(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】荷電粒子線絞りへの入射角調整機構、および荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/09 20060101AFI20230501BHJP
H01J 37/147 20060101ALI20230501BHJP
H01J 37/28 20060101ALN20230501BHJP
H01J 37/153 20060101ALN20230501BHJP
【FI】
H01J37/09 A
H01J37/147 B
H01J37/28 B
H01J37/153 B
(21)【出願番号】P 2021563531
(86)(22)【出願日】2019-12-12
(86)【国際出願番号】 JP2019048652
(87)【国際公開番号】W WO2021117182
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-06-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度国立研究開発法人科学技術振興機構 先端計測分析技術・機器開発プログラム「超汎用型SEM用球面収差(Cs)/色収差(Cc)補正器の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】本村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】野間口 恒典
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/186936(WO,A1)
【文献】特開2011-14299(JP,A)
【文献】特開平2-18845(JP,A)
【文献】特開2002-25488(JP,A)
【文献】実開昭47-31057(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線を発生させる荷電粒子線源と、
円環形状のスリットを有する第1の荷電粒子線絞りと、
前記第1の荷電粒子線絞りを保持する絞りホルダーと、
前記絞りホルダーを第1軸と前記第1軸と直交する第2軸で張られる平面上で移動させる絞り位置調整機構と、
前記荷電粒子線の前記第1の荷電粒子線絞りへの入射角度を調整する絞り傾斜機構とを有する荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記絞り傾斜機構は、前記第1軸を軸として前記絞りホルダーに保持された前記第1の荷電粒子線絞りを傾斜させる第1の絞り傾斜機構と、前記第2軸を軸として前記絞りホルダーに保持された前記第1の荷電粒子線絞りを傾斜させる第2の絞り傾斜機構とを含み、
前記第1の荷電粒子線絞りの中心は前記第1軸上に位置する荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記絞りホルダーは、円孔形状の開孔を有する第2の荷電粒子線絞りを保持し、
前記第1の荷電粒子線絞りの中心及び前記第2の荷電粒子線絞りの中心は、前記第1軸上に位置する荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記荷電粒子線を試料に集束する対物レンズと、
前記荷電粒子線が前記試料に照射されることにより放出された二次荷電粒子を検出する検出器と、
前記検出器で検出された二次荷電粒子に基づき画像を形成するコンピュータとを有し、
前記絞り傾斜機構は、前記荷電粒子線に前記第1の荷電粒子線絞りを通過させて取得した第1の画像の分解能が、前記荷電粒子線に前記第2の荷電粒子線絞りを通過させて取得した第2の画像の分解能と同等以上となるように調整される荷電粒子線装置。
【請求項5】
荷電粒子線を発生させる荷電粒子線源と、
円環形状のスリットを有する第1の荷電粒子線電極と、
前記第1の荷電粒子線電極と対向して配置され、円孔形状の開孔を有する第2の荷電粒子線電極と、
前記第1の荷電粒子線電極及び前記第2の荷電粒子線電極を保持する電極ホルダーと、
前記第1の荷電粒子線電極と前記第2の荷電粒子線電極との間に電圧を印加する電極電源と、
前記電極ホルダーを第1軸と前記第1軸と直交する第2軸で張られる平面上で移動させる電極位置調整機構と、
前記荷電粒子線の前記第1の荷電粒子線電極への入射角度を調整する電極傾斜機構とを有する荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記電極傾斜機構は、前記第1軸を軸として前記電極ホルダーに保持された前記第1の荷電粒子線電極及び前記第2の荷電粒子線電極を傾斜させる第1の電極傾斜機構と、前記第2軸を軸として前記電極ホルダーに保持された前記第1の荷電粒子線電極及び前記第2の荷電粒子線電極を傾斜させる第2の絞り傾斜機構とを含み、
前記第1の荷電粒子線電極の中心は前記第1軸上に位置する荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記電極ホルダーは、円孔形状の開孔を有する荷電粒子線絞りを保持し、
前記第1の荷電粒子線電極の中心及び前記荷電粒子線絞りの中心は、前記第1軸上に位置する荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記荷電粒子線を試料に集束する対物レンズと、
前記荷電粒子線が前記試料に照射されることにより放出された二次荷電粒子を検出する検出器と、
前記検出器で検出された二次荷電粒子に基づき画像を形成するコンピュータとを有し、
前記電極傾斜機構は、前記荷電粒子線に前記第1の荷電粒子線電極と前記第2の荷電粒子線電極との間に前記電極電源から所定の電圧を印加した状態で前記第1の荷電粒子線電極及び前記第2の荷電粒子線電極を通過させて取得した第1の画像の分解能が、前記荷電粒子線に前記荷電粒子線絞りを通過させて取得した第2の画像の分解能に基づく期待値と同等以上となるように調整される荷電粒子線装置。
【請求項9】
荷電粒子線を発生させる荷電粒子線源と、
円環形状のスリットを有する第1の荷電粒子線絞りと、
前記第1の荷電粒子線絞りを保持する絞りホルダーと、
前記絞りホルダーを第1軸と前記第1軸と直交する第2軸で張られる平面上で移動させる絞り位置調整機構と、
前記第1の荷電粒子線絞りに入射する前記荷電粒子線を偏向させる第1の偏向器群と、
前記第1の偏向器群により前記荷電粒子線を偏向させることにより、前記第1の荷電粒子線絞りへの入射角度を調整する荷電粒子線装置。
【請求項10】
請求項9の荷電粒子線装置において、
前記第1の荷電粒子線絞りを通過した前記荷電粒子線を偏向させる第2の偏向器群と、
前記第1の偏向器群による前記荷電粒子線の偏向量と前記第2の偏向器群による前記荷電粒子線の偏向量とは等しく、かつ互いの偏向方向が逆方向とされる荷電粒子線装置。
【請求項11】
請求項10において、
前記絞りホルダーは、円孔形状の開孔を有する第2の荷電粒子線絞りを保持し、
前記第1の荷電粒子線絞りの中心及び前記第2の荷電粒子線絞りの中心は、前記第1軸上に位置する荷電粒子線装置。
【請求項12】
請求項11において、
前記荷電粒子線を試料に集束する対物レンズと、
前記荷電粒子線が前記試料に照射されることにより放出された二次荷電粒子を検出する検出器と、
前記検出器で検出された二次荷電粒子に基づき画像を形成するコンピュータとを有し、
前記第1の偏向器群による前記荷電粒子線の偏向量及び前記第2の偏向器群による前記荷電粒子線の偏向量は、前記荷電粒子線に前記第1の荷電粒子線絞りを通過させて取得した第1の画像の分解能が、前記荷電粒子線に前記第2の荷電粒子線絞りを通過させて取得した第2の画像の分解能と同等以上となるように調整される荷電粒子線装置。
【請求項13】
荷電粒子線を発生させる荷電粒子線源と、
円環形状のスリットを有する第1の荷電粒子線電極と、
前記第1の荷電粒子線電極と対向して配置され、円孔形状の開孔を有する第2の荷電粒子線電極と、
前記第1の荷電粒子線電極及び前記第2の荷電粒子線電極を保持する電極ホルダーと、
前記第1の荷電粒子線電極と前記第2の荷電粒子線電極との間に電圧を印加する電極電源と、
前記電極ホルダーを第1軸と前記第1軸と直交する第2軸で張られる平面上で移動させる電極位置調整機構と、
前記第1の荷電粒子線電極に入射する前記荷電粒子線を偏向させる第1の偏向器群と、
前記第1の偏向器群により前記荷電粒子線を偏向させることにより、前記第1の荷電粒子線電極への入射角度を調整する荷電粒子線装置。
【請求項14】
請求項13の荷電粒子線装置において、
前記第1の荷電粒子線電極及び前記第2の荷電粒子線電極を通過した前記荷電粒子線を偏向させる第2の偏向器群と、
前記第1の偏向器群による前記荷電粒子線の偏向量と前記第2の偏向器群による前記荷電粒子線の偏向量とは等しく、かつ互いの偏向方向が逆方向とされる荷電粒子線装置。
【請求項15】
請求項14において、
前記電極ホルダーは、円孔形状の開孔を有する荷電粒子線絞りを保持し、
前記第1の荷電粒子線電極の中心及び前記荷電粒子線絞りの中心は、前記第1軸上に位置する荷電粒子線装置。
【請求項16】
請求項15において、
前記荷電粒子線を試料に集束する対物レンズと、
前記荷電粒子線が前記試料に照射されることにより放出された二次荷電粒子を検出する検出器と、
前記検出器で検出された二次荷電粒子に基づき画像を形成するコンピュータとを有し、
前記第1の偏向器群による前記荷電粒子線の偏向量及び前記第2の偏向器群による前記荷電粒子線の偏向量は、前記荷電粒子線に前記第1の荷電粒子線電極と前記第2の荷電粒子線電極との間に前記電極電源から所定の電圧を印加した状態で前記第1の荷電粒子線電極及び前記第2の荷電粒子線電極を通過させて取得した第1の画像の分解能が、前記荷電粒子線に前記荷電粒子線絞りを通過させて取得した第2の画像の分解能に基づく期待値と同等以上となるように調整される荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に荷電粒子線を照射する荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)や集束イオンビーム装置(FIB:Focused Ion Beam System)といった荷電粒子線装置は、荷電粒子線を試料に集束することで、ナノレベルの観察や解析、加工を行う。これら荷電粒子線装置は、ナノレベルの観察や解析、加工が求められる半導体分野や材料分野、バイオ分野で幅広く用いられている。そして、微細化が進む半導体分野を筆頭に、様々な分野で、さらなる像分解能の向上や加工精度の向上が求められている。
【0003】
特許文献1には、入射プレートと射出プレートとを有し、そのいずれか一方に円形開孔を形成し、他方に円環開孔を形成し、入射プレートと射出プレートとの間に電圧を加えることで円環開孔に形成される電場により正の球面収差を解消する発散をもたらすことにより、簡単な構造で実現可能な球面収差補正器が開示されている。また、非特許文献1には、円環形状の絞りを用いることで、焦点深度が向上されることが示されている。
【0004】
また、特許文献2には円環形状を有する荷電粒子線絞りを荷電粒子線装置の適切な位置に配置する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/174891号
【文献】国際公開第2019/186936号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Momoyo Enyama, Koichi Hamada, Muneyuki Fukuda and Hideyuki Kazumi, “Method of improving image sharpness for annular-illumination scanning electron microscopes,” Japanese Journal of Applied Physics 55, 06GD02 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
荷電粒子線装置の絞りとしては円孔形状の開孔を有するものが一般的であるが、円環形状の絞りについても知られている。非特許文献1には、円環形状の絞りを用いることで、焦点深度が向上されることが示されている。また、特許文献1には、円環形状の電極と円孔形状の電極とを組み合わせ、2つの電極間に電圧を印加することで球面収差補正効果を得ることが示されている。
【0008】
発明者らの検討において、荷電粒子線の光軸が円環形状のスリットを有する絞りあるいは電極の中心を通過するように配置しても、焦点深度の十分な向上、あるいは球面収差の解消が得られない場合があることが見出された。荷電粒子線装置における荷電粒子線は鉛直方向に延びる理想的な光軸に沿って進行するのではなく、実際には、荷電粒子線源から放出される一次電子の放出方向の光軸からのずれ、あるいはレンズなどの取り付けずれなどの影響により、光軸とずれた方向に進行している。これを光学系の偏向器等の作用により一次電子の軌道を補正することにより、上記のようなずれの影響を吸収している。したがって、荷電粒子線が円環形状のスリットを有する絞りあるいは電極の中心を通るように調整しても、絞りあるいは電極が形成されている平面に対して荷電粒子線が垂直入射していないことが普通に生じる。円環形状のスリットを有する絞りあるいは電極の場合、最もビーム密度の高い中心部は遮蔽され、ビーム密度の低い周辺部のみが円環スリットを通過する。このため、精確に垂直入射されていないと、円環スリットを通過する荷電粒子線の荷電粒子線密度が不均一になり、試料上の同じ場所に集束することができず、ビーム径が広がることによって所望の性能が得られなくなる。本発明は、焦点深度向上効果または球面収差補正効果を安定して得ることが可能な荷電粒子線装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
荷電粒子線装置に、荷電粒子線の円環形状のスリットを有する絞りまたは円環形状のスリットを有する電極への入射角度を調整する手段を設ける。
【発明の効果】
【0010】
円環形状のスリットを有する絞りまたは電極へ荷電粒子線が入射する入射角度をより垂直に近づけることができるため、焦点深度向上効果または球面収差補正効果を安定して得ることができる。
【0011】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2A】荷電粒子線絞りの構成を説明するための図である。
【
図2B】荷電粒子線絞りの構成を説明するための図である。
【
図2C】荷電粒子線絞りの構成を説明するための図である。
【
図3】円環形状のスリットを有する絞りへの荷電粒子線の入射角度の調整手順を示すフローチャートである。
【
図5A】荷電粒子線電極の構成を説明するための図である。
【
図5B】荷電粒子線電極の構成を説明するための図である。
【
図5C】荷電粒子線電極の構成を説明するための図である。
【
図5D】荷電粒子線電極の構成を説明するための図である。
【
図7】円環形状のスリットを有する電極への荷電粒子線の入射角度の調整手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態につき、図面を参照しながら説明する。ただし、本実施の形態は本発明を実現する一例に過ぎない。また、各図において共通の構成については同一の参照番号が付されている。
【実施例1】
【0014】
図1に実施例1に係る荷電粒子線装置の概略を示す。荷電粒子線装置はその主要部に、荷電粒子線を発生する荷電粒子線源101と、荷電粒子線源101から放出された荷電粒子線を加速する加速電極102と、加速電極102から対物レンズ105下端近傍にかけて配置されたビーム管112と、荷電粒子線源101から放出された荷電粒子線を集束する第1、第2のコンデンサーレンズ103, 104と、荷電粒子線源101から放出される荷電粒子の一部を遮蔽する円環形状のスリットを有する第1の荷電粒子線絞り118と、荷電粒子線源101から放出される荷電粒子の一部を遮蔽する円孔形状の開孔を有する第2の荷電粒子線絞り119と、第1及び第2の荷電粒子線絞り118, 119を保持する絞りホルダー120と、絞りホルダー120を傾斜させる絞り傾斜機構121と、絞りホルダー120を平行移動させる絞り位置調整機構122と、荷電粒子線絞りよりも荷電粒子線源101側に配置される第1の偏向器群140と、荷電粒子線絞りよりも試料側に配置される第2の偏向器群141と、試料上で荷電粒子線を走査する第3の偏向器群142と、荷電粒子線を試料に集束する対物レンズ105と、試料114を配置する試料室115と、試料から放出された二次荷電粒子を検出する検出器116とを有している。また、前述した荷電粒子光学系の各構成要素を制御する制御器として、荷電粒子線源101を制御する荷電粒子線源制御器151と、加速電極102を制御する加速電極制御器152と、第1、第2のコンデンサーレンズ103, 104を制御する第1、第2のコンデンサーレンズ制御器153, 154と、絞り傾斜機構121を制御する絞り傾斜機構制御器156と、絞り位置調整機構122を制御する絞り位置調整機構制御器157と、第1の偏向器群140を制御する第1の偏向器群制御器161と、第2の偏向器群141を制御する第2の偏向器群制御器162と、第3の偏向器群142を制御する第3の偏向器群制御器163と、対物レンズ105を制御する対物レンズ制御器155と、検出器116を制御する検出器制御器168とを有している。これらの制御器は、荷電粒子線装置全体の動作の制御および荷電粒子線像の構築を行う統合コンピュータ170により制御される。統合コンピュータ170はコントローラ(キーボード、マウスなど)171、ディスプレイ172と接続されており、オペレータはコントローラ171から照射条件や荷電粒子線絞りの位置条件といった各種指示等を入力し、ディスプレイ172に取得した像や制御画面を表示させることができる。
【0015】
なお、
図1の例では、2つのコンデンサーレンズ103, 104を備えているが、対物レンズ105に入射する荷電粒子線をコントロールする目的においてコンデンサーレンズの数は問わない。対物レンズ105は、磁路の外に磁場を漏らさないタイプのレンズを備えているが、磁路の外に磁場を漏らすタイプのレンズでもよいし、磁場を漏らすタイプと漏らさないタイプの両方を備える複合対物レンズでもよい。また、コンデンサーレンズ103, 104および対物レンズ105は、前述した目的において、静電レンズでもよく、ブースター光学系やリターディング光学系などのように磁場レンズと静電レンズを併用する対物レンズでもよく、試料114に荷電粒子線を集束する目的においてレンズのタイプは問わない。
【0016】
また、二次荷電粒子を検出する検出器116は、
図1のように試料室115に配置されてもよいし、荷電粒子光学系が実装されるカラム内に配置されてもよい。また、試料室115とカラム内との両方に配置されてもよい。二次荷電粒子を検出する目的において、その数と配置場所は問わない。また、
図1は、荷電粒子線カラムを1つ備える荷電粒子線装置であるが、複数の荷電粒子線カラムを備える複合荷電粒子線装置でも構わない。
【0017】
図2A~Cを用いて荷電粒子線絞りの構成について説明する。
図2Aは、1枚のプレート180上に第1の荷電粒子線絞り118と第2の荷電粒子線絞り119が形成され、プレート180が絞りホルダー120により保持された状態を示している。
図2Aには、上面図及び上面図中のA-A線に沿った断面図を示している。プレート180は押さえ板182により絞りホルダー120に固定されている。
【0018】
なお、第1の荷電粒子線絞り118と第2の荷電粒子線絞り119とは、それぞれ別のプレートに形成されてもよい。また、第1の荷電粒子線絞り118の円環中心部は3本の支持部で支持されているが、支持部の本数は問わない。また、第1の荷電粒子線絞り118と第2の荷電粒子線絞り119はそれぞれ1つ以上有していれば、その数は問わない。プレート180は、荷電粒子線の照射による帯電を抑制するため、Pt等の化学的に不活性な導電体で覆われている。
【0019】
図2Bに示されるように、絞りホルダー120は支持部材183を介して、絞り傾斜機構121に接続される。ここで、光軸に平行な方向をZ方向とし、Z方向に垂直な平面をXY平面とする。また、XY平面は第1の荷電粒子線絞り118の中心と第2の荷電粒子線絞り119の中心を通るX軸と、X軸と垂直なY軸とにより張られる平面とする。
図2Bの例では、絞り傾斜機構121は、支持部材183を軸としてプレート180を傾斜させる。すなわち、第1の荷電粒子線絞り118及び第2の荷電粒子線絞り119は、X軸を軸として傾斜する。
図2Bの構成では傾斜軸(X軸)が1本であるのに対し、
図2Cの構成では2本の傾斜軸(X軸、Y軸)を有する。これにより、より精密な傾斜制御が可能になる。第1の絞り傾斜機構121aは、X軸を軸として第1の荷電粒子線絞り118及び第2の荷電粒子線絞り119を傾斜させ、第2の絞り傾斜機構121bは、Y軸を軸として第1の荷電粒子線絞り118及び第2の荷電粒子線絞り119を傾斜させる。
【0020】
さらに、絞り傾斜機構121(121a)は
図2Cに示されるように、絞り位置調整機構122と接続されている。絞り位置調整機構122により、プレート180は平行移動することが可能である。図に示すように、平行移動可能な方向は2方向以上が好ましい(この例では、X軸方向及びY軸方向)。絞り傾斜機構121及び絞り位置調整機構122は、手動による駆動でもよいし、ステッピングモータやピエゾ素子を備えた電動駆動でもよい。
【0021】
円環形状のスリットを有する荷電粒子線絞りの調整方法について説明する。本実施の形態においては、まず、円孔形状の開孔を有する第2の荷電粒子線絞り119に対して、荷電粒子線の光軸調整を含む荷電粒子線像を取得するために必要な調整を行う。円孔形状の開孔の絞りは荷電粒子線絞りの一般的な形状であるから、この調整は一般的な荷電粒子線装置でユーザーが通常行う操作である。次に、円孔形状の開孔を有する第2の荷電粒子線絞り119から、円環形状のスリットを有する第1の荷電粒子線絞り118に変更する。このとき、第1の荷電粒子線絞り118を第2の荷電粒子線絞り119が配置されていた位置に配置する。最後に、第1の荷電粒子線絞り118を配置して取得した画像と第2の荷電粒子線絞り119を配置して取得した画像との間で分解能を評価し、第1の荷電粒子線絞り118の傾きを調整する。具体的な調整手順を以下に説明する。これらの調整手順においては、統合コンピュータ170により荷電粒子光学系の各制御器が制御されて実施される。
【0022】
図3を用いて実施例1の荷電粒子線装置における絞りへの荷電粒子線の入射角度の調整手順を説明する。まず、円孔形状の開孔を有する第2の荷電粒子線絞り119を荷電粒子線の光軸近傍に移動する(ステップS31)。対物レンズ105の励磁を周期的に変動させながら、第3の偏向器群142により試料上で荷電粒子線を走査する(ステップS32)。その際、光軸が対物レンズ105の中心を通過していない場合には、表示される画像の中心が対物レンズ105の励磁変動に同期して移動する。そこで、荷電粒子線絞りより試料側に配置された第2の偏向器群141を用いて、画像の移動が停止するように荷電粒子線の経路を調整する(ステップS33)。画像の移動が停止した状態は、荷電粒子線が対物レンズ105の中心を通過していることに相当する。以上の手順は、一般的な荷電粒子線装置において実施される光学軸調整である。光学軸調整が終了後、第3の偏向器群142により試料上で荷電粒子線を走査し、画像を取得する(ステップS34)。
【0023】
次に、円環形状のスリットを有する第1の荷電粒子線絞り118を光軸近傍に移動する(ステップS35)。ステップS32と同様に、対物レンズ105の励磁を周期的に変動させながら、試料上で荷電粒子線を走査する(ステップS36)。画像の移動が停止するように、絞り位置調整機構122を用いて第1の荷電粒子線絞り118の位置を調整する(ステップS37)。これは、第2の荷電粒子線絞り119が挿入されていた状態における荷電粒子線の光軸が、第1の荷電粒子線絞り118の中心を通過するよう調整されたことに相当する。その後、ステップS34と同様に、画像を取得する(ステップS38)。
【0024】
なお、前述したステップS32およびS36において、対物レンズ105の励磁を周期的に変化させる代わりに、加速電極制御器152により、荷電粒子線の加速電圧を周期的に変化させることで、同様の調整を行うこともできる(ステップS32aおよびS36a)。
【0025】
その後、ステップS34とステップS38で取得した画像の分解能を比較する(ステップS39)。ステップS38で取得した画像の分解能が、ステップS34で取得した画像の分解能と同等以上の場合には、調整を終了する。これに対して、同等未満の場合には、第3の偏向器群で試料上を走査しながら、絞り傾斜機構121を用いて第1の荷電粒子線絞り118の傾斜角度を調整する(ステップS40)。その後、ステップS36(S36a)以下のステップを必要に応じて繰り返し実行し、ステップS38で取得した画像の分解能が、ステップS34で取得した画像の分解能と同等以上の場合には、調整を終了する。分解能の向上は、荷電粒子線の第1の荷電粒子線絞り118への入射角度が調整され、荷電粒子線の光軸と第1の荷電粒子線絞り118との垂直性が向上したことによる。
【0026】
なお、荷電粒子線絞りの傾き調整は荷電粒子線装置の据え付け時、その後は荷電粒子線源101の交換の度に1度行えばよい。荷電粒子線源を交換する際、交換前の荷電粒子線源と荷電粒子線の放出方向を完全に一致させることはできないためである。
【0027】
このように、円環形状のスリットを有する絞りの傾斜を調整することで、荷電粒子線の光軸を絞りの中心に対して垂直に入射させることができる。これにより、円環スリットを通過する荷電粒子線の密度が均一になり、絞りにおいてスリットで分割された荷電粒子線は試料上の同じ場所に集束する。これにより、円環形状のスリットを有する絞りによる焦点深度向上効果を安定して得ることができる。
【実施例2】
【0028】
図4に実施例2に係る荷電粒子線装置の概略を示す。なお、実施例1に係る荷電粒子線装置と共通の構成については同じ符号を付して示すとともに、重複する説明については省略する。実施例2に係る荷電粒子線装置においては、円環形状のスリットを有する第1の荷電粒子線電極401、円孔形状の開孔を有する第2の荷電粒子線電極402、第1の荷電粒子線電極401と第2の荷電粒子線電極402とを電気的に絶縁するための絶縁部材403、及び円孔形状の開孔を有する荷電粒子線絞り404が電極ホルダー405に保持されている。第1の荷電粒子線電極401は実施例1の第1の荷電粒子線絞り118と、第2の荷電粒子線電極402及び荷電粒子線絞り404は実施例1の第2の荷電粒子線絞り119と、素子としては同じ構造を有している。また、第2の荷電粒子線電極402に電圧を印加するための電極電源410と、電極電源410を制御する電極電源制御器431を備える。
【0029】
なお、
図4の例では、第1の荷電粒子線電極401がビーム管112と電気的につながり、第2の荷電粒子線電極402に異なる電圧が印加される構成となっているが、第2の荷電粒子線電極402がビーム管112と電気的につながり、第1の荷電粒子線電極401に異なる電圧が印加される構成でも構わないし、第1の荷電粒子線電極401と第2の荷電粒子線電極402ともに、ビーム管112と異なる電圧が印加できる構成としてもよい。この場合、第1の荷電粒子線電極401と第2の荷電粒子線電極402のそれぞれに、電圧が印加するための電源を設ける。
【0030】
図5A~Dを用いて荷電粒子線電極の構成について説明する。
図5Aには電極ホルダーの上面図、
図5Bには
図5AのB-B線に沿った断面図を示している。電極ホルダー405には、第1、第2の荷電粒子線電極401, 402が収納された電極ユニット501aと荷電粒子線絞り404が収納された電極ユニット501bとが電極ホルダー405に保持されている。電極ホルダー405が保持する電極ユニットの数は2以上であってもよい。
【0031】
図5Bに、電極ユニット501bが、電極ホルダー405に固定された状態を示している。電極ユニット501は、押さえ板406を介して押さえネジ516により電極ホルダー405に固定されており、ユニット単位で電極ホルダー405に着脱可能である。ユニット単位で交換可能な構成とすることで、荷電粒子線電極または荷電粒子線絞りが汚染された場合の交換や、ユーザーが複数の荷電粒子線電極の組み合わせを望んだ場合の交換が容易になる。
【0032】
電極ユニットの構成について説明する。荷電粒子線電極が収納される電極ユニット501aは、電極ホルダー405の電極ユニットを保持する孔に応じた外径を有する円筒状の絶縁ケース515内に、下から順に、下段スペーサ513、第1の荷電粒子線電極401、中段スペーサ512、絶縁部材403、上段スペーサ511、第2の荷電粒子線電極402、電極押さえ514の順に配置されている。絶縁部材403は、帯電を防ぐために荷電粒子線の経路から見えないように配置することが望ましい。そこで、
図5Bに示すように、絶縁部材403は内径が小さい上段スペーサ511と内径が大きい中段スペーサ512との間に配置され、荷電粒子線は上段スペーサ511の開口部を通過する。絶縁部材403の側面は上段スペーサ511の内壁によって覆われ、絶縁部材403は荷電粒子線の経路から見えなくされている。
【0033】
スペーサ511~513、電極401, 402、電極押さえ514は導電体であり、第1の荷電粒子線電極401は、下段スペーサ513を介して電極ホルダー405に電気的に接続され、電極ホルダー405がビーム管112と電気的に接続されることにより、第1の荷電粒子線電極401はビーム管112と等電位(接地電位)とされる。一方、第2の荷電粒子線電極402は電極押さえ514を介して、電極電源410と接続され、電極電源410が発生させる電圧が印加される。
【0034】
荷電粒子線絞り404が収納される電極ユニット501bも、電極ユニット501aと同様の構成とする。すなわち、絶縁ケース515内に、下から順に、下段スペーサ513、荷電粒子線絞り404、中段スペーサ512、絶縁部材403、上段スペーサ511、電極押さえ514の順に配置されている。
【0035】
図5Cに示されるように、電極ホルダー405は支持部材521を介して、電極傾斜機構421に接続される。ここで、光軸に平行な方向をZ方向とし、Z方向に垂直な平面をXY平面とする。また、XY平面は第1の荷電粒子線電極401の中心と荷電粒子線絞り404の中心を通るX軸と、X軸と垂直なY軸とにより張られる平面とする。
図5Cの例では、電極傾斜機構421は、支持部材521を軸として電極ホルダー405を傾斜させる。すなわち、電極ユニット501a及び電極ユニット501bは、X軸を軸として傾斜する。
図5Cの構成では傾斜軸(X軸)が1本であるのに対し、
図5Dの構成では2本の傾斜軸(X軸、Y軸)を有する。これにより、より精密な傾斜制御が可能になる。第1の電極傾斜機構421aは、X軸を軸として電極ユニット501a, 501bを傾斜させ、第2の電極傾斜機構421bは、Y軸を軸として電極ユニット501a, 501bを傾斜させる。
【0036】
さらに、電極傾斜機構421(421a)は
図5Dに示されるように、電極位置調整機構422と接続されている。電極位置調整機構422により、電極ホルダー405は平行移動することが可能である。図に示すように、平行移動可能な方向は2方向以上が好ましい(この例では、X軸方向及びY軸方向)。電極傾斜機構421及び電極位置調整機構422は、手動による駆動でもよいし、ステッピングモータやピエゾ素子を備えた電動駆動でもよい。電極傾斜機構421は電極傾斜機構制御器432により、電極位置調整機構422は電極位置調整機構制御器433により制御される。
【0037】
実施例2の荷電粒子線装置における第1の荷電粒子線電極401への荷電粒子線の入射角度の調整手順は実施例1における絞りへの荷電粒子線の入射角度の調整手順と同様である。このため、相違点についてのみ説明を加える。ステップS31においては、荷電粒子線絞り404を光軸近傍に移動し、ステップS35においては、荷電粒子線電極401, 402を光軸近傍に移動する。また、以降の調整は荷電粒子線の収差を補正するため第1の荷電粒子線電極401と第2の荷電粒子線電極402との間に所定の電圧を印加した状態で行う。したがって、ステップS39で比較する画像は、ステップS34で取得した収差補正前である画像とステップS38で取得した荷電粒子線電極による収差補正後の画像である。このため、ステップS39においては、収差補正前に取得した画像の分解能に対して、収差補正により期待される向上分を加えた分解能の期待値以上であるか否かで、電極ホルダーの傾き調整を行い、荷電粒子線の第1の荷電粒子線電極401への入射角度を調整するか否かを判断する。
【0038】
なお、荷電粒子線電極の傾き調整は荷電粒子線装置の据え付け時、その後は荷電粒子線源101の交換の度に1度行えばよい。荷電粒子線源を交換する際、交換前の荷電粒子線源と荷電粒子線の放出方向を完全に一致させることはできないためである。
【0039】
このように、円環形状のスリットを有する電極の傾斜を調整することで、荷電粒子線の光軸を電極の中心に対して垂直に入射させることができる。これにより、円環スリットを通過する荷電粒子線の密度が均一になり、電極においてスリットで分割された荷電粒子線に与えられる補正作用も均一となる。これにより、円環形状のスリットを有する電極による球面収差補正効果を安定して得ることができる。
【実施例3】
【0040】
図6に実施例3に係る荷電粒子線装置の概略を示す。なお、実施例2に係る荷電粒子線装置と共通の構成については同じ符号を付して示すとともに、重複する説明については省略する。実施例3に係る荷電粒子線装置においては、電極傾斜機構421に代えて、荷電粒子線電極より荷電粒子線源101側に配置され荷電粒子線電極に入射する荷電粒子線の角度を変える第1の補正用偏向器群601と荷電粒子線電極を通過した荷電粒子線の角度を変える第2の補正用偏向器群602とを備える。第1、第2の補正用偏向器群601, 602はそれぞれ第1、第2の補正用偏向器群制御器611, 612によって制御される。第1の補正用偏向器群601と第2の補正用偏向器群602とは偏向量が等しく、かつ互いに逆方向に荷電粒子線を偏向するように調整される。なお、第1、第2の補正用偏向器群601, 602は、電場を用いたものでも、磁場を用いたものであってもよい。
【0041】
図7を用いて実施例3の荷電粒子線装置における円環形状のスリットを有する電極への荷電粒子線の入射角度の調整手順について説明する。ステップS71からステップS74までは、
図3に示す実施例1または実施例2におけるステップS31からステップS34までと同様に実施する。次に、第1、第2の補正用偏向器群制御器611, 612を用いて、第1の補正用偏向器群601と第2の補正用偏向器群602による荷電粒子線の偏向量及び偏向の向きを調整する(ステップS75)。
【0042】
補正用偏向器群の調整方法について説明する。まず、第1の偏向器群140により荷電粒子線を走査させる。荷電粒子線が荷電粒子線絞り404上で走査されることにより、ディスプレイ172に円形の荷電粒子線像が表示される。この状態で第1の補正用偏向器群601の上段偏向器601aを用いて荷電粒子線を偏向する。これにより、円形の荷電粒子線像の位置が移動するため、偏向前の位置に戻るように下段偏向器601bを用いて荷電粒子線を偏向させる。こうして、第1の補正用偏向器群601の上下段偏向比を決定する。続いて、対物レンズ105の励磁を周期的に変動させながら、第3の偏向器群142を用いて試料上で荷電粒子線を走査させる。このとき、光軸が対物レンズの中心を通過していない場合には、ディスプレイ172に表示される画像の中心は対物レンズ105の励磁変動に同期して移動する。そこで、第2の補正用偏向器群602を用いて画像の移動が停止するように荷電粒子線の経路を調整する。このとき、第2の補正用偏向器群602の上下段偏向比は、第1の補正用偏向器群601の上下段偏向比と等しく設定する。画像の移動が停止したときの第1の補正用偏向器群601と第2の補正用偏向器群602の出力比において、第1の補正用偏向器群601と第2の補正用偏向器群602とは偏向量が等しく、かつ互いに逆方向に荷電粒子線を偏向するよう調整されている。なお、対物レンズ105の励磁を周期的に変動させる代わりに、荷電粒子線の加速電圧を周期的に変化させてもよい。
【0043】
なお、
図6では補正用偏向器群がそれぞれ上下2段の偏向器で構成される例を示したが、それぞれ1段の偏向器で構成されていてもよい。この場合の調整方法について説明する。まず、第1の偏向器群140により荷電粒子線を走査させる。荷電粒子線が荷電粒子線絞り404上で走査されることにより、ディスプレイ172に円形の荷電粒子線像が表示される。この状態で第1の補正用偏向器群601を用いて荷電粒子線を偏向させる。このとき、円形の荷電粒子線像が暗くなった場合には、荷電粒子線像が最も明るくなるように、電極位置調整機構422により荷電粒子線絞り404の位置を調整する。続いて、対物レンズ105の励磁を周期的に変動させながら、第3の偏向器群142を用いて試料上で荷電粒子線を走査させる。このとき、光軸が対物レンズの中心を通過していない場合には、ディスプレイ172に表示される画像の中心は対物レンズ105の励磁変動に同期して移動する。そこで、第2の補正用偏向器群602を用いて画像の移動が停止するように荷電粒子線の経路を調整する。画像の移動が停止したときの第1の補正用偏向器群601と第2の補正用偏向器群602の出力比において、第1の補正用偏向器群601と第2の補正用偏向器群602とは偏向量が等しく、かつ互いに逆方向に荷電粒子線を偏向するよう調整されている。なお、対物レンズ105の励磁を周期的に変動させる代わりに、荷電粒子線の加速電圧を周期的に変化させてもよい。
【0044】
ステップS76からステップS79までは、実施例2におけるステップS35からステップS38までと同様に実施する。その結果、ステップS80において、ステップS79で取得した画像の分解能が、ステップS74で取得した画像の分解能に収差補正により期待される向上分を加えた分解能の期待値未満の場合は、第1、第2の補正用偏向器群601, 602を用いて画像の分解能が向上するように第1の荷電粒子線電極401に対する荷電粒子線の入射角度を調整する(ステップS81)。この調整において、第1の補正用偏向器群601と第2の補正用偏向器群602の出力比は、ステップS75において調整した出力比を維持する。これにより、荷電粒子線の傾きが変更された場合でも、荷電粒子線は対物レンズの中心を通過することになる。
【0045】
その後、ステップS77(S77a)以下のステップを必要に応じて繰り返し実行し、ステップS79で取得した画像の分解能が、画像の分解能の期待値と同等以上の場合には、調整を終了する。分解能の向上は、荷電粒子線の光軸と第1の荷電粒子線電極401との垂直性が向上したことによる。
【0046】
本実施例においては、円環形状のスリットを有する電極への荷電粒子線の入射角度を調整することで、荷電粒子線の光軸を電極の中心に対して垂直に入射させることができる。これにより、円環スリットを通過する荷電粒子線の密度が均一になり、電極においてスリットで分割された荷電粒子線に与えられる補正作用も均一となる。これにより、円環形状のスリットを有する電極による球面収差補正効果を安定して得ることができる。
【0047】
なお、荷電粒子線の荷電粒子線電極への入射角度調整は荷電粒子線装置の据え付け時、その後は荷電粒子線源101の交換の度に1度行えばよい。荷電粒子線源を交換する際、交換前の荷電粒子線源と荷電粒子線の放出方向を完全に一致させることはできないためである。
【0048】
なお、実施例1の構成に対して、荷電粒子線の光軸と第1の荷電粒子線絞り118との垂直性を向上させるため、実施例3の第1の補正用偏向器群601と第2の補正用偏向器群602とを用いて、荷電粒子線の第1の荷電粒子線絞り118への入射角度を調整することも可能である。この場合、実施例1と同様に、円環形状のスリットを有する絞りによる焦点深度向上効果を安定して得ることができる。
【符号の説明】
【0049】
101:荷電粒子線源、102:加速電極、103:第1のコンデンサーレンズ、104:第2のコンデンサーレンズ、105:対物レンズ、112:ビーム管、114:試料、115:試料室、116:検出器、118:第1の荷電粒子線絞り、119:第2の荷電粒子線絞り、120:絞りホルダー、121:絞り傾斜機構、122:絞り位置調整機構、140:第1の偏向器群、141:第2の偏向器群、142:第3の偏向器群、151:荷電粒子線源制御器、152:加速電極制御器、153:第1のコンデンサーレンズ制御器、154:第2のコンデンサーレンズ制御器、155:対物レンズ制御器、156:絞り傾斜機構制御器、157:絞り位置調整機構制御器、161:第1の偏向器群制御器、162:第2の偏向器群制御器、163:第3の偏向器群制御器、168:検出器制御器、170:統合コンピュータ、171:コントローラ、172:ディスプレイ、180:プレート、182:押さえ板、183:支持部材、401:第1の荷電粒子線電極、402:第2の荷電粒子線電極、403:絶縁部材、404:荷電粒子線絞り、405:電極ホルダー、406:押さえ板、410:電極電源、421:電極傾斜機構、422:電極位置調整機構、431:電極電源制御器、432:電極傾斜機構制御器、433:電極位置調整機構制御器、501:電極ユニット、511:上段スペーサ、512:中段スペーサ、513:下段スペーサ、514:電極押さえ、515:絶縁ケース、516:押さえネジ、601:第1の補正用偏向器群、602:第2の補正用偏向器群、611:第1の補正用偏向器群制御器、612:第2の補正用偏向器群制御器。