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特許7272322半導体結晶製造装置の管理方法、半導体結晶の製造方法、及び半導体結晶製造管理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】半導体結晶製造装置の管理方法、半導体結晶の製造方法、及び半導体結晶製造管理システム
(51)【国際特許分類】
   C30B 15/20 20060101AFI20230502BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
C30B15/20
C30B29/06 502Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020096513
(22)【出願日】2020-06-02
(65)【公開番号】P2021187718
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 竜介
(72)【発明者】
【氏名】藤原 俊幸
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-255468(JP,A)
【文献】特開2019-019035(JP,A)
【文献】特開2017-075067(JP,A)
【文献】特開2010-275170(JP,A)
【文献】特開2008-001583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00 - 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体結晶製造装置の各構成部材の各物性値のばらつきうる範囲内において前記各物性値を変化させて複数の計算条件を、所定のシミュレーションモデルに基づいて作成し、前記複数の計算条件を用いて伝熱シミュレーションを実施し、前記半導体結晶製造装置内の温度分布を計算して計算結果を得るシミュレーションステップと、
前記半導体結晶製造装置内の前記温度分布のばらつきを抑制したい対象領域における前記温度分布の前記計算結果と、前記複数の計算条件とを組み合わせた複数のデータセットを訓練データとして、入力を前記各構成部材の前記各物性値とし、出力を前記対象領域の温度分布とする第1推定モデルを、機械学習法を用いて作成する第1学習ステップと、
前記各構成部材の前記各物性値のばらつきうる範囲内において、前記各構成部材の前記各物性値を変化させながら前記第1推定モデルに入力して、前記対象領域の前記温度分布を推定する推定ステップと、
前記推定された前記対象領域の前記温度分布と目標とする前記対象領域の温度分布とに基づいて、前記各構成部材の前記各物性値の許容範囲を算出する第1算出ステップと、
前記各構成部材の前記各物性値の各実測値と、前記許容範囲とを照らし合わせて、前記各構成部材を交換すべきか否かを決定する決定ステップと
を備えていることを特徴とする半導体結晶製造装置の管理方法。
【請求項2】
前記決定ステップにおける前記構成部材を交換すべきとの決定に基づいて、当該構成部材の交換を指示する指示ステップをさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の半導体結晶製造装置の管理方法。
【請求項3】
半導体結晶製造装置の各構成部材の各物性値のばらつきうる範囲内において前記各物性値を変化させて複数の計算条件を、所定のシミュレーションモデルに基づいて作成し、前記複数の計算条件を用いて伝熱シミュレーションを実施し、前記半導体結晶製造装置内の温度分布を計算して計算結果を得るシミュレーションステップと、
前記半導体結晶製造装置内の前記温度分布のばらつきを抑制したい対象領域における前記温度分布の前記計算結果と、前記複数の計算条件とを組み合わせた複数のデータセットを訓練データとして、入力を前記各構成部材の前記各物性値とし、出力を前記対象領域の温度分布とする第1推定モデルを、機械学習法を用いて作成する第1学習ステップと、
前記各構成部材の前記各物性値のばらつきうる範囲内において、前記各構成部材の前記各物性値を変化させながら前記第1推定モデルに入力して、前記対象領域の前記温度分布を推定する推定ステップと、
前記推定された前記対象領域の前記温度分布と目標とする前記対象領域の温度分布とに基づいて、前記各構成部材の前記各物性値の許容範囲を算出する第1算出ステップと、
前記各構成部材のコストの高低に関するコストデータを予め取得し、前記半導体結晶製造装置内の前記温度分布の前記計算結果と、前記複数の計算条件とを組み合わせた複数のデータセットを訓練データとして、入力を、低コストの任意の前記構成部材を除いた前記各構成部材の前記各物性値及び前記目標とする前記対象領域の前記温度分布とし、出力を前記低コストの任意の前記構成部材の前記物性値とする第2推定モデルを、機械学習法を用いて作成する第2学習ステップと、
前記第2推定モデルに、前記低コストの任意の構成部材を除いた前記各構成部材の前記各物性値の各実測値と、前記目標とする前記対象領域の前記温度分布を入力し、前記低コストの任意の前記構成部材の物性値を算出する第2算出ステップと、
前記第2推定モデルに、前記各構成部材の前記各物性値の前記各許容範囲内において、前記各構成部材の前記各物性値を変化させながら入力するとともに、前記目標とする前記対象領域の前記温度分布を入力して、前記低コストの任意の前記構成部材の前記物性値の前記許容範囲を修正する修正許容範囲を算出する第3算出ステップと、
前記各構成部材の前記各物性値の各実測値と、前記許容範囲とを照らし合わせて、前記
各構成部材を交換すべきか否かを決定し、前記コストデータに基づいて、高コストの前記構成部材は、前記物性値の前記実測値が対応する前記許容範囲にない場合、前記物性値と、前記修正許容範囲とを照らし合わせて、前記低コストの任意の前記構成部材の交換で代替すべきか否かを決定する決定ステップと
を備えていることを特徴とする半導体結晶製造装置の管理方法。
【請求項4】
前記決定ステップにおける前記構成部材を交換すべきとの決定に基づいて、当該構成部材の交換を指示する指示ステップをさらに備えていることを特徴とする請求項3に記載の半導体結晶製造装置の管理方法。
【請求項5】
前記シミュレーションモデルは、前記半導体結晶製造装置の前記各構成部材のサイズや前記物性値に基づいて構築されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の半導体結晶製造装置の管理方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の半導体結晶製造装置の管理方法を用いて、半導体結晶を製造する
ことを特徴とする半導体結晶の製造方法。
【請求項7】
半導体結晶製造装置の各構成部材の各物性値のばらつきうる範囲内において前記各物性値を変化させて複数の計算条件を、所定のシミュレーションモデルに基づいて作成し、前記複数の計算条件を用いて伝熱シミュレーションを実施し、前記半導体結晶製造装置内の温度分布を計算して計算結果を得、前記半導体結晶製造装置内の前記温度分布のばらつきを抑制したい対象領域における前記温度分布の前記計算結果と、前記複数の計算条件とを組み合わせた複数のデータセットを作成する計算部と、
前記複数のデータセットを訓練データとして、入力を前記各構成部材の前記各物性値とし、出力を前記対象領域の温度分布とする第1推定モデルを、機械学習法を用いて作成する機械学習部と、
前記各構成部材の前記各物性値のばらつきうる範囲内において、前記各構成部材の前記各物性値を変化させながら前記第1推定モデルに入力して、前記対象領域の前記温度分布を推定し、前記推定した前記対象領域の前記温度分布と目標とする前記対象領域の温度分布とに基づいて、前記各構成部材の前記各物性値の許容範囲を算出する推定部と、
前記各構成部材の前記各物性値の各実測値と、前記許容範囲とを照らし合わせて、前記各構成部材を交換すべきか否かを決定する決定部と
を備えていることを特徴とする半導体結晶製造管理システム。
【請求項8】
半導体結晶製造装置の各構成部材の各物性値のばらつきうる範囲内において前記各物性値を変化させて複数の計算条件を、所定のシミュレーションモデルに基づいて作成し、前記複数の計算条件を用いて伝熱シミュレーションを実施し、前記半導体結晶製造装置内の温度分布を計算して計算結果を得、前記半導体結晶製造装置内の前記温度分布のばらつきを抑制したい対象領域における前記温度分布の前記計算結果と、前記複数の計算条件とを組み合わせた複数のデータセットを作成する計算部と、
前記複数のデータセットを訓練データとして、入力を前記各構成部材の前記各物性値とし、出力を前記対象領域の温度分布とする第1推定モデルを、機械学習法を用いて作成し、前記各構成部材のコストの高低に関するコストデータを予め取得し、前記複数のデータセットを訓練データとして、入力を、低コストの任意の前記構成部材を除いた前記各構成部材の前記各物性値及び目標とする前記対象領域の温度分布とし、出力を前記低コストの任意の前記構成部材の前記物性値とする第2推定モデルを、機械学習法を用いて作成する機械学習部と、
前記各構成部材の前記各物性値のばらつきうる範囲内において、前記各構成部材の前記各物性値を変化させながら前記第1推定モデルに入力して、前記対象領域の前記温度分布
を推定し、前記推定した前記対象領域の前記温度分布と前記目標とする前記対象領域の前記温度分布とに基づいて、前記各構成部材の前記各物性値の許容範囲を算出し、前記第2推定モデルに、前記低コストの任意の構成部材を除いた前記各構成部材の前記各物性値の各実測値と、前記目標とする前記対象領域の前記温度分布を入力し、前記低コストの任意の前記構成部材の物性値を算出し、前記第2推定モデルに、前記各構成部材の前記各物性値の前記各許容範囲内において、前記各構成部材の前記各物性値を変化させながら入力するとともに、前記目標とする前記対象領域の前記温度分布を入力して、前記低コストの任意の前記構成部材の前記物性値の前記許容範囲を修正する修正許容範囲を算出する推定部と、
前記各構成部材の前記各物性値の各実測値と、前記許容範囲とを照らし合わせて、前記各構成部材を交換すべきか否かを決定し、前記コストデータに基づいて、高コストの前記構成部材は、前記物性値の前記実測値が対応する前記許容範囲にない場合、前記物性値と、前記修正許容範囲とを照らし合わせて、前記低コストの任意の前記構成部材の交換で代替すべきか否かを決定する決定部と
を備えていることを特徴とする半導体結晶製造管理システム。
【請求項9】
前記計算部は、前記半導体結晶製造装置の前記各構成部材のサイズや前記各物性値に基づいて前記シミュレーションモデルを構築することを特徴とする請求項7又は8に記載の半導体結晶製造管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体結晶を製造する半導体結晶製造装置を管理する半導体結晶製造装置の管理方法、半導体結晶の製造方法、及び半導体結晶製造管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体結晶製造装置には、例えば、チョクラルスキー法(Czochralski method、以下「CZ法」と略す。)や浮遊帯域融解法(Floating zone method、以下「FZ法」と略す。)の単結晶成長法を用いて半導体結晶を製造するものがある。
【0003】
半導体結晶製造装置は、同一構造であっても、装置間で半導体結晶の結晶品質、半導体結晶の引き上げ速度や坩堝の回転速度の速度制御性が異なる場合がある。また、同一装置であっても、装置の経時変化、操業環境の変化等の影響を受け、バッチ間で前記結晶品質や前記速度制御性が異なる場合がある。このような装置間及びバッチ間における前記結晶品質や前記速度制御性のばらつきは、半導体結晶の結晶品質や生産性を低下させる要因となっている。
【0004】
一般に、CZ法を用いて育成されたシリコン単結晶の結晶品質は、装置内の温度分布に大きな影響を受けることが知られている。したがって、前記した装置間及びバッチ間における前記結晶品質のばらつきは、各装置内の温度分布を決定する要素である熱環境の違いに起因していると考えられる。この各装置内の熱環境の違いの一因としては、例えば、半導体結晶製造装置を構成する各部材(以下「構成部材」という。)の物性値のばらつきが挙げられる。
【0005】
ここで、装置内の熱環境とは、半導体結晶製造装置内の伝熱に影響を与え、半導体結晶製造装置内の温度分布を決定する要素であり、例えば、各構成部材の形状や、熱伝導率及び輻射率などの物性値の組み合わせである。
【0006】
前記構成部材には、例えば、チャンバ、坩堝、ヒータ、熱遮蔽体、断熱材、及びケーブルなどが含まれる。チャンバ、坩堝、ヒータ、熱遮蔽体、断熱材及びケーブルの物性値としては、例えば、熱伝導率、比熱、輻射率、密度などが挙げられる。
【0007】
構成部材の物性値のばらつきは、構成部材の納入時点におけるばらつきだけでなく、経時変化によるばらつきも考えられる。構成部材がシリコン単結晶育成中に長時間高温にさらされるため、構成部材の表面及び内部の状態が時間経過とともに変化し、それに伴って構成部材の物性値が経時変化するからである。
【0008】
したがって、装置間及びバッチ間におけるシリコン単結晶の結晶品質のばらつきを低減するためには、目標とする装置内の温度分布(以下「目標温度分布」という。)を実現できるように、構成部材の各物性値を把握し、管理することが重要である。
【0009】
目標温度分布は、半導体結晶に求められる品質(特に析出特性)によって異なる。例えば、Grown-in欠陥のない半導体結晶を製造する場合、引上げ速度Fとシリコン単結晶中の固液界面軸方向の温度勾配Gとの比であるF/Gの値を所定範囲内に制御する必要がある。前記所定範囲の制御マージンを大きくできるような温度分布が目標温度分布と言える。制御マージンが大きくなれば、装置間の格差やバッチによる経時変化が小さくなり、製造がしやすくなるからである。
【0010】
従来、伝熱解析プログラムを用いてシリコン単結晶育成時の結晶温度分布を推定するシリコン単結晶の製造方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0011】
このシリコン単結晶の製造方法では、まず、小口径のシリコン単結晶育成時の装置内実測温度値と、育成した小口径のシリコン単結晶の結晶欠陥分布とを用いて、伝熱解析プログラムの熱パラメータ(例えば、熱遮蔽体の熱伝導率、チャンバ内壁の輻射率)を、小口径のシリコン単結晶に合わせて最適化している。次に、この最適化された伝熱解析プログラムを用いて、大口径のシリコン単結晶の結晶温度分布を推定している。次に、推定した大口径のシリコン単結晶の結晶温度分布と、育成した大口径のシリコン単結晶の結晶欠陥分布とを比較して、伝熱解析プログラムの熱パラメータを大口径のシリコン単結晶に合致するように最適化している。そして、2度目に最適化された伝熱解析プログラムを用いて、大口径のシリコン単結晶の結晶温度分布を推定している。
【0012】
また、シリコン単結晶の結晶品質を目標規格内とするため、引上げ速度Fとシリコン単結晶中の固液界面軸方向の温度勾配Gとの比であるF/Gの値を所定範囲内に制御する製造条件を設計するシリコン単結晶の製造システムがある(例えば、特許文献2参照)。
【0013】
このシリコン単結晶の製造システムでは、まず、前バッチのシリコン単結晶の結晶品質結果から次バッチのシリコン単結晶の製造条件を仮設計する。次に、次バッチの引上げ装置の構成部材を要因とするF及び/又はGの変化量から第1の補正量を算出するとともに、次バッチの製造工程を要因とするF及び/又はGの変化量から第2の補正量を算出する。そして、仮設計された製造条件に、第1及び/又は第2の補正量を加算し、次バッチの製造条件を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2010-275170号公報(請求項1、請求項2)
【文献】特開2008-1583号公報(請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1に記載された従来技術において、構成部材の各物性値(熱パラメータ)を把握するためには、同一条件で複数のシリコン単結晶を育成し、構成部材の初期状態と経時変化後の状態を考慮した多数のデータを収集する必要がある。また、収集したデータを数値シミュレーションに取り込んで大口径のシリコン単結晶に合致するように各物性値を最適化するためには大量の計算が必要である。
【0016】
特許文献2に記載された従来技術では、第1及び第2の補正量を算出するにあたって、過去の経験やデータから適切と思われる式を適用して算出している(段落0048参照)。しかし、この手法では、装置間及びバッチ間におけるシリコン単結晶の結晶品質のばらつきの根本原因である構成部材の物性値のばらつきや経時変化については、何ら考慮されていない。したがって、特許文献2に記載された従来技術では、装置間及びバッチ間におけるシリコン単結晶の結晶品質のばらつきを低減することができない。
【0017】
半導体結晶製造装置の構成部材は、炭素を原料としているものが多く、それらは半導体結晶製造装置の使用が進むに従って劣化する。例えば、シリコン融液を貯留する石英坩堝を収容する支持坩堝は、黒鉛(グラファイト)等から構成されているが、装置内の化学反応による表面の炭化シリコン(SiC)化や減肉化が進行し、破損の原因になる(特開2008-290943号公報参照)。支持坩堝等の構成部材の破損を回避するために、従
来は、各構成部材について使用回数や使用時間を管理し、使用回数や使用時間が予め設定した値を上回った構成部材を新品と交換している。
【0018】
しかし、このような構成部材の管理方法では、使用回数や使用時間の管理だけでは把握できない構成部材の劣化を見過ごし、装置間及びバッチ間におけるシリコン単結晶の結晶品質のばらつきの原因となってしまうおそれがある。また、コストが高い構成部材であっても使用回数や使用時間が予め設定した値を上回った場合には、一律に新品と交換するため、半導体結晶製造コストを削減する上で妨げとなっている。
【0019】
本発明は、前記様々な問題を解決することを課題の一例とするものであり、これらの課題を解決することができる半導体結晶製造装置の管理方法、半導体結晶の製造方法、及び半導体結晶製造管理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記課題を解決するために、本発明に係る半導体結晶製造装置の管理方法は、半導体結晶製造装置の各構成部材の各物性値のばらつきうる範囲内において前記各物性値を変化させて複数の計算条件を、所定のシミュレーションモデルに基づいて作成し、前記複数の計算条件を用いて伝熱シミュレーションを実施し、前記半導体結晶製造装置内の温度分布を計算して計算結果を得るシミュレーションステップと、前記半導体結晶製造装置内の前記温度分布のばらつきを抑制したい対象領域における前記温度分布の前記計算結果と、前記複数の計算条件とを組み合わせた複数のデータセットを訓練データとして、入力を前記各構成部材の前記各物性値とし、出力を前記対象領域の温度分布とする第1推定モデルを、機械学習法を用いて作成する第1学習ステップと、前記各構成部材の前記各物性値のばらつきうる範囲内において、前記各構成部材の前記各物性値を変化させながら前記第1推定モデルに入力して、前記対象領域の前記温度分布を推定する推定ステップと、前記推定された前記対象領域の前記温度分布と目標とする前記対象領域の温度分布とに基づいて、前記各構成部材の前記各物性値の許容範囲を算出する第1算出ステップと、前記各構成部材の前記各物性値の各実測値と、前記許容範囲とを照らし合わせて、前記各構成部材を交換すべきか否かを決定する決定ステップとを備えていることを特徴とする。
【0021】
本発明に係る半導体結晶製造装置の管理方法において、前記決定ステップにおける前記構成部材を交換すべきとの決定に基づいて、当該構成部材の交換を指示する指示ステップをさらに備えていることを特徴とする。
【0022】
本発明に係る半導体結晶製造装置の管理方法は、半導体結晶製造装置の各構成部材の各物性値のばらつきうる範囲内において前記各物性値を変化させて複数の計算条件を、所定のシミュレーションモデルに基づいて作成し、前記複数の計算条件を用いて伝熱シミュレーションを実施し、前記半導体結晶製造装置内の温度分布を計算して計算結果を得るシミュレーションステップと、前記半導体結晶製造装置内の前記温度分布のばらつきを抑制したい対象領域における前記温度分布の前記計算結果と、前記複数の計算条件とを組み合わせた複数のデータセットを訓練データとして、入力を前記各構成部材の前記各物性値とし、出力を前記対象領域の温度分布とする第1推定モデルを、機械学習法を用いて作成する第1学習ステップと、前記各構成部材の前記各物性値のばらつきうる範囲内において、前記各構成部材の前記各物性値を変化させながら前記第1推定モデルに入力して、前記対象領域の前記温度分布を推定する推定ステップと、前記推定された前記対象領域の前記温度分布と目標とする前記対象領域の温度分布とに基づいて、前記各構成部材の前記各物性値の許容範囲を算出する第1算出ステップと、前記各構成部材のコストの高低に関するコストデータを予め取得し、前記半導体結晶製造装置内の前記温度分布の前記計算結果と、前記複数の計算条件とを組み合わせた複数のデータセットを訓練データとして、入力を、低コストの任意の前記構成部材を除いた前記各構成部材の前記各物性値及び前記目標とする
前記対象領域の温度分布とし、出力を前記低コストの任意の前記構成部材の前記物性値とする第2推定モデルを、機械学習法を用いて作成する第2学習ステップと、前記第2推定モデルに、前記低コストの任意の構成部材を除いた前記各構成部材の前記各物性値の各実測値と、前記目標とする前記対象領域の前記温度分布を入力し、前記低コストの任意の前記構成部材の物性値を算出する第2算出ステップと、前記第2推定モデルに、前記各構成部材の前記各物性値の前記各許容範囲内において、前記各構成部材の前記各物性値を変化させながら入力するとともに、前記目標とする前記対象領域の前記温度分布を入力して、前記低コストの任意の前記構成部材の前記物性値の前記許容範囲を修正する修正許容範囲を算出する第3算出ステップと、前記各構成部材の前記各物性値の各実測値と、前記許容範囲とを照らし合わせて、前記各構成部材を交換すべきか否かを決定し、前記コストデータに基づいて、高コストの前記構成部材は、前記物性値の前記実測値が対応する前記許容範囲にない場合、前記物性値と、前記修正許容範囲とを照らし合わせて、前記低コストの任意の前記構成部材の交換で代替すべきか否かを決定する決定ステップとを備えていることを特徴とする。
【0023】
本発明に係る半導体結晶製造装置の管理方法において、前記決定ステップにおける前記構成部材を交換すべきとの決定に基づいて、当該構成部材の交換を指示する指示ステップをさらに備えていることを特徴とする。
【0024】
本発明に係る半導体結晶製造装置の管理方法において、前記シミュレーションモデルは、前記半導体結晶製造装置の前記各構成部材のサイズや前記物性値に基づいて構築されていることを特徴とする。
【0025】
本発明に係る半導体結晶の製造方法は、請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の半導体結晶製造装置の管理方法を用いて、半導体結晶を製造することを特徴とする。
【0026】
本発明に係る半導体結晶製造管理システムは、半導体結晶製造装置の各構成部材の各物性値のばらつきうる範囲内において前記各物性値を変化させて複数の計算条件を、所定のシミュレーションモデルに基づいて作成し、前記複数の計算条件を用いて伝熱シミュレーションを実施し、前記半導体結晶製造装置内の温度分布を計算して計算結果を得、前記半導体結晶製造装置内の前記温度分布のばらつきを抑制したい対象領域における前記温度分布の前記計算結果と、前記複数の計算条件とを組み合わせた複数のデータセットを作成する計算部と、前記複数のデータセットを訓練データとして、入力を前記各構成部材の前記各物性値とし、出力を前記対象領域の温度分布とする第1推定モデルを、機械学習法を用いて作成する機械学習部と、前記各構成部材の前記各物性値のばらつきうる範囲内において、前記各構成部材の前記各物性値を変化させながら前記第1推定モデルに入力して、前記対象領域の前記温度分布を推定し、前記推定した前記対象領域の前記温度分布と目標とする前記対象領域の温度分布とに基づいて、前記各構成部材の前記各物性値の許容範囲を算出する推定部と、前記各構成部材の前記各物性値の各実測値と、前記許容範囲とを照らし合わせて、前記各構成部材を交換すべきか否かを決定する決定部とを備えていることを特徴とする。
【0027】
本発明に係る半導体結晶製造管理システムは、半導体結晶製造装置の各構成部材の各物性値のばらつきうる範囲内において前記各物性値を変化させて複数の計算条件を、所定のシミュレーションモデルに基づいて作成し、前記複数の計算条件を用いて伝熱シミュレーションを実施し、前記半導体結晶製造装置内の温度分布を計算して計算結果を得、前記半導体結晶製造装置内の前記温度分布のばらつきを抑制したい対象領域における前記温度分布の前記計算結果と、前記複数の計算条件とを組み合わせた複数のデータセットを作成する計算部と、前記複数のデータセットを訓練データとして、入力を前記各構成部材の前記各物性値とし、出力を前記対象領域の温度分布とする第1推定モデルを、機械学習法を用
いて作成し、前記各構成部材のコストの高低に関するコストデータを予め取得し、前記複数のデータセットを訓練データとして、入力を、低コストの任意の前記構成部材を除いた前記各構成部材の前記各物性値及び目標とする前記対象領域の温度分布とし、出力を前記低コストの任意の前記構成部材の前記物性値とする第2推定モデルを、機械学習法を用いて作成する機械学習部と、前記各構成部材の前記各物性値のばらつきうる範囲内において、前記各構成部材の前記各物性値を変化させながら前記第1推定モデルに入力して、前記対象領域の前記温度分布を推定し、前記推定した前記対象領域の前記温度分布と前記目標とする前記対象領域の前記温度分布とに基づいて、前記各構成部材の前記各物性値の許容範囲を算出し、前記第2推定モデルに、前記低コストの任意の構成部材を除いた前記各構成部材の前記各物性値の各実測値と、前記目標とする前記対象領域の前記温度分布を入力し、前記低コストの任意の前記構成部材の物性値を算出し、前記第2推定モデルに、前記各構成部材の前記各物性値の前記各許容範囲内において、前記各構成部材の前記各物性値を変化させながら入力するとともに、前記目標とする前記対象領域の前記温度分布を入力して、前記低コストの任意の前記構成部材の前記物性値の前記許容範囲を修正する修正許容範囲を算出する推定部と、前記各構成部材の前記各物性値の各実測値と、前記許容範囲とを照らし合わせて、前記各構成部材を交換すべきか否かを決定し、前記コストデータに基づいて、高コストの前記構成部材は、前記物性値の前記実測値が対応する前記許容範囲にない場合、前記物性値と、前記修正許容範囲とを照らし合わせて、前記低コストの任意の前記構成部材の交換で代替すべきか否かを決定する決定部とを備えていることを特徴とする。
【0028】
本発明に係る半導体結晶製造管理システムにおいて、前記計算部は、前記半導体結晶製造装置の前記各構成部材のサイズや前記各物性値に基づいて前記シミュレーションモデルを構築することを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、半導体結晶製造装置の構成部材の各物性値を把握し、管理できるので、目標とする装置内の温度分布を実現でき、装置間及びバッチ間におけるシリコン単結晶の結晶品質のばらつきを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の第1及び第2実施形態に係るシリコン単結晶製造装置の管理方法を適用したシリコン単結晶製造管理システムの構成の一例を示す概念図である。
図2図1に示す管理装置の構成の一例を示す機能ブロック図である。
図3】機械学習により第1推定モデルを作成することを説明するための模式図である。
図4】本発明の第1及び第2実施形態で用いるニューラルネットワークの階層構造を示す図である。
図5】本発明の第1実施形態に係るシリコン単結晶製造装置の管理方法の一例を説明するためのフローチャートである。
図6】本発明の第1実施形態に係るシリコン単結晶製造装置の管理方法の一例を説明するためのフローチャートである。
図7】機械学習により第2推定モデルを作成することを説明するための模式図である。
図8】本発明の第2実施形態に係るシリコン単結晶製造装置の管理方法の一例を説明するためのフローチャートである。
図9】本発明の第2実施形態に係るシリコン単結晶製造装置の管理方法の一例を説明するためのフローチャートである。
図10】本発明の第2実施形態に係るシリコン単結晶製造装置の管理方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下では、半導体結晶の一例として、シリコン単結晶について説明する。
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。
【0032】
[シリコン単結晶製造管理システム100の構成]
図1は本発明の第1実施形態に係るシリコン単結晶製造装置の管理方法を適用したシリコン単結晶製造管理システム100の構成の一例を示す概念図である。シリコン単結晶製造管理システム100は、シリコン単結晶製造装置9と、管理装置10とを備えている。
【0033】
シリコン単結晶製造装置9は、CZ法を用いてシリコン単結晶を製造する。シリコン単結晶製造装置9は、装置本体11と、コントローラ12とを備えている。装置本体11は、チャンバ21と、坩堝22と、ヒータ23と、引き上げ部24と、熱遮蔽体25と、断熱材26と、坩堝駆動部27と、融液温度測定部29と、直径センサ30とを備えている。
【0034】
チャンバ21は、メインチャンバ31と、このメインチャンバ31の上部に接続されたプルチャンバ32とを備えている。プルチャンバ32の上部には、不活性ガスをチャンバ21内に導入するガス導入口33Aが設けられている。ここで、不活性ガスは、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)に代表される希ガス族元素だけでなく、窒素(N)や水素(H)を含むことがある。メインチャンバ31の下部には、図示しない真空ポンプの駆動により、チャンバ21内の気体を排出するガス排出口33Bが設けられている。
【0035】
ガス導入口33Aからチャンバ21内に導入された不活性ガスは、育成中のシリコン単結晶1と熱遮蔽体25との間を下降し、熱遮蔽体25の下端とドーパント添加融液MDの液面との隙間を経た後、熱遮蔽体25と坩堝22の内壁との間、さらに坩堝22の外側に向けて流れ、その後に坩堝22の外側を下降し、ガス排出口33Bから排出される。
【0036】
坩堝22は、メインチャンバ31内に配置され、ドーパント添加融液MDを貯留する。ドーパントが添加されていないシリコン融液でももちろん良い。坩堝22は、支持坩堝41と、支持坩堝41に収容された石英坩堝42と、支持坩堝41と石英坩堝42との間に挿入された黒鉛シート43とを備えている。なお、黒鉛シート43は設けなくても良い。
【0037】
支持坩堝41は、例えば、黒鉛又は炭素繊維強化型炭素から構成されている。支持坩堝41は、例えば、炭化シリコン(SiC)化表面処理又は熱分解炭素被覆処理が施されていても良い。石英坩堝42は、二酸化シリコン(SiO)を主成分とする。黒鉛シート43は、例えば、膨張黒鉛から構成されている。
【0038】
ヒータ23は、坩堝22の外側に所定間隔を隔てて配置され、坩堝22内のドーパント添加融液MDを加熱する。引き上げ部24は、一端に種結晶2が取り付けられるケーブル51と、このケーブル51を昇降及び回転させる引き上げ駆動部52とを備えている。
【0039】
熱遮蔽体25は、少なくとも表面がカーボン材で構成されている。熱遮蔽体25は、シリコン単結晶1を製造する際にシリコン単結晶1を囲むように設けられる。熱遮蔽体25は、育成中のシリコン単結晶1に対して、坩堝22内のドーパント添加融液MDやヒータ23、坩堝22の側壁からの輻射熱を遮断するとともに、結晶成長界面である固液界面の近傍に対しては、外部への熱拡散を抑制し、シリコン単結晶1の中心部及び外周部の引き上げ軸方向の温度勾配を制御する役割を担う。
【0040】
断熱材26は、ほぼ円筒状を呈し、ヒータ23の外側に所定間隔を隔てて配置されている。断熱材26は、カーボン部材(例えば、黒鉛)から構成されている。坩堝駆動部27は、坩堝22を下方から支持する支持軸53を備え、坩堝22を所定の速度で回転及び昇降させる。
【0041】
融液温度測定部29は、例えば、赤外線サーモグラフィなどから構成されている。融液温度測定部29は、メインチャンバ31の上面に穿設された覗き窓33Dを介してドーパント添加融液MDの表面温度分布を所定時間ごとに測定し、その測定結果をコントローラ12へ供給する。
【0042】
直径センサ30は、例えば、CCDカメラなどから構成されている。直径センサ30は、メインチャンバ31の上面に穿設された覗き窓33Eを介してシリコン単結晶1の固液界面近傍の直径を所定時間ごとに測定し、その測定結果をコントローラ12へ供給する。
【0043】
コントローラ12は、内部に記憶された各種情報、融液温度測定部29並びに直径センサ30から供給される測定結果、あるいは、シリコン単結晶製造装置9を用いてシリコン単結晶1を製造する作業者による作業操作部(図示略)の操作に基づいて、各部を制御してシリコン単結晶1を製造する。
【0044】
図1に示す管理装置10は、内部に記憶された各種情報、チャンバ内温度測定部28の測定結果、あるいは、シリコン単結晶製造装置9の構成部材を管理する管理者による操作部63(図2参照)の操作に基づいて、各部を制御してシリコン単結晶製造装置9の構成部材を管理する。
【0045】
次に、管理装置10の構成の一例について説明する。図2は、管理装置10の構成の一例を示す機能ブロック図である。管理装置10は、情報取得部61と、制御部62と、操作部63と、記憶部64とを備えている。
【0046】
情報取得部61は、図1に示すチャンバ内温度測定部28から供給される測定結果を取得し、制御部62へ供給するインターフェースである。チャンバ内温度測定部28は、シリコン単結晶製造装置9が備えている構成部材の単一又は複数個所の温度を測定するための測定手段である。具体的には、チャンバ内温度測定部28は、メインチャンバ31の側面に穿設された覗き窓33Cを介してチャンバ21に収容されている断熱材の表面温度分布を所定時間ごとに測定し、その測定結果を情報取得部61へ供給する。
【0047】
制御部62は、例えば、CPU等から構成されている。制御部62は、記憶部64に記憶される各種プログラムを読み込み実行することにより、例えば、計算部91、機械学習部92、推定部93及び決定部94として機能する。
【0048】
前記各種プログラムには、伝熱解析プログラム、機械学習プログラム、推定プログラム及び決定プログラムなどが含まれる。
【0049】
伝熱解析プログラムは、シリコン単結晶製造装置9の装置構造を模擬したシミュレーションモデルを構築するとともに、伝熱シミュレーションを実行して訓練データを作成するためのものである。機械学習プログラムは、伝熱シミュレーションで作成した訓練データから機械学習法を利用して推定モデルを作成するためのものである。推定プログラムは、機械学習プログラムで作成した推定モデルにパラメータを入力して、装置内の温度分布を推定するためのものである。決定プログラムは、シリコン単結晶製造装置9の任意の構成部材を交換すべきか否かを決定するためのものである。
【0050】
計算部91は、前記伝熱解析プログラムを実行することにより、シリコン単結晶製造装置9内の構成部材間における熱輻射と伝導による伝熱を計算して装置内部の温度分布を導き出す数値シミュレーションを行う。また、計算部91は、前記伝熱解析プログラムを実行することにより、シミュレーション結果等に基づいて訓練データを作成し、機械学習部92へ供給する。前記伝熱解析プログラムは、特に限定されず、市販品を用いることができる。
【0051】
訓練データとは、目標とするネットワークの関数を定めるために、「ある入力yに対する望ましい出力z」というような、関数の入力と出力のペアの集合である。訓練データは、機械学習部92において、機械学習法を利用した推定モデルの作成に用いられる。推定モデルの作成には大量の訓練データが必要であるが、実測により訓練データを収集することは難しい。そこで、本実施形態では、計算部91が伝熱シミュレーションを実施して訓練データを作成する。
【0052】
機械学習部92は、前記機械学習プログラムを実行することにより、計算部91から供給される複数のデータセットを訓練データとして機械学習して、図3に示すように、入力を各構成部材E1、E2、・・・、Ek(kは正の整数)の物性値P1、P2、・・・、Pk(kは正の整数)とし、出力を装置内の温度分布とする第1推定モデルを作成する。
【0053】
機械学習部92が行う機械学習法としては、例えば、ニューラルネットワークや遺伝的アルゴリズムを用いた方法、サポートベクターマシン、スパースモデルなど、いずれも用いることができる。
【0054】
機械学習法とは、大量のデータの規則性をコンピュータにより発見し、得られた規則性を用いることにより、データの解析や予測に役立てる方法である。機械学習法の大きな特徴として、学習に成功していれば、訓練時に学習していない未知の情報からも結果の予測が可能になる点が挙げられる。
【0055】
本実施形態では、機械学習部92は、ニューラルネットワークを用いて装置内の温度分布の推定モデルを作成する。ニューラルネットワークは生物の神経回路網を模倣した技術である。以下、ニューラルネットワークについて説明する。
【0056】
図4に示すように、本実施形態のニューラルネットワークは、l層、m層、n層を含む階層構造を備えている。l層は入力層、m層は隠れ層、n層は出力層である。m層は2層、ニューロン数は128個とした。本実施形態では、活性化関数にはシグモイド関数を使用し、学習率の調整にはAdam(Adaptive Moment Estimation)を用いた。機械学習部92は、作成した第1推定モデルを推定部93へ供給する。
【0057】
図2に示す推定部93は、前記推定プログラムを実行することにより、各構成部材E1~Ekの各物性値P1~Pkのばらつきうる範囲内において、各構成部材E1~Ekの各物性値P1~Pkを変化させながら第1推定モデル(図3参照)に入力して、温度分布のばらつきを抑制したい対象領域の温度分布を推定する。また、推定部93は、推定した対象領域の温度分布と装置内の目標温度分布とに基づいて、各構成部材E1~Ekの使用継続が可能か否かを判断するために対応する物性値P1~Pkの許容範囲を算出する。
【0058】
図2に示す決定部94は、前記決定プログラムを実行することにより、シリコン単結晶製造装置9の各構成部材の各物性値の各実測値と、推定部93によって算出された当該構成部材の物性値の許容範囲とを照らし合わせて、各構成部材を交換すべきか否かを決定する。各構成部材の物性値の各実測値は、情報取得部61から供給されるチャンバ内の温度の測定結果に基づいて取得する。
【0059】
各構成部材の物性値の各実測値を取得する方法は、例えば、以下の通りである。チャンバ内温度測定部28は、チャンバ21内の断熱材の表面温度分布を測定し、その測定結果を情報取得部61へ供給する。情報取得部61は、チャンバ内温度測定部28から供給された測定結果を取得し、制御部62へ供給する。制御部62は、測定された表面温度分布内の複数座標について、温度情報を取得する。次に、制御部62は、取得した複数座標の温度情報、チャンバ21内の雰囲気温度、坩堝22の回転速度、ケーブル51の位置及び回転速度等の結晶成長条件を、チャンバ21内の断熱材の熱伝導率を出力するための推定モデルに入力する。これにより、チャンバ21内の断熱材の熱伝導率の推定値が演算される。詳細は、特願2018-222618号に記載されている。
【0060】
操作部63は、例えば、電源スイッチ、各種ボタン、キーボード、マウスなどから構成されている。操作部63は、管理者による操作を受け付け、当該操作に応じた信号を制御部62へ供給する。なお、操作部63から入力される各種情報は、図示しないデータベース、ネットワーク等から制御部62へ供給可能に構成しても良い。
【0061】
記憶部64は、例えば、RAMやフラッシュメモリ、HDD等、あるいはこれらの組み合わせから構成されている。記憶部64は、前記伝熱解析プログラム、前記機械学習プログラム、前記推定プログラム、前記決定プログラム等の各種プログラムを予め記憶している。また、記憶部64は、前記伝熱シミュレーションの結果や、制御部62で用いる各種データを記憶する。
【0062】
[シリコン単結晶製造装置の管理方法]
次に、前記構成を有するシリコン単結晶製造管理システム100(図1参照)を用いたシリコン単結晶製造装置の管理方法の一例について、図5及び図6に示すフローチャートを参照して説明する。まず、管理者は、管理装置10の操作部63を操作して、シリコン単結晶製造装置9の構成部材について、サイズや物性値を設定する(ステップS1)。
【0063】
サイズが設定される構成部材としては、例えば、チャンバ21の内部空間の形状、坩堝22、ヒータ23、熱遮蔽体25及び断熱材26の外形状を挙げることができる。設定される物性値としては、例えば、熱伝導率、比熱等を挙げることができる。その他に設定が必要なパラメータとしては、例えば、装置内温度、装置内圧、装置内雰囲気及び装置内における対流の発生状況、シリコン単結晶1やシリコン融液の各物性値など、経時変化はしないが、装置内の温度分布に影響を与えると思われる物性値を挙げることができる。
【0064】
次に、管理者は、操作部63を操作して、すべての構成部材について、物性値がばらつきうる範囲を設定する(ステップS2)。この物性値のばらつきうる範囲を設定する際には、管理者は、各構成部材のメーカーからの納入時におけるばらつきの他、過去にシリコン単結晶1を育成した際に使用された各構成部材の物性値が経時変化したことも考慮する。物性値がばらつきうる範囲は、メーカーが各構成部材について納入時に予め設定している保証値を中心とし、経時変化を考慮して保証値の範囲より広げて、例えば、±10%の範囲内に設定する。物性値のばらつきうる範囲は、例えば、段落0059で説明した方法で取得した各構成部材の物性値の各実測値に基づいて設定しても良い。
【0065】
次に、管理者は、操作部63を操作して、装置内において、温度分布のばらつきを抑制したい対象領域を設定する(ステップS3)。ここで、対象領域とは、経験や文献あるいはシミュレーション等により、シリコン単結晶1の品質に影響を与えることがわかっている領域である。例えば、管理者は、シリコン単結晶1の品質の一つである「結晶欠陥」のばらつきを抑制したい場合、ドーパント添加融液MDの固液界面近傍のシリコン単結晶1側を対象領域として設定する。何故なら、シリコン単結晶1の「結晶欠陥」のばらつきは
、ドーパント添加融液MDの固液界面近傍のシリコン単結晶1中の固液界面軸方向の温度勾配Gが大きな影響を与えると考えられているからである。
【0066】
次に、計算部91は、ステップS1の処理において管理者が設定した、シリコン単結晶製造装置9の構成部材のサイズや物性値に基づいて、シリコン単結晶製造装置9の装置構造を模擬したシミュレーションモデルを構築する(ステップS4)。
【0067】
次に、計算部91は、ステップS2の処理において管理者が設定した、すべての構成部材に関する物性値のばらつきうる範囲内において、各物性値をランダムに変化させた複数の計算条件を作成する(ステップS5)。後述する機械学習部92における推定モデルの作成精度を向上させるという観点から、ステップS5の処理において作成する計算条件の数は多い方が好ましい。
【0068】
次に、計算部91は、ステップS4の処理において構築したシミュレーションモデルに基づいて、ステップS5の処理において作成したすべての計算条件を用いて伝熱シミュレーションを実施し、シリコン単結晶製造装置9内の温度分布を計算する(ステップS6)。
【0069】
ステップS6の処理では、機械学習部92における推定モデルの作成精度を向上させるという観点から、計算部91は、シリコン単結晶製造装置9の装置内と同じ系や物性値測定時と同じ雰囲気を前提とした計算を行うことが好ましい。また、計算部91は、チャンバ21の内外の伝熱を熱伝導、熱伝達、熱輻射の観点から考慮して、前記伝熱シミュレーションを実施する。
【0070】
次に、計算部91は、ステップS6の処理において得られた、シリコン単結晶製造装置9内の温度分布の計算結果の中から、ステップS3の処理において設定した対象領域の温度分布の計算結果が許容されうる温度範囲にあるものを抽出する(ステップS7)。
【0071】
次に、計算部91は、ステップS7の処理において抽出した対象領域の温度分布の計算結果と、対応する計算条件とを組み合わせた複数のデータセットを作成する(ステップS8)。計算部91は、前記複数のデータセットを訓練データとして機械学習部92へ供給する。なお、訓練データは、管理者が操作部63を操作することにより機械学習部92へ供給しても良い。
【0072】
これにより、機械学習部92は、計算部91から供給される複数のデータセットを訓練データとして機械学習することにより、図3に示すように、入力を各構成部材E1~Ekの物性値P1~Pkとし、出力を装置内の温度分布とする第1推定モデルを作成し、推定部93へ供給する(ステップS9)。なお、第1推定モデルは、管理者が操作部63を操作することにより推定部93に供給されるように指示しても良い。
【0073】
次に、推定部93は、ステップS2の処理において管理者が設定した、すべての構成部材に関する物性値のばらつきうる範囲内において、各構成部材E1~Ekの物性値P1~Pkを変化させながら第1推定モデル(図3参照)に入力し、対象領域の温度分布を推定する(ステップS10)。
【0074】
次に、推定部93は、ステップS10の処理において得られた対象領域の温度分布と目標とする対象領域の温度分布とを比較し、目標とする対象領域の温度分布が得られるような物性値を算出し、その算出結果を当該構成部材の物性値の許容範囲とする(ステップS11)。以下、前記物性値の許容範囲を第1のしきい値と呼ぶことにする。
【0075】
次に、情報取得部61は、図1に示すチャンバ内温度測定部28から供給されるチャンバ21内に収容されている断熱材の表面温度分布の測定結果を取得し、制御部62へ供給する。制御部62は、前記断熱材の表面温度分布の測定結果に基づいて、すべての構成部材E1~Ek(kは正の整数)の物性値P1~Pkの実測値を取得する(図6のステップS12)。
【0076】
次に、決定部94は、すべての構成部材E1~Ek(kは正の整数)の物性値P1~Pkの実測値のうち、任意の構成部材Ex(1≦x≦k、xは正の整数)の物性値Pxの実測値が、推定部93から供給された当該構成部材Exの物性値の許容範囲内にあるか否かを判断する(ステップS13)。ステップS13の判断結果が「NO」の場合、すなわち、構成部材Exの物性値Pxが当該構成部材Exの物性値の許容範囲内にない場合には、決定部94は、ステップS14へ進む。
【0077】
ステップS14では、決定部94は、経時変化した構成部材Exの交換を指示する旨のデータをコントローラ12へ供給した後、ステップS15へ進む。これにより、コントローラ12は、例えば、図示しない表示部に構成部材Exの交換を指示するメッセージを表示する。したがって、作業者は、次のバッチ開始前に、シリコン単結晶製造装置9を停止させて開放し、図示しない表示部に表示された構成部材Exを交換する。
【0078】
一方、ステップS13の判断結果が「YES」の場合、すなわち、構成部材Exの物性値Pxが当該構成部材Exの物性値の許容範囲内にある場合には、決定部94は、何もせず、ステップS15へ進む。
【0079】
ステップS15では、決定部94は、シリコン単結晶製造装置9を構成する、すべての構成部材について交換の可否を検討したか否かを判断する。ステップS15の判断結果が「NO」の場合には、決定部94は、ステップS13へ戻り、前記ステップS13及びS14の処理を繰り返す。一方、ステップS15の判断結果が「YES」の場合、すなわち、シリコン単結晶製造装置9を構成する、すべての構成部材について交換の可否を検討した場合には、決定部94は、一連の処理を終了する。
【0080】
[第1実施形態の作用効果]
以上説明したように、第1実施形態によれば、第1推定モデルを用いることにより、各構成部材の物性値が劣化、等により変化した際の目標とする対象領域の温度分布(シリコン単結晶1の生産性・品質と結びつく指標)を速やかに推定することができる。このため、目標とする対象領域の温度分布が得られるように各構成部材の物性値の許容範囲を定めることができる。この許容範囲に収まるように構成部材を管理することにより、シリコン単結晶製造装置9の装置内の温度分布のばらつきを抑制することができる。よって、温度分布のばらつきが原因である、装置間及びバッチ間におけるシリコン単結晶1の結晶品質のばらつきを低減することができる。
【0081】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態について図面を参照して説明する。第2実施形態は、シリコン単結晶製造装置9の各構成部材を交換する際に、任意の高価な構成部材の物性値がその構成部材の使用継続が可能か否かを判断するための許容範囲(第1のしきい値)とは別に設定された許容範囲(修正許容範囲、第2のしきい値・後述)外となったとき、その構成部材より安価な構成部材を代替で交換して装置内の温度分布を許容範囲内に収めるように管理することにより、シリコン単結晶製造装置9の製造コストを低減しようとするものである。
【0082】
[シリコン単結晶製造管理システム100の構成]
第2実施形態で用いられるシリコン単結晶製造管理システム100の構成は、第1実施形態における図1図4を参照して段落0032~段落0061において説明した構成とほぼ同様であるので、以下、その要約を説明し、詳細な説明を省略する。
【0083】
シリコン単結晶製造管理システム100は、シリコン単結晶製造装置9と、管理装置10とを備えている。シリコン単結晶製造装置9は、装置本体11と、コントローラ12とを備えている。装置本体11は、チャンバ21と、坩堝22と、ヒータ23と、引き上げ部24と、熱遮蔽体25と、断熱材26と、坩堝駆動部27と、融液温度測定部29と、直径センサ30とを備えている。
【0084】
管理装置10は、情報取得部61と、制御部62と、操作部63と、記憶部64とを備えている。制御部62は、計算部91、機械学習部92、推定部93及び決定部94として機能する。計算部91の機能は、前記第1実施形態と同様であるが、機械学習部92、推定部93及び決定部94の機能については、以下に示す機能が追加されている。この追加された機能に対応した機械学習プログラム、推定プログラム及び決定プログラムが記憶部64に予め記憶されている。
【0085】
機械学習部92は、計算部91から供給される複数のデータセットを訓練データとして機械学習することにより、図3に示す前記第1推定モデルを作成する他、図7に示す推定モデルである第2推定モデルを作成する。第2推定モデルを作成するためには、シリコン単結晶製造装置9のすべての構成部材のコストの高低に関するコストデータを予め取得して記憶部64に記憶しておく必要がある。
【0086】
図7において、入力側の構成部材E11、E12、・・・、E1p(pは正の整数)は、シリコン単結晶製造装置9の構成部材の中で後述する低コストの任意の構成部材E2xを除いた構成部材を意味している。入力側には、目標とする前記対象領域の温度分布が入力される。一方、出力側の構成部材E2x(1≦x≦q、x及びqは正の整数)は、シリコン単結晶製造装置9の構成部材の中でコストが低い構成部材のうち、任意の構成部材を意味している。物性値P2xは、この構成部材E2xの物性値を意味している。
【0087】
ここにおいて、構成部材のコストの高低は、相対的なものであって、絶対的なものではない。したがって、コストは各構成部材間で相対的に決まるものである。例えば、ある構成部材は、他の構成部材との比較では高コストとされるが、別の構成部材との比較では低コストとされる。
【0088】
構成部材は、主として、黒鉛(グラファイト)、黒鉛以外の炭素系など材質が限られている。このため、構成部材のコストの高低は基本的には各構成部材のサイズによって決まる。一般に、装置内の外周部に設置される構成部材のサイズは大きく、シリコン単結晶1の近傍に設置される構成部材のサイズは小さい。シリコン単結晶1の結晶品質に大きな影響を与えるのはシリコン単結晶1近傍の温度分布である。したがって、装置内の外周部に設置されるサイズの大きな構成部材の経時劣化の影響を、シリコン単結晶1近傍に設置されるサイズの小さな構成部材の交換で代替できれば、シリコン単結晶1の結晶品質のばらつきを抑制しつつ、シリコン単結晶製造装置9の製造コストを低減できることになる。
【0089】
ここで、前記第2推定モデルを作成する技術的意義について説明する。前記したように、シリコン単結晶製造装置9の構成部材には、チャンバ21(特に、メインチャンバ31)、坩堝22、ヒータ23、熱遮蔽体25、断熱材26、及びケーブル51などが含まれる。これらの構成部材は、当然経時変化する。
【0090】
シリコン単結晶1の品質のばらつきを抑制するためには、経時変化した構成部材を適切
な時期に新品と交換することが望ましい。一方、シリコン単結晶製造装置9全体のコストを極力削減する必要がある。前記構成部材にはコストが高いものと低いものとがあるので、シリコン単結晶製造装置9全体のコストを削減するためには、コストが高い構成部材の交換頻度を可能な限り少なくすることが好ましい。
【0091】
そこで、本実施形態では、まず、シリコン単結晶1の品質のばらつきに直接関わる指標であるシリコン単結晶製造装置9の装置内の目標温度分布を形成できるベストな構成部材の組み合わせを設定する。
【0092】
次に、前記構成部材の組み合わせを満足するように、経時変化した、前記構成部材の中で高コストの構成部材を新品と交換する代わりに、前記構成部材の中で低コストの構成部材を新品と交換することにより、前記高コストの構成部材の経時変化の影響を低減し、シリコン単結晶製造装置9全体のコストを削減する。このため、前記高コストの構成部材と代替可能な前記低コストの構成部材について前記第2推定モデルを作成するのである。シリコン単結晶製造装置9の各構成部材のコストの高低に関するコストデータは、予め記憶部64に記憶されている。
【0093】
推定部93は、前記推定プログラムを実行することにより、任意の構成部材E2xを除いた構成部材E11~E1pの各物性値のばらつきうる範囲内において、各構成部材E11~E1pの各物性値P11、P12、・・・、P1pを変化させながら入力するとともに、シリコン単結晶製造装置9の装置内の目標温度分布を第2推定モデル(図7参照)に入力することにより、交換対象である、前記構成部材の中で低コストの任意の構成部材E2xの物性値P2xを算出する。
【0094】
[シリコン単結晶製造装置の管理方法]
次に、前記構成を有するシリコン単結晶製造管理システム100を用いたシリコン単結晶製造装置の管理方法の一例について、図8図10に示すフローチャートを参照して説明する。ただし、図8に示すステップS1~S10の処理については、段落0062~段落0073において説明した図5に示すステップS1~S10の処理と同様であるので、以下、その要約を説明し、詳細な説明を省略する。
【0095】
管理者が操作部63を操作して、シリコン単結晶製造装置9の構成部材について、サイズや物性値、物性値のばらつきうる範囲及び装置内の温度分布のばらつきを抑制したい対象領域をそれぞれ設定する。
【0096】
これにより、計算部91は、シリコン単結晶製造装置9の装置構造を模擬したシミュレーションモデルを構築した後、複数の計算条件を作成し、前記シミュレーションモデルに基づいて伝熱シミュレーションを実施し、シリコン単結晶製造装置9内の温度分布を計算する。次に、計算部91は、対象領域の温度分布の計算結果が許容されうる温度範囲を抽出し、複数のデータセットを作成した後、前記複数のデータセットを訓練データとして機械学習部92へ供給する。
【0097】
これにより、機械学習部92は、機械学習することにより、図3に示す第1推定モデルを作成するので、推定部93は、すべての構成部材に関する物性値のばらつきうる範囲内において、各構成部材E1~Ekの物性値を変化させながら第1推定モデルに入力し、対象領域の温度分布を推定する(ステップS10)。
【0098】
次に、推定部93は、対象領域の温度分布と目標とする対象領域の温度分布とを比較し、目標とする対象領域の温度分布が得られるような物性値を算出し、その算出結果を当該構成部材の物性値の許容範囲(第1のしきい値)とする(ステップS11)。
【0099】
前記構成部材の物性値の許容範囲のうち、低コストの構成部材の物性値の許容範囲は前記第1実施形態と同様である。一方、高コストの構成部材の物性値の許容範囲は、後述する他の低コストの構成部材との代替を考慮して、当該構成部材の交換時期を示す前記第1実施形態における許容範囲よりも緩やかなものである。
【0100】
これにより、情報取得部61がチャンバ内温度測定部28からチャンバ21内に収容されている断熱材の表面温度分布の測定結果を取得して制御部62へ供給するので、制御部62は、前記断熱材の表面温度分布の測定結果に基づいて、すべての構成部材E1~Ek(kは正の整数)の物性値P1~Pkの実測値を取得する(図9のステップS12)。
【0101】
次に、決定部94は、任意の構成部材Exの物性値Pxの実測値が、推定部93から供給された当該構成部材Exの物性値の許容範囲(第1のしきい値)内にあるか否かを判断する(ステップS13)。ステップS13の判断結果が「NO」の場合、すなわち、構成部材Exの物性値Pxが当該構成部材Exの物性値の許容範囲内にない場合には、決定部94は、ステップS21へ進む。
【0102】
ステップS21では、決定部94は、記憶部64に記憶されたコストデータを参照して、構成部材Exが高価である否かを判断する。ステップS21の判断結果が「NO」の場合、すなわち、構成部材Exが高価でない場合には、決定部94は、ステップS14へ進む。
【0103】
ステップS14では、決定部94は、経時変化した構成部材Exの交換を指示する旨のデータをコントローラ12へ供給した後、ステップS15へ進む。これにより、コントローラ12は、例えば、図示しない表示部に構成部材Exの交換を指示するメッセージを表示する。したがって、作業者は、次のバッチ開始前に、シリコン単結晶製造装置9を停止させて開放し、図示しない表示部に表示された構成部材Exを交換する。
【0104】
一方、ステップS13の判断結果が「YES」の場合、すなわち、構成部材Exの物性値Pxが当該構成部材Exの物性値の許容範囲内にある場合には、決定部94は、何もせず、ステップS15へ進む。
【0105】
ステップS15では、決定部94は、シリコン単結晶製造装置9を構成する、すべての構成部材について交換の可否を検討したか否かを判断する。ステップS15の判断結果が「NO」の場合には、決定部94は、ステップS13へ戻り、前記ステップS13以降の処理を繰り返す。一方、ステップS15の判断結果が「YES」の場合、すなわち、シリコン単結晶製造装置9を構成する、すべての構成部材について交換の可否を検討した場合には、決定部94は、一連の処理を終了する。
【0106】
一方、ステップS21の判断結果が「YES」の場合、すなわち、記憶部64に記憶されたコストデータを参照して、構成部材Exが高価であると判断した場合には、決定部94は、機械学習部92に対して第2推定モデルの作成を指示する。
【0107】
これにより、機械学習部92は、計算部91から供給される複数のデータセットを訓練データとして機械学習することにより、図7に示すように、入力を低コストの任意の構成部材E2xを除いた構成部材E11~E1p(pは正の整数)の各物性値P11~P1p及びシリコン単結晶製造装置9の装置内の目標温度分布とし、出力を前記低コストの任意の構成部材E2x(1≦x≦q、x及びqは正の整数)の物性値P2xとする第2推定モデルを作成し、推定部93へ供給する(図10のステップS22)。なお、第2推定モデルは、管理者が操作部63を操作することにより推定部93へ供給されるように指示して
も良い。
【0108】
次に、推定部93は、第2推定モデルに、低コストの任意の構成部材E2xを除いた構成部材E11~E1pの物性値P11~P1pの実測値を入力するとともに、シリコン単結晶製造装置9の装置内の目標温度分布を入力し、前記低コストの任意の構成部材E2xの物性値P2xを算出する(ステップS23)。
【0109】
次に、推定部93は、第2推定モデルに、前記構成部材Exの物性値Pxを当該構成部材Exの物性値Pxの許容範囲(第1のしきい値)内において変化させながら入力するとともに、シリコン単結晶製造装置9の装置内の目標温度分布を入力し、前記低コストの任意の構成部材E2xの物性値P2xの許容範囲を前記第1のしきい値から修正する修正許容範囲を算出する(ステップS24)。以下、前記物性値P2xの修正許容範囲を第2のしきい値と呼ぶことにする。
【0110】
次に、決定部94は、ステップS23の処理において算出した前記低コストの任意の構成部材E2xの物性値P2xが、ステップS24の処理において算出した当該構成部材E2xの物性値P2xの修正許容範囲(第2のしきい値)内であるか否かを判断する(ステップS25)。ステップS25の判断結果が「YES」の場合には、決定部94は、ステップS26へ進む。
【0111】
ステップS26では、決定部94は、当該構成部材E2xの交換を指示する旨のデータをコントローラ12へ供給した後、図9に示すステップS13へ戻り、前記ステップS13以降の処理を繰り返す。
【0112】
これにより、コントローラ12は、例えば、図示しない表示部に構成部材Exの交換を指示するメッセージを表示する。したがって、作業者は、次のバッチ開始前に、シリコン単結晶製造装置9を停止させて開放し、図示しない表示部に表示された構成部材E2xを交換する。
【0113】
あるいは、作業者は、当該構成部材E2xの物性値P2xを有し、当該構成部材E2xと同一形状を有し、当該構成部材E2xより低コスト部材が存在する場合には、その部材と交換しても良い。例えば、熱遮蔽体25は、同一のカーボン材で構成され、同一形状のものを複数のメーカから購入し、備蓄しておく。これらの熱遮蔽体25は、同一の物性値を有し同一形状であっても、メーカによりコストが異なることがある。したがって、作業者は、熱遮蔽体25の在庫の中に低コスト部材があれば交換できる。
【0114】
一方、ステップS25の判断結果が「NO」の場合、すなわち、構成部材E2xの物性値P2xが当該構成部材E2xの物性値P2xの修正許容範囲(第2のしきい値)内にない場合には、決定部94は、ステップS27へ進む。ステップS27では、決定部94は、すべての低コストの構成部材E2xについて交換の可否を検討したか否かを判断する。
【0115】
ステップS27の判断結果が「NO」の場合には、決定部94は、ステップS23へ戻り、前記ステップS23~S25の処理を繰り返す。一方、ステップS25の判断結果が「YES」の場合、すなわち、すべての低コストの構成部材E2xについて交換の可否を検討した場合には、決定部94は、ステップS28へ進む。
【0116】
ステップS28では、決定部94は、経時変化した高価な構成部材Exの交換を指示する旨のデータをコントローラ12へ供給した後、図9に示すステップS13へ戻り、前記ステップS13以降の処理を繰り返す。
【0117】
これにより、コントローラ12は、例えば、図示しない表示部に構成部材Exの交換を指示するメッセージを表示する。したがって、作業者は、次のバッチ開始前に、シリコン単結晶製造装置9を停止させて開放し、図示しない表示部に表示された構成部材Exを交換する。
【0118】
[第2実施形態の作用効果]
以上説明したように、第2実施形態によれば、第1推定モデルを用いることにより、各構成部材の物性値が劣化、等により変化した際の目標とする対象領域の温度分布(シリコン単結晶1の生産性・品質と結びつく指標)を速やかに推定することができる。このため、目標とする対象領域の温度分布が得られるように各構成部材の物性値の許容範囲を定めることができる。
また、第2推定モデルに、第1推定モデルで得られた任意の構成部材Exの物性値Pxを当該構成部材Exの物性値Pxの許容範囲(第1のしきい値)内で変化させながら入力することにより、目標とする対象領域の温度分布を実現するための、前記構成部材の中で低コストの任意の構成部材E2xの物性値P2xの修正許容範囲(第2のしきい値)を算出することができる。これにより、前記構成部材の中で高コストの構成部材を交換する代わりに、前記構成部材の中で低コストの構成部材を修正された物性値の許容範囲(第2のしきい値)内で交換することができるので、シリコン単結晶1の品質のばらつきを抑制しつつ、シリコン単結晶製造装置9の操業のコストを削減することができる。
【実施例
【0119】
次に、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0120】
[第1推定モデルの作成]
まず、シリコン単結晶製造装置9の装置構造と引き上げ条件を模擬したシミュレーションモデルを構築した。構成部材は、黒鉛、黒鉛以外の炭素系などの材質から構成された50個以上からなる。黒鉛から構成された構成部材は熱伝導率のばらつきうる幅を10~65W/mKと設定し、黒鉛以外の炭素系から構成された構成部材は熱伝導率のばらつきうる幅を0.05~1.05W/mKと設定した。
【0121】
各構成部材の熱伝導率を前記ばらつきうる幅の範囲内でランダムに変化させ、15,625通りの計算条件を作成した。次に、構築したシミュレーションモデルに基づいて、すべての計算条件に対して伝熱シミュレーションを実施し、シリコン単結晶製造装置9内の温度分布を計算した。
【0122】
この計算結果の中から、シリコン単結晶1の結晶中心における固液界面の1,685Kから1,650Kまでの温度分布となったデータセットをすべて抽出した。ここで、シリコン単結晶1の結晶中心における固液界面の温度分布を抽出したのは、シリコン単結晶1の「結晶欠陥」のばらつきに大きな影響を与えると考えられているからである。
【0123】
次に、抽出した複数のデータセットを訓練データとして機械学習することにより、入力を構成部材の熱伝導率、出力をシリコン単結晶製造装置9の装置内の温度分布とする第1推定モデルを作成した。
【0124】
[各構成部材の管理値の設定]
次に、すべての構成部材に関する物性値のばらつきうる範囲内において、各構成部材の熱伝導率を変化させながら第1推定モデルに入力して、温度分布を出力させた。その際に、各構成部材のメーカーの保証値の熱伝導率を第1推定モデルに入力した場合のシリコン単結晶1の結晶中心における固液界面の温度勾配を1.0とした場合、シリコン単結晶1
の結晶中心における固液界面の温度勾配の許容範囲を0.95から1.05までと設定した。前記許容範囲内となる各構成部材の熱伝導率の範囲を各構成部材の管理値とした。
【0125】
シリコン単結晶1の育成前に各構成部材の温度実測値から熱伝導率の測定値を算出し、各熱伝導率が設定した管理値の範囲外であった場合は当該構成部材を新品に交換する管理方法を設定した。この管理方法は、前記第1実施形態に係る管理方法を採用している。
【0126】
図1に示すシリコン単結晶製造装置9には、水平磁場が印加される。水平磁場の磁力線は、図1において、紙面直交方向に流れる。坩堝22にシリコン原料300kgを投入し、結晶長1500mm、直径300mmのシリコン単結晶1を複数本製造した。目標とするシリコン単結晶1の結晶品質は、COP(Crystal Originated Particle)がない状態
(以下「COPフリー」という。)とし、全条件で引き上げ条件を固定した。
【0127】
同一構造を有するシリコン単結晶製造装置9を3台選定し、それぞれA装置、B装置、C装置とした。まず、比較例として、従来通り、構成部材の使用時間による管理方法で各装置30本ずつ、計90本のシリコン単結晶1を育成した。
【0128】
次に、実施例として、比較例と同一のA装置、B装置及びC装置に対し前記第1実施形態に係る管理方法を適用し、許容範囲外となった構成部材を交換して目標とする温度分布を維持しながら、各装置30本ずつ、計90本のシリコン単結晶1を育成した。育成された各シリコン単結晶を構成する直胴部の結晶長300mmから1200mmまでの範囲内において、100mm間隔でシリコンウェーハを切り出し、各シリコンウェーハにおけるCOPフリーの割合を確認した。
【0129】
まず、第1実施形態に係る管理方法を適用する前(比較例)と適用した後(実施例)とにおいて、装置間の差がどのように変化したかについて確認するため、各装置の30本のCOPフリー割合及び3装置間の標準偏差を調査した。この調査結果を表1に示す。
【0130】
【表1】
【0131】
表1からは、第1実施形態に係る管理方法を適用することにより、各装置におけるCOPフリー率が向上し、かつ、装置間でCOPフリー率の差が減少していることが分かる。
【0132】
次に、それぞれ30本のシリコン単結晶1のCOPフリー率の標準偏差を調査した。その調査結果を表2に示す。
【0133】
【表2】
【0134】
表2からは、第1実施形態に係る管理方法を適用することにより、同一装置のバッチ間でCOPフリー率の差が低減していることが分かる。
【0135】
以上説明したように、第1実施形態に係る管理方法を適用することにより、シリコン単結晶1の結晶品質の装置間及びバッチ間のばらつきを低減することができた。また、表1から分かるように、第1実施形態に係る管理方法を適用することにより、COPフリー率が向上している。このことは、適切な時期に適切な構成部材を交換し、シリコン単結晶1内の温度分布の装置間及びバッチ間におけるばらつきを抑制することにより、目標とするCOPフリーのシリコン単結晶1をより確実に製造できていることを示している。
【0136】
[実施形態の変形例]
以上、本発明の各実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【0137】
例えば、前記の各実施形態では、半導体結晶がシリコン単結晶である例を示したが、これに限定されない。半導体結晶は、シリコン多結晶、炭化シリコン(SiC)結晶、GaAs単結晶、GaAs多結晶、InP単結晶、InP多結晶、ZnS単結晶、ZnS多結晶、ZnSe単結晶、ZnSe多結晶のいずれでも良い。また、上述の各実施形態では、本発明をCZ法を用いて半導体結晶を製造する場合に適用する例を示したが、これに限定されず、本発明は、FZ法を用いて半導体結晶を製造する場合にももちろん適用することができる。
【0138】
また、前記の各実施形態では、シリコン単結晶1の結晶品質が結晶欠陥である例を示したが、これに限定されず、例えば、シリコン単結晶1の結晶品質を酸素濃度とし、石英坩堝42の表面温度を制御対象としても良い。シリコン単結晶1の結晶欠陥としてBMD(Bulk Micro Defect)に着目した場合、シリコン単結晶1の温度が1,273Kから14
73Kまで、あるいは、873K近辺の熱履歴がBMDに影響を与えるので、シリコン単結晶1の当該温度領域を温度分布のばらつきを抑制したい対象領域としても良い。
【0139】
また、前記の各実施形態では、各構成部材の物性値を同等に扱う例を示したが、これに限定されない。構成部材のシリコン単結晶製造装置9の装置内の温度分布への影響度(寄与度)は構成部材ごとで異なる場合がある。そこで、例えば、構成部材の装置内の温度分布への寄与度を百分率で表し、第1推定モデルを用いて各構成部材の物性値の許容範囲を算出する際に、第1推定モデルに入力する各物性値に前記寄与度を乗算しても良い。このように構成すれば、より実態に則した各構成部材の物性値の許容範囲を算出することができる。
【0140】
また、前記の各実施形態では、管理装置10とコントローラ12とを別個に設ける例を示したが、これに限定されず、管理装置10とコントローラ12とを1つの装置で構成しても良い。また、管理装置10とコントローラ12とを別個に設けた場合、情報取得部61をコントローラ12に設けるとともに、管理装置10を構成する制御部62が有する決定部94の機能をコントローラ12が有するように構成しても良い。そして、コントローラ12が備えた決定部94は、管理装置10から供給される各構成部材の各物性値と、情報取得部61が取得した各種データとに基づいて、各構成部材の交換の可否を決定する。
【0141】
また、前記の各実施形態では、ステップS14、S26及びS28において構成部材の交換の指示を出した後に処理を終了する例を示したが、これに限定されない。当該構成部材の交換後、直ちに操業せずに、一旦交換した構成部材の物性値を実測し、その物性値の実測値が許容範囲内である場合には、シリコン単結晶製造装置9の図示しない表示部に操業が可能である旨の表示を行い、その物性値の実測値が許容範囲外である場合には、シリコン単結晶製造装置9の図示しない表示部に交換すべき旨の表示を行うように構成しても
良い。このように構成すれば、例えば、交換した断熱材にクラックが入っていたなど、当初より所望の物性値を有していない構成部材を使用しなくて済む。
【符号の説明】
【0142】
1…シリコン単結晶、2…種結晶、9…シリコン単結晶製造装置、10…管理装置、11…装置本体、12…コントローラ、21…チャンバ、22…坩堝、23…ヒータ、24…引き上げ部、25…熱遮蔽体、26…断熱材、27…坩堝駆動部、28…チャンバ内温度測定部、29…融液温度測定部、30…直径センサ、31…メインチャンバ、32…プルチャンバ、33A…ガス導入口、33B…ガス排出口、33C、33D,33E…覗き窓、41…支持坩堝、42…石英坩堝、43…黒鉛シート、51…ケーブル、52…引き上げ駆動部、53…支持軸、61…情報取得部、62…制御部、63…操作部、64…記憶部、91…計算部、92…機械学習部、93…推定部、94…決定部、100…シリコン単結晶製造管理システム、MD…ドーパント添加融液。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10