(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】ビスホスフィンオキシド希土類錯体及び光学機能性材料
(51)【国際特許分類】
C07F 9/6509 20060101AFI20230501BHJP
C07C 49/92 20060101ALI20230501BHJP
C07F 5/00 20060101ALN20230501BHJP
【FI】
C07F9/6509 Z CSP
C07C49/92
C07F5/00 D
(21)【出願番号】P 2019132858
(22)【出願日】2019-07-18
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 靖哉
(72)【発明者】
【氏名】北川 裕一
(72)【発明者】
【氏名】鶴井 真
(72)【発明者】
【氏名】田村 健
(72)【発明者】
【氏名】佐野 夏博
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-203052(JP,A)
【文献】特開2005-082529(JP,A)
【文献】国際公開第2011/013520(WO,A1)
【文献】特開2016-074787(JP,A)
【文献】米国特許第04234729(US,A)
【文献】Inorganic Chemistry ,2009年,Vol.48, No.23,11242-11250
【文献】NATURE COMMUNICATIONS,2018年,9:2290,1-10
【文献】Chemical Science,2017年,8,2841-2851
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 9/6509
C07F 5/00
C07C 49/92
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類イオンにビスホスフィンオキシド配位子及びアセチルアセトン配位子が配位した、下記一般式(1)で表されるビスホスフィンオキシド希土類錯体。
【化1】
(式中、R
1~R
4は、置換されていてもよい直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~10のアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基、置換されていてもよいアダマンチル基又は置換されていてもよいフェニル基を示し、R
1~R
4は、それぞれが同一の基であっても異なる基であってもよい。R
5は
、直鎖状又は分岐状であり且つ炭素数が1~6のアルキル基、シクロアルキル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基及びシリル基から選ばれる一価の置換基を示し、nは0~4の整数を示す。m1は1~2の整数を示し、m1が2の場合、2つのビスホスフィンオキシド配位子は、それぞれが同一であっても異なっていてもよい。
A
1~A
3は、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアルコキシカルボニル基、ニトロ基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、置換されていてもよいジアリールホスフィノ基、置換されていてもよいジヘテロアリールホスフィノ基、炭素数1~20のジアルキルホスフィノ基、炭素数1~20のアルキルアリールホスフィノ基又は炭素数1~20のアルキルヘテロアリールホスフィノ基を示す。A
1~A
3は、それぞれが同一の基であっても異なる基であってもよく、A
1とA
3又はA
2とA
3はお互いに結合して環構造を形成していてもよい。m2は2~4の整数を示し、2~4つのアセチルアセトン配位子は、それぞれが同一であっても異なっていてもよい。
Lnは三価の希土類イオンを示す。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表されるビスホスフィンオキシド希土類錯体の光学活性体。
【請求項3】
下記一般式(2)又は下記一般式(3)で表される請求項2記載のビスホスフィンオキシド希土類錯体の光学活性体。
【化2】
(一般式(2)の式中のR
1~R
2、R
5、n、A
1~A
3、Ln、m1及びm2は前記一般式(1)と同義。但し、R
1とR
2は同一の基ではない。
一般式(3)の式中のR
1、R
3~R
4、R
5、n、A
1~A
3、Ln、m1及びm2は前記一般式(1)と同義。但し、R
3とR
4は同一の基ではない。
一般式(2)及び一般式(3)の式中の*はリン原子上の不斉中心を示す。)
【請求項4】
一般式(2)の式中のR
1及びR
2が、下記(i)~(v)の何れかの組み合わせの基である請求項3記載のビスホスフィンオキシド希土類錯体の光学活性体。
(i)R
1とR
2がtert-ブチル基とメチル基の組み合わせ。
(ii)R
1とR
2がアダマンチル基とメチル基の組み合わせ。
(iii)R
1とR
2が1,1,3,3-テトラメチルブチル基とメチル基の組み合わせ。
(iv)R
1とR
2がイソプロピル基とメチル基の組み合わせ。
(v)R
1とR
2が1-メチルシクロヘキシル基とメチル基の組み合わせ。
【請求項5】
一般式(3)の式中のR
1、R
3及びR
4が、下記(1)~(12)の何れかの組み合わせの基である請求項3記載のビスホスフィンオキシド希土類錯体の光学活性体。
(1)R
1はtert-ブチル基であり、R
3とR
4がtert-ブチル基とメチル基の組み合わせ。
(2)R
1はtert-ブチル基であり、R
3とR
4が1,1,3,3-テトラメチルブチル基とメチル基の組み合わせ。
(3)R
1はtert-ブチル基であり、R
3とR
4がアダマンチル基とメチル基の組み合わせ。
(4)R
1はtert-ブチル基であり、R
3とR
4がイソプロピル基とメチル基の組み合わせ。
(5)R
1はアダマンチル基であり、R
3とR
4がtert-ブチル基とメチル基の組み合わせ。
(6)R
1はアダマンチル基であり、R
3とR
4が1,1,3,3-テトラメチルブチル基とメチル基の組み合わせ。
(7)R
1はアダマンチル基であり、R
3とR
4がアダマンチル基とメチル基の組み合わせ。
(8)R
1はアダマンチル基であり、R
3とR
4がイソプロピル基とメチル基の組み合わせ。
(9)R
1は1,1,3,3-テトラメチルブチル基であり、R
3とR
4がtert-ブチル基とメチル基の組み合わせ。
(10)R
1は1,1,3,3-テトラメチルブチル基であり、R
3とR
4が1,1,3,3-テトラメチルブチル基とメチル基の組み合わせ。
(11)R
1は1,1,3,3-テトラメチルブチル基であり、R
3とR
4がアダマンチル基とメチル基の組み合わせ。
(12)R
1は1,1,3,3-テトラメチルブチル基であり、R
3とR
4がイソプロピル基とメチル基の組み合わせ。
【請求項6】
一般式(2)及び一般式(3)の式中のA
1及びA
2が、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基であり、A
3が水素原子である請求項3記載の希土類錯体。
【請求項7】
請求項2記載の一般式(1)で表されるビスホスフィンオキシド希土類錯体の光学活性体を含む光学機能性材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスホスフィンオキシド希土類錯体及び光学機能性材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
希土類イオンの4f軌道の準位は、通常、結晶場の存在などにより縮退しない。その準位間のエネルギー差に対応した光を照射すれば、4f軌道の準位間における電子遷移により発光が生じ、尖鋭な発光スペクトルが得られる。このようなf-f遷移に基づく希土類イオンの発光は色純度が高く美しいことから、ディスプレイや光学デバイス用材料として注目されている。希土類イオンに有機配位子を取りつけた希土類錯体は、配位構造や配位子の組み合わせを変化させることにより、光機能を自由に制御できる特徴を有している。
【0003】
光学活性配位子が希土類錯体に組み込まれることによって、円偏光発光(CPL)が生じる。円偏光発光性を示す光学機能材料は、通常の可視光の中にセキュリティー情報として右円偏光及び左円偏光を付与することができることから、セキュリティーマーカーや偏光インキの原料として注目されている。
【0004】
円偏光発光性とは、例えば紫外線の照射等により蛍光または燐光を発する化合物において、該化合物の発する蛍光又は燐光の左右の円偏光の強度が異なるという性質を表す。円偏光性はg値(異方性因子)で示すことができる。例えば、CPLスペクトルを観測し、下記計算式により、CPLスペクトルからgCPL値を算出したとき、g≠0となる光を放出する性質である。
g値=2ΔI/I=2(IL-IR)/(IL+IR)
(式中、ILは左回りの円偏光発光強度、IRは右回りの円偏光発光強度を表す。)
また、右回りと左回りの円偏光を選択的に吸収できることが円偏光二色性スペクトル(CDスペクトル)から示され、下記計算式よりg値を算出する。
g値=2Δε/ε=2(εL-εR)/(εL+εR)
(式中、εLは左回りの円偏光における吸光係数、IRは右回りの円偏光における吸光係数を表す。)
【0005】
円偏光発光性を示す化合物として、例えばBINAPOをはじめとするビナフチル構造を有した希土類錯体が提案されている(特許文献1、特許文献2)。この希土類錯体は、ビナフチル構造配位子のジアステレマー構造に由来する不斉配位子場により、円偏光性を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-327590号公報
【文献】特開2005-097240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまで、種々の希土類錯体が開発されているが、発光強度が大きく、かつ円偏光発光性を有するものの数は少ない。
【0008】
従って、本発明の目的は、新規な希土類錯体を提供すること。更に、発光強度が大きく、かつ、円偏光発光性を有する希土類錯体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記実情を鑑み鋭意研究を重ねた結果、特定構造のビスホスフィンオキシド希土類錯体が、極めて大きい発光強度と円偏光発光性とを有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明が提供しようとする第1の発明は、希土類イオンにビスホスフィンオキシド配位子及びアセチルアセトン配位子とが配位した、下記一般式(1)で表されるビスホスフィンオキシド希土類錯体である。
【0011】
【化1】
(式中、R
1~R
4は、置換されていてもよい直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~10のアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基、置換されていてもよいアダマンチル基又は置換されていてもよいフェニル基を示し、R
1~R
4は、それぞれが同一の基であっても異なる基であってもよい。R
5は一価の置換基を示し、nは0~4の整数を示す。m1は1~2の整数を示し、m1が2の場合、2つのビスホスフィンオキシド配位子は、それぞれが同一であっても異なっていてもよい。
A
1~A
3は、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアルコキシカルボニル基、ニトロ基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、置換されていてもよいジアリールホスフィノ基、置換されていてもよいジヘテロアリールホスフィノ基、炭素数1~20のジアルキルホスフィノ基、炭素数1~20のアルキルアリールホスフィノ基又は炭素数1~20のアルキルヘテロアリールホスフィノ基を示す。A
1~A
3は、それぞれが同一の基であっても異なる基であってもよく、A
1とA
3又はA
2とA
3はお互いに結合して環構造を形成していてもよい。m2は2~4の整数を示し、2~4つのアセチルアセトン配位子は、それぞれが同一であっても異なっていてもよい。
Lnは三価の希土類イオンを示す。)
【0012】
本発明が提供しようとする第2の発明は、前記一般式(1)で表されるビスホスフィンオキシド希土類錯体の光学活性体である。
本発明が提供しようとする第3の発明は、前記第2の発明の一般式(1)で表されるビスホスフィンオキシド希土類錯体の光学活性体を含む光学機能性材料である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、新規な希土類錯体を提供することができる。更に、発光強度が大きく、かつ、円偏光発光性を有する希土類錯体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1で得られたビスホスフィンオキシド希土類錯体の溶液中の励起スペクトル図。
【
図2】実施例1で得られたビスホスフィンオキシド希土類錯体の溶液中の発光スペクトル図。
【
図3】実施例1で得られたビスホスフィンオキシド希土類錯体粉体の励起スペクトル図。
【
図4】実施例1で得られたビスホスフィンオキシド希土類錯体粉体の発光スペクトル図。
【
図5】実施例1及び実施例2で得られたビスホスフィンオキシド希土類錯体のCDスペクトル図。
【
図6】実施例1及び実施例2で得られたビスホスフィンオキシド希土類錯体のCPLスペクトル図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を好ましい実施形態に基づいて説明する。
本発明に係るビスホスフィンオキシド希土類錯体は、前記一般式(1)で表される。即ち、希土類イオンを介してビスホスフィンオキシド配位子部位とアセチルアセトン配位子部位を含む希土類錯体である。
【0016】
前記一般式(1)で表される本発明のビスホスフィンオキシド希土類錯体において、ビスホスフィンオキシド配位子部位に係る式中のR1、R2、R3及びR4は、置換されていてもよい直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~10のアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基、置換されていてもよいアダマンチル基又は置換されていてもよいフェニル基を示す。また、R1~R4は、それぞれが同一の基であっても異なる基であってもよい。
【0017】
R1~R4に係る直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n-プロピル基、イソブチル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソヘプチル基、n-ヘプチル基、イソヘキシル基、n-ヘキシル基及び1,1,3,3-テトラメチルブチル基(tert-オクチル基)等が挙げられる。
【0018】
R1~R4に係るシクロアルキル基は、炭素数3~10のものが好ましく、特に炭素原子数3~6のものがより好ましい。このようなシクロアルキル基としては、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0019】
R1~R4が、置換基を有するシクロアルキル基、置換基を有するアダマンチル基又は置換基を有するフェニル基である場合の該置換基としては、アルキル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基及びヨード基等が挙げられる。また、R1~R4が、置換基を有するアルキル基である場合の該置換基としては、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基及びヨード基等が挙げられる。置換基が炭素原子を有する場合、その炭素原子を含めて既定の炭素数であることが好ましい。R1~R4が、置換基を有するアルキル基である場合の該置換基としては、トリフルオロメチル基等が挙げられる。
【0020】
前記一般式(1)中のビスホスフィンオキシド配位子部位に係るR5は、一価の置換基を示す。R5としては、一価の置換基であれば特に制限はないが、例えば、直鎖状又は分岐状であり且つ炭素数が1~6のアルキル基、シクロアルキル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基及びシリル基等が挙げられる。一般式(1)の式中のnは0~4の整数を示す。
【0021】
前記一般式(1)中のアセチルアセトン配位子部位に係るA1~A3は、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基、炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10のアルコキシカルボニル基、ニトロ基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、置換されていてもよいジアリールホスフィノ基、置換されていてもよいジヘテロアリールホスフィノ基、炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10のジアルキルホスフィノ基、炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10のアルキルアリールホスフィノ基又は炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10のアルキルヘテロアリールホスフィノ基を示す。
【0022】
A1~A3に係るアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基及びアントリル基等が挙げられる。A1~A3に係るジアリールホスフィノ基及びアルキルアリールホスフィノ基中のアリール基も同様である。
【0023】
A1~A3に係るヘテロアリール基としては、例えば、ピリジル基、チエニル基、フリル基、ピラゾリル基及びイミダゾリル基等が挙げられる。A1~A3に係るジヘテロアリールホスフィノ基及びアルキルヘテロアリールホスフィノ基中のヘテロアリール基も同様である。
【0024】
A1~A3のアリール基等を置換し得る置換基としては、例えば、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数1~10のアルコキシカルボニル基、ニトロ基、フェニル基及びナフチル基等が挙がられる。
【0025】
A1~A3は、それぞれが同一の基であっても異なる基であってもよい。A1及びA2は、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基であることが好ましく、特にトリフルオロメチル基であることが好ましい。また、A3は水素原子又は重水素原子であることが好ましい。
【0026】
また、A1とA3又はA2とA3はお互いに結合して環構造を形成していてもよい。該環構造を形成している場合、アセチルアセトン配位子部位は下記一般式(a)又は(b)で表されるカンファー誘導体から誘導される部位であることが好ましい。なお、一般式(a)と一般式(b)とは光学異性体の関係にある。
【0027】
【化2】
(式中、Z
1は、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基、炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10のアルコキシカルボニル基、ニトロ基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、置換されていてもよいジアリールホスフィノ基、置換されていてもよいジヘテロアリールホスフィノ基、炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10のジアルキルホスフィノ基、炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10のアルキルアリールホスフィノ基又は炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10のアルキルヘテロアリールホスフィノ基を示す。Z
2~Z
3はそれぞれ独立に、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10のアルキル基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基又はメルカプト基のいずれかを示す。式中の*は炭素原子上の不斉中心を示す。)
【0028】
Z1に係るアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基及びアントリル基等が挙げられる。Z1に係るジアリールホスフィノ基及びアルキルアリールホスフィノ基中のアリール基も同様である。
【0029】
Z1に係るヘテロアリール基としては、例えば、ピリジル基、チエニル基、フリル基、ピラゾリル基及びイミダゾリル基等が挙げられる。Z1に係るジヘテロアリールホスフィノ基及びアルキルヘテロアリールホスフィノ基中のヘテロアリール基も同様である。
【0030】
Z1のアリール基等を置換し得る置換基としては、例えば、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数1~10のアルコキシカルボニル基、ニトロ基、フェニル基又はナフチル基等が挙がられる。
【0031】
本発明において、Z1は炭素数1~10のパーフルオロアルキル基であることが好ましく、特にトリフルオロメチル基であることが好ましい。
【0032】
また、前記一般式(1)の式中のLnは、三価の希土類イオンを示し、例えば、Eu(III)イオン、Tb(III)イオン、Sm(III)イオン、Yb(III)イオン、Nd(III)イオン、Er(III)イオン、Dy(III)イオン、Gd(III)イオンが挙げられ、これらのうち、高い発光強度となる観点からEu(III)イオン、Tb(III)イオンが好ましく、特にEu(III)イオンが好ましい。
【0033】
前記一般式(1)中のm1は、Lnで表される三価の希土類イオンに対するビスホスフィンオキシド配位子の配位数を示し、m2はLnで表される三価の希土類イオンに対するアセチルアセトン配位子の配位数を示す。m1は1~2の整数を示し、好ましくは1であり、m2は2~4の整数を示し、好ましくは3である。m1が2の場合、Lnで表される三価の希土類イオンに配位する2つのビスホスフィンオキシド配位子は、それぞれが同一であっても異なっていてもよい。Lnで表される三価の希土類イオンに配位する2~4つのアセチルアセトン配位子は、それぞれが同一であっても異なっていてもよい。
【0034】
本発明において、前記一般式(1)で表されるビスホスフィンオキシド希土類錯体は、円偏光発光性を示す光学機能材料として用いる観点から、光学活性体であることが好ましい。該光学活性体としては、下記一般式(2)及び下記一般式(3)で表されるビスホスフィンオキシド希土類錯体が、発光強度が大きく、かつ、円偏光発光性を有する希土類錯体となる観点から好ましい。
【0035】
CPLスペクトルの分析において、例えば、下記一般式(2)で表されるビスホスフィンオキシド希土類錯体の光学活性体は、(R,R)体と(S,S)体で反転した形状のCPLスペクトルが観測される。
【0036】
【化3】
(式中のR
1~R
2、R
5、n、A
1~A
3、Ln、m1及びm2は前記一般式(1)と同義。但し、R
1とR
2は同一の基ではない。*はリン原子上の不斉中心を示す。)
【0037】
【化4】
(式中のR
1、R
3~R
4、R
5、n、A
1~A
3、Ln、m1及びm2は前記一般式(1)と同義。但し、R
3とR
4は同一の基ではない。*はリン原子上の不斉中心を示す。)
【0038】
前記一般式(2)で表されるビスホスフィンオキシド希土類錯体の光学活性体に係る化合物は、前記一般式(2)の式中のR1、R2、R5、n、A1~A3、Ln、m1及びm2が、前記一般式(1)のビスホスフィンオキシド希土類錯体の式中のそれぞれR1、R2、R5、n、A1~A3、Ln、m1及びm2に相当し、また、R1=R3、R2=R4の関係にある化合物である。
【0039】
前記一般式(2)の式中のR1及びR2は、下記(i)~(v)の何れかの組み合わせの基であることが、光学機能性材料として用いる場合に好ましい。
(i)R1とR2がtert-ブチル基とメチル基の組み合わせ。
(ii)R1とR2がアダマンチル基とメチル基の組み合わせ。
(iii)R1とR2が1,1,3,3-テトラメチルブチル基とメチル基の組み合わせ。
(iv)R1とR2がイソプロピル基とメチル基の組み合わせ。
(v)R1とR2が1―メチルシクロヘキシル基とメチル基の組み合わせ。
本発明において、前記一般式(2)の式中のR1及びR2は、特に前記(i)~(iii)の組み合わせであることが好ましい。
【0040】
前記一般式(3)で表されるビスホスフィンオキシド希土類錯体の光学活性体に係る化合物は、前記一般式(3)の式中のR1、R3~R5、n、A1~A3、Ln、m1及びm2が、前記一般式(1)のビスホスフィンオキシド希土類錯体の式中のそれぞれR1、R3~R5、n、A1~A3、Ln、m1及びm2に相当し、また、R1=R2の関係にある化合物である。
【0041】
前記一般式(3)の式中のR1、R3及びR4が、下記(1)~(12)の何れかの組み合わせの基であることが、光学機能性材料として用いる場合に好ましい。
(1)R1はtert-ブチル基であり、R3とR4がtert-ブチル基とメチル基の組み合わせ。
(2)R1はtert-ブチル基であり、R3とR4が1,1,3,3-テトラメチルブチル基(一般に「tert-オクチル基」と呼ばれることもある)とメチル基の組み合わせ。
(3)R1はtert-ブチル基であり、R3とR4がアダマンチル基とメチル基の組み合わせ。
(4)R1はtert-ブチル基であり、R3とR4がイソプロピル基とメチル基の組み合わせ。
(5)R1はアダマンチル基であり、R3とR4がtert-ブチル基とメチル基の組み合わせ。
(6)R1はアダマンチル基であり、R3とR4が1,1,3,3-テトラメチルブチル基とメチル基の組み合わせ。
(7)R1はアダマンチル基であり、R3とR4がアダマンチル基とメチル基の組み合わせ。
(8)R1はアダマンチル基であり、R3とR4がイソプロピル基とメチル基の組み合わせ。
(9)R1は1,1,3,3-テトラメチルブチル基であり、R3とR4がtert-ブチル基とメチル基の組み合わせ。
(10)R1は1,1,3,3-テトラメチルブチル基であり、R3とR4が1,1,3,3-テトラメチルブチル基とメチル基の組み合わせ。
(11)R1は1,1,3,3-テトラメチルブチル基であり、R3とR4がアダマンチル基とメチル基の組み合わせ。
(12)R1は1,1,3,3-テトラメチルブチル基であり、R3とR4がイソプロピル基とメチル基の組み合わせ。
【0042】
前記一般式(1)で表されるビスホスフィンオキシド希土類錯体は、下記反応スキーム(1)に従って、下記一般式(4)で表されるビスホスフィン化合物を酸化処理して下記一般式(5)で表されるビスホスフィンオキシド化合物を得た後、次いで下記一般式(6)で表される希土類化合物と反応させることにより製造することができる。
【0043】
【化5】
(式中のR
1~R
5、n、A
1~A
3、Ln、m1及びm2は前記一般式(1)と同義。)
【0044】
前記一般式(4)で表されるビスホスフィン化合物を過酸化水素等の酸化剤で酸化処理することにより、前記一般式(5)で表されるビスホスフィンオキシド化合物を得ることができる。
前記一般式(4)で表されるビスホスフィン化合物は公知の化合物であり、公知の製造方法で製造することができる(例えば、特開2007-56007号公報、特開2011-219413号公報、特開2019-31460号公報、WO2019/12918号パンフレット、WO2019/69828号パンフレット、Journal of Organic Chemistry Vol.77,4184-4188(2012)等参照)。
【0045】
次いで、前記一般式(5)で表されるビスホスフィンオキシド化合物と、前記一般式(6)で表される希土類化合物とを-50~80℃、好ましくは0~40℃で1~24時間撹拌して反応させることにより、前記一般式(1)で表されるビスホスフィンオキシド希土類錯体を得ることができる。
前記一般式(6)で表される希土類化合物は、例えば、特開2004-345989号公報、特開2005-82529号公報、特開2013-121921号公報、特開2016-166140号公報、等に記載の方法により製造することができる。
本発明において、前記一般式(6)で表される希土類化合物は、トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナート)ユウロピウム(Eu(hfa)3(H2O)2)であることが特に好ましい。
【0046】
なお、前記一般式(2)又は前記一般式(3)で表される、ビスホスフィンオキシド希土類錯体の光学活性体を製造する場合は、前記一般式(4)で表されるビスホスフィン化合物として対応する光学活性体を用いればよい。なお、前記一般式(4)で表されるビスホスフィン化合物の光学活性体は、公知の製造方法で製造することができる(例えば、例えば、特開2007-56007号公報、特開2011-219413号公報、特開2019-31460号公報、WO2019/12918号パンフレット、WO2019/69828号パンフレット、Journal of Organic Chemistry Vol.77,4184-4188(2012)等)。また、前記一般式(4)で表されるビスホスフィン化合物の光学活性体は、日本化学工業により市販されている。
【0047】
本発明のビスホスフィンオキシド希土類錯体を光学機能材料として用いる場合は、ビスホスフィンオキシド希土類錯体を直接用いてもよいし、ビスホスフィンオキシド希土類錯体を透明ポリマーや透明ガラスなどの透明固体担体に含有させてもよい。また、ビスホスフィンオキシド希土類錯体を有機溶媒に溶解させて塗料とすることもできる。
【0048】
光学機能材料としては、例えば、円偏光フィルター、セキュティインク、セキュリティセンサー、バイオ関連におけるラベリング剤(イムノアッセイ)、円偏光光源等が挙げられる。
【0049】
また、前記一般式(2)で表されるビスホスフィンオキシド希土類錯体には、(R,R)、(R,S)、(S,S)の各種の光学異性体、前記一般式(3)で表されるビスホスフィンオキシド希土類錯体には、(R)、(S)の光学異性体が存在するが、本発明のビスホスフィンオキシド希土類錯体を光学機能材料として用いる場合には、これらの光学異性体の混合物であってもよい。
【0050】
また、本発明に係るビスホスフィンオキシド希土類錯体を含有させる透明ポリマーとしては、当該分野で公知のものを用いることができ、例えばポリメチルメタクリレート、含フッ素ポリメタクリレート、ポリアクリレート、含フッ素ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン、含フッ素ポリオレフィン、ポリビニルエーテル、含フッ素ポリビニルエーテル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、及びそれらの共重合体、セルロース、ポリアセタール、ポリエステル、ポリカーボネイト、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン、ナフィオン、石油樹脂、ロジン、ケイ素樹脂などが例示され、好ましくはポリメチルメタクリレート、含フッ素ポリメタクリレート、ポリアクリレート、含フッ素ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリビニルエーテル、及びそれらの共重合体、エポキシ樹脂等の1種又は2種以上で使用することができる。
【0051】
ビスホスフィンオキシド希土類錯体を含有するポリマーを配合して成型加工する方法としては、特に制限はされないが、射出成型、ブロー成形、圧縮成型、押出成型、反応成型、中空成形、熱成型、FRP成型等が挙げられる。
【0052】
ビスホスフィンオキシド希土類錯体を含む塗料により、担体の表面に塗膜を形成するには、従来公知の方法で行えばよく、例えば、刷毛塗法、浸漬塗布法、スピンコーティング法、プレートコーティング法、スピナーコーティング法、ビードコーティング法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、凸版印刷法が挙げられる。
【0053】
また、本発明のビスホスフィンオキシド希土類錯体は、発光色を変化させることを目的として、有機色素と併用することができる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
<ビスホスフィン化合物>
下記一般式(4a)で表される2,3-ビス(tert-ブチルメチルホスフィノ)キノキサリンの(R,R)体(略称:(R,R)-QuinoxP*、日本化学工業社製)と、2,3-ビス(tert-ブチルメチルホスフィノ)キノキサリンの(S,S)体(略称:(S,S)-QuinoxP*、日本化学工業社製)を使用した。
【0056】
【化6】
(式中、R
1はメチル基、R
2はtert-ブチル基を示す。)
【0057】
〔実施例1〕
【化7】
<R,R-QuinoxP
*Oの合成>
(R,R)-QuinoxP
*(98.3mg、0.29mmol)をジクロロメタン(2mL)に溶解させた。その溶液を0℃に冷却し、H
2O
230%aq.(2mL)を滴下し、4時間撹拌した。反応液をジクロロメタンと飽和食塩水で3度抽出し、有機層をMgSO
4で脱水し、溶媒を除去することで白色粉体(R,R-QuinoxP
*O)を得た。
(R,R-QuinoxP
*Oの同定データ)
1H NMR(400MHz,CDCl
3/TMS) δ/ppm=8.12(dd,2H,J=3.4Hz,6.4Hz),7.91(dd,2H,J=3.2Hz,6.4Hz),2.12(d,6H,J=12.8Hz),1.44(d,18H,J=14.6Hz)
【0058】
<Eu(hfa)3(R,R-QuinoxP*O)の合成>
R,R-QuinoxP*O(66.7mg、0.18mmol)をジクロロメタン(5ml)に溶解させた。その溶液にEu(hfa)3(H2O)2(193.4mg、0.24mmol)を加え、2時間撹拌した。反応液をろ過し、ろ液の溶媒を除去した後メタノールで再結晶することで無色透明な樹状結晶(Eu(hfa)3(R,R-QuinoxP*O)を得た。
((Eu(hfa)3(R,R-QuinoxP*O)の同定データ)
ESI-Mass(m/z):[M-hfa]+ calcd. for C28H30EuF12N2O6P2,933.06; found,933.09
Elemental analysis(%):calcd. for C33H31EuF18N2O8P2,C 34.78,H 2.74,N 2.46; found, C 34.50,H 2.50,N 2.33
FT-IR(ATR):1653(st,C=O),1252(st,C-F),1139(st,P=O)cm-1
【0059】
〔実施例2〕
【化8】
(R,R)-QuinoxP
*に代えて(S,S)-QuinoxP
*を用いた以外は実施例1と同様にして、無色透明な樹状結晶(Eu(hfa)
3(S,S-QuinoxP
*O)を得た。
((Eu(hfa)
3(S,S-QuinoxP
*O)の同定データ)
ESI-Mass(m/z):[M-hfa]
+ calcd. for C
28H
30EuF
12N
2O
6P
2,933.06; found,933.10
Elemental analysis(%):calcd. for C
33H
31EuF
18N
2O
8P
2,C 34.78,H 2.74,N 2.46; found,C 34.36,H 2.53,N 2.29
【0060】
(発光量子収率の測定)
実施例1で得られたビスホスフィンオキシド希土類錯体(Eu(hfa)
3(R,R-QuinoxP
*O))の溶液中の励起スペクトル(
図1)及び発光スペクトル(
図2)を測定した。測定には、Eu(hfa)
3(R,R-QuinoxP
*O)11.4mgを分光分析用ジクロロメタンに10mLに溶解したサンプルを用いた。
【0061】
(発光量子収率φLn、放射速度定数kr、無放射速度定数knrの算出)
発光量子収率φLn、放射速度定数kr、無放射速度定数knrは、式(1)~(3)に基づき算出した。結果を表1に示す。
φLn=kr/(kr+knr)=τobs/τrad (1)
1/τrad=AMD,0n3(Itot/IMD) (2)
kr=1/τrad (3)
τobs:観測された発光寿命
τrad:失活過程のない理想的な発光寿命
AMD,0:定数 14.65s-1
n:溶媒の屈折率
Itot/IMD:磁気双極子遷移の面積/発光スペクトルの全体の面積(光学的特性の測定)
【0062】
【0063】
また、実施例1で得られたビスホスフィンオキシド希土類錯体(Eu(hfa)
3(R,R-QuinoxP
*O))粉体の励起スペクトル(
図3)及び発光スペクトル(
図4)を測定した。
算出した発光量子収率φ
Ln、放射速度定数k
r、無放射速度定数k
nrを表2に示す。
【表2】
【0064】
(CDスペクトルの測定)
実施例1及び実施例2で得られたビスホスフィンオキシド希土類錯体の円偏光発光性を求めるため、ビスホスフィンオキシド希土類錯体のジクロロメタン溶液(1×10
-4M)を調製し、CDスペクトルを測定した。その結果を
図5に示す。
【0065】
(円偏光発光スペクトル(CPLスペクトル)の測定)
実施例1及び実施例2で得られたビスホスフィンオキシド希土類錯体の円偏光を調べるため、円偏光発光スペクトル(CPLスペクトル)を測定した。円偏光発光スペクトルはビスホスフィンオキシド希土類錯体のジクロロメタン溶液(1×10
-3M)を調製し、以下の測定条件で測定を行った。その結果を
図6に示す。
測定装置:CPL-200 (JASCO)
励起側
:励起波長:360nm、スリット幅:3000μm
検出側
:感度:Standard、データ取り込み間隔:0.2nm、走査モード:Continuous、走査速度:10nm/min、レスポンス:1sec、スリット幅:200μm、積算:5回
【0066】
図5及び
図6に示したように、(R,R)体と(S,S)体とでは、反転した形状のCDスペクトルとCPLスペクトルが観測された。また、下記計算式により、CPLスペクトルからg
CPL値を算出した。結果を表3に示す。なお、g
CPL値は、絶対値として表記した。実施例1では発光波長が588.4nmでの値であり、実施例2では発光波長が588.6nmでの値である。
g値=2ΔI/I=2(I
L-I
R)/(I
L+I
R)
(式中、I
Lは左回りの円偏光発光強度、I
Rは右回りの円偏光発光強度を表す。)
【0067】
【0068】
表3より、gCPLは、Eu(hfa)3(R-BINAPO)の文献値(0.03)(Inorg.Chem.2009,48,11242)より、2~2.5倍高いことが確認された。