(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】粉体、粉体塗料および積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/12 20060101AFI20230502BHJP
C09D 5/03 20060101ALI20230502BHJP
C09D 127/18 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
C08J3/12 CEW
C09D5/03
C09D127/18
(21)【出願番号】P 2019558285
(86)(22)【出願日】2018-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2018044974
(87)【国際公開番号】W WO2019112017
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2017235350
(32)【優先日】2017-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100173532
【氏名又は名称】井上 彰文
(72)【発明者】
【氏名】細田 朋也
(72)【発明者】
【氏名】諏佐 等
(72)【発明者】
【氏名】寺田 達也
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-534131(JP,A)
【文献】特開2015-134865(JP,A)
【文献】特開2006-206637(JP,A)
【文献】特開2017-122230(JP,A)
【文献】国際公開第2016/017801(WO,A1)
【文献】特表2008-525616(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B7/00-11/14
13/00-15/06
B29C31/00-31/10
37/00-37/04
71/00-71/02
C08J3/00-3/28
99/00
C09D1/00-10/00
101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレンに基づく単位を有し、融点が260~320℃であるフッ素ポリマーを含む樹脂粒子からなる粉体であって、
体積基準累積100%径が220μm以下であり、
体積基準累積10%径が4μm以下かつ体積基準累積50%径が15~60μmであり、
体積基準累積50%径をXとし、体積基準累積10%径をYとしたとき、Y/Xが0.3以下である、粉体。
【請求項2】
当該粉体中に含まれる粒子径が4μm以下の樹脂粒子の体積量をAとし、粒子径が15~60μmの樹脂粒子の体積量をBとしたとき、A/Bが
0.12以上である、請求項1に記載の粉体。
【請求項3】
当該粉体中に含まれる前記粒子径が4μm以下の樹脂粒子の量が、5~25体積%である、請求項1または2に記載の粉体。
【請求項4】
前記フッ素ポリマーは、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基およびイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の粉体。
【請求項5】
前記フッ素ポリマーが、前記テトラフルオロエチレンに基づく単位と、前記官能基を有する単位とを有する、請求項4に記載の粉体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の粉体を含む粉体塗料。
【請求項7】
前記粉体塗料中に含まれる前記粉体の量が90~100質量%である、請求項6に記載の粉体塗料。
【請求項8】
基材と、該基材上に設けられ、請求項1~5のいずれか1項に記載の粉体から形成されたフッ素樹脂層とを有する積層体の製造方法であって、
前記粉体を含む粉体塗料を前記基材上に供給し焼成して、前記フッ素樹脂層を得る、積層体の製造方法。
【請求項9】
前記粉体塗料の焼成を、前記フッ素ポリマーの融点以上に加熱して行う、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記フッ素樹脂層の厚さが50~750μmである、請求項8または9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小粒子を含む粉体、粉体塗料および積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロエチレンに基づく単位とペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位とを有するコポリマー(PFA)等のフッ素ポリマーは、摩擦係数が低く、非粘着性、耐薬品性、耐熱性等の特性に優れている。そのため、フッ素ポリマーは、食品工業用品、フライパンや鍋等の厨房器具、アイロン等の家庭用品、電気工業用品、機械工業用品等の表面加工に広く用いられている。
【0003】
特許文献1には、フッ素ポリマー粒子からなる粉体を含む粉体塗料を基材上に塗装し、焼成してフッ素樹脂層を形成して積層体を得る方法が開示されている。特許文献2には、基材への接着性に優れた粉体として、カルボニル基含有基等の官能基を有するフッ素ポリマー粒子からなる粉体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2011/048965号
【文献】国際公開第2016/017801号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、粉体を構成する樹脂粒子の粒子径を調整しないと、形成されるフッ素樹脂層の表面に凹凸が生じ易い。特に、高融点のフッ素ポリマーを含む樹脂粒子からなる粉体を焼成してフッ素樹脂層を形成する場合、かかる現象が顕著となることを、本発明者らは知見している。
本発明は、表面が平滑なフッ素樹脂層を容易に形成できる粉体、かかる粉体を含む粉体塗料、およびかかる粉体塗料を用いた積層体の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の態様を有する。
<1>テトラフルオロエチレンに基づく単位を有し、融点が260~320℃であるフッ素ポリマーを含む樹脂粒子からなる粉体であって、
体積基準累積50%径をXとし、体積基準累積10%径をYとしたとき、Y/Xが0.3以下である、粉体。
<2>体積基準累積10%径が4μm以下かつ体積基準累積50%径が15~60μmである、<1>の粉体。
<3>当該粉体中に含まれる粒子径が4μm以下の樹脂粒子の量をAとし、粒子径が15~60μmの樹脂粒子の量をBとしたとき、A/Bが0.1以上である、<2>の粉体。
<4>当該粉体中に含まれる前記粒子径が4μm以下の樹脂粒子の量が、5~25体積%である、<2>または<3>の粉体。
<5>体積基準累積100%径が220μm以下である、<1>~<4>のいずれかの粉体。
<6>前記フッ素ポリマーは、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基およびイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する、<1>~<5>のいずれかの粉体。
<7>前記フッ素ポリマーが、前記テトラフルオロエチレンに基づく単位と、前記官能基を有する単位とを有する、<6>の粉体。
<8>前記<1>~<7>のいずれかの粉体を含む粉体塗料。
<9>前記粉体塗料中に含まれる前記粉体の量が90~100質量%である、<8>の粉体塗料。
<10>基材と、該基材上に設けられ、<1>~<7>のいずれかの粉体から形成されたフッ素樹脂層とを有する積層体の製造方法であって、
前記粉体を含む粉体塗料を前記基材上に供給し焼成して、前記フッ素樹脂層を得る、積層体の製造方法。
<11>前記粉体塗料の焼成を、前記フッ素ポリマーの融点以上に加熱して行う、<10>の製造方法。
<12>前記フッ素樹脂層の厚さが50~750μmである、<10>または<11>の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、表面が平滑なフッ素樹脂層を容易に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の粉体を用いてフッ素樹脂層を形成する際の状態変化を説明するための図である。
【
図2】従来の粉体を用いてフッ素樹脂層を形成する際の状態変化を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「熱溶融性のポリマー」とは、荷重49Nの条件下、ポリマーの融点よりも20℃以上高い温度において、MFRが0.01~1000g/10分となる状態が存在するポリマーを意味する。
「ポリマーの融点」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定したポリマーの融解ピークの最大値に対応する温度を意味する。
「ポリマーのMFR」は、JIS K 7210-1:2014(対応国際規格ISO 1133-1:2011)に規定されるメルトマスフローレイトである。
「粉体の体積基準累積50%径(D50)」は、レーザー回折・散乱法によって粉体の粒度分布を測定し、粉体の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
同様に、「粉体の体積基準累積10%径(D10)」、「粉体の体積基準累積90%径(D90)」および「粉体の体積基準累積100%径(D100)」は、体積基準累積10%径、体積基準累積90%径および体積基準累積100%径(最大粒子径)である。
つまり、粉体のD10、D50、D90およびD100は、粉体を構成する粒子の体積基準累積10%径、体積基準累積50%径、体積基準累積90%径および体積基準累積100%径である。
「モノマーに基づく単位」は、モノマー1分子が重合して直接形成される原子団と、この原子団の一部を化学変換して得られる原子団との総称である。本明細書において、モノマーに基づく単位を、単に「単位」とも記す。
「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートの総称である。同様に、「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸とメタクリル酸の総称、「(メタ)アクリロイルオキシ基」はアクリロイルオキシ基とメタクリロイルオキシ基の総称である。
【0010】
本発明の粉体を構成する樹脂粒子は、テトラフルオロエチレンに基づく単位(以下、「TFE単位」とも記す。)を有し、融点が260~320℃であるフッ素ポリマー(以下、「Fポリマー」とも記す。)を含んでいる。
樹脂粒子中に含まれるFポリマーの量は、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。かかる量でFポリマーを含む樹脂粒子からなる粉体を用いれば、形成されるフッ素樹脂層(以下、「F樹脂層」とも記す。)の非粘着性、耐薬品性、耐熱性が向上する。Fポリマーは、2種以上を併用してもよい。
他のポリマーとしては、Fポリマー以外の他のフッ素ポリマー、芳香族ポリエステル、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミドが挙げられる。他のポリマーは、2種以上を併用してもよい。
【0011】
Fポリマーとしては、テトラフルオロエチレン-ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)コポリマー、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン-クロロトリフルオロエチレンコポリマー、これらにカルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基およびイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基(以下、「接着性基」とも記す。)が導入されたポリマー、変性ポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。なお、熱溶融性を示すのであれば、Fポリマーとして、ポリテトラフルオロエチレンも使用できる。
【0012】
変性ポリテトラフルオロエチレンとしては、(i)テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」とも記す。)と極微量のCH2=CH(CF2)4Fとのコポリマー、(ii)上記(i)のコポリマーと、さらに極微量の接着性基を有するモノマー(以下、「接着性モノマー」とも記す。)とのコポリマー、(iii)TFEと、極微量の接着性モノマーとのコポリマー、(iv)プラズマ処理等により接着性基が導入されたポリテトラフルオロエチレン、(v)プラズマ処理等により接着性基が導入された上記(i)のコポリマーが挙げられる。
【0013】
Fポリマーの融点は、260~320℃であり、280~320℃が好ましく、295~315℃がより好ましく、295~310℃がさらに好ましい。Fポリマーの融点が上記下限値以上であれば、F樹脂層の耐熱性が高まる。Fポリマーの融点が上記上限値以下であれば、Fポリマーの熱溶融性が向上する。
Fポリマーの融点は、Fポリマーを構成する単位の種類や割合、Fポリマーの分子量等によって調整できる。例えば、TFE単位の割合が多くなるほど、Fポリマーの融点が上昇する傾向がある。
【0014】
Fポリマーの融点よりも20℃以上高い温度におけるMFRは、0.1~1000g/10分が好ましく、0.5~100g/10分がより好ましく、1~30g/10分がさらに好ましく、5~20g/10分が特に好ましい。MFRが上記下限値以上であれば、Fポリマーの熱溶融性がより向上し、F樹脂層の外観が良好になる。MFRが上記上限値以下であれば、F樹脂層の機械的強度が高まる。
MFRは、Fポリマーの分子量の目安であり、MFRが大きいと分子量が小さく、MFRが小さいと分子量が大きいことを示す。FポリマーのMFRは、Fポリマーの製造条件によって調整できる。例えば、モノマーの重合時に重合時間を短縮すると、FポリマーのMFRが大きくなる傾向がある。
【0015】
接着性基としては、F樹脂層と基材等との接着性に優れる点から、カルボニル基含有基が好ましい。
カルボニル基含有基としては、炭素原子間にカルボニル基を有する炭化水素基、カーボネート基、カルボキシ基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基、酸無水物残基(-C(O)-O-C(O)-)、ポリフルオロアルコキシカルボニル基、脂肪酸残基が挙げられる。
カルボニル基含有基としては、F樹脂層と基材等との接着性がさらに優れる点から、炭素原子間にカルボニル基を有する炭化水素基、カーボネート基、カルボキシ基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基および酸無水物残基が好ましく、カルボキシ基および酸無水物残基がより好ましい。
炭素原子間にカルボニル基を有する炭化水素基における炭化水素基としては、炭素数2~8のアルキレン基等が挙げられる。なお、アルキレン基の炭素数は、カルボニル基を構成する炭素の数を含んでいない。
ハロホルミル基としては、-C(=O)-F、-C(=O)Clが挙げられる。
アルコキシカルボニル基におけるアルコキシ基としては、メトキシ基またはエトキシ基が挙げられる。
【0016】
接着性基は、Fポリマー中に接着性単位として含まれてもよく、Fポリマーの主鎖の末端に末端基として含まれてもよい。なお、接着性基が主鎖の末端基として含まれる場合、Fポリマーは、接着性単位を含んでも、含まなくてもよい。
Fポリマーとしては、TFE単位と、接着性モノマーに基づく単位(接着性単位)とを含むのが好ましい。
接着性モノマーが有する接着性基は、1個でも2個以上でもよい。2個以上の接着性基を有する場合、2個以上の接着性基は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【0017】
接着性モノマーとしては、カルボニル基含有基を有するモノマー、ヒドロキシ基を有するモノマー、エポキシ基を有するモノマー、イソシアネート基を有するモノマーが挙げられる。接着性モノマーとしては、F樹脂層と基材等との接着性に優れる点から、カルボニル基含有基を有するモノマーが好ましい。
カルボニル基含有基を有するモノマーとしては、酸無水物残基を有する環状モノマー、カルボキシ基を有するモノマー、ビニルエステル、(メタ)アクリレート、CF2=CFORf1CO2X1(ただし、Rf1は、炭素数1~10のペルフルオロアルキレン基、または炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する炭素数2~10のペルフルオロアルキレン基であり、X1は、水素原子または炭素数1~3のアルキル基である。)が挙げられる。
【0018】
酸無水物残基を有する環状モノマーとしては、不飽和ジカルボン酸無水物が挙げられる。不飽和ジカルボン酸無水物としては、無水イタコン酸(以下、「IAH」とも記す。)、無水シトラコン酸(以下、「CAH」とも記す。)、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(別称:無水ハイミック酸。以下、「NAH」ともいう。)、無水マレイン酸が挙げられる。
カルボキシ基を有するモノマーとしては、不飽和ジカルボン酸(イタコン酸、シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸、マレイン酸等)、不飽和モノカルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸等)が挙げられる。
ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、ブタン酸ビニル、ピバル酸ビニル、安息香酸ビニル、クロトン酸ビニルが挙げられる。
(メタ)アクリレートとしては、(ポリフルオロアルキル)アクリレート、(ポリフルオロアルキル)メタクリレートが挙げられる。
【0019】
カルボニル基含有基を有するモノマーとしては、F樹脂層と基材等との接着性をより向上させる点から、酸無水物残基を有する環状モノマーが好ましく、IAH、CAHまたはNAHがより好ましい。IAH、CAHまたはNAHを用いると、酸無水物残基を有するFポリマーを容易に製造し易い。カルボニル基含有基を有するモノマーとしては、F樹脂層の接着性が高まり易い点から、NAHが特に好ましい。
【0020】
ヒドロキシ基を有するモノマーとしては、ヒドロキシ基を有するビニルエステル、ヒドロキシ基を有するビニルエーテル、ヒドロキシ基を有するアリルエーテル、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレート、クロトン酸ヒドロキシエチル、アリルアルコールが挙げられる。
エポキシ基を有するモノマーとしては、不飽和グリシジルエーテル(アリルグリシジルエーテル、2-メチルアリルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル等)、不飽和グリシジルエステル((メタ)アクリル酸グリシジル等)が挙げられる。
イソシアネート基を有するモノマーとしては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)エチルイソシアネート、1,1-ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネートが挙げられる。
接着性モノマーは、2種以上を併用してもよい。
【0021】
接着性単位およびTFE単位以外の他の単位としては、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下、「PAVE」とも記す。)に基づく単位(以下、「PAVE単位」とも記す。)、ヘキサフルオロプロピレン(以下、「HFP」とも記す。)に基づく単位(以下、「HFP単位」とも記す。)、接着性モノマー、TFE、PAVEおよびHFP以外の他のモノマーに基づく単位が挙げられる。
【0022】
PAVEとしては、CF2=CFOCF3、CF2=CFOCF2CF3、CF2=CFOCF2CF2CF3(以下、「PPVE」とも記す。)、CF2=CFOCF2CF2CF2CF3、CF2=CFO(CF2)8Fが挙げられ、PPVEが好ましい。
PAVEは、2種以上を併用してもよい。
【0023】
他のモノマーとしては、他の含フッ素モノマー(ただし、接着性モノマー、TFE、PAVEおよびHFPを除く。)、他の非含フッ素モノマー(ただし、接着性モノマーを除く。)が挙げられる。
他の含フッ素モノマーとしては、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、CF2=CFORf3SO2X3(ただし、Rf3は、炭素数1~10のペルフルオロアルキレン基、または炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する炭素数2~10のペルフルオロアルキレン基であり、X3はハロゲン原子またはヒドロキシ基である。)、CF2=CF(CF2)pOCF=CF2(ただし、pは1または2である。)、CH2=CX4(CF2)qX5(ただし、X4は水素原子またはフッ素原子であり、qは2~10の整数であり、X5は水素原子またはフッ素原子である。)、ペルフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)が挙げられる。他の含フッ素モノマーは、2種以上を併用してもよい。
CH2=CX4(CF2)qX5としては、CH2=CH(CF2)2F、CH2=CH(CF2)3F、CH2=CH(CF2)4F、CH2=CF(CF2)3H、CH2=CF(CF2)4Hが挙げられ、CH2=CH(CF2)4F、CH2=CH(CF2)2Fが好ましい。
【0024】
他の非含フッ素モノマーとしては、エチレン、プロピレンが挙げられ、エチレンが好ましい。他の非含フッ素モノマーは、2種以上を併用してもよい。
他のモノマーとして、他の含フッ素モノマーと他の非含フッ素モノマーとを併用してもよい。
【0025】
Fポリマーが主鎖の末端に末端基として接着性基を有する場合、接着性基としては、アルコキシカルボニル基、カーボネート基、カルボキシ基、フルオロホルミル基、酸無水物残基、ヒドロキシ基が好ましい。なお、かかる接着性基は、Fポリマーの製造時に用いられる、ラジカル重合開始剤、連鎖移動剤等を適宜選定して導入できる。
【0026】
Fポリマーとしては、F樹脂層の耐熱性を高める点から、接着性単位とTFE単位とPAVE単位とを有するコポリマー(以下、コポリマー(A1)とも記す。)、接着性単位とTFE単位とHFP単位とを有するコポリマー(以下、コポリマー(A2)とも記す。)が好ましく、コポリマー(A1)がより好ましい。
【0027】
コポリマー(A1)は、必要に応じてHFP単位および他の単位のうちの少なくとも一方を有してもよい。すなわち、コポリマー(A1)は、接着性単位とTFE単位とPAVE単位とを有するコポリマーでもよく、接着性単位とTFE単位とPAVE単位とHFP単位とを有するコポリマーでもよく、接着性単位とTFE単位とPAVE単位と他の単位とを有するコポリマーでもよく、接着性単位とTFE単位とPAVE単位とHFP単位と他の単位とを有するコポリマーでもよい。
コポリマー(A1)としては、F樹脂層と基材等との接着性をさらに高める点から、カルボニル基含有基を有するモノマーに基づく単位とTFE単位とPAVE単位とを有するコポリマーが好ましく、酸無水物残基を有する環状モノマーに基づく単位とTFE単位とPAVE単位とを有するコポリマーがより好ましい。
コポリマー(A1)の好ましい具体例としては、TFE単位とPPVE単位とNAH単位とを有するコポリマー、TFE単位とPPVE単位とIAH単位とを有するコポリマー、TFE単位とPPVE単位とCAH単位とを有するコポリマーが挙げられる。
コポリマー(A1)における接着性単位の割合は、コポリマー(A1)を構成する全単位のうち、0.01~3モル%が好ましく、0.05~1モル%がさらに好ましい。この場合、F樹脂層と基材等との接着性、F樹脂層の耐熱性、色目をバランスさせ易い。
コポリマー(A1)におけるTFE単位の割合は、コポリマー(A1)を構成する全単位のうち、90~99.89モル%が好ましく、96~98.95モル%がより好ましい。この場合、F樹脂層の耐熱性、耐薬品性等と、コポリマー(A1)の熱溶融性、耐ストレスクラック性等とをバランスさせ易い。
コポリマー(A1)におけるPAVE単位の割合は、コポリマー(A1)を構成する全単位のうち、0.1~9.99モル%が好ましく、1~9.95モル%がより好ましい。この場合、フッ素コポリマー(A1)の熱溶融性を調整し易い。
コポリマー(A1)における接着性単位、TFE単位およびPAVE単位の合計は、90モル%以上が好ましく、98モル%以上がより好ましい。その上限値は、100モル%である。
【0028】
コポリマー(A2)は、必要に応じてPAVE単位および他のモノマー単位のうちの少なくとも一方を有してもよい。すなわち、コポリマー(A2)は、接着性単位とTFE単位とHFP単位とを有するコポリマーでもよく、接着性単位とTFE単位とHFP単位とPAVE単位とを有するコポリマーでもよく、接着性単位とTFE単位とHFP単位と他のモノマー単位とを有するコポリマーでもよく、接着性単位とTFE単位とHFP単位とPAVE単位と他の単位とを有するコポリマーでもよい。
コポリマー(A2)としては、F樹脂層と基材等との接着性をさらに高める点から、カルボニル基含有基を有するモノマーに基づく単位とTFE単位とHFP単位とを有するコポリマーが好ましく、酸無水物残基を有する環状モノマーに基づく単位とTFE単位とHFP単位とを有するコポリマーがより好ましい。
コポリマー(A2)の好ましい具体例としては、TFE単位とHFP単位とNAH単位とを有するコポリマー、TFE単位とHFP単位とIAH単位とを有するコポリマー、TFE単位とHFP単位とCAH単位とを有するコポリマーが挙げられる。
【0029】
コポリマー(A2)における接着性単位の割合は、コポリマー(A2)を構成する全単位のうち、0.01~3モル%が好ましく、0.05~1.5モル%がより好ましい。この場合、F樹脂層と基材等との接着性、F樹脂層の耐熱性、色目をバランスさせ易い。
コポリマー(A2)におけるTFE単位の割合は、コポリマー(A2)を構成する全単位のうち、90~99.89モル%が好ましく、92~96モル%がさらに好ましい。この場合、F樹脂層の耐熱性、耐薬品性等と、コポリマー(A2)の熱溶融性、耐ストレスクラック性等とをバランスさせ易い。
コポリマー(A2)におけるHFP単位の割合は、コポリマー(A2)を構成する全単位のうち、0.1~9.99モル%が好ましく、2~8モル%がより好ましい。HFP単位の割合が上記範囲内であれば、コポリマー(A2)の熱溶融性がより高まる。
コポリマー(A2)における接着性単位、TFE単位およびHFP単位の合計での割合は、90モル%以上が好ましく、98モル%以上がより好ましい。その上限値は、100モル%である。
Fポリマーにおける各単位の割合は、溶融核磁気共鳴(NMR)分析等のNMR分析、フッ素含有量分析、赤外吸収スペクトル分析によって求められる。例えば、特開2007-314720号公報に記載のように、赤外吸収スペクトル分析等の方法を用いて、Fポリマーを構成する全単位中の接着性単位の割合(モル%)が求められる。
【0030】
Fポリマーの製造方法としては、(i)接着性モノマーおよびTFEと、必要に応じてPAVE、FEP、他のモノマーとを重合させる方法、(ii)熱分解により接着性基を生成する官能基を有する単位とTFE単位とを有する含フッ素コポリマーを加熱し、官能基を熱分解して接着性基(例えばカルボキシ基)を生成させる方法、(iii)TFE単位を有する含フッ素コポリマーに、接着性モノマーをグラフト重合する方法が挙げられ、上記(i)の方法が好ましい。
重合方法(塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等)は、特に限定されず、適宜設定できる。また、重合において使用する、溶媒、重合開始剤、連鎖移動剤の量と種類も適宜設定できる。また、重合条件(温度、圧力、時間等。)も、使用するモノマーの種類に応じて、適宜設定できる。
【0031】
本発明の粉体においては、D50をXとし、D10をYとしたとき、Y/Xが0.3以下である。すなわち、本発明の粉体は、粒子径が中程度の樹脂粒子(以下、「中等度粒子」とも記す。)と、中等度粒子に対して粒子径が充分に小さい樹脂粒子(以下、「微小粒子」とも記す。)とを含む。
F樹脂膜は、粉体を基材上に供給して粉体層を形成した後、粉体層を焼成して形成される。この際、
図1(a)に示すように、粉体層中では、中等度粒子同士の間に空隙が形成されるが、この空隙が微小粒子で埋められる。このため、粉体層を焼成する際に、
図1(b)の太線で示すように、粉体層の表面(中等度粒子および微小粒子)がほぼ均一に溶融を開始して、表面が平滑なF樹脂層が形成され易い。
【0032】
これに対して、微小粒子を含まないと、
図2(a)に示すように、粉体層中には、中等度粒子同士の間に形成される空隙が多数存在する。このため、粉体層を焼成する際に、
図2(b)の太線で示すように、粉体層の表面が中等度粒子の形状に沿って溶融を開始して、中等度粒子の形状を反映した凹凸を表面に有するF樹脂層が形成され易い。
本発明において好適に使用される接着性基を有するFポリマーは、接着性基を有しないFポリマーに比べてMFRが高くなる傾向がある。したがって、接着性基を有するFポリマーは、焼成時に溶融しても流動し難くなり、F樹脂層の表面に凹凸形状が残り易い。かかる場合、微小粒子を含む粉体を使用する本発明の効果は特に高い。
【0033】
本発明において、Y/Xは、0.25以下が好ましく、0.15~0.2がより好ましい。Y/Xが上記範囲内であれば、粉体層中において、中等度粒子同士の間に形成される空隙を、微小粒子でより確実に埋められる。その結果、表面がより平滑なF樹脂層が形成される。なお、Y/Xとは、YをXで除した値である。
具体的には、D10が4μm以下かつD50が15~60μmであるのが好ましい。粉体のD10とD50とを上記範囲内に調整すれば、Fポリマーが接着性基を有するか有さないかに関わらず、表面が平滑で薄いF樹脂層を容易に形成できる。
【0034】
粉体のD10は、0.5~3.9μmがより好ましく、2~3.9μmがさらに好ましい。D10が上記上限値以下であれば、表面がより平滑なF樹脂層を容易に形成できる。D10が上記下限値以上であれば、粉体を含む粉体塗料の塗装時に、ノズルに粉体が付着し難くなって、塗装時の作業性が向上する。
粉体のD50は、17~50μmがより好ましく、20~40μmがさらに好ましい。D50が上記下限値以上であれば、より薄いF樹脂層を形成し易い。D50が上記上限値以下であれば、表面がより平滑なF樹脂層を形成し易い。
【0035】
粉体のD100は、220μm以下が好ましく、100~210μmがより好ましく、140~205μmがさらに好ましい。D100が上記上限値以下であれば、粉体が中等度粒子に対して粒子径が大き過ぎる樹脂粒子(以下、「粗大粒子」とも記す。)を含まないため、表面がより平滑なF樹脂層を形成し易い。D100が上記下限値以上であれば、充分な厚さのF樹脂層を形成し易い。
【0036】
また、粉体中の粒子径が4μm以下の樹脂粒子の量をAとし、粒子径が15~60μmの樹脂粒子の量をBとしたとき、A/Bは、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましい。A/Bは、0.5以下が好ましく、0.4以下がより好ましい。A/Bが上記範囲を満足すれば、粉体層中において、中等度粒子同士の間に形成される空隙を、微小粒子でより高密度に埋められる。なお、A/Bとは、AをBで除した値である。
粉体中に含まれる粒子径が4μm以下の樹脂粒子の具体的な量は、5~25体積%が好ましく、10~20体積%がより好ましい。かかる量で粒子径が4μm以下の樹脂粒子を含めば、粉体が粗大粒子を含む場合でも、表面が平滑なF樹脂層を形成し易い。
【0037】
このような粉体は、(i)溶液重合法、懸濁重合法または乳化重合法によってFポリマーを得て、有機溶媒または水性媒体を除去して粉体を得た後、分級する方法、(ii)Fポリマー、必要に応じて他の成分を溶融混練し、混練物を粉砕し、必要に応じて粉砕物を分級する方法によって製造できる。
また、粉体は、D50が上記Xの第1の粉体と、D50が上記Yの第2の粉体を所定の比率で混合することでも製造できる。なお、第1の粉体および第2の粉体は、上記(i)または(ii)の方法で製造できる。
【0038】
粉体のD10およびD50は、粉砕方法の種類、粉砕条件により調節できる。
粉砕方法としては、ローターミル、ピンミル、ハンマーミル、凍結ハンマーミル、エッジランナーミル、スクリーンミル、振動ミル、サンドミル、エディミル、ボールミル、バスケットミル等の粉砕機を用いる方法を挙げられる。中でも、粉体のD10およびD50を上記範囲に調整し易い点から、ローターミル、ピンミルを用いる方法が好ましい。
粉砕機の回転数を低いと、D10およびD50が大きくなる傾向がある。粉砕機の回転数が高く、かつ粉砕時間が長いと、D10およびD50が小さくなる傾向がある。
【0039】
本発明の粉体塗料は、前記本発明の粉体を含む粉体塗料である。
本発明の積層体の製造方法は、本発明の粉体を含む粉体塗料を基材上に供給し、焼成してF樹脂層を形成する。これにより、基材と、基材上に設けられ、粉体塗料から形成されたF樹脂層とを有する積層体が得られる。
粉体塗料は、必要に応じて、本発明の粉体以外の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、顔料、カーボンファイバー、グラファイトが挙げられる。
粉体塗料中に含まれる本発明の粉体の量は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。粉体塗料中に含まれる本発明の粉体の量の上限値は100質量%である。
【0040】
基材としては、フライパン、鍋、アイロン等の家庭用品や、工場の配管が挙げられる。
基材の材質としては、ステンレス、鉄等の金属、樹脂、ガラス、セラミックスが挙げられる。
粉体塗料の供給方法としては、静電塗装が好適である。
【0041】
粉体塗料の焼成は、Fポリマーの融点以上に加熱して行うのが好ましい。具体的な焼成温度は、350~380℃が好ましく、350~375℃がより好ましく、350~370℃がさらに好ましい。焼成温度が上記下限値以上であれば、表面が平滑なF樹脂層を形成し易く、またF素樹脂層と基材との密着性が高まる。
一方、焼成温度が上記上限値以下であれば、本発明におけるFポリマーの融点が260~320℃であるため、Fポリマーの熱分解によるガスの発生を防止できる。よって、F樹脂層における発泡やクラックの発生を抑制でき、高い安全性で、外観に優れた積層体が得られ易い。換言すれば、融点が260~320℃のFポリマーを使用する場合、焼成温度を極端に高めることができず、比較的低温で粉体層を焼成せざるを得ない。本発明の粉体は、微小粒子を含むことにより、比較的低温での焼成であっても、表面が平滑なF樹脂層を得易い。
【0042】
焼成時間は、1~20分が好ましく、1~15分がより好ましい。焼成時間が上記下限値以上であれば、表面が平滑なF樹脂層を形成し易い。焼成時間が上記上限値以下であれば、F樹脂層における発泡やクラックの発生をより抑制し易い。
【0043】
本発明において、基材上に粉体塗料を供給して焼成する操作を2回以上繰り返してもよい。
この場合、各焼成工程における焼成温度および焼成時間は、異なっても同じでもよい。また、この場合、焼成時間の合計は、3~60分が好ましく、4~60分がより好ましく、5~45分がさらに好ましく、10~30分が特に好ましい。焼成時間の合計が上記上限値以下であれば、F樹脂層における発泡やクラックの発生を抑制し易い。焼成時間の合計が上記下限値以上であれば、表面が平滑なF樹脂層を形成し易く、またF樹脂層と基材との密着性がより高まる。
【0044】
形成すべきF樹脂層の厚さは、50~750μmが好ましく、100~500μmがより好ましい。F樹脂層の厚さが上記下限値以上であれば、積層体の生産性が向上する。F樹脂層の厚さが上記上限値以下であれば、F樹脂層の耐薬品性が高い。
【0045】
F樹脂層と基材との剥離強度は、14N/cm以上が好ましく、15~100N/cmがより好ましく、16~90N/cmがさらに好ましく、16~85N/cmが特に好ましい。F樹脂層と基材との剥離強度が上記下限値以上である場合、F樹脂層と基材との密着性が高いことを示しており、F樹脂層が基材から剥離し難い。
【0046】
以上、本発明の粉体および積層体の製造方法について説明したが、本発明は、前述した実施形態の構成に限定されない。
例えば、本発明の粉体は、前述した実施形態に構成において、他の任意の構成を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてよい。
また、本発明の積層体の製造方法は、上記実施形態に構成において、他の任意の工程を追加で有してもよいし、同様の作用を生じる任意の工程と置換されていてよい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0048】
1.原料粉体の製造
[製造例1]
NAH、TFEおよびPPVEを用いて、国際公開第2016/017801号の段落[0123]に記載の手順に従って、Fポリマー(1)からなる原料粉体(A1)を製造した。
Fポリマー(1)中に含まれるNAH単位、TFE単位およびPPVE単位の割合(モル%)は、この順に0.1、97.9、2.0であった。Fポリマー(1)の融点は300℃であり、MFRは17.6g/10分であり、原料粉体(A1)のD50は1554μmであった。
【0049】
[製造例2]
連鎖移動剤を0.5kgのメタノールに変更した以外は、製造例1と同様にして、Fポリマー(2)からなる原料粉体(A2)を得た。
Fポリマー(2)中に含まれるNAH単位、TFE単位およびPPVE単位の割合(モル%)は、この順に0.1、97.9、2.0であった。Fポリマー(2)の融点は300℃であり、MFRは25.0g/10分であり、原料粉体(A2)のD50は1570μmであった。
【0050】
[製造例3]
連鎖移動剤を0.35kgのメタノールに変更した以外は、製造例1と同様にして、Fポリマー(3)からなる原料粉体(A3)を得た。
Fポリマー(3)中に含まれるNAH単位、TFE単位およびPPVE単位の割合(モル%)は、この順に0.1、97.9、2.0であった。Fポリマー3の融点は300℃であり、MFRは8.2g/10分であり、原料粉体(A3)のD50は1490μmであった。
なお、Fポリマー中に含まれる各単位の割合は、国際公開第2016/017801号に記載の方法により測定した。
融点は、セイコーインスツル社製の示差走査熱量計(DSC-7020)を用いて測定した。Fポリマーの昇温速度は、10℃/分とした。
MFRは、テクノセブン社製のメルトインデクサーを用いて、372℃、49N荷重下で、直径2mm、長さ8mmのノズルから10分間(単位時間)に流出するFポリマーの質量(g)を測定して求めた。
原料粉体のD50は、以下の手順にて求めた。
上から順に、2.000メッシュ篩(目開き2.400mm)、1.410メッシュ篩(目開き1.705mm)、1.000メッシュ篩(目開き1.205mm)、0.710メッシュ篩(目開き0.855mm)、0.500メッシュ篩(目開き0.605mm)、0.250メッシュ篩(目開き0.375mm)、0.149メッシュ篩(目開き0.100mm)、受け皿を重ねた。
一番上の篩に原料粉体を入れ、30分間振とう器で篩分けした。各篩の上に残った原料粉体の質量を測定し、各目開き値に対する通過質量の累計をグラフに表し、通過質量の累計が50%となる粒子径を求め、原料粉体のD50とした。
2.粉体および積層体の製造
[例1]
まず、ローターミル(フリッチュ社製、ロータースピードミルP-14)を用いて、回転数1700rpmの条件で、原料粉体(A1)を粉砕して粉砕粉体を得た。
次に、円形振動篩機(セイシン企業社製、KGO-1000型、篩目開き212μm)を用いて、粉砕粉体を分級して粉体(B1)を得た。
なお、粉体(B1)のD10は3.8μm、D50は22.2μm、D90は100.6μm、D100は200.5μmであり、疎充填嵩密度は0.491g/mL、密充填嵩密度は0.646g/mLであった。
【0051】
まず、縦40mm、横150mm、厚さ2mmのSUS304製の鋼板を用意した。
次に、鋼板の表面を60メッシュのアルミナ粒子を用いて、表面粗さRaが5~10μmとなるように、サンドブラスト処理した。
その後、鋼板の表面をエタノールで清浄化して基材を作製した。
粉体(B1)からなる粉体塗料を基材の表面に静電塗装した後、焼成温度350℃×焼成時間4分で焼成する操作を10回繰り返して積層体を得た。
なお、基材上に形成されたF樹脂層の厚さは314μmであった。
【0052】
[例2]
まず、ピンミル(セイシン企業社製、M-4型)を用いて、回転数5000rpmの条件で、原料粉体(A2)粉砕して粉砕粉体を得た。
次に、円形振動篩機(セイシン企業社製、KGO-1000型、篩目開き212μm)を用いて、粉砕粉体を分級して粉体(B2)を得た。
なお、粉体(B2)のD10は3.6μm、D50は21.1μm、D90は99.4μm、D100は181.9μmであり、疎充填嵩密度は0.524g/mL、密充填嵩密度は0.695g/mLであった。
次いで、粉体(B2)からなる粉体塗料を、例1と同様にして作製した基材の表面に静電塗装した後、焼成温度350℃×焼成時間6分で焼成する操作を2回繰り返して積層体を得た。
なお、基材上に形成されたF樹脂層の厚さは330μmであった。
【0053】
[例3]
原料粉体(A2)に代えて原料粉体(A3)を用いた以外は、例2と同様にして粉体(B3)を得た。
なお、粉体(B3)のD10は3.9μm、D50は24.4μm、D90は78.2μm、D100は169.9μmであり、疎充填嵩密度は0.525g/mL、密充填嵩密度は0.699g/mLであった。
次いで、粉体(B3)からなる粉体塗料を、例1と同様にして作製した基材の表面に静電塗装した後、焼成温度350℃×焼成時間4分で焼成する操作を5回繰り返し、さらに上記粉体塗料を静電塗装した後、焼成温度350℃×焼成時間6分で焼成する操作を1回行って積層体を得た。
なお、基材上に形成されたF樹脂層の厚さは330μmであった。
【0054】
[例4]
ピンミルの回転数を2100rpmに変更し、分級しなかった以外は、例2と同様にして粉体(B4)を得た。
なお、粉体(B4)のD10は10.6μm、D50は94.4μm、D90は260.1μm、D100は340.1μmであり、疎充填嵩密度は0.729g/mL、密充填嵩密度は0.835g/mLであった。
次いで、粉体(B4)からなる粉体塗料を用いた以外は、例3と同様にして積層体を得た。
なお、基材上に形成されたF樹脂層の厚さは330μmであった。
【0055】
[例5]
ピンミルの回転数を2100rpmに変更した以外は、例2と同様にして粉体(B5)を得た。
なお、粉体(B5)のD10は10.6μm、D50は82.1μm、D90は186.5μm、D100は212.0μmであり、疎充填嵩密度は0.511g/mL、密充填嵩密度は0.672g/mLであった。
次いで、粉体(B5)からなる粉体塗料を用いた以外は、例3と同様にして積層体を得た。
なお、基材上に形成されたF樹脂層の厚さは330μmであった。
【0056】
[例6]
ピンミルの回転数を3000rpmに変更した以外は、例2と同様にして粉体(B6)を得た。
なお、粉体(B6)のD10は9.2μm、D50は56.9μm、D90は131.6μm、D100は203.2μmであり、疎充填嵩密度は0.529g/mL、密充填嵩密度は0.691g/mLであった。
次いで、粉体(B6)からなる粉体塗料を用いた以外は、例3と同様にして積層体を得た。
なお、基材上に形成されたF樹脂層の厚さは330μmであった。
【0057】
[例7(比較例)]
ピンミルの回転数を4000rpmに変更した以外は、例2と同様にして粉体(B7)および積層体を得た。
なお、粉体(B7)のD10は8.3μm、D50は25.5μm、D90は120.6μm、D100は191.3μmであり、疎充填嵩密度は0.503g/mL、密充填嵩密度は0.657g/mLであった。
また、基材上に形成されたF樹脂層の厚さは330μmであった。
【0058】
粉体を構成する樹脂粒子の粒子径および量、疎充填嵩密度および密充填嵩密度は、次のようにして測定した。
(樹脂粒子の粒子径および量の測定)
堀場製作所社製のレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(LA-920測定器)を用いて、粉体を水中に分散させ、粒度分布を測定し、D10、D50、D90およびD100を算出した。
また、得られた粒度分布のグラフから、粒子径が4μm以下の樹脂粒子の量および粒子径が15~60μmの樹脂粒子の量を求めた。
(疎充填嵩密度および密充填嵩密度)
粉体の疎充填嵩密度および密充填嵩密度は、それぞれ国際公開第2016/017801号の[0117]、[0118]に記載の方法を用いて測定した。
【0059】
3.測定および評価
3-1.剥離強度
まず、各例で得られた積層体のF樹脂層の表面側から、カッターナイフを用いて10mm間隔の切り込みを入れた。
次に、F樹脂層の一部を剥離し、引張り試験機のチャックに固定した。
その後、引張り速度50mm/分、90°で、F樹脂層を基材から剥離したときの剥離強度(N/cm)を測定した。
【0060】
3-2.外観評価
各例において積層体を100個作製し、各積層体のF樹脂層の表面を目視にて確認し、以下の評価基準により、外観について評価した。
<評価基準>
◎:いずれの積層体においてもF樹脂層の表面に凹凸が見られなかった。
○:5個以下の積層体においてF樹脂層の表面に凹凸が見られた。
△:6~10個の積層体においてF樹脂層の表面に凹凸が見られた。
×:10個超の積層体においてF樹脂層の表面に凹凸が見られた。
以上の結果とともに、粉体の製造条件、粒子径(D10、D50、D90、D100)および量、積層体の製造条件を表1に示す。
【0061】
【0062】
表1に示すように、D10とD50との関係を本発明で規定された範囲内である粉体を用いた例1~6では、基材とF樹脂層との密着性が優れていた。
D50が小さい粉体を用いた例1~3では、表面が平滑なF樹脂層が形成される反面、D50が大きい粉体を用いた例4~6では、F樹脂層の表面に凹凸が生じる傾向を示した。
D10とD50との関係を本発明で規定された範囲から逸脱する粉体を用いた例7では、F樹脂層の表面に凹凸が見られた。また、基材とF樹脂層との密着性が低下する傾向を示した。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の粉体は、粉体塗装に使用する粉体塗料に好適であり、表面が平滑な厚いフッ素樹脂層を形成する粉体塗料に特に好適である。
なお2017年12月07日に出願された日本特許出願2017-235350号の明細書、特許請求の範囲、要約書及び図面の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。