(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】ADAMTS4のAPP切断活性制御物質のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20230501BHJP
C12Q 1/37 20060101ALI20230501BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20230501BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20230501BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230501BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12Q1/37
C12Q1/68
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
C12N15/12 ZNA
(21)【出願番号】P 2021515912
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2020014433
(87)【国際公開番号】W WO2020217865
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2019086092
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 直樹
(72)【発明者】
【氏名】富田 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 遥太
(72)【発明者】
【氏名】松崎 将也
(72)【発明者】
【氏名】横山 雅シャラ
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0305314(US,A1)
【文献】国際公開第2005/108949(WO,A2)
【文献】国際公開第2015/178398(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/047529(WO,A1)
【文献】NAKAMURA, A. et al,High performance plasma amyloid-β biomarkers for Alzheimer's disease,NATURE,2018年,Vol.554,pp.249-254
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
APP669のN末端切断活性の制御物質をスクリーニングする方法であって、
候補物質を培養細胞に作用させる工程と、
前記培養細胞から産生される
APP669-xを測定する工程と、
APP669のN末端切断活性を評価する工程と、
を含む、スクリーニング方法。
【請求項2】
前記APP669のN末端切断活性を評価する工程において、
前記候補物質を作用させていないコントロール細胞のAPP669-x量を基準レベルとして、
前記候補物質を作用させた細胞のAPP669-x量が前記基準レベルよりも高い場合にAPP669のN末端切断活性が増加したと判断し、及び
前記候補物質を作用させた細胞のAPP669-x量が前記基準レベルよりも低い場合にAPP669のN末端切断活性が低下したと判断する、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
APP669のN末端切断活性の制御物質をスクリーニングする方法であって、
候補物質を培養細胞に作用させる工程と、
前記培養細胞から産生されるAPP669-x、及び、Aβ1-y(ここで、y=x-671)を測定する工程と、
APP669のN末端切断活性を評価する工程と、
を含む、スクリーニング方法。
【請求項4】
前記APP669のN末端切断活性を評価する工程において、
前記候補物質を作用させていないコントロール細胞のAPP669-x量及び
Aβ1-y(ここで、y=x-671)量の各量を基準レベルとして、
前記候補物質を作用させた細胞のAPP669-x量が前記基準レベルよりも高く、且つ、
Aβ1-y(ここで、y=x-671)量が前記基準レベルと同等もしくは前記基準レベルよりも低い場合に、APP669のN末端切断活性が増加したと判断し、及び
前記候補物質を作用させた細胞のAPP669-x量が前記基準レベルよりも低く、且つ、
Aβ1-y(ここで、y=x-671)量が前記基準レベルと同等もしくは前記基準レベルよりも高い場合に、APP669のN末端切断活性が低下したと判断する、請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
前記候補物質が、低分子化合物、ペプチド、タンパク質及び核酸からなる群から選ばれる、請求項1~
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記候補物質が、ADAMTS4をターゲットに設計された低分子化合物、ペプチド、タンパク質及び核酸からなる群から選ばれる、請求項1~
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
APP669のN末端切断活性の制御物質をスクリーニングする方法であって、
In vitroの系で、候補物質存在下のもとADAMTS4を全長APP又はAPP669位前後の配列を含むAPP断片に作用させる工程と、
前記全長APP又はAPP669位前後の配列を含むAPP断片から産生されるAPP669-xを測定する工程と、
APP669のN末端切断活性を評価する工程と、
を含む、スクリーニング方法。
【請求項8】
前記APP669のN末端切断活性を評価する工程において、
前記候補物質を存在させていないコントロール系でのAPP669-x量を基準レベルとして、
前記候補物質を存在させた系でのAPP669-x量が前記基準レベルよりも高い場合にAPP669のN末端切断活性が増加したと判断し、及び
前記候補物質を存在させた系でのAPP669-x量が前記基準レベルよりも低い場合にAPP669のN末端切断活性が低下したと判断する、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記候補物質が、低分子化合物、ペプチド、タンパク質及び核酸からなる群から選ばれる、請求項
7又は
8に記載の方法。
【請求項10】
ADAMTS4を含むAPP669のN末端切断剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ADAMTS4のAPP切断活性制御物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(Alzheimer's disease;AD)は認知症の主な原因で、認知症全体の半数以上を占める神経変性疾患である。認知症患者数は2017年で世界中に約5000万人いると推計され、2030年には約8200万人になると見込まれている。日本国内でも認知症患者数は2025年には700万人に達すると推定されている。
【0003】
アルツハイマー病の発症にはアミロイドβ(Aβ)が深く関わっていると考えられている。膜一回貫通タンパク質で770残基のアミノ酸から成るアミロイド前駆タンパク質(Amyloid precursor protein;APP)が各種プロテアーゼによる切断を受けることによって、様々な分子種のAβが産生される(
図1参照)。主要なAβとしてはアミノ酸40残基のAβ1-40とアミノ酸42残基のAβ1-42が存在し、Aβ1-42は凝集性が強い。アルツハイマー病では、Aβの線維化を伴う凝集により脳内に老人斑が出現し、それが最も早期の病理学的変化と考えられている。
【0004】
Aβ1-40及びAβ1-42は、APPから、N末端を切断するβ-セクレターゼによる切断、及びC末端を切断するγ-セクレターゼによる切断によって生成される。また、Aβの17位のロイシンのN末端を切断するα-セクレターゼも存在することが知られており、α-セクレターゼはsAPPαの産生に関与している。
【0005】
Aβ1-40及びAβ1-42以外にもAPPからは様々なAβ分子種(すなわち、Aβ関連ペプチド)が産生されることが報告されており、ヒト血漿中にも複数種類のAβ関連ペプチドが存在することが示されている(非特許文献1,2,3)。
【0006】
それらAβ関連ペプチドの中で、APP669-711(Aβ(-3-40)とも呼ばれる)は、脳内アミロイド蓄積状態を推定する血液バイオマーカーの構成因子として有効であることが報告された(非特許文献4,5)。APP669-711のC末端は、Aβ1-40のC末端と同じであるため、γ-セクレターゼによる切断を受けた部位と考えられるが、APP669-711のN末端がどのようなプロテアーゼにより切断されたのかは明らかとなっていない。
【0007】
α-セクレターゼがAPPを切断することによりsAPPαが産生されると、Aβ(すなわち、Aβ1-40及びAβ1-42)の産生量が減少することが確認されている。その機構を利用し、α-セクレターゼ活性を調節することで脳内のアミロイド蓄積を抑制し、神経変性疾患の治療に役立てるというアプローチが報告されている(非特許文献6)。
【0008】
一方、脳の機能に重要な分泌タンパク質であるリーリンの発現低下や分解亢進がアルツハイマー病等の疾患の一因となることが知られており、リーリンの分解酵素A disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs 3(ADAMTS-3)を同定し、その活性制御に基づいたアルツハイマー病等の疾患の有効な予防や治療手段の開発につなげるアプローチも報告されている(WO 2014/027668,日本国特許第5838481号)。
【0009】
WO 2015/111430(米国公開US 2016/0334420)には、APP切断型ペプチドの測定方法が開示されている。
【0010】
特開2017-20980号公報(米国公開US 2017/0016910)には、ポリペプチドの質量分析方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】WO 2014/027668
【文献】日本国特許第5838481号公報
【文献】WO 2015/111430
【文献】米国公開US 2016/0334420
【文献】特開2017-20980号公報
【文献】米国公開US 2017/0016910
【非特許文献】
【0012】
【文献】Wang R, Sweeney D, Gandy SE, Sisodia SS: The profile of soluble amyloid beta protein in cultured cell media. Detection and quantification of amyloid beta protein and variants by immunoprecipitation-mass spectrometry. J Biol Chem. 1996; 13;271(50):31894-902.
【文献】Beyer I, Rezaei-Ghaleh N, Klafki HW, Jahn O, Hausmann U, Wiltfang J, Zweckstetter M, Knolker HJ: Solid-Phase Synthesis and Characterization of N-Terminally Elongated Aβ-3-x -Peptides. Chemistry. 2016;13;22(25):8685-93.
【文献】Kaneko N, Yamamoto R, Sato TA, Tanaka K.:Identification and quantification of amyloid beta-related peptides in human plasma using matrix-assisted laser desorption/ionization time-of-flight mass spectrometry. Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci. 2014;90(3):104-17.
【文献】Kaneko N, Nakamura A, Washimi Y, Kato T, Sakurai T, Arahata Y, Bundo M, Takeda A, Niida S, Ito K, Toba K, Tanaka K, Yanagisawa K. : Novel plasma biomarker surrogating cerebral amyloid deposition. Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci. 2014;90(9):353-64.
【文献】Nakamura A, Kaneko N, Villemagne VL, Kato T, Doecke J, Dore V, Fowler C, Li QX, Martins R, Rowe C, Tomita T, Matsuzaki K, Ishii K, Ishii K, Arahata Y, Iwamoto S, Ito K, Tanaka K, Masters CL, Yanagisawa K. : High performance plasma amyloid-β biomarkers for Alzheimer's disease. Nature. 2018;8;554(7691):249-254.
【文献】Peron R, Vatanabe IP, Manzine PR, Camins A, Cominetti MR. : Alpha-Secretase ADAM10 Regulation: Insights into Alzheimer's Disease Treatment. Pharmaceuticals 2018; 11(1), 12
【文献】Tomita T, Maruyama K, Saido TC, Kume H, Shinozaki K, Tokuhiro S, Capell A, Walter J, Grunberg J, Haass C, Iwatsubo T, Obata K. : The presenilin 2 mutation (N141I) linked to familial Alzheimer disease (Volga German families) increases the secretion of amyloid beta protein ending at the 42nd (or 43rd) residue. Proc Natl Acad Sci U S A. 1997;94(5):2025-30.
【文献】Suzuki K, Hayashi Y, Nakahara S, Kumazaki H, Prox J, Horiuchi K, Zeng M, Tanimura S, Nishiyama Y, Osawa S, Sehara-Fujisawa A, Saftig P, Yokoshima S, Fukuyama T, Matsuki N, Koyama R, Tomita T, Iwatsubo T. : Activity-dependent proteolytic cleavage of neuroligin-1. Neuron. 2012;76(2):410-22.
【文献】White AR, Du T, Laughton KM, Volitakis I, Sharples RA, Xilinas ME, Hoke DE, Holsinger RM, Evin G, Cherny RA, Hill AF, Barnham KJ, Li QX, Bush AI, Masters CL. : Degradation of the Alzheimer disease amyloid beta-peptide by metal-dependent up-regulation of metalloprotease activity. J Biol Chem. 2006;281(26):17670-80.
【文献】Lichtenthaler SF, Multhaup G, Masters CL, Beyreuther K. : A novel substrate for analyzing Alzheimer's disease gamma-secretase. FEBS Lett. 1999;453(3):288-92.
【文献】Kanatsu K, Morohashi Y, Suzuki M, Kuroda H, Watanabe T, Tomita T, Iwatsubo T. : Decreased CALM expression reduces Aβ42 to total Aβ ratio through clathrin-mediated endocytosis of γ-secretase. Nat Commun. 2014;5:3386.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
α-セクレターゼについての上述した知見を踏まえれば、APP669のN末端を切断する酵素(以下、本明細書において単にAPP669切断酵素と呼ぶこともある)の活性を制御することが、Aβ(すなわち、Aβ1-40及びAβ1-42)の産生抑制に基づくアルツハイマー病の予防や治療手段として重要となると考えられる。このような技術的課題はこれまで知られていない。
【0014】
現時点でAPP669-x産生に関わるAPP669のN末端切断酵素が明らかとなっていないため、まず、そのような酵素を同定することが求められる。
【0015】
そして、APP669のN末端切断活性を強く制御する(強く促進する)物質が見つかれば、Aβ(Aβ1-40及びAβ1-42)の産生量の抑制にも利用できると考えられる。つまり、APP669のN末端切断酵素活性の制御物質が薬剤候補になる可能性があり、それを開発するためには、制御物質をスクリーニングする方法が必要となってくる。
【0016】
そこで、本発明の目的は、APP669のN末端切断酵素を同定することにある。また、本発明の目的は、APP669のN末端切断活性を制御する物質をスクリーニングする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、鋭意検討した結果、A disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs 4(ADAMTS4)がAPP669のN末端を切断する酵素の一つであることを突き止めた。さらには、APP669-x(N末端がAPP669であるペプチド)の産生を抑制するとAβ(Aβ1-40及びAβ1-42)が増えること、N末端がAPP669のAPP断片はβ-セクレターゼ(BACE1)による切断を受けないことも確認した。これらの知見から、本発明に到達した。
【0018】
本発明の第1の態様は、APP669のN末端切断活性の制御物質をスクリーニングする方法であって、
候補物質を培養細胞に作用させる工程と、
前記培養細胞から産生されるAβ関連ペプチドを測定する工程と、
APP669のN末端切断活性を評価する工程と、
を含む、スクリーニング方法である。
【0019】
本発明の第2の態様は、APP669のN末端切断活性の制御物質をスクリーニングする方法であって、
In vitroの系で、候補物質存在下のもとADAMTS4を全長APP又はAPP669位前後の配列を含むAPP断片に作用させる工程と、
前記全長APP又はAPP669位前後の配列を含むAPP断片から産生されるAPP669-xを測定する工程と、
APP669のN末端切断活性を評価する工程と、
を含む、スクリーニング方法である。
【0020】
本発明の第3の態様は、ADAMTS4を含むAPP669のN末端切断剤である。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、ADAMTS4が、アミロイド前駆体タンパク質(Amyloid precursor protein;APP)の669番目のアミノ酸のN末端部位を切断してAPP669-xペプチドを産生するという新規な知見に基づいており、ADAMTS4を含むAPP669のN末端切断剤が提供される。
【0022】
本発明によれば、APP669-xペプチド量を指標として、APP669のN末端切断活性を制御する物質をスクリーニングする方法が提供される。
【0023】
本発明によれば、APP669-xペプチド量を指標として、ADAMTS4によるAPP669のN末端切断活性を制御する物質をスクリーニングする方法が提供される。
【0024】
本発明のスクリーニング方法によれば、APP669-xペプチドの産生量の変化に応じて、同じAPPから産生されるアミロイドβ(Aβ)の量も変動するため、ADAMTS4に着目した分子標的薬や遺伝子治療に有効な物質のスクリーニングに有用な手法となる。
【0025】
アルツハイマー病の発症にはアミロイドβ(Aβ)が深く関わっていると考えられており、そのため、本発明のスクリーニング方法によれば、APP669のN末端切断活性を制御することに基づいて、アルツハイマー病の予防薬や治療薬開発に有用なスクリーニングが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、アミロイド前駆タンパク質(APP)の分解による、Aβペプチドの生成経路を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、A549-ADAMTS4 KO細胞において、改変されたADAMTS4遺伝子領域の配列を示す。上段は、元ゲノムについての塩基配列(配列番号12)を示しており、下段は、遺伝子編集後のゲノム(3アレル)についての塩基配列:上から、16bp欠損した配列(配列番号13)、29bp欠損した配列(配列番号14)、20bp欠損した配列(配列番号15)を示している。
【
図3】
図3は、実施例1において、A549-ADAMTS4 KO細胞とA549-wt細胞それぞれに、GM6001(25μM)、又は、コントロールとしてDMSOを添加したときの培養上清中のAPP669-711産生量を表すグラフであり、縦軸は標準化強度(Normalized intensity)の平均値である。
【
図4】
図4は、実施例1において、APP669-709産生量に関するグラフである。
【
図5】
図5は、実施例1において、Aβ1-40産生量に関するグラフである。
【
図6】
図6は、実施例1において、Aβ1-38産生量に関するグラフである。
【
図7】
図7は、実施例2において、APP stable HEKにADAMTS4 plasmid vectorとempty pcDNA3.1 hygro+ vectorとを1:10および10:1の割合でco-transfectionしたときの培養上清中のAPP669-711産生量を表すグラフであり、vectorをtransfectionしていない細胞(mock)とempty pcDNA3.1 hygro+ vectorのみをtransfectionした細胞(empty)をコンロトールとした。縦軸は標準化強度(Normalized intensity)の平均値である。
【
図8】
図8は、実施例2において、APP669-709産生量に関するグラフである。
【
図9】
図9は、実施例2において、Aβ1-40産生量に関するグラフである。
【
図10】
図10は、実施例2において、Aβ1-38産生量に関するグラフである。
【
図11】
図11は、実施例3において、HEK細胞へヒトAPPと共にEGFP、ADAMTS4、および不活性型ADAMTS4_E362Aをco-transfectionしたときの培養上清中のAPP669-711産生量を表すグラフである。縦軸は標準化強度(Normalized intensity)の平均値である。
【
図12】
図12は、実施例3において、APP669-709産生量に関するグラフである。
【
図13】
図13は、実施例3において、Aβ1-40産生量に関するグラフである。
【
図14】
図14は、実施例3において、Aβ1-38産生量に関するグラフである。
【
図15】
図15は、実施例4において、BE(2)-C細胞へ25μM GM6001、又は10μM INCB3619を作用させたときの培養上清中のAPP669-711産生量を表すグラフである。縦軸は標準化強度(Normalized intensity)の平均値である。
【
図16】
図16は、実施例4において、BE(2)-C細胞についてのAPP669-709産生量に関するグラフである。
【
図17】
図17は、実施例4において、BE(2)-C細胞についてのAβ1-40産生量に関するグラフである。
【
図18】
図18は、実施例4において、BE(2)-C細胞についてのAβ1-38産生量に関するグラフである。
【
図19】
図19は、実施例4において、A549細胞へ25μM GM6001、又は10μM INCB3619を作用させたときの培養上清中のAPP669-711産生量を表すグラフである。縦軸は標準化強度(Normalized intensity)の平均値である。
【
図20】
図20は、実施例4において、APP669-709産生量に関するグラフである。
【
図21】
図21は、実施例4において、Aβ1-40産生量に関するグラフである。
【
図22】
図22は、実施例4において、Aβ1-38産生量に関するグラフである。
【
図23】
図23は、実施例4において、APP stable HEK細胞へ25μM GM6001を作用させたときの培養上清中のAPP669-711産生量を表すグラフである。縦軸は標準化強度(Normalized intensity)の平均値である。
【
図24】
図24は、実施例4において、APP669-709産生量に関するグラフである。
【
図25】
図25は、実施例4において、Aβ1-40産生量に関するグラフである。
【
図26】
図26は、実施例4において、Aβ1-38産生量に関するグラフである。
【
図27】
図27は、実施例5において、APP stable HEK細胞に対して、MT-MMP1,2,3,4,5,又は6のvectorをtransfectionしたときの培養上清中のAPP669-711産生量を表すグラフである。縦軸は標準化強度(Normalized intensity)の平均値である。
【
図28】
図28は、実施例5において、APP669-709産生量に関するグラフである。
【
図29】
図29は、実施例5において、Aβ1-40産生量に関するグラフである。
【
図30】
図30は、実施例5において、Aβ1-38産生量に関するグラフである。
【
図31】
図31は、実施例6において、HEK細胞に対して、Full length APP、c102、又はc99をtransfectionしたときの培養上清中のAβ関連ペプチド(APP669-709、APP669-711、Aβ1-38、Aβ1-40)の産生量を表すグラフである。縦軸は標準化強度(Normalized intensity)の平均値である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[ADAMTS4]
ADAMTS(トロンボスポンジンモチーフを有するディスインテグリンおよびメタロプロテアーゼ,A disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs)ファミリーは、ADAMのサブファミリーであり、哺乳動物等に見いだされる細胞外プロテアーゼファミリーである。ADAMTSには現在19のメンバーが存在している。ADAMTSは切断する基質を中心にいくつかのサブグループに分類されており、ADAMTS1,4,5,8,9,15,及び20が、アグリカナーゼ/プロテオグリカナーゼ(Aggrecanase/Proteoglycanase)と呼ばれる一群とされている。
【0028】
上記のように、ADAMTS4は公知であって、ADAMTS4遺伝子配列は、NP_005090.3として登録されている。なお、ADAMTS4遺伝子には2つのSNPが存在しており(rs4233367、rs41270041)、コードされるタンパク質には、それぞれのアミノ酸置換(Q626R、P720A)を生じる。
【0029】
本発明者らは、ADAMTS4が、APP669のN末端を切断する酵素の一つであることを突き止めた。すなわち、ADAMTS4が、アミロイド前駆体タンパク質(Amyloid precursor protein;APP)の669番目のアミノ酸のN末端部位を切断してAPP669-xペプチドを産生する。ここで、全長APPは770残基のアミノ酸から成るので、xは、669よりも大きい770までの整数を意味する。
【0030】
このことにより、本発明により、ADAMTS4を含むAPP669のN末端切断剤が提供される。また、以下に説明するスクリーニング方法との関連において、in vitroの系において、ADAMTS4をAPP669のN末端切断剤として使用する方法、及び、in vitroの系における、ADAMTS4のAPP669のN末端切断剤としての使用が提供される。
【0031】
[APP669のN末端切断活性の制御物質のスクリーニング方法]
本発明の実施形態において、スクリーニング方法は、
APP669のN末端切断活性の制御物質をスクリーニングする方法であって、
候補物質を培養細胞に作用させる工程と、
前記培養細胞から産生されるAβ関連ペプチドを測定する工程と、
APP669のN末端切断活性を評価する工程と、
を含む。
【0032】
前記Aβ関連ペプチドには、種々の分子種が含まれ、それらのうち、APP669のN末端で切断されたペプチドとしては、APP669-xとして表すことができる。全長APPは770残基のアミノ酸から成るので、xは、669よりも大きい770までの整数を意味する。
【0033】
また、前記Aβ関連ペプチドには、APPの669番目よりもN末端側で切断されたペプチドも含まれる。候補物質によっては、APPの種々の部位で切断されることが考えられる。
【0034】
また、前記Aβ関連ペプチドとして、限定されることなく、次のペプチドを例示することができる。APP663-711,APP664-711,APP666-709,APP666-711,APP669-709(配列番号3),APP669-710,APP669-711(配列番号4),APP669-713,APP671-711,APP672-709(配列番号1),APP672-711(配列番号2),APP672-713(配列番号5),APP674-711。
【0035】
APP672-709(Aβ1-38)(配列番号1):
DAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGG
APP672-711(Aβ1-40)(配列番号2):
DAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVV
APP669-709(Aβ(-3-38))(配列番号3):
VKMDAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGG
APP669-711(Aβ(-3-40))(配列番号4):
VKMDAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVV
APP672-713(Aβ1-42)(配列番号5):
DAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVVIA
【0036】
上記のように、APP672-709とAβ1-38とは同じペプチドを表す。同様に、APP672-711とAβ1-40とは同じペプチドを表し、APP669-709とAβ(-3-38)とは同じペプチドを表し、APP669-711とAβ(-3-40)とは同じペプチドを表し、APP672-713とAβ1-42とは同じペプチドを表す。
【0037】
すなわち、前記Aβ関連ペプチドをAβ1-yという表記を行う場合には、y=x-671となる。
【0038】
APP669のN末端切断活性の制御物質の候補物質を培養細胞に作用させる。この工程は、通常の培養法により行うことができる。
【0039】
次に、前記培養細胞から産生されたAβ関連ペプチドを測定する。この測定工程は、公知の方法により、培養上清試料について行うことができる。測定対象とする前記Aβ関連ペプチド(APP669-x、及び/又は、APP669-x以外のAβ関連ペプチド)について測定する。
【0040】
測定工程において、基本的にはAβ関連ペプチド濃度及び/又は量を測定するが、当業者が濃度及び/又は量に準じて用いる他の単位、例えば、質量分析における検出イオン強度であってもよい。
【0041】
Aβ関連ペプチドの測定は、生体分子特異的親和性に基づく検査によって行ってもよい。生体分子特異的親和性に基づく検査は、当業者によく知られた方法であり、特に限定されないが、イムノアッセイが好ましい。具体的には、ウェスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)(サンドイッチイムノ法、競合法、及び直接吸着法を含む)、免疫沈降法、沈降反応、免疫拡散法、免疫凝集測定、補体結合反応分析、免疫放射定量法、蛍光イムノアッセイ、プロテインAイムノアッセイなどの、競合及び非競合アッセイ系を含むイムノアッセイが含まれる。イムノアッセイにおいては、生体由来試料中のAβ関連ペプチドに結合する抗体を検出する。
【0042】
Aβ関連ペプチドの測定を、アミロイド前駆タンパク質(APP)由来のペプチドを認識可能な抗原結合部位を持つ免疫グロブリン、またはアミロイド前駆タンパク質(APP)由来のペプチドを認識可能な抗原結合部位を含む免疫グロブリン断片を用いて作製された抗体固定化担体を用いて行ってもよい。前記抗体固定化担体を用いた免疫沈降法により質量分析装置での試料中ペプチドの検出を行うことができる(Immunoprecipitation-Mass Spectrometry; IP-MS)。
【0043】
また、本発明において、連続的に免疫沈降(Consecutive Immunoprecipitation;cIP)を行い、その後、質量分析装置での試料中ペプチドの検出を行ってもよい(cIP-MS)。2回連続でアフィニティ精製を行うことにより、1回のアフィニティ精製だけでは排除しきれなかった夾雑物質を、2回目のアフィニティ精製によりさらに減少させることができる。このため、夾雑物質によるAβ関連ペプチドのイオン化抑制を防ぐことができ、試料中の微量なAβ関連ペプチドでも質量分析で高感度に計測することが可能となる。
【0044】
本発明においては、この場合に用いられる質量分析法は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法、エレクトロスプレーイオン化(ESI)質量分析法などによる質量分析法であることが好ましい。例えば、MALDI-TOF(マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間)型質量分析装置、MALDI-IT(マトリックス支援レーザー脱離イオン化-イオントラップ)型質量分析装置、MALDI-IT-TOF(マトリックス支援レーザー脱離イオン化-イオントラップ-飛行時間)型質量分析装置、MALDI-FTICR(マトリックス支援レーザー脱離イオン化-フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴)型質量分析装置、ESI-QqQ(エレクトロスプレーイオン化-三連四重極)型質量分析装置、ESI-Qq-TOF(エレクトロスプレーイオン化-タンデム四重極-飛行時間)型質量分析装置、ESI-FTICR(エレクトロスプレーイオン化-フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴)型質量分析装置等を用いることができる。
【0045】
また、MALDI質量分析において、マトリックス、及びマトリックス溶媒は、当業者が適宜決定することができる。
【0046】
マトリックスとしては、例えば、α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(CHCA)、2,5-ジヒドロキシ安息香酸(2,5-DHB)、シナピン酸、3-アミノキノリン(3-AQ)等を用いることができる。
【0047】
マトリックス溶媒としては、例えば、アセトニトリル(ACN)、トリフルオロ酢酸(TFA)、メタノール、エタノール及び水からなる群から選択して用いることができる。より具体的には、ACN-TFA水溶液、ACN水溶液、メタノール-TFA水溶液、メタノール水溶液、エタノール-TFA水溶液、エタノール溶液などを用いることができる。
【0048】
MALDI質量分析において、マトリックス添加剤(コマトリックス)が併用されてもよい。マトリックス添加剤は、当業者が適宜選択することができる。例えば、マトリックス添加剤として、ホスホン酸基含有化合物を用いることができる。具体的には、ホスホン酸基を1個含む化合物として、ホスホン酸(Phosphonic acid)、メチルホスホン酸(Methylphosphonic acid)、フェニルホスホン酸(Phenylphosphonic acid)、及び1-ナフチルメチルホスホン酸(1-Naphthylmethylphosphonic acid)等が挙げられる。また、ホスホン酸基を2個以上含む化合物として、メチレンジホスホン酸(Methylenediphosphonic acid;MDPNA)、エチレンジホスホン酸(Ethylenediphosphonic acid)、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸(Ethane-1-hydroxy-1,1-diphosphonic acid)、ニトリロトリホスホン酸(Nitrilotriphosphonic acid)、及びエチレンジアミノテトラホスホン酸(Ethylenediaminetetraphosphonic acid)等が挙げられる。上記のホスホン酸基含有化合物の中でも、1分子中に2以上、好ましくは2~4個のホスホン酸基を有する化合物が好ましい。
【0049】
測定されたAβ関連ペプチドの産生量から、APP669のN末端切断活性を評価する。この評価工程は、例えば、次のようにして行うことができる。
【0050】
前記Aβ関連ペプチドが、APP669-xである場合、例えば、
前記候補物質を作用させていないコントロール細胞のAPP669-x量を基準レベルとして、
前記候補物質を作用させた細胞のAPP669-x量が前記基準レベルよりも高い場合にAPP669のN末端切断活性が増加したと判断し、及び
前記候補物質を作用させた細胞のAPP669-x量が前記基準レベルよりも低い場合にAPP669のN末端切断活性が低下したと判断する。
【0051】
この場合において、ただ1種のAPP669-x、例えば、APP669-709について評価を行ってもよい。あるいは、APP669-709、APP669-711、APP669-713などの複数種について評価を行ってもよい。複数種についての評価を行う場合には、APP669のN末端側の切断活性に着目しているのであるから、これら複数種について総合的(個々の比較、合計量としての比較)に評価することが考えられる。
【0052】
前記Aβ関連ペプチドが、APP669-x、及び、APP669-x以外のAβ関連ペプチドである場合、例えば、
前記APP669のN末端切断活性を評価する工程において、
前記候補物質を作用させていないコントロール細胞のAPP669-x量及びAPP669-x以外のAβ関連ペプチド量の各量を基準レベルとして、
前記候補物質を作用させた細胞のAPP669-x量が前記基準レベルよりも高く、且つ、APP669-x以外のAβ関連ペプチド量が前記基準レベルと同等もしくは前記基準レベルよりも低い場合に、APP669のN末端切断活性が増加したと判断し、及び
前記候補物質を作用させた細胞のAPP669-x量が前記基準レベルよりも低く、且つ、APP669-x以外のAβ関連ペプチド量が前記基準レベルと同等もしくは前記基準レベルよりも高い場合に、APP669のN末端切断活性が低下したと判断する。
【0053】
前記APP669-x以外のAβ関連ペプチドがAβ1-y(ここで、y=x-671)であると、APP669のN末端側の切断活性に加えて、APP669-xの産生と、Aβ1-yとの産生との関連性について調べられ、より多くの知見が得られるであろう。Aβ1-y(N末端がAβ1位であるペプチド)を参照することで、APP669切断活性を特異的に評価できる。
【0054】
APP669のN末端切断活性の制御物質の候補物質としては、低分子化合物、ペプチド、タンパク質及び核酸などから選ばれてよい。はば広く種々の物質をスクリーニングする。
【0055】
低分子化合物としては、標的ポリペプチドに結合可能な低分子化合物が考えられる。例えば、創薬で使われているような、あるタンパク質に結合する低分子化合物が挙げられる。ADAMTS4を阻害する低分子化合物であれば、GM6001やCalcium pentosan polysulfate等が挙げられる。
【0056】
ペプチドとしては、2~50アミノ酸残基からなるペプチドが考えられる。例えば、ADAMTS4の発現を抑制すると報告されている大豆ペプチド等が例示される。
【0057】
タンパク質としては、50アミノ酸残基以上からなるタンパク質が考えられる。例えば、ADAMTS4の発現を促進すると報告されているIL-1 cytokinesやTNF-α、ADAMTS4活性を阻害するTIMP-3等が挙げられる。
【0058】
核酸としては、ADAMTS4をターゲットとした場合、ADAMTS4の遺伝子発現を増加、又は減少させる核酸(ベクター、CRISPR-Cas9システム、siRNA、miRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー)が考えられる。ADAMTS4以外の酵素をターゲットとした場合においても、その遺伝子発現を増加、又は減少させる核酸(ベクター、CRISPR-Cas9システム、siRNA、miRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー)が考えられる。
【0059】
本発明の別の実施形態において、スクリーニング方法は、
APP669のN末端切断活性の制御物質をスクリーニングする方法であって、
In vitroの系で、候補物質存在下のもとADAMTS4を全長APP又はAPP669位前後の配列を含むAPP断片に作用させる工程と、
前記全長APP又はAPP669位前後の配列を含むAPP断片から産生されるAPP669-xを測定する工程と、
APP669のN末端切断活性を評価する工程と、
を含む。
【0060】
ADAMTS4がAPP669のN末端を切断する酵素の一つであるという新規な知見から、in vitroにおいて、上記の工程に従って、APP669切断活性の制御物質をスクリーニングすることも可能である。
【0061】
APP669のN末端切断活性の評価工程は、例えば、次のようにして行うことができる。
【0062】
前記APP669のN末端切断活性を評価する工程において、例えば、
前記候補物質を存在させていないコントロール系でのAPP669-x量を基準レベルとして、
前記候補物質を存在させた系でのAPP669-x量が前記基準レベルよりも高い場合にAPP669のN末端切断活性が増加したと判断し、及び
前記候補物質を存在させた系でのAPP669-x量が前記基準レベルよりも低い場合にAPP669のN末端切断活性が低下したと判断する。
【0063】
また、APP669-xの量の他に、APP669-x以外のAβ関連ペプチドの量についても測定して、評価を行ってもよい。測定方法や、候補物質については、上述したのと同様である。
【0064】
[スクリーニング用キット]
APP669のN末端切断活性の制御物質をスクリーニングするためのキットであって、ADAMTS4、全長APP又はAPP669位前後の配列を含むAPP断片、その他の上述した各成分を含むキット。
【0065】
APP669位前後の配列を含むAPP断片とは、APP669位前後の4アミノ酸ずつのアミノ酸配列[すなわち、APP665(E),666(I),667(S),668(E),669(V),670(K),671(M),672(D),及び673(A)]を含むAPP断片のことで、N末端側及び/又はC末端側は、それよりも長くてもよい。ADAMTS4が認識するAPP669位前後の配列が含まれていればよいと考えられる。
【実施例】
【0066】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。以下において%で示される物の量は、特に断りがない場合は、その物が固体である場合は重量基準、液体である場合は体積基準で示されている。
【0067】
中性界面活性剤は、以下の略称で表す。
n-Decyl-β-D-maltoside(DM)
n-Dodecyl-β-D-maltoside(DDM)
n-Nonyl-β-D-thiomaltoside(NTM)
【0068】
[実施例1:A549細胞のADAMTS4ノックアウト、及びGM6001作用による評価]
A549細胞においてCRISPR/Cas9(clustered regularly interspaced short palindromic repeats/CRISPR associated proteins)及びガイドRNA(gRNA)を用いたADAMTS4ノックアウト、及び、メタロプロテアーゼ阻害剤であるGM6001の処理によるAPP669-x産生への影響を評価した。A549細胞は、ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞である。gRNAは、CRISPR Search(https://www.sanger.ac.uk/htgt/wge/find_crisprs)を用いて設計した。
【0069】
SpCas9 nickase及びgRNAを発現するベクターpx335(Addgene#42335)とレトロウイルス由来のベクターpBabe Puro U6 BbsI(Dundee大学Dario Alessi教授より供与されたもの)にADAMTS4を標的とするペアとなるgRNAをコードするcDNAを片方ずつ挿入したベクターを作出した。
【0070】
px335に挿入したcDNA配列
5’-GCGCTACCTGCTAACAGTGA-3'(配列番号6)
3'-CGCGATGGACGATTGTCACT-5'(すなわち、5’-TCACTGTTAGCAGGTAGCGC-3':配列番号7)
【0071】
pBabe Puro U6 BbsIに挿入したcDNA配列
5'-CATTCCACGGTGCGGGGCTA-3'(配列番号8)
3'-GTAAGGTGCCACGCCCCGAT-5'(すなわち、5’-TAGCCCCGCACCGTGGAATG-3':配列番号9)
【0072】
これらのベクターをトランスフェクションし、Puromycinでセレクションを行い、モノクローン化した。各モノクローナル細胞からゲノムを抽出し、gRNAの標的となる遺伝子領域を含むゲノム断片をPCRで増幅し、サンガーシーケンシングを行った。ゲノム断片を増幅するために使用したプライマーは以下の通りである。
【0073】
5’-AGTCAGGAATCCCGTGGGG-3’(配列番号10)
3’-CCTGGGACTGGTGAAACTGTGT-5’(すなわち、5’-TGTGTCAAAGTGGTCAGGGTCC-3':配列番号11)
【0074】
複数のモノクローナル細胞を解析し、A549細胞のADAMTS4遺伝子領域は3アレル存在すると推測された。そして、
図2のように、ADAMTS4遺伝子の遺伝子領域を16bp、29bp、20bp欠損したモノクローナル細胞を得た。いずれも3の倍数ではないことから、正常なADAMTS4タンパク質の発現が生じないと推測される。そこで、この細胞が内因性ADAMTS4をノックアウト(KO)されたA549細胞(A549-ADAMTS4 KO細胞)であると考えられた。
【0075】
図2は、A549-ADAMTS4 KO細胞において、改変されたADAMTS4遺伝子領域の配列を示す。
【0076】
上段は、元ゲノムについての塩基配列:
GGTGGTGGCAGATGACAAGATGGCCGCATTCCACGGTGCGGGGCTAAAGCGCTACCTGCTAACAGTGATGGCAGCAGCAGCCAAGGCCTTCAAGCA(配列番号12)を示している。
【0077】
下段は、遺伝子編集後のゲノム(3アレル)についての塩基配列:
上から、
16bp欠損した配列:
GGTGGTGGCAGATGACAAGATGGCCGCATTCCACGCTACCTGCTAACAGTGATGGCAGCAGCAGCCAAGGCCTTCAAGCA(配列番号13),
29bp欠損した配列:
GGTGGTGGCAGATGACAAGATGGCCGTAGCTAACAGTGATGGCAGCAGCAGCCAAGGCCTTCAAGCA(配列番号14),及び
20bp欠損した配列:
GGTGGTGGCAGATGACAAGATGGCCGCATTCCAACCTGCTAACAGTGATGGCAGCAGCAGCCAAGGCCTTCAAGCA(配列番号15)
を示している。
【0078】
このA549-ADAMTS4 KO細胞とA549-野生型(wt)細胞それぞれに、メタロプロテアーゼ阻害剤であるGM6001(25μM)、又は、コントロールとしてジメチルスルホキシド(DMSO)を添加して、96時間インキュベートした。その後、培養上清を回収し、測定まで-80℃で保存した。
【0079】
培養上清中のAβ関連ペプチドを免疫沈降(Immunoprecipitation;IP)と質量分析(Mass spectrometry;MS)を組み合わせたIP-MSを用いて測定した。IPでは抗Aβ抗体クローン6E10(BioLegend)をDynabeads Epoxy(Thermo Fisher Scientific)に共有結合させた抗体固定化ビーズを使用した。
【0080】
凍結保存した培養上清を融解し、内部標準ペプチドを含む反応液[800mM GlcNAc、0.2%(w/v) NTM、0.2%(w/v) DDM、300mM NaCl、100mM Tris-HCl buffer(pH7.4)]250μLと培養上清250μLを混合した。混合液を抗体固定化ビーズと混ぜて、1時間、4℃で抗原抗体反応させた。内部標準ペプチドとして、22pM安定同位体標識Aβ1-38と100pM安定同位体標識Aβ1-15を使用した。
【0081】
抗原抗体反応後、抗体固定化ビーズを第一洗浄緩衝液で洗浄した[第一洗浄緩衝液(0.1% DDM、0.1% NTM、50mM Tris-HCl(pH7.4)、150mM NaCl)100μLで1回洗浄し、50mM酢酸アンモニウム緩衝液50μLで1回洗浄]。その後、抗体固定化ビーズに捕捉されたAβ関連ペプチドをDDMを含むグリシン緩衝液(0.1% DDMを含有する50 mM Glycine buffer,pH2.8)で溶出した。得られた溶出液にDDMを含むトリス緩衝液[800mM GlcNAc、0.2%(w/v)DDM、300mM NaCl、300mMTris-HCl buffer(pH7.4)]を加えてpHを中性(pH7.4)に戻した。その後、もう一度、中性の溶出液を抗体固定化ビーズと1時間、4℃で接触させて、Aβ関連ペプチドを抗原抗体反応させ、第二洗浄緩衝液で洗浄[第二洗浄緩衝液(0.1% DDM、150mM Tris-HCl(pH7.4)、150mM NaCl)100μLで2回洗浄し、50mM酢酸アンモニウム緩衝液50μLで1回洗浄]後、抗体固定化ビーズに捕捉されたAβ関連ペプチドを溶出液(5mM HCl, 0.1mM Methionine, 70%(v/v)アセトニトリル)で溶出した。このようにして、2段階IP操作によるAβ関連ペプチドを含む各溶出液を得た。
【0082】
Linear TOF用のマトリックスとして、α-cyano-4-hydroxycinnamic acid(CHCA)を用いた。マトリックス溶液は、CHCA 1mgを70%(v/v)アセトニトリル1mLで溶解することによって調製した。マトリックス添加剤として、0.4%(w/v) methanediphosphonic acid(MDPNA)を用いた。1mg/mL CHCA溶液と0.4%(w/v)MDPNAを等量混合し、マトリックス/マトリックス添加剤溶液[0.5mg/mL CHCA/0.2%(w/v)MDPNA]を得た。
【0083】
予め、マトリックス/マトリックス添加剤溶液の0.5μLをμFocus MALDI plateTM 900 μm (Hudson Surface Technology, Inc., Fort Lee, NJ)の各well上へ滴下し、乾燥させた。
【0084】
上記μFocus MALDI plateTM 900 μmの4well上へ、IP後の各溶出液を滴下して乾燥させた。
【0085】
マススペクトルデータはAXIMA Performance(Shimadzu/KRATOS, Manchester, UK)を用いて、ポジティブイオンモードのLinear TOFで取得した。Linear TOFのm/z値はピークのアベレージマスで表示した。m/z値は外部標準として、human angiotensin IIとhuman ACTH fragment 18-39、bovine insulin oxidized beta-chain、bovine insulinを用いてキャリブレーションした。
【0086】
マススペクトルにおいて、各Aβ関連ペプチドのシグナル強度に対して、内部標準ペプチドを用いて標準化した。その後、1サンプルから得られる4つのマススペクトルの標準化強度(Normalized intensity)の平均値を求め、それをAβ関連ペプチド産生量として評価した。検出下限に達しない(S/N<3)データ数が2つ以上存在した場合は、検出不可とした。
【0087】
結果を
図3~6に示す。
図3~6は、A549-ADAMTS4 KO細胞とA549-wt細胞それぞれに、GM6001(25μM)、又は、コントロールとしてDMSOを添加したときの培養上清中のAβ関連ペプチド産生量を表すグラフであり、縦軸は標準化強度(Normalized intensity)の平均値である。
図3は、APP669-711産生量に関するグラフであり、
図4は、APP669-709産生量に関するグラフであり、
図5は、Aβ1-40産生量に関するグラフであり、
図6は、Aβ1-38産生量に関するグラフである。
【0088】
A549-ADAMTS4 KO細胞のAPP669-711(Aβ(-3-40))及びAPP669-709(Aβ(-3-38))の産生量は、A549-wt細胞と比べると半分以下に低下していた(
図3及び4)。一方、APP669-711(Aβ(-3-40)とN末端側が異なり、C末端側は同じAβ1-40、及びAPP669-709(Aβ(-3-38))とN末端側が異なり、C末端側は同じAβ1-38の産生量は、逆にA549-ADAMTS4 KO細胞ではA549-wt細胞と比べると若干増加する傾向にあった(
図5及び6)。ADAMTS4のノックアウトによりAPP669をN末端とするペプチドの産生量が低下した結果は、ADAMTS4がAPP669のN末端の切断に関与していることを示している。
【0089】
さらに、メタロプロテアーゼ阻害剤であるGM6001を作用させると、A549-ADAMTS4 KO細胞とA549-wt細胞のいずれにおいても、コントロールのDMSOに比べてAPP669-711(Aβ(-3-40))及びAPP669-709(Aβ(-3-38))の産生量は半分程度に減少し、Aβ1-40とAβ1-38の産生量は僅かに増加する傾向にあった(
図3~6)。ADAMTS4はメタロプロテアーゼであり、GM6001により阻害されることが知られている。このことから、GM6001によりADAMTS4活性が阻害されて、APP669-711(Aβ(-3-40))及びAPP669-709(Aβ(-3-38))の産生量が減少したと考えられる。
【0090】
これらは、ADAMTS4がAPP669切断(N末端側)に関与していることを示す結果であるとともに、本手法を用いてAPP669-711(Aβ(-3-40))及び/又はAPP669-709(Aβ(-3-38))の低下を捉えることにより、APP669切断活性の減少を評価できることを示している。ただし、APP669のN末端を切断する酵素はADAMTS4以外にも存在すると考えられる。その理由は、ADAMTS4 KO細胞でもAPP669-xが完全に消失しなかったこと、そしてADAMTS4 KO細胞にGM6001を作用させるとAPP669-xが減少したからであり、未知のメタロプロテアーゼがADAMTS4 KO細胞におけるAPP669-x産生に関わっていることを示す結果でもある。
【0091】
表1に、Aβ1-38、Aβ1-40、APP669-709(Aβ(-3-38))、及びAPP669-711(Aβ(-3-40))のアミノ酸配列を示す。
【0092】
【0093】
[実施例2:APP stable HEK細胞のADAMTS4 transfectionによる評価]
ADAMTS4過剰発現によるAPP669-x産生への影響を評価した。
【0094】
ヒトAPPを発現するベクターとして哺乳類細胞発現用ベクターpcDNA3.1にヒトAPP(695アミノ酸アイソフォーム)のcDNAが挿入されたものを用い(非特許文献7)、Human Embryonic Kidney cells 293(HEK細胞)にヒトAPPを安定発現させたAPP stable HEKを作製した。また、ヒト神経芽細胞腫由来細胞BE2(C)細胞(ATCCより購入)の全mRNAからcDNAライブラリーを作出し、PCRによりヒトADAMTS4遺伝子のクローニングを行った。
【0095】
クローニングに用いたプライマー
5'-GGAGACCCAAGCTGGaccatgtcccagacaggctcgc-3'(配列番号16)
3'-ggacccgcccgtcctttattCGCAAATTTGAATTCGAACCA-5' (すなわち、5’-ACCAAGCTTAAGTTTA
AACGCttatttcctgcccgcccagg-3':配列番号17)
【0096】
上記のプライマーの配列において、元ベクターにADAMTS4の配列をインサートする際に、元ベクターとオーバーラップさせた配列を大文字で表記し、ADAMTS4の配列を小文字として表記している。なお、小文字の最初の文字accは、ADAMTS4自体の配列ではないが、ADAMTS4の翻訳効率を上げるためのコザック配列(acc)を入れている。
【0097】
pcDNA3.1のネオマイシン/カナマイシン耐性遺伝子をハイグロマイシン耐性遺伝子に置き換えたpcDNA3.1 hygro+ vectorにヒトADAMTS4のcDNAをHiFi Assembly により挿入しADAMTS4 plasmid vectorを作出した。得られたcDNA配列を配列番号18として示し、それにコードされているアミノ酸配列を配列番号19として示す。このcDNAはデータベースに登録されているADAMTS4遺伝子配列NP_005090.3と100%一致した。なお、ADAMTS4遺伝子には2つのSNPが存在しており(rs4233367、rs41270041)、それぞれアミノ酸置換(Q626R、P720A)を生じる。
【0098】
このvectorとempty pcDNA3.1 hygro+ vectorを1:10および10:1の割合でco-transfectionした。コントロールとして、vectorをtransfectionしていない細胞(mock)とempty pcDNA3.1 hygro+ vectorのみをtransfectionした細胞(empty)も用意した。6時間後、新しいDMEM培地に換え、48時間後に培養上清を回収した。その培養上清を実施例1と同様のIP-MSで測定した。ただし、IPの抗体は抗Aβ抗体クローン4G8(Bio Legend)を用い、内部標準ペプチドは22pM安定同位体標識Aβ1-38のみを使用した。
【0099】
結果を
図7~10に示す。
図7~10は、APP stable HEKにADAMTS4 plasmid vector とempty pcDNA3.1 hygro+ vectorとを1:10および10:1の割合でco-transfectionしたときの培養上清中のAβ関連ペプチド産生量を表すグラフであり、vectorをtransfectionしていない細胞(mock)とempty pcDNA3.1 hygro+ vectorのみをtransfectionした細胞(empty)をコンロトールとした。縦軸は標準化強度(Normalized intensity)の平均値である。
図7は、APP669-711産生量に関するグラフであり、
図8は、APP669-709産生量に関するグラフであり、
図9は、Aβ1-40産生量に関するグラフであり、
図10は、Aβ1-38産生量に関するグラフである。
【0100】
ADAMTS4 plasmid vector とempty pcDNA3.1 hygro+ vectorを10:1の割合でco-transfectionして、ADAMTS4を過剰発現させた細胞ではAPP669-711(Aβ(-3-40))及びAPP669-709(Aβ(-3-38))の産生量が若干増加する傾向が見られた(
図7及び8)。一方、APP669-711(Aβ(-3-40)とN末端側が異なり、C末端側は同じAβ1-40、及びAPP669-709(Aβ(-3-38))とN末端側が異なり、C末端側は同じAβ1-38の産生量は増加せず、若干低下する傾向があった(
図9及び10)。ADAMTS4の過剰発現によりAPP669をN末端とするペプチドが増加したことは、ADAMTS4がAPP669切断(N末端側)に関与していることを支持する結果となっている。
【0101】
[実施例3:不活性型ADAMTS4(E362A)の評価]
ADAMTS4と不活性型ADAMTS4(E362A)の過剰発現によるAPP669-x産生への影響を比較した。
【0102】
ADAMTS4_E362AはADAMTS4の活性中心であるアミノ酸配列362番目のグルタミン酸(E)をアラニン(A)に置換した、不活性型の変異体である。そこでPCR法によりADAMTS4_E362A vectorを作出した。
【0103】
E362A変異体作出に用いたプライマー
5'-cactgctgctcatgcgctgggtcatgtct-3'(配列番号20)
3'-gtgacgacgagtacgcgacccagtacaga-5'(すなわち、5’-agacatgacccagcgcatgagcagcagtg-3':配列番号21)
【0104】
ヒトAPP vectorと共に、pcDNA3.1 hygro+ vectorにEGFPを挿入した空ベクター(EGFP vector)、ADAMTS4 vector、またはADAMTS4_E362A vectorをHEK細胞へco-transfectionした。EGFP vectorはコントロールとして用いた。何もtransfectionしていないmockもコントロールとして用いた。96時間インキュベートした後、培養上清を回収し、実施例1と同様のIP-MSで測定した。
【0105】
結果を
図11~14に示す。
図11~14は、HEK細胞へヒトAPPと共にEGFP、ADAMTS4、および不活性型ADAMTS4_E362Aをco-transfectionしたときの培養上清中のAβ関連ペプチド産生量を表すグラフである。縦軸は標準化強度(Normalized intensity)の平均値である。
図11は、APP669-711産生量に関するグラフであり、
図12は、APP669-709産生量に関するグラフであり、
図13は、Aβ1-40産生量に関するグラフであり、
図14は、Aβ1-38産生量に関するグラフである。
【0106】
ADAMTS4 plasmid vectorをtransfectionして、ADAMTS4を過剰発現させた細胞では実施例2と同様に、APP669-711(Aβ(-3-40))及びAPP669-709(Aβ(-3-38)の産生量が増加する傾向が見られた(
図11及び12)。一方、Aβ1-40、及びAβ1-38の産生量には変化がなかった。不活性型のADAMTS4_E362Aを過剰発現させた細胞では、EGFPを過剰発現させたコントロール細胞と同等のAPP669-711(Aβ(-3-40))及びAPP669-709(Aβ(-3-38)の産生量を示した。
【0107】
この結果や、実施例1,2の結果を総合すると、ADAMTS4がAPP669切断(N末端側)酵素の一つであると考えられる。また、本実施例3ではADAMTS4の活性、又は不活性の影響がAPP669-xの産生量にも反映していることから、APP669-xの産生量を測定することによりADAMTS4を含むAPP669切断活性の変化も捉えることができ、APP669切断活性の制御物質のスクリーニングに利用可能と考えられる。
【0108】
[実施例4:APP669切断活性を制御する化合物の評価]
メタロプロテアーゼ阻害剤によるAPP669-x産生への影響を評価した。
【0109】
ヒト神経芽細胞腫BE(2)-C、及び、ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞A549へ、メタロプロテアーゼ阻害剤25μM GM6001(コスモ・バイオ)、又は10μM INCB3619(非特許文献8)を作用させ、又は、コントロールとしてDMSOを添加し、96時間インキュベートした。その後、培養上清を回収し、実施例1と同様のIP-MSで測定した。ただし、内部標準ペプチドは20pM安定同位体標識Aβ1-38と100pM安定同位体標識Aβ1-15を使用した。
【0110】
BE(2)-C細胞についての結果を
図15~18に示す。
図15~18は、BE(2)-C細胞へ25μM GM6001、又は10μM INCB3619を作用させたときの培養上清中のAβ関連ペプチド産生量を表すグラフである。縦軸は標準化強度(Normalized intensity)の平均値である。
図15は、APP669-711産生量に関するグラフであり、
図16は、APP669-709産生量に関するグラフであり、
図17は、Aβ1-40産生量に関するグラフであり、
図18は、Aβ1-38産生量に関するグラフである。
【0111】
A549細胞についての結果を
図19~22に示す。
図19~22は、A549細胞へ25μM GM6001、又は10μM INCB3619を作用させたときの培養上清中のAβ関連ペプチド産生量を表すグラフである。縦軸は標準化強度(Normalized intensity)の平均値である。
図19は、APP669-711産生量に関するグラフであり、
図20は、APP669-709産生量に関するグラフであり、
図21は、Aβ1-40産生量に関するグラフであり、
図22は、Aβ1-38産生量に関するグラフである。
【0112】
BE(2)-C細胞及びA549細胞いずれの場合においても、GM6001の作用によりAPP669-711(Aβ(-3-40))及びAPP669-709(Aβ(-3-38)の産生量が減少したが、Aβ1-40及びAβ1-38の産生量は減少しなかった。これらのことから、GM6001がAPP669切断活性(N末端側)を低下させることが分かる。一方、INCB3619による影響を確認すると、BE(2)-C細胞のAPP669-711(Aβ(-3-40))及びAPP669-709(Aβ(-3-38)の産生量は若干減少したが、A549細胞では変化がなかった。これらのことから、INCB3619はAPP669切断活性(N末端側)を低下させる効果は低いことが分かる。このようにして、化合物ごとのAPP669切断活性への影響を評価することができる。
【0113】
また、APP stable HEK細胞についても、上記操作と同様に、25μM GM6001を作用させ、IP-MSで測定した。
【0114】
APP stable HEK細胞についての結果を
図23~26に示す。
図23~26は、APP stable HEK細胞へ25μM GM6001を作用させたときの培養上清中のAβ関連ペプチド産生量を表すグラフである。縦軸は標準化強度(Normalized intensity)の平均値である。
図23は、APP669-711産生量に関するグラフであり、
図24は、APP669-709産生量に関するグラフであり、
図25は、Aβ1-40産生量に関するグラフであり、
図26は、Aβ1-38産生量に関するグラフである。
【0115】
APP stable HEK細胞の場合においても、GM6001の作用によりAPP669-711(Aβ(-3-40))及びAPP669-709(Aβ(-3-38)の産生量が減少したが、Aβ1-40及びAβ1-38の産生量は減少しなかった。
【0116】
[実施例5:APP stable HEK細胞のMT-MMP transfectionによる評価]
メタロプロテアーゼであるMT-MMP1,2,3,4,5,又は6によるAPP669-x産生への影響を評価した。
【0117】
哺乳類細胞発現用ベクターpCEP4に、FLAGタグを付加したヒトMT-MMP1、MT-MMP2、MT-MMP3、MT-MMP4、MT-MMP5、又はMT-MMP6が挿入された発現ベクターは、清木元治招聘特任教授(金沢大学)よりご供与いただいた。
【0118】
APP stable HEK細胞に対して、MT-MMP1,2,3,4,5,又は6のvectorをtransfectionして96時間後に、培養上清を回収し、実施例1と同様のIPMSで測定した。コントロールとして、vectorをtransfectionしていない細胞(mock)を用いた。
【0119】
結果を
図27~30に示す。
図27~30は、APP stable HEK細胞に対して、MT-MMP1,2,3,4,5,又は6のvectorをtransfectionしたときの培養上清中のAβ関連ペプチド産生量を表すグラフである。縦軸は標準化強度(Normalized intensity)の平均値である。
図27は、APP669-711産生量に関するグラフであり、
図28は、APP669-709産生量に関するグラフであり、
図29は、Aβ1-40産生量に関するグラフであり、
図30は、Aβ1-38産生量に関するグラフである。
【0120】
MT-MMP1,2,3,5,又は6をtransfectionした細胞では、APP669-711(Aβ(-3-40))及びAPP669-709(Aβ(-3-38)の両方の産生量が減少していた。一方、これらとN末端側が異なり、C末端側は同じAβ1-40とAβ1-38の産生量も同様に減少していた。MT-MMP2や3はAβを分解するという報告がある(非特許文献9)。したがって、MT-MMP1,2,3,5,又は6が、APP669-xのみならずAβ1-xをも分解して、これらAβ関連ペプチド産生量が減少した結果と考えられる。このように、APP669位以外での切断があった場合は、Aβ1-xも同様の変動が確認される。したがって、Aβ1-xの変化も参照することが、APP669切断活性が変動しているのか、その他の切断が変動しているのかの判別に有効である。
【0121】
[実施例6:APP,c102,c99 transfectionによるβサイト切断評価]
APP669切断後のc102にβ-セクレターゼ(BACE1)によるβサイト切断が生じるかどうかを評価した。
【0122】
c102とは、N末端がAPP669で、C末端がAPPのC末端であるタンパク質であり、APP669切断後のC末端側のタンパク質である。c99とはβサイト切断後のC末端側のタンパク質(
図1を参照すると、β-CTF)である。
【0123】
膜に挿入されたc99を発現させるベクターとしては、APPのシグナル配列に続いて2アミノ酸(DA)が付与されたSPA4CTをコードするcDNA(非特許文献10)が哺乳類細胞発現用ベクターpcDNA4に挿入されたものを用いた(非特許文献11)。このベクターに対してc99配列の前に3アミノ酸(VKM)付加したc102を発現するベクターは、PCR法により作出した。Full lengthであるAPP、c102、又はc99をHEK細胞にtransfectionした。コントロールとして、transfectionしていないHEK細胞(no)も評価した。96時間後に培養上清を回収し、実施例1と同様のIP-MSで測定した。ただし、内部標準ペプチドは20pM安定同位体標識Aβ1-38と100pM安定同位体標識Aβ1-15を使用した。
【0124】
結果を
図31に示す。
図31は、HEK細胞に対して、Full length APP、c102、又はc99をtransfectionしたときの培養上清中のAβ関連ペプチド(APP669-709、APP669-711、Aβ1-38、Aβ1-40)の産生量を表すグラフである。縦軸は標準化強度(Normalized intensity)の平均値である。各Aβ関連ペプチドにおいて、左側から順に、コントロール(no)、Full lengthのAPPのtransfection、c102のtransfection、c99のtransfectionの結果を示している。APP669-709の産生量は、コントロール(no)、c99では少なすぎて棒グラフに表れていない。また、APP669-711の産生量は、コントロール(no)、c99では少なすぎて棒グラフに表れていない。
【0125】
c102過剰発現ではAPP669-711(Aβ(-3-40))及びAPP669-709(Aβ(-3-38)の産生量が最も多く、c99過剰発現ではAβ1-40及びAβ1-38の産生量が最も多かった。Full length APP過剰発現ではコントロール細胞と比べて、いずれのAβ関連ペプチドも増加していた。これは過剰発現させたFull length APPから、APP669-711、APP669-709、Aβ1-40、Aβ1-38などが生成されていることを示す。しかし、c102過剰発現では、コントロール細胞と比べてAβ1-40やAβ1-38は増加していなかった。つまり、APP669切断(N末端側)後のc102に対してはβサイト切断を受けないことを示している。つまり、APP669切断活性を促進させることができれば、Aβ1-40やAβ1-42を含むAβ1-xの産生を抑制する可能性を示している。
【0126】
(1)
APP669のN末端切断活性の制御物質をスクリーニングする方法であって、
候補物質を培養細胞に作用させる工程と、
前記培養細胞から産生されるAβ関連ペプチドを測定する工程と、
APP669のN末端切断活性を評価する工程と、
を含む、スクリーニング方法。
【0127】
(2)
前記Aβ関連ペプチドがAPP669-xである、上記(1)に記載の方法。
【0128】
(3)
前記APP669のN末端切断活性を評価する工程において、
前記候補物質を作用させていないコントロール細胞のAPP669-x量を基準レベルとして、
前記候補物質を作用させた細胞のAPP669-x量が前記基準レベルよりも高い場合にAPP669のN末端切断活性が増加したと判断し、及び
前記候補物質を作用させた細胞のAPP669-x量が前記基準レベルよりも低い場合にAPP669のN末端切断活性が低下したと判断する、上記(2)に記載の方法。
【0129】
(4)
前記Aβ関連ペプチドが、APP669-x、及び、APP669-x以外のAβ関連ペプチドである、上記(1)に記載の方法。
【0130】
(5)
前記APP669のN末端切断活性を評価する工程において、
前記候補物質を作用させていないコントロール細胞のAPP669-x量及びAPP669-x以外のAβ関連ペプチド量の各量を基準レベルとして、
前記候補物質を作用させた細胞のAPP669-x量が前記基準レベルよりも高く、且つ、APP669-x以外のAβ関連ペプチド量が前記基準レベルと同等もしくは前記基準レベルよりも低い場合に、APP669のN末端切断活性が増加したと判断し、及び
前記候補物質を作用させた細胞のAPP669-x量が前記基準レベルよりも低く、且つ、APP669-x以外のAβ関連ペプチド量が前記基準レベルと同等もしくは前記基準レベルよりも高い場合に、APP669のN末端切断活性が低下したと判断する、上記(4)に記載の方法。
【0131】
(6)
前記APP669-x以外のAβ関連ペプチドがAβ1-y(ここで、y=x-671)である、上記(4)又は(5)に記載の方法。
【0132】
(7)
前記候補物質が、低分子化合物、ペプチド、タンパク質及び核酸からなる群から選ばれる、上記(1)~(6)のいずれかに記載の方法。
【0133】
(8)
前記候補物質が、ADAMTS4をターゲットに設計された低分子化合物、ペプチド、タンパク質及び核酸からなる群から選ばれる、上記(1)~(7)のいずれかに記載の方法。
【0134】
(9)
APP669のN末端切断活性の制御物質をスクリーニングする方法であって、
In vitroの系で、候補物質存在下のもとADAMTS4を全長APP又はAPP669位前後の配列を含むAPP断片に作用させる工程と、
前記全長APP又はAPP669位前後の配列を含むAPP断片から産生されるAPP669-xを測定する工程と、
APP669のN末端切断活性を評価する工程と、
を含む、スクリーニング方法。
【0135】
(10)
前記APP669のN末端切断活性を評価する工程において、
前記候補物質を存在させていないコントロール系でのAPP669-x量を基準レベルとして、
前記候補物質を存在させた系でのAPP669-x量が前記基準レベルよりも高い場合にAPP669のN末端切断活性が増加したと判断し、及び
前記候補物質を存在させた系でのAPP669-x量が前記基準レベルよりも低い場合にAPP669のN末端切断活性が低下したと判断する、上記(9)に記載の方法。
【0136】
(11)
前記候補物質が、低分子化合物、ペプチド、タンパク質及び核酸からなる群から選ばれる、上記(9)又は(10)に記載の方法。
【0137】
(12)
ADAMTS4を含むAPP669のN末端切断剤。
【0138】
(13)
In vitroの系において、ADAMTS4をAPP669のN末端切断剤として使用する方法。
【0139】
(14)
In vitroの系における、ADAMTS4のAPP669のN末端切断剤としての使用。
【配列表】