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  • 特許-タンタル酸リチウム単結晶の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】タンタル酸リチウム単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/30 20060101AFI20230502BHJP
   C30B 15/20 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
C30B29/30 B
C30B15/20
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019154585
(22)【出願日】2019-08-27
(65)【公開番号】P2021031341
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095223
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 章三
(74)【代理人】
【識別番号】100085040
【弁理士】
【氏名又は名称】小泉 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】辰宮 一樹
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-2507(JP,A)
【文献】特開2017-186188(JP,A)
【文献】特開2018-118885(JP,A)
【文献】特開2019-52066(JP,A)
【文献】特開2019-94251(JP,A)
【文献】特開2004-262723(JP,A)
【文献】特開2000-344595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/30
C30B 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の構造を有する単結晶育成炉の内部に配置された金属製ルツボにタンタル酸リチウム原料粉末を充填し、該金属製ルツボを加熱して得られるタンタル酸リチウム原料融液に種結晶を接触させ、該種結晶を回転させながら引上げて肩部とこれに続く直胴部を育成するチョクラルスキー法によるタンタル酸リチウム単結晶の製造方法において、
内径800mmφの大型単結晶育成炉を用い、内径が170mmφの金属製ルツボを用いると共に、結晶育成開始時におけるタンタル酸リチウム原料融液の高さが上記金属製ルツボの底部から125mm以上130mm以下の範囲となるようにタンタル酸リチウム原料粉末を金属製ルツボに充填して上記直胴部直径が4インチφのタンタル酸リチウム単結晶を育成することを特徴とするタンタル酸リチウム単結晶の製造方法。
【請求項2】
上記金属製ルツボがイリジウムルツボであることを特徴とする請求項1に記載のタンタル酸リチウム単結晶の製造方法。
【請求項3】
上記直胴部の長さが120mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のタンタル酸リチウム単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー(以下、Czと略称する場合がある)法によるタンタル酸リチウム単結晶の製造方法に係り、特に、結晶育成中におけるリネージ(転位の集合体、小傾角粒界)の発生を抑制できるタンタル酸リチウム単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンタル酸リチウム(以下、LTと略称する場合がある)単結晶は、主にスマートフォンやタブレットといった移動体通信機器に搭載される表面弾性波素子(SAWフィルタ)の材料として用いられている。
【0003】
LT単結晶は、産業的にはCz法により製造されている。Cz法による結晶育成の流れとしては、高融点のイリジウムルツボを用い、五酸化タンタル(Ta25)粉末と炭酸リチウム(Li2CO3)粉末の混合粉末を反応させてLT粉末とした仮焼粉末を原料とし、該仮焼粉末をルツボ内に充填する。そして、窒素-酸素混合ガス雰囲気とした単結晶育成炉の中で上記仮焼粉末を融解させてLT原料融液とし、種結晶(LT単結晶)をLT原料融液に接触させ、温度勾配のついた雰囲気下で種結晶を回転させながら引上げて肩部とこれに続く直胴部を育成している。
【0004】
所望とする結晶径の単結晶を得るため、結晶育成は高い精度で制御されたシステムを使用して行われる。例えば、特許文献1には、引上げる結晶の重量を計測し、その単位時間あたりの変化量から所望とする形状の結晶となるようにルツボの加熱を自動制御しながら結晶育成を行う手法が記載されている。
【0005】
LT単結晶を育成する単結晶育成炉の一例を図1に示す。円筒状の構造を有する単結晶育成炉10の中央部に金属製のルツボ12が配置され、ルツボ12の外周および上方にはLT単結晶を育成するために適切な温度勾配を形成する耐火物14、19が配置されている。LT単結晶の育成後は、単結晶育成炉10内で所定の冷却速度で冷却され、単結晶育成炉10から取り出されて図2に示すようなLT単結晶が得られる。
【0006】
育成されたLT単結晶は無色透明若しくは透明感の高い淡黄色を呈している。育成後、結晶の熱応力による残留歪みを取り除くため、融点に近い均熱下で熱処理を行い、更に単一分極とするためのポーリング処理を行う。ポーリング処理後、結晶の外形を整えるために外周研削されたLT単結晶インゴットは、スライス、ラップ、ポリッシュ工程等の機械加工を経て基板状態に加工され、LT基板となる。
【0007】
上記方法により、内径が170mmφ、内高が170mmのイリジウムルツボを用い、図2に示す直胴部の直径が4インチφ、長さが90mmのLT単結晶を育成して、現在の主流である4インチφLT基板を安定的に生産している。尚、直胴部直径が4インチφのLT単結晶を育成する場合、従来、内径600mmφの単結晶育成炉が用いられている。
【0008】
近年、LT基板の大型化が進み、6インチφLT基板の需要が増えてきたが、6インチφ基板を得るための大口径化されたLT単結晶を育成するには、イリジウムルツボやワークコイル、耐火物等を合わせて大型化する必要があり、かつ、単結晶育成炉も内径800mmφの大型育成炉が用いられていた。
【0009】
ところで、4インチφLT基板用のLT単結晶と6インチφLT基板用のLT単結晶を育成するために内径の異なる単結晶育成炉をそれぞれ準備するよりも、6インチφLT基板用のLT単結晶を育成する内径800mmφの大型単結晶育成炉を用いて4インチφLT基板用のLT単結晶を育成できることが生産効率の面から望ましい。
【0010】
しかし、内径800mmφの大型単結晶育成炉を用いて4インチφLT基板用のLT単結晶を育成する報告例はほとんどなかった。
【0011】
そこで、内径800mmφの大型単結晶育成炉を用いて4インチφLT基板用LT単結晶の育成を試みたところ、得られたLT単結晶には、肩部育成終了後、直胴部を育成している途中において多結晶化する現象が見られるようになった。この現象は、結晶育成中の固液界面形状の変化によるものと考えられる。内径800mmφの大型単結晶育成炉を用いて直胴部直径4インチφのLT単結晶を育成した場合、肩部育成終了時点において形成されていると推測される固液界面形状を図3に示す。このときの固液界面形状は、結晶外周部が融液に対し凹形状となり、結晶中央部が融液に対し凸形状となった、所謂、M字形固液界面形状が形成されていると考えられる。そして、融液に対し凹形状が形成された部分にはリネージ(転位の集合体、小傾角粒界)が集中して発生し易く、このような結晶欠陥に起因するクラックを発生させる恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開昭58-145692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、直胴部直径4インチφのLT単結晶を育成するために内径800mmφの大型単結晶育成炉を用いた場合においても、結晶育成条件を調整することによりリネージの発生を抑制できるLT単結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、上記課題を解決するため本発明者が鋭意検討を重ねた結果、融液内部における温度分布を制御し、固液界面形状を変化させることでリネージの発生を抑制したLT単結晶が育成される技術的着想を得るに至り、これを実現する手法として、ルツボ内に充填する原料融液の高さを従来条件よりも低くすることが有効であることを発見した。本発明はこのような技術的着想と発見により完成されたものである。
【0015】
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
円筒状の構造を有する単結晶育成炉の内部に配置された金属製ルツボにタンタル酸リチウム原料粉末を充填し、該金属製ルツボを加熱して得られるタンタル酸リチウム原料融液に種結晶を接触させ、該種結晶を回転させながら引上げて肩部とこれに続く直胴部を育成するチョクラルスキー法によるタンタル酸リチウム単結晶の製造方法において、
内径800mmφの大型単結晶育成炉を用い、内径が170mmφの金属製ルツボを用いると共に、結晶育成開始時におけるタンタル酸リチウム原料融液の高さが上記金属製ルツボの底部から125mm以上130mm以下の範囲となるようにタンタル酸リチウム原料粉末を金属製ルツボに充填して上記直胴部直径が4インチφのタンタル酸リチウム単結晶を育成することを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明に係る第2の発明は、
第1の発明に記載のタンタル酸リチウム単結晶の製造方法において、
上記金属製ルツボがイリジウムルツボであることを特徴とし、
第3の発明は、
第1の発明または第2の発明に記載のタンタル酸リチウム単結晶の製造方法において、
上記直胴部の長さが120mm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るタンタル酸リチウム単結晶の製造方法によれば、
内径800mmφの大型単結晶育成炉を用い、内径が170mmφの金属製ルツボを用いると共に、結晶育成開始時におけるタンタル酸リチウム原料融液の高さが金属製ルツボの底部から125mm以上130mm以下の範囲となるようにタンタル酸リチウム原料粉末を金属製ルツボに充填して結晶育成がなされるため、リネージの発生が抑制された直胴部直径4インチφのタンタル酸リチウム単結晶を育成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】LT単結晶を育成する単結晶育成炉の一例を示す構成説明図。
図2】Cz法で育成されたLT単結晶の肩部と直胴部を模式的に示す説明図。
図3】LT単結晶の育成過程におけるM字形固液界面形状(結晶外周部が融液に対し凹形状となり、結晶中央部が融液に対し凸形状となった固液界面形状)を示す説明図で、図3中の符号Lは結晶凸度を表す。
図4】LT単結晶の育成過程におけるV字形固液界面形状(結晶中央部のみが融液に対し凸形状となった固液界面形状)を示す説明図で、図4中の符号Lは結晶凸度を表す。
図5】固液界面形状が融液に対し凹形状の場合と凸形状の場合とで、LT単結晶中に導入された転位の伝播がどのように異なるのかを模式的に表した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0020】
[単結晶育成炉とLT単結晶育成方法の概要]
はじめに、チョクラルスキー(Cz)法による単結晶育成炉の構成例および単結晶育成方法の概要について説明する。
【0021】
図1は、高周波誘導加熱式単結晶育成炉10の概略構成を模式的に示した構成説明図である。高周波誘導加熱式単結晶育成の場合は、ワークコイル15によって形成される高周波磁場によりワークコイル15内に設置されている金属製ルツボ12の側壁に渦電流が発生し、その渦電流によってルツボ12自体が発熱体となり、ルツボ12内に充填されている原料の融解や結晶育成に必要な温度環境の形成を行う。
【0022】
図1に示すように、高周波誘導加熱式単結晶育成炉10は、チャンバー11内にルツボ12を配置する。ルツボ12はルツボ台13上に載置される。チャンバー11内には、ルツボ12の外周および上方に耐火材14、19が配置されている。ルツボ12を囲むようにワークコイル15が配置され、ワークコイル15が形成する高周波磁場によってルツボ12壁に渦電流が流れ、ルツボ12自体が発熱体となる。チャンバー11の上部にはシード棒16が回転可能かつ上下方向に移動可能に設けられている。シード棒16下端の先端部には、種結晶1を保持するためのシードホルダ17が取り付けられている。
【0023】
Cz法では、ルツボ12内の単結晶原料18の融液表面に種結晶1となる単結晶片を接触させ、この種結晶1をシード棒16により回転させながら上方に引上げることで種結晶1と同一方位の円筒状単結晶を育成する。
【0024】
種結晶1の回転速度や引上速度は、育成する結晶の種類、育成時の温度環境に依存し、これ等の条件に応じて適切に選定する必要がある。また、結晶育成に際しては、成長界面で融液の結晶化によって生じる固化潜熱を、種結晶を通して上方に逃がす必要があるため、成長界面から上方に向かって温度が低下する温度勾配下で行う必要がある。加えて、育成結晶の形状が曲がったり、捩れたりしないようにするため、原料融液内においても、成長界面からルツボ壁に向かって水平方向に、かつ、成長界面からルツボ底部に向かって垂直方向に温度が高くなる温度勾配下で行う必要がある。
【0025】
LT単結晶を育成する場合、LT結晶の融点が1650℃と高温であるため、融点がおよそ2460℃で化学的に安定なイリジウム製のルツボ(イリジウムルツボ)が用いられる。育成雰囲気には酸素が必要であるが、酸素濃度が高いとイリジウムルツボが酸化により損耗する恐れがあるため、酸素を数%含む不活性雰囲気とするのが一般的である。育成時の引上速度は、一般的には数mm/H程度、回転速度は数rpm程度とする。このような条件下で、所望の大きさまで結晶を育成した後、引上速度の変更や融液温度を徐々に高くする等の操作を行うことで、育成結晶を融液から切り離し、その後、単結晶育成炉の出力を所定の速度で低下させることで徐冷し、炉内温度が室温近傍となった後に単結晶育成炉内から結晶を取り出す。
【0026】
[固液界面形状と転位の伝播]
結晶育成においては、融液の固化に際して、固液界面近傍と結晶内部との間の温度差が生じさせる熱歪みにより結晶中に転位が導入され易い。導入された転位は結晶成長が進むにつれて、新たな固液界面に向かって伝播する性質を持っている。そして、伝播する方向は固液界面に対して垂直方向であることが知られている。図5は固液界面形状が融液に対して凹形状の場合と凸形状の場合とで、転位の伝播の様子がどのように異なるのかを示している。固液界面形状が融液に対して凹形状の場合、転位は結晶内部に残留するように伝播することが分かる。一方、固液界面形状が融液に対して凸形状の場合、転位は結晶外周側に向けて伝播するため、結晶成長を進めていくにつれて結晶内部の転位の数を減少させ、高品質な結晶を得ることができる。
【0027】
[内径600mmφの単結晶育成炉を用いて4インチφLT単結晶を育成した場合]
現在の主流である4インチφLT基板用のLT単結晶を育成する場合、上述したように内径が170mmφ、内高が170mmのイリジウムルツボを用い、かつ、内径600mmφの単結晶育成炉が用いられている。
【0028】
尚、図1に示すワークコイル15の内径は、内径170mmφのイリジウムルツボ12に対し310mmφに設定され、かつ、肩部育成終了時におけるワークコイル15の投入出力は15.9kWに設定されており、得られたLT単結晶には、肩部育成終了後、直胴部を育成している途中において多結晶化する現象は確認されていない。
【0029】
[内径800mmφの大型単結晶育成炉を用いて4インチφLT単結晶を育成した場合]
内径が170mmφ、内高が170mmのイリジウムルツボを用い、かつ、内径800mmφの大型単結晶育成炉を用いて4インチφLT基板用のLT単結晶を育成する場合、内径600mmφの単結晶育成炉を用いる場合に較べてチャンバー11内の隙間空間が大きくなるため、肩部育成終了時におけるワークコイル15の投入出力を20.2kWに増大させる必要があり、得られたLT単結晶には、肩部育成終了後、直胴部を育成している途中において多結晶化する上述の現象が確認されている。この現象は、肩部育成終了時点における固液界面形状が、図3の「M字形固液界面形状」になったためと考えられる。
【0030】
尚、ワークコイル15の内径は、内径600mmφの単結晶育成炉を用いる場合と同様、内径170mmφのイリジウムルツボ12に対し310mmφに設定されている。
【0031】
[結晶育成時における原料融液高さの調整]
そこで、固液界面形状と転位の伝播方向の関係性から、本発明者は、結晶育成中の固液界面形状が「M字形固液界面形状」から凸形状となるような結晶育成条件の検討を重ね、結晶育成開始時のルツボに充填するLT原料融液量を減らし、LT原料融液の高さを低く(浅く)することで課題を解決している。
【0032】
ルツボに充填したLT原料融液内部の温度分布は、ルツボ中心部から外周部に向かうにつれて、また、原料融液表面からルツボ底に向かうにつれて温度が高くなっている。このことから、LT原料融液の高さが深い場合にはルツボ底と原料融液表面の間に十分な温度差が生じており、急峻な温度勾配が存在していると考えられる。一方、原料融液の高さを低く(浅く)すると、ルツボ底と原料融液表面間の距離が縮まるため、原料融液内部の温度勾配を緩やかにする効果がある。温度勾配が緩やかになることで結晶凸部は成長し易くなり、固液界面は融液に対して凸形状(図4に示す「V字形固液界面形状」参照)を形成し易くなることが期待できる。
【0033】
具体的には、ルツボに充填したLT原料粉末の結晶育成開始時におけるLT原料融液の高さを125mm以上130mm以下とすることで、原料融液内部に適切な温度勾配が形成され、これにより結晶凸部の凸形状を維持した状態で結晶育成を行うことができるため、直胴部において多結晶化することなく4インチφLT単結晶を育成することが可能となる。但し、原料融液の高さが125mm未満である場合、結晶凸部の凸形状を維持した状態で結晶育成を行うことができるものの、成長した結晶凸部とルツボ底が接触することで結晶育成を継続することが困難になる。他方、原料融液の高さが130mmを超える場合、固液界面形状を「V字形固液界面形状」に形成することができず、得られる結晶が多結晶化する恐れがある。
【0034】
一例として、内径800mmφの大型単結晶育成炉を用いると共に、内径が170mmφで内高が170mmのルツボを用いかつ内高の93%に相当する158mmの高さまで原料融液を充填した場合(従来条件:肩部育成終了時におけるワークコイル15の投入出力は20.2kWに設定)、および、内径800mmφの大型単結晶育成炉を用いると共に、内径が170mmφで内高が136mmのルツボを用いかつ内高の93%に相当する126mmの高さまで原料融液を充填した場合(原料融液が少ない分、肩部育成終了時におけるワークコイル15の投入出力は12.7kWに設定)について、肩部まで成長させた時点で結晶育成を終了させ、それぞれの固液界面形状を比較した。
【0035】
原料融液の高さが158mmの場合、固液界面は図3の「M字形固液界面形状」になっており、図3に示す結晶凸度Lは10mmであった。一方、原料融液の高さが126mmの場合、固液界面は図4の「V字形固液界面形状」になっており、図4に示す結晶凸度Lは15mmに大きくなっていた。
【0036】
すなわち、原料融液の高さを調整することで、結晶の固液界面形状を「M字形固液界面形状」から「V字形固液界面形状」へ変化させられることを確認することができた。
【実施例
【0037】
以下、本発明の実施例について比較例も挙げて具体的に説明する。
【0038】
[実施例1]
内径が170mmφで内高が136mmのイリジウムルツボに、予め混合、仮焼したLT原料粉末16.5kgを充填し、イリジウムルツボの周囲を耐火物で覆った上で、内径800mmφの高周波誘導加熱式大型単結晶育成炉を用いてルツボを加熱することで原料粉末を加熱溶融し、LT原料融液を得た。
【0039】
尚、結晶育成開始時における原料融液の高さは126mmであった。また、結晶育成開始時における結晶(種結晶)の回転数を15.0rpm、肩部育成終了時における結晶(種結晶)の回転数を8.5rpmに設定した。
【0040】
上記条件で結晶育成を10回行い、直胴部の直径が4インチφ、直胴部の長さが100mmのLT単結晶を10本得ることができた。
【0041】
尚、ワークコイルの内径は、内径170mmφの上記イリジウムルツボに対し310mmφに設定され、肩部育成終了時におけるワークコイルの投入出力は12.7kWに設定されている。
【0042】
[実施例2]
内径が170mmφで内高が138mmのイリジウムルツボを用い、LT原料粉末16.7kgを充填してLT原料融液を得た以外は実施例1と同様の条件で結晶育成を行った。
【0043】
尚、結晶育成開始時における原料融液の高さは128mmであった。
【0044】
上記条件で結晶育成を5回行い、直胴部の直径が4インチφ、直胴部の長さが100mmのLT単結晶を4本得ることができた。
【0045】
[比較例1]
内径が170mmφで内高が170mmのイリジウムルツボを用い、LT原料粉末20.6kgを充填してLT原料融液を得ると共に、肩部育成終了時におけるワークコイルの投入出力が20.2kWに設定された以外は実施例1と同様の条件で結晶育成を行った。
【0046】
尚、結晶育成開始時における原料融液の高さは158mmであった。
【0047】
上記条件で結晶育成を19回行ったところ、直胴部の直径が4インチφ、直胴部の長さが120mmのLT単結晶を6本得ることができたが、残り13本はリネージを含む多結晶体であった。
【0048】
[比較例2]
内径が170mmφで内高が129mmのイリジウムルツボを用い、LT原料粉末15.6kgを充填してLT原料融液を得た以外は実施例1と同様の条件で結晶育成を行った。
【0049】
尚、結晶育成開始時における原料融液の高さは120mmであった。
【0050】
上記条件で結晶育成を4回行ったところ、全てリネージを含む多結晶体が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明方法によれば、内径800mmφの大型単結晶育成炉を用いた場合でもリネージの発生が抑制された直胴部直径4インチφのタンタル酸リチウム単結晶を育成できるため、SAWデバイス用の圧電基板に適用される産業上の利用可能性を有している。
【符号の説明】
【0052】
1 種結晶
10 単結晶育成炉
11 チャンバー
12 ルツボ
13 ルツボ台
14、19 耐火物
15 ワークコイル
16 シード棒
17 シードホルダ
18 単結晶原料
図1
図2
図3
図4
図5