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特許7271487タンタル酸リチウム単結晶基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】タンタル酸リチウム単結晶基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/30 20060101AFI20230501BHJP
   C30B 33/02 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
C30B29/30 B
C30B33/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020162245
(22)【出願日】2020-09-28
(65)【公開番号】P2022054952
(43)【公開日】2022-04-07
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100154391
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康義
(72)【発明者】
【氏名】阿部 淳
(72)【発明者】
【氏名】加藤 公二
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-165611(JP,A)
【文献】特開2020-040840(JP,A)
【文献】特開2020-11874(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/30
C30B 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積抵抗率が1×1010Ω・cm以上、1×1012Ω・cm未満であるタンタル酸リチウム単結晶基板の製造方法であって、
体積抵抗率が1×1012Ω・cm以上、かつ単分域構造のタンタル酸リチウム単結晶基板を、BET比表面積が0.13m/g以上である炭酸リチウム粉末中に埋め込むと共に、常圧下、350℃以上、キュリー温度以下の温度で熱処理を行う工程を含み、
前記炭酸リチウム粉末は、常圧下、350℃以上、キュリー温度以下の温度でのタンタル酸リチウム単結晶基板の熱処理の際、タンタル酸リチウム単結晶基板を埋め込むのに使用した使用済みの炭酸リチウム粉末であり、
前記熱処理を行う工程は、前記熱処理の開始時は不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気で熱処理を行い、前記混合ガス雰囲気で熱処理を行った後、不活性ガスの単一ガス雰囲気で熱処理を行うタンタル酸リチウム単結晶基板の製造方法。
【請求項2】
前記炭酸リチウム粉末のBET比表面積測定で得られた、横軸が相対圧(吸着平衡圧(P)/飽和蒸気圧(P))であり、縦軸が吸着量(cm/g)である吸着等温線において、相対圧(P/P)が0.2以上0.8以下の範囲で前記吸着等温線の傾きが0.04以上である請求項1に記載のタンタル酸リチウム単結晶基板の製造方法。
【請求項3】
前記炭酸リチウム粉末は、前記使用済みの炭酸リチウム粉末を大気雰囲気に晒すことにより得られた炭酸リチウム粉末であり、
前記大気雰囲気の絶対湿度と前記使用済みの炭酸リチウム粉末が前記大気雰囲気に晒された時間との積が200(g/m)・hr以上である請求項1又は2に記載のタンタル酸リチウム単結晶基板の製造方法。
【請求項4】
前記炭酸リチウム粉末は、前記使用済みの炭酸リチウム粉末を大気雰囲気に晒すことにより得られた炭酸リチウム粉末であり、
前記大気雰囲気の絶対湿度と前記使用済みの炭酸リチウム粉末が前記大気雰囲気に晒された時間との積が300(g/m)・hr以上である請求項1~3のいずれか1項に記載のタンタル酸リチウム単結晶基板の製造方法。
【請求項5】
前記炭酸リチウム粉末は、前記使用済みの炭酸リチウム粉末を大気雰囲気に晒すことにより得られた炭酸リチウム粉末であり、
前記大気雰囲気の絶対湿度が40g/m以上であり、
前記大気雰囲気の絶対湿度と前記使用済みの炭酸リチウム粉末が前記大気雰囲気に晒された時間との積が300(g/m)・hr以上である請求項1~4のいずれか1項に記載のタンタル酸リチウム単結晶基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面弾性波素子に用いられるタンタル酸リチウム単結晶基板の製造方法に関する
【背景技術】
【0002】
タンタル酸リチウム(LiTaO;LT)単結晶は、圧電性を有しており、弾性表面波素子の圧電基板として使用されている。また、タンタル酸リチウム単結晶は、焦電性も有しており、温度の変化によって表面に電荷が発生する。このような焦電性は、センサとして利用される場合もあるが、タンタル酸リチウム結晶を弾性表面波素子の圧電基板として使用する場合は、この焦電性が問題となり得る。
【0003】
例えば、温度変化によって圧電基板が帯電した場合、圧電基板内で静電気放電が生じ、クラックや割れの原因となり得る。また、圧電基板の表面に形成された電極が静電気によってショートする可能性もある。
【0004】
そこで、タンタル酸リチウム基板の帯電を抑制する目的で、タンタル酸リチウム基板をキュリー温度以下の温度で還元処理する手法が考えられ、広く実施されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、タンタル酸リチウム単結晶基板を炭酸リチウム粉末中に埋め込み還元処理することによって均質性の高い体積抵抗率を持つタンタル酸リチウム単結晶基板を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-165611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
タンタル酸リチウム基板の還元処理によって炭酸リチウム粉末は還元されないので、炭酸リチウム粉末はタンタル酸リチウム基板の還元処理に繰り返し使用することが可能であると考えられる。しかしながら、タンタル酸リチウム基板の還元処理に使用した炭酸リチウム粉末を再び使用するとタンタル酸リチウム基板を十分に還元することができず、タンタル酸リチウム基板の体積抵抗率が1×1012Ω・cmよりも大きくなる場合があった。また、タンタル酸リチウム基板の体積抵抗率にバラツキが生じてしまっていた。
【0007】
そこで、本発明は、タンタル酸リチウム単結晶基板の熱処理に炭酸リチウム粉末を繰り返し使用しても、タンタル酸リチウム単結晶基板の還元不足による体積抵抗率の増加を抑制できるタンタル酸リチウム単結晶基板を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、タンタル酸リチウム基板の還元処理に炭酸リチウム粉末を使用すると炭酸リチウム粉末のBET比表面積が低くなるため、炭酸リチウム粉末を再利用してタンタル酸リチウム基板を還元処理すると、タンタル酸リチウム基板の体積抵抗率が大きくなることを見出し、以下の発明を完成させた。本発明は以下のとおりである。
[1]体積抵抗率が1×1010Ω・cm以上、1×1012Ω・cm未満であるタンタル酸リチウム単結晶基板の製造方法であって、体積抵抗率が1×1012Ω・cm以上、かつ単分域構造のタンタル酸リチウム単結晶基板を、BET比表面積が0.13m/g以上である炭酸リチウム粉末中に埋め込むと共に、常圧下、350℃以上、キュリー温度以下の温度で熱処理を行う工程を含み、前記炭酸リチウム粉末は、常圧下、350℃以上、キュリー温度以下の温度でのタンタル酸リチウム単結晶基板の熱処理の際、タンタル酸リチウム単結晶基板を埋め込むのに使用した使用済みの炭酸リチウム粉末であり、前記熱処理を行う工程は、前記熱処理の開始時は不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気で熱処理を行い、前記混合ガス雰囲気で熱処理を行った後、不活性ガスの単一ガス雰囲気で熱処理を行うタンタル酸リチウム単結晶基板の製造方法。
[2]前記炭酸リチウム粉末のBET比表面積測定で得られた、横軸が相対圧(吸着平衡圧(P)/飽和蒸気圧(P))であり、縦軸が吸着量(cm/g)である吸着等温線において、相対圧(P/P)が0.2以上0.8以下の範囲で前記吸着等温線の傾きが0.04以上である上記[1]に記載のタンタル酸リチウム単結晶基板の製造方法。
[3]前記炭酸リチウム粉末は、前記使用済みの炭酸リチウム粉末を大気雰囲気に晒すことにより得られた炭酸リチウム粉末であり、前記大気雰囲気の絶対湿度と前記使用済みの炭酸リチウム粉末が前記大気雰囲気に晒された時間との積が200(g/m)・hr以上である上記[1]又は[2]に記載のタンタル酸リチウム単結晶基板の製造方法。
[4]前記炭酸リチウム粉末は、前記使用済みの炭酸リチウム粉末を大気雰囲気に晒すことにより得られた炭酸リチウム粉末であり、前記大気雰囲気の絶対湿度と前記使用済みの炭酸リチウム粉末が前記大気雰囲気に晒された時間との積が300(g/m)・hr以上である上記[1]~[3]のいずれか1つに記載のタンタル酸リチウム単結晶基板の製造方法。
[5]前記炭酸リチウム粉末は、前記使用済みの炭酸リチウム粉末を大気雰囲気に晒すことにより得られた炭酸リチウム粉末であり、前記大気雰囲気の絶対湿度が40g/m以上であり、前記大気雰囲気の絶対湿度と前記使用済みの炭酸リチウム粉末が前記大気雰囲気に晒された時間との積が300(g/m)・hr以上である上記[1]~[4]のいずれか1つに記載のタンタル酸リチウム単結晶基板の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、タンタル酸リチウム単結晶基板の熱処理に炭酸リチウム粉を繰り返し使用しても、タンタル酸リチウム単結晶基板の還元不足による体積抵抗率の増加を抑制できるタンタル酸リチウム単結晶基板を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例及び比較例のタンタル酸リチウム単結晶基板の作製で使用した炭酸リチウム粉末の吸着等温線を示す図である。
図2図2は、炭酸リチウム粉末を晒した大気雰囲気の絶対湿度及び炭酸リチウム粉末を大気雰囲気に晒した時間の積と、大気雰囲気に晒して得られた炭酸リチウム粉末のBET比表面積との関係を示す図である。
図3図3は、炭酸リチウム粉末を晒した大気雰囲気の絶対湿度及び炭酸リチウム粉末を大気雰囲気に晒した時間の積と、大気雰囲気に晒して得られた炭酸リチウム粉末の吸着等温線の傾きとの関係を示す図である。
図4図4は、タンタル酸リチウム単結晶基板におけるL値と、体積抵抗率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[タンタル酸リチウム単結晶基板の製造方法]
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明は、これに何ら限定されるものではない。
【0012】
本発明の一実施形態におけるタンタル酸リチウム単結晶基板の製造方法は、体積抵抗率が1×1010Ω・cm以上、1×1012Ω・cm未満であるタンタル酸リチウム単結晶基板の製造方法であり、体積抵抗率が1×1012Ω・cm以上、かつ単分域構造のタンタル酸リチウム単結晶基板を、BET比表面積が0.13m/g以上である炭酸リチウム粉末中に埋め込むと共に、常圧下、350℃以上、キュリー温度以下の温度で熱処理を行う工程を含む。そして、上記炭酸リチウム粉末は、常圧下、350℃以上、キュリー温度以下の温度でのタンタル酸リチウム単結晶基板の熱処理の際、タンタル酸リチウム単結晶基板を埋め込むのに使用した使用済みの炭酸リチウム粉末である。さらに、上記熱処理を行う工程は、熱処理の開始時は不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気で熱処理を行い、混合ガス雰囲気で熱処理を行った後、不活性ガスの単一ガス雰囲気で熱処理を行う。
【0013】
本発明の一実施形態におけるタンタル酸リチウム単結晶基板の製造方法では、先ず、体積抵抗率が1×1012Ω・cm以上で、かつ単分域構造のタンタル酸リチウム単結晶基板を準備する。このようなタンタル酸リチウム単結晶基板は、例えば、チョクラルスキー法によってタンタル酸リチウム単結晶を成長させ、得られたインゴットに分極処理を施すと共に、基板形状に加工することによって得られる。
【0014】
次に、準備したタンタル酸リチウム単結晶基板を、炭酸リチウム粉末中に埋め込む。炭酸リチウム粉末が未使用品である場合は、炭酸リチウム粉末は、好ましくは最大粒径が500μm以下である炭酸リチウム粉末であり、より好ましくは最大粒径が300μm以下である炭酸リチウム粉末である。最大粒径が500μm以下の炭酸リチウム粉末は、例えば、市販の炭酸リチウム粉末を32メッシュ(目開き500μm)の篩に掛けることによって得られる。また、最大粒径が300μm以下の炭酸リチウム粉末は、例えば、市販の炭酸リチウム粉末を48メッシュ(目開き300μm)の篩に掛けることによって得られる。このような篩に掛けて塊状の炭酸リチウム粉末を取り除くことによって、基板表面に色むらがなく、面内方向の均質性が高いタンタル酸リチウム単結晶基板を得ることができる。また、篩の目開きをさらに小さくしてもよいが、80メッシュ(目開き180μm)程度になると、炭酸リチウム粉末が詰まりやすく作業性が悪化するため、炭酸リチウム粉末の最大粒径は180μm以上とすることが好ましい。
【0015】
一方、炭酸リチウム粉末が、常圧下、350℃以上、キュリー温度以下の温度でのタンタル酸リチウム単結晶基板の熱処理の際、タンタル酸リチウム単結晶基板を埋め込むのに使用した使用済みの炭酸リチウム粉末である場合、炭酸リチウム粉末のBET比表面積は0.13m/g以上である必要がある。使用済みの炭酸リチウム粉末のBET比表面積が0.13m/g未満であると、その使用済みの炭酸リチウム粉末中にタンタル酸リチウム単結晶基板を埋め込んで熱処理をした場合、タンタル酸リチウム単結晶基板の還元不足により、タンタル酸リチウム単結晶基板の体積抵抗が1×1012Ω・cm以上になる場合がある。このような観点から、使用済みの炭酸リチウム粉末のBET比表面積は、好ましくは0.14m/g以上であり、より好ましくは0.15m/g以上である。使用済みの炭酸リチウム粉末のBET比表面積の範囲の上限値は、特に限定されないが、例えば、0.20m/g以下である。
【0016】
使用済みの炭酸リチウム粉末のBET比表面積が0.13m/g未満になった場合、所定の処理により、炭酸リチウム粉末のBET比表面積を0.13m/g以上にすればよい。例えば、タンタル酸リチウム単結晶基板の熱処理の使用によりBET比表面積が0.13m/g未満になった使用済みの炭酸リチウム粉末を、大気雰囲気に晒すことが好ましい。この場合、大気雰囲気の絶対湿度と使用済みの炭酸リチウム粉末が大気雰囲気に晒された時間との積が200(g/m)・hr以上となることが好ましい。これにより、より確実に、使用済みの炭酸リチウム粉末のBET比表面積を0.13m/g以上にすることができる。そして、タンタル酸リチウム単結晶基板の熱処理に使用できない使用済みの炭酸リチウム粉末を、タンタル酸リチウム単結晶基板の熱処理に使用できるものに容易に変えることができる。このような観点から、大気雰囲気の絶対湿度と使用済みの炭酸リチウム粉末が大気雰囲気に晒された時間との積が300(g/m)・hr以上となることがより好ましく、大気雰囲気の絶対湿度と使用済みの炭酸リチウム粉末が大気雰囲気に晒された時間との積が400(g/m)・hr以上となることがさらに好ましい。また、大気雰囲気の絶対湿度が40g/m以上であり、大気雰囲気の絶対湿度と使用済みの炭酸リチウム粉末が大気雰囲気に晒された時間との積が300(g/m)・hr以上であることがさらに好ましく、大気雰囲気の絶対湿度が40g/m以上であり、大気雰囲気の絶対湿度と使用済みの炭酸リチウム粉末が大気雰囲気に晒された時間との積が400(g/m)・hr以上であることがよりさらに好ましい。
【0017】
使用済みの炭酸リチウム粉末を大気雰囲気に晒す時間を短縮し、タンタル酸リチウム単結晶基板の体積抵抗率を安定化させる観点から、使用済みの炭酸リチウム粉末を大気雰囲気に晒す際の、大気雰囲気の絶対湿度は、好ましくは40g/m以上であり、より好ましくは50g/m以上であり、さらに好ましくは60g/m以上であり、よりさらに好ましくは70g/m以上である。
【0018】
使用済みの炭酸リチウム粉末を大気雰囲気に晒す時間を短縮し、タンタル酸リチウム単結晶基板の体積抵抗率を安定化させる観点から、使用済みの炭酸リチウム粉末を大気雰囲気に晒す際の、大気雰囲気の温度は、好ましくは10~80℃であり、より好ましくは20~75℃であり、さらに好ましくは30~70℃であり、よりさらに好ましくは40~65℃である。
【0019】
使用済みの炭酸リチウム粉末を晒す大気雰囲気の圧力は、大気圧であってもよい。また、使用済みの炭酸リチウム粉末を大気雰囲気に晒す時間を短縮するために、加圧してもよい。
【0020】
続いて、炭酸リチウム粉末中に埋め込まれたタンタル酸リチウム単結晶基板に、常圧下、不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気中において、350℃以上、キュリー温度以下の温度で熱処理を行う。ここで、熱処理を350℃未満の温度で行うと還元が十分に進行しない場合がある。一方、熱処理をキュリー温度よりも高い温度で行うと、タンタル酸リチウム単結晶基板は多分域構造となってしまう場合がある。
【0021】
熱処理の開始時は、不活性ガスと還元ガスとの混合カス雰囲気で熱処理を行う。不活性ガスとして、例えば、窒素やアルゴン、ヘリウム等の希ガスを用いることができるが、比較的安価な窒素を用いることが好ましい。また、還元性ガスとしては、例えば、水素(H)、一酸化炭素(CO)、硫化水素(HS)、二酸化硫黄、一酸化窒素(NO)等から任意に選択すればよいが、取扱いのし易さから、水素(H)又は一酸化炭素(CO)を用いることが好ましい。
【0022】
本発明の一実施形態におけるタンタル酸リチウム単結晶基板の製造方法では、不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気にすることによって、炭酸リチウム粉末のみでもタンタル酸リチウム単結晶基板の還元を十分に進行させることが可能となる。還元性ガスを含まない不活性ガス雰囲気中で同様の還元処理を行うと、還元が十分に進行せず、複数回の還元処理を行う必要がある。複数回の還元処理が必要になれば、製造コストが増加するだけでなく、トータルの熱処理時間も長くなるため、基板の反りやクラックが発生する可能性が高くなるので好ましくない。
【0023】
また、還元性ガスの濃度は、20.0体積%以下であることが好ましく、10.0体積%以下であることがより好ましく、5.0%体積以下である方がさらに好ましい。還元性ガスの濃度が高すぎると、還元が進行しすぎる可能性があるからである。還元が進行しすぎたタンタル酸リチウム単結晶基板は、脆くなったり、色が黒くなりすぎたりするため、デバイス製造工程に問題が生じる可能性がある。なお、還元ガスの濃度の範囲の下限値は、特に限定されないが、例えば0.5体積%以上である。
【0024】
上記不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気による熱処理を行った後、不活性ガスの単一ガス雰囲気で熱処理を行う。これにより、タンタル酸リチウム単結晶基板における体積抵抗率のバラツキを抑制することができる。
【0025】
熱処理の昇温時は、混合ガス雰囲気であることが好ましい。また、昇温後の混合ガス雰囲気の時間や還元性ガスの濃度を調節することによって、タンタル酸リチウム単結晶基板の還元度合いを制御することができ、タンタル酸リチウム単結晶基板の体積抵抗率を調整することができる。昇温後の混合ガス雰囲気での熱処理時間は、好ましくは10分~8時間であり、タンタル酸リチウム単結晶基板の所望する体積抵抗率によって処理時間が異なる。また、タンタル酸リチウム単結晶基板の面内の均一性を上げる観点から、不活性ガスの単一ガス雰囲気での熱処理の時間は、長い方が好ましい。不活性ガスの単一ガス雰囲気での熱処理の時間は、例えば、好ましくは1~24時間であり、より好ましくは6~22時間であり、さらに好ましくは7~20時間である。
【0026】
使用済みの炭酸リチウム粉末をタンタル酸リチウム単結晶基板の熱処理に使用する場合、炭酸リチウム粉末のBET比表面積測定で得られた、横軸が相対圧(吸着平衡圧(P)/飽和蒸気圧(P))であり、縦軸が吸着量(cm/g)である吸着等温線において、相対圧(P/P)が0.2以上0.8以下の範囲で吸着等温線の傾きが0.04以上であることが好ましい。このような吸着等温線を示す使用済みの炭酸リチウム粉末をタンタル酸リチウム単結晶基板の熱処理に使用することにより、タンタル酸リチウム単結晶基板の体積抵抗率を、より確実に1×1010Ω・cm以上、1×1012Ω・cm未満の範囲内にすることができる。このような観点から、上記吸着等温線の傾きは、より好ましくは0.05以上であり、さらに好ましくは0.06以上である。なお、上記吸着等温線の傾きの範囲の上限値は、特に限定されないが、例えば0.1以下である。
【0027】
未使用品の炭酸リチウム粉末におけるBET比表面積も、使用済みの炭酸リチウム粉末と同じように、好ましくは0.13m/g以上であり、より好ましくは0.14m/g以上であり、さらに好ましくは0.15m/g以上である。また、未使用品の炭酸リチウム粉末のBET比表面積の範囲の上限値は、特に限定されないが、例えば、0.20m/g以下である。このような未使用品の炭酸リチウム粉末を使用した後、上述の処理を実施することにより、使用済みの炭酸リチウム粉末のBET比表面積を、容易に0.13m/g以上、好ましくは0.14m/g以上、より好ましくは0.15m/g以上にすることができる。
【0028】
未使用品の炭酸リチウム粉末における吸着等温線の傾きも、使用済みの炭酸リチウム粉末と同じように、好ましくは0.04以上であり、より好ましくは0.05以上であり、さらに好ましくは0.06以上である。また、未使用品の炭酸リチウム粉末の吸着等温線の傾きの範囲の上限値は、特に限定されないが、例えば、0.1以下である。このような未使用品の炭酸リチウム粉末を使用した後、上述の処理を実施することにより、使用済みの炭酸リチウム粉末の吸着等温線の傾きを、容易に、好ましくは0.04以上、より好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.06以上にすることができる。
【実施例
【0029】
以下、上記にて説明した本発明を、実施例を挙げてさらに説明するが、本発明は実施例に制限されるものではない。
【0030】
(タンタル酸リチウム単結晶基板の作製)
先ず、チョクラルスキー法によりタンタル酸リチウム単結晶を成長させ、得られたインゴットにポーリング処理を施して単分域化した後、これをスライスして複数枚の基板(原料基板)を得た。この時点では、タンタル酸リチウム単結晶基板の体積抵抗率は3.0×1014Ω・cmであった。
【0031】
(使用済みの炭酸リチウム粉末の作製)
炭酸リチウム粉末(本荘ケミカル(株)製)を、48メッシュ(目開き300μm)の篩に掛けて、炭酸リチウム粉末の最大粒径を300μm以下となるようにした。
【0032】
続いて、炭酸リチウム粉末の中に埋め込まれた単分域構造のタンタル酸リチウム単結晶基板に、常圧下、窒素ガスを6L/minで流すと共に、水素ガスを120cc/minで流して(水素濃度2.0体積%)、温度570℃まで昇温し、さらに1時間熱処理を行った。その後、水素ガスを停止して、温度570℃で8時間の熱処理を行った。
【0033】
(炭酸リチウム粉末1~6を作製)
タンタル酸リチウム単結晶基板の熱処理に使用した使用済みの炭酸リチウム粉末を室温で取り出したのち、48メッシュ(目開き300μm)の篩に掛けて、最大粒径を300μm以下となるようにして炭酸リチウム粉末1を作製した。そして、恒温恒湿槽(エスペック社製、商品名:PL3J)を用いて表1に示す条件で炭酸リチウム粉末1を大気雰囲気に晒し、炭酸リチウム粉末2~6を作製した。
【0034】
(実施例1~4及び比較例1、2の熱処理タンタル酸リチウム単結晶基板の作製)
炭酸リチウム粉末1~6を用いてタンタル酸リチウム単結晶基板を熱処理して、実施例1~4及び比較例1、2の熱処理タンタル酸リチウム単結晶基板を作製した。なお、熱処理の条件は、上述の使用済みの炭酸リチウム粉末の作製の項目で説明した熱処理の条件と同じであった。
【0035】
炭酸リチウム粉末1~6に対して以下の評価を行った。
(吸着等温線、BET比表面積及び吸着等温線の傾き)
マイクロトラック・ベル株式会社製(BELSORP-miniII)を使用して、定容量式ガス吸着法で炭酸リチウム粉末1~6の吸着等温線、BET比表面積及び吸着等温線の傾きを測定した。まず、サンプルを0.01Paの減圧下で200℃、2時間ヒーターで加熱した。得られたサンプルの重量を用いて、測定開始相対圧0.0015から0.3までの0.025刻みで相対圧を上昇させ、0.3から0.9までの間は0.05刻みで測定を行った。各相対圧において5分間の圧力変動が目標圧力の1%以下になった点をその相対圧の吸着量とし、相対圧0.9まで上げていき相対圧(P/P)と吸着量の関係(吸着等温線)を求めた。そして、その吸着等温線からBET比表面積及び吸着等温線の傾きを求めた。なお、吸着等温線の傾きは、相対圧(P/P)が0.8のときの吸着量(cm/g)から相対圧(P/P)が0.2のときの吸着量(cm/g)を引き算して得られた値を0.6(=0.8-0.2)で割り算することにより算出した。結果を表1並びに図1に示す。また、大気雰囲気の絶対湿度(g/m)(A)と炭酸リチウム粉末を大気雰囲気に晒した時間(hr)(B)との積((g/m)・hr)(A×B)と、BET比表面積及び吸着等温線の傾きとのそれぞれの関係を図2及び図3にそれぞれ示す。
【0036】
実施例1~4及び比較例1、2の熱処理タンタル酸リチウム単結晶基板に対して以下の評価を行った。
(体積抵抗率)
ディジタル絶縁抵抗計(アジレント・テクノロジー株式会社製、商品名:Agilent 4339B ハイレジスタンスメータ)、及び測定用治具(アジレント・テクノロジー株式会社製、商品名:16008B レジスティビティセル)を使用してタンタル酸リチウム単結晶基板の体積抵抗率を測定した。まず、タンタル酸リチウム単結晶基板を測定用治具にセットし、500Vの電圧を1分間印加し、タンタル酸リチウム単結晶基板の体積抵抗値を測定した。そして、得られた体積抵抗値からタンタル酸リチウム単結晶基板の体積抵抗率を算出した。結果を表2に示す。
【0037】
(L値)
熱処理タンタル酸リチウム単結晶基板のL値(黒:L=0,白:L=100)を分光色差計(日本電色工業(株)製NF555)を用いて測定した。結果を表2に示す。なお、タンタル酸リチウム単結晶基板の還元が不十分であると、タンタル酸リチウム単結晶基板は白っぽくなるので、L値は大きくなる。また、タンタル酸リチウム単結晶基板におけるL値と、体積抵抗率との関係を図4に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
炭酸リチウム粉末1及び2のBET比表面積は炭酸リチウム粉末3~6に比べ小さく、図1の吸着等温線からみても窒素ガスが吸着しにくいことが分かった。一方で、炭酸リチウム粉末3と、炭酸リチウム粉末5と、炭酸リチウム粉末6とでBET比表面積と吸着量がほぼ一定であった。炭酸リチウム粉末4は、炭酸リチウム粉末5及び炭酸リチウム粉末6よりもBET比表面積が小さくなることが分かった。
【0040】
図2より、絶対湿度と大気中に晒された時間の積(暴露湿度)の値が200(g/m)・hr以上であれば、BET比表面積を十分に回復させることが可能であることが分かった。さらに、暴露湿度の値が400(g/m)・hr以上であればBET比表面積を飽和比表面積に回復させることが可能で、その結果還元処理中のガス吸着量も一定に保つことが可能になることが分かった。炭酸リチウム粉末1及び炭酸リチウム粉末2のように200(g/m)・hr未満ではBET比表面積の回復が不十分なため、還元力のバラツキの原因になると考えられる。
【0041】
図2及び図3より、絶対湿度と大気中に晒された時間との積(暴露湿度)の値を調整することにより、炭酸リチウム粉末のBET比表面積及び吸着等温線の傾きを制御できることが分かった。そして、絶対湿度と大気中に晒された時間の積(暴露湿度)の値を200(g/m)・hr以上とすることにより、BET比表面積及び吸着等温線の傾きを十分に大きくできることが分かった。また、暴露湿度の値を400(g/m)・hr以上とすることにより、BET比表面積及び吸着等温線の傾きを、飽和する値くらいまで大きくできることが分かった。
【0042】
【表2】
【0043】
BET比表面積が0.13m/g以上である使用済みの炭酸リチウム粉末中に埋め込むと共に、常圧下、350℃以上、キュリー温度以下の温度で熱処理を行った実施例1~4のタンタル酸リチウム単結晶基板の体積抵抗率が1×1010Ω・cm以上、1×1012Ω・cm未満であった。また、実施例4のタンタル酸リチウム単結晶基板の体積抵抗率は、実施例1~3のタンタル酸リチウム単結晶基板の体積抵抗率に比べて低いにもかかわらず、実施例4のタンタル酸リチウム単結晶基板のL値は、実施例1~3のタンタル酸リチウム単結晶基板のL値よりも高かった。これは、実施例4のタンタル酸リチウム単結晶基板は、実施例1~3のタンタル酸リチウム単結晶基板に比べて、還元のバラツキが大きかったためであると考えられる。これより、使用済みの炭酸リチウム粉末のBET比表面積は、飽和比表面積まで回復させることが好ましいことが分かる。一方、BET比表面積が0.13m/g未満である使用済みの炭酸リチウム粉末中に埋め込むと共に、常圧下、350℃以上、キュリー温度以下の温度で熱処理を行った比較例1及び2のタンタル酸リチウム単結晶基板の体積抵抗率は1×1012Ω・cmよりも大きかった。
【0044】
図4より、タンタル酸リチウム単結晶基板の還元が不十分であると、タンタル酸リチウム単結晶基板の体積抵抗率が大きくなることが分かった。
図1
図2
図3
図4