IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-サファイア基板の研削方法 図1
  • 特許-サファイア基板の研削方法 図2
  • 特許-サファイア基板の研削方法 図3
  • 特許-サファイア基板の研削方法 図4
  • 特許-サファイア基板の研削方法 図5
  • 特許-サファイア基板の研削方法 図6
  • 特許-サファイア基板の研削方法 図7
  • 特許-サファイア基板の研削方法 図8
  • 特許-サファイア基板の研削方法 図9
  • 特許-サファイア基板の研削方法 図10
  • 特許-サファイア基板の研削方法 図11
  • 特許-サファイア基板の研削方法 図12
  • 特許-サファイア基板の研削方法 図13
  • 特許-サファイア基板の研削方法 図14
  • 特許-サファイア基板の研削方法 図15
  • 特許-サファイア基板の研削方法 図16
  • 特許-サファイア基板の研削方法 図17
  • 特許-サファイア基板の研削方法 図18
  • 特許-サファイア基板の研削方法 図19
  • 特許-サファイア基板の研削方法 図20
  • 特許-サファイア基板の研削方法 図21
  • 特許-サファイア基板の研削方法 図22
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】サファイア基板の研削方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20230501BHJP
   B24B 7/04 20060101ALI20230501BHJP
   B24B 1/00 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
H01L21/304 631
B24B7/04 B
B24B1/00 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020083034
(22)【出願日】2020-05-11
(65)【公開番号】P2021180206
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100154391
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康義
(72)【発明者】
【氏名】加藤 公二
(72)【発明者】
【氏名】狩野 弘樹
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-89551(JP,A)
【文献】特開2012-56009(JP,A)
【文献】特開2014-159049(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0166951(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 7/04
B24B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
r面を主面とするサファイア基板をチャックテーブルに保持する工程、及び
研削砥石によって、前記チャックテーブルに保持した前記サファイア基板の主面を研削する工程を含み、
前記サファイア基板を前記チャックテーブルに保持する工程は、前記サファイア基板の主面において、前記サファイア基板のm面と鈍角をなし、かつ前記m面となす角度が最大となる方向を0°とし、時計回りの方向をプラスとした場合、前記サファイア基板の主面の中心における前記研削砥石による加工方向が-90°以上+90°以下になるように前記サファイア基板を前記チャックテーブルに保持するサファイア基板の研削方法。
【請求項2】
前記サファイア基板を前記チャックテーブルに保持する工程は、前記サファイア基板の主面の中心における前記研削砥石による加工方向が-45°以上+45°以下になるように前記サファイア基板を前記チャックテーブルに保持する請求項1に記載のサファイア基板の研削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はr面を主面とする単結晶サファイア基板の研削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話などの周波数調整及び選択用の部品として、タンタル酸リチウムやニオブ酸リチウムなど圧電基板上に弾性表面波を励起するための櫛形電極(IDT)が形成された弾性表面波(SAW)デバイスが用いられている。
【0003】
近年の通信規格は、送信受信の周波数バンド間隔が狭く、かつバンド幅が広くなっている。このような通信規格のもとでは、弾性表面波デバイス用材料の温度による特性変化が十分に小さくないと、周波数選択域のずれが生じて、デバイスのフィルタやデュプレクサ機能に支障をきたしてしまうという問題が生じる。
【0004】
これらの対策として、シリコンやサファイア、石英などの異種基板と圧電基板を接合することが挙げられる。これにより、圧電基板単体で使うよりも温度に対して特性変動を少なくすることができる。このような基板はTC-SAWと呼ばれ、現在のSAWデバイス市場を賑わせている。
【0005】
異種基板の一つとしてサファイア基板がある。TC-SAWでは、r(01-12)面を主面とするサファイア基板が用いられている(非特許文献1)。
【0006】
しかし、このようなサファイア基板のr面は、a(11-20)面及びc(0001)面と比較して、加工表面に加工条痕よりも深い「ピット(pit:くぼみ)」と言われる凹みが発生しやすい。このようなピットが発生すると、研磨等で鏡面化する際に必要以上に研磨代を増やしてしまい、基板の平坦度が悪化することや、研磨のコストが高くなる。このため、ピットの発生を抑制できる研削方法が望まれている。
【0007】
特許文献1によると、r面を主面とするサファイア基板のc面を木目とみて、c面の順目方向から研削すると表面破砕層は少なくなり、反りが軽度で済むと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特公昭63-2735号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】「LiTaO3/サファイア接合基板を用いた温度特性改善SAWデバイス」,三浦道雄,井上将吾,堤潤,松田隆志,上田政則,佐藤良夫,伊形理,江畑泰男,IEEJ Trans. EIS, Vol.127, No.8, 2007 p1161-1165
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載されている方法に準じて、一般的に用いられるインフィード研削により、r面サファイア基板を加工方向Gより研削加工した(図16、17及び図19、20)。なお、インフィード研削とは、自転する加工物に対して、回転する砥石を下降させ、指定厚みまで研削する方法である。その結果、図18に示すピット多発領域及び図21に示すピット多発領域においてc面順目方向から研削した部分の表面には図22に示すようなピットが多数確認された。
【0011】
そこで、本発明の目的は、r面を主面とするサファイアを平面研削した場合でも、表面にピットが発生しないサファイア基板の研削方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討の結果、実際にピットが発生する原因は、c面方向に沿ったすべりや剥がれではなく、m面に対して鋭角となる加工方向であることを見出した。さらに、本発明者らは、鋭意検討の結果、サファイア基板の主面の中心における研削砥石による加工方向が所定方向になるようにサファイア基板をチャックテーブルに保持することで、加工方向がm面に対して鋭角となることを抑制でき、これによりサファイア基板表面に発生するピットを抑制できることを見出し、以下の発明を完成させた。
[1]r面を主面とするサファイア基板をチャックテーブルに保持する工程、及び研削砥石によって、前記チャックテーブルに保持した前記サファイア基板の主面を研削する工程を含み、前記サファイア基板を前記チャックテーブルに保持する工程は、前記サファイア基板の主面において、前記サファイア基板のm面と鈍角をなし、かつ前記m面となす角度が最大となる方向を0°とし、時計回りの方向をプラスとした場合、前記サファイア基板の主面の中心における前記研削砥石による加工方向が-90°以上+90°以下になるように前記サファイア基板を前記チャックテーブルに保持するサファイア基板の研削方法。
[2]前記サファイア基板を前記チャックテーブルに保持する工程は、前記サファイア基板の主面の中心における前記研削砥石による加工方向が-45°以上+45°以下になるように前記サファイア基板を前記チャックテーブルに保持する上記[1]に記載のサファイア基板の研削方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、r面を主面とするサファイア基板を研削した場合でも、表面のピット発生を抑制することができる。これにより、研磨代が少なくなり、鏡面化してもサファイア基板の平坦度がよく、サファイア基板の製造コストも抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】サファイア基板の結晶構造を示す図である。
図2】サファイア基板の一例を示す図であり、図2(a)は平面図であり、図2(b)は断面図である。
図3】サファイア基板とサファイア結晶のユニットセルとの関係を示す図であり、図3(a)は平面図であり、図3(b)は断面図である。
図4】サファイア基板における加工方向の基準となる基板方向Aとサファイア基板のm面との関係を示す図である。
図5】サファイア基板における加工方向の基準となる基板方向Aとサファイア基板のm面との関係を示す図である。
図6】研削砥石、サファイア基板及びチャックテーブルの位置関係を示す図であり、図6(a)は斜視図であり、図6(b)は平面図である。
図7】研削砥石の断面の一例を示す図である。
図8】サファイア基板の主面の中心における研削砥石による加工方向が0°になるようにサファイア基板がチャックテーブルに保持されたときの研削痕及び加工方向の一例を示す図である。
図9】サファイア基板の主面の中心における研削砥石による加工方向が-90°になるようにサファイア基板がチャックテーブルに保持されたときの研削痕及び加工方向の一例を示す図である。
図10】サファイア基板の主面の中心における研削砥石による加工方向が+90°になるようにサファイア基板がチャックテーブルに保持されたときの研削痕及び加工方向の一例を示す図である。
図11】チャックテーブル上にサファイア基板を複数枚保持したときの研削砥石、サファイア基板及びチャックテーブルの位置関係を示す図であり、図11(a)は斜視図であり、図11(b)は平面図である。
図12】本発明の別の実施形態のサファイア基板の研削方法を示す図であり、図12(a)は斜視図であり、図12(b)は平面図である。
図13】本発明の別の実施形態のサファイア基板の研削方法において、サファイア基板の主面の中心における研削砥石による加工方向が0°になるようにサファイア基板がチャックテーブルに保持されたときの研削痕及び加工方向の一例を示す図である。
図14】本発明の別の実施形態のサファイア基板の研削方法において、サファイア基板の主面の中心における研削砥石による加工方向が-90°になるようにサファイア基板がチャックテーブルに保持されたときの研削痕及び加工方向の一例を示す図である。
図15】本発明の別の実施形態のサファイア基板の研削方法において、サファイア基板の主面の中心における研削砥石による加工方向が+90°になるようにサファイア基板がチャックテーブルに保持されたときの研削痕及び加工方向の一例を示す図である。
図16】従来のインフィード研削によりサファイア基板を研削したときの研削痕の一例を示す図である。
図17】従来のインフィード研削によるサファイア基板の加工方向を示す図である。
図18】ピット多発領域を示す図である。
図19】従来のインフィード研削によりサファイア基板を研削したときの研削痕の一例を示す図である。
図20】従来のインフィード研削によるサファイア基板の加工方向を示す図である。
図21】ピット多発領域を示す図である。
図22】サファイア基板の表面に発生したピットの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態のサファイア基板の研削方法について詳細に説明するが、本発明のサファイア基板の研削方法は、これらに限定されるものではない。本発明は、r面を主面とするサファイア基板を平面研削する研削方法に関するものである。
【0016】
本発明の一実施形態のサファイア基板の研削方法は、r面を主面とするサファイア基板をチャックテーブルに保持する工程(A)、及び研削砥石によって、チャックテーブルに保持したサファイア基板の主面を研削する工程(B)を含む。
【0017】
本発明の一実施形態のサファイア基板の研削方法で用いるr面を主面とするサファイア基板は、CZ(Czochralski)法により引上げられたインゴットをスライス加工するか、もしくはEFG(Edge Difined Film Growth)法により引き上げられた基板を切り抜いて得られた基板であることが好ましい。インゴットのスライス加工には、例えば、ダイヤモンドをピアノ線へ固定化したダイヤモンドワイヤーソーが用いられる。
【0018】
このようにして得られたサファイア基板を面取り、ラップ加工、エッチング処理などを行い、所定の径、厚さ、表面状態に調整する。
【0019】
上記ラップ加工によりサファイア基板の表面には大きな加工変質層が形成される。サファイア基板は硬い材料であることから、この大きな加工変質層をポリッシングだけで除去しようとすると非常に長時間のプロセスとなる。このため、次に、微粒ダイヤモンドを用いて、このサファイア基板を研削加工する。図1は、サファイア基板の結晶構造を表している。サファイア基板の結晶構造はc軸、a軸、a及びa軸を有する。図1において、縦軸がc軸であり、横軸はa軸である。また、符号1はサファイア結晶のユニットセルであり、符号2はr面であり、符号3はm面である。上述したように、本発明の一実施形態のサファイア基板の研削方法で用いるサファイア基板はr面を主面とする。
【0020】
図2は、サファイア基板の一例を表すものである。サファイア基板101は、略円形状であり、a軸、c軸方向に対して45°方向にオリエンテーションフラット(オリフラ)102もしくはノッチが形成されている。ただし、オリエンテーションフラット及びノッチはこの方位に限定されるものではなく、オリエンテーションフラット及びノッチの方位は必要に応じて適宜選択することができる。サファイア基板101のc軸はサファイア基板の主面(r面)に対して約32.4°の角度をなす。
【0021】
本発明の一実施形態のサファイア基板の研削方法で用いるサファイア基板とサファイア結晶のユニットセルとの関係を図3に示す。サファイア結晶のユニットセルのm面3はサファイア基板の主面に対して傾いていることがわかる。
【0022】
サファイア基板における加工方向の基準となる基板方向Aとサファイア基板のm面3との関係を図4に示す。基板方向Aは、サファイア基板の主面において、サファイア基板のm面3と鈍角をなし、かつm面3となす角度4(α)が最大となる方向である。この基板方向Aを0°とする。また、時計回りの方向をプラスとする。基板方向Bは、基板方向Aを180°回転させた方向である。基板方向Bは、m面3に対して鋭角であり、かつm面3となす角度4(β)が最小となる方向である。
【0023】
図5を参照して、サファイア基板における加工方向の基準となる基板方向Aとサファイア基板のm面3との関係をさらに具体的に説明する。基板方向Aは、m面3に沿ったサファイア基板の厚さ方向の直線6と、鈍角をなし、かつm面3となす角度θが最大となる方向である。また、基板方向Bは、基板方向Aを180°回転させた方向であるが、m面3と垂直をなし、かつ主面側に延びる方向の矢印7を主面に投影した矢印の方向ともいえる。
【0024】
図3及び図5において、サファイア基板101の主面を外接する円の中心を通る、基板方向Aの直線と、サファイア基板101の外周との2つの交点のうち、上記円の中心に対して、基板方向B側の交点が点Aであり、基板方向A側の交点が点Bである。したがって、AからBへ向かう方向は基板方向Aと同じ方向である。すなわち、AからBへ向かう方向は、加工方向の基準となる方向であり、0°の方向である。なお、サファイア基板の主面の中心はサファイア基板の主面を外接する円の中心である。また、サファイア基板の形状が円形でない場合、サファイア基板の主面の中心の位置は、外形がサファイア基板と同じであり、かつ厚さ及び密度が一定である板の重心の位置に対応する位置である。
【0025】
図6に、研削砥石、サファイア基板及びチャックテーブルの位置関係を示す。チャックテーブル302上にサファイア基板101が保持されており、チャックテーブル302及び研削砥石301はそれぞれ方向Dおよび方向Eの方向に回転する。なお、チャックテーブル302は、方向Dと反対向きに回転しても問題ない。また、サファイア基板101の主面の中心における研削砥石301による加工方向が所定の範囲内の角度となるようにするために、サファイア基板101はチャックテーブル上を公転するのみで、自転しないことが好ましい。
【0026】
研削砥石301には、例えば、図7に示すような超砥粒ホイールを用いることができる。超砥粒ホイール301は、例えば、台金304及び超砥粒層305を備える。超砥粒層305は砥粒及び砥粒を固定するボンドを含む。サファイアは非常に硬い材料であるので、砥粒として、例えば、ダイヤモンドが使用される。砥粒を固定するボンドとして、例えば、レジノイド、メタル、ビトリファイドなどが使用される。また、全てが超砥粒層からなる超砥粒ホイールも使用することができる。図7に示すように、研削砥石301は、主に外周部分303で、サファイア基板101を研削する。
【0027】
チャックテーブル302におけるサファイア基板の固定方法は特に限定されないが、平坦度よく研削するには真空チャックでサファイア基板を固定することが好ましい。
【0028】
研削砥石301はサファイア基板101の上部より所定の速度で降りてきて、図6に示すように研削砥石301の加工範囲(外周部分)303のみでサファイア基板101と接触する。そして、研削砥石301は研削砥石301の加工範囲303のみでサファイア基板101を研削する。
【0029】
サファイア基板101の加工方向は、サファイア基板101に対する研削砥石301の相対的な移動方向である。研削砥石301は反時計回りである方向Eに回転している。また、上述したように、研削砥石301は研削砥石301の加工範囲303のみでサファイア基板101を加工する。したがって、サファイア基板101の加工方向は、研削砥石301の加工範囲303における回転方向E、すなわち研削砥石301の外周における回転方向Eである。なお、チャックテーブル302も回転しているが、研削砥石301の回転に比べて、チャックテーブル302の回転は非常に遅いので、サファイア基板101の加工方向におけるチャックテーブル302の回転の影響は無視することができる。
【0030】
サファイア基板101は、点Aがチャックテーブル302の中心側になり、点Bがチャックテーブル302の外周側となるようにチャックテーブル302に保持される。これにより、サファイア基板101の主面の中心における研削砥石による加工方向が0°になるようにサファイア基板101はチャックテーブル302に保持される。
【0031】
一方で、研削砥石301を時計回りに回転してもよい。、この場合は、点Aがチャックテーブル302の外周側となり、点Bがチャックテーブル302の中心側になるようにしてサファイア基板101はチャックテーブル302に保持される。この場合も、サファイア基板101の主面の中心における研削砥石301による加工方向が0°になるようにサファイア基板101はチャックテーブル302に保持される。
【0032】
図8に、サファイア基板101の主面の中心Mにおける研削砥石による加工方向が0°になるようにサファイア基板101がチャックテーブル302に保持されたときの研削痕201及び加工方向の一例を示す。加工方向がサファイア基板のm面に対して鋭角になることを抑制できるので、サファイア基板におけるピットの発生を抑制することができる。なお、図8に示す矢印は加工方向を示す。
【0033】
サファイア基板の主面の中心Mにおける研削砥石による加工方向が0°になるようにサファイア基板をチャックテーブルに保持する場合に限定されず、サファイア基板の主面の中心における研削砥石による加工方向が-90°以上+90°以下になるようにサファイア基板をチャックテーブルに保持すればよい。この場合も加工方向がサファイア基板のm面に対して鋭角になることを抑制できるので、サファイア基板におけるピットの発生を抑制することができる。例えば、図9に示すようにサファイア基板の主面の中心Mにおける研削砥石による加工方向が-90°になるように、サファイア基板をチャックテーブルに保持してもよい。なお、図9に示す曲線は研削痕であり、矢印が加工方向である。また、図10に示すようにサファイア基板の主面の中心Mにおける研削砥石による加工方向が+90°になるように、サファイア基板をチャックテーブルに保持してもよい。なお、図10に示す曲線は研削痕であり、矢印が加工方向である。サファイア基板のピット発生抑制の観点から、サファイア基板の主面の中心における研削砥石による加工方向が、好ましくは-45°以上+45°以下になるように、より好ましくは-30°以上+30°以下になるように、さらに好ましくは-15°以上+15°以下になるように、よりさらに好ましくは-5°以上+5°以下になるように、サファイア基板をチャックテーブルに保持する。これにより、サファイア基板において、加工方向がサファイア基板のm面に対して鋭角になることをさらに抑制することができる。
【0034】
図11に示すように、チャックテーブル上にサファイア基板101を複数枚保持してもよい。これにより、スループットが上がり、コストダウンに繋がる。
【0035】
図12には、本発明の別の実施形態のサファイア基板の研削方法を示す。図6ではチャックテーブル302が回転していた。しかし、図11に示すようにチャックテーブル302が研削砥石301の加工範囲303の中央の接線に対して垂直方向(F方向)に往復運動してもよい。この場合も、サファイア基板101の主面の中心における研削砥石による加工方向が0°になるようにサファイア基板101はチャックテーブル302に保持される。この場合、図6に示すチャックテーブル302に比べてチャックテーブル302を小さくすることができる。図13にサファイア基板の研削痕201及び加工方向を示す。図13に示す矢印が加工方向である。サファイア基板101の主面の中心Mにおける研削砥石による加工方向は0°である。このように研削することで、加工方向がサファイア基板のm面に対して鋭角になることを抑制できるので、サファイア基板におけるピットの発生を抑制することができる。
【0036】
この場合も、サファイア基板の主面の中心Mにおける研削砥石による加工方向が0°になるようにサファイア基板をチャックテーブルに保持する場合に限定されず、サファイア基板の主面の中心における研削砥石による加工方向が-90°以上+90°以下になるようにサファイア基板をチャックテーブルに保持すればよい。これにより、加工方向がサファイア基板のm面に対して鋭角になることを抑制できるので、サファイア基板においてピットの発生を抑制することができる。例えば、図14に示すように、サファイア基板の主面の中心Mにおける研削砥石による加工方向が-90°になるようにサファイア基板をチャックテーブルに保持してもよい。なお、図14に示す曲線は研削痕であり、矢印が加工方向である。また、図15に示すように、サファイア基板の主面の中心Mにおける研削砥石による加工方向が+90°になるようにサファイア基板をチャックテーブルに保持してもよい。なお、図15に示す曲線は研削痕であり、矢印が加工方向である。サファイア基板のピット発生抑制の観点から、この場合も、サファイア基板の主面の中心における研削砥石による加工方向が、好ましくは-45°以上+45°以下になるように、より好ましくは-30°以上+30°以下になるように、さらに好ましくは-15°以上+15°以下になるように、よりさらに好ましくは-5°以上+5°以下になるように、サファイア基板をチャックテーブルに保持する。
【0037】
上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例
【0038】
以下、実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
〈実施例1〉
はじめに、CZ法により引上げられた4インチ径のサファイア単結晶インゴットをr面となる面方位に調整してスライスし、面取り、ラップ加工、及びエッチング処理を行い、厚さ400μmのr面を主面とするサファイア基板を作製した。図2に示すように、結晶軸に対してオリエンテーションフラットも作製した。
【0040】
次に、サファイア基板の主面の中心における加工方向がAからBの方向となるように(図8)、このサファイア基板を230mmφのチャックテーブル上に載置し(図6)、#1000のダイヤモンド砥粒を備えた200mmφの研削砥石を使用して、チャックテーブルを回転させながら、片面20μmの研削加工を両面に行い、計10枚のサファイア基板を作製した。なお、研削砥石の回転数は2000rpmであり、チャックテーブルの回転数は150rpmであった。
【0041】
研削後の表面についてレーザー顕微鏡で観察したところ、10枚全て全面においてピットは確認されなかった。
【0042】
これら研削した基板を両面研磨したところ、研磨代の平均値8μm、研磨後のTTV(Total Thickness Variation)平均値は1.4μmであった。
【0043】
〈実施例2〉
実施例1と同様にr面を主面とするサファイア基板を作製した。
【0044】
次に、サファイア基板の中心における加工方向がAからBの方向に対して-90°となるように(図9)、サファイア基板を230mmφのチャックテーブル上に載置し、#1000のダイヤモンド砥粒を備えた200mmφの研削砥石を使用して、チャックテーブルを回転させながら、片面20μmの研削加工を両面に行い、計10枚のサファイア基板を作製した。なお、研削砥石の回転数及びチャックテーブルの回転数は実施例1と同様であった。
【0045】
研削後の表面についてレーザー顕微鏡で観察したところ、10枚中7枚は全面においてピットは確認されなかったが、3枚については一部ピットが確認された。
【0046】
研削してピットのなかった基板を両面研磨したところ、研磨代の平均値11μm、研磨後のTTV平均値は1.8μmであった。
【0047】
〈実施例3〉
実施例1と同様にr面を主面とするサファイア基板を作製した。
【0048】
次に、サファイア基板の中心における加工方向がAからBの方向に対して+90°となるように(図10)、このサファイア基板を230mmφのチャックテーブル上に載置し、#1000のダイヤモンド砥粒を備えた200mmφの研削砥石を使用して、チャックテーブルを回転させながら、片面20μmの研削加工を両面に行い、計10枚のサファイア基板を作製した。なお、研削砥石の回転数及びチャックテーブルの回転数は実施例1と同様であった。
【0049】
研削後の表面についてレーザー顕微鏡で観察したところ、10枚中8枚は全面においてピットは確認されなかったが、2枚については一部ピットが確認された。
【0050】
研削してピットのなかった基板を両面研磨したところ、研磨代の平均値10μm、研磨後のTTV平均値は1.6μmであった。
【0051】
〈実施例4〉
実施例1と同様にr面を主面とするサファイア基板を作製した。
【0052】
次に、サファイア基板の中心における加工方向がAからBの方向となるように(図13)、このサファイア基板を120mmφのチャックテーブル上に載置し(図12)、#1000のダイヤモンド砥粒を備えた200mmφの研削砥石を使用して、チャックテーブルを往復運動させながら、片面20μmの研削加工を両面に行い、計10枚のサファイア基板を作製した。なお、研削砥石の回転数は実施例1と同様であった。
【0053】
研削後の表面についてレーザー顕微鏡で観察したところ、10枚全て全面においてピットは確認されなかった。
【0054】
これら研削した基板を両面研磨したところ、研磨代の平均値7μm、研磨後のTTV平均値は1.2μmであった。
【0055】
〈実施例5〉
実施例1と同様にr面を主面とするサファイア基板を作製した。
【0056】
次に、サファイア基板の中心における加工方向がAからBの方向に対して-90°となるように(図14)、このサファイア基板を120mmφのチャックテーブル上に載置し、#1000のダイヤモンド砥粒を備えた200mmφの研削砥石を使用して、チャックテーブルを往復運動させながら、片面20μmの研削加工を両面に行い、計10枚のサファイア基板を作製した。なお、研削砥石の回転数は実施例1と同様であった。
【0057】
研削後の表面についてレーザー顕微鏡で観察したところ、10枚中9枚においてピットは確認されなかったが、1枚については一部ピットが確認された。
【0058】
研削してピットのなかった基板を両面研磨したところ、研磨代の平均値9μm、研磨後のTTV平均値は1.4μmであった。
【0059】
〈実施例6〉
実施例1と同様にr面を主面とするサファイア基板を作製した。
【0060】
次に、サファイア基板の中心における加工方向がAからBの方向に対して+90°となるように(図15)、このサファイア基板を120mmφのチャックテーブル上に載置し、#1000のダイヤモンド砥粒を備えた200mmφの研削砥石を使用して、チャックテーブルを往復運動させながら、片面20μmの研削加工を両面に行い、計10枚のサファイア基板を作製した。なお、研削砥石の回転数は実施例1と同様であった。
【0061】
研削後の表面についてレーザー顕微鏡で観察したところ、10枚中8枚においてピットは確認されなかったが、2枚については一部ピットが確認された。
【0062】
研削してピットのなかった基板を両面研磨したところ、研磨代の平均値10μm、研磨後のTTV平均値は1.5μmであった。
【0063】
〈比較例1〉
実施例1と同様にr面を主面とするサファイア基板を作製した。
【0064】
次に、サファイア基板の中心における加工方向がAからBの方向に対して+135°となるように、このサファイア基板を230mmφのチャックテーブル上に載置し、#1000のダイヤモンド砥粒を備えた200mmφの研削砥石を使用して、チャックテーブルを回転させながら、片面20μmの研削加工を両面に行い、計10枚のサファイア基板を作製した。なお、研削砥石の回転数及びチャックテーブルの回転数は実施例1と同様であった。
【0065】
研削後の表面についてレーザー顕微鏡で観察したところ、10枚中全てにおいて部分的なピットが確認された。
【0066】
これらを研削した基板を両面研磨したところ、ピット部も含め全面鏡面化するまで研磨代平均値25μmを要し、研磨後のTTV平均値は3.5μmであった。
【0067】
〈比較例2〉
実施例1と同様にr面を主面とするサファイア基板を作製した。
【0068】
次に、サファイア基板の中心における加工方向がAからBの方向に対して+180°となるように、このサファイア基板を230mmφのチャックテーブル上に載置し、#1000のダイヤモンド砥粒を備えた200mmφの研削砥石を使用して、チャックテーブルを回転させながら、片面20μmの研削加工を両面に行い、計10枚のサファイア基板を作製した。なお、研削砥石の回転数及びチャックテーブルの回転数は実施例1と同様であった。
【0069】
研削後の表面についてレーザー顕微鏡で観察したところ、10枚中全てにおいて全面にピットが確認された。
【0070】
これらを研削した基板を両面研磨したところ、鏡面化するまで研磨代平均値33μmを要し、研磨後のTTV平均値は4.2μmであった。
【0071】
〈比較例3〉
実施例1と同様にr面を主面とするサファイア基板を作製した。
【0072】
次に、サファイア基板の中心における加工方向がAからBの方向に対して+135°となるように、、このサファイア基板を120mmφのチャックテーブル上に載置し、#1000のダイヤモンド砥粒を備えた200mmφの研削砥石を使用して、チャックテーブルを往復運動させながら、片面20μmの研削加工を両面に行い、計10枚のサファイア基板を作製した。なお、研削砥石の回転数は実施例1と同様であった。
【0073】
研削後の表面についてレーザー顕微鏡で観察したところ、10枚中9枚において部分的なピットが確認された。
【0074】
これらを研削した基板を両面研磨したところ、ピット部も含め全面鏡面化するまで研磨代平均値23μmを要し、研磨後のTTV平均値は2.9μmであった。
【0075】
〈比較例4〉
実施例1と同様にr面を主面とするサファイア基板を作製した。
【0076】
次に、サファイア基板の中心における加工方向がAからBの方向に対して+180°となるように、このサファイア基板を120mmφのチャックテーブル上に載置し、#1000のダイヤモンド砥粒を備えた200mmφの研削砥石を使用して、チャックテーブルを往復運動させながら、片面20μmの研削加工を両面に行い、計10枚のサファイア基板を作製した。なお、研削砥石の回転数は実施例1と同様であった。
【0077】
研削後の表面についてレーザー顕微鏡で観察したところ、10枚中全てにおいて全面にピットが確認された。
【0078】
これらを研削した基板を両面研磨したところ、鏡面化するまで研磨代平均値29μmを要し、研磨後のTTV平均値は3.6μmであった。
【0079】
実施例1~6及び比較例1~4の結果を表1に示す。
【表1】
【符号の説明】
【0080】
1 サファイア結晶のユニットセル
2 r面
3 m面
4 m面と基板方向がなす角
5 c面
101 サファイア基板
102 オリエンテーションフラットもしくはノッチ
201 研削痕
301 研削砥石(超砥粒ホイール)
302 チャックテーブル
303 研削砥石の加工範囲(研削砥石の外周部分)
D チャックテーブルの回転方向
E 研削砥石の回転方向
F チャックテーブルの往復運動方向
G 加工方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22