(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】燃焼排ガスの処理方法、及び燃焼排ガスの処理装置
(51)【国際特許分類】
B01D 53/40 20060101AFI20230502BHJP
B01D 53/64 20060101ALI20230502BHJP
B01D 53/50 20060101ALI20230502BHJP
B01D 53/68 20060101ALI20230502BHJP
B01D 53/83 20060101ALI20230502BHJP
F23J 15/00 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
B01D53/40 ZAB
B01D53/64
B01D53/50 100
B01D53/68 100
B01D53/83
F23J15/00 B
F23J15/00 Z
(21)【出願番号】P 2021043741
(22)【出願日】2021-03-17
【審査請求日】2022-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤吉 直明
(72)【発明者】
【氏名】藤田 聡
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-017956(JP,A)
【文献】特開2020-110773(JP,A)
【文献】特開平08-101186(JP,A)
【文献】特開2020-006330(JP,A)
【文献】特開平09-248542(JP,A)
【文献】特開2010-234175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/34-53/73
B01D 53/74-53/85
F23J 15/00-15/08
B09B 3/00- 3/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性ガスが含まれる未処理の燃焼排ガスにアルカリ剤を添加して前記酸性ガスを中和し、アルカリ処理済の燃焼排ガスを得る乾式処理工程と、
前記アルカリ処理済の燃焼排ガスを集塵機に供給して飛灰を集塵する集塵工程と、
前記飛灰を前記集塵機から排出させ、前記飛灰に重金属固定剤を添加して前記飛灰中の重金属を固定化する重金属固定工程と、
を有しており、
前記未処理の燃焼排ガス中における前記酸性ガスの濃度を測定し、
前記酸性ガスの濃度の測定値に基づいて、前記未処理の燃焼排ガスへ添加すべき前記アルカリ剤の添加量を算出して添加すると共に前記集塵機から排出される飛灰中における未反応アルカリ剤濃度を算出し、
前記未反応アルカリ剤濃度の算出値に基づいて、前記飛灰への前記重金属固定剤の添加量を算出して添加する、燃焼排ガスの処理方法。
【請求項2】
前記重金属固定工程は、
前記集塵機から排出させた飛灰を貯留サイロに貯留する貯留工程と、
前記貯留サイロ内の飛灰を抜き出して混練機に供給し、前記混練機内の飛灰に前記重金属固定剤を添加して前記飛灰中の重金属を固定化する混練工程と、
を有する、請求項1に記載の燃焼排ガスの処理方法。
【請求項3】
前記未処理の燃焼排ガス中の酸性ガス濃度の測定値に基づいて算出される、前記集塵機から前記貯留サイロに供給される飛灰中における未反応アルカリ剤濃度の経時データを記憶し、
前記経時データと、前記貯留サイロから飛灰を抜き出して前記混練機に供給する際における供給流量とに基づいて、前記混練機に供給されて処理される飛灰中の未反応アルカリ剤濃度の経時変化を算出し、
前記経時変化に基づいて、前記重金属固定剤の添加量を経時的に制御して前記飛灰中の重金属を固定化する、請求項2に記載の燃焼排ガスの処理方法。
【請求項4】
前記貯留サイロからの飛灰の抜き出し流量を、前記貯留サイロへの飛灰の供給流量のY倍とし、前記混練機に供給されて処理される飛灰中の未反応アルカリ剤濃度の経時変化βを、前記集塵機から前記貯留サイロに供給される飛灰中における未反応アルカリ剤濃度の経時データαの経時変化のY倍とする、請求項3に記載の燃焼排ガスの処理方法。
【請求項5】
前記貯留サイロのレベルが低レベルから高レベルに達するまでは前記混練機を停止し(停止工程)、貯留サイロのレベルが高レベルに達してから、貯留サイロから飛灰を抜き出し前記混練機に供給して飛灰処理を開始し、当該レベルが低レベルにまで戻ったら飛灰処理を停止する(飛灰処理工程)、という工程を繰り返し行い、
前記停止工程に要する時間TS(hr)を下記式の通りとし、
TS(hr)=V/GFA
前記飛灰処理工程に要する時間TM(hr)を下記式の通りとする、請求項3に記載の燃焼排ガスの処理方法。
TM(hr)=V/(MFA-GFA)
(ただし、
飛灰発生量(貯留サイロへの飛灰の供給流量):GFAkg/hr、
混練機の飛灰処理量:MFAkg/hr、
貯留サイロのレベルセンサーの低レベルから高レベルまでの容量:Vkg、
である。)
【請求項6】
前記混練工程において、前記混練機に、さらに酸性中和剤を添加する、請求項2
~5のいずれか1項に記載の燃焼排ガスの処理方法。
【請求項7】
前記乾式処理前の燃焼排ガス中の酸性ガス濃度を測定し、かかる測定値に基づいて、前記乾式処理工程において、前記酸性ガス濃度に対してアルカリ剤を1~3当量となるように添加する、請求項1~
6のいずれか1項に記載の燃焼排ガスの処理方法。
【請求項8】
前記酸性ガスが塩化水素及び硫黄酸化物を含み、該塩化水素及び硫黄酸化物の濃度の合計量を酸性ガス濃度として測定する、請求項1~
7のいずれか1項に記載の燃焼排ガスの処理方法。
【請求項9】
前記アルカリ剤が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩基性塩の少なくとも1種を含有する、請求項1~
8のいずれか1項に記載の燃焼排ガスの処理方法。
【請求項10】
重金属固定剤が、無機重金属固定剤である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の燃焼排ガスの処理方法。
【請求項11】
酸性ガスが含まれる未処理の燃焼排ガスにアルカリ剤を添加して前記酸性ガスを中和し、アルカリ処理済の燃焼排ガスを得る乾式処理装置と、
前記乾式処理装置に連結されており、前記アルカリ処理済の燃焼排ガス中の飛灰を集塵する集塵機と、
前記集塵機に連結されており、前記飛灰に重金属固定剤を添加して前記飛灰中の重金属を固定化する重金属固定装置と、
前記未処理の燃焼排ガス中における前記酸性ガスの濃度を測定する測定装置と、
前記酸性ガスの濃度の測定値に基づいて、前記未処理の燃焼排ガスへ添加する前記アルカリ剤の添加量を算出するアルカリ剤添加量算出部と、前記集塵機から排出される飛灰中における未反応アルカリ剤濃度を算出する未反応アルカリ剤濃度算出部と、前記未反応アルカリ剤濃度の算出値に基づいて、前記飛灰への前記重金属固定剤の添加量を算出する重金属固定剤算出部とを有する演算装置と、
前記演算装置によって算出された前記アルカリ剤の添加量の算出値に基づいて、前記乾式処理装置内における前記未処理の燃焼排ガスに前記アルカリ剤を添加するアルカリ剤添加装置と、
前記飛灰への前記重金属固定剤の添加量の算出値に基づいて前記重金属固定剤を添加する重金属固定剤の添加装置と、
を有する燃焼排ガスの処理装置。
【請求項12】
前記重金属固定装置は、
前記集塵機に連結されており、前記集塵機から排出させた飛灰を貯留する貯留サイロと、
前記貯留サイロに連結されている混練機と、
前記貯留サイロ内の飛灰を抜き出して前記混練機に供給する供給装置と、
前記混練機に前記重金属固定剤を添加する重金属固定剤の添加装置とを有する、請求項
11に記載の燃焼排ガスの処理装置。
【請求項13】
前記未処理の燃焼排ガス中の酸性ガス濃度の測定値に基づいて算出される、前記集塵機から前記貯留サイロに供給される飛灰中における未反応アルカリ剤濃度の経時データを記憶する記憶部と、前記経時データと、前記貯留サイロから飛灰を抜き出して前記混練機に供給する際における供給流量とに基づいて、前記混練機に供給されて処理される飛灰中の未反応アルカリ剤濃度の経時変化を算出する演算部と、前記未反応アルカリ剤濃度の経時変化に基づいて、前記飛灰への前記重金属固定剤の添加量を算出する演算部とを備える演算装置と、
前記飛灰への前記重金属固定剤の添加量の算出値に基づいて前記重金属固定剤を添加する重金属固定剤の添加装置と、
を有する、請求項
12に記載の燃焼排ガスの処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、都市ごみ廃棄物焼却炉、産業廃棄物焼却炉、発電ボイラ、炭化炉及び民間工場等の燃焼施設から発生する塩化水素や硫黄酸化物等の有害な酸性ガスを含む燃焼排ガスの処理方法、及び燃焼排ガスの処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ゴミや産業廃棄物等の廃棄物焼却炉、火力発電所等の燃焼施設から排出される燃焼排ガスには、炭酸ガスや、水蒸気、酸素、窒素、塩化水素、硫黄酸化物(SOX)、窒素酸化物(NOX)、重金属化合物、煤塵が含まれていることから、大気汚染防止の観点より、大気放出に先立ち、これらの物質を除去する必要がある。
有害な塩化水素や硫黄酸化物を含む燃焼排ガスは、特許文献1のように、一般的に、焼却炉の集塵機の手前で、燃焼排ガスに対して消石灰(水酸化カルシウム)等のアルカリ剤を噴霧して、塩化水素及び硫黄酸化物等の酸性ガスを中和する工程が行われた後、バグフィルター等の集塵機で除塵され、煙突から排出される。一方、集塵機で集塵された飛灰は、有害な鉛、カドミウム等の重金属を含有しており、これら有害重金属を安定化処理した後に埋立処分されている。
【0003】
酸性ガスの効率的な中和処理方法として、例えば特許文献2に、集塵機手前の燃焼排ガス中の塩化水素及び硫黄酸化物濃度に基づいて、特定の比表面積・見掛け密度を有する水酸化カルシウムを用いる方法や、特許文献3に、集塵手段の上流側又は下流側のいずれか一方又は双方のガス分析測定結果に基づき、アルカリ剤の供給量を調節する方法が提案されている。
【0004】
一方、集塵機で除塵された飛灰中の重金属の処理方法としては、ピペラジンジチオカルバミン酸塩、ジエチルジチオカルバミン酸塩等のキレート系の重金属固定剤で不溶化処理する方法のほか、最終処分場における重金属の再溶出防止の観点から、近年、特許文献4のように、重金属固定剤として、重金属を無機鉱物であるヒドロキシアパタイト形態まで変化させる、リン酸等のリン酸系化合物を用いる方法が開示されている。また、塩酸、硫酸バンド等の酸性中和剤を添加する方法、ケイ酸ナトリウム水溶液、粉末二酸化ケイ素等の二酸化ケイ素含有化合物を添加する方法;六価クロム、砒素、セレン、水銀等の重金属が溶出する場合には、塩化第一鉄、ポリ硫酸鉄等の鉄含有化合物を添加し、これら重金属の溶出を防止する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-99215号公報
【文献】特許第4194001号公報
【文献】特開2002-361040号公報
【文献】特公平4-61710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
燃焼排ガス中の酸性ガスをアルカリ剤で中和処理する手段は、気体の酸性ガスと固体のアルカリ剤との反応であるため、反応効率が悪い。そのため、酸性ガスの規制強化に伴い酸性ガスの中和のため、中和反応当量よりも多くのアルカリ剤が、燃焼排ガスに添加される。したがって、当該中和処理後に、集塵機で集塵された飛灰は、未反応アルカリ成分を含んでいる。当該飛灰を重金属固定剤により重金属処理する場合、重金属処理の効果を最適化するために、飛灰中におけるアルカリ成分の濃度を分析し、アルカリ成分の濃度に応じて重金属固定剤の必要量を算出し、当該必要量の重金属固定剤を飛灰に添加する必要が有る。
しかしながら、このように飛灰中におけるアルカリ成分の濃度を分析する場合、分析に手間が掛かり、また飛灰の変動に追従した分析頻度にて分析する必要があり、またリアルタイムな飛灰処理には不適であった。
【0007】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、飛灰中におけるアルカリ成分の濃度の分析を必要とすることなく、リアルタイムに飛灰中の未反応アルカリ成分濃度を把握することができ、より高精度、安全かつ簡便に飛灰の重金属処理を行うことができる燃焼排ガスの処理方法、及び燃焼排ガスの処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は鋭意検討の結果、燃焼排ガスの乾式酸性排ガス処理前における酸性ガスの濃度を測定し、当該測定結果に基づいて演算により飛灰中の未反応アルカリ剤濃度を算出することにより、飛灰中におけるアルカリ成分の濃度の分析を必要とすることなく、リアルタイムに飛灰中の未反応アルカリ剤濃度を把握することができ、より高精度にて飛灰の重金属処理を行うことができることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[11]を提供するものである。
[1]酸性ガスが含まれる未処理の燃焼排ガスにアルカリ剤を添加して前記酸性ガスを中和し、アルカリ処理済の燃焼排ガスを得る乾式処理工程と、
前記アルカリ処理済の燃焼排ガスを集塵機に供給して飛灰を集塵する集塵工程と、
前記飛灰を前記集塵機から排出させ、前記飛灰に重金属固定剤を添加して前記飛灰中の重金属を固定化する重金属固定工程と、を有しており、
前記未処理の燃焼排ガス中における前記酸性ガスの濃度を測定し、
前記酸性ガスの濃度の測定値に基づいて、前記未処理の燃焼排ガスへ添加すべき前記アルカリ剤の添加量を算出して添加すると共に前記集塵機から排出される飛灰中における未反応アルカリ剤濃度を算出し、
前記未反応アルカリ剤濃度の算出値に基づいて、前記飛灰への前記重金属固定剤の添加量を算出して添加する、燃焼排ガスの処理方法。
[2]前記重金属固定工程は、前記集塵機から排出させた飛灰を貯留サイロに貯留する貯留工程と、前記貯留サイロ内の飛灰を抜き出して混練機に供給し、前記混練機内の飛灰に前記重金属固定剤を添加して前記飛灰中の重金属を固定化する混練工程と、
を有する、上記[1]に記載の燃焼排ガスの処理方法。
[3]前記未処理の燃焼排ガス中の酸性ガス濃度の測定値に基づいて算出される、前記集塵機から前記貯留サイロに供給される飛灰中における未反応アルカリ剤濃度の経時データを記憶し、
前記経時データと、前記貯留サイロから飛灰を抜き出して前記混練機に供給する際における供給流量とに基づいて、前記混練機に供給されて処理される飛灰中の未反応アルカリ剤濃度の経時変化を算出し、
前記経時変化に基づいて、前記重金属固定剤の添加量を経時的に制御して前記飛灰中の重金属を固定化する、上記[2]に記載の燃焼排ガスの処理方法。
[4]前記混練工程において、前記混練機に、さらに酸性中和剤を添加する、上記[2]又は[3]に記載の燃焼排ガスの処理方法。
[5]前記乾式処理前の燃焼排ガス中の酸性ガス濃度を測定し、かかる測定値に基づいて、前記乾式処理工程において、前記酸性ガス濃度に対してアルカリ剤を1~3当量となるように添加する、上記[1]~[4]のいずれかに記載の燃焼排ガスの処理方法。
[6]前記酸性ガスが塩化水素及び硫黄酸化物を含み、該塩化水素及び硫黄酸化物の濃度の合計量を酸性ガス濃度として測定する、上記[1]~[5]のいずれかに記載の燃焼排ガスの処理方法。
[7]前記アルカリ剤が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩基性塩の少なくとも1種を含有する、上記[1]~[6]のいずれかに記載の燃焼排ガスの処理方法。
[8]重金属固定剤が、無機重金属固定剤である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の燃焼排ガスの処理方法。
【0009】
[9]酸性ガスが含まれる未処理の燃焼排ガスにアルカリ剤を添加して前記酸性ガスを中和し、アルカリ処理済の燃焼排ガスを得る乾式処理装置と、
前記乾式処理装置に連結されており、前記アルカリ処理済の燃焼排ガス中の飛灰を集塵する集塵機と、
前記集塵機に連結されており、前記飛灰に重金属固定剤を添加して前記飛灰中の重金属を固定化する重金属固定装置と、
前記未処理の燃焼排ガス中における前記酸性ガスの濃度を測定する測定装置と、
前記酸性ガスの濃度の測定値に基づいて、前記未処理の燃焼排ガスへ添加する前記アルカリ剤の添加量を算出するアルカリ剤添加量算出部と、前記集塵機から排出される飛灰中における未反応アルカリ剤濃度を算出する未反応アルカリ剤濃度算出部と、前記未反応アルカリ剤濃度の算出値に基づいて、前記飛灰への前記重金属固定剤の添加量を算出する重金属固定剤算出部とを有する演算装置と、
前記演算装置によって算出された前記アルカリ剤の添加量の算出値に基づいて、前記乾式処理装置内における前記未処理の燃焼排ガスに前記アルカリ剤を添加するアルカリ剤添加装置と、前記飛灰への前記重金属固定剤の添加量の算出値に基づいて前記重金属固定剤を添加する重金属固定剤の添加装置と、を有する燃焼排ガスの処理装置。
[10]前記重金属固定装置は、
前記集塵機に連結されており、前記集塵機から排出させた飛灰を貯留する貯留サイロと、
前記貯留サイロに連結されている混練機と、
前記貯留サイロ内の飛灰を抜き出して前記混練機に供給する供給装置と
前記混練機に前記重金属固定剤を添加する重金属固定剤の添加装置とを有する、上記[9]に記載の燃焼排ガスの処理装置。
[11]前記未処理の燃焼排ガス中の酸性ガス濃度の測定値に基づいて算出される、前記集塵機から前記貯留サイロに供給される飛灰中における未反応アルカリ剤濃度の経時データを記憶する記憶部と、前記経時データと、前記貯留サイロから飛灰を抜き出して前記混練機に供給する際における供給流量とに基づいて、前記混練機に供給されて処理される飛灰中の未反応アルカリ剤濃度の経時変化を算出する演算部と、前記未反応アルカリ剤濃度の経時変化に基づいて、前記飛灰への前記重金属固定剤の添加量を算出する演算部とを備える演算装置と、
前記飛灰への前記重金属固定剤の添加量の算出値に基づいて前記重金属固定剤を添加する重金属固定剤の添加装置と、
を有する、上記[10]に記載の燃焼排ガスの処理装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明の燃焼排ガスの処理方法及び処理装置によれば、飛灰中におけるアルカリ成分の濃度の分析を必要とすることなく、リアルタイムに飛灰中の未反応アルカリ成分濃度を把握することができ、より高精度、安全かつ簡便に飛灰の重金属処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る燃焼排ガスの処理方法及び燃焼排ガス処理装置の一実施形態を示す模式図である。
【
図2】集塵機手前における、未処理の燃焼排ガス中の塩化水素濃度及び硫黄酸化物濃度の経時変化を示すグラフである。
【
図3】飛灰中の未反応消石灰濃度の経時変化を示すグラフである。
【
図4】混練機へ添加される飛灰中の未反応消石灰濃度の経時変化及び混練機へ添加される重金属固定剤の添加量の経時変化を示すグラフである。
【
図5】貯留サイロに蓄積される飛灰中の未反応消石灰濃度の経時変化が、重金属固定工程において、重金属固定剤の添加量算出に換算される概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[燃焼排ガスの処理方法]
本発明の燃焼排ガスの処理方法は、酸性ガスが含まれる未処理の燃焼排ガスにアルカリ剤を添加して前記酸性ガスを中和し、アルカリ処理済の燃焼排ガスを得る乾式処理工程と、前記アルカリ処理済の燃焼排ガスを集塵機に供給して飛灰を集塵する集塵工程と、前記飛灰を前記集塵機から排出させ、前記飛灰に重金属固定剤を添加して前記飛灰中の重金属を固定化する重金属固定工程と、を有しており、
前記未処理の燃焼排ガス中における前記酸性ガスの濃度を測定し、前記酸性ガスの濃度の測定値に基づいて、前記未処理の燃焼排ガスへ添加すべき前記アルカリ剤の添加量を算出して添加すると共に前記集塵機から排出される飛灰中における未反応アルカリ剤濃度を算出し、前記未反応アルカリ剤濃度の算出値に基づいて、前記飛灰への前記重金属固定剤の添加量を算出して添加する、燃焼排ガスの処理方法である。以下、本発明の燃焼排ガスの処理方法のことを、単に「本発明の処理方法」と略称する場合がある。
本発明の処理方法によると、燃焼排ガスの乾式酸性排ガス処理前における酸性ガスの濃度を測定し、当該測定結果に基づいて演算により飛灰中の未反アルカリ剤濃度を算出することにより、飛灰中におけるアルカリ成分の濃度の分析を必要とすることなく、リアルタイムに飛灰中の未反応消石灰濃度を把握することができ、より高精度にて飛灰の重金属処理を行うことができる。
【0013】
本発明の処理方法は、前記重金属固定工程として、好適には、前記集塵機から排出させた飛灰を貯留サイロに貯留する貯留工程と、前記貯留サイロ内の飛灰を抜き出して混練機に供給し、前記混練機内の飛灰に前記重金属固定剤を添加して前記飛灰中の重金属を固定化する混練工程とを有する。
このように飛灰を貯留サイロに貯留し、貯留サイロ内の飛灰を抜き出して飛灰中の重金属固定処理を行うことにより、重金属固定処理を停止したり、貯留サイロ内の飛灰が有る程度貯留されてから重金属固定処理したり、貯留サイロ内に飛灰が流入する速度よりも早い速度にて飛灰をまとめて重金属固定処理したり、重金属固定処理するタイミングを調整したりすることができる。
【0014】
そして、本発明の処理方法は、好適には、前記未処理の燃焼排ガス中の酸性ガス濃度の測定値に基づいて算出される、前記集塵機から前記貯留サイロに供給される飛灰中における未反応アルカリ剤濃度の経時データを記憶し、前記経時データと、前記貯留サイロから飛灰を抜き出して前記混練機に供給する際における供給流量とに基づいて、前記混練機に供給されて処理される飛灰中の未反応アルカリ剤濃度の経時変化を算出し、前記経時変化に基づいて、前記重金属固定剤の添加量を経時的に制御して前記飛灰中の重金属を固定化する方法である。
これにより、貯留サイロ内の飛灰がある程度貯留されてから重金属固定処理したり、貯留サイロ内に飛灰が流入する速度よりも早い速度にて飛灰をまとめて重金属固定処理したり、重金属固定処理するタイミングを調整したりした場合であっても、貯留サイロから抜き出される飛灰中における未反応アルカリ濃度の経時変化に応じて適量の重金属固定剤を添加することができるため、飛灰中におけるアルカリ成分の濃度の分析を必要とすることなく、リアルタイムに飛灰中の未反応消石灰濃度を把握することができ、より高精度にて飛灰の重金属処理を行うことができる。
【0015】
[燃焼排ガス処理装置]
図1は、本発明の処理方法を実施する燃焼排ガス処理装置の一実施形態を示す模式図である。
図1の燃焼排ガス処理装置100では、焼却炉11で生じた酸性ガスを含む燃焼排ガスは、配管1と、燃焼排ガスの熱を利用するボイラ12と、配管2を経由してガス冷却塔13で冷却され、煙道3を介して集塵機14に導入される。アルカリ剤添加装置51からはアルカリ剤が供給され、煙道3の途中にて、酸性ガスを含む燃焼排ガスとアルカリ剤とが混合される。集塵機14からはガス排出路4を経由して吸引ファン15によりアルカリ処理済の燃焼排ガスが吸い出され、煙突16から放出される。
一方、集塵機14からは飛灰排出路5を経由して貯留サイロ21に集塵した飛灰が排出され、飛灰供給装置22によって貯留サイロ21内の飛灰を抜き出して配管6を経由して混練機23に供給され、混練機23の直前で重金属固定剤添加装置52から飛灰に重金属固定剤が供給された後、灰ピット24に放出される。
【0016】
本発明の実施形態に係る、
図1の燃焼排ガス処理装置100は、さらに、焼却炉11から排出される燃焼排ガス中の酸性ガスを処理するために、煙道3に設けられた酸性ガス濃度測定器30、及び演算装置40を含み、アルカリ剤添加装置51と共に乾式処理装置を構成する。
ここで、酸性ガス濃度測定器30は塩化水素濃度測定器30a及び硫黄酸化物濃度測定器30bを含む。塩化水素濃度測定器30aは煙道3を流れる未処理燃焼排ガス中の塩化水素濃度を連続的に測定し、一方、硫黄酸化物濃度測定器30bは煙道3を流れる未処理燃焼排ガス中の硫黄酸化物濃度を連続的に測定し、それぞれ、塩化水素濃度測定器30aからの塩化水素濃度信号S1と硫黄酸化物濃度測定器30bからの硫黄酸化物濃度信号S2として演算装置40に出力する。なお、塩化水素濃度測定器30a及び硫黄酸化物濃度測定器30bは、それぞれ、塩化水素濃度及び硫黄酸化物濃度を測定できる測定装置であれば、その形式は限定されない。塩化水素ガス濃度は、イオン電極法、レーザーによる単一吸収線吸収分光法等で測定でき、硫黄酸化物ガス濃度は、非分散型赤外線吸収法、紫外線蛍光法等で測定できる。
【0017】
演算装置40は、アルカリ剤添加量算出部41と、該算出部41から出力される、塩化水素濃度と硫黄酸化物濃度の合計値及び添加アルカリ剤量を含むアルカリ剤量信号S4、及び飛灰の発生量とに基づいて、飛灰中の未反応アルカリ剤濃度を算出する未反応アルカリ剤濃度算出部42と、該算出部42から出力される飛灰中の未反応アルカリ剤濃度信号S5に基づいて、混練機23への重金属固定剤の添加量を算出する重金属固定剤添加量算出部43とを備える。ここで、飛灰は、焼却する廃棄物からの灰分と、焼却する廃棄物に対し投入するアルカリ剤を含み、飛灰の発生量は廃棄物量に対し一定値(概ね3質量%)として算出することができる。
【0018】
アルカリ剤添加量算出部41は、塩化水素濃度信号S1及び硫黄酸化物濃度信号S2に基づく、塩化水素濃度と硫黄酸化物濃度の合計値である酸性ガス濃度の測定値に基づいて、燃焼排ガス中の酸性ガスを中和するために添加すべき単位時間当たりのアルカリ剤添加量を算出し、アルカリ剤添加信号S3として出力する。
アルカリ剤添加装置51は、アルカリ剤添加信号S3に基づいて、煙道3内を流れる未処理の燃焼排ガスにアルカリ剤を添加する装置である。
【0019】
未反応アルカリ剤濃度算出部42は、アルカリ剤添加量算出部41が算出する前記信号S4に基づいて、集塵機14から排出され貯留サイロ21に供給される飛灰中における未反応アルカリ剤濃度を算出する演算部、該未反応アルカリ剤濃度を記憶する記憶部、及び該未反応アルカリ剤濃度と、貯留サイロ21から飛灰を抜き出して混練機23に供給する際における供給流量とに基づいて、混練機23に供給されて処理される飛灰中の未反応アルカリ剤濃度を算出する演算部とを含む。
未反応アルカリ剤濃度算出部42において、貯留サイロ21に供給される飛灰中における未反応アルカリ剤濃度は、好適には未反応アルカリ剤濃度の経時データとして記憶部に記憶される。また、混練機23に供給されて処理される飛灰中の未反応アルカリ剤濃度は、好適には未反応アルカリ剤濃度の経時変化量として算出される。
【0020】
重金属固定剤添加量算出部43は、混練機23に供給されて処理される飛灰中の未反応アルカリ剤濃度の算出値を含む信号S5に基づいて、飛灰に添加すべき重金属固定剤の添加量を算出する。
重金属固定剤添加量算出部43は、好適には、貯留サイロ21に供給される飛灰中における未反応アルカリ剤濃度の経時データと、貯留サイロ21から飛灰を抜き出して混練機23に供給する際における供給流量とに基づく、混練機23に供給されて処理される飛灰中の未反応アルカリ剤濃度の経時変化の算出値を含む信号S5に基づいて、飛灰中に添加すべき重金属固定剤の添加量を算出する。さらに好適には、前記未反応アルカリ剤濃度の経時データと、単位時間当たりの飛灰発生量(すなわち貯留サイロへ貯留される飛灰量)、貯留サイロの容量、及び前記供給流量(単位時間当たりの混練機の飛灰処理量)から、かかる未反応アルカリ剤濃度の経時データに基づいて、重金属固定装置の飛灰処理能力及び運転条件も加味して、飛灰中に添加すべき重金属固定剤の添加量を算出する。
【0021】
本発明の実施形態に係る燃焼排ガスの処理装置における重金属固定装置は、上記した貯留サイロ21、飛灰供給装置22、混練機23、演算装置40、混練機23の直前に重金属固定剤を供給する重金属固定剤添加装置52を含む。
重金属固定剤添加装置52は、演算装置40を構成する重金属固定剤添加量算出部43からの重金属固定剤添加信号S6に基づいて、混練機23の直前で、飛灰に重金属固定剤を添加する装置である。
【0022】
[乾式処理工程]
本発明の処理方法では、まず、酸性ガスが含まれる未処理の燃焼排ガスにアルカリ剤を添加して前記酸性ガスを中和し、アルカリ処理済の燃焼排ガスを得る乾式処理工程を行う。
本発明の処理方法が適用できる燃焼排ガスは特に制限されない。例えば、都市ごみ廃棄物焼却炉、産業廃棄物焼却炉、発電ボイラ、炭化炉及び民間工場等の燃焼施設において発生する、塩化水素、硫黄酸化物、窒素酸化物等の酸性ガスを含む燃焼排ガスが挙げられる。
燃焼排ガス中の酸性ガスを除去するアルカリ剤は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩基性塩の少なくとも1種を含有するのが好ましい。
かかるアルカリ剤としては、例えば消石灰(水酸化カルシウム)、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化ドロマイト[Ca(OH)2・Mg(OH)2]、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0023】
塩化水素や硫黄酸化物等の酸性ガスとの反応性を担保し、集塵機での捕集効率の低下や差圧の上昇を回避する観点からは、アルカリ剤は、20m2/g以上の比表面積を持ち、メジアン径(d50)が5~30μmである、粉体状の上記化合物が好ましい。
これらのアルカリ剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の成分、例えば、燃焼排ガスのダイオキシンを処理する活性炭や、バグフィルターのろ過助剤として使用される珪藻土等がさらに配合されていてもよい。
【0024】
アルカリ剤は、焼却炉本体から集塵機に至るまでのうち、燃焼排ガスを減温塔で冷却し、酸性ガス濃度を測定した後のバグフィルター等の集塵機手前で添加することが好ましい。
燃焼排ガスにアルカリ剤を添加する手段は特に制限されず、例えば、アルカリ剤添加装置51の薬剤貯留槽に入れられたアルカリ剤は、煙道3に設置されたノズルから煙道3の燃焼排ガスに吹き付けられる。アルカリ剤は、粉体の形態で用いてもよいし、アルカリ剤の粉体をエタノールやイソプロパノール等のアルカリ剤を溶解しない分散媒に分散して、分散液の形態として用いてもよい。アルカリ剤は断続的に又は連続的に添加することができる。
アルカリ剤を添加する際の燃焼排ガスの温度には、特に制限はない。アルカリ剤は、集塵機において酸性ガスと反応することから、集塵機の直前における燃焼排ガスの温度は100~300℃であることが好ましく、130~230℃であることがより好ましい。
【0025】
本発明の処理方法では、アルカリ剤は、未処理の燃焼排ガス中の酸性ガス濃度、好適には、塩化水素及び硫黄酸化物の濃度の合計量を酸性ガス濃度として測定し、前記酸性ガスの濃度の測定値に基づいて、未処理の燃焼排ガスへ添加すべきアルカリ剤の添加量を算出して添加する。
アルカリ剤の添加量は、酸性ガスの処理目標値に到達できる量であって、かつ、後述する、集塵機から排出される飛灰中における未反応アルカリ剤濃度を小さくできるよう、かかる酸性ガス(塩化水素及び硫黄酸化物)の濃度の測定値の経時変化に応じ、一定の当量となるように制御されることが極めて好ましい。
より具体的には、アルカリ剤の添加量は、燃焼排ガス中の酸性ガス、特に塩化水素及び硫黄酸化物の濃度の測定値に基づいて、その合計濃度に対してアルカリ剤を1~3当量となるように添加することが好ましく、1.5~2.5当量となるようにすることがより好ましい。アルカリ剤をこのような量で添加すると、重金属固定剤の添加量を削減し、最終処分される飛灰の量を削減しやすい。
【0026】
[集塵工程]
本発明の処理方法は、前記アルカリ処理済の燃焼排ガス中の飛灰を集塵する集塵工程を有する。飛灰の集塵は、前記乾式処理装置に連結されているバグフィルター等の公知の集塵機で行うことができる。
集塵機は、飛灰に重金属固定剤を添加して飛灰中の重金属を固定化する重金属固定装置と連結している。
【0027】
[重金属固定工程]
本発明の処理方法は、集塵工程で集塵した飛灰に対して重金属固定剤を添加して、飛灰中の重金属を固定化する、重金属固定工程を有する。
本発明の処理方法は、乾式処理工程での、未処理の燃焼排ガス中における前記酸性ガスの濃度の測定値に基づいて、前記未処理の燃焼排ガスへ添加すべき前記アルカリ剤の添加量を算出して添加すると共に前記集塵機から排出される飛灰中における未反応アルカリ剤濃度を算出し、前記未反応アルカリ剤濃度の算出値に基づいて、前記飛灰への前記重金属固定剤の添加量を算出して添加することが特徴である。
未処理の燃焼排ガスへのアルカリ剤の添加量は、未処理の燃焼排ガス中における前記酸性ガスの濃度の測定値に基づいて算出され、かかる添加量から、前記酸性ガスの濃度の測定値に基づく、アルカリ剤の理論反応量を差し引くことで、集塵機から排出される飛灰中における未反応アルカリ剤濃度を算出する。すなわち飛灰中におけるアルカリ成分の濃度の分析を必要とすることなく、リアルタイムで精度高く、安全かつ簡便な飛灰処理が可能となる。
【0028】
集塵した飛灰中の重金属としては、鉛が代表例であり、その他、カドミウム、クロム、砒素、セレン、水銀等が挙げられる。
重金属固定剤としては、無機系重金属固定剤及びキレート系重金属固定剤が知られているが、本発明の処理方法では、無機系重金属固定剤を用いるのが好ましい。
重金属固定剤は粉体の形態で用いても、粉体を水等に溶解又は分散する等して、液状の形態として用いてもよい。
無機系重金属固定剤としては、リン酸系化合物、二酸化ケイ素系化合物及び鉄含有化合物が挙げられる。
【0029】
リン酸系化合物は、処分場における重金属の長期溶出防止効果を示し、環境保護の観点から有効な材料である。リン酸系化合物は、例えば重金属である鉛と反応し、鉛クロロピロモルファイトや鉛ピロモルファイトを形成し、鉱物の形態で鉛を固定し、鉛の溶出を防止できる。リン酸系化合物としては、リン酸を含有していれば特に制限なく用いることができ、リン酸塩であっても鉱物であっても良い。
リン酸系化合物としては、例えば、正リン酸(オルソリン酸)、ポリリン酸、メタリン酸、次リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、過リン酸、第一リン酸ソーダ、第二リン酸ソーダ、第三リン酸ソーダ、第一リン酸カリウム、第二リン酸カリウム、第三リン酸カリウム、第一リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、第一リン酸マグネシウム、第二リン酸マグネシウム、第一リン酸アンモニウム、第二リン酸アンモニウム、過燐酸石灰、トリポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等が挙げられる。
中でも、正リン酸、第一リン酸塩、第二リン酸塩、第三リン酸塩、トリポリリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩、ピロリン酸塩、ヒドロキシアパタイトの形態を有する鉱物、特に燐灰石(アパタイト化合物)が良好な重金属の溶出防止効果を示す。
リン酸系化合物は、重金属の中でも、鉛の溶出防止に特に有用である。
【0030】
二酸化ケイ素含有化合物は、飛灰中のカルシウム成分と、二酸化ケイ素とが反応してケイ酸カルシウム鉱物(3CaO・2SiO2・3H2O)を生成して、該鉱物の中に重金属を封じ込める効果、並びに二酸化ケイ素が直接重金属に作用して、難溶性の重金属ケイ酸塩(PbSiO3等)を生成することにより、重金属の溶出を防止する効果が得られると考えられる。二酸化ケイ素含有化合物は、飛灰中のアルカリ含有量の影響を受けやすく、飛灰中のアルカリ含有量が多大な場合、上記反応生成物を生成するための必要添加量が増加する。従って、本発明の処理方法により、二酸化ケイ素含有化合物においても必要添加量を大幅に削減することができる。
【0031】
二酸化ケイ素含有化合物は、SiO2成分を有する化合物であれば特に制限なく用いることができ、二酸化ケイ素そのものであってもよいし、塩であっても鉱物であってもよい。
二酸化ケイ素含有化合物は、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属を含むケイ酸塩、シリカヒューム、シリカゲル、活性白土、ゼオライト、ベントナイト、カオリナイト、ハロイサイト、アンチゴライト、パイオライト、タルク、モンモリロナイト、サボナイト、パーミキュライト、白雲母、バラゴナイト、イライト、金雲母、黒雲母、マーガライト、ザンソフィライト、ドンパサイト、スドウ石、クリノクロア、シャモサイト、セピオライト、パリゴルスカイト、イモゴライト、アロフェン及びヒシンゲライト等のケイ酸塩鉱物などが挙げられる。
二酸化ケイ素含有化合物は、重金属の中でも、鉛の溶出防止に特に有用である。
【0032】
鉄含有化合物としては、鉄を含有していれば良く、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、ポリ硫酸第二鉄、鉄粉等が挙げられる。鉄含有化合物は、重金属の中でも、六価クロム、砒素、セレン及び水銀の溶出防止に特に有用である。
【0033】
無機系重金属固定剤には、さらに酸性中和剤を添加して本発明の処理方法に用いてもよい。酸性中和剤は、重金属の溶出量を低下させる役割を有するので、重金属の溶出をより抑えるという観点からは、無機系重金属固定剤にさらに酸性中和剤を添加する、すなわち両者を併用することが好ましい。酸性中和剤も飛灰に残存するアルカリ含有量の影響を受け、残存飛灰中のアルカリ含有量が多大な場合、必要添加量が増加する。従って、本発明により、酸性中和剤も必要添加量を大幅に削減することができる。
酸性中和剤としては、塩酸、硫酸、硝酸、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸鉄、塩化鉄等が例示できる。
無機系重金属固定剤と酸性中和剤とを併用した場合、高価である無機系重金属固定剤の使用量を低減できる点で好適である。
【0034】
重金属固定工程は、好適には、前記集塵機から排出させた飛灰を貯留サイロに貯留する貯留工程と、前記貯留サイロ内の飛灰を抜き出して混練機に供給し、前記混練機内の飛灰に前記重金属固定剤を添加して前記飛灰中の重金属を固定化する混練工程とを有する。
本発明の処理方法は、好適には、前記未処理の燃焼排ガス中の酸性ガス濃度の測定値に基づいて算出される、前記集塵機から前記貯留サイロに供給される飛灰中における未反応アルカリ剤濃度の経時データを記憶し、前記経時データと、前記貯留サイロから飛灰を抜き出して前記混練機に供給する際における供給流量とに基づいて、前記混練機に供給されて処理される飛灰中の未反応アルカリ剤濃度の経時変化を算出し、前記経時変化に基づいて、前記重金属固定剤の添加量を経時的に制御して前記飛灰中の重金属を固定化する。
【0035】
飛灰に重金属固定剤を添加する方法は限定しないが、液体の状態の成分は、後述する、水に混合して添加することもできる。無機系重金属固定剤にさらに酸性中和剤を添加する場合、両者を水に混合して添加することができる。また、粉体の状態の成分は、混練装置の飛灰投入口に定量供給装置を設置して、飛灰とともに投入することができる。
混練機としては、二軸型ベンチニーダ式ミキサー、パン型造粒式ミキサー、振動式ミキサー等の、公知の混練機を用いることができる。
混練機による時間当たりの飛灰処理量は、通常、飛灰の発生量を上回るように設計されるので、連続的に稼働する焼却炉から発生する飛灰が貯留サイロ内に貯留される量に応じて、運転と停止の状態が制御される。
【0036】
混練機には、重金属固定剤とともに水を添加するのが好ましい。水は、重金属固定剤を溶解させる役割のほか、混練を容易にして飛灰中に重金属固定剤を均一に行き渡らせ、また、飛灰中の塩化カルシウムや酸化カルシウムと反応して水和熱を発現する役割を有する。
水の添加量は、飛灰100質量部に対して5~40質量部であることが好ましく、10~30質量部であることがより好ましい。5質量部以上とすると前述した効果を発現しやすく、40質量部以下とすると飛灰が泥状となったり重量増加による取扱い性の低下を防止し、また、余水が水和熱を吸収して温度上昇が妨げられることを防止できる。
【0037】
このように、未処理の燃焼排ガス中の酸性ガス(塩化水素及び硫黄酸化物)の濃度の測定値に基づいて、集塵され排出される飛灰中の未反応アルカリ剤の量を算出し、未反応アルカリ剤濃度の算出値に基づいて、飛灰への重金属固定剤の添加量を算出することにより、重金属固定剤の使用量を削減できるとともに、最終処分場に排出する飛灰量を削減でき、最終処分場の使用期間を延命できる。
【0038】
[重金属固定剤の添加量の算出方法の一例]
先ず、酸性ガス濃度の測定値に基づいて、未処理の燃焼排ガスへ添加すべきアルカリ剤の添加量を算出して添加すると共に集塵機から排出される飛灰中における未反応アルカリ剤濃度を算出する。
例えば、未処理の燃焼排ガス中における塩化水素量がAモル/m3、硫黄酸化物量がBモル/m3であり、これらの合計を酸性ガス濃度として測定し、かかる酸性ガスが総て中和されるように、アルカリ剤として消石灰を酸性ガスの3倍当量添加する場合、燃焼排ガス中に添加されるアルカリ剤の量は3×(1/2A+B)モル/m3であり、また、そのうち、未反応アルカリ剤の量は2×(1/2A+B)モル/m3である。さらに、燃焼排ガス中における煤塵量がCkg/m3である場合、集塵機から排出される飛灰(煤塵と未反応アルカリ剤との総量)中における未反応アルカリ剤濃度X[モル/kg-飛灰]は以下で算出できる。
X={2×(1/2A+B)}/{C+2×(1/2A+B)}[モル/kg-飛灰]
なお、未処理の燃焼排ガス中における酸性ガスの量は、上流の燃焼施設の運転状況等に応じて変化するため、集塵機から排出される飛灰中における未反応アルカリ剤濃度X[モル/kg-飛灰]も、経時的に変化する。
【0039】
次に、未処理の燃焼排ガス中の酸性ガス濃度の測定値に基づいて算出される、前記集塵機から前記貯留サイロに供給される飛灰中における未反応アルカリ剤濃度の経時データを記憶する。
例えば、上記のようにして得られた、未反応アルカリ剤濃度がX[モル/kg-飛灰]である飛灰を貯留サイロに供給し、供給される飛灰中における未反応アルカリ剤濃度の経時データを記憶する。
【0040】
次いで、前記集塵機から前記貯留サイロに供給される飛灰中における未反応アルカリ剤濃度の経時データαと、前記貯留サイロから飛灰を抜き出して前記混練機に供給する際における供給流量とに基づいて、前記混練機に供給されて処理される飛灰中の未反応アルカリ剤濃度の経時変化βを算出する。
例えば、貯留サイロからの飛灰の抜き出し流量を、貯留サイロへの飛灰の供給流量のY倍とした場合、混練機に供給されて処理される飛灰中の未反応アルカリ剤濃度の経時変化βは、前記集塵機から前記貯留サイロに供給される飛灰中における未反応アルカリ剤濃度の経時データαの経時変化のY倍となる。
このように、貯留サイロからの飛灰の抜き出し流量を、貯留サイロへの飛灰の供給流量のY倍とした場合であっても、混練機に供給されて処理される飛灰中の未反応アルカリ剤濃度の経時変化βを把握し、当該経時変化βに応じて、適量の重金属固定剤を混練機に供給される飛灰に添加すれば良いため、経時的に適量の重金属固定剤を飛灰に添加することができる。
【0041】
例えば、以下のとおりと仮定する。
飛灰発生量(貯留サイロへの飛灰の供給流量):GFAkg/hr(常時発生)
混練機の飛灰処理量:MFAkg/hr
貯留サイロのレベルセンサーの低レベルから高レベルまでの容量:Vkg
また、貯留サイロのレベルが低レベルから高レベルに達するまでは混練機を停止し(停止工程)、貯留サイロのレベルが高レベルに達してから、貯留サイロから飛灰を抜き出し混練機に供給して飛灰処理を開始し、当該レベルが低レベルにまで戻ったら飛灰処理を停止する(飛灰処理工程)、という工程を繰り返し行うものと仮定する。
その場合、停止工程に要する時間TS(hr)は、下記式の通りとなる。
TS(hr)=V/GFA
また、飛灰処理工程に要する時間TM(hr)は、下記式の通りとなる。
TM(hr)=V/(MFA-GFA)
換言すると、TSは、混練機における飛灰処理が、すでに終了した時点から開始するまでの時間(混練機が停止している時間)、TMは混練機における飛灰処理を開始してから終了するまでに要する時間(混練機が運転されている時間)でもある。
ここで、1回の停止工程と1回の飛灰処理工程との合計を1インターバルとすると、1インターバルに要する時間は、TS+TM(hr)である。また、当該1インターバル(TS+TM(hr))の間に貯留サイロに貯留された飛灰は、混練機によりTM(hr)時間で処理される。つまり、TS+TM(hr)かけて貯留サイロ内に貯留された飛灰(TS及びTMの間に発生した飛灰)が、混練機によりTM(hr)時間で処理されることになる。すなわち、混練機により飛灰を処理する時間は、貯留サイロ内に飛灰を貯留する時間のTM/(TS+TM)となる。
また、混練機による処理時間TM(hr)の内訳は、次のとおりとなる。
停止工程の間に発生した飛灰の処理時間:TM×{TM/(TS+TM)}
飛灰処理工程の間に発生した飛灰の処理時間:TM×{TS/(TS+TM)}
別言すると、前述のとおり記憶された、集塵機から前記貯留サイロに供給される飛灰中における未反応アルカリ剤濃度の経時データαを、TM/(TS+TM)倍に圧縮して、混練機に供給される飛灰に添加する重量固定剤の添加量の制御に使用することができる。
【実施例】
【0042】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0043】
[実施例1]
全連続式焼却炉(処理能力160t/日)において、アルカリ剤として消石灰(比表面積45m
2/g、メジアン径(d50)10μm)を添加する前の煙道に、塩化水素測定機器(京都電子工業社製、HL-22)と、硫黄酸化物濃度測定機器(堀場製作所社、PG-337)を設置して、未処理燃焼排ガスにおける塩化水素濃度及び硫黄酸化物濃度を測定し、測定値を、30分間の移動平均濃度として記録した。かかる塩化水素濃度及び硫黄酸化物濃度の、24時間での経時変化を
図2に示す。
【0044】
記録した塩化水素濃度及び硫黄酸化物濃度の合計を酸性ガス濃度とし、酸性ガス濃度の3当量となるように消石灰添加量を算出して、集塵機としてのバグフィルター手前の煙道に消石灰を添加した。ここで、バグフィルター手前における燃焼排ガス温度は170℃であり、飛灰発生量(G
FA)は200kg/hであった。
発生した飛灰はバグフィルターにて集塵され、貯留容量(V)が3600kgである貯留サイロに排出され蓄積された。
飛灰中の未反応消石灰濃度の経時データを、前記消石灰の添加量及び未処理の燃焼排ガス中の酸性ガス濃度の測定値に基づいて算出した。飛灰中の未反応消石灰濃度の経時変化を
図3に示す。
【0045】
次いで、貯留サイロ内の飛灰を抜き出して、飛灰処理能力(MFA)が800kg/hである混練機に飛灰を供給すると共に、混練機手前にて、重金属固定剤(栗田工業株式会社製、商品名「アッシュナイトR303」、リン酸系(酸性)化合物)を水と共に添加した(飛灰100質量部に対する水の添加量:20質量部)。
混練機への重金属固定剤の添加量は以下のようにして算出し、重金属固定剤添加装置を制御した。
【0046】
まず、飛灰発生量GFA、貯留サイロの貯留容量V、単位時間当たりの混練機の飛灰処理能力MFAより、貯留サイロに飛灰が容量Vまで貯留されるまでの時間、すなわち混練機における飛灰処理が、すでに終了した時点から開始するまでの時間(TS)を決定する。一方、混練機における飛灰処理を開始してから終了するまでに要する時間(TM)を決定する。
次に、混練機による飛灰の重金属固定工程が開始したら、TS及びTM間での、飛灰中の未反応消石灰濃度の経時データを出力し、かかる経時データを用いて、飛灰中の未反応消石灰濃度をTS(TM/(TS+TM))及びTM(TM/(TS+TM))の時間換算として加工して重金属固定剤の添加量に変換して算出し、混練機への重金属固定剤の添加量を連続的に制御した。なお、貯留サイロに貯留される飛灰は、貯留サイロ内で攪拌されることなく自然に堆積され、垂直方向に濃度分布が存在すると仮定して、上記重金属固定剤の添加量を算出した。
【0047】
飛灰中の未反応消石灰濃度の経時変化と、重金属固定剤の混練機への添加量の経時変化を
図4に示す。
また、
図5に、貯留サイロに蓄積される飛灰中の未反応消石灰濃度の経時変化が、重金属固定工程において、貯留サイロから混練機へ排出される飛灰中の未反応消石灰濃度に時間軸の圧縮により換算され、重金属固定剤の添加量算出に換算される概念図を示す。
【符号の説明】
【0048】
100:燃焼排ガス処理装置
1:配管
2:配管
3:煙道
4:ガス排出路
5:飛灰排出路
6:配管
11:焼却炉
12:ボイラ
13:ガス冷却塔
14:集塵機
15:吸引ファン
16:煙突
21:貯留サイロ
22:飛灰供給装置
23:混練機
24:灰ピット
30:酸性ガス濃度測定器
30a:塩化水素濃度測定器
30b:硫黄酸化物濃度測定器
40:演算装置
41:アルカリ剤添加量算出部
42:未反応アルカリ剤濃度算出部
43:重金属固定剤添加量算出部
51:アルカリ剤添加装置
52:重金属固定剤添加装置
S1:塩化水素濃度信号
S2:硫黄酸化物濃度信号
S3:アルカリ剤添加信号
S4:アルカリ剤量信号
S5:未反応アルカリ剤濃度信号
S6:重金属固定剤添加信号