(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-27
(45)【発行日】2023-05-10
(54)【発明の名称】熱伝導性粘着層を有する熱伝導性シリコーンゴムシート
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20230428BHJP
C09J 183/05 20060101ALI20230428BHJP
C09J 183/07 20060101ALI20230428BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20230428BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230428BHJP
C08L 83/07 20060101ALI20230428BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20230428BHJP
B32B 25/20 20060101ALI20230428BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230428BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J183/05
C09J183/07
C09J11/04
C08K3/013
C08L83/07
C08L83/05
B32B25/20
B32B27/00 M
B32B27/00 101
B32B27/20 Z
(21)【出願番号】P 2022022646
(22)【出願日】2022-02-17
(62)【分割の表示】P 2019020674の分割
【原出願日】2019-02-07
【審査請求日】2022-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 崇則
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 晃洋
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-193491(JP,A)
【文献】特開2016-204600(JP,A)
【文献】特開2009-235279(JP,A)
【文献】国際公開第2014/196347(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/070351(WO,A1)
【文献】特開2006-028311(JP,A)
【文献】特開2008-156496(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 1/00-43/00
H05K 7/20
H01L 23/34、23/373
C08K 3/01、3/013
C08L 83/04、83/05、83/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デューロメータA硬度60~96を有する熱伝導性シリコーンゴム層の少なくとも1と、シリコーン粘着層の少なくとも1とが積層されて成る熱伝導性シリコーンゴムシートであって、
前記シリコーン粘着層が、下記(a)、(c)、(b)、(d)、(e)、及び(f)成分を含む付加反応硬化型シリコーン粘着剤組成物の硬化物であり、該シリコーン粘着層が厚み2~
15μmを有することを特徴とする、前記熱伝導性シリコーンゴムシート
(a)ケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも1つ有し、ケイ素原子に結合したフェニル基を、ケイ素原子に結合した置換基の合計個数に対し2~20%となる個数で有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(c)平均粒径10μm未満を有し、粒径20μm以上の粒子の量が0~3質量%であり、かつ粒径40μm以上の粒子の量が
0質量%である、熱伝導性充填材:100~800質量部、
(b)オルガノハイドロジェンポリシロキサン:前記(a)成分のアルケニル基の個数に対する(b)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の個数の比が0.5~30となる量、
(d)付加反応触媒:触媒量、及び
(e)付加反応制御剤:0.01~1質量部、及び
(f)R
3SiO
1/2単位(Rは、脂肪族不飽和結合を有さない、非置換又は置換の、炭素数1~10の1価炭化水素基である)及びSiO
4/2単位を含み、SiO
4/2単位に対するR
3SiO
1/2単位の個数比が0.5~2.5である、シリコーンレジン:50~300質量部。
【請求項2】
前記熱伝導性充填材が、アルミナ、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、及び金属アルミニウムから選ばれる少なくとも1である、請求項1記載の熱伝導性シリコーンゴムシート。
【請求項3】
前記熱伝導性シリコーンゴム層が粘着力0.01N/25m以下を有し、該熱伝導性シリコーンゴム層の片面にシリコーン粘着層が積層されていることを特徴とする請求項1又は2記載の熱伝導性シリコーンゴムシート。
【請求項4】
前記熱伝導性シリコーンゴム層が厚み50~900μmを有する、請求項1~3のいずれか1項記載の熱伝導性シリコーンゴムシート。
【請求項5】
前記熱伝導性シリコーンゴム層が、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサン、付加反応触媒、熱伝導性充填材、及び表面処理剤を含有する付加硬化型熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化物である、請求項1~4のいずれか1項記載の熱伝導性シリコーンゴムシート。
【請求項6】
前記熱伝導性シリコーンゴム層が、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、有機過酸化物、熱伝導性充填材、及び表面処理剤を含有する過酸化物硬化型熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化物である、請求項1~4のいずれか1項記載の熱伝導性シリコーンゴムシート。
【請求項7】
前記熱伝導性シリコーンゴム層が熱伝導率1.0W/m・K以上を有する、請求項1~6のいずれか1項記載の熱伝導性シリコーンゴムシート。
【請求項8】
前記熱伝導性シリコーンゴムシートがさらに保護シートを有し、熱伝導性シリコーンゴムシートと接していないシリコーン粘着層の面が該保護シートで被覆されており、ロール状に巻かれている、請求項1~7のいずれか1項記載の熱伝導性シリコーンゴムシート。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項記載の熱伝導性シリコーンゴムシートの製造方法であって、前記熱伝導性シリコーンゴム層の少なくとも一つの面に前記シリコーン粘着剤組成物を塗布し、加熱硬化して前記熱伝導性シリコーンゴムシートを得る工程を含む、前記製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱性電子部品等の放熱用絶縁シートとして好適な、作業性、リワーク性、放熱特性に優れる熱伝導性シリコーンゴムシートに関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器に使用されているパワートランジスタ、サイリスタ等の発熱性電子部品、及びIC,LSI,CPU,MPU等の集積回路素子は、熱の発生により特性が低下すること、また素子の寿命低下を招くことから、放熱を円滑に行うために、電子機器内での配置が考慮されている。その他に、特定の部品又は機器全体を冷却フィンで強制空冷したり、集積回路素子に対しては放熱用シート(以下、放熱シートという)を介して冷却部材や基板、筐体に熱を逃がしたりする等の考慮もなされている。
【0003】
しかし近年、パーソナルコンピュータに代表される電子機器の高集積化が進み、機器内の上記発熱性部品や集積回路素子の発熱量が増加するにつれて、従来の強制空冷方式や放熱シートではこれら部品や素子の冷却又は放熱が不十分な場合がある。特に、携帯可能なラップトップ型又はノートブック型のパーソナルコンピュータの場合は、強制空冷方式以外の冷却方法が必要になっている。また放熱シートについては、素子が形成されるプリント基板の材料には熱伝導性の劣るガラス補強エポキシ樹脂やポリイミド樹脂が使用されているので、従来の放熱シートでは素子で発生した熱を十分に基板に逃がすことができない。そこで素子の近傍に、自然冷却タイプ或いは強制冷却タイプの放熱フィン又はヒートパイプ等の放熱器を設置し、素子の発生熱を、放熱媒体を介して放熱器に伝え、放熱させる方式が採られている。
【0004】
この方式の放熱媒体として、素子と放熱器との間の熱伝導を良好にするために、放熱用熱伝導性グリースや厚さ0.2~10.0mm程度の放熱シートが使用されている。放熱用熱伝導性グリースとしては、例えばシリコーンオイルにシリカファイバー、酸化亜鉛、窒化アルミニウム等の熱伝導性充填材を配合した熱伝導性シリコーングリースが知られている(特許文献1)が、オイルブリードの危険性があること、電子部品の組立作業性を低下させること、熱履歴により空隙が発生して熱伝導性が低下すること等、多くの不具合が発生していた。一方、放熱シートとしては、高充填、高硬度のシリコーンゴム層をガラスクロス等の布状補強材で補強したものが良く知られている(特許文献2)。この種の放熱シートはゴム層の硬度が高く、熱伝導を担うとともに、絶縁性を確保する役割も兼ね備えることができ、非常に重宝される。しかしながら、放熱シートは表面タックを殆ど有していないために、発熱体への実装固定が非常に困難であった。
【0005】
実装固定の作業性を向上させるために、高硬度の熱伝導性シリコーンゴムシートの片面又は両面に粘着剤層を設け、更に粘着剤層面を離型紙等の離型性保護シートで保護した放熱シートも市販されているが、この複合型の放熱シートの場合は、粘着剤層の粘着力が所望の粘着力より強力になるケースがあり、実装の際、位置ずれが発生すると、リワークが困難であったり、リワークの際に粘着剤層が破壊されたりすることがあった。さらに、シリコーン粘着層をシリコーンゴムシートの片面または両面に使用した場合には、経時でシリコーンの粘着剤成分がシリコーン放熱ゴムシートの内部に移行してしまい、表面の粘着力が低下してしまうという課題があった。更に又は、この現象を回避するために、シリコーン粘着層の厚みを増やすことも考えられるが、前述したリワーク性が非常に困難となる上に、熱抵抗の増大が懸念された。
【0006】
またシリコーンよりも熱伝導性の良いアクリル粘着層を熱伝導性シリコーンゴムシートの片面または両面に積層した放熱シートが報告されている(特許文献3)。しかし製法としては、セパレータ上でアクリル系粘着層を硬化させ、その上からシリコーン放熱ゴムシートの材料を塗布し硬化させて成るため、工程が頻雑になるとともに、放熱ゴムシート内部に強度向上を目的としてガラスクロス等の補強材を設けることが困難であった。さらにアクリル系粘着層と熱伝導性シリコーンゴムシートとの密着を得る上で、アクリル系粘着層にプライマーを添加する、もしくはシリコーン放熱ゴムシートの材料に接着成分を添加する必要があったが、これらの成分が経時でブリードして、実機を汚染する可能性もあった。またアクリル系粘着層は耐熱性に優れるものではないため、高耐熱を要求される用途では適応が難しいという欠点もあった。
【0007】
そして、前述のような補強材で補強された高硬度熱伝導性シリコーンゴムシートに低硬度の熱伝導性シリコーンゴム層を積層した放熱シートも開示されている(特許文献5)。しかしこの複合型の放熱シートの場合は、製造上の問題から全体の厚さが0.45mm未満のものが得られないため、低硬度シリコーンゴム層自体はたとえ良好な高熱伝導率を持っていても複合品全体として薄いものが得られず、熱抵抗が大きくなるという欠点があった。また、従来の複合型放熱シートの場合は、一般的に低硬度シートの作業性改善のために、高硬度シートを積層することを主としており、厚い低硬度層と薄い高硬度層で構成されていた。しかしながらこの構成の場合、低硬度層が圧力により圧縮変形するため、スペースの保証による絶縁保証が困難になる場合があった。
【0008】
そこで、薄膜、低硬度で微粘着性の熱伝導性シリコーンゴム層が積層されることにより、作業性および絶縁保証性が犠牲にされることなく、良好な接触により熱伝導性が向上し、微粘着による作業性、リワーク性が付与された放熱シートも開示されている(特許文献6)。しかし、低硬度のシリコーンゴム層はリワーク性には富むが、凝集力に乏しいために得られる粘着力は非常に乏しく、実装状況によっては、発熱体への仮固定が困難であった。また本特許には、粘着力の重要な指標となる、JIS C 2107に準拠した引っぱり速度300mm/分で引きはがしを行った場合の剥離力は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特公昭57-36302号公報
【文献】特開昭56-161140号公報
【文献】特開2001-348542号公報
【文献】特開2009-132752号公報
【文献】特開平06-155517号公報
【文献】特開2014-193598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のように従来の高硬度シリコーン放熱シートは、その強度により、放熱性に加え、絶縁信頼性に優れるが、実装作業性に不利であった。また、実装作業性を向上させるために片面または両面に粘着剤層を設ける際に、特にシリコーン粘着層を用いた場合には、経時で粘着剤成分がシリコーン放熱シート内部に移行してしまい、粘着力の低下がみられた。またアクリル系粘着層を用いた場合、シリコーン放熱シートに対して密着性を向上させるためにプライマー成分を使用するという頻雑な製法が必要であった。さらにアクリル系粘着層は、高耐熱用途への適用が難しいという欠点もあった。
【0011】
一方、低硬度・高硬度の複合シートにおいては、その構成から、薄膜化が困難であったり、高圧力下でのスペース保証や絶縁保証が困難であったりした。また、製造プロセスが煩雑になり、経時変化が抑制できない欠点があった。さらに、低硬度層によっては凝集力に乏しいために、実装条件で所望の粘着性が得られず、実機への仮固定が不十分になるケースもあった。
【0012】
本発明の課題は、熱伝導性及び絶縁性に優れ、かつ実機に対する十分な粘着力、低熱抵抗、リワーク性、及び粘着力の信頼性を両立した複合放熱シートを提供することである。更には該放熱シートをより簡便な製造プロセスにて提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
斯かる実情に鑑み本発明者は鋭意研究を行った結果、デューロメータA硬度60~96を有し、さらに、好ましくは厚み50~900μmを有する、高硬度である熱伝導性シリコーンゴム層と、該熱伝導性シリコーンゴム層の少なくとも1の面に、下記特定の構成を有し、好ましくは厚み2~40μmを有するシリコーン粘着剤層とを有する熱伝導性シリコーンゴムシートが、熱伝導性、十分な粘着力、リワーク性、及び経時粘着力等に優れる事を見出し、本発明を成すに至った。
【0014】
即ち、本発明は、デューロメータA硬度60~96を有する熱伝導性シリコーンゴム層の少なくとも1と、シリコーン粘着層の少なくとも1とが積層されて成る熱伝導性シリコーンゴムシートであって、
前記シリコーン粘着層が、下記(a)、(c)、(b)、(d)、(e)、及び(f)成分を含む付加反応硬化型シリコーン粘着剤組成物の硬化物であり、該シリコーン粘着層が厚み2~15μmを有することを特徴とする、前記熱伝導性シリコーンゴムシートを提供する。
(a)ケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも1つ有し、ケイ素原子に結合したフェニル基を、ケイ素原子に結合した置換基の合計個数に対し2~20%となる個数で有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(c)平均粒径10μm未満を有し、粒径20μm以上の粒子の量が0~3質量%であり、かつ粒径40μm以上の粒子の量が0質量%である、熱伝導性充填材: 100~800質量部、
(b)オルガノハイドロジェンポリシロキサン:前記(a)成分のアルケニル基の個数に対する(b)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の個数の比が0.5~30となる量、
(d)付加反応触媒:触媒量、及び
(e)付加反応制御剤:0.01~1質量部、及び
(f)R3SiO1/2単位(Rは、脂肪族不飽和結合を有さない、非置換又は置換の、炭素数1~10の1価炭化水素基である)及びSiO4/2単位を含み、SiO4/2単位に対するR3SiO1/2単位の個数比が0.5~2.5である、シリコーンレジン:50~300質量部。
【発明の効果】
【0015】
本発明の熱伝導性シリコーンゴムシートは、高硬度を有する熱伝導性シリコーンゴム層を有することで、作業性、絶縁保証性、熱伝導性に優れる。さらにアクリル系粘着層よりも耐熱性の良い薄膜のシリコーン粘着層を有することにより、高温下でも良好に使用できる。また本発明のシリコーン粘着層を有することで、粘着力の経時変化を抑制し、粘着層の熱伝導性を高め、且つ、シートの熱抵抗の上昇を抑える。さらには、本発明の熱伝導性シリコーンゴムシートは、シリコーン粘着剤組成物を熱伝導性シリコーンゴム層に直接塗布して成型されるため、プライマー等を使用した従来の積層方法よりもより簡便なプロセスで製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
[熱伝導性シリコーンゴム層]
本発明の熱伝導性シリコーンゴムシートは、デュロメータA硬度60~96を有する高硬度熱伝導性シリコーンゴム層を有する。該高硬度熱伝導性シリコーンゴム層を与える熱伝導性シリコーンゴム組成物は上記硬度を有するものであればよく、付加反応硬化型熱伝導性シリコーンゴム組成物又は過酸化物硬化型熱伝導性シリコーンゴム組成物であればよい。付加反応硬化型シリコーンゴム組成物としては、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、オルガノハイドロジェンシロキサン、付加反応触媒、熱伝導性充填材、及び表面処理剤を含む組成物であればよい。過酸化物硬化型シリコーンゴム組成物としては、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、有機過酸化物、熱伝導性充填材、及び表面処理剤を含む組成物であればよい。尚、上記デュロメータA硬度は後述する硬化剤等の添加量により調整することができる。
以下、各成分について、より詳細に説明する。
【0017】
付加反応硬化型シリコーンゴム組成物、及び、過酸化物硬化型シリコーンゴム組成物において、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、平均組成式:R1
aSiO(4-a)/2(式中、R1は互いに独立に、置換または非置換の炭素原子数1~10、好ましくは1~8の1価炭化水素基であり、aは1.90~2.05の数である)で表わされるものである。
【0018】
上記R1は、非置換又は置換の、炭素原子数が1~10、より好ましくは炭素原子数が1~8、さらに好ましくは炭素原子数1~6の1価炭化水素基であり、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、ならびに、これらの炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部が、ハロゲン原子又はシアノ基などで置換された基が挙げられる。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、及びオクタデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基、3-フェニルプロピル基等のアラルキル基;3,3,3-トリフルオロプロピル基、3-クロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基等が挙げられる。但し、R1のうち少なくとも1はアルケニル基である。
【0019】
該アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとしては、一般的には、主鎖がジメチルシロキサン単位からなるもの、または、前記主鎖のメチル基の一部がビニル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等で置き換えられたものが好ましい。また、その分子鎖末端が、トリオルガノシリル基または水酸基で封鎖されたものが好ましく、前記トリオルガノシリル基としては、トリメチルシリル基、ジメチルビニルシリル基、トリビニルシリル基等が例示される。
【0020】
アルケニル基含有オルガノポリシロキサンの平均重合度は20~12,000が好ましく、特に50~10,000の範囲が好ましい。該オルガノポリシロキサンはオイル状であってもガム状であってもよく、成形方法等にしたがって選択すればよい。
【0021】
付加反応硬化型シリコーンゴム組成物の場合、上記オルガノポリシロキサンは、ケイ素原子結合アルケニル基を1分子中に2個以上、好ましくは5~100個有するのが好ましい。ケイ素原子結合アルケニル基の含有量が上記範囲の下限未満であると、得られる組成物が十分に硬化しなくなる。また、ケイ素原子に結合する上記アルケニル基としてはビニル基が好ましい。アルケニル基は、分子鎖末端および側鎖のいずれか一方または両方にあればよく、少なくとも1個のアルケニル基が分子鎖末端のケイ素原子に結合していることが好ましい。
【0022】
付加反応硬化型シリコーンゴム組成物における、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとしては、例えば、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン等を挙げることができる。これらは1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。
【0023】
付加反応硬化型シリコーンゴム組成物は、ケイ素原子結合水素原子を1分子中に平均2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと付加反応触媒をさらに含む。前記オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、上記アルケニル基含有オルガノポリシロキサンと反応して架橋構造を形成するものである。オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、例えば、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン等が挙げられる。オルガノハイドロジェンポリシロキサンは1種単独でも2種以上を組合せてもよい。
【0024】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンの量は従来公知の付加反応硬化型シリコーン組成物に応じて適宜調整されればよい。例えば、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン中のケイ素原子結合アルケニル基の個数に対するケイ素原子結合水素原子の個数比が0.1~4.0、好ましくは0.3~2.0となる量であればよい。当該範囲内で反応させることにより、上述したデュロメータA硬度を有する熱伝導性シリコーンゴム層が得られる。オルガノハイドロジェンポリシロキサンの量が少なすぎると、得られるシリコーンゴム組成物が十分に硬化しなくなることがある。一方、多すぎるとシリコーンゴム硬化物が非常に硬質となり、表面に多数のクラックを生じるなどの問題が発生する恐れがある。
【0025】
付加反応触媒は公知の触媒であればよい。例えば、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体、及び白金のカルボニル錯体等の白金系触媒が挙げられる。白金系触媒の含有量は、特に限定されず、付加反応を進行させる有効量でよい。例えば、上記アルケニル基含有オルガノポリシロキサンに対して触媒中の白金金属量として0.01~1,000ppmとなる量、好ましくは、0.1~500ppmとなる量であるのがよい。触媒量が少なすぎると、シリコーンゴム組成物が十分に硬化せず、一方、多量に使用しても得られるシリコーンゴム組成物の硬化速度は向上せず、経済的に不利となることがある。
【0026】
過酸化物硬化型シリコーンゴム組成物の場合も、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、特に制限されないが、1分子中に少なくとも2個の上記アルケニル基を有するものが好ましい。例えば、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端メチルフェニルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチル(3,3,3-トリフルオロプロピル)ポリシロキサン、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、及び、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上の併用でもよい。
【0027】
前記有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキサイド、及びt-ブチルパーベンゾエート等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上の併用であってもよい。有機過酸化物の添加量は、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン100質量部に対して、通常0.1~5質量部であればよく、特には0.5~3質量部であることが好ましい。当該範囲内で反応させることにより、上述したデュロメータA硬度を有する熱伝導性シリコーンゴム層が得られる。
【0028】
熱伝導性シリコーンゴム組成物に含まれる熱伝導性充填材としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ケイ素、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、及び窒化ホウ素等の無機粉末が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上の併用であってもよい。
【0029】
熱伝導性充填材の平均粒径は、好ましくは0.1μm以上50μm以下、より好ましくは1μm以上30μm以下であるのがよい。なお、本発明において、平均粒径は、マイクロトラック粒度分布測定装置MT3300EX(日機装株式会社)による体積基準の測定値である。平均粒径が上記上限超であるとシート表面の状態が荒れて、熱抵抗が上昇する恐れがある。
【0030】
熱伝導性シリコーンゴム組成物における熱伝導性充填材の配合量は、上記アルケニル基含有オルガノポリシロキサン100質量部に対して200~3,000質量部であるのが好ましく、より好ましくは400~2,000質量部であるのがよい。該熱伝導性充填材の配合量が少なすぎると、シリコーンゴム層の熱伝導性が不十分なものとなり易い。一方、熱伝導性充填材の配合量が多すぎると、充填材が組成物中へ均一に配合することが困難になる恐れがあり、そのため、成形加工性が悪くなる場合がある。
【0031】
上記熱伝導性シリコーンゴム組成物はさらに表面処理剤を含むのが好ましい。該表面処理剤としては、下記一般式(1)で表されるアルコキシシラン、又は、下記一般式(2)で表される、分子鎖片末端にトリアルコキシ基を有するジメチルポリシロキサンが挙げられる。これらの表面処理剤は、1種単独であっても、2種以上の併用であってもよく、下記式(1)で表されるアルコキシシランと下記式(2)で表されるジメチルポリシロキサンの併用であってもよい。
R
2
aR
3
b Si(OR
4)
4-a-b (1)
(式中、R
2は、互いに独立に炭素原子数6~15のアルキル基であり、R
3は、互いに独立に、非置換または置換の炭素原子数1~10の1価炭化水素基であり、R
4は、互いに独立に、炭素原子数1~6のアルキル基であり、aは1~3の整数であり、bは0~2の整数であり、但しa+bは1~3の整数である)
【化1】
(式中、R
5は、互いに独立に、炭素原子数1~6のアルキル基であり、cは5~100の整数であり、好ましくは8~50の整数である)
【0032】
R2は、炭素原子数6~15のアルキル基である。炭素原子数が該範囲内であることにより、熱伝導性充填材の濡れ性が十分向上し、取り扱い性がよく、組成物の低温特性が良好なものとなる。アルキル基としては、例えばヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、及びテトラデシル基等が挙げられる。
【0033】
R3は、非置換または置換の、炭素数1~10の1価炭化水素基である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などのアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基、ならびにこれらの基に炭素原子が結合している水素原子の一部又は全部が、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基などで置換された基、例えば、クロロメチル基、2-ブロモエチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基等が挙げられる。好ましくは炭素原子数1~8、特に好ましくは炭素原子数1~6、さらに好ましくは炭素数1~3の、置換又は非置換の一価炭化水素基である。より好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、シアノエチル基、フェニル基、クロロフェニル基、及びフルオロフェニル基等である。
【0034】
R4及びR5は、互いに独立に、炭素原子数1~6のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、及びペンチル基であり、好ましくはメチル基、又はエチル基である。
【0035】
上記式(1)で表されるアルコキシシランとしては、例えば、下記の化合物が挙げられる。該アルコキシシランは1種単独でも2種以上の併用であってもよい。
C6H13Si(OCH3)3
C10H21Si(OCH3)3
C12H25Si(OCH3)3
C12H25Si(OC2H5)3
C10H21Si(CH3)(OCH3)2
C10H21Si(C6H5)(OCH3)2
C10H21Si(CH3)(OC2H5)2
C10H21Si(CH=CH2)(OCH3)2
C10H21Si(CH2CH2CF3)(OCH3)2
【0036】
上記式(2)で表されるジメチルポリシロキサンとしては、例えば、下記のものを挙げることができる。
【化2】
【0037】
上記熱伝導性シリコーンゴム組成物における表面処理剤の量は、上記アルケニル基含有オルガノポリシロキサン100質量部に対して5~80質量部であるのが好ましく、より好ましくは10~75質量部であり、さらに好ましくは10~50質量部であるのがよい。表面処理剤の量が多すぎると、表面処理剤が経時でオイルブリードして実機を汚染する場合がある。また、量が少なすぎると上記熱伝導性充填材を熱伝導性シリコーンゴム組成物中に充填することができない場合がある。
【0038】
熱伝導性シリコーンゴム組成物には、本発明の目的を損なわない範囲でその他の添加剤を配合することができる。その他の添加剤としては、例えば、フュームドシリカ、沈降性シリカ等の補強性シリカ;シリコーンオイル、シリコーンウェッター等の可塑剤;白金、酸化チタン、ベンゾトリアゾール等の難燃剤;1-エチニル-1-シクロヘキサノール等のアセチレン化合物系付加反応制御剤;有機顔料、無機顔料等の着色剤;酸化鉄、酸化セリウム等の耐熱性向上剤;内添離型剤;トルエン等の溶剤などを挙げることができる。
【0039】
[高硬度熱伝導性シリコーンゴム層の形成]
上記高硬度を有する熱伝導性シリコーンゴム組成物を加熱硬化することにより高硬度熱伝導性シリコーンゴム層を得ることができる。本発明の熱伝導性シリコーンゴム層はデューロメータA硬度60~96を有し、好ましくは80~96である。該高硬度は、上記各成分を上述した範囲の配合量にて混合することにより得ることができる。特には硬化剤の添加量を上述した範囲内で調整することにより得られる。該硬度が上記下限値より低いと、取扱い時にゴム層表面に傷が付きやすくなったり、連続成型の際、ロール状に巻き取ったときにゴム層表面同士が融着する恐れがある、またスペースの保証が困難になる。また硬度が上記上限値より高いとシートの柔軟性が乏しくなり、シートを折り曲げたときに割れが発生する可能性がある。なお、本発明においてシリコーンゴム層の硬度は、6mm厚の熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化物を二枚重ねた状態で、デューロメータA硬度計を用いて25℃で測定したものである。
尚、本発明の熱伝導性シリコーンゴム層は中間補強層としてガラスクロスやポリイミドを含むことができるが、その場合、上記熱伝導性シリコーンゴム層の硬度とは、該中間補強層を含まない硬化物として測定される硬度である。
【0040】
本発明の熱伝導性シリコーンゴムシートにおいて、該熱伝導性シリコーンゴム層の厚みは、50μm以上900μm以下が好ましく、より好ましくは60μm以上700μm以下であるのがよい。上述した通り、高硬度熱伝導性シリコーンゴム層の厚みが薄いと、含まれる熱伝導性充填材が表面から突出し、塗工表面の滑らかさが損なわれてしまい、後述するシリコーン粘着層の積層が困難となる。
【0041】
熱伝導性シリコーンゴム層は、熱伝導率1.0W/m・K以上、より好ましくは1.2W/m・K以上を有するのが好ましい。熱伝導率が1.0W/m・K未満では、熱伝導特性が不十分となる恐れがある。
【0042】
本発明の熱伝導性シリコーンゴム層は、強度を向上するために中間補強層としてガラスクロスやポリイミドを含むことができる。ただし、ガラスクロスを中間層とする際には、後述する目止め工程を行う必要がある。ガラスクロスの厚みは30μm以上50μm以下で重量が30g/m2以下が好ましい。さらに好ましくは30μm以上45μm以下で重量が25g/m2以下が好ましい。ガラスクロスは熱伝導率が比較的低いので熱伝導を考えた際には薄い方が好ましい。しかし薄くなりすぎると強度が低下してしまい破れやすくなる、または成型性に乏しくなる。
【0043】
ガラスクロスを目止めする熱伝導性シリコーン樹脂の熱伝導率は1.0W/mK以上が好ましい。1.0W/mK以下だと熱伝導性シリコーン樹脂で目止めされたガラスクロスの熱伝導性が悪くなり、熱伝導性シリコーンゴムシート全体の熱伝導性を悪化させてしまうためである。該目止め用の熱伝導性シリコーン樹脂は、上記した熱伝導性シリコーンゴム組成物であればよい。また目止め後の厚みは100μm以下が好ましい、より好ましくは90μm以下である。目止めされたガラスクロスの厚みが100μm超では熱伝導性シリコーンゴムシート全体における高熱伝導性シリコーンゴム層が占める厚みの割合が小さくなってしまうため、全体の熱伝導性を考えた時に不利である。
【0044】
本発明の熱伝導性シリコーンゴム層は、非粘着性であるのが好ましい。本発明において非粘着性とは、粘着力0.01N/25m以下を有すること、特には粘着力が検出限界以下である状態を意味する。上述した本発明の熱伝導性シリコーンゴム層がデューロメータA硬度90付近を有すると、熱伝導性シリコーンゴム層は表面タック感がなくなり、上記のような粘着力を有し、いわゆる非粘着性となる。
【0045】
[シリコーン粘着層]
本発明の熱伝導性シリコーンゴムシートは、熱伝導性シリコーンゴム層の少なくとも1と、シリコーン粘着層の少なくとも1とが積層されて成る。該シリコーン粘着層は、下記(a)成分、(c)成分及び(f)成分を含有することを特徴とする、付加反応硬化型又は過酸化物硬化型シリコーン粘着剤組成物の硬化物である。
(a)ケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも1つ有し、ケイ素原子に結合したフェニル基を、ケイ素原子に結合した置換基の合計個数に対し2~20%となる個数で有するオルガノポリシロキサン: 100質量部、
(c)平均粒径10μm未満を有し、粒径20μm以上の粒子の量が0~3質量%であり、かつ粒径40μm以上の粒子の量が0~0.01質量%である熱伝導性充填材: 100~800質量部、及び
(f)R3SiO1/2単位(Rは、脂肪族不飽和結合を有さない、非置換又は置換の、炭素数1~10の1価炭化水素基である)及びSiO4/2単位を含み、SiO4/2単位に対するR3SiO1/2単位の個数比が0.5~2.5である、シリコーンレジン:50~300質量部。
【0046】
シリコーン粘着剤組成物は、付加反応硬化型であっても、過酸化物硬化型であってもよい。
付加反応硬化型であるシリコーン粘着剤組成物は、下記構成を有するのが好ましい。
(a)ケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも1つ有し、ケイ素原子に結合したフェニル基を、ケイ素原子に結合した置換基の合計個数に対し2~20%となる個数で有するオルガノポリシロキサン: 100質量部
(c)平均粒径10μm未満を有し、粒径20μm以上の粒子の量が0~3質量%であり、かつ粒径40μm以上の粒子の量が0~0.01質量%である熱伝導性充填材: 100~800質量部
(b)オルガノハイドロジェンポリシロキサン:前記(a)成分のアルケニル基の個数に対する(b)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の個数の比が0.5~50となる量、
(d)付加反応触媒:触媒量、
(e)付加反応制御剤:0.01~1質量部、及び
(f)R3SiO1/2単位(Rは、脂肪族不飽和結合を有さない、非置換又は置換の、炭素数1~10の1価炭化水素基である)及びSiO4/2単位を含み、SiO4/2単位に対するR3SiO1/2単位の個数比が0.5~2.5である、シリコーンレジン:50~300質量部。
【0047】
過酸化物硬化型であるシリコーン粘着剤組成物は、下記構成を有するのが好ましい。
(a)ケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも1つ有し、ケイ素原子に結合したフェニル基を、ケイ素原子に結合した置換基の合計個数に対し2~20%となる個数で有するオルガノポリシロキサン: 100質量部
(c)平均粒径10μm未満を有し、粒径20μm以上の粒子の量が0~3質量%であり、かつ粒径40μm以上の粒子の量が0~0.01質量%である熱伝導性充填材: 100~800質量部
(f)R3SiO1/2単位(Rは、脂肪族不飽和結合を有さない、非置換又は置換の、炭素数1~10の1価炭化水素基である)及びSiO4/2単位を含み、SiO4/2単位に対するR3SiO1/2単位の個数比が0.5~2.5である、シリコーンレジン:50~300質量部、及び
(g)有機過酸化物: 前記(a)成分100質量部に対して0.1~10質量部。
以下、各成分について、より詳細に説明する。
【0048】
[(a)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン]
(a)成分は、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも1つ、好ましくは2個以上有するオルガノポリシロキサンである。通常は主鎖部分が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなるが、分子構造の一部に分枝状の構造を含んだものであってもよく、また環状体であってもよい。特には、硬化物の機械的強度等、物性の点から直鎖状のジオルガノポリシロキサンが好ましい。オルガノポリシロキサンの25℃における動粘度は100~50000mm2/sであるのがよく、好ましくは1,000~30,000mm2/sであることが好ましい。該粘度はオストワルド粘度計により測定されるものである。
【0049】
本発明は(a)成分がケイ素原子に結合するフェニル基を、ケイ素原子に結合した置換基の合計個数に対し2~20%となる個数で含むことを特徴とする。好ましくは4~18%であり、より好ましくは7~15%である。該フェニル基の含有量が上記下限値未満であると、シリコーン粘着層を熱伝導性シリコーンゴム層に積層させる際に、経時で粘着力が低下する。また、フェニル基の含有量が上記上限値超えでは、シリコーン粘着層の初期粘着力及び経時粘着力共に著しく低下するため好ましくない。尚、ケイ素原子に結合した置換基とは、フェニル基、アルケニル基、及び、これら以外の置換基である。
【0050】
アルケニル基は、炭素原子数2~8を有するのが好ましく、例えばビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、及びシクロヘキセニル基が挙げられる。中でも、ビニル基、及びアリル基等の低級アルケニル基が好ましく、特に好ましくはビニル基がよい。
【0051】
ケイ素原子に結合するアルケニル基及びフェニル基以外の置換基は、一般的なアルケニル基含有オルガノポリシロキサンのケイ素原子に結合する有機基であればよい。好ましくは、非置換又は置換の、炭素原子数が1~10、より好ましくは炭素原子数が1~6、さらに好ましくは炭素原子数1~3の1価炭化水素基であり、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、ならびに、これらの炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部が、ハロゲン原子又はシアノ基などで置換された基等が挙げられる。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などのアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基、ならびにこれらの基に炭素原子が結合している水素原子の一部又は全部が、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基などで置換された基、例えば、クロロメチル基、2-ブロモエチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基等が挙げられる。特には、メチル基、エチル基、プロピル基、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、シアノエチル基、クロロフェニル基、及びフルオロフェニル基が好ましい。また、ケイ素原子に結合したアルケニル基以外の官能基は全てが同一であることを限定するものではない。
【0052】
[(b)オルガノハイドロジェンポリシロキサン]
(b)成分はオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、一分子中に平均で2個以上、好ましくは2~100個の、ケイ素原子に直接結合する水素原子(Si-H)を有するのがよい。該(b)成分は(a)成分の架橋剤として機能する。(b)成分中のSi-Hと(a)成分中のアルケニル基とのヒドロシリル化反応により、架橋構造を有する3次元網目構造を与える。Si-H基の数が平均して1個未満であると、硬化しない恐れがある。オルガノハイドロジェンポリシロキサンは従来公知の化合物であってよいが、例えば、下記一般式(3)で表すことができる。
【化3】
式(3)中、R
7は互いに独立に、脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の、炭素原子数1~10の1価炭化水素基あるいは水素原子であり、但し、少なくとも2個は水素原子であり、nは1以上の整数であり、好ましくはnは1~100の整数であり、より好ましくは5~50の整数である。
【0053】
R7において、脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の、炭素数1~10の、好ましくは炭素数1~6の、より好ましくは炭素数1~3の1価炭化水素基としては、たとえばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などのアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基、ならびにこれらの基に炭素原子が結合している水素原子の一部又は全部が、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基などで置換された基、例えば、クロロメチル基、2-ブロモエチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基等が挙げられる。中でも、メチル基、エチル基、プロピル基、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、シアノエチル基、フェニル基、クロロフェニル基、及びフルオロフェニル基等がより好ましい。R7は同一でも異なっていてもよく、但し、少なくとも2個のR7は水素原子である。
【0054】
(b)成分の量は、(a)成分中にあるアルケニル基の個数に対する(b)成分中にあるSi-H基の個数の比が0.1~30となる量、好ましくは0.5~15、さらに好ましくは1.0~5となる量である。(b)成分の量が上記下限値未満であると粘着層の硬化が不十分となりリワーク性が低下する。また上記上限値を超えると硬化物の柔軟性が著しく低下し、粘着力が大きく低下してしまうため好ましくない。
【0055】
[(c)熱伝導性充填材]
シリコーン粘着剤組成物に含まれる熱伝導性充填材は平均粒径10μm未満を有し、さらに粒径20μm以上の粒子の量が0~3質量%であり、かつ粒径40μm以上の粒子の量が0~0.01質量%であることを特徴とする。粒径がこの範囲でない場合、熱伝導性粘着層の表面状態が滑らかでなく接触が悪くなるため、所望の粘着力を得ることができず、熱抵抗も上昇してしまう。平均粒径は好ましくは1~10μmであり、より好ましくは1~5μmである。本発明における平均粒径は、レーザー回折・散乱式の粒子径分布測定装置であるマイクロトラックMT3300EX(日機装)を使用して決定される値(体積基準)である。熱伝導性充填材が二種以上の併用である場合は、個々の熱伝導性充填材が上記粒径の要件を満たしていればよい。
【0056】
熱伝導性充填材(c)中の粒径20μm以上の粒子の量および粒径40μm以上の粒子の量は、以下のようにして決定される。充填材10gを採取し、任意の量の水中に入れて超音波分散させる。目開きが20μmと40μmの篩を重ねて篩振とう機にセットし、上記水に分散させた熱伝導性充填材を上記振とう機に投入する。各篩上に残った充填材を乾燥させ、秤量する。
【0057】
上記熱伝導性充填材としては、例えば、アルミナ、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、及び金属アルミニウムから選ばれる少なくとも1が好ましく、熱伝導性、電気的絶縁性および価格などを総合的に考慮すると、アルミナが特に好ましい。
【0058】
(c)成分の量は、上記(a)成分100質量部に対して100~800質量部、好ましくは200~500質量部である。充填量が上記下限未満であると、粘着層に十分な熱伝導性を与えられない。また、上記上限を超えると、充填材が密になりすぎてしまい、組成物をコーティングして熱伝導性シートを得たときにシート表面の滑らかさが損なわれ、熱抵抗の上昇および粘着力の低下を招き得る。
【0059】
[(d)付加反応触媒]
(d)成分は付加反応触媒であり(a)成分由来のアルケニル基と、(b)成分由来のSi-H基の付加反応を促進するものであればよく、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として公知の触媒が挙げられる。例えば白金系金属触媒であり、白金(白金黒を含む)、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体、H2PtCl4・nH2O、H2PtCl6・nH2O、NaHPtCl6・nH2O、KaHPtCl6・nH2O、Na2PtCl6・nH2O、K2PtCl4・nH2O、PtCl4・nH2O、PtCl2、Na2HPtCl4・nH2O(但し、式中、nは0~6の整数であり、好ましくは0又は6である)等の塩化白金、塩化白金酸及び塩化白金酸塩、アルコール変性塩化白金酸(米国特許第3,220,972号明細書参照)、塩化白金酸とオレフィンとのコンプレックス(米国特許第3,159,601号明細書、同第3,159,662号明細書、同第3,775,452号明細書参照)、白金黒、パラジウム等の白金族金属をアルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの、ロジウム-オレフィンコンプレックス、クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒)、塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサン、特にビニル基含有環状シロキサンとのコンプレックスなどが挙げられる。(d)成分の量は、所謂触媒量で良く、通常、(a)成分に対する白金族金属元素の量として、0.1~2000ppm程度が良い。
【0060】
[(e)付加反応制御剤]
(e)成分は、通常の付加反応硬化型シリコーン組成物に用いられる公知の付加反応制御剤であればよく、特に制限されるものでない。例えば、1-エチニル-1-ヘキサノール、3-ブチン-1-オール、エチニルメチリデンカルビノールなどのアセチレン化合物や各種窒素化合物、有機リン化合物、オキシム化合物、及び有機クロロ化合物等が挙げられる。量は(a)成分100質量部に対して0.01~1質量部程度が望ましい。
【0061】
[(f)シリコーンレジン]
(f)シリコーンレジンは、シリコーン粘着剤組成物に凝集性を付与するために添加される。(f)成分を下記の特定量で含有することにより、適度な粘着力及び優れたリワーク性をシリコーンゴムシートに付与することができる。該シリコーンレジンはR3SiO1/2単位(M単位)と、SiO4/2単位(Q単位)の共重合体であり、M単位とQ単位の比(モル比)がM/Q=0.5~2.5、好ましくは0.6~1.4、更に好ましくは0.7~1.3であるのがよい。M/Qが0.5未満の場合、あるいはM/Qが1.5を超える場合、所望の凝集力が得られなくなる。
【0062】
Rは、脂肪族不飽和結合を含有しない、非置換又は置換の、炭素数1~10の1価炭化水素基である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基、並びにこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部が、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基などで置換された基、例えば、クロロメチル基、2-ブロモエチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基等が挙げられる。好ましくは炭素原子数が1~6であり、より好ましくは炭素数1~3である。中でも好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、シアノエチル基、フェニル基、クロロフェニル基、及びフルオロフェニル基等が好ましい。また、Rは全てが同一であっても異なっていてもよいが、R1と同じ置換基であることが望ましい。特には、上述したR1と同様に、耐溶剤性などの特殊な特性を要求されない限り、コスト、その入手のし易さ、化学的安定性、環境負荷などの理由により、全てのRがメチル基であることが好ましい。
【0063】
(f)成分の添加量は、(a)成分100質量部に対して50~300質量部であり、好ましくは60~250質量部であり、より好ましくは60~200質量部、更に好ましくは70~150質量部である。(f)成分の添加量が上記下限値未満では、凝集力の低下によって粘着力が低下してしまう。また上記上限値を超えると、粘着力の増大により実機に対するリワークが困難になる。(f)成分そのものは室温で固体又は粘稠な液体であるが、溶剤に溶解した状態で使用することも可能である。その場合、組成物への添加量は、溶剤分を除いた量で決定される。溶剤としては、トルエンやキシレン等を使用することができる。
【0064】
[(g)有機過酸化物]
(g)成分は、特定の条件下で分解して遊離ラジカルを生じる有機過酸化物であり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。例えば、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ジ(4,4-ジ-(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン等のパーオキシケタール、p-メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、ジスクシン酸パーオキサイド等のジアシルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネートが好適に用いられる。特には、分解温度が比較的高いパーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステルの使用が、取扱い性や保存性の観点から好ましい。またこれらの有機過酸化物は、任意の有機溶剤や炭化水素、流動パラフィンや不活性固体等で希釈されたものを用いてもよい。(g)成分の配合量は、(a)成分100質量部に対し0.01~10質量部であり、0.1~5質量部が好ましい。配合量が上記下限値未満であると成型物の硬化が満足に進行せず、また上記上限値を超える量であると、成型物が脆弱になって取扱い性が低下するとともに、多量に発生した分解残渣によって信頼性が低下する。
【0065】
[シリコーン粘着剤組成物の調整]
上述したシリコーン粘着剤組成物は、上述した(a)~(f)成分又は(a)、(c)、(f)及び(g)成分を、ミキサー等に仕込み混合せしめることで調製される。該シリコーン粘着剤組成物(即ち、塗工液)は、必要に応じてキシレン、トルエン等の溶剤で希釈してもよい。シリコーン粘着剤組成物(塗工液)の25℃における粘度は200~900mPa・s、好ましくは300~700mPa・s、より好ましくは400~600mPa・sであることが好ましい。粘度が上記下限値未満であるとコータ―機において塗工液が液だれしてしまい、粘着層の厚みにバラつきが生じやすい。一方、粘度が上記上限値超えであると、塗工液にボイドが含まれやすくなり、シリコーン粘着層を形成した際に、熱抵抗の上昇や外観不良が生じる恐れがある。尚、本発明においてシリコーン粘着剤組成物の粘度は、25℃にて回転粘度計を用いて測定される絶対粘度である。
【0066】
本発明のシリコーンゴムシートにおいて、シリコーン粘着層は厚さ2~40μm、好ましくは5~30μmを有するのが好ましい。上記下限値未満では、実機に対して所望の粘着力を得る事ができない。厚さが上記上限値を超えると、熱抵抗が大きく上昇してしまう。また、粘着力が過剰になることで、リワーク性が低下する。
【0067】
シリコーン粘着層は、下記粘着力を有するのが好ましい。
即ち、JIS C 2107:2011に準拠し、シリコーン粘着層を有する熱伝導性シリコーンゴムシートの幅を25mmとし、厚さ10mmのSUS板に対して、2kgローラーで5往復して、シリコーン粘着層側をSUS板に張り付ける。これを25℃/30分間放置した後に、定速引張り試験機にて引張り速度300mm/minで200mm、熱伝導性シリコーンゴムシートを引きはがした際の応力(粘着力)が、0.05~1.0(N/25mm)であることが好ましく、より好ましくは0.1~0.5(N/25mm)であるのがよい。粘着力が上記下限値未満では粘着力が不足し、所望の実装位置にシートを貼り付けることが困難になる。一方、上記上限値を超えると、実機でのリワーク性が低下してしまう。
【0068】
[熱伝導性シリコーンゴム組成物の調製]
オルガノポリシロキサンと熱伝導性充填材とを、ニーダー、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサー、品川ミキサー等の混合機を用いて、必要に応じ100℃以上程度の温度に加熱しつつ、混練りする。この混練り工程で、所望により、熱伝導性能を損なわない範囲内で、フュームドシリカ、沈降性シリカ等の補強性シリカ;シリコーンオイル、シリコーンウェッター等;白金、酸化チタン、ベンゾトリアゾール等の難燃剤等を添加・混合してもよい。
【0069】
混練り工程で得られた均一混合物を、室温に冷却した後、ストレーナー等を通して濾過し、次いで、2本ロール、品川ミキサー等を用いて、前記混合物に所要量の硬化剤を添加して、再度、混練りする。この再度の混練り工程で、所望により、1-エチニル-1-シクロヘキサノール等のアセチレン化合物系付加反応制御剤、有機顔料、無機顔料等の着色剤、酸化鉄、酸化セリウム等の耐熱性向上剤、内添離型剤等を添加・混合してもよい。この再度の混練り工程で得られた組成物をコーティング材として、直接、次工程に供してもよいが、必要に応じて、更にトルエン等の溶剤を加えて、プラネタリーミキサー、ニーダー等の攪拌機に投入して混合して、コーティング材(熱伝導性シリコーンゴム組成物)としても差し支えない
【0070】
[熱伝導性シリコーンゴム層の製造方法]
本発明の熱伝導性シリコーンゴム層は、上述した通り、中間補強層としてガラスクロスやポリイミドを含むのが好ましい。このような熱伝導性シリコーンゴム層は、例えば後述する方法で製造すればよい。中間補強層を有さない場合には熱伝導性シリコーンゴム組成物のみで加熱硬化させて、シート状に成形すればよい。
【0071】
[熱伝導性シリコーンゴム組成物で目止めされたガラスクロスの製造方法]
上記工程により得られた熱伝導性シリコーンゴム組成物(コーティング材)を、ガラスクロスに塗布する。逐次、乾燥炉、加熱炉および巻き取り装置を備えたコンマコーター、ナイフコーター、キスコーター等のコーティング装置を用いて、連続的にガラスクロスに塗布した後、溶剤等を乾燥・蒸散させ、付加反応硬化型の場合は、80~200℃、好ましくは100~150℃程度に、5~20分間程加熱して、一方、過酸化物硬化型の場合は、100~200℃、好ましくは110~180℃程度に、2~15分間程加熱して、熱伝導性シリコーンゴム組成物で目止めされたガラスクロスを得る。
【0072】
上記工程により得られた、熱伝導性シリコーン樹脂で目止めされたガラスクロスの片面(表面)に、上述した熱伝導性シリコーンゴム組成物(コーティング材)を塗布する。逐次、乾燥炉、加熱炉および巻き取り装置を備えたコンマコーター、ナイフコーター、キスコーター等のコーティング装置を用いて、連続的に目止めされたガラスクロスの片面(表面)に塗布した後、溶剤等を乾燥・蒸散させ、付加反応硬化型の場合は、80~200℃、好ましくは100~150℃程度に、5分から20分間程加熱して積層する。また、過酸化物硬化型の場合は、100~200℃、好ましくは110~180℃程度に、2分から15分間程加熱して積層する。これにより、ガラスクロスを有する高硬度熱伝導性シリコーンゴム層を得る。
さらに同様に上記工程により得られた、目止めされたガラスクロスのもう片面(裏面)に、熱伝導性シリコーンゴム組成物を塗布し、同様に高硬度熱伝導性シリコーンゴム層を形成する。表面と裏面の高硬度熱伝導性シリコーンゴムシートの組成は同一である必要はなく異なっていてもよい。
【0073】
[熱伝導性シリコーンゴムシートの作成]
上記シリコーン粘着剤組成物(塗工液)を、上述した高硬度熱伝導性シリコーンゴム層の少なくとも1の面に塗布し、硬化させることにより、本発明の熱伝導性シリコーンゴムシートを得る。塗布及び硬化工程は、従来公知の方法に従い行えばよい。例えば、乾燥炉、加熱炉および巻き取り装置を備えたコンマコーター、ナイフコーター、キスコーター等のコーティング装置を用いて、上記シリコーン粘着剤組成物(塗工液)を連続的に高硬度熱伝導性シリコーンゴム層の少なくとも1の面に塗布した後、溶剤等を乾燥・蒸散させ、80~180℃、好ましくは100~150℃で2~20分程度に加熱し硬化させることにより、熱伝導性シリコーンゴムシートを得ることができる。
【0074】
前記熱伝導性シリコーンゴムシートはさらに保護シートを有し、シリコーン粘着層の熱伝導性シリコーンゴムシートと接していない面が該保護シートで被覆されており、ロール状に巻かれている熱伝導性シリコーンゴムシートであってよい。保護シートとは、例え
ばPETフィルムや離型紙であればよい。
【実施例】
【0075】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0076】
[高硬度熱伝導性シリコーンゴム層]
実施例および比較例に用いた成分は以下の通りである。
・ジメチルビニル基で両末端封止したジメチルポリシロキサン(平均重合度8000)
・有機過酸化物:(2メチルベンゾイル)パーオキサイド
・熱伝導性充填材:
(z-1)破砕状アルミナ(平均粒径:1μm)
(z-2)球状アルミナ(平均粒径:10μm)
(z-3)破砕状窒化ホウ素(平均粒径:15μm)
・表面処理剤:下記式(4)で表され、片末端がトリメトキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
【化4】
・可塑剤:下記式(5)で表されるジメチルポリシロキサン
【化5】
【0077】
上記各成分を下記表1に記載の組成にてバンバリーミキサーに投入し、20分混練りすることで熱伝導性シリコーンゴム組成物1~6を得た。
【0078】
【0079】
下記の方法にて、厚みが38μmで重量が24g/m2のガラスクロスに熱伝導性シリコーンゴム組成物をコーティングした。
上記熱伝導性シリコーンゴム組成物について、22wt%となるようにトルエンを添加し、プラネタリーミキサーを用いて混練りし、熱伝導性シリコーンコーティング材を得た。該熱伝導性シリコーンコーティング材を、コンマコーターを用いて、ガラスクロス上に塗工した。用いたコンマコーターは、幅が1300mmで有効オーブン長が15mである。15mのオーブンは5mずつ3つのゾーンに区切られ、ゾーンごとで温度を調整できるようになっており、コンマ部に近い側から80℃、150℃、170℃とし、塗工速度は1.5m/minとした。ガラスクロスに連続的に熱伝導性シリコーンコーティング材を塗工し、巻き取ることで熱伝導性シリコーン樹脂で目止めされたガラスクロスを得た。目止めされたガラスクロスの厚みは80μmであった。
さらに、上記ガラスクロスの目止めに使用した熱伝導性シリコーンゴム組成物と同じ組成の熱伝導性シリコーンゴム組成物を用い、15wt%となるようにトルエンを添加し、プラネタリーミキサーを用いて塗工液を調製した。上記目止めされたガラスクロス上に上記コンマコーターを用いて該塗工液を片面に塗工し巻き取り、裏面にも同様に塗工し巻き取ることで、総厚200μmである高硬度熱伝導性シリコーンゴム層を得た。塗工は、ガラスクロスへの目止めで用いたコンマコーターを用い、同じ塗工条件にて行った。
【0080】
熱伝導性シリコーンゴム層の評価
(1)硬度測定
上記熱伝導性シリコーンゴム組成物1~6の各々を、140℃/10分の硬化条件にて6mm厚のシート状に硬化させ、2枚重ねてデューロメータA硬度計を用いて硬度を測定した。結果を下記表2及び3に示す。該熱伝導性シリコーンゴム層は何れも、表面にタック感は全くなく、粘着力は検出限界以下であった。
(2)熱伝導率
上記熱伝導性シリコーンゴム組成物1~6の各々を、140℃/10分の硬化条件にて6mm厚のシート状に硬化させて熱伝導性シリコーンゴム層を得た。該熱伝導性シリコーンゴム層の熱伝導率を熱伝導率測定装置(TPA-501、京都電子工業株式会社製)を用いて測定した。結果を下記表2及び3に示す。
【0081】
[シリコーン粘着剤組成物]
シリコーン粘着剤組成物の調製に用いた各成分は以下の通りである。
下記において、フェニル基の含有比率(%)は、ケイ素原子に結合した置換基の合計個数に対するケイ素原子に結合したフェニル基の個数%である。下記においてオルガノポリシロキサンの粘度は、オストワルド粘度計により測定される25℃における動粘度である。平均粒径はマイクロトラックMT3300EX(日機装)により測定される体積平均粒径である。
(a)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン
(a-1)ビニル基を有し、フェニル基を5%含むオルガノポリシロキサン(5000mm
2/s)
(a-2)ビニル基を有し、フェニル基を20%含むオルガノポリシロキサン(2000mm
2/s)
比較用(a-3)ビニル基を有し、フェニル基を0.5%含むオルガノポリシロキサン(8000mm
2/s)
比較用(a-4)ビニル基を有し、フェニル基を30%含むオルガノポリシロキサン(1600mm
2/s)
(b)下記式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン(1500mPa・s)
【化6】
(c)熱伝導性充填材
(c-1)不定形アルミナ(平均粒径:1μm、粒径20μm以上の粒子の量:3質量%以下、粒径40μm以上の粒子の量:0%)
(c-2)不定形窒化アルミ(平均粒径:5μm、粒径20μm以上の粒子の量:3質量%以下、粒径40μm以上の粒子の量:0%)
(c-3)破砕状酸化亜鉛(平均粒径:2μm、粒径20μm以上の粒子の量:3%以下、粒径40μm以上の粒子の量:0%)
比較用(c-4)不定形アルミナ(平均粒径:1μm、粒径20μm以上の粒子の量:10質量%、粒径40μm以上の粒子の量:3質量%)
比較用(c-5)不定形アルミナ(平均粒径:15μm、粒径20μm以上の粒子の量:3%以下、粒径40μm以上の粒子の量:0%)
(d)付加反応触媒:5%塩化白金酸2-エチルヘキサノール溶液
(e)付加反応制御剤:エチニルメチリデンカルビノール
(f)シリコーンレジン:(CH
3)
3SiO
1/2単位及びSiO
4/2単位からなり、SiO
4/2単位に対する(CH
3)
3SiO
1/2単位の個数比が1.15であるシリコーンレジンのキシレン溶液(不揮発分60%、M/Q(モル比)=1.15)
(g)有機過酸化物:1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン
【化7】
【0082】
[実施例1~5及び比較例1~6]
上記(a)、(c)、(d)、及び(f)成分を下記表2又は3に記載の組成となるように品川式万能撹拌機に仕込み、30分間混合せしめ、次いで(e)成分を添加し、均一に混合し、更に(b)を添加して均一に混合して粘度500mPa・sを有する付加硬化型シリコーン粘着剤組成物を得た。
[参考例6]
上記(a)、(c)、及び(f)成分を下記表2に記載の組成となるように品川式万能撹拌機に仕込み、30分間混合せしめ、次いで(g)成分を添加し、均一に混合して、粘度400mPa・sを有する過酸化物硬化型シリコーン粘着剤組成物を得た。
尚、上記シリコーン粘着剤組成物の粘度はいずれも、25℃にて回転粘度計を用いて測定された絶対粘度である。また、表2及び3に記載のシリコーンレジンの質量部は、キシレン溶液中のレジン分の量である。
【0083】
上記各シリコーン粘着剤組成物(塗工液)を上述したコンマコーターを用いて、上記で得た高硬度熱伝導性シリコーンゴム層の片面に塗工した。乾燥ゾーンは、コンマ部に近い側から80℃、120℃、140℃とし、塗工速度は4m/minとした。高硬度熱伝導性シリコーンゴム層に連続的に塗工し硬化してシリコーン粘着層を形成した。
その後、該シリコーン粘着層の表面を剥離シリコーン処理PETフィルム(保護フィルム、市販品)で被覆した後に巻き取ることで、ロール状に巻かれた高硬度熱伝導性シリコーンゴムシートを得た。尚、コンマコーターのへッド部のギャップを調整することで、シリコーン粘着層の厚みを所望の厚みに調整することができる。
【0084】
[評価方法]
上記で得た各熱伝導性シリコーンゴムシートについて、下記方法にて評価した。結果を表2及び3に示す。
(1)粘着層の厚み
シリコーン粘着層を含む熱伝導性シリコーンゴムシート全体(但し、保護フィルムは含まない)の厚みをマイクロゲージを使用して計測した。得られた値から熱伝導性シリコーンゴム層の厚み(200μm)をさし引いた値を算出して、シリコーン粘着層の厚みとした。
(2)粘着力
JIS C 2107:2011に準拠し、ステンレス鋼板(SUS板)に、上記熱伝導性シリコーンゴムシート(幅25mm)より保護フィルムを剥がした粘着層側を張り付けて25℃/30min間放置した後に180°ピール試験を行い、引っぱり速度300mm/分にてステンレス鋼板(SUS板)から200mm剥離するのに必要とされる力(剥離力)を計測した。該剥離力をシリコーン粘着層の初期粘着力とし、表2及び3に示す。
(3)粘着層の経時安定性
熱伝導性シリコーンゴムシートの粘着層表面に保護フィルムを張りつけた状態で、60℃/2ヶ月エージングした後、保護フィルムを剥がして上記(2)と同じ方法にて剥離力の測定を行った。該剥離力を60℃/2ヶ月後の粘着力として表2及び3に示す。
(4)リワーク性
上記(2)に記載のピール試験の際に、SUS板上に直径1mm以上の粘着層の残留物があるか観察した。残留物がない場合にリワーク性良好(○)であるとし、残留物がある場合はリワーク性不良(×)とした。結果を表2及び3に示す。なお、比較例4の熱伝導性シリコーンゴムシートにおいては、直径1mm以上の残留物があり、粘着力測定は不可であった。
(5)熱抵抗
上記熱伝導性シリコーンゴムシートの熱抵抗をASTM D5470に準拠する方法にて測定した。また、該熱伝導性シリコーンゴムシートを60℃にて2カ月保管した後、ASTM D5470に準拠する方法にて熱抵抗を測定した。
【0085】
【0086】
【0087】
上記表2に示す通り、比較例1ではシリコーン粘着層におけるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンのフェニル基量が少な過ぎるため、経時で粘着力が低下した。比較例2では、シリコーン粘着層におけるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンのフェニル基量が多すぎるため、所望の粘着力を得ることができなかった。比較例3のシリコーン粘着剤組成物は、熱伝導性充填材が粒径20μm以上の粒子の量を3質量%以上で含み、かつ粒径40μm以上の粒子の量0.01質量%以上を有するため、粘着層表面精度が低下し、所望の粘着力を得ることができなかった。比較例4のシリコーン粘着剤組成物は、熱伝導性充填材が平均粒径10μm以上を有するため、粘着層表面精度が低下し、また、リワーク性が悪く、粘着力の測定ができなかった。さらに、比較例5の組成物はシリコーンレジン量が少なすぎるため、凝集力が不足して粘着力が低下した。比較例6の組成物はシリコーンレジン量が多すぎるため、粘着力が増大し、リワーク性が低下した
これに対し、表1に示す通り、本発明の熱伝導性シリコーンゴムシートは、保存しても経時で顕著な熱抵抗の上昇がなく、リワーク性に優れ、且つ粘着力の経時変化がなく、信頼性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の熱伝導性シリコーンゴムシートは、作業性、熱伝導性に優れ、粘着力の経時変化を抑制し、リワーク性に優れ、且つ、シートの熱抵抗の上昇を抑える。さらには、本発明の熱伝導性シリコーンゴムシートは、プライマー等を使用した従来の積層方法よりもより簡便なプロセスで製造することができる。