(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】物質検出装置
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20230501BHJP
G01N 21/78 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
G01N33/543 521
G01N21/78 A
(21)【出願番号】P 2018142651
(22)【出願日】2018-07-30
【審査請求日】2021-07-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 [開催日]平成30年3月5日 [講義名、開催場所]KISTEC教育講座「ペーパーマイクロ分析チップの技術と可能性」、かながわサイエンスパーク(KSP)(神奈川県川崎市高津区坂戸3-2-1) [開催日]平成30年5月27日 [集会名及び講義名、開催場所]第78回分析化学討論会「ペーパー分析デバイスの潮流」、国立大学法人山口大学 常盤キャンパス(山口県宇部市常盤台2-16-1) [公開日]平成30年7月30日 [講義名、開催場所]第1回KISTEC理科実験室、かながわサイエンスパーク(KSP)(神奈川県川崎市高津区坂戸3-2-1)
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】渡慶次 学
(72)【発明者】
【氏名】石田 晃彦
(72)【発明者】
【氏名】小松 雄士
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 優樹
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0355132(US,A1)
【文献】特表2018-511813(JP,A)
【文献】特開2018-100889(JP,A)
【文献】CAMPLISSON, C. K. et al.,Two-ply channels for faster wicking in paperbased microfluidic devices,Lab on a Chip,2015年,Vol.15,pp.4461-4466
【文献】MORBIOLI, G. G. et al.,Improving Sample Distribution Homogeneity in Three-Dimensional Microfluidic Paper-Based Analytical Devices by Rational Device Design,Analytical Chemistry,Vol.89,pp.4786-4792
【文献】BUSA, L. S. A. et al.,A competitive immunoassay system for microfluidic paper-based analytical detection of small size molecules,Analyst,2016年,Vol.141,pp.6598-6603
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/543
G01N 21/78
G01N 37/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1発色関与物質と第2発色関与物質との作用に起因して発生する発色の強度に基づいて水溶液中の物質の濃度を検出する物質検出装置であって、
親水性領域と当該親水性領域の外縁を画定する疎水性領域とを有する、複数のシートが積層された積層体を備えており、
前記積層体の親水性領域に、
検出対象である被検出物質と同一の物質が前記第1発色関与物質と結合した第1複合体及び前記被検出物質を含んだ試料液、又は、前記被検出物質をターゲットとする抗体が前記第1発色関与物質と結合した第2複合体及び前記被検出物質を含んだ試料液が供給される試料供給部と、
前記第2発色関与物質が固定されたテスト側発色部及びコントロール側発色部と、
前記被検出物質及び前記第1複合体を捕捉する第1捕捉物質、又は、前記第2複合体を捕捉する第2捕捉物質が固定された捕捉部と、が形成されており、
前記試料供給部と、前記試料供給部から前記テスト側発色部までを結ぶテスト側流路と、前記試料供給部から前記コントロール側発色部までを結ぶコントロール側流路とが、前記複数のシートのうちの1つである第1シートの親水性領域に形成されており、
前記テスト側流路の形状と前記コントロール側流路の形状とが、互いに同じであるか、又は鏡像の関係にあり、
前記複数のシートのうちの1つであり前記第1シート上に積層された別のシートに、前記テスト側流路中の第1親水部と接触した親水性領域からなる第2親水部が形成されており、
前記複数のシートのうちの1つであり前記第1シート上に積層された別のシートに、前記コントロール側流路における前記第1親水部に対応する第3親水部と接触した親水性領域からなる第4親水部が形成されており、
前記第1親水部及び前記第2親水部のいずれか一方が前記捕捉部であ
り、
前記第1親水部に接触する前記第2親水部と前記第3親水部に接触する前記第4親水部とがあることにより、前記捕捉部における捕捉効率が向上していると共に、前記コントロール側発色部の発色強度値の平均値に対する前記テスト側発色部の発色強度値の平均値の比にばらつきが生じにくくなっていることを特徴とする物質検出装置。
【請求項2】
前記複数のシートのうちの1つであり前記第1シート上に積層された別のシートに、前記テスト側流路における前記試料供給部とは反対側の端部と接触した親水性領域からなる第5親水部が形成されており、
前記複数のシートのうちの1つであり前記第1シート上に積層された別のシートに、前記コントロール側流路における前記試料供給部とは反対側の端部と接触した親水性領域からなる第6親水部が形成されており、
前記第5親水部が前記テスト側発色部であり、
前記第6親水部が前記コントロール側発色部であることを特徴とする請求項1に記載の物質検出装置。
【請求項3】
前記第2親水部、前記第4親水部、前記第5親水部及び前記第6親水部が、一体の1シートである第2シートに形成されていることを特徴とする請求項2に記載の物質検出装置。
【請求項4】
前記複数のシートのうちの1つであり前記第2シート上に積層された第3シートに、前記テスト側発色部及び前記コントロール側発色部と重なる位置に形成された観察孔と、前記第2親水部及び第4親水部を被覆する疎水性領域と、が形成されており、
前記第2シート及び第3シートが、前記試料供給部へと前記試料液を導入する親水性領域からなる導入流路が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の物質検出装置。
【請求項5】
前記第1シート、前記第2シート及び前記第3シートが、3つ折りにされた一体の1枚のシートにおける折れ線によって区分された3つの領域に対応することを特徴とする請求項4に記載の物質検出装置。
【請求項6】
前記テスト側流路及び前記コントロール側流路の少なくとも一部が、前記複数のシートのうちの1つであり前記第1シート上に積層された別のシートの疎水性領域によって被覆されていることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の物質検出装置。
【請求項7】
前記テスト側発色部、前記コントロール側発色部及び前記捕捉部のそれぞれを形成する親水性領域が円板の形状を有していることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の物質検出装置。
【請求項8】
前記積層体の疎水性領域が、疎水性インクの乾燥物を内部に含んでいることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の物質検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートを使用した物質検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
紙等のシートを使用した物質検出装置に関する従来技術として、特許文献1及び非特許文献1の技術がある。いずれの文献においても、紙製のシートが使用され、シート上に親水性の流路が形成されている。シート上の流路の一端には、被検出物質が溶解した水溶液が供給される試料供給部が設定されている。流路の他端かその途中には被検出物質の検出結果を表示する表示部分が設定されている。試料供給部に水溶液が供給されると、そこから流路の他端に向かって毛細管現象により水溶液が移動していく。そして、検出結果の表示部分に水溶液が到達すると、水溶液中に被検出物質が含まれるか否か等の検出結果が表示される。
【0003】
特に、非特許文献1においては、以下のように、検出結果を表示するために、ある物質の発色作用が利用されている。この発色作用には少なくとも2つの物質(西洋ワサビペルオキシダーゼ(以下、HRPという。)及び3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(以下、TMBZという。))が関わっている。非特許文献1の流路は、試料供給部から他端に向かって2本に分岐している。分岐した流路の各他端には、上記2つの物質のうちの一方(TMBZ)が固定された発色部が設けられている。これら2つの発色部の一方はテスト領域であり、他方はコントロール領域である。上記2つの物質のうちの他方(HRP)は、被検出物質(例えば、ビオチン)をターゲットとする抗体に結合している。この抗体と被検出物質とが溶解した水溶液が上記試料供給部に供給される。水溶液中では、抗体の一部が被検出物質と結合している。試料供給部からテスト領域である発色部までの流路には、抗体を捕捉させるために被検出物質と同一の物質が固定された捕捉部が設けられている。
【0004】
非特許文献1の装置は以下のように使用される。試料供給部に水溶液が供給されると、試料供給部から流路の他端の2つの発色部に向かって毛細管現象により水溶液が移動していく。一方の流路においては、被検出物質と結合していない水溶液中の抗体が、途中の捕捉部に固定された物質に捕捉される。被検出物質と結合した水溶液中の抗体はテスト側の発色部に到達する。他方の流路においては、被検出物質と結合した抗体も結合していない抗体もいずれもコントロール側の発色部に到達する。そして、各発色部に固定された上記2つの物質の一方と、抗体と結合した上記2つの物質の他方との間の作用により、各発色部に到達した水溶液中の抗体の濃度に応じた強さで発色が発生する。テスト側の発色部に到達する水溶液中の抗体の濃度は、捕捉部に捕捉された抗体の量に応じて変動する。捕捉部に捕捉される抗体の量は、水溶液中の被検出物質の濃度に応じて変動する。よって、テスト側の発色部における発色の強さとコントロール側の発色部における発色の強さとを比較することで、水溶液中の被検出物質の濃度が検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】L.S.A.ブサ他(L.S.A. Busa et al.)著「小型分子の微小流体的紙ベースの分析的検出のための競合イムノアッセイシステム(A competitive immunoassay system for microfluidic paper-based analytical detection of small size molecules)」、アナリスト(Analyst)、2016年、141、p.6598~6603
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術によると、テスト側の発色部とコントロール側の発色部との間で発色の強度にそれほど大きな差が生じず、また、検出結果にばらつきが生じやすい。テスト側の発色部とコントロール側の発色部との間で発色の強度に差が出にくかったり、検出結果にばらつきが生じやすかったりすると、装置において被検出物質の濃度の違いを区別する能力が低くなる。つまり、例えば、被検出物質の濃度が異なる2つの水溶液があるとき、その濃度の差異について装置が検出可能な最小値が大きくなってしまう。
【0008】
本発明の目的は、水溶液における被検出物質の濃度の違いを区別する能力が高められた物質検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の物質検出装置は、第1発色関与物質と第2発色関与物質との作用に起因して発生する発色の強度に基づいて水溶液中の物質の濃度を検出する物質検出装置であって、親水性領域と当該親水性領域の外縁を画定する疎水性領域とを有する、複数のシートが積層された積層体を備えており、前記積層体の親水性領域に、検出対象である被検出物質と同一の物質が前記第1発色関与物質と結合した第1複合体及び前記被検出物質を含んだ試料液、又は、前記被検出物質をターゲットとする抗体が前記第1発色関与物質と結合した第2複合体及び前記被検出物質を含んだ試料液が供給される試料供給部と、前記第2発色関与物質が固定されたテスト側発色部及びコントロール側発色部と、前記被検出物質及び前記第1複合体を捕捉する第1捕捉物質、又は、前記第2複合体を捕捉する第2捕捉物質が固定された捕捉部と、が形成されており、前記試料供給部と、前記試料供給部から前記テスト側発色部までを結ぶテスト側流路と、前記試料供給部から前記コントロール側発色部までを結ぶコントロール側流路とが、前記複数のシートのうちの1つである第1シートの親水性領域に形成されており、前記テスト側流路の形状と前記コントロール側流路の形状とが、互いに同じであるか、又は鏡像の関係にあり、前記複数のシートのうちの1つであり前記第1シート上に積層された別のシートに、前記テスト側流路中の第1親水部と接触した親水性領域からなる第2親水部が形成されており、前記複数のシートのうちの1つであり前記第1シート上に積層された別のシートに、前記コントロール側流路における前記第1親水部に対応する第3親水部と接触した親水性領域からなる第4親水部が形成されており、前記第1親水部及び前記第2親水部のいずれか一方が前記捕捉部であり、前記第1親水部に接触する前記第2親水部と前記第3親水部に接触する前記第4親水部とがあることにより、前記捕捉部における捕捉効率が向上していると共に、前記コントロール側発色部の発色強度値の平均値に対する前記テスト側発色部の発色強度値の平均値の比にばらつきが生じにくくなっている。
【0010】
本発明の物質検出装置によると、テスト側流路においては、試料液中の被検出物質及び第1複合体、又は、第2複合体が捕捉部に捕捉され、捕捉されなかった残余の物質を含んだ水溶液がテスト側発色部に到達する。第1複合体及び第2複合体には第1発色関与物質が含まれており、テスト側発色部には第2発色関与物質が固定されている。したがって、テスト側発色部においては、第1複合体又は第2複合体中の第1発色関与物質と第2発色関与物質との作用に応じた発色が起こる。テスト側発色部に到達する第1複合体又は第2複合体の濃度は、試料液の調製時の被検出物質の濃度に応じて変動する。よって、テスト側発色部における発色強度は、試料液の調製時の被検出物質の濃度に応じて変動する。これに対し、コントロール側流路では、第1複合体又は第2複合体が流路の途中で捕捉されることなく試料液がコントロール側発色部に到達する。したがって、テスト側発色部における発色強度とコントロール側発色部における発色強度とを比較すると、捕捉部において第1複合体又は第2複合体が捕捉される分、前者の発色強度が後者の発色強度より低くなる。
【0011】
本発明においては、テスト側発色部における発色強度を、上記のようなコントロール側発色部における発色強度との比較によって適切に評価可能である。つまり、コントロール側流路の発色強度を基準としてテスト側発色部の発色強度を適切に評価できる。このように、コントロール側発色部の発色強度を適切な基準として用いることができるのは、本発明のテスト側流路とコントロール側流路とが、互いに同じ形状を有するか、互いに鏡像の関係にある形状を有するように構成されているためである。仮に、これらの形状が互いに同じでなく鏡像の関係にもないとすると、流路間の形状の違いによって試料液の流れ方に違いが生じるおそれがある。試料液の流れ方に違いが生じると、流れ方の差によって発色に差が出たのか、その他の要因で差が出たのかを切り分けにくい。これに対し、本発明は、テスト側流路の形状とコントロール側流路の形状とが、互いに同じであるか、互いに鏡像の関係にある。このため、流路の形状の違いを要因とする発色強度の違いが生じにくい。したがって、流路の形状以外の要因、つまり、捕捉部における第1複合体又は第2複合体の捕捉による発色強度の違いを適切に評価しやすい。
【0012】
さらに、本発明においては、テスト側流路の一部である第1親水部と接触した親水性領域からなる第2親水部が設けられていると共に、第1親水部及び第2親水部のいずれか一方が捕捉部となっている。そして、コントロール側流路における第1親水部と対応する第3親水部と接触した親水性領域からなる第4親水部が設けられている。これらにより、後述の実施例3に示すように、以下の2つの効果が確保される。第1に、捕捉部における物質の捕捉効率が向上することにより、テスト側発色部の発色強度にコントロール側発色部の発色強度との差が生じやすくなっている。したがって、テスト側発色部の発色強度をコントロール側発色部の発色強度との比較に基づいて評価しやすい。第2に、コントロール側発色部の発色強度に対するテスト側発色部の発色強度の相対的な大きさ(以下、相対発色強度という。)にばらつきが生じにくい。相対発色強度にばらつきが生じにくいと、例えば、被検出物質の濃度が異なる2つの試料液があるとき、その濃度の差異について装置が検出可能な最小値が小さくなる。以上の2つの効果により、本発明は、テスト側発色部とコントロール側発色部との発色強度の比較に基づく被検出物質の濃度の検出において、試料液における被検出物質の濃度の違いを区別する能力が高められている。なお、本発明の試料液は、被検出物質と第1複合体又は第2複合体と被検出物質とを含んだものであれば、どのように調製されてもよい。例えば、被検出物質の水溶液と第1複合体又は第2複合体の水溶液とを用意した後、これらの水溶液同士を混合させてもよい。また、被検出物質の水溶液を用意した後、第1複合体又は第2複合体をその水溶液に溶解させてもよい。さらに、第1複合体又は第2複合体の水溶液をあらかじめ調製しておき、その水溶液に被検出物質を溶解させてもよい。
【0013】
なお、「前記第1シート上に積層された別のシート」とは、第1シートと一体に繋がったシートが折り畳まれることで第1シート上に積層されたものであってもよいし、第1シートとは分離されたシートが第1シート上に積層されたものであってもよい。また、第2親水部が形成された「別のシート」と、第4親水部が形成された「別のシート」とは、互いに共通のシートであってもよいし、互いに異なるシートであってもよい。
【0014】
また、本発明においては、前記複数のシートのうちの1つであり前記第1シート上に積層された別のシートに、前記テスト側流路における前記試料供給部とは反対側の端部と接触した親水性領域からなる第5親水部が形成されており、前記複数のシートのうちの1つであり前記第1シート上に積層された別のシートに、前記コントロール側流路における前記試料供給部とは反対側の端部と接触した親水性領域からなる第6親水部が形成されており、前記第5親水部が前記テスト側発色部であり、前記第6親水部が前記コントロール側発色部であることが好ましい。従来技術(例えば、非特許文献1)によると、1枚のシートに形成されたテスト側流路の端部に発色部が設けられている。このため、従来技術では、発色部における発色は、1枚のシートに沿った方向に関する試料液の浸透のみによって進んでいく。したがって、シートに沿った方向に関する発色のむらが生じやすい。発色のむらが生じると、発色部の発色強度を適切に評価できず、発色部の発色強度に基づく被検出物質の濃度の検出が適切に行えないおそれがある。これに対し、本発明における上記構成によると、試料供給部からテスト側流路の端部まで到達した試料液は、第1シートに沿ってテスト側流路の端部の奥へと浸透しながら、さらに第1シートから第4シートへと、テスト側発色部である第5親水部に向かって浸透していく。つまり、1枚のシートに沿った水溶液の浸透のみによって発色が進んでいく従来技術とは異なり、本発明においては、1枚のシート内での試料液の浸透のみならず、第1シートから第4シートへとシート間を跨ぐように試料液の浸透が進むことによっても発色が進んでいく。このため、従来技術のようなシートに沿った方向に関する発色のむらが生じにくい。同様に、コントロール側流路の端部においても、これと接触した第6親水部にコントロール側発色部が設けられていることによって発色のむらが生じにくくなっている。以上により、テスト側発色部及びコントロール側発色部の発色強度に基づいて被検出物質を適切に検出できる。なお、第2親水部が形成された「別のシート」、第4親水部が形成された「別のシート」、第5親水部が形成された「別のシート」及び第6親水部が形成された「別のシート」は、互いに共通のシートであってもよいし、互いに異なるシートであってもよい。
【0015】
また、本発明においては、前記第2親水部、前記第4親水部、前記第5親水部及び前記第6親水部が、一体の1シートである第2シートに形成されていることが好ましい。これによると、第2親水部~第6親水部が1枚のシートにまとめられているため、本発明の装置が比較的簡易な構造で実現される。
【0016】
また、本発明においては、前記複数のシートのうちの1つであり前記第2シート上に積層された第3シートに、前記テスト側発色部及び前記コントロール側発色部と重なる位置に形成された観察孔と、前記第2親水部及び第4親水部 を被覆する疎水性領域と、が形成されており、前記第2シート及び第3シートが、前記試料供給部へと前記試料液を導入する親水性領域からなる導入流路が形成されていることが好ましい。これによると、第2シート上に積層された第3シートの疎水性領域が第2親水部及び第4親水部を被覆することによって、これらの部分からの試料液の蒸発が抑制される。また、第2シート及び第3シートに形成された導入流路により、試料供給部に試料液を導入する経路が確保されている。さらに、テスト側発色部及びコントロール側発色部における発色を検出するための観察孔が第3シートに確保されている。
【0017】
また、本発明においては、前記第1シート、前記第2シート及び前記第3シートが、3つ折りにされた一体の1枚のシートにおける折れ線によって区分された3つの領域に対応することが好ましい。これによると、第1シート~第3シートが1枚のシートにまとめられているため、本発明の装置が簡易な構造で実現される。
【0018】
また、発明においては、前記テスト側流路及び前記コントロール側流路の少なくとも一部が、前記複数のシートのうちの1つであり前記第1シート上に積層された前記第1シートとは別のシートの疎水性領域によって被覆されていることが好ましい。これによると、テスト側流路及びコントロール側流路からの試料液の蒸発が抑制される。
【0019】
また、発明においては、前記テスト側発色部、前記コントロール側発色部及び前記捕捉部のそれぞれを形成する親水性領域が円板の形状を有していることが好ましい。装置の作製過程において、第1シートにおけるテスト側発色部、コントロール側発色部又は捕捉部となるべき部分に液体を滴下する場合がある。例えば、これらの部分に、第2発色関与物質又は第1捕捉物質若しくは第2補足物質の溶液を滴下することでこれらの物質を固定する場合である。このような場合、本発明の上記構成のように各部が円板形状を有していることにより、滴下すべき領域の外縁が明確に規定されている。よって、液体をこれら各部に対応する領域に滴下するに当たって、その領域をちょうど満たす液体の量を規定しやすい。
【0020】
また、本発明においては、前記積層体の疎水性領域が、疎水性インクの乾燥物を内部に含んでいることが好ましい。これによると、プリンター等を用いて疎水性インクによるパターンを形成することで、親水性領域からなる流路を画定する疎水性領域を容易にシート上に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る紙デバイスの分解斜視図である。
【
図2】
図1の紙デバイスのII-II線断面図である。
【
図4】
図1の紙デバイスに形成された流路の模式図である。
【
図5】
図1の紙デバイスの使用方法を示すフロー図である。
【
図6】
図1の発色部が発色した状態の紙デバイスの平面図である。
【
図7】
図1の紙デバイスを用いた試験である実施例1の結果を示すグラフである。
【
図8】
図1の紙デバイスを用いた試験である実施例2の結果を示すグラフである。
【
図9】
図8に係る実施例2に対する比較例(従来例)の結果を示すグラフである。
【
図10】
図1の紙デバイスを用いた試験である実施例3の結果及びこれに対する比較例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[紙デバイス1]
以下、本発明の一実施形態に係る紙デバイス1について説明する。紙デバイス1は、試料液中の被検出物質の濃度を検出する装置である。本装置は、例えば、動物の血液等の検体に含まれる特定の物質を検出するために用いられる。被検出物質としては、抗体との複合体が作成可能な物質であれば、どのような物質であってもよい。例えば、後述の実施例において用いられるプロゲステロン、ビオチンの他、コルチゾール、エストロゲン、テストステロン、プロラクチン、ANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)、アフラトキシン、オクラトキシン、パツリン、デオキシニバレノール、ニバレノール等が対象とされてよい。
【0023】
紙デバイス1においては、少なくとも2つの物質が関わって生じる発色が利用されている。2つの物質の一方(本発明における第1発色関与物質)は酵素であり、後述の通り、被検出物質と結合した複合体か、あるいは、被検出物質をターゲットとする抗体と結合した複合体として試料液に含まれた状態で用いられる。2つの物質の他方(本発明における第2発色関与物質)は発色基質1(色原体)であり、後述の通り、紙デバイス1に部分的に固定されて用いられている。酵素及び発色基質1の組み合わせによっては、発色のために発色基質2が必要となる場合がある。この場合、発色基質2は、後述の通り、例えば、試料液に含まれた状態で用いられる。かかる酵素、発色基質1及び2としては、表1に掲げる物質が使用されてもよい。表1に示すように、酵素の候補としてHRP、β-GAL等のいずれか1つが使用可能であり、酵素の各候補に対して複数の発色基質1の候補が存在する。例えば、HRPに対しては1,2-フェニレンジアミン、TMBZ等のいずれか1つが使用可能である。発色基質2としては、酵素及び発色基質1の組み合わせに応じて決定される。例えば、酵素及び発色基質1としてHRP及びTPM-PSが使用される場合、発色基質2としてH2O2が使用される。また、酵素及び発色基質1としてHRP及びALPSが使用される場合、発色基質2としてH2O2及び4-AAの両方が使用される。一方、例えば、酵素及び発色基質1としてALP及びNADPが用いられる場合、発色基質2は不要である。
【0024】
【0025】
次に、紙デバイス1の構成について、
図1~
図4を参照しつつ説明する。紙デバイス1は、
図1及び
図2に示すように、濾紙製のシート10(本発明における第3シート)、シート20(本発明における第2シート)、及びシート30(本発明における第1シート)が積層した積層体2を備えている。以下、シートが積層された方向を積層方向という。シート10~30は、
図3に示す1枚のシートが山折り線1a及び谷折り線1bでZ型に3つ折りに折り畳まれることで、積層方向に関してシート10、20及び30がこの順序で並んだ3層のシートからなる積層体2になるように構成されている。シート10~30は、山折り線1a及び谷折り線1bによって区分される3つの領域に対応している。つまり、
図3に示す1枚のシートにおいて、シート10は山折り線1aより左側の領域を、シート20は山折り線1aから谷折り線1bまでの領域を、シート30は谷折り線1bより右側の領域を占めている。
【0026】
積層体2は、
図2に示すように、左上から右下に向かう方向に沿った斜線からなるハッチングの領域2aと、右上から左下に向かう方向に沿った斜線からなるハッチングの領域2bとを含んでいる。領域2bは、疎水性のインクを含侵させた疎水性を有する領域である。以下、領域2bを疎水性領域2bという。これに対し、領域2aにはかかるインクを含侵させていない。このため、領域2aは親水性を有する領域である。以下、領域2aを親水性領域2aという。親水性領域2aの一か所に水や水溶液からなる液体を含ませると、その液体は、時間の経過に伴ってその一か所から周囲へと毛細管現象により広がっていく。液体の広がりは、親水性領域2aと疎水性領域2bとの境界に到達するまで継続する。
【0027】
疎水性領域2bのパターンは、例えば、疎水性のソリッドインクを用い、ソリッドインク用のインクジェットプリンターを使用してシート上に印刷することで形成する。パターンの印刷後、乾燥機を用いてシートを加熱することにより、シート上のインクを融解させつつシート中に浸透させる。これにより、シートの一方の表面から他方の表面まで疎水性のインクを含浸した疎水性領域2bが形成される。疎水性領域2bは、疎水性のインクの乾燥物がシート中に存在した状態となる。なお、シート上へのパターンの形成には、ソリッドインク式以外のインクジェットプリントの他、スクリーンプリント、フォトリソグラフィー等が使用されてもよい。
【0028】
積層体2は、親水性領域2aによって形成された流路を有している。この流路は、シート10~30のそれぞれの親水性領域2aが互いに連通することで形成されている。流路の一部として、シート10には導入部11が形成されている。導入部11は、
図2の左右方向に関してシート10のほぼ中央に配置されている。以下、
図2の左右方向を横方向といい、シートの積層方向及び横方向の両方と直交する方向を縦方向という。導入部11は、
図4に示すように円板形状を有している。導入部11には試料液が導入される。試料液は、2つの水溶液のいずれかである。2つの水溶液の一方は、検出対象としての被検出物質の水溶液(例えば、被検出物質を含んだ検体)に、酵素を含む複合体(第1複合体)の水溶液を混合させたものである。この試料液は、プロゲステロンに係る後述の実施例1で使用されるものに対応する。上記複合体は、検出対象とは別に準備された被検出物質と同一の物質と酵素とを結合させたものである。以下、この複合体を被検出物質-酵素複合体という。2つの水溶液の他方は、検出対象としての被検出物質の水溶液(例えば、被検出物質を含んだ検体)に、酵素を含む複合体(第2複合体)の水溶液を混合させたものである。この試料液は、ビオチンに係る後述の実施例2で使用されるものに対応する。上記複合体は、被検出物質に対する抗体と酵素とを結合させたものである。以下、この複合体を抗体-酵素複合体という。また、発色のために発色基質2も必要となる場合、試料液はさらに発色基質2を含んだものとする。なお、シート10には、平面視において円形の観察孔12及び13が形成されている。観察孔12及び13は、導入部11と共に、横方向に沿って一列に配列されている。観察孔12及び13並びに導入部11は互いに等間隔に配置されている。
【0029】
シート20には、上記流路の一部として、連通部21~23並びに発色部24及び25が形成されている。連通部21~23並びに発色部24及び25は、
図1に示すように横方向に沿って等間隔で一列に配列されている。これらのうち、連通部21は、横方向及び縦方向に関して導入部11と同じ位置に、導入部11と同じ形状で形成されている。発色部24及び25は、横方向及び縦方向に関して観察孔12及び13と同じ位置に配置されている。連通部22(本発明における第2親水部)は連通部21と発色部24との間に配置され、連通部23(本発明における第4親水部)は連通部21と発色部25との間に配置されている。連通部21~23並びに発色部24及び25は、
図4に示すように、互いに同じ円板形状を有している。発色部24及び25には、それぞれ発色基質1が固定されている。なお、発色部24は、本発明における第5親水部及びテスト側発色部に対応する。また、発色部25は、本発明における第6親水部及びコントロール側発色部に対応する。
【0030】
シート30には、上記流路の一部として、試料供給部32、捕捉部33(本発明における第1親水部)、擬捕捉部34(本発明における第3親水部)、並びに連通部35~37が形成されている。これらのうち、試料供給部32、捕捉部33及び擬捕捉部34並びに連通部35及び36は、
図4に示すように互いに同じ円板形状を有している。また、これらは、シート20の連通部21等と同じ形状を有している。連通部37は、
図4に示すように横方向に沿って直線状に延びている。試料供給部32、捕捉部33及び擬捕捉部34並びに連通部35及び36は、
図1に示すように、それぞれ、シート20の連通部21~23並びに発色部24及び25と横方向及び縦方向に関して同じ位置に配置されている。連通部37は、試料供給部32、捕捉部33及び擬捕捉部34並びに連通部35及び36の各部分同士を横方向に連通させている。捕捉部33には、試料液中の物質を捕捉する物質(以下、捕捉物質という。)が固定されている。本実施形態に係る捕捉物質としては、以下の被検出物質捕捉物質及び抗体捕捉物質のいずれかが用いられる。被検出物質捕捉物質は、試料液中の被検出物質及び被検出物質-酵素複合体を捕捉する物質である。被検出物質捕捉物質としては、例えば、被検出物質に対する抗体が用いられてもよい。この抗体としては、被検出物質と直接結合する抗体のみが用いられてもよいし、一次抗体及び二次抗体が用いられてもよい。抗体捕捉物質は、試料液中の抗体-酵素複合体を捕捉する物質である。抗体捕捉物質としては、例えば、被検出物質と同一の物質が用いられてよい。
【0031】
以上の構成において、シート10~30に形成された流路の各部は、積層方向に関して接触することにより互いに連通している。これにより、
図2及び
図4に示すように、導入流路51、テスト側流路52及びコントロール側流路53の3本の流路が積層体2に形成されている。導入流路51は、
図2及び
図4に示すように、導入部11及び連通部21によって構成されており、試料供給部32まで試料液を導入する流路である。テスト側流路52及びコントロール側流路53は互いに同一の形状を有している。つまり、テスト側流路52は、
図4に示す導入流路51の中心軸C周りに180度回転させると、コントロール側流路53とちょうど重なり合う形状を有している。また、テスト側流路52とコントロール側流路53とは、中心軸Cを通り縦方向に平行な平面に関して互いに対称な関係にもある。
【0032】
テスト側流路52は、
図2及び
図4に示すように、捕捉部33並びに連通部37及び35によって構成されており、試料供給部32から発色部24までを結ぶ流路である。テスト側流路52の一部である捕捉部33には、シート20側から連通部22が積層している。また、テスト側流路52の試料供給部32とは反対側の端部である連通部35には、シート20側から発色部24が積層している。コントロール側流路53は、
図2及び
図4に示すように、擬捕捉部34並びに連通部37及び36によって構成されており、試料供給部32から発色部25までを結ぶ流路である。コントロール側流路53の一部である擬捕捉部34は、捕捉部33に対応する部分であるが、捕捉部33と異なり、捕捉物質が固定されていない。擬捕捉部34には、シート20側から連通部23が積層している。また、コントロール側流路53の試料供給部32とは反対側の端部である連通部36には、シート20側から発色部25が積層している。
【0033】
以上の導入流路51、テスト側流路52及びコントロール側流路53が互いに連通することにより、導入部21から発色部24及び25に至る試料液の流路が形成されている。かかる試料液の流路は、
図1に示すように、1つの紙デバイス1に4系統、設けられている。
【0034】
[紙デバイス1(被検出物質捕捉物質)の使用方法]
以下、被検出物質捕捉物質が用いられた紙デバイス1の使用方法について
図5を参照しつつ説明する。まず、試料液を調製する(ステップS1)。被検出物質捕捉物質が用いられた紙デバイス1に対する試料液の調製においては、被検出物質-酵素複合体の水溶液を準備する。この水溶液は、あらかじめ設定された所定の濃度及び所定量とする。そして、この水溶液に、検出対象としての被検出物質の水溶液(例えば、被検出物質を含む検体)を所定量、混合する。このように取得した被検出物質-酵素複合体及び被検出物質の水溶液を、必要に応じて発色基質2の水溶液をさらに混合して試料液とする。以下の表2は、被検出物質捕捉物質が用いられた紙デバイス1の使用方法において、試料液の溶質と、捕捉部33に固定された物質と、発色部24及び25にそれぞれ固定された物質とを示す。
【0035】
【0036】
次に、調製した試料液を導入部11に導入する(ステップS2)。導入部11に導入された試料液は、親水性領域2aからなる流路中を下記のように浸透していく。まず、試料液は、導入部11からシート10及び20の導入流路51を通ってシート30の試料供給部32に到達する。
【0037】
試料供給部32からは、試料液は、テスト側流路52及びコントロール側流路53の二手に分かれる。まず、コントロール側流路53においては、試料液は、試料供給部32から、連通部37を経て擬捕捉部34に向かう。擬捕捉部34に到達した試料液は、擬捕捉部34に積層したシート20側の連通部23にも浸透しつつ、擬捕捉部34中を連通部36側へと向かう。捕捉部33と異なり、擬捕捉部34には捕捉物質が固定されていない。このため、試料液中の被検出物質及び被検出物質-酵素複合体は、擬捕捉部34に捕捉されることなく連通部37を経て連通部36へと向かう。連通部36に到達した試料液は、連通部36に浸透しつつ、さらに連通部36から発色部25へと浸透していく。発色部25においては、例えば、試料液中の被検出物質-酵素複合体における酵素と発色部25に固定された発色基質1との作用により、場合によっては試料液中の発色基質2も関わった作用により生成物が生じ、その生成物が発色する。発色部25における発色の強度は、被検出物質の濃度に依存することなく、試料液中の被検出物質-酵素複合体の濃度が大きいほど高い。なお、発色基質2がH2O2及び4-AAである場合、発色基質1と4-AAと発色基質2に酵素が作用して、生成物ができ、この生成物が発色する。
【0038】
一方、テスト側流路52においては、試料液は、試料供給部32から、連通部37を経て捕捉部33に向かう。捕捉部33に到達した試料液は、捕捉部33に積層したシート20側の連通部22にも浸透しつつ、捕捉部33中を連通部35側へと向かう。捕捉部33においては、試料液中の被検出物質及び被検出物質-酵素複合体が、捕捉部33に固定された捕捉物質に捕捉される。被検出物質及び被検出物質-酵素複合体は、試料液中のこれらの濃度比に応じた割合で捕捉部33の捕捉物質に捕捉される。つまり、被検出物質-酵素複合体の濃度に対して被検出物質の濃度が大きいほど捕捉部33の捕捉物質に捕捉される被検出物質-酵素複合体は少ない。また、被検出物質-酵素複合体の濃度に対して被検出物質の濃度が小さいほど捕捉部33に捕捉される被検出物質-酵素複合体は多い。捕捉部33における被検出物質の濃度は試料液の調製直後の被検出物質の濃度(以下、当初被検出物質濃度という。)に応じた大きさとなるので、当初被検出物質濃度が大きいほど捕捉部33に捕捉される被検出物質-酵素複合体は少ない。そして、捕捉部33を出た試料液は、連通部37を経て連通部35へと向かう。連通部35に到達した試料液は、連通部35に浸透しつつ、さらに連通部35から発色部24へと浸透していく。発色部24においては、捕捉部33に捕捉されることなく試料液中に残存している被検出物質-酵素複合体における酵素と発色部24に固定された発色基質1との作用により、場合によっては試料液中の発色基質2も関わった作用を通じ、当該作用によって生成された生成物が発色する。発色部24における発色の強度は、試料液中に残存している被検出物質-酵素複合体の濃度が大きいほど高い。発色部24における発色の強度は、捕捉部33に捕捉された被検出物質-酵素複合体が多いほど、発色部25における発色の強度より低くなる。被検出物質-酵素複合体が捕捉部33に捕捉される量は、上記の通り、当初被検出物質濃度が大きいほど小さく、当初被検出物質濃度が小さいほど大きい。このため、発色部25における発色の強度に対して発色部24における発色の強度がどれだけ低下したかに基づいて当初被検出物質濃度の大きさを評価できる。具体的には、発色部25における発色の強度に対して発色部24における発色の強度が低いほど当初被検出物質濃度は小さく、発色部25における発色の強度に対して発色部24における発色の強度が高いほど当初被検出物質濃度は大きい。
図6には、発色部24及び25が発色した状態の紙デバイス1が模式的に示されている。
【0039】
次に、紙デバイス1をデジタルカメラで撮影する(ステップS3)。撮影は、シート10に形成された観察孔12及び13を通じて発色部24及び25が発色した状況が撮影範囲に含まれるように実施される。
【0040】
次に、ステップS3の撮影結果に基づいて、当初被検出物質濃度に関する分析が実行される(ステップS4)。ステップS4の分析には、コンピュータによるデジタル画像解析が用いられる。このデジタル画像解析において、コンピュータは、ステップS3の撮影結果に基づき、発色部24と発色部25との間で発色強度の違いを比較する。具体的には、例えば、撮影画像における各発色部24に対応する領域内に存在する各画素の画素値(例えば、RGB値)を演算した値として、発色に対応する色成分の強度を示す発色強度値(例えば、CMYのうちのC値)が導出される。そして、各発色部24に対応する領域内の画素に関して発色強度値の平均値が算出される。同様に、撮影画像における各発色部25に対応する領域内に存在する各画素の画素値から、画素値が示す色成分に含まれる発色に対応する色成分の強度を示す発色強度値が導出される。そして、各発色部25に対応する領域内の画素に関して発色強度値の平均値が算出される。さらに、発色部25の発色強度値の平均値に対する発色部24の発色強度値の平均値の比(以下、相対発色強度という。)が求められる。
【0041】
次に、コンピュータは、相対発色強度に基づいて当初被検出物質濃度を評価する。上記の通り、発色部25における発色の強度に対して発色部24における発色の強度が低いほど当初被検出物質濃度は小さく、発色部25における発色の強度に対して発色部24における発色の強度が高いほど当初被検出物質濃度は大きい。したがって、コンピュータは、相対発色強度が大きいほど当初被検出物質濃度が大きいと評価する。例えば、コンピュータは、当初被検出物質濃度と相対発色強度との関係を示すデータ(
図7や
図8のグラフに対応するデータ)を保持しており、当該データに基づいて、上記の通り算出した相対発色強度に対応する当初被検出物質濃度を具体的に導出してもよい。この評価結果は、コンピュータに接続された、又はコンピュータに搭載されたディスプレイ等の出力装置によって出力される。
【0042】
[紙デバイス1(抗体捕捉物質)の使用方法]
以下、抗体捕捉物質が用いられている場合における紙デバイス1の使用方法について説明する。この使用方法は、被検出物質捕捉物質が用いられている場合の使用方法と共通点が多い。この使用方法では、上記ステップS1~S4が実行されるが、各ステップの具体的な内容に違いがある。以下では主に、被検出物質捕捉物質が用いられている場合における紙デバイス1の使用方法との相違点について説明し、共通点については適宜省略する。
【0043】
まず、ステップS1の、抗体捕捉物質が用いられた紙デバイス1に対する試料液の調製においては、抗体-酵素複合体の水溶液を準備する。この水溶液は、あらかじめ設定された所定の濃度及び所定量とする。この水溶液に、検出対象としての被検出物質の水溶液(例えば、被検出物質を含んだ検体)を所定量、混合する。試料液中では、被検出物質と抗体-酵素複合体とが互いに結合してさらに複合体(以下、被検出物質-抗体-酵素複合体という。)を形成する。試料液の調製においては、被検出物質と結合していない抗体-酵素複合体と被検出物質-抗体-酵素複合体とが調製後の試料液中に混在するように、水溶液における抗体-酵素複合体の濃度が十分大きく設定される。このように取得した抗体-酵素複合体と被検出物質-抗体-酵素複合体の水溶液を、必要に応じて発色基質2の水溶液をさらに混合して試料液とする。以下の表3は、抗体捕捉物質が用いられた紙デバイス1の使用方法において、試料液の溶質と、捕捉部33に固定された物質と、発色部24及び25にそれぞれ固定された物質とを示す。
【0044】
【0045】
ステップS2の試料液の導入後、テスト側流路52において試料液が捕捉部33に到達すると、抗体-酵素複合体中の抗体が、捕捉部33に固定された抗体捕捉物質(被検出物質と同一の物質)と結合することにより、全ての抗体-酵素複合体が捕捉部33に捕捉される。これにより、捕捉部33を出るときの試料液には抗体-酵素複合体が存在しなくなる。一方、既に被検出物質と結合している被検出物質-抗体-酵素複合体は捕捉部33に捕捉されず、そのまま試料液に残存する。したがって、発色部24においては、試料液に残存した被検出物質-抗体-酵素複合体における酵素と発色部24に固定された発色基質1との作用により、場合によっては試料液中の発色基質2も関わった作用を通じ、当該作用によって生成された生成物が発色する。発色の強度は、試料液中に残存している被検出物質-抗体-酵素複合体の濃度が大きいほど高い。発色部24に到達する試料液中の被検出物質-抗体-酵素複合体の濃度は、当初被検出物質濃度が大きいほど大きく、当初被検出物質濃度が小さいほど小さい。このため、発色部24が強く発色するほど当初被検出物質濃度が大きいことになる。なお、ここでの当初被検出物質濃度は、調製直後の試料液における被検出物質-抗体-酵素複合体中の被検出物質と、抗体と結合していない被検出物質とを合わせた全体の被検出物質の濃度に対応する。
【0046】
一方、コントロール側流路53においては、試料液中の抗体-酵素複合体が擬捕捉部34に捕捉されないまま試料液が発色部25に到達する。したがって、発色部25は、発色部25に到達した試料液における抗体-酵素複合体及び被検出物質-抗体-酵素複合体の両方の濃度を合わせた強度で発色する。
【0047】
ステップS4において、コンピュータは、相対発色強度に基づいて当初被検出物質濃度を評価する。上記の通り、発色部24の発色は当初被検出物質濃度が大きいほど強くなる。したがって、コンピュータは、相対発色強度が大きいほど当初被検出物質濃度が大きいと評価する。
【0048】
[実施例1]
以下、上述の実施形態に関する実施例1について説明する。実施例1では、被検出物質としてプロゲステロン(富士フィルム和光純薬社)を用いた。被検出物質捕捉物質には、被検出物質に対する一次抗体として、抗プロゲステロン-3(E)-CMO-BSA抗体(コスモ・バイオ社)を用いた。また、二次抗体として、ウサギ抗プロゲステロン抗体(バイオ・ラッドラボラトリーズ社)を用いた。酵素としてはHRPを、発色基質1としてはTMBZを、発色基質2としてはH
2O
2を用いた。まず、紙デバイス1を以下の通りに作製した。ソリッドインク式のインクジェットプリンター(ColorQube 8580,ゼロックス社)を用い、
図3に示すパターンを濾紙(GEヘルスケア社、ワットマン(登録商標)無灰定量ろ紙 グレード:41 1441-917)に複数形成する。その後、パターンを形成した濾紙を100℃に設定した定常乾燥機に1分30秒間入れることで、濾紙上で固化したソリッドインクを融解し、濾紙中に浸透させる。これにより、親水性領域からなる流路(導入流路51、試料供給部32、テスト側流路52、コントロール側流路53並びに発色部24及び25)の外縁を画定する疎水性領域のパターンを濾紙上に形成する。以下、このように疎水性領域のパターンが形成された濾紙をパターン形成濾紙という。
【0049】
次に、50mMのHCl水溶液にキトサンを溶解後、NaOH水溶液を加えてpH3.5~5.0に調整することで得た0.25mg/mLのキトサン溶液0.3μLをパターン形成濾紙の捕捉部33に対応する領域(以下、捕捉部対応領域という。)に滴下し、約5分間自然乾燥させる。なお、捕捉部33は上記の通り円板形状を有している。このため、捕捉部対応領域の外縁が明確に規定されているので、捕捉部対応領域内をちょうど満たす溶液の量を規定しやすい。次に、1%(v/v)Tween20-PBSにグルタルアルデヒドを溶解させて得た2.5%グルタルアルデヒド溶液0.3μLを捕捉部対応領域に滴下し、2時間静置する。以上のキトサン溶液及びグルタルアルデヒド溶液の滴下は、捕捉部対応領域に二次抗体を固定するために実施される。
【0050】
次に、捕捉部対応領域の洗浄を実行する。この洗浄においては、紙製の吸収シート(以下、吸収シートという。)の上にパターン形成濾紙を裏返しにして置き、捕捉部対応領域の裏面にPBST(1%(v/v)Tween20-99%(v/v)PBS)0.3μLを滴下する。直ちに別の吸収シートをパターン形成濾紙に重ねて、パターン形成濾紙の両面からPBSTを吸収シートに吸い取る。このような捕捉部対応領域の洗浄を3回繰り返したのち、捕捉部対応領域を乾燥させる。
【0051】
次に、パターン形成濾紙を表向きにし、2mg/mLの二次抗体の水溶液0.3μLを捕捉部対応領域に滴下した後、これを乾燥させる。これを計8回繰り返したあと20分間静置する。これにより、捕捉部対応領域に二次抗体が固定される。次に、上記洗浄と同様の手順でPBSTによる捕捉部対応領域の洗浄を3回行う。その後、捕捉部対応領域を乾燥させる。なお、捕捉部対応領域における少量の液体が次の工程までに乾燥していればよいため、洗浄後すぐに乾燥するのであれば、この乾燥工程は必須ではない。次に、乾燥後の捕捉部対応領域に、2mg/mLの一次抗体の水溶液を0.3μL滴下した後、これを乾燥させる。これを5回繰り返したあと20分間静置する。これにより、捕捉部対応領域に固定された二次抗体に一次抗体が結合する。次に、上記洗浄と同様の手順でPBSTによる捕捉部対応領域の洗浄を3回行う。次に、3層目(シート30)の流路全体に1%BSA-PBS溶液を30μL滴下する。具体的には、流路の両端(連通部35及び36に対応する領域)と中央(試料供給部32に対応する領域)に10μLずつ滴下する。滴下後、20分間静置する。次に、1回当たり20μLのPBSTを流路の端から端まで一直線を描くように排出することで、試料供給部32、テスト側流路52及びコントロール側流路53に対応する流路全体に対してPBSTによる洗浄を3回行う。洗浄後、流路を20~30分間乾燥させる。次に、2層目(シート20)の発色部24に対応する領域と発色部25に対応する領域とに35.7mMのTMBZのアセトニトリル溶液を1μLずつ滴下し、約15分間乾燥させる。なお、発色部24及び25は上記の通り、円板形状を有している。このため、これらに対応する領域の外縁が明確に規定されているので、これらの領域内をちょうど満たす溶液の量を規定しやすい。次に、パターン形成濾紙をZ型に折りたたみ、紙デバイス1の大きさに裁断した後、裁断後のそれぞれの積層体2における四辺の中央付近の合計4箇所をステープラーで留めて3層(シート10~30)を互いに固定する。
【0052】
以上のように紙デバイス1を作製した後、この紙デバイス1を用いて、濃度を変えつつ調製したプロゲステロンの試料液の相対発色強度を導出する試験を以下のように実施した。まず、種々の濃度のプロゲステロンの試料液を調製する。各試料液は、被検出物質に対応するプロゲステロンの水溶液と、HRPを結合させたプロゲステロンの水溶液と、H
2O
2の水溶液とを混合したものとする。次に、1つの紙デバイス1に形成された4つの導入部11のそれぞれに試料液16μLを滴下する。そして、試料液が発色部24に達して発色部24が変色し始めたことを観察孔12を通じて確認してから5分後に、デジタルカメラで紙デバイス1の画像を撮影する。撮影は、紙デバイス1のシート10全体、観察孔12を通じて露出した4つの発色部24のそれぞれ、及び、観察孔13を通じて露出した発色部25のそれぞれを撮影範囲として実施する。デジタルカメラの設定は、ISO感度:1600、F値:5.6、シャッター速度:1/200秒とする。当該撮影結果に基づき、4つの流路における相対発色強度をコンピュータに算出させた結果が
図7に示されている。
図7において、横軸は被検出物質におけるプロゲステロンの当初被検出物質濃度を示し、縦軸はコンピュータの算出値を示す。グラフ中の各点は、各当初被検出物質濃度において、4組の発色部24及び25に関してそれぞれ算出された相対発色強度の平均値を示す。エラーバーは、4組の発色部24及び25に関してそれぞれ算出された相対発色強度のばらつき(±1*標準偏差)を示す。
【0053】
[実施例2]
以下、上述の実施形態に関する実施例2について説明する。実施例2では、被検出物質としてはビオチン(Sigma-Aldrich社)を用いた。抗体捕捉物質には、被検出物質と同一の物質としてビオチンを用いた。酵素としてはHRPを、発色基質1としてはTMBZを、発色基質2としてはH
2O
2を用いた。まず、紙デバイス1を以下の通りに作製した。実施例2における紙デバイス1の作製方法は、実施例1における紙デバイス1の作製方法と共通点が多いため、以下においては、実施例1における方法との相違点について主に説明する。実施例2においては、BSAが結合したビオチン(以下、BSA-ビオチン複合体という。)を捕捉部対応領域に固定する。BSAが捕捉部対応領域に固定されることによって、ビオチンがBSAを介して捕捉部対応領域に固定される。具体的には、実施例1における二次抗体の捕捉部対応領域への滴下の代わりに、10mg/mLのビオチン-BSA複合体の水溶液0.3μLを捕捉部対応領域へと合計10回滴下する。また、一次抗体の捕捉部対応領域への滴下及びその後の洗浄・静置は行わない。その他については実施例1と同様に紙デバイス1を作製した。次に、この紙デバイス1を用いて、濃度を変えつつ調製したビオチンの試料液の相対発色強度を導出する試験を以下のように実施した。まず、種々の濃度のビオチンの試料液を調製する。各試料液は、被検出物質に対応するビオチンの水溶液と、HRPを結合させた抗ビオチン抗体(Sigma-Aldrich社)の水溶液と、H
2O
2の水溶液とを混合したものとする。以降、実施例1と同様に各試料液の相対発色強度を導出する試験を行った。この試験において得られたデジタルカメラの撮影結果に基づき、1つの紙デバイス1に形成された4組の発色部24及び25における相対発色強度をコンピュータに算出させた結果が
図8に示されている。
図8において、横軸はビオチンの当初被検出物質濃度を示し、縦軸はコンピュータの算出値を示す。グラフ中の各点は、各当初被検出物質濃度において、4組の発色部24及び25に関してそれぞれ算出された相対発色強度の平均値を示す。エラーバーは、4組の発色部24及び25に関してそれぞれ算出された相対発色強度のばらつき(±1*標準偏差)を示す。これに対する比較例として、非特許文献1におけるビオチンの試験結果が
図9に示されている。この比較例においては、非特許文献1に記載されたシートを紙デバイス1の代わりに用いた他、実施例2と同じ条件で試験を行った。
図8においては
図9に比べ、当初被検出物質濃度の変化に対する相対発色強度の変化が大きいことが分かる。また、相対発色強度のばらつきが小さい。
【0054】
[実施例3]
以下、上述の実施形態に関する実施例3について説明する。実施例3では、上述の実施例2に準じた内容で紙デバイス1を用いた試験を実施した。併せて、比較例として、紙デバイス1とは一部構成が異なる紙デバイス1’を用いて実施例2に準じた試験を実施した。紙デバイス1’における紙デバイス1との相違点は、連通部22及び23を設けていないことであり、それ以外の紙デバイス1’の構成は紙デバイス1と同じとした。つまり、紙デバイス1’におけるシート20に対応するシートについて、連通部22及び23に対応する領域全体を親水性領域ではなく疎水性領域とした。また、実施例3及び当該比較例においては、ビオチンの当初被検出物質濃度を0ng/mLとし、実施例2と同様に試験を行った。その結果が
図10に示されている。
図10において、縦軸は4組の発色部24及び25に関する相対発色強度の平均値を示す。エラーバーは、4組の発色部24及び25に関してそれぞれ算出された相対発色強度のばらつき(±1*標準偏差)を示す。
図10の棒グラフに示されているように、連通部22及び23を設けた実施例3の場合、相対発色強度が比較例に対して大幅に小さくなった。このことから、連通部22を設けると、捕捉部33における被検出物質及び被検出物質-酵素複合体の捕捉効率が高くなって、発色部24に到達する被検出物質-酵素複合体の量が低下することが分かる。また、
図10のエラーバーに示されているように、連通部22及び23を設けた場合、相対発色強度にばらつきが生じにくくなることが分かる。
【0055】
比較例において相対発色強度にばらつきが生じるのは、テスト側流路52とコントロール側流路53との間に、捕捉部33の有無による親水特性の違いが生じるためと考えられる。つまり、テスト側流路52には捕捉部33が存在する分、コントロール側流路53と比べて流路の親水性が低下している。このため、テスト側流路52への試料液の浸透しやすさとコントロール側流路53への試料液の浸透しやすさとに不均等が生じる。その結果、相対発色強度にばらつきが生じやすくなる。これに対し、実施例3においては、連通部22及び23が設けられている分、テスト側流路52及びコントロール側流路53のそれぞれにおける親水性が比較例に対して高くなっている。これにより、テスト側流路52とコントロール側流路53との間の親水特性の違いが抑制される。その結果、相対発色強度のばらつきが抑制されている。
【0056】
[実施形態の効果]
以上説明した本実施形態によると、発色部25における発色強度に対する相対的な大きさを示す相対発色強度を用いて発色部24における発色強度を評価している。このように、発色部25の発色強度を適切な基準として用いることができるのは、テスト側流路52とコントロール側流路53とが、互いに同じ形状を有しているためである。仮に、これらの形状が互いに同じでないとすると、流路間の形状の違いによって試料液の流れ方に違いが生じるおそれがある。試料液の流れ方に違いが生じると、流れ方の差によって発色に差が出たのか、その他の要因で差が出たのかを切り分けにくい。これに対し、本実施形態では、テスト側流路52の形状とコントロール側流路53の形状とが互いに同じである。このため、流路の形状の違いを要因とする発色強度の違いが生じにくい。したがって、流路の形状以外の要因、つまり、捕捉部33における被検出物質-酵素複合体又は抗体-酵素複合体の捕捉によって発色部24と発色部25の間に生じる発色強度の違いを適切に評価しやすい。なお、流路の形状の違いを要因とする発色強度の違いが生じにくいのは、テスト側流路とコントロール側流路とが同じ形状である場合のみならず、これらの流路が互いに鏡像の関係にある場合にも該当する。
【0057】
さらに、本実施形態においては、捕捉部33と接触した親水性領域からなる連通部22が設けられている。そして、擬捕捉部34と接触した親水性領域からなる連通部23が設けられている。これらにより、上記実施例3及び比較例の試験結果に示すように、以下の2つの効果が確保される。第1に、捕捉部33における物質の捕捉効率が向上することにより、相対発色強度が小さくなっている。つまり、発色部24の発色強度に発色部25の発色強度との差が生じやすくなっている。したがって、発色部24の発色強度を相対発色強度に基づいて評価しやすい。第2に、相対発色強度にばらつきが生じにくい。相対発色強度にばらつきが生じにくいと、例えば、被検出物質の濃度が異なる2つの水溶液があるとき、その濃度の差異について装置が検出可能な最小値が小さくなる。以上の2つの効果により、本実施形態は、相対発色強度に基づく当初被検出物質濃度の検出において濃度の違いを区別する能力が高められている。
【0058】
また、本実施形態においては、発色部24は、テスト側流路52における試料供給部32に対して反対側の端部である連通部35に積層している。これに対し、従来技術(例えば、非特許文献1)によると、1枚のシートに形成されたテスト側流路の端部自体が発色部に対応する。このため、従来技術では、発色部における発色は、1枚のシートに沿った方向に関する試料液の浸透のみによって進んでいく。したがって、シートに沿った方向に関する発色のむらが生じやすい。発色のむらが生じると、発色部の発色強度を適切に評価できず、発色強度に基づく被検出物質の検出が適切に行えないおそれがある。これに対し、本実施形態によると、試料供給部32から連通部35まで到達した試料液は、
図2の二点鎖線に示すように、シート30に沿って連通部35の奥へと浸透しながら、さらにシート30からシート20へと発色部24に向かって浸透していく。つまり、1枚のシートに沿った試料液の浸透のみによって発色が進んでいく従来技術とは異なり、本実施形態においては、1枚のシート内での水溶液の浸透のみならず、シート30の連通部35からシート20の発色部24へとシート間を跨ぐように試料液の浸透が進むことによっても発色が進んでいく。このため、従来技術のようなシートに沿った方向に関する発色のむらが生じにくい。同様に、コントロール側流路53の端部である連通部36においても、これに発色部25が積層していることによって発色のむらが生じにくくなっている。以上により、発色部24及び25の発色強度に基づいて被検出物質の濃度を適切に検出できる。
【0059】
また、本実施形態においては、シート10~30が一体の1枚のシートから構成されている。これにより、紙デバイス1が簡易な構造で実現されていると共に、1枚のシート上にシート10~30の全ての流路を一括して形成することができるため、紙デバイス1の作製が容易になっている。また、連通部22及び23並びに発色部24及び25が1枚の一体のシート20に形成されている。このように、これらの部分が1枚のシートにまとめられていることによって紙デバイス1が比較的簡易な構造で実現されている。
【0060】
また、本実施形態においては、テスト側流路52及びコントロール側流路53が形成されたシート30にシート20が、連通部22及び23が形成されたシート20にシート10がそれぞれ積層している。これによって、試料液の流路の少なくとも一部が、それより上層に積層したシートの疎水性領域によって被覆されている。したがって、流路からの試料液の蒸発が抑制されている。なお、紙デバイス1をこのような多層構造に構成することにより、試料供給部32や発色部24及び25が比較的下層に配置されている。このような下層の試料供給部32への試料液の導入経路や、下層の発色部24及び25における発色の観察経路を確保するために、導入流路51や観察孔12及び13が紙デバイス1に設けられている。
【0061】
<その他の変形例>
以上は、本発明の好適な実施形態についての説明であるが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、課題を解決するための手段に記載された範囲の限りにおいて様々な変更が可能なものである。
【0062】
例えば、上述の実施形態に係る紙デバイス1の代わりに、
図13に示す紙デバイス1’が用いられてもよい。紙デバイス1’は、シート10’、シート41~45及びシート30’が積層した積層体2’からなる。シート10’、シート41~45及びシート30’は、シート10~30とは異なり、互いに分離したシートである。シート10’には、シート10と同様の導入部11並びに観察孔12及び13が1組形成されている。シート30’には、シート30と同様の試料供給部32、テスト流路52及びコントロール流路53が1組形成されている。シート41には連通部21が、シート42には連通部22が、シート43には連通部23が、シート44には発色部24が、シート45には発色部25が、それぞれ個別に設けられている。シート41~45は、連通部21が試料供給部32と、連通部22が捕捉部33と、連通部23が擬捕捉部34と、発色部24が連通部35と、発色部25が連通部36とそれぞれ接触するようにシート30’上に積層される。そして、シート10’は、導入部11が連通部21と接触すると共に、観察孔12及び13を通じて発色部24及び25が上方から観察可能となるようにシート41~45上に積層される。
【0063】
本発明における積層体は、上述の実施形態に係る積層体2のように一体に繋がった1枚のシートが折りたたまれることで構成されてもよいし、本変形例の積層体2’のように互いに分離した複数のシートが積層することで構成されてもよい。また、連通部21~23並びに発色部24及び25のうちの一部が一体に繋がった1枚のシートに構成され、その他の部分が他のシートから分離した複数のシートに個別に形成されてもよい。また、導入部11、試料供給部32、捕捉部33、擬捕捉部34、及び連通部35~37の少なくともいずれかが、他のシートから分離したシートに形成されてもよい。
【0064】
例えば、上述の実施形態における試料供給部32、テスト側流路52及びコントロール側流路53の代わりに、
図11に示す試料供給部61、テスト側流路66及びコントロール側流路67が用いられてもよい。試料供給部61、テスト側流路66及びコントロール側流路67は、上述の実施形態と同様に濾紙上に形成された親水性領域からなり、濾紙上に疎水性領域のパターンを形成することで形成されている。テスト側流路66は、試料供給部61から、発色部が積層する端部64まで延びている。また、テスト側流路66の途中には捕捉部33と同様の捕捉部62が設けられている。捕捉部62には、連通部22と同様の親水性領域からなる連通部が積層する。コントロール側流路67は、試料供給部61から、発色部が積層する端部65まで延びている。また、コントロール側流路67の途中には擬捕捉部34と同様の擬捕捉部63が設けられている。擬捕捉部63には、連通部23と同様の親水性領域からなる連通部が積層する。テスト側流路66とコントロール側流路67とは互いに同一の形状を有している。つまり、テスト側流路66は、
図11において試料供給部61の中心Oの周りに所定の角度だけ回転させると、コントロール側流路67とちょうど重なり合う形状を有している。
【0065】
また、上述の実施形態における試料供給部32、テスト側流路52及びコントロール側流路53の代わりに、
図12に示す試料供給部71、テスト側流路76及びコントロール側流路77が用いられてもよい。試料供給部71、テスト側流路76及びコントロール側流路77は、上述の実施形態と同様に濾紙上に形成された親水性領域からなり、濾紙上に疎水性領域のパターンを形成することで形成されている。テスト側流路76は、試料供給部71から、発色部が積層する端部74まで延びている。また、テスト側流路76の途中には捕捉部33と同様の捕捉部72が設けられている。捕捉部72には、連通部22と同様の親水性領域からなる連通部が積層する。コントロール側流路77は、試料供給部71から、発色部が積層する端部75まで延びている。また、コントロール側流路77の途中には擬捕捉部34と同様の擬捕捉部73が設けられている。擬捕捉部73には、連通部23と同様の親水性領域からなる連通部が積層する。テスト側流路76とコントロール側流路77とは互いに鏡像の関係を有している。つまり、テスト側流路76とコントロール側流路77とは、
図12において軸Xに関して互いに対称な形状を有している。
【0066】
また、上述の実施形態では、捕捉部33がシート30側に形成され、捕捉部33上に積層した連通部22がシート20側に形成されている。しかし、捕捉部と連通部との配置が逆であってもよい。つまり、シート30のテスト側流路52の一部として連通部が形成され、その連通部上に積層した捕捉部がシート20に形成されていてもよい。この場合も実施例3と同様、捕捉部における被検出物質及び被検出物質-酵素複合体の捕捉効率が高くなって、発色部24に到達する被検出物質-酵素複合体の量が低下するという効果と、相対発色強度にばらつきが生じにくくなる効果とが確保される。
【符号の説明】
【0067】
1、1’ 紙デバイス
2a 親水性領域
2b 疎水性領域
2 積層体
10、20、30 シート
11 導入部
12、13 観察孔
21~23 連通部
24、25 発色部
32、61、71 試料供給部
33、62、72 捕捉部
34、63、73 擬捕捉部
35~37 連通部
51 導入流路
52、66、76 テスト側流路
53、67、77 コントロール側流路