜(Amicon Ultra 0.5-30kD、メルク社製)で濃縮した。
【0126】
これに、リン酸カリウムバッファー(pH7.5)および硫酸アンモニウムをそれぞれの終濃度が50mMおよび2Mになるように添加した後、疎水性相互作用クロマトグラフィー用カラム(HiTrap Butyl Fast Flow 1mL、GEヘルスケア社製)を用いて分画した。具体的な手順は、以下のとおりである。
【0127】
まず、2M 硫酸アンモニウムを含む50mM リン酸カリウムバッファー(pH7.5)で平衡化したカラムに粗酵素液をロードし、酵素をカラムに吸着させた後に、2M 硫酸アンモニウムを含む50mM リン酸カリウムバッファー(pH7.5) 10mLでカラムを洗浄し、未吸着のタンパク質を溶出させた。
【0128】
その後、1.5M、1.3M、1.15M 硫酸アンモニウムをそれぞれ含む50mM リン酸カリウムバッファー(pH7.5)を5mLずつ、さらに1M 硫酸アンモニウムを含む50mM リン酸カリウムバッファー(pH7.5)を10mL、硫酸アンモニウムを含まない50mM リン酸カリウムバッファー(pH7.5)を5mL、順次カラムに通すことで、カラムに吸着したタンパク質を溶出させた。
【0129】
粗酵素液をロードした際にカラムから溶出した液を「Flow through1」、硫酸アンモニウム2Mを含むバッファーによる洗浄時に溶出した液を「Elution1」、硫酸アンモニウム1.5M、1.3M、1.15M、1Mを含むバッファーで溶出した液をそれぞれ「Elution2」、「Elution3」、「Elution4」、「Elution5」、硫酸アンモニウムを含まないバッファーで溶出した液を「Elution6」とし、それぞれ異なる容器に回収した。
【0130】
分画したサンプルについて、ペントシジンとの反応性を解析した。その結果、1M 硫酸アンモニウムを含むリン酸カリウムバッファーで溶出したElution5に強い活性が認められ、ペントシジンオキシダーゼ(PenOX2)が含まれていることが示唆された。このElution5を、限外ろ過膜(Amicon Ultra 15-30kD、メルク社製)で濃縮し、硫酸アンモニウムを含まない50mM リン酸カリウムバッファー(pH7.5)にバッファー置換したのち再度限外ろ過膜(Amicon Ultra 15-30kD、メルク社製)で濃縮した。これを、イオン交換クロマトグラフィー用カラム(HiTrap Q Sepharose Fast Flow 1mL、GEヘルスケア社製)を用いて分画した。具体的な手順は、以下のとおりである。
【0131】
まず、50mM リン酸カリウムバッファー(pH7.5)で平衡化したカラムに粗酵素液をロードし、酵素をカラムに吸着させた後に、5mLの50mM リン酸カリウムバッファー(pH7.5)でカラムを洗浄し、未吸着のタンパク質を溶出させた。
【0132】
その後、50mM リン酸カリウムバッファー(pH7.5)に0.1Mの塩化ナトリウムを溶解した液を1mL 5回、同バッファーに0.175Mの塩化ナトリウムを溶解した液を1mL 5回、同バッファーに1Mの塩化ナトリウムを溶解した液を5mL 1回、順次カラムに通すことで、カラムに吸着したタンパク質を溶出させた。
【0133】
粗酵素液をロードした際にカラムから溶出した液を「Flow through2」、バッファーによる洗浄時に溶出した液を「Elution7」、塩化ナトリウムを含むバッファーで溶出した液をそれぞれ「Elution8-1」、「Elution8-2」、「Elution8-3」、「Elution8-4」、「Elution8-5」、「Elution9-1」、「Elution9-2」、「Elution9-3」、「Elution9-4」、「Elution9-5」、「Elution10」とし、それぞれ異なる容器に回収した。
【0134】
分画したサンプルについて、ペントシジンとの反応性を解析した。その結果、0.175M 塩化ナトリウムを含むリン酸カリウムバッファーで溶出したElution9-1およびElution9-2に強い活性が認められ、ペントシジンオキシダーゼが含まれていることが示唆された。活性画分Elution9-1およびElution9-2を等量ずつ混合したものをSDS-PAGEで分析したところ、ほぼ単一のバンドが得られた(分子量約80,000)。得られたこの活性画分を、以下の理化学的性質を決定するのに用いた。
【0135】
(実施例9)アスペルギルス・ソーヤ形質転換株As-penox2株により生産されたPenOX2の理化学的性質
PenOX2の理化学的性質を決定するために、以下の酵素活性の測定方法を用いた。
任意のバッファー600μL、脱イオン水に溶解した3.99U/mL ペルオキシダーゼ、1.8mM 4-アミノアンチピリン、2mM TOOS溶液400μL、脱イオン水150μLを任意の温度で10分間インキュベートした後、氷上で保存していた酵素液50μL、任意の温度で10分間インキュベートした100mM リン酸カリウムバッファー(pH8.0)に溶解させた4mM ペントシジン溶液400μLを添加して撹拌し、任意の温度で3分間反応させた。反応中のA555の経時変化を分光光度計(U-3900、日立ハイテクサイエンス社製)で測定した。20秒から60秒までの測定開始後経過時間-A555変化量を活性値とみなした。
さらに、37℃で1分間あたりに1μmolの過酸化水素を生成する酵素量を1unit(U)と定義し、下記の式に従って算出した。
【0136】
活性 (U/mL)={(ΔAs-ΔA0)×1.6×df}÷(39.2×0.5×0.05)
ΔAs:反応液の1分間あたりのA555変化量
ΔA0:対照実験の1分間あたりのA555変化量
1.6:反応液全体の容量(mL)
df:希釈係数
39.2:反応により生成されるキノンイミン色素のミリモル吸光係数 (mM-1・cm-1)
0.5:1molの過酸化水素による生成されるキノンイミン色素のmol数
0.05:酵素液の容量(mL)
【0137】
penox2の理化学的性質は、以下の通りであった。
(a)至適pHの範囲
終濃度50mM クエン酸-100mM リン酸カリウムバッファー(pH4.0-7.5)、終濃度100mM リン酸カリウムバッファー(pH6.5-8.0)、終濃度100mM グリシンバッファー(pH8.0-11.0)となるように夫々のバッファーを調製し、これらを用いて、夫々のpHにおいて、温度37℃にて酵素反応を行なった。結果を
図7に示す。PenOX2は、pH7.5において最も高い活性を示した。また、pH6.5-8.0でもリン酸カリウムバッファーpH7.5付近における活性値の70%以上を示したことから、PenOX2の至適pHはpH6.5-8.0であり、最も好ましい至適pHはpH7.5であると判断した。
(b)至適温度の範囲
終濃度50mM リン酸カリウムバッファー(pH7.5)を用いて、種々の温度にてPenOX2の活性測定を行なった。結果を
図8に示す。最も高い活性を示した温度である、50℃付近での活性に対して、80%以上の活性を示す温度範囲は37℃~50℃であった。以上から、PenOX2の至適温度の範囲は37℃~50℃であると判断した。
(c)熱安定性
酵素液を各温度で10分間処理した時の残存活性を、終濃度100mM リン酸カリウムバッファー(活性測定時最終pH7.5)を用い温度37℃にて前記活性測定を行なうことで評価した。熱安定性の結果は、
図9に示す通りであり、PenOX2は、30℃付近まで安定であった。
(d)安定pHの範囲
緩衝液として、100mM クエン酸-200mM リン酸カリウムバッファー(pH3.0-6.5)、200mM リン酸カリウムバッファー(pH6.5-8.0)、200mM グリシンバッファー(pH8.0-10.0)を用いて、夫々のpHにおいて25℃で20時間処理した後、PenOX2の残存活性を測定した。結果を
図10に示す。4℃で保存しておいたPenOX2の活性に対して90%以上の活性を示すpH範囲はpH4.5-7.5、60%以上の活性を示すpH範囲はpH4.0-9.0であった。
(e)ペントシジンに対する活性値
前記活性測定方法において、終濃度50mM リン酸カリウムバッファー(活性測定時最終pH7.5)、37℃で活性測定を行ない、上記の計算式を用いて活性値(U/mL)を求めた。活性値は7.8U/mL、比活性は29.1U/mg(ブラッドフォード法)であることが判った。
(f)ペントシジンに対するKm値
前記活性測定方法において、終濃度50mM リン酸カリウムバッファー(pH7.5)、37℃で、基質ペントシジンの濃度を変化させて活性測定を行ない、ラインウェーバー・バークプロットから、ミカエリス定数(Km)を求めた。結果を
図11に示す。ペントシジンに対するKm値は0.14mMであることが判った。
(g)分子量
Laemmliの方法に従って行なったSDS-PAGE法により分子量を求めた。電気泳動ゲルとしてはMini-PROTEAN TGX Stain-Free Precast Gels 4-20%(Bio-rad社製)を用い、分子量マーカーとしてはPrecision Plus Protein All Blue Prestained Protein Standardsを用いた。結果を
図12に示す。PenOX2の分子量は、約80,000であった。
【0138】
(実施例10)PenOX1及びPenOX2と配列相同性を持つ酵素のペントシジンオキシダーゼ活性測定
【0139】
前述の通りPenOX1及びPenOX2はいずれもペントシジンオキシダーゼ活性を有していた。BLASTプログラムを用いてアミノ酸配列の一致率を調べると、両者のアミノ酸配列相同性は38.2%であった。続いて以下の3酵素を購入し、前記活性測定方法において、終濃度100mM リン酸カリウムバッファー(pH7.5)、37℃で、ペントシジンオキシダーゼ活性を調べた。夫々のPenOX1及びPenOX2とのアミノ酸配列相同性、並びにペントシジンオキシダーゼ活性は以下の通りであった。
(a)
Crotalus adamanteus由来アミノ酸オキシダーゼType VI(メルク社製)(配列番号12)
分子量:130,000
本酵素のPenOX1及びPenOX2とのアミノ酸配列相同性は、夫々26.8%および23.5%であった。酵素濃度が1mg/mL(ビュレット法)になるよう脱イオン水で希釈して活性測定に用いた。本酵素のペントシジンオキシダーゼ活性は0.555(U/mL)、比活性は0.555(U/mg)であった。
(b)
Crotalus atrox由来アミノ酸オキシダーゼType I(メルク社製)(配列番号13)
分子量:59,000(アミノ酸配列に基づく計算値)
本酵素のPenOX1及びPenOX2とのアミノ酸配列相同性は、夫々26.3%および23.4%であった。酵素粉末1mgを1mLの脱イオン水で溶解して活性測定に用いた。本酵素のペントシジンオキシダーゼ活性は0.022(U/mL)、比活性は参考値として0.022(U/mg)であった。
(c)
Trichoderma viride由来リジンオキシダーゼ(メルク社製)(配列番号14)
分子量:116,000
本酵素のPenOX1及びPenOX2とのアミノ酸配列相同性は、夫々24.0%および23.3%であった。酵素粉末1mgを1mLの脱イオン水で溶解して活性測定に用いた。本酵素のペントシジンオキシダーゼ活性は0.063(U/mL)、比活性は参考値として0.063(U/mg)であった。本実施例で使用した酵素間の配列相同性を以下の表に示す。
【表1】
【配列表】