(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】防汚性物品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20230502BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230502BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230502BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
B32B15/08 U
B32B27/00 101
B32B27/30 D
C09K3/18 102
C09K3/18 104
(21)【出願番号】P 2020525562
(86)(22)【出願日】2019-06-10
(86)【国際出願番号】 JP2019022975
(87)【国際公開番号】W WO2019240093
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2018112799
(32)【優先日】2018-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 珠実
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 剛
(72)【発明者】
【氏名】関 満
(72)【発明者】
【氏名】坂根 好彦
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-156061(JP,A)
【文献】特開2017-201005(JP,A)
【文献】特表2010-507022(JP,A)
【文献】特開2014-24288(JP,A)
【文献】特表2007-523776(JP,A)
【文献】国際公開第2019/069642(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B05D 1/00-7/26
C09K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の少なくとも一部が金属からなる基材と、
前記表面に設けられるプライマー層と、該プライマー層上に設けられる防汚層を有する防汚性物品であって、
前記プライマー層は、ケイ素原子に加水分解性基が結合した加水分解性シリル基を有し、フッ素原子を含まない、重量平均分子量が500~200,000のシラン化合物であって、前記加水分解性基を前記シラン化合物全体に対して30質量%以上の割合で含有する第1のシラン化合物を用いて形成される層であり、
前記防汚層は、ペルフルオロポリエーテル基と、加水分解性シリル基とを有する第2のシラン化合物を用いて形成される層であ
り、前記防汚層全体に占める前記第2のシラン化合物の反応物の割合が90質量%以上であることを特徴とする、防汚性物品。
【請求項2】
前記第1のシラン化合物は、主鎖がシロキサン結合で形成されたシラン化合物である請求項1に記載の防汚性物品。
【請求項3】
前記第2のシラン化合物は、-(C
aF
2aO)
b-(aは、1~6の整数であり、bは、2以上の整数であり、-(C
aF
2aO)
b-単位は直鎖であっても分岐鎖であってもよく、炭素数の異なる2種以上の-(C
aF
2aO)
b-単位を有していてもよい)で表されるポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を有し、かつ該ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖の少なくとも一方の末端に連結基を介して加水分解性シリル基を有するシラン化合物である請求項1または2に記載の防汚性物品。
【請求項4】
前記第2のシラン化合物は、下記式(S3)で示される請求項3に記載の防汚性物品。
[A-O-(C
aF
2aO)
b-]Q[-SiL
mR
3-m]
p (S3)
式(S3)中の記号は以下のとおりである。
Aは、炭素数1~6のペルフルオロアルキル基または-Q
10-SiL
mR
3-mである。
(C
aF
2aO)
bにおいて、aは、1~6の整数であり、bは、2以上の整数であり、-(C
aF
2aO)
b-単位は直鎖であっても分岐鎖であってもよく、炭素数の異なる2種以上の-(C
aF
2aO)
b-単位を有していてもよい。
Qは(1+p)価の連結基である。
Q
10は2価の連結基である。
pは1~10の整数である。
Lは加水分解性基である。
Rは水素原子または1価の炭化水素基である。
mは1~3の整数である。
【請求項5】
前記第2のシラン化合物は、下記式(1-1Ha)で示される化合物、下記式(1-1Fa)で示される化合物、下記式(1-3a)で示される化合物、下記式(1-4a)で示される化合物、及び下記式(1-5a)で示される化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1または2に記載の防汚性物品。
A
1
-O-(CF
2
CF
2
O-CF
2
CF
2
CF
2
CF
2
O)
n
-CF
2
CF
2
OCF
2
CF
2
CF
2
CH
2
O(CH
2
)
3
-SiL
m
R
3-m
…(1-1Ha)、
A
1
-O-(CF
2
CF
2
O-CF
2
CF
2
CF
2
CF
2
O)
n
-CF
2
CF
2
OCF
2
CF
2
CF
2
CF
2
O(CH
2
)
3
-SiL
m
R
3-m
…(1-1Fa)、
A
1
-O-(CF
2
CF
2
O-CF
2
CF
2
CF
2
CF
2
O)
n
-CF
2
CF
2
OCF
2
CF
2
CF
2
C(=O)NH(CH
2
)
3
-SiL
m
R
3-m
…(1-3a)、
A
1
-O-(CF
2
CF
2
O-CF
2
CF
2
CF
2
CF
2
O)
n
-CF
2
CF
2
OCF
2
CF
2
CF
2
(CH
2
)
2
-SiL
m
R
3-m
…(1-4a)、
A
1
-O-(CF
2
CF
2
O-CF
2
CF
2
CF
2
CF
2
O)
n
-CF
2
CF
2
OCF
2
CF
2
CF
2
(CH
2
)
3
-SiL
m
R
3-m
…(1-5a)。
ただし、A
1
は、CF
3
-、CF
3
CF
2
-、CF
3
CF
2
OCF
2
CF
2
CF
2
CF
2
-、CF
3
OCF
2
CF
2
-、CF
3
OCF
2
CF
2
OCF
2
CF
2
-またはCF
3
CF
2
OCF
2
CF
2
OCF
2
CF
2
-である。
nは2以上の整数である。
Lは加水分解性基である。
Rは水素原子または1価の炭化水素基である。
mは1~3の整数である。
【請求項6】
前記プライマー層の厚みは、3~200nmである請求項1~
5のいずれか1項に記載の防汚性物品。
【請求項7】
前記防汚層の厚みは、10~100nmである請求項1~
6のいずれか1項に記載の防汚性物品。
【請求項8】
表面の少なくとも一部が金属からなる基材と、前記表面に設けられるプライマー層と、前記プライマー層上に設けられる防汚層を有する防汚性物品を製造する方法であって、
前記表面に、ケイ素原子に加水分解性基が結合した加水分解性シリル基を有し、フッ素原子を含まない、重量平均分子量が500~200,000のシラン化合物であって、前記加水分解性基を前記シラン化合物全体に対して30質量%以上の割合で含有する第1のシラン化合物と、第1の溶媒を含むプライマー層用組成物を塗布し、前記第1のシラン化合物を反応させてプライマー層を得ること、および
前記プライマー層上に、ペルフルオロポリエーテル基と加水分解性シリル基とを有する第2のシラン化合物を含む防汚層用組成物を付着させ前記第2のシラン化合物を反応させて防汚層を得ること
を含
み、
前記防汚層全体に占める前記第2のシラン化合物の反応物の割合が90質量%以上であることを特徴とする、防汚性物品の製造方法。
【請求項9】
前記第1のシラン化合物は、主鎖がシロキサン結合で形成されたシラン化合物である請求項
8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記第1の溶媒は、非フッ素系有機溶媒、または非フッ素系有機溶媒と水を含む請求項
8または
9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記プライマー層用組成物を、前記第1のシラン化合物の付着量として50~1000mg/m
2となるように塗布する請求項
8~
10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記プライマー層用組成物が、前記第1のシラン化合物を該組成物の全量に対して0.1~3.0質量%の割合で含有する請求項
8~
11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記第2のシラン化合物は、-(C
aF
2aO)
b-(aは、1~6の整数であり、bは、2以上の整数であり、-(C
aF
2aO)
b-単位は直鎖であっても分岐鎖であってもよく、炭素数の異なる2種以上の-(C
aF
2aO)
b-単位を有していてもよい)で表されるポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を有し、かつ該ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖の少なくとも一方の末端に連結基を介して加水分解性シリル基を有するシラン化合物である請求項
8~
12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記第2のシラン化合物は、下記式(1-1Ha)で示される化合物、下記式(1-1Fa)で示される化合物、下記式(1-3a)で示される化合物、下記式(1-4a)で示される化合物、及び下記式(1-5a)で示される化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項8~12のいずれか1項に記載の製造方法。
A
1
-O-(CF
2
CF
2
O-CF
2
CF
2
CF
2
CF
2
O)
n
-CF
2
CF
2
OCF
2
CF
2
CF
2
CH
2
O(CH
2
)
3
-SiL
m
R
3-m
…(1-1Ha)、
A
1
-O-(CF
2
CF
2
O-CF
2
CF
2
CF
2
CF
2
O)
n
-CF
2
CF
2
OCF
2
CF
2
CF
2
CF
2
O(CH
2
)
3
-SiL
m
R
3-m
…(1-1Fa)、
A
1
-O-(CF
2
CF
2
O-CF
2
CF
2
CF
2
CF
2
O)
n
-CF
2
CF
2
OCF
2
CF
2
CF
2
C(=O)NH(CH
2
)
3
-SiL
m
R
3-m
…(1-3a)、
A
1
-O-(CF
2
CF
2
O-CF
2
CF
2
CF
2
CF
2
O)
n
-CF
2
CF
2
OCF
2
CF
2
CF
2
(CH
2
)
2
-SiL
m
R
3-m
…(1-4a)、
A
1
-O-(CF
2
CF
2
O-CF
2
CF
2
CF
2
CF
2
O)
n
-CF
2
CF
2
OCF
2
CF
2
CF
2
(CH
2
)
3
-SiL
m
R
3-m
…(1-5a)。
ただし、A
1
は、CF
3
-、CF
3
CF
2
-、CF
3
CF
2
OCF
2
CF
2
CF
2
CF
2
-、CF
3
OCF
2
CF
2
-、CF
3
OCF
2
CF
2
OCF
2
CF
2
-またはCF
3
CF
2
OCF
2
CF
2
OCF
2
CF
2
-である。
nは2以上の整数である。
Lは加水分解性基である。
Rは水素原子または1価の炭化水素基である。
mは1~3の整数である。
【請求項15】
前記防汚層用組成物を、前記第2のシラン化合物の付着量として30~80mg/m
2となるように付着させる請求項
8~
14のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項16】
前記防汚層用組成物はさらに第2の溶媒を含有し、前記プライマー層への付着の方法が塗布である請求項
8~
15のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項17】
前記防汚層用組成物の全量に対して前記第2のシラン化合物を0.1~0.5質量%の割合で含有する請求項
16に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚性に優れるとともに、該防汚性について耐摩耗性等の耐久性を有する防汚性物品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種基材の表面に撥水撥油性を付与するために、基材の表面に表面張力の低いコーティングを有することで、汚れの付着を抑制したり、付着した汚れを除去しやすくしたりする性質、すなわち、防汚性を向上させた防汚性物品が知られている。
【0003】
上記防汚性を有するコーティングを得るためのコーティング組成物には、従来から含フッ素化合物が用いられてきた。例えば、ガラス、セラミック等の無機材料からなる基材の表面に撥油性および/または撥水性等を付与するためのコーティング組成物には、1つ以上の含フッ素基(例えば、ペルフルオロアルキル基、ペルフルオロエーテル基、およびペルフルオロポリエーテル基)を有する含フッ素シラン化合物が使用されてきた。
【0004】
ここで、含フッ素化合物を用いて基材表面に防汚性コーティング(防汚層)を設けた防汚性物品において、特に、基材表面の少なくとも一部が金属からなる場合には、防汚層表面の洗浄や摩擦を繰り返すと、防汚性が低下することがあった。これを解決するために、特許文献1においては、少なくとも2つの独立して選択されるシラン基を有する第2又は第3アミノ官能性化合物を含むプライマー組成物で、金属表面を処理して金属表面に下塗り層を形成し、該下塗り層上に含フッ素化合物を用いて防汚層を形成する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、金属表面に形成された防汚層は、必ずしも十分な耐摩耗性等の耐久性を有しているとは言い難かった。
【0007】
本発明は、上記観点からなされたものであって、金属表面に含フッ素化合物を用いて形成された防汚層を有する防汚性物品において、防汚性に優れるとともに、該防汚性について耐摩耗性等の耐久性を有する防汚性物品、および該防汚性物品を効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] 表面の少なくとも一部が金属からなる基材と、前記表面に設けられるプライマー層と、該プライマー層上に設けられる防汚層を有する防汚性物品であって、
前記プライマー層は、ケイ素原子に加水分解性基が結合した加水分解性シリル基を有し、フッ素原子を含まない、重量平均分子量が500~200,000のシラン化合物であって、前記加水分解性基を前記シラン化合物全体に対して30質量%以上の割合で含有する第1のシラン化合物を用いて形成される層であり、
前記防汚層は、ペルフルオロポリエーテル基と、加水分解性シリル基とを有する第2のシラン化合物を用いて形成される層であることを特徴とする、防汚性物品。
[2] 前記第1のシラン化合物は、主鎖がシロキサン結合で形成されたシラン化合物である[1]に記載の防汚性物品。
[3] 前記第2のシラン化合物は、-(CaF2aO)b-(aは、1~6の整数であり、bは、2以上の整数であり、-(CaF2aO)b-単位は直鎖であっても分岐鎖であってもよく、炭素数の異なる2種以上の-(CaF2aO)b-単位を有していてもよい)で表されるポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を有し、かつ該ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖の少なくとも一方の末端に連結基を介して加水分解性シリル基を有するシラン化合物である[1]または[2]に記載の防汚性物品。
[4] 前記第2のシラン化合物は、下記式(S3)で示される[3]に記載の防汚性物品。
[A-O-(CaF2aO)b-]Q[-SiLmR3-m]p (S3)
式(S3)中の記号は以下のとおりである。
Aは、炭素数1~6のペルフルオロアルキル基または-Q10-SiLmR3-mである。
(CaF2aO)bにおいて、aは、1~6の整数であり、bは、2以上の整数であり、-(CaF2aO)b-単位は直鎖であっても分岐鎖であってもよく、炭素数の異なる2種以上の-(CaF2aO)b-単位を有していてもよい。
Qは(1+p)価の連結基である。
Q10は2価の連結基である。
pは1~10の整数である。
Lは加水分解性基である。
Rは水素原子または1価の炭化水素基である。
mは1~3の整数である。
[5] 前記プライマー層の厚みは、3~200nmである[1]~[4]のいずれかに記載の防汚性物品。
[6] 前記防汚層の厚みは、10~100nmである[1]~[5]のいずれかに記載の防汚性物品。
[7] 表面の少なくとも一部が金属からなる基材と、前記表面に設けられるプライマー層と、前記プライマー層上に設けられる防汚層を有する防汚性物品を製造する方法であって、
前記表面に、ケイ素原子に加水分解性基が結合した加水分解性シリル基を有し、フッ素原子を含まない、重量平均分子量が500~200,000のシラン化合物であって、前記加水分解性基を前記シラン化合物全体に対して30質量%以上の割合で含有する第1のシラン化合物と、第1の溶媒を含むプライマー層用組成物を塗布し、前記第1のシラン化合物を反応させてプライマー層を得ること、および
前記プライマー層上に、ペルフルオロポリエーテル基と加水分解性シリル基とを有する第2のシラン化合物を含む防汚層用組成物を付着させ前記第2のシラン化合物を反応させて防汚層を得ること、を含むことを特徴とする、防汚性物品の製造方法。
[8] 前記第1のシラン化合物は、主鎖がシロキサン結合で形成されたシラン化合物である[7]に記載の製造方法。
[9] 前記第1の溶媒は、非フッ素系有機溶媒、または非フッ素系有機溶媒と水を含む[7]または[8]に記載の製造方法。
[10] 前記プライマー層用組成物を、前記第1のシラン化合物の付着量として50~1000mg/m2となるように塗布する[7]~[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11] 前記プライマー層用組成物が、前記第1のシラン化合物を該組成物の全量に対して0.1~3.0質量%の割合で含有する[7]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12] 前記第2のシラン化合物は、-(CaF2aO)b-(aは、1~6の整数であり、bは、2以上の整数であり、-(CaF2aO)b-単位は直鎖であっても分岐鎖であってもよく、炭素数の異なる2種以上の-(CaF2aO)b-単位を有していてもよい)で表されるポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を有し、かつ該ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖の少なくとも一方の末端に連結基を介して加水分解性シリル基を有するシラン化合物である[7]~[11]のいずれかに記載の製造方法。
[13] 前記防汚層用組成物を、前記第2のシラン化合物の付着量として30~80mg/m2となるように付着させる[7]~[12]のいずれかに記載の製造方法。
[14] 前記防汚層用組成物はさらに第2の溶媒を含有し、前記プライマー層への付着の方法が塗布である[7]~[13]のいずれかに記載の製造方法。
[15] 前記防汚層用組成物の全量に対して前記第2のシラン化合物を0.1~0.5質量%の割合で含有する[14]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の防汚性物品によれば、金属表面に含フッ素化合物を用いて形成された防汚層を有する防汚性物品において、防汚性に優れるとともに、該防汚性について耐摩耗性等の耐久性に優れる。
本発明の製造方法によれば、金属表面に含フッ素化合物を用いて形成される防汚層を有する防汚性物品の製造方法において、防汚性に優れるとともに、該防汚性について耐摩耗性等の耐久性に優れる防汚性物品を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書における用語の意味、及び記載の仕方は下記のとおりである。
式で表される化合物または基は、その式の番号を付した化合物または基としても表記する。例えば、「式(1)で表される化合物」は、「化合物(1)」とも表記する。
数値範囲を表す「~」では、下限値および上限値を含む。また、下限値および上限値の単位が同じ場合には、下限値についての単位を省略する場合がある。
【0011】
「(メタ)アクリロキシ」の表記は、アクリロキシとメタクリロキシの総称として用いられる。
【0012】
[防汚性物品]
本発明の防汚性物品は、表面の少なくとも一部が金属からなる基材と、前記金属からなる表面に設けられるプライマー層と、前記プライマー層上に設けられる防汚層を有する防汚性物品である。プライマー層は、防汚層が形成される領域を含む、金属からなる表面の少なくとも一部に形成される。
【0013】
上記プライマー層は、ケイ素原子に加水分解性基が結合した加水分解性シリル基を有し、フッ素原子を含まない、重量平均分子量が500~100,000のシラン化合物であって、前記加水分解性基を化合物全体に対して30質量%以上の割合で含有する第1のシラン化合物を用いて形成される層である。
【0014】
本明細書において、第1のシラン化合物における加水分解性基の含有量(質量%)は、核磁気共鳴分光法(NMR)法により分析して求められる。また、第1のシラン化合物の重量平均分子量(以下、Mwとも記す。)は、ポリスチレンを標準物質としてゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法で測定される値である。
【0015】
上記防汚層は、ペルフルオロポリエーテル基と加水分解性シリル基とを有する第2のシラン化合物を用いて形成される層である。
第1のシラン化合物および第2のシラン化合物が有する加水分解性シリル基とは、ケイ素原子に加水分解性基が直接結合した基であり、加水分解反応することによってシラノール基(Si-OH)を形成し得る基である。加水分解性基とは、水により分解する基である。
【0016】
本発明の防汚性物品においては、プライマー層を形成する際に、第1のシラン化合物が有する加水分解性シリル基が加水分解反応することによってシラノール基(Si-OH)が形成される。このシラノール基は、金属表面の極性基と反応して金属-O-Si結合を形成する。また、該シラノール基は分子間で反応してSi-O-Si結合を形成する。さらに、該シラノール基は、防汚層の形成に用いる第2のシラン化合物の加水分解性シリル基から生成されるシラノール基と反応してSi-O-Si結合を形成する。
なお、金属表面の極性基とは、水素結合を形成する基であり、具体的には、水酸基、カルボキシル基、アミノ基等が好ましく、水酸基が特に好ましい。
【0017】
本発明では、第1のシラン化合物が上記所定のMwを有するとともに上記所定量のケイ素原子に結合する加水分解性基を有することで、基材の金属表面とプライマー層間、プライマー層内部、およびプライマー層と防汚層間における、上記結合がそれぞれバランスよくかつ十分な量形成されると考えられる。これにより、基材の金属表面とプライマー層、およびプライマー層と防汚層が強固に接合されると考えられる。
【0018】
防汚層は、上記のようにしてプライマー層とSi-O-Si結合により接合されるとともに、防汚層内では第2のシラン化合物が有する加水分解性シリル基から形成されたシラノール基が分子間で反応してSi-O-Si結合を形成する。一方、第2のシラン化合物が有するペルフルオロポリエーテル基は、上記反応に関与せず防汚層の表層に存在するため、優れた防汚性が発揮される。
【0019】
したがって、本発明の防汚性物品において、プライマー層は、第1のシラン化合物が有する加水分解性基の一部または全部が加水分解反応した状態の第1のシラン化合物の反応物を含む。同様に、防汚層は、第2のシラン化合物の加水分解性基の一部または全部が加水分解反応した状態の第2のシラン化合物の反応物を含む。
【0020】
以下に、本発明の防汚性物品の構成部材をそれぞれ説明する。
(基材)
表面の少なくとも一部が金属からなる基材であれば特に制限されない。基材は表面の全部が金属からなってもよく、一部が金属からなってもよい。また、表面の全部が同じ金属からなってもよく、異なる金属からなってもよい。
【0021】
基材は、例えば、全体が単一の金属からなる構成であってよく、金属からなる層(以下、金属層とも記す。)が複数積層された積層体であってもよい。さらには、金属層と、金属以外の無機材料からなる層(以下、無機材料層とも記す。)および/または有機材料からなる層(以下、有機材料層とも記す。)との積層体であって、表層の1層が金属層である積層体であってもよい。または、基材の表面が、同一面内において、金属からなる領域と、金属以外の無機材料および/または有機材料からなる領域を有する構成であってもよい。金属層または有機材料層の表面の少なくとも一部に金属めっきを施した基材であってもよい。
【0022】
基材の形状は、特に限定されず、板状、フィルム(薄膜)状、棒状、筒状等が挙げられる。基材が板状である場合、平板であってもよく、主面の一部または全部が曲率を有する形状であってもよい。また、表面形状は平滑であってもよく、凹凸があってもよい。
基材において、プライマー層が形成される表面を構成する金属としては、室温で固体の金属、合金等が、特に制限なく挙げられる。
【0023】
上記金属として具体的には、クロム、鉄、アルミニウム、銅、ニッケル、亜鉛、スズ、炭素鋼、鉛、チタン、金、銀、これらの合金等が挙げられる。合金としては、SUS304、SUS316、SUS303、SUS317、SUS403等のステンレス鋼、真鍮(黄銅)、青銅、白銅、丹銅、赤銅、洋銀、ジュラルミン、はんだ等が挙げられる。また、金属表面として、ニッケル・クロムメッキ、ニッケルメッキ、クロムメッキ、亜鉛メッキ等の表面が挙げられる。
【0024】
(プライマー層)
プライマー層は第1のシラン化合物を用いて形成される。プライマー層は、上記のとおり第1のシラン化合物の反応物を含む構成であるが、第1のシラン化合物の反応物以外の任意成分を含んでもよい。プライマー層全体に占める第1のシラン化合物の反応物の割合は、防汚層とプライマー層およびプライマー層と基材表面との密着性がさらに優れる点から、80~100質量%が好ましく95~100質量%がより好ましい。
【0025】
プライマー層の厚みは、第1のシラン化合物の単分子厚であれば、防汚層とプライマー層およびプライマー層と基材表面との密着性に優れ、防汚性物品の防汚性の耐久性に優れるため、好ましい。プライマー層の厚さが厚すぎると、プライマー層が脆くなり、耐久性が低下する。プライマー層の厚みは、具体的には3~200nmが好ましく、5~80nmがより好ましい。なお、プライマー層の厚みは、例えば薄膜解析用X線回折計ATX-G(RIGAKU社製)を用いて、X線反射率法によって反射X線の干渉パターンを得て、該干渉パターンの振動周期から算出できる。
【0026】
<第1のシラン化合物>
第1のシラン化合物は、以下の(i-1)および(i-2)の要件を満足するシラン化合物であれば特に制限されない。
(i-1)加水分解性シリル基を有し、該加水分解性シリル基が有する加水分解性基の化合物全量に対する割合が30質量%以上である。また、フッ素原子を含まない。
(i-2)Mwが500~200,000である。
【0027】
第1のシラン化合物におけるMwは、500未満であると第2のシラン化合物との密着性の点で問題であり、200,000を超えると成膜性の点で問題である。該Mwは、700以上が好ましく、1,000以上がより好ましい。該Mwは、150,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましい。
【0028】
第1のシラン化合物における加水分解性基の含有量が30質量%未満では、形成されるプライマー層と金属表面との結合が十分でなく、得られる防汚性物品において所期の耐久性が得られない。加水分解性基の含有量は、30質量%以上であり、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。
第1のシラン化合物における加水分解性基の含有量は、分子設計上可能な範囲で高いことが好ましい。加水分解性基の含有量は、具体的には、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましい。
【0029】
第1のシラン化合物として、具体的には、主鎖がシロキサン結合で形成された化合物であって、(i-1)および(i-2)を満足する化合物(以下、化合物(I)ともいう。)、主鎖が炭素-炭素結合を主体として形成された化合物であって、(i-1)および(i-2)を満足する化合物(以下、化合物(II)ともいう。)が挙げられる。
【0030】
化合物(I)の場合、加水分解性シリル基は、主鎖を構成するケイ素原子に加水分解性基が結合した構成である。シロキサン結合で形成される主鎖は、直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよく、3次元網目構造であってもよい。第1のシラン化合物としては、金属への密着性向上の点で、化合物(I)が好ましく、膜強度を高められる点で3次元網目構造の化合物(I)が特に好ましい。
【0031】
主鎖が3次元網目構造を有する化合物(I)としては、3官能以上の加水分解性基シリル基を含む低分子量シラン化合物を部分加水分解(共)縮合物した化合物が挙げられる。
主鎖が3次元網目構造を有する化合物(I)を得るための低分子量シラン化合物としては、例えば、下記式(S1)で表される化合物が挙げられる。なお、化合物(S1)には、単官能または2官能の加水分解性シラン化合物が含まれる。主鎖が3次元網目構造を有する化合物(I)を得るためには、3官能以上の加水分解性シリル基を有する化合物(S1)を必須として、必要に応じて単官能または2官能の加水分解性シラン化合物(S1)を用いて、(i-1)および(i-2)を満足できるように、部分加水分解縮合を行う。なお、単官能、2官能、3官能とは、いずれも分子中のケイ素原子に直接結合する加水分解性基の数である。すなわち下記式(S1)におけるeである。
【0032】
R11
dSiL11
eR12
4-d-e …(S1)
ただし、式(S1)中の記号は以下のとおりである。
R11:反応性有機基
R12:1価の飽和炭化水素基またはアリール基
L11:加水分解性基
d:0、1または2
e:1~4の整数
d+e:2~4
R11、R12、L11が複数存在する場合には、それぞれ同一であっても異なってもよい。
【0033】
R11は、連結基および反応性基を有する基、または加水分解性基以外の反応性基である。すなわち、反応性基を加水分解性基と加水分解性基以外の反応性基に分類すると、R11は、連結基と加水分解性基とを有する構成、連結基と加水分解性基以外の反応性基とを有する構成、または、加水分解性基以外の反応性基である構成のいずれかである。連結基とは、ケイ素原子と、加水分解性基または加水分解性以外の反応性基とを結合する基を意味する。加水分解性基とは、例えば、アルコキシ基、ハロゲン原子、アシル基、イソシアナート基(-NCO)、アミノ基等であり、アミノ基、イソシアネート基がより好ましい。以下、R11における加水分解性基および加水分解性基以外の反応性基をまとめて単に反応性基ともいう。
本明細書において、「反応性有機基」の用語は、R11において説明したのと同様の意味で用いられる。
【0034】
R11が有する反応性基として、具体的には、ビニル基、エポキシ基、(メタ)アクリロキシ基、アミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、スチリル基等が挙げられる。なお、本明細書においてアミノ基とは、-NHR13(R13は、Hまたは1価の炭化水素基)をいう。R13が示す1価の炭化水素基としては、炭素数1~3のアルキル基または炭素数6~10のアリール基が好ましい。また、R11が、反応性基としてアミノ基、イソシアネート基を有する場合、これらの反応性基をケイ素原子に結合する連結基をR11は併せて有する。
【0035】
R11の炭素数は2~10が好ましく、2~9がより好ましい。なお、R11の好ましい炭素数は反応性基により異なる。
反応性基がビニル基の場合、炭素数は好ましくは2~4であり、2がより好ましい。反応性基がビニル基であって、R11の炭素数が2である場合、R11はビニル基(-CH=CH2)自体である。
【0036】
反応性基がエポキシ基の場合は、エポキシ基を含む反応性基としてグリシジルオキシ基、エポキシシクロヘキシル基が好ましい。R11が反応性基を末端に有する場合、反応性基とケイ素原子は連結基を介して結合される。グリシジルオキシ基やエポキシシクロヘキシル基とケイ素原子を結合する連結基として、炭素数1~6のアルキレン基が好ましく、エチレン基またはプロピレン基が特に好ましい。
【0037】
反応性基がアミノ基であって、R11がアミノ基を末端に有する場合、反応性基とケイ素原子は連結基を介して結合される。アミノ基とケイ素原子を結合する連結基として、炭素-炭素原子間に窒素原子を有してもよい炭素数1~10のアルキレン基が好ましく、-(CH2)2または3-NH-(CH2)2または3-、エチレン基またはプロピレン基が特に好ましい。
【0038】
R11が、ビニル基、エポキシ基、アミノ基以外の反応性基を有する場合は、反応性基とケイ素原子を結合する連結基を有していてもよく、連結基を有する場合には、炭素数1~10のアルキレン基が好ましく、エチレン基またはプロピレン基が特に好ましい。
【0039】
L11は、加水分解性基である。L11として、具体的には、アルコキシ基、ハロゲン原子、アシル基、イソシアナート基(-NCO)、アミノ基等が挙げられる。アルコキシ基としては、炭素数1~5のアルコキシ基が好ましい。ハロゲン原子としては、塩素原子が好ましい。これらのなかでも、L11としては、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基またはエトキシ基が特に好ましい。
【0040】
R12は1価の飽和炭化水素基またはアリール基である。1価の飽和炭化水素基は、直鎖であってもよく、分岐、環構造を含んでいてもよい。R12の炭素数は1~6が好ましく、1~4がより好ましい。アリール基としては、炭素数6~10のアリール基が好ましく、フェニル基が特に好ましい。R12は、メチル基またはエチル基であることがより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0041】
化合物(S1)において、eが4の化合物は、4官能の化合物である。4官能の化合物として具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラプロポキシシラン等が挙げられる。
化合物(S1)は、R11を有すると、耐水性の観点から好ましい。R11を有する化合物(S1)の具体例は以下のとおりである。
【0042】
反応性基としてビニル基を有する化合物(S1)として、ビニルジメチルモノメトキシシラン、ビニルジメチルモノエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、N-2-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0043】
反応性基としてエポキシ基を有する化合物(S1)として、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0044】
反応性基として(メタ)アクリロキシ基を有する化合物(S1)として、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0045】
反応性基としてアミノ基を有する化合物(S1)として、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-N’-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0046】
反応性基としてイソシアネート基またはメルカプト基を有する化合物(S1)として、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
また、R11を有さずR12を有する化合物(S1)として、具体的には、トリメトキシ(メチル)シラン、ベンジルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0047】
3次元網目構造を有する化合物(I)を得るための低分子量シラン化合物としては、4官能の化合物(S1)が好ましい。主鎖が3次元網目構造を有する化合物(I)を得るための、低分子量シラン化合物は、4官能の化合物(S1)のみから形成されることが好ましい。
また、4官能の化合物(S1)とR11を有する化合物(S1)を、得られる部分加水分解(共)縮合物において、(i-1)および(i-2)を満足する組成で用いるのも好ましい。
【0048】
主鎖が3次元網目構造を有する化合物(I)として、市販品を用いてもよい。市販品としては、いずれもコルコート社製の商品名で、コルコートPX(化合物(I)として、Mw;1,000~100,000、加水分解性基の含有量;80質量%以上を、固形分濃度2質量%で含有する溶液)コルコートN-103X(化合物(I)として、Mw;20,000~30,000、加水分解性基の含有量;80質量%以上を、固形分濃度2質量%で含有する溶液)等が挙げられる。
【0049】
主鎖が直鎖の化合物(I)としては、例えば、下記式(S2)で示される化合物が挙げられる。
【0050】
【0051】
式(S2)中、L11は加水分解性基であり、具体的な態様は、上記の式(S1)におけるL11と同様である。R1はL11以外の有機置換基を示し、具体的には、上記式(S1)における反応性有機基(R11)、反応性を有しない一価有機基、例えば上記式(S1)におけるR12等の基が挙げられる。R2は、独立にL11またはR1である。nおよびmは整数であり、化合物(S2)が(i-1)および(i-2)を満足できる範囲に調整される。mは0であってもよい。
【0052】
化合物(S2)として、市販品を用いてもよい。市販品としては、いずれも信越化学工業社製の商品名で、KR-517、X-41-1059A、KR-518、X-41-1818、KR-519等が挙げられる。これら化合物の分子構成、Mw等を表1に示す。表1において、有機置換基は、例えば、化合物(S2)のR11における反応性基およびR12を示す。
【0053】
【0054】
なお、主鎖が分岐鎖の化合物(I)も同様に(i-1)および(i-2)を満足すれば、特に制限なく、第1のシラン化合物として用いることができる。
【0055】
化合物(II)としては、例えば、反応性基としてビニル基、(メタ)アクリロキシ基、スチリル基などの不飽和二重結合を有する基を有する化合物(S1)と各種ラジカル重合性モノマーを、共重合して得られる化合物が挙げられる。なお、該化合物は、(i-1)および(i-2)を満たす共重合体である。用いるラジカル重合性モノマーとしては、(メタ)アクリレート、スチレン、ビニルエステル、塩化ビニル、エチレン、プロピレン等が挙げられる。
【0056】
また、ビニル基を有する化合物(S1)を有機過酸化物の存在下にポリエチレン、ポリプロピレン等の脂肪族オレフィンポリマーとグラフト化反応させることにより、側鎖に加水分解性シリル基を有するポリオレフィン系ポリマーが得られる。化合物(II)としては、上記グラフト化反応により得られるグラフト重合体が、(i-1)および(i-2)を満足する化合物が挙げられる。
【0057】
なお、化合物(II)は、(i-1)および(i-2)を満足する限り、側鎖に加水分解性シリル基以外の有機置換基を有してもよい。有機置換基として、具体的には、上記式(S1)における反応性有機基(R11)、反応性を有しない一価有機基、例えば上記式(S1)におけるR12等の基が挙げられる。反応性有機基における反応性基としては、化合物(S1)におけるR11が有する反応性基と同様の基が挙げられる。
【0058】
このような、化合物(II)として、市販品を用いてもよい。市販品としては、X-12-1048(信越化学工業社製、商品名、Mw;1000、加水分解性基としてのメトキシ基の含有量;31質量%、側鎖反応性基としてのアクリロキシ基の含有量;14質量%)等が挙げられる。
【0059】
プライマー層の形成には、第1のシラン化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、第1のシラン化合物は2種以上のシラン化合物からなる場合、(i-2)の要件はそれぞれのシラン化合物が満足する必要があるが、(i-1)の要件については、2種以上を合わせた場合に満足すればよく、必ずしもそれぞれのシラン化合物が満足する必要はない。ただし、それぞれのシラン化合物が(i-1)および(i-2)の要件を満足することが好ましい。
【0060】
プライマー層が任意に含有できる成分としては、例えば、第1のシラン化合物以外の加水分解性シラン化合物の反応物等が挙げられる。プライマー層が任意成分を含有する場合、プライマー層全体に占める任意成分の割合は、0~20質量%が好ましく、0~5質量%がより好ましい。
【0061】
(防汚層)
防汚層は第2のシラン化合物を用いて形成される。防汚層は、上記のとおり第2のシラン化合物の反応物を含む構成であるが、第2のシラン化合物の反応物以外の任意成分を含んでもよい。防汚層全体に占める第2のシラン化合物の反応物の割合は、90~100質量%が好ましく、95~100質量%がより好ましい。
【0062】
防汚層の厚みは、第2のシラン化合物の単分子厚であれば、防汚層とプライマー層の密着性に優れ、防汚性物品の防汚性の耐久性に優れる。防汚層の厚さが厚すぎると、利用効率の低下を招き、また、防汚層の透明性を損なうおそれがある。防汚層の厚みは、具体的には10~100nmが好ましく、10~50nmがより好ましい。なお、防汚層の厚みの測定は、プライマー層の厚みの測定方法と同様に行うことができる。
【0063】
<第2のシラン化合物>
第2のシラン化合物はペルフルオロポリエーテル基と加水分解性シリル基とを有する化合物である。ペルフルオロポリエーテル基は、1価の基であってもよく、2価の基であるポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であってもよい。第2のシラン化合物の加水分解性基の割合は、該化合物全体に対して10質量%以下であることが好ましい。
【0064】
第2のシラン化合物として、具体的には、-(CaF2aO)b-(aは、1~6の整数であり、bは、2以上の整数であり、-(CaF2aO)b-単位は直鎖であっても分岐鎖であってもよく、炭素数の異なる2種以上の-(CaF2aO)b-基を有していてもよい)で表されるポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を有し、かつ該ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖の少なくとも一方の末端に連結基を介して加水分解性シリル基を有するシラン化合物(以下、シラン化合物(A)とも記す)が挙げられる。
【0065】
シラン化合物(A)として、具体的には、下記式(S3)で示される化合物が挙げられる。
[A-O-(CaF2aO)b-]Q[-SiLmR3-m]p (S3)
ただし、式(S3)中の記号は以下のとおりである。
Aは、炭素数1~6のペルフルオロアルキル基または-Q10-SiLmR3-mである。
(CaF2aO)bにおいて、aは、1~6の整数であり、bは、2以上の整数であり、各-CaF2aO-単位は、同一でも異なっていてもよい。
Qは(1+p)価の連結基である。
Q10は2価の連結基である。
pは1~10の整数である。
Lは加水分解性基である。
Rは水素原子または1価の炭化水素基である。
mは1~3の整数である。
【0066】
Aは、耐摩擦性の点から、炭素数1~3のペルフルオロアルキル基が好ましい。ペルフルオロアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。
【0067】
Aが炭素数1~6のペルフルオロアルキル基である場合の具体例としては、下記が挙げられる。
CF3-、
CF3CF2-、
CF3(CF2)2-、
CF3(CF2)3-、
CF3(CF2)4-、
CF3(CF2)5-、
CF3CF(CF3)-等。
なかでも、Aとしては、防汚層に初期の撥水撥油性、汚れ除去性を十分に付与する点からは、CF3-またはCF3CF2-が好ましい。
【0068】
Aが-Q10-SiLmR3-mの場合、Q10は、例えば、下式(2-1)~(2-6)で表される2価の連結基である。なお、式(2-1)~(2-6)においては、右側にSiが結合する。
-Rf7CX2O(CH2)3- …(2-1)、
-Rf7CX2OCH2CH(CH3)- …(2-2)、
-Rf7C(=O)NHCkH2k- …(2-3)、
-Rf7(CH2)2- …(2-4)、
-Rf7(CH2)3- …(2-5)、
-Rf7 …(2-6)
ただし、式(2-1)~(2-6)中、Rf7は炭素数1~20のペルフルオロアルキレン基、Xは水素原子またはフッ素原子、kは1以上の整数をそれぞれ示す。
【0069】
pが1の場合、Qは2価の連結基であり、Q10と同様である。
pが2以上の場合、Qは、例えば、炭化水素基であり、末端または炭素原子-炭素原子間に、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、ウレタン結合、フェニレン基、-S-、2価アミノ基、シルアルキレン構造、シルアリーレン構造、シロキサン構造(環状シロキサン構造を含む)を有してもよく、炭化水素基の水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。炭化水素基の水素原子が水酸基に置換されていてもよいが、置換する水酸基の個数は1~5個が好ましい。炭化水素基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。Qにおける炭素原子数は1~20が好ましく、1~10がより好ましい。
【0070】
Lは、加水分解性基である。Lとしては、アルコキシ基、ハロゲン原子、アシル基、イソシアナート基(-NCO)等が挙げられる。アルコキシ基としては、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましい。
Lとしては、工業的な製造が容易な点から、炭素数1~4のアルコキシ基またはハロゲン原子が好ましい。ハロゲン原子としては、塩素原子が特に好ましい。Lとしては、塗布時のアウトガスが少なく、化合物(S3)の保存安定性に優れる点から、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましく、化合物(S3)の長期の保存安定性が必要な場合にはエトキシ基が特に好ましく、塗布後の反応時間を短時間とする場合にはメトキシ基が特に好ましい。
【0071】
Rは、水素原子または1価の炭化水素基である。1価の炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリル基等が挙げられる。Rとしては、1価の炭化水素基が好ましく、1価の飽和炭化水素基が特に好ましい。1価の飽和炭化水素基の炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1~2が特に好ましい。Rとしては、合成が簡便である点から、炭素数が好ましくは1~6、より好ましくは1~3、特に好ましくは炭素数が1または2のアルキル基である。
【0072】
mは、1~3の整数であり、2または3が好ましく、3が特に好ましい。分子中にLが複数存在することによって、基材の表面との結合がより強固になる。mが2以上である場合、1分子中に存在する複数のLは互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。原料の入手容易性や製造容易性の点からは、互いに同じであることが好ましい。
【0073】
加水分解性シリル基(-SiLmR3-m)としては、-Si(OCH3)3、-SiCH3(OCH3)2、-Si(OCH2CH3)3、-SiCl3、-Si(OCOCH3)3、または-Si(NCO)3が好ましい。工業的な製造における取扱いやすさの点から、-Si(OCH3)3が特に好ましい。
【0074】
シラン化合物(S3)において、-(CaF2aO)b-は、例えば、-(Rf1O)x1(Rf2O)x2(Rf3O)x3(Rf4O)x4(Rf5O)x5(Rf6O)x6-(Rf1は炭素数1のペルフルオロアルキレン基、Rf2は炭素数2のペルフルオロアルキレン基、Rf3は炭素数3のペルフルオロアルキレン基、Rf4は炭素数4のペルフルオロアルキレン基、Rf5は炭素数5のペルフルオロアルキレン基、Rf6は炭素数6のペルフルオロアルキレン基であり、x1、x2、x3、x4、x5およびx6はそれぞれ独立に0以上の整数であり、x1、x2、x3、x4、x5およびx6の合計は2以上であり、各繰り返し単位は、ブロック、交互、ランダムのいずれで存在していてもよい)で示される。
【0075】
シラン化合物(S3)の具体例としては、工業的に製造しやすく、取扱いやすく、防汚層に初期の撥水撥油性、汚れ除去性を十分に付与できる点から、下記の化合物が好ましい。
A1-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)n-CF2CF2OCF2CF2CF2CH2O(CH2)3-SiLmR3-m …(1-1Ha)、
A1-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)n-CF2CF2OCF2CF2CF2CF2O(CH2)3-SiLmR3-m …(1-1Fa)、
A1-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)n-CF2CF2OCF2CF2CF2C(=O)NH(CH2)3-SiLmR3-m …(1-3a)、
A1-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)n-CF2CF2OCF2CF2CF2(CH2)2-SiLmR3-m …(1-4a)、
A1-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)n-CF2CF2OCF2CF2CF2(CH2)3-SiLmR3-m …(1-5a)。
ただし、A1は、CF3-、CF3CF2-、CF3CF2OCF2CF2CF2CF2-、CF3OCF2CF2-、CF3OCF2CF2OCF2CF2-またはCF3CF2OCF2CF2OCF2CF2-である。nは2以上の整数である。SiLmR3-mは、上記と同様である。
【0076】
【化2】
式中、nおよびmはそれぞれ独立に1以上の整数であり、nおよびmの合計は2以上である。
【0077】
【化3】
式中、nおよびmはそれぞれ独立に1以上の整数であり、nおよびmの合計は2以上である。
【0078】
【化4】
式中PFPEは、CF
3CF
2O(CF
2CF
2O)
n(CF
2O)
mCF
2CH
2-を示す。ただし、nおよびmはそれぞれ独立に1以上の整数であり、nおよびmの合計は2以上である。
【0079】
【化5】
式中、nおよびmはそれぞれ独立に1以上の整数であり、nおよびmの合計は2以上である。
【0080】
【化6】
式中、nおよびmはそれぞれ独立に1以上の整数であり、nおよびmの合計は2以上である。
【0081】
【化7】
式中、nは2以上の整数である。
【化8】
【0082】
【化9】
式中、nは2以上の整数、mは1~10の整数、Meはメチル基である。
【0083】
化合物(1-1Ha)、(1-1Fa)、(1-3a)、(1-4a)、(1-5a)は、例えば、国際公開2013/121984号に記載された方法で製造することができる。
【0084】
防汚層の形成には、第2のシラン化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。防汚層が任意に含有できる成分としては、例えば、第2のシラン化合物以外の加水分解性シラン化合物、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の金属酸化物の微粒子、染料、顔料、防汚性材料、硬化触媒、各種樹脂等が挙げられる。防汚層が任意成分を含有する場合、該任意成分の割合は、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。防汚層全体に占める任意成分の割合は、例えば、1~10質量%とすることができる。
【0085】
また、防汚層は、任意成分として、不純物を含んでいてもよい。不純物とは、第2のシラン化合物の製造上不可避の化合物を意味する。具体的には、第2のシラン化合物の製造工程で生成した副生成物および製造工程で混入した成分である。防汚層が不純物を含有する場合、防汚層全体に占める不純物の割合は、5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましい。
【0086】
(防汚性物品)
本発明の防汚性物品は、表面の少なくとも一部が金属からなる基材と、前記金属からなる表面に、上記プライマー層と上記防汚層をその順に有する。本発明の防汚性物品は、必要に応じて、これら以外の他の部材を有してもよい。プライマー層は、基材表面のうち金属からなる表面の少なくとも一部に形成される。プライマー層の形成領域は防汚層の形成領域を含んでいればよく、必要に応じて防汚層の形成領域より広い領域に形成されてもよい。
本発明の防汚性物品は、前記基材の金属表面に、第1のシラン化合物を用いてプライマー層を形成し、該プライマー層上に第2のシラン化合物を用いて防汚層を形成することで得られる。
【0087】
[防汚性物品の製造方法]
本発明の防汚性物品の製造方法は、以下の(I)および(II)の工程を有する。
(I)基材の金属からなる表面に、第1のシラン化合物と、第1の溶媒を含むプライマー層用組成物を塗布し、第1のシラン化合物を反応させてプライマー層を得る工程(以下、プライマー層形成工程ともいう。)
(II)プライマー層上に、第2のシラン化合物を含む防汚層用組成物を付着させ第2のシラン化合物を反応させて防汚層を得る工程(以下防汚層形成工程ともいう。)
【0088】
ここで、第1のシラン化合物は、上に説明した、(i-1)および(i-2)の要件を満足する第1のシラン化合物である。第2のシラン化合物は、上に説明した、ペルフルオロポリエーテル基と加水分解性シリル基とを有する第2のシラン化合物である。
【0089】
本発明の製造方法によれば、プライマー層に係る第1のシラン化合物が(i-1)および(i-2)の要件を満足することで、金属表面に均一なプライマー層が十分な密着性をもって形成できる。
【0090】
本発明の製造方法は、(I)工程、(II)工程以外に、追加の工程を有してもよい。追加の工程としては、(I)の工程の前に行う、プライマー層が形成される基材の金属表面を活性化処理する工程(以下、(Ib)工程)を有することが好ましい。また、本発明の製造方法においては、(II)防汚層形成工程の後に、該防汚層に対する後処理を行う工程(以下、(IIa)工程)を有してもよい。以下、各工程について説明する。
【0091】
(Ib)工程
(Ib)工程は、金属表面を活性化処理する工程である。金属表面を活性化処理するとは、該表面に反応性基が存在する状態に改質することをいう。これにより、金属表面に第1のシラン化合物がより結合しやすくなる。
本発明において、金属表面の活性化処理は、通常、金属表面を活性化処理するのに用いられる乾式または湿式の処理が特に制限なく適用可能である。乾式処理としては、紫外線、電子線、X線などの活性エネルギー線を表面に照射する処理、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理、イトロ処理等を用いることができる。湿式処理としては、表面を酸ないしアルカリ溶液に接触させる処理を例示できる。本発明において、好ましく用いられる活性化処理は、コロナ処理またはプラズマ処理であり、コロナ処理またはプラズマ処理と、湿式のアルカリ処理とを組み合わせることが好ましい。
【0092】
コロナ処理は、金属表面に極性基を生成させて粗面化する処理のことである。コロナ処理としては、公知の方法を採用することができ、例えば、コロナ処理機を用いて、常圧空気中で放電する方式等が挙げられる。
プラズマ処理は、特に限定されるものではないが、真空中でのRFプラズマ処理、マイクロ波プラズマ処理、マイクロ波ECRプラズマ処理、大気圧プラズマ処理、コロナ処理などがあり、フッ素を含むガス処理、イオン源を使ったイオン打ち込み処理、PBII法を使った処理、熱プラズマに暴露する火炎処理、イトロ処理なども含める。これらの中でも真空中でのRFプラズマ処理、マイクロ波プラズマ処理、大気圧プラズマ処理が好ましい。
【0093】
プラズマ処理の適当な条件としては、酸素プラズマ、CF4、C2F6などフッ素を含むプラズマなど化学的にエッチング効果が高いことが知られるプラズマ、あるいはNe、Ar、Kr、Xe等のように物理的なエネルギーを金属表面に与えて物理的にエッチングする効果の高いプラズマによる処理が望ましい。また、CO2、CO、H2、N2、NH4、CH4およびこれらの混合気体や、さらに水蒸気を付加することも好ましい。これらに加えて、OH、N2、N、CO、CO2,H、H2、O2、NH、NH2、NH3、COOH、NO、NO2、He、Ne、Ar、Kr、Xe、CH2O、Si(OCH3)4、Si(OC2H5)4、C3H7Si(OCH3)3およびC3H7Si(OC2H5)3からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の成分を気体としてあるいはプラズマ中での分解物として含有するプラズマを付加することも好ましい。
【0094】
短時間での処理を目指す場合、プラズマのエネルギー密度が高く、プラズマ中のイオンの持つ運動エネルギーが高いプラズマが望ましいが、表面平滑性を必要とするため、エネルギー密度を高めることには限界がある。酸素プラズマを使った時には、表面酸化が進み、基材自体との密着力に乏しい表面ができやすく、かつ表面のあれ(粗さ)が大きくなるため、密着性も悪くなる。
また、Arガスを使ったプラズマでは純粋に物理的な衝突の影響が表面でおこり、この場合も表面のあれが大きくなる。これら総合的に考えると、マイクロ波プラズマ処理、マイクロ波ECRプラズマ処理、高いエネルギーのイオンを打ち込みやすいイオン源によるプラズマ照射、PBII法なども望ましい。
【0095】
上記活性化処理は金属表面を清浄化し、さらに金属表面上に反応性基を生成する。生成した反応性基は、第1のシラン化合物と水素結合ないし化学反応により結びつき、基材の金属表面とプライマー層とを強固に接着することが可能となる。プラズマ処理においては金属表面をエッチングする効果も得ることができる。
【0096】
活性化処理は、少なくともプライマー層が形成される金属表面に施されればよい。例えば、基材全体が金属からなる板状の基材の一方の主面にプライマー層を形成させる場合であって、該主面のみにプラズマ処理を行う場合は、以下のようなプラズマ処理を行えばよい。
すなわち、並行平板型電極でのプラズマ処理において、片側の電極上にプラズマ処理を施したい主面と反対側の主面を接するように基材を置くことにより、基材の電極と接していない側の主面のみにプラズマ処理を施すことができる。並行平板型電極でのプラズマ処理においては、2枚の電極間の空間に電気的に浮かせる状態で基材を置くようにすれば、両主面にプラズマ処理が行える。また、基材の片面に保護フィルムを貼った状態でプラズマ処理を行うことで片面処理が可能となる。なお保護フィルムとしては粘着剤付のPETフィルムやポリオレフィンフィルムなどが使用できる。
【0097】
(I)プライマー層形成工程
プライマー層形成工程は、基材の金属表面、好ましくは、上記(Ib)工程後の金属表面に、第1のシラン化合物と第1の溶媒を含むプライマー層用組成物を塗布し、第1のシラン化合物を反応させる工程である。
プライマー層用組成物は、第1のシラン化合物と第1の溶媒を含む。第1のシラン化合物は上に説明したとおりである。
【0098】
プライマー層用組成物における第1のシラン化合物の含有割合は、プライマー層を均一に形成しやすい点から、組成物全量に対して0.1~3.0質量%であることが好ましく、0.1~2.5質量%がより好ましく、0.1~2.0質量%が特に好ましい。
第1の溶媒は、第1のシラン化合物を溶解できるものであれば特に制限されない。第1の溶媒としては、第1のシラン化合物が有する加水分解性シリル基が加水分解されてシラノール基となった、第1のシラン化合物の加水分解物と相溶性が高いものが好ましい。
【0099】
上記のとおり、プライマー層は、プライマー層上に形成される防汚層と界面でシロキサン結合により接合されている。そのため、プライマー層形成工程で形成されるプライマー層においては、第1のシラン化合物の加水分解物が有するシラノール基は、一部が分子間で反応しつつ、相当量が安定して存在していることが好ましい。この点において、プライマー層形成工程で得られるプライマー層は、次の(II)防汚層形成工程において防汚層と結合する。
【0100】
第1の溶媒として、具体的には、水、有機溶媒等が挙げられる。なお、水は第1のシラン化合物の加水分解性シリル基を加水分解するために用いられる。第1の溶媒は、1種の化合物の単体からなってもよく、2種以上の化合物からなる混合溶媒であってもよい。相溶性の観点から、第1の溶媒としては、非フッ素系有機溶媒、または非フッ素系有機溶媒と水の混合溶媒が好ましい。
【0101】
非フッ素系有機溶媒としては、水素原子および炭素原子のみからなる化合物と、水素原子、炭素原子および酸素原子のみからなる化合物が好ましい。その例としては、炭化水素系有機溶媒、アルコール系有機溶媒、ケトン系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、エステル系有機溶媒、塩素系溶媒が挙げられる。
【0102】
炭化水素系有機溶媒としては、ヘキサン、へプタン、シクロヘキサン、トルエン等が好ましい。アルコール系有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール(IPA)等が好ましい。ケトン系有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が好ましい。エーテル系有機溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等が好ましい。エステル系有機溶媒としては、酢酸エチル、酢酸ブチル等が好ましい。
【0103】
塩素系溶媒としては、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,1,1,2-テトラクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、1,1-ジクロロエチレン、(Z)-1,2-ジクロロエチレン、(E)-1,2-ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロメタン等が好ましい。
【0104】
ここで、第1のシラン化合物の加水分解性シリル基を加水分解するための水は、大気中の水分により賄うこともできるが、第1の溶媒が水を含有し、該水が加水分解に用いられることが好ましい。
プライマー層用組成物における水の含有割合は、第1のシラン化合物のケイ素原子に結合する加水分解性基1モルに対して、0.5~2.0モルが好ましく、0.8~1.3モルがより好ましい。また、第1の溶媒における水の含有割合は、第1の溶媒の全量に対して1~30質量%が好ましく、5~10質量%がより好ましい。
【0105】
プライマー層用組成物における第1の溶媒の含有割合は、97.0~99.9質量%が好ましく、97.5~99.9質量%がより好ましい。プライマー層用組成物中の固形分の含有割合(固形分濃度)は、0.1~3.0質量%が好ましく、0.1~2.5質量%が特に好ましい。プライマー層用組成物の固形分濃度は、加熱前のプライマー層用組成物の質量と、120℃の対流式乾燥機にて4時間加熱した後の質量とから算出する値である。
【0106】
プライマー層用組成物は、上記のとおり任意成分を固形分全体に対して20質量%以下、好ましくは5質量%以下の割合で含有してもよい。また、その他の成分としては、例えば、加水分解性シリル基の加水分解と縮合反応を促進する酸触媒や塩基性触媒等の公知の添加剤を含有してもよい。酸触媒としては、塩酸、硝酸、酢酸、硫酸、燐酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などのスルホン酸等が挙げられる。塩基性触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等が挙げられる。プライマー層用組成物における、その他の成分の含有量は、組成物全量に対して10質量%以下が好ましく、1質量%以下が特に好ましい。
【0107】
なお、プライマー層用組成物は、プライマー層を均一に形成させるために、基材の金属表面に均一かつ平滑に塗布されることが望ましい。プライマー層用組成物は塗布後、第1のシラン化合物が上記のとおり反応することでプライマー層を形成する。すなわち、第1のシラン化合物は加水分解反応してシラノール基を生成し、該シラノール基と金属表面が反応して化学結合を形成する。また、シラノール基同士が縮合反応して分子間での結合が形成される。さらに、シラノール基は、(II)防汚層形成工程において第2のシラン化合物から生成されるシラノール基との縮合反応にも供される。
【0108】
プライマー層用組成物は、上記各成分を混合することで製造できる。プライマー層用組成物の基材の金属表面への塗布は、公知の手法を適宜用いることができる。
塗布方法としては、スピンコート法、ワイプコート法、スプレーコート法、スキージーコート法、ディップコート法、ダイコート法、インクジェット法、フローコート法、ロールコート法、キャスト法、ラングミュア・ブロジェット法またはグラビアコート法が好ましい。またその他、手塗り、刷毛塗り等の簡易な方法で塗布することも可能である。
【0109】
プライマー層用組成物の塗布は、得られるプライマー層の厚みを上記好ましい厚みとするために、第1のシラン化合物の塗布量(付着量)として50~1000mg/m2となるように行うことが好ましい。第1のシラン化合物の塗布量は、50~500mg/m2がより好ましく、50~300mg/m2が特に好ましい。
【0110】
プライマー層用組成物の塗布後、第1のシラン化合物を反応させる。具体的には塗膜状のプライマー層用組成物を加熱することで、第1のシラン化合物を反応させる。加熱温度は、80~120℃が好ましく、90~120℃が好ましい。なお、該反応に先立って必要に応じて第1の溶媒を乾燥、例えば、加熱により除去する。第1のシラン化合物の反応のための加熱と第1の溶媒の除去のための乾燥(加熱)は、同時に行ってもよい。
【0111】
(II)防汚層形成工程
防汚層形成工程では、プライマー層上に、第2のシラン化合物を含む防汚層用組成物を付着させ第2のシラン化合物を反応させて防汚層を得る。プライマー層上に防汚層用組成物を付着させる方法としては、以下のドライコーティング法またはウェットコーティング法が挙げられる。
【0112】
なお、第2のシラン化合物を、防汚層用組成物に配合するにあたって、第2のシラン化合物はそのままの状態で配合されてもよく、そのオリゴマー(部分加水分解縮合物)として配合されてもよい。また、第2のシラン化合物とそのオリゴマーの混合物としてプライマー層用組成物に配合されてもよい。
また、2種以上の第2のシラン化合物を組み合わせて用いる場合には、各化合物はそのままの状態でプライマー層用組成物に配合されてもよく、それぞれがオリゴマーとして配合されてもよく、さらには2種以上の化合物のコオリゴマー(部分加水分解共縮合物)として配合されてもよい。
【0113】
また、これらの化合物、オリゴマー(部分加水分解縮合物)、コオリゴマー(部分加水分解共縮合物)の混合物であってもよい。該オリゴマーおよびコオリゴマーもまた、加水分解性シリル基(加水分解されたシラノール基を含む)およびペルフルオロポリエーテル基を有する。以下、防汚層用組成物が第2のシラン化合物を含むとは、第2のシラン化合物自体に加えてこのようなオリゴマーおよびコオリゴマーを包括して含むことを意味する。
【0114】
(ドライコーティング法)
ドライコーティング法においては、防汚層を形成する成分、すなわち、第2のシラン化合物および防汚層が任意に含む成分を含むドライコーティング用の防汚層用組成物を、そのまま用いることができる。ドライコーティング用の防汚層用組成物は、第2のシラン化合物のみで構成されてもよい。
【0115】
ドライコーティング法としては、真空蒸着、CVD、スパッタリング等の手法が挙げられる。第2のシラン化合物の分解を抑える点、および装置の簡便さの点から、真空蒸着法が好適に利用できる。真空蒸着法は、抵抗加熱法、電子ビーム加熱法、高周波誘導加熱法、反応性蒸着、分子線エピタキシー法、ホットウォール蒸着法、イオンプレーティング法、クラスターイオンビーム法等に細分することができるが、いずれの方法も適用できる。第2のシラン化合物の分解を抑制する点、および装置の簡便さの点から、抵抗加熱法が好適に利用できる。真空蒸着装置は特に制限なく、公知の装置が利用できる。
【0116】
真空蒸着法を用いる場合の成膜条件は、適用する真空蒸着法の種類によって異なるが、抵抗加熱法の場合、蒸着前真空度は1×10-2Pa以下が好ましく、1×10-3Pa以下が特に好ましい。蒸着源の加熱温度は、蒸着源(ドライコーティング用の防汚層用組成物)が十分な蒸気圧を有する温度であれば特に制限はない。具体的には30~400℃が好ましく、50~300℃が特に好ましい。
【0117】
加熱温度が上記範囲の下限値以上であれば、成膜速度が良好になる。上記範囲の上限値以下であれば、第2のシラン化合物の分解が生じることなく、基材の金属表面に所期の撥水撥油性、汚れ除去性を付与できる。真空蒸着時、基材温度は室温(20~25℃)から基材の耐熱温度までの範囲であることが好ましい。基材温度が上記耐熱温度以下であれば、成膜速度が良好になる。基材温度は上記耐熱温度-50℃以下がより好ましい。
【0118】
ドライコーティング法および後記するウェットコーティング法の場合も本発明において、プライマー層への防汚層用組成物の付着は、得られる防汚層の厚みを上記好ましい厚みとするために、第2のシラン化合物の付着量として30~80mg/m2となるように行うことが好ましい。第2のシラン化合物の付着量は、35~80mg/m2がより好ましく、55~70mg/m2が特に好ましい。
【0119】
ドライコーティング法に際して、第2のシラン化合物の反応は、上記成膜の際に基材温度を上記のとおり調整することにより略同時に進行する。この際、第2のシラン化合物が有する加水分解性シリル基から加水分解反応により生成したシラノール基は、その一部が縮合反応して分子間が結合される。第2のシラン化合物から生成したシラノール基は、上記プライマー層が有する第1のシラン化合物から生成したシラノール基と縮合反応してプライマー層と防汚層はシロキサン結合で接合される。なお、後述の任意の工程である後処理工程を行うことにより、防汚層により強固な結合が形成される。
【0120】
(ウェットコーティング法)
ウェットコーティング法においては、ドライコーティング用の防汚層用組成物に第2の溶媒を含むウェットコーティング用の防汚層用組成物(以下、コーティング液ともいう。)を調製する。
ウェットコーティング法では、コーティング液をプライマー層の表面に塗布し、第2のシラン化合物を反応させて防汚層を形成する。
【0121】
コーティング液の塗布方法としては、公知の手法を適宜用いることができる。塗布方法として、具体的には、好ましい態様を含めて、上記プライマー層用組成物の塗布と同様の方法が挙げられる。コーティング液の塗布は、第2のシラン化合物の塗布量として、上記ドライコーティング法の場合の付着量と、好ましい態様を含めて同様にできる。
【0122】
コーティング液の塗布後、第2のシラン化合物を反応させる。具体的には塗膜状のコーティング液を、所定の反応温度で所定の時間放置することで、第2のシラン化合物を反応させる。反応温度は、10℃から基材の耐熱温度までの範囲が好ましく、20℃から基材の耐熱温度までの範囲がより好ましい。なお、該反応に先立って必要に応じて第2の溶媒を乾燥により除去する。第2のシラン化合物の反応と、第2の溶媒の除去のための乾燥は、同時に行ってもよい。
【0123】
ウェットコーティング法における第2のシラン化合物の反応は、上記ドライコーティング法の場合と同様の反応である。なお、ドライコーティング法と同様に、後述の任意の工程である後処理工程を行うことにより、防汚層により強固な結合が形成される。
【0124】
<コーティング液>
ウェットコーティング法に用いる上記ウェットコーティング用の防汚層用組成物(コーティング液)は、第2のシラン化合物と第2の溶媒を含む。コーティング液は、固形成分として第2のシラン化合物を含んでいればよく、該化合物の製造工程で生成した副生成物等の不純物を上記割合で含んでもよい。さらに、上記任意の固形成分を上記割合で含んでいてもよい。コーティング液は第2のシラン化合物と第2の溶媒および任意成分を適当な混合容器中で混合することによって製造可能である。
【0125】
第2の溶媒は、液状であることが好ましい。コーティング液は、液状であればよく、溶液であってもよく、分散液であってもよい。
コーティング液における第2のシラン化合物の含有割合は、コーティング液全量に対して、0.1~0.5質量%が好ましく、0.1~0.3質量%が特に好ましい。
【0126】
<第2の溶媒>
第2の溶媒としては、有機溶媒が好ましい。有機溶媒は、フッ素系有機溶媒であってもよく、非フッ素系有機溶媒であってもよく、両溶媒を含んでもよい。また、第2の溶媒は1種の化合物であってもよいし、2種以上の混合物であってもよい。
フッ素系有機溶媒としては、フッ素化アルカン、フッ素化アルケン、フッ素化芳香族化合物、フルオロアルキルエーテル、フッ素化アルキルアミン、フルオロアルコール等が挙げられる。
【0127】
フッ素化アルカンとしては、炭素数4~8の化合物が好ましい。市販品としては、例えば、C6F13H(AC-2000:製品名、旭硝子社製)、C6F13C2H5(AC-6000:製品名、旭硝子社製)、C2F5CHFCHFCF3(バートレル:製品名、デュポン社製)等が挙げられる。また、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロペンタン、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4-ノナフルオロヘキサン等も使用できる。
【0128】
フッ素化アルケンとしては、(E)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン、1,1-ジクロロ-2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン、(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン、(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン、(Z)-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン、(E)-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン、下式で記載されるアルキルペルフルオロアルケニルエーテル(式中、R3は、CH3、C2H5またはこれらの混合とすることができ、y1およびy2は、独立に、0、1、2または3であり、y1+y2=0、1、2または3である。)等が挙げられる。
【0129】
CF3(CF2)y1CF=CFCF(OR3)(CF2)y2CF3、
CF3(CF2)y1C(OR3)=CFCF2(CF2)y2CF3、
CF3CF=CFCF(OR3)(CF2)y1(CF2)y2CF3、
CF3(CF2)y1CF=C(OR3)CF2(CF2)y2CF。
【0130】
フッ素化芳香族化合物としては、例えばヘキサフルオロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、ペルフルオロトルエン、オルト-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、メタ-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、パラ-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等が挙げられる。
フルオロアルキルエーテルとしては、炭素数4~12の化合物が好ましい。市販品としては、例えば、CF3CH2OCF2CF2H(AE-3000:製品名、旭硝子社製)、C4F9OCH3(ノベック-7100:製品名、3M社製)、C4F9OC2H5(ノベック-7200:製品名、3M社製)、C6F13OCH3(ノベック-7300:製品名、3M社製)、パーフルオロ(2-ブチルテトラヒドロフラン)等が挙げられる。
【0131】
フッ素化アルキルアミンとしては、例えばペルフルオロトリプロピルアミン、ペルフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミン等が挙げられる。フルオロアルコールとしては、例えば2,2,3,3-テトラフルオロプロパノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール等が挙げられる。
フッ素系有機溶媒としては、第2のシラン化合物の溶解性の点で、フッ素化アルカン、フッ素化芳香族化合物、フルオロアルキルエーテルが好ましく、フルオロアルキルエーテルが特に好ましい。
【0132】
非フッ素系有機溶媒としては、水素原子および炭素原子のみからなる化合物と、水素原子、炭素原子および酸素原子のみからなる化合物が好ましい。その例としては、炭化水素系有機溶媒、アルコール系有機溶媒、ケトン系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、エステル系有機溶媒、塩素系溶媒が挙げられる。
【0133】
炭化水素系有機溶媒としては、ヘキサン、へプタン、シクロヘキサン、石油ベンジン、トルエン、キシレン等が好ましい。
アルコール系有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等が好ましい。
【0134】
ケトン系有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が好ましい。
エーテル系有機溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等が好ましい。エステル系有機溶媒としては、酢酸エチル、酢酸ブチル等が好ましい。
【0135】
塩素系溶媒としては、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,1,1,2-テトラクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、1,1-ジクロロエチレン、(Z)-1,2-ジクロロエチレン、(E)-1,2-ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロメタン等が好ましい。
非フッ素系有機溶媒としては、第2のシラン化合物の溶解性の点で、ケトン系有機溶媒が特に好ましい。
【0136】
第2の溶媒としては、第2のシラン化合物の溶解性を高める点で、フッ素化アルカン、フッ素化芳香族化合物、フルオロアルキルエーテル、水素原子および炭素原子のみからなる化合物、ならびに、水素原子、炭素原子および酸素原子のみからなる化合物からなる群から選択される少なくとも1種の有機溶媒が好ましい。特に、フッ素化アルカン、フッ素化芳香族化合物およびフルオロアルキルエーテルから選ばれるフッ素系有機溶媒が好ましい。
【0137】
第2の溶媒としては、フッ素系有機溶媒であるフッ素化アルカン、フッ素化芳香族化合物、フルオロアルキルエーテル、非フッ素系有機溶媒である水素原子、炭素原子および酸素原子のみからなる化合物からなる群から選択される少なくとも1種の有機溶媒を、合計で第2の溶媒全体の90質量%以上含むことが、第2のシラン化合物の溶解性を高める点で好ましい。
【0138】
コーティング液は、第2の溶媒を、コーティング液全量に対して、70~99.999質量%含むことが好ましく、80~99.99質量%含むことが特に好ましい。第2の溶媒として具体的には、C6F13C2H5(AC-6000:製品名、旭硝子社製)、CF3CH2OCF2CF2H(AE-3000:製品名、旭硝子社製)、C4F9OCH3(ノベック-7100:製品名、3M社製)、C4F9OC2H5(ノベック-7200:製品名、3M社製)、C6F13OCH3(ノベック-7300:製品名、3M社製)が挙げられ、これらを単独で使用してもよいし、これらの混合物を使用してもよい。かかる混合物としては、例えば、製品名で以下の組み合わせが挙げられる。
【0139】
AC-6000とAE-3000の組み合わせ、AC-6000とノベック-7100の組み合わせ、AC-6000とノベック-7200の組み合わせ、AC-6000とノベック-7300の組み合わせ、AE-3000とノベック-7100の組み合わせ、AE-3000とノベック-7200の組み合わせ、AE-3000とノベック-7300の組み合わせ、AC-6000とAE-3000とノベック-7100の組み合わせ、AC-6000とAE-3000とノベック-7200の組み合わせ、AC-6000とAE-3000とノベック-7300の組み合わせ、ノベック-7100とノベック-7200の組み合わせ、ノベック-7100とノベック-7300の組み合わせ、ノベック-7200とノベック-7300の組み合わせ、AE-3000とイソプロパノールの組み合わせ、AC-6000とイソプロパノールの組み合わせ、AE-3000とイソプロパノールの組み合わせ、など、任意の組み合わせが可能である。
【0140】
AC-6000とAE-3000を組合せて用いる場合には、AC-6000とAE-3000の合計量に対するAE-3000の割合は、5~20質量%が好ましい。
AC-6000とAE-3000とノベック-7100を組合せて用いる場合には、AC-6000とAE-3000とノベック-7100の合計量に対するAE-3000の割合は、0.05~0.15質量%が好ましく、ノベック-7100の割合は、95~99.5質量%が好ましい。
【0141】
AC-6000とAE-3000とノベック-7200を組合せて用いる場合には、AC-6000とAE-3000とノベック-7200の合計量に対するAE-3000の割合は、0.05~0.15質量%が好ましく、ノベック-7200の割合は、95~99.5質量%が好ましい。
【0142】
AC-6000とAE-3000とノベック-7300を組合せて用いる場合には、AC-6000とAE-3000とノベック-7300の合計量に対するAE-3000の割合は、0.05~0.15質量%が好ましく、ノベック-7300の割合は、95~99.5質量%が好ましい。
【0143】
AE-3000とイソプロパノールを組合せて用いる場合には、AE-3000とイソプロパノールの合計量に対するAE-3000の割合は、50~90質量%が好ましい。
AC-6000とイソプロパノールを組合せて用いる場合には、AC-6000とイソプロパノールの合計量に対するAC-6000の割合は、50~90質量%が好ましい。
【0144】
コーティング液は、必要に応じて、さらに、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、加水分解性シリル基の加水分解と縮合反応を促進する酸触媒や塩基性触媒等の公知の添加剤が挙げられる。酸触媒や塩基性触媒としては、プライマー層用組成物において説明したのと同様の化合物が挙げられる。コーティング液における、その他の成分の含有量は、コーティング液中10質量%以下が好ましく、1質量%以下が特に好ましい。
【0145】
コーティング液中の固形分の含有割合(固形分濃度)は、0.001~30質量%が好ましく、0.01~20質量%が特に好ましい。コーティング液の固形分濃度は、加熱前のコーティング液の質量と、120℃の対流式乾燥機にて4時間加熱した後の質量とから算出する値である。
【0146】
(IIa)工程
(IIa)工程は、上記ドライコーティング法やウェットコーティング法によりプライマー層表面に防汚層が形成された後に防汚層に対して行う後処理工程である。
後処理としては、防汚層の摩擦に対する耐久性を向上させるために行う、第2のシラン化合物とプライマー層との反応を促進するための操作が挙げられる。該操作としては、加熱、加湿、光照射等が挙げられる。例えば、水分を有する大気中で、有機材料表面にプライマー層および防汚層がその順に形成された基材を加熱して、第2のシラン化合物の加水分解性シリル基のシラノール基への加水分解反応、プライマー層表面のシラノール基と第2のシラン化合物から生成したシラノール基との縮合反応および第2のシラン化合物から生成したシラノール基同士の縮合反応によるシロキサン結合の生成、等の反応を促進することができる。
【0147】
また、防汚層形成後、防汚層中の化合物であって他の化合物やプライマー層と化学結合していない化合物は、必要に応じて除去してもよい。具体的な方法としては、例えば、防汚層に溶剤、例えば第2の溶媒をかけ流す方法や、溶剤、例えば第2の溶媒をしみ込ませた布でふき取る方法が挙げられる。
【実施例】
【0148】
実施例では、プライマー層用組成物およびウェットコーティング用の防汚層用組成物を調製し、得られた組成物を用いて、板状の金属製基材の主面にプライマー層、防汚層をその順に形成して評価した。なお、例1~3、9、10、12、14、15、17が実施例であり、例4~8、11、13、16、18が比較例である。
【0149】
<基材>
基材として、表2に示す金属基板を準備し、表2に示すアルカリ水溶液を用いて表2に示す方法で洗浄した後、さらにイオン交換水で洗浄した試験用金属基板1~5を準備した。なお、試験用金属基板5に用いた金属基板は、金属基板(鉄材質、SPCC社製)の表面を、ニッケル・クロムメッキ(厚さ30μm)処理した基板である。
【0150】
【0151】
<第1のシラン化合物および比較例用シラン化合物>
第1のシラン化合物として、コルコートN-103X、コルコートPX、KR-517を準備した。
【0152】
比較例用シラン化合物として、以下の化合物を準備した。
KR-516(信越化学工業社製、商品名、主鎖が直鎖のシロキサン結合で形成された化合物、主鎖ケイ素原子に結合する加水分解性基としてメトキシ基、有機置換基としてエポキシ基、メチル基を有するシラン化合物、Mw;1000、加水分解性基としてのメトキシ基の含有量;17質量%、有機置換基としてのエポキシ基の含有量;15質量%)
X-12-981S(信越化学工業社製、商品名、主鎖が炭素-炭素結合を主体として形成され、側鎖にトリエトキシシリル基およびエポキシ基を有するシラン化合物、Mw;1000、加水分解性基としてのエトキシ基の含有量;15質量%、側鎖反応性基としてのエポキシ基の含有量;15質量%)
KBM-403(信越化学工業社製、商品名、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、式量;236.3)
TEOS(テトラエトキシシラン、式量;208.3)
【0153】
<第2のシラン化合物>
国際公開2013/121984号に記載の方法で、以下の化合物を製造して、第2のシラン化合物として用いた。
CF3-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)n-CF2CF2OCF2CF2CF2C(=O)NH(CH2)3-Si(OCH3)3(n=14)
【0154】
(プライマー層用組成物の調製)
上記第1のシラン化合物および比較例用シラン化合物のそれぞれについて、必要に応じて、希釈溶媒としてイソプロパノール(IPA)を用いて、表3において、含有成分およびそれぞれの含有量を示すプライマー層用組成物1~7を調製した。プライマー層用組成物1、2は、市販品の商品組成(シラン化合物の濃度;2.0質量%)のまま使用した。
【0155】
【0156】
(防汚層用組成物の調製)
上記第2のシラン化合物について、AC-6000(製品名、旭硝子社製)と混合して、組成物全量に対する第2のシラン化合物の含有割合が0.1質量%であるウェットコーティング用の防汚層用組成物を調製した。
【0157】
[例1~8]
(試験用金属基板の活性化処理)
コロナ処理を実施することで試験用金属基板1の主面の汚染層を除去し、基板表面にぬれ性を付与した。コロナ処理は、放電量80W・min/m2のコロナ放電下、両電極の間を、電極と金属基板の主面との距離がそれぞれ1~2mmとなるように電気的に浮かせる状態で、試験用金属基板1を通過させることにより行った。
【0158】
(プライマー層形成工程)
上記コロナ処理後の試験用金属基板1の一方の主面に、上記で調製したプライマー層用組成物1~7をそれぞれスピンコート法により塗布(塗布条件:1000rpm/30sec、第1のシラン化合物の付着量;55mg/m2)し、120℃のホットプレート上で10分間加熱して、溶媒を乾燥除去し、第1のシラン化合物を反応させることで厚み5nmのプライマー層を形成した。
【0159】
(防汚層形成工程)
上記プライマー層を形成した試験用金属基板1のプライマー層上に、上記で調製した防汚層用組成物をスプレー法により塗布(第2のシラン化合物の付着量;64mg/m2)し、120℃の熱風循環オーブン中で10分間加熱して、AC-6000を乾燥除去し、第2のシラン化合物を反応させることで厚み15nmの防汚層を形成して例1~7の防汚性物品を得た。なお、例8では、プライマー層を形成せずに、上記コロナ処理後の試験用金属基板1の一方の主面上に上記と同様にして厚み15nmの防汚層を形成して防汚性物品とした。
【0160】
[例9~11]
例1、2において試験用金属基板1を試験用金属基板2に替えた以外は同様にして例9、10の防汚性物品を得た。また、試験用金属基板2を例9と同様にコロナ処理し、プライマー層を形成せずに、上記コロナ処理後の試験用金属基板2の一方の主面上に上記と同様にして厚み15nmの防汚層を形成して例11の防汚性物品とした。
【0161】
[例12、13]
例2において試験用金属基板1を試験用金属基板3に替えた以外は同様にして例12の防汚性物品を得た。また、試験用金属基板3を例12と同様にコロナ処理し、プライマー層を形成せずに、上記コロナ処理後の試験用金属基板3の一方の主面上に上記と同様にして厚み15nmの防汚層を形成して例13の防汚性物品とした。
【0162】
[例14~16]
例1、2において試験用金属基板1を試験用金属基板4に替えた以外は同様にして例14、15の防汚性物品を得た。また、試験用金属基板4を例14と同様にコロナ処理し、プライマー層を形成せずに、上記コロナ処理後の試験用金属基板4の一方の主面上に上記と同様にして厚み15nmの防汚層を形成して例16の防汚性物品とした。
【0163】
[例17、18]
例2において試験用金属基板1を試験用金属基板5に替えた以外は同様にして例17の防汚性物品を得た。また、試験用金属基板5を例17と同様にコロナ処理し、プライマー層を形成せずに、上記コロナ処理後の試験用金属基板5の一方の主面上に上記と同様にして厚み15nmの防汚層を形成して例18の防汚性物品とした。
【0164】
(評価)
<水接触角の測定方法>
上記で得られた例1~18の防汚性物品について、防汚層表面に置いた、約2μLの蒸留水の接触角を、接触角測定装置DM-500(協和界面科学社製)を用いて測定した。防汚層表面における異なる5箇所で測定を行い、その平均値を算出した。接触角の算出には2θ法を用いた。水接触角が100°以上であれば、実使用に十分な防汚性を有するといえる。
【0165】
(耐摩耗性評価)
JIS L 0849:2013(ISO 105-X12:2001)に準拠して往復式平面摩耗試験機(大栄精機社製PA-300A)を用い、金巾(30号)を荷重:1kg/cm2、速度60rpm、振幅40mmで往復摩耗し、所定の回数毎に水接触角を測定した。水接触角が100°以下となった時点で試験を終了した。
【0166】
結果を例1~8については表4に、例9~18については表5に示す。プライマー層組成物4、5をそれぞれ使用した例4、例5においては、プライマー層上に防汚層用組成物を塗布する際、防汚層用組成物がはじかれてしまい防汚層の形成ができなかった。表4,5において、「-」は水接触角の測定を行わなかったことを示し、また、斜線は耐摩耗試験を行わなかったことを示す。
【0167】
【0168】
【産業上の利用可能性】
【0169】
本発明の防汚性物品は、例えば、スマートフォン等の筐体、家電用品、蛇口や配管等の水洗金具、エレベーター壁等の広範囲の分野おいて使用できる。
なお、2018年6月13日に出願された日本特許出願2018-112799号の明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。