(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】濃厚味を有する野菜固形物含有調味食品及びその製法、並びに野菜固形物含有調味食品に対する濃厚味の付与方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/20 20160101AFI20230501BHJP
A23L 23/00 20160101ALI20230501BHJP
A23L 27/10 20160101ALI20230501BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20230501BHJP
A23L 29/00 20160101ALI20230501BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20230501BHJP
【FI】
A23L27/20 D
A23L27/20 G
A23L23/00
A23L27/10 C
A23L27/00 D
A23L29/00
A23L19/00 Z
(21)【出願番号】P 2021511723
(86)(22)【出願日】2019-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2019014255
(87)【国際公開番号】W WO2020202348
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】514057743
【氏名又は名称】株式会社Mizkan Holdings
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】大野 健
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-142147(JP,A)
【文献】特開2011-223998(JP,A)
【文献】特開2015-53886(JP,A)
【文献】特開2005-15684(JP,A)
【文献】米国特許第4472446(US,A)
【文献】TOKITOMO, Yukiko,Volatile Components of Cooked Onions,Nippon Shokuhin Kagaku Kogaku Kaishi,1995, Vol.42, No.4,p.279-287,ISSN 1881-6681, 特に表2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)及び(b)を満たす野菜固形物含有調味食品。
(a)ジプロピルジスルフィド(x)を0.7mg/kg以上5.0mg/kg以下含有する。
(b)5-メチル-2-フルフラル(y)を0.4mg/kg以上10mg/kg以下含有する。
【請求項2】
以下の(c)を更に満たす、請求項1記載の野菜固形物含有調味食品。
(c)前記x及びyが以下の式1を満たす。
1.0 ≦ x/y ≦ 5.0 (式1)
【請求項3】
以下の(d)を更に満たす、請求項1又は2に記載の野菜固形物含有調味食品。
(d)ボルネオール(z)を0.01mg/kg以上0.10mg/kg以下含有する。
【請求項4】
以下の(e)を更に満たす、請求項1~3の何れか一項に記載の野菜固形物含有調味食品。
(e)前記x及びzが以下の式2を満たす。
15 ≦ x/z ≦ 220 (式2)
【請求項5】
以下の(f)を更に満たす、請求項1~4の何れか一項に記載の野菜固形物含有調味食品。
(f)調味食品に占める野菜固形物の含有率が35質量%以上70質量%以下である。
【請求項6】
以下の(g)を更に満たす、請求項1~5の何れか一項に記載の野菜固形物含有調味食品。
(g)スクロース、グルコース、及びフルクトースの総量が、調味食品の質量の20質量%以上45質量%以下である。
【請求項7】
以下の(h)を更に満たす、請求項6に記載の野菜固形物含有調味食品。
(h)スクロース、グルコース、及びフルクトースの総量に占めるスクロースの割合が、0質量%以上33質量%未満である。
【請求項8】
以下の(i)を更に満たす、請求項1~7の何れか一項に記載の野菜固形物含有調味食品。
(i)野菜固形物が、ネギ属、セリ科、及びアブラナ科からなる群より選択される1種又は2種以上の野菜の固形物を含む。
【請求項9】
野菜固形物含有調味食品を製造する方法であって、前記調味食品が以下の(a)及び(b)を満たすように調整することを含む方法。
(a)ジプロピルジスルフィド(x)を0.7mg/kg以上5.0mg/kg以下含有する。
(b)5-メチル-2-フルフラル(y)を0.4mg/kg以上10mg/kg以下含有する。
【請求項10】
野菜固形物含有調味食品に濃厚味(tangy taste)を付与する方法であって、前記調味食品が以下の(a)及び(b)を満たすように調整することを含む方法。
(a)ジプロピルジスルフィド(x)を0.7mg/kg以上5.0mg/kg以下含有する。
(b)5-メチル-2-フルフラル(y)を0.4mg/kg以上10mg/kg以下含有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃厚味を有する野菜固形物含有調味食品及びその製法、並びに野菜固形物含有調味食品に対する濃厚味の付与方法に関する。
【背景技術】
【0002】
調味食品において、野菜は芳醇な香りや味が調味食品の味全体に寄与するために広く用いられている。特に野菜の配合量が多く、野菜固形物がそのまま残った調味食品は、良好な食感も相まって消費者への志向性が高い。ただ、単に野菜の配合量を増やすと、野菜特有の青臭みや硫黄臭などのオフフレーバーが感じられ、嗜好性が低下するという課題があった。
【0003】
これまでに、野菜のオフフレーバーの低減に関しては、様々な研究報告がなされている。例えば、特開2017-042070号公報(特許文献1)においては、酵母と麹という二種の微生物で発酵を行うことによって、酵母発酵によって発生した腐敗を感じさせる匂い物質を抑制しつつ、野菜原料の青臭み、えぐ味といった雑味を除去し、しかも野菜に本来備わっている味と匂いを備えた、風味および旨味に優れた野菜発酵エキスに関する技術が開示されている。
【0004】
また、特開2010-142147号公報(特許文献2)では、タマネギを加熱した時に得られる濃厚な甘味とコク味、とりわけ加熱タマネギ特有の濃厚な甘味を食品に強く付与するのに寄与する香気成分を豊富に含み、かつ甘味を阻害するような嫌味を含まないため、本発明のタマネギエキスを添加することにより自然で好ましい甘味とコク味、とりわけ加熱タマネギ特有の濃厚な甘味が強く付与された食品を提供する技術が開示されている。
【0005】
しかし、前者では複数の発酵工程を経なければならないため工程が複雑になるという課題があり、後者では、加熱タマネギ特有の風味が付与されてしまうため野菜類全般のオフフレーバー低減には対応が十分でないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-042070号公報
【文献】特開2010-142147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、野菜由来のオフフレーバーが低減されるだけでなく、濃厚味(tangy taste)が付与された野菜固形物含有調味食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
我々は様々な検討を行った結果、野菜固形物を含有する調味食品に、ジプロピルジスルフィドと5-メチル-2-フルフラルを各々特定の濃度範囲で含ませることによって、野菜由来のオフフレーバーが低減されるだけでなく、濃厚味(tangy taste)が付与され、消費者の嗜好性が大きく高まった野菜固形物含有調味食品が製造可能なことを見出した。
【0009】
即ち、本発明の要旨は以下に存する。
[1]以下の(a)及び(b)を満たす野菜固形物含有調味食品。
(a)ジプロピルジスルフィド(x)を0.7mg/kg以上5.0mg/kg以下含有する。
(b)5-メチル-2-フルフラル(y)を0.4mg/kg以上10mg/kg以下含有する。
[2]ジプロピルジスルフィド(x)の含有率の下限が1.0mg/kg以上である、[1]の野菜固形物含有調味食品。
[3]ジプロピルジスルフィド(x)の含有率の上限が4.0mg/kg以下である、[1]又は[2]の野菜固形物含有調味食品。
[4]5-メチル-2-フルフラル(y)の含有率の下限が0.5mg/kg以上である、[1]~[3]の野菜固形物含有調味食品。
[5]5-メチル-2-フルフラル(y)の含有率の上限が5.0mg/kg以下である、[1]~[4]の野菜固形物含有調味食品。
[6]5-メチル-2-フルフラル(y)の含有率の上限が3.0mg/kg以下である、[5]の野菜固形物含有調味食品。
[7]以下の(c)を更に満たす、[1]~[6]の野菜固形物含有調味食品。
(c)前記x及びyが以下の式1を満たす。
1.0 ≦ x/y ≦ 5.0 (式1)
[8]前記x/yの下限が1.5以上である、[7]の野菜固形物含有調味食品。
[9]前記x/yの上限が4.5以下である、[7]又は[8]の野菜固形物含有調味食品。
[10]以下の(d)を更に満たす、[1]~[9]の野菜固形物含有調味食品。
(d)ボルネオール(z)を0.01mg/kg以上0.10mg/kg以下含有する。
[11]ボルネオール(z)の含有率の下限が0.02mg/kg以上である、[10]の野菜固形物含有調味食品。
[12]ボルネオール(z)の含有率の下限が0.035mg/kg以上である、[11]の野菜固形物含有調味食品。
[13]ボルネオール(z)の含有率の上限が0.09mg/kg以下である、[10]~[12]の野菜固形物含有調味食品。
[14]ボルネオール(z)の含有率の上限が0.07mg/kg以下である、[13]の野菜固形物含有調味食品。
[15]以下の(e)を更に満たす、[1]~[14]の野菜固形物含有調味食品。
(e)前記x及びzが以下の式2を満たす。
15 ≦ x/z ≦ 220 (式2)
[16]前記x/zの下限が19以上である、[15]の野菜固形物含有調味食品。
[17]前記x/zの上限が200以下である、[15]又は[16]の野菜固形物含有調味食品。
[18]以下の(f)を更に満たす、[1]~[17]の野菜固形物含有調味食品。
(f)調味食品に占める野菜固形物の含有率が35質量%以上70質量%以下である。
[19]野菜固形物の含有率の下限が40質量%以上である、[18]の野菜固形物含有調味食品。
[20]野菜固形物の含有率の上限が60質量%以下である、[18]又は[19]の野菜固形物含有調味食品。
[21]以下の(g)を更に満たす、[1]~[20]の野菜固形物含有調味食品。
(g)スクロース、グルコース、及びフルクトースの総量が、調味食品の質量の20質量%以上45質量%以下である。
[22]スクロース、グルコース、及びフルクトースの総量の下限が25質量%以上である、[21]の野菜固形物含有調味食品。
[23]スクロース、グルコース、及びフルクトースの総量の上限が40質量%以下である、[21]又は[22]の野菜固形物含有調味食品。
[24]以下の(h)を更に満たす、[21]~[23]の野菜固形物含有調味食品。
(h)スクロース、グルコース、及びフルクトースの総量に占めるスクロースの割合が0質量%以上33質量%未満である。
[25]スクロース、グルコース、及びフルクトースの総量に占めるスクロースの割合の上限が30%未満である、[24]の野菜固形物含有調味食品。
[26]以下の(i)を更に満たす、[1]~[25]の野菜固形物含有調味食品。
(i)野菜固形物が、ネギ属、セリ科、及びアブラナ科からなる群より選択される1種又は2種以上の野菜の固形物を含む。
[27]野菜固形物含有調味食品を製造する方法であって、前記調味食品が[1]~[26]を満たすように調整することを含む方法。
[28]野菜固形物含有調味食品に濃厚味(tangy taste)を付与する方法であって、前記調味食品が[1]~[26]を満たすように調整することを含む方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、野菜固形物を含有する通常の調味食品に、ジプロピルジスルフィドと5-メチル-2-フルフラルを含有させるという簡易な手段によって、野菜由来のオフフレーバーが低減されるだけでなく、濃厚味(tangy taste)が付与された野菜固形物含有調味食品の調製が可能となる。
【0011】
なお、調味食品に上記成分を含有させる手段としては、ジプロピルジスルフィドと5-メチル-2-フルフラルを含有する物質を添加する方法だけでなく、製造工程中の加熱による産生により含有させることも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体的な実施の形態に即して詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0013】
なお、以下の記載では、ジプロピルジスルフィド、5-メチル-2-フルフラル、及びボルネオールを総称して「特定成分」という場合がある。
【0014】
本発明の対象となる野菜固形物含有調味食品(適宜「本発明の調味食品」と称する。)は、野菜固形物を含有することが必須である。使用する野菜固形物には特に限定がなく、例えば、ダイコン、ニンジン、ゴボウ、ルタバガ、ビート(好適にはビーツ(ビートルート):ビートの根を食用とするために改良された品種)、パースニップ、カブ、サツマイモ、キャッサバ、ヤーコン、タロイモ、サトイモ、コンニャクイモ、レンコン、ジャガイモ、ムラサキイモ、キクイモ、クワイ、エシャロット、ニンニク、ラッキョウ、ユリネ、カタクリ、ケール、ヤムイモ、ヤマノイモ、ナガイモ、タマネギ、アスパラガス、ウド、キャベツ、レタス、ホウレンソウ、ハクサイ、アブラナ、コマツナ、チンゲンサイ、ニラ、ネギ、ノザワナ、セイヨウネギ、フキ、ミズナ、トマト、ナス、カボチャ、ピーマン、キュウリ、ミョウガ、カリフラワー、ブロッコリー、ニガウリ、オクラ、アーティチョーク、ズッキーニ、てんさい、ショウガ、シソ、パプリカなどの野菜の固形物が挙げられる。これらの野菜固形物は、一種の野菜の固形物であってもよく、二種以上の野菜の固形物の混合物であってもよい。
【0015】
特に本発明による効果が好適な野菜類としては、セリ科、アブラナ科、及びネギ属の野菜が挙げられ、セリ科の野菜類としては、セリ、セロリ、ニンジン、パセリ、ディル、アシタバ、アブラナ科の野菜類としては、ホースラディッシュ、ルッコラ、キャベツ、ダイコン、ルタバガ、小松菜、ブロッコリー、白菜、チンゲンサイ、カラシ菜、ネギ属の野菜類としては、タマネギ、ネギ、セイヨウネギ、ニンニクが挙げられる。中でも特に好適な野菜類としてはネギ属が挙げられる。
【0016】
本発明の調味食品における野菜固形物の含有率は、通常35質量%以上、中でも40質量%以上が好ましい。前記下限を下回ると、野菜の食べ応えが十分でない場合がある。一方、本発明の調味食品における野菜固形物の含有率は、通常70質量%以下、中でも60質量%以下が好ましい。上記上限を超えると、野菜の青臭みが強すぎて、オフフレーバーが十分に低減できない場合がある。
【0017】
また、野菜類については上述のような固形物だけでなく、微粉砕物やピューレ、ペーストなどに加工した状態でも用いることができる。
【0018】
野菜固形物含有調味食品に加える野菜類以外の原材料には特に制限はなく、スパイス、ハーブなどの植物由来の原料や、例えば、糖類、高甘味度甘味料、アミノ酸系調味料、核酸系調味料、有機酸系調味料、風味原料、旨味調味料、酒類、香味オイル、フレーバー、香辛料抽出物などの呈味・風味成分、粘度調整剤、安定剤、pH調整剤、着色料などの添加剤を含有させることができる。これらの成分の含有量は、特に限定はされず、用途に応じて適宜決定することができる。
【0019】
上述の通り、使用する糖類には特に制限はないが、スクロース、グルコース、フルクトースという3種の特定糖の総量を、調味食品全体の通常20質量%以上、中でも25質量%以上とすることが好ましい。これら3種の特定糖の総量を前記下限以上とすることで、爽やかな甘味を付与して野菜のオフフレーバーを緩和することが可能となる。但し、これら3種の特定糖の総量を、調味食品全体の通常45質量%以下、中でも40質量%以下とすることが好ましい。
【0020】
また、前記3種の特定糖の総量に占めるスクロースの割合を、通常33質量%未満、中でも30質量%未満とすることが好ましい。これら3種の特定糖の総量を前記上限未満とすることで、先味、後味ともバランスの取れた甘味が付与されるという利点が得られる。一方、スクロースの下限は特に制限されず、通常0質量%以上である。
【0021】
前記3種の特定糖の組成の調整は、それぞれの糖を添加することでも調整できるが、添加源としてスクロースを使用し、加熱によりグルコース、フルクトースに分解させることで複数の香気成分を産生させると濃厚味(tangy taste)に寄与するためより好ましい。
【0022】
野菜固形物含有調味食品に用いることができるスパイス類には特に制限はないが、チリペッパー、レッドペッパー、ブラックペッパー、カイエンペッパー、ホワイトペッパー、ピンクペッパー、山椒、ロングペッパー、ワサビ、マスタード、ショウガ、ホースラディッシュ、柑橘果皮、ナツメグ、シナモン、パプリカ、カルダモン、ニンニク、クミン、ターメリック、コリアンダーシード、サフラン、オールスパイス、クローブ、シソ、フェンネル、リコリス、ディルシード、オリーブ果実が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、任意の2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
野菜固形物含有調味食品は通常行われる方法で野菜固形物とその他の原材料を混合の上加熱することで製造することができる。調味料との混合はすべての原材料を同時に投入して加熱することも、いくつかの原材料を分けて加熱するのでもどちらでもよい。
【0024】
本発明の野菜固形物含有調味食品は、ジプロピルジスルフィドと5-メチル-2-フルフラルを、それぞれ下記の所定含有率の範囲で含有することを特徴とする。
本発明の調味食品は、ジプロピルジスルフィドと5-メチル-2-フルフラルを、それぞれ下記の所定含有率の範囲で含有することで、野菜由来のオフフレーバーが低減されるだけでなく、濃厚味(tangy taste)が付与された野菜固形物含有調味食品の調製が可能となる。
【0025】
野菜固形物含有調味食品にジプロピルジスルフィドと5-メチル-2-フルフラルを含有させる方法としては、ジプロピルジスルフィドと5-メチル-2-フルフラルを各々単独の物質として添加する方法を用いることもできるが、加熱工程においてジプロピルジスルフィドと5-メチル-2-フルフラルを生産した方が、濃厚味(tangy taste)に関与する他の香気成分を同時に含有させることが可能となるため好ましい。
【0026】
本発明の調味食品におけるジプロピルジスルフィドの含有量(x)の下限は、通常0.7mg/kg以上、好ましくは1.0mg/kg以上である。ジプロピルジスルフィドの含有量(x)が前記下限よりも少ないと、パンチのある濃厚味(tangy taste)が呈されない場合がある。
【0027】
本発明の調味食品におけるジプロピルジスルフィドの含有量(x)の上限は、通常5.0mg/kg以下、好ましくは4.0mg/kg以下である。ジプロピルジスルフィドの含有量(x)が前記上限を超えると、濃厚味(tangy taste)よりも野菜由来の刺激臭が強くなってしまい、風味に違和感が生じる場合がある。
【0028】
本発明の調味食品における5-メチル-2-フルフラルの含有量(y)の下限は、通常0.4mg/kg以上、好ましくは0.5mg/kg以上である。5-メチル-2-フルフラルの含有量(y)が前記下限よりも少ないと、野菜の青臭みを十分に抑制しきれない場合がある。
【0029】
本発明の調味食品における5-メチル-2-フルフラルの含有量(y)の上限は、通常10mg/kg以下、好ましくは5.0mg/kg以下、より好ましくは3.0mg/kg以下である。5-メチル-2-フルフラルの含有量(y)が前記上限を超えると、5-メチル-2-フルフラル自体の香りが強く感じられ、風味に違和感が生じる場合がある。
【0030】
本発明の調味食品が含有するジプロピルジスルフィドの含有量(x)と5-メチル-2-フルフラルの含有量(y)との比、即ちx/yの値の下限は、通常1.0以上、中でも1.5以上であることが好ましい。x/yの値が前記下限よりも低いと、ジプロピルジスルフィドの含有量に比べて5-メチル-2-フルフラルの含有量が多すぎて、ジプロピルジスルフィドによる濃厚味(tangy taste)の付与の効果を打ち消してしまう場合がある。
【0031】
一方、ジプロピルジスルフィドの含有量(x)と5-メチル-2-フルフラルの含有量(y)との比、即ちx/yの値の上限は、通常5.0以下、中でも4.5以下であることが好ましい。x/yの値が前記上限を超えると、5-メチル-2-フルフラルの含有量に比べてジプロピルジスルフィドの含有量が多すぎて、ジプロピルジスルフィドによる刺激臭が感じられる場合がある。
【0032】
本発明の調味食品は、更にボルネオールを含有することが好ましい。本発明の調味食品がボルネオールを含有する場合、ボルネオールの含有量(z)の下限は、通常0.01mg/kg以上、中でも0.02mg/kg以上、更には0.035mg/kg以上とすることが好ましい。ボルネオールの含有量(z)が前記下限よりも少ないと、濃厚味を補強する華やかな風味が十分に付与されない場合がある。
【0033】
一方、本発明の調味食品におけるボルネオールの含有量(z)の上限は、通常0.10mg/kg以下、中でも0.09mg/kg以下、更には0.07mg/kg以下とすることが好ましい。ボルネオールの含有量(z)が前記上限を超えると、ボルネオール自体の香りが強く感じられ、風味に違和感が生じ生じる場合がある。
【0034】
本発明の調味食品がボルネオールを含有する場合、ジプロピルジスルフィドの含有量(x)とボルネオールの含有量(z)との比、即ちx/zの値の下限は、通常15以上、中でも19以上であることが好ましい。x/zの値が前記下限よりも低いと、ジプロピルジスルフィドの含有量に比べてボルネオールの含有量が多すぎて、ボルネオールによる華やかな風味がジプロピルジスルフィドによる濃厚味(tangy taste)付与の効果を阻害してしまう場合がある。
【0035】
一方、ジプロピルジスルフィドの含有量(x)とボルネオールの含有量(z)との比、即ちx/zの値の上限は、通常220以下、中でも200以下であることが好ましい。x/zの値が前記上限を超えると、ボルネオールの含有量に比べてジプロピルジスルフィドの含有量が多すぎて、野菜含有調味食品の良好な風味バランスが崩れてしまう場合がある。
【0036】
本発明において、調味食品におけるジプロピルジスルフィド、5-メチル-2-フルフラル、及びボルネオールの含有量は、一般的な香気成分の測定法であればどのような方法でも測定可能であるが、例えば、ガスクロマトグラフィー/質量分析装置(GC/MS)を用いて測定する方法をあげることができる。
【0037】
本発明において、調味食品における糖の含有量は、糖が個別に測定できる測定法であればどのような方法でも測定できるが、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定する方法を挙げることができる。
【0038】
本発明において、野菜固形物含有調味食品に含まれる野菜固形物の含有量は、メッシュサイズ7.5(目開き2.36mm)のふるい上に残存する野菜固形物の質量を調味食品の液部を水で除去した質量を測定することで計測できる。
【実施例】
【0039】
次に実施例を参照しながら本発明をより詳細に説明する。以下の実施例はあくまでも例示目的で示すものであり、如何なる意味でも本発明を限定するものではない。
【0040】
[野菜固形物含有調味食品の調製]
野菜固形物含有調味食品の実施例としてa1~a10、比較例としてb1~b8を調製した。調製した実施例及び比較例の野菜固形物含有調味食品の内訳を下記表1に示す。
【0041】
【0042】
なお、特定成分の添加を伴わない実施例a2~a5、a9、a10及び比較例b6~b8に関しては、以下のように調製した。
【0043】
・実施例a2、a3、a4、a9及びa10の調製:
1.野菜固形物としてニンジン510g、ルタバガ500g、カリフラワー87g、タマネギ320gを10mmサイズに角切りした。
2.前記1.の野菜固形物を、表1の配合で作成したシロップ(砂糖35質量%、食塩7質量%)1300gとともに鍋に入れ、80℃で十分に野菜が煮えるまで加熱した。
3.前記2.で加熱処理した野菜加熱物760gを冷めないうちに、シロップ520gとソース(デーツペースト8質量%、スパイスミックス1質量%、レモンジュース0.5質量%、トマトペースト3質量%、砂糖24質量%、及びデンプン4質量%に、上述のシロップ10質量%を加え、残部を食酢と水で全体の酢酸酸度が4%となるように調製)720gと混合後、瓶詰し、a2は60℃で12時間、a3は60℃で24時間、a4は60℃で3日保温した。a9及びa10については、瓶詰の前に野菜固形物の含有量が各々35質量%、70質量%となるように調製してから瓶詰を行い、60℃で3日保温した。
【0044】
・実施例a5の調製:
1.野菜固形物としてニンジン396g、ルタバガ290g、カリフラワー158g、タマネギ430g、ガーキン50gを3mmサイズに角切りした。
2.前記1.の野菜固形物を、上述のシロップ1300gとともに鍋に入れ、80℃で60分加熱した。
3.前記2.で加熱処理した野菜加熱物760gを冷めないうちに、上述のシロップ520gと上述のソース720gと混合後、瓶詰した。
【0045】
・比較例b6の調製:
調味液(デンプン36g、液糖(Brix値67)240g、スパイスミックス10g、食酢(酢酸酸度8.5%)67g、食酢(酢酸酸度15%)100g、水30gを攪拌溶解)に、9mmサイズに角切りした野菜固形物混合物(カリフラワー、ニンジン、タマネギ、ルタバガ各36g)を入れて85℃で保温し、さらに加熱したビートルート400gを入れてよく攪拌してから瓶詰した。
【0046】
・比較例b7の調製:
1.野菜固形物混合物1(ニンジン55質量%、ルタバガ45質量%の割合で混合した10mmに角切りにした野菜固形物)260gを水中で85℃に加熱した。
2.スラリー(食酢(酢酸酸度8.5%)80ml、水70g、デンプン26gを攪拌溶解)に、前記1.の野菜固形物混合物1に加えて85℃保温下でよく混ぜ合わせてから、さらに85℃保温下で野菜固形物混合物2(タマネギ質量64%、カリフラワー28質量%、ガーキン8質量%の割合で混合した10mmサイズに角切りにした野菜固形物)180gと、レッドチリピューレ340g(チリピューレ38g、ガーリックピューレ13g、80%酢酸7ml、液糖(Brix値67)75ml、砂糖200g、及び塩7g)を加えてさらに混ぜ合わせた。
3.前記2.の混合物にトマトペースト72gを85℃保温下でさらに加えて、瓶詰を行った。
【0047】
・比較例b8の調製:
1.野菜固形物混合物1(ニンジン50質量%、ルタバガ質量50%の割合で混合した10mmサイズに角切りにした野菜固形物)300gを水中で85℃に加熱した。
2.スラリー(食酢(酢酸酸度8.5%)90g、水170g,デンプン28gを攪拌溶解)に、前記1.野菜固形物混合物1に加え、85℃保温下でよく混ぜ合わせた。
3.前記2.の混合物に、さらに85℃保温下で、野菜固形物混合物2(タマネギ132g、カリフラワー62g、ガーキン12g、ズッキーニ14gの割合で混合した10mmサイズに角切りにした野菜固形物)220gと調味液(80%酢酸8ml、液糖(Brix値67)95g、スパイスミックス1g、砂糖200g、トマトペースト14g)を加えて85℃保温下でさらに攪拌して十分混合した後、瓶詰した。
【0048】
・特定成分を添加した調味食品の調製:
また、特定成分の添加を伴う実施例a1及びa6~a8並びに比較例b1~b5に関しては、特定成分として以下の物質を用い、下記表2に記載した濃度となるようにエタノールで高濃度に希釈した特定成分の添加を行うことで調製した。
・ジプロピルジスルフィド(CAS No.629-19-6、東京化成工業製)
・5-メチル-2-フルフラル(CAS No.620-02-0、東京化成工業製)
・ボルネオール(CAS No.507-70-0、和光純薬工業製)
【0049】
【0050】
[成分組成の測定]
各種成分組成の測定は以下の手順で行った。
【0051】
・糖組成の測定:
各種糖類の分析は野菜固形物含有調味食品の調味液の液部を最も高濃度で含有する糖類の含有量がおおむね1質量%以下になるように水で希釈した試料について、0.45μmフィルターでろ過したろ液をHPLCでの測定に供した。
【0052】
HPLCシステムはProminence(島津製作所)を用いた。測定カラムは、HILICpak VG-50 4E HPLCを用い、移動相として80%アセトニトリルを用い、示唆屈折計(Shodex RI-201H)で検出を行った。
【0053】
標準品としては、フラクトース(シグマアルドリッチ)、グルコース(シグマアルドリッチ)、スクロース(シグマアルドリッチ)の各標準品を水で希釈したものを用いた。
得られた実測値については、試料の希釈率に応じて換算して測定値を算出した。
【0054】
・野菜固形物の含有量の測定:
野菜固形物の含有量は以下の手順で測定した。
1.野菜固形物含有調味食品100g(以下サンプルとする)を精密ばかりで計測する。
2.メッシュサイズ7.5(目開き2.36mm)ふるい上にサンプルを注ぎいれて均等に広げる。
3.サンプルを均等に広げた後、メッシュ上に野菜固形物を乗せたままをメッシュ全体が浸るよう容量の水を入れた金属製のボウルの水に3回くぐらせることで、野菜固形物に付着した調味液を洗い流す。
4.ふるい上に残った野菜固形物を紙ワイパー(キムタオル(日本製紙クレシア製))に回収し、表面の水分を十分にふき取ってから野菜固形物の質量を計測する。
【0055】
・ジプロピルジスルフィド、5-メチル-2-フルフラル、ボルネオールの測定:
特定成分であるジプロピルジスルフィド、5-メチル-2-フルフラル、及びボルネオールの含有量の測定は、ガスクロマトグラフィー/質量分析装置(GC/MS)を用いて以下の方法で実施した。
1.測定試料として野菜固形物含有調味食品の液部を1g採取した後、塩化ナトリウム1gと水3mLを加えたものを検体とした。
2.検体に内部標準として1-ペンタノールと1-デカノールを10mg/Lになるよう添加したジクロロメタン4mLを加え、20分間振とうした。
3.遠心処理(3000rpm、10分)をした下層液のジクロロメタンを採取し、硫酸ナトリウムで脱水処理したものを測定検体とした。
4.標準物質(ジプロピルジスルフィド、5-メチル-2-フルフラル、ボルネオール)を上記の内部標準入りジクロロメタンで0.01-100mg/Lの範囲に調整したものを標準液とした。
【0056】
測定検体は、パルスドスプリット注入法でガスクロマトグラフィー/質量分析装置に1μL注入した。ガスクロマトグラフィー分析装置としては、HP6890 Series GC System(Agilent社製)を使用し、キャピラリーカラムは、DB-WAX(30m(x)、250μm(x)、0.25μm)、DB-5MS(30m(x)、250μm(x)、0.25μm)を使用した。該ガスクロマトグラフィー分析装置の試料注入口の温度は250℃に設定し、移動相としてヘリウムガスを用い、以下の条件でカラム温度を昇温した。
【0057】
<DB-WAXのカラムオーブン条件>
40℃で3分ホールド→10℃/分で昇温→250℃で6分ホールド
<DB-5MSのカラムオーブン条件>
40℃で3分ホールド→10℃/分で昇温→300℃で6分ホールド
【0058】
各測定検体は、選択イオン検出(SIM)モードにより、以下の表3に示す化合物の定量イオンの面積から、内部標準法により、含有濃度を算出した。
【0059】
【0060】
なお、ピークシグナルとベースノイズの比(S/N比)が10未満のピークについては、ノイズが大きく定量が困難であったため、不検出(ND)とした。
【0061】
各実施例及び比較例の野菜固形物含有量及び糖組成の測定結果を下記表4に、特定成分であるジプロピルジスルフィド、5-メチル-2-フルフラル、及びボルネオールの含有量の測定結果を下記表5にそれぞれ示す。
【0062】
【0063】
【0064】
[官能評価]
各サンプルの評価は以下の条件で行った。各評価は以下の訓練を行った官能検査員6名で実施し、その平均点を評点として四捨五入した値を表1に記載した。
【0065】
官能検査員は、下記A)及びB)の識別訓練を実施し、特に成績が優秀な者を選定した。
A)五味(甘味:砂糖の味、酸味:酒石酸の味、旨み:グルタミン酸ナトリウムの味、塩味:塩化ナトリウムの味、苦味:カフェインの味)について、各成分の閾値に近い濃度の水溶液を各1つずつ作製し、これに蒸留水2つを加えた計7つのサンプルから、それぞれの味のサンプルを正確に識別する味質識別試験。
B)濃度がわずかに異なる5種類の食塩水溶液、酢酸水溶液の濃度差を正確に識別する濃度差識別試験。
【0066】
官能検査の項目は以下とした。
【0067】
・濃厚味(tangy taste):
5 強い濃厚味が感じられて好ましい。
4 やや強い濃厚味が感じられて好ましい。
3 濃厚味が感じられる。
2 濃厚味がわずかに感じられ好ましくない。
1 濃厚味が感じられ好ましくない。
【0068】
・野菜の青臭み、刺激臭:
5 野菜の青臭み、刺激臭がほぼ感じられず非常に好ましい。
4 野菜の青臭み、刺激臭がやや弱く好ましい。
3 野菜の青臭み、刺激臭が感じられる。
2 やや強い野菜の青臭み、刺激臭が感じられ好ましくない。
1 強い野菜の青臭み、刺激臭が感じられ好ましくない。
【0069】
官能検査の結果を下記表6に示す。
実施例全般にわたって野菜の濃厚味(tangy taste)、野菜の青臭み、刺激臭は3点以上であり、野菜由来のオフフレーバーが低減されるだけでなく、濃厚味(tangy taste)が付与されていた。比較例については、濃厚味(tangy taste)は十分でなく、野菜のオフフレーバーも感じられるなど好ましい嗜好性は得られなかった。
【0070】